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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170370
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】マイクロ波形状測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/40 20060101AFI20231124BHJP
   G01S 7/03 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
G01S7/40 126
G01S7/03 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082070
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】室田 康太
(72)【発明者】
【氏名】木下 貴博
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB18
5J070AC02
5J070AD06
5J070AD09
5J070AF01
5J070AK04
(57)【要約】
【課題】マイクロ波の波面の歪みによる測定誤差の校正のために必要となる参照点の数を削減する。
【解決手段】マイクロ波形状測定方法は、複数の参照点を設定し、いずれかの参照点にマイクロ波を反射するリフレクタを配置するステップS001、リフレクタで反射したマイクロ波を受信するステップS003、受信したマイクロ波に基づいて、マイクロ波の平面波からの波形の歪みに対応した、いずれかの参照点における補正ステアリングベクトルを算出するステップS005、すべての参照点について補正ステアリングベクトルが算出されたか否かを判定するステップS007、対象物で反射したマイクロ波を受信するステップS009、及び、受信したマイクロ波と、それぞれの参照点における補正ステアリングベクトルとに基づいて、アレーアンテナと対向する対象物までの距離と方位とを測定するステップS011を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物までの距離と方位を測定し、前記距離と前記方位とに基づいて前記対象物の形状を測定するマイクロ波形状測定方法であって、
前記対象物に向けてマイクロ波を送信する送信アンテナ素子と、前記対象物で反射したマイクロ波を受信する複数の受信アンテナ素子とが、前記対象物を測定する方位となる方位方向に配列されたアレーアンテナと、
それぞれの受信アンテナ素子で受信したマイクロ波とステアリングベクトルとに基づいて、前記対象物までの距離と方位とを測定する演算処理部と、
を有するマイクロ波形状測定装置を用い、
前記アレーアンテナと対向する複数の位置に参照点を設定し、いずれかの参照点にマイクロ波を反射するリフレクタを配置する、リフレクタ配置ステップと、
前記送信アンテナ素子から前記リフレクタにマイクロ波を送信し、前記リフレクタで反射したマイクロ波を、それぞれの受信アンテナで受信する、リフレクタ反射波受信ステップと、
前記リフレクタ反射波受信ステップで受信したマイクロ波に基づいて、当該マイクロ波の平面波からの波形の歪みに対応した、前記いずれかの参照点における補正ステアリングベクトルを算出する、補正ステアリングベクトル算出ステップと、
前記リフレクタ配置ステップ、前記リフレクタ反射波受信ステップ、及び前記補正ステアリングベクトル算出ステップを繰り返し、すべての参照点の補正ステアリングベクトルを取得する全参照点補正ステアリングベクトル取得ステップと、
前記アレーアンテナと対向する位置にある対象物に、前記送信アンテナ素子からマイクロ波を送信し、前記対象物で反射したマイクロ波を、それぞれの受信アンテナ素子で受信する、対象物反射波受信ステップと、
前記対象物反射波受信ステップにより受信したマイクロ波と、前記全参照点補正ステアリングベクトル取得ステップにより取得された、それぞれの参照点における補正ステアリングベクトルとに基づいて、前記アレーアンテナの方位方向の中心位置から前記対象物までの距離と方位とを測定して、前記距離と前記方位とに基づいて前記対象物の形状を測定する、形状測定ステップと、
を有するマイクロ波形状測定方法。
【請求項2】
前記リフレクタ配置ステップは、
前記アレーアンテナの方位方向の中心位置と前記いずれかの参照点とを結ぶ直線が、前記中心位置を通り、前記アレーアンテナの方位方向に直交する方向に延びる直線となす角度が大きくなるにしたがって、単位角度当たりの参照点の数が少なくなるように設定される、
請求項1に記載のマイクロ波形状測定方法。
【請求項3】
前記リフレクタ配置ステップは、
前記アレーアンテナの方位方向の中心位置と、前記いずれかの参照点の位置との距離が遠ざかるにしたがって、参照点の設定間隔を大きくとるように設定する、
請求項1に記載のマイクロ波形状測定方法。
【請求項4】
前記アレーアンテナの方位方向の中心位置から前記いずれかの参照点の位置までの距離と、前記アレーアンテナの方位方向の端部位置から前記いずれかの参照点の位置までの距離との差が、前記送信アンテナ素子から送信されるマイクロ波の波長の1/16よりも大きくなるか否かを基準として、参照点の設定間隔を変更する、
請求項3に記載のマイクロ波形状測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物までの距離及び方位を測定して、距離及び方位に基づいて対象物の形状を測定するマイクロ波形状測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波は、0.3[GHz](波長1[m])から300[GHz](波長1[mm])の周波数帯域の電磁波であり、雨粒や粉塵等を透過することが可能であるため、例えばマイクロ波を使った形状測定装置を用いることにより、屋外や粉塵が発生する製造ライン等といった悪環境下であっても、測定対象となる対象物の形状を測定することが可能となる。
【0003】
マイクロ波を用いた3次元(3D)形状測定装置では、方位方向及び仰角方向にアンテナ素子が並んだ2次元アレーアンテナを用いて、各素子で受信した対象物で反射したマイクロ波の振幅と位相の関係から、対象物までの距離と方位を算出し、対象物の3D形状を測定する。
【0004】
こうした形状測定においては、形状測定装置のアンテナから放射されたマイクロ波は、対象物で反射し、対象物を中心に球面状に伝搬するため、対象物(マイクロ波を反射することで、マイクロ波の放射源と見なせる)から十分離れた場所であれば、マイクロ波を平面波と見なすことができる。一方で、対象物から十分離れていない場合には、マイクロ波を平面波と見なすことができない。
【0005】
従って、対象物が、形状測定装置から十分離れていない近傍界(例えば、波長12.5[mm]、受信アンテナ素子32素子、素子間隔0.66波長としたときに、10.5[m]以内)にある場合に、対象物の形状測定を行うと、対象物から反射してくるマイクロ波の波面は歪んでしまうため、マイクロ波が平面波であると仮定して対象物の距離や方位を算出してしまうと、形状測定に誤差が生じる。
また、アレー誤差と呼ばれる形状測定装置自体が持つアンテナ配置の誤差や、ケーブル長のずれ等によっても、受信アンテナ素子間に波の位相と振幅のずれが生じるため、形状測定に誤差が生じる。
【0006】
そのため、より正確に対象物の形状測定を行うためには、マイクロ波の波面の歪みを補正することが考えられる。そうした歪みを補正する手段として、特許文献1には、未知の方向に置いた放射源からの受信信号を用いて計測装置本体で生じる位相と振幅誤差を計測する方法が開示されている。
また、非特許文献1には、既知の方向に置いた放射源からの反射波を事前に計測し、アンテナ素子間に生じる波の位相と振幅のデータを補正値として保持しておく方法が開示されている。
さらに、非特許文献2では、放射源からの信号を複数の位置で受信する場合、各位置での受信波を同位相と見なすには、これらの位相差が22.5°(つまり波長の1/16)以下であることが望ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2015/173861号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】山田寛喜、“高分解能到来方向推定のためのアレーキャリブレーション手法”電子情報通信学会論文誌 B Vol. J92-B No.9 pp.1308-1321.(2009)
【非特許文献2】Skolnik, Merrill、Radar Handbook,Third Edition, McGraw-Hill Education.(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の特許文献1に示す方法は、方向計測時の誤差要因のうち計測装置本体で生じる波面の歪みを補正するものであり、近傍界における波面の歪みを考慮していない。
また、非特許文献1に示す方法では、方向が既知の放射源からの信号を予め取得し、波の振幅と位相を補正することにより高精度に方位測定することができる。
この方法では、事前に測定した方向からの信号を参照することにより、アレー誤差と近傍界における波面の歪みの双方を校正(キャリブレーション)することが可能であるが、参照する方向の適切な角度間隔が示されていない。
【0010】
高精度に測定を行うには、測定方向に対してキャリブレーションの基準となるキャリブレーションデータの参照方向(即ち、基準となる放射源の方向)を近づけなければならないため、細かな角度間隔でキャリブレーションデータを取得する必要があり、データが膨大な量になるという課題がある。
【0011】
そこで、本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、測定誤差を校正する際に参照される放射源となるリフレクタについて、より少ない参照点で校正を行い、対象物の距離、方位を高精度に測定するマイクロ波形状測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、対象物までの距離と方位を測定し、前記距離と前記方位に基づいて前記対象物の形状を測定するマイクロ波形状測定方法であって、前記対象物に向けてマイクロ波を送信する送信アンテナ素子と、前記対象物で反射したマイクロ波を受信する複数の受信アンテナ素子とが、前記対象物を測定する方位となる方位方向に配列されたアレーアンテナと、それぞれの受信アンテナ素子で受信したマイクロ波とステアリングベクトルとに基づいて、前記対象物までの距離と方位とを測定する演算処理部と、を有するマイクロ波形状測定装置を用い、前記アレーアンテナと対向する複数の位置に参照点を設定し、いずれかの参照点にマイクロ波を反射するリフレクタを配置する、リフレクタ配置ステップと、前記送信アンテナ素子から前記リフレクタにマイクロ波を送信し、前記リフレクタで反射したマイクロ波を、それぞれの受信アンテナで受信する、リフレクタ反射波受信ステップと、前記リフレクタ反射波受信ステップで受信したマイクロ波に基づいて、当該マイクロ波の平面波からの波形の歪みに対応した、前記いずれかの参照点における補正ステアリングベクトルを算出する、補正ステアリングベクトル算出ステップと、前記リフレクタ配置ステップ、前記リフレクタ反射波受信ステップ、及び前記補正ステアリングベクトル算出ステップを繰り返し、すべての参照点の補正ステアリングベクトルを取得する全参照点補正ステアリングベクトル取得ステップと、前記アレーアンテナと対向する位置にある対象物に、前記送信アンテナ素子からマイクロ波を送信し、前記対象物で反射したマイクロ波を、それぞれの受信アンテナ素子で受信する、対象物反射波受信ステップと、前記対象物反射波受信ステップにより受信したマイクロ波と、全参照点補正ステアリングベクトル取得ステップにより取得された、それぞれの参照点における補正ステアリングベクトルとに基づいて、前記アレーアンテナの方位方向の中心位置から前記対象物までの距離と方位とを測定して、前記距離と前記方位とに基づいて前記対象物の形状を測定する形状測定ステップと、を有するマイクロ波形状測定方法が提供される。
【0013】
また、上記課題を解決するために、前記リフレクタ配置ステップは、前記アレーアンテナの方位方向の中心位置と前記いずれかの参照点とを結ぶ直線が、前記中心位置を通り、前記アレーアンテナの方位方向に直交する方向に延びる直線となす角度が大きくなるにしたがって、単位角度当たりの参照点の数が少なくなるように設定される、ことが好ましい。
さらに、上記課題を解決するために、前記リフレクタ配置ステップは、前記アレーアンテナの方位方向の中心位置と、前記いずれかの参照点の位置との距離が遠ざかるにしたがって、参照点の設定間隔を大きくとるように設定する、ことも好ましい。
またその場合には、前記アレーアンテナの方位方向の中心位置から前記いずれかの参照点の位置までの距離と、前記アレーアンテナの方位方向の端部位置から前記いずれかの参照点の位置までの距離との差が、前記送信アンテナ素子から送信されるマイクロ波の波長の1/16よりも大きくなるか否かを基準として参照点の設定間隔を変更する、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、マイクロ波形状測定装置により対象物の形状測定する際において、校正のための参照点の数を削減して、より少ない参照点で校正を行い、対象物の距離、方位を高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態において校正の対象となるマイクロ波形状測定装置の構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態における演算処理部の構成を示す図である。
図3】受信波形にステアリングベクトルを掛け合わせることで得られるスペクトラム強度を示す図である。
図4】本発明の実施形態におけるマイクロ波形状測定装置の動作についてのフローチャートである。
図5】本発明の実施形態におけるマイクロ波形状測定装置とリフレクタの位置関係を示した図である。
図6】本発明の実施形態における参照点を説明するための図である。
図7】本発明の実施形態におけるリフレクタの配置の仕方を説明するための図である。
図8】対象物の方位に応じたキャリブレーション間隔に対する測定誤差(計測誤差)の関係を示す図である。
図9】対象物までの距離に応じたキャリブレーション間隔に対する測定誤差(計測誤差)の関係を示す図である。
図10】反射波を平面波と見なせる基準を示すための、アレーアンテナと参照点の位置関係を示す図である。
図11】本発明の実施形態における参照点を説明するための図である。
図12】実施例において対象物の方位方向に応じて計測精度の劣化の程度が変化することを示すグラフである。
図13】実施例において対象物の距離に応じて計測精度の劣化の程度が変化することを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第一の実施形態>
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な第一の実施形態に係るマイクロ波形状測定方法ついて詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
図1に、本発明の実施形態において校正の対象となるマイクロ波形状測定装置100の構成を示す。
【0017】
本実施形態に係るマイクロ波形状測定装置100は、マイクロ波を用いて対象物8までの距離及び方位を測定し、測定した距離及び方位に基づいて対象物8の形状を測定する測定装置である。マイクロ波形状測定装置100は、マイクロ波発振部1、アレーアンテナ4、演算処理部10を有している。
本発明における対象物8は、マイクロ波形状測定装置100を用いて形状を測定すべき測定対象となるものである。測定開始前は、対象物8が存在する位置までの距離(アレーアンテナ4から対象物8までの距離)や、アレーアンテナ4から見た対象物8の方位角(以下、単に方位と称する)が分かっていない。マイクロ波が対象物8に照射されると、マイクロ波は、対象物8を中心に放射状に反射される。
【0018】
マイクロ波発振部1は、マイクロ波を発振する発振器であり、図示しない制御部による制御の下でマイクロ波を発振し、発振によって生じたマイクロ波を後述する送信アンテナ素子2へと伝搬する。マイクロ波発振部1としては公知のマイクロ波発振器を用いることができる。
アレーアンテナ4は、対象物8に向けてマイクロ波を送信する送信アンテナ素子2と、対象物8で反射したマイクロ波を受信する複数の受信アンテナ素子3a,3b,3cとが、対象物8を測定する方位に並ぶように構成されたアンテナである。
即ち、アレーアンテナ4の方位方向とは、送信アンテナ素子2と複数の受信アンテナ素子3a,3b,3cとが並んでいる方向であり、アレーアンテナ4から対象物8への方位を測定する際の基準となる方向である。なお、受信アンテナ素子3a,3b,3cについて特に区別する必要がない場合には、受信アンテナ素子3a,3b,3cを単に受信アンテナ素子3と称する。アレーアンテナ4は、(一例として略水平方向である)方位方向だけでなく、方位方向に垂直な仰角方向にも、送信アンテナ素子2や複数の受信アンテナ素子3を配置し、さらに2次元状に別の送信アンテナ素子2と受信アンテナ素子3とを配置するようにしてもよいが、本実施形態では、図1に示したアレーアンテナ4の方位方向にのみに着目して説明を行う。
【0019】
マイクロ波形状測定装置100は、アレーアンテナ4の方位方向に対する角度に基づいて、対象物8の方位を測定することになる。図1では、アレーアンテナ4は、破線により概念的に示されている。
送信アンテナ素子2は、前記マイクロ波発振部1で発振したマイクロ波を対象物8に向けて送信する素子(素子群)であり、受信アンテナ素子3は、対象物8で反射した前記マイクロ波を受信する素子(素子群)である。
送信アンテナ素子2は単数で用いられても複数設けられてもよく、一方、受信アンテナ素子3は、複数設けられる(図1の場合でれば、例示的に3つだけ受信アンテナ素子3a、3b、3cを示している)。なお、送信アンテナ素子2と受信アンテナ素子3とを併せて単にアンテナ素子2、3と称する場合がある。
【0020】
演算処理部10は、各受信アンテナ素子3に接続され、受信アンテナ素子3を介して受信したマイクロ波に基づいて、種々の演算を行う機能部である。図2に、本発明の実施形態における演算処理部の構成を示す。
演算処理部10は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、通信装置等により実現される。演算処理部10は、リフレクタ反射波受信部13、補正ステアリングベクトル算出部15、対象物反射波受信部17、形状測定部19を有している。
【0021】
演算処理部10は、それぞれの受信アンテナ素子3で受信したマイクロ波に基づいて、対象物8までの距離と方位とを、公知のレーダの原理に基づいて、測定することができる。
演算処理部10は、例えば、(i)送信アンテナ素子2から送信したマイクロ波が対象物8で反射して、受信アンテナ素子3で受信するまでに要する時間を求め、対象物8までの距離に換算する処理と、(ii)各受信アンテナ素子3で受信したマイクロ波の位相と振幅から対象物8の方位を求める処理とを行うことができるため、それらの処理について説明する。
【0022】
(i)受信するまでに要する時間を求めて距離に換算する処理
受信するまでに要する時間を求めて距離に換算する処理では、例えば、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave radar)方式を用いることができる。
マイクロ波形状測定装置100(送信アンテナ素子2)から対象物8までの距離Rと、送信波が対象物8で反射して受信するまでに要する時間Δtの関係は、式(1)で表される。ただし、マイクロ波の伝搬速度をc=3×10[m/s]とする。
【0023】
【数1】
【0024】
FMCW方式では、マイクロ波として、時間とともに正弦波の周波数が線形に変化する送信波を用いる。このとき、送信波の周波数変調周期をT、周波数の帯域幅をFとすると、時間と周波数の関係は傾きF/Tの直線で表される。この傾きの値を用いて、送信波と受信波の周波数差Δfは式(2)で表される。
【0025】
【数2】
【0026】
式(1)と式(2)とから、対象物8までの距離Rと送信波と受信波の周波数差Δfの関係は式(3)で与えられる。
【0027】
【数3】
【0028】
そのため、式(3)における送信波と受信波の周波数差Δfを測定することにより、対象物8までの距離Rを求めることができる。
【0029】
(ii)位相と振幅から対象物8の方位を求める処理
位相と振幅から対象物8の方位を求める処理では、例えば、ビームフォーマ法を用いることができる。
はじめに、対象物8で反射し、等間隔dに並んだ全部でn個の受信アンテナ素子3に到達するマイクロ波について、当該マイクロ波の複素振幅を成分とする受信波形xが、式(4)に示すような信号であるものとする。なお、x,x,…,xは、各受信アンテナ素子3に到達するマイクロ波の複素振幅を成分とする受信波形をそれぞれ示す。
【0030】
【数4】
【0031】
ビームフォーマ法で対象物8の方位を測定する場合には、受信波形xにステアリングベクトルを掛け合わせる処理を行うことで、マイクロ波の方位毎のスペクトラム強度(出力強度)を算出し、得られたマイクロ波の方位毎のスペクトラム強度(出力強度)から、対象物8の方位を求める。
【0032】
図3に、受信波形xにステアリングベクトルを掛け合わせることで得られるスペクトラム強度を示す。図3の縦軸はスペクトラム強度(出力強度)P(θ)[dB]を示しており、横軸は方位θ[°]を示している。図3に示すように、出力強度P(θ)には最大となる強いピークが現れる。この強いピークが示す方位θが、対象物8の存在する方位であると判断できる。
ここで、ステアリングベクトルa(θ)が、式(5)に示すものであるとする。なお、θは、アレーアンテナ4が検出しようとする対象物8の方位であり、λはマイクロ波の波長である。
【0033】
【数5】
【0034】
式(4)に示す受信波形xと、式(5)に示すステアリングベクトルa(θ)とを掛け合わせることで、式(6)に示す、マイクロ波の方位角毎のスペクトラム強度(出力強度)P(θ)を得ることができる。
【0035】
【数6】
【0036】
上述したように、スペクトラム強度P(θ)のピークの示す方位が、対象物8の存在する方位に対応することから、スペクトラム強度P(θ)に基づいて、対象物8が存在する方位を測定することができる。
以上説明した(i)(ii)の処理を行うことで、演算処理部10は、対象物8の距離と方位とを測定することができる。
【0037】
リフレクタ反射波受信部13は、マイクロ波を反射するリフレクタ9が参照点7に配置された後において(図5参照)、送信アンテナ素子2からリフレクタ9にマイクロ波を送信し、その結果、受信アンテナ素子3で受信した、リフレクタ9で反射したマイクロ波を、当該受信アンテナ素子3から受け取る。そして、リフレクタ反射波受信部13は、リフレクタ9で反射したマイクロ波の反射波の位相と振幅とを、時間の経過とともに測定する。
【0038】
補正ステアリングベクトル算出部15は、リフレクタ反射波受信部13で位相と振幅とを測定したマイクロ波に基づいて、当該マイクロ波の平面波からの波形の歪みに対応した、参照点7の位置における補正ステアリングベクトルを算出する。
上述したように、形状測定装置で対象物までの距離と方位を測定するには、一般に、マイクロ波の受信波形xとステアリングベクトルa(θ)とを掛け合わせることでマイクロ波の方位θ毎のスペクトラム強度を算出する必要があるため、マイクロ波の受信波形xのみならず、ステアリングベクトルa(θ)が必要となる。
【0039】
送信アンテナ素子2から放射されたマイクロ波は、対象物8で反射し、対象物8を中心に球面状に伝搬するため、対象物8から十分離れた場所であれば、マイクロ波を平面波と見なすことができる。一方で対象物8から十分離れていない近傍界にある場合には、波面の歪みが生じるためマイクロ波を平面波と見なすことができない。そのため、対象物8の存在する位置によって、マイクロ波の歪み(及びそれに起因する誤差)の程度が異なることになる。
そして、式(5)は、受信波が平面波であると仮定して得られたステアリングベクトルa(θ)であるため、マイクロ波の波面に歪みが含まれている場合に、式(5)を用いた方位測定をしてしまうと、測定精度が劣化してしまうことになる。
【0040】
そのため、そうした測定誤差が発生しないようにするためには、対象物8が存在し得る位置を想定して、式(5)で示すステアリングベクトルを補正しておくことが望ましい。
そこで、本実施形態では、既知の距離と方位にある参照点7に、マイクロ波を反射するリフレクタ9を配置し、リフレクタ9のある参照点7(の位置)毎にマイクロ波の反射波を測定しておき、当該反射波に基づいて、参照点7(の位置)毎にマイクロ波が持つことになる歪みをステアリングベクトルa(θ)に反映した補正ステアリングベクトルa’(θ)を、補正ステアリングベクトル算出部15で算出する。
【0041】
非特許文献1には、近距離での測定により生じる波形の歪みに基づく補正ではないものの、外部環境に起因するノイズに対してステアリングベクトルを補正するものが開示されている。
そこで、本実施形態では、非特許文献1に開示されたステアリングベクトルの補正の手法を、参照点7の位置に対応する波形の歪みの補正に流用することで、式(7)に示す、波の歪みを考慮した補正ステアリングベクトルa’(θ)を算出するようにした。なお、A,…,Aは、n個の受信アンテナ素子3のそれぞれの平面波に対する振幅ずれであり、δ(θ),…,δ(θ)は、n個の受信アンテナ素子3のそれぞれの平面波に対する位相ずれである。
【0042】
【数7】
【0043】
以上説明したように、リフレクタ9を用いた測定を行うことで、補正ステアリングベクトル算出部15は、補正ステアリングベクトルa’(θ)を介して、マイクロ波の歪みに対する補正を行うことができる。
【0044】
対象物反射波受信部17は、送信アンテナ素子2からアレーアンテナ4と対向する任意の位置にある対象物8にマイクロ波を送信し、その結果、受信アンテナ素子3で受信した、対象物8で反射したマイクロ波を、当該受信アンテナ素子3から受け取る。即ち、アレーアンテナ4は、マイクロ波形状測定装置100で距離と方位(従って、形状)を測定しようとする対象となる対象物8に対して、マイクロ波を送信し、その反射波を受信する。対象物反射波受信部17は、受信アンテナ素子3から受け取ったマイクロ波を形状測定部19に出力する。
【0045】
形状測定部19は、対象物反射波受信部17から受け取った、各受信アンテナ素子3で受信したマイクロ波と、それぞれの参照点における補正ステアリングベクトルa’(θ)とに基づいて、アレーアンテナ4(例えば、アレーアンテナ4の方位方向の中心位置)から対象物8までの距離と方位とを測定する。
補正ステアリングベクトル算出部15で算出した補正ステアリングベクトルa’(θ)を用いたとしても、測定誤差が出ないようにできるのは、離散的なリフレクタ9を配置した参照点7の位置に限られるが、実際に距離と方位を測定したい対象物8が、参照点7の位置にあるとは限らないので、測定誤差が生じかねない。
【0046】
そこで、形状測定部19は、補正ステアリングベクトル算出部15で算出した補正ステアリングベクトルa’(θ)と、対象物反射波受信部17から受け取ったマイクロ波とを用い、リフレクタ9を配置した参照点7の間を補完するかのように、一定のルールに従って、任意の位置にある対象物8について、その距離と方位を測定する。
【0047】
具体的には、形状測定部19は、対象物8の距離を、式(3)を用いて測定する。次に、形状測定部19は、式(5)のステアリングベクトルa(θ)の代わりに式(7)の補正ステアリングベクトルa’(θ)を用いて、式(6)に対応する値を求め、式(6)で求めたスペクトラム強度(出力強度)P(θ)の値が最大となる方位により対象物8の位置を決定する。これにより、形状測定部19は、対象物8までの距離と対象物8が位置する方位とを測定して、得られた距離と方位とに基づいて対象物8の形状を測定することができる。
【0048】
ここで、式(7)の補正ステアリングベクトルa’(θ)は、リフレクタ9からの反射波を用いて得られたものであり、式(7)で誤差が生じないθは、リフレクタ9を配置した参照点7に対応する方位θのみである。
【0049】
そこで、他の実施形態として、補正ステアリングベクトル算出部15は、上述したように、式(7)の補正ステアリングベクトルa’(θ)をそのまま形状測定部19に出力するのではなく、対象物8に最も近いリフレクタ9を配置した参照点7の補正ステアリングベクトルa’(θ)を用いて、参照点7とした方位θからΔθだけずれた、誤差が生じる任意の方位(θ+Δθ)にある対象物8の方位(θ+Δθ)を、当該補正ステアリングベクトルa’(θ)の方位の代わりとして、式(7)に代入することで、以下の式(8)から補正ステアリングベクトルa’’(θ+Δθ)を求めるようにしてもよい。この場合、補正ステアリングベクトル算出部15は、新たに算出した補正ステアリングベクトルa’’(θ+Δθ)を形状測定部19に出力する。形状測定部19は、式(8)で求めた補正ステアリングベクトルa’’(θ+Δθ)を用いて、式(6)に基づいて、任意の方位(θ+Δθ)毎にスペクトラム強度(出力強度)P(θ)を計算することで、任意の位置に存在する対象物8について、極力誤差を出さないように方位を求めることができる。これにより、形状測定部19は、対象物8までの距離と対象物8が位置する方位とを極力誤差が生じないように測定することができ、得られた距離と方位とに基づいて対象物8の形状を一段と正確に測定することができる。
【0050】
【数8】
【0051】
次に、本発明の一実施形態に係るマイクロ波形状測定装置100の動作について説明する。図4に、本発明の実施形態におけるマイクロ波形状測定装置100の動作についてのフローチャートを示す。なお、以下では位置による波面の歪みに影響を受ける方位の測定について説明を行うが、距離についても、上記(i)に基づいて測定を行うことができる。
【0052】
(ステップS001)
本実施形態に係るマイクロ波形状測定装置100が処理を開始すると、ステップS001の処理を行う。ステップS001では、アレーアンテナ4と対向する複数の位置に参照点7を設定し、複数の参照点7のうち、いずれかの参照点7にマイクロ波を反射するリフレクタ9を配置する(リフレクタ配置ステップ)。即ち、参照点7にリフレクタ9を配置し、参照点7毎にマイクロ波の波面の歪みを補正するキャリブレーションを行うための準備を行う。
【0053】
なお、後述するステップS007でNOとなった後で、ステップS001の処理を行う場合には、それまでにリフレクタ9を配置した参照点7とは、別の参照点7を選択し、当該参照点にリフレクタ9を配置する処理を行う。
図5に、本発明の実施形態におけるマイクロ波形状測定装置100とリフレクタ9の位置関係を示す。図5に示すように、マイクロ波形状測定装置100と、リフレクタ9(三面コーナーリフレクタ)とは、それぞれ三脚上に設けられている。リフレクタ9は、予め設定された参照点7の位置に配置される。
【0054】
図6に本発明の実施形態における参照点7を説明するための図を示す。本実施形態においては、波形の歪みを校正するためにリフレクタ9を配置することになるが、配置できるリフレクタ9の数には自ら限界がある。
そのため、図6のように、アレーアンテナ4の方位方向の中心位置を基点として、アレーアンテナ4の前方方位を扇状(放射状)に分割し、さらに分割された扇を中心位置から同心円状に分割した格子点を設定し、その格子点のうちから適当な数の参照点7を設定することが考えられる。なお、参照点7の設定の仕方はこれに限定されるものではなく、配置できるリフレクタ9や許容できる測定誤差に応じて、適宜設定することができる。
【0055】
図7に本発明の実施形態におけるリフレクタ9の配置の仕方を説明するための図を示す。例えば、図7に黒丸で示す、アレーアンテナ4の方位方向の中心位置からの距離が一定となる位置に設定された参照点7だけに着目すると、ステップS001では、アレーアンテナ4の正面(アレーアンテナ4の方位方向に直交する方向)を方位0[°]として方位-45[°]から+45[°]の範囲に、Δθ[°]間隔で参照点7が設定され、各参照点7の位置に、それぞれリフレクタ9が配置される。
なお、リフレクタ9の配置の仕方はこの例に限定されるものではなく、設定された全ての参照点7にリフレクタ9を配置せず、とびとびにリフレクタ9を配置するようにしても良い。
リフレクタ9の配置が終了すれば、ステップS003に進む。
【0056】
(ステップS003)
ステップS003では、送信アンテナ素子2からリフレクタ9にマイクロ波を送信し、リフレクタ9で反射したマイクロ波を、それぞれの受信アンテナ素子3で受信する(リフレクタ反射波受信ステップ)。即ち、ステップS003では、ステップS001で対象物8の代わりに参照点7に配置されたリフレクタ9を用いて、リフレクタ9に対して形状測定のためのマイクロ波の送受信を行う。具体的には、ステップS003では、ステップS001で参照点7のうちの1点に配置したリフレクタ9に対し、マイクロ波の送受信を行う。受信アンテナ素子3a、3b、3cで受信されたマイクロ波は、リフレクタ反射波受信部13に受け取られる。
ステップS003のマイクロ波の送受信が終わると、ステップS005に進む。
【0057】
(ステップS005)
ステップS005では、ステップS003において、リフレクタ反射波受信部13に受け取られたマイクロ波に基づいて、補正ステアリングベクトル算出部15が、当該マイクロ波の平面波からの波面の歪みに対応した、参照点7における補正ステアリングベクトルa’(θ)を算出する(補正ステアリングベクトル算出ステップ)。
即ち、ステップS005では、対象物8の距離と方位を測定するのに先立って、リフレクタ9を用いた測定を行い、(リフレクタ9が配置された参照点7に限られるものの)位置毎の波面の歪みに応じた、式(7)に示す補正ステアリングベクトルa’(θ)を算出する。
【0058】
算出された補正ステアリングベクトルa’(θ)は、演算処理部10に記憶されることで、後述する形状測定(ステップS011:形状測定ステップ)において、利用することができる。
ステップS005で補正ステアリングベクトルa’(θ)が利用できるようになると、ステップS007に進む。
なお、以上に説明したステップS001~ステップS005の処理は、対象物8の代わりにリフレクタ9に対してマイクロ波を送信するように行われる処理であり、このステップS005までで、マイクロ波形状測定装置100の校正(キャリブレーション)のための事前処理が終了する。
【0059】
(ステップS007)
ステップS007では、すべての参照点7について、ステップS001~ステップS005の一連の処理が終了したかの判定を行う(全参照点補正ステアリングベクトル取得ステップ)。
ステップS007で、終了していないと判定した場合には、ステップS001に戻り、ステップS001で、それまでにリフレクタ9を配置して測定を行った参照点7とは異なる、別の参照点7にリフレクタ9を配置する。一方、ステップS007で、すべての参照点における補正ステアリングベクトルが算出されたと判定した場合には、ステップS009に進む。
【0060】
(ステップS009)
ステップS009では、アレーアンテナ4と対向する位置にある対象物8に、送信アンテナ素子2からマイクロ波を送信し、対象物8で反射したマイクロ波を、それぞれの受信アンテナ素子3で受信する(対象物反射波受信ステップ)。即ち、ステップS009では、アレーアンテナ4と対向する位置ではあるものの、どこに位置しているのか不明な対象物8に対して、マイクロ波を送信し、その反射波を受信する。それぞれのアンテナ素子3a、3b、3cで受信されたマイクロ波は、対象物反射波受信部17に受け取られる。
ステップS009のマイクロ波の送受信が終わると、ステップS011に進む。
【0061】
(ステップS011)
ステップS011では、形状測定部19が、受信アンテナ素子3で受信したマイクロ波と、補正ステアリングベクトルa’(θ)とに基づいて、アレーアンテナ4と対向する任意の位置にある対象物8までの距離と方位とを測定し、測定された距離と方位とに基づいて対象物8の形状を測定する(形状測定ステップ)。即ち、ステップS011では、形状測定部19は、リフレクタ9が配置された参照点7でしか得られてない補正ステアリングベクトルを、任意の位置に存在する対象物8に対して適用できるように、対象物8が、どの参照点7に近いかを判断し、対象物8に近い参照点7の補正ステアリングベクトルa’(θ)を活用して、対象物8までの距離と方位とを測定する。
【0062】
例えば、ステップS011では、リフレクタ9が配置された参照点7とは限らない対象物8の位置を計測する。このとき、式(6)を用いて方位毎のスペクトラム強度(出力強度)を細かな方位間隔で求める場合には、スペクトラム強度を出力したい方位(θ+Δθ)と、式(7)で算出した補正ステアリングベクトルa’(θ)の方位θ[°]とが一致していなければ、方位を誤差なく計算することができない。
そこで、例えば、補正ステアリングベクトル算出部15は、リフレクタ9を用いて測定した方位θ[°]から、Δθ[°]だけ異なる方位θ+Δθ[°]における、(若干の誤差を許容した)補正ステアリングベクトルに相当する値を、式(8)を用いて求める。
【0063】
そして、ステップS009で受信した対象物8からの受信波形xに、式(8)に相当する補正ステアリングベクトルを掛け合わせ、それをビームフォーマ法の式(6)に適用することで、対象物8の方位を測定する。対象物8までの方位が得られれば、本実施形態に係るマイクロ波形状測定装置100の処理を終了する。
【0064】
こうして、以上に説明したステップS007~ステップS011の処理によって、すべての参照点7における受信したマイクロ波の波面の歪みの影響となる補正ステアリングベルトを算出することができる。
したがって、マイクロ波の波面の歪みの影響が少ない方位では、参照点7の数を低減することが可能となる。また、対象物8の方位が、参照点7の近傍の未知の方位であっても、当該参照点7における補正ステアリングベクトルに応じた補正を行うことができるため、対象物8の方位を高精度に測定することができるようになる。そして、上記(i)に基づいて測定することで得られた距離とともに、対象物8の形状を高精度に測定することができる。
【0065】
<第二の実施形態>
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な第二の実施形態に係るマイクロ波形状測定方法ついて詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、第一の実施形態と実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を省略する場合がある。
第二の実施形態では、第一の実施形態に比べ、ステップS001(リフレクタ配置ステップ)における処理だけが異なるため、主にステップS001に対応する部分について説明する。
【0066】
上述したように、式(7)に基づくことで、波形の歪みを考慮した補正ステアリングベクトルa’(θ)を算出することができる。
しかしながら、式(4)や式(7)から明らかなように、高い測定精度を得るためには、細かな角度間隔で受信波形xを測定して、補正ステアリングベクトルa’(θ)を算出することが必要になるため、膨大な数の参照点7(n個の参照点7)のデータの取得が必要になる。
【0067】
そのため、本発明者は、放射電磁界の理論式である式(9)から明らかなように、近傍界における波の歪みEが、アレーアンテナ4の方位方向に対する角度θに依存することから、目標精度を達成するために許容できる測定点間の間隔(キャリブレーション間隔)の最大値αmaxが、対象物8の存在する位置によって異なることを利用して、参照点7を削減することに想到した。
なお、Eは受信マイクロ波に生じる波面の歪み、Zは波動インピーダンス、Iは受信マイクロ波に応じた検出電流、lは受信アンテナ素子3の長さ、kは波数、rは素子から対象物8までの距離である。
【0068】
【数9】
【0069】
そのため、本実施形態では、ステップS001に対応する処理において、アレーアンテナ4の方位方向の中心位置と、参照点とを結ぶ直線が、アレーアンテナ4の中心位置を通り、アレーアンテナ4の方位方向に直交する方向に延びる直線となす角度が大きくなるにしたがって、単位角度当たりに設定される参照点7の数が少なくなるように設定している。
【0070】
図8に、対象物8の方位に応じたキャリブレーション間隔に対する測定誤差(計測誤差)の関係を示す。図8に示すように、同じ測定誤差(計測誤差)にしようとすれば、アレーアンテナ4の方位方向の中心位置と参照点7とを結ぶ直線と、アレーアンテナ4の方位方向の中心位置を通り、アレーアンテナ4の方位方向と直交する方向に延びる直線とがなす角度が大きくなるにしたがって、キャリブレーション間隔(即ち、リフレクタ9を配置した参照点7の設定方位間隔)を大きくとることができる。
【0071】
即ち、式(9)からして、キャリブレーションの精度を担保するための参照点7の(アンテナ素子2、3の配列方向に沿った単位角度当たりの)密度は、波面の歪みEがsinθに比例していることから、場所によらず一様である必要はない。アレーアンテナ4の方位方向の中心位置を通り、アレーアンテナ4の方位方向に直交する方向に延びる直線に対する角度が大きくなるにしたがって、参照点7の密度を小さくしても良いことが分かる。
【0072】
そのため、本実施形態では、アレーアンテナ4の方位方向に垂直な方向から大きくずれる方位角に位置する点については、参照点7を極力設定しないようにしている。
そうすることで、参照点7の総数を少なくすることができ、キャリブレーションの労力を低減することが可能となる。
【0073】
<第三の実施形態>
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な第三の実施形態に係るマイクロ波形状測定方法ついて詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、第一の実施形態と実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を省略する場合がある。
第三の実施形態では、第一の実施形態に比べ、ステップS001(リフレクタ配置ステップ)における処理だけが異なるため、主にステップS001に対応する部分について説明する。
【0074】
上述したように、式(7)に基づくことで、波形の歪みを考慮した補正ステアリングベクトルa’(θ)を算出することができる。
しかしながら、式(4)や式(7)から明らかなように、高い測定精度を得るためには、細かな角度間隔で受信波形xを測定して、補正ステアリングベクトルa’(θ)を算出することが必要になるため、膨大な数の参照点7(n個の参照点7)のデータの取得が必要になる。
【0075】
そのため、本実施形態では、ステップS001に対応する処理において、上述した式(9)からわかるように、アレーアンテナ4の方位方向の中心位置と、参照点7の距離が遠ざかるにしたがって、参照点の設定間隔を大きくとるように設定することとした。
【0076】
図9に、対象物8の距離に応じたキャリブレーション間隔に対する測定誤差(計測誤差)の関係を示す。図9に示すように、同じ測定誤差(計測誤差)にしようとすれば、アレーアンテナ4の方位方向の中心位置からの距離が遠い方が、キャリブレーション間隔(即ち、リフレクタ9を配置した参照点7の設定間隔)を大きくとることができる。
【0077】
即ち、式(9)において遠距離になるほど、距離の2乗に逆比例する項、及び、3乗に逆比例する項の影響が小さくなることで、各素子で受信する波の位相と振幅の関係は平面波を想定した場合の関係と同等にみなせるようになる。つまり、キャリブレーションの精度を担保するための参照点7の密度は、場所によらず一様である必要はなく、アレーアンテナ4の方位方向の中心位置と参照点7の位置との距離が遠ざかるにしたがって、参照点7のキャリブレーション間隔を大きく、即ち参照点7の密度を小さくしても良いことが分かる。
【0078】
そのため、本実施形態では、アレーアンテナ4の方位方向の中心位置から遠い位置については、参照点7を極力設定しないようにしている。
そうすることで、参照点7の総数を少なくすることができ、キャリブレーションの労力を低減することが可能となる。
【0079】
図10に、反射波RWを平面波と見なせる基準を示すための、アレーアンテナ4と参照点7の位置関係を示す。非特許文献2によれば、キャリブレーションとは関係なく、放射源からの信号を複数の位置で受信する場合に、各位置での受信波を同位相とみなすには、これらの位相差が波長の1/16以下であることが望ましいとされている。すなわち、アレーアンテナ4の方位方向の各位置での受信波の位相差が上記の条件を満たすとき、反射波RWを平面波とみなすことができる。
そのため、本実施形態では、アレーアンテナ4の方位方向の中心位置Cnから遠いか近いかを区別する条件として、図10に示すように、参照点7の位置及びアレーアンテナ4の方位方向の中心位置Cnの距離Rと、参照点7の位置及びアレーアンテナ4の方位方向の端部位置Edの距離R+ΔRとの差ΔRが、マイクロ波発振部1から発振されるマイクロ波の波長の1/16よりも大きくなるか否かを基準として、参照点7の設定間隔を変更する。具体的には、差ΔRがマイクロ波の波長の1/16よりも大きくなる場合、参照点7の位置とアレーアンテナ4の位置が近いと判定して、参照点7の設定間隔を小さくとる。一方、差ΔRがマイクロ波の波長の1/16以下となる場合、参照点7の位置とアレーアンテナ4の位置が遠いと判定して、参照点7の設定間隔を大きくとる。
【0080】
アレーアンテナ4の開口長(アレーアンテナ4の方位方向の一方の端部位置Edと、アレーアンテナ4の方位方向の他方の端部位置Edまでの長さ)をDとすると、対象物8からアレーアンテナ4の方位方向の中心位置Cnまでの距離が2D/λより大きいときに、対象物8からの反射波を平面波と見なせる。つまり、マイクロ波形状測定装置100から対象物8までの距離が十分遠くなると、波面の歪みの影響は小さくなる。
【0081】
上記は補正ステアリングベクトルa’(θ)の式(7)において、マイクロ波形状測定装置100から対象物8までの距離が十分遠くなると、平面波に対する振幅ずれA(θ)のうち、アレー誤差を除く近傍界における波面の歪み成分の位相ずれは0に、振幅ずれは1と見なせるようになり、波面の歪みを含まないステアリングベクトルa(θ)の式(5)に収束することを意味する。これにより、遠距離にある対象物8では、アレーアンテナ4の方位方向の変化による振幅ずれ、位相ずれの変化量が小さくなるため、キャリブレーション間隔を大きくすることが可能となり、測定量を削減することができる。
図11に、本発明の実施形態における参照点を説明するための図を示す。
【0082】
以上に説明したように、本実施形態によれば、対象物8の方位角が大きい場合や、対象物8が遠距離にある場合には、キャリブレーション間隔を大きくすることができるため、例えば、リフレクタ9を配置する参照点を、図11に示す格子点のように、距離が遠い場合や方位角が大きい場合に、図6の場合に比べて参照点7を削減することが可能となる。
【実施例0083】
まず、第1の実施例として、波面の歪みの影響が強い近傍界(近距離側)にある対象物8について、アレーアンテナ4の方位方向によってキャリブレーション点数が削減できることを示す。
実施例に用いたマイクロ波形状測定装置100では、マイクロ波発振部1で発振するマイクロ波の周波数は24[GHz](波長λ12.5[mm])、アレーアンテナ4は、各受信アンテナ素子3の間隔を0.66波長分とする32素子からなり、このときのアレーアンテナ4の開口長Dは256[mm]であった。よって、本実施例において遠方界と近傍界の境界は2D/λより10.5[m]となる。
【0084】
マイクロ波形状測定装置100から2.5[m]の距離にある参照点7に、対象物8としてリフレクタ9(三面コーナーリフレクタ)を設置し、ステップS001からステップS007までの処理を行った。その後、ステップS009では対象物8の方位方向を0[°]、40[°]の二条件に設置したリフレクタ9からの反射波を受信し、ステップS011における距離と方位の測定を行った。この結果得られたキャリブレーション間隔と方位計測誤差の関係を図12に示す。
図12に示すように、対象物8の方位が、0[°]の場合に比べて、40[°]の場合の方が、キャリブレーション間隔を広げたときに測定精度が劣化しにくい傾向があり、目標精度に対してキャリブレーション点数を削減できることが分かる。
【0085】
次に、第2の実施例として、第1の実施例と同一のマイクロ波形状測定装置100を用いて、測定対象位置の方位方向を0[°]として、遠方界と近傍界の境界10.5[m]より近距離側2.5[m]と、遠距離側15.0[m]にある対象物8について、距離によってキャリブレーション点数が削減できることを示す。
【0086】
マイクロ波形状測定装置100から参照点7までの距離が2.5[m](<10.5[m])の場合と、15.0[m](>10.5[m])の場合の二条件について、対象物8としてリフレクタ9(三面コーナーリフレクタ)を設置し、ステップS001からステップS007まで処理を行った。その後、ステップS009では対象物8の方位方向を0[°]に設置したリフレクタ9からの反射波を受信し、ステップS011における距離と方位の測定を行った。この結果得られたキャリブレーション間隔と方位計測誤差の関係を図13に示す。
【0087】
図13に示すように、対象物8の距離が2.5[m]の場合に比べて、15.0[m]の場合の方が、キャリブレーション間隔を広げたときに測定精度が劣化しにくい傾向があるので、目標精度に対してキャリブレーションにおける参照点7の数を削減できることが分かる。
【符号の説明】
【0088】
100 マイクロ波形状測定装置
1 マイクロ波発振部
2 送信アンテナ素子
3 受信アンテナ素子
4 アレーアンテナ
7 参照点
8 対象物
9 リフレクタ
10 演算処理部
13 リフレクタ反射波受信部
15 補正ステアリングベクトル算出部
17 対象物反射波受信部
19 形状測定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13