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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170877
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/474 20210101AFI20231124BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20231124BHJP
   H01M 10/655 20140101ALI20231124BHJP
   H01M 10/654 20140101ALI20231124BHJP
   H01M 10/653 20140101ALI20231124BHJP
   H01M 50/483 20210101ALI20231124BHJP
   H01M 50/486 20210101ALI20231124BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20231124BHJP
   H01M 50/627 20210101ALI20231124BHJP
   H01M 50/342 20210101ALI20231124BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20231124BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20231124BHJP
【FI】
H01M50/474
H01M10/0566
H01M10/655
H01M10/654
H01M10/653
H01M50/483
H01M50/486
H01M50/489
H01M50/627
H01M50/342 101
H01M10/0587
H01M10/0525
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082952
(22)【出願日】2022-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 智功
【テーマコード(参考)】
5H012
5H021
5H023
5H029
5H031
【Fターム(参考)】
5H012AA07
5H012BB02
5H021AA02
5H021EE02
5H021EE06
5H021EE21
5H021EE22
5H021HH00
5H023AA03
5H023AS01
5H023CC01
5H023CC05
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ02
5H029BJ14
5H029DJ02
5H029DJ03
5H029DJ04
5H029EJ03
5H029EJ05
5H029EJ12
5H029HJ00
5H029HJ20
5H031KK00
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン二次電池の冷却の効率を高めることである。さらに、別の課題としてその製造工程において生産効率を向上させることにある。
【解決手段】電極体10と、これを収容する本体11aと蓋体11bとからなる電池ケース11と、電極体10と電池ケース11との間に介在し電極体10の熱を電池ケース11に伝導するための熱伝導部材2bを備える。熱伝導部材2bは、電池ケースの内部全体に接する第1の部分21と、電極体10の上面10aと蓋体11bとの間に介在する第2の部分22とを備え、無機フィラーを含む樹脂から構成される。第2の部分22は、注液口と電極体10の上面10aとを連通する連通路23を備え、注液口から注液された非水電解液17が電極体10に直接当たらないようにするとともに、注液による飛沫が注液口に付着することを抑制する飛沫抑制構造を備えた。
【選択図】図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と負極板とセパレータが積層された電極体と、
当該電極体を収容する本体と当該本体の上方を封止する蓋体とからなる電池ケースと、
前記電極体と前記電池ケースとの間に介在し前記電極体の熱を前記電池ケースに伝導するための熱伝導部材と
を備え、
前記熱伝導部材は、前記電池ケースの内部全体に接する第1の部分と、
前記電極体の上部と前記蓋体との間に介在する第2の部分とを備え、
前記熱伝導部材は、無機フィラーを含む樹脂から構成されたことを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記熱伝導部材は、熱伝導率が、0.5[W/m・K]以上であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記熱伝導部材は、絶縁性が、1.0E+12「Ω・cm」以上であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記熱伝導部材の樹脂は、シリコーン樹脂、液晶ポリマー、アクリル樹脂のいずれか、またはこれらの組み合わせを含むことを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
前記熱伝導部材の無機フィラーは、酸化亜鉛、酸化アルミ、酸化チタンのいずれか、又はこれらの組み合わせを含むことを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項6】
前記熱伝導部材は、前記電極体の端面を含まない側面と前記電池ケースの側面との間、及び前記電極体と前記電池ケースの底面との間に介在する第3の部分をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項7】
前記熱伝導部材は、前記電極体を内部に挟むように一対の部分から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項8】
前記熱伝導部材の前記一対の部分は、それぞれ一体に樹脂成形されていることを特徴とする請求項7に記載の非水電解液二次電池。
【請求項9】
前記蓋体は、排気弁および注液口を備え、
前記第2の部分は、前記排気弁および前記注液口と、前記電極体の上面とを連通する連通路を備え、
前記注液口から注液された非水電解液が前記電極体に直接当たらないようにするとともに、
注液による飛沫が前記注液口に付着することを抑制する飛沫抑制構造を備えた
請求項7に記載の非水電解液二次電池。
【請求項10】
前記飛沫抑制構造は、
前記注液口と前記電極体の上面とを連通する連通路が前記注液口から注液された非水電解液を流下させる斜面を有したことを特徴とする請求項9に記載の非水電解液二次電池。
【請求項11】
前記注液口と前記電極体の上面とを連通する連通路は、前記排気弁と前記電極体の上面とを連通する垂直方向に設けられた連通路に合流する構造となっていることを特徴とする請求項10に記載の非水電解液二次電池。
【請求項12】
前記電極体は、前記正極板と前記負極板と前記セパレータが積層されて捲回されていることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項13】
前記電池ケースが、板状に形成され、前記電極体が扁平に形成されたことを特徴とする請求項12に記載の非水電解液二次電池。
【請求項14】
非水電解液二次電池がリチウムイオン二次電池であることを特徴とする請求項1~13のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池に係り、詳しくは生産効率の高い非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車などの電源として利用するため、多数のセル電池を直列・並列に接続し二次電池により、高電圧・高電流を供給するようになっている。このような二次電池としては、大容量で充放電に優れたリチウムイオン二次電池のような非水電解液二次電池が挙げられる。
【0003】
このような非水電解液二次電池は、充放電や微小短絡などにより電極体が発熱し、気体が発生することで電池ケースの内圧が高まることがある。このため、電池ケースには、耐圧性や耐熱性が求められる。そこで車両に搭載する非水電解液二次電池では、安全や電池性能の維持のため、正極板、負極板、セパレータが積層された電極体と電解液とが金属製の電池ケースに収容され、密封されている。また、金属製の電池ケースと電極体との間で短絡が生じないようにするため、例えば絶縁性の高いPP(ポリプロピレン)製のシートを金属製の電池ケースと電極体の間に介在させていた。しかしながら、二次電池が加熱すると電池性能が低下する。このため電極体の熱を発散させることが望まれるが、PPは放熱性に欠けるため、このシートの厚みを薄くすることで、放熱性を高めていた。
【0004】
引用文献1に記載された二次電池では、二次電池の容器は、巻回電極を収容する器部と、器部の上部の開口を塞ぐ蓋とから構成されている。蓋の裏面には熱伝達部材が止着されている。熱伝達部材の下面には収容室に露出して蓋側から下方へ向かう第1傾斜面と第2傾斜面とが形成されている。第1傾斜面と第2傾斜面とは、下方へ向かうにつれて互いに接近してゆき、第1傾斜面の下縁と第2傾斜面の下縁とは、交差している。このため、電極体が高温になった場合に、高温の電解液が蓋の裏面の熱伝達部材により熱を外部に放出することができ、二次電池の内部の温度を低下させることができる。
【0005】
また、特許文献2に記載された二次電池では、セパレータは、本体樹脂層及び伝熱層を有する。電極体は、セパレータ同士は厚み方向に密着して重なる。その一方、正極板及び負極板は重ならないセパレータ重なり部を含む。正極端子部材及び負極端子部材とは別部材であり、電極体のセパレータ重なり部に圧接して熱接触する。その一方、電池ケースにも熱接触して、電極体の熱を電池ケースに伝える伝熱部材をさらに備える。このため電極体で発生した熱が、伝熱部材を介して電池ケースに伝導し、二次電池の内部の温度を低下させることができる。
【0006】
特許文献1や特許文献2に開示されたような発明であれば、電池ケース内部の熱を従来よりも効果的に電池ケース外部に放散し、電池ケース内の温度を低下させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-118154号公報
【特許文献2】特開2016-110716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、非水電解液二次電池の場合、その製造工程において非水電解液を注液する前に二次電池の内部を高温にして、内部の水分を蒸発させるための乾燥工程を行う。この場合、内部が高温になり、乾燥工程から非水電解液の注液までに、時間を要するという問題があった。
【0009】
本発明の非水電解液二次電池が解決しようとする課題は、非水電解液二次電池の冷却の効率をさらに高めることである。さらに、付加的な課題としてその製造工程において生産効率を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の非水電解液二次電池では、正極板と負極板とセパレータが積層された電極体と、当該電極体を収容する本体と当該本体の上方を封止する蓋体とからなる電池ケースと、前記電極体と前記電池ケースとの間に介在し前記電極体の熱を前記電池ケースに伝導するための熱伝導部材を備え、前記熱伝導部材は、前記電池ケースの内部全体に接する第1の部分と、前記電極体の上部と前記蓋体との間に介在する第2の部分とを備え、前記熱伝導部材は、無機フィラーを含む樹脂から構成されたことを特徴とする。
【0011】
前記熱伝導部材は、熱伝導率が、0.5[W/m・K]以上であることが好ましい。前記熱伝導部材は、絶縁性が、1.0E+12「Ω・cm」以上であることが好ましい。前記熱伝導部材の樹脂は、シリコーン樹脂、液晶ポリマー、アクリル樹脂のいずれか、またはこれらの組み合わせを含むことが好ましい。前記熱伝導部材の無機フィラーは、酸化亜鉛、酸化アルミ、酸化チタンのいずれか、又はこれらの組み合わせを含むことが好ましい。
【0012】
前記熱伝導部材は、前記電極体の端面を含まない側面と前記電池ケースの側面との間、及び前記電極体と前記電池ケースの底面との間に介在する第3の部分をさらに備えることも好ましい。
【0013】
前記熱伝導部材は、前記電極体を内部に挟むように一対の部分から構成してもよい。前記熱伝導部材の前記一対の部分は、それぞれ一体に樹脂成形されてもよい。
前記蓋体は、排気弁および注液口を備え、前記第2の部分は、前記排気弁および前記注液口と、前記電極体の上面とを連通する連通路を備え、前記注液口から注液された非水電解液が前記電極体に直接当たらないようにするとともに、注液による飛沫が前記注液口に付着することを抑制する飛沫抑制構造を備えることが望ましい。
【0014】
前記飛沫抑制構造は、前記注液口と前記電極体の上面とを連通する連通路が前記注液口から注液された非水電解液を流下させる斜面を有した構成とすることができる。
前記注液口と前記電極体の上面とを連通する連通路は、前記排気弁と前記電極体の上面とを連通する垂直方向に設けられた連通路に合流する構造としてもよい。
【0015】
前記電極体は、前記正極板と前記負極板と前記セパレータが積層されて捲回されているものに好適に適用できる。前記電池ケースが、板状に形成され、前記電極体が扁平に形成されたものに好適に適用できる。前記非水電解液二次電池がリチウムイオン二次電池である場合に好適に適用できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の非水電解液二次電池によれば、その製造工程において生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態のリチウムイオン二次電池の斜視図である。
図2】リチウムイオン二次電池の電極体の積層体の構成の一部を展開した模式図である。
図3】リチウムイオン二次電池の電極体の積層体の構成を示す斜視図である。
図4】本実施形態の熱伝導部材を示す斜視図である。
図5】本実施形態の熱伝導部材を示す正面図である。
図6図5の6-6部分の断面図である。
図7図5の7-7部分の断面図である。
図8】本実施形態のリチウムイオン二次電池の電極体を蓋体に装着した正面図である。
図9図8の左側面図である。
図10】本実施形態のリチウムイオン二次電池の電極体に熱伝導部材を装着した正面図である。
図11図10の左側面図である。
図12】本実施形態のリチウムイオン二次電池の熱伝導部材を装着した電極体を電池ケースに挿入した状態を示す正面図である。
図13図12の左側面図である。
図14】本実施形態のリチウムイオン二次電池の注液工程を示す正面図である。
図15図14の左側面図である。
図16】本実施形態のリチウムイオン二次電池の注液工程が完了した状態を示す正面図である。
図17図16の左側面図である。
図18】従来のリチウムイオン二次電池の電極体を蓋体に装着した正面図である。
図19図18の左側面図である。
図20】従来のリチウムイオン二次電池の絶縁部材の正面図である。
図21図20の左側面図である。
図22】従来のリチウムイオン二次電池の電極体に絶縁部材を装着した正面図である。
図23図22の左側面図である。
図24】従来のリチウムイオン二次電池の絶縁部材を装着した電極体を電池ケースに挿入した状態を示す正面図である。
図25図24の左側面図である。
図26】従来のリチウムイオン二次電池の注液工程を示す正面図である。
図27図26の左側面図である。
図28】従来のリチウムイオン二次電池の注液工程が完了した状態を示す正面図である。
図29図28の左側面図である。
図30】本実施形態の飛沫抑制構造の別例を示す。
図31】本実施形態の飛沫抑制構造のさらに別例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の非水電解液二次電池を、リチウムイオン二次電池1の実施形態により、図1~17を参照して説明する。
(本実施形態の概略)
まず、本実施形態の前提となるリチウムイオン二次電池1の構造の概略について図1~3を参照して簡単に説明する。
【0019】
<リチウムイオン二次電池1の構成>
図1は、リチウムイオン二次電池1の斜視図である。図1に示すようにリチウムイオン二次電池1は、セル電池として構成される。上側に開口部を有する直方体の板状の電池ケース11の本体11aを備える。電池ケース11は、本体11aの上部を封止する蓋体11bを備える。蓋体11bには、蓋体11bにより密閉された電池ケース11内の圧力が一定の圧力値を超えた場合に、電池ケース11内の気体を排出する排気弁18が設けられている。排気弁18は、電池の温度上昇により上昇した電池ケース11内の圧力が設定した圧力を超えた場合に破壊される弁である。排気弁18が開放すると、電池ケース11内の気体が排出する。
【0020】
電池ケース11の内部には電極体10が収容される。電池ケース11の蓋体11bに設けられた注液口19から非水電解液17が注入され、その後注液口19は蓋19a(図16参照)が溶接されて封止される。電池ケース11及び蓋体12は、例えばアルミニウム合金等の金属で構成され、レーザ溶接などで封止されている。従ってリチウムイオン二次電池1は、電池ケース11に蓋体12を取り付けることで密閉された電槽が構成される。またリチウムイオン二次電池1は、蓋体12に、電力の充放電に用いられる負極外部端子14、正極外部端子16を備えている。この電池ケース11は、耐圧性、耐熱性に優れたものとなっている。
【0021】
<電極体10>
図2は、リチウムイオン二次電池1の電極体10の積層体の一部を展開した構成を示す模式図である。電極体10は、正極板110と負極板100とセパレータ120が積層されて構成される。この積層体が捲回され、断面が競技用トラックのように扁平な捲回体として整形される。
【0022】
図2に示すように、リチウムイオン二次電池1の電極体10は、負極板100と正極板110とセパレータ120を備える。負極板100は、負極基材101の両面に負極合材層102を備える。正極板110は、正極基材111の両面に正極合材層112を備える。負極板100と、正極板110は、セパレータ120を介して重ねて積層された電極体10が構成される。この積層体が捲回軸を中心に長手方向Zに捲回され、扁平に整形されてなる電極体10を構成する。
【0023】
負極接続部103は、負極板100の負極合材層102から電気を取り出す集電部として機能する。正極接続部113は、正極板110の正極合材層112から電気を取り出す集電部として機能する。
【0024】
<電極体10の構成>
図3は、捲回された電極体10の幅方向Wの負極側の端部を示す斜視図である。ここで、電極体10の捲回軸と平行な方向を「幅方向W」とする。また、電極体10の捲回軸と直交しかつ平面部Fの面と直交する方向を「厚さ方向D」という。また、幅方向W及び厚さD方向と直交する方向を「長さ方向Z」という。
【0025】
電極体10は捲回軸を中心に中心C-Cの部分が支えられて捲回されている。次に、幅方向Wと直交する厚みD方向から一対の対抗するプレス機によるプレス工程により幅方向Wから見た端部が競走用トラック状の扁平な形状に整形される。そのため、上端部と下端部には曲面部Rが形成され、その間には平面部Fが形成されている。そして、扁平な電極体10は、図1に示すように電池ケース11に収容され、負極接続部103には、負極集電体13が溶接される。正極接続部113(図2参照)には正極集電体15が溶接される。接続部と集電体との溶接方法としては、例えば超音波溶接や抵抗溶接、電気溶接がある。そして、蓋体11bを貫通して負極集電体13には負極外部端子14が接続され、正極集電体15には正極外部端子16が接続される。
【0026】
<負極板100>
図2に示す負極基材101の両面に負極合材層102が形成されて負極板100が構成されている。負極基材101は、実施形態ではCu箔から構成されている。負極基材101は、負極合材層102の骨材としてのベースとなるとともに、負極合材層102から電気を集電する集電部材の機能を有している。負極板100は、金属製の負極基材101上に負極合材層102が形成される。第1の実施形態では負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であり、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料を用いる。
【0027】
負極板100は、例えば、負極活物質と、溶媒と、結着剤(バインダー)とを混練し、混練後の負極合材を負極基材101に塗布して乾燥することで作製される。
<正極板110>
正極基材111の両面に正極合材層112が形成されて正極板110が構成されている。正極基材111は、実施形態ではAl箔やAl合金箔から構成されている。正極基材111は、正極合材層112の骨材としてのベースとなるとともに、正極合材層112から電気を集電する集電部材の機能を有している。
【0028】
正極板110は、正極基材111の表面に正極合材層112が形成されている。正極合材層112は正極活物質を有する。正極活物質は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)等を用いることができる。また、LiCoO、LiMn、LiNiOを任意の割合で混合した材料を用いてもよい。
【0029】
また、正極合材層112は、導電材を含む。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛(グラファイト)を用いることができる。
【0030】
正極板110は、例えば、正極活物質と、導電材と、溶媒と、結着剤(バインダー)とを混練し、混練後の正極合材を正極基材111に塗布して乾燥することで作製される。
<セパレータ120>
セパレータ120は、負極板100及び正極板110の間に非水電解液17を保持するための多孔性樹脂であるポリプロピレン製等の不織布である。また、セパレータ120としては、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、および多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、又は、リチウムイオンもしくはイオン導電性ポリマー電解質膜を、単独、又は組み合わせて使用することもできる。非水電解液17に電極体10に浸漬させるとセパレータ120の端部から中央部に向けて非水電解液17が浸透する。
【0031】
セパレータ120は、弾性を有するため、プレス工程において電極体10が圧縮されると弾性変形して、電極体10全体の厚さを厚さD[mm]に維持することができる。
<非水電解液17>
非水電解液17は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。ここで、非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)を用いることができる。また、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等からなる群から選択された一種または二種以上の材料でもよい。また、支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiI等を用いることができる。またこれらから選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。
【0032】
<従来のリチウムイオン二次電池1>
図18~29を参照して、従来のリチウムイオン二次電池1´の構造とその組立方法について説明する。
【0033】
図18は、従来のリチウムイオン二次電池1´の電極体10を蓋体11bに装着した正面図である。図19は、図18の左側面図である。
蓋体11bは、その左端近傍外側に負極外部端子14と、右端近傍外側に正極外部端子16を有する。負極外部端子14に対応する位置の内側には、負極集電体13が配設される。負極集電体13は、蓋体11bを挟んで負極外部端子14と電気的に接続されている。正極外部端子16に対応する位置の内側には、正極集電体15が配設される。正極集電体15は、蓋体11bを挟んで正極外部端子16と電気的に接続されている。また、正極集電体15は、蓋体11bを挟んで正極外部端子16と電気的に接続されている。電極体10の左端に設けられた負極接続部103に負極集電体13が溶接されて電気的に接続されている。また、電極体10の右端に設けられた正極接続部113には正極集電体15が溶接されて電気的に接続されている。これらの構造は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1と共通する構造である。
【0034】
図20は、従来のリチウムイオン二次電池1´の絶縁部材2´の正面から見た断面図である。図21は、図20の左側面から見た断面図である。絶縁部材2´は、電池ケース11の本体11aの内面に当接する上部が開口した直方体で板状の部材である。従来のリチウムイオン二次電池1´の絶縁部材2´は、PP(ポリプロピレン)樹脂シートから形成されている。従来のリチウムイオン二次電池1´では、絶縁性は、1.0E+16Ω・cm以上で、高い絶縁性を有している。一方、熱伝導率に関しては、特に配慮されておらず、0.024W/m・K以下と低い伝導率となっている。そのため、その厚みは数百μmと非常に薄くなっている。それでも、電極体10の熱は電池ケース11には伝導されにくい。
【0035】
図22は、従来のリチウムイオン二次電池1´の電極体10に絶縁部材2´を装着した正面図である。図23は、図22の左側面図である。電極体10に絶縁部材2´を装着すると、電極体10の側面10b、底面10d、端面10cは、絶縁部材2´により覆われる。電極体10の上面10aは開放している。このため、蓋体11bの下方と、電極体10の上面10aの間は、何もない空間が形成される。
【0036】
<乾燥工程>
図24は、従来のリチウムイオン二次電池1´の絶縁部材2´を装着した電極体10を電池ケース11に挿入した状態を示す正面図である。図25は、図24の左側面図である。絶縁部材2´を装着した電極体10は、電池ケース11の本体11aに収容する。そして、電池ケース11の本体11aの上端と、蓋体11bの下端の周囲が、レーザ溶接などにより密封される。
【0037】
この状態において、乾燥工程が行われる。乾燥工程では、例えば、25個のリチウムイオン二次電池1´のセル電池が厚さ方向に積層され、積層方向両端に金属製のエンドプレートが配設され拘束部材で拘束されて電池スタックとされる。そして、この電池スタックの両端に加熱用の金属プレートが当接されて、150[°C]程度まで加熱される。この状態では、注液口19は開放しているので、電極体10に存在する水などは、水蒸気となって排出される。所定の時間経過したら、セル電池の外面が30[°C]程度まで冷却される。冷却が完了したら、乾燥工程は終了する。
【0038】
<従来の注液工程>
図26は、従来のリチウムイオン二次電池1´の注液工程を示す正面図である。図27は、図26の左側面図である。乾燥工程が完了したら、注液口19に注液ノズル30を挿入し、非水電解液17を注液する。図26に示すように、注液ノズル30から注液された非水電解液17は、直接電極体10の上面10aに衝突する。このため、その衝撃で飛沫17aが発生することがある。
【0039】
また、このときセル電池の表面温度は30[°C]程度まで下がっているが、電極体10の上面10aの温度は、まだ高温となっている。この状態で、非水電解液17を注液すると、非水電解液17が揮発することで、さらに飛沫17aが発生しやすくなる。
【0040】
飛沫17aが発生してその飛沫17aが周囲に飛散すると、蓋体11bの注液口19の内周面にも非水電解液17の飛沫17aが付着する。
<従来の封止工程>
図28は、従来のリチウムイオン二次電池の注液工程が完了した状態を示す正面図である。図29は、図28の左側面図である。注液工程が完了すると、電池ケース11の本体11aに非水電解液17が貯留される。その後、注液口19の封止工程が行われる。封止工程は、開放している注液口19にアルミ合金製の蓋19aをレーザ溶接で溶接して封止する。このとき、上述のように注液工程において、蓋体11bの注液口19の内周面に非水電解液17の飛沫17aが付着していると、蓋19aの溶接の不良を生じることがある。そうすると、封止不良の不良品が発生することとなる。
【0041】
<本実施形態のリチウムイオン二次電池1>
上述のような従来のリチウムイオン二次電池1´では、封止不良の不良品の発生を生じるという問題があったため、本実施形態のリチウムイオン二次電池1では、従来の絶縁部材2´に替えて熱伝導部材2を備えた点に特徴がある。
【0042】
<熱伝導部材2>
図4は、本実施形態の熱伝導部材2を示す斜視図である。図5は、本実施形態の熱伝導部材2を示す正面図である。図4は、熱伝導部材2を構成する背面側部材2bを示す。熱伝導部材2は、電極体10と電池ケース11との間に介在し電極体10の熱を電池ケース11に伝導するための部材である。熱伝導部材2は、電極体10を内部に挟むように一対の部分から構成されている(図9参照)。具体的には、熱伝導部材2は、正面側に配置される正面側部材2aと、図4に示す背面側に配置される背面側部材2bとから構成される。本実施形態では、正面側部材2aと背面側部材2bとは、その形状が面対称となっているため、ここでは、図4に示す背面側に配置される背面側部材2bを例に説明し、正面側部材2aの説明を省略する。
【0043】
<熱伝導部材2の形状>
図4に示すように熱伝導部材2は、電池ケース11の本体11aの内部全体に接する第1の部分21を備える。また、電極体10の上面10aと蓋体11bとの間に介在する第2の部分22を備える。さらに、熱伝導部材2は、電極体10の側面10bと電池ケース11の本体11aの側面との間、及び電極体10の底面10dと電池ケース11の本体11aの底面との間に介在する第3の部分25を備える。第2の部分22と第3の部分25が配設された部分は、第1の部分21に替えて配設されることになる。なお、第1の部分21、第2の部分22、第3の部分25は、一体に樹脂成形されている。
【0044】
なお、側面10bは、電極体10の積層部分が露出した端面10cを含まない部分である。したがって、電極体10の端面10cと、第1の部分21の端部21cとの間は、空間が形成されている。これは、電極体10へ非水電解液17が浸透するときに、電極体10の端面10cから浸透するため、これを妨げないようにするからである。本実施形態では、第1の部分21、第2の部分22、第3の部分25は、一体に樹脂成形されて正面側部材2aと背面側部材2bが形成されている。
【0045】
<熱伝導部材2の材料>
前述のとおり、従来技術では、例えば絶縁部材2´としてポリプロピレンを用いていた。このため、絶縁性は、1.0E+16[Ω・cm]程度で、高い絶縁性を維持することができた。しかしながら、熱伝導率は、0.024[W/m・K]程度で、熱伝導率は極めて低い。そのため、樹脂シートの厚みを数百μm以下と薄くして、熱の放散を図っていたが、十分ではなかった。このような問題を解決するため、本実施形態の熱伝導部材2では、以下のような材料を用いている。
【0046】
熱伝導部材2は、電極体10の熱を電池ケース11に伝導して、外部に放熱する。このため、熱伝導率が高い方が好ましい。具体的には、熱伝導率が、少なくとも0.5[W/m・K]以上であることが望ましい。
【0047】
また、熱伝導部材2は、電極体10などと、金属製の電池ケース11との絶縁を維持するため、絶縁性が高い方が好ましい。具体的には、絶縁性が、少なくとも1.0E+12「Ω・cm」以上であることが望ましい。
【0048】
これらの条件を満たすため、熱伝導部材2を構成する樹脂は、シリコーン樹脂、液晶ポリマー、アクリル樹脂のいずれか、またはこれらの組み合わせを含む樹脂から構成されるものを例示することができるがこれらに限定されるものではない。
【0049】
また、熱伝導部材2の無機フィラーは、高い熱伝導性を備えるとともに、高い絶縁性を備え得ることが望ましい。具体的には、酸化亜鉛、酸化アルミ、酸化チタンのいずれか、又はこれらの組み合わせを含むものを例示することができるが、これらに限定されるものではない。以下に、熱伝導部材2の実施例1~3と、これらと比較するための比較例1を挙げる。
【0050】
<実施例1>
樹脂としてシリコーン樹脂(ポリアルキルシロキサン)を主体とする。ここに無機フィラーを添加している。
【0051】
具体的には、サンハヤト株式会社の1液型室温硬化タイプの「固まる放熱用シリコーン」型番SCV-T500(熱伝導率:0.92[W/m・K]、絶縁性:1.0E+15[Ω・cm]以上)の材料をベースとした材料が例示できる。
【0052】
<実施例2>
樹脂として液晶ポリマー(Liquid Crystal Polymer)を主体とする。ここに無機フィラーを添加している。
【0053】
具体的には、住友大阪セメント株式会社製、高熱伝導、電気絶縁材料のバインダシステム「ジーマ・イナス(登録商標)」の型番18W(汎用耐熱)熱可塑性樹脂(熱伝導率18W/m・K、絶縁性1.1E+16Ω・cm)をベースとした材料が例示できる。
【0054】
<実施例3>
樹脂としてアクリル樹脂を主体とする。ここに無機フィラーを添加している。
具体的には、スリーエムジャパン株式会社の「ハイパーソフト放熱シート(登録商標)」の型番6510H(熱伝導率2.0W/m・K、絶縁性(体積抵抗値):4.9E+12Ω・cm)の素材を用いたものが例示できる。また、型番6500H(熱伝導率3.0W/m・K、絶縁性:15E+12Ω・cm)などの素材を用いたものも例示できる。
【0055】
<比較例1>
従来使用の絶縁部材2´は、樹脂として厚さ数十μmのポリプロピレンのシートを主体としている。無機フィラーは添加されていない。絶縁性は、1.0E+16[Ω・cm]以上であるが、熱伝導率は0.024[W/m・K]以上と放熱性に欠ける。
【0056】
<飛沫抑制構造20>
図4~7を参照して飛沫抑制構造20について説明する。熱伝導部材2は、注液口19から注液された非水電解液17(図14参照)が電極体10に直接当たらないようにするとともに、注液による飛沫17aが注液口19に付着することを抑制する飛沫抑制構造20を備えた。前述の従来技術では、注液時に注液による非水電解液17の飛沫17aが注液口19に付着することが問題として指摘されていた。このような問題を解決するため、本実施形態では飛沫抑制構造20を備える。
【0057】
本実施形態で具体的に例示すると、蓋体11bは、排気弁18および注液口19を備える。第2の部分22は、排気弁18および注液口19と、電極体10の上面10aとを連通する連通路23を備える。連通路23は、注液口19と電極体10の上面10aとを連通する。そして連通路23は、注液口19から注液された非水電解液17を流下させる斜面を有した斜面部23bを備える。このため、注液口19から注液された非水電解液17は、電極体10に直接当たらない。また、注液による飛沫17aが注液口19に付着することを抑制する。
【0058】
また、注液口19と電極体10の上面10aとを連通する連通路23は、排気弁18と電極体10の上面10aとを連通する垂直方向に設けられた連通路24に合流する。
<本実施形態のリチウムイオン二次電池1の組立>
図8は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の電極体10を蓋体11bに装着した正面図である。電極体10を蓋体11bに装着した状態は、従来技術の図18と同じであるので、ここでの説明は省略する。
【0059】
図9は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の電極体10に熱伝導部材2を装着を示す分解左側面図である。図8に示す蓋体11bを装着した電極体10の正面側から正面側部材2a、背面側から背面側部材2bを装着する。正面側部材2aと背面側部材2bは、図5の9-9部分の断面図を示す。
【0060】
図10は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の電極体10と蓋体11bに熱伝導部材2の背面側部材2bのみを装着した正面図である。内部の説明のため、正面側部材2aは、省略している。図11は、図10の左側面図である。図11では、正面側部材2aも装着した状態となっている。正面側部材2aと背面側部材2bのみは、図5の9-9部分の断面図として表している。図11に示すように熱伝導部材2の正面側部材2aと背面側部材2bは、第1の部分21を備える。また、電極体10の上面10aと蓋体11bとの間に介在する第2の部分22を備える。正面側部材2aと背面側部材2bの第2の部分22は、隙間なく当接して一体となる。第2の部分22の下面と電極体10の上面10aの間には、空間が形成されて流路22aを構成されている。流路22aは、注液口19から注液された非水電解液17が流入し、この上面10aの上の流路22aを通って、電極体10の幅方向Wの両端の端面10cに導かれる。非水電解液17は、この端面10cから電極体10の内部に浸透する。
【0061】
さらに、電極体10の側面10bを包むように第3の部分25を備える。第3の部分25は、電極体10の両端部を覆うことが無く、非水電解液17が端面10cから浸透し易くなるようになっている。
【0062】
<乾燥工程>
図12は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の熱伝導部材2の背面側部材2bのみを装着した電極体10と蓋体11bを電池ケース11に挿入した状態を示す。内部の説明のため、電池ケース11の本体11aのみ図13の12-12部分の断面図として示している。図13は、電極体10の左側面図であり、熱伝導部材2のみを図12の13-13部分の断面図として示している。本実施形態の乾燥工程は、図24で説明した乾燥工程と同じであるので、その説明は省略する。
【0063】
<本実施形態の注液工程>
図14は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の熱伝導部材2の背面側部材2bのみを装着した電極体10と蓋体11bを電池ケース11に挿入した状態を示す。電池ケース11の本体11aのみ図15の14-14部分の断面図として表している。図14は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の注液工程を示す。図15は、電極体10の左側面図であり、熱伝導部材2と電池ケース11の本体11aは図16の15-15部分の断面図として表している。
【0064】
乾燥工程が完了したら、注液工程に移行する。注液工程では注液口19に注液ノズル30を挿入し、非水電解液17を注液する。図14に示すように、注液ノズル30の先端は注液口19からさらに連通路23に進入する。注液ノズル30から注液された非水電解液17は、連通路23の斜面部23bに沿って流下する。流下した非水電解液17は、排液部23cから排気弁18の連通路24に合流する。連通路24に合流した非水電解液17は、電極体10の上面10aに流下する。
【0065】
本実施形態の注液工程では、注液ノズル30から注液された非水電解液17は、直接電極体10に接触しない。斜面部23bにより、離れた位置に移動させられる。非水電解液17が電極体10に接触するのは、排気弁18の連通路24の吸気部24cから排出された位置である。このため、流下した衝撃で飛沫17aが発生する。さらに、電極体10が高温の場合、非水電解液17が揮発することで、さらに飛沫17aが発生する。
【0066】
本実施形態の場合、飛沫17aの発生場所が、注液口19から離間した位置となる。そのため、発生した飛沫17aは、ほとんど注液口19には到達しない。
さらに、本実施形態では、電極体10の上面10aと、蓋体11bとの間に、熱伝導部材2の第2の部分22が配設されている。このため、乾燥工程において高温になった電極体10の上面10aは、熱伝導部材2の第2の部分22により、効率的に熱が放散される。このため、電極体10の上面10aの温度は従来と同じ工程であればより低温になっている。このため、非水電解液17が電極体10の上面10aに接触したときに揮発による飛沫17aの発生は抑制される。
【0067】
なお、従来に比べて電極体10の上面10aの温度が同じ温度まで冷却される時間が短くなる。すなわち、生産工程における乾燥工程完了までの時間を短縮できる。
<封止工程>
図16は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の注液工程が完了した状態を示す正面図である。図17は、図16の左側面図である。
【0068】
本実施形態では、上述のとおり注液工程において、非水電解液17の飛沫17aが、注液口19の内周面に付着することを抑制できる。このため、封止工程において、蓋19aの溶接の不良を抑制することができ、不良品の発生率を抑制することができる。
【0069】
(本実施形態の作用)
<熱伝導部材2の作用>
本実施形態によれば、熱伝導部材2を配設したため、電極体10の熱を効率よく電池ケース11に伝導し、外部に放熱する。このため、リチウムイオン二次電池1を使用時に充放電による電極体10の発熱を速やかに冷却することで、電池の内部抵抗を低下させることができる。また、電極体10において、微小短絡などによる発熱があった場合でも、速やかに冷却する。このため、発熱による排気弁18の開弁リスクを低下させる。
【0070】
<飛沫抑制構造20の作用>
本実施形態によれば、飛沫抑制構造20により、注液工程において、注液した非水電解液17の飛沫17aが注液口19の内周面に付着することを抑制する。このため封止工程において蓋19aの溶接不良を抑制する。
【0071】
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態によれば、熱伝導部材2によりリチウムイオン二次電池1の冷却の効率を高め、電池性能を向上させることができるという効果がある。
【0072】
(2)また、熱伝導部材2によりリチウムイオン二次電池1の冷却の効率を高めることで、微小短絡などによる電極体10の温度上昇を抑制して、排気弁18の開弁リスクを低下させることができるとう効果がある。
【0073】
(3)また本実施形態によれば、その製造工程において、熱伝導部材2により電極体10の冷却効果を高めて、乾燥工程後の冷却時間を短縮することで生産効率を向上させることができるという効果がある。
【0074】
(4)本実施形態の熱伝導部材2は、シリコーン樹脂、液晶ポリマー、アクリル樹脂などの樹脂に、酸化亜鉛、酸化アルミ、酸化チタンなどの無機フィラーを添加した。このため、高い熱伝導性を有するとともに、高い絶縁性を有する。さらに、耐熱性も高いという効果がある。
【0075】
(5)本実施形態の熱伝導部材2は、第1の部分21、第2の部分22,第3の部分25を備えて、電池の機能に合わせて、その位置、厚みを変えている。このため、効果的な冷却をすることができるとともに、非水電解液17を電極体10の端面10cに十分に供給することで、電解液切れなどを効果的に抑制するという効果がある。
【0076】
(6)本実施形態の熱伝導部材2は、正面側部材2aと背面側部材2bの二分割の構成となっている。このため、製造工程では、極めて簡単に組み立てることができる。
(7)また、本実施形態の熱伝導部材2の正面側部材2aと背面側部材2bは、それぞれ樹脂の一体成形であるので、熱伝導部材2も簡単に製造することができるという効果がある。
【0077】
(8)本実施形態では、飛沫抑制構造20により、注液工程において、注液した非水電解液17の飛沫17aが注液口19の内周面に付着することを抑制する。このため封止工程において蓋19aの溶接不良を抑制することができるという効果がある。
【0078】
(9)また、本実施形態では、飛沫抑制構造20では、斜面部23bにより、飛沫17aの発生源より注液口19を離間させているため、確実に非水電解液17の飛沫17aが注液口19の内周面に付着することを抑制するという効果がある。
【0079】
(10)また、注液口19と電極体10の上面10aとを連通する連通路23は、前記排気弁18と電極体10の上面10aとを連通する垂直方向に設けられた連通路24に合流する構造となっている。このため、確実に非水電解液17の飛沫17aが注液口19の内周面に付着することを抑制するという効果がある。
【0080】
(11)本実施形態は、電極体10が正極板110と負極板100とセパレータ120が積層されて捲回されている。また電池ケース11が板状に形成され、電極体10が扁平に形成されているリチウムイオン二次電池1において好適に実施することができるという効果がある。
【0081】
(別例)
上記実施形態は、本発明の説明のための一例にすぎず、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような態様で実施することができる。
【0082】
図30は、本実施形態の飛沫抑制構造20の別例を示す。別例の飛沫抑制構造20では、注液口19からの連通路23は、屈曲路23dを備える。屈曲路23dは、鉛直方向の部分から、90°屈曲して水平な通路を形成し、再び90°屈曲して鉛直方向に延び、電極体10の上面10aに連通する。このため、注液ノズル30から注液された非水電解液17は、一旦垂直に流下するが、屈曲した部分で、流体の勢いが殺がれる。そして、水平な部分を経て電極体10の上面10aに接触する。このため、非水電解液17が電極体10の上面10aに接触するときの衝撃は小さくなり、飛沫17aの発生は抑制される。一方、高温になった電極体10の上面10aに接触して揮発して発生した飛沫17aも、上方に上昇しても屈曲した部分に衝突して勢いは殺がれ、発生した飛沫17aは、注液口19へ到達することが抑制される。なお、屈曲路23dは、曲線的に屈曲するようなものでもよい。あるいは、鉛直方向の連通路23の途中に、突出部を設けて、直進を妨げるものでもよい。
【0083】
図31は、本実施形態の飛沫抑制構造20のさらに別例を示す。この例の飛沫抑制構造20では、注液口19からの連通路23は、鉛直方向の部分の途中に、断面積が小さい多数の隘路23eが設けられる。このため、注液ノズル30から注液された非水電解液17は、一旦垂直に流下するが、隘路23eの部分で、流体の勢いが殺がれる。そして、電極体10の上面10aに接触する。このため、非水電解液17が電極体10の上面10aに接触するときの衝撃は小さくなり、飛沫17aの発生は抑制される。一方、高温になった電極体10の上面10aに接触して揮発して発生した飛沫17aも、上方に上昇しても隘路23eの部分に衝突して勢いは殺がれ、発生した飛沫17aは、注液口19へ到達することが抑制される。この隘路23eは複数設けてもよく、その長さや太さは変更できる。さらに例えば、別体のセラミックスや金属製の網状のものとしてもよい。
【0084】
○本実施形態の熱伝導部材2は、正面側部材2aと背面側部材2bが、面対称で同じ厚さの部材から構成されるが、本発明はこれに限定されず、当業者によりその厚みを変えたり、内包する構成部分に応じてその形状を変更できることは言うまでもない。
【0085】
○本実施形態の熱伝導部材2は一体成形されているが、例えば第1の部分21に第2の部分22、第3の部分25を貼り付けて形成したような構成でもよい。
○電池ケース11は、アルミニウム合金製を例示したが、他のステンレススチール等他の金属でも適用できる。
【0086】
○また、電池ケース11は、矩形板状のものを例示したが、これに限られるものではなく、本発明が実施できる限り、立方体や、一部に曲面を備えた電池ケースであってもよい。さらに、円柱状のものでもよい。
【0087】
○電極体10は、実施形態のような扁平な捲回体に限定されず、平面状に積層したものでもよい。また、円筒状に捲回したものでもよい。
○本実施形態において記載された数値、数値範囲などは、一実施例の説明のための例示であって、本発明はこれに限定されるものではない。これらは対象となる二次電池などの構成に対応して当業者により最適化されて実施することができる。
【0088】
○図面、グラフは、本実施形態の説明のためのものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。また、図示された電極体等の形状や寸法、バランス、積層枚数などは、模式的に簡略化したり、誇張したりしたものであり、他の図面、グラフも本発明を限定するものではない。
【0089】
○その他、本発明は特許請求の範囲の記載を逸脱しない限り、当業者によりその構成を付加し削除し若しくは変更して実施することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0090】
1、1´…リチウムイオン二次電池(非水電解液二次電池)
2…熱伝導部材
2´…絶縁部材
2a…正面側部材
2b…背面側部材
10…電極体
10a…上面
10b…側面
10c…端面
10d…底面
11…電池ケース
11a…本体
11b…蓋体
13…負極集電体
14…負極外部端子
15…正極集電体
16…正極外部端子
17…非水電解液
17a…飛沫
18…排気弁
19…注液口
19a…蓋
20…(注液による飛沫17aが注液口に付着することを抑制する)飛沫抑制構造
21…第1の部分
21a…上部
21b…側面部
21c…端部
21d…底部
22…第2の部分
22a…流路
23…(注液口)連通路
23a…注液部
23b…斜面部
23c…排液部
23d…屈曲路(別例)
23e…隘路
24…(排気弁)連通路
24a…排気部
24b…連通部
24c…吸気部
25…第3の部分
25a…側面部
25b…底面部
30…注液ノズル
100…負極板
101…負極基材
102…負極合材層
103…負極接続部
110…正極板
111…正極基材
112…正極合材層
113…正極接続部
120…セパレータ
R…曲面部
F…平面部
W…幅方向
D…厚さ方向
Z…長さ方向
図1
図2
図3
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図5
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