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  • 特開-積層造形物およびその原料粉末 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170309
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】積層造形物およびその原料粉末
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/25 20210101AFI20231124BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20231124BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20231124BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20231124BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20231124BHJP
   H01F 1/22 20060101ALI20231124BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20231124BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20231124BHJP
   B22F 10/38 20210101ALN20231124BHJP
【FI】
B22F10/25
B22F1/00 W
C22C38/00 303S
B22F1/00 V
B22F1/00 T
C22C38/00 304
B22F3/00 B
H01F1/147
H01F1/22
B33Y70/00
B33Y80/00
B22F10/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081972
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池畑 秀哲
(72)【発明者】
【氏名】宮下 広司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 元
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 朋泰
(72)【発明者】
【氏名】和田 耕昇
(72)【発明者】
【氏名】粂 康弘
(72)【発明者】
【氏名】伴 美織
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018AA30
4K018AA32
4K018BA04
4K018BA16
4K018BA20
4K018BB04
4K018BC12
4K018KA43
5E041AA11
5E041NN01
(57)【要約】
【課題】指向性エネルギー堆積法(DED)に適した原料粉末を提供する。
【解決手段】本発明は、DEDに用いられる一種以上の金属粉末からなる原料粉末である。原料粉末は、その全体を100質量%(単に「%」という。)として、CrとNiを合計で1~12%含み、残部がFeからなる。不純物の含有量は、例えば、0.3%以下であるとよい。この原料粉末を用いてレーザメタルデポジション(LMD)等を行うと、造形後に特段の熱処理等を行うまでもなく、機械的特性(強度等)に優れると共に、磁気特性(飽和磁化等)に優れる積層造形物(軟磁性部材)が得られる。このような積層造形物は、例えば、微細で等方的な結晶粒からなる金属組織で構成されている。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一種以上の金属粉末からなり、
粉末全体を100質量%(単に「%」という。)として、CrとNiを合計で1~12%含み、残部がFeからなる指向性エネルギー堆積法に用いられる原料粉末。
【請求項2】
Cr:3~10%および/またはNi:1.5~9%である請求項1に記載の原料粉末。
【請求項3】
不純物の含有量が0.3%以下である請求項1または2に記載の原料粉末。
【請求項4】
請求項1または2に記載の原料粉末を用いて指向性エネルギー堆積法により得られる積層造形物。
【請求項5】
磁性部材である請求項4に記載の積層造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザメタルデポジション(LMD: Laser Metal Deposition)等の指向性エネルギー堆積法(DED: Directed Energy Deposition)に用いられる原料粉末等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の除去加工(切削、研削、切断等)や成形加工(鋳造、鍛造、プレス等)とは異なり、専用の型や大型の工作機械等を必要とせずに、所望の造形物が得られる付加加工(AM:Additive Manufacturing)が注目されている。積層を繰り返す付加加工(「積層造形」という。)によれば、従来の加工方法では製作が困難であった造形物(「積層造形物」という。)も得られる。
【0003】
付加加工(積層造形)は、大別して7種類に分類される(ASTM規格)。具体的にいうと、指向性エネルギー堆積法(DED)、粉末床溶融結合法(PBF:powder bed fusion)、結合剤噴射法(binder jetting)、材料噴射法(material jetting)、材料押出法(material extrusion)、液槽光重合法(vat photopolymerization)およびシート積層法(sheet lamination)の各方式がある。
【0004】
このうち、DEDやPBFによれば、樹脂製の造形物に限らず、金属製やセラミック製の実用的な造形物が得られる。DEDとPBFはいずれも、高エネルギービーム(熱源)で原料粉末を溶融凝固(結合)させて造形物を得る点で共通する。DEDによれば、PBFよりも原料粉末の使用量を抑制した効率的な造形が可能となる。またDEDは、PBFよりも一般的に、積層対象、造形雰囲気、原料粉末の選択・変更、装置構成等に係る自由度が大きい。
【0005】
ところで、積層造形物の実用化には、その形態(外観)のみならず、その内部組織も重要となる。積層造形物は、加工熱処理(例えば熱間鍛造)等が想定されていないため、造形後に所望の組織となっていることが望まれる。積層造形物の組織制御に関連する記載が下記の非特許文献にある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H. Ikehata et. al, Materials Science Forum, vol. 1016, (2020), pp. 580-586.
【非特許文献2】金丸ら,2021年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集, (2021) p. 326.
【非特許文献3】Yang K.V. et al., Scripta Materialia, Vol.145, No.1(2018), pp.113-117.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1は、TiN粉末やTi粉末の添加による結晶粒の微細化について報告している。活性なTi系粉末の利用には、低酸素雰囲気が必要となる。
【0008】
非特許文献2は、LMDした造形物に高温熱処理を施し、相変態を利用して結晶粒を微細化させることを報告している。造形後の高温保持は、造形物にクリープ変形や相変態による歪みを生じさせ得る。
【0009】
非特許文献3は、溶融池の界面移動速度と温度勾配を変化させる造形条件により、柱状晶から等軸晶へ遷移させることを報告している。造形条件の調整自由度は小さいため、温度分布のバラツキにより部位毎に異なる組織が生じ得る。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、DEDに適した新たな原料粉末等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意研究した結果、LMD等のDEDした造形物を所望の組織にできる原料粉末を新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0012】
《原料粉末》
本発明は、一種以上の金属粉末からなり、該原料粉末全体を100質量%(単に「%」という。)として、CrとNiを合計で1~12%含み、残部がFeからなる指向性エネルギー堆積法に用いられる原料粉末である。
【0013】
本発明の原料粉末によれば、微細な結晶粒からなる金属組織を備えた積層造形物を、DED(LMD等)により得ることが可能となる。つまり本発明によれば、その造形後に熱処理等を行うまでもなく、所望の金属組織を備えた積層造形物を得ることが可能となる。
【0014】
本発明の原料粉末が優れた効果を発揮する理由は、現状、次のように考えられる。原料粉末は、熱源(レーザや電子ビーム等)により溶融した後、冷却の進行と共に、晶出しさらに相変態する。ここで、原料粉末に含まれるCr、NiはFeに対するγ相安定化元素であり、所定量のCr、Niはラーベス相等を析出させることなく、相変態(γ相→α相)を遅延させる。これにより、α結晶粒の造形(軸)方向への伸長(成長)が抑制され、微細な結晶粒からなる金属組織が形成されるようになったと考えられる。なお、造形(軸)方向とは、層を重ねる方向(通常、基体表面に対する上方向)である。
【0015】
《積層造形物・積層造形方法》
本発明は、積層造形物としても把握される。例えば、本発明は、上述した原料粉末を用いて指向性エネルギー堆積法により得られる積層造形物でもよい。積層造形物は、例えば、その全体を100%として、CrとNiを合計で1~12%含み、残部がFeであるFe基合金からなる。その金属組織は、例えば、結晶粒の平均粒径が20μm以下となる。
【0016】
また本発明は、上述した原料粉末を用いて指向性エネルギー堆積法により積層造形物を得る積層造形方法として把握されてもよい。
【0017】
《その他》
(1)本発明の原料粉末は、レーザクラッドやレーザ肉盛(溶接)等にも利用できる。このため本明細書でいう指向性エネルギー堆積法(DED)には、いわゆる三次元積層造形法の他、レーザクラッドやレーザ肉盛(溶接)等を含め得る。
【0018】
原料粉末の溶融(溶融池の形成)を生じさせる熱源(指向性エネルギービーム)には、レーザビーム、電子ビーム、プラズマアーク等がある。本明細書では、説明の適宜上、レーザビームを熱源としたLMDをDEDの代表例として適宜取り上げる。
【0019】
(2)特に断らない限り、本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。また本明細書でいう「x~yμm」はxμm~yμmを意味する。他の単位系についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】LMDにより製作した積層造形物(試料1、2)の外観写真である。
図2A】試料1と試料2の金属組織に係る逆極点図方位マップ(IPF)である。
図2B】試料3、試料C0および試料C1の金属組織に係るIPFである。
図2C】試料1の別な金属組織に係るIPFである。
図3】試料1と試料2に係る磁化曲線である。
図4】試料1と試料C0に係る変態点の算出結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、原料粉末としてのみならず、その原料粉末を用いた積層造形方法や積層造形物等にも適宜該当する。
【0022】
《原料粉末》
(1)原料粉末は、一種以上の金属粉末からなる。つまり原料粉末は、所望組成に調製された一種の鉄合金粉末だけで構成されてもよいし、合金粉末(金属間化合物粉末を含む。)や純金属粉末(Fe粉、Cr粉、Ni粉)を配合した複数種の金属粉末で構成されてもよい。複数種の金属粉末は、予め混合されていてもよいし、溶融時に混合されてもよい。例えば、後者の場合なら、複数種の金属粉末を区画して収容したフィーダ(粉箱)から、選択された金属粉末が所望の配合割合でノズルへ搬送されるとよい。これにより、複数種の金属粉末は、指向性エネルギービームや溶融池と接触して溶融混合され、均一な所望組成の液相となる。なお、各粉末の搬送は、例えば、キャリアガス(通常、窒素やアルゴン等の不活性ガス)によりなされる。
【0023】
(2)原料粉末全体は、その全体を100%として、例えば、CrとNiを合計で1~12%、1.5~11%、2.5~11.5%、3~11%、4~10%さらには5~9%含む。Crは、例えば、3~10%、5~9%さらには6~8.5%含まれる。Niは、例えば、1.5~9%、3~8.5%、4~8%さらには5~7.5%含まれる。
【0024】
Crおよび/またはNiが過少では、結晶粒の微細化や等方化(球状化、円形化)が不十分となる。Crが過多になると、γ相(オーステナイト相、fcc構造)よりもα相(フェライト相、bcc構造)が逆に安定的になる。Niが過多になると、γ相(オーステナイト相、fcc構造)が過剰に安定となり、室温域でα相が出現し難くなる。またFeNi等の金属間化合物も析出し易くなる。なお、本明細書でいう成分組成(%)は、特に断らない限り、対象物全体に対する質量割合(質量%)である。
【0025】
Cr、Ni以外の主たる残部はFeである。原料粉末中には、技術的または経済的に除去し難い(不可避)不純物が含まれ得る。金属組織の微細化や冷却過程での相変態(γ相→α相)等を妨げない範囲で、不純物以外の改質元素が原料粉末中に含まれてもよい。
【0026】
Cr、Ni以外の合金元素として、Fe基合金のα相安定化元素(Si、Al、V、Ti、Mo、Nb等)、γ相安定化元素(Mn、Co、Cu、Au等)、浸入型固溶元素(C、N、O、B)等がある。α相安定化元素は、相変態(γ相→α相)の遅延、ひいては結晶粒の微細化を阻害し得る。Mnは造形物中に酸化物(非磁性材)を生じさせ得る。Coは、γ相とα相が混在した二相組織を生じさせ得る。浸入型固溶元素は、固溶強化や金属組織の微細化に寄与して、Fe基合金の機械的特性(強度等)を向上させ得る。但し、浸入型固溶元素が化合物(炭化物、窒化物等)を生成すると、他の特性(飽和磁化、透磁率等)が低下し得る。そこで原料粉末は、不純物や改質元素を含む場合でも、その含有量が0.3%以下(未満)、0.2%以下(未満)さらには0.1%以下(未満)であるとよい。
【0027】
(3)原料粉末はノズルへの搬送が可能で、溶融池で略均一的な液相となる限り、その粒子形態(形状、サイズ)は問わない。敢えていうなら、例えば、原料粉末の粒度を5~150μmさらには20~105μmとしてもよい。粒度は、例えば、所定のメッシュサイズの篩いを用いて分級する篩い分け法で規定される。粒度「x~y」の粉末は、篩目開きx(μm)の篩いを通過せず、篩目開きy(μm)の篩いを通過する大きさの粒子からなる。「y未満」は、篩目開きy(μm)の篩いを通過する大きさの粒子からなる。
【0028】
《積層造形物》
(1)原料粉末をDED(LMD等)して得られる積層造形物(単に「造形物」という。)は、積層数、形態(形状、大きさ)等を問わないが、用途に応じた金属組織を有するとよい。例えば、造形物は、結晶粒の平均粒径が、例えば、1~20μm、2~15μmさらには3~10μmとなる金属組織を有するとよい。
【0029】
平均粒径は、例えば、造形物から切り出した試験片を、電子顕微鏡(SEM等)や結晶方位解析装置で観察・解析して得られた特定視野(500μm×1000μm)内における結晶粒サイズの算術平均値である。結晶粒サイズは、各結晶粒の面積(s)と同じ面積を有する円の直径(d=2√(s/π))として求まる円相当径(d)とする。このような値の算出は、例えば、顕微鏡の観察像や後方散乱電子回折法(EBSD:Electron BackScatter Diffraction)により得られたマップを画像処理して求められる。
【0030】
金属組織を構成する各結晶粒は、粒形や方位が略等方的であるとよい。粒形は、例えば、結晶粒のアスペクト比(最長幅/最小幅)により指標される。方位は、例えば、結晶粒の傾角により指標される。これらも、既述した特定視野内の画像を解析して求められる。一例を挙げると、平均アスペクト比(最長幅/最小幅)の算術平均値は、例えば、1~5さらには1.5~3である。
【0031】
(2)造形物の用途は種々あり得る。上述した成分組成のFe基合金からなる造形物は、例えば、優れた磁気特性(飽和磁化、透磁率等)と機械的特性(強度等)が求められる磁性部材(特に軟磁性体)に適する。例えば、その飽和磁化は1.7~2.2T、1.8~2.1T、そのビッカース硬さは130~180HV、140~170HVとなり得る。このような磁性部材は、例えば、電動機(発電機を含む。)のロータコア、ステータコア、ヨーク(筐体)またはそれらの一部に利用されるとよい。勿論、磁性の要否を問わない構造部材(例えば、車両の駆動系部品)等に積層造形物が用いられてもよい。
【実施例0032】
LMDによりFe基材からなる試料(軟磁性体)を製造し、その金属組織や特性を評価した。このような具体例に基づいて、以下に本発明をさらに詳しく説明する。
【0033】
《試料の製造》
(1)原料粉末
表1に示す成分組成を有する軟磁性粉末(金属粉末)を原料粉末とした。原料粉末は、純Fe粉(Fe源粉末)と単種の合金元素粉(純Cr粉末、純Ni粉末、純Si粉末のいずれか)との混合粉末からなる(但し、試料C0は純Fe粉末のみを用いた)。純Fe粉はガスアトマイズ粉からなり、その粒度は45~105μmであった。合金元素元素粉は、いずれも粉砕粉からなり、各粒度は、純Cr粉末:-63μm、純Ni粉末:74~104μm、純Si粉末:-300μmであった。混合粉末は、秤量した2種類の粉末を45rpm×1時間回転混合して調製した。
【0034】
(2)積層造形
各原料粉末は、LMD装置(エンシュウ株式会社製レーザー加工試験機)のパウダーフィーダ(粉箱)に入れて、キャリアガス(N)により、パウダーノズルへ供給した。
【0035】
そのLMD装置を用いて、室温大気雰囲気中で、基板(SS400(100×100×t10mm)上に、略立方体状(10mm×10mm×10mm)のブック(積層造形物/磁性部材)を製作した。
【0036】
レーザ(株式会社IPG製YLS-4000CW)は、出力:750W、スポット径:2000μm、走査速度:40mm/sとした。上記のブロックを製作するためにノズルを走査させた回数(積層数)は33とした。
【0037】
こうして得られた試料1と試料2に係るブロックの外観を図1に示した。図1から明らかなように、これらのブロックの外観には、造形物の品質を劣化させるスケールやクラック等は観られなかった。
【0038】
なお、試料1については、略直方体状(20mm×20mm×30mm)の拡大ブロックも同様に製作した。このときの積層数は100回とした。その拡大ブロックについても、外観上の欠陥は観られなかった。
【0039】
《観察》
各試料(ブロック/造形物)から切り出した試験片の金属組織をEBSD装置(株式会社TSLソリューションズ製MSC-2200)により解析した。得られた逆極点図方位マップ(IPF:Inverse Pole Figure)を図2A図2C(各図を併せて単に「図2」という。)に示した。なお、図2Cは、試料1の拡大ブロックに係るIPFである。
【0040】
各試料に係るIPFから、結晶粒の平均粒径と平均アスペクト比をOIM(Orientation Imaging Microscopy)-Analysis7(株式会社TSLソリューションズ製)により求めた。その結果を表1に併せて示した。
【0041】
《測定》
(1)磁気特性
各試料の飽和磁化を振動試料型磁力計(東英工業株式会社製VSM-35-15)を用いて測定した。その結果を表1に併せて示した。試料1と試料2に係る磁化曲線を図3に例示した。
【0042】
(2)機械的特性
各試料の硬さをビッカース硬度計(株式会社明石製作所製AVK)を用いて測定した。このときの試験荷重は1kgfとした。その結果を表1に併せて示した。
【0043】
《評価》
(1)金属組織
図2や表1から明らかなように、所望組成の原料粉末を用いて得られた造形物は、微細で等方的(略円形的)さらには等軸的な結晶粒からなる金属組織で構成されていることがわかった。
【0044】
一方、試料C0と試料C1の造形物は、造形方向(積層方向)に伸長した粗大化な結晶粒からなる金属組織により構成されていた。このような金属組織は、造形物の特性の異方化や低下等を招く。ちなみに、結晶粒が造形方向に伸長して粗大化した金属組織は、DED(LMD等)による造形物に特有に現れ、選択的レーザ溶融法(SLM:Selective Laser Melting)等のPBFによる造形物には一般的に現れない。
【0045】
(2)機械的特性
表1から明らかなように、所望組成の原料粉末を用いて得られた造形物は、結晶粒が微細で十分な硬さを有し、ホールペッチ則を考慮すれば、十分な高強度を発揮し得ることがわかった。
【0046】
(3)磁気特性
表1から明らかなように、所望組成の原料粉末を用いて得られた造形物は、高い飽和磁化を発揮し、軟磁性部材に適することもわかった。
【0047】
《考察》
原料粉末の成分組成により、LMDして得られた造形物の特性が変化する理由は次のように推察される。熱力学解析ソフト(Thermo-Calc)を用いて、試料1と試料C0に係る変態点(γ相→α相)を算出した結果を図4に示した。試料1は試料C0(純鉄)よりも、変態点が大幅に低くなった。このことから、本発明に係る成分組成の原料粉末を用いると、造形中の冷却過程で生じる相変態が比較的緩やかに生じると考えられる。一方、試料C0(純鉄)のように、変態点が大きくCrやNiなどの元素の分配を必要としない場合、相変態が急速に生じて、冷却速度が大きい一方向(造形方向/積層方向)のみに、結晶粒が伸長した組織になると考えられる。
【0048】
なお、試料1や試料2の造形物が高い磁気特性を発現したことから、それらの金属組織は、相変態後、常温域でα(フェライト)単相になっていたといえる。
【0049】
以上から、本発明の原料粉末を用いてDED(LMD)を行えば、特段の熱処理等を施すまでもなく、機械的特性や磁気特性に優れた造形物(軟磁性部材)が得られることが確認された。
【0050】
【表1】
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4