(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170756
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】ポリエステル繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 6/92 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
D01F6/92 301B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082753
(22)【出願日】2022-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴大
(72)【発明者】
【氏名】増田 正人
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035JJ15
4L035KK05
(57)【要約】
【課題】芳香族ポリエステル特有の分子鎖の剛直性を軽減させ、かつ結晶性を向上させることで、繊維の染色性を改良することと優れた機械特性や寸法安定性を両立させることができるポリエステル繊維を提供する。
【解決手段】芳香族ポリエステルからなり非イオン界面活性剤を0.01重量%以上5重量%以下繊維中に含有することを特徴とするポリエステル繊維。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエステルからなり、非イオン界面活性剤を0.01重量%以上5重量%以下含有することを特徴とするポリエステル繊維。
【請求項2】
前記非イオン界面活性剤がポリアルキレングリコールモノ脂肪酸エステル、ポリアルキレングリコールジ脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル繊維。
【請求項3】
前記非イオン界面活性剤中に不飽和炭素結合を有することを特徴とする請求項2に記載のポリエステル繊維。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のポリエステル繊維を用いた繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染色性に優れたポリエステル繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、繊維産業において、人々の環境保護への意識の高まりといった背景の中、サプライチェーン全体で環境負荷低減に取り組むことが求められている。
【0003】
繊維製品の製造には様々な工程があるが、特に、染色加工工程は、繊維製品の付加価値を向上させる重要な工程であり、繊維産業の中で不可欠であるが、一方で、製造プロセスにおいて多くのエネルギーと水を必要とするため、環境への対応が強く求められている。また、原材料およびエネルギーコストの高騰といった観点からも、水やエネルギー消費量を削減することは重要である。
【0004】
繊維産業において幅広く使用されている繊維素材として、ポリエステル繊維がある。ポリエステル繊維は、その特徴的な風合いや機械特性から、衣料用途、産業用途を問わず使用されている。ポリエステル繊維を代表するポリエチレンテレフタレートは、分子鎖中に芳香環を有している芳香族ポリエステルであり、分子鎖の剛直性が高い。そのため、芳香族ポリエステルからなる繊維を染色する際には、分子鎖の運動性が向上する、すなわちガラス転移点を上回るような高温高圧条件が必要であり、染色加工工程による環境負荷に繋がっている。
【0005】
ポリエステル繊維の染色加工工程による環境負荷を低減する方法として、ポリエステル繊維自体の発色性を向上させることや染色性を改良することが挙げられる。そのような手法として、ポリエステル繊維表面を薬品等で改質すること、もしくは繊維構造の剛直性を低減させることが提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1では、粘度差のある二種類のポリエステル樹脂組成物が複合されており、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子および高比重無機微粒子を含有するポリエステル複合繊維が提案されている。
【0007】
特許文献2では、ポリエステル繊維の表面を、安息香酸ブチル、サリチル酸ベンジル等の芳香族カルボン酸エステルを添加したアルカリ水溶液にて加水分解することで、繊維軸方向に対して横長の不連続凹部を形成させ、発色性を改良する方法が提案されている。
【0008】
特許文献3では、仮撚加工工程での加工条件を調整することでポリエステルの配向の進行を抑制した仮撚中空マルチフィラメントとポリエステル延伸糸とからなる熱収縮性複合糸が提案されている。このような複合糸とすることで、染着性が高まり、濃染性が向上するとされている。
【0009】
特許文献4では、低収縮性ポリエステル成分と高収縮性ポリエステル成分とよりなるサイドバイサイド型潜在捲縮性複合繊維を用いた深みのある色彩を有する織編物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2020-33668号公報
【特許文献2】特公平2-35068号公報
【特許文献3】特開2019-65413号公報
【特許文献4】特開平5-295634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載のポリエステル繊維は、繊維に対してアルカリ減量処理を施すことで、繊維中に含有している生成粒子または高比重無機微粒子の少なくとも一部を脱落させ、単繊維表面に微細孔を形成することで濃染性を発現させている。しかし、アルカリ減量処理によって繊維の機械特性が低下する場合があった。また、繊維のアルカリ減量処理後、廃液を中和する工程が必要であり、水を大量に消費する、中和のために別の薬品を使用する等、環境負荷の高さが課題となる場合があった。
【0012】
特許文献2に記載のポリエステル繊維の改良方法は、繊維に対してアルカリによる加水分解を施すため、繊維の機械特性が低下する場合があった。また、加水分解処理時には有機溶剤も使用するため、その廃液処理による環境負荷が高くなることが課題となる場合があった。
【0013】
特許文献3に記載の熱収縮性複合糸は、配向が抑制されているために100~180%の高伸度を有する仮撚中空マルチフィラメントを含んでおり、得られる織編物の機械特性が低い場合があった。また、配向が抑制されているため、繊維の結晶化度が低く、生地の寸法安定性に劣る場合もあった。さらに、仮撚中空マルチフィラメント糸の配向を抑制するために、複合糸の製造方法が限定されてしまい、生産性の観点で課題になる場合があった。
【0014】
特許文献4に記載の複合繊維は、高収縮性ポリエステル成分として共重合ポリエステルを用いることで、ルーズな繊維構造となるため、染着性が高くなり、捲縮の発現との相乗効果により深みのある色彩が得られている。一方で、共重合ポリエステルを用いているため、繊維の結晶化が阻害されて、繊維の収縮率が大きくなり、生地の寸法安定性に劣る場合があった。
【0015】
そこで、本発明は、上記の問題点を解決しようとするものであり、芳香族ポリエステル特有の分子鎖の剛直性を軽減させ、かつ結晶性を向上させることで、繊維の染色性を改良することと優れた機械特性や寸法安定性を両立させることができるポリエステル繊維を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記課題を解決するため、下記の構成を有する。
(1)芳香族ポリエステルからなり非イオン界面活性剤を0.01重量%以上5重量%以下繊維中に含有することを特徴とするポリエステル繊維。
(2)前記非イオン界面活性剤がポリアルキレングリコールモノ脂肪酸エステル、ポリアルキレングリコールジ脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルであることを特徴とする前記(1)に記載のポリエステル繊維。
(3)前記非イオン界面活性剤中に不飽和炭素結合を有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載のポリエステル繊維。
(4)前記(1)~(3)のいずれかに記載のポリエステル繊維を用いた繊維製品。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、染色性が向上し、発色性に優れた織編物が得られる。
【0018】
また、染色性が向上するので、染色加工工程等で使用する水やエネルギーの量を削減することができ、織編物製造時の環境負荷を低減することができる。さらに、芳香族ポリエステルと親和性の高い非イオン界面活性剤が可塑剤として働くことで、結晶化速度が向上し、繊維の収縮が抑制できる。このため、寸法安定性が良好で品位に優れた織編物を得られ、特に衣料用途において好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のポリエステル繊維は、芳香族ポリエステルからなる。ここで、「芳香族ポリエステルからなる」とは、主たる成分が芳香族ポリエステルであることを意味する。主たる成分を芳香族ポリエステルとすることで機械特性や耐熱性に優れるため、ハリ、コシ感やドライ感といった良好な触感となり、また、染色性に優れることから、衣料用途で好適に用いられる繊維構造体を得られる。
【0020】
本発明のポリエステル繊維の主たる成分である芳香族ポリエステルとは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールの組み合わせからなる重合体である。一般的に、機械特性、耐熱性、製造時の取り扱い性の点から、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールの組み合わせからなる芳香族ポリエステルを用いることが好ましい。
【0021】
芳香族ジカルボン酸の具体例として、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-リチウムスルホイソフタル酸、5-(テトラアルキル)ホスホニウムスルホイソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
脂肪族ジオールの具体例として、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
本発明における芳香族ポリエステルの製造方法は限定されるものではなく、製造時の原料を包括してモノマーとすると、モノマーを一般的な重縮合反応、付加重合反応等によって合成して製造してもよい。モノマーとしては、石油由来モノマー、バイオマス由来モノマー、石油由来モノマーとバイオマス由来モノマーの混合物、芳香族ポリエステルをケミカルリサイクルの手法にて再原料化したリサイクルモノマー等限定されるものではない。もしくは、廃プラスチック等の廃棄物からマテリアルリサイクルの手法にて芳香族ポリエステルを製造してもよい。加えて、本発明における芳香族ポリエステルには本発明の目的を逸脱しない範囲で、主成分の他に第2、第3成分が共重合または混合されても良い。主たる構成成分が芳香族ポリエステルであるためには、共重合量は全モノマー量に対する共重合成分のモノマー量として10mol%以下である。
【0024】
本発明のポリエステル繊維は、非イオン界面活性剤を繊維中に含有することが重要である。非イオン界面活性剤はポリエステル繊維中に分散し、芳香族ポリエステルに対して可塑化剤として作用している。そのため、芳香族ポリエステル特有の分子鎖の剛直性が低減し、分子鎖の運動性が向上する効果が得られる。また、非イオン界面活性剤は芳香族ポリエステルとの親和性が良好であることから、分子鎖の運動性が向上する効果により芳香族ポリエステルの結晶化を促進するように作用する。この作用により、分子鎖中に共重合成分を導入することでポリマーを非晶質に改質した場合と異なり、分子鎖の運動性を向上させつつ、結晶化促進による安定性の両立を達成することができる。分子鎖の運動性が向上することで、本発明のポリエステル繊維を用いて繊維製品を製造する際に、染色加工工程で染料が繊維中に入りやすく、すなわち染色性が向上するため、加工時に使用する水やエネルギー等の使用量を減らすことができる。さらに、結晶化が促進されているため、染色加工工程での生地の寸法が安定し、優れた品位の製品が得られる。加えて、繊維中に非イオン界面活性剤を含有することで、繊維表面に非イオン界面活性剤を付着させている場合とは異なり、例えば、本発明のポリエステル繊維からなる生地を精練工程等の後加工工程を通したとしても、安定して繊維中に非イオン界面活性剤を保持することができる。
【0025】
本発明のポリエステル繊維は、繊維重量に対して0.01重量%以上5重量%以下の非イオン界面活性剤を繊維中に含有することが重要である。非イオン界面活性剤の繊維中の含有量を0.01重量%以上とすることで、非イオン界面活性剤が繊維中に均一に分散し、芳香族ポリエステルの分子鎖の剛直性を低減させることができる。好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上である。また、非イオン界面活性剤の繊維中の含有量を5重量%以下とすることで、芳香族ポリエステルからの非イオン界面活性剤の析出が抑制され、芳香族ポリエステルの結晶化を促進することができる。さらに、非イオン界面活性剤の熱劣化等を抑制することもできるので、繊維製造時の糸切れ等の発生を防ぐこともできる。好ましくは4重量%以下、より好ましくは3重量%以下である。
【0026】
本発明のポリエステル繊維における非イオン界面活性剤は、親水部と疎水部とから構成される。非イオン性界面活性剤の例として、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(高級アルコールエチレンオキサイド付加物)、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、ポリアルキレングリコールモノ脂肪酸エステル、ポリアルキレングリコールジ脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、グリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトールもしくはソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミド等が挙げられる。
【0027】
これらの非イオン性界面活性剤の中でも、芳香族ポリエステルとの親和性の高さ、結晶化促進効果の観点から、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリアルキレングリコールモノ脂肪酸エステル、ポリアルキレングリコールジ脂肪酸エステルが好ましい。さらに、芳香族ポリエステルの中でもポリエチレンテレフタレートとの親和性の高さの観点から、ポリエチレングリコールモノ脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールジ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルがより好ましい。
【0028】
本発明のポリエステル繊維におけるポリエチレングリコールモノ脂肪酸エステル、またはポリエチレングリコールジ脂肪酸エステルにおいて、脂肪酸の炭化水素基には飽和または不飽和炭化水素基を用いることができる。この炭化水素基の炭素数は11以上17以下であることが好ましい。また、ポリエチレングリコールの重合度は1以上40以下が好ましい。このような一例として、脂肪酸の炭化水素基の炭素数が11であるポリエチレングリコールモノラウリル酸エステル、ポリエチレングリコールジラウリル酸エステル、炭素数が17であるポリエチレングリコールモノステアリン酸エステル、ポリエチレングリコールジステアリン酸エステル、炭素数が17で不飽和炭素結合を有するポリエチレングリコールモノオレイン酸エステル、ポリエチレングリコールジオレイン酸エステルが挙げられる。
【0029】
本発明のポリエステル繊維におけるポリオキシエチレンアルキルエーテルにおいて、アルキル基には飽和または不飽和炭化水素基を用いることができる。このアルキル基の炭素数は1以上20以下であることが好ましい。より好ましくは5以上18以下であり、さらに好ましくは12以上18以下である。また、ポリエチレングリコールの重合度は1以上40以下が好ましい。このような一例として、アルキル基の炭素数が1であるジエチレングリコールメチルエーテル、炭素数が6であるジエチレングリコールヘキシルエーテル、炭素数が12であるポリエチレングリコールラウリルエーテル、炭素数が18であるポリエチレングリコールステアリルエーテル、炭素数が18で不飽和炭素結合を有するポリエチレングリコールオレイルエーテルが挙げられる。
【0030】
かかる範囲の炭素数およびポリエチレングリコールの重合度を有するポリエチレングリコールモノ脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールジ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルは耐熱性に優れ、繊維中からの析出が抑制される。そのため、繊維中に安定して非イオン界面活性剤が存在することから、本発明の目的である染色性の向上および結晶化促進による寸法安定性を両立することができる。
【0031】
加えて、本発明のポリエステル繊維を製造する際の取り扱い性の観点から、非イオン界面活性剤は不飽和炭化水素基を有することが好ましい。非イオン界面活性剤の炭化水素基の炭素数が多い場合、および/またはポリエチレングリコールの重合度が高い場合、非イオン界面活性剤は常温において固体であることが多いが、不飽和炭化水素基を有することで常温において液体となるため、繊維中へ含有させることが容易となる。このような一例として、前記の好ましい非イオン界面活性剤の中では、ポリエチレングリコールモノオレイン酸エステル、ポリエチレングリコールジオレイン酸エステル、ポリエチレングリコールオレイルエーテルが挙げられる。
【0032】
本発明のポリエステル繊維に非イオン界面活性剤を含有させる方法としては、特に制限はなく、公知の方法で行うことができる。例えば、芳香族ポリエステルペレットと所定量の非イオン界面活性剤をドライブレンドしたものを原料としてもよい。あるいは、二軸押出機にて芳香族ポリエステルと所定量の非イオン界面活性剤を溶融混練して作製したペレットを原料としてもよい。二軸押出機での溶融混練の場合、非イオン界面活性剤を高濃度に含有させて芳香族ポリエステルのマスターペレットとして、紡糸工程までの任意の工程でこのマスターペレットと芳香族ポリエステルペレットを混合し原料としてもよい。もしくは、非イオン界面活性剤を含む水溶液にて、芳香族ポリエステル繊維または芳香族ポリエステル繊維からなる生地を処理し、処理した繊維または生地を溶融混練することで、非イオン界面活性剤を含有するペレットを作製し、原料としてもよい。
【0033】
本発明のポリエステル繊維において非イオン界面活性剤を含有させる方法として、二軸押出機での溶融混練を行う場合、押出機に投入する芳香族ポリエステルの形状は、ペレット状、繊維状、塊状、フィルム状、生地状等、限定されない。
【0034】
また、二軸押出機での非イオン界面活性剤の添加方法は、芳香族ポリエステルとドライブレンドしたものを押出機に投入する方法以外にも、液体添加装置、粉体添加装置等の剤の形状に合わせた計量装置を用いる方法等が挙げられる。あるいは、芳香族ポリエステルが繊維状もしくは生地状の場合、繊維状もしくは生地状の芳香族ポリエステルに非イオン界面活性剤を含浸させる方法も挙げられる。そのような方法としては、例えば、加熱した非イオン界面活性剤を接触させる方法、もしくは非イオン系界面活性剤と助剤を含む水溶液にて加熱処理する方法等が挙げられる。
【0035】
本発明のポリエステル繊維の断面形状は、丸断面だけでなく、扁平、Y型、T型、中空型、田型、井型等の多種多様な断面形状を採用することができる。
【0036】
本発明のポリエステル繊維は、長繊維(フィラメント)、短繊維(ステープル)等いかなる形態でもよい。長繊維の場合、単糸1本からなるモノフィラメントでも、複数の単糸からなるマルチフィラメントであってもよい。短繊維の場合、カット長、捲縮数にも限定はない。
【0037】
本発明のポリエステル繊維の繊度は用途に応じて適宜設定すれば良いが、衣料用長繊維であれば8dtex以上、150dtex以下が実用上好ましい。また、強度は衣料用として1.5cN/dtex以上であることが好ましいが、布帛を作製する際に他の繊維と合わせて使用する等の対応を取ることにより、1.5cN/dtex以下でも問題なく使用できる。伸度は、用途に応じて適宜設定すれば良いが、布帛に加工する際の加工性の点から、好ましくは25%以上60%以下である。後加工を施す場合には、60%以上250%以下に設定することが好適である。
【0038】
本発明のポリエステル繊維は、公知の溶融紡糸、複合紡糸の手法により得ることができるが、例示すると以下のとおりである。ただし、紡糸方法、複合方法はここに例示されたものに限定されるものではない。
【0039】
本発明のポリエステル繊維を製造する方法としては長繊維の製造を目的とした溶融紡糸法、湿式および乾湿式などの溶液紡糸法、シート状の繊維構造体を得るのに適したメルトブロー法およびスパンボンド法などによって製造することも可能であるが、生産性を高めるという観点から、溶融紡糸法が好適である。溶融紡糸法を用いる場合、その際の紡糸温度については、用いるポリマー種のうち、主に高融点や高粘度ポリマーが流動性を示す温度とする。この流動性を示す温度としては、分子量によっても異なるが、そのポリマーの融点から融点+60℃の間で設定すると安定して製造することができる。
【0040】
溶融紡糸法による製造方法としては、例えば、原料となるペレット状のポリマーを溶融し、ギヤポンプにて計量・輸送し、紡糸口金から吐出し、チムニー等の糸条冷却装置によって冷却風を吹き当てることにより糸条を室温まで冷却し、給油装置で給油するとともに集束し、流体交絡ノズル装置で交絡し、引き取りローラー、延伸ローラーを通過し、その際引き取りローラーと延伸ローラーの周速度の比に従って延伸する。さらに、糸条を延伸ローラーにより熱セットし、ワインダー(巻取装置)で巻き取る方法が挙げられる。他にも、引き取りローラーと延伸ローラーの周速度を同速度とし、さらに同速度のワインダーで巻き取ることで一度未延伸糸とし、別工程にて延伸を行う二工程法も挙げられる。
【0041】
本発明のポリエステル繊維は、仮撚や撚糸などの後加工が可能であり、製織や製編についても一般の繊維と同様に扱うことができる。
【0042】
本発明のポリエステル繊維および/または後加工糸は、公知の方法に従い、織物、編物、パイル布帛、不織布や紡績糸、詰め綿などの繊維構造体にすることができる。また、本発明のポリエステル繊維および/または後加工糸からなる繊維構造体は、いかなる織組織または編組織であってもよく、平織、綾織、朱子織あるいはこれらの変化織や、経編、緯編、丸編、レース編あるいはこれらの変化編などが好適に採用できる。
【0043】
本発明のポリエステル繊維は、繊維構造体にする際に交織や交編などによって他の繊維と組み合わせてもよいし、他の繊維との混繊糸とした後に繊維構造体としてもよい。
【0044】
本発明のポリエステル繊維および/または後加工糸からなる繊維構造体は、染色性および寸法安定性に優れるため、特に製品品位が要求される用途において好適に用いることができる。例えば、一般衣料用途、スポーツ衣料用途、寝具用途、インテリア用途、資材用途などが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例0045】
本発明を実施例で詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の各特性値は、以下の方法を用いて測定した。
【0046】
A.ポリマーの溶融粘度
真空乾燥機によって水分率300ppm以下としたポリマー試料について、東洋精機製キャピログラフを用いて、紡糸温度と同様の温度に設定した加熱炉に試料を投入し、窒素雰囲気下で溶融させて、歪み速度を段階的に変更して加熱炉の先端のキャピラリーから試料を押し出して粘度を測定した。なお、加熱炉に試料を投入してから5分間滞留させた後に測定を開始し、せん断速度1216sec-1における値をポリマーの溶融粘度とした。
【0047】
B.ポリマーの融点(Tm)
TA instruments社製示差走査熱量計(DSC)Q2000型を用いて、ポリマー試料20mgを、昇温速度20℃/分で20℃から280℃まで昇温し、280℃で5分間保持した後、降温速度20℃/分で280℃から20℃まで降温し、20℃の温度で1分間保持した後、さらに昇温速度20℃/分で20℃から280℃まで昇温したときに観測される吸熱ピークのピークトップ温度を融点とした。なお、吸熱ピークが複数観測された場合には、最も高温側の吸熱ピークトップを融点とした。
【0048】
C.繊度
繊維試料を枠周1.125mの検尺機にて200回巻き取ってかせを作製し、熱風乾燥機にて乾燥後(105±2℃×60分)、天秤にてカセ重量を量り公定水分率を乗じた値から繊度を算出した。測定は4回行い、平均値を繊度とした。
【0049】
D.引っ張り強度および伸度
繊維試料をオリエンテック(株)製“TENSILON”(登録商標)UCT-100を測定機器として用い、化学繊維フィラメント糸試験方法(JIS L1013(2010))に示される定速伸長条件で測定した。伸度は、引張強さ-伸び曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。また、引っ張り強度は、最大強力を繊度で除した値を強度とした。測定は10回行い、平均値を引っ張り強度および伸度とした。
【0050】
E.160℃乾熱収縮率
繊維試料を枠周1.125mの検尺機で20回巻き取ってかせを作製し、0.09cN/dtex荷重下で初長L0を求めた。荷重を取り除き、160℃乾熱オーブン中で15分間処理した。次いで0.09cN/dtex荷重下で処理後の長さL1を求め式(1)により160℃乾熱収縮率を算出した。
乾熱収縮率(%)=[(L0-L1)/L0]×100・・・(1)
F.結晶化特性
TA instruments社製示差走査熱量計(DSC)Q2000型を用いて、繊維試料5mgを、昇温速度20℃/分で10℃から280℃まで昇温し、280℃で10分間保持した後、降温速度10℃/分で280℃から20℃まで降温した際の発熱ピークのピークトップ温度を結晶化温度とした。また、このとき得られたDSC曲線のベースラインから発熱ピークのピークトップまでの高さの半分の位置でのピーク幅(単位℃)を算出した。
【0051】
G.染色性
繊維試料を英光産業製丸編機NCR-BL(釜径3インチ半(8.9cm)、27ゲージ)を用いて、度目が50となるように調整して筒編地を作製した。繊維の正量繊度が80dtex未満の場合は、筒編機に給糸する繊維の総繊度が80~160dtexとなるように適宜合糸し、総繊度が80dtexを超える場合は、筒編機への給糸を1本で行い、前記同様度目が50となるように調整して作製した。次に、炭酸ナトリウム1g/L、日華化学製界面活性剤サンモールBK-80を含む水溶液に得られた筒編地を投入し、水溶液を80℃に昇温して20分間処理した。その後、60℃の熱風乾燥機内で60分間乾燥させ、160℃で2分間乾熱セットすることで生地試料を作製した。
【0052】
作製した生地試料の重量に対して2重量%の分散染料(日本化薬製Kayalon Polyester Blue UT-YA)を加えてpHを5.0に調整した染色液を準備した。準備した染色液中に生地試料を投入し、浴比1:100(生地試料の重量に対して染色液の重量が100倍)、染色温度130℃、染色時間60分の条件で染色した。
【0053】
染色後の生地試料のL値をミノルタ製分光測色計CM-3700d型にて測定した。測定条件は、D65光源、視野角度10°、光学条件をSCE(正反射光除去法)であり、1試料につき3回測定し、その平均値を小数点第2位で四捨五入した値を試料のL値とした。L値は0に近いほど、染色性が良好と判定した。
【0054】
H.染料吸じん率
G項に記載の方法にて準備した染色液、およびG項に記載の方法にて生地試料を染色した後の染色液それぞれの吸光度を分光光度計(日立製作所製、607型)にて測定し、式(2)により染料吸じん率を求めた。
染料吸じん率(%)=[(AbB-AbA)×100]/AbB・・・(2)
AbA:染色液の染色後の最大吸収波長における吸光度
AbB:染色液の染色前の最大吸収波長における吸光度。
【0055】
I.染色効率指数
G項に記載の方法にて測定した生地試料のL値、およびH項に記載の方法にて求めた染料吸じん率を用いて、式(3)により染色効率指数を算出した。
染色効率指数=(100-L)/(Owf×DS/100)
L:G項に記載の方法にて測定した生地試料のL値
Owf:生地試料の重量に対する染料の重量%
DS:H項に記載の方法にて求めた染料吸じん率(%)。
【0056】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート(溶融粘度120Pa・s、融点254℃)に対して、非イオン界面活性剤としてポリエチレングリコールの重合度が4であるポリエチレングリコールオレイルエーテルを3重量%ドライブレンドで添加し、ブレンド後のペレットを二軸押出機(L/D=15)へ投入して温度275℃で溶融混練を行った。二軸押出機より吐出されたストランドを水冷した後、ペレタイザーにて5mm長程度にカットして、非イオン界面活性剤含有ポリエチレンテレフタレートペレットを得た。得られたペレットは150℃にて真空乾燥した。次に、プレッシャーメルター型の紡糸機を用いて、紡糸温度290℃にてペレットを溶融させた後、規定の吐出量となるようにギヤポンプにて計量し、紡糸パックに組み込まれた口金(吐出孔径0.30mm、孔数36ホール)から溶融ポリマーを吐出させた。吐出されたポリマー流を冷却装置で冷却固化し、給油装置により含水油剤を給油した。その後、第1ロールである引き取りローラーの周速度を1000m/minとして引き取った。さらに、引き取りローラーで引き取った糸条を、周速度を1000m/minとした第2ロールである延伸ローラーで引き取り、巻取速度1000m/minとしたワインダーにて巻き取ることで、300dtex-36フィラメントの未延伸糸を得た。続いて、第1ローラー温度90℃、第2ローラー温度130℃、第1ローラーと第2ローラーの周速度の比で表される延伸倍率を3.57倍として得られた未延伸糸を延伸し、84dtex-36フィラメントのポリエステル繊維の延伸糸を得た。得られたポリエステル繊維の評価結果を表1に示す。
【0057】
(実施例2)
ポリエチレンテレフタレート(溶融粘度120Pa・s、融点254℃)の溶融紡糸にて得られた84dtex-36フィラメントのポリエチレンテレフタレート延伸糸を用いて、釜径30インチ(76.2cm)、28ゲージの丸編機にて目付220g/m2の丸編生地を作製した。作製した生地を水酸化ナトリウム0.5重量%、ポリエチレングリコールの重合度が4であるポリエチレングリコールオレイルエーテル1重量%を含む水溶液中に投入し、135℃にて40分間の処理を行った。処理後の生地を水洗し、乾燥した後、二軸押出機(L/D=15)にて温度275℃で溶融混練を行った。二軸押出機より吐出されたストランドを水冷した後、ペレタイザーにて5mm長程度にカットして、非イオン界面活性剤含有ポリエチレンテレフタレートペレットを得た。得られたペレットは150℃にて真空乾燥した後は、実施例1に記載の方法で84dtex-36フィラメントのポリエステル繊維の延伸糸を得た。得られたポリエステル繊維の評価結果を表1に示す。
【0058】
(実施例3)
非イオン界面活性剤としてポリエチレングリコールの重合度が4であるポリエチレングリコールオレイルエーテルをドライブレンドする際の添加量を0.5重量%としたこと以外は実施例1に記載の方法と同様にして、84dtex-36フィラメントの非イオン界面活性剤を含有しないポリエステル繊維の延伸糸を得た。得られたポリエステル繊維の評価結果を表1に示す。
【0059】
(比較例1)
ポリエチレンテレフタレート(溶融粘度120Pa・s、融点254℃)を原料として、非イオン界面活性剤をドライブレンドしないこと以外は実施例1に記載の方法と同様にして、84dtex-36フィラメントの非イオン界面活性剤を含有しないポリエステル繊維の延伸糸を得た。得られたポリエステル繊維の評価結果を表1に示す。
【0060】
表1に示したとおり、実施例1から実施例3では、非イオン界面活性剤を繊維中に含有しているため、比較例1に対して、実施例1および実施例2では染色効率指数が10%以上、実施例3でも9%向上している。また、160℃乾熱収縮率が低減し、結晶化温度が高温化し、結晶化温度でのピーク幅が狭くなっており、優れた染色性と寸法安定性を両立するポリエステル繊維が得られた。
【0061】
(比較例2)
実施例1にて得た、非イオン界面活性剤であるポリエチレングリコールの重合度が4であるポリエチレングリコールオレイルエーテルを3.0重量%含有するポリエチレンテレフタレートペレットを、ポリエチレンテレフタレート(溶融粘度120Pa・s、融点254℃)のペレットと1:500で混合したブレンドペレット(非イオン界面活性剤含有量:0.006重量%)を原料として、実施例1に記載の方法で84dtex-36フィラメントのポリエステル繊維の延伸糸を得た。得られたポリエステル繊維の評価結果を表1に示したとおり、染色性と寸法安定性を両立するポリエステル繊維は得られなかった。
【0062】
(比較例3)
ポリエチレンテレフタレート(溶融粘度120Pa・s、融点254℃)に対して、非イオン界面活性剤としてポリエチレングリコールの重合度が4であるポリエチレングリコールオレイルエーテルを10重量%ドライブレンドで添加し、ブレンド後のペレットを二軸押出機(L/D=15)へ投入して温度275℃で溶融混練を行った。二軸押出機よりストランドが吐出された際に発煙が見られ、異臭が発生していた。その後、実施例1に記載の方法で、非イオン界面活性剤含有ポリエチレンテレフタレートペレットを得た。得られたペレットを用いて、実施例1に記載の方法で溶融紡糸を行ったが、口金から溶融ポリマー吐出時にも発煙および異臭があり、糸切れが発生して安定してポリエステル繊維が得られなかった。
【0063】
(比較例4)
イソフタル酸を7mol%共重合したポリエチレンテレフタレート(溶融粘度:140Pa・s、融点:232℃)を原料として、非イオン界面活性剤をドライブレンドしないこと以外は実施例1に記載の方法と同様にして、84dtex-36フィラメントの非イオン界面活性剤を含有しないポリエステル繊維の延伸糸を得た。得られたポリエステル繊維の評価結果を表1に示したとおり、比較例1に対して、染色性は向上したが、結晶化がしにくく、乾熱収縮率が大きいため、寸法安定性に劣るものであった。
【0064】
芳香ポリエステル繊維中に非イオン界面活性剤を含有することで、繊維成形後の非晶部緩和が生じやすく、芳香族ポリエステル特有の剛直性が軽減し、分子鎖の運動性が向上するため、染色時には染料が分子鎖中に入りやすくなり、発色性に優れた織編物が得られる。また、染色性が向上するので、染色加工工程等で使用する水やエネルギーの量を削減することができ、織編物製造時の環境負荷を低減することができる。さらに、芳香族ポリエステルと親和性の高い非イオン界面活性剤が可塑剤として働くことで、結晶性が向上することから、繊維の収縮が抑制できるため、寸法安定性が良好で品位に優れた織編物を得られる。本発明のポリエステル繊維は、特に衣料用途において好適に用いることができる。