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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170421
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】全固体二次電池用正極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20231124BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20231124BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20231124BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/525
H01M4/131
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082165
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】柴村 竜士
(72)【発明者】
【氏名】高田 晴美
(72)【発明者】
【氏名】吉野 和宙
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050BA08
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA23
5H050EA24
5H050FA16
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】全固体二次電池において、レート特性を向上させうる手段を提供する。
【解決手段】正極活物質、固体電解質およびバインダを含有する正極活物質層を有する全固体二次電池用正極であって、前記バインダは、繊維状バインダと非繊維状バインダとを含み、前記正極活物質層の断面を走査型電子顕微鏡を用いて観察した際の観察画像における前記バインダの総面積に占める前記繊維状バインダの面積割合が、50%より大きく100%未満である、全固体二次電池用正極。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質、固体電解質およびバインダを含有する正極活物質層を有する全固体二次電池用正極であって、
前記バインダは、繊維状バインダと非繊維状バインダとを含み、
前記正極活物質層の断面を走査型電子顕微鏡を用いて観察した際の観察画像における前記バインダの総面積に占める前記繊維状バインダの面積割合が、50%より大きく100%未満である、全固体二次電池用正極。
【請求項2】
前記正極活物質は、リチウム元素およびニッケル元素を含有する複合酸化物を含む、請求項1に記載の全固体二次電池用正極。
【請求項3】
前記バインダの総面積に占める前記繊維状バインダの面積割合が、20%以上40%以下である、請求項1に記載の全固体二次電池用正極。
【請求項4】
前記バインダは、第1のバインダおよび第2のバインダを含み、
前記第1のバインダは、スチレン・ブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデン、エチルセルロースおよびアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記第2のバインダは、ポリテトラフルオロエチレン、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコールおよびポリエチレンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の全固体二次電池用正極。
【請求項5】
前記正極活物質層に含まれる全固形分の総体積に占める前記第1のバインダの体積割合が、0.2%以上1.7%未満である、請求項4に記載の全固体二次電池用正極。
【請求項6】
前記繊維状バインダに含まれる繊維の繊維長は0.2μm以上2μm以下であり、繊維径は0.01μm以上1μm以下である、請求項1に記載の全固体二次電池用正極。
【請求項7】
前記第2のバインダは、ポリテトラフルオロエチレンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項5に記載の全固体二次電池用正極。
【請求項8】
前記正極活物質層が、繊維状カーボンからなる導電助剤をさらに含有する、請求項1に記載の全固体二次電池用正極。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の全固体二次電池用正極を含む、全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池用正極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池などの非水電解質二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用二次電池と比較して極めて高い出力特性、および高いエネルギーを有することが求められている。したがって、現実的な全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウム二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0004】
ここで、現在一般に普及しているリチウム二次電池は、電解質に可燃性の有機電解液を用いている。このような液系リチウム二次電池では、液漏れ、短絡、過充電などに対する安全対策が他の電池よりも厳しく求められる。
【0005】
そこで近年、電解質に酸化物系や硫化物系の固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池に関する研究開発が盛んに行われている。固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料である。このため、全固体リチウム二次電池においては、従来の液系リチウム二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しない。また一般に、高電位・大容量の正極材料、大容量の負極材料を用いると電池の出力密度およびエネルギー密度の大幅な向上が図れる。
【0006】
ところで、一般的な全固体リチウム二次電池において、正極は正極集電体の表面に正極活物質層が配置された構成を有する。そして、正極活物質層は、正極活物質に加えて、正極活物質層中のリチウムイオン伝導性を向上させるための固体電解質と、正極活物質および固体電解質の粒子同士や、これらの粒子を正極集電体に結着させるためのバインダとを含む。
【0007】
ここで、特許文献1には、全固体二次電池の正極層(正極活物質層)に含まれる結着剤(バインダ)として、SP値が互いに異なり、非連続的に存在する非極性溶媒不溶性の第一結着剤と、連続的に存在する非極性溶媒可溶性の第二結着剤とを適用する技術が提案されている。特許文献1によれば、このような構成とすることにより、製品寿命が長い全固体二次電池を提供できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-103451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載の技術を採用したときに、十分なレート特性が得られない場合があることが判明した。
【0010】
そこで本発明は、全固体二次電池において、レート特性を向上させうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、全固体二次電池の正極において、繊維状バインダと非繊維状バインダとが特定の範囲内の割合で共存するように正極活物質層を構成することで、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち本発明の一形態は、正極活物質、固体電解質およびバインダを含有する正極活物質層を有する全固体二次電池用正極に関する。そして、前記バインダは、繊維状バインダと非繊維状バインダとを含み、前記正極活物質層の断面を走査型電子顕微鏡を用いて観察した際の観察画像における前記バインダの総面積に占める前記繊維状バインダの面積割合が、50%より大きく100%未満である点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、全固体二次電池において、レート特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態である扁平積層型の全固体リチウム二次電池の外観を表した斜視図である。
図2図2は、図1に示す2-2線に沿う断面図である。
図3図3は、分岐鎖状である繊維状バインダの一例を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一形態は、正極活物質、固体電解質およびバインダを含有する正極活物質層を有する全固体二次電池用正極であって、前記バインダは、繊維状バインダと非繊維状バインダとを含み、前記正極活物質層の断面を走査型電子顕微鏡を用いて観察した際の観察画像における前記バインダの総面積に占める前記繊維状バインダの面積割合が、50%より大きく100%未満である、全固体二次電池用正極である。本形態によれば、全固体二次電池において、レート特性を向上させることができる。
【0016】
以下、図面を参照しながら、本形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態である扁平積層型の全固体リチウム二次電池の外観を表した斜視図である。図2は、図1に示す2-2線に沿う断面図である。積層型とすることで、電池をコンパクトにかつ高容量化することができる。なお、本明細書においては、図1および図2に示す扁平積層型の双極型でない全固体リチウム二次電池(以下、単に「積層型二次電池」とも称する)を例に挙げて詳細に説明する。ただし、本形態に係る二次電池の内部における電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、非双極型(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用しうるものである。
【0018】
図1に示すように、積層型二次電池10aは、扁平矩形形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための負極集電板25、正極集電板27が引き出されている。発電要素21は、積層型二次電池10aの電池外装材(ラミネートフィルム29)によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素21は、負極集電板25および正極集電板27を外部に引き出した状態で密封されている。なお、図1に示す集電板(25、27)の取り出しは、負極集電板25と正極集電板27とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、負極集電板25と正極集電板27をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図1に示すものに制限されるものではない。
【0019】
図2に示すように、本実施形態の積層型二次電池10aの発電要素21は、充電時においては、負極集電体11’の両面にリチウム金属を含む負極活物質層13が配置された負極と、固体電解質層17と、正極集電体11”の両面にリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質層15が配置された正極とを積層した構成を有している。具体的には、1つの負極活物質層13とこれに隣接する正極活物質層15とが、固体電解質層17を介して対向するようにして、負極、固体電解質層および正極がこの順に積層されている。これにより、隣接する負極、固体電解質層、および正極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、図2に示す積層型二次電池10aは、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。
【0020】
負極集電体11’および正極集電体11”には、各電極(負極および正極)と導通される負極集電板25および正極集電板27がそれぞれ取り付けられ、ラミネートフィルム29の端部に挟まれるようにしてラミネートフィルム29の外部に導出される構造を有している。負極集電板25および正極集電板27は、それぞれ必要に応じて負極端子リードおよび正極端子リード(図示せず)を介して、各電極の負極集電体11’および正極集電体11”に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
【0021】
本形態に係る積層型二次電池10aは、図1に示すラミネートフィルム29に封止された発電要素21と、ラミネートフィルム29に封止された発電要素21が2枚の板状部材によって挟持され、さらに締結部材を用いて締結されていることが好ましい。これにより、上記板状部材および締結部材は、発電要素21をその積層方向に加圧(拘束)する加圧部材として機能する。板状部材としては、金属板や樹脂板などが挙げられる。また、締結部材としてはボルトおよびナットなどが挙げられる。ただし、加圧部材は発電要素21をその積層方向に加圧することができる部材であれば特に制限されない。加圧部材として、典型的には、板状部材のように剛性を有する材料から形成された板と上述した締結部材との組み合わせが用いられる。また、締結部材についても、ボルトおよびナットのみならず、発電要素21をその積層方向に拘束するように板状部材の端部を固定するテンションプレートなどが用いられてもよい。なお、発電要素21に印加される荷重(発電要素の積層方向における拘束圧力)の下限は、例えば0.1MPa以上であり、好ましくは1MPa以上であり、より好ましくは3MPa以上であり、さらに好ましくは5MPa以上である。発電要素の積層方向における拘束圧力の上限は、例えば100MPa以下であり、好ましくは70MPa以下であり、より好ましくは40MPa以下であり、さらに好ましくは10MPa以下である。
【0022】
以下、上述した積層型二次電池10aの主な構成要素について説明する。
【0023】
[集電体]
集電体(負極集電体11’および正極集電体11”)は、電池反応(充放電反応)の進行に伴って正極から外部負荷に向かって放出され、または電源から正極に向かって流入する電子の流路として機能する導電性の部材である。集電体を構成する材料に特に制限はないが、例えば、金属や、導電性を有する樹脂が採用されうる。
【0024】
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材などが用いられてもよい。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位、活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。
【0025】
また、後者の導電性を有する樹脂としては、導電性高分子材料や非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂が挙げられる。
【0026】
なお、集電体は、単独の材料からなる単層構造であってもよいし、あるいは、これらの材料からなる層を適宜組み合わせた積層構造であっても構わない。集電体の軽量化の観点からは、少なくとも導電性を有する樹脂からなる導電性樹脂層を含むことが好ましい。また、単電池層間のリチウムイオンの移動を遮断する観点からは、集電体の一部に金属層を設けてもよい。集電体の厚さについて特に制限はないが、一例としては10~100μmである。
【0027】
[負極活物質層]
図1および図2に示す実施形態に係る積層型二次電池10aにおいて、負極活物質層13は、負極活物質を含む。負極活物質の種類としては、特に制限されないが、炭素材料、金属酸化物および金属活物質が挙げられる。また、負極活物質として、リチウムを含有する金属を用いてもよい。このような負極活物質は、リチウムを含有する活物質であれば特に限定されず、金属リチウムのほか、リチウム含有合金が挙げられる。リチウム含有合金としては、例えば、Liと、In、Al、Si、Sn、Mg、Au、AgおよびZnの少なくとも1種との合金が挙げられる。負極活物質は、金属リチウムもしくはリチウム含有合金、ケイ素系負極活物質またはスズ系負極活物質を含むことが好ましく、金属リチウムまたはリチウム含有合金を含むことが特に好ましい。なお、負極活物質が金属リチウムまたはリチウム含有合金を用いる場合、本形態に係る二次電池は、充電過程において負極集電体上に負極活物質としてのリチウム金属を析出させる、いわゆるリチウム析出型のものでありうる。したがって、このような形態では、充電過程の進行に伴って負極活物質層の厚さは大きくなり、放電過程の進行に伴って負極活物質層の厚さは小さくなる。完全放電時には負極活物質層は存在していなくともよいが、場合によってはある程度のリチウム金属からなる負極活物質層を完全放電時において配置しておいてもよい。
【0028】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40~100質量%の範囲内であることが好ましく、50~90質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0029】
負極活物質層は、必要に応じて固体電解質をさらに含みうる。負極活物質層が固体電解質を含むことにより、負極活物質層のイオン伝導性を向上させることができる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質が挙げられる。なお、本明細書中、固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料を指し、特に、常温(25℃)におけるリチウムイオン伝導度が1×10-5S/cm以上である材料をいい、このリチウムイオン伝導度は好ましくは1×10-4S/cm以上である。ここで、イオン伝導度の値は交流インピーダンス法により測定することができる。
【0030】
固体電解質は、優れたリチウムイオン伝導性を示すとともに、充放電に伴う電極活物質の体積変化に対してより追従できるとの観点から、好ましくはS元素を含む硫化物固体電解質であり、より好ましくはLi元素、M元素およびS元素を含み、前記M元素はP、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Nb、Al、Sb、Br、ClおよびIからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有する硫化物固体電解質であり、さらに好ましくはS元素、Li元素およびP元素を含む硫化物固体電解質である。
【0031】
硫化物固体電解質は、LiPS骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよい。LiPS骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS、LiPSが挙げられる。また、Li骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LPSと称されるLi-P-S系固体電解質が挙げられる。また、硫化物固体電解質として、例えば、Li(4-x)Ge(1-x)(xは、0<x<1を満たす)で表されるLGPS等を用いてもよい。より詳細には、例えば、LPS(LiS-P)、Li11、Li3.20.96S、Li3.25Ge0.250.75、Li10GeP12、またはLiPSX(ここで、XはCl、BrもしくはIである)等が挙げられる。なお、「LiS-P」の記載は、LiSおよびPを含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質を意味し、他の記載についても同様である。中でも、硫化物固体電解質は、高イオン電導度であり、かつ低体積弾性率であるため充放電に伴う電極活物質の体積変化により追従できるとの観点から、好ましくはLPS(LiS-P)、LiPSX(ここで、XはCl、BrもしくはIである)、Li11、Li3.20.96SおよびLiPSからなる群から選択される。
【0032】
固体電解質の形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子状、薄膜状等が挙げられる。固体電解質が粒子状である場合、その平均粒子径(D50)は、特に限定されないが、40μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。一方、平均粒子径(D50)は、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
【0033】
負極活物質層における固体電解質の含有量は、例えば、1~60質量%の範囲内であることが好ましく、10~50質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0034】
負極活物質層は、上述した負極活物質および固体電解質に加えて、バインダおよび導電助剤の少なくとも1つをさらに含有していてもよい。負極活物質層の厚さは、目的とする二次電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは40~100μmである。
【0035】
[固体電解質層]
図1および図2に示す実施形態に係る積層型二次電池において、固体電解質層17は、正極活物質層と負極活物質層との間に介在し、固体電解質を(通常は主成分として)含有する。固体電解質層に含有される固体電解質の具体的な形態について特に制限はなく、負極活物質層の欄において例示した固体電解質およびその好ましい形態が同様に採用されうる。場合によっては、上述した固体電解質以外の固体電解質が併用されてもよい。
【0036】
固体電解質層における固体電解質の含有量は、固体電解質層の合計質量に対して、例えば、10~100質量%の範囲内であることが好ましく、50~100質量%の範囲内であることがより好ましく、90~100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0037】
固体電解質層は、上述した固体電解質に加えて、バインダをさらに含有していてもよい。
【0038】
固体電解質層の厚さは、目的とするリチウム二次電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10~40μmである。
【0039】
[正極活物質層]
図1および図2に示す実施形態に係る積層型二次電池において、正極活物質層15は、正極活物質に加えて、固体電解質およびバインダを必須に含有する。
【0040】
(正極活物質)
正極活物質層に含まれる正極活物質の種類としては、特に制限されないが、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、Li(Ni-Mn-Co)O等の層状岩塩型活物質、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO等のオリビン型活物質、LiFeSiO、LiMnSiO等のSi含有活物質等が挙げられる。また上記以外の酸化物活物質としては、例えば、LiTi12が挙げられる。
【0041】
なかでも、充放電反応に伴う膨張収縮が大きい正極活物質である、リチウム元素およびニッケル元素を含有する複合酸化物を正極活物質として用いることが好ましく、これにより本発明の効果がよりいっそう発揮されうる。一般に、活物質層中の活物質、固体電解質および任意に含まれる導電助剤は、バインダにより、互いに接触した状態を維持されている。しかしながら、活物質の膨張収縮が大きいと、活物質からバインダが剥がれ、電子伝導パスおよび/またはリチウムイオン伝導パスから活物質が孤立しやすくなるため、活物質層の抵抗が上昇し易いという問題がある。本形態に係る積層型二次電池は、後述するように、正極活物質層において繊維状バインダと非繊維状バインダとを特定の割合で存在させる点に特徴を有するが、正極活物質に非繊維状バインダが強固に結着することで、上述したような正極活物質の孤立を効果的に防止できる。よって、膨張収縮が大きなリチウム元素およびニッケル元素を含有する複合酸化物を正極活物質として用いた場合であっても、正極活物質層の抵抗上昇を抑制することが可能となるのである。
【0042】
より好ましくはLi(Ni-Mn-Co)Oおよびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの(以下、単に「NMC複合酸化物」とも称する)が正極活物質として用いられる。NMC複合酸化物は、リチウム原子層と遷移金属(Mn、NiおよびCoが秩序正しく配置)原子層とが酸素原子層を介して交互に積み重なった層状結晶構造を持ち、遷移金属Mの1原子あたり1個のLi原子が含まれ、取り出せるLi量が、スピネル系リチウムマンガン酸化物の2倍、つまり供給能力が2倍になり、高い容量を持つことができる。NMC複合酸化物は、上述したように、遷移金属元素の一部が他の金属元素により置換されている複合酸化物も含む。その場合の他の元素としては、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Cr、Fe、B、Ga、In、Si、Mo、Y、Sn、V、Cu、Ag、Znなどが挙げられ、好ましくは、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crである。
【0043】
さらに好ましくは、一般式(1):LiNiMnCo(但し、式中、a、b、c、d、xは、0.98≦a≦1.2、0.6≦b≦0.9、0<c≦0.4、0<d≦0.4、0≦x≦0.3、b+c+d+x=1を満たす。MはTi、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crから選ばれる少なくとも1種の元素である)で表される組成をNMC複合酸化物が正極活物質として用いられる。ここで、aは、Liの原子比を表し、bは、Niの原子比を表し、cは、Mnの原子比を表し、dは、Coの原子比を表し、xは、Mの原子比を表す。なお、理論放電容量が高いという観点からは、上述したように0.6≦b≦0.9であることが好ましいが、正極活物質層と固体電解質層との密着性を向上させ、これらの間の界面抵抗の上昇を抑制するという観点からは、bが0.6≦b≦0.8を満たすことがより好ましい。このようなニッケル元素の含有量が多いNMC複合酸化物は、高容量であるとともに、充放電反応に伴う膨張収縮が大きいことから、上述した活物質層の抵抗が上昇し易いという問題が特に顕著に生じうる。よって、ニッケル元素の含有量が多いNMC複合酸化物を正極活物質として用いることで、本発明の効果がさらに発揮されうる。
【0044】
また、硫黄系正極活物質が用いられるのも好ましい実施形態の1つである。硫黄系正極活物質としては、有機硫黄化合物または無機硫黄化合物の粒子または薄膜が挙げられ、硫黄の酸化還元反応を利用して、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸蔵することができる物質であればよい。
【0045】
場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0046】
正極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。正極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、例えば、1nm~100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm~50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm~20μmの範囲内であり、特に好ましくは1~20μmの範囲内である。なお、本明細書において、平均粒径(D50)の値は、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
【0047】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、正極活物質層に含まれる全固形分100質量%に対して、50質量%を超えることが好ましく、50質量%を超えて95質量%以下の範囲内であることがより好ましく、60質量%以上90質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。また、正極活物質層における正極活物質の含有量は、正極活物質層に含まれる全固形分100体積%に対して、30質量%を超えることが好ましく、40質量%を超えて80質量%以下の範囲内であることがより好ましく、50質量%以上70質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0048】
(固体電解質)
正極活物質層に含まれる固体電解質の種類としては、特に制限されないが、硫化物固体電解質を含むことがより好ましい。硫化物固体電解質などの固体電解質の具体的な形態および好ましい形態については、上述した負極(負極活物質層)の欄において説明したものが同様に採用されうる。
【0049】
正極活物質層における固体電解質の含有量は、正極活物質層に含まれる全固形分100質量%に対して、好ましくは1質量%以上70質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上50質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以上30質量%以下である。また、正極活物質層における固体電解質の含有量は、正極活物質層に含まれる全固形分100体積%に対して、好ましくは1体積%以上50体積%以下であり、より好ましくは5体積%以上45体積%以下であり、さらに好ましくは10体積%以上30体積%以下である。正極活物質層における固体電解質の含有量が上記範囲内であれば、正極活物質層のイオン伝導性とエネルギー密度とを両立させることができる。
【0050】
(バインダ)
本形態に係る積層型二次電池において、正極活物質層は、繊維状バインダと非繊維状バインダとの2種類の形状のバインダをそれぞれ特定の割合で含むことを特徴とする。
【0051】
本明細書において、「繊維状バインダ」とは、正極活物質層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した際の観察画像において、アスペクト比が10以上であり、かつ、最小フェレー径が0.2μm以下である繊維から主に構成されるバインダを指す。なお、アスペクト比とは、最大フェレー径を最小フェレー径で除すことにより算出される。最大フェレー径とは、バインダの輪郭を平行な2本の直線で挟んだ場合における当該直線間の最大距離であり、最小フェレー径とは、バインダの輪郭を平行な2本の直線で挟んだ場合における当該直線間の最小距離である。なお、本明細書において、「層の断面」とは、当該層を積層型二次電池における積層方向に切断した際の断面(すなわち、当該層の厚さ方向に切断した際の断面)を指す。また、あるバインダが上記繊維から「主に構成される」とは、SEM観察画像における当該バインダの総面積に占める、上記繊維部分の面積割合が50%以上であることを指す。1つの繊維状バインダは、アスペクト比が10以上であり、かつ、最小フェレー径が0.2μm以下である繊維以外の部分(アスペクト比が10未満である部分または最小フェレー径が0.2μmを超える部分)を含みうる。ただし、SEM観察画像における繊維状バインダの総面積に占める、繊維以外の部分の面積割合は、50%未満であることが必須であり、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい(下限値は0%)。繊維状バインダは、1本の繊維のみから構成されるものだけでなく、2本以上の繊維が互いに連結された構成を有するものも含む。2本以上の繊維が互いに連結された構成を有するバインダの具体的な形状としては、分岐鎖状、放射状および網目状並びにこれらを組み合わせた形状が挙げられる。
【0052】
ここで、2本以上の繊維が互いに連結された構成を有するバインダにおける最大フェレー径および最小フェレー径の求め方について説明する。図3は、分岐鎖状である繊維状バインダの一例を表す模式図である。図3に示すバインダ30は、繊維X、繊維Yおよび繊維Zが互いに連結された構成を有する。各破線は、繊維の幅の中心(1/2幅)を結んだ線を表し、点A、点Bおよび点Cは、各破線の端を表す。なお、各破線の端は、繊維の端と一致する。点Dは、3本の破線の交点を表す。すなわち、図3に示されるバインダ30は、点Aから点Dまでの繊維Xと、点Bから点Dまでの繊維Yと、点Cから点Dまでの繊維Zとが、点Dにおいて結合した形状を有しているとも言える。図3に示すバインダ30における繊維Xの最大フェレー径は、点Aから点Dまでの距離として定義される。同様に、繊維Yの最大フェレー径は、点Bから点Dまでの距離であり、繊維Zの最大フェレー径は、点Cから点Dまでの距離である。また、繊維Xの最小フェレー径は点Aから点Dまでの間のバインダ(繊維)の輪郭を平行な2本の直線で挟んだ場合における当該直線間の最小距離である。繊維Yおよび繊維Zの最小フェレー径についても同様である。図3に示すバインダ30において、繊維Yおよび繊維Zは、アスペクト比が10以上であり、かつ、最小フェレー径が0.2μm以下である繊維であるが、繊維Xは、アスペクト比が10未満である。ただし、バインダ30の総面積に占める、繊維X部分の面積は50%未満であるため、図3に示されるバインダは、繊維状バインダであると言える。
【0053】
繊維状バインダに含まれる繊維の繊維長は、特に制限されないが、0.2μm以上2μm以下であることが好ましく、0.5μm以上1.5μm以下であることが好ましい。また、繊維状バインダに含まれる繊維の繊維径も、特に制限されないが、0.01μm以上1μm以下であることが好ましく、0.01μm以上0.1μm以下であることがより好ましい。繊維長および繊維径が上記範囲内であると、結着性と電子伝導パスおよび/またはリチウムイオン伝導パスの維持とのバランスが良好となるため、正極活物質層の抵抗上昇が抑制され、全固体二次電池におけるレート特性がよりいっそう向上しうる。なお、繊維状バインダの繊維長および繊維径は、後述の実施例に記載された方法により測定される。
【0054】
一方、本明細書において「非繊維状バインダ」とは、上述した「繊維状バインダ」以外のバインダを意味する。すなわち、本明細書において「非繊維状バインダ」とは、正極活物質層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した際の観察画像において、アスペクト比が10未満であるか、または、最小フェレー径が0.2μmより大きいバインダを指す。
【0055】
正極活物質層に含まれる繊維状バインダおよび非繊維状バインダの割合は、正極活物質層の断面を走査型電子顕微鏡を用いて観察することによって求められる。本形態に係る積層型二次電池においては、正極活物質層の断面を走査型電子顕微鏡を用いて観察した際の観察画像におけるバインダの総面積に占める繊維状バインダの面積割合が、50%より大きく100%未満である(換言すれば、非繊維状バインダの面積割合が、0%より大きく50%未満である)ことを特徴とする。非繊維状バインダ(例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF))は、正極活物質層に含まれる各粒子(正極活物質、固体電解質および任意に含まれる導電助剤)との接触面積が大きい。よって、結着性に優れる反面、バインダとの接触面においては電子伝導パスおよび/またはリチウムイオン伝導パスが切断されることから、非繊維状バインダの量を多くすると抵抗が上昇しやすくなる。一方、繊維状バインダ(例えば、フィブリル化したポリテトラフルオロエチレン(PTFE))は、正極活物質層に含まれる各粒子(正極活物質、固体電解質および任意に含まれる導電助剤)との接触面積が小さい。よって、結着性が低いが、電子伝導パスおよび/またはリチウムイオン伝導パスの切断を抑えられる。繊維状バインダの面積割合を50%より大きく(非繊維状バインダの面積割合が50%未満)に制御することにより、結着性と、電子伝導パスおよび/またはリチウムイオン伝導パスの維持とのバランスが良好となるため、正極活物質層の抵抗上昇が抑制され、全固体二次電池におけるレート特性が向上しうる。同様の観点から、繊維状バインダの面積割合は、60%以上80%以下であることがより好ましく、62%より大きく74%以下であることがさらに好ましい(非繊維状バインダの面積割合は、20%以上40%以下であることがより好ましく、26%以上38%未満であることがさらに好ましい)。なお、繊維状バインダの面積割合は、後述する第2のバインダ(せん断力を加えることによりフィブリル化しうるバインダ)の配合量や、第2のバインダのフィブリル化の程度を調整することにより、制御することが可能である。
【0056】
バインダの種類としては、正極活物質層において上記の形状を有しているものであれば、特に制限されないが、繊維状および非繊維状の2つの形状を所望の割合に制御することを容易とするために、2種以上のバインダを組み合わせて使用することが好ましい。すなわち、好ましい一形態によると、前記バインダは、第1のバインダおよび第2のバインダを含む。
【0057】
第1のバインダとしては、非繊維状の形状を有しうるバインダを好適に使用できる。このような非繊維状の形状を有しうるバインダの種類としては、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、エチルセルロース、アクリル樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)がより好ましい。このような結着性の高いバインダを用いることで、正極活物質の膨張収縮に対してバインダがより追従できるため、正極活物質の孤立が防止され、正極活物質層の抵抗上昇を抑制することが可能となる。第1のバインダは1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても構わない。なお、本明細書において、バインダについての化合物名の記載は、当該化合物名が示す化合物のみならず、末端または側鎖の一部が他の置換基により置換(修飾)された形態を含みうる。末端または側鎖の一部が他の置換基により置換(修飾)された形態である場合における全構成単位100モル%に占める、末端または側鎖が他の置換基により置換(修飾)された構成単位の割合は、好ましくは10モル%以下であり、より好ましくは5モル%以下である。
【0058】
第2のバインダとしては、せん断力を加えることによりフィブリル化しうるバインダを好適に使用できる。このようなフィブリル化しうるバインダの種類としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリエチレンが好ましく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)がより好ましい。このようなバインダを用いることで、結着性と各粒子同士の電子伝導パスおよび/またはリチウムイオン伝導パスの維持との両立がよりいっそう良好となるため、レート特性をさらに向上させることができる。第2のバインダは1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても構わない。なお、上述したように、上記バインダは、末端または側鎖の一部が他の置換基により置換(修飾)された形態を含みうる。
【0059】
正極活物質層に含まれる全固形分の総体積に占める前記第1のバインダの体積割合は、0.2%以上1.7%未満であることが好ましく、0.4%以上1.2%以下であることがより好ましい。前記第1のバインダの体積割合が上記範囲内であると、結着性と各粒子同士の電子伝導パスおよび/またはリチウムイオン伝導パスの維持との両立がよりいっそう良好となるため、レート特性をさらに向上させることができる。同様に、正極活物質層に含まれる全固形分の総体積に占める前記第2のバインダの体積割合は、1.7%より大きく3.2%以下であることが好ましく、2.2%以上3.0%以下であることがより好ましい。前記第2のバインダの体積割合が上記範囲内であると、結着性と各粒子同士の電子伝導パスおよび/またはリチウムイオン伝導パスの維持との両立がよりいっそう良好となるため、レート特性をさらに向上させることができる。
【0060】
(導電助剤)
正極活物質層は、必要に応じて導電助剤を含みうる。導電助剤の種類としては、特に制限されないが、全固体二次電池におけるレート特性をよりいっそう向上させる観点から、繊維状カーボンを含有することが好ましい。なお、本明細書において「繊維状カーボン」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した際の観察画像において、アスペクト比が10以上であり、かつ、最小フェレー径が0.2μm以下である導電性カーボンを指す。上述したように、導電性カーボンの電子伝導率は、1S/m以上であることが好ましく、1×10S/m以上であることがより好ましく、1×10S/m以上であることがさらに好ましく、1×10S/m以上であることがさらに好ましい。導電性カーボンの電子伝導率の上限値は特に制限されないが、通常1×10S/m以下である。
【0061】
繊維状カーボンの種類としては、上記の形状を有しているものであれば、特に制限されないが、カーボンファイバー(カーボンナノファイバー)、グラフェン、カーボンナノチューブ(単層カーボンナノチューブおよび多層カーボンナノチューブ)が挙げられる。中でも、カーボンファイバー(カーボンナノファイバー)が好ましい。繊維状カーボンは1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても構わない。
【0062】
正極活物質層に含まれる導電助剤の全量100質量%に占める繊維状カーボンの含有量は、好ましくは50質量%より大きく、より好ましくは80%質量以上100質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以上100質量%以下であり、特に好ましくは95%以上100%以下であり、最も好ましくは100%である。
【0063】
正極活物質層の厚さは、目的とする二次電池の構成によっても異なるが、目的とするリチウム二次電池の構成によっても異なるが、たとえば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは40~100μmである。
【0064】
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板27と負極集電板25とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
【0065】
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体と集電板との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知のリチウム二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
【0066】
[電池外装材]
電池外装材としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、図1および図2に示すように発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルム29を用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。また、外部から掛かる発電要素への群圧を容易に調整することができることから、外装体はアルミニウムを含むラミネートフィルムがより好ましい。
【0067】
本形態に係る積層型二次電池は、複数の単電池層が並列に接続された構成を有することにより、高容量でサイクル耐久性に優れるものである。したがって、本形態に係る積層型二次電池は、EV、HEVの駆動用電源として好適に使用される。
【0068】
以上、本発明の二次電池の一実施形態を説明したが、本発明は上述した実施形態において説明した構成のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【実施例0069】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、以下において、グローブボックス内で用いた器具および装置等は、事前に十分に乾燥処理を行った。
【0070】
<評価用セルの作製例>
[比較例1]
(正極活物質層の作製)
正極活物質層の構成材料として、正極活物質としてのNMC複合酸化物(LiNi0.8Mn0.1Co0.1、平均粒子径(D50):1μm)と、固体電解質としてのアルジロダイト型硫化物固体電解質(LiPSCl、平均粒子径(D50):0.2μm)と、導電助剤としてのカーボンナノファイバー(CNF)(昭和電工株式会社製、VGCF(登録商標)、アスペクト比:60、平均繊維径:約150nm、平均繊維長:約9μm)と、バインダとしてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE、フィブリル化しうるバインダ)とを準備した。露点-68℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、正極活物質、固体電解質、導電助剤およびPTFEを、61.2:31.5:3.9:3.4の体積比となるように秤量し、メノウ乳鉢で混練した。バインダがフィブリル化したことを確認した後、得られた粉体組成物(正極活物質層形成用混合物)をロールプレス機にセットされた粉体投入口に供給した。そして、ロールプレス機(条件については以下に示す)を用いて当該粉体組成物に対して圧延処理を施すことにより当該粉体組成物をシート状に成形した。得られたシートを2つに折り畳み、再度、ロールプレス機(条件については以下に示す)を用いて当該折り畳んだシートに対して圧延処理を施した(折り畳み圧延処理)。この折り畳み圧延処理を3回繰り返すことで得られたシートを、直径19mmのサイズの円形に打ち抜き、厚さ100μmの正極活物質層を得た。なお、折り畳み圧延処理において、シートを2つに折り畳む際の方向および折り畳んだシートに対して圧延処理を施す方向はランダムとした。
【0071】
(ロールプレス機の条件)
・ロールサイズ:250mmφ×400mm
・ロール回転速度:1m/分
・ロールの間隔(ギャップ):100μm
・圧力:10kN(線圧:25kN/m)。
【0072】
(固体電解質層の作製)
露点-68℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、固体電解質としてのアルジロダイト型硫化物固体電解質(LiPSCl)95質量部と、バインダ溶液(バインダとしてのスチレン-ブタジエンゴム(SBR)5質量部が、溶媒としてのメシチレンに溶解したもの)とを混合し、固体電解質スラリーを調製した。得られた固体電解質スラリーを、支持体としてのステンレス箔の表面にアプリケーターを用いて塗工し、乾燥させた後、直径25mmのサイズの円形に打ち抜き、厚さ40μmの固体電解質層を得た。
【0073】
(評価用セルの作製)
正極集電体としてのアルミニウム箔(直径19mmの円形)の上に、上記で作製した正極活物質層を重ねた。そして、正極活物質層の上に、上記で作製したステンレス箔表面に形成された固体電解質層を、固体電解質層の露出面が正極活物質層と向き合うように重ね、冷間等方圧プレス(CIP)により正極活物質層の上に固体電解質層を転写した。固体電解質層に隣接したステンレス箔を剥離した後、転写した固体電解質層の上に、負極集電体としてのステンレス箔を重ね、冷間等方圧プレス(CIP)により加圧し、評価用セル(リチウム析出型の全固体リチウム二次電池)を得た。
【0074】
[実施例1]
上記「(正極活物質層の作製)」において、正極活物質層の構成材料として、正極活物質としてのNMC複合酸化物(LiNi0.8Mn0.1Co0.1、平均粒子径(D50):1μm)と、固体電解質としてのアルジロダイト型硫化物固体電解質(LiPSCl、平均粒子径(D50):0.2μm)と、導電助剤としてのカーボンナノファイバー(CNF)(昭和電工株式会社製、VGCF(登録商標)、アスペクト比:60、平均繊維径:約150nm、平均繊維長:約9μm)と、バインダとしてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE、フィブリル化しうるバインダ)およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを準備した。露点-68℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、正極活物質、固体電解質、導電助剤、PTFEおよびPVDFを、61.2:31.5:3.9:3.2:0.2の体積比となるように秤量し、PTFEがフィブリル化するまでメノウ乳鉢で混練した。これ以外は、比較例1と同様の手法で、本実施例の評価用セルを作製した。
【0075】
[実施例2]
上記「(正極活物質層の作製)」において、露点-68℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、正極活物質、固体電解質、導電助剤、PTFEおよびPVDFを、61.2:31.5:3.9:2.8:0.6の体積比となるように秤量し、PTFEがフィブリル化するまでメノウ乳鉢で混練した。これ以外は、実施例1と同様の手法で、本実施例の評価用セルを作製した。
【0076】
[実施例3]
上記「(正極活物質層の作製)」において、露点-68℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、正極活物質、固体電解質、導電助剤、PTFEおよびPVDFを、61.2:31.5:3.9:2.3:1.1の体積比となるように秤量し、PTFEがフィブリル化するまでメノウ乳鉢で混練した。これ以外は、実施例1と同様の手法で、本実施例の評価用セルを作製した。
【0077】
[実施例4]
上記「(正極活物質層の作製)」において、露点-68℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、正極活物質、固体電解質、導電助剤、PTFEおよびPVDFを、61.2:31.5:3.9:2.2:1.2の体積比となるように秤量し、PTFEがフィブリル化するまでメノウ乳鉢で混練した。これ以外は、実施例1と同様の手法で、本実施例の評価用セルを作製した。
【0078】
[実施例5]
上記「(正極活物質層の作製)」において、露点-68℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、正極活物質、固体電解質、導電助剤、PTFEおよびPVDFを、61.2:31.5:3.9:1.9:1.5の体積比となるように秤量し、PTFEがフィブリル化するまでメノウ乳鉢で混練した。これ以外は、実施例1と同様の手法で、本実施例の評価用セルを作製した。
【0079】
[比較例2]
上記「(正極活物質層の作製)」において、露点-68℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、正極活物質、固体電解質、導電助剤、PTFEおよびPVDFを、61.2:31.5:3.9:1.7:1.7の体積比となるように秤量し、PTFEがフィブリル化するまでメノウ乳鉢で混練した。これ以外は、実施例1と同様の手法で、本比較例の評価用セルを作製した。
【0080】
[比較例3]
上記「(正極活物質層の作製)」において、露点-68℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、正極活物質、固体電解質、導電助剤、PTFEおよびPVDFを、61.2:31.5:3.9:0.9:2.5の体積比となるように秤量し、PTFEがフィブリル化するまでメノウ乳鉢で混練した。これ以外は、実施例1と同様の手法で、本比較例の評価用セルを作製した。
【0081】
[比較例4]
上記「(正極活物質層の作製)」において、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、フィブリル化しうるバインダ)に代えて、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)をバインダとして用いたこと以外は、比較例1と同様の手法で、本比較例の評価用セルを作製した。
【0082】
[比較例5~8]
上記「(正極活物質層の作製)」において、カーボンナノファイバー(CNF)に代えて、カーボンブラック(CB)(TIMCAL製、SC65、BET比表面積62m/g)を導電助剤として用いたこと以外は、それぞれ比較例1~4と同様の手法で、比較例5~8の評価用セルを作製した。
【0083】
[実施例6~10]
上記「(正極活物質層の作製)」において、カーボンナノファイバー(CNF)に代えて、カーボンブラック(CB)(TIMCAL製、SC65、BET比表面積62m/g)を導電助剤として用いたこと以外は、それぞれ実施例1~5と同様の手法で、実施例6~10の評価用セルを作製した。
【0084】
<繊維状バインダの面積割合、繊維長および繊維径>
上記で作製した評価用セルから正極活物質層を取り出し、正極活物質層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。SEM画像中の各バインダについて、最大フェレー径および最小フェレー径を求めた。また、最大フェレー径を最小フェレー径で除して、アスペクト比を算出した。そして、各バインダの総面積に占める、アスペクト比が10以上であり、かつ、最小フェレー径が0.2μm以下である繊維部分の面積の割合が50%より大きいか否かを確認することにより、各バインダが繊維状バインダであるか非繊維状バインダであるかを判断した。この操作を10視野(各視野は10個以上のバインダを含む)のSEM画像について行い、観察画像におけるバインダの総面積に占める、繊維状バインダの面積割合を百分率として算出した。
【0085】
また、上記の10視野(各視野は10個以上のバインダを含む)のSEM画像において繊維状バインダと判断されたものについて、全ての繊維の繊維長および繊維径を測定し、それぞれの算術平均値を算出した。結果を下記の表1に示す。
【0086】
<急速充電特性の評価>
上記で作製した評価用セルの正極集電体および負極集電体のそれぞれに正極リードおよび負極リードを接続し、以下の充放電試験条件に従って3サイクルの充放電を行った。この際、加圧部材を用いて評価用セルの積層方向に100MPaの拘束圧力を印加しながら以下の充放電試験を行った。
【0087】
(充放電試験条件)
1)充放電条件
[電圧範囲]2.5~4.25V
[充電過程]CCCV(0.01Cカットオフ)
[放電過程]CC
[充放電レート]1C
(充放電後、それぞれ30分休止)
2)評価温度:298K(25℃)。
【0088】
評価用セルは、充放電試験機を使用して、上記評価温度に設定された恒温槽中にて、充電過程(負極集電体上へリチウム金属が析出する)では、定電流・定電圧(CCCV)モードとし、上記充放電レートにて2.5Vから4.25Vまで充電した(0.01Cカットオフ)。その後、放電過程(負極集電体上のリチウム金属が溶解する)では、定電流(CC)モードとし、上記充放電レートにて4.25Vから2.5Vまで放電した。ここで、1Cとは、その電流値で1時間充電すると、ちょうどその電池が満充電(100%充電)状態になる電流値のことである。この充放電処理をそれぞれ3サイクル行い、3サイクル目の放電容量を測定した。比較例1における3サイクル目の放電容量を1.0とした際の各実施例および比較例における3サイクル目の放電容量の相対値を算出してレート特性を評価した。結果を下記の表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
表1に示す結果から、本発明によれば、1Cでの放電容量が増加することから、全固体二次電池のレート特性を向上できることがわかる。比較例1および比較例5のレート特性が低い理由は、バインダ中の非繊維状バインダの割合が高いことから、各粒子同士の接触面積(特に、正極活物質と固体電解質との接触面積)が低下することで、正極活物質層中の抵抗が増大したためであると考えられる。比較例2~4および比較例6~8のレート特性が低い理由は、バインダ中の繊維状バインダの割合が高いことから、充放電に伴う正極活物質粒子の膨張収縮に対してバインダが十分に追随できないため、正極活物質の一部が孤立することで、正極活物質層中の抵抗が増大したためであると考えられる。
【0091】
実施例1~5の対比および実施例6~10の対比より、繊維状バインダの面積割合が20~40%の範囲では、全固体二次電池のレート特性がよりいっそう向上することが示された。これは、繊維状バインダと非繊維状バインダとの割合が適度であることから、各粒子同士の接触面積(特に、正極活物質と固体電解質との接触面積)が維持されつつも、充放電に伴う正極活物質粒子の膨張収縮に対するバインダの追従が十分になされうるためであると考えられる。実施例1~5の対比および実施例6~10の対比より、正極活物質層中の第1のバインダの体積割合が0.4%以上1.2%以下の範囲では、全固体二次電池のレート特性がよりいっそう向上することが示された。これは、非繊維状バインダによる各粒子表面の被覆状態が適度となるためであると考えられる。実施例1~5と、実施例6~10との対比より、導電助剤として繊維形状のもの(特に繊維状カーボン)を用いることにより、全固体二次電池のレート特性がよりいっそう向上することが示された。これは、正極活物質層中の電子伝導パスが良好に形成されるためであると考えられる。
【符号の説明】
【0092】
10a、100 積層型二次電池、
11’ 負極集電体、
11” 正極集電体、
13 負極活物質層、
14 正極、
15 正極活物質層、
17 固体電解質層、
19 単電池層、
21 発電要素、
25 負極集電板、
27 正極集電板、
29 ラミネートフィルム、
30 バインダ、
X、Y、Z 繊維。
図1
図2
図3