(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170848
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】雄猫の尿路閉塞解除用カテーテル
(51)【国際特許分類】
A61D 1/00 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
A61D1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082914
(22)【出願日】2022-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】599122237
【氏名又は名称】株式会社エフスリィー
(71)【出願人】
【識別番号】522200753
【氏名又は名称】株式会社近畿生物科学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100100170
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 厚司
(74)【代理人】
【識別番号】100121924
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】青野 哲也
(72)【発明者】
【氏名】廣田 徹
(72)【発明者】
【氏名】大寺 貴子
(72)【発明者】
【氏名】河田 和憲
(72)【発明者】
【氏名】神前 卓司
(57)【要約】
【課題】片手でも容易に操作することができ、尿道を十分に拡張して尿路閉塞を解除することができる雄猫の尿路閉塞解除用カテーテルを提供する。
【解決手段】内腔4を有するチューブ2の先端に先端開口部5が形成され、先端開口部5より後方の所定位置にチューブ2の内腔4の中心軸に対して垂直方向に側孔6が形成されている。先端開口部5の開口面積は側孔6の開口面積より大である。側孔6は周方向に等間隔離れた位置に複数形成されている。チューブ2の基端にチューブ2より大径の基材3が一体に設けられ、基材3にチューブ2の内腔と連通する貫通孔11が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内腔を有するチューブの先端に先端開口部が形成され、前記先端開口部より後方の所定位置に前記チューブの内腔の中心軸に対して垂直方向に側孔が形成され、前記先端開口部の開口面積は前記側孔の開口面積より大であることを特徴とする雄猫の尿路閉塞解除用カテーテル。
【請求項2】
前記側孔は周方向に等間隔離れた位置に複数形成されていることを特徴とする請求項1に記載の雄猫の尿路閉塞解除用カテーテル。
【請求項3】
前記チューブは外径が雄猫の尿道以下であることを特徴とする請求項1に記載の雄猫の尿路閉塞解除用カテーテル。
【請求項4】
前記チューブの基端に前記チューブより大径の基材が一体に設けられ、前記基材に前記基材の内腔と連通する貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の雄猫の尿路閉塞解除用カテーテル。
【請求項5】
前記基材の基端の外面に、シリンジの先端部にねじ込まれる雄ねじが形成されていることを特徴とする請求項4に記載の雄猫の尿路閉塞解除用カテーテル。
【請求項6】
前記基材の基端の外面に、前記チューブの内腔の中心軸に対して垂直方向に突出する延長把持部が形成されていることを特徴とする請求項4に記載の雄猫の尿路閉塞解除用カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は雄猫の尿路閉塞解除用カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
雄猫は、尿道が細長くて湾曲し、先端も細くなっているので、結石や不溶物が尿道に詰まって尿路閉塞にかかりやすい。尿路閉塞は肥満や、食事内容、生活習慣にも関係している。猫はあまり水を飲まずに我慢して濃度の濃い尿を排泄することが多いことも原因の一つである。尿中に、マグネシウム、リン、カルシウムなどが増加し、ストルバイト、シュウ酸カルシウムからなる結石が生成する。また、細菌等によって尿路に不溶物も生じて尿路閉塞の原因となる。尿路閉塞の治療には、尿道口からカテーテルを挿入して尿道の詰まりを解消する方法が採られる。
【0003】
特許文献1には、尿道腔に注入管を挿入し、ゼリー類あるいは軟膏類などの半流動物質を注入して尿道腔を拡張して、尿道腔から注入管を引き抜いた後、腹部の皮膚の上から膀胱を圧迫して結石を尿道口から排出する方法が記載され、この方法に使用するチューブホルダや注入管も提案されている。
【0004】
しかし、特許文献1の方法は、一方の手で雄猫のペニスを押さえ、他方の手で半流動物質を収容するチューブを掌中で支えるとともに指先で注入管を持った状態で、治療を行うため、手先の器用さと、ホルダの操作に熟練を要するので、誰でも容易に行えるものではなかった。また、注入管の先端から押し出された半流動物質が結石で遮られて固まりとなって尿道腔を拡張するため、尿道腔の拡張が不十分で、結石を有効に排出することが困難であった。
【0005】
特許文献2には、チューブの先細り先端部に前方噴射孔を備えるとともに、前方噴射孔の後部に後ろ向き噴射孔を備えたカテーテルが提案されている。前方噴射孔の開口面積は後ろ向き噴射孔の開口面積より小さくなっている。このチューブの先端を雄猫のペニスの尿道の内部に挿入し、基端部に接続したシリンジから液体を送り込むと、後ろ向き噴射孔から液体が後方に向けて噴射されると同時に、前方噴射孔から液体の一部が前方に向けて噴射される。前方噴射孔から噴射される液体は、結石を崩壊させ、後ろ向き噴射孔から噴射される液体は尿道を押し広げ、崩壊した結石を外部に排出する。
【0006】
しかし、引用文献2のカテーテルは、太さが1mm程度、長さが40cm程度で、基端部にシリンジが接続され、先端部に前方噴射孔と後ろ向き噴射孔が形成されているため、チューブの先端部を指先で持って雄猫の尿道に挿入するときに、先端部が振れて安定しないうえ、先端部を尿道に挿入した後にシリンジに手を持ち換える必要があり、作業手順がスムーズに行えない。また、後ろ向き噴射孔から液体が後方に噴射されるので、拡張が不十分で、結石を有効に排出することが困難であった。
【0007】
特許文献3には、液体加圧供給用の内管と、吸引用の外管とからなり、内管の前端域に加圧供給流体を反転方向に噴射するノズル噴孔が形成された2重カテーテルが記載されている。外管と内管の間に吸引用回路、内管内に加圧供給回路を接続する必要があるうえ、外径が大きく、構造が複雑で、雄猫の尿路閉塞解除用には適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10-179618号公報
【特許文献2】特開2005-185439号公報
【特許文献3】特開2003-260127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みてなされたもので、片手でも容易に操作することができ、尿道を十分に拡張して尿路閉塞を解除することができる雄猫の尿路閉塞解除用カテーテルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
(1)内腔を有するチューブの先端に先端開口部が形成され、前記先端開口部より後方の所定位置に前記チューブの内腔の中心軸に対して垂直方向に側孔が形成され、前記先端開口部の開口面積は前記側孔の開口面積より大であることを特徴とする。
【0011】
(2)前記側孔は周方向に等間隔離れた位置に複数形成されている。
【0012】
(3)前記チューブは外径が雄猫の尿道以下、好ましくは1.35mm以下である。
【0013】
(4)前記チューブの基端に前記チューブより大径の基材が一体に設けられ、前記基材に前記チューブの内腔と連通する貫通孔が形成されている。
【0014】
(5)前記基材の基端の外面に、シリンジの先端部にねじ込まれる雄ねじが形成されている。
【0015】
(6)前記基材の外面に、前記チューブの内腔の中心軸に対して垂直方向に突出する延長把持部が形成されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、片手でも容易に操作することができ、尿道を十分に拡張して尿路閉塞を解除することができるという効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係るカテーテルの正面図。
【
図3】
図1のカテーテルのチューブの先端部の拡大断面図。
【
図4】
図1のカテーテルの斜視図(a)及び変形例のカテーテルの斜視図(b)。
【
図6】本実施形態のカテーテルを使用して雄猫の尿路閉塞を解除する手順を示す概略図。
【
図7】本実施形態のカテーテルを使用して雄猫の尿路閉塞を解除する他の手順を示す概略図。
【
図8】本実施形態のカテーテルを使用して雄猫の尿路閉塞を解除するさらに他の手順を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を添付図面に従って説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る雄猫の尿路閉塞解除用カテーテル(以下、単にカテーテルという。)1を示す。カテーテル1は、チューブ2と、基材3とからなっている。
【0020】
チューブ2は、
図2に示すように、内腔4を有する細長い真直な円筒形状を有する。チューブ2は、生体適合性材料からなっている。生体適合性材料としては、耐腐食性に優れたSUS316L等のステンレス鋼、チタン及びチタン合金、コバルトクロム合金等が使用できる。チューブ1の先端は先端開口部5が形成され、基端は基材3に挿入一体化されている。
【0021】
チューブ2の外径は、雄猫の尿道(一般的な尿道径は3から4Fr(フレンチゲージ))に挿入可能な大きさで、3Fr未満が好ましい。実施例では0.91mmである。チューブ2の内径は、実施例では0.61mmである。チューブ2の長さは、あまりに長いと、カテーテル2をシリンジ20に装着してシリンジ20を持ったときに先端が手元から遠くなり、雄猫の尿道への挿入が難しくなる。チューブ2の長さがあまりに短いと、雄猫の尿道の結石まで到達しないことがある。このため、チューブ2の長さ(基材3から突出している部分の長さ)は、5mm~30mmであり、実施例では13mmである。
【0022】
チューブ2の先端開口部5より後方の所定の位置には、
図3に示すように、チューブ2の内腔4の中心軸に対して垂直方向に2つの側孔6が形成されている。2つの側孔6は、実施例では、先端から1.75~2.5mmの位置に形成されている。2つの側孔6は、チューブ2の周方向に180度離れた位置に形成されている。先端開口部5の開口面積は側孔6の開口面積より大となっている。先端開口部5の内径が内腔4の径(0.61mm)と同じとすると、側孔6の径は、先端開口部5の内径より小さく、0.3~0.5mmである。チューブ2の先端の外周縁は、雄猫の尿道に挿入するときに尿道を傷つけないように、丸みのある面取り7が設けられている。
【0023】
基材3は、チューブ2より大径で、医療用として使用されているポリプロピレン等の合成樹脂からなっている。基材3は、チューブ2の基端に一体に設けられている。基材3とチューブ2の接合としては、基材3の射出成形時にチューブ2をインサートするインサート成形のほか、チューブ2の基端を基材3に形成した穴に圧入したり、接着剤により接着する等の方法がある。
【0024】
基材3は、本体部8と、チューブ取付部9と、延長把持部10とからなっている。
【0025】
本体部8は、先端よりも基端が大きい円錐台形状を有し、チューブ2の内腔4と連通する貫通孔11が形成されている。本体部8の基端には、
図5に示すシリンジ20の先端部の雄コネクタ21の雌ねじ22と螺合する雌コネクタ13が形成されている。雌コネクタ13は、
図4(a)示すように、雄ねじの役割を果たす4個の舌片12を有する。この雌コネクタ13は、国際規格ISO80369-3に準じている。4個の舌片12は、雌ねじ22が2条ねじである場合に設けられるが、雌ねじ22が1条ねじである場合は、
図4(b)に示すように、2個の舌片12とすることができる。
【0026】
チューブ取付部9は、本体部8の先端に設けられ、本体部8より小径である。チューブ取付部9には、チューブ2の基端が挿入固定されている。チューブ取付部9には、チューブ2を接着するための接着剤の注入穴14が形成されている。
【0027】
延長把持部10は、本体部8とチューブ取付部9の外面に形成され、チューブ2の内腔4の中心軸に対して垂直方向に突出している。
【0028】
次に、本実施形態のカテーテル1を使用して雄猫の尿路閉塞を解除する手順について説明する。
【0029】
まず、
図5に示すように、本実施形態のカテーテル1の基材3の雌コネクタ13をシリンジ20の先端部の雄コネクタ21に装着する。雄コネクタ21は、カテーテル1の基材3に設けられた雌コネクタ13の舌片12が螺合する雌ねじ22を有している。シリンジ20としては、内圧によって外れ難いルアーロックタイプが好適である。カテーテル1の基材3は外径が10mm以下、長さ20mm程度の小さいものであるが、カテーテル1の基材3に延長把持部10が設けられているので、この延長把持部10を親指と人差し指で把持して雌コネクタ13をシリンジ20の雄コネクタ21に容易に接続することができる。
【0030】
シリンジ20のプランジャ23を引きながら、生理食塩水又は粘度のあるゼリー(必要に応じて生理食塩水で希釈し、粘性を下げて使用する)の溶液をチューブ2の先端開口部5及び側孔6から吸引し、シリンジ20内に収容する。溶液の量は、2.5~5.0ml程度である。
【0031】
図6(a)に示すように、雄猫のペニスPを左手で支え、右手でシリンジ20を持ってチューブ2の先端をペニスPの尿道口から尿道Uに挿入し、膀胱Bに向かって推進する。本実施形態のカテーテル1はチューブ2が比較的短くて剛性があるので、シリンジ20を持って尿道Uに挿入する際に、チューブ2が振れることもなく、確実に容易に挿入することができる。また、チューブ2の先端部は、
図3に示すように丸みのある面取り7が設けられているので、尿道Uを傷付けることなく推進することができる。
【0032】
チューブ2の先端が尿道U内の結石等の異物Sに接触して、チューブ2がそれ以上推進しなくなると、その位置でシリンジ20のプランジャ23を押して内部の溶液を噴射する。チューブ2の先端開口部5の径は側孔6の径より大きいので、チューブ2の先端開口部5から噴射する溶液のほうが、側孔6から噴射する溶液より高速で、量が多い。このため、
図6(b)に示すように、チューブ2の先端開口部5から噴射する溶液により、尿道Uを閉塞していた異物Sは膀胱Bに向かって押し戻される。異物Sが膀胱Bに入ると、チューブ2を引き抜くことで尿道Uが開通し、膀胱Bに溜まっていた尿が外部に排出されて、尿道Uの閉塞が解除される。
【0033】
図7に示すように、尿道Uを閉塞している異物Sの量が多くて、チューブ2の先端開口部5から溶液が噴出しにくい場合、チューブ2の側孔6から溶液がチューブ2の内腔4に直角方向に噴出して、尿道Uを押し広げる。尿道Uが拡張すると、異物Sと尿道Uの間に隙間が形成され、この隙間に溶液が進入することで、細かい異物Sがチューブ2と尿道Uの間を通って溶液とともに外部に排出される。この結果、異物Sが少なくなり、
図6(b)と同様に、チューブ2の先端開口部5から噴射する溶液によりの残り異物Sは膀胱Bに押し戻されて、閉塞が解除される。
【0034】
図8に示すように、尿道Uを閉塞している異物Sがそれほど大きくない場合、異物Sを膀胱Bに押し戻さずに、雄猫の腹部を外部から掴んで尿の圧力で外部に押し出すことも可能である。このためには、チューブ2の側孔6から噴射する溶液で尿道Uを拡張させながら、チューブ2をゆっくり後退させる。尿道Uを閉塞していた異物Sは尿道Uが拡張されることで尿道Uとの引っ掛かりがなくなり、チューブ2が後退するにつれて尿道口に移動し、チューブ2が引き抜かれると、尿と共に外部に排出される。
【0035】
このように、本実施形態のカテーテル1を使用することで、片手でも容易に操作することができ、尿道Uを十分に拡張して尿路閉塞を解除することができる。
【0036】
本発明は前記実施形態に限るものではなく、特許請求の範囲に記載の発明の要旨を変更することなく、変更や修正を行うことができる。
【0037】
例えば、チューブの側孔は、2つに限るものではなく、1個以上あればよい。また、複数の側孔は、チューブの内腔の軸方向にずれて配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1…カテーテル
2…チューブ
3…基材
4…内腔
5…先端開口部
6…側孔
7…面取り
8…本体部
9…チューブ取付部
10…延長把持部
11…貫通穴
12…舌片
13…雌コネクタ
14…接着剤注入穴
20…シリンジ
21…雄コネクタ
22…雌ねじ
23…プランジャ