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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170572
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】ガスバリア膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/34 20060101AFI20231124BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20231124BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20231124BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C23C16/34
C23C16/40
B32B15/04 B
B32B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082423
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 康雄
(72)【発明者】
【氏名】大西 真司
【テーマコード(参考)】
4F100
4K030
【Fターム(参考)】
4F100AA12C
4F100AA13B
4F100AA17C
4F100AA19B
4F100AA21C
4F100AB01A
4F100AB04A
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA08
4F100EH66
4F100JA11C
4F100JA12B
4F100JD02
4F100YY00B
4F100YY00C
4K030AA03
4K030AA11
4K030AA13
4K030AA14
4K030BA02
4K030BA38
4K030BA46
4K030BB03
4K030BB05
4K030BB12
4K030CA02
4K030CA17
4K030FA10
4K030HA01
(57)【要約】
【課題】水素ガスのバリア性能が高いガスバリア膜を提供する。
【解決手段】金属基材10の表面11を覆うガスバリア膜20は、1つ以上のアモルファス膜21と、1つ以上の多結晶膜22と、を備える。1つ以上のアモルファス膜21のそれぞれと、1つ以上の多結晶膜22のそれぞれとは、交互に積層されている。1つ以上のアモルファス膜21のそれぞれは、AlNを主成分として含む膜またはAlを主成分として含む膜である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材(10)の表面(11)を覆うガスバリア膜であって、
1つ以上のアモルファス膜(21)と、
1つ以上の多結晶膜(22)と、を備え、
前記1つ以上のアモルファス膜のそれぞれと、前記1つ以上の多結晶膜のそれぞれとは、交互に積層されており、
前記1つ以上のアモルファス膜のそれぞれは、AlNを主成分として含む膜またはAlを主成分として含む膜である、ガスバリア膜。
【請求項2】
前記1つ以上のアモルファス膜のうち1つのアモルファス膜(21a)は、前記金属基材に接している、請求項1に記載のガスバリア膜。
【請求項3】
前記1つ以上のアモルファス膜のうち1つのアモルファス膜(21b)は、前記ガスバリア膜の表面を構成している、請求項1または2に記載のガスバリア膜。
【請求項4】
前記1つ以上のアモルファス膜のそれぞれは、AlNを主成分として含む膜であり、
前記1つ以上の多結晶膜のそれぞれは、金属酸化物を主成分として含む膜である、請求項1に記載のガスバリア膜。
【請求項5】
金属酸化物は、TiOである、請求項4に記載のガスバリア膜。
【請求項6】
前記1つ以上のアモルファス膜のそれぞれの膜厚は、15nm以下であり、
1つの多結晶膜の膜厚に対する1つのアモルファス膜の膜厚の比は、3以下である、請求項5に記載のガスバリア膜。
【請求項7】
前記1つ以上のアモルファス膜および前記1つ以上の多結晶膜の総膜厚は、0.17μm以上、0.27μm以下である、請求項6に記載のガスバリア膜。
【請求項8】
前記1つ以上の多結晶膜のそれぞれは、TiO(ただし、0<x<2)を主成分として含む膜である、請求項1に記載のガスバリア膜。
【請求項9】
前記1つ以上の多結晶膜のそれぞれは、TiONを主成分として含む膜である、請求項1に記載のガスバリア膜。
【請求項10】
請求項1に記載のガスバリア膜の製造方法であって、
前記1つ以上のアモルファス膜のそれぞれと、前記1つ以上の多結晶膜のそれぞれとを、原子層堆積法で形成すること、を含む、ガスバリア膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスのバリア性能が高いガスバリア膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、水素ガスに対するバリア性能を有するガスバリア膜が開示されている。このガスバリア膜は、複数の第1多結晶膜のそれぞれと、複数の第2多結晶膜のそれぞれとが交互に積層された構造である。第1多結晶膜と第2多結晶膜とは、互いに異なる合金窒素化合物で構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-139009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような多結晶膜の積層構造では、各多結晶膜に存在する結晶粒界は、プロトン(すなわち、水素イオン)を捕捉するプロトントラップの機能を有するが、下記のように、ガスバリア膜の膜厚方向にプロトンがガスバリア膜を貫通して移動する貫通経路になる可能性がある。すなわち、下側の多結晶膜の表面に接して上側の多結晶膜が形成されるとき、下側の多結晶膜にその厚さ方向に延びる結晶粒界が存在するとともに、その結晶粒界を引き継ぐように、上側の多結晶膜が形成される。これにより、各多結晶膜に存在する厚さ方向に延びる結晶粒界が、ガスバリア膜の厚さ方向全域で連続した状態になる場合がある。この状態の結晶粒界が上記貫通経路になる。このため、多結晶膜の積層構造では、上記の場合に、水素ガスのバリア性能が低い。
【0005】
なお、この問題は、結晶粒界に限られず、プロトンの移動が可能な大きな結晶欠陥が、ガスバリア膜の厚さ方向全域で、ガスバリア膜の厚さ方向に沿って連続して延びて存在する場合にも生じる。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、水素ガスのバリア性能が高いガスバリア膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明によれば、
金属基材(10)の表面(11)を覆うガスバリア膜は、
1つ以上のアモルファス膜(21)と、
1つ以上の多結晶膜(22)と、を備え、
1つ以上のアモルファス膜のそれぞれと、1つ以上の多結晶膜のそれぞれとは、交互に積層されており、
1つ以上のアモルファス膜のそれぞれは、AlNを主成分として含む膜またはAlを主成分として含む膜である。
【0008】
本発明のガスバリア膜は、1つ以上の多結晶膜を備える。このため、多結晶膜に存在する結晶粒界によって、プロトンを捕捉して、多結晶膜中のプロトンの拡散を抑制することができる。
【0009】
さらに、本発明のガスバリア膜では、1つ以上のアモルファス膜を備え、1つ以上のアモルファス膜のそれぞれは、AlNを主成分として含む膜またはAlを主成分として含む膜である。AlNまたはAlを主成分として含むアモルファス膜の電気抵抗は高い。このため、このアモルファス膜のプロトンの伝導性は、このアモルファス膜よりも電気抵抗が低いアモルファス膜と比較して、低い。よって、本発明のガスバリア膜に用いられるアモルファス膜は、水素ガスに対するガスバリア性能が高い。
【0010】
さらに、本発明のガスバリア膜では、1つ以上のアモルファス膜のそれぞれと1つ以上の多結晶膜のそれぞれとが積層されている。アモルファス膜には結晶粒界および結晶欠陥が存在しない。このため、結晶粒界または結晶欠陥が、多結晶膜の厚さ方向に沿って延びた状態で、多結晶膜に存在する場合であっても、ガスバリア膜の厚さ方向全域にわたって、ガスバリア膜の厚さ方向に連続して延びた状態になることを回避することができる。すなわち、ガスバリア膜の厚さ方向にプロトンがガスバリア膜を貫通して移動する貫通経路が形成されることを回避することができる。
【0011】
これらのことから、水素ガスに対するガスバリア性能が高いガスバリア膜を提供することができる。
【0012】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態のガスバリア膜および金属基材の断面模式図である。
図2図1のガスバリア膜の製造方法が有する各製造工程を示す図である。
図3】実施例1-3、5および比較例1のそれぞれにおけるAlN単膜厚/TiO単膜厚と水素透過係数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0015】
(第1実施形態)
図1に示す本実施形態のガスバリア膜20は、水素ガスが存在する環境下で使用される部材に用いられる。このような部材としては、高圧水素ガスを供給する水素ステーション用の部材が挙げられる。
【0016】
ガスバリア膜20は、金属基材10の表面11を覆う膜である。ガスバリア膜20は、H(すなわち、水素)ガスに対するガスバリア性能を有する。ガスバリア膜20は、金属基材10の水素脆化を抑制するために、金属基材10の表面11に接して形成されている。ガスバリア膜20は、水素ガスに限らず、HO等の他のガスに対してもガスバリア性能を有する。
【0017】
金属基材10は、ステンレス鋼等の鉄を主成分とする鉄系の金属材料で構成される。金属基材10は、高圧水素が存在する環境下で使用される配管や熱交換器等の形状を有する。
【0018】
ガスバリア膜20は、1つ以上のアモルファス膜21と、1つ以上の多結晶膜22とを備える。1つ以上のアモルファス膜21のそれぞれと、1つ以上の多結晶膜22のそれぞれとは、交互に積層されている。図1に示すガスバリア膜20では、1つ以上のアモルファス膜21は複数のアモルファス膜21であり、1つ以上の多結晶膜22は複数の多結晶膜22である。複数のアモルファス膜21のうち1つのアモルファス膜21aは、金属基材10の表面に接している。複数のアモルファス膜21のうち別の1つのアモルファス膜21bは、ガスバリア膜20の表面を構成している。
【0019】
図示していないが、1つ以上のアモルファス膜21は1つのアモルファス膜21のみであり、1つ以上の多結晶膜22は1つの多結晶膜22のみであってもよい。この場合、「1つ以上のアモルファス膜21のそれぞれ」とは、1つのアモルファス膜21のことであり、「1つ以上の多結晶膜22のそれぞれ」とは、1つの多結晶膜22のことである。また、この場合、1つのアモルファス膜21は、金属基材10の表面に接しているか、ガスバリア膜20の表面を構成しているかのどちらかである。
【0020】
アモルファス膜21は、アモルファスの材料で構成された膜である。アモルファスは、結晶構造を持たない物質の状態のことであり、非晶質とも呼ばれる。膜を構成する材料がアモルファスであることは、例えば、膜に対して電子線回折測定を行うことで確認される。その測定結果がハローパターンのとき、膜を構成する材料はアモルファスである。
【0021】
1つ以上のアモルファス膜21のそれぞれは、AlN膜またはAl膜である。AlN膜は、AlNを主成分として含む膜である。AlNを主成分として含むとは、その膜の全体に対するAlNの含有率が90atm%以上であることを意味する。Al膜は、Alを主成分として含む膜である。Alを主成分として含むとは、その膜の全体に対するAlの含有率が90atm%以上であることを意味する。
【0022】
複数のアモルファス膜21の場合、複数のアモルファス膜21の全部は、主成分が同じ膜であることが好ましい。複数のアモルファス膜21の一部はAlN膜であり、複数のアモルファス膜21の他の一部はAl膜であってもよい。
【0023】
複数のアモルファス膜21の全部がAlN膜である場合、複数のアモルファス膜21のそれぞれの厚さは、15nm以下である。15nm以下で形成することで、アモルファス膜21が得られるからである。
【0024】
1つ以上の多結晶膜22のそれぞれは、複数の結晶粒を有するとともに、結晶粒同士の境界である結晶粒界を有する膜であって、水素ガスに対するガスバリア性能を有する。1つ以上の多結晶膜22のそれぞれは、金属酸化物膜である。金属酸化物膜は、金属酸化物を主成分として含む膜である。「金属酸化物を主成分として含む」とは、その膜の全体に対する金属酸化物の含有率が90atm%以上であることを意味する。金属酸化物としては、TiO、TiO(ただし、0<x<2)、HfO等が挙げられる。TiOを主成分として含む膜がTiO膜である。
【0025】
なお、1つ以上の多結晶膜22のそれぞれは、TiN等の金属窒化物を主成分として含む金属窒化物膜、または、TiON等の金属酸窒化物を主成分として含む金属酸窒化物膜であってもよい。「主成分として含む」は、金属酸化物膜のときと同じ意味である。
【0026】
複数の多結晶膜22の場合、複数の多結晶膜22の全部は、主成分が同じ膜であることが好ましい。複数の多結晶膜22の一部と他の一部とは、主成分が異なる膜であってもよい。
【0027】
次に、本実施形態のガスバリア膜20の製造方法について説明する。ガスバリア膜20の製造方法は、金属基材10の用意工程と、ガスバリア膜20の成膜工程とを含む。
【0028】
金属基材10の用意工程では、図2(a)に示すように、表面11を有する金属基材10を用意することが行われる。金属基材10に対するガスバリア膜20の密着性を向上させるために、金属基材10の表面11に対して前処理が行われることが好ましい。
【0029】
ガスバリア膜20の成膜工程では、1つ以上のアモルファス膜21のそれぞれと、1つ以上の多結晶膜22のそれぞれとを、下記のように、ALDで形成することが行われる。ALDは、Atomic layer depositionの略称であり、原子層堆積法、原子気相成長法とも呼ばれる。
【0030】
まず、金属基材10をALDにおける図示しない反応容器の内部、具体的には真空チャンバ内に設置する。そして、反応容器の内部の温度および金属基材10の温度が、成膜温度になるように、ここでは500℃になるように、加熱を行う。
【0031】
続いて、図2(b)に示すように、金属基材10の表面11に、ALDにより、1層のアモルファス膜21を成膜する。アモルファス膜21としてAlN膜を成膜する場合、TMA(すなわち、トリメチルアルミニウム)とNHとを交互に繰り返し反応容器に導入することにより、所定膜厚とされた1層のAlN膜を成膜する。
【0032】
続いて、図2(c)に示すように、ALDにより、アモルファス膜21の表面に、1層の多結晶膜22を成膜する。多結晶膜22としてTiO膜を成膜する場合、TiClとHOとを交互に反応容器に導入する工程を繰り返し行うことで、所定膜厚とされた1層のTiO膜を成膜する。
【0033】
アモルファス膜21と多結晶膜22とが1層ずつのみ積層された構造のガスバリア膜20を製造する場合では、その後、反応容器から金属基材10が取り出される。これにより、ガスバリア膜20が製造される。この場合、アモルファス膜21よりも先に多結晶膜22を成膜してもよい。
【0034】
また、複数のアモルファス膜21のそれぞれと複数の多結晶膜22のそれぞれとが交互に積層された構造のガスバリア膜20を製造する場合では、上記したアモルファス膜21の成膜と多結晶膜22の成膜とを交互に繰り返し行う。
【0035】
このようにして、1つ以上のアモルファス膜21のそれぞれと、1つ以上の多結晶膜22のそれぞれとが、交互に積層された構造のガスバリア膜20が製造される。なお、1つ以上のアモルファス膜21のそれぞれと、1つ以上の多結晶膜22のそれぞれとが、ALD以外のCVD法またはスパッタリング法で形成されてもよい。
【0036】
以上の説明の通り、本実施形態のガスバリア膜20は、1つ以上の多結晶膜22を備える。このため、多結晶膜22に存在する結晶粒界によって、プロトンを捕捉して、多結晶膜中のプロトンの拡散を抑制することができる。
【0037】
さらに、本実施形態のガスバリア膜20は、1つ以上のアモルファス膜21を備え、1つ以上のアモルファス膜21のそれぞれは、AlN膜またはAl膜である。AlN膜またはAl膜の電気抵抗は高い。このため、このアモルファス膜21のプロトンの伝導性は、このアモルファス膜21よりも電気抵抗が低いアモルファス膜と比較して、低い。よって、本実施形態のガスバリア膜20に用いられるアモルファス膜21は、水素ガスに対するガスバリア性能が高い。
【0038】
さらに、本実施形態のガスバリア膜20では、1つ以上のアモルファス膜21のそれぞれと1つ以上の多結晶膜22のそれぞれとが積層されている。アモルファス膜には結晶粒界および結晶欠陥が存在しない。例えば、多結晶膜22の上に接してアモルファス膜21を形成するときでは、その多結晶膜中に多結晶膜の厚さ方向に沿って延びる結晶粒界および結晶欠陥が存在しても、そのような結晶粒界および結晶欠陥は、アモルファス膜21中に引き継いで形成されない。このため、結晶粒界または結晶欠陥が、多結晶膜22の厚さ方向に沿って延びた状態で、多結晶膜22に存在する場合であっても、ガスバリア膜20の厚さ方向全域にわたって、ガスバリア膜20の厚さ方向に連続して延びた状態になることを回避することができる。すなわち、ガスバリア膜20の厚さ方向にプロトンがガスバリア膜20を貫通して移動する貫通経路が形成されることを回避することができる。
【0039】
これらのことから、水素ガスに対するガスバリア性能が高いガスバリア膜を提供することができる。
【0040】
また、本実施形態のガスバリア膜20の製造方法の一つは、1つ以上のアモルファス膜21のそれぞれと、1つ以上の多結晶膜22のそれぞれとを、ALDで形成すること、を含む。これによれば、金属基材10が複雑な形状であっても、金属基材10の表面11にガスバリア膜20を形成することができる。さらに、これによれば、同じ成膜装置を用いて、成膜のためのガス種を切り替えることで、ガスバリア膜20を製造することができる。
【0041】
本実施形態のガスバリア膜20によれば、下記の効果をさらに奏する。
【0042】
(1)1つ以上のアモルファス膜21のうち1つのアモルファス膜21aは、金属基材10に接している。
【0043】
この場合と異なり、金属基材10に接して多結晶膜22が形成される場合、金属基材10の結晶構造を引き継ぐように、多結晶膜22が形成される。このため、この多結晶膜に含まれる結晶粒が大きくなり、この多結晶膜を貫通するように、結晶粒界が多結晶膜の膜厚方向に延びた状態になる。この状態の結晶粒界を介して、プロトンが多結晶膜を貫通して移動する。
【0044】
これに対して、金属基材10に接してアモルファス膜21が形成されることで、膜を貫通するように結晶粒界が膜厚方向に延びた状態になることを回避することができる。よって、金属基材10に接して多結晶膜22が形成される場合と比較して、水素ガスに対するガスバリア性能を向上させることができる。
【0045】
(2)1つ以上のアモルファス膜21のうち1つのアモルファス膜21bは、ガスバリア膜20の表面を構成している。
【0046】
この場合と異なり、多結晶膜22がガスバリア膜20の表面を構成している場合、その多結晶膜22が有する結晶粒界からプロトンが侵入する。これに対して、アモルファス膜21がガスバリア膜20の表面を構成している場合、アモルファス膜21は結晶粒界を有していないので、結晶粒界からのプロトンの侵入を回避することができる。
【0047】
さらに、これによれば、多結晶膜22がガスバリア膜20の表面を構成している場合と比較して、ガスバリア膜20に水素分子が付着する面積を小さくすることができる。このため、水素分子がプロトンとなってガスバリア膜に侵入する確率を小さくすることができる。よって、水素ガスに対するガスバリア性能を向上させることができる。
【0048】
(3)アモルファス膜21と多結晶膜22の組み合わせについては、1つ以上のアモルファス膜21のそれぞれは、AlN膜であり、1つ以上の多結晶膜22のそれぞれは、金属酸化物膜であることが好ましい。これによれば、アモルファス膜21を構成する材料と多結晶膜22を構成する材料は、窒化物と酸化物という材料の種類が異なる関係である。このため、アモルファス膜21と多結晶膜22とを交互に形成するときに、アモルファス膜21を構成する材料と多結晶膜22を構成する材料とが混ざることを抑制することができる。
【0049】
(4)アモルファス膜21と多結晶膜22の組み合わせについては、1つ以上のアモルファス膜21のそれぞれは、AlN膜であり、1つ以上の多結晶膜22のそれぞれは、TiO膜であることが好ましい。アモルファス膜であるAlN膜は、単膜で水素ガスに対するガスバリア性能が高く、多結晶膜であるTiO膜は、結晶粒界によるプロトンの捕捉効果を実現できるからである。
【0050】
(5)1つ以上のアモルファス膜21のそれぞれはAlN膜であり、1つ以上の多結晶膜22のそれぞれはTiO膜である場合、1つ以上のアモルファス膜21のそれぞれの膜厚は、15nm以下であり、1つの多結晶膜22の膜厚に対する1つのアモルファス膜21の膜厚の比は、3以下であることが好ましい。1つ以上のアモルファス膜21のそれぞれの膜厚は同じであること好ましいが、異なっていてもよい。1つ以上の多結晶膜22のそれぞれの膜厚は同じであることが好ましいが、異なっていてもよい。
【0051】
これによれば、後述の実施例に記載の通り、ガスバリア膜20の水素透過係数を低くでき、水素ガスに対するガスバリア性能が高いガスバリア膜20を提供することができる。
【0052】
(6)1つ以上の多結晶膜22のそれぞれは、TiO(ただし、0<x<2)を主成分として含む膜であることが好ましい。TiO(ただし、0<x<2)は、TiOに対して酸素原子が欠損して電子が過剰な状態であるN型である。これにより、多結晶膜22を伝導するプロトンをトラップすることができる。このため、1つ以上の多結晶膜22のそれぞれがTiO膜である場合と比較して、水素ガスに対するガスバリア性能が向上する。
【0053】
(7)1つ以上の多結晶膜22のそれぞれは、TiONを主成分として含む膜であることが好ましい。TiONは、TiO(ただし、0<x<2)と同様に、N型であるため、多結晶膜22を伝導するプロトンをトラップすることができる。
【0054】
また、TiO(ただし、0<x<2)の結晶構造は、TiOの結晶構造に対して、O元素の欠損箇所を有する。このO元素の欠損箇所をプロトンが通過しやすくなる。これに対して、TiONの結晶構造は、TiOの結晶構造に対して、O元素がN元素に置換した状態である。すなわち、上記のO元素の欠損箇所をN元素が埋めた状態になる。このため、O元素の欠損箇所をプロトンが通過することを回避することができる。よって、1つ以上の多結晶膜22のそれぞれがTiO(ただし、0<x<2)膜である場合と比較して、水素ガスに対するガスバリア性能が向上する。
【0055】
(8)本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能であり、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【実施例0056】
本発明者は、金属基材10を用意し、用意した金属基材10にガスバリア膜20を成膜して、実施例1~5および比較例1のガスバリア膜20を形成した。その後、実施例1~5および比較例1のガスバリア膜20のそれぞれの水素透過係数を測定した。
【0057】
用意した金属基材10は、SUS316で構成され、厚さ0.1mm、直径35mmの円盤形状である。
【0058】
ガスバリア膜20の成膜では、ALDにより、金属基材10の表面11に、アモルファス膜21であるAlN膜と、多結晶膜22であるTiO膜とをこの記載順に繰り返し形成し、AlN膜を最後に形成した。このとき、ガスバリア膜20が備える複数のAlN膜のそれぞれの膜厚が均一となり、ガスバリア膜20が備える複数のTiO膜のそれぞれの膜厚が均一となるように、ガスバリア膜20を成膜した。
【0059】
実施例1~5、比較例1のガスバリア膜20におけるAlN膜の単膜厚(すなわち、1つのAlN膜の膜厚)、AlN膜の積層数、TiO膜の単膜厚(すなわち、1つのTiO膜の膜厚)、TiO膜の積層数は、表1に記載の通りである。
【0060】
水素透過係数の測定では、「JIS K―7126―1GC」に準拠して測定した。測定温度は300℃である。実施例1~5、比較例1のガスバリア膜20のそれぞれの水素透過係数は、表1に記載の通りである。
【0061】
【表1】
表1に記載の通り、実施例1~5のガスバリア膜20では、複数のAlN膜のそれぞれの膜厚は、2.5nm以上、15nm以下である。このため、複数のAlN膜のそれぞれはアモルファス膜である。一方、比較例1のガスバリア膜20では、複数のAlN膜のそれぞれの膜厚は、25nmであり、15nmよりも大きい。このため、複数のAlN膜のそれぞれは結晶膜である。
【0062】
実施例1~5のガスバリア膜20では、複数のTiO膜のそれぞれの膜厚は、5nm以上、10nm以下である。複数のAlN膜と複数のTiO膜の総積層数は、17~53である。複数のAlN膜と複数のTiO膜の総膜厚は、0.17μm以上、0.27μm以下である。実施例2の総膜厚が0.17μmであり、実施例4の総膜厚が0.27μmである。また、実施例1~5のガスバリア膜20では、1つのTiO膜の膜厚に対する1つのAlN膜の膜厚の比である膜厚比、すなわち、AlN単膜厚/TiO単膜厚は、0.33以上、3以下である。
【0063】
実施例1~5のガスバリア膜20のそれぞれの水素透過係数の数値は、1.5E-15mol/(msPa0.5)以下であり、実施例1~5のガスバリア膜20のそれぞれは、水素ガスに対するガスバリア性能が高いことが確認された。
【0064】
実施例1~3、5および比較例1のガスバリア膜20は、総膜厚が175nm程度であり、同等の厚さである。これらのガスバリア膜20における上記の膜厚比と水素透過係数との関係は、図3に示す通りである。図3より、膜厚比が3以下である実施例1~3、5の水素透過係数は、膜厚比が5である比較例1の水素透過係数よりも低い値であることがわかる。よって、複数のAlN膜のそれぞれの膜厚は15nm以下であり、膜厚比は3以下であることが好ましい。
【0065】
また、表1において、実施例3と実施例4とを比較してわかるように、複数のAlN膜と複数のTiO膜の総積層数が多い方が好ましい。水素透過係数が小さく、水素ガスに対するガスバリア性能が高いからである。
【0066】
以上の説明の通り、実施例1~5のガスバリア膜20は、ガスバリア膜20の総膜厚が0.17μm以上、0.27μm以下の範囲内の薄さであっても、水素ガスに対する高いガスバリア性能を有する。これによれば、総膜厚が0.5μm以上、2μm以下の範囲内である特許文献1に記載のガスバリア膜と比較して、ガスバリア膜の総膜厚が小さいので、製造コストを低減することができる。
【符号の説明】
【0067】
10 金属基材
20 ガスバリア膜
21 アモルファス膜
22 多結晶膜
図1
図2
図3