(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170499
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】筆記具用インク収容部材
(51)【国際特許分類】
B43K 7/02 20060101AFI20231124BHJP
B32B 9/06 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
B43K7/02
B32B9/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082312
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】市川 秀寿
(72)【発明者】
【氏名】田中 沙希
(72)【発明者】
【氏名】高田 晃児
【テーマコード(参考)】
2C350
4F100
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350KC01
4F100AA19B
4F100AB11B
4F100AH06B
4F100AH06G
4F100AK03G
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100DG10A
4F100DG10C
4F100EH46
4F100EJ42
4F100JK02
4F100JK04
(57)【要約】
【課題】筆記具用紙製リフィールにおいて、いずれも紙を基材とする内層および外層に介在する中間層の材料を従来のアルミニウムからシリカに置き換えることにより、環境への影響をさらに低減した塗布具用液体収容部材を提供する。
【解決手段】紙基材の内層と、前記内層の外表面に形成された中間層と、前記中間層の外表面に形成された紙基材の外層とからなる少なくとも三層を有し、前記中間層が、酸化アルミニウム膜層、低分子シランで形成されたシリカ膜層、および、ポリシラザンで形成されたシリカ膜層のうち少なくとも一層を有することを特徴とする筆記具用インク収容部材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材の内層と、前記内層の外表面に形成された中間層と、前記中間層の外表面に形成された紙基材の外層とからなる少なくとも三層を有し、
前記中間層が、酸化アルミニウム膜層、低分子シランで形成されたシリカ膜層、および、ポリシラザンで形成されたシリカ膜層のうち少なくとも一層を有することを特徴とする筆記具用インク収容部材。
【請求項2】
前記中間層が、紙基材の片面または両面に、酸化アルミニウム膜層、低分子シランで形成されたシリカ膜層、または、ポリシラザンで形成されたシリカ膜層を有する、請求項1に記載の筆記具用インク収容部材。
【請求項3】
前記内層および中間層、または、前記中間層および外層が、オレフィン系接着剤またはシランカップリング剤で貼合される、請求項1または2に記載の筆記具用インク収容部材。
【請求項4】
前記内層および外層を形成する紙基材の少なくとも一方が、グラシン紙である、請求項1または2に記載の筆記具用インク収容部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙材を使用した筆記具用インク収容部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールペンなどの筆記具用のインク収容部材には、従来から、ポリプロピレンなどの透明もしくは半透明のプラスチックが用いられているが、近年、プラスチックの使用を控えるなど、地球環境問題に対する取り組みの気運が高まり、筆記具を構成する各部品についても、脱プラスチックに着目した提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、生分解性樹脂により成形された収容管基体の内側に、他の樹脂層を一層または二層以上成形してなる多層構造のインク収容管を用いた筆記具用インク収容部材が開示されている。これによると、生分解性樹脂により成形された収容管基体は、時間の経過と共に生分解されるので、廃棄処理量の少量化に貢献できると記載されている。
【0004】
一方、紙を基材として、これにバリア性を有する合成樹脂やアルミニウム等の金属を積層した複合材を用い、これをスパイラル成形してなる軸筒を備えた筆記具の提案もなされている(特許文献2)。
この軸筒は、耐水性やガスバリア性を向上させるために、軸筒の外面側から、裏面がクラフト紙からなるアルミ箔ラベル紙、およびライナー紙を二層重ねた後、さらに内面にポリエチレン層、次いでアルミ蒸着膜を外側に持つポリエステル膜を積層した構造を有している。特許文献2によると、紙基材を含む複合材を軸筒に用いることで、耐久性を維持しながら低公害化を達成し得る筆記具を提供することができる。
【0005】
また、特許文献3では、紙基材の内層と、該内層の外周面に形成され、金属層またはシリカ蒸着層である中間層とを備える紙基材積層体と、該中間層の外周面に形成された、紙基材からなる外層とからなる少なくとも三層を有する塗布具用液体収容部材が開示されている。前記液体収容部材では、紙基材積層体および外層をそれぞれの隣接面が重ならないように接触させてスパイラル状に巻き付けるとともに、外層同士の継目と紙基材積層体同士の継目とが1mm以上でかつ外層の幅の2分の1以下の間隔をおくようにすることで、インク漏れを防止している。
【0006】
特許文献4では、紙を基材としてインク収容管を構成し、該インク収容管の一端部を、筆記部材もしくは筆記部材を支持する中継部材に形成された接続部に結合した筆記具用インク収容部材が開示されている。前記インク収容部材では、筆記部材を支持する中継部材の接続部に、インク収容管に対する一定の接続強度を確保しうる係止手段を施すことで、実用性を有する筆記具を提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-146091号公報
【特許文献2】特開昭62-70097号公報
【特許文献3】特開2021-16976号公報
【特許文献4】特開2020-172044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、いずれのインク収容部材も、紙を基材としているため、紙基材に強度やガスバリア性等を付与するため、合成樹脂やアルミニウム等の金属を積層した複合材を用いている。例えば、アルミニウムは合金種が多く、高純度のアルミニウムを取り出すのが容易ではないなど、リサイクル性の点で問題があり、環境負荷軽減に向けてさらなる検討の余地がある。
本発明では、筆記具用紙製リフィールにおいて、いずれも紙を基材とする内層および外層に介在する中間層の材料を従来のアルミニウムから特定のシリカ膜に置き換えることにより、環境への影響をさらに低減させた塗布具用液体収容部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の筆記具用インク収容部材は、紙基材の内層と、前記内層の外表面に形成された中間層と、前記中間層の外表面に形成された紙基材の外層とからなる少なくとも三層を有し、前記中間層が、酸化アルミニウム膜層、低分子シランで形成されたシリカ膜層、および、ポリシラザンで形成されたシリカ膜層のうち少なくとも一層を有することを特徴とする。
前記中間層は、紙基材の片面または両面に、酸化アルミニウム膜層、低分子シランで形成されたシリカ膜層、または、ポリシラザンで形成されたシリカ膜層を有することが好ましい。
【0010】
前記内層および中間層、または、前記中間層および外層が、オレフィン系接着剤またはシランカップリング剤で貼合されることが好ましい。
前記内層および外層を形成する紙基材の少なくとも一方は、グラシン紙であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、いずれも紙基材からなる内層および外層の間の中間層を、酸化アルミニウム膜層、低分子シランを反応させて得られるシリカ膜層、および、ポリシラザンを反応させて得られるシリカ膜層のうち少なくとも一層とすることにより、中間層にアルミニウムを使用した従来の筆記具と比べて、インク収容部材に高い撥水性および耐久性を付与することができる。前記シリカ膜層は、紙基材の表面上で、低分子シランまたはポリシラザンを反応させて得られるシリカ被膜である。
前記中間層は、紙基材の片面または両面に、酸化アルミニウム膜またはシリカ膜の層を有する形態であってもよい。前記シリカ被膜は紙基材層に強く密着する。
内層、中間層または外層の間の接着剤として、環状オレフィンポリマーを用いることで、インク収容部材に高いガスバリア性を付与することができる。
本発明によれば、環境負荷をさらに低減した筆記具用インク収容部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、筆記具用インク収容部材において、内層および中間層の間、ならびに、内層および外層の間に接着剤層を有する形態を示す図である。
【
図2】
図2は本発明の筆記具用インク収容部材を含むリフィールの構成の一例を示す図である。
図2(a)はリフィールの外観の正面図であり、
図2(b)はリフィールのA-A’矢視断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の筆記具用インク収容部材を構成する内層、中間層および外層の三層または五層構造を示す図である。
図3(a)は、紙基材層、シリカ膜層(または酸化アルミニウム膜層)および紙基材層の三層構造において、紙基材層とシリカ膜層(または酸化アルミニウム膜層)との間に接着剤層を有する形態を示し、
図3(b)は、実施例1~4の形態の概略断面図であり、紙基材からなる内層と、紙基材層の両面にシリカ膜層(または酸化アルミニウム膜層)を有する中間層と、紙基材からなる外層とを有する五層構造において、内層および中間層の間、ならびに、中間層および外層の間に接着剤層を有する形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の筆記具用インク収容部材について、図面を参照しながら、以下詳細に説明する。
図2は、本発明の筆記具用インク収容部材10を含むリフィールの構成の一例を示す図であり、
図2(a)はリフィールの外観の正面図を示し、
図2(b)はリフィールのA-A’矢視断面図を示す。
【0014】
図2において、例えば、ボールペンの軸筒に収容されるリフィールは、紙を基材としかつ図示しないインクを収容する長細な円筒形状のインク収容管である筆記具用インク収容部材10(以下単に「インク収容部材10」ともいう。)と、このインク収容部材10の先端に装着された継手11と、筆記部材として継手11の先端に装着されたボールペンチップ12とを備えている。
【0015】
具体的にいうと、継手11には、インク収容部材10と接合する円筒形状の後端部分と、この後端部分よりも外径が大きい円筒形状の先端部分が形成され、この先端部分にボールペンチップ12が取り付けられている。また、継手11の後端部分にはインク収容部材10との接合部分に一定の接合強度を持たせるために予め接着剤を塗布しておき、この状態で、継手11の後端部分をインク収容部材10の先端内部に圧入することによって、継手11とインク収容部材10とを接合する。これにより、インク収容部材10とボールペンチップ12が、継手11を介してインクを流通可能に接続される。
【0016】
本発明の筆記具用インク収容部材10は、紙基材の内層1と、前記内層1の外表面に形成された中間層2と、前記中間層2の外表面に形成された紙基材の外層3とからなる少なくとも三層を有する。よって、前記筆記具用インク収容部材10は、例えば、前記三層構造に外層3をさらに重ねた四層構造であってもよいし、内層1、中間層2および外層3からなる三層構造を2回重ねた六層構造であってもよい。
図1は、三層構造のインク収容部材10において、内層1と中間層2との間、および/または、中間層2と外層3との間に接着剤層5を有する形態を表している。
【0017】
内層1および外層3を構成する紙基材としては、上質紙、中質紙、片艶紙、クラフト紙、片艶クラフト紙、晒クラフト紙、板紙、白板紙、ライナー、微塗工紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙、グラシン紙およびパーチメント紙など、各種公知のものが使用可能である。これらの紙基材は、一種または二種以上を併せて用いてもよい。
【0018】
これらの紙基材のうち、高密度で透明性が高く、耐油性および耐水性を有するグラシン紙が好ましい。グラシン紙は、バージンパルプを高度に叩解して抄紙し、スーパーキャレンダーで高圧加工し、パルプの繊維を圧縮・平滑化して緻密化したものであり、その厚さは、通常20~50μmである。グラシン紙の厚さは、内層1に用いる場合、20~60μmとするのが好ましく、外層に用いる場合、20~200μmとするのが好ましい。また、グラシン紙の密度は0.8g/cm3以上とすることが好ましい。
なお、インクと接触する内層1の内側には、撥水性を付与するため、シリコーンオイルなどを塗布してもよい。
【0019】
中間層2は、酸化アルミニウム膜層またはシリカ膜層を有する層である。前記シリカ膜層は、ポリシラザンまたは低分子シランを前駆体とする。
図3(a)は内層1および外層3の間の中間層2がシリカ膜である形態を概略的に表している。
前記中間層2は、紙基材の片面または両面に、酸化アルミニウム被膜またはシリカ被膜の層を有していてもよい。
図3(b)は、実施例1~4の形態の概略断面図であり、内層1および外層3の間の中間層2が紙基材を含む酸化アルミニウム膜層またはシリカ膜層を有する層である形態を概略的に表している。
紙基材には、内層1および外層3を構成する紙基材が用いられる。
ポリシラザンには、無機被膜を形成するパーヒドロポリシラザンと、被膜性能がより高い、無機有機ハイブリッド被膜を形成する有機ポリシラザンがある。
パーヒドロポリシラザンは、Si-H結合、N-H結合およびSi-N結合のみで構成される有機溶媒に可溶な無機ポリマーである。パーヒドロポリシラザンは、空気中の水分と反応してシリル基が導入され、アンモニアを発生させながら、縮合して、高硬度の非晶質シリカ被膜を形成する。パーヒドロポリシラザンの市販品には、例えば、Durazane2800(メルク社製)およびDurazane2200(メルク社製)など、有機溶剤に溶解した塗布液が知られている。
【0020】
有機ポリシラザン(オルガノポリシラザンともいう)は、例えば、メチルポリシラザンやジメチルポリシラザンなどである。有機ポリシラザンには、例えば、Durazane1033(メルク社製)およびDurazane1500 RC(メルク社製)などの市販品がある。
パーヒドロポリシラザンおよび有機ポリシラザンは、芳香族系もしくは環式脂肪族系溶剤、エーテル類、またはハロゲン化炭化水素などの揮発性の有機溶媒に溶解させた溶液を、ディップコーティング法またはスピンコーティング法を用いて、内層1および外層3の表面に塗布し、150~180℃で熱処理することにより、シリカ被膜を形成する。
前記ポリシラザンを用いて形成したシリカ被膜は、高硬度ゆえに脆いため、その厚みは、通常は300~1300μmが好ましく、500~900μmが特に好ましい。
【0021】
低分子シランは、分子内に複数の有機官能基と加水分解性のアルコキシ基とを有し、脱水架橋により非晶質シリカ被膜を形成するものである。低分子シランは低分子であるため、ポリシラザンに比べて内層1および外層3の表面の微細な凹凸に浸透しやすく、強い投錨効果で内層1および外層3に密着する。低分子シランを用いて形成したシリカ層の厚みは、300~1000μmが好ましく、500~900μmとすることが特に好ましい。
ポリシラザンおよび低分子シランを用いた場合も、その反応物であるシリカ被膜は、シリカ蒸着膜と比べて、高いガスバリア性を有する。
【0022】
内層1および中間層2の間、ならびに、中間層2および外層3の間には、接着剤からなる層(以下「接着剤層5」という。)を有してもよい。
接着剤には、オレフィン系接着剤またはシランカップリング剤が好ましい。オレフィン系接着剤またはシランカップリング剤は、内層1、中間層2および外層3の各層を貼り合わせる接着剤の役割をするとともに、紙基材を補強する役割もする。
【0023】
オレフィン系接着剤は、ポリエチレン系アイオノマー、ポリエチレンエラストマー、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレンアイオノマー、ポリプロピレンエラストマーおよび環状オレフィンポリマーなどのポリオレフィン樹脂からなる接着剤である。ポリオレフィン樹脂には、無水マレイン酸変性ポリプロピレンなどの変性ポリオレフィン樹脂も含まれる。これらのポリオレフィン樹脂のうち、ガスバリア性を付与できる点で、環状オレフィンポリマーが好ましい。
環状オレフィンポリマーは、例えば、ノルボルネン類を開環重合し水素添加して得られる重合体のようなシクロオレフィンポリマーや、テトラシクロドデセンとエチレン等のオレフィンとの共重合体のようなシクロオレフィンコポリマーなどである。
【0024】
オレフィン系接着剤として、前記ポリオレフィン樹脂から選ばれる一種または二種以上を組み合わせて使用してもよい。
前記オレフィン系接着剤は、内層1および外層3に直接塗布してもよいし、ポリオレフィン樹脂をベースポリマーとする、ディスパージョン型またはエマルション型の樹脂液の形態で使用してもよい。前記樹脂液には、必要に応じて、後述するシランカップリング剤を添加してもよい。
【0025】
シランカップリング剤は、有機化合物と反応する部位と、無機化合物と反応する部位との双方を有する化合物である。シランカップリング剤は、内層1または外層3の紙基材と、中間層2のシリカ被膜との界面を化学結合によって接着し、水の浸入を防ぐとともに、インク収容部材10の耐久性および耐候性を向上させることができる。好適なシランカップリング剤としては、エポキシ系、ビニル系、スチリル系、メタクリル系、アクリル系、アミノ系、イソシアヌレート系、ウレイド系、メルカプト系、イソシアネート系、および酸無水物系などが挙げられ、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、トリス(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランおよび3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物などが用いられる。
【0026】
例えば、オレフィン系接着剤またはシランカップリング剤を用いて内層1および中間層2を接着する場合、接着剤は、内層1または中間層2の中央付近に盛り上げるように塗布する。次いで、内層1と中間層2とを押し付けながら接着剤を接着面全面に広げて、接着部に気泡を残さず、接着欠陥部がないように両層を接着する。内層1および中間層2を貼り合わせた後、接着剤が硬化するまで加圧固定する。
内層1または中間層2に対して、前記接着剤は5~50g/m2程度、好ましくは5~25g/m2の量で塗布する。
【0027】
内層1、中間層2および外層3のそれぞれの厚み(μm)の割合は、通常、20~60:300~1000:20~200であり、好ましくは20~30:500~900:50~200である。
内層1または外層3の紙基材の厚さと、中間層2の酸化アルミニウム被膜またはシリカ被膜で形成される層の厚さの割合は、2/1~1200/1程度である。例えば、内層1および外層3の厚みの合計は40~260μmであり、中間層2の厚みは、300~1300μmである。
【0028】
内層1、中間層2および外層3がこの順に積層された貼合紙は、ボビンスリッターなどで4~20mmの幅に裁断することにより、帯状のシートとする。次いで、この帯状のシートをスパイラルマシンなどを用いて円筒状に丸めながら成形する。円筒状に成形するとは、前記所定の幅に裁断した貼合紙を1枚または複数枚、例えば2~4枚用いて、芯棒に巻いて貼り筒状にすることである。帯状のシートは、マンドレル(紙管製造機)に内層1が内側になるように巻き付ける。巻き方は、シートを芯棒にスパイラル(螺旋)状に巻きつける方法(スパイラル巻き)、および、シートを芯棒に対して直角に巻きつける方法(平巻き)などがあるが、強度の観点から、スパイラル巻きが好適である。なお、マンドレルには、マンドレルの引き抜きを容易にするため、予め適正な潤滑剤で表面を処理しておくか、内層1のマンドレルに巻き付ける側の面に適量の潤滑剤を塗布することが好ましい。貼合紙を二層以上重ねる場合は、外層3に接着剤を塗布して、さらに貼合紙の内層1が内側になるようにスパイラル状に巻き付ける。
【0029】
貼合紙をスパイラル状にマンドレルに巻き付けるためには、5~15mm幅の帯状シートにすることがより好ましい。このような幅広の貼合紙を用いてスパイラル巻きをすれば、数多く巻かなくても、必要とされる液体収容部材10の長さに到達でき、結果として、貼合紙同士の接触面の数が少なく、インク収容部材10内に収容されたインクの漏出を抑えることができる。
【0030】
前記のとおり、本発明のインク収容部材10の好ましい形態では、インク収容部材10の長手方向に沿って、貼合紙をその隣接面同士が重ならないように接触させてスパイラル状に巻いた構造を有する。この隣接面の重なりは、仮に貼合紙同士の接触箇所、すなわち、継目4,4’において隣接面同士が重なるとしても、重なり幅は最大1mmとする。継目4,4’を重ならないように接触させる、または重なり幅を最大1mmとすることで、継目4,4’からのインクの漏出を抑えることができる。継目4,4’において重なり幅が1mmを超えると該重なり部分に段差が生じ、インクが漏出することがある。
【0031】
スパイラル状に巻いた貼合紙の表面に別の貼合紙を重ねて巻く場合も、該別の貼合紙もその隣接面同士を接触させて巻くことが好ましい。ただし、二層以上の貼合紙を巻く場合、インク収容部材10の最外層となる貼合紙は、その継目同士が多少重なっても、液体の漏出の問題はない。
【0032】
インク収容部材10は、マンドレルを引き抜いた筒状の成形体を必要な所定の長さに切断し、適度な温度および湿度の下、数時間乾燥することにより完成する。
【0033】
前記インク収容部材10の寸法は、通常の筆記具に使用する寸法であり、特段制限されるものではないが、概ね、内径1.5~5mm、外径1.8~10mm、長さ30~150mmである。
【0034】
前記インク収容部材10の引張強度は、紙製包装体全体としても優れた強度を得る観点から、好ましくは3.5kN/m以上、より好ましくは4.5kN/m以上、さらに好ましくは5.5kN/m以上である。引張強度は、JIS P 8113:2006に規定される引張強度試験方法により測定する。
【0035】
本発明の筆記具は、例えば、万年筆、ボールペン、マーキングペン、サインペン、フェルトペン、修正具および筆ペンなどである。このとき、インク収容部材10に収容されるインクは、水性(ゲル)インクおよび油性インクのいずれでもよく、ペンの種類によって、ボールペン用、またはマーキングペン用などのインクが適宜使用される。
【実施例0036】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
本発明のインク収容部材は以下の方法により評価した。
(1)曲げ試験
支点間距離を64mmとして、紙管1の中央を曲げくさび治具により100mm/minの速さで押し付け、座屈時の測定値を曲げ強度とした。
曲げ強度が4.0N以上の場合を〇、2.0Nを超え4.0N未満の場合を△、2.0N以下の場合を×とした。
【0037】
(2)引張強度
横型引張試験機(熊谷理機工業株式会社製)を用いて、JIS P 8113:2006に規定される引張強度試験方法により測定した。
引張強度の強さが3.5kN/m以上の場合を〇、1.5kN/mを超え3.5kN/m未満の場合を△、1.5kN/m以下の場合を×とした。
【0038】
[実施例1]
上質紙(しらおい;日本製紙社製)の表面および裏面の全体に、低分子シランとしてテトラエトキシシラン(東京化成工業社製)15gと、有機ポリシラザン(Durazane1500RC;メルク社製)15gとをジブチルエーテルに溶解させた溶液を塗布し、180℃で加熱処理をすることにより、シリカ被膜を形成した。
次いで、上質紙の両面に形成させたシリカ被膜の上に、オレフィン系接着剤(ケミパールS500;三井化学社製)を塗布し、2枚の厚さ25μmのグラシン紙(坪量25g/m2、密度1.0g/cm3)で挟み込むように接着して、グラシン紙、シリカ被膜、上質紙、シリカ被膜およびグラシン紙からなる積層構造を有する貼合紙を作製した。貼合紙の厚さは791μm、シリカ被膜の合計厚さは571μm、接着剤層の合計厚さは8.5μmであった。
貼合紙はボビンスリッターで13mm幅に裁断した。
短冊形の貼合紙を紙管製造機(ラングストン)のマンドレルの外周面に巻回してスパイラル状の筒体を作製した。このとき、貼合紙は、それぞれ、その隣接面同士を重ねず、突き当てるように巻いた。
得られたスパイラルチューブを長さ89.3mmに断裁し、内径3.8mmのインク収容部材を得た。
結果を表1に示す。曲げ強度および引張強度とも〇であった。
【0039】
[実施例2]
実施例1において、オレフィン系接着剤に代えて、シランカップリング剤として3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-1083;信越シリコーン社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、貼合紙を作製した。
実施例1と同様にして、スパイラル状の筒体を作製し、断裁して、インク収容部材を得た。
結果を表1に示す。曲げ強度および引張強度とも〇であった。
【0040】
[実施例3]
実施例1において、オレフィン系接着剤のみでなく、オレフィン系接着剤(ケミパールS500 三井化学(株)製)とシランカップリング剤として3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(KBM-502:信越シリコーン社製)とを併用したこと以外は、実施例1と同様にして、貼合紙を作製した。
実施例1と同様にして、スパイラル状の筒体を作製し、断裁して、インク収容部材を得た。
結果を表1に示す。曲げ強度および引張強度とも〇であった。
【0041】
[実施例4]
上質紙(しらおい;日本製紙社製)の一方の片面に、低分子シランとしてテトラエトキシシラン(東京化成工業社製)15gと、有機ポリシラザン(Durazane1500RC;メルク社製)15gとをジブチルエーテルに溶解させた溶液を塗布し、180℃で加熱処理をすることにより、シリカ被膜を形成した。
次いで、前記上質紙の他方の片面にスパッタリングにより酸化アルミニウム膜を成膜した。
上質紙のシリカ被膜および酸化アルミニウム膜の表面に、オレフィン系接着剤(ケミパールS500 三井化学(株)製)と3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(KBM-502:信越シリコーン社製)とを含む樹脂液を塗布し、2枚の厚さ25μmのグラシン紙(坪量25g/m2、密度1.0g/cm3)で挟み込むように接着して、グラシン紙、シリカ被膜、上質紙、酸化アルミニウム膜およびグラシン紙からなる積層構造を有する貼合紙を作製した。貼合紙の厚さは785μm、シリカ被膜の厚さは456μm、酸化アルミニウム膜の厚さは114μm、接着剤層の合計厚さは8.5μmであった。
実施例1と同様にして、スパイラル状の筒体を作製し、断裁して、インク収容部材を得た。
結果を表1に示す。曲げ強度および引張強度とも〇であった。
【0042】
[比較例1]
上質紙(しらおい;日本製紙社製)の表面および裏面の全体に、厚さ10μmのシリカ蒸着膜を形成した。
次いで、上質紙に両面に形成されたシリカ蒸着層の上に、オレフィン系接着剤(ケミパールS500 三井化学(株)製)を塗布し、2枚の厚さ25μmのグラシン紙(坪量25g/m2、密度1.0g/cm3)で挟み込むように接着して、グラシン紙、シリカ蒸着層、上質紙、シリカ蒸着層およびグラシン紙からなる積層構造を有する貼合紙を作製した。貼合紙の合計厚さは757μm、シリカ蒸着膜の合計厚さは610μm、接着剤層の合計厚さは6.1μmであった。
貼合紙はボビンスリッターで13mm幅に裁断した。
実施例1と同様にして、スパイラル状の筒体を作製し、断裁して、インク収容部材を得た。
比較例1のインク収容部材では、中間層2がシリカ蒸着膜であるために、実施例1~3のインク収容部材10に比べて、充分な強度が得られなかった。
【0043】
[参考例]
比較例1において、上質紙(しらおい;日本製紙社製)の表面および裏面の全体に、シリカ蒸着層ではなく、厚さ6.5μmのアルミニウム箔を貼り合わせたこと以外は、比較例1と同様にして、グラシン紙、アルミニウム箔、上質紙、アルミニウム箔およびグラシン紙からなる積層構造を有する貼合紙を作製した。貼合紙の合計厚さは732μm、アルミニウム箔の合計厚さは602μm、接着剤層の合計厚さは6.5μmであった。
貼合紙はボビンスリッターで13mm幅に裁断した。
実施例1と同様にして、スパイラル状の筒体を作製し、断裁して、インク収容部材を得た。
中間層2をアルミニウム箔とした、参考例のインク収容部材は、実施例1~4のインク収容部材10と性能の点で同等であるが、アルミニウムは、環境負荷やリサイクル性の点で問題があり、代替材料の検討が課題である。
【0044】
実施例1~4、比較例1および参考例におけるインク収容部材の材料および評価結果を表1に示す。
【表1】
【0045】
なお、本実施形態においては、一例として、紙基材の両面にシリカ膜層または酸化アルミニウム膜層が形成された中間層2を一層とする構成としたが、これに限られるものではない。中間層2の層数については、例えば、筆記具の使用条件や製品仕様(材料、寸法など)に応じて、二層または三層以上であってもよい。この場合、中間層2のうち最も外側層以外の層(最内層および中間層)は、その少なくとも一層を紙基材層としてもよい。さらに、中間層2の各層を密着させる接着剤層についても、インク収容部材10の外部にインクが漏出する不具合を防止することができればよく、筆記具の使用条件や製品仕様などに応じて、中間層2の最も外側層以外の層(最内層および中間層)のうち一層以上あればよい。