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特開2023-170730ミトコンドリア機能の低下を判定する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170730
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】ミトコンドリア機能の低下を判定する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20231124BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALN20231124BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
C12Q1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082701
(22)【出願日】2022-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000125381
【氏名又は名称】学校法人藤田学園
(71)【出願人】
【識別番号】503168256
【氏名又は名称】株式会社スタージェン
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 宏久
(72)【発明者】
【氏名】鎌谷 直之
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA26
2G045CB30
2G045DA80
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QS22
(57)【要約】
【課題】本願発明は、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患又はlong COVIDの病態の判定のための新たなバイオマーカーの提供を課題とする。あるいは、これらの患者に対するATP増強療法の効果を事前予測あるいは事後に判定するための方法の提供を課題とする。
【解決手段】患者由来サンプル中のイノシンを測定する工程を含む、患者のミトコンドリア機能低下を判定する方法であって、サンプルが患者の髄液由来サンプルであることを特徴とする前記方法を提供する。また、患者由来サンプル中のイノシンを測定する工程を含む患者に対するATP増強療法の効果を予測あるいは判定する方法であって、ATP増強療法が以下の(A)及び(B)を有効成分とするATP増強剤を患者に投与する工程を含む療法であり、患者由来サンプルが患者の髄液由来サンプルであることを特徴とする前記方法を提供する。(A)キサンチン酸化還元酵素(xanthine oxidoreductase; XOR)阻害薬(B)ヒポキサンチン又は体内でヒポキサンチンを生じる物質
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者由来サンプル中のイノシンを測定する工程を含む、
患者のミトコンドリア機能低下を判定する方法であって、
サンプルが患者の髄液由来サンプルであることを特徴とする前記方法。
【請求項2】
患者が、神経変性疾患患者又はlong COVID患者である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
神経変性疾患患者が、パーキンソン病患者又はアルツハイマー病患者である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ミトコンドリア機能低下が、中枢神経のミトコンドリア機能低下である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
患者由来サンプル中のイノシンを測定する工程を含む
患者に対するATP増強療法の効果を予測あるいは判定する方法であって、
ATP増強療法が以下の(A)及び(B)を有効成分とするATP増強剤を患者に投与する工程を含む療法であり、患者由来サンプルが患者の髄液由来サンプルであることを特徴とする前記方法。
(A)キサンチン酸化還元酵素(xanthine oxidoreductase; XOR)阻害薬
(B)ヒポキサンチン又は体内でヒポキサンチンを生じる物質
【請求項6】
患者が、神経変性疾患患者又はlong COVID患者である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
神経変性疾患患者が、パーキンソン病患者又はアルツハイマー病患者である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
患者由来サンプル中のヒポキサンチンを測定する工程を含む
患者のミトコンドリア機能低下を判定する方法であって、
患者由来サンプルが患者の血清又は血漿由来サンプルであることを特徴とする前記方法。
【請求項9】
患者が、神経変性疾患患者又はlong COVID患者である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
神経変性疾患患者が、パーキンソン病患者又はアルツハイマー病患者である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
患者由来サンプル中のヒポキサンチンを測定する工程を含む
患者に対するATP増強療法の効果を予測あるいは判定する方法であって、
ATP増強療法が以下の(A)及び(B)を有効成分とするATP増強剤を患者に投与する工程を含む療法であり、患者由来サンプルが患者の血清又は血漿由来サンプルであることを特徴とする前記方法。
(A)キサンチン酸化還元酵素(xanthine oxidoreductase; XOR)阻害薬
(B)ヒポキサンチン又は体内でヒポキサンチンを生じる物質
【請求項12】
患者が、神経変性疾患患者又はlong COVID患者である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
神経変性疾患患者が、パーキンソン病患者、アルツハイマー病患者又はlong COVID患者である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
患者由来サンプル中のヒポキサンチンを測定する工程を含む
患者のミトコンドリア機能低下を判定する方法であって、
患者由来サンプルが患者の髄液由来サンプルであることを特徴とする前記方法。
【請求項15】
患者が、神経変性疾患患者又はlong COVID患者である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
神経変性疾患患者が、パーキンソン病患者、アルツハイマー病患者又はlong COVID患者である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
患者由来サンプル中のヒポキサンチンを測定する工程を含む
患者に対するATP増強療法の効果を予測あるいは判定する方法であって、
ATP増強療法が以下の(A)及び(B)を有効成分とするATP増強剤を患者に投与する工程を含む療法であり、患者由来サンプルが患者の髄液由来サンプルであることを特徴とする前記方法。
(A)キサンチン酸化還元酵素(xanthine oxidoreductase; XOR)阻害薬
(B)ヒポキサンチン又は体内でヒポキサンチンを生じる物質
【請求項18】
患者が、神経変性疾患患者又はlong COVID患者である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
神経変性疾患患者が、パーキンソン病患者、アルツハイマー病患者又はlong COVID患者である、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、患者のミトコンドリア機能の低下を判定する方法に関する。詳しくは、患者由来検体のイノシン又はヒポキサンチン濃度にもとづき、患者のミトコンドリア機能の低下を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経変性疾患やlong COVIDなどでミトコンドリア障害によるATP欠乏が原因となっている多くの証拠がある。キサンチン酸化還元酵素(xanthine oxidoreductase: XOR)阻害薬であるフェブキソスタットがアルツハイマー病を抑制することが複数の膨大な疫学研究より明らかになり、その作用機序が血液中のヒポキサンチンを増加させ、それが中枢神経に移行してATPを増強することによることが明らかになった。XOR阻害薬にヒポキサンチンの前駆物質であるイノシンを併用することにより(ATP増強療法)更に大幅にヒポキサンチンを増加させ、臨床試験によりミトコンドリア病とパーキンソン病を改善する効果がある事が明らかになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-201068号公報
【特許文献2】特開2021-161090号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Fox IH, Palella TD, Kelley WN. Hyperuricemia: a marker for cell energy crisis. N Engl J Med 317, 111-112, 1987
【非特許文献2】Atkinson DE, Walton GM. Adenosine triphosphate conservation in metabolic regulation. Rat liver citrate cleavage enzyme. J. Biol. Chem. 242: 3239-3241, 1967.
【非特許文献3】Johnson TA, Jinnah HA and Kamatani N. Shortage of cellular ATP as a cause of diseases and strategies to enhance ATP. Front Pharmacol. 10:98, 2019.
【非特許文献4】Short KR, Bigelow ML, Kahl J, et al. Decline in skeletal muscle mitochondrial function with aging in humans. Proc Natl Acad Sci U S A. 102:5618-5623, 2005.
【非特許文献5】Schwarzschild MA, Schwid SR, Marek K, et al. Serum urate as a predictor of clinical and radiographic progression in Parkinson disease. Arch Neurol. 65:716-723, 2008.
【非特許文献6】Kobylecki CJ, Nordestgaard BG, Afzal S. Plasma urate and risk of Parkinson's disease: A mendelian randomization study. Ann Neurol. 84:178-190, 2018.
【非特許文献7】Yuan H, Yang W. Genetically Determined serum uric acid and Alzheimer's disease risk. J Alzheimers Dis. 65:1259-1265, 2018.
【非特許文献8】Jucker M, Walker LC. Self-propagation of pathogenic protein aggregates in neurodegenerative diseases. Nature. 501:45-51, 2013.
【非特許文献9】https://doi.org/10.14283/jpad.2022.30
【非特許文献10】Dam T, Boxer AL, Golbe LI, et al. Safety and efficacy of anti-tau monoclonal antibody gosuranemab in progressive supranuclear palsy: a phase 2, randomized, placebo-controlled trial. Nat Med. 27:1451-1457, 2021.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明は、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患又はlong COVIDの病態の判定のための新たなバイオマーカーの提供を課題とする。あるいは、これらの患者に対するATP増強療法の効果を事前予測あるいは事後に判定するための方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
先行研究によりパーキンソン病やアルツハイマー病で低尿酸血症が発表されており、これはミトコンドリア機能低下によるATP消費低下の反映であると考えられる。しかし尿酸は再利用できない廃棄物なので、我々はATPとして再利用可能な、更に上流のイノシン、ヒポキサンチンも低下しているという仮説のもとに鋭意、臨床研究を行った結果、パーキンソン病とアルツハイマー病の血清中と髄液中のヒポキサンチン、および髄液中のイノシンの低下を明らかにした。
髄液中のイノシンは血清中濃度の約1/10であり、血液中からのイノシンの移行は少なく、髄液中のイノシンは中枢神経のミトコンドリア機能低下のバイオマーカーとなる事を発見した。
髄液中のヒポキサンチンは血清中と同様の濃度であり、全身のミトコンドリア機能低下のバイオマーカーとなる。血清中のヒポキサンチンが低いほどATP増強療法が効果的であることから、髄液中のイノシン、および髄液中または血清中のヒポキサンチンはATP増強療法の効果を事前に予測するための良い指標になる。
更に、ATP増強療法の第一の目的が血液中のヒポキサンチンの増加であることから、血清中のヒポキサンチンの測定はATP増強療法の効果の確認のための良いバイオマーカーとなる。髄液中のイノシンは中枢神経のミトコンドリア機能の指標となる事から、ATP増強剤による中枢のミトコンドリア機能の改善の良い指標となる。
long COVIDも同様にミトコンドリア機能低下によると強く疑われるため、long COVID患者においても血清と髄液中のヒポキサンチンの測定は全身のミトコンドリア機能低下の良いバイオマーカーとなり、髄液中のイノシンの測定は中枢神経のミトコンドリア機能の指標となる。これらは、ATP増強療法の効果を事前に予測するための指標となる。更にこれらはlong COVID患者においてATP増強療法によるミトコンドリア機能改善の良い指標となると考えられる。
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
<1>患者由来サンプル中のイノシンを測定する工程を含む、
患者のミトコンドリア機能低下を判定する方法であって、
サンプルが患者の髄液由来サンプルであることを特徴とする前記方法。
<2>患者が、神経変性疾患患者又はlong COVID患者である、<1>に記載の方法。
<3>神経変性疾患患者が、パーキンソン病患者又はアルツハイマー病患者である、<2>に記載の方法。
<4>ミトコンドリア機能低下が、中枢神経のミトコンドリア機能低下である、<1>~<3>のいずれかに記載の方法。
<5>患者由来サンプル中のイノシンを測定する工程を含む
患者に対するATP増強療法の効果を予測あるいは判定する方法であって、
ATP増強療法が以下の(A)及び(B)を有効成分とするATP増強剤を患者に投与する工程を含む療法であり、患者由来サンプルが患者の髄液由来サンプルであることを特徴とする前記方法。
(A)キサンチン酸化還元酵素(xanthine oxidoreductase; XOR)阻害薬
(B)ヒポキサンチン又は体内でヒポキサンチンを生じる物質
<6>
患者が、神経変性疾患患者又はlong COVID患者である、<5>に記載の方法。
<7>神経変性疾患患者が、パーキンソン病患者又はアルツハイマー病患者である、<6>に記載の方法。
<8>患者由来サンプル中のヒポキサンチンを測定する工程を含む
患者のミトコンドリア機能低下を判定する方法であって、
患者由来サンプルが患者の血清又は血漿由来サンプルであることを特徴とする前記方法。
<9>患者が、神経変性疾患患者又はlong COVID患者である、<8>に記載の方法。
<10>神経変性疾患患者が、パーキンソン病患者又はアルツハイマー病患者である、<9>に記載の方法。
<11>患者由来サンプル中のヒポキサンチンを測定する工程を含む
患者に対するATP増強療法の効果を予測あるいは判定する方法であって、
ATP増強療法が以下の(A)及び(B)を有効成分とするATP増強剤を患者に投与する工程を含む療法であり、患者由来サンプルが患者の血清又は血漿由来サンプルであることを特徴とする前記方法。
(A)キサンチン酸化還元酵素(xanthine oxidoreductase; XOR)阻害薬
(B)ヒポキサンチン又は体内でヒポキサンチンを生じる物質
<12>患者が、神経変性疾患患者又はlong COVID患者である、<11>に記載の方法。
<13>神経変性疾患患者が、パーキンソン病患者、アルツハイマー病患者又はlong COVID患者である、<12>に記載の方法。
<14>患者由来サンプル中のヒポキサンチンを測定する工程を含む
患者のミトコンドリア機能低下を判定する方法であって、
患者由来サンプルが患者の髄液由来サンプルであることを特徴とする前記方法。
<15>患者が、神経変性疾患患者又はlong COVID患者である、<14>に記載の方法。
<16>神経変性疾患患者が、パーキンソン病患者、アルツハイマー病患者又はlong COVID患者である、<15>に記載の方法。
<17>患者由来サンプル中のヒポキサンチンを測定する工程を含む
患者に対するATP増強療法の効果を予測あるいは判定する方法であって、
ATP増強療法が以下の(A)及び(B)を有効成分とするATP増強剤を患者に投与する工程を含む療法であり、患者由来サンプルが患者の髄液由来サンプルであることを特徴とする前記方法。
(A)キサンチン酸化還元酵素(xanthine oxidoreductase; XOR)阻害薬
(B)ヒポキサンチン又は体内でヒポキサンチンを生じる物質
<18>患者が、神経変性疾患患者又はlong COVID患者である、<17>に記載の方法。
<19>神経変性疾患患者が、パーキンソン病患者、アルツハイマー病患者又はlong COVID患者である、<18>に記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
患者検体の髄液中のイノシンを測定することにより、患者の中枢神神経のミトコンドリア機能低下を判定することができる。したがって、パーキンソン病やアルツハイマーなどの神経変性疾患の患者やlong COVID患者の中枢神神経のミトコンドリア機能低下を判断するための新たなバイオマーカーを提供することができる。
患者検体の髄液中のイノシン、又は髄液中若しくは血清中のヒポキサンチンを測定することにより、患者のミトコンドリア機能低下を判定することができる。したがって、パーキンソン病やアルツハイマーなどの神経変性疾患の患者やlong COVID患者のミトコンドリア機能低下を判断するための新たなバイオマーカーを提供することができる。
また、これらの測定は、ATP増強療法の治療効果の事前予測あるいは事後の効果の判定にも利用できることからより効果的な治療を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ATPの産生、消費、分解の経路を示す図である。
図2】XOR阻害薬とイノシンによる脳内ATP増強の機序を示す図である。
図3】血清ヒポキサンチンを用いた健常者とパーキンソン病患者の鑑別の感度、特異度、AUCを示す図である。
図4】健常者とパーキンソン病患者の髄液中のイノシンとヒポキサンチン濃度の比較結果を示す図である。
図5】髄液中イノシンを用いた健常者とパーキンソン病患者の鑑別の感度、特異度、AUCを示す図である。
図6】髄液中ヒポキサンチンを用いた健常者とパーキンソン病患者の鑑別の感度、特異度、AUCを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(ヒポキサンチンの測定方法)
ヒポキサンチン(hypoxanthineということもある)の測定は、各サンプル中の値を正しく反映できる測定方法であればどのような方法でもよい。血液や血液成分を対象とした測定については、ヒポキサンチンは採血後、急速に上昇する傾向があるため留意が必要である。その理由は、赤血球中のアデニンヌクレオチド(特にATP)が分解してヒポキサンチンを生じるからである。それを避けるためには血清分離をすばやく行うことが望ましい。血清を分離するためには試験管内で血液凝固が起きるのを待つ必要があるため、血液凝固を待たないで採取できる血漿中のヒポキサンチンを測定しても良い。
更に、アデニンヌクレオチドからヒポキサンチンを生じるには酵素反応が必要なので、採血後できるだけ早く過塩素酸(perchloric acid)などを用い除蛋白を行う方法も好ましく用いられる。その場合、血清や血漿ではなく、全血を対象として行う。全血の場合、赤血球中と血漿中でヒポキサンチンの濃度が異なる可能性があるので、濃度ではなく量で表したほうが好ましい。本発明におけるヒポキサンチンの測定は、髄液、血清、血漿、全血のいずれもサンプルとして使用することができる。
【0010】
全血中のヒポキサンチン量の測定法の一例を述べる。末梢血をEDTA-2Naを含む試験管に集め、採血後直ちに、良く血液を混合した後、500μLの血液を500μLの氷冷8%PCAと混合し、そして混合物を直ちにボルテックスする。その後、4℃で5秒間、12,000×gで遠心し上清を採取する。6MのKOH中の40μLの2MのK2CO3を650μLの上清に添加して、同時にPCAを沈殿させ、溶液を中和する。これを4℃、12,000×gで10分間遠心した後、上清40μLに移動相160μLを加えてHPLCに供する。以上は全血中のヒポキサンチン量の測定法の一例を述べたのであって、ヒポキサンチン量が正確に測定できる方法であれば他の方法でもよい。
【0011】
血漿中のヒポキサンチン濃度の測定法の一例を述べる。末梢血をEDTA-2Naを含む試験管に集め、採血後直ちに、常温で1,200×gで3分間遠心した後、上清の500μLの血漿を500μLの氷冷8%PCAと混合し、そして混合物を直ちにボルテックスする。その後の処置は上記の、全血中のヒポキサンチン量の測定法と同じである。以上は血漿中のヒポキサンチン濃度の測定法の一例を述べたのであって、ヒポキサンチン濃度が正確に測定できる方法であれば他の方法でもよい。
【0012】
血清中のヒポキサンチン濃度の測定法の一例を述べる。採血用の試験管に集め、血液が凝固した後、常温で1,200×gで3分間遠心し、上清の500μLの血清を500μLの氷冷8%PCAと混合し、そして混合物を直ちにボルテックスする。その後の処置は上記の、全血中のヒポキサンチン量の測定法と同じである。以上は血清中のヒポキサンチン濃度の測定法の一例を述べたのであって、ヒポキサンチン濃度が正確に測定できる方法であれば他の方法でもよい。
【0013】
髄液中のヒポキサンチン濃度の測定法の一例を述べる。髄液は空腹時に通常の腰椎穿刺を施行し、氷上に配置した状態で移動し、4℃に冷却した遠心機を用い、1500gで10分の遠心後に分注し、フリーザーで保存する。測定時に解凍し、カラムで不純物を除去した後、タンデム質量分析 (MS/MS分析) により測定する。以上は髄液中のヒポキサンチン濃度の測定法の一例を述べたのであって、ヒポキサンチン濃度が正確に測定できる方法であれば他の方法でもよい。
【0014】
(イノシンの測定方法)
髄液髄液中のイノシン濃度の測定法の一例を述べる。髄液は空腹時に通常の腰椎穿刺を施行し、氷上に配置した状態で移動し、4℃に冷却した遠心機を用い、1500gで10分の遠心後に分注し、フリーザーで保存する。測定時に解凍し、カラムで不純物を除去した後、タンデム質量分析 (MS/MS分析) により測定する。以上は髄液中のイノシン濃度の測定法の一例を述べたのであって、イノシン濃度が正確に測定できる方法であれば他の方法でもよい。
【0015】
(患者由来サンプル)
イノシンの測定対象サンプルとしては、患者の髄液由来サンプルであればよく、また、ヒポキサンチンの測定対象サンプルとしては、患者の髄液、血漿又は血清由来サンプルである。これらのサンプルは患者から採取した後さらに希釈液により希釈したり前処理したものを用いることができる。
【0016】
(神経変性疾患、long COVID)
本発明がミトコンドリア機能の低下を判定する疾患は、ミトコンドリア機能の低下に起因する疾患であり、神経変性疾患又はlong COVIDが挙げられる。
神経変性疾患とは、主にヒトの脳内のニューロンに障害を与える疾患に使用される用語である。ニューロンは脳や脊髄を含む神経系の情報伝達を司る細胞である。成人では、ニューロンは再生されず、損傷を受けても機能を回復することは困難である。神経変性疾患は、ニューロンの進行性の変性および死をもたらす不治の進行性疾患である。神経変性疾患の例には、パーキンソン病、パーキンソン症候群、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、アルツハイマー型認知証、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症およびハンチントン病が含まれる。
アルツハイマー型認知症はアルツハイマー病、レビー小体型認知症はびまん性レビー小体病、前頭側頭型認知症は前頭側頭葉変性症と同義で用いられる。前頭側頭型認知症治はピック病と同義で用いられる。
パーキンソン症候群には、パーキンソン病とは異なる原因によりパーキンソン病と同様の症状(パーキンソン症状)を示すものが含まれる。パーキンソン症候群とは、広い概念ではパーキソニズム(パーキンソン症状)と呼ばれる症候を有する疾患群の総称であり、パーキンソン病の症状とは、振戦(ふるえ)、筋強剛、動作緩慢、姿勢反射障害などである。
また、本発明において対象とする神経変性疾患は、パーキンソン病と類似の神経細胞内ATP低下という病態があるものであれば、本発明の範囲内に含まれる。
【0017】
パーキンソン病やアルツハイマー病と同様にミトコンドリア障害が強く疑われる疾患として、long COVIDがある。long COVIDは、post COVID-19 condition、post-acute COVID-19、long-haul COVIDとも言われ、日本語訳としては「COVID-19罹患後症状」などがあるが、本願明細書中は「long COVID」と表記する。Long COVIDは新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)によるCOVID-19の急性期が終了した後に症状が遷延する状態を指す。Long COVIDとして報告された症状は疲労、息苦しさ、味覚障害、関節痛、精神症状、睡眠障害、運動不耐性、持続的な微熱やリンパ節腫脹、関節痛、頭痛、brain fog (頭に”もや”がかかったように思考力や集中力が低下する状態)、多彩な自律神経症状 (非特許文献36)など多岐に渡ることが特徴である。更には膨大な保険データを用いたCOVID-19の急性期後の神経障害の増加(非特許文献37)が報告されている。即ち、米国メディケアデータの膨大なデータ検索で脳内出血、脳虚血、パーキンソン病、認知症、不安症候群、その他の精神障害が増加していた(非特許文献37)。更に最近、UK Biobankの縦断的研究の資料を用い、COVID-19罹患前後の脳画像の比較により脳全体のサイズの縮小を含む形態変化が報告された(非特許文献38)。そのため、COVID-19の罹患者の中で後日、パーキンソン病やアルツハイマー病の罹患率が増加することが危惧される(非特許文献37, 38)。
【0018】
[ATP消費のバイオマーカーとしての血清尿酸値]
生体エネルギーとして重要なATPはグルコースから細胞質で解糖系(glycolysis)によっても産生されるがミトコンドリア内で酸素を利用した酸化的リン酸化により産生される量が圧倒的に多い。
一方、ATPの消費は筋肉収縮など、エネルギーを必要とする多くの反応で行われるが、これによりATPは主としてADP、一部AMPとなる。AMPはadenylate kinase(AK)によりATPと反応し2分子のADPを生じ、ADPは前記の解糖系やミトコンドリア内でATPに変換され再使用される(図1)。ATPが緊急に必要な場合、細胞は2つのADP分子からAKによりATPとAMPを合成することもできる(図1)。
このような反応によって生じたAMPの大部分はATPとして再利用されるが、一部はAMP deaminase(AMPD)によりIMPとなり、IMPの大部分は再びAMPに変換され再利用されるが一部はイノシン、更にはヒポキサンチンに変換される(図1)。ヒポキサンチンの大部分はhypoxanthine-guanine phosphoribosyltransferase (HGPRT)によりIMPに変換され、更にはAMPへと変換され再利用されるが、ヒポキサンチンの一部はxanthine oxidoreductase (XOR)によりxanthineへ、更には尿酸へと変換され(図1)、多くは腎臓から、一部は腸管から体外へと排出される。
急速にATPが消費される原因として、激しい筋運動、果糖投与、アルコール摂取、脳活動の増加が知られており、この時、高尿酸血症が起きる。これをエネルギー危機にともなう高尿酸血症という(非特許文献1)。そのメカニズムはATPの大量消費によりAMPの蓄積が起きるとエネルギーチャージが低下するため、それを防ぐためAMPがAMPDにより分解されるためであると考えられている。エネルギーチャージは以下の式で表される量で、細胞のエネルギー供給能力を示す(非特許文献2)。
即ち、ATPが急激に消費される状態では尿酸が増加するが、これはIMP -> イノシン -> ヒポキサンチンの反応が増加し、ヒポキサンチンの一部がxanthineを通じ尿酸を生じているためと考えられる(図1)。従って、ATPが急激に消費されると尿酸とともにイノシン、ヒポキサンチンも増加する。
血清尿酸値は臨床検査で頻繁に測定されるので多くの報告がなされており、尿酸はATP消費のバイオマーカーと報告されている。尿酸はATP消費が増えると増加し、減ると低下する。ATP消費が低下する例としては老人、アルツハイマー病、パーキンソン病、低栄養などがあり、これらの疾患や状態では低尿酸血症が見られる(非特許文献3)。その理由は、加齢によりミトコンドリアの数と機能が低下するため(非特許文献4)、ATP産生と消費が共に低下するためと考えられる。低栄養では、エネルギー源となるブドウ糖や脂肪酸の不足によりATP産生が低下し、消費も低下すると考えられる。アルツハイマー病とパーキンソン病では、高齢者の中でも特にミトコンドリア機能低下が著しい場合に発生するため、低尿酸血症を来すと考えられる(非特許文献5-7)。即ち、低尿酸血症は、ミトコンドリア機能低下の一つの指標となると考えられる(非特許文献3)。
【0019】
[ATP消費のバイオマーカーとしてのイノシンとヒポキサンチンの可能性]
このように、尿酸はATP消費のバイオマーカーとしてしばしば測定され、尿酸値の低下はミトコンドリア機能低下の指標となると考えられるが、その前駆物質であるイノシンやヒポキサンチンは臨床現場ではほとんど測定されていない。しかし、代謝マップから考えると、尿酸はATP産生のために再利用できないがイノシンやヒポキサンチンは再利用可能なため、ATP産生のためにより重要と考え(図1)、本願発明者らは、イノシンとヒポキサンチンの濃度に注目して測定した。即ち、血清、髄液中のイノシンとヒポキサンチン濃度がアルツハイマー病やパーキンソン病においてミトコンドリア機能低下の指標になる可能性を検討した。
【0020】
[パーキンソン病とアルツハイマー病におけるミトコンドリア障害]
パーキンソン病とアルツハイマー病には共通する特徴として、病的タンパク質(パーキンソン病ではαシヌクレイン、アルツハイマー病ではタウとアミロイドβ)の蓄積と、それに伴うミクロ・マクロレベルの回路破綻が挙げられる (非特許文献8)。しかし、何故病的タンパク質が特定の領域に蓄積し、それが脳全体に伝播するのかという根源的な原因は不明である。また、αシヌクレインやアミロイドβの蓄積は臨床症状とは相関せず、抗体療法によるアミロイドβ (非特許文献9) やタウ (非特許文献10) の除去が臨床症状の改善にはつながらないことが問題となっている。
一方、ミトコンドリアの広範な機能と形態異常ならびに、ATPの産生において必須となるグルコースや脂肪酸の障害も両疾患に共通する特徴である。ATPを構成するプリンヌクレオチドの産生システムには、1)五炭糖リン酸回路(pentose monophosphate shunt)に由来する回路(de novo合成回路)、2) サルベージ回路(HGPRT によりヒポキサンチンからIMPを介してATPが産生される) がある(図1)。De novo回路は、1つのヌクレオチド分子を作り出すために7つのATP分子を消費するため非効率であることから、エネルギー節約の面からはサルベージ回路を利用する方が効率が良いと考えられる(非特許文献3)。サルベージ回路においてプリンヌクレオチド産生の中心的な役割を果たすヒポキサンチンは、髄液関門を通過するため(非特許文献11, 12)、血液中のヒポキサンチンを増加させることで、中枢内のATP増強が期待される(図1, 2)。
【0021】
[ATP増強療法とマーカーとしてのヒポキサンチン]
本願発明者はすでに、ヒポキサンチンをキサンチン、尿酸へと分解するXORを阻害するフェブキソスタットなどのXOR阻害薬に、ヒポキサンチンの前駆体であるイノシン(図1)を併用投与するATP増強療法を着想し、ヒトにおいて投与したところ、血液中ヒポキサンチンは平均7.7倍に増加し、赤血球のATPも増加することを確認している(非特許文献13)。なお、フェブキソスタット単独投与においてもヒポキサンチンはわずかに増加した(平均1.2倍)(非特許文献13)。この結果を基に、本願発明者らは、2名のミトコンドリア病患者を治療する臨床研究を行い、バイオマーカーの著明な改善を見た(非特許文献14)。即ち、ミトコンドリア心筋症患者においては心筋のミトコンドリア機能障害により心不全の指標であるBNPが大幅に上昇していたが、治療によりこれが改善し、ミトコンドリア糖尿病患者においては膵臓ランゲルハンス島のベータ細胞におけるミトコンドリア機能障害によりインスリン分泌機能障害が起きていたが、治療によりインスリン分泌が増加し、血糖値が低下し、その結果、インスリンインデックスが著明に改善した。更に、渡辺他はパーキンソン病30例にATP増強療法を2か月投与する臨床試験を行い、26例の評価可能な症例について血漿ヒポキサンチンの有意な増加とともに臨床的に有意な運動症状の改善を確認した(非特許文献15)。さらに投与前のヒポキサンチン低下例ほど、治療効果が明確であることを見出した(非特許文献16)。
フェブキソスタットは血液脳関門を通過せず、更に脳にはフェブキソスタットの標的酵素であるXORは発現しない(非特許文献3)。従って、フェブキソスタットは脳に作用するのではなく、肝臓のXORに作用してヒポキサンチンを上昇させ、ヒポキサンチンは血液に移行し、更に血液脳関門を通過して脳のヒポキサンチンを増加させ、更に脳のATPを増加させる(図2)(非特許文献3)。フェブキソスタットにイノシンを併用すると、血液中のヒポキサンチンはフェブキソスタットより更に増加し、脳のATPはさらに増加する(図2)(非特許文献13)。即ち、ATP増強療法は血液中のヒポキサンチンを増加させることが本質的なメカニズムであり、血液中のヒポキサンチン濃度が重要なマーカーとなる(非特許文献3)。
なお、最近になってフェブキソスタットがアルツハイマー病を抑制することが複数の膨大な疫学研究より明らかになった。即ち、米国(非特許文献17)、韓国(非特許文献18)の膨大な健康保険データによりフェブキソスタット服用者に認知症発生が少ないことが明らかになり、更に米国のAI研究からフェブキソスタットがアルツハイマー病の改善薬として抽出され、膨大な疫学調査でフェブキソスタット服用者はアルツハイマー病になりにくいことが証明された(非特許文献19)。これらの研究は、XORを阻害し、ヒポキサンチンを増加させることがアルツハイマー病の発生を抑制することを支持する報告である。
一連の検討から、病初期よりミトコンドリア機能低下やATP産生低下を認めるパーキンソン病やアルツハイマー病では、中枢内においてヒポキサンチンやその前駆体であるイノシンが低下している可能性を着想した。この仮説を証明するため、まずパーキンソン病においてイノシン濃度を髄液と血液で測定するとともに、髄液と血液のヒポキサンチン濃度を測定した。また、アルツハイマー病においても、同様に測定を行った。
【0022】
(ATP増強療法)
本発明のATP増強療法は、患者の細胞内のATPを増強することができる治療法であればよく、ATPの増強とは患者体内に存在する細胞内のATPを増加させる、あるいは減少を抑制する治療法をいう。
ATPの増強療法としては、以下の(A)及び/又は(B)を有効成分とするATP増強剤を患者に投与する工程を含む治療方法が挙げられる。
(A)キサンチン酸化還元酵素阻害剤
(B)ヒポキサンチン(Hypoxanthine)、または体内でヒポキサンチンに変換され得る化合物
ATP増強剤の有効成分の1つである(A)のキサンチン酸化還元酵素阻害剤としては、フェブキソスタット(商品名フェブリク(帝人ファーマ))、トピロキソスタット(商品名ウリアデック(三和化学研究所)、トピロリック(富士薬品))、アロプリノール(商品名ザイロリック(グラクソ・スミスクライン))などが挙げられる。また、これらの化合物の薬学的に許容される塩も本発明のA)の有効成分に含まれる。
ATP増強剤のもう1つの有効成分である(B)としては、イノシン、イノシン酸、ヒポキサンチン、アデノシン、AMP、ADP、ATP、サクシニルアデノシン、S-アデノシルホモシステイン、S-アデノシルメチオニン、およびそれらの薬学的に許容される塩から選ばれるいずれか1以上の化合物が挙げられる。このうちでもイノシンが望ましい。
本発明のATP増強剤は、このうちでも上記(A)及び(B)を組み合わせてなるATP増強剤が好ましい。
【0023】
(併用・組み合わせ)
本発明のATP増強療法の「(A)および(B)を併用する」とは、(A)の成分と(B)の成分の両方が服用されることを意味し、「(A)および(B)を組み合わせてなる」ATP増強剤とは、(A)および(B)が組み合わされて服用される態様の薬剤をすべて含む意味で用いられる。したがって、(A)の成分と(B)の成分が混合されて組成物を形成している合剤(配合剤)、あるいは混合されることなく、物理的に別々に存在するが、投与される際に同時期に投与されるようにまとめられて存在する薬剤の両者を含む。
合剤(配合剤)の例としては、混合されて製剤化されたものが挙げられる。製剤化の例としては、顆粒、粉体、固形剤、液体などの経口剤、吸入剤などが挙げられる。
物理的に別々に存在するが、投与される際に同時期に投与されるようにまとめられて存在する薬剤としては、いわゆるキット剤や、1つの袋に取りまとめられる形態が挙げられる。
同時期とは、必ずしも厳密な意味での同時を意味せず、効果が発揮される範囲で間隔を置く場合も本発明の同時期に含むものとする。例えば、一方を食前、一方を食後に飲むような場合は本発明の同時期に投与される場合に相当する。
【0024】
(投与量・投与方法)
本発明のATP増強療法に用いられるATP増強剤の投与量は、有効量であればよく、それぞれ以下の投与量が望ましい。例えば、上記の(A)のフェブキソスタットは、10~80mg/日、トピロキソスタットは、40~160mg/日、アロプリノール、約50~約800mg/日が望ましい。また、(B)のイノシンは、0.5~4.0g/日が望ましい。
投与方法は、上記投与量をそれぞれ1日1回または2回以上に分けて投与することが可能である。このうちでも、フェブキソスタットは、従来のフェブキソスタットの用法のように1日1回投与ではなく、1日2回の投与を行うことが望ましい。また、イノシンも1日1回よりも2回の投与が望ましい。したがって、イノシン、フェブキソスタットともに1日2回にわけて投与することがさらに望ましい。
合剤とする場合は、1日の投与量、投与方法を考慮して調整すればよく、フェブキソスタットとイノシンを、フェブキソスタット20mg、または40mgにイノシン0.5g、1g、1.5g、または2gを加えたものなどが望ましい。1錠にフェブキソスタット20mg、イノシン0.5gを加えたものが更に望ましい。
【実施例0025】
[実施例1]
1.試験方法
1-1.対象
(1)パーキンソン病(PD)患者
Movement Disorder Society Criteria 2015の診断基準 (Mov Disord. 2015;30:1591) において、パーキンソン病確実(probable)の基準を満たした PD患者 45 例 (男性 29例、女性16例、検査時年齢68.6 ± 7.4歳、平均罹病期間 88.5 ± 54.0ヶ月)を対象とした。
健常者として血清では年齢と性をマッチさせた30 例 ((男性 16例、女性14例、検査時年齢 68.9 ± 9.1歳)、髄液では、年齢をマッチさせた神経筋疾患の既往の無い20例(男性16例、女性4例、検査時年齢68.15±8.9歳)の検体を用いた。
(2)アルツハイマー病(AD)患者
記銘力障害を訴え、CDRで1.0、論理的記憶の客観的低下があり、Neurologic and Communicative Disorders and Stroke and the Alzheimer Disease Related Disorders Association (NINCDS-ADRDA) (Alzheimers Dement. 2011;7(3):263)の診断基準を満たし、MRIおよび脳血流検査においてアルツハイマー病と診断した患者1例の血清と髄液でも同様の検討を行った。
【0026】
(3)サンプルの調整
採血は早朝空腹時(最後の食事から最低6時間後)に施行した。
血清は、予め氷上で冷やした血清分離剤・凝固促進剤入りのスピッツに採血し、8~10回の転倒混和後に氷上に配置後に移動し、4℃に冷却した遠心機を用いて1500gで10分の遠心後に分注し、-80℃フリーザーで保存した。
血漿は、予め氷上で冷やしておいたEDTA-2Na入りのスピッツに採血し、8~10回の転倒混和後に氷上に配置後に移動し、4℃に冷却した遠心機を用い、1500gで10分の遠心後に分注し、-80℃フリーザーで保存した。
髄液は空腹時に通常の腰椎穿刺を施行し、採取時に血性髄液の徴候があれば、最初の1~2mlは捨て、その後の採取検体を検討に用いた。最初の約2mlは滅菌スピッツで採取し、タンパク、糖、細胞数を確認した。その後の6~7mlはアジア器材PPスクリュースピッツ15mlに直接採取し、転倒混和せず、氷上に配置した状態で移動し、4℃に冷却した遠心機を用い、1500gで10分の遠心後に分注し、-80℃フリーザーで保存した。
【0027】
(4)イノシン及びヒポキサンチンの測定方法
標準品として用いたイノシンとヒポキサンチンは富士フィルム和光(日本,大阪)より入手した。Nexera UHPLCシステム(Shimadzu, Kyoto, japan)と、Intrada Organic Acid カラム (150 x 2 mm, Imtakt, Kyoto, Japan) を60 ℃で用いて分離後、タンデム質量分析 (MS/MS分析) として、LCMS-8060またはトリプル四重極型質量分析計 LCMS-8060NX(島津製作所)を使用し、ポジティブイオンMRMモードで分析した。質量遷移は、ヒポキサンチン m/z 137 > 119、イノシン m/z 269 > 137とした。
ヒポキサンチンは、採血から保存までの時間が長くなると赤血球中のATPの分解に伴う上昇が想定されるため、まず健常者3例において採血から保存まで1時間の全血サンプルと採血から保存まで2時間の全血サンプルを用いて、ヒポキサンチンの値を比較した。結果として、それぞれの健常者で1.28倍、1.31倍、2.06倍の上昇を示すことを確認した。このため、全例について、採血から-80℃で管理したフリーザー内での保存までの時間を60分~70分とした。さらに、血清ヒポキサンチン値と血漿ヒポキサンチン値の相関を8名の被験者によって検討したところ、相関係数は0.973 (p < 0.0001)と極めて高く、今回は、血清を用いて解析を行った。統計解析にはJMP 16を用いた。
【0028】
2.試験結果
2-1.パーキンソン病患者
(1)血清中イノシン
血清中のイノシンは、パーキンソン病患者で4.63±5.62 μmol/L、健常者で6.22±10.09 μmol/Lと2群間で有意差は無かった(表1)。
(2)血清中ヒポキサンチン
血清中のヒポキサンチンは、パーキンソン病患者で2.28±1.19 μmol/L、健常者で6.72±6.73 μmol/Lとパーキンソン病において有意に低下していた (p < 0.0001)(表1)。ROC (Receiver Operating Characteristic curve) 曲線では、AUC (Area Under Curve) は0.78で、カットオフを2.612 μmol/Lとすると感度 75.56%、特異度 73.33%でパーキンソン病患者と健常者を鑑別可能であった(図3)。
(3)髄液中イノシン
髄液中のイノシンは、パーキンソン病患者で0.50±0.09 μmol/L、健常者で0.64±0.14 μmol/Lとパーキンソン病において有意に低下していた (p < 0.0001)(図4、横線は健常者とパーキンソン病を合わせた全体の平均値を示す)。ROC曲線では、AUC は0.835で、カットオフを0.579 μmol/Lとすると感度 80.0%、特異度 80.0%でパーキンソン病患者と健常者を鑑別可能であった(図5)。髄液中のイノシンの濃度は血清の約1/10であり(表1より血清中イノシンは4.63±5.62 μmol/L、図4より髄液中イノシンは0.50±0.09 μmol/L)、髄液の値と血清の値で相関関係は認めなかった(図は示さない)。
(4)髄液中ヒポキサンチン
髄液中のヒポキサンチンは、パーキンソン病患者で5.04±1.70 μmol/L、健常者で5.93±1.61μmol/Lとパーキンソン病患者において有意に低下していた (p = 0.0299)(図4)。ROC曲線では、AUC は0.67で、カットオフを4.972 μmol/Lとすると感度 60.0%、特異度 80.0%でパーキンソン病患者と健常者を鑑別可能であった(図6)。
(5)臨床スコアとの関係
パーキンソン病における臨床スコアとの関係の検討では、血清イノシンと血清ヒポキサンチンにおいて有意な相関を示す項目は無かった(表2)。
(6)キサンチン、尿酸
血清中の尿酸は、パーキンソン病患者で273.10±75.49 μmol/L、健常者で399.31±114.52 μmol/Lとパーキンソン病において有意に低下していた (p < 0.0001)(表1)。また、血清中のキサンチンは、パーキンソン病患者で1.88±1.05 μmol/L、健常者で3.62±4.79 μmol/Lとパーキンソン病において低下していたが有意差は無かった(表1)。
【0029】
2-2.アルツハイマー病患者
アルツハイマー病患者において、髄液中のイノシンは 0.55μmol/L、血清中のヒポキサンチンは0.64 μmol/Lと上記健常者に比べて低下していた。したがって、患者の髄液中イノシン又は血清中ヒポキサンチンの測定によりアルツハイマー病患者と健常者を鑑別可能であることがわかった。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
3.考察
(1)パーキンソン病患者では、髄液中のイノシンは健常者に比して有意に低下していたが、血清中のイノシンは低下していなかった。これまで髄液中のイノシンと血液中のイノシンの動態を比較・検討した報告はなく、本願発明において、パーキンソン病患者、健常者ともに髄液中のイノシン濃度は血清中のイノシン濃度の約1/10と極めて低く、髄液中のイノシン濃度と血清中のイノシン濃度が相関を示さないが初めて分かった。このことから、髄液中のイノシンは、血液中のイノシンの影響を受けず、主に中枢におけるヌクレオチド由来であることが分かった。一般に、パーキンソン病では、ミトコンドリア機能異常、糖代謝異常、脂肪酸代謝異常が存在し、PET(Positron Emission Tomography)検査においても脳内グルコース代謝の低下を認めることが知られているが(非特許文献3)、本願発明により、パーキンソン病患者の髄液イノシン濃度の低下は、中枢におけるミトコンドリア機能の低下、およびエネルギー代謝の低下を反映していることが確認できた。
したがって、パーキンソン病患者の髄液中のイノシンは、パーキンソン病患者の中枢におけるミトコンドリア機能の低下やエネルギー代謝の低下のバイオマーカーとなり、これらの濃度の測定により当該患者のミトコンドリア機能の低下やエネルギー代謝の低下を診断、判定することが可能となった。
【0033】
(2)ミトコンドリア機能異常を軸とするエネルギー代謝異常は、パーキンソン病やアルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患で広範に存在する。しかし、これまで中枢神経のミトコンドリア機能低下を反映するバイオマーカーは18F-FDG-PETによるグルコースの取り込み低下以外に無かった。髄液イノシン濃度は、アルツハイマー病でも低下していたことから中枢神経系のミトコンドリア機能低下と、その結果としてのエネルギー(ATP)低下を反映する良い指標になると考えられる。興味深いことに、髄液中のイノシン濃度はパーキンソン病の臨床指標とは強い相関を示さず、早期例や軽症例においても低下していたことから病初期から一貫した特徴であると考えられた。
したがって、パーキンソン病又はアルツハイマー病の病初期の段階で髄液中のイノシン濃度を測定することによりミトコンドリア機能の低下を判定し、早期の治療につなげることができる。
【0034】
(3)血清と髄液ヒポキサンチンは、パーキンソン病患者において健常者よりも有意に低下しており、その低下は血清において顕著であった。また、血清中と髄液中のヒポキサンチン濃度は健常者では有意差はなかった。これは、ヒポキサンチンが脳血液関門を容易に超えること(非特許文献11, 12)を示していると考えられる。パーキンソン病患者やアルツハイマー病患者では血小板内のミトコンドリア機能低下も見られることがcybrid研究により示されている(非特許文献20,21)。
従って、血清中のヒポキサンチンの低下は末梢のミトコンドリア機能低下の反映である可能性があり、ヒポキサンチンが血液脳関門を通過する事より、髄液中のヒポキサンチンも末梢のミトコンドリア機能低下の反映である可能性もある。
一方、本願発明により、髄液中のイノシンは血清の約1/10であったことから、イノシンは血液脳関門を通過せず、髄液中のイノシンは中枢神経のミトコンドリア機能低下を反映すると考えられた。
以上より、髄液中のイノシンを測定することにより、ミトコンドリア機能の低下、特に、中枢神経のミトコンドリア低下を判定することができることがわかった。また、中枢神経のミトコンドリア機能低下を患っているパーキンソン病患者及びアルツハイマー病患者に対して、極めて有用なバイオマーカーを提供することができる。
また、血清中又は髄液中のヒポキサンチンを測定することにより、ミトコンドリア機能の低下を判定することができることがわかった。また、ミトコンドリア機能低下を患っているパーキンソン病患者及びアルツハイマー病患者に対して、極めて有用なバイオマーカーを提供することができる。
【0035】
2.ATP増強療法の効果を予測あるいは判定する方法
近年、パーキンソン病とアルツハイマー病において、エネルギー代謝異常が病態の上流や進展において重要な役割を果たすとの知見が蓄積されている。パーキンソン病患者とアルツハイマー病患者から樹立したiPSC由来細胞では、共通して幅広いミトコンドリア機能異常を認める (非特許文献26)。また、両疾患とも、脳萎縮が生ずる前にPETにおけるブドウ糖代謝の低下を認める (非特許文献27, 28)。
ATPの低下は、プロテアソーム系の異常に伴う病的タンパク質の蓄積や活性酸素や神経炎症の増強といった病態以外にも、両疾患で認める部位特異的に病変が出現する現象の説明も可能である。パーキンソン病の最初期病変の1つである黒質緻密層の神経細胞軸索は高度に枝分かれし (非特許文献29)、リズミカルに発火する (非特許文献30)という特性を有するが、この特性はミトコンドリア障害に対する脆弱性と密接に係わる (非特許文献31)。
一方、アルツハイマー病では嗅内野において最初期病変が生じ、同領域は興奮性-抑制性-興奮性と連続する複雑なネットワークから構成され (非特許文献32) 、リズミカルに発火するという特性があり (非特許文献33)、特にアルツハイマー病病変の好発部位である第二層の神経細胞は、Reelin陽性で、高度のエネルギーを必要とする (非特許文献34)ため、ミトコンドリアの機能低下やATPの低下に脆弱であると考えられている。またマクロレベルな病変の拡がりでは、渡辺は、MRIを用いた脳内大規模ネットワーク解析研究から、脳の複数領域を統合する脳ハブ領域は、健常加齢では代償機転として働くが、パーキンソン病やアルツハイマー病では病変の好発部位になることを示した(非特許文35)。これらの事実は、加齢に伴うミトコンドリア機能低下、糖代謝異常、脂質代謝異常のために十分なATPの供給が出来なくなると、黒質、嗅内皮質など脳内エネルギーの64%を消費するシナプスが豊富な領域や、ブドウ糖代謝PETにおいて高い活動性を示す脳ハブなど、ATPの需要が高い領域において活性酸素の上昇や神経炎症、更にプロテアソーム不全に伴う病的タンパク質の蓄積などが生じ、神経変性を引き起こす可能性を示す。
したがって、今回の知見、特に髄液中イノシンの低下は中枢神経のエネルギー低下(ミトコンドリア機能障害)の簡便な指標となり、ATPを増強する治療の効果を評価しうるバイオマーカーになりうることもわかった。すなわち、患者の髄液サンプル中のイノシンを測定することにより、中枢神経のミトコンドリア機能低下を患っている患者に対してATP増強療法の効き目を事前に予測することができ、また、ATP増強療法の効果を判定することができる。
特に、中枢神経のミトコンドリア機能低下を患っているパーキンソン病患者及びアルツハイマー病患者に対してATP増強療法の効き目を事前に予測することができ、また、ATP増強療法の効果を判定することができる。
同様に、患者の血清又は髄液サンプル中のヒポキサンチンを測定することにより、ミトコンドリア機能低下を患っている患者に対してATP増強療法の効き目を事前に予測することができ、また、ATP増強療法の効果を判定することができる。
特に、ミトコンドリア機能低下を患っているパーキンソン病患者及びアルツハイマー病患者に対してATP増強療法の効き目を事前に予測することができ、また、ATP増強療法の効果を判定することができる。
【0036】
[実施例2]long COVIDとミトコンドリア障害
1.ミトコンドリア機能の低下の判定
COVID-19における障害のメカニズムについて最近注目される研究として、SARS-CoV-2によるミトコンドリア障害がある。COVID-19の急性期においてウイルスがミトコンドリア内に侵入し、そこで自己のRNAを複製することが明らかになった(非特許文献44, 45)。しかも、ウイルスがミトコンドリアをhijack、ないしkidnapし、自己の維持と増殖のために使用し、エネルギー供給低下などのミトコンドリア機能障害を起こすと報告されている(非特許文献46-51)。そして、このような急性期に起きるミトコンドリア機能障害が遅延することによりlong COVIDが起きる可能性が指摘されている(非特許文献52, 53)。実際に、Long COVIDのメカニズムとして提案されている炎症、免疫異常、サイトカインストーム、更には凝固亢進や活性酸素の放出は、すべてミトコンドリア障害の結果として起きると報告されており完全に一致する(非特許文献46, 51, 54-59)。
更にLong COVIDに対するミトコンドリア機能異常の関与を支持するデータとして、PET研究で、急性期を過ぎたCOVID-19患者29名において、前頭葉-頭頂葉領域の18F-FDG(フルオロデオキシグルコース)の取り込みの低下が明らかにされた(非特許文献60)。別のPET 研究では、両側の眼窩直腸回と右側頭葉内側部でグルコース代謝低下が見られた(非特許文献61)。グルコースは主としてミトコンドリアでATPを産生するために用いられるため、グルコースの取り込み低下はミトコンドリア機能障害によるATP産生低下を反映している可能性が強い。これはアルツハイマー病の脳において認められるのと同様である(非特許文献62)。
以上より、long COVID患者においてミトコンドリア機能低下がある可能性が極めて強く、そのバイオマーカーとして、実施例1で示したパーキンソン病やアルツハイマー病と同様にヒポキサンチン、イノシンの測定が有用であると考えられた。特にlong COVIDの中枢神経におけるミトコンドリア機能低下の指標として髄液中のイノシンの測定が有益であると考えられた。
【0037】
2.ATP増強療法の効果を予測又は判定する方法
前述のように、フェブキソスタットとイノシンの同時投与によるATP増強療法が中枢神経のエネルギー低下を改善してミトコンドリア機能低下を補うという多くの証拠がある。更に、東京女子医科大学の三谷らによれば線虫にフェブキソスタットを加えることで、ミトコンドリア保護作用を発揮し、寿命延長が起きることを発見し、フェブキソスタット、およびイノシンの同時投与、または配合剤を有効成分とするミトコンドリア保護剤についてとして特許出願している(特許文献2)。このミトコンドリア保護剤の対象疾患として、COVID( coronavirus)-19感染症が挙げられている。
前述のようにパーキンソン病患者に対するATP増強療法は、治療前の血清ヒポキサンチン濃度が低いほど有効であった。これはミトコンドリア機能低下が強く影響するパーキンソン病患者ほどATP増強療法が効果的であるためと考えられる。従って、同様に、long COVIDのATP増強療法においても血清、髄液のヒポキサンチンがATP増強療法の効果を事前に予測するために有効であると考えられる。また、髄液中のイノシンは中枢神経のミトコンドリア機能を反映するので、同様にATP増強療法の効果を事前に予測するために有効であると考えられる。
更に、ATP増強療法の第一の目的は血液中のヒポキサンチンを増加させることであり、引き続き髄液中のヒポキサンチンを増加させることであった(図2)。
従って、long COVIDのATP増強療法においても血清中、髄液中のヒポキサンチンの測定がATP増強療法の効果を事後に確認するために有効であると考えられる。また、髄液中のイノシンは中枢神経のミトコンドリア機能を反映するので、髄液中のイノシンの測定によりATP増強療法の中枢神経への効果を事後に確認するために有効であると考えられる。
【0038】
[その他の非特許文献]
11.Redzic ZB, Gasic JM, Segal MB, et al. The kinetics of hypoxanthine transport across the perfused choroid plexus of the sheep. Brain Res. 925:169-175, 2002.
12.Spector R. hypoxanthine transport through the blood-brain barrier. Neurochem Res. 12:791-796, 1987.
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【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、神経変性疾患やlongCOVID患者などの髄液中のイノシンを測定することにより、中枢神経のミトコンドリア機能の低下を判定することができる。したがって、早期治療に役立てることができる。また、ATP増強療法の効き目をあらかじめ予測、あるいは事後に判定することができるため、患者により有効な治療を施すことができる。
図1
図2
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図4
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図6