(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170344
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】イオン交換樹脂の取替時期の推定方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/42 20230101AFI20231124BHJP
G21F 9/12 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C02F1/42 B
G21F9/12 512A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082027
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 礼
【テーマコード(参考)】
4D025
【Fターム(参考)】
4D025AA06
4D025AB07
4D025AB14
4D025BA09
4D025BA14
4D025BB04
4D025BB07
4D025CA04
4D025CA05
(57)【要約】
【課題】イオン交換樹脂の取替時期までの残り時間を早い段階で精度良く推定できる。
【解決手段】イオン交換樹脂の交換取替の推定方法は、水を循環させるように構成された循環流路10と、循環流路10の途中に設けられ、水に含まれる不純物イオンをイオン交換により除去するイオン交換樹脂25を収容するイオン交換装置20とを備える水浄化システムに適用され、イオン交換装置20の出口部22における水の導電率が基準値となる時期であるイオン交換樹脂25の取替時期までの残り時間を推定する方法であって、出口部22における水に含まれる塩素イオン濃度を所定期間毎に測定し、塩素イオン濃度の時間変化率が増大したときに残り時間が所定時間であると推定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を循環させるように構成された循環流路と、
前記循環流路の途中に設けられ、前記水に含まれる不純物イオンをイオン交換により除去するイオン交換樹脂を収容するイオン交換装置と、
を備える水浄化システムに適用され、前記イオン交換装置の出口部における前記水の導電率が基準値以上となる時期である前記イオン交換樹脂の取替時期までの残り時間を推定する方法であって、
前記出口部における前記水に含まれる塩素イオン濃度を所定期間毎に測定し、前記塩素イオン濃度の時間変化率が増大したときに前記残り時間が所定時間であると推定する、
イオン交換樹脂の取替時期の推定方法。
【請求項2】
前記塩素イオン濃度が所定濃度以上となると、前記塩素イオン濃度が前記所定濃度未満のときに比べて前記塩素イオン濃度の時間変化率が増大するものであって、
前記塩素イオン濃度が前記所定濃度以上となったときに、前記残り時間が前記所定時間であると推定する、
請求項1に記載のイオン交換樹脂の取替時期の推定方法。
【請求項3】
前記循環流路の途中には、対象物を収容するとともに前記水を常時貯留するように構成されたプールが設けられており、
前記循環流路の途中には、前記水との熱交換により前記水を冷却するように構成された熱交換器が設けられている、
請求項1または請求項2に記載のイオン交換樹脂の取替時期の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換樹脂の取替時期の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所においては、使用済み核燃料を冷却する水冷却浄化システムが設けられている(例えば特許文献1参照)。
水冷却浄化システムは、水を循環させるように構成された循環流路を備えている。循環流路の途中には、水を圧送するポンプが設けられている。循環流路においてポンプの下流側には、イオン交換装置、熱交換器、及びプールが順に設けられている。イオン交換装置には、水に含まれる不純物イオンをイオン交換により除去するイオン交換樹脂が収容されている。熱交換器は、水との熱交換により当該水を冷却するように構成されている。プールは、使用済み核燃料を収容するとともに当該水を常時貯留するように構成されている。
【0003】
こうした水冷却浄化システムにおいては、熱交換器によって冷却された水によって使用済み核燃料が冷却される。また、水に含まれる不純物イオンがイオン交換樹脂によって除去されることで、使用済み核燃料から放射される放射線によって不純物イオンが放射化されること、ひいては線量が増大することを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうした水冷却浄化システムにおいては、イオン交換樹脂と水に含まれる不純物イオンとのイオン交換が進行することで、イオン交換樹脂のイオン交換能力が次第に低下する。そこで、イオン交換樹脂を新たなイオン交換樹脂と取り替える必要がある。
【0006】
ただし、上述した使用済み核燃料の水冷却浄化システムにおいては、イオン交換装置を構成する弁等の機器の点検及び交換の準備(交換部品の発注、契約、納品など)に6ヶ月程度の時間を要する。そこで、イオン交換樹脂の取替時期までの残り時間を早い段階で精度良く推定することが求められている。
【0007】
なお、こうした課題は、使用済み核燃料の冷却浄化システムに限らず、水を循環させるように構成された循環流路と、循環流路の途中に設けられるイオン交換装置とを備える水浄化システムにおいては、同様にして生じる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためのイオン交換樹脂の取替時期の推定方法の各態様を記載する。
[態様1]水を循環させるように構成された循環流路と、前記循環流路の途中に設けられ、前記水に含まれる不純物イオンをイオン交換により除去するイオン交換樹脂を収容するイオン交換装置と、を備える水浄化システムに適用され、前記イオン交換装置の出口部における前記水の導電率が基準値以上となる時期である前記イオン交換樹脂の取替時期までの残り時間を推定する方法であって、前記出口部における前記水に含まれる塩素イオン濃度を所定期間毎に測定し、前記塩素イオン濃度の時間変化率が増大したときに前記残り時間が所定時間であると推定する、イオン交換樹脂の取替時期の推定方法。
【0009】
イオン交換樹脂のイオン交換能力の低下に伴って、イオン交換装置の出口部における水に含まれる不純物イオンの濃度が高くなるとともに当該水の導電率が高くなる。こうした不純物イオンとしては、鉄イオンなどの金属イオンの他、空気中から水に溶け込む塩素イオン、硫酸イオンなどがある。
【0010】
そこで、出口部における水の導電率が基準値以上となる時期をイオン交換樹脂の取替時期として定めることが有効である。
本願発明者は、出口部における水の導電率が基準値に達する前に、当該導電率の増大が顕在化するタイミングが存在することを見出した。ただし、上記タイミングから上記導電率が基準値に達するまでの時間はそれほど長くない。そのため、特に大容量のイオン交換装置にあっては、イオン交換樹脂の取替作業が間に合わないおそれがある。
【0011】
本願発明者は、上記タイミングよりも前に、出口部における水に含まれる塩素イオン濃度の時間変化率が増大するタイミング、すなわち当該塩素イオン濃度の増大が顕在化するタイミングが存在することを見出した。また、塩素イオン濃度の時間変化率が増大するタイミングから出口部における水の導電率の増大が顕在化するタイミングまでの時間が略一定の時間であることを見出した。
【0012】
したがって、上記方法によれば、イオン交換樹脂の取替時期までの残り時間を早い段階で精度良く推定できる。
[態様2]前記塩素イオン濃度が所定濃度以上となると、前記塩素イオン濃度が前記所定濃度未満のときに比べて前記塩素イオン濃度の時間変化率が増大するものであって、前記塩素イオン濃度が前記所定濃度以上となったときに、前記残り時間が前記所定時間であると推定する、[態様1]に記載のイオン交換樹脂の取替時期の推定方法。
【0013】
本願発明者は、塩素イオン濃度が所定濃度以上となると、塩素イオン濃度が同所定濃度未満のときに比べて塩素イオン濃度の時間変化率が増大することを見出した。
したがって、上記方法によれば、出口部における水に含まれる塩素イオン濃度の測定結果から直接、イオン交換樹脂の取替時期までの残り時間を推定できる。
【0014】
[態様3]前記循環流路の途中には、対象物を収容するとともに前記水を常時貯留するように構成されたプールが設けられており、前記循環流路の途中には、前記水との熱交換により前記水を冷却するように構成された熱交換器が設けられている、[態様1]または[態様2]に記載のイオン交換樹脂の取替時期の推定方法。
【0015】
上記方法によれば、冷却浄化システムにおいて、イオン交換樹脂の取替時期までの残り時間を早い段階で精度良く推定できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、イオン交換樹脂の取替時期までの残り時間を早い段階で精度良く推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、一実施形態における水冷却浄化システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2(a)は、イオン交換装置の出口部における水の導電率の推移を示すグラフであり、
図2(b)は、当該水に含まれる塩素イオン濃度の推移を示すグラフである。
【
図3】
図3(a)は、イオン交換装置の出口部における水の導電率の推移を示すグラフであり、
図3(b)は、当該水に含まれる塩素イオン濃度の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、
図1~
図3を参照して、一実施形態について説明する。
本実施形態の水浄化システムは、原子力発電所における使用済み核燃料の冷却及び当該冷却に用いられる水を浄化する水冷却浄化システムである。
【0019】
<水冷却浄化システムの概要>
図1に示すように、水冷却浄化システムは、脱塩処理された状態で導入された水(純水)を循環させるように構成された循環流路10を備えている。
【0020】
循環流路10の途中には、水を圧送するポンプ11が設けられている。循環流路10においてポンプ11の下流側には、イオン交換装置20、熱交換器13、及びプール12が順に設けられている。
【0021】
ポンプ11は、所定の流量で水を吐出して圧送する。
イオン交換装置20は、入口部21、出口部22、及び入口部21と出口部22との間に位置する収容部23とを備えている。
【0022】
収容部23には、入口部21を通じて導入される水に含まれる不純物イオンをイオン交換により除去するイオン交換樹脂25が収容されている。収容部23を通過した水は、出口部22を通じて排出される。
【0023】
本実施形態のイオン交換樹脂25は、パウデックス(登録商標)樹脂である。より詳しくは、イオン交換樹脂25は、強酸性陽イオン交換樹脂であるPCH(商品名)と、強塩基性陰イオン交換樹脂であるPAO(商品名)とを含んでいる。
【0024】
熱交換器13は、水との熱交換により当該水を冷却するように構成されている。
プール12は、対象物30としての使用済み核燃料を収容するとともに上記水を常時貯留するように構成されている。
【0025】
<イオン交換樹脂25の取替時期までの残り時間Trの推定方法>
本実施形態では、出口部22における水に含まれる塩素イオン濃度Yを所定期間(1週間)毎に測定し、塩素イオン濃度Yが所定濃度Y1(3ppb)以上となったときに、イオン交換樹脂25の取替時期までの残り時間Trが所定時間T1であると推定する。
【0026】
以下に、上記推定方法の妥当性について説明する。
イオン交換樹脂25のイオン交換能力の低下に伴って、イオン交換装置20の出口部22における水に含まれる不純物イオンの濃度が高くなるとともに出口部22における水の導電率Xが高くなる。こうした不純物イオンとしては、鉄イオンなどの金属イオンの他、空気中から水に溶け込む塩素イオン、硫酸イオンなどがある。
【0027】
イオン交換樹脂25の取替時期は、出口部22における水の導電率Xが基準値Xth以上となる時期として定められている。本実施形態の基準値Xthは、1.5μS/cmである。
【0028】
本願発明者は、出口部22における水の導電率X及び当該水に含まれる塩素イオン濃度Yを所定期間(1週間毎)に測定した。
図2(a)に、イオン交換樹脂25を新たなイオン交換樹脂25と取り替えたタイミングt0から、次にイオン交換樹脂25を取り替えるタイミングt3までの導電率Xの測定結果の推移を示す。また、
図2(b)に、タイミングt0からタイミングt3までの塩素イオン濃度Yの測定結果の推移を示す。
【0029】
図3(a)に、タイミングt3から、次にイオン交換樹脂25を取替するタイミングt6までの導電率Xの測定結果の推移を示す。また、
図3(b)に、タイミングt3からタイミングt6までの塩素イオン濃度Yの測定結果の推移を示す。
【0030】
図2(a)に示すように、タイミングt0から約5ヶ月後のタイミングt1までの期間においては、導電率Xは、約0.9μS/cmで推移し、殆ど変化しなかった。タイミングt1から約6ヶ月後のタイミングt2において、導電率Xは、約1.1μS/cmまで増大した。すなわち、導電率Xの増大が顕在化したことが確認された。導電率Xは、タイミングt2以降、徐々に増大し、タイミングt2から約9ヶ月後のタイミングt2において、基準値Xthである1.5μS/cmまで増大した。
【0031】
図2(b)に示すように、塩素イオン濃度Yは、タイミングt0からタイミングt1までの期間においては、時間変化率ΔY1で増大した。塩素イオン濃度Yは、タイミングt1以降、時間変化率ΔY1よりも大きい時間変化率ΔY2で増大した。塩素イオン濃度Yは、タイミングt1において約3ppbであった。また、塩素イオン濃度Yは、タイミングt2において約8ppbであった。
【0032】
図3(a)に示すように、タイミングt3から約3ヶ月後のタイミングt4までの期間においては、導電率Xは、約1.0μS/cmで推移し、殆ど変化しなかった。タイミングt4から約6ヶ月後のタイミングt5において、導電率Xは、約1.1μS/cmまで増大した。すなわち、導電率Xの増大が顕在化したことが確認された。導電率Xは、タイミングt5以降、徐々に増大し、タイミングt5から約7ヶ月後のタイミングt6において、基準値Xthである1.5μS/cmまで増大した。
【0033】
図3(b)に示すように、塩素イオン濃度Yは、タイミングt3からタイミングt4までの期間においては、時間変化率ΔY1で増大した。塩素イオン濃度Yは、タイミングt4以降、時間変化率ΔY1よりも大きい時間変化率ΔY2で増大した。塩素イオン濃度Yは、タイミングt4において約3ppbであった。また、塩素イオン濃度Yは、タイミングt5において約8ppbであった。
【0034】
上記の測定結果から、本願発明者は、導電率Xが基準値Xth(1.5μS/cm)に達する前に、当該導電率Xの増大が顕在化するタイミングt2(t5)が存在することを見出した。
【0035】
ただし、上記タイミングt2(t5)から上記導電率Xが基準値Xthに達するまでの時間はそれほど長くない。そのため、イオン交換樹脂25の取替作業が間に合わないおそれがある。
【0036】
本願発明者は、上記タイミングt2(t5)よりも前に、塩素イオン濃度Yの時間変化率ΔYが増大するタイミングt1(t4)、すなわち塩素イオン濃度Yの増大が顕在するタイミングt1(t4)が存在することを見出した。また、本願発明者は、塩素イオン濃度Yが所定濃度Y1(3ppb)以上となると、塩素イオン濃度Yが同所定濃度Y1未満のときに比べて塩素イオン濃度Yの時間変化率ΔYが増大する、すなわち塩素イオン濃度Yの増大が顕在化することを見出した。また、塩素イオン濃度Yの時間変化率ΔYが増大するタイミングt1(t4)から導電率Xの増大が顕在化するタイミングt2(t4)までの時間が略一定の時間(6ヶ月)であることを見出した。
【0037】
また、導電率Xの増大が顕在化するタイミングt2(t4)から導電率Xが基準値Xthに達するタイミングt3(t6)までの時間は、7~9ヶ月程度である。
したがって、塩素イオン濃度Yが所定濃度Y1(3ppb)以上となったときに、イオン交換樹脂25の取替時期までの残り時間Trが所定時間T1(14ヶ月)であると推定できる。なお、所定時間T1と実際の残り時間Trとの間には、±1ヶ月程度のばらつきが存在する。
【0038】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)出口部22における水に含まれる塩素イオン濃度Yを所定期間毎に測定し、塩素イオン濃度Yの時間変化率ΔYが増大したときに残り時間Trが所定時間T1であると推定するようにした。
【0039】
こうした方法によれば、イオン交換樹脂25の取替時期までの残り時間Trを早い段階で精度良く推定できる。
(2)塩素イオン濃度Yが所定濃度Y1以上となったときに、残り時間Trが所定時間T1であると推定するようにした。
【0040】
したがって、上記方法によれば、出口部22における水に含まれる塩素イオン濃度Yの測定結果から直接、イオン交換樹脂25の取替時期までの残り時間Trを推定できる。
(3)対象物30を水によって冷却するとともに当該水をイオン交換装置20によって浄化する水冷却浄化システムにおいて、イオン交換樹脂25の取替時期までの残り時間Trを早い段階で精度良く推定できる。
【0041】
<変更例>
上記実施形態は、例えば以下のように変更して実施することもできる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0042】
・水冷却浄化システムは、原子力発電所の使用済み核燃料の冷却に用いられるものに限定されず、原子力発電所以外の他の発電所における水冷却浄化システムに対して本開示を適用することもできる。
【0043】
・水浄化システムは、プール12及び熱交換器13を備えるものに限定されず、少なくとも循環流路10とイオン交換装置20とを備えていればよい。
・塩素イオン濃度Yの時間変化率ΔYを算出し、算出された時間変化率ΔYが増大したときに、イオン交換樹脂25の取替時期までの残り時間Trが所定時間T1であると推定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0044】
10…循環流路
11…ポンプ
12…プール
13…熱交換器
20…イオン交換装置
21…入口部
22…出口部
23…収容部
25…イオン交換樹脂
30…対象物