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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170348
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】ガス遮断器
(51)【国際特許分類】
   H01H 33/915 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
H01H33/915
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082033
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉井 耕太郎
【テーマコード(参考)】
5G001
【Fターム(参考)】
5G001AA01
5G001BB03
5G001BB04
5G001CC03
5G001DD03
5G001DD07
5G001DD08
5G001EE01
5G001EE08
5G001EE12
5G001FF03
5G001FF04
5G001GG01
(57)【要約】
【課題】アーク放電の消弧性能を向上することができるガス遮断器を提供する。
【解決手段】ガス遮断器100は、絶縁ガスが充填される容器1と、容器1内に設けられ、接離可能な一対のアーク接触子と、互いに離れた一対のアーク接触子の間に生じるアーク放電によって加熱された絶縁ガスが流れ込む通路56と、通路56に通じている熱パッファ室54と、通路56から熱パッファ室54内に流れ込む絶縁ガスに対して、絶縁ガスを吹き付ける吹付部6と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁ガスが充填される容器と、
前記容器内に設けられ、接離可能な一対のアーク接触子と、
互いに離れた前記一対のアーク接触子の間に生じるアーク放電によって加熱された絶縁ガスが流れ込む通路と、
前記通路に通じている熱パッファ室と、
前記通路から前記熱パッファ室内に流れ込む絶縁ガスに対して、絶縁ガスを吹き付ける吹付部と、
を備える、
ガス遮断器。
【請求項2】
前記吹付部は、
前記熱パッファ室に通じるシリンダ室と、
前記シリンダ室内を移動可能な可動体と、
前記可動体によって加圧された絶縁ガスを吐出する吐出口と、
を有する、
請求項1に記載のガス遮断器。
【請求項3】
前記熱パッファ室に対して隣接する機械パッファ室と、
前記機械パッファ室を移動可能なピストンと、
前記機械パッファ室と前記熱パッファ室との間に設けられ、前記機械パッファ室から前記熱パッファ室へのみ絶縁ガスを通過させる逆止弁と、
を更に備え、
前記可動体は、前記ピストンに連結されている、
請求項2に記載のガス遮断器。
【請求項4】
前記吹付部の吹き付け方向は、前記通路から前記熱パッファ室内への絶縁ガスの流入方向に対して交差している、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のガス遮断器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス遮断器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、従来のガス遮断器が開示されている。特許文献1に記載のガス遮断器は、固定アーク接触子と、可動アーク接触子と、固定アーク接触子と可動アーク接触子との間に発生するアーク放電を消弧する絶縁ノズルと、を備えている。
【0003】
絶縁ノズルと可動アーク接触子との間には、熱パッファ室に通じる通路が形成されている。特許文献1に記載のガス遮断器では、熱パッファ室に流入する絶縁ガスについて、旋回流を形成するために、通路に開口部が形成されている。開口部は螺旋状に形成された複数の細長い溝又は螺旋状に穿孔された細孔である。
【0004】
これにより、通路を通る絶縁ガスが開口部から吹き出されることで、熱パッファ室内で旋回流として吹き出され、熱パッファ室内にある低温の絶縁ガスと混合しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-131414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この種のガス遮断器では、可動アーク接触子と固定アーク接触子とが金属により構成されているため、接触と離間とを繰り返すと、表面が擦れて金属粉が生じることがある。特許文献1に記載のガス遮断器では、旋回流を形成するために、開口部を細長い溝又は細孔とする必要があるため、絶縁ガスに金属粉等の異物が混ざると、開口部が目詰まりを起こすことがある。この場合、熱パッファ室内の絶縁ガスの温度を、一様に低温化させることができず、アーク放電の消弧性能が損なわれる可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、アーク放電の消弧性能を向上することができるガス遮断器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る一態様のガス遮断器は、絶縁ガスが充填される容器と、前記容器内に設けられ、接離可能な一対のアーク接触子と、互いに離れた前記一対のアーク接触子の間に生じるアーク放電によって加熱された絶縁ガスが流れ込む通路と、前記通路に通じている熱パッファ室と、前記通路から前記熱パッファ室内に流れ込む絶縁ガスに対して、絶縁ガスを吹き付ける吹付部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る上記態様のガス遮断器は、消弧性能を向上させることができ、電流遮断性能を向上することができる、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態に係るガス遮断器の図であり、第2電極部が離間位置にあるときの断面図である。
図2図2は、実施形態に係るガス遮断器の第1電極部と第2電極部との拡大図であり、第2電極部が接触位置にあるときの部分断面図である。
図3図3(A)は、実施形態に係るガス遮断器において、第2電極部が接触位置にあるときの部分断面図である。図3(B)は、実施形態に係るガス遮断器において、第2電極部が離間前期位置にあるときの部分断面図である。図3(C)は、実施形態に係るガス遮断器において、第2電極部が離間後期位置にあるときの部分断面図である。図3(D)は、実施形態に係るガス遮断器において、第2電極部が離間位置にあるときの部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態>
以下、本実施形態に係る機器装置について、図面を参照して詳細に説明する。ただし、図面は、実施形態を模式的に示したものであるため、例えば、位置関係、各部品のサイズ等が正確ではない。
【0012】
本実施形態に係るガス遮断器100は、絶縁ガスが充填された容器1内において、電路の開閉が行われる遮断器である。ガス遮断器100は、例えば、ガス絶縁開閉装置(GIS)の一構成要素として用いられる。
【0013】
本発明に係るガス遮断器100としては、例えば、機械的にパッファ室の容積を変化させる機械パッファ型、磁気駆動併用熱パッファ型、ブラスト型、機械パッファ室と熱パッファ室とを直列に設ける直列熱パッファ型等が挙げられる。磁気駆動併用熱パッファ型ガス遮断器は、駆動コイルで生じる磁力によってアークをガス雰囲気中で回転させ、これによって当該アークに相対的なガスの吹き付けを行う磁気駆動作用と、アーク熱にて蓄圧されたガスの放出の際にアークに対して吹き付けを行う熱パッファ作用とを共に得られるように構成された遮断器である。本実施形態では、ガス遮断器100の一例として、機械パッファ室と熱パッファ室とを直列に設ける直列熱パッファ型のガス遮断器を挙げて、説明する。
【0014】
ガス遮断器100は、図1に示すように、容器1と、一対の導体21,22と、電流遮断装置3と、を備える。電流遮断装置3は、一対の導体21,22のうちの一方の導体21に接続された第1電極部4と、他方の導体22に接続された第2電極部5と、第1電極部4と第2電極部5との位置関係を切り替える駆動部7と、を備える。本実施形態に係る電流遮断装置3は、駆動部7によって、第2電極部5を移動させることで、第1導体21と第2導体22と間の電路において、開路と閉路とを切り替えることができる。本実施形態では、第1電極部4と第2電極部5とが接触して電路が閉路となるときの第2電極部5の位置を「接触位置」といい(図2参照)、第1電極部4と第2電極部5とが離れて電路が開路となるときの第2電極部5の位置を「離間位置」という(図1参照)。第2電極部5は、接触位置と離間位置との間で切り替えられる。
【0015】
以下では、説明の便宜上、第2電極部5の移動方向を「前後方向」として定義する。前後方向は、例えば、水平面に平行であってもよいし、水平面に対して傾斜していてもよいし、水平面に直交してもよい。また、本明細書において「平行」とは、実質的に平行である場合も含む。例えば、2つの直線が「平行」であることには、当該2つの直線を延長した場合に交わらないだけでなく、当該2つの直線がなす角度が10°以内で交わることも含む。直線と線分、直線と面、面と面等において、平行である場合も同様である。
【0016】
(容器1)
容器1は、ガス遮断器100の筐体である。容器1の材質は、特に制限はなく、例えば、金属、碍子等によって構成されている。金属としては、例えば、ステンレス、真ちゅう、スチール、鉄、アルミニウム合金等が挙げられる。容器1は、容器本体部11と、一対の管状部12と、各管状部12内に取り付けられたスペーサ13と、を備える。
【0017】
容器本体部11は、容器1の主体を構成する部分である。容器本体部11は中空状に形成されている。容器本体部11の形状としては、特に制限はなく、例えば、円筒状、角筒状、箱状等が挙げられる。本実施形態の容器本体部11は、前後方向に平行に延びた中心軸を有する円筒状に形成されている。
【0018】
管状部12は、第1導体21と第2導体22との各々が、内部に通される部分である。管状部12は、容器本体部11から容器本体部11の中心軸に交差する方向に突出している。管状部12の内部は容器本体部11の内部に通じている。
【0019】
スペーサ13は、管状部12内に対応する導体21,22を通した状態で、当該導体21,22を支持する。スペーサ13は、電気絶縁性を有する材料で構成されている。スペーサ13によって、各導体21,22は、管状部12に接触することなく、管状部12の中心軸に沿って支持されている。
【0020】
容器1の内部には、電流遮断装置3を収容する収容空間14が形成されている。収容空間14は、気密に保たれており、絶縁ガスが充填される。収容空間14は、本実施形態では、容器本体部11、管状部12の基部、及びスペーサ13で区画された空間である。ただし、収容空間14は、気密に保たれていれば、スペーサ13によって仕切られていなくてもよいし、容器本体部11内において当該容器本体部11よりも小さく区画された空間であってもよい。
【0021】
本明細書でいう「気密」とは、厳密な意味での「気密」を意味するのではなく、内部のガス圧を一定の範囲内に保つことができる状態を意味する。このため、例えば、経時的にガス圧が低下するような室の場合も、ここでいう「気密」に含まれる。例えば、1年経過時点の収容空間14内の圧力が、初期圧に対して80%以上であれば、「気密」の範疇である。
【0022】
絶縁ガスは、絶縁性及び消弧性を有するガスであり、不活性ガスが用いられる。絶縁ガスとしては、例えば、SFガス(六フッ化硫黄ガス)、COガス(二酸化炭素ガス)、CFI(ヨウ化トリフルオロメタン)とN(窒素)との混合ガス、CFIとCOとの混合ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が用いられる。
【0023】
(電流遮断装置3)
電流遮断装置3は、第1導体21と第2導体22と間の電路において、開路と閉路とを切り替える装置である。電流遮断装置3は、図1に示すように、第1導体21に電気的に接続された第1電極部4と、第2導体22に電気的に接続された第2電極部5と、駆動部7と、を備える。第1電極部4及び第2電極部5は、容器1内に設けられている。駆動部7は、本実施形態では容器1の外に設けられているが、容器1内に設けられてもよい。
【0024】
(駆動部7)
駆動部7は、第1電極部4と第2電極部5との位置関係を、接触位置と離間位置との間で切り替える。本実施形態に係る駆動部7は、第2電極部5を接触位置と離間位置との間で移動させ、これによって、第1電極部4と第2電極部5との位置関係を切り替える。駆動部7としては、特に制限はなく、例えば、電動シリンダ、空圧シリンダ、油圧シリンダ、モータ、リニアアクチュエータ、ソレノイド等が挙げられる。駆動部7としては、上述のように、第2電極部5を自動で移動させるモータやシリンダ等のほか、例えば、作業者が手動で第2電極部5を移動させることができるような移動機構で構成されてもよい。
【0025】
(第1電極部4)
第1電極部4は、第1アーク接触子41と、筒状の第1通電接触子42と、台座部43と、を備える。第1アーク接触子41と第1通電接触子42とは、第1導体21に電気的に接続されており、互いに同じ電位である。第1アーク接触子41と第1通電接触子42は、台座部43によって容器1に対して固定されている。すなわち、本実施形態に係る第1電極部4は、容器1に対して固定された固定電極である。
【0026】
第1アーク接触子41は、前後方向に平行な中心軸をもつ接触子である。第1アーク接触子41は、第2電極部5が接触位置に切り替えられると、後述の第2電極部5の第2アーク接触子51に電気的に接続される。第1アーク接触子41は、例えば、柱状、筒状等に形成される。本明細書でいう「柱状」とは、一方向(ここでは前後方向)に延びた中実形状を意味する。「柱状」の接触子の断面形状としては、特に制限はなく、例えば、円形状、楕円形状、三角形状、四角形状、五角形状等が挙げられる。また、「柱状」は、断面が一様であってもよいし、一様でなくてもよい。
【0027】
第1通電接触子42は、第1アーク接触子41を囲む接触子である。第1通電接触子42は、中心軸が左右方向に平行な円筒状に形成されている。本実施形態に係る第1通電接触子42の中心軸は、第1アーク接触子41の中心軸と同じ位置にある。第1通電接触子42は、第2電極部5が接触位置に切り替えられると、図2に示すように、第2電極部5の第2通電接触子52に電気的に接続される。
【0028】
台座部43は、図1に示すように、第1通電接触子42及び第1アーク接触子41を容器1に固定する。台座部43は、電気絶縁性を有する材料で構成されている。台座部43の材料としては、例えば、エポキシ樹脂に対し、酸化チタン、結晶質シリカ、溶融シリカ、ガラス短繊維、ガラスバルーン等のうちの1種以上のフィラーからなる充填材を混合することで形成される。ただし、台座部43の材料としては、この構成に限らず、ゴム、ベークライト、合成樹脂、ガラス等で構成されてもよい。
【0029】
(第2電極部5)
第2電極部5は、図1に示すように、第2アーク接触子51と、第2通電接触子52と、シリンダ53と、ノズル55と、通路56と、熱パッファ室54と、機械パッファ室57と、ピストン58と、吹付部6と、逆止弁59と、を備える。第2アーク接触子51と第2通電接触子52とは、第2導体22に電気的に接続されており、互いに同じ電位である。第2アーク接触子51、第2通電接触子52、ノズル55、及びシリンダ53等の第2電極部5の主体を構成する部分は、駆動部7によって、前後方向に移動し得る。すなわち、本実施形態に係る第2電極部5は、第1電極部4に対して可動な可動電極である。
【0030】
第2アーク接触子51は、前後方向に平行な中心軸をもつ筒状に形成された接触子である。第2アーク接触子51は、第2電極部5が接触位置に切り替えられると、図2に示すように、第1アーク接触子41の端部が挿入される。すなわち、第2アーク接触子51と第1アーク接触子41とは、接離可能に構成されている。「接離可能」とは、接触と離間とが可能であることを意味する。第2アーク接触子51の内部は、収容空間14に通じている。本実施形態では、第2アーク接触子51は筒状に形成されているが、柱状に形成されてもよい。
【0031】
第2通電接触子52は、第2アーク接触子51を囲む接触子である。第2通電接触子52は、中心軸が左右方向に平行な円筒状に形成されている。本実施形態に係る第2通電接触子52の中心軸は、第2アーク接触子51の中心軸と同じ位置にある。前後方向に沿って第2電極部5を見ると、第2通電接触子52と第2アーク接触子51とが同心円状に配置される。第2通電接触子52は、前後方向においてシリンダ53の第1電極部4側の端部に配置されている。第2通電接触子52は、第2電極部5が接触位置に切り替えられると、図2に示すように、第1通電接触子42の内部に挿入されて、電気的に接続される。
【0032】
シリンダ53は、第2アーク接触子51を囲む。シリンダ53は筒状に形成されており、シリンダ53の中心軸は、第2アーク接触子51と同じ位置にある。シリンダ53の内径は、第2アーク接触子51の外径よりも大きく形成されており、シリンダ53と第2アーク接触子51との間には、全周にわたって同じ幅の空間が形成されている。
【0033】
ノズル55は、第2電極部5が接触位置から離間位置に切り替えられた際、第1アーク接触子41と第2アーク接触子51との間に生じるアーク放電A1に向かって絶縁ガスを流す。ノズル55は、図2に示すように、ノズル本体551と、取付部552と、を備える。ノズル本体551と取付部552とは、一体に形成されている。
【0034】
ノズル本体551は、筒状に形成されており、ノズル本体551の中心軸は、第2アーク接触子51の中心軸と同じ位置にある。ノズル本体551の内径の最も小さい部分は、第1アーク接触子41の外径よりも大きい。ノズル本体551の先端部は、前後方向において第1電極部4側に進むに従って、径方向の外側に位置するように、テーパ状に拡がっている。
【0035】
第2電極部5が接触位置に切り替えられると、第1アーク接触子41は、ノズル本体551の中心軸に沿って、ノズル本体551内に挿入される。このとき、ノズル本体551の内周面と第1アーク接触子41との間には、隙間が形成される。
【0036】
取付部552は、ノズル本体551を第2通電接触子52に対して取り付ける部分である。取付部552は筒状に形成されており、前後方向においてノズル本体551とは反対側の端部は、径方向の外側に突き出ている。取付部552は、この突き出た部分で第2通電接触子52に固定されている。取付部552の中心軸は第2アーク接触子51の中心軸と同じ位置にある。なお、取付部552は、第2通電接触子52に対して固定されているが、例えば、第2アーク接触子51に対して固定されてもよいし、シリンダ53に対して固定されてもよい。
【0037】
ノズル55は、電気絶縁性を有する。本実施形態では、ノズル本体551及び取付部552が電気絶縁性を有する材料で形成されているが、ノズル本体551のみが電気絶縁性を有する材料で構成されてもよい。ノズル55に用いられる電気絶縁性を有する材料としては、特にアーク放電の熱や開閉動作による衝撃への耐性を有する材料であることが好ましく、例えば、PTFE(四弗化エチレン)等の樹脂材料が挙げられる。
【0038】
通路56は、一対のアーク接触子の間に生じるアーク放電によって加熱された絶縁ガスが膨張した結果、この加熱された絶縁ガスが流れ込む流路である。通路56は、ノズル55と第2アーク接触子51との間に形成されている。通路56は、第2アーク接触子51の外周の全長にわたって形成されている。通路56の一端は、第2アーク接触子51の先端面に向かって開口し、通路56の他端は、熱パッファ室54に向かって開口している。すなわち、通路56は、第2アーク接触子51の先端面に面する空間と、熱パッファ室54とを通じさせる。
【0039】
熱パッファ室54は、通路56に通じた室である。熱パッファ室54は、第2アーク接触子51とシリンダ53の内周面との間にある。熱パッファ室54には、加熱された絶縁ガスが通路56から流れ込む。本実施形態に係る熱パッファ室54は、図2に示すように、第2アーク接触子51、第1隔壁64、第2隔壁66、及びフローガイド65で囲まれている。
【0040】
機械パッファ室57は、ピストン58による機械的な圧縮により、圧力が上昇し得る室である。機械パッファ室57は、熱パッファ室54に隣接する。本実施形態に係る機械パッファ室57は、熱パッファ室54に対して前後方向に並んでおり、具体的には、熱パッファ室54に対して、前後方向のノズル55とは反対側に配置されている。機械パッファ室57は、第2アーク接触子51、シリンダ53の内周面、ピストン58及び第2隔壁66で囲まれている。
【0041】
ピストン58は、第2アーク接触子51とシリンダ53の内周面との間において、前後方向に移動し得る。本実施形態では、ピストン58が容器1に対して固定されている一方、第2アーク接触子51及びシリンダ53が、駆動部7によって前後方向に移動するため、ピストン58は、第2アーク接触子51及びシリンダ53に対して移動する。
【0042】
ピストン58は、前後方向において第2隔壁66に近付く側に移動すると、機械パッファ室57内を圧縮し、機械パッファ室57内の絶縁ガスを加圧する。加圧された絶縁ガスは、逆止弁59を通って、熱パッファ室54に移動する。
【0043】
逆止弁59は、機械パッファ室57とパッファ室との間の隔壁(第2隔壁66)に設けられ、機械パッファ室57から熱パッファ室54へのみ絶縁ガスを通過させる。すなわち、逆止弁59は、機械パッファ室57から熱パッファ室54への絶縁ガスの移動を許容するが、熱パッファ室54から機械パッファ室57への絶縁ガスの移動を妨げる。ピストン58の移動により、機械パッファ室57内が加圧され、絶縁ガスが機械パッファ室57から熱パッファ室54へ移動するが、熱パッファ室54内の圧力が機械パッファ室57内の圧力よりも大きくなると、逆止弁59の作用により絶縁ガスの移動が止まる。
【0044】
吹付部6は、通路56から熱パッファ室54内に流れ込む絶縁ガスに対して、絶縁ガスを吹き付ける。吹付部6は、シリンダ室63と、可動体61と、フローガイド65と、吐出口651と、を備える。吹付部6は、本実施形態では、通路56に対して絶縁ガスを吹き付けるが、通路56から熱パッファ室54へ出た後の絶縁ガスに対して、絶縁ガスを吹き付けてもよい。アーク放電によって加熱された絶縁ガスに対して、吹付部6によって、通常の温度の絶縁ガス(すなわち、アーク放電によって加熱された絶縁ガスよりも低い温度の絶縁ガス)を吹き付けることができる。この結果、熱パッファ室54に充填される絶縁ガスの温度を低下させることができる。
【0045】
シリンダ室63は、熱パッファ室54に通じる室である。シリンダ室63は、熱パッファ室54に対して、フローガイド65を通して通じている。シリンダ室63は、第1隔壁64を介して熱パッファ室54に隣接している。本実施形態では、シリンダ室63は、シリンダ53の内周面と熱パッファ室54との間に配置されている。
【0046】
シリンダ室63は、熱パッファ室54の外周に形成されており、中心軸が左右方向に平行なドーナツ状に形成されている。シリンダ室63の中心軸は、第2アーク接触子51の中心軸と同じ位置にある。前後方向に沿ってシリンダ室63を見ると、シリンダ室63は、熱パッファ室54と同心円状に形成されている。
【0047】
可動体61は、シリンダ室63内を移動し得る。可動体61は、第1隔壁64の外周面とシリンダ室63の内周面とに接触しながら、前後方向に移動する。可動体61は、第1の位置と第2の位置との間を移動する。第1位置にある可動体61は、シリンダ室63の容積が最大値のときの位置である(図2)。第2位置にある可動体61は、シリンダ室63の容積が最小の容量をとるときの位置である(図1)。
【0048】
可動体61は、ピストン58に対して、連結体62によって連結されている。連結体62の形状は、特に制限はなく、例えば、棒状、柱状、ロッド状、円筒状等である。連結体62は、第2隔壁66を貫通しており、第2隔壁66に対して、前後方向に移動可能に構成されている。連結体62によって、可動体61は、ピストン58と連動して動く。
【0049】
可動体61は、第2電極部5が接触位置にあるとき、第1の位置にある。第2電極部5が離間位置に向かって移動すると、ピストン58が移動するのに従って、可動体61が第2の位置に向かって移動する。このとき、可動体61は、シリンダ室63を加圧し、シリンダ室63内の絶縁ガスをフローガイド65に向かわせる。
【0050】
フローガイド65は、シリンダ室63に通じている。フローガイド65の先端面には、吐出口651が形成されている。フローガイド65の長手方向は、前後方向に交差している。フローガイド65の長手方向は、吹付部6からの絶縁ガスの吹き付け方向と平行である。本実施形態では、吐出口651は、通路56の側面に形成されている。言い換えると、吹付部6の吹き付け方向は、通路56から熱パッファ室54へ移動する絶縁ガスの流入方向に対して交差している。
【0051】
吐出口651は、第2アーク接触子51の外周の全周にわたって連続したスリット状に形成されている。ただし、吐出口651としては、第2アーク接触子51の外周の全周にわたって連続していなくてもよく、断続的に形成されてもよい。
【0052】
本実施形態では、吹付部6の吹き付け方向は、通路56から熱パッファ室54への絶縁ガスの流入方向に対して直交している。ただし、吹付部6の吹き付け方向は、通路56から熱パッファ室54へ移動する絶縁ガスの流入方向に対して交差していれば、吹付部6の吹き付け方向の前後方向成分と、絶縁ガスの流入方向の前後方向成分とが対向していてもよいし、並行していてもよい。
【0053】
フローガイド65の流路断面積は、シリンダ室63内の断面積(前後方向に直交する断面)よりも小さい。このため、吐出口651から吹き出される絶縁ガスの流速を、より速くすることができる。また、フローガイド65の長手方向が、通路56の長手方向に交差しているため、吐出口651から吹き出される絶縁ガスを、通路56を通る絶縁ガスに対して、衝突させて混合させることができる。通路56を通る絶縁ガスと、吐出口651から吹き出された絶縁ガスとは、混合しながら熱パッファ室54に流れ込むため、熱パッファ室54内の絶縁ガスは撹拌され、これにより、熱パッファ室54内の絶縁ガスは一様に、比較的低温になりやすい。
【0054】
第2電極部5が接触位置に切り替えられると、図3(A)に示すように、第1アーク接触子41と第2アーク接触子51とが接触する。この状態から、第2電極部5が離間位置に向かって移動し、第1アーク接触子41と第2アーク接触子51とが離れると(これを「離間前期位置」とする)、図3(B)に示すように、第1アーク接触子41と第2アーク接触子51との間にアーク放電A1が発生する。
【0055】
アーク放電によって加熱された絶縁ガスは膨張し、通路56を通って、熱パッファ室54に向かう。このとき、ピストン58の動きに連動して第2の位置に向かって移動する可動体61がシリンダ室63の絶縁ガスを加圧することで、通路56を通って移動する加熱された絶縁ガスに対して、吹付部6は、それよりも温度の低い絶縁ガスを吹き付ける。また、機械パッファ室57内のピストン58の動きによって、機械パッファ室57内の絶縁ガスが、逆止弁59を通して、熱パッファ室54内に流入する。
【0056】
この後、第2電極部5が更に離間位置に向かって移動すると(これを「離間後期位置」とする)、図3(C)に示すように、吹付部6から吹き付けられた絶縁ガスと、通路56を通る絶縁ガスが混合しながら熱パッファ室54内に流入し、熱パッファ室54内の圧力が高くなる。熱パッファ室54内の圧力が機械パッファ室57内の圧力よりも高くなると、逆止弁59が閉じる。
【0057】
この後、第2電極部5が離間位置に至るまで移動すると、図3(D)に示すように、熱パッファ室54で比較的低温になった絶縁ガスは、通路56を逆流し、通路56を通ってノズル55から出る。ノズル55から出る絶縁ガスによって、第1アーク接触子41と第2アーク接触子51との間のアーク放電A1は消弧される。
【0058】
このように、本実施形態では、第2電極部5が離間前期位置から離間後期位置に移動する間に、熱パッファ室54内に流入する絶縁ガスを、比較的低温にすることができるため、第2電極部5が離間位置の際には、比較的低温な絶縁ガスによって、アーク放電A1を消弧することができる。このため、本実施形態に係るガス遮断器100によれば、消弧性能を向上することができる。この結果、電流遮断性能が向上したガス遮断器とすることができる。
【0059】
<変形例>
上記実施形態は、本発明の様々な実施形態の一つに過ぎない。実施形態は、本発明の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下、実施形態の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0060】
上実施形態では、駆動部7は第2電極部5を移動させたが、本発明では、第1電極部4と第2電極部5との位置関係を接触位置と離間位置とで切り替えることができればよい。例えば、第1電極部4が可動電極であってもよいし、第1電極部4と第2電極部5の両方が、可動電極であってもよい。
【0061】
上記実施形態に係るガス遮断器100は、ガス絶縁開閉装置(GIS)の一構成要素として用いられたが、単独で用いられてもよい。
【0062】
シリンダ室63は、フローガイド65を通して熱パッファ室54に通じていたが、例えば、可動体61に貫通穴を形成し、当該貫通穴を通して、シリンダ室63が、熱パッファ室に対して通じてもよい。
【0063】
シリンダ室63は、熱パッファ室54とシリンダ53の内周面との間に位置したが、例えば、熱パッファ室54と、第2アーク接触子51との間に位置してもよい。
【0064】
可動体61は、ピストン58に連結されたが、例えば、可動体61を駆動する駆動部を設けてもよい。駆動部としては、例えば、ソレノイド、モータ、リニアアクチュエータ、シリンダ装置等が挙げられる。駆動部は、例えばコンピュータによる駆動制御によって、可動体61を、第2電極部5に連動して駆動してもよい。
【0065】
本明細書において「端部」及び「端」などのように、「…部」の有無で区別した表現が用いられている。例えば、「端」は物体の末の部分を意味するが、「端部」は「端」を含む一定の範囲を持つ域を意味する。端を含む一定の範囲内にある点であれば、いずれも、「端部」であるとする。他の「…部」を伴った表現についても同様である。
【0066】
<まとめ>
以上説明したように、第1の態様に係るガス遮断器100は、絶縁ガスが充填される容器1と、容器1内に設けられ、接離可能な一対のアーク接触子と、互いに離れた一対のアーク接触子の間に生じるアーク放電によって加熱された絶縁ガスが流れ込む通路56と、通路56に通じている熱パッファ室54と、通路56から熱パッファ室54内に流れ込む絶縁ガスに対して、絶縁ガスを吹き付ける吹付部6と、を備える。
【0067】
この態様によれば、通路56から熱パッファ室54内に流れ込む絶縁ガスに対して、当該絶縁ガスよりも温度の低い絶縁ガスを吹き付けることができるため、高温の絶縁ガスとそれよりも低温の絶縁ガスとが混合しやすい。このため、熱パッファ室54内に充填された絶縁ガスの温度を、一様に低温化させやすくなる。この結果、消弧性能を向上させることができ、電流遮断性能を向上することができる。
【0068】
第2の態様に係るガス遮断器100では、第1の態様において、吹付部6は、熱パッファ室54に通じるシリンダ室63と、シリンダ室63内を移動可能な可動体61と、可動体61によって加圧された絶縁ガスを吐出する吐出口651と、を有する。
【0069】
この態様によれば、機械的な駆動によって吐出口651から絶縁ガスを吹き出すことができるため、通路56から熱パッファ室54内に流れ込む絶縁ガスに対して、より効果的に、絶縁ガスを吹き付けることができる。
【0070】
第3の態様に係るガス遮断器100では、第2の態様において、熱パッファ室54に対して隣接する機械パッファ室57と、機械パッファ室57を移動可能なピストン58と、機械パッファ室57と熱パッファ室54との間に設けられ、機械パッファ室57から熱パッファ室54へのみ絶縁ガスを通過させる逆止弁59と、を更に備える。可動体61は、ピストン58に連結されている。
【0071】
この態様によれば、ピストン58の動きに連動して可動体61を動かすことができるため、可動体61の専用の駆動源が不要となり、部品点数が増えることを抑えることができる。
【0072】
第4の態様に係るガス遮断器100では、第1~3のいずれか1つの態様において、吹付部6の吹き付け方向は、通路56から熱パッファ室54内への絶縁ガスの流入方向に対して交差している。
【0073】
この態様によれば、吹付部6から吹き出される絶縁ガスを、通路56を通る絶縁ガスに衝突させることができるため、熱パッファ室54内に充填される絶縁ガスについて、高温の絶縁ガスと、それよりも温度の低い絶縁ガスとが混合しやすく、一様な低温化を実現しやすい。
【符号の説明】
【0074】
100 ガス遮断器
1 容器
41 第1アーク接触子
51 第2アーク接触子
54 熱パッファ室
56 通路
57 機械パッファ室
58 ピストン
59 逆止弁
6 吹付部
61 可動体
63 シリンダ室
651 吐出口
図1
図2
図3