(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170844
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】半導体モジュール、半導体装置、及び車両
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
H01L21/60 301A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082908
(22)【出願日】2022-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100132067
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 喜雅
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 翔
【テーマコード(参考)】
5F044
【Fターム(参考)】
5F044AA02
5F044AA18
5F044AA19
5F044AA20
(57)【要約】
【課題】半導体モジュールにおける配線部材とボンディングワイヤとの間での放電を抑制する。
【解決手段】半導体モジュール(1)は、積層基板(2)の第1の表面上に配置された半導体素子(33)と、積層基板における半導体素子が配置された第1の領域から第1の方向に位置する第2の領域に設けられた導電板(23)と半導体素子における積層基板と向かい合う第1の面とは反対側の第2の面とを電気的に接続する複数のワイヤ(41a~41h)と、第1の方向とは異なる第2の方向で複数のワイヤと向かい合い、半導体素子の第1の面から第2の面に向かう方向に延伸する配線部材(53)とを含み、複数のワイヤのうちの、第2の方向でみた半導体素子との接続部から配線部材までの距離が最も近いワイヤ(41a)は、半導体素子との接続部と導電板との接続部との間の中間部の第2の方向でみた位置が、2つの接続部を結ぶ線分よりも配線部材から遠方にある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁板の第1の表面に複数の導電板が設けられた積層基板と、
前記積層基板における前記絶縁板の前記第1の表面上に配置された半導体素子と、
前記絶縁板の前記第1の表面における前記半導体素子が配置された第1の領域から第1の方向に位置する第2の領域に設けられた導電板と前記半導体素子における前記積層基板と向かい合う第1の面とは反対側の第2の面の電極とを電気的に接続する複数のワイヤと、
前記第1の方向とは異なる第2の方向で前記複数のワイヤと向かい合い、前記半導体素子の前記第1の面から前記第2の面に向かう方向に延伸する、前記複数のワイヤと電気的に接続される前記導電板と電気的に独立した配線部材とを含み、
前記複数のワイヤのうちの、前記第2の方向でみた前記半導体素子との接続部から前記配線部材までの距離が最も近いワイヤは、前記半導体素子との接続部と、前記導電板との接続部と、の間の中間部の前記第2の方向でみた位置が、前記2つの接続部を結ぶ線分よりも、前記配線部材から遠方にある、
半導体モジュール。
【請求項2】
前記半導体素子の前記第1の面の電極が、前記積層基板における前記絶縁板の前記第1の表面に設けられた、前記複数のワイヤが接続される導電板とは異なる導電板と電気的に接続されており、
前記配線部材は、前記半導体素子の前記第1の面の前記電極が電気的に接続された前記導電板と電気的に接続されている、
請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項3】
前記第2の方向でみた前記半導体素子との接続部から前記配線部材までの距離が最も近い前記ワイヤの前記中間部は、前記半導体素子の前記第2の面からの高さが、他のワイヤのうちの少なくとも1本のワイヤの中間部の前記半導体素子の前記第2の面からの高さと異なる、
請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項4】
前記第2の方向でみた前記半導体素子との接続部から前記配線部材までの距離が最も近い前記ワイヤの前記中間部は、前記半導体素子の前記第1の面から前記第2の面に向かう方向で、他のワイヤのうちの少なくとも1本のワイヤの中間部と重なる、
請求項3に記載の半導体モジュール。
【請求項5】
前記第2の方向及び前記半導体素子の前記第1の面から前記第2の面に向かう方向を含む平面で見た前記複数のワイヤの前記中間部の配列が、前記第2の方向における前記半導体素子の中心線で線対称になっている、
請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項6】
前記第2の方向及び前記半導体素子の前記第1の面から前記第2の面に向かう方向を含む平面で見た前記複数のワイヤの前記中間部の配列は、前記複数のワイヤの総数nと前記第2の方向のワイヤの数ncとで表される効果係数α=(n-nc)/(n-1)が0.5以上である、
請求項5に記載の半導体モジュール。
【請求項7】
前記複数のワイヤは、長さが等しい、
請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項8】
前記複数のワイヤの、前記半導体素子の前記第2の面との接続端の前記第1の方向での位置が2通り以上である、
請求項7に記載の半導体モジュール。
【請求項9】
前記複数のワイヤのうち、前記中間部の前記半導体素子の前記第2の面からの高さが異なる2本のワイヤは、前記接続端の前記第1の方向での位置が異なる、
請求項8に記載の半導体モジュール。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の半導体モジュールと、
前記半導体モジュールにおける前記絶縁板の前記第1の表面とは反対の第2の表面側に配置された冷却器と、を備える、
半導体装置。
【請求項11】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の半導体モジュール、又は請求項10に記載の半導体装置を備える、
車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体モジュール、半導体装置、及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータ装置等の電力変換装置に利用される半導体モジュールは、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、パワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、FWD(Free Wheeling Diode)等の半導体素子が実装された基板を有する。
【0003】
この種の半導体モジュールにおける上記の基板には、絶縁板の表面(主面と呼ばれることがある)に設けられた複数の導体パターンが設けられており、複数の導体パターンのうちの少なくとも1つの導体パターンの上に半導体素子が配置されたものがある。複数の導体パターンのうちの第1の導体パターンの上に配置された半導体素子は、半導体素子と第1の導体パターンとの間に位置するはんだ等の接合材により、第1の導体パターンと向かい合う面の電極が第1の導体パターンと電気的に接続される。また、半導体素子における第1の導体パターンと向かい合う面とは反対側の面の電極は、ボンディングワイヤにより第2の導体パターンと電気的に接続される。
【0004】
電力変換装置に利用される半導体モジュールでは、大電流を流すために、1つの半導体素子の電極と1つの第2の導体パターンとが複数のボンディングワイヤにより接続される。1つの半導体素子の電極と1つの第2の導体パターンとを接続するボンディングワイヤの数を多くすることは、より大きな電流を流すことを可能にするが、半導体モジュールの信頼性を低下させること、半導体モジュールの小型化を難しくすることの要因にもなり得る。
【0005】
ボンディングワイヤの数を多くすることにより、例えば、ボンディングワイヤの間隔が狭くなり、半導体素子及びボンディングワイヤを封止する封止部材中に気泡が残存することがある。封止部材中に残存した気泡内は封止部材と比べて絶縁性が低いため、封止部材の絶縁性能を低下させ、半導体モジュールの信頼性を低下させることがある。このようなボンディングワイヤの間隔が狭くなることによる半導体モジュールの信頼性の低下を防ぐために、例えば、特許文献1のパワーモジュールでは、互いに隣り合う一対の導電ワイヤ群の中間部の間の最大間隔を、互いに隣り合う一対の導電ワイヤ群の第1のボンディング部の間の第1間隔よりも大きくしている。
【0006】
また、例えば、特許文献2には、半導体チップ上の電極上にAuボールを積み上げる工程と、積み上げたAuボール上にAu線をステッチボンドして接続する工程と、を繰り返すことにより、半導体チップ上に設ける電極の個数を少なくするとともにチップサイズを小さくする半導体装置の製造方法が記載されている。
【0007】
また、ボンディングワイヤの数を多くするためにボンディングワイヤを上下方向に多層化する場合、上層のボンディングワイヤの接合不良等により半導体モジュールの信頼性を低下させることがある。このようなボンディングワイヤの多層化による半導体モジュールの信頼性の低下を防ぐために、例えば、特許文献3の超音波ウェッジボンディング構造では、下層ボンディングワイヤの下層超音波接合部の上側に上層ボンディングワイヤを重ねて上層超音波接合部を形成し、上層超音波接合部のワイヤ配線方向下流側に、上層ボンディングワイヤを切断してなる切断部を形成する際に、切断部の下方に、切断部を下側から支持する切断用支持部を設けるようにしている。
【0008】
更に、特許文献4には、半導体チップと複数の金属ワイヤとを含む単位ユニットを2個以上搭載する取付基板のそりの発生を防ぐために、単位ユニットにおける第1主電極側の端子接続部と第2の主電極側の端子接続部はいずれかのものが近接配置され、かつ、単位ユニットの制御電極側の端子接続部から離間配置される電力用半導体装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2020-4153号公報
【特許文献2】特願2005-268497号公報
【特許文献3】特願2015-146393号公報
【特許文献4】特開平8-78620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
電力変換装置に用いられる上述の半導体モジュールには、ボンディングワイヤにより半導体素子の電極と接続される絶縁板上の導体パターンとは電気的に独立した導電性の配線部材が、半導体素子における一方の電極面から他方の電極面に向かう方向に、前記ボンディングワイヤの延伸方向における中間部分と向かい合う位置を通るように延伸するものがある。このような配線部材が設けられた半導体モジュールでは、ボンディングワイヤの数が多くなると、配線部材と、配線部材に最も近いボンディングワイヤとの離隔距離が短くなり、配線部材とボンディングワイヤとの間での放電(短絡)が生じやくなる。このような放電は、半導体モジュールを焼損させることがある。
【0011】
1つの側面において、本発明は、半導体モジュールにおける配線部材とボンディングワイヤとの間での放電を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
1つの態様に係る半導体モジュールは、絶縁板の第1の表面に複数の導電板が設けられた積層基板と、前記積層基板における前記絶縁板の前記第1の表面上に配置された半導体素子と、前記絶縁板の前記第1の表面における前記半導体素子が配置された第1の領域から第1の方向に位置する第2の領域に設けられた導電板と前記半導体素子における前記積層基板と向かい合う第1の面とは反対側の第2の面の電極とを電気的に接続する複数のワイヤと、前記第1の方向とは異なる第2の方向で前記複数のワイヤと向かい合い、前記半導体素子の前記第1の面から前記第2の面に向かう方向に延伸する、前記複数のワイヤと電気的に接続される前記導電板と電気的に独立した配線部材とを含み、前記複数のワイヤのうちの、前記第2の方向でみた前記半導体素子との接続部から前記配線部材までの距離が最も近いワイヤは、前記半導体素子との接続部と、前記導電板との接続部と、の間の中間部の前記第2の方向でみた位置が、前記2つの接続部を結ぶ線分よりも、前記配線部材から遠方にある。
【発明の効果】
【0013】
上述の態様によれば、半導体モジュールにおける配線部材とボンディングワイヤとの間での放電を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施の形態に係る半導体装置を上からみた平面図である。
【
図2】
図1に示す半導体装置におけるA-A’線を境としてX方向正側の部分を、A-A’線よりもX方向負側となる位置からみた場合の構成例を示す図である。
【
図3】
図1に示す半導体装置におけるB-B’線を境としてY方向正側の部分を、B-B’線よりもY方向負側となる位置からみた場合の構成例を示す図である。
【
図4】半導体モジュールにおけるボンディングワイヤの張り方の従来例を説明する図である。
【
図5】一実施の形態に係るボンディングワイヤの張り方の第1の例を説明する図である。
【
図6】一実施の形態に係るボンディングワイヤの張り方の第2の例を説明する図である。
【
図7A】効果係数αと最大電界強度比との関係を例示するグラフ図である。
【
図7B】
図7Aのグラフ上の各点とn
c、n
v、及び離隔距離Gとの関係を示す表図である。
【
図7C】
図7Aのグラフの点P0と対応するワイヤの配列を示す図である。
【
図7D】
図7Aのグラフの点P1及びP2のそれぞれと対応するワイヤの配列を示す図である。
【
図7E】
図7Aのグラフの点P3及びP4のそれぞれと対応するワイヤの配列を示す図である。
【
図7F】
図7Aのグラフの点P5及びP6のそれぞれと対応するワイヤの配列を示す図である。
【
図7G】
図7Aのグラフの点P7及びP8のそれぞれと対応するワイヤの配列を示す図である。
【
図8A】一実施の形態に係る半導体モジュールにおけるボンディングワイヤの張り方の具体例を説明する部分平面図である。
【
図8B】
図8AのC-C’線の位置からY方向正側の部分を見た場合の半導体モジュールの主要部の構成例を示す模式図である。
【
図9A】一実施の形態に係る半導体モジュールにおけるボンディングワイヤの張り方の変形例を説明する部分平面図である。
【
図9B】
図9AのD-D’線の位置からY方向正側の部分を見た場合の半導体モジュールの主要部の構成例を示す模式図である。
【
図10】本発明に係る半導体装置を適用した車両の一例を示す平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明を適用可能な半導体モジュール及び半導体装置について説明する。なお、参照する図面に示されたX方向、Y方向、及びZ方向は、それぞれ、半導体モジュールの短手方向、半導体モジュールの長手方向、及び半導体モジュールの高さ方向(基板の厚み方向)と対応する。図示されたX、Y、Zの各軸は互いに直交し、右手系を成している。また、場合によっては、X方向を左右方向、Y方向を前後方向、Z方向を上下方向と呼ぶことがある。これらの方向(前後左右上下方向)は、説明の便宜上用いる文言であり、半導体モジュールの取付姿勢によっては、XYZ方向のそれぞれとの対応関係が変わることがある。
【0016】
また、本明細書における以下の説明では、例えば、図示された構成要素におけるZ方向負側の端面を下面と呼び、その反対側(すなわちZ方向正側)の端面を上面と呼ぶ。また、本明細書において、平面視は、半導体モジュールの上面又は下面をZ方向からみた場合を意味する。また、各図面における縦横比や各部材同士の大小関係は、あくまで模式的で表されており、実際の半導体モジュールにおける関係とは必ずしも一致しない。説明の便宜上、各部材同士の大小関係を誇張して表現している場合も想定される。
【0017】
図1は、一実施の形態に係る半導体装置を上からみた平面図である。
図2は、
図1に示す半導体装置におけるA-A’線を境としてX方向正側の部分を、A-A’線よりもX方向負側となる位置からみた場合の構成例を示す図である。
図3は、
図1に示す半導体装置におけるB-B’線を境としてY方向正側の部分を、B-B’線よりもY方向負側となる位置からみた場合の構成例を示す図である。
図1~
図3の各図は、ケース11内に配置された半導体素子31~34、ボンディングワイヤ40、41等を封止するために、ケース11内に充填される封止絶縁体の図示を省略している。また、
図3に示したボンディングワイヤ41(41a~41d)等のボンディングワイヤの下端は、
図3に示された導電板24ではなく、導電板24よりもY方向正側に位置する導電板23(
図2を参照)と電気的に接続されている。
【0018】
図1~
図3に例示した本実施の形態に係る半導体装置100は、冷却器10の上面に半導体モジュール1を配置して構成される。なお、半導体モジュール1に対して、冷却器10は任意の構成である。本実施の形態に係る半導体装置100は、例えば、産業用又は車載用モータのインバータ装置等の電力変換装置に適用される。以下の説明では、
図2及び
図3に例示した冷却器10を除いた部分を半導体モジュール1と呼び、半導体モジュール1と冷却器10とを含むものを半導体装置100と呼んで区別する。
【0019】
冷却器10は、半導体モジュール1の熱を外部に放出するものであり、全体として直方体形状を有している。特に図示はしないが、冷却器10は、ベース板の下面側に複数のフィンを設け、これらのフィンをウォータジャケットに収容して構成される。なお、冷却器10の構成は、これに限らず適宜変更が可能である。
【0020】
半導体モジュール1は、ケース11内に積層基板2、半導体素子31~34、ボンディングワイヤ40(40a~40d、40p~40r)及び41(41a~41d、41p~41r)、並びに配線部材51~53等を配置して構成される。
【0021】
積層基板2は、例えば、DCB(Direct Copper Bonding)基板やAMB(Active Metal Brazing)基板、あるいは金属ベース基板で構成される。
図1~
図3に例示した積層基板2は、絶縁板20、金属箔21、第1の導電板22、第2の導電板23、及び第3の導電板24を含む。具体的には、積層基板2は、絶縁板20の下面(第2の面)に金属箔21を配置し、絶縁板20の上面(第2の面とは反対側の第1の面)に複数の導電板(第1の導電板22、第2の導電板23、及び第3の導電板24)をそれぞれ配置して構成された積層体であり、全体として平面視矩形状に形成されている。積層基板2は、配線板と呼ばれてもよい。
【0022】
具体的に絶縁板20は、上面と下面を有する板状体で形成され、Y方向に長い平面視矩形状を有している。絶縁板20は、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si3N4)、酸化アルミニウム(Al2O3)と酸化ジルコニウム(ZrO2)等のセラミックス材料によって形成される。なお、絶縁板20の材料は、特定の絶縁材料に限定されない。絶縁板20は、例えば、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂、又は、熱硬化性樹脂にガラスやセラミックス材料をフィラーとして用いた複合材料によって形成されてもよい。絶縁板20は、可撓性を有していてもよい。絶縁板20は、絶縁基板、絶縁層又は絶縁フィルムと呼ばれてもよい。
【0023】
金属箔21は、Z方向に所定の厚みを有し、Y方向に長い平面視矩形状を有している。金属箔21は、例えば、銅やアルミニウム等の熱伝導性の良好な金属板によって形成される。金属箔21は、絶縁板20の下面に配置されている。金属箔21の下面は、半導体モジュール1の取付先である冷却器10に対する被取付面であると共に、半導体モジュール1の熱を放出するための放熱面(放熱領域)としても機能する。金属箔21は、はんだ等の接合材(図示せず)を介して冷却器10の上面に接合される。金属箔21は、サーマルグリスやサーマルコンパウンドなどの熱伝導材を介して冷却器10の上面に配置されてもよい。放熱面として機能する金属箔21は、放熱板と呼ばれてもよい。
【0024】
複数の導電板(第1の導電板22、第2の導電板23、及び第3の導電板24)は、それぞれがZ方向に所定の厚みを有し、平面視矩形状を有している。各導電板は、例えば、銅やアルミニウム等の熱伝導性の良好な金属板によって形成される。複数の導電板は、絶縁板20の上面に、互いに重ならないようY方向に並んで配置されている。
図1に例示した半導体モジュール1では、第1の導電板22のY方向負側に第2の導電板23が配置され、第2の導電板23の更にY方向負側に第3の導電板24が配置されている。導電板は、導体層、導体板、又は導体パターン等と呼ばれてもよい。
【0025】
なお、絶縁板20の上面に配置する導電板の数は、
図1に示した3つに限らず、適宜変更が可能である。絶縁板20の上面に設ける導電板は、2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。また、平面視における導電板の形状、配置箇所等も、
図1に例示したものに限定することなく適宜変更が可能である。
【0026】
図1~
図3に例示した半導体モジュール1では、第2の導電板23の上面に2つの半導体素子31、32が配置されており、第3の導電板24の上面に別の2つの半導体素子33、34が配置されている。本実施の形態に係る半導体モジュール1の半導体素子31~34には、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、パワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等のスイッチング素子、FWD(Free Wheeling Diode)等のダイオード素子等を用いることができる。半導体素子は、半導体チップと呼ばれてもよい。
【0027】
図1~
図3に例示した半導体モジュール1における半導体素子31~34の各々は、スイッチング素子であるIGBTとダイオード素子であるFWDの機能を一体化したRC(Reverse Conducting)-IGBT素子であり得る。この種の半導体素子31~34は、主面と呼ばれる第1の面、及び第1の面とは反対側の第2の面のそれぞれに、不図示の電極が形成されている。半導体素子は、第1の面及び第2の面の一方の面を下面として導電板の上面と向かい合わせにして、導電板の上面に配置される。本明細書では、各半導体素子31~34における導電板と向かい合う面(下面)を第1の面とし、反対側の面(上面)を第2の面とする。
【0028】
第2の導電板23の上面に配置された半導体素子31、32の下面側の電極は、第2の導電板23と半導体素子31、32との間に位置するはんだ等の接合材Sにより、第2の導電板23と電気的に接続される。半導体素子31、32の上面側の電極は、複数のボンディングワイヤ40により第1の導電板22と電気的に接続される。以下の説明では、ボンディングワイヤ40を単に「ワイヤ40」と記載する。
【0029】
第3の導電板24の上面に配置された半導体素子33、34の下面側の電極は、第3の導電板24と半導体素子33、34との間に位置するはんだ等の接合材Sにより、第3の導電板24と電気的に接続される。半導体素子33、34の上面側の電極は、複数のボンディングワイヤ41により第2の導電板23と電気的に接続される。このとき、絶縁板20の第1の面における半導体素子33が配置された領域から見て、半導体素子33の上面側の電極と電気的に接続される第2の導電板23の領域は、Y方向正側に位置する。以下の説明では、Y方向を第1の方向とも記載する。また、以下の説明では、ボンディングワイヤ41を単に「ワイヤ41」とも記載する。
【0030】
1つの半導体素子における上面側の電極は、第1の導電板22、第2の導電板23、及び第3の導電板24とは電気的に独立した他の導電板又は端子と接続される電極を含んでもよい。例えば、第2の導電板23の上面に配置された半導体素子(例えば、半導体素子31)の上面側の電極は、第1の導電板22と電気的に接続させる主電極と、第1の導電板22とは別の導電板又は端子に接続させるゲート電極とを含んでもよい。同様に、第3の導電板24の上面に配置された半導体素子(例えば、半導体素子33)の上面側の電極は、第2の導電板23と電気的に接続させる主電極と、第1の導電板22及び第2の導電板23とは別の導電板又は端子に接続させるゲート電極とを含んでもよい。主電極は、半導体モジュール1(半導体素子)の動作時に主電流が流れる電極であり、ゲート電極は、例えば、主電流をオン・オフするためのゲートを制御する制御信号を印加する電極である。
【0031】
なお、本実施の形態の半導体モジュール1における半導体素子は、上面側に主電流が流れる電極が設けられるように積層基板2の上面に配置されるものであればよく、1つの導電板の上面に配置する半導体素子の種類、形状、配置数、配置箇所等は、適宜変更が可能である。また、半導体素子は、上記したスイッチング素子、ダイオード素子等を組み合わせて構成されてもよい。例えば、スイッチング素子であるIGBTとダイオード素子であるFWDとが別体で構成されてもよい。更に、半導体素子として逆バイアスに対して十分な耐圧を有するRB(Reverse Blocking)-IGBT等を用いてもよい。
【0032】
本実施の形態の半導体モジュール1では、第1の導電板22の上面、第2の導電板23の上面、及び第3の導電板24の上面のそれぞれに、導電板と電気的に接続され、Z方向正側に延伸する配線部材51、52、53が設けられている。各配線部材51、52、53は、Z方向負側の端部がはんだ等の接合材により導電板と電気的に接続されており、Z方向正側の端部がケース11の上面において不図示の封止絶縁体から露出し、又は突出し、入力端子又は出力端子として機能する。例えば、第1の導電板22の上面に設けられた第1の配線部材51は負極端子N、第2の導電板23の上面に設けられた第2の配線部材52は出力端子U、第3の導電板24の上面に設けられた第3の配線部材は正極端子Pであり得る。なお、第1の配線部材51、第2の配線部材52、及び第3の配線部材53の機能の組み合わせは、上記の組み合わせに限定されない。
【0033】
各導電板の上面に配置する配線部材の形状及び配置箇所は、特定の形状及び配置箇所に限定されない。そのため、
図1~
図3に例示したように、第3の導電板24と接続される第3の配線部材53が、第3の導電板24の上面に配置された半導体素子の電極と第2の導電板23とを接続するワイヤ41(41a~41d)における延伸方向での中間部と、第1の方向とは異なるX方向(以下、X方向を「第2の方向」とも記載する)で向かい合う位置で、Z方向正側に延伸するように配置されることがある。なお、
図3に例示したワイヤ41(41a~41d)の下端部は、上述したように、
図3に示されている第3の導電板24ではなく、第3の導電板24の奥方(Y方向正側)に位置する第2の導電板23と電気的に接続されている。
【0034】
図1~
図3に例示した、本実施の形態の半導体モジュール1では、半導体素子33の電極と第2の導電板23とを接続する4本のワイヤ41a~41dのそれぞれにおける、半導体素子33の電極との接続端及び第2の導電板23との接続端は、それぞれ、半導体素子33におけるワイヤと交差する側面に沿った第2の方向(X方向)に並んでいる。そして、本実施形態の半導体モジュール1では、X方向に並んだ4本のワイヤ41a~41dのうちの接続端がX方向の端に位置する2本のワイヤ41a及び41dは、各ワイヤの中間部が、隣接するワイヤ41b及び41cの中間部の上方(Z方向正側)を通るように張られている。言い換えると、半導体素子33の電極と第2の導電板23とを接続する4本のワイヤ41a~41dのうちの、X方向(第2の方向)でみた半導体素子33との接続部から第3の配線部材53までの距離が最も近いワイヤ41aにおける第3の配線部材53と向かい合う中間部は、半導体素子33の電極との接続端及び第2の導電板23との接続端を結ぶ線分(
図1及び
図3に太い点線で示した線分)よりも、第3の配線部材53から遠方に位置する。そして、半導体素子33の電極と第2の導電板23とを接続するワイヤ41と、第3の導電板24の上面に配置された第3の配線部材53との離隔距離Gを、X方向でみた半導体素子33の電極との接続端から第3の配線部材53までの距離が2番目に近いワイヤ41bの中間部から第3の配線部材53までの距離と等しくする。
【0035】
本実施の形態の半導体モジュール1のこのような構成によりもたらされる効果を説明するために、ここで、
図4を参照してワイヤ41の張り方の従来例を説明する。
【0036】
図4は、半導体モジュールにおけるボンディングワイヤの張り方の従来例を説明する図である。
図4には、従来のボンディングワイヤの張り方を適用して製造された、
図1~
図3に例示した半導体モジュール1と類似した構成の半導体モジュールにおける、
図3のZX面と対応する平面でみたボンディングワイヤ41(41a~41h)と第3の配線部材53との位置関係の一例を示している。なお、
図4のワイヤ41、第3の導電板24、及び第3の配線部材53は、断面であることを示すハッチングが省略されている。また、
図4には、便宜上8本のワイヤ41を張った例を示しているが、ワイヤ41の数は8本に限定されない。
【0037】
インバータ装置等の電力変換装置に利用される半導体モジュールでは、大電流を流すために、第2の導電板23と、第3の導電板24の上面に配置された半導体素子33の上面側の主電極とを接続するワイヤ41の数を多くすることがある。その場合、従来のワイヤ41の張り方では、
図4に例示するように、全てのワイヤ41の中間部が第3の導電板24の上面から同じ距離(高さ)にあり、第3の導電板24の上面に沿ってX方向に間隔SWで等間隔に配置される。しかしながら、このような張り方では、ワイヤ41の数が多くなるにつれて、複数のワイヤ41のうちの第3の配線部材53に最も近いワイヤ41aから第3の配線部材53までの距離(離隔距離)Gが短くなる。ワイヤ41aと第3の配線部材53との離隔距離Gが短くなると、半導体モジュールの動作時にワイヤ41aと第3の配線部材53とを絶縁する封止絶縁体に絶縁破壊(すなわち、ワイヤ41aと第3の配線部材53との間での放電)が生じやすくなる。ワイヤ41aと第3の配線部材53との間で生じる放電は、半導体モジュールの動作に悪影響を及ぼすだけでなく、半導体モジュールを焼損させるおそれがある。
【0038】
本実施の形態の半導体モジュール1は、動作時に異なる電位になるワイヤ41と第3の配線部材53との離隔距離Gを長くし、
図4を参照して上述したワイヤ41と第3の配線部材53との間の放電を抑制する。
【0039】
図5は、一実施の形態に係るボンディングワイヤの張り方の第1の例を説明する図である。
図6は、一実施の形態に係るボンディングワイヤの張り方の第2の例を説明する図である。
図5及び
図6は、それぞれ、
図4を参照して上述した8本のワイヤ41(41a~41h)を張る場合の、ワイヤ41と第3の配線部材53との離隔距離Gを長くする方法の例を示している。
【0040】
本実施の形態に係る半導体モジュール1では、上述したように、第3の導電板24の上面に配置された1つの半導体素子33の上面と第2の導電板23とを複数のワイヤ41で接続する場合に、各ワイヤ41における半導体素子33の上面との接続部が、第3の導電板24からみて第2の導電板23が位置するY方向と直交するX方向(第2の方向)に並ぶようにする。この場合、
図4を参照して上述したように、ワイヤ41の数が増加するにつれてワイヤ41(41a)と第3の配線部材53との離隔距離Gが短くなる。
【0041】
これに対し、本実施の形態の半導体モジュール1では、例えば、
図5に示したように、複数のワイヤ41のうちの、第3の配線部材53に近接するボンディングワイヤ(
図5では2本)の中間部が、それらのワイヤ41a及び41bと隣接する別のワイヤ41c及び41dの中間部の上方を通るようにする。
図5に例示した半導体モジュール1では、半導体素子33の上面との接続部がX方向で見て第3の配線部材53に最も近いワイヤ41aの中間部が3番目に近いワイヤ41cの中間部の上方を通り、二番目に近いワイヤ41bの中間部が4番目に近いワイヤ41dの中間部の上方を通る。このようにすることで、ワイヤ41の中間部と第3の配線部材53との離隔距離Gは、半導体素子33の上面との接続部がX方向で見て第3の配線部材53に3番目に近いワイヤ41cの中間部と第3の配線部材53との距離に変更される。すなわち、
図4に例示した従来のワイヤ41の張り方と比べて、ワイヤの間隔SWの2倍だけ、離隔距離Gを長くすることができる。このため、半導体モジュール1の動作時におけるワイヤ41と第3の配線部材53との間での放電の発生を抑制することができる。また、半導体素子33の上面との接続部がX方向で見て第3の配線部材53に近いワイヤ41a、41bの中間部が他のワイヤ41c、41dの上方を通るようにすることは、例えば、離隔距離Gを長くすることにより、X方向で見た半導体素子33と第3の配線部材53との距離が長くなってしまうことを防げる。言い換えると、本実施の形態の半導体モジュール1は、放電を抑制するために必要な離隔距離Gを確保した状態で、X方向で見た半導体素子33と第3の配線部材53との距離を短くすることを可能にする。このため、本実施の形態の半導体モジュール1は、動作時に異なる電位になるワイヤ41と第3の配線部材53との間の絶縁性の担保と、半導体モジュール1の小型化との両立を可能にし得る。
【0042】
また、本実施の形態の半導体モジュール1では、例えば、
図6に示したように、複数のワイヤ41のうちの、第3の配線部材53から遠方に位置するワイヤ41g及び41hの中間部も、それらのワイヤと隣接する別のワイヤ41e及び41fの中間部の上方を通るようにしてもよい。このとき、中間部の位置を変更する、第3の配線部材53に近接するワイヤ41の数と遠方に位置するボンディングワイヤ41の数とを同じ数にし、ZX面で見たワイヤ41の中央部の配列が半導体素子33の中心位置(中心線CC)で線対称(左右対称)になるようにする。このようにすることで、例えば、ワイヤ41を張るときの中間部の位置を成形しやすくなる。具体的には、複数のワイヤ41をX方向に並べて張る際にX方向の端に位置するワイヤの高さを他のワイヤの高さよりも高くし、その後、ピンセット等のツールを使用して、X方向の端に位置するワイヤの中間部同士の間隔が狭くなるように成形することで、離隔距離Gを容易に長くすることができる。なお、
図6に示した、X方向で隣接する2本のワイヤ41の中間部の間隔SW1と、Z方向で隣接する2本のワイヤ41の中間部の間隔SW2とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0043】
また、複数のボンディングワイヤの中間部の配列を
図6に例示したようにZX面で見た半導体素子33の中心線CCで線対称にすることは、中間部の配列をワイヤ41と第3の配線部材53との間での放電の生じにくさと関連付けることを容易にする。このことは、ワイヤ41と第3の配線部材53との間での放電を抑制する効果が最も高くなる、ワイヤ41の中間部の配列を容易に決定することを可能にする。例えば、
図6に示した8本のワイヤ41の中間部の配列は、X方向の数n
cが4であり、Z方向の数n
vが2であるが、n
cとn
vとの組み合わせはこれに限定されない。本実施の形態に係る半導体モジュール1におけるワイヤ41の中間部の配列と放電を抑制する効果との関係を説明するために、ここで、効果係数αについて説明する。効果係数αは、下記式1で表される。
【数1】
式1において、nはワイヤ41の総数であり、n
cはワイヤ41の列数(
図6における中間部のX方向の数)である。n
vはワイヤの段数であり、n
v=n/n
cで表される。
【0044】
効果係数αを理解しやすくするため、まず、
図4を参照して上述したワイヤ41の従来の張り方に対して、どれくらい離隔距離Gが長くなるかを数字で表すことを考える。例えば、8本のワイヤ41の中間部を
図6に例示したように4列2段(n
c=4、n
v=2)とすると、上述したようにワイヤの間隔SW1の2倍(ワイヤ2本分)だけ離隔距離Gを長くすることができる。ここで、離隔距離Gの増加分をβとすると、増加分βは、ワイヤの総数nとワイヤの列数n
cとを用いて下記式2のように表すことができる。
【数2】
【0045】
図6の例では、β=2となり、離隔距離Gがワイヤ2本分長くなることを示している。この増加分βにワイヤの直径とワイヤ間距離(間隙)との和を乗じることで、半導体モジュール1において離隔距離Gが実際にどれだけ長くなるかを求めることができる。例えば、ワイヤの直径が0.4mm、ワイヤ間距離が1mmの場合、β=2であれば離隔距離Gは2.8mm(=2×(0.4+1))長くなる。
【0046】
増加分βは、ワイヤの総数nやワイヤの列数n
cによって様々な値をとるため、以下のように一般化する。離隔距離Gが最大となる(すなわち増加分βが最大となる)のは、複数のワイヤ41の中間部を1本ずつZ方向に配列したn
c=1の場合であり、このときのβで規格化すれば、ワイヤの総数nやワイヤの列数n
cがどのような値でも、0~1の値で効果を表すことができる。n
c=1のときの離隔距離Gの増加分をγとすると、γは、下記式3のように表される。
【数3】
【0047】
これにより、効果係数αは、増加分β及びγを用いて、下記式4のように表すことができ、式1と同じ結果が得られる。
【数4】
【0048】
ここで、
図7A~
図7Gを参照して、8本のワイヤ41を張るときの効果係数αと最大電界強度比との関係を簡単に説明する。最大電界強度比は、
図4を参照して説明した従来例における離隔距離Gでのワイヤ41と第3の配線部材53との間の電界強度に対する、離隔距離Gを長くした場合の電界強度の比である。最大電界強度比は、ワイヤ41と第3の配線部材53との間での放電の発生のしやすさと関連付けることができる。
【0049】
図7Aは、効果係数αと最大電界強度比との関係を例示するグラフ図である。
図7Bは、
図7Aのグラフ上の各点とn
c、n
v、及び離隔距離Gとの関係を示す表図である。
図7Cは、
図7Aのグラフの点P0と対応するワイヤの配列を示す図である。
図7Dは、
図7Aのグラフの点P1及びP2のそれぞれと対応するワイヤの配列を示す図である。
図7Eは、
図7Aのグラフの点P3及びP4のそれぞれと対応するワイヤの配列を示す図である。
図7Fは、
図7Aのグラフの点P5及びP6のそれぞれと対応するワイヤの配列を示す図である。
図7Gは、
図7Aのグラフの点P7及びP8のそれぞれと対応するワイヤの配列を示す図である。
【0050】
図7Aのグラフ
図70における点P0~P8は、8本のワイヤ41を張るときの各ワイヤ41の中間部の配列と離隔距離Gとの組み合わせが異なる9つの配列パターンについての、効果係数αと最大電界強度比との関係を示している。各点P0~P8が示す各ワイヤ41の中間部の配列(列数n
c及び段数n
v)と離隔距離Gとは、
図7Bのテーブル71に示している。
図7Aのグラフ
図70における最大電界強度比は、点P0(すなわち、
図4に例示した従来例)と対応する配列における電界強度に対する各点の配列での電界強度の比であり、小さい値の配列ほど電界強度が小さくなり、ワイヤ41と第3の配線部材53との間での放電が発生しにくいことを示す。なお、
図7C~
図7Gのワイヤ41及び第3の配線部材53は、断面であることを示すハッチングが省略されている。
【0051】
点P0は、8本のワイヤ41の中間部の配列が、上記のように
図4に例示した従来例と対応する。具体的には、
図7Cに例示するように、各中間部が、半導体素子33の上面に沿ってX方向に、半導体素子33の上面からの距離が同一になるように配列されている。ここで、以下の説明における点P0と、他の各点P1~P8と差異を明確にするために、点P0の配列を基準とする位置及び距離を定義する。まず、X方向における半導体素子33の中心を通る中心線CCから第3の配線部材53までの距離LCCを中心距離LCCと定義する。また、X方向に並んだ8本のワイヤ41の中間部のうちの、第3の配線部材53に最も近いワイヤ41aの中間部から第3の配線部材53までの距離LL1を第1の距離LL1と定義する。同様に、X方向に並んだ8本のワイヤ41の中間部のうちの、第3の配線部材53に3番目に近いワイヤ41cの中間部から第3の配線部材53までの距離LL3を第3の距離LL3と定義し、第3の配線部材53に4番目に近いワイヤ41dの中間部から第3の配線部材53までの距離LL4を第4の距離LL4と定義する。更に、第3の配線部材53に5番目に近いワイヤ41eの中間部から第3の配線部材53までの距離LL5を第5の距離LL5と定義する。
【0052】
点P0と対応するワイヤ41の中間部の配列は、
図7B及び
図7Cに例示したように、n
c=8、n
v=1であり、離隔距離Gは第1の距離LL1である。
【0053】
次に、点P1及び点P2の配列について
図7B及び
図7Dを参照して説明する。点P1及びP2は、それぞれ、離隔距離Gが第3の距離LL3になるように8本のワイヤ41の中間部が配列される。点P1は、点P0の配置(n
c=8、n
v=1)のまま離隔距離Gが第3の距離LL3になるように、8本のワイヤ41の中間部の配列をX方向負側に平行移動させた配列と対応する。一方、点P2は、
図6を参照して上述したようにワイヤ41の中間部の配列を4列2段(n
c=4、n
v=2)にすることで、離隔距離Gが第3の距離LL3になるようにしている。点P2と対応する配列の効果係数αは、上記式1から約0.57となる。このことから、点P1の配列は、効果係数α=0.57に相当する従来例の配列と見做すことができる。
図7Aに例示したように、点P1及び点P2の最大電界強度比は、いずれも0.8よりも小さい値であるが、ワイヤ41の中間部の配列を4列2段(n
c=4、n
v=2)にした点P2のほうがより小さい値を示している。
【0054】
次に、点P3及び点P4の配列について
図7B及び
図7Eを参照して説明する。点P4は、ワイヤ41の中間部の配列を3列3段(n
c=3、n
v=3)に変更している。なお、ワイヤ41は8本であるため、点P4では、下から2段目(すなわち段方向における中央の段)のワイヤ41の中間部を2本にし、かつ、半導体素子33の中心線CCに対して線対称になるように、中央にワイヤ41の中間部が配列されない「ロ」の字形の配列になっている。また、点P4では、ワイヤ41の中間部が半導体素子33の中心線CCに対して線対称になり、かつ、下から1段目及び3段目におけるワイヤ41の間隔が、点P0における間隔SW(SW1)と同一になるようにワイヤ41の中間部を配置している。このため、点P4における離隔距離Gは、
図7Eに例示したように、第3の距離LL3と第4の距離LL4との間の距離となり、より具体的には、G=(LL4+LL3)/2となる。点P4と対応する配列の効果係数αは、上記式1から約0.71となる。
【0055】
一方、点P3は、
図7Eに例示したように、点P0の配置(n
c=8、n
v=1)のまま離隔距離Gが点P4と同じG=(LL4+LL3)/2になるように、8本のワイヤ41の中間部の配列をX方向負側に平行移動させた配列と対応する。したがって、点P3の配列は、効果係数α=0.71に相当する従来例の配列と見做すことができる。
【0056】
図7Aに例示したように、点P3及び点P4の最大電界強度比は、いずれも0.8よりも小さい値であるが、ワイヤ41の中間部の配列を3列3段(n
c=3、n
v=3)にした点P4のほうがより小さい値を示している。また、点P4の最大電界強度比は、点P2と比べて、さらに小さい値になっている。このことは、点P4の配列(3列3段)のほうが、点P2の配列(4列2段)よりもワイヤ41と第3の配線部材53との間の放電が生じにくいことを示唆していると考えられる。
【0057】
次に、点P5及び点P6の配列について
図7B及び
図7Fを参照して説明する。点P6は、ワイヤ41の中間部の配列を2列4段(n
c=2、n
v=4)に変更している。また、点P6では、ワイヤ41の中間部が半導体素子33の中心線CCに対して線対称になり、かつ、各段におけるワイヤ41の間隔が、点P0における間隔と同一になるようにワイヤ41の中間部を配置している。このため、点P6における離隔距離Gは、
図7Fに例示したように、第4の距離LL4となる。点P6と対応する配列の効果係数αは、上記式1から約0.85となる。
【0058】
一方、点P5は、
図7Fに例示したように、点P0の配置(n
c=8、n
v=1)のまま離隔距離Gが点P6と同じ第4の距離LL4になるように、8本のワイヤ41の中間部の配列をX方向負側に平行移動させた配列と対応する。したがって、点P5の配列は、効果係数α=0.85に相当する従来例の配列と見做すことができる。
【0059】
図7Aに例示したように、点P5及び点P6の最大電界強度比は、いずれも0.8よりも小さい値であるが、ワイヤ41の中間部の配列を2列4段(n
c=2、n
v=4)にした点P6のほうがより小さい値を示している。また、点P6の最大電界強度比は、点P4の最大電界強度比と略同一である。このことは、点P4の配列と同様、点P6の配列(2列4段)のほうが、点P2の配列(4列2段)よりもワイヤ41と第3の配線部材53との間の放電が生じにくいことを示唆していると考えられる。
【0060】
最後に、点P7及び点P8の配列について
図7B及び
図7Gを参照して説明する。点P8は、ワイヤ41の中間部の配列を1列8段(n
c=1、n
v=8)に変更している。また、点P8では、ワイヤ41の中間部が半導体素子33の中心線CCに対して線対称になるように、言い換えると、各ワイヤ41の中心が半導体素子33の中心線CC上になるように、ワイヤ41の中間部を配置している。このため、点P8における離隔距離Gは、
図7Gに例示したように、第4の距離LL4と第5の距離LL5との間の距離となり、より具体的には、G=(LL5+LL4)/2となる。点P8と対応する配列の効果係数αは、上記式1から1.00となる。
【0061】
一方、点P7は、
図7Gに例示したように、点P0の配置(n
c=8、n
v=1)のまま離隔距離Gが点P8と同じG=(LL5+LL4)/2になるように、8本のワイヤ41の中間部の配列をX方向負側に平行移動させた配列と対応する。したがって、点P5の配列は、効果係数α=1.00に相当する従来例の配列と見做すことができる。
【0062】
図7Aに例示したように、点P7及び点P8の最大電界強度比は、いずれも0.8よりも小さい値であるが、ワイヤの中央部の配列を1列8段(n
c=1、n
v=8)にした点P8のほうがより小さい値を示している。また、点P8の最大電界強度比は、点P4及び点P6と比べて大きな値になっている。このことは、点P4の配列(3列3段)又は点P6の配列(2列4段)のほうが、点P8の配列よりもワイヤと第3の配線部材との間の放電が生じにくいことを示唆していると考えられる。
【0063】
図7A~
図7Gを参照して上述したように、1つの半導体素子33の上面の電極と1つの導電板23との接続に用いるワイヤ41の数に基づいて、ワイヤ41の中間部の配列と最大電界強度比との関係をシミュレーションすることで、ワイヤ41と配線部材53との間での放電を抑制するのに適したワイヤ41の中間部の配列を導出することができる。例えば、
図7A~
図7Gを参照して上述した例では、ワイヤ41の中間部を3列3段(n
c=3、n
v=3)又は2列4段(n
c=2、n
v=4)にすることで、ワイヤ41と第3の配線部材53との間での放電を抑制する効果が最も高くなると考えられる。しかしながら、ワイヤ41の中間部を2列4段(n
c=2、n
v=4)にする場合、半導体素子33の上面から最上段のワイヤ41までの高さが高くなる分、例えば、最上段のワイヤ41からケース11の上面までの距離が短くなり、封止絶縁体による絶縁性能が低下する恐れがある。そのため、
図7A~
図7Gを参照して上述した例では、ワイヤ41の中間部を3列3段(n
c=3、n
v=3)、又は4列2段(n
c=4、n
v=2)にすることが好ましいと考えられる。
【0064】
なお、
図7A~
図7Gを参照した上記の説明は、ワイヤ41が8本である場合の好適なワイヤ41の張り方の導出方法の一例に過ぎない。例えば、任意の数のワイヤ41を2段以上(n
v≧2)にした場合、式1により導出される効果係数αはα≧0.5となる。そして、ワイヤ41を2段以上にすることで、第3の配線部材53からの離隔距離Gは1段(従来例)のときよりも確実に長くすることができる。従って、複数のワイヤ41の中間部の配列がα≧0.5を満たすようにワイヤの列数n
cと段数n
vを選択することにより、ワイヤ41と第3の配線部材53との間の放電を抑制することができる。また、
図7Aに例示したような効果係数αと最大電界強度比との関係を利用することにより、例えば、放電を抑制するために必要な離隔距離Gを確保した状態で、X方向で見た半導体素子33と第3の配線部材53との距離を短くすることができる。このため、動作時に異なる電位になるワイヤ41と第3の配線部材53との間の絶縁性の担保と、半導体モジュール1の小型化との両立を可能にし得る。
【0065】
次に、
図8A及び
図8Bを参照して、ワイヤ41の中間部を4列2段(n
c=4、n
v=2)に配列する方法の一例を説明する。
図8Aは、一実施の形態に係る半導体モジュールにおけるボンディングワイヤの張り方の具体例を説明する部分平面図である。
図8Bは、
図8AのC-C’線の位置からY方向正側の部分を見た場合の半導体モジュールの主要部の構成例を示す模式図である。なお、
図8Bに示したワイヤ41a~41hの下端は、
図8Bに示した第3の導電板24ではなく、第3の導電板24の奥方(Y方向正側)に位置する第2の導電板23と接続されている。
【0066】
図8A及び
図8Bに例示した半導体モジュール1では、第3の導電板24上に配置された半導体素子33の上面の電極(不図示)と、第3の導電板24から見て第1の方向(Y方向正側)に位置する第2の導電板23とが、8本のワイヤ41により電気的に接続される。第3の導電板24上には、半導体素子33の下面から上面に向かうZ方向に延伸し、ワイヤ41の中間部と第2の方向(X方向)で向かい合う位置を通る第3の配線部材53が設けられている。
【0067】
図8A及び
図8Bに例示した半導体モジュール1における、半導体素子33の上面と接続された各ワイヤ41の接続端は、第1の方向と直交する第2の方向(X方向)に沿った位置が異なる。更に、第2の方向(X方向)で見た第3の配線部材53からの接続端の距離が最も近い(1番目に近い)ワイヤ41aの中間部が3番目に近いワイヤ41cの中間部の上方に位置し、2番目に近いワイヤ41bの中間部が4番目に近いワイヤ41dの中間部の上方に位置する。更に、第2の方向で見た第3の配線部材53からの接続端の距離が最も遠い(1番目に遠い)ワイヤ41hの中間部が3番目に遠いワイヤ41fの中間部の上方に位置し、2番目に遠いワイヤ41gの中間部が4番目に遠いワイヤ41eの中間部の上方に位置する。
【0068】
ワイヤ41の中間部をこのような配列にする場合、例えば、半導体素子33の上面との各ワイヤ41の接続端に関して、第2の方向(X方向)で見た第3の配線部材53からの接続端の距離が最も近い(1番目に近い)ワイヤ41aから順に、X方向負側に8本のワイヤ41a~41hをボンディングする。このとき、各ワイヤ41a~41hは、平面視で互いに平行となるようにY方向に延伸している(例えば、1番目に近いワイヤ41aは、
図8Aに太い点線で示した位置でY方向に延伸している)。また、中間部が上段に配置される、第3の配線部材53からの距離が1番目に近いワイヤ41a、2番目に近いワイヤ41b、2番目に遠い(7番目に近い)ワイヤ41g、及び1番目に遠い(8番目に近い)ワイヤ41hは、他のワイヤ41c~41fと比べてループ高さを高くしておく。その後、例えば、第3の配線部材53からの距離が2番目に近いワイヤ41b及び2番目に遠い(7番目に近い)ワイヤ41gの中間部をピンセット等のツールで挟み、各ワイヤ41b及び41gの中間部が4番目に近いワイヤ41dの中間部及び5番目に近いワイヤ41eの中間部の上方に位置するように成形する。更に、例えば、第3の配線部材53からの距離が1番目に近いワイヤ41a及び1番目に遠い(8番目に近い)ワイヤ41hの中間部をピンセット等のツールで挟み、各ワイヤ41a及び41hの中間部が3番目に近いワイヤ41cの中間部及び6番目に近いワイヤ41fの中間部の上方に位置するように成形する。
【0069】
なお、中間部が上段に配置されるワイヤの形成方法は、上述した方法に限定されない。例えば、中間部が下段に配置される4本のワイヤ41c~41fを接続した後に、残りの4本のワイヤ41a、41b、41g、及び41hを接続し、それら4本のワイヤ41a、41b、41g、及び41hの中間部が下段の4本のワイヤのうちの対応するワイヤの中間部の上を通るように成形してもよい。
【0070】
また、
図8A及び
図8B等に示した複数のワイヤは、各ワイヤの中間部同士が平行になるように屈曲しているが、各ワイヤの中間部は、任意の方向に任意の曲率で伸長する曲線状に形成されていてもよい。更に、Z方向で隣接するワイヤ同士のX方向(第2の方向)の位置は、
図8A及び
図8B等を参照して上述したワイヤ41の中間部の配列の例に限らず、Z方向で隣接する中間部同士が平面視で重ならない配列であってもよい。
【0071】
更に、
図8A及び
図8B等を参照して上述した本実施の形態の半導体モジュール1では、第2の方向(X方向)で見た第3の配線部材53からの接続部の距離が近いワイヤ41a、41b及び遠いワイヤ41g、41hの中間部を、他のワイヤ41c~41fの中間部の上方に位置付けることにより、離隔距離Gを長くしている。しかしながら、ワイヤ41の中間部の配列は、これに限らず、第3の配線部材53からの接続部の距離が近いワイヤ41a、41b及び遠いワイヤ41g、41hの中間部が、他のワイヤ41c~41fの中間部の下方に位置づけられるようにしてもよい。
【0072】
図9Aは、一実施の形態に係る半導体モジュールにおけるボンディングワイヤの張り方の変形例を説明する部分平面図である。
図9Bは、
図9AのD-D’線の位置からY方向正側の部分を見た場合の半導体モジュールの主要部の構成例を示す模式図である。なお、
図9Bに示したワイヤ41a~41hの下端は、
図9Bに示した第3の導電板24ではなく、第3の導電板24の奥方(Y方向正側)に位置する第2の導電板23と接続されている。
【0073】
図9A及び
図9Bに例示した半導体モジュール1では、第3の導電板24上に配置された半導体素子33の上面の電極と、第3の導電板24から見て第1の方向(Y方向正側)に位置する第2の導電板23とが、8本のワイヤ41(41a~41h)により電気的に接続される。第3の導電板24上には、半導体素子33の下面から上面に向かう方向に延伸し、ワイヤ41の中間部と第2の方向で向かい合う位置を通る第3の配線部材53が設けられている。
【0074】
図9A及び
図9Bに例示した半導体モジュール1における、半導体素子33の上面と接続された各ワイヤ41a~41hの接続端は、第1の方向と直交する第2の方向(X方向)に沿った位置が異なる。更に、第2の方向(X方向)で見た第3の配線部材53からの接続端の距離が最も近い(1番目に近い)ワイヤ41aの中間部が3番目に近いワイヤ41cの中間部の下方に位置し、2番目に近いワイヤ41bの中間部が4番目に近いワイヤ41dの中間部の下方に位置する。更に、第2の方向で見た第3の配線部材53からの接続端の距離が最も遠い(1番目に遠い)ワイヤ41hの中間部が3番目に遠いワイヤ41fの中間部の下方に位置し、2番目に遠いワイヤ41gの中間部が4番目に遠いワイヤ41eの中間部の下方に位置する。なお、
図9A及び
図9Bを参照した説明における「下方」は、Z方向で隣り合う2つのワイヤ41の中間部の相対的な位置関係をしている。
図9A及び
図9Bに例示した半導体モジュール1において「下方」に位置するワイヤ41の中間部の、半導体モジュール1の上面からの距離は、例えば、
図8A及び
図8Bに例示した半導体モジュール1において「下方」に位置するワイヤ41の中間部の、半導体モジュール1の上面からの距離と略同一である。すなわち、
図9Bにおける下段のワイヤ41a、41b、41g、及び41hのループ高さは、
図8Bにおける下段のワイヤ41c~41fのループ高さと略同一である。
【0075】
ワイヤ41の中間部をこのような配置にする場合、例えば、半導体素子33の上面との各ワイヤ41の接続端に関して、第2の方向(X方向)で見た第3の配線部材53からの接続端の距離が最も近い(1番目に近い)ワイヤ41a、2番目に近いワイヤ41b、2番目に遠い(7番目に近い)ワイヤ41g、及び1番目に遠い(8番目に近い)ワイヤ41hを最初にボンディングし、例えば、ピンセット等のツールを使用して各ワイヤの中間部が他のワイヤの中間部の下方になるように成形する。その後、残りの4本のワイヤ41c~41fをボンディングする。このとき、中間部が上段に配置される、第3の配線部材53からの距離が3番目に近いワイヤ41c、4番目に近いワイヤ41d、5番目に近いワイヤ41e、及び6番目に近いワイヤ41fは、それぞれ、下段のワイヤと比べてループ高さを高くしておく。このように、平面視において直線状になるワイヤ41c~41fのループ高さを高くして中間部を上段に配列することで、半導体素子33との接続端が第2の方向で両端側となるワイヤ41a、41b、41g、及び41hと、中間に位置するワイヤ41c~41fとの長さの差を小さくすること、又は同一若しくは略同一にすることができる。このため、ワイヤの長さの違いに起因する各ワイヤのインダクタンスの差異が半導体モジュール1の動作に与える影響を小さくすることができる。
【0076】
また、半導体素子33との接続端が第2の方向で両端側となるワイヤと、中間に位置するワイヤとの長さの差を小さくする、又は同一若しくは略同一にする場合、例えば、
図9Aに例示したように、半導体素子33の上面におけるワイヤ41c~41fの接続端の第1の方向での位置を、他のワイヤ41a、41b、41g、及び41cの位置よりも第2の導電板23からの距離が長くなるように(Y方向負側に)ずらしてもよい。また、
図9A及び
図9Bには4列2段の例を示しているが、ワイヤ41の中間部の配列は、これに限定されない。他の列数及び段数の組み合わせの場合、各ワイヤの長さを等しくするために、半導体素子33の上面における接続端の位置は3通り以上であってもよい。
【0077】
なお、
図9A及び
図9B等に示した複数のワイヤ41a~41hは、各ワイヤの中間部同士が平行になるように屈曲しているが、各ワイヤの中間部は、任意の方向に任意の曲率で伸長する曲線状に形成されていてもよい。
【0078】
本実施の形態の半導体モジュール1を含む半導体装置100は、上述したように、車載用モータのインバータ装置等の電力変換装置に適用され得る。
図10を参照して、本発明の半導体装置100が適用された車両について説明する。
【0079】
図10は、本発明に係る半導体装置を適用した車両の一例を示す平面模式図である。
図10に示す車両101は、例えば、4つの車輪102を備えた四輪車で構成される。車両101は、例えば、モータ等によって車輪を駆動させる電気自動車、モータの他に内燃機関の動力を用いたハイブリッド車であってもよい。
【0080】
車両101は、車輪102に動力を付与する駆動部103と、駆動部103を制御する制御装置104と、を備える。駆動部103は、例えば、エンジン、モータ、エンジンとモータのハイブリッドの少なくとも1つで構成されてよい。
【0081】
制御装置104は、上記した駆動部103の制御(例えば電力制御)を実施する。制御装置104は、上記した半導体装置100を備えている。半導体装置100は、駆動部103に対する電力制御を実施するように構成されてよい。
【0082】
また、上記実施の形態において、半導体素子の個数及び配置箇所は、上記構成に限定されず、適宜変更が可能である。例えば、上記実施の形態で例示した半導体モジュール1は、半導体素子33と第2の導電板23とを接続するワイヤ41と、第3の配線部材53との動作時の電位が異なることによる放電を抑制するものである。そのため、第3の配線部材53は、例えば、第3の導電板24及び第2の導電板23とは異なる導電板に電気的に接続されたものであってもよい。また、半導体素子33は、第3の配線部材53が接続された第3の導電板24と電気的に接続されていなくてもよく、平面視で第3の導電板24と重ならない位置に配置されていてもよい。
【0083】
また、上記実施の形態において、導電板の個数及びレイアウトは、上記構成に限定されず、適宜変更が可能である。
【0084】
また、上記実施の形態では、積層基板2、導電板22~24、半導体素子31~34が平面視矩形状又は方形状に形成される構成としたが、この構成に限定されない。これらの構成は、上記以外の多角形状に形成されてもよい。
【0085】
また、本実施の形態及び変形例を説明したが、他の実施の形態として、上記実施の形態及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0086】
また、本実施の形態は上記の実施の形態及び変形例に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらに、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【0087】
以下、上述した実施の形態における特徴点を整理する。
【0088】
上記実施の形態に係る半導体モジュールは、絶縁板の第1の表面に複数の導電板が設けられた積層基板と、前記積層基板における前記絶縁板の前記第1の表面上に配置された半導体素子と、前記絶縁板の前記第1の表面における前記半導体素子が配置された第1の領域から第1の方向に位置する第2の領域に設けられた導電板と前記半導体素子における前記積層基板と向かい合う第1の面とは反対側の第2の面の電極とを電気的に接続する複数のワイヤと、前記第1の方向とは異なる第2の方向で前記複数のワイヤと向かい合い、前記半導体素子の前記第1の面から前記第2の面に向かう方向に延伸する、前記複数のワイヤと電気的に接続される前記導電板と電気的に独立した配線部材とを含み、前記複数のワイヤのうちの、前記第2の方向でみた前記半導体素子との接続部から前記配線部材までの距離が最も近いワイヤは、前記半導体素子との接続部と、前記導電板との接続部と、の間の中間部の前記第2の方向でみた位置が、前記2つの接続部を結ぶ線分よりも、前記配線部材から遠方にある。
【0089】
上記実施の態様に係る半導体モジュールにおいて、前記半導体素子の前記第1の面の電極が、前記積層基板における前記絶縁板の前記第1の表面に設けられた、前記複数のワイヤが接続される導電板とは異なる導電板と電気的に接続されており、前記配線部材は、前記半導体素子の前記第1の面の前記電極が電気的に接続された前記導電板と電気的に接続されている。
【0090】
上記実施の態様に係る半導体モジュールにおいて、前記第2の方向でみた前記半導体素子との接続部から前記配線部材までの距離が最も近い前記ワイヤの前記中間部は、前記半導体素子の前記第2の面からの高さが、他のワイヤのうちの少なくとも1本のワイヤの中間部の前記半導体素子の前記第2の面からの高さと異なる。
【0091】
上記実施の態様に係る半導体モジュールにおいて、前記第2の方向でみた前記半導体素子との接続部から前記配線部材までの距離が最も近い前記ワイヤの前記中間部は、前記半導体素子の前記第1の面から前記第2の面に向かう方向で、他のワイヤのうちの少なくとも1本のワイヤの中間部と重なる。
【0092】
上記実施の態様に係る半導体モジュールにおいて、前記第2の方向及び前記半導体素子の前記第1の面から前記第2の面に向かう方向を含む平面で見た前記複数のワイヤの前記中間部の配列が、前記第2の方向における前記半導体素子の中心線で線対称になっている。
【0093】
上記実施の態様に係る半導体モジュールにおいて、前記第2の方向及び前記半導体素子の前記第1の面から前記第2の面に向かう方向を含む平面で見た前記複数のワイヤの前記中間部の配列は、前記複数のワイヤの総数nと前記第2の方向のワイヤの数ncとで表される効果係数α=(n-nc)/(n-1)が0.5以上である。
【0094】
上記実施の態様に係る半導体モジュールにおいて、前記複数のワイヤは、長さが等しい。
【0095】
上記実施の態様に係る半導体モジュールにおいて、前記複数のワイヤの、前記半導体素子の前記第2の面との接続端の前記第1の方向での位置が2通り以上である。
【0096】
上記実施の態様に係る半導体モジュールにおいて、前記複数のワイヤのうち、前記中間部の前記半導体素子の前記第2の面からの高さが異なる2本のワイヤは、前記接続端の前記第1の方向での位置が異なる。
【0097】
上記実施の態様に係る半導体装置は、上記の半導体モジュールと、前記半導体モジュールにおける前記絶縁板の前記第1の表面とは反対の第2の表面側に配置された冷却器と、を備える。
【0098】
上記実施の態様に係る車両は、上記の半導体モジュール、又は半導体装置を備える。
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上説明したように、本発明は、動作時に電位が異なるボンディングワイヤと配線部材との間での放電を抑制することができ、小型化にも有利であるという効果を有し、特に、産業用又は電装用の半導体モジュール、半導体装置、及び車両に有用である。
【符号の説明】
【0100】
100 半導体装置
1 半導体モジュール
2 積層基板
20 絶縁板
21 放熱板
22、23、24 導電板
31~34 半導体素子
40、40a~40d、40p~40r ボンディングワイヤ
41、41a~41h、41p~41r ボンディングワイヤ
51~53 配線部材
101 車両
102 車輪
103 駆動部
104 制御装置