(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170689
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】電極材料、電極及びキャパシタ
(51)【国際特許分類】
H01G 11/36 20130101AFI20231124BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20231124BHJP
【FI】
H01G11/36
H01G11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082604
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】521322812
【氏名又は名称】株式会社マテリアルイノベーションつくば
(74)【代理人】
【識別番号】110003753
【氏名又は名称】弁理士法人シエル国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100173646
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 桂子
(72)【発明者】
【氏名】張 坤
(72)【発明者】
【氏名】尹 航
(72)【発明者】
【氏名】羽藤 之規
【テーマコード(参考)】
5E078
【Fターム(参考)】
5E078AA01
5E078AA05
5E078AB06
5E078BA15
5E078BA44
5E078BA47
5E078BA53
5E078BA71
5E078DA02
(57)【要約】
【課題】高容量でかつ耐久性にも優れたリチウムイオンキャパシタを実現できる電極材料、この電極材料を用いた電極及びキャパシタを提供する。
【解決手段】グラフェンとカーボンナノチューブとの複合体10であって、X線光電子分光法により測定される炭素原子と酸素原子の比(C/O)が7以上であり、カーボンナノチューブの含有量が20質量%未満(0質量%は含まない)であるものを含む電極材料を用いて電極を形成し、この電極を例えば正極に用いてリチウムイオンキャパシタを構成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェンとカーボンナノチューブとの複合体を含む電極材料であって、
前記複合体は、
X線光電子分光法により測定される炭素原子と酸素原子の比(C/O)が7以上であり、
カーボンナノチューブの含有量が20質量%未満(0質量%は含まない)である電極材料。
【請求項2】
前記複合体は、層間にカーボンナノチューブが存在するグラフェン積層体である請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
前記複合体は、X線光電子分光法により測定される炭素原子と酸素原子の比(C/O)が12以上である請求項1に記載の電極材料。
【請求項4】
前記複合体は、略球状の凝集体を構成している請求項1に記載の電極材料。
【請求項5】
前記凝集体の表面にポリマー層が形成されている請求項4に記載の電極材料。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の電極材料を用いて形成された電極。
【請求項7】
導電材料及びバインダを更に含有する請求項6に記載の電極。
【請求項8】
請求項6に記載の電極を備えるキャパシタ。
【請求項9】
リチウムイオンキャパシタであり、正極に前記電極が用いられている請求項8に記載のキャパシタ。
【請求項10】
X線光電子分光法により測定される炭素原子と酸素原子の比(C/O)が12以上のグラフェン粉末を含む電極材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェンを用いた電極材料、この電極材料を用いて形成された電極及びキャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、sp2炭素原子が六角形に結合した二次元網目構造を有するシート状物質であり、高導電性及び高強度で、耐熱性も優れることから、電子材料などのエレクトロニクス分野の他、生体・医療材料や航空宇宙材料など様々な分野で注目されている。特に、単層グラフェンは、比表面積が大きく、高容量化が期待できることから、電池やキャパシタの電極材料として検討が進められている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
特許文献1には、X線光電子分光法により測定される炭素原子と酸素原子の比(C/O)を2.5~4にすることにより、溶媒への分散性及び電気伝導度を向上させた酸化グラフェンが記載されている。また、特許文献2には、BET測定法により測定される比表面積が80~250m2/gであり、かつX線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の元素比(O/C比)が0.09~0.30のグラフェン粉末が提案されている。
【0004】
一方、特許文献3には、グラフェンとカーボンナノチューブの複合体でカソードを形成すると共に、Liドープされたグラフェンとカーボンナノチューブの複合体でアノードを形成し、カソードに対するアノードの質量比を0よりも大きく1.0未満にしたリチウムイオンキャパシタが提案されている。この特許文献3に記載のグラフェンとカーボンナノチューブの複合体は、単層カーボンナノチューブをスペーサとして単層グラフェンが積層された構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-143162号公報
【特許文献2】国際公開第2016/056557号公報
【特許文献3】特許第6732302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した特許文献1に記載の酸化グラフェンは、多数の酸素含有官能基を含むため、導電率が低く、電気化学的性能に影響するという問題点がある。また、特許文献2に記載のグラフェン粉末は、グラフェンシート間で再積み重ね(スタッキング)しやすいという問題点がある。実際に蓄電デバイスを構築する際には、電極材料は、導電材料やバインダ(結着剤)と混合され、膜状に加工されるが、特許文献2のグラフェン粉末は、このような導電材料やバインダと混合した際に、これらがグラフェンの表面に吸着してグラフェンシート間で再積み重ねが発生し、電解質イオンの侵入や拡散に影響を与え、蓄電デバイスのエネルギー特性を低下させる可能性がある。
【0007】
一方、特許文献3に記載のリチウムイオンキャパシタは、電極材にグラフェンとカーボンナノチューブの複合体を用いているため、比容量及びエネルギー密度を向上させることができるが、リチウムイオンキャパシタの適用範囲拡大のため、耐久性の向上及び更なる高容量化が求められている。
【0008】
そこで、本発明は、高容量でかつ耐久性にも優れたリチウムイオンキャパシタを実現できる電極材料、この電極材料を用いた電極及びキャパシタを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電極材料は、グラフェンとカーボンナノチューブとの複合体を含む電極材料であって、前記複合体は、X線光電子分光法により測定される炭素原子と酸素原子の比(C/O)が7以上であり、カーボンナノチューブの含有量が20質量%未満(0質量%は含まない)である。
前記複合体としては、例えば層間にカーボンナノチューブが存在するグラフェン積層体を用いることができる。
前記複合体は、X線光電子分光法により測定される炭素原子と酸素原子の比(C/O)が12以上でもよい。
前記複合体は、略球状の凝集体を構成していてもよい。
その場合、前記凝集体の表面にポリマー層が形成されていてもよい。
【0010】
本発明に係る電極は、前述した電極材料を用いて形成されたものであり、前述した電極材料の他に、例えば導電材料と、バインダとを含有する。
【0011】
本発明に係るキャパシタは、前述した電極を備えるものである。
本発明のキャパシタがリチウムイオンキャパシタである場合、正極として前記電極を用いることができる。
【0012】
本発明に係る他の電極材料は、X線光電子分光法により測定される炭素原子と酸素原子の比(C/O)が12以上のグラフェン粉末を含むものである。
【0013】
本発明において規定する炭素原子と酸素原子の比(C/O)は、X線光電子分光法(XPS)により測定した炭素原子(C)及び酸素原子(O)の量から算出した値であり、以下の説明においても同様である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高容量でかつ耐久性にも優れたリチウムイオンキャパシタを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】グラフェンとカーボンナノチューブの複合体の構造例を模式的に示す図である。
【
図2】グラフェンとカーボンナノチューブの複合体の凝集体の態様を模式的に示す図である。
【
図3】リチウムイオンキャパシタの構造例を示す模式図である。
【
図4】横軸に出力密度、縦軸にエネルギー密度をとって、本発明のキャパシタの性能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0017】
(第1の実施形態)
先ず本発明の第1の実施形態に係る電極材料について説明する。本実施形態の電極材料は、グラフェンとカーボンナノチューブ(CNT)との複合体(以下、グラフェン/CNT複合体ともいう。)で構成されているか、又は、主原料としてグラフェン/CNT複合体を含む。そして、本実施形態の電極材料で用いられるグラフェン/CNT複合体は、X線光電子分光法(XPS)により測定される炭素原子と酸素原子の比(C/O)が7以上であり、かつ、カーボンナノチューブの含有量が20質量%未満(0質量%は含まない)である。
【0018】
[グラフェン/CNT複合体の構造]
図1はグラフェン/CNT複合体の構造例を模式的に示す図である。本実施形態の電極材料に用いられるグラフェン/CNT複合体は、グラフェンとCNTとを複合化したものであればよく、その構造は特に限定されるものではないが、例えば、
図1に示すグラフェン/CNT複合体10のように、単層グラフェン1とカーボンナノチューブ2が交互に積層された構造のものを用いることができる。
【0019】
なお、
図1に示すグラフェン/CNT複合体10では、グラフェン1が等間隔にかつ相互に平行になるよう規則的に配置されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、グラフェン1がランダムに配置されていてもよい。CNT2も同様に、面内方向に相互に平行に配置されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、グラフェン1の層間にランダムに配置されていてもよい。
【0020】
更に、CNT2の種類は、特に限定されるものではなく、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、二層カーボンナノチューブ(DWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)のいずれでもよい。CNT2のサイズは、特に限定するものではないが、グラフェン中でCNTの均一分散を促進し、グラフェン1との複合化をより効率的に行う観点から、長さは1~20μmであることが好ましく、また、平均外径は0.4~5.0nmであることが好ましく、より好ましくは1.0~3.0nmである。
【0021】
グラフェン1はπ-πスタッキングにより凝集しやすいという特徴があるが、グラフェン/CNT複合体10では、単層グラフェン1の層間に存在するCNT2がスペーサとして機能するため、スタッキングが防止され、高い比表面積を確保することができる。また、電極に加工した際は、単層グラフェン1の層間の隙間に電解液が流入し、電解液イオンがグラフェン表面に吸着されやすくなる。また、グラフェン/CNT複合体10は、電気伝導率が高いカーボンナノチューブ2が、グラフェン1の層間に存在しているため、厚さ方向の電気伝導率も高い。
【0022】
本実施形態の電極材料に用いられるグラフェン/CNT複合体は、略球状の凝集体を構成していてもよく、その場合、凝集体の表面にポリマー層が形成されていてもよい。
図2はグラフェン/CNT複合体10の凝集体の態様を模式的に示す図である。
図2に示す凝集体20は、グラフェン/CNT基本骨格が凝集されたものであり、グラフェン/CNT複合体10の形状は維持されている。このため、グラフェン/CNT複合体10が有する優れた導電性や電解質イオンの吸着性能を維持しつつ、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ及びリチウムイオン電池などの蓄電デバイスに用いた際に、これらのエネルギー密度及び出力密度を向上させることができる。
【0023】
ここで、グラフェン/CNT複合体10の略球状凝集体20は、例えば、グラフェンの層間にCNTが位置するグラフェン/CNT複合体10を、炭素数が1~5の低級アルコール又はこのような低級アルコールと水との混合液に分散させることにより形成することができる。
【0024】
[グラフェン/CNT複合体のC/O:7以上]
本実施形態の電極材料で用いられるグラフェン/CNT複合体は、X線光電子分光法(XPS)により測定される炭素原子と酸素原子の比(C/O)が7以上である。グラフェン/CNT複合体のC/O比が7未満の場合、電極にしたときに十分な耐久性が得られず、繰り返し使用すると容量保持率が低下する。グラフェン/CNT複合体のC/O比は12以上が好ましく、これにより、広い温度範囲で、高容量を長期間保持できるキャパシタ用電極を実現することができる。
【0025】
ここで、グラフェン/CNT複合体のC/Oの値は、例えば複合体を構成するグラフェンのC/O比を変更することで調整することができる。グラフェン/CNT複合体を構成するグラフェンは酸化グラフェンを還元することにより調製されるが、その際、酸化グラフェンの還元時間、還元温度又は還元剤の濃度などを変更することにより、得られるグラフェンのC/O比を調整することができる。
【0026】
[グラフェン/CNT複合体のCNT含有量:20質量%未満]
本実施形態の電極材料で用いられるグラフェン/CNT複合体は、CNT含有量が20質量%未満である。CNT含有量を20質量%以上にすると、相対的にグラフェン含有量が減少するため、このようなグラフェン/CNT複合体を電極材料として用いると、蓄電デバイスのエネルギー特性が低下する。なお、本実施形態の電極材料では、CNTは必須の成分であるため、CNT含有量が0質量%は含まない。
【0027】
以上詳述したように、本実施形態の電極材料は、炭素原子と酸素原子の比(C/O)が7以上で、かつ、CNT含有量が20質量%未満であるグラフェン/CNT複合体を含むため、耐久性に優れ、高温下においても高いセル容量を維持できるキャパシタ用電極を実現することができる。
【0028】
(第2の実施形態)
次に、本実施形態の第2の実施形態に係る電極について説明する。本実施形態の電極は、前述した第1の実施形態の電極材料により形成されたものであり、少なくともグラフェン/CNT複合体を含有し、更に導電材料及びバインダなどを含有していてもよい。
【0029】
本実施形態の電極に用いられる導電材料は、特に限定されるものではなく、通常の電極において導電材料として使用されるものであればよいが、グラフェンとの親和性の観点から、カーボンブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラックおよびケッチェンブラックなどの炭素材料が好ましい。
【0030】
また、バインダも、通常の電極において使用される有機溶剤系バインダ及び水系バインダの中から適宜選択して使用することができる。具体的には、有機溶剤系バインダとしては、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、その変性四フッ化エチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などが挙げられ、水系バインダとしては、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)などが挙げられる。これらの中でも、特に、水系バインダのCMCとSBRとを組み合わせて用いることが好ましい。
【0031】
本実施形態の電極は、例えば、グラフェン/CNT複合体と、導電材料と、バインダに、水などの溶媒を加え、充分混合することによりスラリー化したものを、ロールコーターなどを用いて、アルミニウムエッチング箔などからなる金属箔集電体の両面にコーティングして電極層を成形し、乾燥することで形成することができる。また、本実施形態の電極は、リチウムイオンキャパシタなどの各種キャパシタ、リチウムイオン二次電池などの各種二次電池、その他の蓄電デバイスに加えて、燃料電池、各種反応用電極など、様々な用途に用いることができる。
【0032】
本実施形態の電極は、炭素原子と酸素原子の比(C/O)が7以上で、かつ、CNT含有量が20質量%未満であるグラフェン/CNT複合体を含む電極材料で形成されているため、耐久性に優れ、高温下においても高いセル容量を維持できるキャパシタを実現することができる。
【0033】
(第3の実施形態)
次に、本実施形態の第3の実施形態に係るキャパシタについて説明する。本実施形態のキャパシタは、前述した第2の実施形態の電極を備えるものである。
【0034】
図3はリチウムイオンキャパシタ(LIC)の構造を示す模式図である。例えば、本実施形態のキャパシタが、
図3に示すリチウムイオンキャパシタ30である場合、正極(カソード)31と負極(アノード)32が、スペーサ33を挟んで相互に離間して対向配置され、これらの電極の間にLiイオン電解質34が充填された構成となる。そして、このリチウムイオンキャパシタでは、少なくとも正極(カソード)31として、前述した第2の実施形態の電極が用いられている。
【0035】
本実施形態のリチウムイオンキャパシタに用いられている電極材料は、例えば、エネルギー密度が177Wh/kg以上、出力密度が108W/kg以上であるため、従来品に比べて、高出力で高容量のキャパシタが得られる。
【0036】
本実施形態のキャパシタは、少なくとも正極が、炭素原子と酸素原子の比(C/O)が7以上で、かつ、CNT含有量が20質量%未満であるグラフェン/CNT複合体又はこの複合体を含む電極材料で形成されているため、従来品に比べて高容量でかつ耐久性にも優れている。具体的には、従来のリチウムイオンキャパシタに用いられている電極材料では、単位質量あたりの容量が70~80F/g、動作電圧が2.2~3.8V程度であるが、本実施形態のリチウムイオンキャパシタで用いている電極材料は、単位質量あたりの容量が約160F/g、動作電圧が2.2~4.3Vとなり、従来のリチウムイオンキャパシタに比べてエネルギー密度が約3倍となる。
【0037】
図4は横軸に出力密度、縦軸にエネルギー密度をとって、各種キャパシタの性能を示す図である。
図4に示すように、電極材料に炭素原子と酸素原子の比(C/O)が7以上で、かつ、CNT含有量が20質量%未満であるグラフェン/CNT複合体を用いた本発明のリチウムイオンキャパシタは、従来の電気二重層キャパシタに比べて出力密度を大幅に向上させることができ、リチウムイオン二次電池を凌ぐ蓄電デバイスを設計可能である。
【0038】
(第4の実施形態)
次に、本実施形態の第4の実施形態に係る電極材料について説明する。前述した第1の実施形態の電極材料ではグラフェン/CNT複合体を用いているが、本発明はこれに限定するものではなく、CNTとの複合体にせず、グラフェンを単独で用いることもできる。具体的には、本実施形態の電極材料は、XPSにより測定される炭素原子と酸素原子の比(C/O)が12以上のグラフェン粉末である。
【0039】
本実施形態の電極材料は、炭素原子と酸素原子の比(C/O)が12以上のグラフェン粉末を含むため、耐久性に優れ、高温下においても高いセル容量を維持できるキャパシタ用電極を実現することができる。
【実施例0040】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。
【0041】
<第1実施例>
本発明の第1実施例として、炭素原子と酸素原子の比(C/O)が異なるグラフェン/CNT複合体を用いて電極を作製し、この電極を正極に用いたリチウムイオンキャパシタの特性を評価した。
【0042】
〔セル性能〕
セル性能の評価は、以下の方法及び基準で行った。
【0043】
(1)正極の製造
グラフェン/CNT複合体粉末87質量部に、アセチレンブラック粉体5質量と、アクリル系バインダ4質量部と、カルボキシメチルセルロース4質量部と、水210質量を配合し、充分混合することにより、正極用スラリーを得た。また、正極用集電体には、厚さ31μmのアルミニウム貫通箔を用いた。そして、ロールコーターにより前述した正極用スラリーを正極用集電体の両面に塗布し、正極電極層を形成した後、真空乾燥した。得られた正極の全体の厚さ(両面の正極電極層の厚さと正極用集電体の厚さの合計)は195μmであった。
【0044】
(2)負極の製造
粒子径(D50)が5±0.5μmである黒鉛88質量部に、アセチレンブラック粉体5質量と、SBR(スチレンブタジエンゴム)系バインダ3質量部と、カルボキシメチルセルロース4質量部と、水210質量を配合し、充分混合することにより、負極用スラリーを得た。また、負極用集電体には、厚さ21μmの銅箔を用いた。そして、ロールコーターにより前述した負極用スラリーを負極用集電体の両面に塗布し、負極電極層を形成した後、真空乾燥した。得られた負極の全体の厚さ(両面の負極電極層の厚さと負極用集電体の厚さの合計)は66μmであった。
【0045】
(3)正極の単位質量あたりの静電容量測定
前述した方法で作製した正極を、3.0cm×3.0cmのサイズで2枚切り出し、評価用電極とした。この2枚の評価用電極それぞれに端子を超音波融着した後、厚さ25μmのセルロース製セパレータを挟んで対向配置し、ポリプロピレンとアルミニウムとナイロンとを積層したラミネートフィルムからなる外装体に収納した。そして、外装体内に電解液(1M LiPF6/EC(Ethylene carbonate):DEC(Diethyl carbonate)=1:1(v/v%)混合溶媒)を注入し、電極端子の端部を外装体外に引き出した状態で外装体をヒートシールすることにより封入して、評価ラミネートセルを得た。
【0046】
次に、評価用ラミネートセルを用いて、室温において、0~2.7Vの電位範囲で測定を行い、下記数式1に基づき単位重量あたりの静電容量C(F/g)を算出した。なお、下記数式1におけるI(A)は定電流であり、m(g)は2つの電極の合計質量であり、dV/dt(V/s)は、Vmax(放電開始時の電圧)と1/2Vmaxとの間の放電曲線を直線フィッティングすることで得られる傾きである。
【0047】
【0048】
(4)負極の単位質量あたりの静電容量測定
前述した方法で作製した負極を、3.0cm×3.0cmのサイズに切り出し、評価用電極とした。また、この評価用電極の対極として、3.0cm×3.0cmのサイズで、厚さが100μmのリチウム金属を用い、厚さ50μmのポリプロピレン製の微多孔膜をセパレータとして、半電池を作製した。その際、参照電極としてリチウム金属を用いた。電解液には、1M LiPF6/EC:DEC=1:1(v/v%)を用いた。
【0049】
充電電流密度を50mA/gとし、負極活物質重量に対して500mAh/g分のリチウムイオンを充電し、その後50mA/gで3Vまで放電を行った。放電開始後1分後の負極の電位から0.2V電位変化する間の放電時間から、負極の単位重量あたりの静電容量を求めたところ14000F/gであった。
【0050】
(5)セルの作製
正極を2.8cm×2.8cmのサイズで10枚切り出すと共に、負極を3.0cm×3.0cmのサイズで9枚切り出し、それぞれ1枚ずつセパレータを介して積層し、120℃で12時間乾燥した。その後、最上層と最下層にセパレータを配置し、4辺をテープ留めして、リチウム金属を銅ラス(銅製メッシュ材)に圧着したものを正極と対向するように最外部に1枚配置し、電極積層ユニットを得た。
【0051】
前述した方法で作製した電極積層ユニットの正極集電体の端子溶接部に、アルミニウム製正極端子を重ねて超音波溶接した。また、負極集電体とリチウム金属箔を圧着した銅ラスの端子溶接部に、ニッケル製負極端子を重ねて超音波溶接した。そして、電極端子の端部を外装ラミネートフィルムポーチ(9.8mm×9.8mm×2.9mm)外に引き出した状態三辺を熱融着し、電解液として1M LiPF6/EC:DEC=1:1(v/v%)を真空含浸させた後、残りの一辺を減圧下にて熱融着して真空封止を行うことにより、フィルム型キャパシタセルを組立てた。
【0052】
(6)セルの特性評価
前述した方法で組み立てたセルを14日間放置した後、セルの電圧を測定したところ2.7V以上あったため、リチウムイオンが予備充電されたと判断した。そこで、先ず、100mAの定電流でセル電圧が4.3Vになるまで充電し、次いで、100mAの定電流でセル電圧が2.2Vになるまで放電した。この4.3V-2.2Vのサイクルから、初期静電容量を評価した。
【0053】
〔耐久性〕
耐久性は、雰囲気温度65℃で、セル電圧として4.2Vを印加した状態で、2000時間経過した後の静電容量及び静電容量保持率をシミュレーションし、以下の3段階で評価した。
×:容量保持率が90%未満であったもの。
○:容量保持率が90~95%であったもの。
◎:容量保持率が95%を超えたもの。
【0054】
以上の結果を下記表1に示す。
【0055】
【0056】
上記表1に示すように、炭素原子と酸素原子の比(C/O)が7未満のグラフェン/CNT複合体を用いたNo.1~3の試料は、エネルギー密度、出力密度又は耐久性が劣っていた。これに対して、炭素原子と酸素原子の比(C/O)が7以上のグラフェン/CNT複合体を用いたNo.4~12の試料は、エネルギー密度及び出力密度が高く、耐久性にも優れていた。
【0057】
<第2実施例>
本発明の第2実施例として、炭素原子と酸素原子の比(C/O)が異なるグラフェン粉末を用いて電極を作製し、この電極を正極に用いたリチウムイオンキャパシタの特性を、前述した第1実施例と同様の方法で評価した。その評価結果を下記表2に示す。
【0058】
【0059】
上記表2に示すように、炭素原子と酸素原子の比(C/O)が12未満のグラフェン粉末を用いたNo.21,22,28の試料は、出力密度が低く、耐久性も劣っていた。また、酸化グラフェンを用いたNo.26,27の試料は、測定ができず、電極としては不適なものであった。これに対して、炭素原子と酸素原子の比(C/O)が12以上のグラフェン粉末を用いたNo.23~25,29,30の試料は、エネルギー密度及び出力密度が高く、耐久性にも優れていた。
【0060】
以上の結果から、本発明によれば、高容量でかつ耐久性にも優れたリチウムイオンキャパシタを実現できることが確認された。