(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170423
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20231124BHJP
F02P 5/153 20060101ALI20231124BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
F02D45/00 368S
F02P5/153
F02D43/00 301N
F02D43/00 301E
F02D43/00 301B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082170
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 啓太
(72)【発明者】
【氏名】大久保 剛
【テーマコード(参考)】
3G022
3G384
【Fターム(参考)】
3G022DA01
3G022DA02
3G384AA01
3G384AA09
3G384BA09
3G384BA24
3G384BA27
3G384DA00
3G384FA29Z
3G384FA58Z
(57)【要約】
【課題】内燃機関を良好な熱効率で稼動させ得る内燃機関の制御装置を構成する。
【解決手段】往復作動するピストンと、クランクシャフトと、燃焼室の壁面のうち少なくとも前記ピストンの冠面に形成された遮熱膜と、点火プラグ8と、燃焼室の圧力を筒内圧として検知する圧力センサ9と、クランクアングルを検知可能な回転角センサ4Sと、燃焼室の燃焼を制御する燃焼制御部31とを備えている。燃焼制御部31は、クランクアングルが圧縮行程から膨張行程に亘る圧力領域にある状況において圧力センサ9で検知した実筒内圧波形と、予め記憶した参照筒内圧波形との比較により熱効率を高める方向に点火プラグ8の点火タイミングを変更する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の気筒内で往復作動するピストンと、
前記ピストンの往復作動に連係して回転するクランクシャフトと、
前記内燃機関の燃焼室のうち、少なくとも前記ピストンの冠面に形成された遮熱膜と、
前記燃焼室の混合気に点火する点火プラグと、
前記燃焼室の圧力を筒内圧として検知する圧力センサと、
前記クランクシャフトの回転角をクランクアングルとして検知可能な回転角センサと、
前記燃焼室での燃焼を制御する燃焼制御部と、を備え、
前記燃焼制御部は、前記内燃機関の稼動時に前記クランクアングルが圧縮行程から膨張行程に亘る圧力領域にある状況において前記圧力センサで検知した筒内圧を実筒内圧波形とし、当該実筒内圧波形と、予め記憶した参照筒内圧波形との比較により熱効率を高める方向に前記点火プラグの点火タイミングを変更する内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記燃焼制御部は、前記燃焼室の混合気の空燃比を設定する空燃比制御と、前記燃焼室に対する燃焼排ガスの還元比率を設定するEGR率制御との実行が可能であり、
前記燃焼制御部によって前記点火タイミングを進角側に変位させる際に、前記燃焼制御部は、前記空燃比制御による空燃比をリーン側に変化させる制御と、前記EGR率制御によるEGR率を増大させる制御との少なくとも一方を実行する請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記実筒内圧波形は、前記遮熱膜が形成された状態の前記内燃機関の稼動時に前記圧力センサが前記圧力領域において検知した筒内圧を前記クランクアングルに関連付けたデータ構造を有し、
前記参照筒内圧波形は、前記遮熱膜が形成されない状態の前記内燃機関の稼動時に前記圧力センサが前記圧力領域において検知した筒内圧を前記クランクアングルに関連付けたデータ構造を有し、
前記燃焼制御部は、前記内燃機関の稼動時に、前記圧力センサが前記圧力領域において検知した前記実筒内圧波形と、前記参照筒内圧波形との比較により燃焼の熱効率を判断する請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記燃焼制御部は、前記クランクアングルを複数に分割したタイミング毎に前記参照筒内圧波形と前記実筒内圧波形との差分を前記クランクアングルに関連付けたデータ構造となる差分波形を求め、
前記燃焼制御部は、前記差分波形のうち、圧縮上死点より進角側で且つ前記点火タイミングより遅角側の領域において前記差分波形の第1ピークが表れるように前記点火タイミングを前記圧縮上死点より進角側の領域において進角側に更に変位させる請求項3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記燃焼制御部は、前記差分波形のうち、前記圧縮上死点より遅角側に前記第1ピークと正負符号が逆になる第2ピークが表れるように前記点火タイミングを設定する請求項4に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の制御装置として、特許文献1には、予備混合圧縮着火エンジンが、燃料噴射口の近傍に金属製の放電電極部を備えており、所定負荷より低負荷側の運転領域において、電極付近にリッチ混合気が存在する際の冷却損失を抑制する構成が記載されている。
【0003】
この特許文献1に記載の制御装置では、冷却損失を抑制するため、圧縮行程の中期に燃料噴射を行うことにより燃焼室の天井からピストンの冠面から離間する混合気層を形成している。
【0004】
特許文献2には、内燃機関に熱流束センサを備え、排気行程後半から次の圧縮行程までの範囲内で熱流束を検出し、熱流束に基づき燃料量および/または燃料噴射時間と、点火時期との少なくとも一方を補正することで熱効率(この文献では燃焼効率)の向上を図る構成が記載されている。
【0005】
この特許文献2に記載の制御装置では、熱流束が所定値より大きい場合に点火時期を進角することも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-218882号公報
【特許文献2】特開平10-77886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の制御装置では、燃焼室の天井から離間する位置に混合気層を形成し、この混合気の周囲に空気やEGRガス層が断熱層として機能することにより、燃焼熱の放熱を抑制し得る構成であった。
【0008】
しかしながら特許文献1に記載の制御装置は、予備混合圧縮着火エンジンを想定したものであり、点火プラグをメインとして点火を行う内燃機関に適用することを考えても、燃焼室の構造(圧縮比等)が異なるため、断熱層が形成されず、熱効率の低下を招くことも考えられた。
【0009】
特許文献2に記載の制御装置では、燃焼室の熱流束が大きい場合に、熱流束が検出された行程中において、燃料量および/または燃料噴射時間と、点火時期との少なくとも一方を補正することで熱効率の向上を図っている。
【0010】
この特許文献2に記載の制御装置は、熱流束の大きさに基づく制御により、熱流束の変動をなくし、所定値に近付けることにより、応答性よく熱効率の向上を図るものである。しかしながら、特許文献2に記載の制御装置は、既存の内燃機関に別途熱流束センサが必要となり、汎用性の低いものであった。
【0011】
このように、特許文献1に記載の制御装置は、燃焼室内のガス層によって冷却損失を抑制するものである。また、特許文献2に記載の制御装置は、燃焼室で検知された熱流束に対応する処理を行うものである。これら特許文献1~2に記載される構成では、遮熱膜を有する内燃機関であっても、ピストン表面温度が高温度化し、消炎層が薄くなり、火炎が燃焼室の壁面に接近した場合には、ピストン表面熱流束が増加し、筒内圧の低下を招くことも考えられた。
【0012】
内燃機関の熱効率を考えると、この熱効率の低下は、燃焼の熱が冷却損失によって失われる際に発生するだけでなく、例えば、混合気の空燃比やEGR率等の条件により、点火から燃焼ガスが所定の圧力まで上昇するに要する時間が変動する場合(燃焼に伴う圧力を必要とするタイミングでピストンに作用できない場合)にも発生し、この熱効率の低下を時間損失と称している。これら、冷却損失、時間損失は、熱効率の低下の原因として説明され、内燃機関の出力低下に繋がるものであり改善が望まれる。
【0013】
このような理由から、内燃機関を良好な熱効率で稼動させ得る内燃機関の制御装置が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る内燃機関の制御装置の特徴構成は、内燃機関の気筒内で往復作動するピストンと、前記ピストンの往復作動に連係して回転するクランクシャフトと、前記内燃機関の燃焼室のうち、少なくとも前記ピストンの冠面に形成された遮熱膜と、前記燃焼室の混合気に点火する点火プラグと、前記燃焼室の圧力を筒内圧として検知する圧力センサと、前記クランクシャフトの回転角をクランクアングルとして検知可能な回転角センサと、前記燃焼室での燃焼を制御する燃焼制御部と、を備え、前記燃焼制御部は、前記内燃機関の稼動時に前記クランクアングルが圧縮行程から膨張行程に亘る圧力領域にある状況において前記圧力センサで検知した筒内圧を実筒内圧波形とし、当該実筒内圧波形と、予め記憶した参照筒内圧波形との比較により熱効率を高める方向に前記点火プラグの点火タイミングを変更する点にある。
【0015】
この特徴構成によると、参照筒内圧波形として、例えば、適正な熱効率で稼動する際に圧力センサで検知された筒内圧を予め記憶しておくことにより、クランクアングルが圧力領域にある際に、圧力センサで検知される実筒内圧波形と、参照筒内圧波形とを燃焼制御部が比較することにより、圧力領域での筒内圧の適否の判断が可能となる。
【0016】
つまり、内燃機関が適正な熱効率で稼動する状況では、ピストンが圧縮上死点より遅角側の所定のクランクアングルにおいて筒内圧が最大値に達する状態で、ピストンに効率的に力を作用させ、圧力センサで検知される筒内圧も高い値を示す。このような理由から、参照筒内圧波形と実筒内圧波形との比較から、クランクアングルと筒内圧との関係を把握することにより、例えば、比較結果による圧力差と、実筒内圧波形の圧力の最大値とに基づいて熱効率増減の把握も可能となり、燃焼ガスの圧力をピストンに効率的に伝えることが可能な点火タイミングの設定も可能となる。従って、内燃機関を良好な熱効率で稼動させ得る内燃機関の制御装置が構成された。
【0017】
上記構成に加えた構成として、前記燃焼制御部は、前記燃焼室の混合気の空燃比を設定する空燃比制御と、前記燃焼室に対する燃焼排ガスの還元比率を設定するEGR率制御との実行が可能であり、前記燃焼制御部によって前記点火タイミングを進角側に変位させる際に、前記燃焼制御部は、前記空燃比制御による空燃比をリーン側に変化させる制御と、前記EGR率制御によるEGR率を増大させる制御との少なくとも一方を実行しても良い。
【0018】
空燃比をリーン側に設定した場合と、EGR率を増大した場合との何れの場合にも燃費が向上するものの、混合気の燃焼速度が低下する。このように燃焼速度が低下した場合には、例えば、標準的な空燃比で、且つEGRを用いない混合気を燃焼させる際のタイミングで点火を行うものと比較すると、燃焼圧が最大になるタイミングが圧縮上死点を基準に遅角側に大きく変位し、時間損失に繋がる。燃焼圧がピストンに対して効率的に作用するクランクアングルは決まっており、このクランクアングルから外れた領域で燃焼圧が最大に達する場合には燃焼圧を効率的にピストンに伝えることができず、結果として熱効率を低下させる。
【0019】
このような理由から、空燃比制御の実行により空燃比をリーン側に設定する、又は、EGR率制御の実行によりEGR率を増大させ、更に、点火タイミングを進角側に変位させることにより、点火プラグによる点火に伴う火炎がピストンの冠面に達するタイミングを圧縮上死点より遅角側で圧縮上死点の近傍に設定することが可能となり、時間損失を低減し熱効率の上昇を可能にする。
【0020】
上記構成に加えた構成として、前記実筒内圧波形は、前記遮熱膜が形成された状態の前記内燃機関の稼動時に前記圧力センサが前記圧力領域において検知した筒内圧を前記クランクアングルに関連付けたデータ構造を有し、前記参照筒内圧波形は、前記遮熱膜が形成されない状態の前記内燃機関の稼動時に前記圧力センサが前記圧力領域において検知した筒内圧を前記クランクアングルに関連付けたデータ構造を有し、前記燃焼制御部は、前記内燃機関の稼動時に、前記圧力センサが前記圧力領域において検知した前記実筒内圧波形と、前記参照筒内圧波形との比較により燃焼の熱効率を判断しても良い。
【0021】
これによると、実筒内圧波形は、遮熱膜が形成された状態の内燃機関が稼動する際の筒内圧の変化を示す波形であるため、遮熱膜が形成されない状態の内燃機関が稼動する際の参照筒内圧波形と比較して筒内圧の最大値が大きくなる。従って、例えば、熱流束の発生により冷却損失を招いた場合には、実筒内圧波形の最大値が低下したことを参照筒内圧波形との比較から容易に判断でき、熱効率の低下の程度を取得することが可能となる。
【0022】
更に、実筒内圧波形と参照筒内圧波形とを比較することにより、稼動状態にある内燃機関の燃焼時において筒内圧が最大となるタイミングの適否の判断を容易に行える。このように燃焼時の筒内圧が最大となるタイミングから冷却損失や時間損失の判定が可能となり、点火タイミングの変更だけでなく、空燃比の制御やEGR率の制御により、熱効率の向上を図ることも可能にする。
【0023】
上記構成に加えた構成として、前記燃焼制御部は、前記クランクアングルを複数に分割したタイミング毎に前記参照筒内圧波形と前記実筒内圧波形との差分を前記クランクアングルに関連付けたデータ構造となる差分波形を求め、前記燃焼制御部は、前記差分波形のうち、圧縮上死点より進角側で且つ前記点火タイミングより遅角側の領域において前記差分波形の第1ピークが表れるように前記点火タイミングを前記圧縮上死点より進角側の領域において進角側に更に変位させても良い。
【0024】
例えば、実筒内圧波形と参照筒内圧波形とが、同じタイミングで混合気に点火され、点火以前の領域において実筒内圧波形と参照筒内圧波形とが同じ値となる(波形が重なる)ものを考えると、点火以前の領域において参照筒内圧波形から実筒内圧波形を減じた差分波形は概ね「0」の値を維持するように時間軸の方向に延びる直線形状となる。
【0025】
一方、燃焼制御部が、点火タイミングを圧縮上死点より進角側の領域において更に進角させた場合に、参照筒内圧波形と実筒内圧波形との差分波形の絶対値は圧縮上死点より進角側の領域において拡大し第1ピークが作り出される。このように差分波形に第1ピークが作り出されることから、点火タイミングが進角方向に変位したことを確認できる。その結果、時間損失の低減により熱効率を向上させる程度を把握することが可能となり、効率的な制御を実現できる。
【0026】
上記構成に加えた構成として、前記燃焼制御部は、前記差分波形のうち、前記圧縮上死点より遅角側に前記第1ピークと正負符号が逆になる第2ピークが表れるように前記点火タイミングを設定しても良い。
【0027】
これによると、第2ピークが圧縮上死点より遅角側に表れ、この第2ピークの値は、参照筒内圧波形のうち圧縮上死点より遅角側のピークより大きいと言える。従って、このように差分波形が表れることにより、燃焼に伴う圧力を確実にピストンに伝えることが可能であると判断でき、熱効率の向上を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図5】実筒内圧波形と参照筒内圧波形との関係を示すグラフである。
【
図6】実筒内圧波形と参照筒内圧波形との差分波形を示すグラフである。
【
図7】熱効率を高めたエンジンの行程容積の変化を示すpV線図である。
【
図8】燃焼速度が遅い状態のエンジンの行程容積の変化を示すpV線図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1に乗用車等の車両に備えられるエンジンE(内燃機関の一例)を示している。エンジンEは、エンジンブロック1に形成された複数の気筒2の夫々にピストン3を往復作動自在に収容し、これらのピストン3とクランクシャフト4とをコネクティングロッド5で連係した4サイクル型に構成されている。このエンジンEは乗用車に限らず、回転駆動力を得る駆動源全般に用いることが可能である。
【0030】
尚、エンジンEは、複数の気筒2と、複数のピストン3とを有するものであるが、エンジンEの基本的な構成を説明するため、図面には1つの気筒2と1つのピストン3を示している。また、エンジンEとして圧縮比が15以下で、点火プラグ8を用いたSI燃焼(圧縮着火を行うCI燃焼と異なる燃焼)を行うものを対象としている。
【0031】
図1に示すように、エンジンEは、エンジンブロック1の上端にシリンダヘッド6を連結している。シリンダヘッド6は、吸気バルブVaと、排気バルブVbと、インジェクタ7と、点火プラグ8と、筒内圧(燃焼室Cの圧力)を検知する公知の燃焼圧センサ9(圧力センサの一例)とを備えている。更に、シリンダヘッド6は、吸気バルブVaを開閉する吸気カムシャフト17と、排気バルブVbを開閉する排気カムシャフト18とを備えている。
【0032】
吸気バルブVaを介して燃焼室Cに空気を供給するインテークマニホールド11がシリンダヘッド6に連結している。また、排気バルブVbを介して燃焼室Cの燃焼ガスを送り出すエキゾーストマニホールド12がシリンダヘッド6に連結している。
【0033】
図1に示すように、インテークマニホールド11に流れる吸気量を制御するスロットルバルブ13がインテークマニホールド11に備えられている。燃焼排ガスを浄化する触媒コンバータ14がエキゾーストマニホールド12の排出側の端部に備えられている。
【0034】
図1に示すように、エンジンEは、エキゾーストマニホールド12に排出された燃焼排ガスの一部を、インテークマニホールド11のうちスロットルバルブ13より下流位置に戻す還元流路15を備えている。この還元流路15は、流路中に燃焼排ガスの流量を制御するEGRバルブ16を備えている。
【0035】
吸気カムシャフト17は、この吸気カムシャフト17と同軸芯で配置した吸気側弁開閉時期制御装置17Vによって吸気バルブVaで吸気時期(吸気タイミング)が設定される。排気カムシャフト18は、この排気カムシャフト18と同軸芯で配置された排気側弁開閉時期制御装置18Vで排気バルブVbの排気時期(排気タイミング)が設定される。
【0036】
図1に示すように、吸気側弁開閉時期制御装置17Vの外周のスプロケットと、排気側弁開閉時期制御装置18Vの外周のスプロケットと、クランクシャフト4の出力スプロケット4aとに亘ってタイミングチェーン19(タイミングベルトでも良い)が巻回されている。これにより、吸気側弁開閉時期制御装置17Vと排気側弁開閉時期制御装置18Vとはクランクシャフト4と同期回転し、吸気バルブVaと排気バルブVbとの開閉を可能にしている。
【0037】
吸気側弁開閉時期制御装置17Vは、吸気側タイミングモータ17VMの駆動力で外周のスプロケットと吸気カムシャフト17との相対回転位相を変更し、吸気バルブVaの吸気時期(吸気タイミング)を設定する。これと同様に、排気側弁開閉時期制御装置18Vは、排気側タイミングモータ18VMの駆動力で外周のスプロケットと排気カムシャフト18との相対回転位相を変更し、排気バルブVbの吸気時期(吸気タイミング)を設定する。
【0038】
尚、吸気側弁開閉時期制御装置17Vと排気側弁開閉時期制御装置18Vとは電動に限らず油圧によってバルブタイミングを設定するものでも良い。また、インジェクタ7は、
図1に示す筒内噴射に限定されず、ポート噴射であっても良い。
【0039】
この構成から、エンジンEは、吸気バルブVaが開放する状態でピストン3が下降する吸気行程と、ピストン3の上昇により混合気を圧縮する圧縮行程と、圧縮行程で圧縮された混合気に点火プラグ8の点火により燃焼させ、燃焼時の圧力によってピストン3を下降させる膨張行程と、膨張行程の後に排気バルブVbを開放した状態でピストン3を上昇させ燃焼室Cから燃焼ガスを排出する排出行程とが各気筒で行われる。
【0040】
このエンジンEは、
図3に示すエンジン制御装置30(制御装置の一例)を備えている。エンジン制御装置30は、燃焼行程における熱効率を高めるために、燃焼圧センサ9で検知される筒内圧に基づいて点火プラグ8による点火タイミングを制御し、スロットルバルブ13、インジェクタ7、吸気側弁開閉時期制御装置17V、等の制御による空燃比を設定し、EGRバルブ16の制御によるEGR率の設定を設定する。エンジン制御装置30による制御形態は後述する。
【0041】
〔遮熱膜〕
図1、
図2に示すように、燃焼室Cは、シリンダヘッド6の底面からピストン3の冠面に亘る部位に遮熱膜Mが形成されている。この遮熱膜Mは、耐熱温度が高く、断熱性に優れた素材を膜状に形成したものである。この遮熱膜Mが形成されることにより、燃焼時の燃焼室Cの温度を上昇させて燃費を向上させ、排気ガスに含まれるTHC(total hydrocarbon )が低減される。
【0042】
尚、遮熱膜Mは、少なくともピストン3の冠面に形成されるものであれば良いが、
図2に示すように、遮熱膜Mは、シリンダヘッド6の下面にも形成されている。
【0043】
〔センサ類〕
図1、
図2に示すように、エンジンブロック1は、ウォータジャケット内の冷却水の水温を検知する水温センサ21を備えている。スロットルバルブ13は、スロットルバルブモータ13Mの駆動により開度が設定される。
図1に示すように、EGRバルブ16は、EGRバルブモータ16Mの駆動により開度が設定される。
【0044】
図1に示すように、インテークマニホールド11のうち、スロットルバルブ13の上流側に、空気の吸気量を検知するエアフローセンサ22と、空気の温度を検知する吸気温センサ23とが備えられている。また、エキゾーストマニホールド12に、空燃比を検知するA/Fセンサ24が備えられている。
【0045】
図1に示すように、エンジンEは、吸気カムシャフト17の回転角を検知する吸気側カム角センサ17Sと、排気カムシャフト18の回転角を検知する排気側カム角センサ18Sと、クランクシャフト4の回転角を検知するクランク角センサ4S(回転角センサの一例)とを備えている。
【0046】
図3に示すエンジン制御装置30は、吸気側カム角センサ17Sとクランク角センサ4Sとの相対的な検知タイミングから吸気バルブVaのバルブタイミングを取得する。これと同様に、エンジン制御装置30は、排気側カム角センサ18Sとクランク角センサ4Sとの相対的な検知タイミングから排気バルブVbのバルブタイミングとを取得する。
【0047】
〔エンジン制御装置〕
図3に示すように、エンジン制御装置30は、ECU(Electronic Control Unit )として機能するものであり、燃焼制御部31と、燃焼解析部32と、学習部33と、データ記憶部34とを備えている。燃焼制御部31と燃焼解析部32と学習部33とは、ソフトウエアで構成されるものであるが、夫々の一部がハードウエアとの組み合わせによって構成されても良い。データ記憶部34は、不揮発性メモリのように電圧が印加されない状態でデータを記憶できるものが用いられる。
【0048】
燃焼制御部31は、熱効率を高める燃焼制御を実行する。その燃焼制御の概要を
図4のフローチャートに示している(フローチャートの説明は後述する)。この燃焼制御部31は、吸気側弁開閉時期制御装置17Vによるバルブタイミングの制御と、排気側弁開閉時期制御装置18Vによるバルブタイミングの制御と、燃焼室Cの混合気の空燃比を設定する空燃比制御、燃焼室Cに対する燃焼排ガスの還元比率を設定するEGR率制御との少なくとも1つの制御を実行する。
【0049】
特に、学習部33は、後述するようにエンジンEの燃焼を安定させるために必要な制御情報と、燃焼時に熱効率を高めるために必要な制御情報とを機械学習する。
【0050】
エンジン制御装置30は、吸気側カム角センサ17S、排気側カム角センサ18S、クランク角センサ4S、エアフローセンサ22、吸気温センサ23、A/Fセンサ24、水温センサ21、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量を検知するアクセル角センサ25、燃焼圧センサ9の夫々からの検知信号が入力する。
【0051】
このエンジン制御装置30は、インジェクタ7による燃料の噴射を制御するインジェクタ制御ユニット26、点火プラグ8の点火を制御する点火制御ユニット27、スロットルバルブモータ13M、EGRバルブモータ16M、吸気側タイミングモータ17VM、排気側タイミングモータ18VMの夫々に制御信号を出力する。
【0052】
〔制御形態〕
図4のフローチャートに示すように、エンジン制御装置30は、エンジンEの始動後において、水温センサ21で検知される冷却水の水温が設定値(例えば、82度)を越えたことを確認した後に、データ記憶部34に対して学習値として既に記憶されている燃焼パラメータを取得し、このように取得した燃焼パラメータに基づいてエンジンEを制御する(#01、#02ステップ)。
【0053】
#02ステップで設定される燃焼パラメータは、吸気バルブVaのバルブタイミング、排気バルブVbのバルブタイミング、インジェクタ7による燃料の噴射量、点火プラグ8による点火タイミング、スロットルバルブ13の開度、EGRバルブ16に設定されたEGR率、エアフローセンサ22で検知された単位時間あたりの吸気量の夫々を含む情報である。
【0054】
フローチャートには示していないが、このように燃焼パラメータの設定によりエンジンEが稼動する状況でアクセルペダルが踏み込み操作された場合には、アクセル角センサ25の検知結果に基づいてスロットルバルブ13の開度を拡大する。これと連係して、吸気側弁開閉時期制御装置17Vによる吸気タイミング、排気側弁開閉時期制御装置18Vによる排気タイミング、インジェクタ7による燃料噴射量等を制御することによりエンジンEの回転速度(クランクシャフト4の単位時間あたりの回転数)の増減が図られる。
【0055】
また、燃焼制御部31は、エンジンEが稼動する状況において、クランク角センサ4Sで検知されるクランクアングルCAに関連付けて燃焼圧センサ9で検知される筒内圧を取得し、燃焼解析部32で燃焼圧波形(
図5に示す波形)を解析することにより燃焼の安定性を判定する(#03~#05ステップ)。
【0056】
燃焼の安定性は、筒内圧の計測結果である燃焼変動率COV(IMEP標準偏差/IMEP平均値)に基づいて判定しており、この燃焼変動率COVが予め設定された閾値を超える場合には燃焼が安定していないと判断できるため(#05ステップのNo)、燃焼を安定させるため必要とする燃焼制御値を算出し、算出した燃焼制御値を学習値として出力し、学習値を記憶すると共に制御を実行する(#06~#08ステップ)。
【0057】
つまり、燃焼変動率COVは、IMEPの標準偏差をIMEPの平均値で除して求められる値であり、燃焼変動率COVが予め設定された閾値を超えた場合に燃焼が安定していないとの判断を可能にしている。
【0058】
尚、燃焼変動率COVは、Coefficient of Variationの略称であり、IMEPは、図示平均有効圧力と称されるものであり、indicated mean effective pressureの略称である。
【0059】
この燃焼を安定させる燃焼制御値は、#02ステップで既に設定されている燃焼パラメータを基準に設定される。#07ステップで設定される学習値(燃焼制御値)は、燃焼変動率COVを低減させるため点火プラグ8による点火タイミング(#02ステップで設定される初期状態では第1タイミングT1で点火が行われる)を遅角方向に変位させる変位量を含んでおり、EGRバルブ16の制御によるEGR率の低減、インジェクタ7の制御による空燃比のリッチ側への設定変更も併せて行われることもある。
【0060】
また、燃焼変動率COVが予め設定された閾値未満である場合には(#05ステップのYes)には燃焼が安定していると判断できるため、熱効率を高めるための燃焼制御値を算出し、算出した燃焼制御値を学習値として出力し、学習値を記憶すると共に制御を実行する(#09、#10、#08ステップ)。
【0061】
このように熱効率を高めるための燃焼制御値は、#02ステップで既に設定されている燃焼パラメータを基準に設定される。
【0062】
〔制御形態:#10ステップの説明〕
燃焼制御部31は、前述したように、燃焼が安定していると判断できる場合に、空燃比制御による混合気のリーン側への設定と、EGR率の増大側への設定との少なくとも一方の制御を行うと共に、点火プラグ8の点火タイミングを進角方向に変位させることで冷却損失の抑制と時間損失の低減とを行う。#02ステップで設定される初期状態では、
図5に示すように第1タイミングT1で点火プラグ8による点火が行われる。
【0063】
図5には実筒内圧波形Psと参照筒内圧波形Prとの関係を示すグラフを示し、
図6には実筒内圧波形Psと参照筒内圧波形Prとの差分波形Pdを示すグラフを示している。これらのグラフでは横軸にクランクアングルCAを取り、縦軸に筒内圧を取り、圧縮上死点をTDCとして示している。
【0064】
また、クランクアングルCAが圧縮行程から膨張行程に亘る領域(
図5、
図6において圧縮上死点TDCを基準に進角側から遅角側に亘る領域)を圧力領域と称している。
【0065】
一般に、空燃比制御による混合気のリーン側への設定と、EGR率制御によりEGR率の増大側への設定との少なくとも一方を行い点火進角することで、燃焼室Cでの混合気の燃焼速度が低下するものの、燃費は向上する。
【0066】
冷却損失を招く原因は、点火プラグ8の点火により燃焼室Cで発生する火炎がピストン3の冠面に到達し、このピストン3の冠面の熱流束が発生し、この熱流束によりピストン3の内部に熱が伝達される形態の損失として説明可能である。
【0067】
また、時間損失を招く原因として、
図5の初期実筒内圧波形Ps1の初期最大値Ps1tに示すように、燃焼に伴う筒内圧(燃焼圧)が最大値に達するタイミングが、圧縮上死点TDCから遅角側に外れる現象を挙げることが可能であり、この現象では、ピストン3に作用する力が低下し熱効率も低下する。
【0068】
尚、燃焼室Cの燃焼に伴う筒内圧が最大値に達するタイミングは、圧縮上死点TDCから10~15度程度遅角側に変位した位置にあることが理想である。このようなタイミングで筒内圧が最大値に達した場合には、ピストン3に強い力を作用させ、熱効率も高くなる。
【0069】
このような理由から、燃焼制御部31は、燃焼が安定している状況で燃焼制御を実行する場合には、空燃比制御による混合気のリーン側への設定と、EGR率の増大側への設定との少なくとも一方の制御を行う。これにより、
図5に示すように、燃焼圧センサ9で取得した筒内圧に基づく実筒内圧波形Psとして、初期実筒内圧波形Ps1が得られる。この初期実筒内圧波形Ps1では、第1タイミングT1で点火プラグ8によって混合気に点火して燃焼が開始される。
【0070】
次に、燃焼制御部31は、実筒内圧波形Psと、予め記憶した参照筒内圧波形Prとを燃焼解析部32が比較し、燃焼制御部31が、熱効率を高める方向に点火プラグ8の点火タイミングを変更する制御を実行する。
【0071】
〔制御形態:#10ステップでの具体的な制御形態〕
具体的には、実筒内圧波形Psのうち初期実筒内圧波形Ps1と、予め記憶した参照筒内圧波形Prとの差分を取り、この差分に基づいて、点火タイミングを第1タイミングT1に維持したまま、空燃比制御による混合気のリーン側への設定と、EGR率の増大側への設定との少なくとも一方の制御を行い、更に、点火プラグ8による点火タイミングを進角方向に変位させ、点火タイミングを第2タイミングT2に設定することにより
図5に示す制御実筒内圧波形Ps2を得ている。
【0072】
図5に示す参照筒内圧波形Prは、燃焼室Cの内面に遮熱膜Mが形成されていないエンジンEの稼動時に燃焼圧センサ9(圧力センサ)が圧力領域において検知した筒内圧をクランクアングルCAに関連付けたデータ構造を有している。
【0073】
図5に示す実筒内圧波形Psは、
図1、
図2に示すように燃焼室Cの壁面に遮熱膜Mが形成されたエンジンEの稼動時に燃焼圧センサ9が圧力領域において検知した筒内圧をクランクアングルCAに関連付けたデータ構造を有している。
【0074】
この実筒内圧波形Psのうち、初期実筒内圧波形Ps1は、前述したように点火タイミングを第1タイミングT1に維持したまま、空燃比制御による混合気のリーン側への設定と、EGR率の増大側への設定との少なくとも一方の制御を行った場合の波形である。
【0075】
また、実筒内圧波形Psのうち、制御実筒内圧波形Ps2は、初期実筒内圧波形Ps1の空燃比とEGR率とを維持したまま、点火タイミングを進角方向に変位させ、点火タイミングを第2タイミングT2に設定することによって得られる波形である。
【0076】
燃焼制御部31は、クランクアングルCAを複数に分割したタイミング毎に参照筒内圧波形Prと実筒内圧波形Psとの差分をクランクアングルCAに関連付けたデータ構造となる差分波形Pdを求める。
【0077】
図6には、差分波形Pdのうち、初期実筒内圧波形Ps1と参照筒内圧波形Prとの差分を第1差分波形Pd1として示し、制御実筒内圧波形Ps2と参照筒内圧波形Prとの差分を第2差分波形Pd2として示している。
【0078】
特に、
図6に示す差分は、燃焼解析部32が取得するものであり、参照筒内圧波形Prから実筒内圧波形Ps(初期実筒内圧波形Ps1、制御実筒内圧波形Ps2)を減じた値である。この実筒内圧波形Psのうち、破線で示した第1差分波形Pd1は圧縮上死点TDCより進角側(同図で左側)で差分が「0」となる領域がクランクアングルCAの方向に長く、圧縮上死点TDCから遅角側(同図で右側)で差分が減圧領域Gでマイナスの値を取り、更に遅角側で圧力が増大する。尚、差分は、実筒内圧波形Psから参照筒内圧波形Prを減じた値であっても良い。この場合、正負の符号が逆になる。
【0079】
図5に示すように、初期実筒内圧波形Ps1の波形は、燃焼圧センサ9で検知される筒内圧の初期最大値Ps1tが圧縮上死点TDCより遅角側に大きく外れた位置にある。このように筒内圧の初期最大値Ps1tが圧縮上死点TDCより遅角側に外れており、
図6に示す第1差分波形Pd1の減圧領域Gに現れている。
【0080】
燃焼解析部32の比較によって第1差分波形Pd1の減圧領域Gに現れていることが確認された場合、燃焼制御部31が、点火タイミングを更に進角側に変位させる。
【0081】
このように点火タイミングを変位する場合に燃焼制御部31は、第2差分波形Pd2のうち、圧縮上死点TDCより進角側に第1ピークPk1が表れ、圧縮上死点TDCより遅角側に、第1ピークPk1と正負符号が逆になる第2ピークPk2が表れるタイミングに点火タイミングが設定される。
【0082】
また、点火タイミングを進角側に変位させる制御は、例えば、減圧領域Gと圧縮上死点TDCとの偏差に基づく比例制御、あるいは、初期最大値Ps1tと圧縮上死点TDCとの偏差に基づく比例制御を行うことが考えられる。尚、このような比例制御の他に点火タイミングを設定量だけ進角方向に変位させる制御を複数回行うことにより、最適なタイミングとなる第2タイミングT2を決定することも考えられる。
【0083】
このような点火タイミングの設定を行う制御を行うことに得られた情報がデータ記憶部34に燃焼制御値として記憶され、この学習の後にエンジンEを稼動させた場合には、記憶された燃焼制御値に基づく燃焼制御を行うことにより、安定した状態で、熱効率の良い燃焼を可能にする。
【0084】
この#10ステップの制御では、EGR率の増加、空燃比のリーン側への設定により、燃焼室Cの混合気の燃焼速度が低下するため、点火によって発生する火炎がピストン3の上面に接触するまでの時間を延長し、結果として、冷却損失を抑制する。これと同時に、
図5に示すように、実筒内圧波形Psの制御最大圧Ps2tを、圧縮上死点TDCより遅角側の領域において圧縮上死点TDCに近付ける方向に変位させるため、時間損失を抑制しピストン3に対して最適なタイミングで燃焼圧を作用させることにより、ピストン3を強力に作用させ熱効率の向上を実現している。
【0085】
このように、エンジン制御装置30は、実筒内圧波形Psと参照筒内圧波形Prとの差分に基づいてEGR率の調整、空燃比の調整、点火タイミングの変更により、熱効率の向上を実現している。
【0086】
また、
図7には、熱効率を高める制御した(点火タイミングを第2タイミングT2に設定した)際のpV線図を示し、
図8には、熱効率を高める以前のpV線図を示している。
【0087】
図7、
図8に示すpV線図では、遮熱膜Mが形成されないエンジンEにおいて、ピストン3の作動に伴う燃焼室Cの容積変化を横軸に取り、燃焼室Cの圧力変化を縦軸に取った基準サイクルラインRを破線で示している。また、
図7には、熱効率を向上させた際の燃焼室Cの容積変化と圧力変化とを示す制御後サイクルラインQ2を実線で示している。
図8には、熱効率の向上が図られていない燃焼室Cの容積変化と圧力変化とを示す制御前サイクルラインQ1を実線で示している。
【0088】
これらのpV線図は、熱効率の向上を図る以前、及び、点火タイミングの変更により熱効率の向上が図られた後の燃焼圧センサ9とクランクアングルCAとに基づいて描いたものである。
図8に示すように、制御前サイクルラインQ1で燃焼圧が最大となる最大圧点Q1tが、基準サイクルラインRの最大圧より低下しており、冷却損失の発生が認められる。
【0089】
また、
図8では、ピストン3が圧縮上死点(同図の左の縦軸に近接する位置)に達した後に燃焼に伴う燃焼室Cの圧力上昇が開始される際の制御前サイクルラインQ1燃焼圧の上昇が、基準サイクルラインRの昇圧領域Raに重なっており(この重なりは
図8に示していない)、この昇圧領域Raが緩やかな円弧状であることから、時間損失があることが認められる。
【0090】
これに対し、
図7に示される制御後サイクルラインQ2の最大圧点Q2tは、基準サイクルラインRの最大圧と等しく冷却損失の抑制が認められる。また、ピストン3が上死点に達した後に燃焼室Cの圧力上昇が開始される際において基準サイクルラインRの昇圧領域Raと比較して、制御後サイクルラインQ2で昇圧が開始されるタイミングが上死点(
図7の縦軸に近接する位置)に変位していることから、時間損失の抑制が認められる。
【0091】
〔実施形態の作用効果〕
このように、エンジンEの燃焼室Cの燃焼圧を検知する燃焼圧センサ9を備え、予め参照筒内圧波形Prを記憶し、参照筒内圧波形Prと、燃焼圧センサ9の検知に基づく実筒内圧波形Psとの比較により熱効率を高める制御を実現している。また、このエンジンEでは、熱効率を高めた際の燃焼制御値を学習してデータ記憶部34に記憶するため、学習の後に、エンジンEを稼動させた場合には、学習した燃焼制御値に基づく制御を行うことにより熱効率の高い状態での稼動を可能にする。
【0092】
エンジン制御装置30は、混合気のリーン側への設定と、EGR率の高い側への設定との少なくとも一方を設定することにより、燃焼速度を低下させ冷却損失の低減を可能にするものの、燃焼に伴う圧力がピストン3に作用するタイミングが遅れ、時間損失に起因する熱効率の低下を招くことになる。
【0093】
これに対し、燃焼制御部31が、点火プラグ8による点火タイミングを進角方向に変位させることで、燃焼に伴う圧力を最適なタイミングでピストン3に作用させ、冷却損失の低減を維持しつつ、時間損失を抑制し、熱効率の向上を実現している。
【0094】
このような熱効率の向上を図るため、エンジン制御装置30は、燃焼解析部32において実筒内圧波形Psと、参照筒内圧波形Prとの差分を取る形態で比較することにより、圧縮上死点TDCを基準にした進角側の領域と遅角側の領域とにおける差分波形Pdのピークの位置(第1ピークPk1、第2ピークPk2)を求め、これらピークの位置に基づいて点火プラグ8の点火タイミングの変更を可能にしており、点火タイミングの設定を容易に行えるものにしている。
【0095】
このように、エンジン制御装置30は、参照筒内圧波形Prと実筒内圧波形Psとを比較するだけで、実筒内圧波形Psから冷却損失の程度の把握も容易となり、熱効率を高めるための制御も可能にしている。
【0096】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い(実施形態と同じ機能を有するものには、実施形態と共通の番号、符号を付している)。
【0097】
(a)実筒内圧波形Psの最大値と、予め記憶した参照筒内圧波形Prの最大値との比較により、例えば、実筒内圧波形Psの最大値が参照筒内圧波形Prの最大値に近い値まで低下している場合に、冷却損失が発生していると判断できる。このため、実施形態に示した差分を求める等の処理を行わずに、EGR率の制御、空燃比の制御、点火タイミングの制御を行い、熱効率を向上させるように制御形態を設定する。
【0098】
この別実施形態(a)では、実施形態のように差分を取る処理を行うものではないものの、熱効率を高めることが可能となる。
【0099】
(b)燃焼圧センサ9(圧力センサ)を、複数の気筒2の全てに備える構成に限るものでなく、例えば、単一の気筒2だけに備える等、任意の数だけを備えるものでも良い。
【0100】
(c)エンジン制御装置30は学習を行うものに代えて、単純に前回の制御パラメータを記憶し、エンジンEを始動する際に、記憶した制御パラメータに基づいてエンジンEを稼動させるものであっても良い。
【0101】
(d)エンジン制御装置30は、燃焼圧センサ9で検知される筒内圧に基づいてEGR率の調整、空燃比の調整、点火タイミングの変更を制御する形態に加えて、燃焼変動率COV(燃焼安定性)を加味した制御を実行しても良い。例えば、遮熱膜を備えないエンジンの燃焼変動率COVと同等になるまで、EGR率の調整、空燃比の調整、点火タイミングの変更を制御する。
【0102】
(e)エンジン制御装置30は、EGR率の調整、空燃比の調整、点火タイミングの変更に際し、吸気側弁開閉時期制御装置17Vや排気側弁開閉時期制御装置18Vの位相制御と組み合わせて実行する。
【0103】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、内燃機関の制御装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0105】
2 気筒
3 ピストン
4 クランクシャフト
4S クランク角センサ(回転角センサ)
6 シリンダヘッド
8 点火プラグ
9 燃焼圧センサ(圧力センサ)
31 燃焼制御部
C 燃焼室
CA クランクアングル
E エンジン(内燃機関)
M 遮熱膜
Ps 実筒内圧波形
Pr 参照筒内圧波形
Pd 差分波形
Pk1 第1ピーク
Pk2 第2ピーク