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特開2023-170527海藻由来廃棄物のアルカリ発酵処理法、発酵液体肥料および発酵液体飼料
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  • 特開-海藻由来廃棄物のアルカリ発酵処理法、発酵液体肥料および発酵液体飼料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170527
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】海藻由来廃棄物のアルカリ発酵処理法、発酵液体肥料および発酵液体飼料
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/60 20220101AFI20231124BHJP
   C05G 5/20 20200101ALI20231124BHJP
   C05F 11/08 20060101ALI20231124BHJP
   A23K 10/37 20160101ALI20231124BHJP
   A23K 10/12 20160101ALI20231124BHJP
【FI】
B09B3/60 ZAB
C05G5/20
C05F11/08
A23K10/37
A23K10/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082352
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】722005547
【氏名又は名称】株式会社e環境
(71)【出願人】
【識別番号】322013203
【氏名又は名称】合同会社科研E&BCバイオサイクル研究所
(72)【発明者】
【氏名】久米 秀
(72)【発明者】
【氏名】佐野 勝之
【テーマコード(参考)】
2B150
4D004
4H061
【Fターム(参考)】
2B150AC01
2B150AE41
2B150BC03
4D004AA04
4D004BA04
4D004CA18
4D004CA35
4D004CC12
4D004DA03
4D004DA20
4H061AA01
4H061EE61
4H061EE66
4H061FF01
4H061GG48
4H061HH07
4H061JJ02
4H061KK03
4H061KK07
4H061KK08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】海藻由来廃棄物を短期間で低コストで発酵処理して、従来廃棄していたものから、発酵液体肥料または発酵液体飼料を得て有効利用をはかる。
【解決手段】本発明は、海藻由来廃棄物を好熱性細菌群の希釈水に入れ、さらに強アルカリ性物質を用いてpH7~9のアルカリ領域で静置法による発酵分解させることを特徴とする海藻由来廃棄物のアルカリ発酵処理法である。また、アルカリ発酵処理法による発酵液体肥料または発酵液体飼料を得る。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海藻由来廃棄物を好熱性細菌群の希釈水に入れ、さらに強アルカリ性物質を用いてpH7 ~9のアルカリ領域で、静置法の発酵分解により生成し、培養物を得ることを特徴とす る海藻由来廃棄物のアルカリ発酵処理法。
【請求項2】
海藻由来廃棄物を好熱性細菌群の希釈水に入れ、さらに強アルカリ性物質を用いてpH7 ~9のアルカリ領域で、静置法の発酵分解により種菌用培養物に生成し、前記種菌用培 養物と好熱性細菌群混合物の希釈水に海藻由来廃棄物を入れ、さらに強アルカリ性物質 を用いてpH7~9のアルカリ領域で静置法の発酵分解により生成した培養物を得ること を特徴とする海藻由来廃棄物のアルカリ発酵処理法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の海藻由来廃棄物のアルカリ発酵処理法により、海藻由来 廃棄物を発酵処理した培養物からなる発酵液体肥料。
【請求項4】
請求項1または請求項2記載の海藻由来廃棄物のアルカリ発酵処理法により、海藻由来 廃棄物を発酵処理した培養物からなる発酵液体飼料。





















【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海藻由来廃棄物のアルカリ発酵処理法、発酵液体肥料および発酵液
体飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
好熱性細菌群とは、好熱性放線菌サーモアクチノミセスSK 053sp.nov.( 工業技術院生命工学工業技術研究所 受託番号FERM P-13598)と、好熱性 繊維素分解菌クロストリジュウム・サーモセルムSK522(微工研条寄第3459号 )を主用菌として共生的に混合培養された、生育pHが広く、アルカリ領域でも強い活 性を持つ細菌群である。
ここで、前記好熱性放線菌サーモアクチノミセスSK 053sp.nov.は、サー モアクチノミセス属に属し、10~85℃の温度範囲とpH5.3~10.8の広範囲pHでの生 育能を有し、リグニン可溶化能と繊維素分解能を有する好熱性放線菌である。
また、前記好熱性繊維素分解菌クロストリジュウム・サーモセルムSK522は、クロ ストリジウム属に属し、40~80℃の温度範囲とpH6~9.5で生育し、リグニン可溶化能 を有し、繊維素を旺盛に分解する好熱性繊維素分解菌である。
【0003】
海藻由来廃棄物は、ミネラル・アミノ酸・ビタミン類などが豊富なことから良質な飼料 や肥料等への有効利用が望まれてきた。しかし、水分が87%以上あり、腐敗も早いこ と・収穫時期が一時期に重なることなどから、大半の海藻由来廃棄物が有効に利用され ず今日に至っている。
【0004】
乾燥させ粉砕すると飼料に使うことが出来るが、水分が多く乾燥・粉砕に専用のプラン トが必要なほか、熱源のエネルギーもランニングコストとしてかかり、高価な飼料とな るので具体化されていない。
【0005】
廃棄物処理としては、焼却により処理されて来たが、水分が多くしかも塩水なので焼却 施設の炉が傷み敬遠されるようになり、埋め立て処理もされているが、いずれにしても 高額の処理費用を要している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】公開特許公報 2005-74423
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以前よりわかめや昆布など海藻由来廃棄物の有効利用が考えられてきたが、水分含有量 の多さと、処理開始時の腐敗等の異常分解が早いことで、容易に有効利用する策が無か った。
【0008】
また、ほとんどの海藻は収穫時期が限られていて、短期間に大量の海藻由来廃棄物が発 生し、容易に処理することが出来ず、不法投棄など社会問題になったこともある。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、海藻由来廃棄物を短期間低コストで発酵処理し、発 酵液体肥料または発酵液体飼料にして有効利用をはかることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、海藻由来廃棄物を発酵処理により有効利用するという従来困難とされて きた手法を下記のようなアルカリ発酵処理法により培養物とし、発酵液体肥料または発 酵液体飼料として有効利用する。
【0011】
海藻由来廃棄物の処理方法その一は、海藻由来廃棄物を好熱性細菌群の希釈水
に入れ、さらに強アルカリ性物質を用いてpH7~9のアルカリ領域で、静置法
の発酵分解により生成し、培養物を得ることを特徴とする海藻由来廃棄物のア
ルカリ発酵処理法。
【0012】
海藻由来廃棄物の処理方法その二は、海藻由来廃棄物を好熱性細菌群の希釈水に入れ、 さらに強アルカリ性物質を用いてpH7~9のアルカリ領域で、静置法の発酵分解により 種菌用培養物に生成する。前記種菌用培養物と好熱性細菌群混合物の希釈水に海藻由来 廃棄物を入れ、さらに強アルカリ性物質を用いてpH7~9のアルカリ領域で静置法の発 酵分解により生成した培養物を得ることを特徴とする海藻由来廃棄物のアルカリ発酵処 理法。
【0013】
請求項1または請求項2記載の海藻由来廃棄物のアルカリ発酵処理法により、
海藻由来廃棄物を発酵処理した培養物からなる発酵液体肥料。
【0014】
請求項1または請求項2記載の海藻由来廃棄物のアルカリ発酵処理法により、
海藻由来廃棄物を発酵処理した培養物からなる発酵液体飼料。
【発明の効果】
【0015】
本発明により発酵液体肥料や発酵液体飼料に有効利用できる。
【0016】
以前よりワカメや昆布など海藻由来廃棄物の有効利用が考えられてきたが、水分含有量 の多さ、収獲から腐敗等までの異常分解が早いこと、またほとんどの海藻は収穫時期が 限られていて、短期間に大量の海藻由来廃棄物が発生し、容易に処理することが難しい ことから、今まで大量に廃棄物として処理されてきたが、本発明により発酵液体肥料や 発酵液体飼料に有効利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ワカメ廃棄物(刈根)を投入した図である。
図2】櫂による攪拌と水酸化ナトリウムでpH調整をしている図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の実施形態のその一は、海藻由来廃棄物を好熱性細菌群の50倍希釈水に入れ、さら に強アルカリ性物質である水酸化ナトリウムを用いてpH7~9のアルカリ領域で静置法 により発酵分解させることを特徴とする海藻由来廃棄物のアルカリ発酵処理法である。
【0019】
発明の実施形態その二は、海藻由来廃棄物を好熱性細菌群の50倍希釈水に入れ、さらに 強アルカリ性物質を用いてpH7~9のアルカリ領域で、静置法による発酵分解させるこ とにより生成した培養物を得る。この培養物を種菌とした50倍希釈水に、海藻由来廃棄 物を入れ、さらに強アルカリ性物質を用いてpH7~9のアルカリ領域で静置法による発 酵分解し、培養物を得ることを特徴とする海藻由来廃棄物のアルカリ発酵処理法である 。
【0020】
発明の実施形態のその三は、前記その一とその二に記載の何れかのアルカリ発酵処理法 により、海藻由来廃棄物を発酵処理して製造した培養物から、異物・澱などを除去して 発酵液体肥料または発酵液体飼料として有効利用することである。
【0021】
ワカメ廃棄物の成分は、(100g中)水分89.0g、たんぱく質、脂質0.2g,炭水化物5. 6g、灰分3.3g(内訳 食塩含有量1.8g、ナトリウム450mg、カリウム570mg、カル
シウム220mg、マグネシウム78mg、鉄23mgであった。
(食品標準分析表より)
【0022】
ワカメ廃棄物の本発明のアルカリ発酵処理法により生成した培養物をアピザイムによる 酵素活性測定によると、プロテアーゼ、セルラーゼなどの酵素活性が認められ、ワカメ 廃棄物の繊維質分解の成果が認められた。
【0023】
本発明の海藻由来廃棄物処理方法その二により生成した種菌用培養物は、好熱性細菌群 よりも菌数は多く存在するが異なる菌叢になって行くので、種菌用培養物の25~50%重 量の好熱性細菌群を同時に添加することで、効率的な発酵分解を行うことが出来る。( 以下、好熱性細菌群と培養物の混合物を好アルカリ性微生物と呼ぶ)種菌用の培養物の 保管はpH8.5~pH9.5でポリ容器などに密閉状態で冷暗所にて保存する。(保存期 間1年以内)
【0024】
図1図2、グラフ1を参照しながら、本発明の実施形態をワカメ廃棄物dを用いた例 で説明する。ワカメ廃棄物dは、ワカメ収穫時に発生する副産物で、見た目が悪く商品 化できない葉の部分、食品化できない芯の硬い部分や根の部分である。
先ず発酵槽aに、ワカメ廃棄物dの重量の1.4倍の好アルカリ性微生物cを50倍に希釈 して得られた水溶液を入れ、更にワカメ廃棄物dを入れ浸した状態にする。次に櫂bを 使って良く攪拌しながら水酸化ナトリウム水溶液eを添加し、pH9に調整する。その後 毎日1回攪拌を行った後にpHを測定し、pH7以下になっていれば水酸化ナトリウム 水溶液eを添加してpH9に調整する。この作業をpHが下がらなくなるまで繰り返し行 う。この時、ワカメ廃棄物などの固形物の減少とpHの下がり方で発酵の進み具合がよ くわかる。発酵が終わるとpHが下がらなくなるのでアルカリ発酵処理法による発酵分 解の終了の目安とする。
【0025】
2021年3月17日より発酵を開始したワカメ廃棄物発酵pH推移をグラフ1に示す。ワカメ 廃棄物dを本発明の静置法によるアルカリ発酵処理に従って図1に示した発酵槽にて仕 込み、毎日1回撹拌した後、pHを測定しpH7以下になった場合は、水酸化ナトリウム 水溶液eを添加してpH9に調整した。この操作をくり返し行ったところ、4月21日よ りpHが下がらなくなった事を確認し、5月3日に発酵が終了した。pHが下がらなく なったことを確認してから10日以上経過してから終了とすることが望ましい。(表のよ うに4月21日以降は、ほとんどpHが下がらなくなった。)
なお、pHの下がり具合は液温により変化するので、あくまでpHの状況とワカメ刈根 残渣の減少具合により発酵状況を判断する。発酵終了時、ワカメの残渣個体は微量しか 見当たらず、液体発酵で見られる澱が発生している。
【0026】
【表1】

























【0027】
本発明のアルカリ発酵処理法で、pH7以下の領域で発酵を進めようとすると、カビや 細菌、酵母などの雑菌が多く繁殖して腐敗しやすい。
このとき、発酵処理しているときに腐敗してしまうとpH4程度に急激に下がるので注 意しなければならない。しかし、本アルカリ発酵処理の条件
pH7~pH9で仕込んでいれば、想定以上の条件の悪化が無いと腐敗に走ることはな い。
また、pHが9以上の領域で発酵を進めようとすると、ワカメ廃棄物dの繊維質がアル カリにより分解してしまうため、培養物の微生物での分解によるアミノ酸やミネラル等 の有用物が減少し、肥料・飼料としての効能が低下する。
【0028】
発酵液体肥料または発酵液体飼料として利用するについて、液体発酵で発生する澱につ いては微生物の塊とも言われているが、異物や他の不溶性の物も含まれる場合を考えて メッシュ網によりろ過している。澱は非常に細かい粒子で出来ているので、メッシュに 目詰まりを起こすことが多い、そこで、ろ過面積を広くして液体内で行いメッシュに水 圧がかかりにくくすると比較的スムーズにろ過出来る。
発酵液体肥料については散布する管路細部や機器などに詰まらないよう澱も除去した方 が良いが、発酵液体飼料については澱は残した方が良いと考えられる。
【0029】
静置法による発酵分解とは、エアレーションは行わず櫂bなどにより一日1回撹拌した 後、静置し発酵分解させることであり、例えば発酵槽に今回使用のワカメ廃棄物dに好 熱性細菌群cの希釈水を加え、浸した状態にする。次に櫂bを使って良く攪拌しながら 水酸化ナトリウム水溶液eを添加し、pH9に調整し、発酵槽内の発酵液を静置する。そ の後毎日1回櫂bを使って攪拌を行った後pHを測定し、pH7以下になった場合は水 酸化ナトリウム水溶液eを添加してpH9に調整する。pH7以上の場合は櫂bによる発 酵液の攪拌は行わずに静置する。この操作をpHが下がらなくなるまで繰り返し行い発 酵を進める。このように水酸化ナトリウムと発酵液を混合するため及び発酵液のpHを 均一にするために一時的に撹拌し、その後は静置して発酵分解を進める方法を静置法に よる発酵分解とした。
【0030】
海藻由来廃棄物のアルカリ発酵処理法実施時において、ワカメ廃棄物dへの好アルカリ 性微生物の接種量を2倍にする事や、仕込み当初60℃の液温で発酵させると、有害な毒 性をもつ糸状菌や細菌の繁殖を抑え、より高価な発酵液体肥料や発酵液体飼料を得るこ とができる。
【0031】
本発明により生産された発酵液体肥料については、圃場や施設園芸の農作物や果樹、観 葉植物などにアルカリ発酵処理法により生成した培養物を水で100~500倍に希釈して 潅水や葉面散布で与える事により、連作障害の緩和、発根促進作用など樹勢を高める作 用を発揮することができる。
【0032】
同じ様に、発酵液体飼料についてもアルカリ発酵処理法により生成した培養物の希釈水 を、家畜の飼料や飲水に添加する事により、生菌製剤のように腸内細菌のバランスを整 え免疫力を上げる事が期待されている。
【産業上の利用可能性】
【0033】
ワカメ廃棄物の処理法が確立できると廃棄していた物の有効利用が可能なことから、か なりの経済効果が期待できる。また、ワカメ廃棄物だけでなく、昆布等の未利用海藻由 来廃棄物の有効利用も可能になる。
【符号の説明】
【0034】
a 発酵槽
b 櫂
c 好アルカリ性微生物希釈水
d ワカメ廃棄物
e 水酸化ナトリウム水溶液




図1
図2