(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170464
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】収穫機
(51)【国際特許分類】
A01F 12/00 20060101AFI20231124BHJP
A01D 41/02 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
A01F12/00 G
A01D41/02 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082250
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】吉田 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】金 相弼
【テーマコード(参考)】
2B074
2B092
【Fターム(参考)】
2B074AA05
2B074AB01
2B074AC02
2B074BA04
2B074BA09
2B092AA01
2B092AB01
2B092BA03
2B092BA08
2B092BA24
(57)【要約】
【課題】上下軸心回りで揺動開閉される側部カバーの開放姿勢の維持が、自動的に行われるようにする。
【解決手段】上下方向の回転軸心y1を有した縦ヒンジを介して揺動開閉可能に脱穀本体30に支持された側部カバー31を、開放姿勢で維持可能な開放維持機構4が備えられ、開放維持機構4が、脱穀本体30と側部カバー31とのうちの一方に設けたガイドステー41と、他方に設けたガイドレール部40と、を備え、ガイドステー41は、一端部が上下軸心y2回りで相対回動自在に枢支され、他端部41bが側部カバー31の揺動開閉作動にともなってガイドレール部40内を相対移動するようにガイドレール部40に係入され、他端部41bに特定位置で移動抵抗を与えて自動的に他端部の相対移動を制限する自動ロック部5がガイドレール部40に備えられている。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱穀処理用の扱室が形成された脱穀本体と、前記扱室の横側方を覆う側部カバーと、を有した脱穀装置が備えられ、
前記側部カバーが、前記脱穀本体に対して上下方向の回転軸心を有した縦ヒンジを介して揺動開閉可能に支持されるとともに、前記側部カバーを前記脱穀本体に対する開放姿勢で維持可能な開放維持機構が備えられ、
前記開放維持機構が、前記脱穀本体と前記側部カバーとのうちの一方に設けたガイドステーと、前記脱穀本体と前記側部カバーとのうちの他方に設けたガイドレール部と、を備え、
前記ガイドステーの一端部が前記一方に上下軸心回りで相対回動自在に枢支され、前記ガイドステーの他端部が前記側部カバーの揺動開閉作動にともなって前記ガイドレール部内を相対移動するように前記ガイドレール部に係入され、
前記ガイドレール部に、当該ガイドレール部に案内される前記他端部に特定位置で移動抵抗を与えて自動的に前記他端部の相対移動を制限する自動ロック部が備えられている収穫機。
【請求項2】
前記ガイドレール部は前記他端部を案内する長孔によって形成され、
前記ガイドステーは棒状部材によって形成され、
前記自動ロック部は、前記長孔の端部で、前記長孔の案内幅よりも幅広に形成された大径孔部と、前記ガイドステーのうちの前記他端部側部分に設けられ、前記案内幅よりも大径で前記大径孔部に対して挿脱可能な大径部分と、を備えている請求項1記載の収穫機。
【請求項3】
前記長孔のうち、前記上下軸心から遠い側の端部よりも、前記長孔のうち、前記上下軸心に近い側の端部が、前記回転軸心に近い箇所に位置する請求項2記載の収穫機。
【請求項4】
前記長孔が、前記縦ヒンジの回転軸心を中心とする円弧に沿った円弧状長孔である請求項2記載の収穫機。
【請求項5】
前記縦ヒンジが、前記脱穀本体に設けられた固定ブラケットと、前記側部カバーに設けられた接続ブラケットと、前記固定ブラケットと前記接続ブラケットとを前記回転軸心回りで相対回動可能に連結する支軸と、を備え、
前記ガイドレール部が前記固定ブラケットに設けられ、
前記一端部が前記接続ブラケットに枢支されている請求項1記載の収穫機。
【請求項6】
前記ガイドレール部が、前記他端部を案内する長孔によって形成され、
前記長孔が、前記縦ヒンジの回転軸心側に曲率中心を有する円弧状長孔であり、
前記固定ブラケットに、前記開放姿勢に操作された前記側部カバーにおける基端側部分の一部が前記縦ヒンジの回転軸心と前記脱穀本体との間に入り込むことを許容する凹入部が形成されている請求項5記載の収穫機。
【請求項7】
前記凹入部は、前記円弧状長孔が設けられた箇所よりも、前記円弧状長孔の曲率中心に近い側に形成されている請求項6記載の収穫機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱穀処理用の扱室が形成された脱穀本体と、扱室を横側方から覆う側部カバーと、を有した脱穀装置が備えられた収穫機に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような側部カバーを有した脱穀装置を備える収穫機としては、例えば、特許文献1に記載のものがある。
この収穫機では、扱室の横側方に設けられた側部カバーの後端部を、扱室が形成された脱穀本体に対して、上下軸心回りで揺動可能に支持させている。このように、側部カバーの後端部を上下軸心回りで揺動可能に支持させることにより、側部カバーの揺動開閉を外部からの操作で簡単に行い易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の収穫機では、側部カバーの後端部を上下軸心回りで揺動可能に支持して、側部カバーが上下軸心回りで揺動開閉可能に構成されている。このような構造を備えることにより、例えば、側部カバーを水平方向の横軸心回りで揺動させて開閉操作する構造のものに比べると、側部カバーの開閉操作に際して、側部カバー自体の重量による影響が少ない状態で操作することができ、側部カバーの開閉操作を軽快に行い易い点で有利である。
このように側部カバーが上下軸心回りで揺動開閉可能であると、開放された側部カバーの位置を保持し続けるための作用力を与えなくとも、側部カバーに何らの外力も作用しなければ、その開放状態が保たれることになる。このため、側部カバーを一時的に開放姿勢にしたままでごく短時間の保守点検作業を行うには便利であるが、保守点検作業が長引いた場合などに、側部カバーが風の影響や他物との接触などで閉塞側へ揺動すると、作業の妨げになる虞がある。
そこで、脱穀本体と側部カバーとの間に、連結杆を掛け渡すなどして、脱穀本体に対する側部カバーの開放姿勢を確実に保持することも考えられるが、この場合には、連結杆の脱着作業が煩わしいばかりでなく、脱着作業そのものを忘れてしまう虞もある。
【0005】
本発明は、上下軸心回りでの側部カバーの揺動開閉を行う際に、脱穀本体に対する側部カバーの開放姿勢の維持が、自動的に行われるようにしようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明における収穫機の特徴は、脱穀処理用の扱室が形成された脱穀本体と、前記扱室の横側方を覆う側部カバーと、を有した脱穀装置が備えられ、
前記側部カバーが、前記脱穀本体に対して上下方向の回転軸心を有した縦ヒンジを介して揺動開閉可能に支持されるとともに、前記側部カバーを前記脱穀本体に対する開放姿勢で維持可能な開放維持機構が備えられ、
前記開放維持機構が、前記脱穀本体と前記側部カバーとのうちの一方に設けたガイドステーと、前記脱穀本体と前記側部カバーとのうちの他方に設けたガイドレール部と、を備え、
前記ガイドステーの一端部が前記一方に上下軸心回りで相対回動自在に枢支され、前記ガイドステーの他端部が前記側部カバーの揺動開閉作動にともなって前記ガイドレール部内を相対移動するように前記ガイドレール部に係入され、
前記ガイドレール部に、当該ガイドレール部に案内される前記他端部に特定位置で移動抵抗を与えて自動的に前記他端部の相対移動を制限する自動ロック部が備えられていることである。
【0007】
本発明によれば、閉塞位置にあった側部カバーを開放側へ揺動作動させると、ガイドレール部に係入されていたガイドステーの他端部がガイドレール部内を移動する。そして、ガイドステーの他端部がガイドレール部内の特定位置に達すると、自動ロック部でガイドステーの相対移動が制限され、側部カバーの開閉作動が自動的に阻止される。
【0008】
したがって、側部カバーの開放操作を行う際に、特別に開放姿勢でロックすることを意識していなくても、側部カバーが特定位置に達した時点で、自動的に開放姿勢でロックされる。このため、側部カバーを開放姿勢に維持するための煩わしい操作を要さず、また操作忘れによる不具合の発生を回避しやすい。
【0009】
本発明において、前記ガイドレール部は前記他端部を案内する長孔によって形成され、
前記ガイドステーは棒状部材によって形成され、
前記自動ロック部は、前記長孔の端部で、前記長孔の案内幅よりも幅広に形成された大径孔部と、前記ガイドステーのうちの前記他端部側部分に設けられ、前記案内幅よりも大径で前記大径孔部に対して挿脱可能な大径部分と、を備えていると好適である。
【0010】
この構成によれば、長孔の端部に、長孔の案内幅よりも幅広に形成された大径孔部を形成して、ガイドステーの他端部が自動的に落ち込むようにした簡単な構造で自動ロック部を構成することができる。
【0011】
本発明において、前記長孔のうち、前記上下軸心から遠い側の端部よりも、前記長孔のうち、前記上下軸心に近い側の端部が、前記回転軸心に近い箇所に位置すると好適である。
【0012】
この構成によれば、側部カバーの開放作動中、ガイドステーの一端部における上下軸心の位置は、縦ヒンジの回転軸心を曲率中心とする円弧上に、つまり、縦ヒンジの回転軸心からの距離が常に一定の位置にある。
これに対して、ガイドレール部の長孔内を移動するガイドステーの他端部は、側部カバーの閉塞位置からの開放作動に伴って、ガイドレール部の長孔内を、縦ヒンジの回転軸心から遠い側の端部から、縦ヒンジの回転軸心に近い側の端部へ向けてガイドレール部内を相対移動する。このとき、縦ヒンジの回転軸心からガイドステーの他端部までの距離は、側部カバーが閉塞位置から開放側へ近づくほど、縦ヒンジの回転軸心に近づくように、つまり、開放側へ近づくほど他端部の回転半径を短くするように変化する。
その結果、ガイドステーの他端部の回転角度当たりの、側部カバーの揺動作動量を、ガイドステーの他端部の回転半径が長いままである場合よりも大きくすることができる。これにより、長孔の長さの割に、側部カバーを大きく開放させることができ、開放維持機構をコンパクトな構造で得やすい。
【0013】
本発明において、前記長孔が、前記縦ヒンジの回転軸心を中心とする円弧に沿った円弧状長孔であると好適である。
【0014】
この構成によれば、側部カバーの開放操作に伴ってガイドレール部内を相対移動するガイドステーの他端部の動作が、ガイドレール部が直線状である場合等に比べて、比較的移動抵抗の増減変化が少ない状態で円滑に行われ易い。
【0015】
本発明において、前記縦ヒンジが、前記脱穀本体に設けられた固定ブラケットと、前記側部カバーに設けられた接続ブラケットと、前記固定ブラケットと前記接続ブラケットとを前記回転心回りで相対回動可能に連結する支軸と、を備え、
前記ガイドレール部が前記固定ブラケットに設けられ、
前記一端部が前記接続ブラケットに枢支されていると好適である。
【0016】
この構成によれば、縦ヒンジの構成部材であるところの固定ブラケットを、ガイドレール部の形成対象部材として活用し、接続ブラケットをガイドステーの支持部材として活用することができる。
したがって、ガイドレール部やガイドステーの支持部材を、別途設ける必要がなく、部品点数の削減や低コスト化を図り易い。
【0017】
本発明において、前記ガイドレール部が、前記他端部を案内する長孔によって形成され、
前記長孔が、前記縦ヒンジの回転軸心側に曲率中心を有する円弧状長孔であり、
前記固定ブラケットに、前記開放姿勢に操作された前記側部カバーにおける基端側部分の一部が前記縦ヒンジの回転軸心と前記脱穀本体との間に入り込むことを許容する凹入部が形成されていると好適である。
【0018】
この構成によれば、縦ヒンジの回転軸心と脱穀本体との間に、開放姿勢に操作された側部カバーの一部が入り込むことを許容する凹入部が形成されているので、側部カバーを大きく開放させ易い。
【0019】
本発明において、前記凹入部は、前記円弧状長孔が設けられた箇所よりも、前記円弧状長孔の曲率中心に近い側に形成されていると好適である。
【0020】
この構成によれば、凹入部はガイドレール部のうち、円弧状長孔の湾曲部分における突出箇所に対向する側ではなく、円弧状長孔の湾曲部分における凹入箇所に対向する側に形成されている。
したがって、凹入部の深さを比較的深くしてもガイドレール部に近づき過ぎることを避けて、縦ヒンジの大幅な強度低下を避けながら凹入部を形成し易い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】側部カバーの取付箇所を示す左側面図である。
【
図8】開放維持機構を示す平面視での説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の収穫機にかかる実施形態の一例を図面の記載に基づいて説明する。
尚、本実施形態での説明における前後方向及び左右方向は、特段の説明がない限り、次のように記載している。つまり、本発明を適用した収穫機の作業走行時における前進側の進行方向(
図1における矢印F参照)が「前」、後進側への進行方向(
図1における矢印B参照)が「後」、その前後方向での前向き姿勢を基準としての右側に相当する方向(
図2おける矢印R参照)が「右」、同様に左側に相当する方向(
図2における矢印L参照)が「左」である。
【0023】
〔全体構成〕
図1は、本発明に係る収穫機の一例である普通型のコンバインの全体側面を示している。
図2は、コンバインの前部に装備された刈取前処理部2を示している。このコンバインは、左右一対のクローラ走行装置10を備えた走行機体1の前部に刈取前処理部2が配置されている。
走行機体1上には、脱穀装置3と穀粒回収部12が左右に並列した状態で設けられている。脱穀装置3の後方に排塵カバー11が設けられている。穀粒回収部12の前方には運転部13が配備されている。運転部13に備えた運転座席13aは、エンジン14を内装するエンジンボンネット15の上方に設けられている。
【0024】
脱穀装置3の前部には、刈取り穀稈物搬送用のフィーダ16が連結されている。フィーダ16は、後端側が脱穀装置3の前部近くに設けられた横軸心(図外)回りで上下揺動可能に支持され、前端側が、略機体横幅に相当する刈幅を有した刈取前処理部2の後部に連結されている。
【0025】
刈取前処理部2は、左右一対の分草フレーム2Aに亘ってバリカン型の切断装置2B、および、刈り取った作物を刈り幅中間に横送りするオーガ2Cが架設された構造となっている。
刈取前処理部2の前部上方には、植立した穀稈を後方に掻き込んで引き上げる掻き込みリール2Dが装備されている。この掻き込みリール2Dで圃場に植立する穀稈の穂先側を後方に掻き込みながら切断装置2Bで刈り取り、刈り取られた作物がオーガ2Cで左右方向の中央側に集められる。集められた作物がフィーダ16に受け渡され、後方の全稈投入型の脱穀装置3へ送り込まれる。
【0026】
掻き込みリール2Dは、横向きの支点Pa周りに上下揺動自在な左右一対の支持アーム17の前部に、支持ブラケット18(支持フレームに相当する)を介して支架されている。
支持ブラケット18は支持アーム17の長手方向に沿って前後にスライド移動可能に外嵌され、この支持ブラケット18に掻き込みリール2Dの回転軸22が支持されている。したがって、掻き込みリール2Dは、支持ブラケット18を支持アーム17の長手方向に沿ってスライド移動させることにより、掻き込み作用位置を前後に調節することが可能となっている。支持ブラケット18は手動でスライド移動させることが可能であり、スライド移動方向の前後複数箇所で、ピン連結等により位置固定できるように構成されている。
また、油圧シリンダ19によって支持アーム17を上下揺動することで掻き込みリール2Dの掻き込み作用高さを変更することができる。
【0027】
掻き込みリール2Dの回転軸22の右端部に入力プーリ21が装着されている。この入力プーリ21に掛張された伝動ベルト20を介して、走行機体上のエンジン14から駆動力が掻き込みリール2Dの回転軸22に伝達される。
【0028】
〔脱穀装置〕
脱穀装置3は、脱穀処理用の扱室3Aを内部に形成する箱枠状の脱穀本体30を備えている。脱穀本体30内には、フィーダ16から受け渡された作物(穀物)を脱穀処理する扱胴3B、及び脱穀処理された作物を選別処理する選別装置(図示せず)等が配設されている。
選別装置で選別された回収作物が穀粒回収部12に送り込まれて回収される。回収されなかった塵埃、あるいは排ワラなどの非回収物は、扱室3Aから、後部の排塵カバー11で覆われた排塵通路を経て機外へ排出される。
【0029】
図1、3、4に示すように、脱穀装置3の脱穀本体30には、閉塞姿勢で扱室3Aの左横側方に位置して、扱室3Aの横側壁となる部位に、扱室3A内を外部に開放させることが可能な側部カバー31が設けられている。
この側部カバー31は、後部に備えた上下方向の回転軸心y1周りで左右揺動可能に設けられた上段側部カバー31Aと、その上段側部カバー31Aの前方側で脱穀本体30に形成された図示しない係合部に嵌め込み状態に連結される上段前側部カバー31Bと、前記上段側部カバー31A及び上段前側部カバー31Bの下方側で、脱穀本体30に形成された図示しない係合部に対して嵌め込み状態に連結される下段側部カバー31C,31Cと、を備えたものである。
【0030】
上段側部カバー31Aは、扱室3Aの横側部に形成された開口を開閉して扱胴3Bの周辺部分におけるメンテナンスを行えるように設けられたものである。扱室3Aの横側部に形成された開口は、開放状態で扱胴3B及び受け網3Cの横側方の全部、もしくは大部分が横側方に開放されるように前後及び上下の開口範囲を設定してある。
前記上段前側部カバー31Bは、フィーダ16の後端側の横側方に形成された開口を開閉して点検し易くするものであり、そのフィーダ16の後端側の横側方に形成された開口は、フィーダ16の後端側箇所の点検を行うに適当な大きさに設定してある。また、下段側部カバー31C,31Cは、選別装置の横側方に形成された開口を開閉して点検し易くするものであり、その選別装置の横側方に形成された開口は、選別装置部分の点検を行うに適当な大きさに開口範囲を設定されたものである。
【0031】
上段側部カバー31Aは、最外側に位置する外側カバー体31Aaと扱室3Aに面する最内側に位置する内側カバー体31Abとが一体的に構成されたものであり、脱穀本体30の後端部に対して、上下方向の回転軸心y1を有した縦ヒンジ32を介して全体が揺動開閉可能に支持されている。上段側部カバー31Aの回転軸心y1から遠い側の端部に、引き手金具33が設けられており、この引き手金具33に手指を掛けて引き操作することにより、上段側部カバー31Aを前記回転軸心y1回りに揺動させて開放操作することができる。
【0032】
上段側部カバー31Aを支持する縦ヒンジ32は、
図3及び
図4に示されるように、脱穀本体30に溶接固定された固定ブラケット34と、固定ブラケット34に固定された支軸35と、上段側部カバー31Aに固定された接続ブラケット36と、を備えている。
接続ブラケット36には、支軸35を挿通可能な枢支孔(図示せず)が形成されている。この枢支孔を支軸35に外嵌させることによって、上段側部カバー31Aを支軸35の軸心であるところの上下方向の回転軸心y1回りで揺動可能に支持させている。
上記の固定ブラケット34と、支軸35と、接続ブラケット36と、の組み合わせは、上段側部カバー31Aの後端部の狭間空間S1における上下二箇所に設けられており、共通の回転軸心y1回りで上段側部カバー31Aを揺動可能に支持している。
狭間空間S1は、上段側部カバー31Aの後部において、左右方向では、脱穀本体30の外面と、上段側部カバー31Aのうちの外側カバー体31Aaの内面との間に形成された空間であり、縦ヒンジ32を装備し得る左右方向及び前後方向の幅を有している。この狭間空間S1の左右方向の幅は、概ね上段側部カバー31Aの左右方向の厚さと同程度以下の幅に構成されており、狭間空間S1を形成するために上段側部カバー31Aの左右方向の厚さを厚くする必要がないように設定されている。
【0033】
上段側部カバー31Aの回転軸心y1から遠い側の端部で、引き手金具33が設けられた箇所と対向する位置の脱穀本体30には、図示はしないが、引き手金具33に対して係脱可能な周知の係止部材が設けられている。上段側部カバー31Aが閉塞姿勢であるときには、引き手金具33が係止部材に係合して閉塞姿勢に維持される。
その閉塞姿勢から引き手金具33を引き操作すると、引き手金具33の係合箇所が係止部材から外れて、上段側部カバー31Aが回転軸心y1回りで開放側へ揺動作動し、脱穀本体30の内部における扱室3Aを外部に開放する。
【0034】
〔開放維持機構〕
上記の上段側部カバー31Aを、脱穀本体30に対する開放姿勢で維持可能な開放維持機構4が脱穀装置3に設けられている。
開放維持機構4は、脱穀本体30と側部カバー31とのうちの一方に設けたガイドステー41と、脱穀本体30と側部カバー31とのうちの他方に設けたガイドレール部40と、の組み合わせで構成されている。
図3乃至
図8に示されるように、実施の形態では、ガイドレール部40が脱穀本体30に設けられ、門形に屈曲形成された棒状のガイドステー41が、一端部41aを上段側部カバー31Aに対して上下軸心y2回りで相対回動自在に枢支され、他端部41bをガイドレール部40に挿入させた状態で設けられている。
【0035】
ガイドレール部40は、上下二箇所に設けられた縦ヒンジ32のうち、下側の縦ヒンジ32の固定ブラケット34の上面に形成した円弧状の長孔によって構成されている。この下側の縦ヒンジ32の固定ブラケット34は、ガイドレール部40の取付部材としての役割を兼ねている。
そして、ガイドレール部40を構成する円弧状の長孔は、棒状のガイドステー41の他端部41bを長孔内に挿入させた状態でガイドステー41の他端部41bが長孔に沿って相対移動可能であるように、ガイドステー41の他端部41bの外径d1よりも少し大きい案内幅w1を有したものである(
図6、
図8参照)。
【0036】
ガイドレール部40における長孔の円弧は、長孔の両端部を結ぶ仮想線分に対して、長孔の中間部が縦ヒンジ32の支軸35に近づく方向ではなく、縦ヒンジ32の支軸35から離れる方向へ突曲する円弧状に形成されている。
つまり、
図8に示すように、このガイドレール部40における長孔の円弧は、縦ヒンジ32の回転軸心y1を曲率中心とする円弧と同じものではないが、その円弧に沿った円弧状長孔である。
【0037】
より正確には、ガイドレール部40の円弧状長孔は、ガイドステー41の一端部41aにおける上下軸心y2から遠い側の端部40aよりも、前記一端部41aの上下軸心y2に近い側の端部40bが、縦ヒンジ32の回転軸心y1に近い箇所に位置するように形成されている。
このように形成された円弧状長孔は、
図8に示すように、縦ヒンジ32の回転軸心y1回りで、前記上下軸心y2から遠い側の端部40aを通る仮想円弧r1の半径よりも、前記上下軸心y2に近い側の端部40bを通る仮想円弧r2の半径が小さくなっている。
つまり、ガイドレール部40の円弧状長孔は、ガイドステー41の一端部41aにおける上下軸心y2から遠い側の端部40aから、前記上下軸心y2に近い側の端部40bに近くなるほど、縦ヒンジ32の回転軸心y1回りでの曲率半径が小さくなるように傾いて設けられている。この円弧状長孔は、縦ヒンジ32の回転軸心y1回りの仮想円弧r1,r2とは異なる仮想円弧r3に沿って形成されており、その仮想円弧r3の曲率中心y3は、
図8に示すように、縦ヒンジ32の回転軸心y1とは別の位置で、後述する凹入部37内に存在している。
【0038】
このようにガイドレール部40の円弧状長孔が、ガイドステー41の一端部41aにおける上下軸心y2に近い側の端部40bに近くなるほど、縦ヒンジ32の回転軸心y1回りでの曲率半径が小さくなるように設けられていると、縦ヒンジ32の回転軸心y1回りでのガイドステー41の他端部41bの揺動角度当たりの、上段側部カバー31Aの揺動作動範囲を、ガイドレール部40の円弧状長孔の長さの割に大きくし得る。
その結果、
図8に示すように、縦ヒンジ32の回転軸心y1回りで、ガイドステー41の他端部41bがガイドレール部40内を移動する角度Θ1よりも、そのガイドステー41の移動時におけるガイドステー41の一端部41aが縦ヒンジ32の回転軸心y1回りで移動する際の回転角度Θ2が大きくなる。
【0039】
上記のように、ガイドレール部40が縦ヒンジ32の回転軸心y1を曲率中心とする円弧に沿って形成されていると、縦ヒンジ32の回転軸心y1の回りで回動しながら移動するガイドステー41の他端部41bとガイドレール部40との相対移動時の移動抵抗が比較的少なくて済む。
そして、縦ヒンジ32の回転軸心y1回りで、ガイドステー41の他端部41bがガイドレール部40内を移動する角度Θ1よりも、ガイドステー41の一端部41aが縦ヒンジ32の回転軸心y1回りで移動する際の回転角度Θ2が大きくなるようにすることで、ガイドレール部40の円弧状長孔の長さの割に、上段側部カバー31Aを大きく開放させることができる。
【0040】
〔自動ロック部〕
ガイドレール部40には、上段側部カバー31Aを特定位置にまで開放操作すると、その上段側部カバー31Aの開閉作動を自動的に停止させるための自動ロック部5が設けられている。
この自動ロック部5は、ガイドレール部40の円弧状長孔における、ガイドステー41の一端部41aにおける上下軸心y2に近い側の端部40bに設けた大径孔50と、その大径孔50に落ち込み可能に構成されたガイドステー41とを備えている。
【0041】
ガイドステー41は、
図6,7に示すように、棒状部材の両端部を同方向に屈曲させて門形に形成されている。棒状部材は丸棒状のものであり、その直径d2は、ガイドステー41の他端部41bの外径d1、及び、その他端部41bを案内するガイドレール部40の案内幅w1よりも少し大きく形成されている。
したがって、ガイドレール部40の円弧状長孔に他端部41bが案内される領域では、
図6に示されるように、ガイドステー41の他端部41bがガイドレール部40の案内幅w1内に挿入された状態で案内される。このとき、ガイドステー41の他端部41bの上方に連なる棒状部材は、他端部41bの外径d1よりも大きな直径d2を有した部分(大径部分に相当する)が、ガイドレール部40の円弧状長孔の上方で、固定ブラケット34の上面側に位置している。
【0042】
ガイドステー41の他端部41bが、ガイドステー41の一端部41aにおける上下軸心y2に近い側のガイドレール部40の端部40bに達すると、その端部40bには、ガイドステー41の他端部41bの外径d1よりも大きな直径d2を有した棒状部材が嵌まり込み可能な大きさの大径孔50が形成されている。
したがって、ガイドステー41の他端部41bが、ガイドステー41の上下軸心y2に近い側のガイドレール部40の端部40bに達すると、
図7に示すように、ガイドステー41の他端部41bの外径d1よりも大きな直径d2を有した棒状部材が大径孔50に嵌まり込み、上段側部カバー31Aの開閉動作を自動的に停止させる。
【0043】
ガイドステー41の一端部41aは、上段側部カバー31Aに固定された接続ブラケット36に設けた支持孔36aに挿嵌されている。
この支持孔36aは、ガイドステー41の直径d2よりも、ある程度大きく形成されている。つまり、
図7に示すように、ガイドステー41の他端部41bの外径d1よりも大きな直径d2を有した棒状部材が大径孔50に嵌まり込む際には、ガイドステー41の一端部41a側において、上下軸心y2が僅かに傾くことを許す程度に融通を持たせて、嵌まり込み易くなるようにしたものである。
【0044】
ガイドステー41には、各端部の嵌まり込み範囲を制限するための鍔部40c,40cが溶接固定されている。また、ガイドレール部40や支持孔36aに差し込まれた箇所の端部には、抜け止めを行うためのベータピン40d,40dが脱着可能に設けられている。
開放姿勢が維持されている上段側部カバー31Aを閉塞側へ操作するには、
図7に示す位置にあるガイドステー41を人為操作で少し持ち上げて、ガイドステー41の他端部41bが大径孔50から抜け出した状態とし、上段側部カバー31Aを少し閉塞側へ移動させる。これによって、
図6に示すように他端部41bがガイドレール部40の案内幅w1内に挿入された状態となり、人為操作で上段側部カバー31Aを閉塞側へ操作することができる。
【0045】
〔排塵カバー〕
図1,2、及び
図5に示すように、脱穀装置3の後部には、脱穀装置3から排出される塵埃やワラ屑等の飛散を抑制しながら後方下方の機外へ案内して落下放出させる排塵カバー11が設けられている。
この排塵カバー11は、合成樹脂製の一体物で形成されており、脱穀本体30の後部に取り付けられる。
脱穀本体30の後部に対する取り付けに際して、合成樹脂製である排塵カバー11の弾性を利用して、前部11aを拡開させながら脱穀本体30を左右から抱き込むように装着し、連結ボルト11bで連結固定してある。
【0046】
排塵カバー11が取り付けられる脱穀本体30の後部には、前述したガイドレール部40を備える固定ブラケット34や、接続ブラケット36を備える縦ヒンジ32を介して上段側部カバー31A等が設けられている。
このとき、支軸35回りで開閉作動する上段側部カバー31Aの一部などが、縦ヒンジ32の回転軸心y1回りで開閉作動した際に、排塵カバー11や連結ボルト11b等と干渉することを避けられるように、固定ブラケット34には、凹入部37が形成されている。
【0047】
この凹入部37は、固定ブラケット34にガイドレール部40が設けられた箇所よりも、ガイドレール部40における円弧状長孔の曲率中心y3に近い側に形成されているので、ガイドレール部40の湾曲形状を有効利用して、凹入部37をできるだけガイドレール部40に近づけるように前後方向で深く凹入するように形成しえある。
このように凹入部37を深く形成したことで、上段側部カバー31Aの一部が縦ヒンジ32の回転軸心y1回りで開閉作動した際に、縦ヒンジ32の回転軸心y1と脱穀本体30との間に、上段側部カバー31Aの基端側の一部が無理なく回り込むことを許容することができる。
【0048】
〔別実施形態〕
以下、別実施形態について説明する。下記の各別実施形態は、矛盾が生じない限り、複数組み合わせて用いてもよい。なお、本発明の範囲は、これら実施形態の内容に限定されるものではない。
【0049】
(1)上述した実施形態では、ガイドレール部40を円弧状長孔によって形成したものであるが、必ずしもこの構造に限られるものではなく、例えば、ガイドレール部40を、円弧状に限らず、直線状であったり、任意の湾曲形状のものであっても差し支えない。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0050】
(2)上述した実施形態では、ガイドレール部40を長孔によって形成したものであるが、必ずしもこの構造に限られるものではなく、例えば、凹溝であったり、棒状の軌条部材を用いて構成したものであったりしてもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0051】
(3)上述した実施形態では、ガイドレール部40を縦ヒンジ32の固定ブラケット34に形成した構造のものを例示したが、この構造に限られるものではない。
例えば、縦ヒンジ32のうちで、側部カバー31に備えた接続ブラケット36にガイドレール部40を形成したものであってもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0052】
(4)上述した実施形態では、ガイドレール部40を縦ヒンジ32の固定ブラケット34や接続ブラケット36に形成した構造のものを例示したが、この構造に限られるものではない。
例えば、縦ヒンジ32とは別に、脱穀本体30の一部、あるいは側部カバー31の一部に適宜取付部材を設けて、その取付部材にガイドレール部40を形成するようにしたものであってもよい。
このようにすれば、縦ヒンジ32とは別に備えた取付部材に、ガイドレール部40やガイドステー41を設けることができるので、ガイドレール部40やガイドステー41として任意の構成のものを採用し、任意の箇所に設けるなど、設計上の自由度を高め易い。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0053】
(5)上述した実施形態では、ガイドレール部40の一端部に自動ロック部5を設けた構造のものを例示したが、必ずしもこの構造に限定されるものではない。
例えば、自動ロック部5を、ガイドレール部40一端部のみならず、複数箇所に設けてもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0054】
(6)上述した実施形態では、自動ロック部5を大径孔50とガイドステー41との組み合わせで構成した構造のものを例示したが、必ずしもこの構造に限定されるものではなく、特定位置でバネによる挟み込み部材を用いるなど、任意のロック構造を採用することができる。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0055】
(7)上述した実施形態では、ガイドレール部40の円弧状長孔として、一端側の曲率半径が他端側の曲率半径よりも小さくなる構造のものを例示したが、必ずしもこの構造に限定されるものではなく、例えば、曲率半径が一定のものであってもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0056】
(8)上述した実施形態では、側部カバー31のうち、上段側部カバー31Aの後部に開放維持機構4を設けた構造のものを例示したが、必ずしもこの構造に限定されるものではない。例えば、開放維持機構4を、上段側部カバー31Aの前部に設けたり、上段側部カバー31Aではない、上段前側部カバー31Bや下段側部カバー31Cに設けたものであってもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0057】
(9)上述した実施形態では、側部カバー31の一例として示した上段側部カバー31Aが、最外側に位置する外側カバー体31Aaと扱室3Aに面する最内側に位置する内側カバー体31Abとを一体に構成した構造のものを例示したが、必ずしもこの構造である必要はなく、内側カバー体31Abとは別に、外側カバー体31Aaを揺動開閉させるようにしたものであってもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、普通型のコンバインだけでなく、自脱型のコンバインにも適用可能である。また、稲や麦等の作物に限らず、各種の作物の収穫機に適用できる。
【符号の説明】
【0059】
3 脱穀装置
4 開放維持機構
5 自動ロック部
30 脱穀本体
31 側部カバー
32 縦ヒンジ
34 固定ブラケット
35 支軸
36 接続ブラケット
37 凹入部
40 ガイドレール部
41 ガイドステー
41a 一端部
41b 他端部
50 大径孔部
y1 回転軸心
y2 上下軸心
y3 曲率中心
w1 案内幅