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特開2023-170485ジアルキル亜鉛含有組成物の製造方法及びジアルキル亜鉛の水素化体の低減剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170485
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】ジアルキル亜鉛含有組成物の製造方法及びジアルキル亜鉛の水素化体の低減剤
(51)【国際特許分類】
   C07F 3/06 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
C07F3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082285
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】住田 渉
【テーマコード(参考)】
4H048
【Fターム(参考)】
4H048AA02
4H048AD11
4H048BC51
4H048BC52
4H048VA66
4H048VB10
(57)【要約】
【課題】ジアルキル亜鉛に含まれるジアルキル亜鉛の水素化体を低減してジアルキル亜鉛の水素化体含有量を低減したジアルキル亜鉛を製造する方法、及びジアルキル亜鉛に含まれるジアルキル亜鉛の水素化体の低減に用いることができる添加剤を提供する。
【解決手段】ジアルキル亜鉛の水素化体とジアルキル亜鉛を含む混合物と添加剤とを混合して、前記混合物よりジアルキル亜鉛の水素化体の含有量が低下したジアルキル亜鉛を含む組成物を得ることを含む、ジアルキル亜鉛含有組成物の製造方法。添加剤は、カルボニル基含有炭化水素化合物、芳香族アミン化合物および含窒素不飽和環状炭化水素化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。ジアルキル亜鉛に共存するジアルキル亜鉛の水素化体の含有量を低減するために用いる、カルボニル基含有炭化水素化合物、芳香族アミン化合物および含窒素不飽和環状炭化水素化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である低減剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアルキル亜鉛の水素化体とジアルキル亜鉛を含む混合物と添加剤とを混合して、前記混合物よりジアルキル亜鉛の水素化体の含有量が低下したジアルキル亜鉛を含む組成物を得ることを含む、ジアルキル亜鉛含有組成物の製造方法であって、
前記添加剤が、カルボニル基含有炭化水素化合物、芳香族アミン化合物および含窒素不飽和環状炭化水素化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、前記製造方法。
【請求項2】
得られた組成物を蒸留に供して、前記組成物よりジアルキル亜鉛の水素化体の含有量が低下したジアルキル亜鉛を含む組成物を得ることをさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ジアルキル亜鉛およびジアルキル亜鉛の水素化体に含まれるアルキル基がメチル基またはエチル基である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記カルボニル基含有炭化水素化合物が、ケトン化合物またはエステル化合物である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ケトン化合物が、炭素数5以上25以下の炭化水素化合物である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ケトン化合物が、シクロヘキサノン、アセトフェノンまたはベンゾフェノンである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
前記エステル化合物が、炭素数6以上25以下の炭化水素化合物である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項8】
前記エステル化合物が、安息香酸メチルまたは安息香酸ベンジルである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項9】
前記芳香族アミン化合物および含窒素不飽和環状炭化水素化合物が、炭素数および窒素数の合計が5以上20以下の化合物である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項10】
前記芳香族アミン化合物が、N,N-ジメチルアニリンであり、前記含窒素不飽和環状炭化水素化合物が、1-メチルイミダゾール、2,4,6-コリジンまたはピリジンである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項11】
ジアルキル亜鉛に共存するジアルキル亜鉛の水素化体の含有量を低減するために用いる低減剤であって、
前記低減剤が、カルボニル基含有炭化水素化合物、芳香族アミン化合物および含窒素不飽和環状炭化水素化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、前記低減剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアルキル亜鉛の水素化体の含有量が低下したジアルキル亜鉛含有組成物の製造方法及びジアルキル亜鉛に共存するジアルキル亜鉛の水素化体の含有量を低減するために用いられる低減剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアルキル亜鉛は半導体の原料としての用途があり、半導体の一部はジアルキル亜鉛の蒸気圧の低さを利用して有機金属気相成長(MOCVD)法により製造される。しかし、ジアルキル亜鉛に含まれる不純物が、半導体製造時のトラブルの原因となることがある。
【0003】
ジアルキル亜鉛の不純物であるジアルキル亜鉛の水素化体(R1ZnH)は、ジアルキル亜鉛よりも熱分解が容易である。そのため、半導体製造工程にてジアルキル亜鉛を加熱した際に、ジアルキル亜鉛の水素化体の熱分解により生じた亜鉛が配管内で閉塞を引き起こし、トラブルの原因となる場合がある。
【0004】
【化1】
【0005】
Zn-H結合の結合エネルギーは228kJ/molであり、ジアルキル亜鉛のZn-C結合の結合エネルギー約280kJ/molよりも小さく、そのため、結合の切断が起こりやすいと考えられる(非特許文献1)。
【0006】
しかし、本発明者が知る限り、ジアルキル亜鉛に含まれるジアルキル亜鉛の水素化体を低減する方法として知られている方法はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ben S.Freiser編、「Organometallic Ion Chemistry」Kluwer Academic Publishers、1996年、p.10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、ジアルキル亜鉛に含まれるジアルキル亜鉛の水素化体を低減して、ジアルキル亜鉛の水素化体含有量を低減したジアルキル亜鉛を製造する方法を提供すること、及びジアルキル亜鉛に含まれるジアルキル亜鉛の水素化体の低減に用いることができる添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、ジアルキル亜鉛の水素化体を含有するジアルキル亜鉛に特定の添加剤を混合し、ジアルキル亜鉛の水素化体と反応させることで、ジアルキル亜鉛に含まれるジアルキル亜鉛の水素化体を低減することができることを見いだし、これに基づいて本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、以下の通りである。
[1]
ジアルキル亜鉛の水素化体とジアルキル亜鉛を含む混合物と添加剤とを混合して、前記混合物よりジアルキル亜鉛の水素化体の含有量が低下したジアルキル亜鉛を含む組成物を得ることを含む、ジアルキル亜鉛含有組成物の製造方法であって、
前記添加剤が、カルボニル基含有炭化水素化合物、芳香族アミン化合物および含窒素不飽和環状炭化水素化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、前記製造方法。
[2]
得られた組成物を蒸留に供して、前記組成物よりジアルキル亜鉛の水素化体の含有量が低下したジアルキル亜鉛を含む組成物を得ることをさらに含む、[1]に記載の製造方法。
[3]
前記ジアルキル亜鉛およびジアルキル亜鉛の水素化体に含まれるアルキル基がメチル基またはエチル基である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]
前記カルボニル基含有炭化水素化合物が、ケトン化合物またはエステル化合物である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の製造方法。
[5]
前記ケトン化合物が、炭素数5以上25以下の炭化水素化合物である、[4]に記載の製造方法。
[6]
前記ケトン化合物が、シクロヘキサノン、アセトフェノンまたはベンゾフェノンである、[4]に記載の製造方法。
[7]
前記エステル化合物が、炭素数6以上25以下の炭化水素化合物である、[4]に記載の製造方法。
[8]
前記エステル化合物が、安息香酸メチルまたは安息香酸ベンジルである、[4]に記載の製造方法。
[9]
前記芳香族アミン化合物および含窒素不飽和環状炭化水素化合物が、炭素数および窒素数の合計が5以上20以下の化合物である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の製造方法。
[10]
前記芳香族アミン化合物が、N,N-ジメチルアニリンであり、前記含窒素不飽和環状炭化水素化合物が、1-メチルイミダゾール、2,4,6-コリジンまたはピリジンである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の製造方法。
[11]
ジアルキル亜鉛に共存するジアルキル亜鉛の水素化体の含有量を低減するために用いる低減剤であって、
前記低減剤が、カルボニル基含有炭化水素化合物、芳香族アミン化合物および含窒素不飽和環状炭化水素化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、前記低減剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ジアルキル亜鉛に含まれるジアルキル亜鉛の水素化体を低減して、ジアルキル亜鉛の水素化体含有量を低減したジアルキル亜鉛を製造することができる。さらに、本発明によれば、ジアルキル亜鉛に含まれるジアルキル亜鉛の水素化体の低減に用いることができる添加剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<ジアルキル亜鉛含有組成物の製造方法>
本発明は、ジアルキル亜鉛の水素化体とジアルキル亜鉛を含む混合物と添加剤とを混合して、前記混合物よりジアルキル亜鉛の水素化体の含有量が低下したジアルキル亜鉛を含む組成物(以下、ジアルキル亜鉛含有組成物1と呼ぶことがある)を得ることを含む、ジアルキル亜鉛含有組成物の製造方法であって、前記添加剤が、カルボニル基含有炭化水素化合物、芳香族アミン化合物および含窒素不飽和環状炭化水素化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、前記製造方法に関する。
【0013】
ジアルキル亜鉛の水素化体とジアルキル亜鉛を含む混合物に含まれるジアルキル亜鉛およびジアルキル亜鉛の水素化体におけるアルキル基は、好ましくはメチル基またはエチル基である。アルキル基がエチル基の場合、ジエチル亜鉛の水素化体とジエチル亜鉛を含む混合物は、例えば、塩化亜鉛とトリエチルアルミニウムの反応によりジエチル亜鉛を合成する方法で生成物として得ることができる。この場合、混合物に含まれるジエチル亜鉛の水素化体の含有量は、反応条件により変化するが、ジエチル亜鉛の水素化体由来の水素原子質量に換算して、例えば、10~1000ppmの範囲である。但し、この範囲に限定する意図ではなく、この範囲は典型的な含有量の範囲である。アルキル基がメチル基の場合もほぼ同様である。
【0014】
本発明に用いる添加剤は、カルボニル基含有炭化水素化合物、芳香族アミンおよび含窒素不飽和環状炭化水素化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0015】
カルボニル基含有炭化水素化合物としては、ケトン化合物、エステル化合物またはカルボン酸化合物のいずれかの化合物が挙げられる。但し、ジアルキル亜鉛の水素化体と温和に反応することから、ケトン化合物およびエステル化合物が好ましい。
【0016】
ケトン化合物は、入手が容易であり、かつ沸点が高くハンドリングが容易であるという観点から、炭素数5以上25以下であるケトン化合物が適当である。ケトン化合物は、下記一般式(1)で示す化合物であることができ、式中のR2及びR3は、独立に、置換若しくは無置換の炭素数1以上15以下、好ましくは1以上10以下の直鎖若しくは分岐状のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数1以上15以下、好ましくは1以上10以下の直鎖若しくは分岐状のアルケニル基または置換若しくは無置換の炭素数1以上15以下、好ましくは1以上10以下の直鎖若しくは分岐状のアルキニル基、置換若しくは無置換のフェニル基または置換若しくは無置換のベンジル基であるか、R2及びR3が架橋して炭素数5以上15以下の置換または無置換のシクロアルキル基または炭素数5以上15以下の置換または無置換のシクロアルケニル基であることができる。置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、ビニル基、アリル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などを例示できる。また、下記一般式(1)で示す化合物は、追加で1つまたは2つのカルボニル基を有する化合物であることもできる。
【0017】
【化2】
【0018】
ケトン化合物は、具体的には、例えば、2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2-オクタノン、2-ノナノン、5-ノナノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、プロピオフェノン、ベンゾフェノン、ジベンジルケトン、及びp-ベンゾキノンなどが挙げられる。入手が容易であり、かつ沸点が高くハンドリングが容易であるという観点から、ケトン化合物としては、シクロヘキサノン(bp=155.6℃)、アセトフェノン(bp=202℃)、ベンゾフェノン(bp=305.4℃)が好ましい。
【0019】
エステル化合物としては、入手が容易であり、かつ沸点が高くハンドリングが容易であるという観点から、炭素数6以上25以下である炭化水素化合物が適当である。エステル化合物は下記一般式(2)示す化合物であることができ、式中のR4及びR5は、置換若しくは無置換の炭素数1以上15以下、好ましくは1以上10以下の直鎖若しくは分岐状のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数1以上15以下、好ましくは1以上10以下の直鎖若しくは分岐状のアルケニル基または置換若しくは無置換の炭素数1以上15以下、好ましくは1以上10以下の直鎖若しくは分岐状のアルキニル基、置換若しくは無置換のフェニル基または置換若しくは無置換のベンジル基であることかできる。置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、ビニル基、アリル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などを例示できる。
【0020】
【化3】
【0021】
エステル化合物としては、例えば、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸オクチル、酢酸フェニル、酢酸ベンジル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、安息香酸フェニル、および安息香酸ベンジルなどが挙げられる。入手が容易で、かつ沸点が高くハンドリングが容易であるという観点から、安息香酸メチル(bp=199℃)、安息香酸ベンジル(bp=323℃)が好ましい。
【0022】
芳香族アミン化合物および含窒素不飽和環状炭化水素化合物は、入手が容易であり、かつ沸点が高くハンドリングが容易であるという観点から、炭素数および窒素数の合計が5以上20以下の化合物が適当である。芳香族アミン化合物は、下記一般式(3)で示される化合物であることができ、含窒素不飽和環状炭化水素化合物は、下記一般式(4)~(9)で示される化合物であることができ、式中のR6、R7、R14及びR16は、独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上10以下、好ましくは1以上、5以下の直鎖若しくは分岐状のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数1以上10以下、好ましくは1以上、5以下の直鎖若しくは分岐状のアルケニル基または置換若しくは無置換の炭素数1以上10以下、好ましくは1以上、5以下の直鎖若しくは分岐状のアルキニル基であり、R8~R13およびR15は水素原子、置換若しくは無置換のアミノ基、置換若しくは無置換の炭素数1以上10以下、好ましくは1以上、5以下の直鎖若しくは分岐状のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数1以上10以下、好ましくは1以上、5以下の直鎖若しくは分岐状のアルケニル基または置換若しくは無置換の炭素数1以上10以下、好ましくは1以上、5以下の直鎖若しくは分岐状のアルキニル基であることができる。但し、R8~R13およびR15は1個、2個または3個存在することができる。置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、ビニル基、アリル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などを例示できる。
【0023】
【化4】
【0024】
芳香族アミン化合物としては、例えば、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジンなどが挙げられ、含窒素不飽和環状炭化水素化合物1-メチルイミダゾール、1-メチルピラゾール、ピリジン、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2,6-ルチジン、2,4,6-コリジン、4-ジメチルアミノピリジン、ピリダジン、ピリミジン、およびピラジンなどが挙げられる。入手が容易であり、かつ沸点が高くハンドリングが容易であるという観点から、N,N-ジメチルアニリン(bp=194℃)、1-メチルイミダゾール(bp=198℃)、ピリジン(bp=115℃)、2,4,6-コリジン(bp=170℃)が好ましく、N,N-ジメチルアニリン、ピリジンがさらに好ましい。
【0025】
ジアルキル亜鉛の水素化体とジアルキル亜鉛を含む混合物と添加剤とを混合する。混合物に対する添加剤の添加量は、想定されるジアルキル亜鉛の水素化体の含有量を考慮して適宜決定することができ、ジアルキル亜鉛の水素化体に対して、例えば、0.5~5倍当量であることができる。あるいは、ジアルキル亜鉛の水素化体の含有量を考慮せず、混合物に対して、例えば、0.1~10質量%の範囲で添加することもできる。
【0026】
添加剤を添加した混合物は、所定温度で、所定時間撹拌混合することが、ジアルキル亜鉛の水素化体と添加剤との反応を促進するという観点から適当である。撹拌混合の温度は、ジアルキル亜鉛の沸点以下または熱分解温度以下であればよく、例えば、0℃以上60℃以下であることが好ましい。ジアルキル亜鉛がジメチル亜鉛の場合は、ジメチル亜鉛の沸点が46℃のため0℃以上40℃以下が好ましい。ジアルキル亜鉛がジエチル亜鉛の場合は、ジエチル亜鉛の沸点が117.6℃のため0℃以上60℃以下が好ましい。撹拌時間は、特に制限はないが、1時間以上24時間以内が好ましい。撹拌する際の圧力は、常圧、加圧のいずれでもよいが、0MPaG以上0.3MPaG以下が好ましい。
【0027】
ジアルキル亜鉛と添加剤を混合する反応装置としては、縦型、横型のいずれでもよく、特に制限なく用いることができる。例えば、撹拌子を入れた耐圧性のオートクレーブをマグネチックスターラーにて撹拌する方法が挙げられる。また、耐圧性の撹拌装置付きオートクレーブも用いることができ、撹拌翼は一般的なものが用いられ、例えば、プロペラ、タービン、ファウドラー、マックスブレンド、フルゾーン等が挙げられる。
【0028】
反応装置内は、空気中に含まれる水分がジアルキル亜鉛と反応するため、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下であることが好ましい。
【0029】
ジアルキル亜鉛の水素化体(R1ZnH)を含有する混合物と添加剤とを撹拌混合することで、ジアルキル亜鉛の水素化体と添加剤が反応して、ジアルキル亜鉛の水素化体の含有量が原料に比べて低下したジアルキル亜鉛を含む組成物(ジアルキル亜鉛含有組成物1)を得ることができる。添加剤が一般式(1)に示すケトン化合物の場合のジアルキル亜鉛の水素化体(R1ZnH)との反応例を式(10)に示す。添加剤が一般式(2)に示すエステル化合物である場合の反応式を式(11)に示す。添加剤が一般式(3)に示す芳香族アミン化合物との反応例を式(12)に示し添加剤が一般式(4)~(9)に示す含窒素不飽和環状炭化水素化合物との反応例を式(13)~(18)に示す。
【0030】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【0031】
ジアルキル亜鉛の水素化体の含有量が原料に比べて低下したジアルキル亜鉛を含む、ジアルキル亜鉛含有組成物1のジアルキル亜鉛の水素化体の含有量には特に制限はないが、ジアルキル亜鉛の水素化体由来の水素原子質量に換算して、例えば、1~200ppmの範囲である。但し、この範囲に限定する意図ではなく、この範囲は典型的な含有量の範囲である。
【0032】
ジアルキル亜鉛含有組成物1は、ジアルキル亜鉛の水素化体と添加剤との反応物を含む。ジアルキル亜鉛の水素化体と添加剤との反応物は、沸点がジアルキル亜鉛の水素化体及びジアルキル亜鉛より高いことから、そのまま組成物に残存してもその後の使用において支障は生じない。
【0033】
<蒸留工程>
本発明のジアルキル亜鉛を含む組成物の製造方法は、上記ジアルキル亜鉛含有組成物1を蒸留に供して、蒸留前の組成物よりジアルキル亜鉛の水素化体の含有量が低下したジアルキル亜鉛を含む組成物(以下、ジアルキル亜鉛含有組成物2と呼ぶことがある)を得ることをさらに含むことができる。
【0034】
ジアルキル亜鉛含有組成物1の蒸留は、組成物1に残存するジアルキル亜鉛の水素化体を含むジアルキル亜鉛留分を分離することで行う。ジアルキル亜鉛の沸点は、例えば、ジメチル亜鉛が46℃であり、ジエチル亜鉛が117.6℃である。ジアルキル亜鉛の水素化体の沸点は、水素化体の種類により異なるが、例えば、ジエチル亜鉛の水素化体を含むジエチル亜鉛を蒸留すると、初留が水素化体リッチであることが分析で分かっている。蒸留条件は、ジアルキル亜鉛の種類(沸点)と初留が水素化体リッチであることを考慮して適宜設定することができる。
【0035】
蒸留は、初留として、ジアルキル亜鉛の水素化体リッチな留分が得られ、その後、ジアルキル亜鉛の水素化体の含有量が低下したジアルキル亜鉛留分である主留分が得られる。初留量をどの程度回収するか、及び主留分をどの程度回収するかにより、ジアルキル亜鉛留分中のジアルキル亜鉛の水素化体の含有量は変化する。また、ジアルキル亜鉛の水素化体と添加剤との反応物は、沸点が高いことから、蒸留残渣として、または反応物を含有するジアルキル亜鉛として回収される。
【0036】
蒸留塔は分離性能を向上させるため、蒸留塔に充填物を使用したものが好ましい。充填物は市販品または公知の方法で製造された製品を使用でき、規則充填物、不規則充填物のいずれも使用できる。理論段数は多いほどよいが、工業的に有利な高さが選択される。理論段数が4段以上20段以下の蒸留塔が好ましい。
【0037】
蒸留装置内は、空気中の水分が有機亜鉛組成物と反応するため、蒸留開始前に予め窒素、アルゴン等の不活性ガスにて置換しておくことが好ましい。
【0038】
蒸留する際の温度は、ジアルキル亜鉛の種類および装置の減圧度に依存するが、35℃以上100℃以下が好ましい。蒸留する際の圧力は、常圧および減圧のいずれでもよいが、0.01kPaA以上50kPaA以下が好ましい。
【0039】
蒸留により得られるジアルキル亜鉛(組成物2)は、原料とする組成物1に比べてジアルキル亜鉛の水素化体の含有量は低減されており、かつジアルキル亜鉛の水素化体と添加剤との反応物は、蒸留残渣として分離される。
【0040】
<低減剤>
本発明は、ジアルキル亜鉛に共存するジアルキル亜鉛の水素化体の含有量を低減するために用いる低減剤を包含する。この低減剤は、カルボニル基含有炭化水素化合物、芳香族アミン化合物および含窒素不飽和環状炭化水素化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0041】
本発明の低減剤におけるカルボニル基含有炭化水素化合物、芳香族アミン化合物および含窒素不飽和環状炭化水素化合物は、本発明の製造方法で用いる添加剤と同様である。
【0042】
カルボニル基含有炭化水素化合物としては、ケトン化合物、エステル化合物またはカルボン酸化合物のいずれかの化合物が挙げられる。但し、ジアルキル亜鉛の水素化体と温和に反応することから、ケトン化合物およびエステル化合物が好ましい。
【0043】
ケトン化合物は、入手が容易であり、かつ沸点が高くハンドリングが容易であるという観点から、炭素数5以上25以下であるケトン化合物が適当である。ケトン化合物は、上記一般式(1)で示す化合物であることができ、具体的には、例えば、2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2-オクタノン、2-ノナノン、5-ノナノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、プロピオフェノン、ベンゾフェノン、ジベンジルケトン、及びp-ベンゾキノンなどが挙げられる。入手が容易であり、かつ沸点が高くハンドリングが容易であるという観点から、ケトン化合物としては、シクロヘキサノン(bp=155.6℃)、アセトフェノン(bp=202℃)、ベンゾフェノン(bp=305.4℃)が好ましい。
【0044】
エステル化合物としては、入手が容易であり、かつ沸点が高くハンドリングが容易であるという観点から、炭素数6以上25以下である炭化水素化合物が適当である。エステル化合物は、上記一般式(2)示す化合物であることができ、例えば、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸オクチル、酢酸フェニル、酢酸ベンジル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、安息香酸フェニル、および安息香酸ベンジルなどが挙げられる。入手が容易で、かつ沸点が高くハンドリングが容易であるという観点から、安息香酸メチル(bp=199℃)、安息香酸ベンジル(bp=323℃)が好ましい。
【0045】
芳香族アミン化合物および含窒素不飽和環状炭化水素化合物は、入手が容易であり、かつ沸点が高くハンドリングが容易であるという観点から、炭素数および窒素数の合計が5以上20以下の化合物が適当である。芳香族アミン化合物は、一般式(3)で示される化合物であることができ、例えば、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジンなどが挙げられる。含窒素不飽和環状炭化水素化合物は、一般式(4)~(9)で示される化合物であることができ、1-メチルイミダゾール、1-メチルピラゾール、ピリジン、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2,6-ルチジン、2,4,6-コリジン、4-ジメチルアミノピリジン、ピリダジン、ピリミジン、およびピラジンなどが挙げられる。入手が容易であり、かつ沸点が高くハンドリングが容易であるという観点から、N,N-ジメチルアニリン(bp=194℃)、1-メチルイミダゾール(bp=198℃)、ピリジン(bp=115℃)、2,4,6-コリジン(bp=170℃)が好ましく、N,N-ジメチルアニリン、ピリジンがさらに好ましい。
【0046】
本発明の低減剤は、ジアルキル亜鉛の水素化体とジアルキル亜鉛を含む混合物に添加し、混合されることで用いられる。
【0047】
ジアルキル亜鉛の水素化体とジアルキル亜鉛を含む混合物に対する低減剤の添加量は、想定されるジアルキル亜鉛の水素化体の含有量を考慮して適宜決定することができ、ジアルキル亜鉛の水素化体に対して、例えば、0.5~5倍当量であることができる。あるいは、ジアルキル亜鉛の水素化体の含有量を考慮せず、混合物に対して、例えば、0.1~10質量%の範囲で添加することもできる。
【実施例0048】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0049】
<ジアルキル亜鉛の水素化体成分分析方法>
ジアルキル亜鉛の水素化体を含むジアルキル亜鉛を流動パラフィンにて4倍希釈した溶液を酸性水溶液中に滴下して、ジアルキル亜鉛の加水分解液とした。その際に発生したジアルキル亜鉛の水素化体由来の水素ガスを島津製作所製ガスクロマトグラフ-バリア放電イオン化検出器(GC-BID)Nexis GC-2030にて検出し、ジアルキル亜鉛含有組成物中に含まれるジアルキル亜鉛の水素化体量を算出した。
【0050】
実施例1
窒素置換を行ったSUS製30mLオートクレーブ(耐圧硝子工業(株)製)に、ジエチル亜鉛の水素化体を水素原子質量換算で166ppm含むジエチル亜鉛(東ソー・ファインケム(株)製)21.97g、および予め加熱乾燥処理を行ったベンゾフェノンを0.21g(富士フイルム和光純薬製、純度98%、ジエチル亜鉛に対して1重量%)添加し、室温で5時間撹拌した。この反応組成物のジエチル亜鉛の水素化体は水素原子質量換算で50ppm(減少率70%)に減少した。分析結果を表1に示す。
【0051】
実施例2
実施例1より添加剤の量をジエチル亜鉛に対して0.3重量%としたこと以外は実施例1と同様に行った。得られた組成物の分析結果を表1に示す。
【0052】
実施例3
実施例1よりジエチル亜鉛と添加剤との撹拌温度を50℃としたこと以外は実施例1と同様に行った。得られた組成物の分析結果を表1に示す。
【0053】
実施例4
実施例1より添加剤の種類をシクロヘキサノン(富士フイルム和光純薬製、純度99%)としたこと以外は実施例1と同様に行った。得られた組成物の分析結果を表1に示す。
【0054】
実施例5
実施例1より添加剤の種類をアセトフェノン(富士フイルム和光純薬製、純度99%)としたこと以外は実施例1と同様に行った。得られた組成物の分析結果を表1に示す。
【0055】
実施例6
実施例1より添加剤の種類を安息香酸ベンジル(富士フイルム和光純薬製、純度99%)としたこと以外は実施例1と同様に行った。得られた組成物の分析結果を表1に示す。
【0056】
実施例7
実施例1より添加剤の種類を安息香酸メチル(富士フイルム和光純薬製、純度98%)としたこと以外は実施例1と同様に行った。得られた組成物の分析結果を表1に示す。
【0057】
実施例8
実施例1より添加剤の種類をピバル酸(富士フイルム和光純薬製、純度98%)としたこと以外は実施例1と同様に行った。得られた組成物の分析結果を表1に示す。
【0058】
実施例9
実施例1より添加剤の種類を予めゼオラムにて脱水したピリジン(富士フイルム和光純薬製、純度99.5%)としたこと以外は実施例1と同様に行った。得られた組成物の分析結果を表1に示す。
【0059】
実施例10
実施例1より添加剤の種類を2,4,6-コリジン(東京化成工業製、純度98%)としたこと以外は実施例1と同様に行った。得られた組成物の分析結果を表1に示す。
【0060】
実施例11
実施例1より添加剤の種類を1-メチルイミダゾール(富士フイルム和光純薬製、純度98%)としたこと以外は実施例1と同様に行った。得られた組成物の分析結果を表1に示す。
【0061】
実施例12
実施例1より添加剤の種類をN,N-ジメチルアニリン(富士フイルム和光純薬製、純度99%)としたこと以外は実施例1と同様に行った。得られた組成物の分析結果を表1に示す。
【0062】
参考例1
特開2011-74069号公報に従い、添加剤の種類をα-メチルスチレン(富士フイルム和光純薬製、純度98%)としたこと以外は実施例1と同様に行ったが、反応組成物に含まれるジエチル亜鉛の水素化体は減少しなかった。分析結果を表1に示す。特開2011-74069号公報に記載の発明は、加熱下においての有機亜鉛化合物の安定性を高めて熱分解による金属亜鉛の発生を抑制することを目的とする発明であり、ジアルキル亜鉛の水素化体含有量の低減を目的とするものではない。
【0063】
参考例2
米国特許第4385003号明細書に従い、添加剤の種類を予め加熱乾燥処理を行ったアントラセン(富士フイルム和光純薬製、純度96%)に変えたこと以外は実施例1と同様に行ったが、反応組成物に含まれるジエチル亜鉛の水素化体は減少しなかった。分析結果を表1に示す。米国特許第4385003号明細書に記載の発明も、加熱下においての有機亜鉛化合物の安定性を高めて熱分解による金属亜鉛の発生を抑制することを目的とする発明であり、ジアルキル亜鉛の水素化体含有量の低減を目的とするものではない。
【0064】
実施例13
窒素置換を行ったSUS製撹拌機付き1Lオートクレーブに、ジエチル亜鉛の水素化体が水素原子質量換算で68ppm(18.3mg)含まれる原料のジエチル亜鉛270g(2.18mol)および予め加熱乾燥処理を行ったベンゾフェノンを2.72g(14.9mmol、富士フイルム和光純薬製、純度98%、ジエチル亜鉛に対して1wt%)添加し、室温で5時間撹拌した。この反応混合物18gを抜き出して分析したところ、ジエチル亜鉛の水素化体は水素原子質量換算で21ppm(減少率70%)に減少した。その後、残りの反応混合物252gを、オートクレーブに接続した、理論段数10段の充填物(スルザー製スルザーEXラボパッキン)が充填されたガラス製蒸留塔により、3kPaA、38℃、還流比3の条件で蒸留した。初留分38g(0.290mol)を留去したのち、主留分としてジエチル亜鉛の水素化体を水素原子質量換算で14ppm(減少率79%)含むジエチル亜鉛を169g(1.37mol、収率67%)得た。分析結果を表1に示す。
【0065】
参考例3
ベンゾフェノンを添加、混合せず、原料のジエチル亜鉛を実施例13と同様の条件でそのまま蒸留した。得られた主留分のジエチル亜鉛は、ジエチル亜鉛の水素化体が水素原子質量換算で39ppm(減少率43%)含まれていた。
【0066】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、ジアルキル亜鉛に関する技術分野に有用である。