(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170819
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】太陽電池モジュールおよび太陽電池モジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02S 40/34 20140101AFI20231124BHJP
【FI】
H02S40/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082874
(22)【出願日】2022-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兼松 大二
(72)【発明者】
【氏名】片山 博貴
【テーマコード(参考)】
5F151
5F251
【Fターム(参考)】
5F151AA20
5F151CB15
5F151EA13
5F151EA16
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5F251JA03
5F251JA04
(57)【要約】
【課題】取り出し電極層が配置される領域にガラスフリットが設けられた太陽電池モジュールにおいて、抵抗の上昇を抑制する。
【解決手段】実施形態の一例である太陽電池モジュール1は、第1基板10と、第2基板11と、光電変換層20と、第1電極層30と、第2電極層40と、取り出し電極層50とを備える。取り出し電極層50は、互いに積層された金属層および透明導電層を含み、第1基板10上において、当該基板を平面視したときに光電変換層20と重ならない領域に設けられている。太陽電池モジュール1は、さらに、第2基板11と取り出し電極層50との間に設けられたガラスフリット部60を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板と、
前記第1基板上に設けられた第1電極層と、
前記第1電極層上に設けられた光電変換層と、
前記光電変換層上に設けられた第2電極層と、
前記第1基板上において、当該基板を平面視したときに前記光電変換層と重ならない領域に設けられ、金属層と透明導電層とが積層された取り出し電極層と、
前記第1電極層、前記光電変換層、前記第2電極層、および前記取り出し電極層を覆うように設けられた第2基板と、
前記第2基板と前記取り出し電極層との間に設けられたガラスフリット部と、
を備えた、太陽電池モジュール。
【請求項2】
前記取り出し電極層の前記透明導電層は、前記金属層よりも前記第2基板の近くに設けられ、
前記ガラスフリット部は、前記透明導電層に接触する、請求項1に記載の太陽電池モジュール。
【請求項3】
前記透明導電層は、第1および第2の透明導電層を含み、
前記取り出し電極層は、前記第1基板側から順に、前記第1の透明導電層、前記金属層、および前記第2の透明導電層が積層された複層構造を有し、
前記ガラスフリット部は、前記第2の透明導電層に接触する、請求項2に記載の太陽電池モジュール。
【請求項4】
前記第2電極層は、前記金属層および前記透明導電層を含み、
前記取り出し電極層は、前記第2電極層と連続的に形成されている、請求項1-3のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項5】
前記第1電極層は、前記金属層および前記透明導電層を含み、
前記取り出し電極層は、前記第1電極層と連続的に形成されている、請求項1-3のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項6】
前記ガラスフリット部は、前記第1電極層、前記光電変換層、および前記第2電極層の積層方向から見たときに、前記光電変換層を囲んで環状に設けられ、前記第2基板と前記取り出し電極層との間に設けられた第1領域と、前記第1基板と前記第2基板との間に設けられた第2領域と、を含む、請求項1-3のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項7】
前記光電変換層は、
電子輸送層と、
前記電子輸送層上に配置され、組成式ABX3(式中、Aは1価のカチオン、Bは2価のカチオン、Xはハロゲンアニオン)で示されるペロブスカイト化合物を含む光吸収層と、
前記光吸収層上に配置された正孔輸送層と、
を含む、請求項1-3のいずれか1項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項8】
第1基板上に、第1電極層、光電変換層、および第2電極層をこの順に形成すると共に、前記第1基板の平面視において前記光電変換層と重ならない領域に金属層と透明導電層とが積層された取り出し電極層を形成する第1の工程と、
第2基板上にガラスフリット材を設ける第2の工程と、
前記第1基板上に前記第2基板を配置し、前記第1の工程で準備された前記取り出し電極層と、前記第2の工程で準備されたガラスフリット材とを接触させる第3の工程と、
前記ガラスフリット材によって、前記取り出し電極層と前記第2基板とを接着し固定する第4の工程と、
を含む、太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項9】
前記第4の工程では、前記ガラスフリット材に対し、前記第1基板または前記第2基板を介してレーザー照射する、請求項8に記載の太陽電池モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、太陽電池モジュールおよびその製造方法に関し、より詳しくはガラス基板等の絶縁基板上に光電変換層が成膜された太陽電池モジュールおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス基板等の絶縁基板上に光電変換層が形成されてなる太陽電池モジュールが知られている。例えば、特許文献1には、基板と、基板上に形成された素子部と、素子部を封止する封止体とを備え、素子部としてペロブスカイト太陽電池のユニットセルが複数形成された太陽電池モジュールが開示されている。特許文献1には、封止体としてブチルゴム等の樹脂を用いることが開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、有機EL表示装置において、ライン状に形成したガラスフリットにより2枚のガラス基板を貼り合わせ、発光層である有機薄膜層を封止した構造が開示されている。特許文献2には、ガラスフリットを硬化させるために、ガラスフリットのラインに沿ってレーザー光を照射すること、および金属配線が配置される第2の封止領域には紫外線硬化樹脂を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-021913号公報
【特許文献2】特開2011-054477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、ガラスフリットを硬化させるためには、例えば、レーザー照射による加熱が必要であるところ、本発明者らの検討の結果、金属配線にレーザー光を照射すると配線が損傷して抵抗が上昇することが分かった。このため、特許文献2の装置では、金属配線が配置される第2の封止領域にはガラスフリットの代わりに紫外線硬化樹脂を用いている。
【0006】
太陽電池モジュールには、光電変換層から電気エネルギーを取り出すための取り出し電極層が設けられるが、取り出し電極層が配置される領域にガラスフリットを設けてレーザー照射等により加熱すると、電極層が損傷して抵抗が上昇するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様である太陽電池モジュールは、第1基板と、第1基板上に設けられた第1電極層と、第1電極層上に設けられた光電変換層と、光電変換層上に設けられた第2電極層と、第1基板上において、当該基板を平面視したときに光電変換層と重ならない領域に設けられ、金属層と透明導電層とが積層された取り出し電極層と、第1電極層、光電変換層、第2電極層、および取り出し電極層を覆うように設けられた第2基板と、第2基板と取り出し電極層との間に設けられたガラスフリット部とを備える。
【0008】
本開示の一態様である太陽電池モジュールの製造方法は、第1基板の上に、第1電極層、光電変換層、および第2電極層をこの順に形成すると共に、第1基板の平面視において光電変換層と重ならない領域に金属層と透明導電層とが積層された取り出し電極層を形成する第1の工程と、第2基板上にガラスフリット材を設ける第2の工程と、第1基板上に第2基板を配置し、第1の工程で準備された取り出し電極層と、第2の工程で準備されたガラスフリット材とを接触させる第3の工程と、ガラスフリット材によって、取り出し電極層と第2基板とを接着し固定する第4の工程とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、取り出し電極層が配置される領域にガラスフリットが設けられた太陽電池モジュールにおいて、抵抗の上昇を抑制できる。また、光電変換層を囲むようにガラスフリットを環状に設けて光電変換層を封止した場合、例えば、光電変換層の周囲の一部に樹脂封止材を用いる場合と比較して、封止性能が大きく向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態の一例である太陽電池モジュールの平面図である。
【
図2】実施形態の一例である太陽電池モジュールの断面図であって、太陽電池セルが形成された部分の断面構造を示す。
【
図3】実施形態の一例である太陽電池モジュールの断面図であって、モジュール端部の断面構造を示す。
【
図4】実施形態の一例である太陽電池モジュールの断面図であって、モジュール端部の断面構造を示す。
【
図5】実施形態の一例である太陽電池モジュールの製造方法を説明するための図である。
【
図6】実施形態の他の一例である太陽電池モジュールの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、実施形態の一例である太陽電池モジュール1を模式的に示す平面図である。
図2は、太陽電池モジュール1の断面図であって、セル2が形成された部分の断面を示す。
図1では、第2基板11の図示を省略し、第2基板11の輪郭を一点鎖線で図示している。
【0012】
図1および
図2に示すように、太陽電池モジュール1は、光電変換層20、第1電極層30、および第2電極層40を含むセル2と、第1基板10と、第1基板10と対向配置されてセル2を覆う第2基板11とを備える。太陽電池モジュール1は、さらに、セル2から電気エネルギーを取り出すための取り出し電極層50と、2枚の基板を接着するガラスフリット部60とを備える。ガラスフリット部60は、第2基板11と取り出し電極層50との間に設けられ、セル2を封止する封止材として機能する。
【0013】
本実施形態では、第1基板10に光透過性の基板を用いる。第1基板10、第2基板11、およびセル2は平面視矩形状に形成され、第1基板10よりも一回り小さな第2基板11が、第1基板10上に形成されたセル2の全体を覆っている。
【0014】
第1基板10および第2基板11には、表面に絶縁層が形成された導電性の基板を用いてもよいが、好ましくは絶縁性の基板を用いる。第1基板10は、波長400nm以上1000nm以下の太陽光に対する透過性を有し、水蒸気透過率が低い材料で構成されることが好ましい。さらに、ガラスフリットの融着工程における接着性と耐熱性から、ガラス基板が好ましい。第1基板10の厚みは、例えば、0.3mm以上3mm以下である。
【0015】
第2基板11は、レーザー光に対して透明であることが好ましく、ガラス基板等の透光性の基板であってもよい。第2基板11は、第1基板10と同様に、水蒸気透過率が低い材料で構成されることが好ましい。第2基板11の厚みは、第1基板10の厚み以下であってもよい。なお、第1基板10および第2基板11の表面には、アルミナ層等のガスバリア層が形成されていてもよい。本実施形態では、第1基板10および第2基板11として、平坦で透明なガラス基板を用いるものとする。
【0016】
太陽電池モジュール1は、第1基板10上に設けられた第1電極層30と、第1電極層30上に設けられた光電変換層20と、光電変換層20上に設けられた第2電極層40とを備える。光電変換層20、第1電極層30、および第2電極層40により、セル2が構成されている。また、第1基板10上には、当該基板を平面視したときに光電変換層20と重ならない領域に取り出し電極層50が設けられている。取り出し電極層50は、金属層52と透明導電層とが積層された複層構造を有する。そして、当該透明導電層が金属層52よりも第2基板11の近くに設けられ、ガラスフリット部60と接触している(後述の
図3参照)。
【0017】
本実施形態において、ガラスフリット部60は、第1電極層30、光電変換層20、および第2電極層40の積層方向であるZ方向から見たときに、光電変換層20(セル2)を囲んで環状に設けられている。取り出し電極層50は、セル2の対向する2つの辺から互いに離れる方向に延び、第2基板11に覆われる範囲を超えて第1基板10の端部の近傍まで形成されている。ガラスフリット部60は、第2基板11と取り出し電極層50との間に設けられた第1領域と、第1基板10と第2基板11との間に設けられた第2領域とを含む。ガラスフリット部60は、第1基板10および第2基板11と同様に水蒸気透過率が低く、優れた封止性能を発揮する。
【0018】
太陽電池モジュール1は、第1基板10、第2基板11、およびガラスフリット部60により、封止された内部空間4が形成されている。セル2は、この内部空間4に配置されている。第1基板10と第2基板11の間隔は、例えば、1μm以上30μm以下であって、セル2と第2基板11の間には隙間が存在している。太陽電池モジュール1の内部空間4には、窒素ガス等の不活性ガスが封入されていてもよい。或いは、エチレン・酢酸ビニル共重合(EVA)樹脂、シリコーン樹脂、ポリオレフィン等の樹脂が充填されていてもよい。
【0019】
以下、実施形態の一例であるセル2の構成について詳説する。
図2では、太陽電池セルの好適な層構造の一例を示すが、セルの層構造はこれに限定されない。
【0020】
図2に示すように、セル2は、直列に接続された複数のユニットセル3から構成されている。ユニットセル3は、第1基板10の表面に沿った第1の方向であるX方向に複数配置され、X方向に直交するY方向(
図1参照)に連続している。各ユニットセル3は、一対の電極(第1電極層30および第2電極層40)と、一対の電極間に配置された光電変換層20とを有する。セル2は、例えば、ペロブスカイト型の太陽電池セルである。本実施形態では、第1基板10が光透過性を有し、光電変換層20が第1基板10側からモジュール内に入射する光を吸収して発電する。
【0021】
第1電極層30は、光透過性を有し、光電変換層20への光の進入を遮らない。第1電極層30の光線透過率は、例えば、波長450nm以上900nm以下の範囲において85%以上である。また、第1電極層30のシート抵抗は、40Ω/□以下が好ましく、10Ω/□以下であってもよい。第1電極層30は、透明導電層からなる単層構造を有することが好ましい。詳しくは後述するが、透明導電層は、酸化インジウムスズ(ITO)等の透明導電性酸化物で構成されている。
【0022】
本実施形態において、第2電極層40は、光透過性を有していなくてもよく、金属層42および透明導電層を含む。第2電極層40は、透明導電層として第1の透明導電層41および第2の透明導電層43を含み、第1基板10側から順に、透明導電層41、金属層42、および透明導電層43が積層された複層構造を有する。詳しくは後述するが、金属層は、アルミニウム、ニッケル、銅、銀等の金属またはこれらの合金で構成されている。
【0023】
光電変換層20は、電子輸送層21と、電子輸送層21上に配置された光吸収層22と、光吸収層22上に配置された正孔輸送層23とを含む。光電変換層20は、後述の溝が形成された部分を除き、第1基板10側から順に、電子輸送層21、光吸収層22、および正孔輸送層23が積層された複層構造を有する。光吸収層22は、例えば、組成式ABX3(式中、Aは1価のカチオン、Bは2価のカチオン、Xはハロゲンアニオン)で示されるペロブスカイト化合物を含む。
【0024】
電子輸送層21を構成する電子輸送材料としては、アナターゼ型酸化チタン、酸化錫などが例示される。正孔輸送層23は、酸化還元部位を有する正孔輸送材料を含む。正孔輸送層23を構成する正孔輸送材料としては、例えば2,2’,7,7’-テトラキス(N,N’-ジ-p-メトキシフェニルアミノ)-9,9’-スピロビフルオレン(Spiro-OMeTAD)などが例示される。
【0025】
上記ペロブスカイト化合物(ABX3)のAの一例は、R1R2R3-N-Hで表される1価のカチオンである。R1およびR2がH、R3がCH3である場合、Aはメチルアンモニウム(CH3NH3)となる。官能基R1、R2、R3は、例えば、炭素、水素、窒素、および酸素から選択される少なくとも1種の元素を含む。官能基R1、R2、R3が炭素原子を含む場合、官能基R1、R2、R3の炭素数の合計は4以下であることが好ましい。官能基R1、R2、R3は、Rb、Cs等の第1族元素を含んでいてもよい。
【0026】
ABX3のBは、上記の通り、2価のカチオンである。Bは、例えば、遷移金属または第13族元素、第14族元素、または第15族元素の2価のカチオンである。Bの具体例としては、Pb2+、Ge2+、Sn2+が挙げられる。Bは、Pb2+およびSn2+から選択される少なくとも1種を含んでいてもよく、Pb2+、Sn2+の一部が他の元素に置換されていてもよい。置換元素としては、Bi、Sb、In、Ge、Ni等が例示できる。ABX3のXは、Cl、Br、Iから選択される少なくとも1種である。
【0027】
上記A、M、Xのそれぞれのサイトは、複数種のイオンによって占有されていてもよい。ペロブスカイト化合物(ABX3)の具体例としては、CH3NH3PbI3、CH3CH2NH3PbI3、NH2CHNH2PbI3、CH3NH3PbBr3、CH3NH3PbCl3、CsPbI3、CsPbBr3等が挙げられる。
【0028】
本実施形態では、
図2に例示するように、ユニットセル3Aの第1電極層30がX方向に隣接するユニットセル3Bの第2電極層40と電気的に接続されている。また、ユニットセル3Bの第1電極層30は、ユニットセル3Cの第2電極層40と電気的に接続されている。このようにして、複数のユニットセル3はX方向に沿って直列に接続される。また、セル2は、複数の溝24,25,26を有する。溝24、25、26は、例えば、Y方向に延びて互いに略平行に形成される。各溝は、従来公知のスクライブ法等により形成できる。
【0029】
溝24は、各ユニットセル3の電子輸送層21および第1電極層30を分割する溝である。溝24の幅は、例えば、20μm以上150μm以下である。溝25は、各ユニットセル3の光吸収層22、正孔輸送層23、および第2電極層40を分割している。なお、溝25は各ユニットセル3の第2電極層40を分割していればよく、光吸収層22と正孔輸送層23は溝25により分割されていなくてもよい。溝25の幅は、例えば、30μm以上150μm以下である。本実施形態では、溝24,25によって各ユニットセル3が区画されているものとする。
【0030】
溝26は、各ユニットセル3において、光吸収層22および正孔輸送層23を貫通して電子輸送層21を露出させるように形成されている。そして、溝26内には隣接するユニットセル3の電子輸送層21につながる第2電極層40が形成されている。これにより、第2電極層40は、隣接するユニットセル3の第1電極層30と電気的に接続される。すなわち、溝26は、ユニットセルの接続用の溝として機能する。溝26の幅は、例えば、150μm以上300μm以下である。
【0031】
セル2は、例えば、以下の方法により製造される。
(1)第1基板10上に、第1電極層30および電子輸送層21をこの順で形成する。
(2)第1電極層30および電子輸送層21の一部をレーザースクライブ処理して溝24を形成する。
(3)電子輸送層21上に、光吸収層22および正孔輸送層23をこの順で形成する。
(4)光吸収層22および正孔輸送層23の一部をメカニカルスクライブ処理して溝26を形成する。
(5)正孔輸送層23上に、第2電極層40を形成する。
(6)光吸収層22、正孔輸送層23、および第2電極層40の一部をメカニカルスクライブ処理して溝25を形成する。
【0032】
電子輸送層21、光吸収層22、および正孔輸送層23は、例えば、原料を溶解させた溶液を第1基板10の表面に塗布することにより成膜できる。これらの層は、スピンコート法により成膜されてもよい。各層の厚みは、特に限定されないが、一例としては、10nm以上100nm以下である。
【0033】
以下、
図3および
図4を参照しながら、取り出し電極層50およびガラスフリット部60の構成について詳説する。
図3および
図4は、取り出し電極層50が形成された太陽電池モジュール1のX方向両端部の断面図である。
【0034】
図3および
図4に示すように、取り出し電極層50は、金属層52と、透明導電層とを含む導電層である。取り出し電極層50は、内部空間4からガラスフリット部60が設けられた位置を超え、第1基板10の端部にわたって形成されている。取り出し電極層50は、第1基板10上において、当該基板を平面視したときに光電変換層20(セル2)と重ならない領域に配置されている。言い換えると、光電変換層20と重ならない領域に形成されて内部空間4から外部に引き出される導電層が取り出し電極層50である。詳しくは後述するが、金属層52と透明導電層を含む複層構造の取り出し電極層50を用いることにより、ガラスフリット部60との密着性が良好になり、取り出し電極層50の抵抗上昇が抑制される。
【0035】
取り出し電極層50は、第1電極層30と電気的に接続された取り出し電極層50A(
図3参照)と、第2電極層40と電気的に接続された取り出し電極層50B(
図4参照)とを含む。取り出し電極層50Aは第1基板10のX方向の第1の端部に形成され、取り出し電極層50Bは当該第1の端部と反対側のX方向の第2の端部に形成されている。なお、取り出し電極層50A,50Bはいずれも、金属層52および透明導電層を含み、同じ層構造を有する。
【0036】
取り出し電極層50を構成する透明導電層は、第1の透明導電層51および第2の透明導電層53を含むことが好ましい。取り出し電極層50は、第1基板10側から順に、透明導電層51、金属層52、および透明導電層53が積層された複層構造を有する。すなわち、取り出し電極層50は、透明導電層51,53により金属層52が挟まれた三層構造を有する。そして、第2基板11と取り出し電極層50の間にガラスフリット部60が設けられ、ガラスフリット部60は透明導電層53に接触している。
【0037】
本実施形態では、第2電極層40が取り出し電極層50と同様の複層構造を有する。第2電極層40は、上記の通り、第1基板10側から順に光電変換層20上に積層された、第1の透明導電層41、金属層42、および第2の透明導電層43を含む。第2電極層40と電気的に接続される取り出し電極層50Bは、第2電極層40と連続的に形成され、溝24によって第1電極層30と分断されている。他方、第1電極層30と電気的に接続される取り出し電極層50Aは、第1電極層30と連続的に形成され、溝25によって第2電極層40と分断されている。
【0038】
なお、取り出し電極層50の各層は、第1電極層30および第2電極層40と同時に成膜され、成膜後、溝24,25を形成することによって第1電極層30または第2電極層40と分断される。取り出し電極層50は、溝24,25と隣接する領域で光電変換層20上に形成された電極層の一部とつながっていてもよい。当該電極層の一部は極小面積であるため、光電変換層20の特性に影響を与えない。
【0039】
透明導電層51,53は、一般的に、酸化インジウム、酸化亜鉛等の金属酸化物に、タングステン、スズ、アンチモン等がドーピングされた透明導電性酸化物で構成されている。好適な透明導電性酸化物の一例は、酸化インジウムスズ(ITO)である。透明導電層51,53は、例えば、スパッタリングにより、実質的に同じ組成、同じ厚みで成膜される。透明導電層51,53の厚みの一例は、30nm以上300nm以下である。透明導電層51,53は、第1電極層30の透明導電層および第2電極層40の透明導電層41,43と同時に成膜されるため、各透明導電層は実質的に同じ組成を有する。
【0040】
金属層52の構成材料は、例えば、アルミニウム、ニッケル、銅、銀等の金属またはこれらの合金である。中でも、銀を用いることが好ましい。金属層52は、単層構造であってもよく、複層構造であってもよい。金属層52の厚みの一例は、80nm以上500nm以下である。金属層52は、例えば、スパッタリング、蒸着等により成膜されてもよく、めっき法により成膜されてもよい。金属層52は、第2電極層40の金属層42と同時に成膜されるため、金属層42,52は実質的に同じ組成を有する。
【0041】
取り出し電極層50Aは、溝25により第2電極層40と分断された3つの層と、第1電極層30から連続する透明導電層とが重なって形成されている。取り出し電極層50Bは、第2電極層40と連続する3つの層と、溝24により第1電極層30と分断された透明導電層とが重なって形成されている。すなわち、第1基板10と金属層52との間に介在する透明導電層51は、第1電極層30および第2電極層40に由来する透明導電層であって、その厚みは、第2電極層40のみに由来する透明導電層53の厚みよりも大きくなっている。
【0042】
ガラスフリット部60は、上記のように、第2基板11と取り出し電極層50との間に設けられた第1領域と、第1基板10と第2基板11との間に設けられた第2領域とを含み、第1領域では第2基板11と取り出し電極層50に密着し、第2領域では第1基板10と第2基板11に密着している。ガラスフリット部60は、セル2の全周を囲んで細線状に形成され、セル2を封止する封止材として機能する。ガラスフリット部60の幅は特に限定されないが、一例としては、0.1mm以上1mm以下である。ガラスフリット部60の厚みは、光電変換層20と取り出し電極層50の合計の厚みより大きい。
【0043】
ガラスフリット部60は、第1基板10および第2基板11を構成するガラスよりも低融点のガラスを主成分とするガラスフリット材で構成されている。ガラスフリット材は、例えば、低融点のガラス粉末であって、個々のガラス微粒子の大部分が1μm以上50μm以下の粒径を有する。低融点ガラスの組成は、特に限定されない。低融点ガラスは、例えば、SiO2を主成分とし、Mg、Ca、Ba、Li、K、Na、Zn、Te、V、B、Pb、Al、Sn、P、Ru、Fe、Cu、Ti、W、Bi、Sbから選択される少なくとも1種の元素を含有していてもよい。また、ガラスフリット材には、所定の充填材または添加剤が含まれていてもよい。
【0044】
詳しくは後述するが、ガラスフリット部60は、第1基板10または第2基板11上にガラスフリット材のラインを形成して2枚の基板を重ね合わせた後、このラインに沿ってレーザー照射を行うことで形成される。ガラスフリット材は、レーザー照射により溶融して、ガラス微粒子同士が密着すると共に、基板および取り出し電極層50に密着し、水蒸気透過率が低い緻密なガラスフリット部60となる。ガラスフリット部60は、レーザー照射により溶融、固化して2枚の基板を接着するレーザー溶着部である。
【0045】
ガラスフリット部60は、上記第1領域において、取り出し電極層50の透明導電層53上に配置されている。すなわち、ガラスフリット部60は金属層52と接触しておらず、ガラスフリット部60と金属層52の間には透明導電層53が介在している。透明導電層53は金属層52と比べて線膨張係数がガラスに近く、また耐熱性も高い。このため、透明導電層53上にガラスフリット部60を配置することで、取り出し電極層50に対するガラスフリット部60の密着性が向上する。なお、第1基板10と金属層52の間に介在する透明導電層51は、第1基板10に対する取り出し電極層50の密着性を向上させる。
【0046】
ガラスフリット部60は、レーザー照射により加熱されるが、この際、ガラスフリット部60と重なる取り出し電極層50も高温になり、その熱によって金属層52が損傷する場合がある。本実施形態では、金属層52が透明導電層51,53により挟まれているため、金属層52が損傷した場合でも透明導電層51,53が良好な導電パスを維持し、取り出し電極層50の抵抗上昇が十分に抑制される。透明導電層51,53の一方だけを設けた場合も、この効果は得られるが、金属層52を挟む透明導電層51,53を設けることにより、抵抗上昇の抑制効果はより顕著になる。
【0047】
以下、
図5を参照しながら、上記構成を備えた太陽電池モジュール1の製造方法について詳説する。
図5は、
図3と同様に、太陽電池モジュール1のX方向の第1の端部の断面構造を示す。
【0048】
図5に示すように、太陽電池モジュール1の製造工程には、例えば、下記の工程が含まれる。
(1)第1基板10上に、第1電極層30、光電変換層20、および第2電極層40をこの順に形成すると共に、第1基板10の平面視において光電変換層20と重ならない領域に金属層と透明導電層とが積層された取り出し電極層50を形成する第1の工程
(2)第2基板11上にガラスフリット材60zを設ける第2の工程
(3)第1基板10上に第2基板11を配置し、第1の工程で準備された取り出し電極層50と、第2の工程で準備されたガラスフリット材60zとを接触させる第3の工程
(4)ガラスフリット材60zによって、取り出し電極層50と第2基板11とを接着し固定する第4の工程
【0049】
上記第1の工程において、第1電極層30、光電変換層20、および第2電極層40を含むセル2は、上記方法により製造される。取り出し電極層50は、第1電極層30および第2電極層40と同時に成膜され、本実施形態では、第2電極層40と同様に、透明導電層51、金属層52、および透明導電層53を含む。なお、第2電極層40と取り出し電極層50を別の工程で成膜することも可能である。この場合、第2電極層40を金属層42からなる単層構造としてもよい。但し、生産性向上等の観点から、第2電極層40と取り出し電極層50は同時に成膜され、取り出し電極層50は第2電極層40と同じ層構造を含むことが好ましい。
【0050】
上記第2の工程において、ガラスフリット材60zは、例えば、有機溶剤を含むペーストの状態で第2基板11上に塗布され、その後、熱処理により溶剤を揮発除去することにより設けられる。ガラスフリット材60zのペーストは、従来公知の印刷法により、第2基板11上に塗布される。ガラスフリット材60zのペーストは、取り出し電極層50が形成された第1基板10上に塗布されてもよいが、セル2への熱影響の抑制等の観点から、第2基板11上に形成されることが好ましい。ガラスフリット材60zは、第2基板11の周縁に沿うように1本のライン状に、かつ環状に形成されることが好ましい。
【0051】
上記第3の工程では、ガラスフリット部60zが設けられた面を第1基板10側に向けて第2基板11を重ね合わせることで、取り出し電極層50上にガラスフリット部60zを配置する。本実施形態では、ガラスフリット材60zが、第2基板11と取り出し電極層50との間に配置される第1領域と、第1基板10と第2基板11との間に配置される第2領域とが形成される。そして、第1領域のガラスフリット部60zは、取り出し電極層50の透明導電層53に接触した状態となる。
【0052】
上記第4の工程では、ガラスフリット材60zに対し、金属層の反対側から第2基板11を透過させてレーザー光αを照射する。レーザー光αは、例えば、800nm以上1500nm以下の波長を有する。
図5に示す例では、第2基板11側からガラスフリット材60zのラインに沿ってレーザー光αを照射する。これにより、ガラスフリット材60zが溶融して、フリット材を構成するガラス微粒子同士が密着すると共に、ガラス微粒子が第1基板10、第2基板11、および取り出し電極層50に密着する。レーザー装置には、例えば、YAGレーザーが用いられる。
【0053】
第4の工程では、レーザー光αの照射によりガラスフリット材60zが溶融し、封止材として機能するガラスフリット部60が形成される。このとき、取り出し電極層50の金属層52が加熱されて損傷することが想定されるが、金属層52は透明導電層51,53により挟まれているため、例えば、金属層52が破断しても透明導電層51,53によって良好な導電パスが維持される。その結果、取り出し電極層50の抵抗上昇が十分に抑制される。
【0054】
図6は、上記実施形態の変形例を示す断面図である。
図6に例示する形態は、取り出し電極層50が金属層52および透明導電層51,53を含む三層構造を有し、ガラスフリット部60が透明導電層53と接触している点で、上記実施形態と共通する。一方、第2電極層40が透明導電層からなる単層構造を有し、第1電極層30が金属層32および透明導電層31,33を含む三層構造を有する点で、上記実施形態と異なる。
図6に示す例では、取り出し電極層50が第1電極層30と連続的に形成されている。
【0055】
図6に例示する形態では、金属層52とガラスフリット部60の間に介在する透明導電層53が、第1電極層30および第2電極層40に由来する透明導電層であって、その厚みは、第1電極層30のみに由来する透明導電層51の厚みよりも大きくなっている。また、この場合、第2基板11側から光が入射可能に構成されており、例えば、第1電極層30と光吸収層22の間に正孔輸送層23が形成され、光吸収層22と第2電極層40の間に電子輸送層21が形成される。
【0056】
以上のように、上記構成を備えた太陽電池モジュール1によれば、取り出し電極層50が形成される領域を含むセル2の全周囲にわたってガラスフリット部60が環状に設けられるため、優れた封止性能が得られる。
【0057】
太陽電池モジュール1の封止性能を実証するために、上記三層構造の取り出し電極層50を両端部に接続したカルシウム膜を用いて、温度85℃、湿度85%の条件下で耐久試験を行った。試験に供した構造は、セル2の代わりにカルシウム膜を用いた以外、太陽電池モジュール1の構造と同様である。優れた封止性能を有さずカルシウム膜が水を吸収する場合、カルシウム膜の抵抗が大きく上昇するが、本耐久試験では抵抗の上昇は確認されなかった。すなわち、太陽電池モジュール1は封止性能に優れることが実証された。
【0058】
また、太陽電池モジュール1によれば、ガラスフリット材60zに対するレーザー光αの照射により取り出し電極層50の金属層52が損傷した場合でも、金属層52を挟む透明導電層51,53によって取り出し電極層50の抵抗上昇が高度に抑制される。
【0059】
なお、上記実施形態は本開示の目的を損なわない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、ガラスフリット材の加熱手段として、レーザー照射の代わりに、ヒートプレス機、加熱炉等を使用することも可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 太陽電池モジュール、2 セル、3 ユニットセル、4 内部空間、10 第1基板、11 第2基板、20 光電変換層、21 電子輸送層、22 光吸収層、23 正孔輸送層、24,25,26 溝、30 第1電極層、40 第2電極層、41,51 透明導電層、42,52 金属層、43,53 透明導電層、50 取り出し電極層、60 ガラスフリット部