(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170416
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】半導体モジュール及び電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H01L 23/29 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
H01L23/36 A
H01L23/30 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082155
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】矢野 新也
(72)【発明者】
【氏名】沼倉 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 裕一
【テーマコード(参考)】
4M109
5F136
【Fターム(参考)】
4M109AA02
4M109EA02
4M109EB07
4M109EB12
4M109GA05
5F136BA30
5F136DA01
5F136DA27
5F136FA51
5F136FA83
(57)【要約】
【課題】半導体素子の周囲の構造が樹脂を充填しにくい構造であっても、放熱部材の周囲に充填された樹脂と放熱部材との間で剥離が発生することを抑制する。
【解決手段】半導体モジュール1は、半導体素子3と、半導体素子3に接続される第1リードフレーム5と、半導体素子3と第1リードフレーム5を接合する第1接合部材17と、半導体素子3に接続される第2リードフレーム7と、半導体素子3と第2リードフレーム7を接合する第2接合部材19と、放熱部材9と、半導体素子3の周囲と、第1リードフレーム5と第2リードフレーム7の間の領域と、第1接合部材17と、第2接合部材19とを被覆して設けられた第1封止材11と、第1封止材11の周囲と、放熱部材9の全体とを被覆して設けられた第2封止材13とを備え、第1封止材11の線膨張係数よりも第2封止材13の線膨張係数のほうが、放熱部材9の線膨張係数に近い値を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面に複数の電極を有する半導体素子と、
前記半導体素子の複数の電極のうちの第1電極に接続される第1リードフレームと、
前記半導体素子と前記第1リードフレームとを接合する第1接合部材と、
前記半導体素子の複数の電極のうちの第2電極に接続される第2リードフレームと、
前記半導体素子と前記第2リードフレームとを接合する第2接合部材と、
前記半導体素子の他方の面に配置された放熱部材と、
前記半導体素子の周囲と、前記第1リードフレームと前記第2リードフレームの間の領域と、前記第1接合部材と、前記第2接合部材とを被覆して設けられた第1封止材と、
前記第1封止材の周囲と、前記放熱部材の全体とを被覆して設けられた第2封止材と
を備え、
前記第1封止材の線膨張係数よりも前記第2封止材の線膨張係数のほうが、前記放熱部材の線膨張係数に近い値を有する半導体モジュール。
【請求項2】
前記第1封止材は、前記第2封止材よりも硬化する前の粘度が低い値を有する請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項3】
前記第1封止材は、前記第2封止材よりもガラス転移温度が高い値を有する請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項4】
前記第1封止材は、前記第2封止材よりも熱伝導率が高い値を有する請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項5】
前記第1封止材は、前記第2封止材よりも絶縁耐力が高い請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項6】
前記第2封止材は、前記第1封止材よりも防湿性能が高い請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項7】
前記放熱部材は、銅を主成分とした材料で形成されている請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項8】
前記第1接合部材と前記第2接合部材は、金属で形成されている請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項9】
前記半導体素子と前記放熱部材とを接合する第3接合部材は、前記第1接合部材と前記第2接合部材を接合するときに、溶融しない接合材である請求項8に記載の半導体モジュール。
【請求項10】
前記半導体素子と前記放熱部材とを接合する第3接合部材は、前記第1接合部材と前記第2接合部材を接合するときに、予め設定された一定の厚さを保つことのできる接合材である請求項8に記載の半導体モジュール。
【請求項11】
前記半導体素子の周囲に前記第1封止材を充填するための枠を備え、
前記枠の高さは、前記第1リードフレームと前記第1接合部材の接合面及び前記第2リードフレームと前記第2接合部材の接合面よりも高い位置にある請求項1~10のいずれか1項に記載の半導体モジュール。
【請求項12】
前記第1リードフレームは、前記第1接合部材と接合された位置の外側で前記半導体素子の反対方向に曲げられており、
前記第2リードフレームは、前記第2接合部材と接合された位置の外側で前記半導体素子の反対方向に曲げられている請求項11に記載の半導体モジュール。
【請求項13】
前記放熱部材の前記半導体素子が配置された面と反対側の面に設けられた冷却プレートと、
前記放熱部材と前記冷却プレートとを接合する第4接合部材をさらに備え、
前記第4接合部材は、前記第2封止材で被覆されている請求項1~10のいずれか1項に記載の半導体モジュール。
【請求項14】
前記第4接合部材は、金属で形成されている請求項13に記載の半導体モジュール。
【請求項15】
前記半導体素子は、ワイドバンドギャップ半導体である請求項1~10のいずれか1項に記載の半導体モジュール。
【請求項16】
請求項1~10のいずれか1項に記載の半導体モジュールを備えた電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体モジュール及び電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、横型の半導体チップを用いた半導体装置が特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された半導体装置では、半導体チップの上面に2つのバスバが接合され、下面に放熱部材が配置されていた。このように、横型の半導体チップでは、異なる電位となる2つの金属板がチップの同じ面に実装されるので、金属板の間の放電を防止するために、金属板の間や半導体チップの周囲に樹脂を充填する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上述した従来の半導体装置では、半導体チップの周囲の構造が樹脂を充填しにくい構造であるため、充填性を向上させるために粘度の低い樹脂を用いる必要があった。しかしながら、粘度の低い樹脂を用いると、一般的に線膨張係数が高くなるので、半導体チップの下面に配置された放熱部材と樹脂との間で剥離が発生してしまうという問題点があった。
【0005】
そこで、本発明は上記実情に鑑みて提案されたものであり、半導体素子の周囲の構造が樹脂を充填しにくい構造であっても、放熱部材の周囲に充填された樹脂と放熱部材との間で剥離が発生することを抑制できる半導体モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の一態様に係る半導体モジュールは、半導体素子と、半導体素子に接続される第1リードフレーム及び第2リードフレームと、放熱部材とを備える。さらに、半導体素子と第1リードフレームとを接合する第1接合部材と、半導体素子と第2リードフレームとを接合する第2接合部材と、第1封止材と、第2封止材とを備える。第1封止材は、半導体素子の周囲と、第1リードフレームと第2リードフレームの間の領域と、第1接合部材と、第2接合部材とを被覆して設けられ、第2封止材は、第1封止材の周囲と、放熱部材の全体とを被覆して設けられている。そして、第1封止材の線膨張係数よりも第2封止材の線膨張係数のほうが、放熱部材の線膨張係数に近い値を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、半導体素子の周囲の構造が樹脂を充填しにくい構造であっても、放熱部材の周囲に充填された樹脂と放熱部材との間で剥離が発生することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る半導体モジュールの構造を示す
図2のB-B線の断面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る半導体モジュールの構造を示す
図1のA-A線の断面図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る半導体モジュールの製造方法を説明するための側面図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る半導体モジュールの製造方法を説明するための上面図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る半導体モジュールの製造方法を説明するための側面図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係る半導体モジュールの製造方法を説明するための上面図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態に係る半導体モジュールの製造方法を説明するための上面図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態に係る半導体モジュールの構造を示す断面図である。
【
図9】
図9は、第3実施形態に係る半導体モジュールの構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1実施形態]
以下、本発明を適用した第1実施形態について図面を参照して説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0010】
[半導体モジュールの構造]
図1、2を参照して、本実施形態に係る半導体モジュールの構造を説明する。
図1は、本実施形態に係る半導体モジュールの構造を示す
図2のB-B線の断面図であり、
図2は、本実施形態に係る半導体モジュールの構造を示す
図1のA-A線の断面図である。半導体モジュール1は、インバータやコンバータなどの電力変換装置に使用されるパワー半導体である。
図1、2に示すように、半導体モジュール1は、半導体素子3と、第1リードフレーム5と、第2リードフレーム7と、放熱部材9と、第1封止材11と、第2封止材13と、枠15を備えている。また、半導体素子3と第1リードフレーム5との間は第1接合部材17で接合され、半導体素子3と第2リードフレーム7との間は第2接合部材19で接合され、半導体素子3と放熱部材9との間は第3接合部材21で接合されている。
【0011】
半導体素子3は、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等の電力用スイッチング半導体素子や還流ダイオード等の電力用整流半導体素子として機能する半導体チップである。半導体素子3のデバイス構造としては、いわゆる横型の半導体デバイスであり、チップ上面に異なる電位の電極を複数備えている。例えば、MOSFETの場合には、ドレイン電極とソース電極とゲート電極を備え、ダイオードの場合には、アノード電極とカソード電極を備えている。この他に、制御用のソース電極や温度検出用の電極、電流検出用の電極を備えていても良い。電極は、主にアルミニウムや銅などの金属材料で構成されているが、その表面は、はんだ接合のためにめっきでニッケルなどの金属が形成されていてもよい。本実施形態では、一例として半導体素子3がMOSFETである場合について説明する。
【0012】
また、半導体素子3の材料として、シリコン材料が一般的であるが、より高性能な半導体チップを実現するために、半導体素子3が、炭化珪素や窒化ガリウムなどのワイドバンドギャップ半導体であってもよい。
【0013】
第1リードフレーム5はドレイン電極に接続された金属板の配線であり、第2リードフレーム7はソース電極に接続された金属板の配線である。金属材料としては、銅やアルミニウム、銅のクラッド材料などが使用される。第1リードフレーム5は第1接合部材17で半導体素子3に接合され、第2リードフレーム7は第2接合部材19で半導体素子3に接合されている。第1接合部材17と第2接合部材19は、はんだや焼結銀などの金属で形成されている。また、第1リードフレーム5と第2リードフレーム7には、枠15を通すための凹部25、27がそれぞれ設けられている。
【0014】
尚、第1リードフレーム5及び第2リードフレーム7と半導体素子3との間に応力緩和用の銅や銅モリブデンなどで構成される金属板材料を設け、その上下をはんだや焼結銀で接合するという構成としてもよい。第1リードフレーム5と第2リードフレーム7は、はんだ接合のために、表面にニッケルなどのめっきが行われていてもよい。さらに、はんだが広がりすぎないようにレジストを設けたり、はんだの厚みを調整するための穴を開けたり、樹脂を充填しやすくするための穴を開けるなどの加工が行われていてもよい。
【0015】
放熱部材9は、銅を主成分とした熱伝導率が高い金属材料で形成された金属板である。放熱部材9は、半導体素子3の下面に配置され、半導体素子3で発生した熱を図示していない冷却器に放熱する機能を有する。ただし、銅の他にもアルミニウム、銅モリブデンなどの熱伝導率の高い金属材料で形成されていてもよい。放熱部材9は、第3接合部材21で半導体素子3と接合されている。第3接合部材21は、はんだや焼結銀などの金属で形成されている。
【0016】
尚、半導体素子3が縦型の半導体素子である場合には、放熱部材9として、例えばセラミック基板のような絶縁機能を有する材料を用いる必要がある。しかし、本実施形態では半導体素子3が横型の半導体素子を採用しているので、放熱部材9に絶縁機能を有する材料を用いる必要がなく、高い放熱性能を実現することができる。特に、放熱部材9の放熱効果を高めるために、1mm以上の厚い材料を用いることによって、より放熱性能を向上させることができる。本実施形態では、一例として放熱部材9に銅を用いた場合について説明する。
【0017】
第1封止材11は、半導体素子3の周囲に充填された樹脂であり、具体的に、第1封止材11は、半導体素子3の周囲と、第1リードフレーム5と第2リードフレーム7の間の領域と、第1接合部材17と、第2接合部材19とを被覆して設けられている。第1封止材11が充填される範囲は、枠15によって限定され、放熱部材9の上面よりも狭い範囲に充填され、放熱部材9の全体が被覆されるわけではない。ただし、トランスファ成形などを利用することによって、枠15を用いずに第1封止材11で封止するようにしてもよい。
【0018】
第1封止材11は、例えば樹脂のポッティング材料が使用され、主にエポキシ樹脂、セラミックスフィラー、難燃剤などの添加剤で構成されている。本実施形態では、半導体素子3が横型であるため、リードフレームの間の領域が狭く、封止材が充填されにくい構造となっている。そこで、第1封止材11は、第2封止材13よりも硬化する前の粘度が低い値を有し、充填しやすい樹脂である必要がある。
【0019】
ここで、一般的な樹脂の特性として、セラミックスフィラーの添加量に応じて、粘度や線膨張係数は変化し、セラミックスフィラーの添加量を少なくすると、粘度が低く、線膨張係数が高くなる。そこで、第1封止材11は、粘度が低くなるように、セラミックスフィラーの添加量を調整すればよい。
【0020】
しかし、粘度が低くなるように、セラミックスフィラーの添加量を調整すると、線膨張係数が高くなるので、第1封止材11だけで半導体モジュール1全体を封止すると、線膨張係数の低い放熱部材9の周囲では第1封止材11が剥離しやすくなってしまう。そこで、本実施形態では、線膨張係数の低い第2封止材13を別に用意し、この第2封止材13で放熱部材9の周囲を封止することによって、そのような剥離を抑制している。
【0021】
第2封止材13は、第1封止材11で封止された領域の外側に充填された樹脂であり、具体的に、第2封止材13は、第1封止材11の周囲と、放熱部材9の全体を被覆して設けられている。また、第2封止材13は、半導体素子3の周囲と、放熱部材9の全体だけでなく、第1及び第2リードフレーム5、7の上面も被覆して、半導体モジュール1の全体を被覆している。
図1では、放熱部材9の上面と側面が第2封止材13で被覆されているが、放熱部材9の下面も第2封止材13で被覆してもよい。
【0022】
第2封止材13は、例えば樹脂のポッティング材料が使用され、主にエポキシ樹脂、セラミックスフィラー、難燃剤などの添加剤で構成されている。セラミックスフィラーの添加量が多くなるように調整することによって、第2封止材13は、硬化する前の粘度が高くなるものの、第1封止材11よりも線膨張係数が低くなり、放熱部材9の材料である銅の線膨張係数に近い値となる。ただし、第2封止材13の粘度が高くても、枠15の外側の領域は複雑な構造ではないため、第2封止材13を充填することは可能である。
【0023】
このように調整した結果、本実施形態では、第1封止材11の線膨張係数よりも第2封止材13の線膨張係数のほうが、放熱部材9の線膨張係数に近い値を有している。これにより、放熱部材9の周囲では、第2封止材13によって剥離の発生を抑制することができ、半導体素子3の周囲では、樹脂を充填しにくい構造であっても、第1封止材11によって充填性を向上させることができる。
【0024】
具体的に、第2封止材13の線膨張係数を、放熱部材9の線膨張係数の所定範囲内の値にすることによって、放熱部材9の周囲で発生する剥離を抑制することができる。この所定範囲は、剥離を抑制できる範囲に設定すればよい。また、第1封止材11の粘度を、第2封止材13の粘度よりも低い所定値以下にすることによって、半導体素子3の周囲の構造が樹脂を充填しにくい構造であっても、第1封止材11を充填することができる。この所定値は、十分な充填性を実現できる粘度に設定すればよい。
【0025】
尚、第1封止材11は、半導体素子3の周辺を封止するため、半導体素子3の発熱の影響を受けることになる。そこで、より放熱性能を向上させる必要があるので、第1封止材11は、第2封止材13よりも熱伝導率が高い値を有することが望ましい。
【0026】
また、第1封止材11のほうが高温になるため、ガラス転移温度が高い材料を用いることによって、特性が変動してしまうことを予防できる。したがって、第1封止材11は、第2封止材13よりもガラス転移温度が高い値を有することが望ましい。
【0027】
さらに、第2封止材13に湿気を通しにくい防湿性能が高い樹脂を採用することによって、第1封止材11に防湿性能が低い樹脂を採用しても湿気の流入を防止することが可能となる。したがって、第2封止材13は、第1封止材11よりも防湿性能が高いことが望ましい。
【0028】
また、第1封止材11は、第1及び第2リードフレーム5、7と半導体素子3の周囲を被覆するので、高電圧が印加されたときの電界強度が高くなる。そのため、第1封止材11は、より絶縁耐力の高い樹脂であることが必要である。したがって、第1封止材11は、第2封止材13よりも絶縁耐力が高いことが望ましい。
【0029】
枠15は、半導体素子3の周囲に第1封止材11を充填するために設けられており、PPS(Poly Phenylene Sulfide)樹脂などの樹脂材料で形成されている。枠15は、半導体素子3の四方を囲むように設けられた板状部材であり、放熱部材9上に設置され、放熱部材9からの高さは、第1リードフレーム5と第1接合部材17の接合面及び第2リードフレーム7と第2接合部材19の接合面よりも高い位置となる。したがって、枠15の中に第1封止材11を充填すると、半導体素子3の周囲と、第1接合部材17と、第2接合部材19と、第3接合部材21が第1封止材11によって被覆される。さらに、第1リードフレーム5と第2リードフレーム7の間の領域も、第1封止材11によって被覆される。
【0030】
[半導体モジュールの製造方法]
次に、
図3~7を参照して、本実施形態に係る半導体モジュールの製造方法を説明する。まず、
図3、4に示すように、半導体素子3と放熱部材9を第3接合部材21で接合するとともに、第1リードフレーム5と半導体素子3を第1接合部材17で接合し、第2リードフレーム7と半導体素子3を第2接合部材19で接合する。
図3は、接合した後の状態を示す側面図であり、
図4は上面図である。尚、第1リードフレーム5と第2リードフレーム7には、それぞれ凹部25、27が設けられている。
【0031】
この工程では、第1~第3接合部材17、19、21は全てはんだであり、リフローを行うことによって一括で接合する。このとき、半導体素子3の傾きを防止するために、第3接合部材21は、接合するときに、予め設定された一定の厚さを保つことのできる接合材を用いる。例えば、ニッケルボール入りのはんだを使用すればよい。また、半導体素子3の傾きを防止するために、ワイヤを用いてもよいし、放熱部材9に銅の突起を設けてもよい。
【0032】
さらに、第3接合部材21は、第1接合部材17と第2接合部材19と異なる材料を用いて、別々に接合しても良い。例えば、第3接合部材21として、第1接合部材17と第2接合部材19の接合時に溶融しない焼結銀のような接合材を用いる場合には、先に半導体素子3と放熱部材9を第3接合部材21で接合する。その後に、リフローを行って、第1及び第2リードフレーム5、7を半導体素子3と接合しても、第3接合部材21は溶融しないので、その厚さを一定に保つことができ、半導体素子3の傾きを防止することができる。また、第3接合部材21として高融点のはんだを用いた場合でも、第3接合部材21とは別に第1接合部材17と第2接合部材19をリフローすることで、第3接合部材21の厚さを一定に保つことができる。
【0033】
こうして半導体素子3に、第1及び第2リードフレーム5、7と放熱部材9が接合されると、次に枠15を設置する。まず、
図5、6に示すように、枠15の一部である枠部品50を接着剤などで放熱部材9に取り付ける。枠部品50は、半導体素子3の三方を囲むように形成された板状部材である。
図5は、枠部品50を取り付けた状態を示す側面図であり、
図6は上面図である。
【0034】
このとき、第1リードフレーム5と第2リードフレーム7にはそれぞれ凹部25、27が設けられているので、凹部25、27に嵌るように枠部品50を装着する。その後、
図7に示すように、枠15の残りの部分を構成する枠部品52を、接着剤などで放熱部材9に取り付けることで枠15が完成する。これらの工程により、第1封止材11を充填しても漏れる隙間のない枠15を作成することができる。
【0035】
次に、第1封止材11をポッティングによって枠15の中に注入する。このとき、第1封止材11は、枠15の高さまで充填される。本実施形態では、半導体素子3が横型素子であるため、第1リードフレーム5と第2リードフレーム7の間の間隔が狭く、封止材を充填しにくい構造となっている。しかし、第1封止材11の粘度を所定値以下の十分に低い値に調整しているので、枠15の中に隙間なく第1封止材11を充填することができる。これにより、第1リードフレーム5と第2リードフレーム7の間に高電圧が印加されても、放電を防止することができる。
【0036】
また、第1及び第2リードフレーム5、7に凹部25、27を設けた分だけ枠15を高くすることができる。したがって、第1封止材11により、半導体素子3の周囲だけでなく、第1リードフレーム5と第2リードフレーム7の間の領域と、第1接合部材17と、第2接合部材19を被覆することができる。
【0037】
この後、必要に応じて図示しない枠を設けて、第2封止材13をポッティングによって枠の中に注入する。その結果、第2封止材13は、第1封止材11の周囲と、放熱部材9の全体を被覆して形成され、半導体モジュール1が完成する。第2封止材13の線膨張係数は、放熱部材9の線膨張係数の所定範囲内となる近い値を有するので、剥離を抑制することができ、温度変化が起きても剥離による放電などの不良を防止することができる。
【0038】
この後、半導体モジュール1はグリースなどで冷却器に取り付けられてもよいし、接合材を用いて冷却器と接合されてもよい。尚、図示していないが、半導体素子3にゲート電極や制御用のソース電極などがある場合には、アルミワイヤで半導体モジュール1の外部の端子へ取り出されて接続されてもよい。
【0039】
[第1実施形態の効果]
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係る半導体モジュール1は、半導体素子3の周囲と、第1リードフレーム5と第2リードフレーム7の間の領域と、第1接合部材17と、第2接合部材19とを被覆して設けられた第1封止材11を備えている。そして、第1封止材11の周囲と、放熱部材9の全体とを被覆して設けられた第2封止材13を備え、第1封止材11の線膨張係数よりも第2封止材13の線膨張係数のほうが、放熱部材9の線膨張係数に近い値を有する。これにより、半導体素子3の周囲の構造が樹脂を充填しにくい構造であっても、放熱部材9の周囲で剥離が発生することを抑制することができる。
【0040】
特に、本実施形態では、放熱部材9の周囲では、第2封止材13によって剥離の発生を抑制することができ、半導体素子3の周囲が樹脂を充填しにくい構造であっても、第1封止材11によって充填性を向上させることができる。したがって、放熱性能が高くて大電流の通電が可能であるというメリットを活かしつつ、高い信頼性を有して製造歩留まりも良い半導体モジュール1を実現することができる。
【0041】
また、本実施形態に係る半導体モジュール1では、第1封止材11が、第2封止材13よりも硬化する前の粘度が低い値を有する。これにより、半導体素子3の周囲の構造が樹脂を充填しにくい構造であっても、第1封止材11を半導体素子3の周囲に充填することができる。
【0042】
さらに、本実施形態に係る半導体モジュール1では、第1封止材11が、第2封止材13よりもガラス転移温度が高い値を有する。これにより、半導体素子3の発熱の影響を受けて第1封止材11が高温になったとしても、樹脂の特性が変動してしまうことを予防できる。
【0043】
また、本実施形態に係る半導体モジュール1では、第1封止材11が、第2封止材13よりも熱伝導率が高い値を有する。これにより、半導体素子3で発生した熱を、第1封止材11を介して放熱することができ、冷却性能を向上させることができる。
【0044】
さらに、本実施形態に係る半導体モジュール1では、第1封止材11が、第2封止材13よりも絶縁耐力が高くなっている。これにより、半導体素子3と第1及び第2リードフレーム5、7に高電界が印加され、第1及び第2リードフレーム5、7の間の距離が近くても放電を抑制することができる。
【0045】
また、本実施形態に係る半導体モジュール1では、第2封止材13が、第1封止材11よりも防湿性能が高くなっている。これにより、外側に配置された第2封止材13によって湿度がモジュール内に浸入することを防止できる。
【0046】
さらに、本実施形態に係る半導体モジュール1では、放熱部材9が、銅を主成分とした材料で形成されている。これにより、放熱性能を向上させることができる。
【0047】
また、本実施形態に係る半導体モジュール1では、第1接合部材17と第2接合部材19が、金属で形成されている。これにより、接合寿命を長くすることができ、配線の抵抗やインダクタンスを低減することができる。
【0048】
さらに、本実施形態に係る半導体モジュール1では、第3接合部材21が、第1接合部材17と第2接合部材19を接合するときに、溶融しない接合材である。これにより、接合材の厚さを一定値に管理することができ、半導体素子3の傾きを抑制することができる。
【0049】
また、本実施形態に係る半導体モジュール1では、第3接合部材21が、第1接合部材17と第2接合部材19を接合するときに、予め設定された一定の厚さを保つことのできる接合材である。これにより、接合材の厚さを一定値に管理することができ、半導体素子3の傾きを抑制することができる。
【0050】
さらに、本実施形態に係る半導体モジュール1では、半導体素子3の周囲に第1封止材11を充填するための枠15を備えている。そして、枠15の高さが、第1リードフレーム5と第1接合部材17の接合面及び第2リードフレーム7と第2接合部材19の接合面よりも高い位置になっている。これにより、第1及び第2接合部材17、19を第1封止材11で被覆することができるので、接合部の寿命を長くすることができる。
【0051】
また、本実施形態に係る半導体モジュール1では、半導体素子3がワイドバンドギャップ半導体で構成されている。ワイドバンドギャップ半導体では、チップの面積が小さくなるので、半導体素子3の周囲の構造がさらに樹脂を充填しにくい構造となる。したがって、本実施形態の半導体素子3にワイドバンドギャップ半導体を用いれば、より効果的に充填性を向上させ、放熱部材9の周囲で剥離を防止することができる。
【0052】
さらに、本実施形態では、半導体モジュール1を備えた電力変換装置を構成している。これにより、放熱性能が高く、高い信頼性を有する電力変換装置を実現することができる。
【0053】
[第2実施形態]
以下、本発明を適用した第2実施形態について図面を参照して説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0054】
図8は、本実施形態に係る半導体モジュール1の構造を示す断面図である。
図8に示すように、本実施形態に係る半導体モジュール1では、第1リードフレーム5が、第1接合部材17と接合された位置の外側で半導体素子3の反対方向に曲げられていることが第1実施形態と相違している。同様に、第2リードフレーム7は、第2接合部材19と接合された位置の外側で半導体素子3の反対方向に曲げられている。すなわち、第1及び第2リードフレーム5、7は、枠15の位置で放熱部材9からの距離が大きくなるように曲げられている。
【0055】
第1実施形態では、第1リードフレーム5と第2リードフレーム7が平らな金属板であるため、枠15を高くするために、凹部25、27を設けていた。しかし、凹部25、27を設けたとしても、枠15の高さには限界がある。
【0056】
そこで、本実施形態では、第1リードフレーム5と第2リードフレーム7を、枠15の高さ方向に曲げることによって、枠15の位置で、第1及び第2リードフレーム5、7と放熱部材9との間の距離を大きくする。これにより、枠15を所望の高さまで高くすることができるので、第1及び第2リードフレーム5、7に凹部25、27を設けるための加工が不要になるだけでなく、
図8に示すように、第1封止材11で封止される領域の高さを高くできる。したがって、第1リードフレーム5と第2リードフレーム7の間の領域を、第1封止材11だけで封止することが可能となる。そして、第1封止材11の絶縁耐力を、第2封止材13よりも高くすることによって、半導体モジュール1の絶縁性能を向上させることができる。
【0057】
また、第1及び第2リードフレーム5、7と放熱部材9との間の距離を大きくできるので、第1封止材11を充填しやすくできるとともに、放電する可能性を減らすことができる。
【0058】
[第2実施形態の効果]
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係る半導体モジュール1では、第1リードフレーム5が、第1接合部材17と接合された位置の外側で半導体素子3の反対方向に曲げられている。また、第2リードフレーム7は、第2接合部材19と接合された位置の外側で半導体素子3の反対方向に曲げられている。これにより、枠15を高くすることができるので、凹部25、27を設けるための加工が不要になるだけでなく、半導体モジュール1の絶縁性能を向上させることができる。
【0059】
[第3実施形態]
以下、本発明を適用した第3実施形態について図面を参照して説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0060】
図9は、本実施形態に係る半導体モジュール1の構造を示す断面図である。
図9に示すように、本実施形態に係る半導体モジュール1では、冷却プレート60をさらに設けたことが第1実施形態と相違している。具体的に、本実施形態の半導体モジュール1では、放熱部材9の半導体素子3が配置された面と反対側の面に設けられた冷却プレート60と、放熱部材9と冷却プレート60とを接合する第4接合部材62をさらに備えている。そして、第4接合部材62は、第2封止材13で被覆されている。
【0061】
冷却プレート60は、銅やアルミニウム、またはそれらの複合材料のような熱伝導率の高い金属材料で形成され、冷却プレート60の下面側では水などの冷媒を用いて放熱するか、強制風を用いて放熱されている。あるいは、冷却プレート60の下面側に直接フィンを設けてもよい。
【0062】
第4接合部材62は、はんだや焼結銀、または銅などの金属で形成されている。はんだを用いる場合、第1及び第2リードフレーム5、7と半導体素子3を接合するリフロー時や半導体素子3と放熱部材9を接合するリフロー時に、第4接合部材62も同時にリフローで接合すればよい。焼結やペーストの銀材料、または銅材料で接合する場合には、半導体素子3と放熱部材9を接合するリフローの前に、放熱部材9と冷却プレート60を接合してもよいし、すべてのリフローが終わった後に放熱部材9と冷却プレート60を接合してもよい。
【0063】
第2封止材13は、第1封止材11の周囲と、放熱部材9の全体を被覆するとともに、冷却プレート60の上面まで被覆しているので、第4接合部材62を被覆するように形成される。これにより、第4接合部材62にかかる応力を低減することができるので、第4接合部材62の接合寿命を向上させることができる。
【0064】
[第3実施形態の効果]
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係る半導体モジュール1では、放熱部材9の半導体素子3が配置された面と反対側の面に設けられた冷却プレート60と、放熱部材9と冷却プレート60とを接合する第4接合部材62をさらに備えている。そして、第4接合部材62を、第2封止材13で被覆している。これにより、さらに放熱性能が高く、信頼性も高い半導体モジュール1を実現することができる。また、第2封止材13で第4接合部材62を被覆することで、第4接合部材62にかかる応力を低減できるので、第4接合部材62の接合寿命を向上させることができる。
【0065】
また、本実施形態に係る半導体モジュール1では、第4接合部材62が金属で形成されている。これにより、放熱性能を向上させることができる。
【0066】
なお、上述の実施形態は本発明の一例である。このため、本発明は、上述の実施形態に限定されることはなく、この実施形態以外の形態であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計などに応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0067】
1 半導体モジュール
3 半導体素子
5 第1リードフレーム
7 第2リードフレーム
9 放熱部材
11 第1封止材
13 第2封止材
15 枠
17 第1接合部材
19 第2接合部材
21 第3接合部材
25、27 凹部
50、52 枠部品
60 冷却プレート
62 第4接合部材