(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170854
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】連結車両の制御装置、連結車両の制御方法、および連結車両の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B62D 12/00 20060101AFI20231124BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20231124BHJP
B62D 117/00 20060101ALN20231124BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20231124BHJP
【FI】
B62D12/00
B62D6/00
B62D117:00
B62D113:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082921
(22)【出願日】2022-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】519373914
【氏名又は名称】株式会社J-QuAD DYNAMICS
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】玉泉 晴天
(72)【発明者】
【氏名】所 裕高
【テーマコード(参考)】
3D232
【Fターム(参考)】
3D232DA03
3D232DA24
3D232DB07
3D232DC01
3D232DD02
3D232DD05
3D232DD07
3D232DD08
3D232DD17
3D232EB04
3D232GG05
(57)【要約】
【課題】トラクタとトレーラとの連結部分の進行方向の目標値へのフィードバック制御を行う制御器を簡易に設計できるようにした連結車両の制御装置を提供する。
【解決手段】偏差算出処理M10は、ヒッチ点におけるトレーラの進行方向を定量化した仮想操舵角α2と目標仮想操舵角α2*との差を算出する。制御器M12は、上記差に比例ゲインKpを乗算した値を操作量vに代入する。座標変換M14は、トラクタの転舵角α1およびヒッチ角βを用いて、操作量vを、目標転舵角α1*に変換する。プラントである連結車両は、目標転舵角α1*に応じて制御される。プラントの転舵角α1は、ヒッチ角βに基づき、座標変換M16によって仮想操舵角α2に変換される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラクタと、前記トラクタによって牽引されるトレーラとを備える連結車両に適用され、
ヒッチ角変数取得処理、転舵角変数取得処理、仮想操舵角変数算出処理、目標仮想操舵角変数取得処理、およびフィードバック処理を実行するように構成され、
前記ヒッチ角変数取得処理は、ヒッチ角変数の値を取得する処理であり、
前記ヒッチ角変数は、前記トラクタの前後方向と前記トレーラの前後方向とのなす角度であるヒッチ角を示す変数であり、
前記転舵角変数取得処理は、転舵角変数の値を取得する処理であり、
前記転舵角変数は、前記トラクタの転舵角を示す変数であり、
前記仮想操舵角変数算出処理は、前記ヒッチ角変数の値および前記転舵角変数の値を入力として仮想操舵角変数の値を算出する処理であり、
前記仮想操舵角変数は、前記トラクタと前記トレーラとの接続点における進行方向を示す変数であり、
前記目標仮想操舵角変数取得処理は、目標仮想操舵角変数の値を取得する処理であり、
前記目標仮想操舵角変数は、前記仮想操舵角変数の目標値を示す変数であり、
前記フィードバック処理は、操作量算出処理、目標転舵角変数算出処理、および操作処理を含み、
前記操作量算出処理は、前記仮想操舵角変数の値と前記目標仮想操舵角変数の値とを入力として、フィードバック制御のための操作量を算出する処理であり、
前記目標転舵角変数算出処理は、前記ヒッチ角変数の値と前記転舵角変数の値とに応じて、前記操作量を目標転舵角変数の値に変換する処理であり、
前記目標転舵角変数は、前記転舵角の目標値を示す変数であり、
前記操作処理は、前記転舵角を前記目標転舵角変数の値に応じて操作する処理である連結車両の制御装置。
【請求項2】
前記目標転舵角変数算出処理は、前記ヒッチ角変数の値と前記転舵角変数の値とに加えて、前記トラクタの車速に応じて、前記操作量を目標転舵角変数の値に変換する処理である請求項1記載の連結車両の制御装置。
【請求項3】
記憶装置を備え、
前記記憶装置には、前記操作量、前記ヒッチ角変数の値、および前記転舵角変数の値と、前記目標転舵角変数の値と、の関係を定めるマップデータが記憶されており、
前記目標転舵角変数算出処理は、前記マップデータを用いて前記目標転舵角変数の値を算出する処理である請求項1記載の連結車両の制御装置。
【請求項4】
前記連結車両は、運転者が前記目標仮想操舵角変数の値を指示するためのインターフェースを備え、
前記目標仮想操舵角変数取得処理は、前記運転者による前記インターフェースへの入力操作に応じて前記目標仮想操舵角変数の値を取得する処理である請求項1記載の連結車両の制御装置。
【請求項5】
前記操作量算出処理は、比例制御器を含む請求項1記載の連結車両の制御装置。
【請求項6】
前記比例制御器のゲインを固定値とする請求項5記載の連結車両の制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の連結車両の制御装置における各処理を実行する工程を有する連結車両の制御方法。
【請求項8】
請求項1に記載の連結車両の制御装置における各処理をコンピュータに実行させる連結車両の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連結車両の制御装置、連結車両の制御方法、および連結車両の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラクタとしての車両にトレーラが連結された連結車両が存在する。そして、特許文献1には、連結車両の後退操作を支援する制御装置が提案されている。この制御装置は、運転者がアクセルペダルおよびブレーキペダルを使用して車両の後退速度を制御するとき、トレーラが運転者によって指定される基準経路に沿って移動するように連結車両を自動的に操舵する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、連結車両の運転は、基本的にはトラクタの転舵角を操作することによってなされる。しかし、トレーラの進行方向と上記転舵角との間には顕著な非線形性がある。そのため、トレーラの進行方向の制御を行う場合、その制御器の設計に困難が伴う。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.トラクタと、前記トラクタによって牽引されるトレーラとを備える連結車両に適用され、ヒッチ角変数取得処理、転舵角変数取得処理、仮想操舵角変数算出処理、目標仮想操舵角変数取得処理、およびフィードバック処理を実行するように構成され、前記ヒッチ角変数取得処理は、ヒッチ角変数の値を取得する処理であり、前記ヒッチ角変数は、前記トラクタの前後方向と前記トレーラの前後方向とのなす角度であるヒッチ角を示す変数であり、前記転舵角変数取得処理は、転舵角変数の値を取得する処理であり、前記転舵角変数は、前記トラクタの転舵角を示す変数であり、前記仮想操舵角変数算出処理は、前記ヒッチ角変数の値および前記転舵角変数の値を入力として仮想操舵角変数の値を算出する処理であり、前記仮想操舵角変数は、前記トラクタと前記トレーラとの接続点における進行方向を示す変数であり、前記目標仮想操舵角変数取得処理は、目標仮想操舵角変数の値を取得する処理であり、前記目標仮想操舵角変数は、前記仮想操舵角変数の目標値を示す変数であり、前記フィードバック処理は、操作量算出処理、目標転舵角変数算出処理、および操作処理を含み、前記操作量算出処理は、前記仮想操舵角変数の値と前記目標仮想操舵角変数の値とを入力として、フィードバック制御のための操作量を算出する処理であり、前記目標転舵角変数算出処理は、前記ヒッチ角変数の値と前記転舵角変数の値とに応じて、前記操作量を目標転舵角変数の値に変換する処理であり、前記目標転舵角変数は、前記転舵角の目標値を示す変数であり、前記操作処理は、前記転舵角を前記目標転舵角変数の値に応じて操作する処理である連結車両の制御装置である。
【0006】
上記構成では、真のプラントは、連結車両である。これに対し、上記構成では、同プラントに、目標転舵角変数算出処理、および転舵角変数算出処理を加えた仮想的なプラントを考える。その場合、仮想的なプラントは、操作量を入力として、その時間積分値を仮想操舵角として出力するものと見なせる。そのため、操作量に対する仮想操舵角の関係が単純な線形関係となる。したがって、上記構成によれば、操作量算出処理を簡易に設計することができる。換言すれば、フィードバック制御によってトレーラの進行方向を目標値に近づけるように制御する制御器を簡易に設計できる。
【0007】
2.前記目標転舵角変数算出処理は、前記ヒッチ角変数の値と前記転舵角変数の値とに加えて、前記トラクタの車速に応じて、前記操作量を目標転舵角変数の値に変換する処理である上記1記載の連結車両の制御装置である。
【0008】
実際のプラントの特性は、車速に依存する。これに対し、上記構成では、車速を加味して操作量を目標転舵角に変換することから、仮想的なプラントの車速依存性を抑制することができる。したがって、フィードバック処理の制御精度が車速に依存することを抑制できる。
【0009】
3.記憶装置を備え、前記記憶装置には、前記操作量、前記ヒッチ角変数の値、および前記転舵角変数の値と、前記目標転舵角変数の値と、の関係を定めるマップデータが記憶されており、前記目標転舵角変数算出処理は、前記マップデータを用いて前記目標転舵角変数の値を算出する処理である上記1記載の連結車両の制御装置である。
【0010】
ヒッチ角変数の値、および転舵角変数の値を用いて操作量を目標転舵角に変換する処理を数式で表現する場合、表現された数式は複雑である。そのため、目標転舵角変数算出処理を数式の演算処理とする場合には、制御装置の仕様に対する要求が高くなりやすい。これに対し、上記構成では、マップデータを用いることにより、制御装置の仕様に対する要求が高くなることを抑制できる。
【0011】
4.前記連結車両は、運転者が前記目標仮想操舵角変数の値を指示するためのインターフェースを備え、前記目標仮想操舵角変数取得処理は、前記運転者による前記インターフェースへの入力操作に応じて前記目標仮想操舵角変数の値を取得する処理である上記1~3のいずれか1つに記載の連結車両の制御装置である。
【0012】
上記構成では、目標仮想操舵角を運転者が定めるため、制御装置が定める場合と比較して、制御装置に対する要求を軽減できる。
5.前記操作量算出処理は、比例制御器を含む上記1~4のいずれか1つに記載の連結車両の制御装置である。
【0013】
6.前記比例制御器のゲインを固定値とする上記5記載の連結車両の制御装置である。
7.上記1~6のいずれか1つに記載の連結車両の制御装置における各処理を実行する工程を有する連結車両の制御方法である。
【0014】
8.上記1~6のいずれか1つに記載の連結車両の制御装置における各処理をコンピュータに実行させる連結車両の制御プログラムである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態にかかる連結車両の構成を示す斜視図である。
【
図2】同実施形態にかかる制御システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
【
図4】同実施形態にかかる連結車両のモデルを示す図である。
【
図5】同実施形態の効果を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
「連結車両の構成」
図1に示すように、連結車両10は、トラクタ20およびトレーラ30を有している。
図1には、トラクタ20として、小型貨物自動車の一種であるピックアップトラックを例示する。トラクタ20は、前輪22および後輪24を備える。前輪22は右前輪および左前輪の2輪を含み、後輪24は右後輪および左後輪の2輪を含む。また、
図1には、トレーラ30として、箱型のトレーラを例示する。トレーラ30は、車輪32を有している。車輪32は、右車輪および左車輪の2輪を含む。
【0017】
トレーラ30は、ボールジョイント40を介してトラクタ20の後部に連結されている。ボールジョイント40は、トレーラ30を、トラクタ20に対して軸42を中心として回転可能に連結する部材である。軸42は、トラクタ20の高さ方向に沿って延びる。
【0018】
図2に、トラクタ20が備える部材の一部を示す。
図2に示すように、トラクタ20は、制御装置50を備えている。制御装置50は、制御対象としての連結車両10の制御量を制御すべく、転舵系60、駆動系62、および制動系64を操作する。制御量は、車速、走行方向、およびヒッチ角等である。ヒッチ角は、トラクタ20の前後方向とトレーラ30の前後方向とのなす角度である。
【0019】
転舵系60は、転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータを含む。転舵輪は、たとえば、
図1に示す前輪22である。なお、転舵系60に転舵アクチュエータを操作する転舵制御装置を含めてもよい。その場合、「制御装置50が転舵系60を操作する」とは、制御装置50が転舵制御装置に指令信号を出力することを意味する。
【0020】
駆動系62は、車両の推力生成装置としての、内燃機関および回転電機の2つのうちの少なくとも1つを含む。なお、駆動系62に、内燃機関および回転電機を制御対象とする駆動制御装置を含めてもよい。その場合、「制御装置50が駆動系62を操作する」とは、制御装置50が駆動制御装置に指令信号を出力することを意味する。
【0021】
制動系64は、摩擦力によって車輪の回転を減速させる装置と、車輪の動力を電気エネルギに変換することによって車輪の回転を減速させる装置との2つのうちの少なくとも1つを含む。なお、電気エネルギに変換することによって車輪の回転を減速させる装置は、駆動系の回転電機と共有されていてもよい。なお、制動系64に、車輪の回転を減速させる装置を制御対象とする制動制御装置を含めてもよい。その場合、「制御装置50が制動系62を操作する」とは、制御装置50が制動制御装置に指令信号を出力することを意味する。
【0022】
制御装置50は、制御量を制御すべく、舵角センサ70によって検出される転舵輪の転舵角α1を参照する。転舵角α1は、右旋回および左旋回のうちのいずれか一方の符号が正、他方の符号が負となる値である。転舵角α1は、タイヤの切れ角である。なお、たとえば転舵系60がラックアンドピニオン機構を備える場合、舵角センサ70をピニオン角を検出するセンサとしてもよい。ただし、その場合、制御装置50がピニオン角をタイヤの切れ角に変換する処理を実行する。以下では、説明の便宜上、タイヤの切れ角が上記変換する処理によって得られたものであっても、舵角センサ70の検出値と見なす。
【0023】
また制御装置50は、ヒッチ角センサ72によって検出されるヒッチ角βを参照する。ヒッチ角βは、トラクタ20の後方から前方に進む方向とトレーラ30の後方から前方に進む方向とのなす角度に応じて正、負の双方の符号を取り得る。たとえば、トラクタ20の後方から前方に進む方向に対してトレーラ30の後方から前方に進む方向が反時計回りに180°未満ずれる場合のヒッチ角βの符号を、正としてもよい。また、制御装置50は、車輪速センサ74によって検出される車輪速度ωw1~ωw4を参照する。車輪速度ωw1,ωw2は、それぞれ、右側の前輪22の回転速度、および左側の前輪22の回転速度である。車輪速度ωw3,ωw4は、それぞれ、右側の後輪24の回転速度、および左側の後輪24の回転速度である。
【0024】
制御装置50は、制御量の制御を、ユーザインターフェース80の操作状態に応じて設定する。ユーザインターフェース80は、連結車両10を手動で操舵するか自動で操舵させるかの2つのうちのいずれか1つを選択する等、ユーザの意思を制御装置50に伝達するためのものである。
【0025】
制御装置50は、PU52および記憶装置54を備えている。PU52は、CPU、GPU、およびTPU等の少なくとも1つを備えるソフトウェア処理装置である。記憶装置54には、後退アシストプログラム54aが記憶されている。
【0026】
後退アシストプログラム54aは、後退アシスト処理を実行する指令を規定する。後退アシスト処理は、連結車両10の後退をアシストするうえでPU52が実行すべき処理である。後退アシスト処理は、トラクタ20の操舵を自動で行う処理である。ただし、後退アシスト処理においては、ブレーキ操作、アクセル操作は、運転者にゆだねている。また、後退アシスト処理では、トレーラ30の操舵の要求を受け付ける処理を含む。そして、後退アシスト処理では、トレーラ30の操舵の要求を満たすようにトラクタ20の転舵角を制御する。
【0027】
ここで、トレーラ30の操舵の要求は、ユーザインターフェース80を介して運転者によって入力される。操舵の要求は、トレーラ30の仮想操舵角α2を指示することによって伝えられる。仮想操舵角α2は、トレーラ30をトラクタ20から仮想的に分離して、仮想的な前輪を有する単体車両とみなしたときの仮想的な前輪の転舵角をいう。仮想操舵角α2の指示は、たとえば、ユーザインターフェース80に仮想操舵角α2と正の相関を有するダイヤルを設けることによって実現してもよい。ここで、ダイヤルの回転角と仮想操舵角α2とが比例関係にあることは必須ではない。なお、以下では、運転者によって指示された仮想操舵角α2を、目標仮想操舵角α2*と称する。
【0028】
「後退アシスト処理」
図3に、後退アシスト処理に関する処理の手順を示す。
図3に示す処理は、後退アシストプログラム54aをPU52がたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって各処理のステップ番号を表現する。
【0029】
図3に示す一連の処理において、PU52は、まず、後退アシストモードであるか否かを判定する(S10)。PU52は、後退アシストモードであると判定する場合(S10:YES)、ユーザインターフェース80に入力された目標仮想操舵角α2*を取得する(S12)。次にPU52は、舵角センサ70によって検出された転舵角α1を取得する(S14)。また、PU52は、ヒッチ角センサ72によって検出されたヒッチ角βを取得する(S16)。また、PU52は、車速VB1を取得する(S17)。車速VB1は、PU52によって、車輪速度ωw3,ωw4に応じて算出される。車速VB1は、たとえば、車輪速度ωw3,ωw4の単純平均値であってもよい。
【0030】
そして、PU72は、車速VB1、転舵角α1およびヒッチ角βを入力として、仮想操舵角α2をマップ演算する(S18)。本実施形態では、一例として、トレーラ30の前後方向に対するボールジョイント40の進行方向のなす角度によって、仮想操舵角α2を定義する。ここで、
図4に基づき、仮想操舵角α2を転舵角α1およびヒッチ角βから算出する理由を説明する。
【0031】
図4は、本実施形態で用いる連結車両10のモデルを示す。
図4に示すモデルは、トラクタ20の一対の前輪22を前輪C0として且つ、トラクタ20の一対の後輪24を後輪B1とする。すなわち、トラクタ20について2輪モデルを採用している。また、トレーラ30の一対の車輪32を車輪B2とする。前輪C0およびヒッチ点C1によって定まる線と、ヒッチ点C1および車輪B2によって定まる線とのなす角が、ヒッチ角βである。ヒッチ点C1は、
図1の軸42部分に相当する。また、前輪C0の速度である前輪速度VC0は、転舵角α1の方向に進むベクトルとしている。転舵角α1は、前輪C0の進む方向と、前輪C0およびヒッチ点C1によって定まる線とのなす角度として定量化されている。車速VB1の方向は、前輪C0およびヒッチ点C1によって定まる線に平行である。また、車速VB1の方向と、
図4のx方向とのなす角は、角度θ1である。また、車輪B2とヒッチ点C1とを結ぶ線とx方向とのなす角は、角度θ2である。また、前輪C0および後輪B1間の距離l1と、後輪B1およびヒッチ点C1間の距離h1と、ヒッチ点C1および車輪B2間の距離l2とを定義する。
【0032】
上述した定義によれば、車輪Bからヒッチ点C1に進む方向に対するヒッチ点C1の速度VC1の方向が仮想操舵角α2となる。ヒッチ点C1から前輪C0に進む方向に対するヒッチ点C1の速度VC1の方向のなす角度γ1を用いると、仮想操舵角α2は、「-(β-γ1)」となる。
【0033】
図4に示すモデルにおいて、前輪C0の座標(xc0,yc0)、後輪B1の座標(xb1,yb1)およびヒッチ点C1の座標(xc1,yc1)を用いると、以下の式(c1)~(c3)が成立する。
【0034】
VC0・cosα1=VB1 …(c1)
xc0=xb1+l1・cosθ1 …(c2)
xc1=xb1+h1・cosθ1 …(c3)
上記の式(c2)、(c3)の両辺を微分した式および式(c1)を用いると、以下の式(c4)が得られる。
【0035】
h1・tanα1+l1・tanγ1=0 …(c4)
上記の式(c4)によれば、角度γ1が転舵角α1によって表現できる。したがって、仮想操舵角α2は、以下の式(c5)にて表現される。
【0036】
α2=-β-arctan{(h1/l1)・tan(α1)} …(c5)
すなわち、仮想操舵角α2は、ヒッチ角βおよび転舵角α1から求めることができる。
詳しくは、PU52は、S18の処理において、
図2に示すマップデータ54bを用いて、仮想操舵角α2をマップ演算する。マップデータ54bは、記憶装置54に記憶されている。マップデータ54bは、ヒッチ角βおよび転舵角α1を入力変数として且つ、仮想操舵角α2を出力変数とする。
【0037】
ここで、マップデータとは、入力変数の離散的な値と、入力変数の値のそれぞれに対応する出力変数の値と、の組データである。また、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれかに一致する場合、対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とする処理とすればよい。また、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれにも一致しない場合、マップデータに含まれる複数の出力変数の値の補間によって得られる値を演算結果とする処理とすればよい。また、これに代えて、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれにも一致しない場合、マップデータに含まれる複数の入力変数の値のうちの最も近い値に対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とする処理としてもよい。
【0038】
なお、S18の処理は、ヒッチ角βに基づき、転舵角α1を仮想操舵角α2に変換する処理と見なせる。
次に、PU52は、仮想操舵角α2を制御量として且つ目標仮想操舵角α2*を制御量の目標値とするフィードバック制御による操作量vを算出する(S20)。本実施形態では、フィードバック制御器として、比例制御器を例示する。すなわち、PU52は、目標仮想操舵角α2*から仮想操舵角α2を減算した値に比例ゲインKpを乗算した値を、操作量vに代入する。
【0039】
そしてPU72は、操作量vを、車速VB1、ヒッチ角βおよび転舵角α1に応じて目標転舵角α1*に変換する(S22)。ここで、この変換処理について詳述する。
ヒッチ角βの1階の時間微分は、上記モデルにおいて以下の式(c6)にて表現される。
【0040】
dβ/dt=
(VB1/l2)・sinβ
+{VB1/(l1/l2)}・{l2+h2・cosβ}・tanα1
…(c6)
また、転舵角α1の1階の時間微分については、時定数τを用いて「(α1*-α1)・τ」を仮定する。
【0041】
その場合、上記の式(c5)の両辺を微分すると、以下の式(c7)が得られる。
【0042】
【数1】
上記の式において、仮想操舵角α2の時間微分値を「v」とし、目標転舵角α1*を、ヒッチ角β、転舵角α1および「v」にて表現すると、以下の式(c8)となる。
【0043】
【数2】
上記の式(c8)によれば、車速VB1、転舵角α1およびヒッチ角βを用いて、「v」を目標転舵角α1*に変換できることがわかる。
【0044】
S22の処理では、上記(c8)の座標変換に応じて操作量vを目標転舵角α1*に変換する。具体的には、PU52は、
図2に示すマップデータ54bを用いて目標転舵角α1*をマップ演算する。ここで、マップデータ54bは、操作量v、車速VB1、ヒッチ角βおよび転舵角α1を入力変数として且つ目標転舵角α1*を出力変数とする。
【0045】
そして、PU52は、転舵角α1を目標転舵角α1*に追従させるように、転舵輪の転舵角を制御すべく、操作信号MSを転舵系60に出力する(S24)。
なお、PU52は、S24の処理を完了する場合、
図3に示す一連の処理を一旦終了する。
【0046】
ここで、本実施形態の作用および効果について説明する。
上述したように、仮想操舵角α2の1階の時間微分値を「v」とする場合、「v」の時間積分値が仮想操舵角α2となる。すなわち、「v」と仮想操舵角α2とには、単純な線形な関係が成立する。
【0047】
そこで、上記の式(c5)および式(c8)による座標変換を利用することによって、入力を「v」として仮想操舵角α2を出力とする仮想的なプラントを想定する。
図5に、連結車両10である実際のプラント90と上記仮想的なプラント92とを示す。
【0048】
実際のプラント90は、上記の式(c5)からわかるように、転舵角α1と仮想操舵角α2との間に1対1の対応関係を有しない。そのため、S20の処理において、目標仮想操舵角α2*と仮想操舵角α2との差を入力として算出される操作量を、目標転舵角α1*とする場合には、操作量を算出する制御器の設計が困難となる。
【0049】
これに対し、本実施形態では、
図5に示すように、上記の式(c8)にて表現される座標変換M14および上記の式(c5)にて表現される座標変換M16を含めて仮想的なプラント92を構成する。その場合、操作量vと仮想操舵角α2との関係が単純な線形関係になる。そのため、偏差算出処理M10によって算出された目標仮想操舵角α2*と仮想操舵角α2との差を入力として操作量vを算出する制御器M12を簡易に設計できる。すなわち、本実施形態では、制御器M12は、固定値である比例ゲインKpの設計に帰着した。
【0050】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1,2,7,8]ヒッチ角変数取得処理は、S16の処理に対応する。ヒッチ角変数は、ヒッチ角βに対応する。転舵角変数取得処理は、S14の処理に対応する。転舵角変数は、転舵角α1に対応する。目標仮想操舵角変数取得処理は、S12の処理に対応する。目標仮想操舵角変数は、目標仮想操舵角α2*に対応する。仮想操舵角変数算出処理は、S18の処理に対応する。仮想操舵角変数は、α2に対応する。フィードバック処理は、S20の処理に対応する。目標転舵角変数算出処理は、S22の処理に対応する。操作処理は、S24の処理に対応する。[3]記憶装置は、記憶装置54に対応する。[4]インターフェースは、ユーザインターフェース80に対応する。[5,6]S20の処理が比例ゲインKpによる比例制御であることに対応する。
【0051】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0052】
「仮想操舵角変数算出処理について」
・上記実施形態では、転舵角α1およびヒッチ角βを入力として仮想操舵角α2を算出したが、これに限らない。たとえば、転舵角変数の値として、転舵角α1に代えて、目標転舵角α1*を用いてもよい。また、ヒッチ角変数の値としては、最新のヒッチ角βのサンプリング値に限らない。たとえば、前回のS14,S16の処理によって取得した転舵角α1およびヒッチ角βから予測されるヒッチ角の推定値を用いてもよい。
【0053】
・仮想操舵角α2をマップ演算することは必須ではない。たとえば上記の式(c5)を用いて算出してもよい。
「目標転舵角変数算出処理について」
・上記実施形態では、操作量v、車速VB1,転舵角α1およびヒッチ角βを入力として目標転舵角α1*を算出したが、これに限らない。たとえば、転舵角変数の値として、転舵角α1に代えて、前回のS22の処理によって算出された目標転舵角α1*を用いてもよい。また、ヒッチ角変数の値としては、最新のヒッチ角βのサンプリング値に限らない。たとえば、前回のS14,S16の処理によって取得した転舵角αおよびヒッチ角βから予測されるヒッチ角の推定値を用いてもよい。また、たとえば、後退アシスト処理のように、車速VB1の取り得る値がある程度限られている場合には、車速VB1をセンサによる検出値とする代わりに、予め設定した固定値としてもよい。すなわち、車速VB1を入力とすることは必須ではない。
【0054】
・目標転舵角α1*をマップ演算することは必須ではない。たとえば上記の式(c8)を用いて算出してもよい。
「操作量算出処理について」
・操作量算出処理が、目標仮想操舵角α2*と仮想操舵角α2との差を入力とする比例要素の出力値を操作量vとする処理であることは必須ではない。たとえば同差を入力とする比例要素の出力値と積分要素の出力値との和を操作量vとする処理であってもよい。またたとえば、同差を入力とする比例要素の出力値と、微分要素の出力値との和を操作量vとする処理であってもよい。またたとえば、同差を入力とする比例要素の出力値と、同差を入力とする積分要素の出力値と、微分要素の出力値との和を操作量vとする処理であってもよい。
【0055】
「後退アシスト処理について」
・後退アシスト処理が、アクセル操作、およびブレーキ操作を運転者にゆだねる処理であることは必須ではない。たとえば、後退アシスト処理をトラクタ20の速度制御を自動で行う処理としてもよい。
【0056】
「フィードバック処理、操作処理について」
・フィードバック処理が、後退アシスト処理において実行されることは必須ではない。たとえば、制御装置50が目標仮想操舵角α2*を設定する自動操舵処理において上記フィードバック処理および操作処理を実行してもよい。また、自動操舵処理が連結車両10を後退させる際の処理であることも必須ではない。すなわち、連結車両を前進させる際の自動操舵処理において、上記フィードバック処理および操作処理を実行してもよい。
【0057】
「入力変数について」
・上記各処理の入力変数としては、ヒッチ角β、転舵角α1等を用いたがこれに限らない。たとえば、転舵角α1に代えて、上述のピニオン角自体としてもよい。
【0058】
「制御装置について」
・制御装置としては、PU52と記憶装置54とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理するたとえばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、制御装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶する記憶装置等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【0059】
「コンピュータについて」
・後退アシストプログラム54a等の制御プログラムを実行するコンピュータとしては、連結車両10に搭載されたコンピュータに限らない。たとえば、連結車両10に搭載された上記PU52と、運転者の携帯端末との双方によって同コンピュータを構成してもよい。その場合、たとえば、S18~S22の処理を携帯端末が実行してもよい。
【0060】
「車両について」
・連結車両としては、
図1に例示した車両に限らない。
【符号の説明】
【0061】
10…連結車両
20…トラクタ
22…前輪
24…後輪
30…トレーラ
32…車輪
40…ボールジョイント
42…軸
50…制御装置