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特開2023-170603電子写真感光体およびそれを備えた画像形成装置ならびに電子写真感光体の製造方法およびそれに用いる下引き層用塗布液
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  • 特開-電子写真感光体およびそれを備えた画像形成装置ならびに電子写真感光体の製造方法およびそれに用いる下引き層用塗布液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170603
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】電子写真感光体およびそれを備えた画像形成装置ならびに電子写真感光体の製造方法およびそれに用いる下引き層用塗布液
(51)【国際特許分類】
   G03G 5/14 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
G03G5/14 101E
G03G5/14 101D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082474
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】鳥山 幸一
【テーマコード(参考)】
2H068
【Fターム(参考)】
2H068AA43
2H068AA44
2H068BB28
2H068CA05
2H068CA22
2H068CA29
2H068CA60
2H068EA16
2H068FA12
(57)【要約】
【課題】初期の電気特性が良好で、かつ繰り返し使用した際に帯電性が悪化せず、かぶりが良好な電子写真感光体およびそれを備えた画像形成装置を提供することを課題とする。
【解決手段】導電性基体上に、少なくとも下引き層と感光層とがこの順で積層された層構成を有し、前記下引き層が、少なくともバインダ樹脂およびケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を含有することを特徴とする電子写真感光体により、上記の課題を解決する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体上に、少なくとも下引き層と感光層とがこの順で積層された層構成を有し、
前記下引き層が、少なくともバインダ樹脂およびケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を含有することを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子が、ケイ素元素Si、ストロンチウム元素Srおよびチタン元素Tiを、0.02~0.10のモル比Si/(Sr+Ti)の割合で含有する請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子が、前記下引き層に60~90質量%の割合で含有する請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子が、ジクロロジメチルシランまたはヘキサメチルジシラザンで表面処理された粒子である請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子が、10~100nmの平均一次粒子径を有する請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項6】
前記バインダ樹脂が、ピペラジン系化合物の由来成分を有するポリアミド樹脂である請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項7】
前記下引き層が、酸化亜鉛粒子をさらに含有する請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項8】
請求項1に記載の電子写真感光体と、前記電子写真感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された前記電子写真感光体を露光して静電潜像を形成する露光手段と、前記静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段と、前記トナー像を記録媒体上に転写する転写手段とを少なくとも備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項9】
請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法であり、少なくともバインダ樹脂およびケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を含有する下引き層用塗布液を用いて下引き層を形成する工程を含むことを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の電子写真感光体の製造方法に用いる下引き層用塗布液であり、少なくともバインダ樹脂およびケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を含有することを特徴とする下引き層用塗布液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真感光体およびそれを備えた画像形成装置ならびに電子写真感光体の製造方法およびそれに用いる下引き層用塗布液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真技術を用いて画像を形成する電子写真方式の画像形成装置(電子写真装置)は、複写機、プリンタ、ファクシミリ装置、複合機などに多用され、これに用いられる電子写真感光体(以下「感光体」ともいう)には、導電性支持体上に有機系光導電性材料を主成分として含有する感光層を備えた感光体(「有機感光体」ともいう)が広く用いられている。
そして、有機感光体には、導電性支持体および感光層との密着性の確保、感光層へのキャリア注入性の改良、干渉縞の抑制などのために、導電性支持体と感光層との間に、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウムのような金属酸化物粒子を樹脂中に分散した構成の下引き層が設けられている。
【0003】
例えば、特開2019-61219号公報(特許文献1)および特開2020-67598号公報(特許文献2)には、チタン酸ストロンチウム粒子を含有する下引き層を備えた感光体が提案されている。
特許文献1では、特定のX線回折パターン(スペクトル)を有するチタン酸ストロンチウム粒子を用いることにより、残留電位が抑制され、かつ帯電特性が良好な感光体が得られるとされている。
特許文献2では、下引き層のチタン酸ストロンチウム粒子と、感光層の電荷発生物質としてのブタンジオール付加体チタニルフタロシアニンとの組み合わせにより、フォトメモリの発生の抑制に優れた感光体が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-61219号公報
【特許文献1】特開2020-67598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者の検討によれば、感光体の下引き層にチタン酸ストロンチウム粒子を含有させることにより、初期の感度や帯電性が良好になるものの、繰り返し使用した際の帯電性の悪化が顕著で、画像上かぶりが発生して、問題となることがわかった。
そこで、本開示は、初期の電気特性が良好で、かつ繰り返し使用した際に帯電性が悪化せず、かぶりが良好な電子写真感光体およびそれを備えた画像形成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、感光体の下引き層中に、少なくともバインダ樹脂とケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を含有させることにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本開示によれば、導電性基体上に、少なくとも下引き層と感光層とがこの順で積層された層構成を有し、
前記下引き層が、少なくともバインダ樹脂およびケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を含有することを特徴とする電子写真感光体が提供される。
【0008】
また、本開示によれば、上記の電子写真感光体と、前記電子写真感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された前記電子写真感光体を露光して静電潜像を形成する露光手段と、前記静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段と、前記トナー像を記録媒体上に転写する転写手段とを少なくとも備えることを特徴とする画像形成装置が提供される。
【0009】
さらに、本開示によれば、上記の電子写真感光体の製造方法であり、少なくともバインダ樹脂およびケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を含有する下引き層用塗布液を用いて下引き層を形成する工程を含むことを特徴とする電子写真感光体の製造方法が提供される。
【0010】
また、本開示によれば、上記の電子写真感光体の製造方法に用いる下引き層用塗布液であり、少なくともバインダ樹脂およびケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を含有することを特徴とする下引き層用塗布液が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、初期の電気特性が良好で、かつ繰り返し使用した際に帯電性が悪化せず、かぶりが良好な電子写真感光体およびそれを備えた画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の感光体の要部の構成の一例を示す模式側面図である。
図2】本開示の画像形成装置の要部の構成の一例を示す模式側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の感光体は、導電性基体上に、少なくとも下引き層と感光層とがこの順で積層された層構成を有し、
前記下引き層が、少なくともバインダ樹脂およびケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を含有することを特徴とする。
以下に、本開示の感光体の特徴となる構成要件、ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子について説明し、その後で(1)感光体、(2)画像形成装置、(3)感光体の製造方法および(4)それに用いる下引き層用塗布液について説明する。
【0014】
<ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子>
チタン酸ストロンチウム粒子は、下引き層に添加される金属酸化物粒子として一般的な酸化チタン粒子に比べて、感光体の初期の電気特性を良好にするものの、繰り返し使用した際に、帯電低下が起こり易く、画像上かぶりが発生し易い。これは、チタン酸ストロンチウムの誘電率が約310であり、酸化チタンの誘電率83~183より大きく、下引き層に誘起される電界が大きいことにより、感光体全体の電界の変化が大きいためと考えられる。そこで、誘電率が約3.75と小さいシリカを、チタン酸ストロンチウムが適度に含有することで、電界の変化を抑え、帯電低下を抑制できるものと考えられる。
【0015】
ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子は、例えば、メタチタン酸と呼ばれる水和物の形態を有する酸化チタン(IV)化合物TiO2・H2O、ストロンチウムを含む水溶性化合物およびケイ素の水溶性化合物を混合して、ストロンチウムに対してケイ素がモル分率で0.5~10%相当となる混合液を調製し、得られた混合液を70~100℃に加熱した後に、混合溶液にアルカリ水溶液を添加することにより、ケイ素含有チタン酸ストロンチウムを主成分とする粒子を合成することができる。なお、メタチタン酸などの酸化チタンの加水分解物は、鉱酸解膠品とも呼ばれ、酸化チタン粒子が分散した液の形態を有するものである。
【0016】
鉱酸解膠品として、好ましくは、硫酸法で得られた、三酸化硫黄含有量が1.0質量%以下、好ましくは0.5質量%以下のメタチタン酸を、塩酸でpHを0.8~1.5に調整して解膠したものを用いることで、粒度分布が良好なチタン酸ストロンチウム系粒子を得ることができる。メタチタン酸中、三酸化硫黄含有量が質量分率で1.0wt%を超えると解膠が進まないことがある。
ストロンチウムを含む水溶性化合物としては、硝酸ストロンチウム、塩化ストロンチウム、水酸化ストロンチウムなどを好適に用いることができる。
また、ケイ素の水溶性化合物としては、ケイ酸ナトリウムを用いることができる。
【0017】
アルカリ水溶液としては、種々の水酸化(苛性)アルカリを使用することができるが、中でも水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
また、アルカリ水溶液の添加速度は、添加速度が遅いほど大きな粒子径のチタン酸ストロンチウム粒子が得られ、添加速度が速いほど小さな粒子径のチタン酸ストロンチウム粒子が得られる。アルカリ水溶液の添加速度は、仕込み原料に対し0.2~1.6モル当量/h、好ましくは0.3~1.4モル当量/hが適切であり、得ようとする粒子径に応じて適宜調整することができる。
【0018】
ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子は、感光体の電気特性を向上させるために、表面処理剤で表面処理(疎水化処理)されていることが好ましい。
表面処理剤としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、N-メチル-ヘキサメチルジシラザン、N-エチル-ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチル-N-プロピルジシラザン、ジクロロジメチルシラン、又はポリジメチルシロキサンが挙げられる。
これらの表面処理剤の中でも、粒子表面の水酸基との反応性が良好で、粒子表面の水酸基を減少させ、その結果、水分(湿度)による感光体の電気特性の低下を抑制することができることから、ジクロロジメチルシランおよびヘキサメチルジシラザンが特に好ましい。すなわち、ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子は、ジクロロジメチルシランまたはヘキサメチルジシラザンで表面処理された粒子であることが好ましい。
【0019】
<ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子のケイ素の含有割合>
ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子は、ケイ素元素Si、ストロンチウム元素Srおよびチタン元素Tiを、0.02~0.10のモル比Si/(Sr+Ti)の割合で含有することが好ましい。
モル比Si/(Sr+Ti)が0.02未満では、繰り返し使用した際の帯電低下に対して大きな効果が期待できない。一方、モル比Si/(Sr+Ti)が0.10を超えると、分散時に分散液の粘度が上昇し易く、下引き層の膜厚が不均一になり、塗布面や画像に濃度ムラや画像欠陥が増加するなどといった問題を起こすことがある。粘度が増加する明確な理由は定かではないが、二酸化ケイ素(SiO2)を含有することで分散時の粒子の帯電性が変化することにより粒子間の相互作用が強くなるためと考えられる。より好ましいモル比Si/(Sr+Ti)は、0.04~0.07である。
【0020】
モル比Si/(Sr+Ti)は、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、型式:ZSX Primus II)を用いて、ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子中の各元素のカウント値を測定し、Fundamental Parameter法により算出することができる(JIS K 0119:2008)。
モル比Si/(Sr+Ti)の測定方法については、実施例においても説明する。
【0021】
<下引き層中のケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子の含有割合>
ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子は、下引き層に60~90質量%の割合で含有することが好ましい。
含有割合が60質量%未満では、感光体の感度が悪く、画像濃度が薄くなることがある。一方、含有割合が90質量%を超えると、分散時にバインダ樹脂が粒子に十分に吸着できないことから分散不良を起こし、下引き層の表面に大きな凹凸ができ、絶縁破壊や黒ポチが発生し易くなる。さらに下引き層用塗布液の保存安定性が悪化して、粒子が沈降することがある。好ましいケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子の含有割合は、70~80質量%である。
【0022】
<ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子の平均一次粒子径>
ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子は、10~100nmの平均一次粒子径を有することが好ましい。
平均一次粒径が10nm未満では、下引き層中に粒子が均一に分散し難く、凝集粒子を形成し易く、均一な塗膜が形成できず、感光体の特性に悪影響を与えることがある。一方、平均一次粒径が100nmを超えると、下引き層の表面に大きな凹凸が形成され易く、また分散液中に粒子が沈澱し易く、沈殿物による塗布ムラが発生し易く、感光体の特性に悪影響を与えることがある。より好ましい平均一次粒子径は、20~50nmである。
【0023】
ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子の平均一次粒子径は、粒子をTEM(透過型電子顕微鏡)観察によって10000倍に拡大し、ランダムに100個の粒子を一次粒子として観察し、画像解析によってフェレ方向平均径である。
平均一次粒子径の測定方法については、実施例においても説明する。
【0024】
(1)電子写真感光体
本開示の感光体は、導電性支持体上に、下引き層と感光層とがこの順で積層された層構成を有し、下引き層が、上記のような特徴を有する。
感光層は、電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とがこの順で積層された積層型感光層、電荷発生物質と電荷輸送物質とを共に含有する単層型感光層のいずれであってもよいが、機能分離型の積層型感光層が好ましく、その電荷輸送層は、電荷発生層上に順次に積層される、第1電荷輸送層と表面保護層の機能を兼ねた第2電荷輸送層との2層型でもよい。
以下に図面を用いて、本開示の感光体について説明するが、本開示はこれにより限定されるものではない。
【0025】
図1は、本開示の感光体の要部の構成の一例を示す概略断面図である。
感光体1は、導電性支持体11上に、バインダ樹脂(図示せず)およびケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子19を含有する下引き層18が設けられ、その上に電荷発生物質12を含有する電荷発生層15と、電荷輸送物質13およびそれを結着させるバインダ樹脂17を含有する電荷輸送層16とがこの順序で積層されてなる積層構造の積層型感光層(「機能分離型感光層」ともいう)14が設けられた積層型感光体(「機能分離型感光体」ともいう)である。
以下、感光体1の各構成について説明する。
【0026】
<導電性支持体11>
導電性支持体は、感光体の電極としての機能と支持部材としての機能を有し、その構成材料は、当該技術分野で用いられる材料であれば特に限定されない。
具体的には、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、亜鉛、ステンレス鋼およびチタンなどの金属材料、ならびに表面に金属箔ラミネート、金属蒸着処理または導電性高分子、酸化スズ、酸化インジウムなどの導電性化合物の層を蒸着もしくは塗布した、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンおよびポリスチレンなどの高分子材料、硬質紙ならびにガラスなどが挙げられる。これらの中でも、加工の容易性の点からアルミニウムが好ましく、JIS3003系、JIS5000系およびJIS6000系などのアルミニウム合金が特に好ましい。
導電性支持体の形状は、図3に示すような円筒状(ドラム状)に限定されず、シート状、円柱状、無端ベルト状などであってもよい。
また、導電性支持体の表面には、必要に応じて、画質に影響のない範囲内で、レーザ光による干渉縞防止のために、陽極酸化皮膜処理、薬品もしくは熱水などによる表面処理、着色処理、または表面を粗面化するなどの乱反射処理が施されていてもよい。
【0027】
<下引き層(「中間層」ともいう)12>
下引き層は、一般に、導電性支持体の表面の凸凹を被覆し均一にして、感光層、例えば、積層型感光層の場合には電荷発生層の成膜性を高め、感光層の導電性支持体からの剥離を抑え、導電性支持体と感光層との接着性を向上させる。具体的には、導電性支持体からの感光層への電荷の注入が防止され、感光層の帯電性の低下を防ぎ、画像のかぶり(いわゆる黒ぽち)を防止することができ、ライフを通じて、帯電性などの良好な電子写真特性を維持できる。
【0028】
下引き層は、例えば、バインダ樹脂を適当な溶剤に溶解させ、これにケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を分散させて下引き層用塗布液を調製し、この塗布液を導電性支持体の表面に塗布し、乾燥により有機溶剤を除去することによって形成することができる。
【0029】
バインダ樹脂としては、特に限定されず、当該分野で公知の樹脂をいずれも使用でき、例えば、アセタール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、メラニン系樹脂、ウレタン系樹脂などの合成樹脂、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、エチルセルロースなどの天然高分子材料などが挙げられ、これらの1種または2種以上を使用できる。
バインダ樹脂は、下引き層上に感光体層を形成する際に用いられる溶剤に対して溶解や膨潤などが起こらないこと、導電性支持体との接着性に優れること、可撓性を有することなどの特性が要求されることから、上記のバインダ樹脂の中でも、ポリアミド系樹脂が好ましい。
【0030】
ポリアミド系樹脂としては、例えば、6-ナイロン、66-ナイロン、610-ナイロン、11-ナイロン、12-ナイロン、およびこれらを共重合させた、いわゆる共重合ナイロン、N-アルコキシメチル変性ナイロンのように、ナイロンを化学的に変性させたもの、ピペラジンン系化合物と脂肪族ジ-もしくはトリ-カルボン酸化合物、またはそのアルキルエステルあるいはこれらの混合物とが重合して得られるポリアミド系樹脂が挙げられる。このような化合物は特開2011-81025号公報に記載の方法で合成することができる。これらの中でも、ピペラジンン系化合物と、脂肪族ジ-もしくはトリ-カルボン酸化合物、またはそのアルキルエステルあるいはこれらの混合物とが重合して得られるポリアミド系樹脂は、ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子の分散時に粘度上昇がし難いことから好ましい。すなわち、バインダ樹脂は、ピペラジン系化合物の由来成分を有するポリアミド樹脂であることが好ましい。
また、バインダ樹脂を架橋する硬化剤を用いて、硬化膜としてもよい。硬化剤としては、塗液の保存安定性や電気特性の観点からブロック化イソシアネートが好ましい。ブロック化イソシアネートの市販品としては、例えば、Desmodur(登録商標)BL3175SN(Covestro社製)が挙げられる。
【0031】
バインダ樹脂を溶解させ、ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を分散させる溶剤としては、例えば、水、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノールなどの低級アルコール類、アセトン、シクロヘキサノン、2-ブタノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコール、ジエチルエーテルなどのエーテル類、塩化メチレン、塩化エチレンなどのハロゲン化炭化水素類が挙げられる。上記溶剤は、単独でも2種以上混合して用いてもよく、バインダ樹脂の溶解性、下引き層の表面平滑性などから適切な溶媒を用いることがよい。これらの溶剤の中でも、地球環境に対する配慮から、非ハロゲン系有機溶剤が好適に用いられる。
【0032】
下引き層には、抵抗調整、分散性向上などのためにケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子と共に別の金属酸化物粒子を含有してもよい。金属酸化物としては酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムおよび酸化スズ等の粒子が挙げられる。これらの中でも、ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子の凝集を防ぎ易いことから、酸化亜鉛粒子が好ましい。すなわち、下引き層は、酸化亜鉛粒子をさらに含有することが好ましい。
酸化亜鉛粒子のような金属酸化物粒子は、特に限定されないが、20~70nmの平均一次粒子径を有することが好ましい。
【0033】
ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を下引き層用塗布液に分散させるために、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミル、超音波分散機およびペイントシェーカなどの公知の装置を用いてもよい。
【0034】
下引き層用塗布液の塗布方法は、塗布液の物性および生産性などを考慮に入れて最適な方法を適宜選択すればよく、例えば、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、リング法および浸漬塗布法などが挙げられる。
これらの中でも、浸漬塗布法は、塗布液を満たした塗工槽に基体を浸漬した後、一定速度または逐次変化する速度で引上げることによって基体の表面に層を形成する方法であり、比較的簡単で、生産性および原価の点で優れているので、感光体の製造に好適に用いることができる。浸漬塗布法に用いる装置には、塗布液の分散性を安定させるために、超音波発生装置に代表される塗布液分散装置が設けられていてもよい。
【0035】
自然乾燥により塗膜中の溶剤を除去してもよいが、加熱により強制的に塗膜中の溶剤を除去してもよい。
このような乾燥工程における温度は、使用した溶剤を除去し得る温度であれば特に限定されないが、50~140℃程度が適当であり、80~130℃程度が特に好ましい。
乾燥温度が50℃未満では、乾燥時間が長くなることがあり、また溶剤が充分に蒸発せず感光体層中に残ることがある。また、乾燥温度が約140℃を超えると、感光体の繰り返し使用時の電気特性が悪化して、得られる画像が劣化することがある。
このような温度条件は、下引き層のみならず後述する感光層などの層形成や他の処理においても共通する。
【0036】
下引き層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは0.5~30μm、より好ましくは1~20μmである。
下引き層の膜厚が0.5μm未満では、高温高湿下の黒ポチ防止効果が十分に得られないことがある。一方、下引き層の膜厚が30μmを超えると、低温低湿下の連続印字した際の感度変化が大きく、画像濃度の変化が大きくなり問題となることがある。
【0037】
<電荷発生層15>
電荷発生層は、画像形成装置などにおいて半導体レーザ光などの照射された光を吸収することによって電荷を発生する機能を有し、電荷発生物質を主成分とし、必要に応じてバインダ樹脂や添加剤を含有する。
【0038】
電荷発生物質としては、当該分野で用いられる化合物を使用でき、具体的には、モノアゾ系顔料、ビスアゾ系顔料およびトリスアゾ系顔料などのアゾ系顔料;インジゴおよびチオインジゴなどのインジゴ系顔料;ペリレンイミドおよびペリレン酸無水物などのペリレン系顔料;アントラキノンおよびピレンキノンなどの多環キノン系顔料;チタニルフタロシアニンなどの金属フタロシアニンおよび無金属フタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料;スクアリリウム色素、ピリリウム塩類、チオピリリウム塩類、トリフェニルメタン系色素などの有機光導電性材料;ならびにセレンおよび非晶質シリコンなどの無機光導電性材料などが挙げられ、露光波長域に感度を有するものを適宜選択して用いることができる。これらの電荷発生物質は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの電荷発生物質の中でも、下記一般式(A):
【0039】
【化1】
【0040】
(式中、X1、X2、X3およびX4は、同一または異なって、ハロゲン原子、アルキル基またはアルコキシ基であり、r、s、yおよびzは、同一または異なって0~4の整数である)
で表されるチタニルフタロシアニンを用いることが好ましい。
チタニルフタロシアニンは、現在一般的に用いられているレーザ光およびLED光の発信波長域(近赤外光)で高い電荷発生効率と電荷注入効率とを有する電荷発生物質であり、光を吸収することにより多量の電荷を発生させると共に、発生した電荷をその内部に蓄積することなく電荷輸送物質に効率よく注入することができる。
【0041】
一般式(A)で表されるチタニルフタロシアニンは、例えば、Moser, Frank HおよびArthur L. ThomasによるPhthalocyanine Compounds、Reinhold Publishing Corp.、New York、1963に記載されている方法などの公知の製造方法によって製造することができる。
例えば、一般式(A)で表されるチタニルフタロシアニン化合物のうち、r、s、yおよびzが0である無置換のチタニルフタロシアニンの場合は、フタロニトリルと四塩化チタンとを、加熱融解するかまたはα-クロロナフタレンなどの適当な溶剤中で加熱反応させることによってジクロロチタニルフタロシアニンを合成した後、塩基または水で加水分解することによって得られる。
また、イソインドリンとテトラブトキシチタンなどのチタニウムテトラアルコキシドとを、N-メチルピロリドンなどの適当な溶剤中で加熱反応させることによっても、チタニルフタロシアニン組成物を製造することができる。
【0042】
電荷発生層の形成方法としては、電荷発生物質を導電性支持体上に真空蒸着する方法、および溶剤中に電荷発生物質を分散して得られる電荷発生層用塗布液を導電性支持体上に塗布する方法などがある。これらの中でも、バインダ樹脂を溶剤中に混合して得られるバインダ樹脂溶液中に、電荷発生物質を従来公知の方法によって分散させ、電荷発生層用塗布液を導電性支持体上に塗布する方法が好ましい。以下、この方法について説明する。
【0043】
バインダ樹脂としては、特に限定されず、当該分野で公知の樹脂をいずれも使用でき、例えば、ポリエステル、ポリスチレン、ポリウレタン、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリフェノキシ、ポリビニルブチラールおよびポリビニルホルマールなどの樹脂、ならびにこれらの樹脂を構成する繰返し単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂などを挙げることができる。
共重合体樹脂としては、例えば、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体樹脂およびアクリロニトリル-スチレン共重合体樹脂などの絶縁性樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
溶剤としては、例えば、ジクロロメタンおよびジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、アセトン、メチルエチルケトンおよびシクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチルおよび酢酸ブチルなどのエステル類、テトラヒドロフラン(THF)およびジオキサンなどのエーテル類、1,2-ジメトキシエタンなどのエチレングリコールのアルキルエーテル類、ベンゼン、トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素類、またはN,N-ジメチルホルムアミドおよびN,N-ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶剤などが挙げられる。これらの溶剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
電荷発生物質とバインダ樹脂との配合比率は、電荷発生物質の割合が10~99質量%の範囲にあることが好ましい。
電荷発生物質の割合が10質量%未満であると、感度が低下することがある。一方、電荷発生物質の割合が99質量%を超えると、電荷発生層の膜強度が低下するだけでなく、電荷発生物質の分散性が低下して粗大粒子が増大し、露光によって消去されるべき部分以外の表面電荷が減少して画像欠陥、特に白地にトナーが付着し微小な黒点が形成される黒ポチと呼ばれる画像のかぶりが多く発生することがある。
【0046】
バインダ樹脂溶液中に電荷発生物質を分散させる前に、予め電荷発生物質を粉砕機によって粉砕処理してもよい。粉砕処理に用いられる粉砕機としては、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミルおよび超音波分散機などを挙げることができる。
電荷発生物質をバインダ樹脂溶液中に分散させる際に用いられる分散機としては、ペイントシェーカ、ボールミルまたはサンドミルなどを挙げることができる。このときの分散条件としては、用いる容器および分散機を構成する部材の摩耗などによる不純物の混入が起こらないように適当な条件を選択すればよい。
電荷発生層用塗布液の塗布方法としては、下引き層用塗布液の塗付方法と同様の方法が挙げられ、浸漬塗布法が特に好ましい。
【0047】
電荷発生層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは0.05~5μmであり、より好ましくは0.1~1μmである。
電荷発生層の膜厚が0.05μm未満では、光吸収の効率が低下し、感光体の感度が低下することがある。一方、電荷発生層の膜厚が5μmを超えると、電荷発生層内部での電荷移動が積層型感光層表面の電荷を消去する過程の律速段階となり感光体の感度が低下することがある。
【0048】
<電荷輸送層16>
電荷輸送層は、電荷発生物質で発生した電荷を受入れ感光体表面まで輸送する機能を有し、電荷輸送物質、バインダ樹脂およびシリカ粒子、必要に応じて添加剤を含有する。
【0049】
電荷輸送物質としては、当該分野で用いられる化合物を使用できる。
具体的には、カルバゾール誘導体、ピレン誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、イミダゾリジン誘導体、ビスイミダゾリジン誘導体、スチリル化合物、ヒドラゾン化合物、多環芳香族化合物、インドール誘導体、ピラゾリン誘導体、オキサゾロン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、キナゾリン誘導体、ベンゾフラン誘導体、アクリジン誘導体、フェナジン誘導体、アミノスチルベン誘導体、トリアリールアミン誘導体、トリアリールメタン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン誘導体、ベンジジン誘導体、これらの化合物から誘導される基を主鎖または側鎖に有するポリマー(ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリ-1-ビニルピレン、エチルカルバゾール-ホルムアルデヒド樹脂、トリフェニルメタンポリマー、ポリ-9-ビニルアントラセンなど)、ポリシランなどが挙げられる。これらの電荷輸送物質は1種を単独でまたは2種以上を組み合せて使用することができる。
【0050】
これらの種々の電荷輸送物質の中でも、電気特性、耐久性および化学的安定性において、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン誘導体およびこれらの化合物が複数種結合したものが好ましく、スチルベン誘導体がより好ましく、下記の一般式(I):
【0051】
【化2】
【0052】
(式中、R1、R2、R5およびR6は、同一または異なって、アルキル基、アルコキシ基、アリール基またはアラルキル基であり、m、n、pおよびqは、同一または異なって、0~3の整数であり、R3およびR4は、同一または異なって、水素原子またはアルキル基である。)
で表されるスチルベン化合物が,残留電位上昇、感度悪化が少なく、良好な電子写真特性を発現できる点で特に好ましい。
【0053】
一般式(I)における置換基R1、R2、R5およびR6について説明する。
アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシルなどの炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、tert-ブトキシ、n-ペンチルオキシ、n-ヘキシルオキシなどの炭素数が1~6のアルコキシ基が挙げられる。
アリール基としては、例えばフェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、フルオレニル、ビフェニリル、o-テルフェニルなどが挙げられる。
アラルキル基としては、例えば、ベンジル、フェネチル、ベンズヒドリル、トリチルなどが挙げられる。
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられる。
【0054】
置換基R1、R2、R5およびR6の指数を示すm、n、pおよびqは、同一または異なって、0~3の整数であり、この指数が2以上のとき、各置換基は互いに異なっていてもよい。
また、一般式(I)における置換基R3およびR4のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピルなどの炭素数1~3のアルキル基が挙げられる。
一般式(I)で表されるスチルベン化合物は、例えば、特許第3272257号公報に記載の方法により合成することができる。
【0055】
一般式(I)で表されるスチルベン化合物としては、例えば、下記の化合物(1)~(3)が挙げられ、積層型感光層にした時の耐刷性の点で化合物(1)が特に好ましい。
【0056】
【化3】
【0057】
電荷輸送層の形成方法としては、バインダ樹脂を溶剤中に混合して得られるバインダ樹脂溶液中に、電荷輸送物質および無機化合物微粒子を従来公知の方法によって分散させ、電荷輸送層用塗布液を電荷発生層上に塗布する方法が好ましい。以下、この方法について説明する。
【0058】
バインダ樹脂としては、特に限定されず、当該分野で公知の樹脂をいずれも使用でき、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどのビニル重合体樹脂およびそれらの共重合体樹脂、ならびにポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルカーボネート、ポリスルホン、ポリフェノキシ、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリアリレート、ポリフェニレンオキサイド、ポリアミド、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリアクリルアミド、フェノール樹脂などの樹脂、これらの樹脂を部分的に架橋した熱硬化性樹脂などが挙げられる。これらのバインダ樹脂は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0059】
これらの中でも、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレートおよびポリフェニレンオキサイドは、体積抵抗値が1013Ω以上であって電気絶縁性に優れ、かつ成膜性、電位特性などにも優れるので好ましい。
【0060】
電荷輸送物質(A)とバインダ樹脂(B)との比率A/Bは、好ましくは10/12~10/30で用いられる。
比率A/Bが10/30未満でありバインダ樹脂の比率が高くなると、浸漬塗布法によって電荷輸送層を形成する場合、塗布液の粘度が増大するので、塗布速度低下を招き生産性が著しく悪くなる。また塗布液の粘度の増大を抑えるために塗布液中の溶剤の量を多くすると、ブラッシング現象が発生し、形成された電荷輸送層に白濁が発生することがある。一方、比率A/Bが10/12を超えてバインダ樹脂の比率が低くなると、バインダ樹脂の比率が高いときに比べて耐刷性が低くなり、積層型感光層の摩耗量が増加することがある。
【0061】
電荷輸送層は、成膜性、可撓性および表面平滑性を向上させるために、必要に応じて、可塑剤またはレベリング剤などの添加剤を含有してもよい。
可塑剤としては、例えばフタル酸エステルなどの二塩基酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、塩素化パラフィンおよびエポキシ型可塑剤などが挙げられる。
レベリング剤としては、例えばシリコーン系レベリング剤などが挙げられる。
また、電荷輸送層は、機械的強度の増強や電気特性の向上を図るために、無機化合物または有機化合物の微粒子を含有してもよい。
【0062】
溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレンおよびモノクロルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ジクロロメタンおよびジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、THF、ジオキサンおよびジメトキシメチルエーテルなどのエーテル類、ならびにN,N-ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶剤などが挙げられる。また必要に応じてアルコール類、アセトニトリルまたはメチルエチルケトンなどの溶剤をさらに加えて使用することもできる。これらの溶剤の中でも、地球環境に対する配慮から、非ハロゲン系有機溶剤が好適に用いられる。これらの溶剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0063】
電荷輸送層は、例えば、前述の電荷発生層を形成する場合と同様に、適当な溶剤中に電荷輸送物質およびバインダ樹脂、ならびに必要な場合には前述の添加剤を溶解または分散させて電荷輸送層用塗布液を調製し、この塗布液をスプレイ法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、リング法または浸漬塗布法などによって、電荷発生層13上に塗布することによって形成される。これらの塗布方法の中でも、特に浸漬塗布法は、前述したように種々の点で優れているので、電荷輸送層を形成する場合にも多く利用されている。
【0064】
電荷輸送層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは18~42μm、より好ましくは25~37μmである。
電荷輸送層の膜厚が18μm未満では、耐光性への効果が十分に発揮されないことがある。一方、電荷輸送層の膜厚が42μmを超えると、感光体の電気特性が悪化することがある。
【0065】
(2)画像形成装置100
本開示の画像形成装置は、本開示の感光体と、感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された感光体を露光して静電潜像を形成する露光手段と、静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段と、トナー像を記録媒体上に転写する転写手段とを少なくとも備え、その他、転写されたトナー像を記録媒体上に定着して画像を形成する定着手段、感光体に残留するトナーを除去し回収するクリーニング手段、および感光体に残留する表面電荷を除電する除電手段から選択される手段を備えていてもよい。
以下、図面に基づいて本開示の画像形成装置およびその動作について説明するが、以下の記載内容に限定されるものではない。
【0066】
図2は、本開示の画像形成装置の要部の構成の一例を示す模式側面図である。
図2の画像形成装置(レーザプリンタ)100は、本開示の感光体1と、露光手段(半導体レーザ)31と、帯電手段(帯電器)32と、現像手段(現像器)33と、転写手段(転写帯電器)34と、搬送ベルト(図示せず)と、定着手段(定着器)35と、クリーニング手段(クリーナ)36とを含んで構成される。符号51は記録媒体(記録紙または転写紙)を示す。
【0067】
感光体1は、画像形成装置100本体に回転自在に支持され、図示しない駆動手段によって回転軸線44回りに矢符41方向に回転駆動される。駆動手段は、例えば電動機と減速歯車とを含んで構成され、その駆動力を感光体1の芯体を構成する導電性支持体に伝えることによって、感光体1を所定の周速度で回転駆動させる。帯電手段(帯電器)32、露光手段31、現像手段(現像器)33、転写手段(転写帯電器)34およびクリーニング手段(クリーナ)36は、この順序で、感光体1の外周面に沿って、矢符41で示される感光体1の回転方向上流側から下流側に向って設けられる。
【0068】
帯電器32は、感光体1の外周面を均一に所定の電位に帯電させる帯電手段である。
露光手段31は、半導体レーザを光源として備え、光源から出力されるレーザビーム光を、帯電器32と現像器33との間の感光体1の表面に照射することによって、帯電された感光体1の外周面に対して画像情報に応じた露光を施す。光は、主走査方向である感光体1の回転軸線44の延びる方向に繰返し走査され、これらが結像して感光体1の表面に静電潜像が順次形成される。すなわち、帯電器32により均一に帯電された感光体1の帯電量がレーザビームの照射および非照射によって差異が生じて静電潜像が形成される。
【0069】
現像器33は、露光によって感光体1の表面に形成される静電潜像を、現像剤(トナー)によって現像する現像手段であり、感光体1を臨んで設けられ、感光体1の外周面にトナーを供給する現像ローラ33aと、現像ローラ33aを感光体1の回転軸線44と平行な回転軸線まわりに回転可能に支持すると共にその内部空間にトナーを含む現像剤を収容するケーシング33bとを備える。
【0070】
転写帯電器34は、現像によって感光体1の外周面に形成される可視像であるトナー像を、図示しない搬送手段によって矢符42方向から感光体1と転写帯電器34との間に供給される記録媒体である転写紙51上に転写させる転写手段である。転写帯電器34は、例えば、帯電手段を備え、転写紙51にトナーと逆極性の電荷を与えることによってトナー像を転写紙51上に転写させる接触式の転写手段である。
【0071】
クリーナ36は、転写帯電器34による転写動作後に感光体1の外周面に残留するトナーを除去し回収する清掃手段であり、感光体1の外周面に残留するトナーを剥離させるクリーニングブレード36aと、クリーニングブレード36aによって剥離されたトナーを収容する回収用ケーシング36bとを備える。また、このクリーナ36は、図示しない除電ランプと共に設けられる。
【0072】
また、画像形成装置100には、感光体1と転写帯電器34との間を通過した転写紙51が搬送される下流側に、転写された画像を定着させる定着手段である定着器35が設けられる。定着器35は、図示しない加熱手段を有する加熱ローラ35aと、加熱ローラ35aに対向して設けられ、加熱ローラ35aに押圧されて当接部を形成する加圧ローラ35bとを備える。
符号37は、転写紙と感光体を分離する分離手段、符号38は、画像形成装置の前記の各手段を収容するケーシングを示す。
【0073】
この画像形成装置100による画像形成動作は、次のようにして行われる。
まず、感光体1が駆動手段によって矢符41方向に回転駆動されると、露光手段31による光の結像点よりも感光体1の回転方向上流側に設けられる帯電器32によって、感光体1の表面が正の所定電位に均一に帯電される。
【0074】
次いで、露光手段31から、感光体1の表面に対して画像情報に応じた光が照射される。感光体1は、この露光によって、光が照射された部分の表面電荷が除去され、光が照射された部分の表面電位と光が照射されなかった部分の表面電位とに差異が生じ、静電潜像が形成される。
露光手段31による光の結像点よりも感光体1の回転方向下流側に設けられる現像器33から、静電潜像の形成された感光体1の表面にトナーが供給されて静電潜像が現像され、トナー像が形成される。
【0075】
感光体1に対する露光と同期して、感光体1と転写帯電器34との間に、転写紙51が供給される。転写帯電器34によって、供給された転写紙51にトナーと逆極性の電荷が与えられ、感光体1の表面に形成されたトナー像が、転写紙51上に転写される。
トナー像の転写された転写紙51は、搬送手段によって定着器35に搬送され、定着器35の加熱ローラ35aと加圧ローラ35bとの当接部を通過する際に加熱および加圧され、トナー像が転写紙51に定着されて堅牢な画像となる。このようにして画像が形成された転写紙51は、搬送手段によって画像形成装置100の外部へ排紙される。
【0076】
一方、転写帯電器34によるトナー像の転写後も感光体1の表面上に残留するトナーは、クリーナ36によって感光体1の表面から剥離されて回収される。このようにしてトナーが除去された感光体1の表面の電荷は、除電ランプからの光によって除去され、感光体1の表面上の静電潜像が消失する。その後、感光体1はさらに回転駆動され、再度帯電から始まる一連の動作が繰返されて連続的に画像が形成される。
【0077】
(3)電子写真感光体の製造方法
本開示の電子写真感光体の製造方法は、少なくともバインダ樹脂およびケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を含有する下引き層用塗布液を用いて下引き層を形成する工程を含むことを特徴とする。
下引き層を含む各層を構成する材料、作製およびその条件などについては、(1)電子写真感光体に記載のとおりである。
【0078】
(4)下引き層用塗布液
本開示の下引き層用塗布液は、少なくともバインダ樹脂およびケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を含有することを特徴とする。
本開示の下引き層用塗布液は、分散安定性に優れ、長期にわたって安定して均一な下引き層を形成し、感光体を製造することができる。
下引き層用塗布液の構成材料、それらの配合量などについては、(1)電子写真感光体に記載のとおりである。
【実施例0079】
以下に、図面に基づき実施例および比較例により本開示を具体的に説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
なお、実施例および比較例において作製した感光体の下引き層中のケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子の、ケイ素元素Si、ストロンチウム元素Srおよびチタン元素Tiのモル比Si/(Sr+Ti)および平均一次粒子径を下記の方法により測定した。
【0080】
[ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子のモル比Si/(Sr+Ti)]
下引き層を2×2cmにカットし、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、型式:ZSX Primus II)を用いて測定することで、ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子中の各元素のカウント値を測定し、Fundamental Parameter法により算出した(JIS K 0119:2008)。
【0081】
[ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子の平均一次粒子径]
集束イオンビーム装置(日立ハイテクマニファクチャ&サービス製、型式:FB-2000A)を用い、FIB-μサンプリング法により、下引き層を厚み:150nmに薄片化したTEM(透過型電子顕微鏡)(日本電子株式会社製、型式:JEM-2100F)観察によって、ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を10000倍に拡大し、ランダムに100個の粒子を一次粒子として観察し、画像解析によってフェレ方向平均径を平均一次粒子径とした。
【0082】
(実施例1)
<下引き層>
予め、下引き層の形成に使用するケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を調製した。
硫酸法で得られたメタチタン酸を脱硫漂白処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH9.0とし、脱硫処理を行い、その後、塩酸でpH5.8まで中和し、ろ過水洗を行って、洗浄済みケーキを得た。洗浄済みケーキに水を加え、TiO2として1.85モル/Lのスラリーとした後、塩酸を加えpH1.0とし、解膠処理を行った。得られたメタチタン酸をTiO2として0.625モル採取して、容量3Lの反応容器に投入し、塩化ストロンチウム水溶液とケイ酸ナトリウム水溶液をSr2+:Si4+:Ti4+のモル比が1.00:0.12:1.00となるように合計0.72モル添加した後、TiO2濃度0.32モル/Lに調整した。次いで、混合撹拌しながら温度90℃に加温した後、5N水酸化ナトリウム水溶液300mLを10時間かけて添加し、その後、温度95℃で1時間撹拌を続け反応を終了した。
反応終了後、得られたスラリーを温度50℃まで冷却し、pH5.0となるまで塩酸を加えて1時間撹拌を続けた。得られた沈殿をデカンテーション洗浄した後、濾過により固液分離を行った。得られた固形分(ケーキ)を温度120℃、大気中で8時間乾燥させて、平均一次粒子径35nmを有するケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子254gを得た。
【0083】
容量2Lのポリプロピレン(PP)容器に、得られたケイ素含有チタン酸ストロンチウム160g、バインダ樹脂としての共重合ポリアミド(ナイロン)(東レ株式会社製、製品名:アミラン(登録商標)CM8000)40g、メチルアルコール500g、テトラヒドロフラン500gおよびジルコニアビーズ(粒径0.65mm、東レ株式会社製、製品名:トレセラム(登録商標))2000gを加え、ペイントシェーカー(株式会社セイワ技研製)を用いて5時間分散処理して、下引き層用塗布液1103gを調製した。
【0084】
得られた下引き層用塗布液を温度20℃で1日間および1ヵ月間静置し、静置後のそれぞれ塗布液を塗布槽に満たし、導電性支持体11として直径30mm、長さ255mmのアルミニウム製のドラム状支持体を浸漬した後、引き上げ、得られた塗膜を自然乾燥させて、導電性支持体上に膜厚1.2μmの下引き層18を形成した。
静置した各下引き層用塗布液の分散性および分散安定性ならびに塗膜の状態を評価した。詳しくは、[評価]において詳述する。
なお、評価用の感光体には、1日間静置した下引き層用塗布液を用いて形成した下引き層を有する感光体を用いた。
【0085】
<電荷発生層>
予め、電荷発生物質として使用する、下記構造式で示されるチタニルフタロシアニンを調製した。
【化4】
【0086】
ジイミノイソインドリン29.2gおよびスルホラン200mlを混合し、さらにチタニウムテトライソプロポキシド17.0gを加え、窒素雰囲気下、140℃で2時間反応させた。得られた反応混合物を放冷した後、析出物を濾取し、クロロホルムおよび2%の塩酸水溶液で順次洗浄し、さらに水およびメタノールで順次洗浄し、乾燥させて青紫色の結晶物25.5gを得た。
得られた化合物の化学分析の結果、上記構造式で示されるチタニルフタロシアニンであることを確認した(収率88.5%)。
【0087】
容量2LのPP容器に、得られたチタニルフタロシアニン15g、ブチラール樹脂(積水化学株式会社製、製品名:エスレックBM-2)15g、メチルエチルケトン1000gおよびジルコニアビーズ(粒径0.65mm、東レ株式会社製、製品名:トレセラム(登録商標))1500gを加え、ペイントシェーカ(株式会社セイワ技研製)を用いて、2時間分散処理して電荷発生層用塗布液947gを調製した。
得られた電荷発生層用塗布液を、下引き層形成の場合と同様の浸漬法で、下引き層18上に塗布し、得られた塗膜を自然乾燥させて、膜厚0.3μmの電荷発生層15を形成した。
【0088】
<電荷輸送層>
予め、電荷輸送物質として使用する、下記構造式で表される化合物(4)(スチルベン化合物)を、特許第3272257号公報に記載の方法に基づいて調製した。
【化5】
【0089】
容量2LのPP容器に、得られた化合物(1)250g、ポリカーボネート(帝人化成株式会社製、製品名:パンライト(登録商標)TS2050)375gおよびテトラヒドロフラン2500gを加え、混合し、ボールミル(エイシン株式会社製、型式:卓上ボールミルBM-15)を用いて、15時間撹拌処理して、電荷輸送層用塗布液3120gを調製した。
得られた電荷輸送層用塗布液を、下引き層形成の場合と同様の浸漬法で、電荷発生層15上に塗布し、得られた塗膜を温度120℃で1時間乾燥させて、膜厚34μmの電荷輸送層16を形成し、図1に示す感光体1を得た。
【0090】
(実施例2)
ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子の調製において、Sr2+:Si4+:Ti4+のモル比が1.00:0.12:1.00を1.00:0.08:1.00に変更すること以外は、実施例1と同様にして感光体1を作製した。
【0091】
(実施例3)
ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子の調製において、Sr2+:Si4+:Ti4+のモル比が1.00:0.12:1.00を1.00:0.04:1.00に変更すること以外は、実施例1と同様にして感光体1を作製した。
【0092】
(実施例4)
ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子の調製において、Sr2+:Si4+:Ti4+のモル比が1.00:0.12:1.00を1.00:0.20:1.00に変更すること以外は、実施例1と同様にして感光体1を作製した。
【0093】
(実施例5)
ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子の調製において、Sr2+:Si4+:Ti4+のモル比が1.00:0.12:1.00を1.00:0.02:1.00に変更すること以外は、実施例1と同様にして感光体1を作製した。
【0094】
(実施例6)
ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子の調製において、Sr2+:Si4+:Ti4+のモル比が1.00:0.12:1.00を1.00:0.22:1.00に変更すること以外は、実施例1と同様にして感光体1を作製した。
【0095】
(実施例7)
下引き層用塗布液の調製において、ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子140gを120gに、共重合ポリアミド60gを80gに変更すること以外は、実施例3と同様にして感光体1を作製した。
【0096】
(実施例8)
下引き層用塗布液の調製において、ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子140gを180gに、共重合ポリアミド60gを20gに変更すること以外は、実施例3と同様にして感光体1を作製した。
【0097】
(実施例9)
下引き層用塗布液の調製において、ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子140gを116gに、共重合ポリアミド60gを84gに変更すること以外は、実施例3と同様にして感光体1を作製した。
【0098】
(実施例10)
下引き層用塗布液の調製において、ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子140gを184gに、共重合ポリアミド60gを16gに変更すること以外は、実施例3と同様にして感光体1を作製した。
【0099】
(実施例11)
次のようにして、シラン化合物による疎水化処理を施したケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を用いること以外は、実施例1と同様にして感光体1を作製した。
実施例1と同様にして、ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を得た。
得られたケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を含むスラリーを温度50℃に調整し、塩酸を加えてpHを2.5に調整した後、固形分に対して5.0質量%のジクロロジメチルシラン(DDS、東京化成工業株式会社製、製品コード:D0358)を添加して20時間撹拌保持を続けた。次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH6.5に調整し、1時間撹拌保持を続けた後、濾過洗浄を行い、得られた固形分(ケーキ)を温度120℃、大気中で10時間乾燥させて、平均一次粒子径35nmを有する疎水化処理されたケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子262gを得た。
【0100】
(実施例12)
次のようにして、シラン化合物による疎水化処理を施したケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を用いること以外は、実施例1と同様にして感光体1を作製した。
シラン化合物としてのジクロロジメチルシランをヘキサメチルジシラザン(HMDS、信越化学工業株式会社製、製品名:SZ-31)に変更すること以外は、実施例11と同様にして、平均一次粒子径35nmを有する疎水化処理されたケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子264gを得た。
【0101】
(実施例13)
ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子の調製において、5N水酸化ナトリウム水溶液300mLの添加時間10時間を5時間に変更すること以外は、実施例1と同様にして、平均一次粒子径10nmを有する疎水化処理されたケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子257gを得た。得られたケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を用いること以外は、実施例1と同様にして感光体1を作製した。
【0102】
(実施例14)
ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子の調製において、5N水酸化ナトリウム水溶液300mLの添加時間10時間を18時間に変更すること以外は、実施例1と同様にして、平均一次粒子径100nmを有する疎水化処理されたケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子255gを得た。得られたケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を用いること以外は、実施例1と同様にして感光体1を作製した。
【0103】
(実施例15)
ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子の調製において、5N水酸化ナトリウム水溶液300mLの添加時間10時間を3時間に変更すること以外は、実施例1と同様にして、平均一次粒子径7nmを有する疎水化処理されたケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子263gを得た。得られたケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を用いること以外は、実施例1と同様にして感光体1を作製した。
【0104】
(実施例16)
ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子の調製において、5N水酸化ナトリウム水溶液300mLの添加時間10時間を20時間に変更すること以外は、実施例1と同様にして、平均一次粒子径110nmを有する疎水化処理されたケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子250gを得た。得られたケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を用いること以外は、実施例1と同様にして感光体1を作製した。
【0105】
(実施例17)
下引き層のバインダ樹脂としての共重合ポリアミドの代わりに、次のようにして合成したポリアミド樹脂を用いること以外は、実施例10と同様にして感光体1を作製した。
オレイン酸メチル72%とリノール酸メチル18%、ヘキサデカン酸メチル10%を含有する高級不飽和脂肪酸メチルエステル400gを原料とし、活性白土17%を触媒として温度230℃で5時間、二量化反応を行った。
次に、得られた生成物から未反応脂肪酸メチルエステル留分と異性化脂肪酸メチルエステル留分を減圧蒸留(温度230℃/圧力1torr)により除去し、残留物を分子蒸留(温度230℃/圧力1torr)して、ジカルボン酸ジメチルエステル200gを得、蒸留残物としてトリカルボン酸トリメチルエステル50gを得た。
【0106】
次に、ジカルボン酸ジメチルエステルとトリカルボン酸トリメチルエステルを質量比7/3で混合し、Ni触媒を2%加え、水素圧30kg/cm2、反応温度200℃で15時間水素添加反応させて、常法に従って処理してトリカルボン酸トリメチルエステルを一部有するジカルボン酸ジメチルエステル200gを得た。
容量4Lのフラスコに、撹拌機、温度計、液中まで導入管の伸びた窒素導入管と冷却コンデンサーを取り付けた。このフラスコ内で、ジカルボン酸ジメチルエステル(b)の1.0カルボキシル基当量220gを50%濃度になるようにメタノールに溶解させた溶液1Lと、ピペラジン(a)の1.0アミノ基当量26gを50%濃度になるようにメタノールに溶解させた溶液1)とを室温にて撹拌しながら混合した(a:b=1.0:1.0)。混合により溶液の温度が上昇するためフラスコを冷却した。
【0107】
次に、フラスコ内を減圧(10mmHg)した後、窒素ガスを導入して常圧まで戻し、反応系を窒素雰囲気に保った後、徐々に温度を上げてメタノールを留去した。メタノールの留出が停止した後、温度を1時間かけ150℃に上げて脱水または脱アルコール化を行った。ほとんどの水またはアルコールの留出が終わった後、反応温度を30分かけて200℃に上げ、減圧(10mmHg)下で反応を30分行った。反応物を冷却せずに窒素雰囲気に保ってフラスコから移し、押し出し機によりペレット化し、ポリアミド樹脂200gを得た。
【0108】
(実施例18)
下引き層用塗布液の調製において、酸化亜鉛(平均一次粒子径35nm、テイカ株式会社製、銘柄:MZ-300)40gをさらに添加すること以外は、実施例15と同様にして感光体1を作製した。
【0109】
(比較例1)
下引き層用塗布液の調製において、ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子の代わりに酸化チタン(平均一次粒子径35nm、テイカ株式会社製、銘柄:MT-500B)を用いること以外は、実施例1と同様にして感光体1を作製した。
【0110】
(比較例2)
ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子の調製において、Sr2+:Si4+:Ti4+のモル比が1.00:0.12:1.00を1.00:0.00:1.00に変更すること以外は、実施例1と同様にして感光体1を作製した。
作製した感光体の下引き層の主要構成材料および物性を表1に示す。
表1において、元素割合Si/(Sr+Ti)は、ケイ素元素Si/(ストロンチウム元素Sr+チタン元素Ti)のモル比を示す。
【0111】
【表1】
【0112】
[評価]
以下のようにして、実施例1~18および比較例1~2において作製した各感光体の感度および帯電性、ならびに実施例1~18および比較例1~2において調製した下引き層用塗布液の分散性および分散安定性を評価した。
【0113】
[感度]
評価対象の感光体を、試験用に改造したデジタル複写機(シャープ株式会社製、型式:MX-B455W)のユニットに装着し、デジタル複写機から現像器を取り外し、代わりに現像部位に表面電位計(トレック・ジャパン社製、型式:MODEL 344)を取り付けた。温度25℃、相対湿度50%の常温常湿(N/N)の環境下において、レーザ光による露光を施さなかった場合の感光体の表面電位を-600Vに調整し、その状態で黒地部分の表面電位VL(-V)を測定した。
得られたVLから下記の基準で感度(初期感度)を評価した。表面電位VLの絶対値が小さい程、高感度であると評価した。
【0114】
<評価基準>
VG:|VL|<80
高感度を要求される高速の複合機もしくはプリンタにおいても問題なく使用可
G:80≦|VL|<110
中低速の複合機もしくはプリンタにおいては問題なく使用可
NG:110≦|VL|<140
低速で安価な複合機もしくはプリンタの場合であれば、やや濃度は薄いものの問題なく使用可
B:140≦|VL|
感度が悪いため、濃度が薄く、実使用上問題あり
【0115】
[帯電]
上記操作で感度(表面電位VL)測定後、現像器を取り付け、印字率1%の画像を50万枚印字した。その後、デジタル複写機から現像器を取り外し、代わりに現像部位に表面電位計(トレック・ジャパン社製、型式:MODEL 344)を取り付けた。温度25℃、相対湿度50%の常温常湿(N/N)の環境下において、レーザ光による露光を施さなかった場合の感光体の表面電位V0(-V)を測定した。
得られたV0ら下記の基準で帯電性(繰り返し使用後の帯電性)を評価した。表面電位V0の絶対値が大きい程、帯電性が良好であると評価した。
【0116】
<判定基準>
VG:580<|V0|
高画質を要求されるカラー複合機もしくはプリンタにおいても問題なく使用可
G:560<|V0|≦580
カラー複合機もしくはプリンタにおいては問題なく使用可
NB:530<|V0|≦560
モノクロ複合機もしくはプリンタの場合であれば、ややかぶりが発生するものの実使用上問題なく使用可
B:|V0|≦530
帯電が低いため、画像上かぶりが発生し、実使用上問題あり
【0117】
[分散性および分散安定性評価]
各感光体の作製において調製した下引き層用塗布液を容量1LのPP容器に入れ、20℃で1日間および1ヵ月間静置し、静置後の各塗布液の凝集・沈降状態およびそれらを用いて形成した下引き層の塗膜の状態を目視観察により評価した。
塗液については、沈殿(沈降)の発生有無およびその量、容器壁面への凝集物の付着を確認した。また、塗膜については、金属酸化物の凝集体の付着の有無や部分的に色目や光沢が違うなどの塗布ムラ発生状況を確認した。
1日間静置については分散性、1ヵ月間静置については分散安定性として評価した。
得られた結果から下記の基準で分散性および分散安定性を評価した。
【0118】
<評価基準>
VG:塗布液に凝集・沈降がなく、塗膜性状も均一で凝集体の付着はない
G:塗布液容器の壁面にやや凝集物の付着が見られるものの沈降はなく、塗膜性状は均一であるが、1、2ヵ所の凝集体の付着がある
NB:塗布液容器の壁面にやや凝集物の付着が見られ、沈降も若干みられ、塗膜性状は均一であるが、3~5ヵ所の凝集体の付着がある
B:塗布液容器の壁面に凝集物の付着が多く見られ、金属酸化物が沈降し、塗膜性状は、膜の光沢が所々違う箇所があり、10ヵ所以上の凝集体の付着が見られる
【0119】
<総合評価>
上記の評価結果に基づいて、下記の基準で総合評価した。
VG:全項目でG評価以上、2つ以上の項目でVG評価、非常に良好
高画質・高速な複合機およびプリンタにおいても循環ろ過しないでも問題なく使用可
G:全項目でG評価以上
高画質・高速な複合機もしくはプリンタ以外の場合や塗布液を循環ろ過する場合には、問題なく使用可
NB:全項目でNB評価以上
安価な複合機もしくはプリンタの場合や塗布液を撹拌しながら循環ろ過する場合には、問題なく使用可
B:B評価があり、実使用不可
得られた評価結果を表2に示す。
【0120】
【表2】
【0121】
表1および表2の結果から、次のことがわかる。
(1)下引き層を有する感光体において、下引き層にバインダ樹脂とケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を含有する感光体(実施例1~18)は、ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を含有していない感光体(比較例1)、ケイ素を含有していないチタン酸ストロンチウム粒子を含有する感光体(比較例2)に比べて、良好な感度を有し、繰り返し使用した際の帯電性も良好であり、画像欠陥のない画像形成装置、さらにはプロセスカートリッジを提供できること、およびバインダ樹脂とケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子を含有する下引き層用塗布液が分散性に優れること
【0122】
(2)チタン酸ストロンチウム粒子のケイ素含有量について、ケイ素元素Si、ストロンチウム元素Srおよびチタン元素Tiのモル比Si/(Sr+Ti)が0.02~0.10である範囲が好ましいこと(実施例1~6)、モル比が0.02未満では、繰り返し使用した際の帯電性が悪化する傾向にあること(実施例3および5)、モル比が0.10を超えると、分散性が悪化する傾向にあること(実施例4および6)、モル比が0.04~0.07である範囲が好適であること(実施例1および2)
【0123】
(3)ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子の下引き層中の含有量が60質量%未満では、感度が悪化する傾向にあること(実施例7および9)、90質量%を超えると、粒子が凝集し易く、塗布液の分散性が悪化すること(実施例8および10)
【0124】
(4)ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子をジクロロジメチルシランもしくはヘキサメチルジシラザンで表面(疎水化)処理することで、感度が若干悪化するものの、繰り返し使用した際の帯電性が向上すること(実施例1、11および12)
【0125】
(5)ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子の平均一次粒子径は、10~100nmの囲が好ましいこと、平均一次粒子径が10nm未満では、分散性が悪化し、粒子が凝集しやすく分散性が悪化する傾向にあること(実施例13および15)、平均一次粒子径が100nmを超えると、一部の大きい凝集物や沈殿物により塗布ムラがみられること(実施例14および16)
【0126】
(6)ピペラジン系化合物の由来成分を有するポリアミド樹脂にすることで、ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子の含有量が多い場合でも、塗布液の分散性が向上すること(実施例10および17)
【0127】
(7)下引き層が酸化亜鉛粒子を含有することで、ケイ素含有チタン酸ストロンチウムの粒径が小さい場合でも、塗布液の分散性が向上すること(実施例15および18)
【符号の説明】
【0128】
1 電子写真感光体
11 導電性支持体
12 電荷発生物質
13 電荷輸送物質
14 感光層(積層型感光層)
15 電荷発生層
16 電荷輸送層
17 バインダ樹脂
18 下引き層(中間層)
19 ケイ素含有チタン酸ストロンチウム粒子
【0129】
31 露光手段(半導体レーザ)
32 帯電手段(コロナ帯電器)
33 現像手段(現像器)
33a 現像ローラ
33b ケーシング
34 転写手段(転写帯電器)
35 定着手段(定着器)
35a 加熱ローラ
35b 加圧ローラ
36 クリーニング手段(クリーナ)
36a クリーニングブレード
36b 回収用ケーシング
37 分離手段
38 ハウジング
41、42 矢符
44 回転軸線
51 記録媒体(記録紙または転写紙)
100 画像形成装置(レーザプリンタ)
図1
図2