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特開2023-170535フィルム積層体、フィルム積層体の製造方法、保護具、保護具の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170535
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】フィルム積層体、フィルム積層体の製造方法、保護具、保護具の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/00 20060101AFI20231124BHJP
   A44B 18/00 20060101ALI20231124BHJP
   A41D 13/11 20060101ALI20231124BHJP
   A42B 3/20 20060101ALI20231124BHJP
   A44B 99/00 20100101ALI20231124BHJP
   A44B 17/00 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
A41D13/00 105
A44B18/00
A41D13/11 L
A42B3/20
A44B99/00 611J
A44B99/00 611G
A44B17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082367
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 信博
(74)【代理人】
【識別番号】100185845
【弁理士】
【氏名又は名称】穂谷野 聡
(72)【発明者】
【氏名】加藤 卓弥
(72)【発明者】
【氏名】大石 清和
【テーマコード(参考)】
3B011
3B100
3B107
3B211
【Fターム(参考)】
3B011AB01
3B011AC24
3B100CB01
3B100DA01
3B100DB01
3B107AA01
3B107CA03
3B107DA07
3B211AB01
3B211AC24
(57)【要約】
【課題】滅菌処理の十分な効果を得ることができ、且つフィルム表面構造の破損リスクもないフィルム積層体を提供する。
【解決手段】剥離自在に積層された複数のフィルム状部材2と、一対のフィルム状部材2の一方に固着された第1の係合部材6、及び一対のフィルム状部材2の他方に固着された第2の係合部材9を有し、第1の係合部材6及び第2の係合部材9が係脱自在に係合することにより、一対のフィルム状部材2が空隙を隔てて積層され、第1の係合部材6及び第2の係合部材9の係合部は通気性を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥離自在に積層された複数のフィルム状部材と、
一対の上記フィルム状部材の一方に固着された第1の係合部材、及び一対の上記フィルム状部材の他方に固着された第2の係合部材を有し、
上記第1の係合部材及び上記第2の係合部材が係脱自在に係合することにより、一対の上記フィルム状部材が空隙を隔てて積層され、
上記第1の係合部材及び上記第2の係合部材の係合部は通気性を有するフィルム積層体。
【請求項2】
上記第1の係合部材は、基材の一面に複数のループが立設されたループ部材であり、
上記第2の係合部材は、基材の一面に上記ループに着脱自在に係合する複数のフックが立設されたフック部材であり、
上記ループ部材と上記フック部材が係合することにより、上記フィルム状部材が空隙を隔てて積層される請求項1に記載のフィルム積層体。
【請求項3】
相対的に上層の上記フィルム状部材同士を積層させる上記ループ部材及び上記フック部材の剥離力は、相対的に下層の上記フィルム状部材同士を積層させる上記ループ部材及び上記フック部材の剥離力よりも低い請求項2に記載のフィルム積層体。
【請求項4】
上記第1の係合部材及び上記第2の係合部材の係合力は、当該第1の係合部材と上記フィルム状部材との固着力より低く、且つ当該第2の係合部材と上記フィルム状部材との固着力より低い請求項1~3のいずれか1項に記載のフィルム積層体。
【請求項5】
上記第1の係合部材は、凹部材であり、
上記第2の係合部材は、上記凹部材に係脱自在に嵌合する凸部材であり、
上記凹部材と上記凸部材が嵌合することにより、上記フィルム状部材が空隙を隔てて積層される請求項1に記載のフィルム積層体。
【請求項6】
上層の上記フィルム状部材同士を積層させる上記凹部材及び上記凸部材の剥離力は、下層の上記フィルム状部材同士を積層させる上記凹部材及び上記凸部材の剥離力よりも相対的に低い請求項5に記載のフィルム積層体。
【請求項7】
上記第1の係合部材及び上記第2の係合部材は、それぞれ上記フィルム状部材の外縁部に設けられている請求項1~3、5、6のいずれか1項に記載のフィルム積層体。
【請求項8】
上記第1の係合部材及び上記第2の係合部材は、それぞれ上記フィルム状部材の外縁部を取り囲むように設けられている請求項1~3、5、6のいずれか1項に記載のフィルム積層体。
【請求項9】
各上記フィルム状部材及び上記第1の係合部材並びに上記第2の係合部材は、外部に露出する面が滅菌処理されている請求項1~3、5、6のいずれか1項に記載のフィルム積層体。
【請求項10】
上記フィルム状部材は、可撓性を有する透明基材の少なくとも一方の面に可視光の波長以下のピッチで複数の構造体が設けられている請求項1~3、5、6のいずれか1項に記載のフィルム積層体。
【請求項11】
フィルム状部材を形成する工程と、
係脱自在に係合する第1の係合部材及び第2の係合部材を形成する工程と、
一対の上記フィルム状部材のうち一方の上記フィルム状部材の他方のフィルム状部材と対向する位置に上記第1の係合部材を固着し、一対の上記フィルム状部材のうち他方の上記フィルム状部材の上記一方のフィルム状部材と対向する位置に、上記第2の係合部材を固着する工程と、
上記第1の係合部材と上記第2の係合部材を係止させ、一対の上記フィルム状部材を空隙を隔てて積層する工程を有するフィルム積層体の製造方法。
【請求項12】
複数の上記フィルム状部材を積層した状態で、滅菌処理する工程を有する請求項11に記載のフィルム積層体の製造方法。
【請求項13】
使用者の顔面又は目の周囲にフィルム積層体が装着された保護具において、
上記フィルム積層体は、上記請求項1~3、5、6のいずれか1項に記載のものである保護具。
【請求項14】
上記保護具は、防護服、フェースシールド、アイシールド、ヘルメットのいずれかである請求項15に記載の保護具。
【請求項15】
使用者の顔面又は目の周囲にフィルム積層体が装着された保護具の製造方法において、
フィルム積層体を形成する工程と、
フィルム積層体を保護具に装着する工程とを有し、
上記フィルム積層体は、上記請求項1~3,5,6のいずれか1項に記載のものである、保護具の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、フィルム状部材を所定の間隔で複数枚積層したフィルム積層体、フィルム積層体の製造方法、フィルム積層体を用いた保護具、保護具の製造方法に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
医療従事者の職業感染の防止手段として個人用保護具が多く使用されている。特に血液や体液への暴露を防ぐためのフェースシールドや防護服等の保護具は検査や手術時に使用され、血液媒介病原体(HIV、HBV、HCV)やコロナウイルス(SARS-CoV-2等)による職業感染の予防に役立っている。
【0003】
しかし、この種の保護具は、検査中や手術中に患者から飛散した血液や体液等でその表面が汚れることがある。このように汚染物が飛来する環境では、当該汚染物との接触を避けつつ速やかに視界の回復を図ることが求められる。
【0004】
また、2輪車や4輪車の自動車のオートレースの競技に用いられるヘルメットのシールドや、塗装作業の際に用いられる塗装用保護眼鏡等においても、表面が汚れて視界が妨げられことが度々発生するという同様の問題を有する。
【0005】
このような問題を解決するために、従来、ヘルメットのシールドや塗装用保護眼鏡の表面に簡単に可能な保護フィルムを複数枚積層しておき、汚れによって視界が妨げられた際には、最上層の保護フィルムを汚れと共に剥離し視界を回復させることが行われている。この種の技術について、例えば特許文献1では、ヘルメットのシールド部分を覆うように複数のシート状保護カバー、即ち使い捨てのバイザーを貼り付けたヘルメットのシールド部分の保護装置が開示されている。
【0006】
しかしながら、上記のように保護具を単なる保護フィルムの積層構造とすると、積層した各層間における界面で反射が生じるなどする。また、単純に積層枚数の増加に伴い透過性が低下する等の問題がある。
【0007】
一方、可視光波長以下のピッチを備えたモスアイ構造体の光学素子、フィルムの低反射率特性を利用して視認性に優れる保護具も提案されている(特許文献2)。
【0008】
特許文献2に記載の積層体は、図35図36に示すように、基体の少なくとも一方の面に可視光波長以下のピッチからなる凹凸によるモスアイ構造体が設けられた複数のフィルム状部材を備え、フィルム状部材の少なくとも端部において粘着層を介して固定化されることにより、剥離可能に積層されている。図35に示す積層体は、粘着層がフィルム状部材の端部にのみ設けられている。また、図36に示す積層体は、粘着層がフィルム状部材の全面にわたり設けられている。
【0009】
モスアイ構造体を備えたフィルム状部材を積層することにより、反射率の高まりや透過率の低下を防止し、視認性を確保することができる。また、積層体表面が血液や体液によって汚染されたり、汚れによって視界が妨げられたりした際には、最上層のフィルム状部材を汚れと共に剥離し視界を回復させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000-192322号公報
【特許文献2】特開2015-57317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このようなフィルム状部材を積層させた保護具を医療用途で使用する場合、各フィルム状部材の表面をガス滅菌処理等により滅菌処理することが行われている。そして、汚染された最上層のフィルム状部材を剥がすと、新しい無菌表面を最外面に露出させることが可能となる。
【0012】
しかし、フィルム状部材を粘着層によって積層固定した積層体を使用した保護具では、ガス等による滅菌処理を行なう場合、粘着層で接合されている部分においては各フィルム状部材表面が露出されないので滅菌ガス等が流入することができず、滅菌処理がなされなかった。
【0013】
図35に示す構成では、粘着層の無いフィルム中央部は滅菌効果を奏し得るが、粘着層が設けられたフィルム外縁部は滅菌処理ができない。また、図35に示す構成でも、粘着層がフィルムの外周を全て覆う場合は、粘着層に囲まれるフィルム表裏面は滅菌処理されない。図36に示す構成では、積層フィルムの最表面及び最裏面のみ滅菌処理が施され、粘着層が介在するフィルム表裏面は滅菌処理ができない。
【0014】
したがって、汚染された最上層のフィルム状部材を剥がすと、部分的に滅菌処理が施されていないフィルム状部材や全面にわたって滅菌処理が施されていないフィルム状部材が露出することとなり、滅菌処理の十分な効果を得ることができなかった。
【0015】
また、フィルム表面にモスアイ構造を有する透明積層体の場合に粘着剤を用いた積層設計では、粘着力によっては各フィルム状部材を剥がす際にモスアイ構造を破壊するリスクも懸念される。
【0016】
そこで、本技術は、滅菌処理の十分な効果を得ることができ、且つフィルム表面構造の破損リスクもないフィルム積層体、フィルム積層体の製造方法、保護具、保護具の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した課題を解決するために、本技術に係るフィルム積層体は、剥離自在に積層された複数のフィルム状部材と、一対の上記フィルム状部材の一方に固着された第1の係合部材、及び一対の上記フィルム状部材の他方に固着された第2の係合部材を有し、上記第1の係合部材及び上記第2の係合部材が係脱自在に係合することにより、一対の上記フィルム状部材が空隙を隔てて積層され、上記第1の係合部材及び上記第2の係合部材の係合部は通気性を有するものである。
【0018】
また、本技術に係るフィルム積層体の製造方法は、フィルム状部材を形成する工程と、係脱自在に係合する第1の係合部材及び第2の係合部材を形成する工程と、一対の上記フィルム状部材のうち一方の上記フィルム状部材の他方のフィルム状部材と対向する位置に上記第1の係合部材を固着し、一対の上記フィルム状部材のうち他方の上記フィルム状部材の上記一方のフィルム状部材と対向する位置に、上記第2の係合部材を固着する工程と、上記第1の係合部材と上記第2の係合部材を係止させ、一対の上記フィルム状部材を空隙を隔てて積層する工程を有するものである。
【0019】
また、本技術に係る保護具は、使用者の顔面又は目の周囲にフィルム積層体が装着された保護具において、上記フィルム積層体は、上記記載のものである。
【0020】
また、本技術に係る保護具の製造方法は、使用者の顔面又は目の周囲にフィルム積層体が装着された保護具の製造方法において、フィルム積層体を形成する工程と、フィルム積層体を保護具に装着する工程とを有し、上記フィルム積層体は、上記記載のものである。
【発明の効果】
【0021】
本技術によれば、フィルム積層体は、第1、第2の係合部材を含めて各フィルム状部材の表裏全面を滅菌ガスに晒すことが可能となり、フィルム状部材を剥離したとき、新しく現れたフィルム状部材及びこれに固着された第1の係合部材又は第2の係合部材も滅菌処理されている。また、フィルム状部材の剥離は、第1、第2の係合部材の係合を外すのみで可能となるため、フィルム状部材に形成されているモスアイ構造を破損するリスクもない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本技術が適用されたフィルム積層体の分解斜視図である。
図2図2は、本技術が適用されたフィルム積層体の断面図である。
図3図3は、ループ部材を示す断面図である。
図4図4は、フック部材を示す断面図である。
図5図5は、ループ部材及びフック部材を略矩形状のフィルム状部材の左右側縁部に線状に固着した構成を模式的に示す図である。
図6図6は、ループ部材及びフック部材を略矩形状のフィルム状部材の左右側縁部に破線状に固着した構成を模式的に示す図である。
図7図7は、ループ部材及びフック部材を略矩形状のフィルム状部材の上下側縁部に線状に固着した構成を模式的に示す図である。
図8図8は、ループ部材及びフック部材を略矩形状のフィルム状部材の上下側縁部に破線状に固着した構成を模式的に示す図である。
図9図9は、ループ部材及びフック部材を略矩形状のフィルム状部材の側縁部全周を囲むように固着した構成を模式的に示す図である。
図10図10は、最上層のフィルム状部材と中間層のフィルム状部材を積層させるループ部材及びフック部材の幅を、中間層のフィルム状部材と下層のフィルム状部材を積層させるループ部材及びフック部材の幅よりも狭くして、相対的に剥離力を低くした構成を模式的に示す断面図である。
図11図11は、本技術が適用されたフィルム積層体を構成するフィルム状部材の断面図である。
図12図12は、本技術が適用されたフィルム積層体を構成する他のフィルム状部材の断面図である。
図13図13は、本技術が適用されたフィルム積層体を構成する他のフィルム状部材の斜視図である。
図14図14は、モスアイ構造体からなる防反射層のパターンが形成された転写用ロール原盤の斜視図である。
図15図15は、モスアイ構造体からなる防反射層を形成する工程を示す断面図であり、(A)はロール原盤に基材の転写材料が塗布された面を密着させた状態、(B)は片面にモスアイ構造体が転写されたフィルム状部材、(C)は片面にモスアイ構造体が転写されたフィルム状部材の他方の面に転写材料を塗布し、ロール原盤に密着させた状態、(D)は両面にモスアイ構造体が転写されたフィルム状部材を示す。
図16図12は、保護具の一例として示す医療用防護服を示す外観斜視図である。
図17図17は、フィルム積層体を保護具に装着する工程の一例を示す断面図であり、(A)は装着前の状態を示し、(B)は装着後の状態を示す。
図18図18は、接着層による接着に代えてループ部材及びフック部材を使用してフィルム積層体を保護具に装着する工程の一例を示す断面図である。
図19図19は、フィルム積層体を保護具に装着する工程の他の例を示す断面図である。
図20図18は、接着層による接着に代えてループ部材及びフック部材を使用してフィルム積層体を保護具に装着する工程の他の例を示す断面図である。
図21図21は、フィルム積層体を形成するとともに保護具に装着する工程の一例を示す断面図であり、(A)は最下層のフィルム状部材を保護具の開口部に接続した状態を示し、(B)は中間層のフィルム状部材を積層した状態を示し、(C)は最上層のフィルム状部材を積層した状態を示す。
図22図22は、本技術が適用されたフィルム積層体の別の構成例を示す断面図であり、(A)はフィルム状部材の積層前の状態、(B)はフィルム状部材の積層後の状態を示す。
図23図23は、図22に示すフィルム積層体を保護具に装着する工程を示す断面図であり、(A)はフィルム積層体の装着前の状態、(B)はフィルム積層体の装着後の状態を示す。
図24図24は、第1、第2の係合部材の構成例であるスナップボタンの一例を示す断面図である。
図25図25は、凹部材及び凸部材の他の構成例を示す図であり、(A)は凹部材及び凸部材の分解斜視図であり、(B)は基板の突起部をフィルム状部材の孔に挿通させる工程を示す斜視図であり、(C)は突起部に凹部材の蓋体を嵌合させる工程を示す斜視図であり、(D)は突起部に凸部材の蓋体を嵌合させる工程を示す斜視図である。
図26図26は、図25に示す凹部材及び凸部材を用いてフィルム状部材を積層したフィルム積層体を示す図であり、(A)は凹部材が固着されたフィルム状部材と凸部材が固着されたフィルム状部材を積層させる工程を示す側面図であり、(B)は2層のフィルム状部材からなるフィルム積層体を示す側面図であり、(C)は3層のフィルム状部材からなるフィルム積層体を示す側面図である。
図27図27は、第1、第2の係合部材の構成例であるファスナーの一例を示す平面図である。
図28図28は、第1の実施例に係るフィルム積層体サンプルの構成を説明するための図である。
図29図29は、剥離強度の測定方法を示す斜視図である。
図30図30は、第1の実施例に係るフィルム積層体サンプルの構成を説明するための図であり、(A)はフィルム状部材と同サイズのループ部材及びフック部材を使用した例を示し、(B)は基材寸法を半減させたループ部材及びフック部材を使用した例を示す。
図31図31は、ループ部材及びフック部材をフィルム状部材の長手方向の両端に設けたフィルム積層体サンプルの構成を説明するための図である。
図32図32は、ループ部材及びフック部材をフィルム状部材の4辺全てを囲むように設けたフィルム積層体サンプルの構成を説明するための図である。
図33図33は、ループ部材及びフック部材をフィルム状部材の4辺全てを囲むように設けたフィルム積層体サンプルにおける滅菌試験の結果を示す写真である。
図34図34は、粘着剤をフィルム状部材の4辺全てを囲むように設けたフィルム積層体サンプルにおける滅菌試験の結果を示す写真である。
図35図35は、フィルム状部材の端部に設けられた粘着層により複数のフィルム状部材が積層された積層体を示す断面図である。
図36図36は、フィルム状部材の全面に設けられた粘着層により複数のフィルム状部材が積層された積層体を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本技術が適用されたフィルム積層体、フィルム積層体の製造方法、保護具、保護具の製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本技術は、以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることがある。具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0024】
[フィルム積層体]
本技術が適用されたフィルム積層体1は、剥離自在に積層された複数のフィルム状部材2と、隣接して積層された一対のフィルム状部材2のうち一方のフィルム状部材2に固着された第1の係合部材、及び当該一方のフィルム状部材と対向する他方のフィルム状部材2に固着された第2の係合部材を有する。フィルム状部材2は、可撓性を有する透明のシートである。第1の係合部材及び第2の係合部材は、係脱自在に係合する。これにより、隣接して積層された一対のフィルム状部材2は、空隙を隔てて積層される。第1の係合部材及び第2の係合部材は、密着することなく部分的に係合するものであり、係合部には隙間を有し通気性がある。すなわち、フィルム積層体1は、複数のフィルム状部材2が空隙を隔てて積層されるとともに、各フィルム状部材2の第1、第2の係合部材の係合部も封止されることがない。
【0025】
したがって、フィルム積層体1は、第1、第2の係合部材を含めて各フィルム状部材2の表裏全面を滅菌ガスに晒すことが可能となり、フィルム状部材2を剥離したとき、新しく現れたフィルム状部材2及びこれに固着された第1の係合部材又は第2の係合部材も滅菌処理されている。
【0026】
そして、医療用途においては、検査中や手術中に患者から飛散した血液や体液等で表面が汚れた場合には、最上層のフィルム状部材2を剥離することで、汚染物との接触を避けつつ速やかに視界の回復を図ることができる。このとき、フィルム積層体1は、剥離されることにより現れたフィルム状部材2の露出面及び第1、第2の係合部材が滅菌処理されているため、患者や被検査者、他の医療者等に対する感染リスクを低減することができる。また、剥離されたフィルム状部材2の裏面においても同様に滅菌処理されているため、剥離時や廃棄時において、患者や被検査者、医療者等に対して、滅菌処理がなされていない部位が晒されることもない。
【0027】
[第1、第2の係合部材]
図1図2に示すフィルム積層体1は、第1の係合部材として基材4の一面に無数のループ5が立設されたループ部材6を使用し、第2の係合部材として基材7の一面に上記ループ5に着脱自在に係合する無数のフック8が立設されたフック部材9を使用したものである。
【0028】
なお、フィルム状部材2は、一方の面にループ部材6及びフック部材9の一方が設けられ、中間層のフィルム状部材2では、他方の面にループ部材6及びフック部材9の他方が設けられているものである。本願の図面では便宜上「6,9」と表記し、一方の面及び/又は他方の面に、ループ部材6及びフック部材9の一方又は他方が設けられていることを示す。
【0029】
図3に示すように、ループ部材6の基材4は、シート状に形成されたループ5の支持体であり、一面に無数の微細なループ5が立設され、一面と反対側の他面がフィルム状部材2へ固着される固着面となる。
【0030】
図4に示すように、フック部材9の基材7は、シート状に形成されたフック5の支持体であり、一面に無数の微細なフック8が立設され、一面と反対側の他面がフィルム状部材2へ固着される固着面となる。フック5は、ループ5に係合可能な形状を有し、例えば鉤状、マッシュルーム形状をなすが、これらに限られるものではない。
【0031】
フィルム積層体1は、隣接して積層された一対のフィルム状部材2のうち一方のフィルム状部材2に、ループ部材6の基材4が接着剤や粘着テープ等の固着材料10によって固着され、一方のフィルム状部材2に対向する他方のフィルム状部材2に、フック部材9の基材7が固着材料10によって固着される。また、ループ部材6及びフック部材9は、フィルム状部材2が積層された際に、対向する位置に設けられる。
【0032】
ループ部材6が固着されたフィルム状部材2とフック部材9が固着されたフィルム状部材2を重ね合わせることにより、ループ5にフック8が係合する。これにより、一方のフィルム状部材2と他方のフィルム状部材2は、空隙を隔てて保持、積層され、滅菌ガスによる滅菌処理が可能とされる。なお、側面視において、一見して一方のフィルム状部材2と他方のフィルム状部材2との間に空隙が見られない場合でも、これらは密着することなく軽く触れている程度であり、滅菌ガスが通気可能に積層されている。
【0033】
また、ループ部材6及びフック部材9は、基材4,7同士が密着することなく基材4,7に立設されたループ5とフック8が部分的に係合するものであり、ループ部材6及びフック部材9の間には隙間を有し通気性がある。そのため、フィルム積層体1は、ループ部材6及びフック部材9が係合した状態、すなわちフィルム状部材2が積層された状態で、滅菌ガスを通気させることができる。したがって、フィルム積層体1は、ループ部材6及びフック部材9がフィルム状部材2の外側縁を囲むように固着した場合でも、その内側のフィルム状部材2の表面を滅菌することができる。
【0034】
フィルム状部材2は、ループ部材6及びフック部材9の係合を外すことにより剥離される。このとき、フィルム状部材2は、滅菌処理された面を露出させることができる。また、通気性を有するループ部材6及びフック部材9の係合部も滅菌処理されているため、滅菌処理されたループ部材6及びフック部材9が露出されることとなる。
【0035】
このようなループ部材6及びフック部材9としては、例えば3M社製メカニカルファスナーや、いわゆる面ファスナーを使用することができる。
【0036】
[固着位置]
ループ部材6及びフック部材9は、安定してフィルム状部材2を空隙を隔てて保持、積層できるとともに、使用時においてフィルム状部材2内の使用者の視野と干渉せず、また剥離操作が容易に行えるような位置及び数で設けられる。このような観点から、ループ部材6及びフック部材9は、テープ状に形成され、フィルム状部材2の側縁部に設けることが好ましい。
【0037】
固着パターンは、装着される保護具の形状や用途等に応じて決定できる。例えば、図5に示すように略矩形状のフィルム状部材2の左右側縁部に線状に固着してもよく、図6に示すように略矩形状のフィルム状部材2の左右側縁部に破線状に固着してもよく、図7に示すように略矩形状のフィルム状部材2の上下側縁部に線状に固着してもよく、図8に示すように略矩形状のフィルム状部材2の上下側縁部に破線状に固着してもよい。また、図9に示すようにフィルム状部材2の側縁部全周を囲むように固着してもよい。なお、図5図9は、フィルム状部材2同士を積層させるループ部材6及びフック部材9の固着パターンを模式的に示す図である。フィルム状部材2は、積層位置に応じて、表面及び裏面の一方又は両方に、ループ部材6又はフック部材9が固着される。
【0038】
また、複数のループ部材6及びフック部材9をフィルム状部材2の側縁部に並列して固着させてもよい。ループ部材6及びフック部材9の形成位置や数は上述したものに限られず、保護具21やフィルム積層体1の装着の構成、用途等に応じて適宜設定される。
【0039】
また、各テープ状ループ部材6及びフック部材9の剥離に要する剥離力は同じでもよく、異ならせてもよい。例えば、テープ状ループ部材6及びフック部材9を破線状に固着する場合において、フィルム状部材2のコーナー付近に固着するループ部材6及びフック部材9を、中間部に固着するものに対して相対的に剥離力の強いものを用いたり、上下側縁部にテープ状ループ部材6及びフック部材9を固着する場合において上側縁部に相対的に幅広のループ部材6及びフック部材9を固着し、下側縁部に相対的に幅狭のループ部材6及びフック部材9を固着したりするなど、部位ごとに剥離力を異ならせてもよい。また、1本のテープ状ループ部材6及びフック部材9において、フック形状を変える、幅を変える等により部位ごとに剥離力を異ならせてもよい。
【0040】
また、フィルム状部材2の一つの面に、テープ状ループ部材6及びフック部材9を混在させてもよい。この場合、対向するフィルム状部材2にもテープ状ループ部材6及びフック部材9を混在させ、互いに対向するように配列する。
【0041】
[剥離力]
フィルム積層体1は、相対的に上層のフィルム状部材2同士を積層させるループ部材6及びフック部材9の剥離力を、相対的に下層のフィルム状部材2同士を積層させるループ部材6及びフック部材9の剥離力よりも低くすることが好ましい。これにより、上層のフィルム状部材2を剥離した際に、相対的に下層のフィルム状部材2を保持、積層させているループ部材6及びフック部材9が剥離されることを防止でき、下層のフィルム状部材2を共に剥離してしまうことを防止することができる。
【0042】
フィルム状部材2間の剥離力は、各フィルム状部材2間に設けられたループ部材6及びフック部材9のフック形状を異ならせる、ループ部材6及びフック部材9の幅や固着本数を変えることにより固着面積を変更する等により調整することができる。図10は、最上層のフィルム状部材2と中間層のフィルム状部材2を積層させるループ部材6及びフック部材9の幅を、中間層のフィルム状部材2と下層のフィルム状部材2を積層させるループ部材6及びフック部材9の幅よりも狭くして、相対的に剥離力を低くした構成を模式的に示す断面図である。図10に示すフィルム積層体1は、最上層のフィルム状部材2を剥離した際に、中間層のフィルム状部材2が剥離されることを防止できる。
【0043】
なお、ループ部材6及びフック部材9をフィルム状部材2へ固着させる固着材料10の固着力は、いずれもフィルム積層体1の各フィルム状部材2間の剥離力よりも高い。したがって、フィルム状部材2を剥離した際に、ループ部材6及びフック部材9がフィルム状部材2との界面で剥離することはない。また、フィルム状部材2を剥離した際に、固着材料10自体が固着層間において凝集破壊を起こすこともない。
【0044】
[その他]
上記では、フィルム状部材2を保持、積層させる第1、第2の係合部材としてループ部材6及びフック部材9を使用したが、上述した作用効果を有するならば、第1の係合部材をフック部材9に変更してもよい。すなわち、フック部材9同士の係合によってフィルム状部材2を保持、積層させてもよい。
【0045】
[フィルム状部材]
フィルム状部材2は、可撓性を有する透明のシートである。フィルム状部材2の形状は特に制限はなく、例えば図1等に示すような略矩形状とする等、適用される保護具21等に応じて適宜選択することができる。
【0046】
上述したように、フィルム状部材2の側縁部には、ループ部材6又はフック部材9が設けられる。具体的に、最上層のフィルム状部材2には、裏面にループ部材6又はフック部材9が設けられ、中間層のフィルム状部材2には表面及び裏面にループ部材6又はフック部材9が設けられる。最下層のフィルム状部材2は、表面にループ部材6又はフック部材9が設けられ、裏面には保護具21への装着形態に応じて適宜ループ部材6又はフック部材9が設けられる
【0047】
フィルム状部材2は、外縁部に剥離用のタブ20を設けてもよい。タブ20は、フィルム状部材2を剥離する際に把持される部位である。フィルム状部材2は、タブ20に剥離するフィルム状部材2の識別機能を付与することが好ましい。これにより、最上層のフィルム状部材2から剥離するよう促すことができ、誤って中間層のフィルム状部材2をその上層のフィルム状部材2とともに剥離することを防止することができる。
【0048】
このような最上層のフィルム状部材2を識別させる識別手段としては、タブ20の大きさを最上層から順次小さくしていくことが挙げられる。すなわち、図1に示すように、最上層のフィルム状部材2に形成するタブ20をそれよりも下層のフィルム状部材2のタブ20よりも大きく形成し、下層のフィルム状部材2のタブが隠れるようにすることで、常に最上層のフィルム状部材2のタブ20のみを把持しやすくなり、誤ってそれより下層のフィルム状部材2のタブ20を把持することを防止することができる。
【0049】
また、例えばタブ20の形成位置をフィルム状部材2毎に変えてもよい。例えば、最上層のフィルム状部材2は正面視で右側縁にタブ20を形成し、中間層のフィルム状部材2は正面視で左側縁にタブ20を形成する。これにより、初めに右側縁のタブ20を把持することで最上層のフィルム状部材2を剥離し、誤って中間層のフィルム状部材2まで剥離することを防止することができる。
【0050】
その他にも、フィルム状部材2毎にタブ20の色を変える、凹凸マークや開口、切り欠き等の物理的な特徴を加工するといった方法により識別させてもよい。また、上述した識別手段を組み合わせてもよい。
【0051】
なお、フィルム積層体1は、各層を構成するフィルム状部材2が全て同じものであってもよく、機能や光学特性が異なるものであってもよい。この点は、フィルム積層体1が適用される保護具21の用途等に応じて適宜選択される。また、機能や特性が異なるフィルム状部材2を積層する場合における積層順も保護具21の用途等に応じて適宜設定される。
【0052】
[モスアイ構造]
ここで、フィルム状部材2は、可撓性を有する透明基材の少なくとも一方の面に可視光の波長以下のピッチで複数の構造体が設けられ、これにより反射防止機能を備える光学素子とすることが好ましい。以下では、この反射防止機能を有する微細な凹凸構造体を「モスアイ構造体」という。なお、フィルム積層体1は、モスアイ構造体を備えたフィルム状部材2を用いることにより、このフィルム状部材2を積層させることによっても視認性を損なうことがない。
【0053】
図11に示すように、フィルム状部材2は、基体11の両面に基底層13を介して可視光の波長以下のピッチで構造体12が設けられ、これにより、対向する表面及び裏面の両面に反射防止機能を有している。複数の構造体12は、基体11の表面及び裏面において、基底層13の上に複数の列をなすように規則的に配置されている。すなわち、フィルム状部材2の表面及び裏面は複数の構造体12からなるモスアイ構造体による凹凸形状を有する。なお、フィルム状部材2は、基体11の表面のみに構造体12を設けてもよい。
【0054】
フィルム状部材2は、このような凹凸形状をフィルム状部材2の表面及び裏面に設けることで、波長依存性が少なく、視認性の優れた光学調整機能を、フィルム積層体1が装着された保護具21に付与することができる。即ち、視認性に優れた保護具21を実現することに寄与することができる。
【0055】
ここで、「光学調整機能」とは、透過特性や反射特性の光学調整機能を示す。光学素子としてのフィルム状部材2は、例えば可視光に対して透明性を有しており、その屈折率nは、好ましくは1.30以上2.00以下、より好ましくは1.34以上2.00以下の範囲内であることが好ましい。但し、これには限定されない。
【0056】
なお、構造体12の屈折率は、基体11の屈折率と同様又は略同様であることが好ましい。内部反射を抑制し、コントラストを向上できるからである。
【0057】
図11では、構造体12が基底層13を介して基体11の表裏面に形成される例を示したが、この基底層13は、基体11に対する構造体12の密着性を向上させる役割を担っている。この場合、基底層13は、構造体12の底面側に当該構造体12と一体成形される光学層であって、透明性を有しており、構造体12と同様のエネルギー線硬化性樹脂組成物などを硬化することにより形成されてよい。
【0058】
また、フィルム積層体1は、図12に示すように、基底層13を有せず、基体11の上に複数の構造体12によるモスアイ構造が直接形成されたフィルム状部材2を用いてもよい。
【0059】
さらに、フィルム積層体1は、図13に示すように、基体と構造体とが、一体成形されたフィルム状部材2を用いてもよい。図13に示すフィルム状部材2は、基体11の両面に構造体12が一体成形されている。
【0060】
[基体]
ここで、基体11について更に説明する。基体11は、例えば、透明性を有する透明基材である。基体11の材料としては、例えば、透明性を有するプラスチック材料を主成分とするものが挙げられるが、これらの材料に特に限定されるものではない。
【0061】
基体11としてプラスチック材料を用いる場合、プラスチック材料の表面の表面エネルギー、塗布性、すべり性、平面性などをより改善するために、表面処理により図示しない下塗り層を更に設けるようにしてもよい。この下塗り層としては、例えば、オルガノアルコキシメタル化合物、ポリエステル、アクリル変性ポリエステル、ポリウレタンなどが挙げられる。また、下塗り層を設けるのと同等の効果を得るために、基体11の表面に対してコロナ放電処理、UV照射処理などを行うようにしてもよい。
【0062】
基体11がプラスチックフィルムである場合、当該基体11は、例えば、上述の樹脂を伸延、あるいは溶剤に希釈後フィルム状に成膜して乾燥するなどの方法で得ることができる。基体11の厚さは、フィルム状部材2の用途に応じて適宜選択することが好ましく、例えば10μm以上500μm以下程度であってよい。基体11の形状としては、例えば、フィルム状、プレート状等を挙げることができるが、特にこれら形状に限定されるものではない。なお、フィルムにはシートが含まれるものとする。
【0063】
基体11の材料としては、例えば、メチルメタクリレート(共)重合体、ポリカーボネート、スチレン(共)重合体、メチルメタクリレート-スチレン共重合体、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリエーテルケトン、ポリウレタン、ガラス等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0064】
[構造体]
次に、構造体12について説明する。一般に、可視光の波長帯域は360nm~830nmであるが、この実施形態では、構造体12を可視光の波長帯域以下のサイズで規則配列している。かかる観点から、構造体12の配置ピッチは350nmを超えないものとする。構造体12は、錐体状、柱状、針状など、種々の形状でよい。
【0065】
構造体12は、後述するように、基体11に塗布されたエネルギー線硬化性樹脂組成物などの転写材料36に、モスアイ構造体に応じたパターンが形成されたロール原盤露光装置を用いてパターンが転写された後、硬化されることにより形成される。
【0066】
転写材料36の硬化物は、親水性を有していても良い。転写材料36は、親水性を有する官能基を1種以上含んでいることが好ましい。このような親水性を有する官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、およびカルボニル基などがあげられる。
【0067】
また、構造体12を形成するエネルギー線硬化性樹脂生成物は、基体11の両面で異なる物性を持っても良い。例えば、使用の用途によって、撥水性、親水性を使い分けることにより、防曇などの機能を特定の面に持たせることができる。
【0068】
エネルギー線硬化性樹脂組成物としては、紫外線硬化性樹脂組成物を用いることが好ましい。また、エネルギー線硬化性樹脂組成物が、必要に応じてフィラーや機能性添加剤などを含んでいてもよい。
【0069】
紫外線硬化性樹脂組成物は、例えばアクリレート及び開始剤を含んでいる。
【0070】
そして、紫外線硬化性樹脂組成物は、例えば単官能モノマー、二官能モノマー、多官能モノマー等を含み、具体的には、以下に示す材料を単独又は複数混合したものである。
【0071】
即ち「単官能モノマー」としては、例えば、カルボン酸類(アクリル酸)、ヒドロキシ類(2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート)、アルキル又は脂環類のモノマー(イソブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソボニルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート)、その他機能性モノマー(2-メトキシエチルアクリレート、メトキシエチレングリコールアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ベンジルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、2-(パーフルオロオクチル)エチルアクリレート、3-パーフルオロヘキシル-2-ヒドロキシプロピルアクリレート、3-パーフルオロオクチル-2-ヒドロキシプロピル-アクリレート、2-(パーフルオロデシル)エチル-アクリレート、2-(パーフルオロ-3-メチルブチル)エチルアクリレート)、2,4,6-トリブロモフェノールアクリレート、2,4,6-トリブロモフェノールメタクリレート、2-(2,4,6-トリブロモフェノキシ)エチルアクリレート)、2-エチルヘキシルアクリレートなどを挙げることができる。
【0072】
「二官能モノマー」としては、例えば、トリ(プロピレングリコール)ジアクリレート、トリメチロールプロパン-ジアリルエーテル、ウレタンアクリレートなどを挙げることができる。
【0073】
「多官能モノマー」としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ及びヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレートなどを挙げることができる。
【0074】
なかでも、転写材料36を構成する好ましい樹脂組成物としては、2-ヒドロキシエチルアクリレート、アクリルモルフォリン、グリセロールアクリレート、ポリエーテル系アクリレート、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクトン、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、脂肪族ウレタンオリゴマー、ポリエステルオリゴマーなどを挙げることができる。
【0075】
「開始剤」としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンなどを挙げることができる。
【0076】
「フィラー」としては、例えば、無機微粒子および有機微粒子のいずれも用いることができる。無機微粒子としては、例えば、SiO、TiO、ZrO、SnO、Alなどの金属酸化物微粒子を挙げることができる。
【0077】
「機能性添加剤」としては、例えば、レベリング剤、表面調整剤、消泡剤などを挙げることができる。
【0078】
構造体12として、微細な凹凸構造体からなるモスアイ構造体を形成することにより、フィルム積層体1は、高度な反射防止機能を有する。ここで、フィルム積層体1の防反射性能は、表裏面を合わせて5%以下、好ましくは1%以下、更に好ましくは0.5%以下である。手術時の光源の無影灯は100000lx以上の照度があり、これらの反射光は数%でも眩しく感じられるため、できるだけ反射を抑えることが求められる。そして、構造体12として透明の基体11に可視光の波長以下のピッチで複数の構造体を構成したモスアイ構造体からなる防反射層を備えたフィルム積層体1は、波長依存や角度依存が少なく、防反射性能が高いことから、医療用のフェースシールド、アイシールド、防護服として好適に用いることができる。
【0079】
また、フィルム積層体1は、モスアイ構造体からなる防反射層を構成する可視光の波長以下のピッチの複数の構造体を、親水性を有する樹脂で構成することにより、防曇性を付加することができる。
【0080】
さらに、フィルム積層体1は、透明の基体11の両面にモスアイ構造体からなる防反射層を構成することにより、さらに優れた防反射性能を付与することができる。
【0081】
[フィルム状部材の製造工程]
次いで、モスアイ構造体が形成されたフィルム状部材2の製造工程について説明する。フィルム状部材2は、モスアイ構造体に応じたパターンが形成されたロール原盤露光装置を用いてパターンが転写されることによりモスアイ構造体が形成される。
【0082】
[ロール原盤]
図14に示すように、ロール原盤41は、例えば、円柱状または円筒状の形状を有し、その円柱面または円筒面が基体表面に複数の構造体12を成形するための成形面とされる。この成形面には、例えば、ドライエッチング、ウエットエッチング等により所定の構造体42が2次元配列されている。構造体42は、例えば、成形面に対して凹状または凸状を有している。ロール原盤41の材料としては、例えばガラスを用いることができるが、この材料に特に限定されるものではない。
【0083】
ロール原盤41の成形面に配置された複数の構造体42と、上述の基体11の表面に配置された複数の構造体12とは、反転した凹凸関係にある。すなわち、ロール原盤41の構造体42の形状、配列、配置ピッチなどは、基体11の構造体12と同様である。
【0084】
[転写工程1]
図15(A)に示すように、基体11は一面に転写材料36が塗布された後、この転写材料36が塗布された面が、モスアイ構造体に応じたパターンが形成されたロール原盤41に密着される。次いで、紫外線などのエネルギー線をエネルギー線源37から転写材料36に照射して転写材料36を硬化させた後、硬化した転写材料36と一体となった基体11を剥離する。これにより、図15(B)に示すように、複数の構造体12が基体11の片面に形成されたフィルム状部材2が得られる。この際、必要に応じて、構造体12と基体11との間に基底層13をさらに形成するようにしてもよい。
【0085】
エネルギー線源37としては、電子線、紫外線、赤外線、レーザー光線、可視光線、電離放射線(X線、α線、β線、γ線など)、マイクロ波、または高周波などエネルギー線を放出可能なものであればよく、特に限定されるものではない。
【0086】
[転写工程2]
複数の構造体12が基体11の両面に形成されたフィルム状部材2を得る場合は、さらに、図15(C)に示すように、モスアイ構造体用のロール原盤41と、片面に構造体が形成された基体11の反対側の表面上に塗布された転写材料36とを密着させた後、紫外線などのエネルギー線をエネルギー線源37から転写材料36に照射して転写材料36を硬化させる。次いで、硬化した転写材料36と一体となった基体11を剥離する。これにより、図15(D)に示すように、複数の構造体12が基体11の両面に形成されたフィルム状部材2が得られる。この際、必要に応じて、構造体12と基体11との間に基底層13をさらに形成するようにしてもよい。
【0087】
この転写工程2で転写材料36として使用する樹脂組成物は前述の転写工程1と同様とすることができる。
【0088】
なお、転写工程1、または転写工程2までで得たフィルム状部材2の表面に保護フィルムを貼合しても良い。これにより、フィルム状部材2は、構造体12を、以降の工程や輸送などで破壊することを防ぐことが出来る。
【0089】
[形状形成工程]
上記で得られたフィルム状部材2は、装着する保護具21に応じて所定の形状に裁断するとともに、適宜タブ20への加工等が施される。タブ20の加工は数値制御された切削加工機やレーザー加工装置、打ち抜きプレス装置などが使用可能である。打ち抜きプレスを使用すると所定形状への裁断とタブ20の物理的な加工が一つの工程で行えることから好適である。
【0090】
[積層工程]
次いで、各フィルム状部材2に、ループ部材6及びフック部材9を、接着剤や粘着テープ等の固着材料10によって、所定のパターンで固着する。次いで、隣接して積層させる一対のフィルム状部材2のループ部材6とフック部材9を係合させることにより、フィルム状部材2を積層する。これによりフィルム積層体1を得る。フィルム状部材2の層数は複数層であれば特に制限は無く、保護具の用途に応じて設定することができる。ただし、層数を重ねるほど光学特性への影響が大きくなるため、明瞭な視界が求められる用途等においては層数は少ないほうがよい。また、医療用途では、衛生面を重視してフィルム積層体1や保護具21全体がディスポーザブルとなるケースもあるため、積層枚数は2~3層が好ましい。
【0091】
[滅菌工程]
次いで、フィルム積層体1の滅菌処理を行う。滅菌処理には、エチレンオキシドガス等を用いたガス滅菌や、ガンマ線等を照射する放射線滅菌を使用できる。フィルム積層体1は、各フィルム状部材2間に空隙が設けられる。また、ループ部材6及びフック部材9は、基材4,7同士が密着することなく基材4,7に立設されたループ5とフック8が部分的に係合するものであり、ループ部材6及びフック部材9の間には隙間を有し通気性がある。そのため、フィルム積層体1は、ループ部材6及びフック部材9が係合した状態、すなわちフィルム状部材2が積層された状態で、滅菌ガスを通気させることができる。
【0092】
したがって、全てのフィルム状部材2の露出された全面及びループ部材6とフック部材9の係合部を滅菌ガスに曝すことが可能となる。さらに、フィルム積層体1は、エチレンオキシドガス等の滅菌ガスが透過できない材料を用いてフィルム状部材2を形成した場合にも、露出された全面を十分に滅菌することができる。
【0093】
なお、滅菌処理は、フィルム積層体1を形成した後、後述する保護具21へ装着する前に行うが、保護具21へ装着した後に保護具21とともに行ってもよく、また、その両方のタイミングで行ってもよい。
【0094】
フィルム積層体1の使用時には、最上層のフィルム状部材2が汚損したことにより剥離すると、その下層のフィルム状部材2が露出する。新たに露出したフィルム状部材2は、ループ部材6及びフック部材9を含め露出された全面が滅菌処理されているため、患者や被検査者、他の医療者等に対する感染リスクを低減することができる。
【0095】
また、フィルム状部材2の剥離は、ループ部材6とフック部材9の係合を外すのみで可能となるため、フィルム状部材2に形成されているモスアイ構造を破損するリスクもない。この点、粘着材でフィルム状部材2間を接合する積層構造では、剥離時に粘着層とフィルム状部材2の界面破壊や粘着層間の凝集破壊といった機械的な破壊を伴うため、接合力によってはモスアイ構造を破損し、視界に悪影響を及ぼすリスクが生じる。また、粘着層残渣の飛散や粘着層からのアウトガスの発生等が生じることは、特に医療現場において好ましくない。
【0096】
また、フィルム状部材2同士を溶着することによってフィルム状部材2間を接合する積層構造においても、剥離時にフィルム状部材2間の物理的な破壊を伴うため、モスアイ構造の破損が視界にまで及ぶといったリスクを伴う。また、溶着箇所の破壊に伴う残渣の飛散は、特に医療現場において好ましくない。
【0097】
フィルム積層体1は、粘着剤は使用せず、またフィルム状部材2の溶着も行っていないため、これらによるリスクもなく安全に使用することができる。また、フィルム積層体1は、複数のフィルム状部材2が空隙を隔てて積層されるとともに、各フィルム状部材2のループ部材6とフック部材9が固着された部位は外部に露出することが無く、滅菌処理されたループ部材6とフック部材9が露出する。したがって、フィルム積層体1は、第1、第2の係合部材を含めて各フィルム状部材2の表裏全面を滅菌ガスに晒すことが可能となり、フィルム状部材2を剥離したとき、新しく現れたフィルム状部材2において滅菌処理が未処理の部位が露出されることがない。
【0098】
[保護具]
フィルム積層体1は、保護具21に装着される。保護具21は、フィルム状部材2を剥離することで視界を確保する用途を有するものであれば特に制限は無く、例えば、医療用防護服(カバーオール)、医療用フェースシールド、医療用アイシールド、医療用のディスプレイ、ヘルメットのバイザー、塗装用保護眼鏡、災害時等に使用される化学防護服等が挙げられる。
【0099】
フィルム積層体1が装着された保護具21は、保護具21を着用した使用者の顔面もしくは目の周囲に相当する部位に、フィルム積層体1が設けられている。そして、保護具21の使用中にフィルム積層体1の表面が汚損した場合は、最上層のフィルム状部材2を剥離することで、汚染物との接触を避けつつ速やかに視界の回復を図ることができる。フィルム積層体1は、ループ部材6及びフック部材9を含め各層のフィルム状部材2の表裏露出面が滅菌処理されているため、使用初期のみならず剥離後においても常に滅菌処理された面が表面に現れる。これにより、医療用途においては、患者や被検査者、他の医療者等に対する感染リスクを低減することができる。また、剥離されたフィルム状部材2の裏面側も滅菌処理されているため、剥離時や廃棄時において、患者や被検査者、医療者等に対して、滅菌処理がなされていない部位が晒されることもない。
【0100】
フィルム積層体1の装着方法は特に制限は無く、適用される保護具21の仕様に応じて適宜決定すればよい。図16は、保護具21の一例として示す医療用防護服を示す外観斜視図である。例えば、図16に示すように、保護具21は、使用者の顔面に対応した位置に開口部22が設けられ、この開口部22にフィルム積層体1を装着する。図17(A)に示すフィルム積層体1は、3枚のフィルム状部材2が積層され、最下層のフィルム状部材2a(すなわち、最も使用者の顔の近くに配置されるフィルム状部材2a)から、中間層のフィルム状部材2b及び最上層のフィルム状部材2cがループ部材6及びフック部材9を介して積層されている。なお、本技術に係るフィルム積層体1を構成するフィルム状部材2の積層数は3層に限られない。
【0101】
フィルム状部材2a、2b、2cは空隙を隔てて積層され、またループ部材6及びフック部材9も通気性を有するため、フィルム積層体1の使用初期やフィルム状部材2を剥離した際に外部に露出する部位の全面に滅菌処理を行うことができる。また、フィルム状部材2a、2b、2cは、側面視において、一見して一方のフィルム状部材2と他方のフィルム状部材2との間に空隙が見られない場合でも、これらは密着することなく軽く触れている程度であり、滅菌ガスが通気可能に積層されている。
【0102】
図17(A)に示すように、フィルム積層体1は、最下層のフィルム状部材2aが開口部22よりも大きく形成されている。また、開口部22の裏面側の外側縁には両面テープ等による接着層23が設けられている。そして、フィルム積層体1は、保護具21の裏側から、最上層のフィルム状部材2a及び中間層のフィルム状部材2を開口部22に通し、最下層のフィルム状部材2aを、接着層23を介して開口部22の周囲に接着させる。これにより、図17(B)に示すように、フィルム積層体1を保護具21に装着することができる。
【0103】
なお、フィルム状部材2は、一方の面に設けられたループ部材6又はフック部材9が、隣接して対向するフィルム状部材2の他方の面に設けられたフック部材又はループ部材と係合することにより積層されるが、どちらのフィルム状部材2にループ部材6又はフック部材9が設けられているかは決まっていない。本願の図面では便宜上「6・9」と表記し、一方のフィルム状部材2設けられたループ部材6と他方のフィルム状部材2に設けられたフック部部材9が係合している状態を示すものとする。
【0104】
また、図18に示すように、接着層23による接着に代えてループ部材6及びフック部材9を使用してもよい。なお、図18に示す構成では、開口部22の裏面側の外側縁及び最下層のフィルム状部材2aには、ループ部材6及びフック部材9のいずれか一方が設けられているものである。本願の図面では便宜上「6/9」と表記し、ループ部材6及びフック部材9のいずれか一方が設けられていることを示すものとする。対向する位置にはループ部材6及びフック部材9のいずれか他方が設けられている。
【0105】
なお、図19に示すように、最下層のフィルム状部材2aを保護具21の表面側に装着してもよい。この場合、開口部22の表面側の外側縁には両面テープ等による接着層23が設けられている。そして、フィルム積層体1は、最下層のフィルム状部材2aを、接着層23を介して開口部22の周囲に接着させる。図19に示す構成では、中間層のフィルム状部材2b及び最上層のフィルム状部材2cとして開口部22よりも大きな面積のものを使用できる。なお、最下層のフィルム状部材2aを保護具21の表面側に装着する構成においても、図20に示すように、接着層23に代えてループ部材6及びフック部材9を使用してもよい。
【0106】
また、図21に示すように、フィルム状部材2aを保護具21の開口部22に接続した後に(図21(A))、中間層のフィルム状部材2bを積層させ(図21(B))、次いで最上層のフィルム状部材2cを積層させることにより(図21(C))、フィルム積層体1を形成するとともに、フィルム積層体1を備えた保護具21を形成してもよい。
【0107】
[フィルム積層体の別の構成例1]
次いで、フィルム積層体1の別の構成例について説明する。図22は、本技術が適用されたフィルム積層体の別の構成例を示す断面図であり、(A)はフィルム状部材2の積層前の状態、(B)はフィルム状部材2の積層後の状態を示す。図23は、図22に示すフィルム積層体25を保護具に装着する工程を示す断面図であり、(A)はフィルム積層体25の装着前の状態、(B)はフィルム積層体25の装着後の状態を示す。
【0108】
図22に示すフィルム積層体25は、第1の係合部材を一方のフィルム状部材2に設けられた凹部材26とし、第2の係合部材を他方のフィルム状部材2に設けられ、凹部材26に係脱自在に嵌合する凸部材27としたものである。一方のフィルム状部材2と他方のフィルム状部材2は、凹部材26と凸部材27が嵌合することにより、空隙を隔てて保持されて積層されている。
【0109】
凹部材26及び凸部材27は、密着することなく部分的に嵌合するものであり、凹部材26と凸部材27の嵌合部には隙間を有し通気性がある。そのため、フィルム積層体25は、凹部材26及び凸部材27が嵌合した状態、すなわちフィルム状部材2が積層された状態で、凹部材26及び凸部材27間に滅菌ガスを通気させることができる。フィルム状部材2は、凹部材26及び凸部材27の嵌合を外すことにより剥離される。このとき、通気性を有する凹部材26及び凸部材27の嵌合部は滅菌処理されているため、滅菌処理された凹部材26及び凸部材27が露出されることとなる。
【0110】
係脱自在に嵌合する凹部材26及び凸部材27としては、例えば図24に示すようなスナップボタンが例示される。凹部材26及び凸部材27の材料は特に制限は無く、例えば樹脂製や金属製のものを用いることができる。
【0111】
凹部材26及び凸部材27は、フィルム状部材2が積層された際に、対向する位置に設けられる。また、凹部材26及び凸部材27は、接着剤や接着テープなどの固着材料10によってフィルム状部材2に固着される。この固着材料10の固着力は、凹部材26及び凸部材27の係合力よりも高い。したがって、フィルム状部材2を剥離した際に、嵌合状態の凹部材26及び凸部材27が一方又は他方のフィルム状部材2の界面で剥離されることがなく、常に滅菌処理された表面を露出させることができる。また、フィルム状部材2を剥離した際に、固着材料10自体が固着層間において凝集破壊を起こすこともない。
【0112】
凹部材26及び凸部材27の形成位置は、安定してフィルム状部材2を空隙を隔てて保持、積層できるとともに、保護具21に装着した際に使用者の視界を妨げず、またフィルム状部材2の剥離操作を容易に行えるような位置であればよく、例えばフィルム状部材2の外縁部に設けることができる。また、凹部材26及び凸部材27の設置数も、安定的にフィルム状部材2を積層保持することができれば、特に制限は無い。
【0113】
なお、図23に示すように、フィルム積層体25は、最下層のフィルム状部材2aが開口部22の裏面側の外側縁に設けられた接着層23に接着することにより保護具21に装着されるものであるが、フィルム積層体25を保護具21の表面側に装着してもよい。また、また、フィルム積層体25を保護具21の裏面側又は表面側に装着する手段として、接着層23に代えて凹部材26及び凸部材27を用いてもよい。
【0114】
[フィルム積層体の別の構成例2]
凹部材26及び凸部材27は、それぞれフィルム状部材2を挟持することによりフィルム状部材2に固着されてもよい。図25(A)に示す凹部材26は、円形の基板50に突起部51が立設されたベース26bと、突起部51が挿通する挿通孔52の周囲に嵌合凹部53が形成された蓋体26aからなる。蓋体26aは、嵌合凹部53の底面に挿通孔52が設けられている。そして、ベース26bの突起部51をフィルム状部材2に設けた孔に挿通させ(図25(B))、反対側から蓋体26aの挿通孔52に突起部51の先端部を挿通させる(図25(C))。突起部51の先端部は挿通孔52より若干太く、且つ長さ方向にスリットが設けられることにより径方向への撓性を有する。このため、蓋体26aの挿通孔52を挿通した突起部51の先端部は挿通孔52の周囲に係合し、これにより蓋体26aとベース26bとの間にフィルム状部材2が挟持される。
【0115】
図25(A)に示す凸部材27は、基板55に突起部56が立設されたベース27bと、円筒状の嵌合凸部57が形成された蓋体27aからなる。蓋体27aは、嵌合凸部57の底面に突起部56が挿通する挿通孔が設けられている。そして、ベース27bの突起部56をフィルム状部材2に設けた孔に挿通させ(図25(B))、反対側から蓋体27aの挿通孔に突起部56の先端部を挿通させる(図25(D))。突起部56の先端部は、突起部51と同様に径方向への撓性を有する。このため、蓋体27aの挿通孔を挿通した突起部56の先端部は挿通孔の周囲に係合し、これにより蓋体27aとベース27bとの間にフィルム状部材2が挟持される。
【0116】
凹部材26の嵌合凹部53の開放端には内側に張り出す張り出し部が設けられている。一方、凸部材27の嵌合凸部57の先端部には外側に張り出す張り出し部が設けられている。これにより、嵌合凹部53に嵌合凸部57を挿通すると、各張り出し部が係合することにより凹部材26及び凸部材27を嵌合することができる。
【0117】
そして、図26(A)に示すように、隣接するフィルム状部材2の一方に凹部材26を固着し、他方に凸部部材27を固着し、凹部材26と凸部材27を嵌合することにより、フィルム状部材2を積層することができる。図26(B)に示すように、凹部材26の嵌合凹部53及び凸部材27の嵌合凸部57は、密着することなく部分的に嵌合するものであり、且つ凹部材26と凸部材27の各蓋体26a,27a間にも隙間を有し通気性がある。そのため、フィルム積層体25は、凹部材26及び凸部材27が嵌合した状態、すなわちフィルム状部材2が積層された状態で、凹部材26及び凸部材27間に滅菌ガスを通気させることができる。フィルム状部材2は、凹部材26の嵌合凹部53と及び凸部材27嵌合凸部57の嵌合を外すことにより剥離される。このとき、通気性を有する凹部材26及び凸部材27の嵌合部は滅菌処理されているため、滅菌処理された凹部材26及び凸部材27が露出されることとなる。
【0118】
図26(B)は、2層のフィルム状部材2を積層したフィルム積層体1を示す。図26(C)は、3層のフィルム状部材2を積層したフィルム積層体1を示す。このように、3層以上のフィルム状部材2を積層する場合は、中間層を構成するフィルム状部材2の両面外側に嵌合凹部53又は嵌合凸部57が向くように凹部材26及び凸部材27を固着する。
【0119】
[フィルム積層体の別の構成例3]
また、係脱自在に係合する第1、第2の係合部材としては、図27に示すようなファスナー30を用いてもよい。この場合、ファスナー30の一片30aが一方のフィルム状部材2の側縁に沿って固着され、ファスナー30のもう一片30bが他方のフィルム状部材2の側縁に沿って固着される。一対のフィルム状部材2は、ファスナーを閉めることにより、空隙を隔てて積層される。また、ファスナー30の両片30a,30bは、密着することなく係合するものであり、両片30a,30bの係合部には隙間を有し通気性がある。
【0120】
そのため、ファスナー30を閉めた状態、すなわちフィルム状部材2が積層された状態で、滅菌ガスを通気させることができる。フィルム状部材2は、ファスナー30を開けることにより剥離される。このとき、通気性を有するファスナー30の係合部は滅菌処理されているため、滅菌処理されたファスナー30の両片30a,30bが露出されることとなる。
【実施例0121】
次いで、本技術の実施例について説明する。以下の各実施例では、実施例サンプルとして、第1、第2の係合部材としてループ部材6及びフック部材9を用いてフィルム状部材2を積層したフィルム積層体サンプルを用意し、比較例サンプルとして、フィルム状部材2を粘着剤で接合して積層したフィルム積層体サンプルを用意した。
【0122】
[第1の実施例]
第1の実施例では、フィルム状部材の構造及びフィルム状部材の積層手段を変えて、剥離力(剥離強度[N/25mm])を測定、評価した。また、各フィルム積層体サンプルの透過率[%]、ヘイズ[%]を測定した。
【0123】
(剥離強度)
剥離強度試験に使用した各フィルム積層体サンプルは、一対の矩形状フィルム状部材(以下、「第1フィルム31」、「第2フィルム32」という。)を積層させたものである。積層手段は、第1フィルム31及び第2フィルム32と同サイズの基材4,7を有するループ部材6及びフック部材9又は粘着フィルム30によるフィルム全面貼りとした(図28参照)。
【0124】
剥離強度[N/25mm]は、IMADA社製フォースゲージ(DST-20N)を使用し、90°低速剥離試験により求めた(図29参照)。測定条件は、引張速度200mm/secとした。測定サンプルサイズは25×150mmとした。剥離容易性は、TD方向に剥離したときの剥離しやすさを官能評価し、剥離しやすい順に◎(優良)、〇(良好)、△(普通)、×(不良)と評価した。
【0125】
(透過率・ヘイズ)
透過率[%]及びヘイズ[%]は、村上色彩技術研究所社製ヘーズメーター(HM-150N)を使用し、ダブルビーム方式により求めた(JIS K 7361、JIS K 7136)。積分球はφ150mmを使用した。測定サンプルは、サイズ50×50mmの第1フィルム及び第2フィルムの各両側縁を、幅12.5mmのループ部材6及びフック部材9、又は粘着フィルム30で積層したフィルム積層体を用いた。
【0126】
(GAP)
第1フィルムと第2フィルムのギャップ、すなわち空隙の幅(mm)を測定した。空隙は、ミツトヨ社製のM型標準ノギスN30を用いて、積層体サンプルの厚みから第1フィルムと第2フィルムの厚み分を差し引ひくことにより求めた。
【0127】
(実施例1)
実施例1では、厚さ188μmのPET(Polyethyleneterephthalate)基材にモスアイ構造体を設けた第1フィルム31と、厚さ188μmのPET基材にモスアイ構造体を設けた第2フィルム32を、ループ部材6及びフック部材9により積層し、フィルム積層体サンプルを得た。実施例1では、マッシュルーム形状のフック5を有するフック部材9(以下、「ループ/フック1」と称することがある。)を用いた。
【0128】
(実施例2)
実施例2では、厚さ188μmのPET基材にモスアイ構造体を設けた第1フィルム31と、厚さ150μmのPC(polycarbonate)基材にモスアイ構造体を設けた第2フィルム32を、ループ部材6及びマッシュルーム形状のフック5を有するフック部材9(ループ/フック1)により積層し、フィルム積層体サンプルを得た。
【0129】
(実施例3)
実施例3では、厚さ150μmのPC基材にモスアイ構造体を設けた第1フィルム31と、厚さ150μmのPC基材にモスアイ構造体を設けた第2フィルム32を、ループ部材6及びマッシュルーム形状のフック5を有するフック部材9(ループ/フック1)により積層し、フィルム積層体サンプルを得た。
【0130】
(実施例4)
実施例4では、厚さ188μmのPETからなる第1フィルム31と、厚さ188μmのPETからなる第2フィルム32を、ループ部材6及びマッシュルーム形状のフック5を有するフック部材9(ループ/フック1)により積層し、フィルム積層体サンプルを得た。
【0131】
(実施例5)
実施例5では、厚さ188μmのPET基材にモスアイ構造体を設けた第1フィルム31と、厚さ188μmのPET基材にモスアイ構造体を設けた第2フィルム32を、ループ部材6及びフック部材9により積層し、フィルム積層体サンプルを得た。実施例5では、鉤状のフック5を有するフック部材9(以下、「ループ/フック2」と称することがある。)を用いた。
【0132】
(実施例6)
実施例6では、厚さ150μmのPC基材にモスアイ構造体を設けた第1フィルム31と、厚さ150μmのPC基材にモスアイ構造体を設けた第2フィルム32を、ループ部材6及び鉤状のフック5を有するフック部材9(ループ/フック2)により積層し、フィルム積層体サンプルを得た。
【0133】
(比較例1)
比較例1では、厚さ188μmのPET基材にモスアイ構造体を設けた第1フィルム31と、厚さ188μmのPET基材にモスアイ構造体を設けた第2フィルム32を、粘着フィルム30により各両側縁を貼りつけて積層し、フィルム積層体サンプルを得た。
【0134】
【表1】
【0135】
表1に示すように、ループ/フック1を用いた実施例1~4に係るフィルム積層体サンプルは、ループ/フック2を用いたフィルム実施例5,6に係る積層体サンプルに比して剥離強度の平均値が低かった。また、剥離容易性に優れることが分かった。ループ/フック1に係るフック部材9は柔軟性があり、フック5のマッシュルーム形状が、この柔軟性を生み、剥離容易性に寄与しているものと思われる。
【0136】
粘着剤を用いた比較例1に係る積層体サンプルの剥離強度の平均値は、ループ/フック1を用いた実施例1~4に係るフィルム積層体サンプルと同等であったが、ばらつきが小さい。剥離容易性の評価において、実施例1~4に比して比較例1では、剥離強度が重く感じた。すなわち、剥離強度にばらつきがある方が剥離容易性に優れることが分かった。
【0137】
なお、同じフィルム基材(PET)を用いて、ループ/フック1により積層した実施例1と実施例4を比較すると、透過率及びヘイズともに実施例1が優れる。これによりモスアイ構造による視認性の効果が高いことが分かる。また、PC基材にモスアイ構造体を設ける方が、PET基材にモスアイ構造体を設けるよりも透過率が高いことが分かる。
【0138】
[第2の実施例]
第2の実施例では、フィルム状部材の積層手段及び積層手段の幅寸法を変えて、剥離力(剥離強度[N/25mm])を測定、評価した。各フィルム積層体サンプルは、厚さ188μmのPET基材にモスアイ構造体を設けた第1フィルム31と、厚さ188μmのPET基材にモスアイ構造体を設けた第2フィルム32を積層させて形成した。積層手段は、ループ部材6及びフック部材9、又は粘着フィルム30を使用した。第1、第2のフィルム31,32のサイズは25×150mmとした。剥離強度の測定条件及び評価条件は、上記第1の実施例と同様である。
【0139】
(実施例1)
実施例1は、図30(A)に示すように、基材寸法が25×150mmのループ/フック1を使用してフィルム積層体サンプルを得た。
【0140】
(実施例7)
実施例7では、図30(B)に示すように、基材寸法が12.5×150mmのループ/フック1を使用してフィルム積層体サンプルを得た。ループ部材6及びフック部材9は、第1、第2のフィルムの幅方向の略中央に貼付した。
【0141】
(実施例5)
実施例5は、上述した通り、基材寸法が25×150mmのループ/フック2を使用してフィルム積層体サンプルを得た。
【0142】
(実施例8)
実施例8では、基材寸法が12.5×150mmのループ/フック2を使用してフィルム積層体サンプルを得た。ループ部材6及びフック部材9は、第1、第2のフィルムの幅方向の略中央に貼付した。
【0143】
(比較例1)
比較例1は、上述した通り、第1フィルム31と第2フィルム32を、同サイズの粘着フィルム30により全面を貼り合わせて積層し、フィルム積層体サンプルを得た。
【0144】
(比較例2)
比較例1は、第1フィルム31と第2フィルム32を、幅寸法が第1、第2フィルムの半分である幅12.5mmの粘着フィルムにより貼り合わせて積層し、フィルム積層体サンプルを得た。粘着フィルムは、第1、第2のフィルム31,32の幅方向の略中央に貼付した。
【0145】
【表2】
【0146】
表2に示すように、積層手段を問わず、幅を半減させることにより剥離強度が役40~60%低減する。すなわち、積層手段の幅を調整することにより、剥離強度を制御でき、用途に応じた最適な剥離強度を設定することが可能であることが分かる。
【0147】
[第3の実施例]
第3の実施例では、フィルム状部材の積層手段及び積層手段の固着位置を変えたフィルム積層体サンプルを作成し、滅菌ガスに曝し、滅菌の効果を検証した。滅菌ガスは、エチレンオキシドガス(EOG)を使用した。フィルム状部材は、100×120mmの矩形フィルムを使用した。フィルム状部材の中央には、EOGに反応すると「滅菌済」の文字が浮かび上がるシール(日油技研工業社製滅菌ラベルEO-L)を貼付した。
【0148】
滅菌処理条件は以下の通りである。
温度:50℃
湿度:50%RH
暴露時間:8時間
チャンバー内圧力:100kPa、減圧圧力:-85kPa
フラッシング:5回
【0149】
その結果、「滅菌済」の文字が浮かび上がった場合を○(滅菌の効果有り)とし、「滅菌済」の文字が浮かび上がらなかった場合を×を(滅菌の効果なし)と評価した。
【0150】
(実施例9)
実施例9では、厚さ188μmのPETからなる第1フィルム31と、厚さ188μmのPETからなる第2フィルム32を、ループ部材6及びマッシュルーム形状のフック5を有するフック部材9(ループ/フック1)により積層し、フィルム積層体サンプルを得た。図31に示すように、実施例9では、ループ/フック1を第1、第2フィルムの長手方向の両端に設けた。
【0151】
(実施例10)
実施例10は、図32に示すように、ループ/フック1を第1、第2フィルムの側縁部全周を囲むように設けた他は、実施例9と同様とした。
【0152】
(実施例11)
実施例11は、積層手段としてループ/フック2を使用した他は、実施例9と同様とした。
【0153】
(比較例3)
比較例3は、積層手段として粘着フィルム30を使用した他は、実施例10と同様とした。
【0154】
【表3】
【0155】
表3に示すように、第1、第2フィルムの長手方向の4辺全てを囲むようにループ/フック1を設けた実施例10においても、中央に設けたシールに「滅菌済」の文字が浮かび上がり、滅菌の効果が確認された(図33)。これにより、ループ/フック1には通気性が有り、フィルム状部材中央部の空隙部分の滅菌処理が可能となること、及びループ/フック1自身も滅菌処理されることが分かる。一方、第1、第2フィルムの長手方向の4辺全てを囲むように粘着剤を設けた比較例3においては、中央に設けたシールに「滅菌済」の文字が浮かび上がらず、滅菌できないことが確認された(図34)。このため、第1フィルムと第2フィルムを剥離すると、未滅菌処理の部位が露出することとなる。
【0156】
第1、第2フィルムの長手方向の両端にループ/フック1を設けた実施例9及びループ/フック2設けた実施例11は、滅菌の効果が確認された。
【符号の説明】
【0157】
1 フィルム積層体、2 フィルム状部材、4 基材、5 ループ、6 ループ部材、7 基材、8 フック、9 フック部材、10 固着材料、11 基体、12 構造体、13 基底層、20 タブ、21 保護具、23 接着層、25 フィルム積層体、26 凹部材、27 凸部材、30 粘着剤、31 第1フィルム、32 第2フィルム、34フック部材、35 粘着剤、36 転写材料、37 エネルギー線源、41 ロール原盤、42 構造体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36