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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170794
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】水晶振動子
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/02 20060101AFI20231124BHJP
   H03H 3/02 20060101ALI20231124BHJP
   H01L 23/02 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
H03H9/02 G
H03H3/02 B
H01L23/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082823
(22)【出願日】2022-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】水沢 周一
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108BB02
5J108EE03
5J108EE07
5J108EE18
5J108GG03
5J108GG05
5J108GG15
5J108JJ04
5J108KK04
5J108MM03
(57)【要約】
【課題】蓋部材を予め水晶片に向かって塑性変形させることで、樹脂モールド前後の周波数変動を低減することができる水晶振動子を提供する。
【解決手段】水晶振動子10は、水晶片30と、水晶片30を搭載するためのベース20と、水晶片30を封止するための、金属製の蓋部材40から構成される。水晶片30は、ベース20の凹部21内に設けられたバンプ23の上に、導電性接着剤等で固定され、凹部21内を適度な真空又は不活性ガス雰囲気等にしたのち、蓋部材40により封止される。蓋部材40は、当該水晶振動子が樹脂モールドされる際に当該水晶振動子に加わる圧力を想定した圧力により、水晶片30に向かって塑性変形している、塑性変形部41を有している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶片が搭載されるベースと、
前記ベースに接合される金属製の蓋部材と、
前記ベース及び蓋部材で構成される空間内に実装されている当該水晶片と、
を具える水晶振動子において、
前記蓋部材は、当該水晶振動子が樹脂モールドされる際に当該水晶振動子に加わる圧力を想定した圧力で前記水晶片側に塑性変形している塑性変形部を具えていることを特徴とする水晶振動子。
【請求項2】
前記蓋部材は平板であり、前記ベースは前記水晶片を収納するための凹部を具えていることを特徴とする請求項1に記載の水晶振動子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水晶振動子と、前記水晶振動子をモールドしている樹脂部材と、を具えたことを特徴とする樹脂モールド型の水晶振動子。
【請求項4】
水晶片をベースに搭載する工程と、
前記水晶片の周波数を調整する工程と、
前記水晶片を蓋部材で封止する工程と、
当該水晶振動子に圧力を加える工程と、
を含むことを特徴とする水晶振動子の製造方法。
【請求項5】
前記圧力が、前記蓋部材が前記水晶片側に塑性変形する圧力であることを特徴とする請求項4に記載の水晶振動子の製造方法。
【請求項6】
前記圧力が、当該水晶振動子を樹脂モールドする際に当該水晶振動子に加わる圧力を想定した圧力以上であることを特徴とする請求項4に記載の水晶振動子の製造方法。
【請求項7】
前記周波数を調整する工程は、前記圧力を加える工程において当該水晶振動子の周波数が変化する変化量を考慮した調整を行う工程であることを特徴とする請求項4に記載の水晶振動子の製造方法。
【請求項8】
前記蓋部材は平板であり、前記ベースは前記水晶片を収納するための凹部を具えていることを特徴とする請求項4に記載の水晶振動子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂モールド時に加わる圧力に起因する周波数変動を低減できる新規構造を有した水晶振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子や半導体等の電子部品は、衝撃や圧力等の外力や湿度や熱等の外部環境等から保護する目的や、電気絶縁性を確保する目的、パッケージの形態を付与し、配線基板への実装を容易にする目的等から、樹脂成形材料により樹脂モールドされる場合がある。
【0003】
特許文献1には、中空構造を有する電子部品の枠部及び蓋部に用いられる、中空構造の保持性に優れた感光性樹脂組成物に関して記載されている。これによれば、中空構造を有する、例えば表面弾性波装置(SAWデバイス)等の電子部品は、搭載基板への実装を行うために樹脂モールドされる場合が多く、モールドされた電子部品に圧力が加わってしまう。樹脂モールドの際に圧力が加わると、表面弾性波装置は中空部を形成する枠部及び蓋部が変形して、振動空間の大きな歪みが発生するという問題が発生してしまうという(特許文献1の段落0004~0006)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-13807
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、水晶振動子は、典型的には、水晶片が搭載されるベース、前記ベースに接合される金属製の蓋部材及び、前記ベース及び蓋部材で構成される空間内に実装されている当該水晶片から構成される。このような水晶振動子は中空構造を有し、蓋部材は薄い金属板であるため、表面弾性波装置と同様に、樹脂モールドの際にかかる圧力によって中空部を形成する蓋部材が変形してしまう問題があった。蓋部材が変形すると、蓋部材と水晶片に形成された電極間との距離が樹脂モールド前後で変化してしまい、これにより、樹脂モールドの前後で水晶振動子の周波数が変動してしまう。この周波数の変動量は、水晶振動子が薄型、かつ、小型になるとより顕著に現れるため、今後、より薄型、かつ、小型な水晶振動子が求められる市場において、樹脂モールドの前後で周波数が変動すると製品不良を引き起こす要因と成り得る。また、今後より高精度な製品が求められた場合にも、製品不良に繋がる恐れがある。
【0006】
この発明は上記の点に鑑みなされたものであり、従って、この出願の目的は、樹脂モールド時に加わる圧力に起因する周波数変動を低減できる新規の構造を有した水晶振動子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的の達成を図るためこの発明の水晶振動子によれば、水晶片が搭載されるベースと、前記ベースに接合される金属製の蓋部材と、前記ベース及び蓋部材で構成される空間内に実装されている当該水晶片と、を具える水晶振動子において、前記蓋部材は、当該水晶振動子が樹脂モールドされる際に当該水晶振動子に加わる圧力を想定した圧力で前記水晶片側に塑性変形している塑性変形部を具えていることを特徴とする。
【0008】
また、この出願の水晶振動子の製造方法によれば、水晶片をベースに搭載する工程と、前記水晶片の周波数を調整する工程と、前記水晶片を金属製の蓋部材で封止する工程と、前記蓋部材に、当該水晶振動子が樹脂モールドされる際に当該水晶振動子に加わる圧力を想定した圧力を加える工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明の水晶振動子によれば、当該水晶振動子の金属製の蓋部材が、当該水晶振動子が樹脂モールドされる際に当該水晶振動子に加わる圧力を想定した圧力で水晶片側に塑性変形している塑性変形部を有しているため、実際に当該水晶振動子が樹脂モールドされ圧力が加わっても、前記蓋部材は予め塑性変形されていた形以上に変形することはない。従って、当該水晶振動子の樹脂モールド時に加わる圧力に起因する周波数変動を低減することができる。
また、この発明の水晶振動子の製造方法によれば、上記の所定の工程を用いるので、樹脂モールドの時に加わる圧力に起因する周波数変動を低減することができる水晶振動子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(A)図は、本発明の実施形態の水晶振動子の概要を示した斜視図である。(B)図は、(A)図中のA-A線に沿った断面図である。(C)図は、(B)図中のP部を拡大した部分拡大図である。
図2】圧力と蓋部材の湾曲量Δdの関係を示した図である。
図3】樹脂モールド型の水晶振動子の構造例を示した断面図である。
図4】本発明の実施形態の水晶振動子の製造方法の説明図である。
図5図4に続く説明図である。
図6図5に続く説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照してこの発明の水晶振動子及びその製造方法の実施形態についてそれぞれ説明する。
なお、説明に用いる各図はこれらの発明を理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。また、説明に用いる各図において、同様な構成成分については同一の番号を付して示し、その説明を省略する場合もある。また、以下の説明で述べる形状、材質等はこの発明の範囲内の好適例に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0012】
1.水晶振動子の実施形態
図1(A)は、本発明の実施形態の水晶振動子10の概要を示した斜視図である。また、図1(B)は、図1(A)図中のA-A断面図である。また図(C)は、図1(B)図中のP部分を拡大した部分拡大図である。
水晶振動子10は、水晶片30が搭載されるベース20と、ベース20に接合される金属製の蓋部材40と、これらベース及び蓋部材で構成される空間内に実装されている当該水晶片30とを具えている。そして、特徴として、蓋部材40は、水晶振動子10が樹脂モールドされる際に水晶振動子10に加わる圧力を想定した圧力で水晶片30側に塑性変形している塑性変形部41を具えている。以下、各構成成分について具体的に説明する。
この場合のベース20は平面視において矩形状であり、図1の(B)図に示すように、水晶片30を収納する凹部21と、ベース20の縁部に沿って土手部22と、凹部21の底面に設けた水晶片固定用のバンプ23と、ベース20の裏面に設けた実装端子24と、を具えている。バンプ23と実装端子24とはビア配線(図示せず)により電気的に接続してある。また、土手部22の天面に、蓋部材40との接合面に対応するメタライズ膜(図示せず)を設けてある。
【0013】
水晶片30は、バンプ23の上に、例えば導電性接着剤等(図示せず)で固定されている。水晶片は平面視で例えば矩形状のものである。また、水晶片30の発振周波数は周知の方法により所定値に調整してある。ここで発振周波数の所定値とは、樹脂モールドの時に加わる圧力に起因する周波数変動を加味し、所望の発振周波数になるように調整した値である。
【0014】
ここで、蓋部材40の塑性変形部41の形状の一例として、塑性変形部41が水晶片30に向かって湾曲している形状を例として考える。これは、水晶振動子が樹脂モールドされる際に加わる圧力によって蓋部材に生じる塑性変形部が、典型的には、水晶片に向かって湾曲している形状だからである。
蓋部材40は、水晶振動子10が樹脂モールドされる際に水晶振動子10に加わる圧力を想定した圧力により、図1の(C)図に示すように、水晶片30側に湾曲量Δdだけ塑性変形している塑性変形部41を具えている。これにより、実際に水晶振動子10が樹脂モールドされ圧力が加わっても、塑性変形部41はこれ以上湾曲することはない。従って、水晶振動子10の樹脂モールド時に加わる圧力に起因する周波数変動を低減することができる。
【0015】
次に、水晶振動子に加わる圧力と、前記圧力によって蓋部材に生じる塑性変形部(以下、変形部と略称する場合もある)について考える。図2は、水晶振動子に加わる圧力と、前記圧力によって蓋部材に生じる変形部の湾曲量Δdとの関係を示した図である。図2に示すように、水晶振動子に圧力を加えていくと、それに応じて蓋部材に生じる変形部の湾曲量Δdは増加していく。この時、湾曲量Δdが点A1に達するまでに生じる変形は弾性変形であり、水晶振動子に加えている圧力を取り除くと変形部は元の形に戻り、湾曲量Δdは0になる。また、湾曲量Δdが点A1から点A2に達するまでに生じる変形は塑性変形であり、水晶振動子に加えている圧力を取り除いても変形部は元の形に戻らない。水晶振動子に加える圧力を高めていくとやがて蓋部材は強度の限界に達し、湾曲量Δdが点A2を超え、破断する。
【0016】
ここで、水晶振動子の樹脂モールド時に加わる圧力に起因する周波数変動を低減するためには、樹脂モールド時に加わる圧力に対し蓋部材の変形が極力小さいことが重要である。その対策として、蓋部材やベースの強度を高めることも一案であるが、水晶振動子が益々小型化かつ低背化されてゆく現実を考えるとそれも難しい。例えば蓋部材を厚いものにすること等は難しい。それらを総合すると、蓋部材自体に予め塑性変形部を設けておけば、水晶振動子の樹脂モールド時に加わる圧力に起因する周波数変動を小さくできる。この点に関して図2を参照して検討すると、湾曲量Δdが点A1に達するまでに生じる変形は弾性変形であり、水晶振動子に加えている圧力を取り除くと変形部は元の形に戻り、湾曲量Δdは0になる。よって、仮に樹脂モールドされる際に水晶振動子に加わると想定される圧力が、蓋部材に弾性変形しか生じさせない圧力であっても、蓋部材には塑性変形が生じる、点A1以上の圧力をかける必要がある。また、樹脂モールドされる際に水晶振動子に加わると想定した圧力よりも、小さい圧力をかけ塑性変形させた場合であっても、塑性変形させない場合と比べ、水晶振動子が樹脂モールドされる際に生じると想定される湾曲量と、予め圧力をかけて生じさせた湾曲量Δdとの差は小さくなる。従って、湾曲量Δdが点A1よりも大きければ、そうでない場合と比べて、樹脂モールド前後の水晶振動子の周波数変動を低減する効果を得ることができる。
本発明で言う、樹脂モールドされる際に水晶振動子10に加わる圧力を想定した圧力とは、蓋部材に塑性変形部を形成できる圧力を超える圧力であって、蓋部材を破壊しない圧力であるが、樹脂モールドされる際の圧力を必ずしも超えなくても良い圧力である。もちろん、好ましくは、樹脂モールドされる際の圧力を多少なりとも超える方が好ましい。
【0017】
図3は、樹脂モールド型の水晶振動子50の構造例であって、図1(B)に示した断面図相当の位置の断面を示したものである。この樹脂モールド型の水晶振動子50は、樹脂モールド用の基板60と、この基板60に実装された実施形態の水晶振動子10及び他の任意の電子部品70a及び70bと、これらをモールドしている樹脂部材80と、基板60に設けられた外部端子90と、を具えている。樹脂モールド型の水晶振動子50は、塑性変形部41を予め設けてあるため、蓋部材40が樹脂モールドの際に変形することを防止又は軽減できるので、樹脂モールド前後の水晶振動子の発振周波数の変動が防止された又は軽減された樹脂モールド型の水晶振動子を実現できる。
【0018】
2.製造方法の実施形態
次に、水晶振動子の製造方法の発明の実施形態について説明する。図4~6はそのための説明図である。
初めに、図4に示すように、任意の形状の、この例では平面視において矩形状の水晶片30a及び、ベースとして、例えば、平面視において矩形状の、セラミックベース20aを用意する。用意した水晶片30aを、ベース20aの凹部21aの底面に設けてあるバンプ23aの上に、例えば導電性接着剤等(図示せず)で固定する。その後、水晶片30aの発振周波数を、樹脂モールドの時に加わる圧力に起因する周波数変動を加味し、所望の発振周波数になるように周知の方法により調整する。
次に、図5に示すように、例えば、平面視において矩形状の、金属製の蓋部材40aを用意する。ベース20aの凹部21a内を適度な真空又は不活性ガス雰囲気等にしたのち、蓋部材40aにより、水晶片30aを搭載した凹部21aを周知の方法により封止する。このようにして、蓋部材40a及びベース20aに水晶片30aが収納された構造の、水晶振動子が得られる。
次に、図6の(A)図に示すように、前記水晶振動子を処理室100に運び、前記水晶振動子に所定の圧力を加える。このようにして、図6の(A)図中のB-B線に沿った断面図である図6の(B)図に示すように、蓋部材40aが塑性変形部41aを有している、水晶振動子10aが得られる。
【0019】
ここで、所定の圧力とは、蓋部材40aが塑性変形する圧力である。また、樹脂モールド前後の水晶振動子の周波数変動を低減させる効果をより得るためには、水晶振動子10aを樹脂モールドする際に水晶振動子10aに加わる圧力を想定した圧力以上であることが好ましい。なお、当然、蓋部材40aが破断してはならないため、所定の圧力は、蓋部材40aが破断する圧力よりも小さくてはならない。
【符号の説明】
【0020】
10、10a:本発明の実施形態の水晶振動子
20、20a:ベース 21、21a:凹部
22、22a:土手部 23、23a:バンプ
24、24a:実装端子 30、30a:水晶片
40、40a:蓋部材 41、41a:塑性変形部
50:樹脂モールド型の水晶振動子 60:基板
70a、70b:電子部品 80:樹脂部材
90:外部端子 100:処理室
図1
図2
図3
図4
図5
図6