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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170681
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】複列アンギュラ玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/18 20060101AFI20231124BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20231124BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
F16C19/18
F16C33/58
F04C29/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082592
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】西岡 虎太朗
【テーマコード(参考)】
3H129
3J701
【Fターム(参考)】
3H129AA06
3H129AA15
3H129AA16
3H129AB05
3H129BB32
3H129CC17
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA55
3J701BA69
3J701FA31
3J701GA29
3J701XB03
3J701XB18
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】アキシャル負荷能力、モーメント負荷能力に優れるとともに、保持器を配置するための空間が十分確保可能、または、組付け性(玉の挿入性)良好な複列アンギュラ玉軸受を提供する。
【解決手段】複列アンギュラ玉軸受1’は、ポンプに使用され、内周に外輪軌道面2a’を有する外輪2’と、外周に内輪軌道面3aを有する内輪3と、外輪軌道面2a’と内輪軌道面3aとの間に配置される複数の転動体4とを備え、外輪軌道面2a’は軸方向に複数隣接し、内輪軌道面3aは軸方向に複数隣接し、内輪3が軸方向に分割されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素循環ポンプに使用され、内周に外輪軌道面を有する外輪と、外周に内輪軌道面を有する内輪と、前記外輪軌道面および前記内輪軌道面を複数備え、前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に配置される複数の転動体とを備える複列アンギュラ玉軸受であって、
前記複列アンギュラ玉軸受は、前記外輪および前記内輪の少なくとも一方の軌道輪が軸方向に分割されていることを特徴とする複列アンギュラ玉軸受。
【請求項2】
前記複列アンギュラ玉軸受は、前記外輪および前記内輪のいずれか一方の軌道輪が軸方向に分割された分離型の軌道輪であり、他方の軌道輪が複数の軌道面を有する一体型の軌道輪であることを特徴とする請求項1記載の複列アンギュラ玉軸受。
【請求項3】
前記複列アンギュラ玉軸受は、前記外輪軌道面と前記内輪軌道面が対向する2つの列を有し、各列における前記転動体の接触角の向きが互いに異なることを特徴とする請求項1または請求項2記載の複列アンギュラ玉軸受。
【請求項4】
配列が背面組合せであることを特徴とする請求項3記載の複列アンギュラ玉軸受。
【請求項5】
前記外輪の内周および前記内輪の外周にそれぞれ肩部が形成され、前記外輪の前記肩部の高さhDが、下記式(1)を満たし、前記内輪の前記肩部の高さhdが、下記式(2)を満たすことを特徴とする請求項1または請求項2記載の複列アンギュラ玉軸受。
0.15×(Dα-dp)≦hD≦0.35×(Dα-dp)・・・(1)
0.15×(dp-dα)≦hd≦0.35×(dp-dα)・・・(2)
Dα:前記転動体との前記外輪の接触点径
dα:前記転動体との前記内輪の接触点径
dp:前記転動体のピッチ径
【請求項6】
前記転動体の直径Dbと、前記複列アンギュラ玉軸受の軸方向幅Wbが、下記式(3)の関係を満たすことを特徴とする請求項1または請求項2記載の複列アンギュラ玉軸受。
1.1≦Wb/(Db×2)≦1.7・・・(3)
【請求項7】
下記式(4)で表わされる、軌道1列に配置される前記転動体の充填率γが、0.65~0.90であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の複列アンギュラ玉軸受。
γ=(Db×Z)/(dp×π)・・・(4)
Db:前記転動体の直径
Z :前記転動体の個数
dp:前記転動体のピッチ径
【請求項8】
前記複列アンギュラ玉軸受は、一端側に相手側ロータと嵌合されるロータが接続されるとともに、他端側に相手側ギアと嵌合されるギアが接続される回転軸を回転可能に支持する軸受であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の複列アンギュラ玉軸受。
【請求項9】
水素循環ポンプに使用され、内周に外輪軌道面を有する外輪と、外周に内輪軌道面を有する内輪と、前記外輪軌道面および前記内輪軌道面を複数備え、前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に配置される複数の転動体とを備える複列アンギュラ玉軸受であって、
前記外輪の内周および前記内輪の外周にそれぞれ肩部が形成され、前記外輪の前記肩部の高さhDが、下記式(5)を満たし、前記内輪の前記肩部の高さhdが、下記式(6)を満たすことを特徴とする複列アンギュラ玉軸受。
0.15×(Dα-dp)≦hD≦0.35×(Dα-dp)・・・(5)
0.15×(dp-dα)≦hd≦0.35×(dp-dα)・・・(6)
Dα:前記転動体との前記外輪の接触点径
dα:前記転動体との前記内輪の接触点径
dp:前記転動体のピッチ径
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複列アンギュラ玉軸受に関し、特にポンプ(例えば水素循環ポンプ)に使用される複列アンギュラ玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機構を有する装置には、用途に応じて種々の軸受が使用されている。一般的な軸受である転がり軸受としては、例えば、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、円すいころ軸受などが知られている。アンギュラ玉軸受は、ラジアル荷重とともに一方向のアキシャル荷重を受けることができる。アンギュラ玉軸受において、玉(転動体)と内・外輪とは接触角を有し、接触角が大きいほどアキシャル荷重を受けることができる負荷能力が大きくなる。
【0003】
両方向のアキシャル荷重を受けることができ、さらにモーメント荷重への負荷能力も有する軸受として、複列アンギュラ玉軸受が知られている。複列アンギュラ玉軸受としては、例えば、単列アンギュラ玉軸受を背面組合せにして、内・外輪をそれぞれ一体にした構造が知られている。この複列アンギュラ玉軸受としては、例えば、軌道輪の荷重を受ける側肩部の肩高さを高くした構造が知られている(特許文献1)。
【0004】
従来、複列アンギュラ玉軸受は、例えば、ポンプやコンプレッサなどに用いられる転がり軸受として使用されている。例えば、特許文献2では、ルーツ式の燃料電池用の水素循環ポンプにおいて複列アンギュラ玉軸受が使用されることが開示されている。具体的には、上記ポンプにおいて、ギア室側からロータ室内に突出するように配置された2本の回転軸が、複列アンギュラ球軸受によってそれぞれ回転可能に支持されている。また、これらの回転軸の一方側には、駆動ロータまたは従動ロータが取り付けられ、他方側には、駆動ギアまたは従動ギアが取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-270644号公報
【特許文献2】特開2021-127736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば特許文献2のように、モータと繋がる駆動ギアおよび駆動ロータと、駆動ギアと噛み合う従動ギアと、駆動ロータと噛み合う従動ロータとが存在する流体機械(例えば、水素循環ポンプ)の場合、駆動ギアと従動ギアの間、駆動ロータと従動ロータの間でそれぞれ負荷がかかる。そのため、ここに使用されるような軸受は、特にアキシャル負荷能力やモーメント負荷能力(耐モーメント性)が要求されると考えられる。
【0007】
複列アンギュラ玉軸受では、過大なアキシャル荷重が負荷された場合、溝肩高さが低いと玉が乗り上げ、その部分から剥離などが発生するおそれがある。そのため、溝肩高さが高い方が乗り上げに対して有利である。しかし、溝肩高さが高すぎると保持器を配置するための空間を確保しにくくなる。また、軸受組立て時には、軌道輪の間に玉を挿入しにくくなると考えられる。例えば、特許文献1には、内輪の溝肩高さや外輪の溝肩高さを高くすることは記載されているものの、上記のような問題に対して、好適な設計はされていない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、アキシャル負荷能力やモーメント負荷能力に優れるとともに、保持器を配置するための空間を十分確保可能、または、組付け性(玉の挿入性)が良好な複列アンギュラ玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の複列アンギュラ玉軸受は、水素循環ポンプに使用され、内周に外輪軌道面を有する外輪と、外周に内輪軌道面を有する内輪と、上記外輪軌道面および上記内輪軌道面を複数備え、上記外輪軌道面と上記内輪軌道面との間に配置される複数の転動体とを備え、上記複列アンギュラ玉軸受は、上記外輪および上記内輪の少なくとも一方の軌道輪が軸方向に分割されていることを特徴とする。
【0010】
上記複列アンギュラ玉軸受は、上記外輪および上記内輪のいずれか一方の軌道輪が軸方向に分割された分離型の軌道輪であり、他方の軌道輪が複数の軌道面を有する一体型の軌道輪であることを特徴とする。
【0011】
上記複列アンギュラ玉軸受は、上記外輪軌道面と上記内輪軌道面が対向する2つの列を有し、各列における上記転動体の接触角の向きが互いに異なることを特徴とする。さらに、配列が背面組合せであることを特徴とする。
【0012】
上記外輪の内周および上記内輪の外周にそれぞれ肩部が形成され、上記外輪の上記肩部の高さhDが、下記式(1)を満たし、上記内輪の上記肩部の高さhdが、下記式(2)を満たすことを特徴とする。
0.15×(Dα-dp)≦hD≦0.35×(Dα-dp)・・・(1)
0.15×(dp-dα)≦hd≦0.35×(dp-dα)・・・(2)
Dα:上記転動体との上記外輪の接触点径
dα:上記転動体との上記内輪の接触点径
dp:上記転動体のピッチ径
【0013】
上記転動体の直径Dbと、上記複列アンギュラ玉軸受の軸方向幅Wbが、下記式(3)の関係を満たすことを特徴とする。
1.1≦Wb/(Db×2)≦1.7・・・(3)
【0014】
下記式(4)で表わされる、軌道1列に配置される上記転動体の充填率γが、0.65~0.90であることを特徴とする。
γ=(Db×Z)/(dp×π)・・・(4)
Db:上記転動体の直径
Z :上記転動体の個数
dp:上記転動体のピッチ径
【0015】
上記複列アンギュラ玉軸受は、一端側に相手側ロータと嵌合されるロータが接続されるとともに、他端側に相手側ギアと嵌合されるギアが接続される回転軸を回転可能に支持することを特徴とする。
【0016】
本発明の複列アンギュラ玉軸受は、水素循環ポンプに使用され、内周に外輪軌道面を有する外輪と、外周に内輪軌道面を有する内輪と、上記外輪軌道面および上記内輪軌道面を複数備え、上記外輪軌道面と上記内輪軌道面との間に配置される複数の転動体とを備え、上記複列アンギュラ玉軸受は、上記外輪の内周および上記内輪の外周にそれぞれ肩部が形成され、上記外輪の上記肩部の高さhDが、下記式(5)を満たし、上記内輪の上記肩部の高さhdが、下記式(6)を満たすことを特徴とする。
0.15×(Dα-dp)≦hD≦0.35×(Dα-dp)・・・(5)
0.15×(dp-dα)≦hd≦0.35×(dp-dα)・・・(6)
Dα:上記転動体との上記外輪の接触点径
dα:上記転動体との上記内輪の接触点径
dp:上記転動体のピッチ径
【発明の効果】
【0017】
本発明の複列アンギュラ玉軸受は、水素循環ポンプに使用され、外輪軌道面と内輪軌道面を複数有し、外輪および内輪の少なくとも一方の軌道輪が軸方向に分割されている、つまり内輪または外輪が左右に分離するので、軸受の組付け時において、分割された軌道輪とともに、転動体を軸受の側面から組み付けることができる。その結果、転動体を多く配置させることができ、定格荷重が大きくなる。これにより、アキシャル負荷能力、モーメント負荷能力に優れるとともに、組付け性に優れる。
【0018】
複列アンギュラ玉軸受は、外輪および内輪のいずれか一方の軌道輪が軸方向に分割された分割型の軌道輪であり、他方の軌道輪が複数の軌道面を有する一体型の軌道輪であるので、内輪および外輪の両方が分離型の軌道輪である場合(単列アンギュラ玉軸受を組み合わせた場合)よりも組付け性に優れる。さらに、単列アンギュラ玉軸受を組み合わせた場合よりも、軸受の軸方向における幅寸法を小さくできるため、省スペース化を図りやすい。
【0019】
複列アンギュラ玉軸受は、外輪軌道面と内輪軌道面が対向する軌道である2つの列を有し、各列における転動体の接触角の向きが互いに異なるので、双方向のアキシャル荷重を受けることができる。さらに、配列が背面組合せであるので、正面組合せ(DF)と比較して、作用点間距離が大きく、モーメント負荷能力をより向上できる。
【0020】
外輪の内周および内輪の外周にそれぞれ肩部が形成され、外輪の肩部の高さhDが、上記式(1)を満たし、内輪の肩部の高さhdが、上記式(2)を満たすので、転動体の肩部の乗り上げが発生しにくくなるとともに、保持器を配置する空間を十分に確保しやすくなる。
【0021】
転動体の直径Dbと、複列アンギュラ玉軸受の軸方向幅Wbが、上記式(3)の関係を満たすので、転動体の直径Dbを維持でき、肩部の強度と定格荷重を確保できる。また、軸方向幅Wbが抑えられ、コンパクト化に寄与できる。
【0022】
上記式(4)で表わされる、軌道1列に配置される転動体の充填率γが、0.65~0.90であるので、内輪および外輪ともに非分離型の複列アンギュラ玉軸受よりも定格荷重を大きくできる。また、保持器を配置するための空間を十分に確保でき、保持器のポケット間(周方向)の柱幅が小さくなりすぎないので、保持器の強度低下を抑制できる。
【0023】
本発明の複列アンギュラ玉軸受は、水素循環ポンプに使用され、外輪軌道面と内輪軌道面が対向する複数列の軌道を有し、外輪の内周および内輪の外周にそれぞれ肩部が形成され、外輪の肩部の高さhDが、上記式(5)を満たし、内輪の肩部の高さhdが、上記式(6)を満たすので、アキシャル負荷能力やモーメント負荷能力に優れるとともに、保持器を配置する空間を十分に確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の複列アンギュラ玉軸受の第1実施形態の縦断面図である。
図2】本発明の複列アンギュラ玉軸受の第2実施形態の縦断面図である。
図3図2に示した複列アンギュラ玉軸受の部分断面図である。
図4】本発明の複列アンギュラ玉軸受を用いた水素循環ポンプの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の複列アンギュラ玉軸受は、外輪軌道面と内輪軌道面を複数有し、外輪および内輪の少なくとも一方の軌道輪が軸方向に分割されており、軌道輪の分割の仕方によって3つの形態がある。すなわち、単列アンギュラ玉軸受が並列に複数組み合わされた形態(図1参照)、外輪が一体型で内輪が分離型の形態(図2参照)、内輪が一体型で外輪が分離型の形態がある。以下、図面を参照して詳細に説明する。
【0026】
(第1実施形態)
本発明の複列アンギュラ玉軸受の第1実施形態について、図1に基づいて説明する。図1は、該軸受の縦断面図である。図1に示すように、複列アンギュラ玉軸受1は、内周に外輪軌道面2aを有する外輪2と、外周に内輪軌道面3aを有する内輪3と、外輪軌道面2aと内輪軌道面3aとの間に配置される複数の転動体4とを備えている。ここで、外輪軌道面2aと内輪軌道面3aは、それぞれ周方向に延在する凹状の溝である。外輪2は、軸方向に隣接する複数(図1では2列)の外輪軌道面2aを有し、内輪3は、軸方向に隣接する複数(図1では2列)の内輪軌道面3aを有している。外輪2と内輪3はそれぞれ環状であり、内輪3は外輪2と同心で相対回転可能に配置される。
【0027】
この形態において、外輪2および内輪3は、いずれも軸方向に2つに分割された分離型の軌道輪であり、分離された各軌道輪はそれぞれ1列ずつ軌道面を有している。複列アンギュラ玉軸受1は、外輪軌道面2aと内輪軌道面3aが対向して形成された軌道を2列有している。転動体4は、各軌道にそれぞれ複数個配置され、転動体4は、保持器5によって回転可能に保持される。各軌道面2a、3aの曲率半径は、転動体4の曲率半径より若干大きく寸法付けされている。
【0028】
第1実施形態の複列アンギュラ玉軸受1は、単列のアンギュラ玉軸受が背面組合せで構成されている。各アンギュラ玉軸受は、内輪および外輪と、転動体とは径方向中心線に対して所定の角度α(接触角)を有して接触しており、ラジアル荷重と一方向のアキシャル荷重を負荷できる。図1では、各軌道における転動体4の接触角αの向きが互いに異なっていることから、双方向のアキシャル荷重を受けることができる。本発明において、接触角の角度αは特に限定されないが、20~40°が好ましく、25~35°がより好ましい。
【0029】
また、外輪2は、内周において、転動体4との接触部がある負荷側に肩部2bをそれぞれ有している。この肩部2bは、複列アンギュラ玉軸受1において、内方側の肩部であり、肩部2cは外方側の肩部である。図1において、肩部2bの肩高さに対して肩部2cの肩高さが小さい。また、内輪3は、外周において、各内輪軌道面3aを挟んだ軸方向両側にそれぞれ肩部を有している。内輪3の肩部は、複列アンギュラ玉軸受1において、内方側の肩部3bと外方側の肩部3cがある。肩部3bと肩部3cの肩高さは同じである。
【0030】
複列アンギュラ玉軸受1において、外輪が内周に有する外輪軌道面は、複数あればよく、3列以上であってもよい。また、内輪の内輪軌道面も3列以上であってもよい。なお、外輪軌道面と内輪軌道面の数は、同数である。例えば、単列のアンギュラ玉軸受を、軸方向に並列に3列組み合わせてもよい。
【0031】
複列アンギュラ玉軸受1は上記構成であることにより、軸受の組付け時に、転動体4を分割された軌道輪(図1では外輪2および内輪3)とともに側面から組み付けることができる。その結果、軌道に配置される転動体4の数を多くでき、定格荷重を大きくできる。
【0032】
(第2実施形態)
本発明の複列アンギュラ玉軸受の第2実施形態について、図2に基づいて説明する。なお、図1を用いて説明した第1実施形態と同一の構成は同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0033】
図2に示すように、複列アンギュラ玉軸受1’において、内輪3は、軸方向に2つに分割された分離型の軌道輪であり、分離された各軌道輪はそれぞれ1列ずつ軌道面を有する。外輪2’は、非分離型(一体型)の軌道輪であり、軸方向に分割されない一つの軌道輪である。また、外輪2’は、内周に2列の軌道面2a’を有し、これらの軌道面の間に肩部2b’を有している。
【0034】
第2実施形態に示すような分離型の軌道輪と非分離型の軌道輪を有する構成では、第1実施形態に示すような内輪および外輪の両方が分離型の軌道輪の構成に比べて、組付け性に優れる。また、非分離型の軌道輪は幅寸法が小さいため、省スペース化できる。
【0035】
なお、本発明の複列アンギュラ玉軸受において、軌道の配列は、背面組合せに限らず、外輪が分離、内輪が一体の形態の場合は正面組合せであってもよい。
【0036】
次に、図3を参照して、複列アンギュラ玉軸受における各部材の寸法関係を説明する。図3は、図2に示した第2実施形態の複列アンギュラ玉軸受の部分断面図である。なお、以下に説明する寸法関係は、他の実施形態(第1実施形態など)にも適用できる。
【0037】
複列アンギュラ玉軸受1’において、外輪2’の肩部2b’の高さ(肩高さ)hDは、下記式(1)を満たすことが好ましい。
0.15×(Dα-dp)≦hD≦0.35×(Dα-dp)・・・(1)
Dα:転動体4との外輪2’の接触点径
dp:転動体4のピッチ径
【0038】
ここで、外輪2’の肩高さhDは、外輪2’の肩部2b’と外輪軌道面2a’の最深部との高低差を意味する。なお、外輪2’が有する2列の外輪軌道面2a’、2a’の間に設けられる内方側の肩部と、2列の外輪軌道面2a’、2a’の軸方向外側に設けられる外方側の肩部とで高低差が異なる場合、肩高さhDは、高い方の肩部の高低差を意味する。ここで、一般的に内方側の肩部と外方側の肩部とで高低差が異なる場合、荷重を受ける負荷側の肩部が高くなる場合が多い。また、接触点径Dαは、外輪2’と転動体4との接触点により形成される円の直径を意味する。ピッチ径dpは、転動体4が軌道を回転する際に転動体4の中心が描く円の直径を意味する。
【0039】
外輪2’の肩高さhDが、接触点径Dαとピッチ径dpの差(Dα-dp)の値の0.15倍以上である場合、転動体の肩乗り上げが発生しにくくなり、アキシャル荷重やモーメント荷重を安定して受けやすくなる。また、外輪2’の肩高さhDが、上記(Dα-dp)の値の0.35倍以下であると、保持器を配置するのに十分な空間を確保しやすくなる。その結果、保持器を薄肉化する必要がなくなり、保持器の強度を確保しやすくなる。なお、肩高さhDは、上記(Dα-dp)の値の0.20倍以上、0.30倍以下がより好ましい。
【0040】
また、複列アンギュラ玉軸受1’において、内輪3の肩部3bの高さ(肩高さ)hdは、下記式(2)を満たすことが好ましい。
0.15×(dp-dα)≦hd≦0.35×(dp-dα)・・・(2)
dα:転動体4との内輪3の接触点径
dp:転動体4のピッチ径
【0041】
ここで、内輪3の肩高さhdは、内輪3の肩部3c(本実施形態においては肩部3bと肩部3cは肩高さが同じであるため肩部3bでもよい)と内輪軌道面3aの最深部との高低差を意味する。内輪3が有する2列の内輪軌道面3a、3aの間に設けられる内方側の肩部3bと、2列の内輪軌道面3a、3aの軸方向外側に設けられる外方側の肩部3cとで高低差が異なる場合、肩高さhdは、荷重を受ける負荷側の肩部の高低差を意味する。上述のように、一般的に内方側の肩部と外方側の肩部とで高低差が異なる場合、荷重を受ける負荷側の肩部が高くなる場合が多い。また、接触点径dαは、内輪3と転動体4との接触点により形成される円の直径を意味する。
【0042】
内輪3の肩高さhdが、接触点径dαとピッチ径dpの差(dp-dα)の値の0.15倍以上である場合、転動体の肩乗り上げが発生しにくくなる。また、内輪3の肩高さhdが、上記差(dp-dα)の値の0.35倍以下であると、保持器を配置するのに十分な空間を確保しやすくなる。なお、肩高さhdは、上記(dp-dα)の値の0.20倍以上、0.30倍以下がより好ましい。
【0043】
上記式(1)、(2)は、接触角αおよび転動体4の直径Dbなどを変えて種々検討した結果、転動体の肩乗り上げが発生しにくく、保持器を配置するための広い空間を確保できる条件式として見出された。一般に、肩高さhD、hdは、転動体の直径Dbに対する倍率でそれぞれ設定される場合があるところ、上記式(1)、(2)を用いることで、転動体4の肩乗り上げや、軸受内部の空間の確保の両観点から評価しやすくなる。
【0044】
また、複列アンギュラ玉軸受1’において、転動体4の直径Dbと、軸受幅(軸受の軸方向幅)Wbは、下記式(3)の関係を満たすことが好ましい。
1.1≦Wb/(Db×2)≦1.7・・・(3)
【0045】
ここで、転動体4の直径Dbは、転動体の直径の呼び寸法を意味する。軸受幅Wbは、軌道輪(内輪3と外輪2’で異なる場合はより長い方)の軸方向長さを意味する。
【0046】
Wb/(Db×2)が1.1以上の場合、転動体4の直径Dbを小さくする必要がなく、肩部の強度と定格荷重を確保しやすくなる。また、Wb/(Db×2)が1.7以下の場合、コンパクト性に優れる。なお、Wb/(Db×2)は、1.4以上、1.7以下がより好ましい。
【0047】
また、アンギュラ玉軸受1’において、軌道1列に配置される転動体4の充填率γが、0.65~0.90であることが好ましい。充填率γは下記式(4)で表わされる。
γ=(Db×Z)/(dp×π)・・・(4)
【0048】
充填率γが0.65以上の場合、内・外輪ともに非分離型の複列アンギュラ玉軸受よりも定格荷重を大きくしやすくなる。また、充填率が0.90以下の場合、保持器のポケット間の柱幅が小さくなりすぎないので、保持器の強度を確保しやすくなる。なお、充填率γは、0.70~0.90がより好ましく、0.80~0.90がさらに好ましい。
【0049】
本発明の複列アンギュラ玉軸受において、上述した式(1)~(4)のうち、少なくともいずれかを満たすことが好ましく、全てを満たすことが特に好ましい。
【0050】
(第3実施形態)
本発明の複列アンギュラ玉軸受の第3実施形態について説明する(図示省略)。本発明の複列アンギュラ玉軸受は、第1実施形態や第2実施形態で説明したような外輪および内輪の少なくとも一方の軌道輪が軸方向に分割された構成でなくてもよい。具体的には、外輪および内輪がともに非分離型の軌道輪である複列アンギュラ玉軸受でもよい。なお、第1実施形態や第2実施形態と同一の構成についての詳細な説明を省略する。
【0051】
第3実施形態の複列アンギュラ玉軸受は、外輪および内輪がともに非分離型の軌道輪である。当該複列アンギュラ玉軸受は、外輪の内周および内輪の外周にそれぞれ肩部が形成され、外輪の肩部の高さhDが、下記式(5)を満たし、内輪の肩部の高さhdが、下記式(6)を満たす。
0.15×(Dα-dp)≦hD≦0.35×(Dα-dp)・・・(5)
0.15×(dp-dα)≦hd≦0.35×(dp-dα)・・・(6)
【0052】
複列アンギュラ玉軸受が、外輪および内輪がともに非分離型の軌道輪である場合、玉の挿入性の観点から、外輪の肩部の高さhDが、下記式(7)を満たし、内輪の肩部の高さhdが、下記式(8)を満たす方がより好ましい。
0.15×(Dα-dp)≦hD≦0.31×(Dα-dp)・・・(7)
0.15×(dp-dα)≦hd≦0.31×(dp-dα)・・・(8)
【0053】
これにより、第3実施形態の複列アンギュラ玉軸受は、転動体の肩部の乗り上げが発生しにくく、アキシャル負荷能力やモーメント負荷能力に優れるとともに、保持器を配置する空間を十分に確保できる。
【0054】
本発明の複列アンギュラ玉軸受は、ポンプに使用される。ポンプとして水素循環ポンプに適用した構成の一例として、図4に、水素循環ポンプの断面図を示す。水素循環ポンプ11は、モータハウジング12と、ポンプハウジング13と、回転軸14、15と、モータステータ16と、モータロータ17と、ギア18、19と、ロータ20、21と、転がり軸受22、23、24、25、26、27とを有している。ここで、転がり軸受25、27が本発明の複列アンギュラ玉軸受であり、転がり軸受22、23、24、26は深溝玉軸受である。
【0055】
モータハウジング12は、ポンプハウジング13に取り付けられている。回転軸14の一方端側はモータハウジング12内に配置されており、回転軸14の他方端側はポンプハウジング13内に配置されている。回転軸14の一方端および他方端は、それぞれ、モータハウジング12内に配置されている転がり軸受22およびポンプハウジング13内に配置されている転がり軸受23によって回転可能に軸支されている。また、回転軸14は、一方端と他方端との間において、ポンプハウジング13内に配置されている転がり軸受24および転がり軸受25によって回転可能に軸支されている。
【0056】
回転軸15は、ポンプハウジング13内に配置されている。回転軸15の一方端は、ポンプハウジング13内に配置されている転がり軸受26によって回転可能に軸支されている。回転軸15は、一方端から離れた位置において、ポンプハウジング13内に配置されている転がり軸受27によって回転可能に軸支されている。
【0057】
モータステータ16は、モータハウジング12内に配置されている。モータロータ17は、モータステータ16と対向するように回転軸14に取り付けられている。モータステータ16およびモータロータ17により、回転軸14は回転される。回転軸14および回転軸15には、それぞれ、ギア18およびギア19が取り付けられている。ギア18およびギア19により、回転軸14の回転が、回転軸15に伝達される。なお、ギア18は転がり軸受24と転がり軸受25の間にあり、ギア19は転がり軸受26と転がり軸受27の間にある。
【0058】
ポンプハウジング13内には、ポンプ室13aが形成されている。ポンプ室13a内には、ロータ20およびロータ21が配置されている。ロータ20およびロータ21は、それぞれ、回転軸14および回転軸15に取り付けられている。回転軸14の回転に伴ってロータ20が回転するとともに、回転軸15の回転に伴ってロータ21が回転することにより、ポンプ室13a内に水素が吸入され、ポンプ室13a内から水素が吐出される。
【0059】
本発明に係る転がり軸受25、27は、一端側に相手側ロータと嵌合されるロータ20、21が接続されるとともに、他端側に相手側ギアと嵌合されるギア18、19が接続される回転軸14、15を回転可能に支持するものであり、アキシャル荷重やモーメント荷重が掛かりやすい。図4の構成では、特に、従動ギアであるギア19と、従動ロータであるロータ21に繋がる回転軸15を支持する転がり軸受27は、回転軸15のロータ21側が自由端となっており、片持ち支持構造のため、より負荷が掛かりやすいと考えられる。この構成において、本発明の複列アンギュラ玉軸受を採用することで、水素循環ポンプの回転軸が軸ブレなく安定して回転できると考えられる。
【0060】
なお、本発明の複列アンギュラ玉軸受は、水素循環ポンプに限らず、他のポンプにも用いることができる。
【実施例0061】
本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0062】
内輪が分離型で外輪が一体型の接触角が異なる軸受5種(実施例A)について、以下の検討を行った。
【0063】
<肩高さhd、hDの検討>
肩高さhDが、転動体と外輪の接触点径Dαと、転動体のピッチ径dpとの差(Dα-dp)の0.15倍~0.35倍(具体的には、0.15倍、0.17倍、0.30倍、0.32倍、0.35倍)で、肩高さhdが、転動体のピッチ径dpと、転動体と内輪の接触点径dαとの差(dp-dα)の0.15倍~0.35倍(具体的には、0.15倍、0.17倍、0.30倍、0.32倍、0.35倍)であった実施例Aは、転動体の肩乗り上げが発生しにくく、保持器を配置するのに十分な空間を確保しやすいことがわかった。
【0064】
内輪が分離型で外輪が一体型の軸受5種(実施例B)、および内・外輪ともに非分離型の複列アンギュラ玉軸受3種(参考例)について、以下の検討を行った。
【0065】
<Wb/(Db×2)の検討>
実施例Bおよび参考例について、Wb/(Db×2)を算出した。その結果、実施例BのWb/(Db×2)はそれぞれ、1.407、1.575、1.599、1.599、1.642であった。また、参考例のWb/(Db×2)はそれぞれ、1.167、1.293、1.501であった。
【0066】
<転動体の充填率γの検討>
次に、上述した実施例Bおよび参考例について、充填率γを算出した。その結果、実施例Bの充填率γはそれぞれ、0.81、0.82、0.83、0.84、0.85であった。これに対し、参考例の充填率γはそれぞれ、0.53、0.57、0.60であった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の複列アンギュラ玉軸受は、アキシャル負荷能力、モーメント負荷能力に優れるとともに、保持器を配置するための空間が十分確保可能、または、組付け性良好であるので、ポンプに使用でき、特に水素循環ポンプに好適である。
【符号の説明】
【0068】
1、1’ 複列アンギュラ玉軸受
2、2’ 外輪
2a、2a’ 外輪軌道面
2b、2c 肩部
3 内輪
3a 内輪軌道面
3b、3c 肩部
4 転動体
5 保持器
11 水素循環ポンプ
12 モータハウジング
13 ポンプハウジング
14、15 回転軸
16 モータステータ
17 モータロータ
18、19 ギア
20、21 ロータ
22、23、24、25、26、27 転がり軸受
図1
図2
図3
図4