(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170528
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】ケミカルセンサの保存方法、及びケミカルセンサの封止構造
(51)【国際特許分類】
G01N 27/00 20060101AFI20231124BHJP
G01N 27/414 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
G01N27/00 J
G01N27/414 301Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082354
(22)【出願日】2022-05-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/フィジカル空間デジタルデータ処理基盤/サブテーマII:超低消費電力IoTデバイス・革新的センサ技術/超高感度センサシステムの研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 弥夕
(72)【発明者】
【氏名】杉崎 吉昭
(72)【発明者】
【氏名】富澤 英之
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA05
2G060AA15
2G060AD06
2G060AE16
2G060DA15
2G060FA07
2G060GA04
2G060JA07
2G060KA09
(57)【要約】
【課題】 プローブ分子が修飾された感応膜を具備するケミカルセンサを安定的に長期間保存することを可能にする、封止構造及び保存方法を提供する。
【解決手段】 実施形態に従う封止構造は、基板と、基板上に設けられた感応膜と、感応膜の表面に固定されている、標的物質を捕捉するためのプローブ分子とを備えるセンサ素子とを具備するケミカルセンサに適用される構造であって、プローブ分子が固定化されている感応膜表面を被覆し、かつ、水溶性材料から構成される保護膜からなる。実施形態に従う保存方法は、(S1)感応膜の少なくとも一部の表面に標的物質を捕捉するためのプローブ分子が固定化されたセンサ素子を具備するケミカルセンサを用意する工程、及び、(S2)プローブ分子が固定化された感応膜表面を被覆するように水溶性材料からなる保護膜を感応膜表面上に形成する工程を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的物質を検出するための感応膜を備えるケミカルセンサを保存する方法であって、
(S1)前記感応膜の少なくとも一部の表面に、前記標的物質を捕捉するためのプローブ分子が固定化された前記ケミカルセンサを用意する工程;及び
(S2)前記プローブ分子が固定化された前記表面を被覆するように、水溶性材料からなる保護膜を前記表面に形成する工程;
を含む、該方法。
【請求項2】
標的物質を検出するための感応膜を備えるケミカルセンサを保存する方法であって、
(S1)基板と、前記基板から立設し、前記基板上に開口部を形成する側壁と、前記開口部から、プローブ分子が固定化された表面を外部環境へと露出する感応膜とを備えるケミカルセンサを用意する工程;及び
(S2)前記開口部を封止するように、水溶性材料からなる保護膜を形成する工程;
を含む、該方法。
【請求項3】
前記水溶性材料は水溶性樹脂である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記水溶性樹脂は水溶性プラスチックである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記水溶性プラスチックはポリビニルアルコールである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
標的物質を検出するための感応膜を備えるケミカルセンサを保存する方法であって、
(S1)前記感応膜の少なくとも一部の表面に、前記標的物質を捕捉するためのプローブ分子が固定化された前記ケミカルセンサを用意する工程;及び
(S2)前記プローブ分子が固定化された前記表面を被覆するように、第1の水溶性材料からなる第1保護膜を前記表面上に形成する工程;
(S3)前記第1保護膜を被覆するように、第2の水溶性材料からなる第2保護膜を前記第1保護膜に形成する工程;
を含み、
前記第1の水溶性材料は、前記第2の水溶性材料よりも水溶性、及び、前記表面との接着性が高い、該方法。
【請求項7】
前記第1の水溶性材料及び前記第2の水溶性材料は水溶性樹脂である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記水溶性樹脂は水溶性プラスチックである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記水溶性プラスチックはポリビニルアルコールである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
基板と、
前記基板に設けられた感応膜と、
前記感応膜の表面に固定されている、標的物質を捕捉するためのプローブ分子と、
を備えるセンサ素子を具備するケミカルセンサに適用される構造であって、
前記プローブ分子が固定化されている前記感応膜表面を被覆し、かつ、水溶性材料から構成される保護膜からなる、前記センサ素子の封止構造。
【請求項11】
基板と、
前記基板から立設し、前記基板上に開口部を形成する側壁と、
前記開口部から、標的物質を捕捉するためのプローブ分子が固定化されたその表面を外部環境へと露出する感応膜とを備えるセンサ素子を具備するケミカルセンサに適用される構造であって、
前記開口部を封止し、かつ、水溶性材料から構成される保護膜からなる、前記センサ素子の封止構造。
【請求項12】
前記水溶性材料は水溶性樹脂である、請求項10又は11に記載の封止構造。
【請求項13】
前記水溶性樹脂は水溶性プラスチックである、請求項12に記載の封止構造。
【請求項14】
前記水溶性プラスチックはポリビニルアルコールである、請求項13に記載の封止構造。
【請求項15】
前記センサ素子は、前記感応膜に電気的に接続されたソース電極及びドレイン電極と、前記感応膜に電界を印加するためのゲート電極を備える、請求項10又は11に記載の封止構造。
【請求項16】
前記ソース電極及び前記ドレイン電極は、絶縁体によって被覆されている、請求項15に記載の構造。
【請求項17】
前記保護膜が液貯構造を形成している、請求項10に記載の封止構造。
【請求項18】
請求項10又は11に記載の前記センサ素子を複数備える、ケミカルセンサに適用される構造であって、
それぞれの前記センサ素子の前記プローブ分子が固定化されている前記表面をそれぞれ覆い、かつ、水溶性材料から構成される、複数の保護膜からなる前記ケミカルセンサの封止構造。
【請求項19】
請求項10に記載の前記センサ素子を複数備える、ケミカルセンサに適用される構造であって、
それぞれの前記センサ素子の前記プローブ分子が固定化されている前記表面を被覆し、かつ、水溶性材料から構成される、1つの保護膜からなる前記ケミカルセンサの封止構造。
【請求項20】
請求項11に記載の前記センサ素子を複数備える、ケミカルセンサに適用される構造であって、
前記側壁及び前記開口部は、複数の前記センサ素子間で共有されており、
前記開口部を封止し、それぞれの前記センサ素子の前記プローブ分子が固定化されている前記表面を覆い、かつ、水溶性材料から構成される、1つの保護膜からなる前記ケミカルセンサの封止構造。
【請求項21】
基板と、前記基板に設けられた感応膜とを備えるセンサ素子を複数備える、ケミカルセンサに適用される構造であって、
それぞれの前記センサ素子の前記感応膜の表面を被覆し、かつ、プローブ分子を含む水溶性材料から構成される、複数の保護膜からなる前記ケミカルセンサの封止構造。
【請求項22】
それぞれの前記保護膜ごとに、前記水溶性材料に含有される前記プローブ分子の種類が互いに異なる、請求項21に記載の封止構造。
【請求項23】
請求項10又は11に記載の封止構造を備えるケミカルセンサを使用する方法であって、
(S1)前記ケミカルセンサの前記保護膜を除去するための水溶液、及び、前記ケミカルセンサを用意する工程;並びに
(S2)用意した前記ケミカルセンサの前記保護膜に、前記水溶液を滴下する工程;を含む、該方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ケミカルセンサの保存方法、及びケミカルセンサの封止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
プローブ分子が修飾された感応膜を具備するケミカルセンサを安定的に長期間保存することを可能とする、ケミカルセンサの保存方法及び封止構造を確立することが求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題は、プローブ分子が修飾された感応膜を具備するケミカルセンサを安定的に長期間保存することを可能にする、封止構造及び保存方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
実施形態に従うケミカルセンサの保存方法は、(S1)感応膜の少なくとも一部の表面に、標的物質を捕捉するためのプローブ分子が固定化されたケミカルセンサを用意する工程、及び(S2)プローブ分子が固定化された表面を被覆するように、水溶性材料からなる保護膜を表面上に形成する工程を含む。
【0005】
また、実施形態に従うケミカルセンサの封止構造は、基板と、基板上に設けられた感応膜と、感応膜の表面に固定されている、標的物質を捕捉するためのプローブ分子とを備えるセンサ素子を具備するケミカルセンサに適用される構造であって、プローブ分子が固定化されている感応膜表面を被覆し、かつ、水溶性材料から構成される保護膜からなる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る、ケミカルセンサの封止構造の一例を示す概略図であり、(a)はケミカルセンサに適用される封止構造を示し、(b)は(a)に示したケミカルセンサが電極を被覆する絶縁体をさらに備える場合に適用される封止構造を示す。
【
図2】
図2は、第2実施形態のケミカルセンサの一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、第3実施形態に係る、標的物質を検出するための感応膜を備えるケミカルセンサを保存する方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、第4実施形態に係る方法、すなわち、第1実施形態及び第2実施形態に係る封止構造を具備するケミカルセンサの使用方法を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、第4実施形態に係る方法のうち、第2実施形態に係る封止構造を備えるケミカルセンサの使用方法を示す図である。
【
図6】
図6は、第5実施形態に係る、ケミカルセンサの封止構造を示す概略図であり、(a)は、除去溶液が滴下される面がアーチ状である封止構造を示し、(b)及び(c)は、除去溶液が滴下される面が液貯構造を形成している封止構造を示す。
【
図7】
図7は、第6実施形態に係る、ケミカルセンサの封止構造を示す概略図である。
【
図8】
図8の(a)は、複数のセンサ素子を具備する、封止構造を形成する前のケミカルセンサを示す概略図であり、(b)は(a)中の囲み部Aの拡大図を示す。
【
図9】
図9は、第7実施形態に係る封止構造、すなわち、複数のセンサ素子を具備するケミカルセンサのうちの各センサ素子の封止構造を示す概略図である。
【
図10】
図10は、第7実施形態に係る、複数のセンサ素子を具備するケミカルセンサの封止構造を示す概略図であり、(a)は、センサ素子ごとに1つの保護膜を具備する構成を示し、(b)及び(c)は、各センサ素子が1つの保護膜を共有する構成を示す。
【
図11】
図11は、第7実施形態に係る、ケミカルセンサの封止構造を示す概略図であり、(a)は、封止構造を形成するための土手部を備えるケミカルセンサを示し、(b)は、(a)に示すケミカルセンサに封止構造が形成された構成を示す、(a)中のii-ii線に沿う断面図である(波線部はそれらに挟まれた構造が繰り返されていることを示す)。
【
図12】
図12は、第8実施形態に係る、ケミカルセンサの封止構造を示す概略図である。
【
図13】
図13は、第8実施形態に係る封止構造を具備するケミカルセンサの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態について、添付の図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、各部の厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0008】
(第1実施形態)
第1実施形態では、ケミカルセンサを保存するための封止構造として、大気中の標的物質を検出するガスセンサの封止構造を例に挙げて説明する。なお、ケミカルセンサは、感応膜に接触した溶液に含まれる標的物質を検出対象としてもよい。また、標的物質の測定に供するガスセンサとして、
図1(a)に示すようなFETの構成をとるセンサ素子1を具備するガスセンサを例示して説明する。
【0009】
センサ素子1は、半導体材料からなる基板2と、基板2上に設けられた絶縁層3と、絶縁層3上に設けられた感応膜4とを具備する。基板2は、その面上に感応膜4を載置するための基板であり、例えば、シリコン、ゲルマニウム、窒化ガリウム、又は炭化ガリウムなどの半導体物質や種々の導電物質、絶縁物質から構成される。絶縁層3は、絶縁性を有し、例えば、二酸化ケイ素又はゴム絶縁性の物質などから構成される。また、センサ素子1の電気的接続として、感応膜4の一方の端部に一方の電極5が、感応膜4の他方の端部に他方の電極6が接続されている。
【0010】
センサ素子1の感応膜4の一部の表面は、センサとしての測定に使用される際に、外部環境に露出するように構成されている。すなわち、
図1(a)に例示するガスセンサにおいては、一方の電極5及び他方の電極6を側壁として形成される開口部から、感応膜4の表面(以下、感応膜表面4aと呼ぶ)が外部環境に露出し得る。ここで、「外部環境」とは、例えば標的物質を含有する大気である。
【0011】
感応膜4は、プローブ分子7が標的物質を捕捉した際に生じる物理・化学的な変化を、電気的特性の変化として感応する。感応膜4は、例えば単層グラフェン、積層グラフェン、グラファイト、カーボンナノチューブなどの炭素同素体、又は、例えば二酸化スズなどの金属酸化物などから作成してもよい。
【0012】
感応膜表面4aには、センサとしての測定に使用される際に標的物質を捕捉するためのプローブ分子7が固定されている。プローブ分子7は、標的物質に特異的な結合性・吸着性を有する物質である。プローブ分子7は、例えば、酵素や抗体等のタンパク質、核酸アプタマー、ペプチドアプタマーやそのモチーフを備えた誘導体である。プローブ分子7は、感応膜4と共有結合する物質であってもよいし、感応膜4への吸着性を有するリンカー部分8を含んでいてもよい。感応膜4が炭素同素体から形成される場合、プローブ分子7は、リンカー部分8として例えば多環芳香族を含む。
【0013】
電極5,6は、感応膜4の電気特性の変化を電気信号としてセンサ素子1の外部に出力する。例えば、センサ素子1の動作時に電極5,6間に所定の電圧を印加して、電極5,6間の変化をもとに感応膜4の電気特性の変化を検出できる。
【0014】
感応膜4及び電極5,6は、電界効果トランジスタ(FET)として機能する。電極5,6は、ソース電極又はドレイン電極である。センサ素子1は、感応膜4に電界を印加するゲート電極(図示せず)を有してもよい。ゲート電極は、感応膜4と絶縁層3を介して向かい合うように設けられることもできるし、センシング時に感応膜4へと供給される検査溶液に接触するように設けられることもできる。
【0015】
上述のセンサ素子1を備えるガスセンサは、例えば保存形態など未使用時の形態として、感応膜表面4aを被覆する保護膜9を備える。すなわち、保護膜9はガスセンサの封止構造であり、感応膜4a及びプローブ分子7と外部環境とを隔てることで、両者が接触することを防ぐように構成される。
【0016】
保護膜9は、水溶性の材料から構成される。水溶性の材料として、例えば水溶性プラスチックなどの水溶性樹脂を選択することができる。水溶性の材料は、保存状態を良好とする材料であると好ましく、そのような材料は、電荷を有しないこと、緩衝液のpH濃度に影響を与えないこと、及びプローブ分子の構造保持を阻害しない物性あるいは量であることを特徴とする。このような3つの特徴を有する水溶性材料として、例えば、ポリビニルアルコールが挙げられる。さらに、水溶性材料は、センサ素子1の測定又は保存に必要な任意の試薬類(例えば安定剤やpH調整剤など)も含有していてもよい。ここで、「電荷を有する」とは、強く電離する、強く帯電する、又は強い極性を有する物質が、感応膜の反応性を低下させるほどの容量の電気二重層を形成すること、を指す。「緩衝液のpH濃度に影響を与える」とは、酸又は塩基性の物質が、緩衝液がpH緩衝性を示さない範囲内でpH濃度を変化させることを指す。「プローブ分子の構造保持を阻害する」とは、ある物質が、例えば、プローブ分子の正常な分子内結合を阻害することや、プローブ分子に吸着することで立体構造をゆがめることを指す。
【0017】
以上説明したように、第1実施形態に係るケミカルセンサの封止構造、すなわち、感応膜表面を被覆する保護膜を備えることによって、ケミカルセンサを保存する環境が夾雑物が観察されるような汚染された環境であったとしても、感応膜表面は保護膜により封止されているため、長期間安定的に保存することが可能である。
【0018】
また、後述するが、第1実施形態に係るケミカルセンサの封止構造としての保護膜は、水溶性の材料で構成されているため、任意の水溶液を保護膜に滴下することで簡単に除去することが可能である。さらに、有機溶媒に接触すると変性や損傷を受けやすいプローブ分子を備えるケミカルセンサとしては、保護膜の除去に使用される溶液が水溶液である点がさらに好ましい。
【0019】
さらなる実施形態として、センサ素子1は、
図1の(b)に示すように一方の電極5、他方の電極6及び感応膜4の一部の表面を被覆する、絶縁体10を備えてもよい。この場合、センサとして使用される際に外部環境へと露出し得る感応膜表面4aは、絶縁体10を側壁とする開口部から露出した感応膜の表面である。絶縁体10は一体の部材として形成されてもよい。一体の絶縁体10として、例えば、一方の電極5を被覆する絶縁体10及び他方の電極6を被覆する絶縁体10が
図1の(b)の断面方向に延びる絶縁体(図示せず)で結合され、感応膜表面4aを露出させるような枠状をなす形態であってもよい。換言すれば、絶縁体10は、基板2の主面と対向する面をその主面とする部材であり、かつ、その主面と交差する方向に貫通する孔を有する。絶縁体10の孔は、感応膜の表面4aによって片側がふさがれた凹型の構造、つまり開口部を形成する。
【0020】
絶縁体10は、例えば、二酸化ケイ素又はゴム絶縁性の物質などから構成される。センサとして使用する際に、感応膜4上に測定用溶液を滴下して液膜を形成する場合があるが、一方の電極5及び他方の電極6が絶縁体10によって被覆されることにより、短絡及び漏電を防ぐことができ、かつ、FETとして機能し得る。
【0021】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る、ケミカルセンサを保存するための封止構造について、
図2を参照して説明する。ここで、第1実施形態と同じ部材に関しては、同符号を付し、説明を省略する。
【0022】
図2に示すように、第2実施形態に係るケミカルセンサの封止構造は、保護膜9が一方の電極5と他方の電極6との間に架け渡されたフィルムの形態であり、保護膜9が感応膜4と接触しない点で、第1実施形態に係るケミカルセンサの封止構造と異なる。
【0023】
第2実施形態では、一方の電極5及び他方の電極6を側壁として形成される開口部を保護膜9によって封止することで、感応膜表面4aが外部環境から隔てられている。フィルム状の保護膜9と感応膜4との間かつ電極5,6の間の位置には、気体(例えば、保存に適した物質からなる気体であるとよい)で満たされた空間が形成されている。なお、保護膜9は、当該空間を隔てて感応膜表面4aを覆う限り、特定の物質(例えば、保存に適した物質からなる気体)が保護膜9を透過可能な構成(すなわち、当該空間と大気との間で特定の物質を置換可能な構成)であってもよいし、或いは、当該空間が大気と隔絶された構成であってもよい。
【0024】
第2実施形態に係る封止構造は、第1実施形態と同様に、ケミカルセンサを保存する環境が夾雑物が観察されるような汚染された環境であったとしても長期間安定的に保存することが可能である。
【0025】
さらなる実施形態として、センサ素子1は、一方の電極5、他方の電極6及び感応膜4の一部の表面を被覆する、絶縁体を備えてもよい。さらなる実施形態において、センサとして使用される際に外部環境へと露出し得る感応膜表面は、絶縁体を側壁とする開口部から露出した感応膜の表面である。さらなる実施形態における保護膜は、一方の電極を被覆する絶縁体と他方の電極を被覆する絶縁体との間に架け渡されるように配置される。
【0026】
(第3実施形態)
第3実施形態として、標的物質を検出するための感応膜を備えるケミカルセンサを保存する方法が提供される。なお、第3実施形態に係る方法は、第1実施形態又は第2実施形態に係る封止構造を備えるケミカルセンサを製造する方法としても提供され得る。
【0027】
図3に示すように、第3実施形態に係る方法は、
(S1)感応膜の少なくとも一部の表面に、標的物質を捕捉するためのプローブ分子が固定化されたケミカルセンサを用意する工程と、
(S2)プローブ分子が固定化された感応膜表面を被覆するように、水溶性材料からなる保護膜を感応膜表面上に形成する工程と、を含む。
【0028】
第1実施形態で説明した、ケミカルセンサの封止構造は、感応膜表面を含むセンサ素子表面に保護膜を被覆することで形成される。保護膜の形成は所望の方法で行われればよく、例えば、保護膜は、第1実施形態において説明した水溶性材料を含有する保護膜材料を感応膜表面上に塗布し、硬化させることで、感応膜表面上に形成してもよい。
【0029】
また、さらなる実施形態として、第3実施形態に係る方法は、
標的物質を検出するための感応膜を備えるケミカルセンサを保存する方法であって、
(S1)基板と、基板上から立設し、基板上に開口部を形成する側壁と、開口部から、プローブ分子が固定化された表面を外部環境へと露出する感応膜とを備えるケミカルセンサを用意する工程、及び
(S2)開口部を封止するように、水溶性材料からなる保護膜を形成する工程を含む。
【0030】
第2実施形態で説明した、ケミカルセンサの封止構造は、感応膜の一部の表面を外部環境に露出する開口部を封止するように形成される。開口部は基板から立設した側壁から構成されているため、保護膜は、保護膜材料から形成されたフィルムを側壁に架け渡すように接着することで形成することができる。
【0031】
感応膜表面に保護膜材料を塗布し硬化させて保護膜を形成する方法は、感応膜表面を確実に保護膜で被覆させるために、保護膜材料の塗布量が比較的多量となる傾向がある。しかしながら、第2実施形態に係るケミカルセンサの封止構造は既に硬化させたフィルムを使用して形成するため、保護膜材料の使用量を低減することが可能である。
【0032】
(第4実施形態)
第4実施形態として、第1実施形態又は第2実施形態に係る封止構造を具備するケミカルセンサを使用する方法が提供される。
【0033】
第4実施形態に係る方法は、
図4に示すように、(S1)感応膜及び感応膜を覆うように配置された保護膜を具備するケミカルセンサ、並びに、保護膜を除去するための水溶液を用意する工程と、(S2)工程(S1)で用意したセンサの保護膜上に、(S1)で用意した水溶液を滴下する工程とを含む。
【0034】
上記の工程S1において用意されるセンサは、第1実施形態及び第2実施形態で説明したように、封止構造として保護膜を具備するケミカルセンサであり、センサとして使用するには保護膜を除去する必要がある。
【0035】
上記の工程S1において用意される水溶液は、保護膜材料を溶解可能な水溶液(以下、「除去溶液」と呼ぶ)である。除去溶液に対する保護膜材料の溶解度は、保護膜の除去効率の観点から、より高い方が好ましい。また、除去溶液は、センサを構成する部材に損傷を生じさせない限り、任意の溶質が含有されてもよい。すなわち、センサの保護膜を溶解させる以外の用途、例えば、センサ使用時の測定用溶液の用途として使用してもよい。
【0036】
第1実施形態及び第2実施形態で説明したように、保護膜は水溶性の材料で構成されているため、工程S2において保護膜は水溶液によって溶解される。
【0037】
S2の工程の後は、保護膜に代わり、保護膜材料が溶解した除去溶液からなる液膜が感応膜上に形成されることとなる。この液膜を除去するかどうかは、センサの測定条件、標的物質の種類やセンサの構成部材などに応じて決定される。例えば、保護膜材料がセンサを使用した測定を阻害する場合には液膜を除去することが好ましい。保護膜材料が測定に影響を与えない場合には、液膜を測定用溶液として使用してもよく、工程S2の直後からセンサによる標的物質の測定をおこなうことが可能である。液膜の除去は任意の方法で実行でき、例えばポンプ等で除去してもよいし、ピペット等を用いて除去してもよい。
【0038】
第4実施形態に係る方法によれば、保護膜に除去溶液を滴下することで保護膜を除去することができる。このため、センサを使用する際の操作が容易であり、好ましい。また、このような第4実施形態に係る方法によれば、例えば保護膜を剥離する等の物理的操作をセンサに及ぼさないので、センサが損傷する可能性を低減できることも好ましい。
【0039】
さらに、第1実施形態で説明したように感応膜の表面にはペプチドやDNAからなるプローブが結合されている。一般的に、そのようなプローブは有機溶媒に接触することで変性や損傷が発生する虞があるが、第4実施形態に係る方法によれば、保護膜の除去に有機溶媒を使用しなくともよいため、好ましい。
【0040】
さらなる実施形態として、第2実施形態に係る封止構造を備えるケミカルセンサを使用するための別の方法が提供される。例えば、除去溶液は保護膜9に滴下しない形態であってもよく、例えば、
図5に示すようにピペットを用いて保護膜9に貫通孔を空け、除去溶液をその貫通孔から感応膜表面4aへと滴下する形態であってもよい。第2実施形態に係る、封止構造を備えるケミカルセンサは、フィルム状の保護膜9と感応膜表面4aとの間に空間を備える(
図2参照)が、その空間を満たすように除去溶液が滴下され、保護膜9は除去溶液の液面が接触することで溶解し、除去される。
【0041】
(第5実施形態)
第5実施形態に係る、ケミカルセンサを保存するための封止構造について
図6を参照して説明する。ここで、第1実施形態と同じ部材に関しては、同符号を付し、説明を省略する。
【0042】
第5実施形態に係る封止構造は、封止構造である保護膜がアーチ状であるか、又は、液貯構造を形成している点で第1実施形態とは異なる。
【0043】
図6の(a)に示すように、保護膜9の、除去溶液が滴下される面8aは、アーチ状である。面8aがアーチ状であると、重力の作用によって除去溶液が面8a上で分散しやすくなる。また、保護膜9と除去溶液との接触面積は、面8aがフラットである場合と比較して増大するので、保護膜9の溶解を促進することができる。
【0044】
また、面8aは液貯構造Rを形成していてもよい。例えば、
図6の(b)に示すように、液貯構造Rとして、面8aに凹部が設けられてもよい。すなわち、保護膜9には液貯構造Rとなる切欠部が設けられてもよい。若しくは、
図6の(c)に示すように、複数のアーチが互いにその一部を接触させるような形状の保護膜9を用意することで、そのアーチに挟まれた空間を液貯構造Rとして使用してもよい。面8aに液貯構造Rが形成されている場合は、より多量の除去溶液を添加して保護膜9と接触させることが可能となり、保護膜9の溶解を促進することができる。
【0045】
(第6実施形態)
第6実施形態に係る、ケミカルセンサを保存するための封止構造について
図7を参照して説明する。ここで、第1実施形態と同じ部材に関しては、同符号を付し、説明を省略する。
【0046】
第6実施形態に係る封止構造は、異なる種類の材料からなる層が複数重なるように保護膜9が形成される点で、第1実施形態の封止構造とは異なる。
図7に示すように、保護膜9は感応膜4を被覆する下層9Aと、下層9Aを被覆し、かつ、外部環境と接触する上層9Bとの2層で構成されており、上層9B及び下層9Aは、互いに異なる組成の水溶性材料から形成されている。
【0047】
上層9Bを構成する水溶性材料は、外部環境に曝されるため、湿度や夾雑物の影響を受けやすい。そのため、上層9Bを構成する水溶性材料は、その水溶性及び反応性が比較的低い方が好ましい。水溶性及び反応性が比較的低い水溶性材料として、例えばレゾール型フェノール樹脂または完全けん化型のPVAなどが挙げられる。
【0048】
一方で、下層9Aを構成する水溶性材料は、センサ素子1の部材(例えば感応膜4、一方の電極5、他方の電極6及び絶縁体10など)との密着性が高い方が好ましい。また、下層9Aは上層9Bに被覆されているため、外部環境の湿度の影響を受けにくい。保護膜の除去効率を向上させる観点からすると、下層9Aを構成する水溶性材料の水溶性は、より高い方が好ましい。ここで、水溶性の高さとは、溶解度の高さ又は溶解速度の大きさと言い換えることができる。密着性及び水溶性が高い水溶性樹脂として、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)または部分けん化型のPVAなどを挙げることができる。
【0049】
第6実施形態に係る封止構造として、上層9B及び下層9Aを構成する材料を調整することで、保護膜9の耐湿性ひいては保持力を調整することができる。
【0050】
以上、第6実施形態に係るセンサの保護膜が2層の積層構造である場合について説明したが、より多層となるように保護膜を形成してもよい。例えば、保護膜の耐湿性ひいては保持力をより向上させることを目的として、上層9Bを被覆するフィルム層9Cをさらに設けてもよい。フィルム層9Cは、上層9Bを接着層として上層9B上に積層させてもよい。フィルム層9Cは、下層9A及び上層9Bとは異なる材料から構成され、その材料は、耐湿性及び機械的強度がより高い方が好ましい。フィルム層8Cは、センサの使用時に、剥離することで除去してもよい。
【0051】
(第7実施形態)
第7実施形態に係る、ケミカルセンサを保存するための封止構造について、
図8及び
図9を参照して説明する。ここで、第1実施形態と同じ部材に関しては、同符号を付し、説明を省略する。
【0052】
第7実施形態は、第1実施形態~第6実施形態で説明したセンサ素子を同一の基板上に複数具備するケミカルセンサを保存するための封止構造に関する。
【0053】
図8の(a)に示すように、封止構造としての保護膜が形成される前のケミカルセンサ11は、同一の基板2上に、複数のセンサ素子CH1~CH3を具備している。それぞれのセンサ素子は、一方の電極5及び他方の電極6を備えており、一方の電極5にはパッド電極Pd1が、他方の電極6にはパッド電極Pd2が接続されている。
【0054】
図8の(a)中、センサ素子CH1周辺(囲み部A)の拡大図を
図8の(b)に示す。
図8の(b)に示すように、それぞれのセンサ素子の一方の電極5及び他方の電極6は、それぞれのセンサ素子を構成する感応膜4と接続されている。
【0055】
図8の(a)及び(b)に示すケミカルセンサ11には、第3実施形態と同様の方法によって、各センサ素子の感応膜4の表面を被覆するように保護膜が形成される。保護膜が形成された後の、
図8の(b)中のi-i線を結ぶ断面図を
図9に示す。
図9に示す通り、各センサ素子には、一方の電極5を被覆する絶縁体と他方の電極6を被覆する絶縁体に架け渡されるように保護膜PMが設けられることで、感応膜表面4aが封止されている。
【0056】
ここで、各センサ素子は、センサ素子ごとに1つの保護膜を具備する構成であってもよい。例えば、
図10の(a)に示すように、センサ素子CH1~CH3はそれぞれの保護膜PM1~PM3を具備していてもよい。また、
図10の(b)及び(c)に示すように、各センサ素子が1つの保護膜を共有する構成であってもよい。
【0057】
図10の(b)は、ケミカルセンサ11の表面のうちセンサ素子CH1~CH3のそれぞれが除去溶液と接触する領域を覆うように、センサ素子CH1~CH3で共有される保護膜が形成される構成を示すものである。センサ素子CH1~CH3で共有される保護膜は、
図10の(c)に示すように、センサ11の表面のうち各パッド電極が露出する箇所以外の領域を覆うように構成されてもよい。
【0058】
図9及び
図10の(a)~(c)では、ケミカルセンサ11が絶縁体10を具備している構成を例示したが、さらなる実施形態として、ケミカルセンサ11は絶縁体10を具備しなくともよい。例えば、
図11の(a)及び(b)に示すように、絶縁体の代わりに、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)等の難水溶性の樹脂で構成される土手部Bを基板2上に形成し、この土手部Bに支持されるようにフィルム状の保護膜PMが設けられ、センサ素子CH1~CH3の表面が覆われるように構成されてもよい。
【0059】
(第8実施形態)
第8実施形態に係る、ケミカルセンサを保存するための封止構造について
図12を参照して説明する。ここで、第1実施形態と同じ部材に関しては、同符号を付し、説明を省略する。
【0060】
第8実施形態に係る封止構造は、
図12に示すように、封止構造としての保護膜がプローブ分子をさらに含有する点が、第1実施形態で説明した封止構造と異なる。
【0061】
第3実施形態の方法で説明したように、保護膜9は感応膜表面4aに保護膜材料を塗布し硬化させて形成され得るが、第8実施形態に係る封止構造を形成する過程においては、プローブ分子7が含有された保護膜材料を使用する。このような保護膜材料を使用することで、保護膜9の形成と同時にプローブ分子7を感応膜表面4aに結合させることができる。すなわち、上述した保護膜の形成工程を経ることで、
図12に示すように、保護膜材料に含有させたプローブ分子7の一部が表面4aに結合した感応膜4と、残りのプローブ分子7を含有する保護膜9とを備えるケミカルセンサ11が提供される。
【0062】
第8実施形態に係る封止構造によれば、プローブ分子を含有した保護膜材料を使用することでプローブを具備するセンサの製造プロセスがより簡略なものとなり、経済的及び時間的なコストを低減することができる。
【0063】
また、第8実施形態に係る封止構造が形成されたケミカルセンサ11は、第4実施形態と同様の方法で使用することができる。すなわち、(S1)感応膜及び感応膜を覆うように配置された保護膜を具備するセンサと、保護膜を除去するための水溶液とを用意する工程、及び、(S2)(S1)で用意したセンサの保護膜上に(S1)で用意した水溶液を滴下する工程を含む方法によって使用することが可能である。
【0064】
また、第8実施形態に係る封止構造が形成されたケミカルセンサは、第7実施形態と同様、複数のセンサ素子を同一の基板上に具備してなる構成であってもよい。この場合、それぞれのセンサ素子に塗布する保護膜材料の組成を互いに異ならせることで、用途の異なるセンサ素子を同一の基板上に実装することが可能である。例えば、互いに異なる種類のプローブ分子を含有する保護膜材料を用意し、各センサ素子に塗布することで、同一の基板上に標的物質の異なるセンサ素子を複数具備し、かつ各センサ素子が封止されたケミカルセンサを製造することができる。例えば、3種の保護膜材料PG1、PG2及びPG3を用意し、
図13に示すように、各センサ素子CH1~CH3を塗り分けてもよい。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1…センサ素子、2…基板、3…絶縁層、4…感応膜、4a…感応膜表面、5…一方の電極、6…他方の電極、7…プローブ分子、8…リンカー部分、9…保護膜、10…絶縁体、11…ケミカルセンサ