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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170736
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/12 20060101AFI20231124BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20231124BHJP
   B01J 13/00 20060101ALI20231124BHJP
   B01J 2/00 20060101ALI20231124BHJP
   B22F 9/30 20060101ALI20231124BHJP
   B22F 9/02 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
B01J19/12 H
B82Y40/00
B01J13/00
B01J2/00 A
B22F9/30 Z
B22F9/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082710
(22)【出願日】2022-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】516230102
【氏名又は名称】株式会社illuminus
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】後藤 博史
(72)【発明者】
【氏名】中村 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】稲 秀樹
【テーマコード(参考)】
4G004
4G065
4G075
4K017
【Fターム(参考)】
4G004AA01
4G065AA01
4G065AA04
4G065AA05
4G065AB03
4G065BA15
4G065CA01
4G065DA01
4G065DA02
4G065DA05
4G065DA09
4G065FA02
4G065FA03
4G075AA27
4G075AA61
4G075AA65
4G075BA04
4G075BA06
4G075BB05
4G075BB08
4G075CA02
4G075CA36
4G075DA02
4G075EA06
4G075EB01
4G075EB31
4G075FB06
4K017AA03
4K017AA04
4K017AA08
4K017BA01
4K017BA02
4K017BA03
4K017BA05
4K017CA08
4K017DA01
4K017EF05
(57)【要約】
【課題】微粒子の特性の安定化を図ることができる微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】複数の材料を含有する微粒子の製造方法であって、粒子形成工程と、調整工程と、を備える。前記粒子形成工程は、複数の材料を含む前駆体を用いて、調整前微粒子を形成する。前記調整工程は、前記調整前微粒子に含有された複数の材料の固溶度合を変えることで、前記調整前微粒子に基づく微粒子を形成する。例えば、前記粒子形成工程は、前記前駆体が分散された溶液に対し、フェムト秒パルスレーザーを照射し、前記調整前微粒子を形成することを含み、前記調整工程は、前記調整前微粒子を加熱することで、前記調整前微粒子に基づく前記微粒子を形成することを含むことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の材料を含有する微粒子の製造方法であって、
複数の材料を含む前駆体を用いて、調整前微粒子を形成する粒子形成工程と、
前記調整前微粒子に含有された複数の材料の固溶度合を変えることで、前記調整前微粒子に基づく微粒子を形成する調整工程と、
を備えること
を特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記粒子形成工程は、前記前駆体が分散された溶液に対し、フェムト秒パルスレーザーを照射し、前記調整前微粒子を形成することを含み、
前記調整工程は、前記調整前微粒子を加熱することで、前記調整前微粒子に基づく前記微粒子を形成することを含むこと
を特徴とする請求項1記載の微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記調整工程のあと、前記微粒子に含有される複数の前記材料の固溶度合を評価する評価工程をさらに備えること
を特徴とする請求項1又は2記載の微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記調整工程のまえ、前記調整前微粒子に含有される複数の前記材料の固溶度合を評価する調整前評価工程をさらに備え、
前記評価工程は、前記調整前評価工程の評価結果を参照し、前記微粒子に対する評価を実施すること
を特徴とする請求項3記載の微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記評価工程は、予め設定された基準情報を参照し、前記微粒子に含有される複数の前記材料の固溶度合を評価することを含むこと
を特徴とする請求項3記載の微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記評価工程は、
前記微粒子を観察し、粒子画像を取得する観察工程と、
前記粒子画像に含まれる複数の前記材料の検出強度と、検出位置との関係を示す検出結果を取得する検出工程と、
前記検出結果に基づき、前記検出強度と、前記検出位置との関係を、複数の前記材料毎に比較する比較工程と、
を含むこと
を特徴とする請求項3記載の微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記観察工程は、走査型透過電子顕微鏡を用いて前記粒子画像を取得すること
を特徴とする請求項6記載の微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記検出工程は、前記検出強度と、前記検出位置との関係に対し、近似法を実施した近似結果を前記検出結果として取得すること
を特徴とする請求項6記載の微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記比較工程は、前記近似結果における前記検出強度の最大値に紐づく前記検出位置を、複数の前記材料毎に比較すること
を特徴とする請求項8記載の微粒子の製造方法。
【請求項10】
前記比較工程は、前記検出結果に基づく空間周波数を、複数の前記材料毎に比較すること
を特徴とする請求項6記載の微粒子の製造方法。
【請求項11】
前記評価工程は、
X線回折法を用いて、複数の前記材料毎の含有率を計測する計測工程と、
前記計測工程における計測結果に基づき、前記比較工程における比較結果の精度を評価する精度検証工程と、
を含むこと
を特徴とする請求項6記載の微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の材料を含有する微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合金ナノ粒子等の微粒子を生成する方法として、例えば特許文献1に開示されたような方法が提案されている。
【0003】
特許文献1には、超短パルスレーザビームを100kHzより大きいパルス繰返率で発生させ、これを用いて、更なる安定化化学物質を添加することなく、安定したナノ粒子コロイドを生成するナノ粒子の生成方法が開示されている。また、特許文献1には、該レーザビームの照射により、大粒子を細分化し、ナノ粒子を主とする粒度分布となり、ターゲット材料の金属合金と同じ組成のナノ粒子の生成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-188428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、複数の材料を含有する微粒子(合金微粒子)は、含有する材料や、製造条件によっては耐熱性等の特性にバラつきが発生する場合がある。この点、特許文献1では記載も示唆もされていない。
【0006】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、微粒子の特性の安定化を図ることができる微粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明における微粒子の製造方法によれば、複数の材料を含有する微粒子の製造方法であって、複数の材料を含む前駆体を用いて、調整前微粒子を形成する粒子形成工程と、前記調整前微粒子に含有された複数の材料の固溶度合を変えることで、前記調整前微粒子に基づく微粒子を形成する調整工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
第2発明における微粒子の製造方法によれば、第1発明において、前記粒子形成工程は、前記前駆体が分散された溶液に対し、フェムト秒パルスレーザーを照射し、前記調整前微粒子を形成することを含み、前記調整工程は、前記調整前微粒子を加熱することで、前記調整前微粒子に基づく前記微粒子を形成することを含むことを特徴とする。
【0009】
第3発明における微粒子の製造方法によれば、第1発明又は第2発明において、前記調整工程のあと、前記微粒子に含有される複数の前記材料の固溶度合を評価する評価工程をさらに備えることを特徴とする。
【0010】
第4発明における微粒子の製造方法によれば、第3発明において、前記調整工程のまえ、前記調整前微粒子に含有される複数の前記材料の固溶度合を評価する調整前評価工程をさらに備え、前記評価工程は、前記調整前評価工程の評価結果を参照し、前記微粒子に対する評価を実施することを特徴とする。
【0011】
第5発明における微粒子の製造方法によれば、第3発明において、前記評価工程は、予め設定された基準情報を参照し、前記微粒子に含有される複数の前記材料の固溶度合を評価することを含むことを特徴とする。
【0012】
第6発明における微粒子の製造方法によれば、第3発明において、前記評価工程は、前記微粒子を観察し、粒子画像を取得する観察工程と、前記粒子画像に含まれる複数の前記材料の検出強度と、検出位置との関係を示す検出結果を取得する検出工程と、前記検出結果に基づき、前記検出強度と、前記検出位置との関係を、複数の前記材料毎に比較する比較工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
第7発明における微粒子の製造方法によれば、第6発明において、前記観察工程は、走査型透過電子顕微鏡を用いて前記粒子画像を取得することを特徴とする。
【0014】
第8発明における微粒子の製造方法によれば、第6発明において、前記検出工程は、前記検出強度と、前記検出位置との関係に対し、近似法を実施した近似結果を前記検出結果として取得することを特徴とする。
【0015】
第9発明における微粒子の製造方法によれば、第8発明において、前記比較工程は、前記近似結果における前記検出強度の最大値に紐づく前記検出位置を、複数の前記材料毎に比較することを特徴とする。
【0016】
第10発明における微粒子の製造方法によれば、第6発明において、前記比較工程は、前記検出結果に基づく空間周波数を、複数の前記材料毎に比較することを特徴とする。
【0017】
第11発明における微粒子の製造方法によれば、第6発明において、前記評価工程は、X線回折法を用いて、複数の前記材料毎の含有率を計測する計測工程と、前記計測工程における計測結果に基づき、前記比較工程における比較結果の精度を評価する精度検証工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
第1発明~第11発明によれば、調整工程は、調整前微粒子に含有された複数の材料の固溶度合を変えることで、調整前微粒子に基づく微粒子を形成する。このため、微粒子の特性に影響を及ぼす固溶度合を調整することで、特性のバラつきを抑制することができる。これにより、微粒子の特性の安定化を図ることが可能となる。
【0019】
特に、第2発明によれば、粒子形成工程は、前駆体が分散された溶液に対し、フェムト秒パルスレーザーを照射し、調整前微粒子を形成することを含む。また、調整工程は、調整前微粒子を加熱することで、調整前微粒子に基づく微粒子を形成することを含む。このため、調整前微粒子を形成する際、熱の影響が少ないフェムト秒パルスレーザーを用いることで、調整工程における加熱の条件を容易に設定することができる。これにより、微粒子の特性のバラつきをさらに抑制することが可能となる。
【0020】
特に、第3発明によれば、評価工程は、調整工程のあと、微粒子に含有される複数の材料の固溶度合を評価する。このため、調整工程により形成された微粒子の固溶度合を定量的に評価した上で、製品の合否判断を実施することができる。これにより、必要とされる特性を満たさない微粒子の流出を抑制することが可能となる。
【0021】
特に、第4発明によれば、評価工程は、調整前評価工程の評価結果を参照し、微粒子に対する評価を実施する。即ち、評価工程では、調整前微粒子と、微粒子との固溶度合の差異を評価することができる。このため、調整工程の影響を定量的に評価することができ、評価工程の結果を踏まえた調整工程の条件変更を実施することができる。これにより、微粒子の特性のさらなる安定化を図ることが可能となる。
【0022】
特に、第5発明によれば、評価工程は、基準情報を参照し、微粒子に含有される複数の材料の固溶度合を評価することを含む。即ち、評価工程では、微粒子の固溶度合が基準を満たしているか否かを評価することができる。このため、調整工程の影響を定量的に評価することができ、評価工程の結果を踏まえた調整工程の条件変更を実施することができる。これにより、微粒子の特性のさらなる安定化を図ることが可能となる。
【0023】
特に、第6発明によれば、比較工程は、検出結果に基づき、検出強度と、検出位置との関係を、複数の材料毎に比較する。このため、微粒子に含有される各材料の固溶度合を定量的に評価することができる。これにより、微粒子の品質を明確にすることが可能となる。
【0024】
特に、第7発明によれば、観察工程は、走査型透過電子顕微鏡を用いて粒子画像を取得する。このため、他の粒子画像を取得する方法に比べて、材料毎の固溶度合を高精度に取得することができる。これにより、固溶度合を高精度に評価することが可能となる。
【0025】
特に、第8発明によれば、検出工程は、検出強度と、検出位置との関係に対し、近似法を実施した近似結果を検出結果として取得する。このため、粒子画像のプロファイル信号において、微粒子の形状が真球からサブナノメートルの値で異なる場合においても、比較精度の低下を抑制することができる。これにより、安定した固溶度合の評価を実現することが可能となる。
【0026】
特に、第9発明によれば、比較工程は、近似結果における検出強度の最大値に紐づく検出位置を、複数の材料毎に比較する。このため、微粒子に含有された材料毎における固溶度合の偏りの差異を、容易に評価することができる。これにより、固溶度合を容易に評価することが可能となる。
【0027】
特に、第10発明によれば、比較工程は、検出結果に基づく空間周波数を、複数の材料毎に比較する。このため、微粒子に含有された材料毎における含有率の差異を、容易に評価することができる。これにより、含有率を考慮した固溶度合を評価することが可能となる。
【0028】
特に、第11発明によれば、精度検証工程は、計測工程における計測結果に基づき、比較工程における比較結果の精度を評価する。即ち、微粒子全体に含有される材料毎の含有率を示す計測結果を利用して、微粒子の一部に含有された材料毎の存在状態を比較した比較結果の精度を評価する。このため、比較結果が、微粒子全体の特徴として有効か否かの評価を実施することができる。これにより、微粒子の固溶度合を効率的に評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1(a)及び図1(b)は、本実施形態における微粒子の一例を示す模式図である。
図2図2は、本実施形態における微粒子の製造方法に用いられる製造装置の一例を示す模式斜視図である。
図3図3は、本実施形態における微粒子の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図4図4は、評価工程の一例を示すフローチャートである。
図5図5は、粒子画像の一例を示す顕微鏡画像である。
図6図6(a)及び図6(b)は、二次元方向に基づく検出結果の一例を示す模式図である。
図7図7(a)及び図7(b)は、一次元方向に基づく検出結果の一例を示す模式図であり、図7(c)及び図7(d)は、二次元方向に基づく検出結果と、一次元方向に基づく検出結果との関係を示す模式図である。
図8図8(a)及び図8(b)は、近似結果の一例を示す模式図である。
図9図9(a)及び図9(b)は、乖離度の一例を示す模式図である。
図10図10は、本実施形態における微粒子の製造方法の変形例を示すフローチャートである。
図11図11(a)は、本実施形態における調整前微粒子の一例を示す模式図であり、図11(b)は、本実施形態における微粒子の一例を示す模式図である。
図12図12は、調整前評価工程の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態としての微粒子の製造方法の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0031】
(実施形態:微粒子、コロイド溶液)
本実施形態における微粒子は、発電素子等の電子デバイスに用いられるほか、例えば医療、食品等の分野に用いられる。微粒子は、金属微粒子を含むほか、非金属微粒子を含んでもよい。微粒子は、例えば発電素子等のエネルギー分野や、導電性部品等の電子デバイス分野で用いることができる。上記のほか、微粒子は、例えば医薬品あるいは化粧品としての医療分野、複合材料の一部としての素材分野、食品等の分野で用いることができる。特に、微粒子の表面に対し、任意の表面処理(例えば被膜の形成)を行うことで、付加機能を有する微粒子を生成でき、様々な用途への展開が期待される。
【0032】
微粒子は、例えば1nm以上100nm以下の粒子径を有する複数の粒子を含む。微粒子は、例えばメディアン径(中央径:D50)が1nm以上10nm以下の粒子径を有する粒子を含んでもよいほか、例えば平均粒径が1nm以上10nm以下の粒子径を有する粒子を含んでもよい。メディアン径又は平均粒径は、例えば粒度分布計測器を用いることで、測定することができる。粒度分布計測器としては、例えば、動的光散乱法を用いた粒度分布計測器(例えばMalvern Panalytical 製ゼータサイザーUltra等)を用いればよい。
【0033】
本実施形態における微粒子は、粒子毎に複数の材料を含有する合金の粒子群を示す。微粒子の含有する材料として、例えば金や白金等の任意の金属が用いられるほか、炭素等の材料が用いられてもよい。
【0034】
本実施形態におけるコロイド溶液は、微粒子と同様の分野にて用いられる。コロイド溶液は、例えば微粒子を含む2種類以上の物質が混合する状態を示す。コロイド溶液は、例えば微粒子が分散された溶媒を含む。溶媒として、水やトルエン等の任意の液体が用いられる。
【0035】
ここで、複数の材料を含有する微粒子における特徴の一つとして、固溶度合が挙げられる。「固溶度合」は、微粒子に含有される複数の材料が、粒子内において均一に存在する度合いを示す。「固溶度合」を用いることで、例えば図1(a)及び図1(b)に示すように、材料A1及び材料A2を含有する微粒子PAと、材料B1及び材料B2を含有する微粒子PBとの差異を示すことができる。なお、材料A1及び材料B1は、同じ材料又は異なる材料を示してもよく、材料A2及び材料B2は、同じ材料又は異なる材料を示してもよい。
【0036】
例えば微粒子PBは、材料B1が密集して存在する部分(例えば図1(b)の破線枠内)を有する。これに対し、微粒子PAは、微粒子PBに比べて、材料A2が均一に存在する。この場合、微粒子PAの固溶度合は、微粒子PBの固溶度合に比べて、「良い」と評価することができる。
【0037】
ここで、複数の材料を含有する微粒子において、固溶度合の違いにより特性が変化することが知られている。特に、固溶度合の悪い微粒子は、固溶度合の良い微粒子に比べて、触媒活性が良好となる傾向を示す。しかしながら、複数の材料を含有する微粒子を形成する際、固溶度合のバラつきが大きく、形成された微粒子の特性が安定しないという事情があった。
【0038】
これに対し、本実施形態における微粒子の製造方法では、複数の材料を含む前駆体を用いて形成された微粒子(調整前微粒子)の固溶度合を変えて、微粒子を形成する。即ち、本実施形態における微粒子の製造方法では、調整前微粒子に比べて、固溶度合のバラつきを抑制した微粒子を形成することができる。このため、微粒子の特性に影響を及ぼす固溶度合を調整することで、特性のバラつきを抑制することができる。これにより、微粒子の触媒活性等のような特性の安定化を図ることが可能となる。
【0039】
なお、調整前微粒子の固溶度合を変更する方法として、加熱法が用いられるほか、例えば加圧法が用いられてもよい。また、上述した調整前微粒子を形成する際の方法及び装置は、任意である。
【0040】
(製造装置100)
次に、本実施形態における微粒子の製造方法に用いられる製造装置100の一例について説明する。図2は、本実施形態における製造装置100の一例を示す模式斜視図である。
【0041】
製造装置100は、例えば図2に示すように、レーザー装置1と、レンズ2と、容器3と、溶液4とを備える。製造装置100は、例えば1つのレーザー装置1に対し、複数の容器3及び溶液4を備えてもよい。
【0042】
<レーザー装置1>
レーザー装置1は、例えば10-15秒程度の時間幅を有するパルスレーザーを出射する。レーザー装置1として、例えば下記のような特性を示し、例えばCOHERENT社製のAstrella等のフェムト秒パルスレーザーを用いることができる。
発振波長:800nm±20nm
パルス幅:100fs
エネルギー:5-9mJ
繰り返し周波数:100Hz(出力0.5-0.9W)
【0043】
上記のほか、レーザー装置1として、例えばSpectra Physics社製のSpitfire Pro等が用いられ、用途に応じて任意に選択することができる。なお、レーザー装置1から出射されるレーザーは、数mJ程度のエネルギーであり、例えばレーザー加工等に用いられるような数μJ程度のエネルギーでは、調整前微粒子の効率的な生成が難しい。
【0044】
<レンズ2>
レンズ2は、レーザー装置1から出射されたレーザーを集光する。レンズ2を用いることで、特定の領域に対して光強度を高めることができる。特に、レンズ2を用いることで、溶液4の界面よりも溶液4の内部にレーザーを集光することができる。レンズ2として、集光レンズ等の公知のレンズが用いられる。レンズ2を介して集光したレーザーを溶液4に照射することで、調整前微粒子の生成効率を向上させることができる。
【0045】
<容器3>
容器3は、溶液4を収める。容器3として、透明な材料が用いられ、例えば溶融石英キュベットが用いられる。容器3として、例えば400nm付近における波長の吸収率に比べて、800nm付近における波長の吸収率が低い材料が用いられる。この場合、容器3を介してレーザーを照射する際、調整前微粒子の生成効率の低下を抑制することができる。
【0046】
<溶液4>
溶液4は、調整前微粒子の前駆体と、溶媒とを混合した液体を示す。溶液4に対してレーザーが照射されることで、調整前微粒子が生成される。前駆体は、2種類以上の材料を含み、例えば2種類以上の金属塩を含む。また、溶媒は、例えば水のほか、アルコールを含んでもよい。なお、「材料」とは、調整前微粒子、及び微粒子に含有される材料を示し、例えば金属原子等のような原子を示す。
【0047】
溶液4における金属塩の濃度は、例えば1.0×10-5mоl・dm-3以上1.0×10-1mоl・dm-3以下程度であり、生成される微粒子の用途に応じて任意に設定できる。
【0048】
金属塩は、金属イオンを含む公知の化合物を含有し、用途に応じて任意の材料を含有させることができる。金属塩は、1種以上の材料を含有する。例えば金属塩が2種以上の材料を含有する場合、各材料を含有した微粒子を生成することができる。金属塩として、例えばHAuCl・3HO、HPtCl・6HO等の公知の金属塩が用いられる。
【0049】
例えば金属塩は、酸化還元電位が負を示す材料(例えば卑金属)を複数含んでもよい。この場合、金属塩として、例えばFeCl・6HO、及びNiCl・6HOのような2種類の材料が用いられる。ここで、酸化し易い特徴を有する合金の調整前微粒子を生成した場合においても、溶媒としてアルコールを用いることで、アルコールの酸化反応を利用して、調整前微粒子の酸化を抑制することができる。これにより、従来では生成することが困難とされていた合金の微粒子を生成することができる。従って、微粒子の用途のさらなる拡大を図ることが可能となる。
【0050】
なお、「酸化還元電位」は、例えば分析化学データブック(丸善出版)等に記載された公知の値を示す。また、「卑金属」は、金属イオンの酸化還元電位が負の値として分類された金属を示し、リチウム、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、ニッケル、錫、鉛を示す。
【0051】
例えば金属塩は、同じ結晶構造を示す2種類以上の材料を含有してもよい。この場合、生成された合金の微粒子全体で、結晶構造が同じ傾向を示すため、微粒子の安定化を図ることができる。これにより、微粒子の安定性向上を図ることが可能となる。
【0052】
例えば鉄、ナトリウム、及びカリウムの結晶構造は、体心立方格子を示す。このため、金属塩として、鉄、ナトリウム、及びカリウムの少なくとも2種以上を含む材料を含有することで、生成された合金の微粒子全体で、結晶構造が同じ傾向を示す。また、例えばニッケル、アルミニウム、及びカルシウムの結晶構造は、面心立方格子を示す。このため、金属塩として、ニッケル、アルミニウム、及びカルシウムの少なくとも2種類以上を含む材料を含有することで、生成された合金の微粒子全体で、結晶構造が同じ傾向を示す。
【0053】
なお、前駆体は、例えば固体粒子を含んでもよい。固体粒子は、例えば500μm以下の有限値の粒子径を有する複数の粒子を含む。固体粒子は、生成される調整前微粒子の中央径よりも大きい中央径を有する。固体粒子は、例えば50nm以上100μm程度の中央径を有する。
【0054】
固体粒子の材料は、上述した金属塩の材料と同様に、調整前微粒子、及び微粒子に含有される材料を示し、例えば金属原子等のような原子を示す。前駆体は、例えばそれぞれ異なる材料を含有する2種類以上の固体粒子を含む。
【0055】
固体粒子は、生成する調整前微粒子の材料に直接反映されるため、生成する微粒子の種類に応じて、任意に設定することができる。例えは固体粒子として金が用いられる場合、生成される微粒子は、金を含有する。この際、上述した金属塩とは異なり、固体粒子には塩素等のような微粒子に含有されない材料を含まない。このため、微粒子の生成に伴い不要となる材料の発生を抑制することができる。
【0056】
溶媒は、例えばヒドロキシ基を有する公知のアルコールを含む。溶媒は、例えばエタノール、メタノール、1-プロパノール等のような、1価を示すアルコールを含んでもよい。溶媒は、例えばアルデヒド基、及びカルボキシル基の少なくとも何れかを有する化合物を含んでもよい。
【0057】
例えば溶媒は、アルコールのみを含んでもよい。この場合、溶液4内において、生成された調整前微粒子の酸化を促進させる要因を少なくすることができる。これにより、微粒子の品質低下の抑制を図ることが可能となる。
【0058】
(実施形態:微粒子の製造方法)
次に、本実施形態における微粒子の製造方法の一例について説明する。図3は、本実施形態における微粒子の製造方法の一例を示すフローチャートである。微粒子の製造方法は、例えば図3に示すように、粒子形成工程S110と、調整工程S120とを備え、例えば評価工程S130を備えてもよい。
【0059】
<粒子形成工程S110>
粒子形成工程S110は、複数の材料を含む前駆体を用いて、調整前微粒子を形成する。なお、調整前微粒子を形成する方法として、公知の微粒子形成技術を用いることができる。
【0060】
粒子形成工程S110は、例えば前駆体が分散された溶液4に対し、フェムト秒パルスレーザーを照射し、調整前微粒子を形成する。この場合、他のパルス幅を有するレーザーを用いた場合に比べて、粒形のバラつきを抑制できるため、形成された調整前微粒子における固溶度合を、用途に応じて設定し易くすることができる。また、フェムト秒パルスレーザーは、他のレーザーに比べて、調整前微粒子に作用する熱エネルギーを抑制することができる。このため、形成された調整前微粒子の固溶度合のバラつきを抑制することができる。これにより、例えば後述する調整工程S120における加熱の条件を容易に設定することができる。
【0061】
以下、粒子形成工程S110において、フェムト秒パルスレーザーを用いる場合について説明する。
【0062】
粒子形成工程S110は、例えば前駆体と、溶媒とを混合した溶液4を、容器3内に形成する。例えば粒子形成工程S110では、容器3内に前駆体を入れたあと、溶媒を段階的に入れてもよい。この場合、前駆体の濃度を容易に調整することができる。特に、前駆体に含まれる複数の材料毎に濃度を調整することができるため、合金の微粒子を形成する際には、組成比の精度を向上させることができる。
【0063】
その後、粒子形成工程S110は、フェムト秒パルスレーザーを集光し、溶液4に対して照射する。粒子形成工程S110では、例えばレーザー装置1から出射されたフェムト秒パルスレーザーが溶液4に照射されると、溶液4内の溶媒分子が分解されてラジカルが生成される。そして、生成されたラジカルのうち自由電子により、前駆体に含まれる金属イオンが還元され、調整前微粒子が生成される。このように、溶液4にレーザーを照射することにより、前駆体に基づく調整前微粒子が生成される。
【0064】
粒子形成工程S110は、例えば容器3を介して、溶液4に対してレーザーを照射してもよい。この場合、溶液4と大気との界面からレーザーを照射する場合に比べて、溶媒に起因する発火の可能性を抑制することができる。これにより、調整前微粒子を製造する際の安全性を向上させることが可能となる。
【0065】
<調整工程S120>
調整工程S120は、調整前微粒子に含有された複数の材料の固溶度合を変えることで、調整前微粒子に基づく微粒子を形成する。調整工程S120は、例えばマッフル炉、赤外線加熱炉等公知の加熱装置を用いて、調整前微粒子を加熱する。この際、溶液4内に溶媒を残した状態で加熱するほか、例えば溶液4から溶媒を除去した状態で加熱してもよい。なお、調整工程S120は、例えば調整前微粒子を公知の加圧装置内に格納し、加圧することにより調整前微粒子の固溶度合を変えてもよい。
【0066】
調整工程S120は、微粒子に求められる特性に基づき、条件を設定することができる。例えば300℃の耐熱性が微粒子に求められる場合、調整工程S120では、300℃以上の加熱条件(例えば500℃等)を用いて、調整前粒子を加熱して微粒子を形成する。このため、利用先に適した微粒子を形成することができる。
【0067】
<評価工程S130>
例えば調整工程S120のあと、評価工程S130を実施してもよい。評価工程S130は、微粒子に含有される複数の材料の固溶度合を評価する。
【0068】
評価工程S130は、例えば予め設定された基準情報を参照し、微粒子に含有される複数の材料の固溶度合を評価してもよい。基準情報は、例えば微粒子に求められる特性に紐づく固溶度合の範囲を示す。評価工程S130は、例えばマッチング処理等のような処理技術を用いて、基準情報と、固溶度合とを比較し、評価を実施する。これにより、固溶度合を定量的に評価することができる。
【0069】
評価工程S130は、例えば図4に示すように、観察工程S131と、検出工程S132と、比較工程S133とを含む。
【0070】
<観察工程S131>
観察工程S131は、例えば図5に示すように、微粒子を観察し、微粒子が撮像された粒子画像を取得する。観察工程S131では、例えば走査型透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)を用いて微粒子を観察することで、粒子画像を取得することができる。この場合、他の粒子画像を取得する方法に比べて、材料毎の固溶度合を高精度に観察することができる。上記のほか、例えば観察工程S131では、高角度散乱暗視野走査型透過電子顕微鏡(HAADF-STEM:High-Angle Annular Dark-Field Scanning Transmission Electron Microscope)が用いられてもよい。以下、STEM、特にHAADF-STEMを用いた場合について説明する。
【0071】
例えばSTEM等により観察する際、微粒子をカーボン支持膜付マイクログリッド等に配置し、微粒子を固定する。これにより、上述した走査型透過電子顕微鏡等を用いて、粒子画像を取得することができる。
【0072】
<検出工程S132>
検出工程S132は、粒子画像に含まれる複数の材料の検出強度と、検出位置との関係を示す検出結果を取得する。検出工程S132では、例えばエネルギー分散型X線分光解析(EDS:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)等の公知の元素分析法を用いて、検出結果を取得することができる。
【0073】
検出工程S132では、例えば粒子画像に撮像された1つの粒子(例えば図5の破線枠内の粒子)を対象に、検出結果を取得するほか、複数の粒子を対象に検出結果を取得してもよい。検出工程S132は、例えば粒子画像を取得したあとに検出結果を取得するほか、例えば粒子画像と同時に検出結果を取得してもよい。即ち、観察工程S131及び検出工程S132のタイミングは、各工程において用いる装置等に応じて任意に設定することができる。
【0074】
検出工程S132は、例えば粒子画像に対し、二次元方向の検出位置毎における検出強度を示す検出画像を取得する。この場合、検出結果は、例えば図6(a)及び図6(b)に示すように、各材料A1、A2の検出強度(白丸、黒丸)と、検出位置(position X, position Y)との関係を示す検出結果を取得する。
【0075】
上記のほか、検出工程S132は、例えば粒子画像に対し、一次元方向の検出位置毎における検出強度を示す検出結果を取得する。この場合、検出結果は、例えば図7(a)及び図7(b)に示すように、各材料A1、A2の検出強度(Intensity)と、検出位置(position X)との関係を示す検出結果を取得する。一次元方向に基づく検出結果は、例えば図7(c)及び図7(d)に示す二次元に基づく検出結果におけるA-A線に沿った検出強度に対応する。なお、一次元方向に基づく検出結果における検出位置は、上述したA-A線に沿った方向(position X)のほか、A-A線に交わる方向(例えばposition Y)でもよく、任意である。
【0076】
例えば検出工程S132は、検出強度と、検出位置との関係に対し、近似法を実施した近似結果を、検出結果として取得してもよい。この場合、例えば図8(a)及び図8(b)に示すように、検出結果は、一次元方向の検出位置毎における検出強度に対し、偶関数近似を実施した近似結果を示す。これにより、粒子画像にノイズ等が含まれる場合においても、後述する比較精度の低下を抑制することができる。なお、近似法として用いる関数は、偶関数のほか、一義的に位置が決定できる公知の関数でよい。近似法として用いる関数は、例えばガウス関数や、下式(1)のような関数でもよい。

Y=SQRT(r2-X2) (1)
【0077】
例えば検出工程S132は、検出強度と、検出位置との関係に対し、平均化を実施したスムージング結果を、検出結果として取得してもよい。これにより、粒子画像にノイズ等が含まれる場合においても、後述する比較精度の低下を抑制することができる。なお、平均化を実施する際の検出位置の範囲は、用途に応じて任意に設定することができる。
【0078】
<比較工程S133>
比較工程S133は、検出結果に基づき、検出強度と、検出位置との関係を、複数の材料毎に比較する。比較工程S133では、複数の材料毎に比較した比較結果に基づき、微粒子に含有される各材料の固溶度合を定量的に評価することができる。
【0079】
比較工程S133は、例えば検出結果における検出強度の分布の特徴を、複数の材料毎に比較する。そして、比較工程S133は、各材料における検出強度の分布の特徴の乖離度を、比較結果として取得する。この場合、例えば乖離度の小さい比較結果は、固溶度合が良いと示す、乖離度の大きい比較結果は、固溶度合が悪いと示すことができる。
【0080】
例えば、比較工程S133における微粒子PAにおける各材料A1、A2の乖離度は、微粒子PBにおける各材料B1、B2の乖離度に比べて、小さい傾向を示す。そのため、微粒子PAの固溶度合は、微粒子PBの固溶度合に比べて、良いと評価することができる。
【0081】
なお、固溶度合は、上述した相対的な度合を示すほか、例えば予め設定された閾値に基づく度合を示してもよい。また、固溶度合は、上述した「良い」、「悪い」の2値で示すほか、例えば百分率や多段階のような数値で示してもよい。具体的な値として、例えば粒子径で正規化した割合で示すと、5%以下を「良い」としてもよい。
【0082】
例えば図6(a)及び図6(b)に示すように、二次元方向に基づく検出結果を取得した場合、比較工程S133は、各材料A1、A2の検出強度を、検出位置毎に比較してもよい。この場合、比較結果は、例えば各材料A1、A2における検出強度の分布の特徴を比較することで得られる乖離度を示す。乖離度を示す比較結果を得ることで、固溶度合を定量的に評価することができる。なお、乖離度は、マッチング処理等のような公知の処理技術を用いて得ることができる。
【0083】
例えば比較工程S133は、二次元方向に基づく検出結果に基づき、各材料の含有率を導出した結果を、比較結果に含ませてもよい。比較工程S133は、例えば検出結果における検出範囲に含まれる検出強度の頻度を材料毎に数えた結果を、各材料の含有率とみなしてもよい。
【0084】
例えば比較工程S133は、近似結果における検出強度の最大値に紐づく検出位置を、複数の材料毎に比較する。比較工程S133は、例えば図9(a)及び図9(b)に示すように、検出強度の最大値に紐づく検出位置(A1t、A2t、B1t、B2t)を特定する。その後、比較工程S133は、微粒子(微粒子PA又は微粒子PB)に含有される材料毎(微粒子PAは材料A1及び材料A2、微粒子PBは材料B1及び材料B2)に、検出位置を比較する。これにより、比較結果として、微粒子PAの場合には乖離度Adが得られ、微粒子PBの場合には乖離度Bdが得られる。
【0085】
上記比較結果として得られた各乖離度Ad、Bdは、例えば図1(a)及び図1(b)に示した各材料A1、A2、B1、B2の存在状態に対応する。そのため、乖離度Adは、乖離度Bdよりも小さく、微粒子PAの固溶度合は、微粒子PBの固溶度合よりも良いと評価することができる。
【0086】
なお、上記では、近似結果を検出結果として取得した場合について説明したが、スムージング結果を検出結果として取得した場合についても同様の処理及び固溶度合の評価を実施することができる。
【0087】
上記のほか、例えば比較工程S133は、検出結果に基づく空間周波数を、複数の材料毎に比較してもよい。この場合、微粒子に含有された材料毎における含有率の差異を、空間周波数の差異から導出することができる。例えば空間周波数が低い成分も存在する場合、各検出位置において材料の存在する確率が高いとみなせるため、含有率が高いと判断することができる。これに対し、空間周波数が高い成分が存在することにつれて、各検出位置において材料の存在確率が低くなるとみなせるため、含有率が低いと判断することができる。このため、上述した乖離度と、空間周波数の成分と比較とを組合せることで、含有率を考慮した固溶度合を評価することが可能となる。
【0088】
なお、微粒子の固溶度合は、STEM観察からのプロファイル信号に対して偶関数近似等を実施した処理信号に対して、各材料の中心との差で定義されるのは前述の場合と同等である。
【0089】
比較工程S133は、例えば計測工程と、精度検証工程とを含んでもよい。計測工程は、例えば観察工程S131の前、又は検出工程S132の前に実施してもよく、任意である。精度検証工程は、上述した比較結果を取得したあとに実施する。
【0090】
計測工程は、X線回折法を用いて、複数の材料毎の含有率を計測する。X線回折法は、公知のX線回折装置を用いて実施することができる。
【0091】
精度検証工程は、計測工程における計測結果に基づき、比較工程S133における比較結果の精度を評価する。例えば比較工程S133において導出した含有率と、X線回折法を用いて計測した含有率とを比較する。ここで、比較工程S133において導出した含有率は、特定の粒子から導出するため、粒子毎のバラつきを考慮していない。これに対し、X線回折法を用いて計測した含有率は、複数の粒子を対象とした計測結果のため、微粒子全体の含有率とみなすことができる。このため、計測工程で計測された含有率を基準として、比較工程S133において導出した含有率の精度を評価することができる。
【0092】
評価工程S130は、例えば比較工程S133において比較した比較結果と、予め設定された閾値等の品質条件とを比較した結果に基づき、形成された微粒子が良品又は不良品であることを判断してもよい。なお、品質条件として、閾値のほか、製品の規格に応じた任意の指標を用いることができる。
【0093】
なお、評価工程S130に含まれる各工程の少なくとも何れかを実施する際、例えばCPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置を含む電子機器が用いられてもよく、各工程における演算処理は、電子機器を用いた公知の処理技術を用いて実施することができる。
【0094】
これにより、本実施形態における微粒子が生成される。なお、例えば調整工程S120により形成された微粒子の一部を用いて、評価工程S130を実施してもよい。この場合、評価工程S130を実施した結果が、予め設定された規格に含まれると判断されることで、調整工程S120により形成された微粒子が生成されたと見なしてもよい。また、生成された微粒子を、任意の溶媒に分散させることで、本実施形態におけるコロイド溶液が生成される。
【0095】
本実施形態によれば、調整工程S120は、調整前微粒子に含有された複数の材料の固溶度合を変えることで、調整前微粒子に基づく微粒子を形成する。このため、微粒子の特性に影響を及ぼす固溶度合を調整することで、特性のバラつきを抑制することができる。これにより、微粒子の特性の安定化を図ることが可能となる。
【0096】
また、本実施形態によれば、粒子形成工程S110は、前駆体が分散された溶液4に対し、フェムト秒パルスレーザーを照射し、調整前微粒子を形成することを含む。また、調整工程S120は、調整前微粒子を加熱することで、調整前微粒子に基づく微粒子を形成することを含む。このため、調整前微粒子を形成する際、熱の影響が少ないフェムト秒パルスレーザーを用いることで、調整工程S120における加熱の条件を容易に設定することができる。これにより、微粒子の特性のバラつきをさらに抑制することが可能となる。
【0097】
また、本実施形態によれば、評価工程S130は、調整工程S120のあと、微粒子に含有される複数の材料の固溶度合を評価する。このため、調整工程S120により形成された微粒子の固溶度合を定量的に評価した上で、製品の合否判断を実施することができる。これにより、必要とされる特性を満たさない微粒子の流出を抑制することが可能となる。
【0098】
また、本実施形態によれば、評価工程S130は、基準情報を参照し、微粒子に含有される複数の材料の固溶度合を評価することを含む。即ち、評価工程S130では、微粒子の固溶度合が基準を満たしているか否かを評価することができる。このため、調整工程S120の影響を定量的に評価することができ、評価工程S130の結果を踏まえた調整工程S120の条件変更を実施することができる。これにより、微粒子の特性のさらなる安定化を図ることが可能となる。
【0099】
また、本実施形態によれば、比較工程S133は、検出結果に基づき、検出強度と、検出位置との関係を、複数の材料毎に比較する。このため、微粒子に含有される各材料の固溶度合を定量的に評価することができる。これにより、微粒子の品質を明確にすることが可能となる。
【0100】
また、本実施形態によれば、観察工程S131は、走査型透過電子顕微鏡を用いて粒子画像を取得する。このため、他の粒子画像を取得する方法に比べて、材料毎の固溶度合を高精度に取得することができる。これにより、固溶度合を高精度に評価することが可能となる。
【0101】
また、本実施形態によれば、検出工程S132は、検出強度と、検出位置との関係に対し、近似法を実施した近似結果を検出結果として取得する。このため、粒子画像のプロファイル信号において、微粒子の形状が真球からサブナノメートルの値で異なる場合においても、比較精度の低下を抑制することができる。これにより、安定した固溶度合の評価を実現することが可能となる。
【0102】
また、本実施形態によれば、比較工程S133は、近似結果における検出強度の最大値に紐づく検出位置を、複数の材料毎に比較する。このため、微粒子に含有された材料毎における固溶度合の偏りの差異を、容易に評価することができる。これにより、固溶度合を容易に評価することが可能となる。
【0103】
また、本実施形態によれば、比較工程S133は、検出結果に基づく空間周波数を、複数の材料毎に比較する。このため、微粒子に含有された材料毎における含有率の差異を、容易に評価することができる。これにより、含有率を考慮した固溶度合を評価することが可能となる。
【0104】
また、本実施形態によれば、精度検証工程は、計測工程における計測結果に基づき、比較工程S123における比較結果の精度を評価する。即ち、微粒子全体に含有される材料毎の含有率を示す計測結果を利用して、微粒子の一部に含有された材料毎の存在状態を比較した比較結果の精度を評価する。このため、比較結果が、微粒子全体の特徴として有効か否かの評価を実施することができる。これにより、微粒子の固溶度合を効率的に評価することが可能となる。
【0105】
(実施形態:微粒子の製造方法の変形例)
次に、本実施形態における微粒子の製造方法の変形例について説明する。上述した実施形態と、本変形例との違いは、調整前評価工程S140を備える点である。なお、上述した構成と同様の内容については、説明を省略する。
【0106】
本変形例における微粒子の製造方法は、例えば図10に示すように、調整前評価工程S140をさらに備える。調整前評価工程S140は、調整工程S120のまえ、調整前微粒子に含有される複数の材料の固溶度合を評価する。この場合、評価工程S130は、調整前評価工程S140の評価結果を参照し、微粒子に含有される複数の材料の固溶度合を評価してもよい。
【0107】
例えば図11(a)及び図11(b)に示すように、調整工程S120の実施に伴い、調整前微粒子PAaに基づく微粒子PAが形成される。この際、微粒子PAは、調整前微粒子PAaとは異なる固溶度合を示す。例えば微粒子PAは、図11(b)の破線枠内に示す材料A2が密集して存在する部分を有し、調整前微粒子PAaは、材料A2が密集して存在する部分を有しない。この場合、上述した評価工程S130では、微粒子PAの固溶度合は、調整前微粒子PAaの固溶度合に比べて、悪いと評価することができる。
【0108】
調整前評価工程S140は、例えば図12に示すように、調整前観察工程S141と、調整前検出工程S142と、調整前比較工程S143とを含む。
【0109】
<調整前観察工程S141>
調整前観察工程S141は、例えば調整前微粒子を観察し、微粒子が撮像された粒子画像(調整前粒子画像)を取得する。調整前観察工程S141の具体例は、上述した観察工程S131と同様のため、説明を省略する。
【0110】
<調整前検出工程S142>
調整前検出工程S142は、調整前粒子画像に含まれる複数の材料の検出強度と、検出位置との関係を示す検出結果(調整前検出結果)を取得する。調整前検出工程S142の具体例は、上述した検出工程S132と同様のため、説明を省略する。
【0111】
<調整前比較工程S143>
調整前比較工程S143は、調整前検出結果に基づき、検出強度と、検出位置との関係を、複数の材料毎に比較する。調整前比較工程S143では、複数の材料毎に比較した比較結果(調整前比較結果)に基づき、調整前微粒子に含有される各材料の固有度合を定量的に評価することができる。調整前比較工程S143の具体例は、上述した比較工程S133と同様のため、説明を省略する。
【0112】
調整前比較結果は、例えば比較工程S133において比較した比較結果との比較に用いられる。例えば比較工程S133は、調整前比較結果及び比較結果に基づく下記内容の少なくとも何れかを評価対象として、微粒子の固溶度合を評価してもよい。
1.各材料における検出強度の分布の特徴
2.空間周波数の成分
【0113】
上記の場合、固溶度合の評価結果として、「良化」、「悪化」、「変化なし」を示すほか、変化の度合(例えば「○○%悪化」等)を示してもよく、用途に応じて任意に設定することができる。
【0114】
なお、比較工程S133は、例えば調整前比較結果における各材料の特徴の乖離度と、比較結果における各材料の特徴の乖離度とを比較した結果に基づき、固溶度合を評価するほか、例えば調整前微粒子と、微粒子とに含有される各材料の特徴の変化に基づき、固溶度合を評価してもよい。
【0115】
本変形例によれば、評価工程S130は、調整前評価工程S140の評価結果を参照し、微粒子に対する評価を実施する。即ち、評価工程S130では、調整前微粒子と、微粒子との固溶度合の差異を評価することができる。このため、調整工程S120の影響を定量的に評価することができ、評価工程S130の結果を踏まえた調整工程S120の条件変更を実施することができる。これにより、微粒子の特性のさらなる安定化を図ることが可能となる。
【0116】
上述した微粒子の製造方法により生成された微粒子は、例えば以下の用途が期待できる。例えば人工光合成の研究においては、使用されている微粒子の材料としてこれまで複数の提案があり、金、白金、金と銀の合金が挙げられる。これらの事例に、上述した微粒子を適用することで、人工光合成の特性を最適化することの変数となり得る。また、同様に積層セラミックコンデンサや電極等の電子部品に適用することも可能であり、現在、研究されている微粒子の材料としては、例えば金、銀、銅、スズ、ニッケル等の金属や、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)などがある。特に、研究において使用されている微粒子の材料は、上述した固溶度合のバラつきが大きい懸念が挙げられる。このため、製品化に向けた量産検討段階において、微粒子の品質を定量的に評価する方法が求められる可能性がある。これに対し、上述した微粒子の製造方法を利用することで、微粒子の品質を明確にすることが可能となる。
【0117】
例えば、複数の材料を含有する微粒子(合金微粒子)の特性として、触媒活性が高い反面、耐熱性が悪い場合がある。この要因としては、合金微粒子を形成する際、要求される温度に相当する熱エネルギーを用いないことが挙げられ、実際に合金微粒子を触媒として用いる環境に配置した場合、熱エネルギーに伴う固溶度合の変化が生じていることが推定される。このため、例えば合金微粒子を形成する際、要求される温度以上の熱エネルギーを用いることで、要求される触媒活性及び耐熱性を満たす合金微粒子を形成することが可能となる。
【0118】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0119】
1 :レーザー装置
2 :レンズ
3 :容器
4 :溶液
100 :製造装置
S110 :粒子形成工程
S120 :調整工程
S130 :評価工程
S131 :観察工程
S132 :検出工程
S133 :比較工程
S140 :調整前評価工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12