(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170426
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】溶接品質判定装置、溶接品質判定方法、及び溶接品質判定プログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 31/00 20060101AFI20231124BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20231124BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20231124BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20231124BHJP
G01N 21/88 20060101ALI20231124BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
B23K31/00 K
B23K26/00 P
B23K26/21 G
G01N21/27 B
G01N21/88 Z
B23K9/095 510Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082175
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】515086908
【氏名又は名称】株式会社トヨタプロダクションエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】椛島 治樹
【テーマコード(参考)】
2G051
2G059
4E168
【Fターム(参考)】
2G051AA37
2G051AB12
2G051CA04
2G051CB01
2G051EA12
2G051EA14
2G051EA17
2G059AA05
2G059AA10
2G059BB08
2G059EE13
2G059HH02
2G059JJ01
2G059KK01
2G059MM09
2G059MM10
4E168BA02
4E168CA03
4E168CA05
4E168CA06
4E168CB02
4E168CB22
4E168EA11
4E168KA15
(57)【要約】
【課題】 溶接の品質とは無関係の材料の色味の情報が含まれるのを抑制することで、精度良く溶接の品質を判定する。
【解決手段】 溶接品質判定装置は、溶接部及び溶接部近傍の画像を走査方向に取得する画像取得部と、画像取得部が取得した画像から、走査方向に沿って、溶接部及び溶接部近傍における所定波長の反射波の反射強度を、反射波分布として取得する反射波分布取得部と、走査方向における反射強度の移動平均値の分布を移動平均値分布として算出する移動平均値算出部と、反射波分布及び移動平均値分布に基づき、走査方向における反射強度を移動平均値で除した値の分布を表面特徴分布として取得する表面特徴抽出部と、表面特徴分布に基づき、溶接部及び溶接部近傍における溶接により付着した焼き色の幅寸法を測定する焼き色幅測定部と、焼き色の幅寸法に基づき溶接品質を判定する溶接品質判定部とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定波長の電磁波が照射された際の第1部材と第2部材との溶接における溶接部及び溶接部近傍の画像を走査方向に取得する画像取得部と、
前記画像取得部が取得した前記画像から、前記走査方向に沿って、前記溶接部及び前記溶接部近傍における所定波長の反射波の反射強度を、反射波分布として取得する反射波分布取得部と、
前記反射波分布に基づき、前記走査方向における前記反射強度の移動平均値の分布を移動平均値分布として算出する移動平均値算出部と、
前記反射波分布及び前記移動平均値分布に基づき、前記走査方向における前記反射強度を前記移動平均値で除した値の分布を表面特徴分布として取得する表面特徴抽出部と、
前記表面特徴分布に基づき、前記溶接部及び前記溶接部近傍における溶接により付着した焼き色の幅寸法を測定する焼き色幅測定部と、
前記焼き色の幅寸法に基づき前記溶接の品質を判定する溶接品質判定部と、
を備えることを特徴とする溶接品質判定装置。
【請求項2】
予め定められた前記溶接品質の評価項目に基づく評価と、前記焼き色幅測定部により測定された前記焼き色の幅寸法との相関性に基づき、前記所定波長の電磁波の波長を予め選定する波長選定部を、
備えることを特徴とする請求項1に記載の溶接品質判定装置。
【請求項3】
前記波長選定部により選定された前記所定波長の電磁波を前記溶接部及び前記溶接部近傍に照射する電磁波照射部を、
備えることを特徴とする請求項2に記載の溶接品質判定装置。
【請求項4】
前記画像取得部は、前記波長選定部により選定された前記所定波長の電磁波のみを透過するフィルタを備えられたカメラから前記画像を取得する、
ことを特徴とする請求項3に記載の溶接品質判定装置。
【請求項5】
移動平均値算出部は、前記移動平均値の算出に際し、
前記走査方向において連続する所定数の反射強度取得位置を包含させて、当該所定数の前記反射強度取得位置における反射強度の平均値を算出するとともに、前記反射強度取得位置を一定距離ごとに移動させながら、各移動の都度、当該所定数の前記反射強度取得位置の反射強度の平均値を算出することを特徴とする請求項1に記載の溶接品質判定装置。
【請求項6】
前記所定数は、前記反射波分布を示すグラフと前記移動平均値分布を示すグラフとの交点位置の前記反射強度が、前記反射波分布の直近の前記走査方向における極大値及び極小値から算出される中間値から所定量の増減内に収束される値になるように設定されることを特徴とする請求項5に記載の溶接品質判定装置。
【請求項7】
前記反射強度は相対反射率であることを特徴とする請求項1に記載の溶接品質判定装置。
【請求項8】
前記所定波長は2以上であることを特徴とする請求項1に記載の溶接品質判定装置。
【請求項9】
前記溶接はアーク溶接であることを特徴とする請求項1に記載の溶接品質判定装置。
【請求項10】
前記溶接は抵抗溶接であることを特徴とする請求項1に記載の溶接品質判定装置。
【請求項11】
コンピュータが、
所定波長の電磁波が照射された際の第1部材と第2部材との溶接における溶接部及び溶接部近傍の画像を走査方向に取得する画像取得ステップと、
前記画像取得ステップにおいて取得した前記画像から、前記走査方向に沿って、前記溶接部及び前記溶接部近傍における所定波長の反射波の反射強度を、反射波分布として取得する反射波分布取得ステップと、
前記反射波分布に基づき、前記走査方向における前記反射強度の移動平均値の分布を移動平均値分布として算出する移動平均値算出ステップと、
前記反射波分布及び前記移動平均値分布に基づき、前記走査方向における前記反射強度を前記移動平均値で除した値の分布を表面特徴分布として取得する表面特徴抽出ステップと、
前記表面特徴分布に基づき、前記溶接部及び前記溶接部近傍における溶接により付着した焼き色の幅寸法を測定する焼き色幅測定ステップと、
前記焼き色の幅寸法に基づき前記溶接の品質を判定する溶接品質判定ステップと、
を実行することを特徴とする溶接品質判定方法。
【請求項12】
コンピュータに、
所定波長の電磁波が照射された際の第1部材と第2部材との溶接における溶接部及び溶接部近傍の画像を走査方向に取得する画像取得機能と、
前記画像取得機能において取得した前記画像から、前記走査方向に沿って、前記溶接部及び前記溶接部近傍における所定波長の反射波の反射強度を、反射波分布として取得する反射波分布取得機能と、
前記反射波分布に基づき、前記走査方向における前記反射強度の移動平均値の分布を移動平均値分布として算出する移動平均値算出機能と、
前記反射波分布及び前記移動平均値分布に基づき、前記走査方向における前記反射強度を前記移動平均値で除した値の分布を表面特徴分布として取得する表面特徴抽出機能と、
前記表面特徴分布に基づき、前記溶接部及び前記溶接部近傍における溶接により付着した焼き色の幅寸法を測定する焼き色幅測定機能と、
前記焼き色の幅寸法に基づき前記溶接の品質を判定する溶接品質判定機能と、
を発揮させることを特徴とする溶接品質判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接品質判定装置、溶接品質判定方法、及び溶接品質判定プログラムに関し、特に対象物を破壊すること無く溶接の品質を判定することができる溶接品質判定装置、溶接品質判定方法、及び溶接品質判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、肉眼では分からない対象物に生じた不具合などの現象を、分光技術を用いて検出することが行われている。この場合、例えばハイパースペクトルカメラを用いて当該対象物からの反射波は波長ごとに分析される。一方で、溶接の品質を外観観察による非破壊検査で判定する手法が求められている。
【0003】
溶接時に対象物の内部に伝わる熱量がその溶接の品質に密接に関係していることが分かっている。ここで問題となるのは、分光技術を用いて取得した溶接ビード周りに生じた焼き色の色味に関する情報に、溶接の品質とは無関係の色味、例えば、対象物の材料に元々備わっている色味に関する情報が含まれてしまうことである。
【0004】
特許文献1は、撮像された溶接ビードの画像に基づいて溶接不良を検知するものであり、撮像された溶接ビードの画像中の一部の領域内における輝度値のばらつきを算出し、当該輝度値のばらつきに基づいて、溶接ビード上の当該一部の領域に対応した部位についての欠陥の有無を判定するものとしている。
【0005】
特許文献1において、算出された輝度値のばらつきには、欠陥の有無の判定とは無関係の輝度値が含まれている虞があり、このため、欠陥の有無の判定を正確に行えないという虞があった。
【0006】
しかし、特許文献1においては、撮像された溶接ビードの画像中に含まれる、欠陥の有無の判定とは無関係の輝度値についての対策はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本開示は、取得した溶接部及び溶接部近傍の画像に基づいて溶接の品質を判定する際に、溶接の品質とは無関係の材料の色味の情報が含まれるのを抑制することで、精度良く溶接の品質を判定することができる溶接品質判定装置、溶接品質判定方法、及び溶接品質判定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、第1の態様に係る溶接品質判定装置は、所定波長の電磁波が照射された際の第1部材と第2部材との溶接における溶接部及び溶接部近傍の画像を走査方向に取得する画像取得部と、画像取得部が取得した画像から、走査方向に沿って、溶接部及び溶接部近傍における所定波長の反射波の反射強度を、反射波分布として取得する反射波分布取得部と、反射波分布に基づき、走査方向における反射強度の移動平均値の分布を移動平均値分布として算出する移動平均値算出部と、反射波分布及び移動平均値分布に基づき、走査方向における反射強度を移動平均値で除した値の分布を表面特徴分布として取得する表面特徴抽出部と、表面特徴分布に基づき、溶接部及び溶接部近傍における溶接により付着した焼き色の幅寸法を測定する焼き色幅測定部と、焼き色の幅寸法に基づき溶接品質を判定する溶接品質判定部とを備える。
【0010】
第2の態様は、第1の態様に係る溶接品質判定装置は、予め定められた溶接品質の評価項目に基づく評価と、焼き色幅測定部により測定された焼き色の幅寸法との相関性に基づき、所定波長の電磁波の波長を予め選定する波長選定部を備えることとしてもよい。
【0011】
第3の態様は、第2の態様に係る溶接品質判定装置において、波長選定部により選定された前記所定波長の電磁波を前記溶接部及び前記溶接部近傍に照射する電磁波照射部を備えることとしてもよい。
【0012】
第4の態様は、第3の態様に係る溶接品質判定装置において、画像取得部は、波長選定部により選定された所定波長の電磁波のみを透過するフィルタを備えられたカメラから画像を取得することとしてもよい。
【0013】
第5の態様は、第1の態様に係る溶接品質判定装置において、移動平均値算出部は、移動平均値の算出に際し、走査方向において連続する所定数の反射強度取得位置を包含させて、当該所定数の反射強度取得位置における反射強度の平均値を算出するとともに、反射強度取得位置を一定距離ごとに移動させながら、各移動の都度、当該所定数の反射強度取得位置の反射強度の平均値を算出することとしてもよい。
【0014】
第6の態様は、第5の態様に係る溶接品質判定装置において、所定数は、反射波分布を示すグラフと移動平均値分布を示すグラフとの交点位置の反射強度が、反射波分布の直近の走査方向における極大値及び極小値から算出される中間値から所定量の増減内に収束される値になるように設定されることとしてもよい。
【0015】
第7の態様は、第1の態様に係る溶接品質判定装置において、反射強度は相対反射率であることとしてもよい。
【0016】
第8の態様は、第1の態様に係る溶接品質判定装置において、所定波長は2以上であることとしてもよい。
【0017】
第9の態様は、第1の態様に係る溶接品質判定装置において、溶接はアーク溶接であることとしてもよい。
【0018】
第10の態様は、第1の態様に係る溶接品質判定装置において、溶接は抵抗溶接であることとしてもよい。
【0019】
第11の態様に係る溶接品質判定方法は、コンピュータが、所定波長の電磁波が照射された際の第1部材と第2部材との溶接における溶接部及び溶接部近傍の画像を走査方向に取得する画像取得ステップと、画像取得ステップにおいて取得した画像から、走査方向に沿って、溶接部及び溶接部近傍における所定波長の反射波の反射強度を、反射波分布として取得する反射波分布取得ステップと、反射波分布に基づき、走査方向における反射強度の移動平均値の分布を移動平均値分布として算出する移動平均値算出ステップと、反射波分布及び移動平均値分布に基づき、走査方向における反射強度を移動平均値で除した値の分布を表面特徴分布として取得する表面特徴抽出ステップと、表面特徴分布に基づき、溶接部及び溶接部近傍における溶接により付着した焼き色の幅寸法を測定する焼き色幅測定ステップと、焼き色の幅寸法に基づき溶接品質を判定する溶接品質判定ステップとを実行する。
【0020】
第12の態様に係る溶接品質判定プログラムは、コンピュータに、所定波長の電磁波が照射された際の第1部材と第2部材との溶接における溶接部及び溶接部近傍の画像を走査方向に取得する画像取得機能と、画像取得機能において取得した画像から、走査方向に沿って、溶接部及び溶接部近傍における所定波長の反射波の反射強度を、反射波分布として取得する反射波分布取得機能と、反射波分布に基づき、走査方向における反射強度の移動平均値の分布を移動平均値分布として算出する移動平均値算出機能と、反射波分布及び移動平均値分布に基づき、走査方向における反射強度を移動平均値で除した値の分布を表面特徴分布として取得する表面特徴抽出機能と、表面特徴分布に基づき、溶接部及び溶接部近傍における溶接により付着した焼き色の幅寸法を測定する焼き色幅測定機能と、焼き色の幅寸法に基づき溶接品質を判定する溶接品質判定機能とを実行する。
【発明の効果】
【0021】
本開示に係る溶接品質判定装置等は、所定波長の電磁波が照射された際の第1部材と第2部材との溶接における溶接部及び溶接部近傍の画像を走査方向に取得する画像取得部と、画像取得部が取得した画像から、走査方向に沿って、溶接部及び溶接部近傍における所定波長の反射波の反射強度を、反射波分布として取得する反射波分布取得部と、反射波分布に基づき、走査方向における反射強度の移動平均値の分布を移動平均値分布として算出する移動平均値算出部と、反射波分布及び移動平均値分布に基づき、走査方向における反射強度を移動平均値で除した値の分布を表面特徴分布として取得する表面特徴抽出部と、表面特徴分布に基づき、溶接部及び溶接部近傍における溶接により付着した焼き色の幅寸法を測定する焼き色幅測定部と、焼き色の幅寸法に基づき溶接品質を判定する溶接品質判定部とを備えるので、取得した溶接部及び溶接部近傍の画像に基づいて溶接の品質を判定する際に、溶接の品質とは無関係の材料の色味の情報が含まれるのを抑制することで、精度良く溶接の品質を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1実施形態に係る溶接品質判定装置の概要を示す図である。
【
図2】第1実施形態に係る(1)アーク溶接後の様子を示す断面模式図、(2)アーク溶接後の様子を示す平面模式図、(3)アーク溶接後の反射波分布と移動平均値分布とを示すグラフ、(4)アーク溶接後の表面特徴分布を示すグラフである。
【
図3】第1実施形態に係る溶接品質判定装置の機械的構成を示すブロック図である。
【
図4】第1実施形態に係る溶接品質判定装置の機能的構成を示すブロック図である。
【
図5】第1実施形態に係る溶接品質判定装置の移動平均算出部が移動平均値を算出する際の所定値の設定方法を説明するための図である。
【
図6】第1実施形態に係るアーク溶接の品質管理の項目の一例を説明するための図である。
【
図7】第1実施形態に係るアーク溶接後の推定力図の一例を説明するための図である。
【
図8】第1実施形態に係るアーク溶接後の継手溶込と焼き色の幅寸法との高い相関性の一例を示す分布図である。
【
図9】第1実施形態に係るアーク溶接後の継手溶込と焼き色の幅寸法との低い相関性の一例を示す分布図である。
【
図10】第1実施形態に係る溶接品質判定プログラムのフローチャートである。
【
図11】第2実施形態に係る(1)抵抗溶接後の様子を示す平面模式図、(2)抵抗溶接後の反射波分布と移動平均値分布とを示すグラフ、(3)抵抗溶接後の表面特徴分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(溶接品質判定装置1の概要)
図1及び
図2を参照して、第1実施形態に係る溶接品質判定装置1の概要について説明する。
図1は第1実施形態に係る溶接品質判定装置の概要を示す図であり、
図2の模式図は、第1実施形態に係る(1)アーク溶接後の様子を示す断面模式図、(2)アーク溶接後の様子を示す平面模式図、(3)アーク溶接後の反射波分布と移動平均値分布とを示すグラフ、(4)アーク溶接後の表面特徴分布を示すグラフである。
【0024】
第1実施形態に係る溶接品質判定装置1は、非破壊検査によって溶接の品質を判定する装置である。第1実施形態では、溶接の方法の一例としてアーク溶接による溶接について説明する。なお、溶接品質判定装置1は、アーク溶接以外の溶接、例えば、抵抗溶接(後述の第2実施形態)、レーザー溶接、電子ビーム溶接、プラズマアーク溶接などの品質の判定についても適宜、応用可能である。
【0025】
溶接品質判定装置1は、第1部材W1(母材)と第2部材W2(継手)とがアーク溶接により溶接されて生じた溶接部20及び溶接部近傍21に対して所定波長の電磁波を照射し、その反射波を分析することで溶接の品質を判定する装置である。
【0026】
なお、第1実施形態では、溶接継手の一例として第2部材W2を重ね継手として用いたが、溶接品質判定装置1は、他の溶接継手、例えば突き合わせ継手、T継手、角継手などを用いた溶接の品質の判定についても適宜、応用可能である。
【0027】
溶接品質判定装置1は、
図1参照の通り、外部装置として電磁波照射部2、及びカメラ3などを備える。また、溶接品質判定装置1は、その周辺機器としてディスプレイ5、キーボード6、及びマウス7を備える。溶接品質判定装置1は、これらの外部装置及び周辺機器とは有線若しくは無線により接続されている。
【0028】
溶接品質判定装置1は、電磁波照射部2より所定波長の電磁波を溶接部20及び溶接部近傍21に対して照射し、その反射波をカメラ3によって撮像する。
【0029】
第1実施形態に係るアーク溶接は、重ね溶接であり、継手(第2部材W2)の端部22に肉盛り部23を形成するすみ肉溶接である。
図2に示す様に、アーク溶接時の加熱により溶接材料と第1部材W1及び第2部材W2が溶融して端部22の付近に肉盛り部23が形成され、肉盛り部23の下部には母材である第1部材W1の一部と融合し溶け込み部24が形成される。肉盛り部23のうち、表面から盛り上がっている部分(見える部分)を、溶接ビード(溶接部20)とする。
【0030】
肉盛り部23と第1部材W1との境目付近には酸化皮膜31が形成される。この酸化皮膜31は、第1部材W1の焼き色の主な原因となる。肉盛り部23と第2部材W2との境目付近には酸化皮膜32が形成される。この酸化皮膜32は、第2部材W2の焼き色の主な原因となる。
【0031】
第1部材W1に形成された焼き色を第1焼き色部26、第2焼き色部27とし、第2部材W2に形成された焼き色を第3焼き色部28、第4焼き色部29、第5焼き色部30とする。第1焼き色部26~第5焼き色部30は、それぞれ色の違いにより区別される。
【0032】
この色の違いは金属の加熱温度の違いにより生じるものであり、溶接品質判定装置1は、この焼き色を解析することにより溶接時に加えられた熱量の金属内部への伝わり方などを推定し溶接の品質を判定する。具体的には、溶接品質判定装置1は、溶接によりできた複数の焼き色とこの焼き色を撮像する所定波長の電磁波との組み合わせの中から、撮像された焼き色の幅寸法と溶接品質との相関性の高いものを予め選定し、選定された所定波長の電磁波を溶接部20及び溶接部近傍21に対して照射し、その反射波をカメラ3により撮像する。そして、取得された画像に写る溶接により生じた焼き色の幅寸法から溶接の品質を判定する。
【0033】
溶接により生じた焼き色は、
図2(2)に示す様に、溶接ビード(溶接部20)に沿って並行する。カメラ3は、予め選定された所定波長の電磁波を用いて、溶接ビードに対してほぼ直交する方向となる走査方向33に沿って、溶接部20及び溶接部近傍21を含む、溶接部20及び溶接部近傍21の合計の幅寸法の約2倍の範囲を撮像する。
【0034】
図2(3)のグラフは、予め選定された所定波長の電磁波を照射しカメラ3で撮像した画像より取得された反射波の輝度値に基づいて作成されたグラフであり、横軸を走査方向33(画像のピクセル)とし、縦軸を輝度値(相対反射率)とする。
【0035】
グラフ線41は、予め選定された所定波長の電磁波を照射してカメラ3で撮像した画像より取得された反射波の輝度値を、平滑化などすることなく、そのままグラフにしたものであり、後述の反射波分布を示すグラフである。
【0036】
反射波分布とは、後述の画像取得部50が取得した画像から、走査方向33に沿って取得した、溶接部20及び溶接部近傍21における所定波長の反射波の反射強度の分布のことをいう。なお、本実施形態では、走査方向33の所定間隔ごとの、溶接部20及び溶接部近傍21における所定波長の反射波の反射強度を取得して、当該反射波分布としている。画像取得部50とは、予め選定された所定波長の電磁波が照射された際の第1部材W1と第2部材W2との溶接における溶接部20及び溶接部近傍21の画像を走査方向に取得するものである。
【0037】
なお、グラフ線41は、変動が激しい場合などがあり、ノイズの混入が原因であると考えられる場合は、カメラ3で撮像した画像より取得された反射波の輝度値の5ピクセルの移動平均値を用いて生成される場合がある。
【0038】
グラフ線42は、グラフ線41に示される反射波分布に基づき、走査方向33における反射強度(本実施形態では相対反射率、以下同様。)の移動平均値の分布をグラフにしたものであり、後述の移動平均値分布を示すグラフである。
【0039】
移動平均値とは、走査方向33において連続する所定数の反射強度取得位置を包含させて、当該所定数の反射強度取得位置における反射強度の平均値を算出するとともに、反射強度取得位置を一定距離ごとに移動させながら、各移動の都度、当該所定数の反射強度取得位置における反射強度の平均値のことをいい、移動平均値分布とは当該平均値の走査方向33における分布のことをいう。
【0040】
なお、反射強度取得位置とは、本実施形態において、画像取得部50が取得した画像のピクセルで表現される位置のことをいう。
【0041】
移動平均値分布は、画像取得部50が取得した画像から取得される反射波分布を移動平均することで、溶接によりに付着した焼き色の影響を縮小化して、アーク溶接前の状態の反射強度の分布を推定するものである。
【0042】
表面特徴分布は、反射波分布及び移動平均値分布に基づき得られ、走査方向33における反射強度取得位置ごとにおいて反射強度を移動平均値で除した値の分布である(
図2(4)のグラフ線45)。表面特徴分布は、画像取得部50が取得した画像から、溶接の品質とは無関係の材料の色味、即ち、溶接前の材料に元々備わっている色味の情報を除去して生成される。
【0043】
なお、
図2(4)のグラフは、横軸を走査方向33(単位:画像のピクセル)とし、縦軸を比率とし、当該比率とは、走査方向33における反射強度を移動平均値で除した値のことをいう。
【0044】
次に
図2(4)ついて説明する。
比率1は、横軸上の位置に対応する反射強度取得位置において、溶接前の反射強度に対して溶接後の反射強度に変化がないことを示す。
a(比率1終点P1~第1極大値P3)は、
図2(2)に示す第1焼き色部26に対応する
図2(4)の第1焼き色の幅の寸法である。
b(第1極大値P3~第2極小値P4)は、
図2(2)に示す第2焼き色部27に対応する
図2(4)の第2焼き色の幅の寸法である。
c(第2極小値P4~第3極小値P6)は、
図2(2)に示す溶接部20に対応する
図2(4)の溶接部20の幅の寸法である。
【0045】
d(第3極小値P6~第3極大値P7)は、
図2(2)に示す第3焼き色部28に対応する
図2(4)の第3焼き色の幅の寸法である。
e(第3極大値P7~第4極小値P8)は、
図2(2)に示す第4焼き色部29に対応する
図2(4)の第4焼き色の幅の寸法である。
f(第4極小値P8~比率1始点P9)は、
図2(2)に示す第5焼き色部30に対応する
図2(4)の第5焼き色の幅の寸法である。
【0046】
図2(4)の表面特徴分布を示すグラフ45は、画像取得部50が取得した画像から、溶接の品質とは無関係の材料の色味、即ち、溶接前の材料に元々備わっている色味の情報を除去して生成されており、当該グラフ45の特徴点であるP1~P9によって定義され数値化されたa~fは、溶接の品質を高い精度をもって表現しているものと言える。本実施形態に係る溶接品質判定装置1は、a~fに基づいて溶接を判定することで、より精度の高い溶接の品質を判定することができる。
【0047】
(溶接品質判定装置1の機械的構造について)
図3を参照して溶接品質判定装置1の機械的構成について説明する。
図3は第1実施形態に係る溶接品質判定装置1の機械的構成を示すブロック図である。
【0048】
溶接品質判定装置1は、通信インターフェース10、Read Only Memory(ROM)12、Random Access Memory(RAM)13、記憶部14、Central Processing Unit(CPU)15、入出力インターフェース16等を備えて構成されている。
【0049】
溶接品質判定装置1は、通信インターフェース10を介してインターネットを含む情報通信ネットワーク11に対しデータの送受信を行う。ROM12及び記憶部14は、記憶装置として利用でき、後述の溶接品質判定プログラムを利用するための各種データ並びにアプリケーションなどが記憶される。
【0050】
溶接品質判定装置1は、溶接品質判定プログラムをROM12若しくは記憶部14に保存し、RAM13などで構成されるメインメモリに溶接品質判定プログラムを取り込む。そして、CPU15は、溶接品質判定プログラムを取り込んだメインメモリにアクセスして、溶接品質判定プログラムを実行する。
【0051】
溶接品質判定装置1は、入出力インターフェース16を介して外部装置である入力装置17及び出力装置18と接続される。入力装置17は、カメラ3、並びに、溶接品質判定装置1の入力の際に用いられるキーボード6及びマウス7などのことを言い、出力装置18は、電磁波照射部2、ディスプレイ5、プリンタ8、及びスピーカ9のことを言う。
【0052】
(溶接品質判定装置1の機能的構成)
図4を参照して、溶接品質判定装置1における各機能的構成について説明する。
図4は、第1実施形態に係る溶接品質判定装置1の機能的構成を示すブロック図である。溶接品質判定装置1は、後述する溶接品質判定プログラムを実行することで、画像取得部50、反射波分布取得部51、移動平均値算出部52、表面特徴抽出部53、焼き色幅測定部54、溶接品質判定部55、及び波長選定部56などをCPU15に備える。
【0053】
画像取得部50は、所定波長の電磁波が照射された際の第1部材W1と第2部材W2との溶接における溶接部20及び溶接部近傍21の画像を走査方向に取得する。
【0054】
電磁波照射部2から溶接部20及び溶接部近傍21に向けて照射された所定波長の電磁波の反射波をカメラ3によって撮像し、溶接部20及び溶接部近傍21の画像を取得する。画像取得部50は、カメラ3によって撮像された当該画像を取得する。
【0055】
画像取得部50は、波長選定部56により選定された所定波長の電磁波のみを透過するフィルタを備えられたカメラ3から画像を取得する。
【0056】
この場合、所定波長の電磁波以外の電磁波がカメラ3に撮像されることを防止でき、画像取得部50はノイズの少ない画像を取得することができる。また、電磁波照射部2が所定波長の電磁波のみを照射するものではなく、所定波長とは異なる波長の電磁波を併せて照射する場合にも、所定波長とは異なる波長の電磁波がカメラ3に撮像されることを防止でき、画像取得部50はノイズの少ない画像を取得する。
【0057】
反射波分布取得部51は、画像取得部50が取得した画像から、走査方向に沿って、溶接部20及び溶接部近傍21における所定波長の反射波の反射強度を、反射波分布として取得する。
【0058】
本実施形態において反射強度とは相対反射率のことであり、相対反射率とは対象物に対して照射した所定波長の電磁波の量に対する当該対象物で反射した所定波長の電磁波の量のことを言う。また、本実施形態において反射強度とは輝度も含まれており、輝度とは対象物で反射した所定波長の光を画像化した度合い(単位面積当たり明るさ等)のことを言う。
【0059】
移動平均値算出部52は、反射波分布に基づき、走査方向33における反射強度の移動平均値の分布を移動平均値分布として算出する。
【0060】
移動平均値算出部52は、移動平均値の算出に際し、走査方向33において連続する所定数の反射強度取得位置を包含させて、当該所定数の反射強度取得位置における反射強度の平均値を算出するとともに、反射強度取得位置を一定距離ごとに移動させながら、各移動の都度、当該所定数の反射強度取得位置の反射強度の平均値を算出する。
【0061】
当該所定数は、反射波分布を示すグラフ(
図2(3)内符号41、及び
図5内符号92参照)と移動平均値分布を示すグラフ(
図2(3)内符号42、及び
図5内符号93)との交点位置(
図5内符号94)の反射強度(本実施形態では相対反射率)が、反射波分布の直近の走査方向における極大値(
図5内符号95)及び極小値(
図5内符号96)から算出される中間値から所定量の増減内に収束される値になるように設定される。
【0062】
本実施形態においては、交点位置(
図5内符号94)の相対反射率が、極大値(
図5内符号95)及び極小値(
図5内符号96)から算出される中間値のマイナス10%からプラス10%の範囲内となるように当該所定数が設定される。
【0063】
図5は第1実施形態に係る溶接品質判定装置1の移動平均値算出部52が移動平均値を算出する際の所定数の設定方法を説明するための図である。
図5中、符号90は縦軸となり相対反射率を示し、符号91は横軸となり画像のピクセル座標値を示す。
図5に示す例では、当該所定数を21とした場合、交点位置(
図5符号94)の相対反射率は52となる。また、極大値(
図5内符号95)は80、極小値(
図5内符号96)は20であることから算出される中間値は50である。交点位置(
図5符号94)の相対反射率の52は、中間値の50のマイナス10%からプラス10%の範囲(45~55)内となることから、当該所定数を横軸のピクセル座標値の21と設定することは妥当であると言える。なお、中間値の範囲は開示の範囲に限らず、狭めても広げても良い。
【0064】
表面特徴抽出部53は、反射波分布及び移動平均値分布に基づき、走査方向33における反射強度を移動平均値で除した値の分布を表面特徴分布として取得する。
すなわち、表面特徴抽出部53は、反射強度取得位置ごとに反射強度を移動平均値で除した値の走査方向33の分布を表面特徴分布として取得する。
【0065】
焼き色幅測定部54は、表面特徴分布に基づき、溶接部20及び溶接部近傍21における溶接により付着した焼き色の幅寸法を測定する。
すなわち、焼き色幅測定部54は、
図2の(4)に示すa、b、c、d、e、fを測定する。
【0066】
溶接品質判定部55は、焼き色の幅寸法に基づき溶接品質を判定する。
本実施形態では、溶接品質判定部55は、アーク溶接の溶接品質の管理項目に沿って溶接品質を判定する。
図6を参照して本実施形態で用いるアーク溶接の溶接品質の管理項目について説明する。
図6は、第1実施形態に係るアーク溶接の品質管理の項目の一例を説明するための図である。
【0067】
本実施形態で用いるアーク溶接の溶接品質の管理項目は、母材溶込60、母材長脚61、継手溶込62、継手長脚63、及びのど厚64の5項目であり、この5項目全てにおいて所定の基準値より大きい場合に、溶接品質が正常と判定される条件になる。なお、溶接の品質の評価項目はこれに限定されるものではなく、他の評価項目を用いて溶接品質を評価しても良く、他の評価項目を用いた溶接品質の評価についても溶接品質判定装置1を用いた評価は可能である。
【0068】
波長選定部56は、予め定められた溶接品質の評価項目に基づく評価と、焼き色幅測定部54により測定された焼き色の幅寸法との相関性に基づき、所定波長の電磁波の波長を予め選定する。
波長選定部56は、2以上の所定波長を設定してもよい。
【0069】
図7、
図8、及び
図9を参照して、波長選定部56が所定波長の電磁波の波長を予め選定する方法について説明する。
図7は第1実施形態に係るアーク溶接後の推定力図の一例を説明するための図であり、
図8は第1実施形態に係るアーク溶接後の継手溶込と焼き色の幅寸法との高い相関性の一例を示す分布図であり、
図9は第1実施形態に係るアーク溶接後の継手溶込と焼き色の幅寸法との低い相関性の一例を示す分布図である。
【0070】
図7に係る推定力図の縦軸70は、溶接部20及び溶接部近傍21に照射する電磁波の波長を350nmから110nmまでを5nm刻み変化させた合計151種類の電磁波の波長である。
【0071】
図7に係る推定力図の横軸71は、
図2(4)の表面特徴分布を示すグラフ45の特徴点であるP1~P9によって定義され数値化されたa~fを用いて表現される焼き色の幅の寸法の数値化した値が摘要され、a、b、c、d、e、f、a+b、b+c、c+d、d+e、e+f、a+b+c、b+c+d、c+d+e、d+e+fの合計15種類の焼き色の幅の寸法である。
【0072】
図7に係る推定力図において、縦軸70の合計151種類の電磁波の波長と横軸71の合計15種類の焼き色の幅の寸法とを掛け合わせた全ての組み合わせについて、アーク溶接の溶接品質の管理項目との相関性の高低を調べる。従って、1つの推定力図において、電磁波の波長と焼き色の幅の寸法との2265通りの組み合わせについてアーク溶接の溶接品質の管理項目との相関性を調べる。
図7に係る推定力図は、アーク溶接の溶接品質の管理項目の5項目ごとに作成される。
相関性の高低は、相関値スケール72に基づいて表現され、相関値1.0に近づくほど赤色に近づく。
【0073】
図7に係る推定力図の作成にあたり、電磁波の波長と焼き色の幅の寸法との組み合わせと、アーク溶接の溶接品質の管理項目と、の相関性の高低について、ハイパースペクトルカメラの撮影画像に基づく数値データと、溶接サンプルの顕微鏡観察による実測値データと、を付き合わせた相関分析を行った。
【0074】
具体的には、アーク溶接の溶接品質の管理項目ごとに、電磁波の波長と焼き色の幅の寸法との2265通りの組み合わせとの相関性の高低について相関分析を行う。当該相関分析は、ハイパースペクトルカメラの撮像画像に基づき作成された焼き色の幅の寸法の数値化データ(a、b、c、d、e、f、a+b、b+c、c+d、d+e、e+f、a+b+c、b+c+d、c+d+e、d+e+f)と、多数の溶接サンプルについてアーク溶接の溶接品質の管理項目の5項目(母材溶込60、母材長脚61、継手溶込62、継手長脚63、及びのど厚64)を顕微鏡観察により測定した実測値データとを突き合わせて相関分析を行う。
【0075】
本実施形態で行う相関分析に用いる溶接サンプルは、アーク溶接の溶け込み量の大、中、小についてそれぞれ10個ずつ、合計30個用意する。1つの溶接サンプルを3箇所で溶接ビードに直交するように切断し4分割して合計90個の溶接断面のサンプルを用意する。溶接断面のサンプルは、溶接サンプルを切断した後に、研磨、エッチング処理が行われる。
【0076】
図8及び
図9を参照して、相関分析の結果、相関性が高い例(
図8)、及び相関性が低い例(
図9)について説明する。
図8は、アーク溶接の溶接品質の管理項目の1つである「継手溶込62」について、ハイパースペクトルカメラで撮像された画像のうち、750nmの波長の電磁波により得られた「a+b」と相関性が高いことを示している。
【0077】
図8の横軸は幅「a+b」(単位:ピクセル)であり、縦軸は「継手溶込62」(単位:mm)である。
図8では、90個の溶接断面のサンプルのそれぞれについて、「a+b」(単位:ピクセル)と「継手溶込62」(単位:mm)の顕微鏡観察による測定値とを黒点としてグラフ描画エリアに描画する。従って、
図8のグラフ描画エリアでは90個のデータが黒点として描画される。アーク溶接の溶接品質の管理項目の「継手溶込62」は、0.6mm以上で正常と判断される。
図8の結果から、回帰直線の式は、「y=0.0478x-0.6146・・・(1)」として示される。
【0078】
図8の結果において、相関値(r)は0.829であるので、「a+b」と「継手溶込62」との間には強い正の相関があると言える(
図7参照)。
【0079】
また、決定係数(R2)は0.6867であるので、「a+b」と「継手溶込62」との関係は回帰直線を表す式(1)に当てはまる傾向にあり、「a+b」から「継手溶込62」を予測することができると言える。
【0080】
図9は、アーク溶接の溶接品質の管理項目の1つである「継手溶込62」について、ハイパースペクトルカメラで撮像された画像のうち、750nmの波長の電磁波により得られた「f」と相関性が低いことを示している。
【0081】
図9の横軸は幅「f」(単位:ピクセル)であり、縦軸は「継手溶込62」(単位:mm)である。
図9では、90個の溶接断面のサンプルのそれぞれについて、「f」(単位:ピクセル)と「継手溶込62」(単位:mm)の顕微鏡観察による測定値とを黒点としてグラフ描画エリアに描画する。従って、
図9のグラフ描画エリアでは90個のデータが黒点として描画される。アーク溶接の溶接品質の管理項目の「継手溶込62」は、0.6mm以上で正常と判断される。
図9の結果から、回帰直線の式は、「y=0.0074x-0.4326・・・(2)」として示される。
【0082】
図9の結果において、相関値(r)は0.156であるので、「f」と「継手溶込62」との間には相関は低いと言える(
図7参照)。
【0083】
また、決定係数(R2)は0.0243であるので、「f」と「継手溶込62」との関係は回帰直線を表す式(2)に当てはまらず、「f」から「継手溶込62」を予測するは出来ないと言える。
【0084】
上記のように、波長選定部56は、
図7に係る推定力図を用いることで電磁波照射部2が溶接部20及び溶接部近傍21に照射する所定波長の電磁波の波長を選定することができる。本実施形態では、750nmの波長の電磁波を用いて「a+b」の幅寸法を測定することで、アーク溶接の溶接項目の1つである「継手溶込62」を推測することができる。また、波長選定部56により選定された波長の電磁波を2以上にすることで、選定された波長の電磁波と相関性の高いアーク溶接の管理項目を2つ以上に増やすことができ、より精度の高い溶接品質の判定をすることができる。
【0085】
溶接品質判定装置1は、波長選定部56により選定された所定波長の電磁波を溶接部20及び溶接部近傍21の照射する電磁波照射部2を備える。
【0086】
電磁波照射部2は、波長選定部56により選定された所定波長の電磁波が2以上の場合、2以上の選定された波長の電磁波を照射する。
【0087】
(溶接品質判定方法、及び溶接品質判定プログラムについて)
次に
図10を参照して、本実施形態の溶接品質判定方法について、溶接品質判定プログラムとともに説明する。
図10は本実施形態の溶接品質判定プログラムのフローチャートである。
【0088】
図10に示す様に、溶接品質判定プログラムは、画像取得ステップS50、反射波分布取得ステップS51、移動平均値算出ステップS52、表面特徴抽出ステップS53、焼き色幅測定ステップS54、及び溶接品質判定ステップS55などを含む。
【0089】
溶接品質判定プログラムは、RAM13などで構成されるメインメモリに取り込まれて、当該メインメモリにアクセスするCPU15によって実行される。溶接品質判定プログラムは、CPU15に対して、画像取得機能、反射波分布取得機能、移動平均値算出機能、表面特徴抽出機能、焼き色幅測定機能、及び溶接品質判定機能を実現させる。
【0090】
これらの機能は
図10に示す順序で処理を行う場合を例示したが、これに限らず、これらの順番を適宜入れ替えて溶接品質判定プログラムを実行しても良い。なお、上記した各機能は、前述の溶接品質判定装置1の画像取得部50、反射波分布取得部51、移動平均値算出部52、表面特徴抽出部53、焼き色幅測定部54、溶接品質判定部55、及び波長選定部56の説明と重複するため、その詳細な説明は省略する。
【0091】
画像取得機能は、所定波長の電磁波が照射された際の第1部材W1と第2部材W2との溶接における溶接部20及び溶接部近傍21の画像を走査方向に取得する(S50:画像取得ステップ)。
【0092】
反射波分布取得機能は、画像取得部50が取得した画像から、走査方向33に沿って、溶接部20及び溶接部近傍21における所定波長の反射波の反射強度を、反射波分布として取得する(S51:反射波分布取得ステップ)。
【0093】
移動平均値算出機能は、反射波分布に基づき、走査方向33における反射強度の移動平均値の分布を移動平均値分布として算出する(S52:移動平均値算出ステップ)。
【0094】
表面特徴抽出機能は、反射波分布及び移動平均値分布に基づき、走査方向33における反射強度を移動平均値で除した値の分布を表面特徴分布として取得する(S53:表面特徴抽出ステップ)。
【0095】
焼き色幅測定機能は、表面特徴分布に基づき、溶接部20及び溶接部近傍21における溶接により付着した焼き色の幅寸法を測定する(S54:焼き色幅測定ステップ)。
溶接品質判定機能は、焼き色の幅寸法に基づき溶接品質を判定する(S55:溶接品質判定ステップ)。
【0096】
(第2実施形態)
図11を参照して、第2実施形態に係る溶接品質判定装置1について説明する。
図11は、第2実施形態に係る(1)抵抗溶接後の様子を示す平面模式図、(2)抵抗溶接後の反射波分布と移動平均値分布とを示すグラフ、(3)抵抗溶接後の表面特徴分布を示すグラフである。
【0097】
第2実施形態では抵抗溶接の品質の判定について溶接品質判定装置1を用いる例について説明する。本実施形態に係る溶接品質判定装置1は、第1実施形態で説明した溶接品質判定装置1と同様であるので、本実施形態に係る溶接品質判定装置1の説明においては第1実施形態で用いた符号をそのまま採用するものとし、その説明は省略する。
【0098】
第2実施形態は、前述のアーク溶接に代えて抵抗溶接の溶接品質の判定への適用例である。
第2実施形態に係る抵抗溶接は、スポット溶接であり、2つの部材を重ねて加圧した状態で溶接を行う。スポット溶接後には、部材の表面に凹みと変色を伴うスポット溶接痕100が残る(
図11(1)参照)。
図11(1)に示す様に、走査方向101はスポット溶接痕100を横断する位置・方向に設定される。
【0099】
図11に示す様に、抵抗溶接時の通電によって生じる抵抗加熱により2つの部材の内部が溶融し溶け出し、その後の融合によりナゲットが形成される。スポット溶接痕100、及びその近傍周辺には、抵抗時の加熱により酸化皮膜が形成される。この酸化被膜は、部材の焼き色の主な原因となる。
【0100】
溶接品質判定装置1は、この焼き色を解析することにより溶接時に加えられた熱量の金属内部への伝わり方などを推定し溶接の品質を判定する。具体的には、溶接品質判定装置1は、溶接によりできた複数の焼き色とこの焼き色を撮像する所定波長の電磁波との組み合わせの中から、撮像された焼き色の幅寸法と溶接品質との相関性の高いものを予め選定し、選定された所定波長の電磁波をスポット溶接痕100及びその近傍周辺に対して照射し、その反射波をカメラ3により撮像する。そして、取得された画像に写る溶接により生じた焼き色の幅寸法から溶接の品質を判定する。
【0101】
溶接により生じた焼き色は、
図11(1)に示す様に、複数の円環状の模様となる。カメラ3は、予め選定された所定波長の電磁波を用いて、スポット溶接痕100を横断する位置・方向となる走査方向101に沿って、スポット溶接痕100及びその近傍周辺を含む範囲(撮像始点105~撮像終点106)を撮像する。
【0102】
図11(2)のグラフは、予め選定された所定波長の電磁波を照射しカメラ3で撮像した画像より取得された反射波の輝度値に基づいて作成されたグラフであり、横軸を走査方向101(画像のピクセル)とし、縦軸を輝度値(相対反射率)とする。
【0103】
グラフ線107は、予め選定された所定波長の電磁波を照射してカメラ3で撮像した画像より取得された反射波の輝度値を、平滑化などすることなく、そのままグラフにしたものであり、後述の反射波分布を示すグラフである。
【0104】
グラフ線108は、グラフ線107に示される反射波分布に基づき、走査方向101における反射強度の反射強度取得位置を21個含んだ移動平均値の分布をグラフにしたものであり、後述の第1移動平均値分布を示すグラフである。
【0105】
グラフ線109は、グラフ線107に示される反射波分布に基づき、走査方向101における反射強度の反射強度取得位置を11個含んだ移動平均値の分布をグラフにしたものであり、後述の第2移動平均値分布を示すグラフである。
【0106】
移動平均値分布は、画像取得部50が取得した画像から取得される反射波分布を移動平均することで、溶接によりに付着した焼き色の影響を縮小化して、抵抗溶接前の状態の反射強度の分布を推定するものである。
【0107】
表面特徴分布は、反射波分布及び移動平均値分布に基づき得られ、走査方向101における反射強度取得位置ごとにおいて反射強度を移動平均値で除した値の分布である(
図11(2)のグラフ線110、111)。表面特徴分布は、画像取得部50が取得した画像から、溶接の品質とは無関係の材料の色味、即ち、溶接前の材料に元々備わっている色味の情報を除去して生成される。
次に
図11(3)ついて説明する。
【0108】
比率1は、横軸上の位置に対応する反射強度取得位置において、溶接前の反射強度に対して溶接後の反射強度に変化がないことを示す。
【0109】
図11(3)の表面特徴分布を示すグラフ110、111は、画像取得部50が取得した画像から、溶接の品質とは無関係の材料の色味、即ち、溶接前の材料に元々備わっている色味の情報を除去して生成されており、当該グラフ110、111の特徴点であるQ1~Q9(
図11(3)参照)によって定義され数値化される抵抗溶接により付着した焼き色の幅の寸法は、溶接の品質を高い精度をもって表現しているものと言える。第2実施形態に係る溶接品質判定装置1は、Q1~Q9によって定義された溶接時に付着した焼き色の幅の寸法に基づいて溶接を判定することで、より精度の高い溶接の品質を判定することができる。
【0110】
上記した第1実施形態に係る溶接品質判定装置1によれば、
図2(4)の表面特徴分布を示すグラフ45は、画像取得部50が取得した画像から、溶接の品質とは無関係の材料の色味、例えば、溶接前から材料に付着していた油膜、材料固有の色味、並びに、薬液、塗料などの物質の色味の情報を除去して生成されており、当該グラフ45の特徴点であるP1~P9によって定義され数値化されたa~fは、溶接の品質を高い精度をもって表現しているため、a~fに基づいて溶接を判定することで、より精度の高い溶接の品質を判定することができる。
【0111】
また、上記した第1実施形態に係る溶接品質判定装置1によれば、カメラ3に特定波長の電磁波のみを透過するフィルタが備えられているので、所定波長の電磁波以外の電磁波がカメラ3に撮像されることを防止することができ、画像取得部50はノイズの少ない画像を取得することができる。
【0112】
また、上記した第1実施形態に係る溶接品質判定装置1によれば、カメラ3に特定波長の電磁波のみを透過するフィルタが備えられているので、電磁波照射部2が所定波長の電磁波のみを照射するものではなく、所定波長とは異なる波長の電磁波を併せて照射する場合にも、所定波長とは異なる波長の電磁波がカメラ3に撮像されることを防止することができ、画像取得部50はノイズの少ない画像を取得することができる。
【0113】
また、上記した第1実施形態に係る溶接品質判定装置1によれば、波長選定部56により選定された波長の電磁波を2以上にすることで、選定された波長の電磁波と相関性の高いアーク溶接の管理項目を2つ以上に増やすことができ、より精度の高い溶接品質の判定をすることができる。
【0114】
また、上記した第2実施形態に係る溶接品質判定装置1によれば、
図11(3)の表面特徴分布を示すグラフ110、111は、画像取得部50が取得した画像から、溶接の品質とは無関係の材料の色味の情報を除去して生成されており、当該グラフ110、111の特徴点であるQ1~Q9によって定義され数値化される抵抗溶接により付着した焼き色の幅の寸法は、溶接の品質を高い精度をもって表現しているので、より精度の高い溶接の品質を判定することができる。
【0115】
本開示は上記した実施形態に係る溶接品質判定装置1、溶接品質判定方法、及び溶接品質判定プログラムに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、その他種々の変形例、若しくは応用例により実施可能である。
【符号の説明】
【0116】
1 溶接品質判定装置
2 電磁波照射部
3 カメラ
5 ディスプレイ
6 キーボード
7 マウス
8 プリンタ
9 スピーカ
10 通信インターフェース
11 情報通信ネットワーク
12 ROM
13 RAM
14 記憶部
15 CPU
16 入出力インターフェース
17 入力装置
18 出力装置
20 溶接部
21 溶接部近傍
22 端部
23 肉盛り部
24 溶け込み部
25 酸化膜
26 第1焼き色部
27 第2焼き色部
28 第3焼き色部
29 第4焼き色部
30 第5焼き色部
31 酸化皮膜
32 酸化皮膜
33 走査方向
41 反射波分布を示すグラフ
42 移動平均値分布を示すグラフ
43 縦軸
44 横軸
45 表面特徴分布を示すグラフ
46 縦軸
47 横軸
50 画像取得部
51 反射波分布取得部
52 移動平均値算出部
53 表面特徴抽出部
54 焼き色幅測定部
55 溶接品質判定部
56 波長選定部
60 母材溶込
61 母材長脚
62 継手溶込
63 継手長脚
64 のど厚
70 縦軸
71 横軸
72 相関値スケール
73 相関値が高い例
74 相関値が低い例
75 縦軸
76 横軸
77 品質OKライン
78 回帰直線
79 データ点
80 縦軸
81 横軸
82 品質OKライン
83 回帰直線
84 データ点
90 縦軸
91 横軸
92 反射波分布を示すグラフ
93 移動平均値分布を示すグラフ
94 交点位置
95 極大
96 極小
100 スポット溶接痕
101 走査方向
102 縦軸
103 横軸
104 縦軸
105 撮像始点
106 撮像終点
107 反射波分布を示すグラフ
108 第1移動平均値分布を示すグラフ
109 第2移動平均値分布を示すグラフ
110 第1表面特徴分布を示すグラフ
111 第2表面特徴分布を示すグラフ
W1 第1部材
W2 第2部材
a 第1焼き色の幅
b 第2焼き色の幅
c 溶接部の幅
d 第3焼き色の幅
e 第4焼き色の幅
f 第5焼き色の幅
P1 比率1終点
P2 第1極小値
P3 第1極大値
P4 第2極小値
P5 第2極大値
P6 第3極小値
P7 第3極大値
P8 第4極小値
P9 比率1始点