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特開2023-170672状態判定装置、状態判定制御システム、状態判定方法及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170672
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】状態判定装置、状態判定制御システム、状態判定方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
G05B23/02 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082580
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】豊田 大輔
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA12
3C223EB02
3C223EB03
3C223FF04
3C223FF17
3C223FF35
3C223GG01
3C223GG03
3C223HH02
(57)【要約】
【課題】DD-PID制御用のデータベース及び運転制御用のセンサを用いて、産業機械の状態を判定することができる状態判定装置を提供する。
【解決手段】産業機械の状態を判定する状態判定装置は、産業機械の運転状況を示す運転状況データと、当該運転状況にある産業機械を制御するための制御パラメータと、産業機械の状態を示す状態値とを予め対応付けて記憶したデータベースと、産業機械の運転状況を観測して得られる運転状況データを取得する取得部と、処理部とを備え、処理部は、取得部にて取得した運転状況データと、データベースが記憶する運転状況データ及び状態値とに基づいて、産業機械の状態を判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業機械の状態を判定する状態判定装置であって、
前記産業機械の運転状況を示す運転状況データと、該運転状況にある前記産業機械を制御するための制御パラメータと、前記産業機械の状態を示す状態値とを予め対応付けて記憶したデータベースと、
前記産業機械の運転状況を観測して得られる運転状況データを取得する取得部と、
処理部と
を備え、
前記処理部は、
前記取得部にて取得した運転状況データと、前記データベースが記憶する前記運転状況データ及び前記状態値とに基づいて、前記産業機械の状態を判定する
状態判定装置。
【請求項2】
前記処理部は、
前記データベースが記憶する前記状態値をロジット変換し、
ロジット変換された前記状態値を用いて、前記取得部にて取得した運転状況データに対応する状態値を算出し、
算出された状態値を逆ロジット変換する
請求項1に記載の状態判定装置。
【請求項3】
前記処理部は、
前記データベースが記憶する前記状態値を1未満の正の値に正規化してロジット変換し、
算出された状態値を逆正規化して逆ロジット変換する
請求項2に記載の状態判定装置。
【請求項4】
前記処理部は、
前記取得部にて取得した運転状況データが、前記データベースが記憶する前記運転状況データのうち、前記状態値が最大の運転状況データの近傍にある場合、又は前記状態値が最小の運転状況データの近傍にある場合、前記データベースが記憶する前記状態値をロジット変換する
請求項2に記載の状態判定装置。
【請求項5】
前記処理部は、
前記データベースが記憶する前記運転状況データ及び前記状態値のうち、前記状態値が異なり、かつ前記運転状況データの統計距離が所定値未満の前記運転状況データ及び前記状態値を除外し、除外後の前記運転状況データ及び前記状態値に基づいて、前記取得部にて取得した運転状況データが、状態値最大の運転状況データ又は状態値最小の運転状況データの近傍にあるデータであるかを判定する
請求項4に記載の状態判定装置。
【請求項6】
前記処理部は、
前記データベースが記憶する前記運転状況データのうち、前記取得部にて取得した運転状況データと統計距離が近い所定数の前記運転状況データに対応付けられた前記状態値を、該統計距離に基づく重みを用いて加重平均することによって、前記産業機械の状態値を算出する
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の状態判定装置。
【請求項7】
前記処理部は、
前記取得部にて取得した運転状況データに対応する前記制御パラメータを前記データベースから読み出し、読み出された前記制御パラメータに基づいて前記産業機械を制御する
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の状態判定装置。
【請求項8】
前記産業機械は成形機を含む
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の状態判定装置。
【請求項9】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の状態判定装置と、
産業機械と
を備え、
前記状態判定装置は、
前記データベースが記憶する前記運転状況データ及び前記制御パラメータを前記産業機械へ送信する通信部を備え、
前記産業機械は、
前記状態判定装置から送信された前記運転状況データ及び前記制御パラメータを受信し、受信した前記運転状況データ及び前記制御パラメータに基づいて動作する
状態判定制御システム。
【請求項10】
産業機械の状態を判定する状態判定方法であって、
前記産業機械の運転状況を示す運転状況データと、該運転状況にある前記産業機械を制御するための制御パラメータと、前記産業機械の状態を示す状態値とを対応付けて記憶したデータベースを用意し、
前記産業機械の運転状況を観測して得られる運転状況データを取得し、
取得した運転状況データと、前記データベースが記憶する前記運転状況データ及び前記状態値とに基づいて、前記産業機械の状態を判定する
状態判定方法。
【請求項11】
産業機械の運転状況を示す運転状況データと、該運転状況にある前記産業機械を制御するための制御パラメータと、前記産業機械の状態を示す状態値とを対応付けて記憶したデータベースにアクセス可能なコンピュータに、前記産業機械の状態を判定させる処理を実行させるためのコンピュータプログラムであって、
前記産業機械の運転状況を観測して得られる運転状況データを取得し、
取得した運転状況データと、前記データベースが記憶する前記運転状況データ及び前記状態値とに基づいて、前記産業機械の状態を判定する
処理を前記コンピュータに実行させるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、状態判定装置、状態判定制御システム、状態判定方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械を最適な状態で操業するためには、産業機械の異常の有無等、その状態を把握する必要がある。通常、監視対象部位にセンサが取り付けられ、産業機械の状態判定が行われる。例えば、特許文献1には、射出成形機の可動部に設けられた加速度センサにより振動を監視し、可動部の異常を検知する監視方法が開示されている。
【0003】
他方、様々な動作環境でも良好な制御結果を得ることができる制御方法としてデータベース駆動型(Database-Driven:DD)PID制御が知られている。DD-PID制御においては、産業機械の運転状況データ及びPIDパラメータを格納したデータベースを参照して適応的にPIDパラメータが調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-50480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように産業機械の状態を判定するためには、状態監視用のセンサを設置する必要があり、コストが増大するという問題がある。
【0006】
本開示の目的は、DD-PID制御用のデータベース及び運転制御用のセンサを用いて、産業機械の状態を判定することができる状態判定装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係る状態判定装置は、産業機械の状態を判定する状態判定装置であって、前記産業機械の運転状況を示す運転状況データと、該運転状況にある前記産業機械を制御するための制御パラメータと、前記産業機械の状態を示す状態値とを予め対応付けて記憶したデータベースと、前記産業機械の運転状況を観測して得られる運転状況データを取得する取得部と、処理部とを備え、前記処理部は、前記取得部にて取得した運転状況データと、前記データベースが記憶する前記運転状況データ及び前記状態値とに基づいて、前記産業機械の状態を判定する。
【0008】
本開示の一側面に係る状態判定制御システムは、上記状態判定装置と、産業機械とを備え、前記状態判定装置は、前記データベースが記憶する前記運転状況データ及び前記制御パラメータを前記産業機械へ送信する通信部を備え、前記産業機械は、前記状態判定装置から送信された前記運転状況データ及び前記制御パラメータを受信し、受信した前記運転状況データ及び前記制御パラメータに基づいて動作する。
【0009】
本開示の一側面に係る状態判定方法は、産業機械の状態を判定する状態判定方法であって、前記産業機械の運転状況を示す運転状況データと、該運転状況にある前記産業機械を制御するための制御パラメータと、前記産業機械の状態を示す状態値とを対応付けて記憶したデータベースを用意し、前記産業機械の運転状況を観測して得られる運転状況データを取得し、取得した運転状況データと、前記データベースが記憶する前記運転状況データ及び前記状態値とに基づいて、前記産業機械の状態を判定する。
【0010】
本開示の一側面に係るコンピュータプログラムは、産業機械の運転状況を示す運転状況データと、該運転状況にある前記産業機械を制御するための制御パラメータと、前記産業機械の状態を示す状態値とを対応付けて記憶したデータベースにアクセス可能なコンピュータに、前記産業機械の状態を判定させる処理を実行させるためのコンピュータプログラムであって、前記産業機械の運転状況を観測して得られる運転状況データを取得し、取得した運転状況データと、前記データベースが記憶する前記運転状況データ及び前記状態値とに基づいて、前記産業機械の状態を判定する処理を前記コンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、DD-PID制御用のデータベース及び運転制御用のセンサを用いて、産業機械の状態を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態1に係る状態判定制御システムの構成例を示す模式図である。
図2】本実施形態1に係る制御装置の構成例を示すブロック図である。
図3】本実施形態1に係る状態判定装置の構成例を示すブロック図である。
図4】本実施形態1に係るデータベースのレコードレイアウトの一例を示す概念図である。
図5】実施形態1に係る状態判定に係る処理手順を示すフローチャートである。
図6】共通データの分離処理を概念的に示す説明図である。
図7】産業機械の一例であるハマースタインモデルの静特性を示すグラフである。
図8】ハマースタインモデルのDD-PID制御による制御結果を示すグラフである。
図9】ハマースタインモデルにおける状態判定処理に使用される各種パラメータを示す図表である。
図10】ハマースタインモデルにおける状態判定結果を示す図表である。
図11】産業機械の一例であるスライドクランク機構を有するステージ移動装置を示す斜視図である。
図12】ステージ移動装置のDD-PID制御による制御結果を示すグラフである。
図13】スライドクランク機構における状態判定処理に使用される各種パラメータを示す図表である。
図14】スライドクランク機構における状態判定結果を示す図表である。
図15】産業機械の一例として成形機を備えた状態判定制御システムの構成例を示す模式図である。
図16】実施形態2に係る状態判定装置の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の実施形態に係る状態判定制御システム等の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0014】
(実施形態1)
図1は、本実施形態1に係る状態判定制御システムの構成例を示す模式図である。本実施形態1に係る状態判定制御システムは、通信ネットワークを介して接続された産業機械1と、状態判定装置2とを備える。状態判定制御システムは、産業機械1のDD-DID制御を行う制御システムであると共に、産業機械1の状態判定を行う状態判定システムとして機能するものである。
【0015】
状態判定装置2は、産業機械1のDD-PID制御及び状態判定に兼用されるデータベース20を有する。状態判定装置2は、産業機械1の状態に応じたDD-PID制御用のデータセットをデータベース20から読み出し、産業機械1へ送信する。産業機械1は、制御対象機械10と、当該制御対象機械10の動作を制御する制御装置11とを有し、制御装置11は状態判定装置2から送信された制御用のデータセットを受信し、制御用データベース(制御用DB)1aに格納する。制御装置11は、制御用データベース1aを用いて、制御対象機械10の動作をDD-PID制御する。一方で、制御装置11は制御対象機械10の現在の運転状況を示す運転状況データを状態判定装置2へ送信する。状態判定装置2は、産業機械1から送信された運転状況データを受信し、受信した運転状況データと、データベース20の情報とに基づいて、制御対象機械10の状態を示す状態値を算出する処理を実行する。
【0016】
<産業機械1>
産業機械1を構成する制御対象機械10は、製造装置、工作機械、産業用ロボット、試験・分析装置、搬送機器、動力伝動装置、製鉄機械、洗浄機器等であり、その他、工場及び事業所で使用される任意の機械が含まれる。
【0017】
制御対象機械10には、産業機械1の運転状況を示す情報であって、産業機械1の動作を制御するために必要な物理量を検出する一又は複数のセンサ10aが設けられている。物理量には、例えば電圧、電流、温度、湿度、トルク、圧力等の力、可動部の速度、加速度、回転角、位置、流体の流量、速度等が含まれる。センサ10aは、例えば、電流センサ、電圧センサ、温度センサ、湿度センサ、トルクセンサ、圧力センサ、速度センサ、加速度センサ、回転角度センサ、測位センサ、流量センサ、流速計等である。センサ10aは物理量を示す測定信号を制御装置11へ出力する。測定信号には、動作している制御対象機械10の出力を示す装置出力値y(t)、出力以外の物理量であって、センサ10aを用いて観測される観測量x(t)が含まれる。
なお、観測量x(t)は必須の情報では無く、測定信号に含まれなくてもよい。つまり、制御装置11は、観測量を用いずに制御対象機械10の動作を制御するように構成してもよい。
また、装置出力値y(t)及び観測量x(t)を同じセンサ10aを用いて検出してもよいし、異なるセンサ10aを用いて検出してもよい。
【0018】
図2は、本実施形態1に係る制御装置11の構成例を示すブロック図である。制御装置11は、制御対象機械10の動作を制御するコンピュータであり、ハードウェア構成として制御部11a、記憶部11b、入出力部11c、通信部11d、操作部11e及び表示部11fを備える。なお、制御装置11は、ネットワークに接続されたサーバ装置であっても良い。また、制御装置11は、複数台のコンピュータで構成し分散処理する構成でもよいし、1台のサーバ内に設けられた複数の仮想マシンによって実現されていてもよいし、クラウドサーバを用いて実現されていてもよい。
【0019】
制御部11aは、プロセッサであり、CPU(Central Processing Unit)、マルチコアCPU等の演算回路、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の内部記憶装置、I/O端子、計時部等を有する。制御部11aには、記憶部11b、入出力部11c、通信部11d、操作部11e及び表示部11fが接続されている。
【0020】
記憶部11bは、ハードディスク、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリである。記憶部11bは、制御対象機械10の動作をDD-PID制御するために必要な制御用データベース1a、制御の目標値r(t)などを記憶する。制御用データベース1aは、制御対象機械10のDD-PID制御に用いられる複数の制御用データセットを格納している。
【0021】
制御用データセットは、情報ベクトルである運転状況データφ(i)と、PID制御ゲインである制御パラメータθ(i)とからなり、下記式(1)~(3)で表される。
【0022】
【数1】
【0023】
制御用データベース1aは、状態判定装置2から提供される情報である。制御部11aは、状態判定装置2から送信された制御用データセットを通信部11dにて受信し、受信した制御用データセットを制御用データベース1aに格納する。いいかえると、制御部11aは、受信した制御用データセットを記憶部11bに記憶する。
【0024】
なお、上記の通り、観測量x(t)は必ずしも必要ではないが、運転状況を情報ベクトルとして適切に表現したい場合には有用である。
【0025】
入出力部11cは、信号を出力する出力回路と、信号が入力される入力回路とを含む。出力回路は、例えば、制御部11aの制御に従って制御対象機械10の動作を制御するための制御信号を制御対象機械10へ出力する。制御信号は、制御対象機械10に入力される制御入力値u(t)を示す信号である。入力回路は、センサ10aから出力された測定信号が入力され、入力された測定信号を測定データとして制御部11aに与える。測定データは、動作した制御対象機械10の出力を示す装置出力値y(t)、センサ10aを用いて観測できる装置出力以外の観測量x(t)を含む。
【0026】
制御装置11の制御部11aは、制御対象機械10の動作中、装置出力の目標値r(t),r(t-1)…と、装置出力値y(t),y(t-1)…、過去の処理ステップで用いた制御入力値u(t-1),u(t-2)…、観測量x(t),観測量x(t)…を用いて表される運転状況データφ(t)を求め、記憶部11bに記憶する。制御部11aは、運転状況データφ(t)をキーにして、制御用データベース1aから制御パラメータθ(t)を読み出す。制御部11aは、読み出された制御パラメータθ(t)に基づいて、制御入力値u(t)を算出し、算出された制御入力値u(t)に基づく制御信号を制御対象機械10へ出力することによって、制御対象機械10の動作を制御する。
【0027】
通信部11dは、所定の通信プロトコルに従って情報を送受信する通信回路である。通信部11dは、通信ネットワークを介して状態判定装置2に接続されており、制御部11aは通信部11dを介して状態判定装置2との間で各種情報を送受信することができる。具体的には、制御部11aは、記憶部11bが記憶する複数の運転状況データφ(t)を通信部11dにて状態判定装置2へ送信する。現在の産業機械1の状態を判定する場合、制御部11aは、記憶部11bが記憶する直近の複数の運転状況データφ(t)を状態判定装置2へ送信する。
また、通信部11dは、適宜のタイミングで状態判定装置2から送信された制御用データセットを受信し、受信した制御用データセットを制御用データベース1aに格納する。
【0028】
操作部11eは、産業機械1を操作するための入力装置である。操作部11eは、例えば、制御の目標値r(t)、制御対象機械10のその他の動作条件などを設定し、制御対象機械10の動作を操作するためのインタフェースである。操作部11eは、例えば、操作ボタン、操作キー、表示部11fに設けられたタッチパネルであり、操作内容を示すデータを制御部11aに与える。
【0029】
表示部11fは、液晶表示パネル、有機EL表示パネルなどの表示装置である。表示部11fは、産業機械1の操作に必要な操作画面を表示し、また制御対象機械10の状態を表示する。
【0030】
<状態判定装置2>
図3は、本実施形態1に係る状態判定装置2の構成例を示すブロック図である。状態判定装置2は、コンピュータであり、処理部21と、記憶部22と通信部(取得部)23とを備える。記憶部22及び通信部23は、処理部21に接続されている。
【0031】
処理部21は、プロセッサであり、CPU、マルチコアCPU、GPU(Graphics Processing Unit)、GPGPU(General-purpose computing on graphics processing units)、TPU(Tensor Processing Unit)、ASIC、FPGA、NPU(Neural Processing Unit)等の演算処理回路、ROM、RAM等の内部記憶装置、I/O端子等を有する。処理部21は、後述の記憶部22が記憶するコンピュータプログラムPを実行することにより、本実施形態1に係る状態判定装置2として機能し、本実施形態1に係る状態判定方法を実施する。なお、状態判定装置2の各機能部は、ソフトウェア的に実現してもよいし、一部又は全部をハードウェア的に実現してもよい。
【0032】
記憶部22は、ハードディスク、EEPROM、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリである。記憶部22は、産業機械1の状態を判定するためのコンピュータプログラムPと、DD-PID制御及び状態判定を行うためのデータベース20とを記憶している。
【0033】
コンピュータプログラムP及びデータベース20は、記録媒体3にコンピュータ読み取り可能に記録されている態様でもよい。記憶部22は、図示しない読出装置によって記録媒体3から読み出されたコンピュータプログラムP及びデータベース20を記憶する。記録媒体3はフラッシュメモリ等の半導体メモリである。また、記録媒体3はCD(Compact Disc)-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)-ROM、BD(Blu-ray(登録商標)Disc)等の光ディスクでもよい。更に、記録媒体3は、フレキシブルディスク、ハードディスク等の磁気ディスク、磁気光ディスク等であってもよい。更にまた、図示しない通信網に接続されている図示しない外部サーバからコンピュータプログラムP及びデータベース20をダウンロードし、記憶部22に記憶させてもよい。
【0034】
通信部23は、イーサネット(登録商標)等の所定の通信プロトコルに従って情報を送受信する通信回路である。通信部23は、通信ネットワークを介して制御装置11に接続されており、処理部21は通信部23を介して制御装置11との間で各種情報を送受信することができる。例えば、通信部23は、制御装置11から送信された運転状況データφ(t)を受信する。また、通信部23は、産業機械1の状態に応じた運転状況データφ(i)及び制御パラメータθ(i)を対応付けた制御用データセットを制御装置11へ送信する。
【0035】
図4は、本実施形態1に係るデータベース20のレコードレイアウトの一例を示す概念図である。データベース20は、産業機械1のDD-PID制御と、産業機械1の状態判定に必要な複数のデータセットを記憶する。当該データセットは、産業機械1の複数の運転状況を示す運転状況データφ(i)と、当該運転状況にある前記産業機械1を制御するための制御パラメータθ(i)と、産業機械1の状態を示す状態値z(i)とからなる。
【0036】
処理部21は、データベース20から産業機械1の状態等に応じた制御用データセット[φ(i),θ(i)]を読み出し、読み出された制御用データセットを産業機械1の制御装置11へ送信する。
また、処理部21は、データベース20に格納されたデータセットの内、とくに運転状況データφ(i)と、状態値z(i)とからなる複数の状態評価用データセットを用いて、産業機械1の状態を数値的に判定する処理を実行する。状態評価用データセットは、下記式(4)で表される。
【0037】
【数2】
【0038】
<状態判定処理>
本実施形態に係る状態判定装置2は、主にDD-PID制御に用いられるために予め用意されたデータセットを用いて、産業機械1の状態を数値的に判定する処理を実行する。具体的には、処理部21は、産業機械1から取得した運転状況データφ(t)の近傍にある複数のデータセット[φ(i),z(i)]を、データベース20から抽出し、抽出したデータセットに基づいて、状態値z(t)を算出する処理を実行する。
ところで、状態値の算出処理は、データベース20に予め格納された限られたデータセットを用いて行われるため、状態値には上限及び下限がある。産業機械1の状態が当該上限及び下限付近にある場合、算出される状態値z(t)の誤差が大きくなる問題がある。そこで、ロジット変換によって上下限付近における状態判定の精度向上を図った。
【0039】
図5は、実施形態1に係る状態判定に係る処理手順を示すフローチャートである。状態判定装置2の処理部21は、産業機械1から送信された複数の運転状況データφ(t)を取得する(ステップS11)。複数の運転状況データφ(t)は複数時点で測定して得られた情報である。例えば、製造装置等の産業機械1の場合、1サイクルタイムの間に測定して得られた複数の運転状況データφ(t)を状態判定装置2へ送信し、処理部21は、当該複数の運転状況データφ(t)を取得する。
【0040】
次いで、処理部21は、データベース20が記憶するデータセットに対して、共通データの分離処理を実行する(ステップS12)。ステップS12は、産業機械1の状態が、データベース20に格納されているデータセットの状態値z(i)の上下限付近にあるか否か、産業機械1の状態レベルを判定するための処理である。
【0041】
図6は、共通データの分離処理を概念的に示す説明図である。左図のデータベース(z1)は、状態値z(i)がz1のデータセットを表している。同様に、データベース(z2)、データベース(z3)は、状態値z(i)がz2及びz3のデータセットをそれぞれ表している。状態レベルの判定は、ステップS11で取得した運転状況データφ(t)が、いずれの状態値のデータセットに属するかを判定することによって行われる。データベース20に格納されたデータセットは、主にDD-PID制御用のデータであるため、状態値z(i)が異なるにもかかわらず、運転状況データφ(i)が近似するデータセットも存在する。そこで、本実施形態では、産業機械1の状態レベルの判定精度を向上させるために、データベース20に格納されたデータセットのうち、状態値z(i)が異なり、かつ運転状況データφ(i)が近似のデータセットを除外する処理を実行する。図6中、中央のデータベースは、状態レベルの判定精度を悪化させる可能性のあるデータセットを除外した状態を示している。なお、右図は、状態レベルの判定に使用しないものとして除外されたデータセットを模式的に示したものである。
【0042】
より具体的には、処理部21は、第1の状態値を有する各データセットの運転状況データφ1と、他の第2の状態値を有する各データセットの運転状況データφ2との統計距離dを算出する。例えば、処理部21は、下記式(5)で表される重み付きL1ノルム(マンハッタン距離)により、運転状況データφ1、φ2の統計距離を算出する。下記式(5)に示す統計距離は一例である。
【0043】
【数3】
【0044】
そして、処理部21は、統計距離が所定値dcよりも近い運転状況データを有するデータセットを、データベース20のデータセットから除外する。
また、処理部21は、上記除外されたデータセットの運転状況データ(i)との統計距離が所定値dcよりも近い運転状況データφ(t)を、取得した複数の運転状況データφ(t)から除外する処理を実行するとよい。
以下、データベース20に対して共通データ分離処理が行われた後のデータセットを、状態レベル評価用データセットと呼ぶ。また、取得した複数の運転状況データφ(t)に対して共通データ分離処理が行われた後の運転状況データを、評価対象運転状況データと呼ぶ。
【0045】
次いで、処理部21は、産業機械1の状態レベルの判定を行う(ステップS13)。状態レベルは、後述するロジット変換を行うべきか否かを判定するための指標である。例えば、処理部21は、評価対象運転状況データと、各状態値の状態レベル評価用データセットの運転状況データとの統計距離を算出し、統計距離が最小の状態レベル評価用データセットの状態値を、産業機械1の状態レベルとして特定する。
【0046】
より具体的には、処理部21は、下記式(6)で表されるデータ群同士の最近傍距離の積算値Sを算出し、積算値Sが最も小さい運転状況データが属する状態レベル評価用データセットの状態値を、産業機械1の状態レベルとして特定する。下記式(6)による分類処理は一例であり、公知の統計的分類処理を適用して産業機械1の状態レベルを特定してもよい。
【0047】
【数4】
【0048】
次いで、処理部21は、産業機械1の状態値を算出する処理を実行する。状態値の算出は、評価用データセットでは無く、データベース20に登録されているデータセットを用いて行う。
【0049】
処理部21は、データベース20に登録されている各データセットの状態値z(i)を、数値処理の利便性のため、1未満の正の値に正規化する(ステップS14)。例えば、処理部21は、下記式(7)により状態値を正規化する。
【0050】
【数5】
【0051】
次いで、処理部21は、産業機械1の状態が、データベース20に格納されているデータセットの状態値z(i)の上下限付近にあるか否かを判定する(ステップS15)。産業機械1の状態はステップS13で算出した状態レベルで表される。状態値z(i)の上限付近及び下限付近の定義は特に限定されるものでは無く、状態値の算出精度を担保できるものであれば任意の方法で上下限付近を定めることができる。
例えば、データベース20に格納されているデータセットの状態値z(i)の上限値及び下限値そのものを上限付近及び下限付近と定義してもよい。また、処理部21は、上限側から所定番目の状態値、下限側から所定番目の状態値をそれぞれ閾値として、上下限付近にあるか否かを判定してもよい。更に、処理部21は、上限値よりも所定数小さな値、下限値よりも所定数大きな値を閾値として、上下限付近にあるか否かを判定してもよい。所定数は、例えば、上限値と下限値の差分の大きさの所定割合の値である。
【0052】
産業機械1の状態が、上下限付近であると判定した場合(ステップS15:YES)、処理部21は、ステップS14で正規化された状態値zをロジット変換する(ステップS16)。ロジット変換は下記式(8)で表される。ロジット変換によって、正規化された状態値zの下限付近の値(0付近)は-∞に広げられ、正規化された状態値zの上限付近の値(1付近)は+∞に広げられる。また、逆ロジット変換は下記式(9)で表される。
【0053】
【数6】
【0054】
【数7】
【0055】
次いで、処理部21は、取得した運転状況データと、データベース20のデータセットとに基づいて、状態値を算出する(ステップS17)。具体的には、処理部21は、取得した運転状況データと、データベース20に格納されているデータセットとの統計距離を求める。統計距離は例えば上記式(5)で表される。次に処理部21は、統計距離が小さいものから所定数k個のデータセットを近傍データとして下記式(10)及び(11)により、時点tにおける運転状況データφ(t)の状態値を算出する。
【0056】
【数8】
【0057】
なお、表記を簡便にするために、状態値をz(t)と表記しているが、ステップS16でロジット変換されている場合、ロジット変換された状態値を用いて、運転状況データφ(t)の状態値を求める。重み係数は、データ間の統計距離が小さい程、大きく、データ間の統計距離が大きい程、小さな値である。
そして、処理部21は、一定動作の運転結果によって得られた運転状況データφ(t)、つまり、取得した複数の運転状況データφ(t)の状態値をそれぞれ求め、状態値の平均値を算出する。以下、当該平均値を単に状態値と呼ぶ。
【0058】
次いで、処理部21は、ステップS17で算出した状態値(平均値)を逆ロジット変換する(ステップS18)。
【0059】
ステップS15において、産業機器の状態が状態値の上下限付近で無いと判定した場合(ステップS15:NO)、処理部21は、ロジット変換を行わずに、複数の運転状況データφ(t)に基づく状態値の平均値を算出する(ステップS19)。状態値の平均値は、ステップS17同様、上記式(10)、(11)により求められる。
【0060】
ステップS18又はステップS19の処理を終えた処理部21は、状態値を正規化前の値に逆変換する(ステップS20)。処理部21は、下記式(12)を用いて、状態値を正規化前の値に逆変換することができる。
【0061】
【数9】
【0062】
次いで、処理部21は、ステップS20で逆変換された状態値を産業機械1の制御装置11へ送信する(ステップS21)。産業機械1の制御装置11は、状態判定装置2から送信された状態値を受信し、例えば表示部11fに表示する。なお、状態値を制御装置11へ送信する処理は、状態値の出力方法の一例であり、状態判定装置2は、産業機械1の状態を示す状態値を他の通信端末へ送信する等して出力するように構成してもよい。
次に、提案法の有効性を数値シミュレーションにより検証する。
【0063】
<産業機械1の第1の例:ハマースタインモデル>
制御対象機械10の第1の例として、ハマースタイン(Hammerstein)モデルを運転回数Lごとにシステムが変化するように拡張したモデルを考える。ハマースタインモデルは下記式(13)で表される。
【0064】
【数10】
【0065】
図7は、産業機械1の一例であるハマースタインモデルの静特性を示すグラフである。横軸は制御入力値uを示し、縦軸は装置出力値yを示している。実線は、L=0のときのモデルの静特性、破線はL=100のときのモデルの静特性を示している。ハマースタインモデルは、低入出力域では似通った特性を持っている。
【0066】
図8は、ハマースタインモデルのDD-PID制御による制御結果を示すグラフである。図8Aは、装置出力値y(t)の時間変化を示し、図8Bは制御入力値u(t)の時間変化を示している。
【0067】
図8に示す制御結果を用いて、状態値の一例である運転回数Lの状態判定を行う。データベース20は、0から100まで10刻みで設定された運転回数(状態値)L=0,10,…100それぞれの運転状況データφ(i)及び制御パラメータθ(i)を格納している。目標値r(t)はLと同じ値である。データベース20は、産業機械1の状態値である運転回数を算出するのに十分な量のデータセットを格納している。
【0068】
図9は、ハマースタインモデルにおける状態判定処理に使用される各種パラメータを示す図表である。L=1,10,90,100を状態値の上下限付近であるとし、図9の図表に示すパラメータ(ny,nu,nx,dc,zmin,zmax,zmm,N,k)を用いて、運転回数Lを算出した。
【0069】
図10は、ハマースタインモデルにおける状態判定結果を示す図表である。上段は運転回数の真の値、中段は状態レベル、下段は本実施形態の状態判定方法によって算出された運転回数(状態値)を示している。データベース20に含まれていない条件についても、概ね良好な運転回数(状態値)の値が算出されている。
【0070】
<産業機械1の第2の例:スライドクランク機構>
制御対象機械10の第2の例として、スライドクランク機構を有するステージ移動装置を考える。
【0071】
図11は、産業機械1の一例であるスライドクランク機構を有するステージ移動装置を示す斜視図である。ステージ移動装置は、ベースに設けられた2本のガイド10bに沿って移動するステージ10cと、図示しないモータによって回転駆動する駆動ギア10dと、従動ギア10eと、伝導ベルト10f及びリンク機構10gを備える。伝導ベルト10fは、モータの駆動力を駆動ギア10dから従動ギア10eへ伝達するベルトである。リンク機構10gは、従動ギア10eの回転運動をステージ10cの往復スライド運動に変換して伝える機構である。
【0072】
ここで駆動軸の回転角速度を装置出力値y(t)、駆動軸トルクを制御入力値u(t)、従動軸の絶対角度を観測量x(t)、サンプリング時間をTs=0.001(秒)とする。
【0073】
図12は、ステージ移動装置のDD-PID制御による制御結果を示すグラフである。図12Aは、装置出力値y(t)の時間変化を示し、図12Bは制御入力値u(t)の時間変化を示している。
【0074】
図12に示す制御結果を用いて、状態値の一例であるステージ10cの重量Ms(g)の状態判定を行う。データベース20は、0から100まで10刻みで設定された重量Ms(状態値)Ms=0,200…1000それぞれの運転状況データφ(i)及び制御パラメータθ(i)を格納している。データベース20は、観測量はx(0)=0におけるデータセットを格納している。目標値r(t)は所定のトルク値である。データベース20は、産業機械1の状態値であるステージ10cの重量Msを算出するのに十分な量のデータセットを格納している。
【0075】
図13は、スライドクランク機構における状態判定処理に使用される各種パラメータを示す図表である。Ms=0,1000を状態値の上下限付近であるとし、図13の図表に示すパラメータ(ny,nu,nx,dc,zmin,zmax,zmm,N,k)を用いて、重量Msを算出した。評価対象である制御結果はx(0)=1(deg)において得られた運転状況データである。
【0076】
図14は、スライドクランク機構における状態判定結果を示す図表である。上段はステージ10cの重量の真の値、中段は状態レベル、下段は本実施形態の状態判定方法によって算出されたステージ10cの重量(状態値)を示している。データベース20に含まれていない条件についても、概ね良好な運転回数(状態値)の値が算出されている。なお、Ms=100,200,800の結果は誤差が大きいが、データベース20により多くのデータセットを記憶させれば、重量の判定精度を向上させることができると考えられる。
【0077】
<産業機械1の第3の例:成形機>
図15は、産業機械1の一例として成形機を備えた状態判定制御システムの構成例を示す模式図である。ここではシミュレーション結果では無く、状態判定制御システムの構成などを説明する。
【0078】
産業機械1は、例えば、射出成形機、押出機等の成形機である。図15は、産業機械1の一例として射出成形機を図示している。産業機械1の一例である射出成形機は、制御装置11と、金型15を型締めする型締装置16と、成形材料を溶融して射出する射出装置17と、射出成形機の運転状況に係る物理量を検出するセンサ10aとを備える。
【0079】
型締装置16はベッド上に固定された固定盤と、ベッド上をスライドする可動盤とを備える。固定盤と可動盤にはそれぞれ固定金型と、可動金型が設けられる。型締装置16は、可動盤を移動させることによって金型15を開閉させる型締機構を備える。型締機構は、例えばトグル機構から構成されている。型締装置16は型開閉用サーボモータを備え、型締機構は、型開閉用サーボモータが出力するトルクによって動作する。型開閉用サーボモータはサーボアンプから供給される電力によって駆動する。
【0080】
射出装置17は、基台上に設けられている。射出装置17は、先端部にノズルを有する加熱シリンダ17aと、当該加熱シリンダ17a内に周方向と軸方向とに回転可能に配されたスクリュ17bとを備える。加熱シリンダ17aの内部又は外周には、成形材料を溶融させるためのヒータが設けられている。スクリュ17bは駆動装置17cによって回転方向と軸方向とに駆動する。
【0081】
駆動装置17cは、スクリュ17bを軸方向に駆動するための射出用サーボモータ及びボールねじ機構を備える。また、駆動装置17cは、スクリュ17bを回転駆動させるためのスクリュ回転用サーボモータを備える。射出用サーボモータ及びスクリュ回転用サーボモータは、それぞれサーボアンプから供給される電力によって駆動する。
【0082】
加熱シリンダ17aの後端部近傍には、成形材料が投入されるホッパ17dが設けられている。
【0083】
センサ10aは、産業機械1の運転状況を示す情報であって、産業機械1の動作を制御するために必要な物理量を検出する回路である。射出成形機の動作を制御するために必要なセンサ10aとしては、例えば、サーボアンプに流れる電流を検出する電流センサ、モータの回転速度を検出する回転速度センサ、ヒータ温度又はヒータ電流を検出する電流センサ、温度センサ等が挙げられる。センサ10aは物理量を示す測定信号を制御装置11へ出力する。
【0084】
制御装置11は、制御部11aの制御に従って射出成形機の動作を制御するための制御信号を射出成形機へ出力する。例えば、入出力部11cの出力回路は、射出用サーボモータ、スクリュ回転用サーボモータ、型開閉用サーボモータの動作を制御するための制御信号をサーボアンプへ出力する。当該制御信号は、例えばサーボモータのトルク値又は電流値を示す。また、出力回路は、加熱シリンダ17aのヒータ温度を指定する制御信号を出力する。当該制御信号は、例えばヒータに印加する電圧の値を示す。
入出力部11cの入力回路には、センサ10aから出力された測定信号、例えばサーボモータの電流値、回転速度、ヒータ電流、ヒータ温度等を示す測定信号が入力される。
【0085】
射出成形機におけるDD-PID制御の対象は、例えば型締装置16用のサーボモータ、ヒータである。
サーボモータの制御に係るデータセットを構成する運転状況データφは、モータ速度の目標値r、モータ速度の計測値(装置出力値y)、サーボモータの電流値又はトルク値(制御入力値u)によって表される。制御パラメータθは、モータ速度をPID制御するためのパラメータである。状態値zは型の重さである。
ヒータ温度の制御に係わるデータセットを構成する運転状況データφは、ヒータ温度の目標値r、ヒータ温度の計測値(装置出力値y)、ヒータ電流値(制御入力値u)によって表される。制御パラメータθは、ヒータ温度をPID制御するためのパラメータである。状態値zは、樹脂の種類又は特性を示す数値である。
その他、射出成形機の可動部の異常度合いを状態値zとして、射出成形機の状態を数値的に判定することもできる。
【0086】
なお、ここでは射出成形機を説明したが、言うまでも無く押出機、その他の成形機にも本実施形態1の技術を適用することができる。押出機の場合も、処理部21は、押出機のスクリュを駆動するサーボモータ、シリンダのヒータ温度をDD-PID制御するデータセットを用いて、押出機の状態を数値的に判定することができる。
【0087】
本実施形態1に係る状態判定制御システム等によれば、DD-PID制御用のデータベース20及び運転制御用のセンサ10aを用いて、産業機械1の状態を判定することができる。
本実施形態1によれば、DD-PID制御用のデータベースと、状態判定用のデータベースとを共通化することができる。処理部21は、DD-PID制御用のデータセットを利用して、産業機械1の状態を数値的に判定することができる。また、処理部21は、運転状況データφ(i)及び制御パラメータθ(i)を対応付けた制御用データセットを産業機械1へ送信することによって、当該産業機械1の動作をDD-PID制御させることができる。
【0088】
産業機械1の状態値が上下限付近にある場合、データベース20に格納されているデータセットの状態値を1未満の正の値に正規化し、ロジット変換することによって、状態値の算出精度を向上させることができる。
【0089】
産業機械1の状態値が上下限付近に無い場合、データベース20に格納されているデータセットの状態値を1未満の正の値に正規化し、ロジット変換を行うこと無く、状態値を算出することによって、状態値の算出精度を向上させることができる。状態値が上下限付近に無い場合にロジット変換を行うと、状態値の算出精度がかえって悪くなる。
【0090】
産業機械1の状態値が上下限付近にあるか否かを判定する際、共通データの分離処理を実行することによって、状態レベルの分類精度を向上させ、状態値の算出精度を向上させることができる。
【0091】
データベース20に格納されているデータセットの内、計測された運転状況データに統計距離が近い所定数のデータセットを用いることによって、計算コストを削減することができる。また、統計距離に基づく重みを用いて当該データセットの状態値を加重平均することによって、状態値の算出精度を向上させることができる。
【0092】
なお、予めデータベース20を用いて産業機械1の状態判定及びDD-PID制御を行う例を説明したが、データベース20を適宜更新してもよい。例えば、DD-PID制御により動作した産業機械1の状態値zを、点検等により観測できる場合、動作時の運転状況データφ及び状態値zを対応付けてデータベース20に追加登録してもよい。もちろん、動作時の運転状況データφ、制御パラメータθ及び状態値zを対応付けてデータベース20に登録してもよい。
【0093】
なお、本実施形態では、データベース20が記憶する運転状況データφ(i)及び状態値(i)を用いて、産業機械1の状態判定を行う例を説明したが、更に制御パラメータθ(i)を用いて産業機械1の状態判定を行ってもよい。産業機械1の制御装置11は、運転状況データφ(t)及び制御パラメータθ(t)を状態判定装置2へ送信する。状態判定装置2の処理部21は、産業機械1から送信された運転状況データφ(i)及び制御パラメータθ(t)を受信する。
【0094】
処理部21は、データベースが記憶する運転状況データφ(i)、制御パラメータθ(i)及び状態値z(i)のうち、状態値z(i)が異なり、かつ運転状況データφ(i)及び制御パラメータθ(i)からなる情報ベクトルの統計距離が所定値未満の運転状況データφ(i)、制御パラメータθ(i)及び状態値z(i)を除外する。処理部21は、除外後の運転状況データφ(i)、制御パラメータθ(i)及び状態値z(i)に基づいて、取得した産業機械1の運転状況データφ(t)及び制御パラメータθ(t)が、状態値最大又は最小の運転状況データφ(i)及び制御パラメータθ(i)の近傍にあるデータであるかを判定する。
【0095】
処理部21は、取得した運転状況データφ(t)及び制御パラメータθ(t)が、データベース20が記憶する運転状況データφ(i)及び制御パラメータθ(i)のうち、状態値最大又は最小の運転状況データφ(i)及び制御パラメータθ(i)の近傍にある場合、データベース20が記憶する状態値z(i)をロジット変換する。
【0096】
処理部21は、データベース20が記憶する運転状況データφ(i)及び制御パラメータθ(i)のうち、取得した運転状況データφ(t)及び制御パラメータθ(t)と統計距離が近い所定数の運転状況データφ(i)及び制御パラメータθ(i)に対応付けられた状態値z(i)を、当該統計距離に基づく重みを用いて加重平均することによって、産業機械1の状態値zを算出する。
【0097】
(実施形態2)
実施形態2に係る状態判定装置は、産業機械の動作を制御する制御装置として動作する点が実施形態と異なる。状態判定装置のその他の構成は、実施形態1に係る状態判定システムと同様であるため、同様の箇所には同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0098】
図16は、実施形態2に係る状態判定装置の構成例を示すブロック図である。実施形態2に係る状態判定制御装置(状態判定装置)202は、コンピュータであり、処理部221と、記憶部222と、入出力部223と、操作部224と、表示部225とを備える。
【0099】
入出力部223、操作部224及び表示部225は、実施形態1に係る制御装置11の入出力部11c、操作部11e及び表示部11fと同一又は同様の構成である。
【0100】
処理部221及び記憶部222は、実施形態1に係る状態判定装置2の処理部21及び記憶部22と同様の構成である。記憶部222は、データベース20を記憶している。処理部221は、データベース20に格納されている運転状況データφ(i)及び制御パラメータθ(i)を用いて、実施形態1と同様、制御対象機械10の動作を制御する。また、処理部221は、実施形態1と同様、センサ10aを用いて測定して得た運転状況データと、データベース20の情報とに基づいて、産業機械1の状態を判定することができる。産業機械1は、例えば、実施形態1で説明した射出成形機、押出機等の成形機である。
【0101】
実施形態2に係る状態判定制御装置202においても、実施形態1と同様、DD-PID制御用のデータベース20及び運転制御用のセンサ10aを用いて、産業機械1の状態を判定することができる。
【0102】
(付記1)
産業機械の状態を判定する状態判定装置であって、
前記産業機械の運転状況を示す運転状況データと、該運転状況にある前記産業機械を制御するための制御パラメータと、前記産業機械の状態を示す状態値とを予め対応付けて記憶したデータベースと、
前記産業機械の運転状況を観測して得られる運転状況データを取得する取得部と、
処理部と
を備え、
前記処理部は、
前記取得部にて取得した運転状況データと、前記データベースが記憶する前記運転状況データ及び前記状態値とに基づいて、前記産業機械の状態を判定する
状態判定装置。
【0103】
(付記2)
前記処理部は、
前記データベースが記憶する前記状態値をロジット変換し、
ロジット変換された前記状態値を用いて、前記取得部にて取得した運転状況データに対応する状態値を算出し、
算出された状態値を逆ロジット変換する
付記1に記載の状態判定装置。
【0104】
(付記3)
前記処理部は、
前記データベースが記憶する前記状態値を1未満の正の値に正規化してロジット変換し、
算出された状態値を逆正規化して逆ロジット変換する
付記2に記載の状態判定装置。
【0105】
(付記4)
前記処理部は、
前記取得部にて取得した運転状況データが、前記データベースが記憶する前記運転状況データのうち、前記状態値が最大の運転状況データの近傍にある場合、又は前記状態値が最小の運転状況データの近傍にある場合、前記データベースが記憶する前記状態値をロジット変換する
付記2又は付記3に記載の状態判定装置。
【0106】
(付記5)
前記処理部は、
前記データベースが記憶する前記運転状況データ及び前記状態値のうち、前記状態値が異なり、かつ前記運転状況データの統計距離が所定値未満の前記運転状況データ及び前記状態値を除外し、除外後の前記運転状況データ及び前記状態値に基づいて、前記取得部にて取得した運転状況データが、状態値最大の運転状況データ又は状態値最小の運転状況データの近傍にあるデータであるかを判定する
付記4に記載の状態判定装置。
【0107】
(付記6)
前記処理部は、
前記データベースが記憶する前記運転状況データのうち、前記取得部にて取得した運転状況データと統計距離が近い所定数の前記運転状況データに対応付けられた前記状態値を、該統計距離に基づく重みを用いて加重平均することによって、前記産業機械の状態値を算出する
付記1から付記5のいずれか1項に記載の状態判定装置。
【0108】
(付記7)
前記処理部は、
前記取得部にて取得した運転状況データに対応する前記制御パラメータを前記データベースから読み出し、読み出された前記制御パラメータに基づいて前記産業機械を制御する
付記1から付記6のいずれか1項に記載の状態判定装置。
【0109】
(付記8)
前記産業機械は成形機を含む
付記1から付記7のいずれか1項に記載の状態判定装置。
【0110】
(付記9)
付記1から付記8のいずれか1項に記載の状態判定装置と、
産業機械と
を備え、
前記状態判定装置は、
前記データベースが記憶する前記運転状況データ及び前記制御パラメータを前記産業機械へ送信する通信部を備え、
前記産業機械は、
前記状態判定装置から送信された前記運転状況データ及び前記制御パラメータを受信し、受信した前記運転状況データ及び前記制御パラメータに基づいて動作する
状態判定制御システム。
【0111】
(付記10)
産業機械の状態を判定する状態判定方法であって、
前記産業機械の運転状況を示す運転状況データと、該運転状況にある前記産業機械を制御するための制御パラメータと、前記産業機械の状態を示す状態値とを対応付けて記憶したデータベースを用意し、
前記産業機械の運転状況を観測して得られる運転状況データを取得し、
取得した運転状況データと、前記データベースが記憶する前記運転状況データ及び前記状態値とに基づいて、前記産業機械の状態を判定する
状態判定方法。
【0112】
(付記11)
産業機械の運転状況を示す運転状況データと、該運転状況にある前記産業機械を制御するための制御パラメータと、前記産業機械の状態を示す状態値とを対応付けて記憶したデータベースにアクセス可能なコンピュータに、前記産業機械の状態を判定させる処理を実行させるためのコンピュータプログラムであって、
前記産業機械の運転状況を観測して得られる運転状況データを取得し、
取得した運転状況データと、前記データベースが記憶する前記運転状況データ及び前記状態値とに基づいて、前記産業機械の状態を判定する
処理を前記コンピュータに実行させるコンピュータプログラム。
【符号の説明】
【0113】
1 :産業機械
1a :制御用データベース
2 :状態判定装置
3 :記録媒体
10 :制御対象機械
10a :センサ
11 :制御装置
11a :制御部
11b :記憶部
11c :入出力部
11d :通信部
11e :操作部
11f :表示部
15 :金型
16 :型締装置
17 :射出装置
17a :加熱シリンダ
17b :スクリュ
17c :駆動装置
17d :ホッパ
20 :データベース
21 :処理部
22 :記憶部
23 :通信部
202 :状態判定制御装置
221 :処理部
222 :記憶部
223 :入出力部
224 :操作部
225 :表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16