(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170752
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】ノイズ抑制シート及びケーブル
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20231124BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20231124BHJP
H01F 10/14 20060101ALI20231124BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20231124BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
H05K9/00 K
H01F1/147 116
H01F10/14
B32B15/01 Z
H01B7/00 304Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082748
(22)【出願日】2022-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】大久保 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】工藤 駿
(72)【発明者】
【氏名】小沼 和樹
【テーマコード(参考)】
4F100
5E041
5E049
5E321
5G309
【Fターム(参考)】
4F100AB01A
4F100AB01E
4F100AB02A
4F100AB10E
4F100AB12E
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4F100JG06A
5E041AA07
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5E321BB53
5E321GG09
5G309DA04
5G309DA11
(57)【要約】
【課題】シールド効果の高いノイズ抑制シートを提供する。
【解決手段】ノイズ抑制シート1は、第1磁性層10を備える。第1磁性層10は、厚み方向に積層された複数の第1領域11と、第1領域11間に位置する第2領域12を含む。第1磁性層10は、Niからなる第1金属成分と、Feからなる第2金属成分と、Ni及びFe以外の第3金属成分を含み、第2領域12における第3金属成分の濃度は、第1領域11における第3金属成分の濃度より高い。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1磁性層を備えるノイズ抑制シートであって、
前記第1磁性層は、厚み方向に積層された複数の第1領域と、前記第1領域間に位置する第2領域を含み、
前記第1磁性層は、Niからなる第1金属成分と、Feからなる第2金属成分と、Ni及びFe以外の第3金属成分を含み、
前記第2領域における前記第3金属成分の濃度は、前記第1領域における前記第3金属成分の濃度より高い、ノイズ抑制シート。
【請求項2】
前記第3金属成分は、Ni及びFeよりも抵抗率が低い金属からなる、請求項1に記載のノイズ抑制シート。
【請求項3】
前記第2領域の厚みは、前記第1領域の厚みより薄い、請求項1に記載のノイズ抑制シート。
【請求項4】
前記第2領域における前記第2金属成分の割合は、前記第1金属成分の割合よりも小さく、且つ、前記第3金属成分の割合よりも大きい、請求項1に記載のノイズ抑制シート。
【請求項5】
前記第1磁性層は前記第2領域を複数含み、複数の前記第1領域と複数の前記第2領域が前記厚み方向に交互に積層されている、請求項1に記載のノイズ抑制シート。
【請求項6】
前記第1磁性層と重なる導電層をさらに備える、請求項1に記載のノイズ抑制シート。
【請求項7】
前記導電層は、第1導電層と、前記第1導電層と前記第1磁性層の間に位置し、前記第1導電層よりも平均結晶粒径の小さい第2導電層を含む、請求項6に記載のノイズ抑制シート。
【請求項8】
前記導電層と隣接する前記第1領域における前記第2金属成分の濃度は、他の前記第1領域における前記第2金属成分の濃度よりも高い、請求項6に記載のノイズ抑制シート。
【請求項9】
前記導電層と前記第1磁性層の間に設けられ、前記導電層とは異なる金属材料からなる金属膜をさらに備える請求項6に記載のノイズ抑制シート。
【請求項10】
前記第1領域は、前記導電層から離れるにしたがって前記第2金属成分の濃度が低くなる部分を有する、請求項6に記載のノイズ抑制シート。
【請求項11】
前記第1磁性層の前記導電層が設けられた側の面とは反対側の面に設けられた有機膜をさらに備える、請求項6に記載のノイズ抑制シート。
【請求項12】
前記第1磁性層の前記導電層が設けられた側の面とは反対側の面に設けられたNi、Cr、Al、Ti、Zn、Taからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属又は前記群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む合金の無機膜をさらに備える、請求項6に記載のノイズ抑制シート。
【請求項13】
前記導電層の前記第1磁性層が設けられた側の面とは反対側の面に設けられた第2磁性層をさらに備え、
前記第2磁性層は、厚み方向に積層された複数の第3領域と、前記第3領域間に位置する第4領域を含み、
前記第2磁性層は、前記第1乃至第3金属成分を含み、
前記第4領域における前記第3金属成分の濃度は、前記第3領域における前記第3金属成分の濃度より高い、請求項6に記載のノイズ抑制シート。
【請求項14】
前記第2磁性層における前記第2金属成分の濃度は、前記第1磁性層における前記第2金属成分の濃度よりも低い、請求項13に記載のノイズ抑制シート。
【請求項15】
厚み方向に積層された第1磁性材料を含む複数の第1領域と、前記第1領域間に位置する第2磁性材料を含む第2領域とを備え、
前記第1及び第2磁性材料は、Niからなる第1金属成分と、Feからなる第2金属成分を含み、
前記第1磁性材料における前記第1金属成分の割合は、前記第2金属成分の割合よりも大きく、
前記第2磁性材料における前記第1金属成分の割合は、前記第2金属成分の割合よりも大きく、
前記第2領域は、前記第1領域よりも抵抗値が低い、ノイズ抑制シート。
【請求項16】
ケーブル本体と、
前記ケーブル本体に巻き付けられている請求項1乃至15のいずれか一項に記載のノイズ抑制シートと、を備えるケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はノイズ抑制シート及びケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、Cuからなる導電層とNiFeからなる複数の磁性層が積層された構造を有する磁気シールドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された磁気シールドは、NiFeからなる複数の磁性層間に非磁性の金属膜が介在していることから、厚み方向における透磁率が低下し、これによって低周波領域におけるシールド効果が不足するという問題があった。
【0005】
本開示は、シールド効果の高いノイズ抑制シート及びケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施態様によるノイズ抑制シートは、第1磁性層を備えるノイズ抑制シートであって、第1磁性層は、厚み方向に積層された複数の第1領域と、第1領域間に位置する第2領域を含み、第1磁性層は、Niからなる第1金属成分と、Feからなる第2金属成分と、Ni及びFe以外の第3金属成分を含み、第2領域における第3金属成分の濃度は、第1領域における第3金属成分の濃度より高い。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、シールド効果の高いノイズ抑制シート及びケーブルを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態によるノイズ抑制シート1がケーブル本体40に巻き付けられたケーブル100の模式図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態によるノイズ抑制シート1の構造を説明するための模式的な断面図である。
【
図3】
図3は、ノイズ抑制シート1の製造方法を説明するための工程図である。
【
図4】
図4は、第2の実施形態によるノイズ抑制シート2の構造を説明するための模式的な断面図である。
【
図5】
図5は、第3の実施形態によるノイズ抑制シート3の構造を説明するための模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。
【0010】
図1は、本開示の一実施形態によるノイズ抑制シート1がケーブル本体40に巻き付けられたケーブル100の模式図である。ケーブル本体40は、芯材41と、芯材41の周囲を覆う編組線などの保護材42からなり、保護材42の外周にテープ状(リボン状)のノイズ抑制シート1が螺旋状に貼り付けられている。このように、本実施形態によるノイズ抑制シート1は、信号又は電力が伝送されるケーブル本体40の周囲に巻き付けることによって電磁波ノイズを遮蔽する用途に用いられる。なお、本実施形態ではケーブル100に用いられるノイズ抑制シートを例示したが、ノイズ抑制シートの用途は限定されず、例えば電子機器の筐体にノイズ抑制シートを貼り付けて用いても構わない。
【0011】
図2は、第1の実施形態によるノイズ抑制シート1の構造を説明するための模式的な断面図である。
【0012】
図2に示すように、第1の実施形態によるノイズ抑制シート1は、剥離層4と、剥離層4の表面に設けられた樹脂層5と、樹脂層5の表面に設けられた導電層30と、金属膜6を介して導電層30に積層された第1磁性層10と、第1磁性層10の表面に設けられた防錆層7とを備える。剥離層4はPET(ポリエチレンテレフタレート)などの絶縁性樹脂材料からなり、実使用時においては、剥離層4を剥離した状態のノイズ抑制シート1をケーブル本体40などに巻き付ける。剥離層4の厚さは、例えば38μm程度である。樹脂層5は、絶縁性樹脂材料からなり、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリ(N-ビニルカルバゾール)系樹脂、炭化水素系樹脂、ケトン系樹脂、フェノキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチルセルロース系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ABS系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、アクリル系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、アルキド系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコン系樹脂、アミノ系樹脂など、が挙げられる。樹脂層5は、後述するように、導電層30や第1磁性層10をメッキ成長させるための基材として用いられる。樹脂層5の厚さは、例えば1.8μm程度である。
【0013】
導電層30は、例えばCuなどの良導体からなり、主に、電磁波ノイズの高周波成分を反射する役割を果たす。導電層30は、樹脂層5側に位置する第1導電層31と、第1磁性層10側に位置する第2導電層32とを含む。第1導電層31と第2導電層32は互いに同じ金属材料からなるが、第2導電層32の方が第1導電層31よりも平均結晶粒径が小さい。第1及び第2導電層31,32の平均結晶粒径は、第1及び第2導電層31,32の厚さ方向に沿った断面を走査電子顕微鏡で観察し、断面のSEM画像において、粒界に囲まれた部分の最大長さを測長して平均することによって算出される。特に限定されるものではないが、第1導電層31の厚みと第2導電層32の厚みは、第1導電層31の厚みをa、第2導電層32の厚みをbとした場合、0.65≦a/b≦7.1としてもよい。
【0014】
第1磁性層10は、Niからなる第1金属成分と、Feからなる第2金属成分を主成分とするパーマロイ合金からなり、磁束を集めることによって電磁波ノイズの低周波成分を熱に変換する役割を果たす。また、第1磁性層10は、Niからなる第1金属成分と、Feからなる第2金属成分の他に、Ni及びFe以外の第3金属成分を含む。第3金属成分としては、Ni及びFeよりも抵抗率が低い金属から選択してもよく、例えば、貴金属から選択してもよく、Ag、Pd、Cuから選択してもよく、Cuであってもよい。ここで、第3金属成分の分布は一様ではなく、第3金属成分の濃度が低い第1領域11と第3金属成分の濃度が高い第2領域12が厚み方向に交互に積層された構造を有している。
【0015】
第1領域11は、第2領域12よりも厚さが厚く、第1磁性層10の主たる部分を構成する。第1領域11の厚さは例えば100~1000nmであり、第2領域12の厚さは例えば10~100nmである。第1領域11を構成する第1磁性材料の組成としては、第1金属成分であるNiの含有率が第2金属成分であるFeの含有率よりも多い。第1領域11は、第3金属成分を含み、第2金属成分であるFeの含有率が第3金属成分の含有率より多い。第1領域11を構成する材料の組成としては、例えば、第1領域11を構成する材料の合計を100とすると、第1金属成分であるNiが75~85%、第2金属成分であるFeが15~25%、第3金属成分であるCuが1~5%である。つまり、第1領域11はより第1金属成分であるNiと第2金属成分であるFe以外の成分の少ないパーマロイ合金からなる。第2領域12は、厚み方向に積層された複数の第1領域11間に位置し、第1磁性層10の厚み方向における抵抗値を低下させる役割を果たす。第2領域12を構成する第2磁性材料の組成としては、第1金属成分であるNiの含有率が第2金属成分であるFeの含有率よりも多い。第2領域12は、第3金属成分を含み、第2金属成分であるFeの含有率が第3金属成分の含有率より多い。第2領域12を構成する材料の組成としては、例えば、第2領域12を構成する材料の合計を100とすると、第1金属成分であるNiが75~85%、第2金属成分であるFeが5~15%、第3金属成分であるCuが5~15%である。つまり、第2領域12は、第1領域11よりも第2金属成分であるFeの含有率が少なく、これにより第1領域11よりも透磁率は低下する。しかしながら、第3金属成分であるCuの含有率が多いことから、第1領域11よりも抵抗率が低くなる。但し、第3金属成分であるCuが多すぎると透磁率が小さくなりすぎることから、第3金属成分であるCuの含有率は、第2金属成分であるFeよりも小さくてもよい。なお、第1及び第2領域11,12は、酸素などの他の成分を含んでいても構わない。
【0016】
第2領域12は少なくとも1層以上有し、第2領域12の層数については特に限定されないが、第2領域12の層数が多すぎると第1磁性層10の厚み方向における透磁率が低下することから、目的とするシールド効果を確保できる範囲内に設定してもよい。また、第2領域12の厚さについても、第1磁性層10の厚み方向における透磁率が十分に確保されるよう、第1領域11よりも十分に薄く設定してもよく、具体的には1/10以下としてもよい。一例として、第1磁性層10の全体の厚さが約3μm、第2領域12の厚さが約10nmである場合、第2領域12の層数を約30層以下としてもよい。
【0017】
なお、第1領域11及び第2領域12が第3金属成分を含まなくとも、第2領域12は、第1領域11よりも第2金属成分であるFeの含有率が少ないことから、厚み方向に抵抗率のグラデーションが生じ、厚み方向に抵抗率が一定である場合よりも、侵入した電磁波ノイズの反射機会が増え、より高いシールド効果を得ることが可能となる。
【0018】
金属膜6は、導電層30と第1磁性層10の間に位置し、第1磁性層10の酸化を防止するとともに、導電層30と第1磁性層10の間における金属の拡散を防止する役割を果たす。金属膜6の材料としては、このような効果が得られる金属材料であれば特に限定されるものではなく、例えばNiを用いることができる。
【0019】
防錆層7は、第1磁性層10の最表層、つまり、第1磁性層10の導電層30が設けられた側の面とは反対側の面に設けられており、第1磁性層10の表面を保護するとともに、酸化を防止する役割を果たす。防錆層7の材料としては、このような効果が得られる材料であれば特に限定されるものではなく、樹脂などの有機材料からなる有機膜であっても構わないし、不動態化被膜を形成しやすいNi、Cr、Al、Ti、Zn、Taからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属又は当該群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む合金などの無機材料からなる無機膜であっても構わない。
【0020】
このような構成により、本実施形態によるノイズ抑制シート1は、第1磁性層10が単一の磁性材料からなる場合と比べて、厚み方向における抵抗率が低下する。しかも、低抵抗化に寄与する第2領域12が非磁性材料ではなく、Ni及びFeを含む磁性材料からなることから、厚み方向における磁気抵抗が十分に小さく、これにより磁界が分散されることから、磁気飽和も生じにくくなる。このように、本実施形態によるノイズ抑制シート1は、特に低周波領域において高いシールド効果を発揮することができる。
【0021】
また、第1領域11内における組成については一様である必要はなく、導電層30から離れるにしたがって第2金属成分であるFeの濃度が低くなる部分を有していても構わない。このような濃度分布を持たせれば、厚み方向に抵抗率のグラデーションが生じることから、厚み方向に抵抗率が一定である場合よりも、侵入した電磁波ノイズの反射機会が増え、より高いシールド効果を得ることが可能となる。なお、本実施形態では、厚み方向に複数の第1領域11が積層されているが、複数の第1領域11それぞれの組成については一様である必要はなく、導電層30から離れるにしたがって第2金属成分であるFeの濃度が低くなっても構わない。つまり、導電層30から相対的に近い位置に存在する第1領域11よりも導電層30から相対的に遠い位置に存在する第1領域11における第2金属成分であるFeの濃度が低くてもよい。この場合、厚み方向に抵抗率のグラデーションが生じることから、厚み方向に抵抗率が一定である場合よりも、侵入した電磁波ノイズの反射機会が増え、より高いシールド効果を得ることが可能となる。
【0022】
次に、本実施形態によるノイズ抑制シート1の製造方法について説明する。
【0023】
図3は、本実施形態によるノイズ抑制シート1の製造方法を説明するための工程図である。
【0024】
まず、
図3(a)に示すように、剥離層4と樹脂層5の積層体を用意し、樹脂層5の表面に無電解メッキによって第1導電層31を形成する。次に、
図3(b)に示すように、第1導電層31を給電体とした電解メッキによって、第1導電層31の表面に第2導電層32を形成する。この時、無電解メッキによって形成される第1導電層31については相対的に結晶粒径が大きくなり、アンカー効果によって樹脂層5に対する密着性を高めることができる。一方、電解メッキによって形成される第2導電層32については、相対的に結晶粒径が小さくなる。次に、
図3(c)に示すように、第2導電層32の表面に電解メッキによって金属膜6を形成する。ここで、金属膜6の下地となる第2導電層32の表面の平滑性が高いと、金属膜6の初期析出が安定する。第2導電層32の表面粗さは、最大高さRzが0.2~4.0μmであってよい。
【0025】
次に、
図3(d)に示すように、金属膜6の表面に電解メッキによって第1磁性層10を形成する。この時、電解メッキの条件を周期的に変化させれば、第1領域11と第2領域12を交互に形成することができる。また、第1領域11間に第2領域12を介在させることにより結晶成長が一旦リセットされるため、結晶粒径の肥大化による磁気特性の低下を防止することもできる。さらに、金属膜6の初期析出が安定することで、第1磁性層10の初期析出も安定する。そして、第1磁性層10の表面に防錆層7を形成すれば、
図2に示した本実施形態によるノイズ抑制シート1が完成する。
【0026】
図4は、第2の実施形態によるノイズ抑制シート2の構造を説明するための模式的な断面図である。
【0027】
図4に示すように、第2の実施形態によるノイズ抑制シート2は、金属膜6が省略されている代わりに、導電層30と接する第1磁性層10の表層部分がFeリッチ層13を構成している点において、第1の実施形態によるノイズ抑制シート1と相違している。Feリッチ層13は、第1領域11の一部であって、局所的に第2金属成分であるFeの濃度が高い領域である。つまり、Feリッチ層13におけるFeの濃度は、他の第1領域11におけるFeの濃度よりも高い。その他の基本的な構成は、第1の実施形態によるノイズ抑制シート1と同一であることから、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0028】
本実施形態においては、導電層30と第1磁性層10が直接接しているものの、導電層30と接する第1磁性層10の表層部分にFeリッチ層13が設けられていることから、導電層30を構成するCuの面心立方構造と、第1磁性層10の主成分であるNiの面心立方構造の間に、Feリッチ層13に多く含まれるFeの体心立方構造が介在することになる。これにより、電解メッキによって第1磁性層10を形成する際に結晶構造が一旦リセットされることから、第1磁性層10の初期析出の際の結晶粒径サイズが抑制され、より高い磁気特性を得ることが可能となる。
【0029】
図5は、第3の実施形態によるノイズ抑制シート3の構造を説明するための模式的な断面図である。
【0030】
図5に示すように、第3の実施形態によるノイズ抑制シート3は、剥離層4及び樹脂層5が省略されている代わりに、導電層30から見て第1磁性層10とは反対側に第2磁性層20が設けられている。導電層30と第2磁性層20の間には、金属膜6と同じ材料からなる金属膜8が設けられ、導電層30とは反対側に位置する第2磁性層20の最表層には、防錆層7と同じ材料からからなる防錆層9が設けられている。その他の基本的な構成は、第1の実施形態によるノイズ抑制シート1と同一であることから、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0031】
第2磁性層20は、第1磁性層10と基本的に同じ材料からなるとともに基本的に同じ構造を有している。つまり、第2磁性層20は、Niからなる第1金属成分と、Feからなる第2金属成分を主成分とする合金からなるとともに、第3金属成分であるCuの濃度が低い第3領域23と、第3金属成分であるCuの濃度が高い第4領域24が厚み方向に交互に積層された構造を有している。第3領域23の組成は、第1磁性層10の第1領域11と基本的に同じであり、第4領域24の組成は、第1磁性層10の第2領域12と基本的に同じである。
【0032】
このように、本実施形態によるノイズ抑制シート3は、Cuからなる導電層30の両面にパーマロイを主成分とする第1磁性層10及び第2磁性層20が設けられていることから、特に低周波領域においてより高いシールド効果を得ることが可能となる。このような構造を有するノイズ抑制シート3は、電解メッキによって導電層30の表裏に金属膜6,8を形成した後、第1及び第2磁性層10,20を形成することによって作製することができる。但し、第1磁性層10と第2磁性層20の組成が互いに同じである必要はなく、互いに異なっていても構わない。例えば、第2磁性層20に含まれる第2金属成分であるFeの濃度は、第1磁性層10に含まれる第2金属成分であるFeの濃度より低くても構わない。これによれば、導電層30の表裏における磁気特性が異なることから、より幅広い周波数帯域においてシールド効果を得ることが可能となる。
【0033】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記の実施形態に限定されることなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本開示の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0034】
例えば、上記各実施形態においては、第1磁性層10と導電層30が積層されているが、目的とする周波数帯域によっては導電層30を省略しても構わない。
【0035】
本開示に係る技術には、以下の構成例が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0036】
本開示によるノイズ抑制シートは、第1磁性層を備えるノイズ抑制シートであって、第1磁性層は、厚み方向に積層された複数の第1領域と、第1領域間に位置する第2領域を含み、第1磁性層は、Niからなる第1金属成分と、Feからなる第2金属成分と、Ni及びFe以外の第3金属成分を含み、第2領域における第3金属成分の濃度は、第1領域における第3金属成分の濃度より高い。これによれば、シールド効果の高いノイズ抑制シートを提供することが可能となる。
【0037】
上記ノイズ抑制シートにおいて、第3金属成分は、Ni及びFeよりも抵抗率が低い金属からなるものであっても構わない。これによれば、第2領域の抵抗率をより低下させることが可能となる。
【0038】
上記いずれかのノイズ抑制シートにおいて、第2領域の厚みは、第1領域の厚みより薄くても構わない。これによれば、第1磁性層の全体の透磁率を十分に確保することが可能となる。
【0039】
上記いずれかのノイズ抑制シートにおいて、第2領域における第2金属成分の割合は、第1金属成分の割合よりも小さく、且つ、第3金属成分の割合よりも大きくても構わない。これによれば、第2領域の透磁率を十分に確保することが可能となる。
【0040】
上記いずれかのノイズ抑制シートにおいて、第1磁性層は第2領域を複数含み、複数の第1領域と複数の第2領域が厚み方向に交互に積層されていても構わない。これによれば、透磁率の高い複数の第1領域が抵抗率の低い第2領域を介して並列に接続された構造を得ることができる。
【0041】
上記いずれかのノイズ抑制シートにおいて、第1磁性層と重なる導電層をさらに備えていても構わない。これによれば、電磁波ノイズの高周波成分を反射することが可能となる。
【0042】
上記ノイズ抑制シートにおいて、導電層は、第1導電層と、第1導電層と第1磁性層の間に位置し、第1導電層よりも平均結晶粒径の小さい第2導電層を含んでいても構わない。これによれば、第2導電層を下地とするメッキの成膜が容易となる。
【0043】
上記いずれかのノイズ抑制シートにおいて、導電層と隣接する第1領域における第2金属成分の濃度は、他の第1領域における第2金属成分の濃度よりも高くても構わない。これによれば、第2金属成分の濃度が高い部分において結晶構造が分断されることから、第1磁性層の結晶粒径サイズの肥大化を防止することが可能となる。
【0044】
上記いずれかのノイズ抑制シートにおいて、導電層と第1磁性層の間に設けられ、導電層とは異なる金属材料からなる金属膜をさらに備えていても構わない。これによれば、第1磁性層の酸化が防止されるとともに、導電層と第1磁性層の間における金属の拡散を防止することが可能となる。
【0045】
上記いずれかのノイズ抑制シートにおいて、第1領域は、導電層から離れるにしたがって第2金属成分の濃度が低くなる部分を有していても構わない。これによれば、侵入した電磁波ノイズの反射機会が増えることから、より高いシールド効果を得ることが可能となる。
【0046】
上記いずれかのノイズ抑制シートにおいて、第1磁性層の導電層が設けられた側の面とは反対側の面に設けられた有機膜をさらに備えていても構わない。これによれば、第1磁性層の酸化を防止することが可能となる。
【0047】
上記いずれかのノイズ抑制シートにおいて、第1磁性層の導電層が設けられた側の面とは反対側の面に設けられたNi、Cr、Al、Ti、Zn、Taからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属又は群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む合金の無機膜をさらに備えていても構わない。これによれば、第1磁性層の酸化を防止することが可能となる。
【0048】
上記いずれかのノイズ抑制シートにおいて、導電層の第1磁性層が設けられた側の面とは反対側の面に設けられた第2磁性層をさらに備え、第2磁性層は、厚み方向に積層された複数の第3領域と、第3領域間に位置する第4領域を含み、第2磁性層は、第1乃至第3金属成分を含み、第4領域における第3金属成分の濃度は、第3領域における第3金属成分の濃度より高くても構わない。これによれば、導電層が第1及び第2磁性層によって挟まれることから、低周波領域におけるシールド効果がより高められる。
【0049】
上記ノイズ抑制シートにおいて、第2磁性層における第2金属成分の濃度は、第1磁性層における第2金属成分の濃度よりも低くても構わない。これによれば、導電層の表裏における磁気特性が異なることから、より幅広い周波数帯域においてシールド効果を得ることが可能となる。
【0050】
本開示によるノイズ抑制シートは、厚み方向に積層された第1磁性材料を含む複数の第1領域と、第1領域間に位置する第2磁性材料を含む第2領域とを備え、第1及び第2磁性材料は、Niからなる第1金属成分と、Feからなる第2金属成分を含み、第1磁性材料における第1金属成分の割合は、第2金属成分の割合よりも大きく、第2磁性材料における第1金属成分の割合は、第2金属成分の割合よりも大きく、第2領域は第1領域よりも抵抗値が低い。これによれば、厚み方向における透磁率を確保しつつ、複数の第1領域を電気的に並列接続することが可能となり、高いシールド効果を得ることが可能となる。
【0051】
本開示によるケーブルは、ケーブル本体と、ケーブル本体に巻き付けられている上記いずれかのノイズ抑制シートと、を備える。これによれば、シールド効果の高いノイズ抑制シートを備えたケーブルを提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0052】
1~3 ノイズ抑制シート
4 剥離層
5 樹脂層
6,8 金属膜
7,9 防錆層
10 第1磁性層
11 第1領域
12 第2領域
13 Feリッチ層
20 第2磁性層
23 第3領域
24 第4領域
30 導電層
31 第1導電層
32 第2導電層
40 ケーブル本体
41 芯材
42 保護材
100 ケーブル