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特開2023-170631電池診断方法、電池制御方法、電池診断システム及び電池制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170631
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】電池診断方法、電池制御方法、電池診断システム及び電池制御システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20231124BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20231124BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20231124BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231124BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20231124BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20231124BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H02J7/00 Q
H01M10/44 P
H01M4/505
H01M4/525
G01R31/392
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082523
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100111121
【弁理士】
【氏名又は名称】原 拓実
(74)【代理人】
【識別番号】100149629
【弁理士】
【氏名又は名称】柘 周作
(74)【代理人】
【識別番号】100200148
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100139538
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 航介
(74)【代理人】
【識別番号】100200115
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 元勇
(74)【代理人】
【識別番号】100200137
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 良介
(72)【発明者】
【氏名】盛本 さやか
(72)【発明者】
【氏名】八木 亮介
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
5H050
【Fターム(参考)】
2G216BA21
2G216CA01
2G216CA04
2G216CB04
2G216CD03
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB01
5G503CA11
5G503GD06
5H030AA10
5H030AS08
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF51
5H050AA15
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB07
5H050GA18
5H050GA28
5H050HA18
(57)【要約】
【課題】精度良く電池の状態を診断し、劣化を制御する方法を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、正極にLiNiCoMn1-x-yを用いたリチウムイオン二次電池の電池診断方法であって、ここで、0.5≦x≦0.95、0.05≦y≦0.4であり、電池診断方法は、上限電圧及び下限電圧を定め、充放電が行われる間に電池電圧が上限電圧以上となる回数をNとし、充放電が行われる間に電池電圧が上限電圧以上となり、その後に電池電圧が下限電圧以下となる回数をMとし、N-Mの値に基づいて前記リチウムイオン二次電池のSOHを判定することにより、電池を診断する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極にLiNiCoMn1-x-yを含むリチウムイオン二次電池の電池診断方法であって、
ここで、
0.5≦x≦0.95、
0.05≦y≦0.4であり、
前記電池診断方法は、上限電圧及び下限電圧を定め、
充放電が行われる間に前記二次電池の電池電圧が前記上限電圧以上となる回数をNとし、
前記充放電が行われる間に前記電池電圧が前記上限電圧以上となり、その後に前記電池電圧が前記下限電圧以下となる回数をMとし、
N-Mの値に基づいて前記リチウムイオン二次電池のSOHを判定する電池診断方法。
【請求項2】
前記判定では、前記N-Mの値と回数Nの閾値Yとに基づいて前記リチウムイオン二次電池の前記SOHを判定する、請求項1に記載の電池診断方法。
【請求項3】
前記判定では、前記N-Mの値が設定された値より小さくなった場合に前記リチウムイオン二次電池の前記SOHが低下したと判定する、請求項1又は請求項2に記載の電池診断方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電池診断方法を含み、前記N-Mの値が設定された値以下になるように前記電池電圧を制御する電池制御方法。
【請求項5】
前記充放電が行なわれる間に前記電池電圧が前記下限電圧以下となる回数をPとし、
前記N-Mの値且つP-Mの値のそれぞれが設定された値以下になるように前記電池電圧を制御する、請求項4に記載の電池制御方法。
【請求項6】
正極にLiNiCoMn1-x-yを用いたリチウムイオン二次電池の電池診断システムであって、
ここで、
0.5≦x≦0.95、
0.05≦y≦0.4であり、
前記電池診断システムは、上限電圧及び下限電圧を設定する設定部と、
充放電が行われる間に電池電圧が前記上限電圧以上となる回数Nをカウントする第1カウント部と、
前記充放電が行われる間に前記電池電圧が前記上限電圧以上となり、その後に前記電池電圧が前記下限電圧以下となる回数Mをカウントする第2カウント部と、
N-Mの値に基づいて前記リチウムイオン二次電池の前記状態を判定する判定部と、を備える電池診断システム。
【請求項7】
前記判定部では、前記N-Mの値と回数Nの閾値Yとに基づいて前記リチウムイオン二次電池の前記状態を判定する、請求項6に記載の電池診断システム。
【請求項8】
前記判定部では、前記N-Mの値が設定された値より小さくなった場合に前記リチウムイオン二次電池の前記状態が劣化したと判定する、請求項6又は請求項7に記載の電池診断システム。
【請求項9】
請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の電池診断システムを含み、前記N-Mの値が設定された値以下になるように電池電圧を制御できる制御手段をさらに有する電池制御システム。
【請求項10】
前記充放電が行なわれる間に前記電池電圧が前記下限電圧以下となる回数Pをカウントする第3カウント部をさらに有し、
前記N-Mの値且つP-Mの値のそれぞれが設定された値以下になるように前記電池電圧を制御する、請求項9に記載の電池制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電池診断方法、電池制御方法、電池診断システム及び電池制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池は、高いエネルギー密度を持つことから、各種携帯電子機器や車両搭載用の電源として重要性が高まっている。さらに近年では、ハイブリッド自動車、ハイブリッド二輪車、電気自動車、及び電動バイクでの実用化が検討されている。
【0003】
これらの二次電池は、高いSOC(State Of Charge)まで充電され、低いSOCまで放電をされるとSOH(State Of Health)の低下が顕著となることが知られている。そこで二次電池のSOHの低下を抑制するために、SOC100%よりも小さい上限SOC設定値又はSOC0%よりも大きい下限SOC設定値を設け、上限SOC設定値又は下限SOC設定値によって決まる使用電圧で二次電池を作動させる方法がある。しかしながら、上限SOC設定値又は下限SOC設定値による使用電圧で二次電池を作動させると、二次電池のSOHの低下を過剰に見積もってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6183663号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】芳尾真幸/小沢昭弥編「リチウムイオン二次電池―材料と応用 第2版」、日刊工業新聞社、平成12年1月27日、p.2
【非特許文献2】小山昇/脇原將孝著「トコトンやさしい二次電池の本」、日刊工業新聞社、令和4年1月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これより本発明が解決しようとする課題は、精度良く電池のSOHを診断し、劣化を制御する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、正極にLiNiCoMn1-x-yを用いたリチウムイオン二次電池の電池診断方法であって、ここで、0.5≦x≦0.95、0.05≦y≦0.4であり、電池診断方法は、上限電圧及び下限電圧を定め、充放電が行われる間に電池電圧が上限電圧以上となる回数をNとし、充放電が行われる間に電池電圧が上限電圧以上となり、その後に電池電圧が下限電圧以下となる回数をMとし、N-Mの値に基づいてリチウムイオン二次電池のSOHを判定することにより、電池を診断する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】電池診断方法の流れの一例を示すフローチャート。
図2】電池電圧が上限電圧以上となったときにカウントが行われることを概略的に示すグラフ。
図3】電池電圧が上限電圧以上となった後、下限電圧以下となったときにカウントが行なわれることを概略的に示すグラフ。
図4】電池診断装置の概略的な一例を示すブロック図。
図5】第1の実施形態におけるハードウェア構成の一例を示すブロック図。
図6】電池制御方法の流れの一例を示すフローチャート。
図7】SOCと容量減少速度との関係を示すマップの一例を示す図。
図8】電池電圧が下限電圧以下となったときにカウントが行われることを概略的に示すグラフ。
図9】実施例に係る二次電池の容量維持率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、同一又は類似した機能を発揮する構成要素には全ての図面を通じて同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。なお、各図は実施形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる点があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜設計変更することができる。
【0010】
[第1の実施形態]
第1の実施形態によれば、電池診断方法は、正極にLiNiCoMn1-x-yを用いたリチウムイオン二次電池の電池診断方法であって、ここで、0.5≦x≦0.95、0.05≦y≦0.4であり、電池診断方法は、上限電圧及び下限電圧を定め、充放電が行われる間に電池電圧が上限電圧以上となる回数をNとし、充放電が行われる間に電池電圧が上限電圧以上となり、その後に電池電圧が下限電圧以下となる回数をMとし、N-Mの値に基づいて前記リチウムイオン二次電池のSOHを判定する。これにより、精度良くリチウムイオン二次電池のSOHを診断することができる。
【0011】
図1は、本実施形態に係る電池診断方法の流れの一例を示すフローチャートである。なお、本フローチャートは一例であり、必要とされる処理結果を得ることができれば、処理の順序当は限られるものではない。また、各処理結果は、第1記憶部に逐次記憶されて、各構成要素は当該第1記憶部を参照して処理結果を取得してもよい。以降のフローチャートも同様である。
【0012】
先ず、電池診断装置をリチウムイオン二次電池に取り付ける。S1において、リチウムイオン二次電池の上限電圧A、下限電圧B及び値Xを設定することができる。値Xは、リチウムイオン二次電池のSOHを判定するために用いられる。
【0013】
上述した上限電圧を定める方法は、電池内の正極活物質を同定し、例えば、その同定した正極活物質の文献から得られる値などから上限電圧を定める。電池内の正極活物質の同定については、先ず、電池を完全に放電状態とする。次いで、電池を不活性雰囲気内で解体して正極を取り出し、適切な前処理を施し機器分析により特定することができる。例えば、電池から取り出した正極を電池に用いられていた電解質に含まれる有機溶媒と同成分の有機溶媒や、アセトンなどの溶媒を用いて洗浄して、25℃環境下で真空乾燥することで、分析用の正極が得られる。この分析用の正極に含まれる活物質の組成分析は、例えば、SEA6000VX(日立ハイテクサイエンス)を用い、蛍光X線(X―ray Fluorescence:XRF)分析による同定分析を行う。管電圧は50kV、管電流は1000μA、フィルターはPb用フィルター、雰囲気は大気、測定時間は100sとして測定を行う。前述した測定条件により、Ni、Co、Mnのピーク強度から比率を算出し、正極に含まれる活物質の組成を同定できる。最後に、同定された活物質の文献から得られる値より、上限電圧Aを定める。前述した文献は、例えば、非特許文献1や非特許文献2を用いる。文献から得られる値から定める電圧値の誤差は、±0.1Vとする。
【0014】
また、下限電圧を定める方法は、上述した上限電圧Aの設定方法と同様であり、電池から負極を取り出して前処理を行い、上記のXRF分析の測定方法により、負極に含まれる活物質の組成を同定し、その同定された活物質の文献から得られる値より下限電圧Bを定める。ここで、例えば負極活物質については次のように定める。XRF分析において、ピークが検出されない場合は負極活物質はカーボンであるとし、Tiのみのピークが得られた場合は負極活物質はリチウムチタン酸化物であるとし、Ti及びNbのピークが得られた場合は負極活物質はチタン含有複合酸化物として文献から得られた値より下限電圧Bを設定する。
【0015】
活物質を同定する他の手段として、ICP発光分光分析(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy:ICP-AES)、X線光電子分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)オージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:AES)、XRF分析、二次イオン質量分析(Secondary Ion Mass Spectrometry:SIMS)、グロー放電質量分析(Glow Discharge―Mass Spectrometry:GD-MS)などの手段により知ることもできる。
【0016】
複数種類の活物質が電極に用いられている場合、例えば、正極活物質においてLiNiCoMn1-x-y(xとyの範囲は、0.5≦x≦0.95、0.05≦y≦0.4である。以下、NCMと省略する。)の他にLCOやNCAが含まれている場合、NCMの質量比が正極活物質の質量全体の8割以上であることを確認し、文献値より上限電圧を定める。
【0017】
正極活物質におけるNCMの質量比は次のように算出する。例えば、NCMに加えてLCOが正極活物質に含まれているとき、上述したXRF分析の結果より、正極活物質にはCoが多く含まれているとわかる。Ni及びMnのピーク強度より、NCMの組成式がわかるため、全体のCoの質量とNCMに使われているCoの質量の差から、LCOの質量がわかる。以上より、正極活物質におけるNCMの質量比を算出することができる。
【0018】
また、LCOに代えてNCAが正極活物質に用いられている場合、XRF分析のAlのピーク強度よりNCAの質量がわかるため、同様に正極活物質におけるNCMの質量比を算出することができる。
【0019】
値Xを定める方法は例えば、先ず、上述した活物質の同定方法から、診断するリチウムイオン二次電池の両電極の活物質を同定する。次に、容量維持率のデータを保有する第2記憶部から、前述した両電極からなるリチウムイオン二次電池における容量維持率のデータを読み込む。ここで、前述した容量維持率のデータは、容量維持率の経時変化を表すデータである。そして、そのデータにおけるリチウムイオン二次電池の容量維持率が適宜設定した閾値以下となることを抑制するように値Xを定める。定める容量維持率の閾値は、診断するリチウムイオン二次電池の利用目的によって変更することができる。容量維持率のデータは予め第1記憶部が備えていてもよいし、都度クラウド上などからダウンロードするなどしてデータを得てもよい。予め第1記憶部が備えている場合、第2記憶部は備えていなくとも構わない。後述する回数Nの閾値Y及び回数Pの閾値Wも値Xと同様にして定める。従って、回数Nの閾値Y及び回数Pの閾値Wを定める方法は、上記で説明した設方法のXの部分をY又はWと置き換えた記述である。
【0020】
S2では、電池電圧が設定された上限電圧以上となったときにカウントを行う。図2のように、例えば、図1のS1において上限電圧をAと設定した場合に、S2では、実線で表される電池電圧が時間軸に沿って推移し、破線で表される上限電圧A以上となったときにカウントを行う。ここで図2における△は、電池電圧が上限電圧A以上となったときのカウントを表す。S2でカウントする電池電圧が上限電圧以上となった回数をNとする。
【0021】
S3では、電池電圧が上限電圧以上となった後、下限電圧以下となるときにカウントを行う。図3のように、例えば、電池診断装置を二次電池に取り付け、時間軸に沿って電池電圧が推移し、上限電圧A以上となったときにS2でカウントを行い、その後に下限電圧B以下となるときにM=1としてS3でカウントを行う。図3において、M=2からM=3までの間に電池電圧が下限電圧B以下となる時間があるが、この例では、S3においてこれらのカウントを行わない。これは、電池電圧が上限電圧A以上となった後に下限電圧B以下となっていないためである。S3でカウントする電池電圧が上限電圧以上となった後に下限電圧以下となる回数をMとする。
【0022】
S4では、回数N及びMを記憶する。S5では、S4において記憶された回数NとMから、値Nから値Mを引いた値(N-Mの値)を算出する。加えてS4では、値X、後述する回数Nの閾値Y及び回数Pの閾値Wを設定するために用いるデータを記憶してもよい。この際、本実施形態に係る電池診断方法は、前述したデータを読み込むS4を備えていてもよい。
【0023】
S6では、前述で算出されたN-Mの値に基づいてリチウムイオン二次電池のSOHを判定する。具体的には、算出されたN-Mの値とS1で定めた値Xとを比較する。当該比較に基づき、リチウムイオン二次電池のSOHを判定する。
【0024】
加えて、前述したS6では、N-Mの値と回数Nの閾値Yとに基づいてリチウムイオン二次電池のSOHを判定する。
【0025】
ここで、N-Mの値が例えば0の場合を考える。このとき、N=Mであることから、電池電圧が上限電圧以上となり、その後に下限電圧以下となる推移が繰り返される場合と、電池電圧をVとしたときにB<V<Aの範囲で電池電圧が推移する場合とがある。前者は、電池電圧が上限電圧以上となり、その後に下限電圧以下となることで電池のSOHが低下する。これは、電池電圧が上限電圧以上となることで、正極活物質であるニッケルコバルトマンガン酸化物(NCM)表面の構造が変化し、その後電池電圧が下限電圧以下となった際に、前述した表面構造層のLiイオン拡散が悪くなるため、電解質との副反応によって被膜が成長するからである。また、このようなサイクルを繰り返すことで、SOCずれにより正極が更に高電圧にさらされるため前述した構造変化層の成長が進行する。電池電圧をVとしたときにB<V<Aの範囲で電池電圧が推移する場合は、電池電圧Vが上限電圧Aより小さく下限電圧Bより大きい範囲で推移しているため、前述したNCM表面での被膜の進行は小さく、SOHの低下も少ないと考えられる。
【0026】
さらに加えて、前述したS6では、N-Mの値が設定された値より小さくなった場合にリチウムイオン二次電池のSOHが低下したと判定する。N-Mの値が値Xより大きい場合(S7のYES)は、S8において電池のSOHは低下していないと判定する。一方、N-Mの値が値Xより大きくない場合、S9においてリチウムイオン二次電池のSOHを低下と判定する。
【0027】
前述したN=Mであり且つ電池電圧が上限電圧以上となり、その後に下限電圧以下となる推移が繰り返される場合を電池のSOHが低下と判定し、B<V<Aの範囲で電池電圧が推移する場合をSOHが低下していないと判定するため、S2において、カウントする回数Nが0の場合は、リチウムイオン二次電池のSOHは低下していないと判定される。また、S1において、回数Nの閾値Yを更に設定し、S7において、N≧Yであり、且つ、N-M<XであるときにN-Mの値と回数Nの閾値Yとに基づいてリチウムイオン二次電池のSOHを低下と判定するようにしてもよい。
【0028】
S8において、リチウムイオン二次電池のSOHを判定後、S10で結果を出力し、終了する。
【0029】
本実施形態に係る電池診断方法を装置として実施する場合、システムとして実施する場合を以下に説明する。また、前述した電池診断方法と重複する部分の説明は省略する。
【0030】
先ず、係る電池診断装置の概略構成の一例を示すブロック図を、図4を用いて説明する。係る電池診断装置は、正極にLiNiCoMn1-x-yを用いたリチウムイオン二次電池に対する電池診断装置であって、ここで、0.5≦x≦0.95、0.05≦y≦0.4であり、電池診断装置は、上限電圧及び下限電圧を設定する設定部と、充放電が行なわれる間に電池電圧が設定された上限電圧以上となる回数Nをカウントする第1カウント部と、充放電が行なわれる間に電池電圧が設定された上限電圧以上となり、その後に電池電圧が定められた下限電圧以下となる回数Mをカウントする第2カウント部と、N-Mの値に基づいてリチウムイオン二次電池のSOHを判定する判定部と、を備える。
【0031】
電池診断装置2は、設定部21と、第1カウント部22と、第2カウント部23と、第1記憶部24と、算出部25と、判定部26と、出力部27と、を備える。
【0032】
二次電池1は、電池診断装置2により、SOHが診断される。なお、以降の説明において、特に断りがなければ、「二次電池」という用語には、二次電池を用いた組電池、電池パック、電池モジュール、単電池が含まれるものとする。
【0033】
二次電池は、例えば、携帯電話、ノートパソコン、電気自転車、電気とガソリンの両方を使用するハイブリット自動車、ドローンといった機器等に搭載された二次電池でもよい。また、例えば、個人住宅、ビルディング、工場等の建物ごとに設置される定置用蓄電池でもよい。発電システムと連携した蓄電池、又は系統連系した二次電池でもよい。
【0034】
電池診断装置2は、二次電池1のSOHを診断して判定する装置である。診断されるSOHは、例えば、SOCや電池電圧を診断することが考えられる。診断された値をそのまま二次電池1のSOHとしてもよいし、上述したように、カウントした回数N、M、Pにより算出された値が設定された値より大きいか小さいかで電池のSOHが「低下していない」であるか「低下」であるか判定してもよい。
【0035】
なお、本実施形態では、二次電池1と電池診断装置2とを分離して記載したが、制御回路等にて実現された電池診断装置2を二次電池1に備え付けることにより、電池診断装置2を備えた一つの二次電池2(蓄電装置)にしてもよい。
【0036】
設定部21は、上限電圧、下限電圧、値X、閾値Y及び閾値Wを設定する。前述した値の設定方法は上述した通りであるため省略する。
【0037】
第1カウント部22は、電池電圧が設定部21によって設定された上限電圧以上となったときにカウントを行う。第2カウント部23は、電池電圧が上限電圧以上となった後、下限電圧以下となるときにカウントを行う。第1記憶部24は、前述した第1カウント部22及び第2カウント部23の行ったカウントの回数を記憶する。算出部25は、第1記憶部24に記憶された回数N、M、及びPを参照してN-M及びP-Mを算出する。判定部26では、前述したN-Mの値と設定部21によって設定された値Xとの比較により、リチウムイオン二次電池のSOHを判定する。
【0038】
また判定部26では、N-Mの値と回数Nの閾値Yとに基づいてリチウムイオン二次電池のSOHを判定する。加えて、判定部26では、N-Mの値が設定された値より小さくなった場合にリチウムイオン二次電池のSOHが低下したと判定する。出力部27は、前述した判定部26におけるリチウムイオン二次電池のSOHの判定結果を出力する。
【0039】
出力部27は、電池診断装置としての診断結果と、当該診断結果の電池のSOHが低下しているか否かの判定結果と、を出力する。出力部27の出力方法は、特に限られるものではない。ファイルでも、電子メールでも、画像でも、音でも、光でもよい。例えば、出力部27を介して、電池診断装置2がディスプレイ、スピーカー等と電気的に接続され、他の装置に処理結果が出力されてもよい。出力方法及び内容は、予め定めておいてもよいし、都度選択してもよい。
【0040】
なお、上記で説明した電池診断装置の構成は一例であり、上記の構成に限られるものではない。例えば、例えば、通信又は電気信号により、必要なデータの送受信ができるようにして、電池診断装置2の一部の構成要素を外部装置として、電池診断装置2と分離してもよい。例えば、上記では、電池診断装置2が、SOHの診断と電池のSOHが低下していないか否かの判定の両方を実行するが、SOHの診断を行う装置と、電池のSOHを判定する装置と、が別々の装置であってもよい。
【0041】
次に、電池診断システムについて説明する。電池診断システムについて先述した電池診断方法及び電池診断装置と重複する部分については省略する。
【0042】
係る電池診断システムは、正極にLiNiCoMn1-x-yを用いたリチウムイオン二次電池に対する電池診断システムであって、ここで、0.5≦x≦0.95、0.05≦y≦0.4であり、上限電圧及び下限電圧を設定する設定部と、充放電が行われる間に電池電圧が上限電圧以上となる回数Nをカウントする第1カウント部と、充放電が行われる間に電池電圧が上限電圧以上となり、その後に電池電圧が下限電圧以下となる回数Mをカウントする第2カウント部と、N-Mの値に基づいてリチウムイオン二次電池のSOHを判定する判定部と、を備える。
【0043】
これら各第1カウント部などの電池診断に用いる手段を備えた装置どうしは電気的、物理的に接続されて電池診断システムとなる。ひとつの装置で電池診断に用いる手段をひとつ備えていてもよいし、複数備えていてもよい。
【0044】
第1カウント部は、電池電圧が設定された上限電圧以上となったときのカウント回数Nを第1記憶部に記憶させる。第2カウント部は、電池電圧が上限電圧以上となった後、下限電圧以下となるときのカウントの回数Mを同様に第1記憶部に記憶させる。
【0045】
第1記憶部は、上述した回数N及びMの記憶に加え、設定部で設定した上限電圧及び下限電圧、N-Mの値と比較する値X及び回数Nの閾値Yを記憶していてもよい。さらに、第1記憶部は、第2記憶部からリチウムイオン二次電池の容量維持率のデータをダウンロードし、記憶することができる。または、第1記憶部が予め容量維持率のデータを記憶していてもよい。
【0046】
判定部では、N-Mの値と回数Nの閾値Yとに基づいてリチウムイオン二次電池のSOHを判定する。加えて、判定部では、N-Mの値が設定された値より小さくなった場合にリチウムイオン二次電池のSOHが低下したと判定する。
【0047】
次に電池診断プログラムについて説明する。電池診断プログラムについて先述した電池診断方法、電池診断装置及び電池診断システムと重複する部分については省略する。
【0048】
本実施形態に係る電池診断プログラムは、正極にLiNiCoMn1-x-yを用いたリチウムイオン二次電池に対するコンピュータに実行させるための電池診断プログラムであって、ここで、0.5≦x≦0.95、0.05≦y≦0.4であり、電池診断プログラムは、上限電圧及び下限電圧を設定する電圧設定ステップと、充放電が行われる間に電池電圧が上限電圧以上となる回数Nをカウントする第1カウントステップと、充放電が行われる間に電池電圧が上限電圧以上となり、その後に電池電圧が下限電圧以下となる回数Mをカウントする第2カウントステップと、N-Mの値でリチウムイオン二次電池のSOHを判定する判定ステップと、を有するコンピュータに実行させるための電池診断プログラムである。
【0049】
上記に説明した実施形態における各処理は、専用の回路により実現してもよいし、ソフトウェア(プログラム)を用いて実現してもよい。ソフトウェア(プログラム)を用いる場合は、上記に説明した実施形態は、例えば、汎用のコンピュータ装置を基本ハードウェアとして用い、コンピュータ装置に搭載された中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)等のプロセッサにプログラムを実行させることにより、実現することが可能である。
【0050】
図5は、本発明の一実施形態におけるハードウェア構成の一例を示すブロック図である。電池診断装置2は、プロセッサ51、主記憶装置52、補助記憶装置53、ネットワークインタフェース54、デバイスインタフェース55を備え、これらがバス56を介して接続されたコンピュータ装置5として実現できる。
【0051】
プロセッサ51が、補助記憶装置53からプログラムを読み出して、主記憶装置52に展開して、実行することで、電池診断装置2の各構成要素の各機能を実現することができる。
【0052】
プロセッサ51は、コンピュータの制御装置及び演算装置を含む電子回路である。プロセッサ51は、例えば、汎用目的プロセッサ、中央処理装置(CPU)、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、コントローラ、マイクロコントローラ、状態マシン、特定用途向け集積回路、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、プログラム可能論理回路(PLD)、及びこれらの組合せを用いることができる。
【0053】
本実施形態における電池診断装置2は、各装置で実行されるプログラムをコンピュータ装置5に予めインストールすることで実現してもよい。あるいは、CD-ROM等の記憶媒体に記憶されたプログラム、又はネットワークを介して配布されたプログラムをコンピュータ装置5に適宜インストールすることにより、実現されてもよい。
【0054】
主記憶装置52は、プロセッサ51が実行する命令、及び各種データ等を一時的に記憶するメモリ装置であり、DRAM等の揮発性メモリでも、MRAM等の不揮発性メモリでもよい。補助記憶装置53は、プログラムやデータ等を永続的に記憶する記憶装置であり、例えば、フラッシュメモリ等がある。第1記憶部24は、主記憶装置52で実現されてもよいし、補助記憶装置53で実現されてもよい。
【0055】
ネットワークインタフェース54は、無線又は有線により、通信ネットワーク6に接続するためのインタフェースである。ネットワークインタフェース54より、通信ネットワーク6を介して、コンピュータ装置5と外部装置7Aとを接続することができる。
【0056】
デバイスインタフェース55は、外部装置7Bと直接接続するUSB等のインタフェースである。つまり、コンピュータ装置5と外部装置7との接続は、ネットワークを介してでもよいし、直接でもよい。外部装置7(7A及び7B)は、電池診断装置2の外部の装置、電池診断装置2の内部の装置、外部記憶媒体、及びストレージ装置のいずれでもよい。なお、第1記憶部24が外部装置であってもよい。
【0057】
なお、外部装置7は入力装置でも出力装置でもよい。入力装置は、キーボード、マウス、タッチパネル等のデバイスを備え、これらのデバイスにより入力された情報をコンピュータ装置5に与える。入力装置からの信号はプロセッサ51に出力される。
【0058】
コンピュータ装置5は、プロセッサ51等を実装している半導体集積回路等の専用のハードウェアにて構成されてもよい。専用のハードウェアは、RAM、ROM等の記憶装置との組み合わせで構成されてもよい。コンピュータ装置5は蓄電池1の内部に組み込まれていてもよい。
【0059】
前述した判定ステップでは、N-Mの値と回数Nの閾値Yとに基づいてリチウムイオン二次電池のSOHを判定する。加えて、前述した判定ステップでは、N-Mの値が設定された値より小さくなった場合にリチウムイオン二次電池のSOHが低下したと判定する。
【0060】
本実施形態の電池診断方法が用いられるリチウムイオン二次電池は、例えば以下のような構成の二次電池である。
【0061】
<電極>
電極は、集電体を含み得る。活物質含有層は、集電体の片方の面又は表裏両方の面に担持され得る。活物質含有層は、活物質に加え、導電剤及び結着剤をさらに含むことができる。
【0062】
正極の場合、正極活物質として、NCMが挙げられる。NCMの単体だけではなく、NCMとLiCoO(LCO)、または、NCMとLiNiCoAlO(NCA)などのようなNCMと2元系の活物質を用いてもよい。
【0063】
負極の場合、負極活物質として、スピネル構造を有するリチウムチタン酸化物(例えば、Li4+vTi12で表され0≦v≦3である化合物)、カーボン、チタン含有複合酸化物などが挙げられる。チタン含有複合酸化物は、例えば、ATiMNb2-y7±z(0≦x≦5、0≦y≦0.5、-0.3≦z≦0.3、MはTi及びNb以外の少なくとも一種類の金属、AはLiまたはNa)、及びLi2+aNaTi14(0≦a≦6)からなる群より選ばれる一般式で表される少なくとも1つの化合物である。
【0064】
導電剤の例には、気相成長カーボン繊維(Vapor Grown Carbon Fiber;VGCF)、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ及びカーボンナノファイバーのような炭素質物が含まれる。これらの1つを導電剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて導電剤として用いてもよい。また、導電剤を省略することもできる。或いは、導電剤を用いる代わりに、活物質粒子の表面に、炭素コートや電子導電性無機材料コートを施してもよい。また、導電剤を用いると共に活物質表面に炭素や導電性材料を被覆することで、活物質含有層の集電性能を向上させることもできる。
【0065】
結着剤は、分散された活物質の間隙を埋め、また、活物質と集電体を結着させるために配合される。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoro ethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、スチレンブタジェンゴム(styrene-butadiene rubber;SBR)、ポリアクリル酸化合物、イミド化合物、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose;CMC)、及びCMCの塩が含まれる。これらの1つを結着剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて結着剤として用いてもよい。
【0066】
<電解質>
電解質としては、例えば液状非水電解質又はゲル状非水電解質を用いることができる。液状非水電解質は、溶質としての電解質塩を有機溶媒に溶解することにより調製される。
【0067】
電解質塩の例には、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、及びビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SOF);LiFSI)のようなリチウム塩、及び、これらの混合物が含まれる。
【0068】
有機溶媒の例には、プロピレンカーボネート(propylene carbonate;PC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate;EC)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate;VC)のような環状カーボネート;ジエチルカーボネート(diethyl carbonate;DEC)、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate;DMC)、メチルエチルカーボネート(methyl ethyl carbonate;MEC)のような鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran;THF)、2メチルテトラヒドロフラン(2-methyl tetrahydrofuran;2MeTHF)、ジオキソラン(dioxolane;DOX)のような環状エーテル;ジメトキシエタン(dimethoxy ethane;DME)、ジエトキシエタン(diethoxy ethane;DEE)のような鎖状エーテル;γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone;GBL)、アセトニトリル(acetonitrile;AN)、及びスルホラン(sulfolane;SL)が含まれる。これらの有機溶媒は、単独で、又は混合溶媒として用いることができる。
【0069】
ゲル状非水電解質は、液状非水電解質と高分子材料とを複合化することにより調製される。高分子材料の例には、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile;PAN)、ポリエチレンオキサイド(polyethylene oxide;PEO)、又はこれらの混合物が含まれる。
【0070】
或いは、非水電解質としては、液状非水電解質及びゲル状非水電解質の他に、リチウムイオンを含有した常温溶融塩(イオン性融体)、高分子固体電解質、及び無機固体電解質等を用いてもよい。
【0071】
或いは、非水電解質の代わりに、液状水系電解質又はゲル状水系電解質を電解質として用いることができる。液状水系電解質は、溶質として、例えば、上記電解質塩を水系溶媒に溶解することにより調製される。ゲル状水系電解質は、液状水系電解質と上記高分子材料とを複合化することにより調製される。水系溶媒としては、水を含む溶液を用い得る。水を含む溶液とは、純水であってもよく、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。
【0072】
<セパレータ>
セパレータは、正極と負極を電気的に絶縁できれば特に問わない。例えば、ポリエチレン(polyethylene;PE)、ポリプロピレン(polypropylene;PP)、セルロース、若しくはポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)を含む多孔質フィルム、又は合成樹脂製不織布から形成される。
【0073】
以上より、本実施形態に係る電池診断方法は、正極にLiNiCoMn1-x-yを用いたリチウムイオン二次電池の電池診断方法であって、ここで、0.5≦x≦0.95、0.05≦y≦0.4であり、上限電圧及び下限電圧を定め、充放電が行われる間に電池電圧が上限電圧以上となる回数をNとし、充放電が行われる間に電池電圧が上限電圧以上となり、その後に電池電圧が下限電圧以下となる回数をMとし、N-Mの値に基づいて前記リチウムイオン二次電池のSOHを判定する。これにより、精度良くリチウムイオン二次電池のSOHを診断することができる。
【0074】
[第2の実施形態]
第2の実施形態では、電池制御方法について説明する。第2の実施形態に係る電池制御方法は、第1の実施形態に記載した電池診断方法を含み、N-Mの値が設定された値以下になるように電池電圧を制御する。第1の実施形態と重複する内容は本実施形態では省略する。
【0075】
図6は、電池制御方法の流れの一例を示すフローチャートである。S107までは、第1の実施形態で説明したS7までと同様であるため省略する。N-Mの値が値Xより大きくない場合(S107)、S109では、電圧操作の必要性有りと判定する。この電圧操作の必要性とは、劣化している電池状態を制御するために、下限電圧を上げる又は上限電圧を下げる操作が必要であるか否かということである。その後、N-Mの値が定められた値X以下になるように、S110では、下限電圧を上げる又は上限電圧を下げる操作を行う。そして、再度、S102におけるカウントに戻る。
【0076】
対して、N-Mの値が値Xより大きい場合は、S108では電圧操作の必要性無しと判定する。これは、S107時点での電池の容量維持率に対して、電池電圧は妥当なサイクルをしているため、S110のような下限電圧を上げる又は上限電圧を下げるような電圧操作の必要性が無いからである。その後、S111において、判定結果を出力し、電池制御を終了する。
【0077】
S107において、電圧操作の必要性有りと判定した後にS110で下限電圧を上げる又は上限電圧を下げる操作は、SOCと容量減少速度との関係に基づいて制御することができる。具体的には、図7に示すように、上限SOCと下限SOCの両方に近い範囲、即ち、図7のマップの左上に位置するほど、容量減少速度は大きくなる。ここで図7は、SOCと容量減少速度との関係を示すマップの一例を示す図である。縦軸は上限SOCを表し、横軸は下限SOCを表しており、色の濃淡は二次電池の容量減少速度を表している。この相関関係を利用することで、上述したN-Mの値と値Xの比較と容量減少速度とから、二次電池の劣化を把握し、制御することができる。
【0078】
上述において、S101では、リチウムイオン二次電池の上限電圧A、下限電圧B、値X及び回数Nの閾値Yを定めているが、加えて回数Pの閾値Wを定めてもよい。閾値Wは後述する回数Pを用いたP-Mの値との比較に用いられる。閾値Wは値Xと同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0079】
ここで、本実施形態に係る電池制御方法は、充放電が行なわれる間に電池電圧が下限電圧以下となる回数をPとし、N-Mの値且つP-Mの値のそれぞれが設定された値以下になるように電池電圧を制御する。回数Pについて、以下で説明する。
【0080】
図8は、電池電圧が下限電圧以下となったときにカウントが行なわれることを概略的に示すグラフである。ここで、図8における□(白抜きの四角)は、電池電圧が下限電圧B以下となったときのカウントを表す。前述したカウントは第3カウント部が行なう。電池電圧が下限電圧以下となった回数をPとし、カウントする。
【0081】
S106では、N-Mの値と値X、且つP-Mの値と閾値Wを比較し、N-M<X且つP-M<Wのときに電圧操作の必要性無しと判定する(図6のS108)。対して、N-M<X且つP-M<Wでないとき、電圧操作の必要性有りと判定され(図6のS109)、上述した方法によりN-M<X且つP-M<Wとなるように電池電圧の制御が行なわれる(図6のS110)。
【0082】
S101では、上限電圧、下限電圧、値X、閾値Y及び閾値Wを定める。上限電圧、下限電圧及び値Xの設定方法は、第1の実施形態で記載した方法と同様であるため省略する。また、閾値Y及び閾値Wの設定方法は、値Xの設定方法と同様であり、容量維持率のデータから同様に設定する。
【0083】
本実施形態に係る電池制御方法を装置として実施する場合、システムとして実施する場合及びプログラムとして実施する場合を以下に説明する。
【0084】
先ず、本実施形態に係る電池制御装置について説明する。本実施形態に係る電池制御装置は、第1の実施形態で記載した電池診断装置を有し、N-Mの値が設定された値以下になるように電池電圧を制御できる制御手段をさらに有する。また、上述したように、本実施形態に係る電池診断装置は、充放電が行なわれる間に電池電圧が下限電圧以下となる回数Pをカウントする第3カウント部をさらに有し、N-Mの値且つP-Mの値のそれぞれが設定された値以下になるように電池電圧を制御する。
【0085】
電池制御装置は、図4における電池診断装置2を含むことができる。その際、判定部26は、値XとN-Mの値の比較から電池電圧操作の必要性の有無を判定する。
【0086】
電池制御装置は、判定部26が電圧操作の必要性有りと判定した場合、設定部21が電圧操作を行うが、設定部21とは別に制御部を設けてもよい。制御部は、前述した電圧操作に加えて、新たな値X、回数Nの閾値Y及び回数Pの閾値Wを設定し、電池を制御してもよい。その他の構成については、第1の実施形態で説明したため省略する。
【0087】
次に、電池制御システムについて説明する。電池制御システムについて先述した電池診断方法、電池制御方法及び電池診断装置と重複する部分については省略する。係る電池制御システムは、第1の実施形態に記載した電池診断システムを含み、N-Mの値が設定された値以下になるように電池電圧を制御できる制御手段をさらに有する。また、電池制御システムは、充放電が行なわれる間に電池電圧が下限電圧以下となる回数Pをカウントする第3カウント部をさらに有し、N-Mの値且つP-Mの値のそれぞれが設定された値以下になるように電池電圧を制御する。
【0088】
電池制御システムが電池制御装置を備えた場合に電池制御装置は、上述した第1カウント部などの電池制御に用いる手段に加えて、第3カウント部、第1記憶部、算出部、出力部、制御部を備えていてもよい。これら各第1カウント部などの電池制御に用いる手段を備えた装置どうしは電気的、物理的に接続されて電池制御システムとなる。ひとつの装置で電池制御に用いる手段をひとつ備えていてもよいし、複数備えていてもよい。
【0089】
制御部は、下限電圧を上げる又は上限電圧を下げるような電圧操作に加えて、新たな値X、回数Nの閾値Y及び回数Pの閾値Wを設定し、電池を制御してもよい。或いは、前述した制御部の操作は設定部が行なってもよい。
【0090】
判定部は、電圧操作の必要性があると判定した場合、電圧操作を設定部に指示する。判定部は前述した指示に加えて、新たに値X、閾値Y及び閾値Wの再設定を設定部に指示してもよい。例えば、電圧操作の必要性無しと判定できない場合に、前述したそれぞれの値を再設定すると判定し、設定部に指示してもよい。再設定の判定の基準も適宜定めてよい。
【0091】
出力部は電池診断装置としての診断結果と、電池制御装置としての電圧操作の必要性の有無の結果と、を出力する。例えば、電池診断装置により、電池が劣化していると判定された場合、出力部は、電池が劣化しているというその結果と電圧操作の必要性が有るという電圧操作の必要性の有無の結果とを出力する。
【0092】
次に、本実施形態に係る電池制御プログラムは、第1の実施形態に記載の電池診断プログラムを含み、N-Mの値が設定された値以下になるように電池電圧を制御する。また、電池制御プログラムは、充放電が行なわれる間に電池電圧が下限電圧以下となる回数Pをカウントする第3カウントステップをさらに有し、N-Mの値且つP-Mの値のそれぞれが設定された値以下になるように電池電圧を制御する。
【0093】
係る電池制御プログラムは、本実施形態に係る電池制御方法をプログラムとして実施したものであり、第1の実施形態内で説明した電池診断プログラム及び本実施形態における前述した記述と重複するため説明を省く。
【0094】
以上より、本実施形態に係る電池制御方法は、第1の実施形態に記載した電池診断方法を含み、N-Mの値が設定された値以下になるように電池電圧を制御する。これによって、電池の劣化を制御することができる。
【0095】
[実施例]
(実施例1)
<電極作製>
正極材料には、LiNi0.8Co0.1Mn0.1(NCM811)、カーボン(以下Cと略す)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を使用した。電極組成はNCM811:C:PVdF = 100:5:2(重量比)とした。これらからスラリーを作製し、厚さ12 mmのAl箔からなる集電体に対して両面に塗布した。その後、スラリー塗膜を乾燥し、密度3g/ccとなるよう圧延することで正極を作製した。
【0096】
負極材料には、スピネル型チタン酸リチウムLiTi12(LTO)、C、PVdFを使用した。電極組成はLTO:C:PVdF = 100:4:2(重量比)とした。これらからスラリーを作製し、厚さ12 mmのAl箔からなる集電体に対して両面に塗布した。その後スラリー塗膜を乾燥し、密度2g/ccとなるよう圧延することで負極を作製した。
【0097】
<ラミネートセル組み立て>
正極及び負極を打ち抜き機を用いて打ち抜いた。次いで、厚さ14 mmの紙セパレーターを用い、正極5枚、負極6枚を負極が外側となるように交互にスタッキングし、注液用の1辺を残し、各辺をヒートシールした。
【0098】
ラミネートセルの設計としては、充電/放電電圧 [V] = 2.75/1.5 となっている。また設計容量は956 mAhとなる。
【0099】
その後、120℃、真空で12時間セル乾燥した後、Arグローブボックス内で、開いている辺から電解質(PC+DEC,LiPF)を5.0g注入した。
【0100】
初回充電として、1C, 2.1V(SOC≒20%) CCCV, 1/20 cut offを行い、SOC20%、55℃、48時間エージングを実施した。エージング終了後、ガス抜き処理を行った。
【0101】
実施例2及び比較例1の二次電池は、実施例1と同様の方法によって作製された二次電池であり、それぞれ、サイクル試験時の条件を表1の通りに変更した実施例である。従って、実施例2及び比較例1は上記と同様に作製された。
【0102】
<上限電圧及び下限電圧の設定方法>
電池内の電極活物質については、電池をアルゴン雰囲気下のグローブボックス中で解体して両電極を取り出した。次に、電池から取り出した両電極を電解質と同成分の有機溶媒であるEMCで洗浄して、25℃環境下で真空乾燥することで、分析用の両電極を得た。電極活物質の組成は、SEA6000VX(日立ハイテクサイエンス)を用い、XRF分析による同定分析を行った。管電圧は50kV、管電流は1000μA、フィルターはPb用フィルター、雰囲気は大気、測定時間は100sとして測定を行った。前述した測定条件により、Ni、Co、Mn、Tiのピーク強度から比率を算出し、電極活物質の組成を同定した。最後に、同定された電極活物質の文献値(非特許文献1)から、上限電圧及び下限電圧を設定した。
【0103】
<サイクル試験>
上記の記載の通り作製した実施例1-2及び比較例1の二次電池を65℃環境下、3C/3Cでそれぞれ、SOC0-70%(1.5V-2.6V)、SOC20-100%(2.1V-2.8V,)、SOC0-100%(1.5-2.8V)の条件でサイクル試験を実施した。充電カット条件はCV、1/20Cとし、放電カット条件はCCとした。また、200サイクル毎に25℃で容量確認(1C/0.2C)を実施した。容量維持率の算出方法としては、容量維持率[%]=(サイクル後の容量)/(サイクル開始前の容量)×100という式を用いて、200サイクル毎での25℃の容量確認で得られた容量について、容量維持率の推移を算出した。図9は、実施例1-2及び比較例1のそれぞれの容量維持率を示している。また表1に実施例1-2及び比較例1の二次電池の負極に用いられた活物質、サイクル試験の条件、1000サイクル後の容量維持率のシミュレーション結果の値、及び1000サイクル後の容量維持率の実測値を示す。
【0104】
【表1】
【0105】
また、実施例1-2及び比較例1における第1カウント部、第2カウント部及び第3カウント部がそれぞれカウントする回数N、M、Pを同様に表1に示す。
【0106】
【表2】
【0107】
表1及び図9において、実施例1-2に係る二次電池の容量維持率は比較例1より高いとわかる。
【0108】
第1カウント部がカウントする回数Nの閾値Yと設定部が設定した値Xとを100としたとき、実施例1では、N-M<Xであるが、N≧Yではないため、電池のSOHは実施例1と同様に低下していないと判定される。また、実施例2では、N≧Y且つN-M>Xであるため、電池のSOHは低下していないと判定される。対して、比較例1では、N-M<Xであり且つN≧Yではないため、電池のSOHは低下と判定される。
【0109】
本実施形態に電池診断方法は、正極にLiNiCoMn1-x-yを用いたリチウムイオン二次電池に対し、上限電圧及び下限電圧を定め、充放電が行われる間に電池電圧が上限電圧以上となる回数をNとし、充放電が行われる間に電池電圧が上限電圧以上となり、その後に電池電圧が下限電圧以下となる回数をMとし、N-Mの値に基づいて前記リチウムイオン二次電池のSOHを判定することにより、電池を診断する。これによって、より精度良く電池の状態を診断し、劣化を制御することができる。
【0110】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0111】
1…二次電池、2…電池診断装置、21…設定部、22…第1カウント部、23…第2カウント部、24…第1記憶部、25…算出部、26…判定部、27…出力部、5…コンピュータ装置、51…プロセッサ、52…主記憶装置、53…補助記憶装置、54…ネットワークインタフェース、55…デバイスインタフェース、56…バス、6…通信ネットワーク、7(7A、7B)…外部装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9