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  • 特開-固体電解質およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170885
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】固体電解質およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/553 20060101AFI20231124BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20231124BHJP
   C01G 19/00 20060101ALI20231124BHJP
   C01F 11/22 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C04B35/553
H01B1/06 A
C01G19/00 A
C01F11/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082968
(22)【出願日】2022-05-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り K.Mori et al.,“Electrochemical,Thermal,and Structural Features of BaF▲2▼-SnF▲2▼ Fluoride-Ion Electrolytes”,Journal of Physical Chemistry C,Volume 125,(2021),p.12568_12577.〔刊行物等〕嶺重 温,「活性化エネルギーの低いフッ化物イオン伝導―革新型蓄電池用電解質の開発を目指して―」,セラミックス,第56巻,第9号,2021年9月1日,p.619_622.〔刊行物等〕森一広ほか,「BaF▲2▼-SnF▲2▼系フッ素化合物イオン導電性固体電解質の電気化学特性と構造」,公益社団法人日本金属学会2021年秋期(第169回)講演大会講演概要,2021年8月31日,p.156.〔刊行物等〕公益社団法人日本金属学会2021年秋期(第169回)講演大会,ZoomG会場(オンライン開催),2021年9月15日発表,森一広ほか,「BaF▲2▼-SnF▲2▼系フッ素化合物イオン導電性固体電解質の電気化学特性と構造」.
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100082429
【弁理士】
【氏名又は名称】森 義明
(74)【代理人】
【識別番号】110002295
【氏名又は名称】弁理士法人M&Partners
(72)【発明者】
【氏名】嶺重 温
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】森 一広
【テーマコード(参考)】
4G076
5G301
【Fターム(参考)】
4G076AA05
4G076AB04
4G076BA37
4G076BA50
4G076CA02
4G076CA11
4G076CA29
4G076DA04
4G076DA30
5G301CA08
5G301CA23
5G301CA30
5G301CD01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】常温付近でのフッ化物イオン伝導性を著しく向上させたBaF・SnF二元化合物からなる固体電解質と、その製造方法とを提供する。
【解決手段】フッ化物イオン伝導性を有する固体電解質であって、Ba(1-x)Sn(但し、0.52≦x<0.55)の全体組成を有するフッ化バリウムスズで構成されると共に、その結晶構造が立方晶相と正方晶相との混相で形成されている、ことを特徴とする。また、その製造方法は、フッ化バリウムとフッ化第一スズとをBa(1-x)Sn(但し、0.52≦x<0.55)の全体組成となるように秤量して粉末原料を調製するステップと、上記の粉末原料を粉砕媒体と共にボールミルにセットしてメカニカルミリング処理するステップと、上記メカニカルミリング処理した粉末原料を焼成して結晶構造が立方晶相と正方晶相との混相で形成されるようにするステップとからなる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化物イオン伝導性を有する固体電解質であって、
Ba(1-x)Sn(但し、0.52≦x<0.55)の全体組成を有するフッ化バリウムスズで構成されると共に、その結晶構造が立方晶相と正方晶相との混相で形成されている、ことを特徴とする固体電解質。
【請求項2】
フッ化物イオン伝導性を有する固体電解質の製造方法であって、
フッ化バリウムとフッ化第一スズとをBa(1-x)Sn(但し、0.52≦x<0.55)の全体組成となるように秤量して粉末原料を調製するステップと、
上記の粉末原料を粉砕媒体と共にボールミルにセットしてメカニカルミリング処理するステップと、
上記メカニカルミリング処理した粉末原料を焼成して結晶構造が立方晶相と正方晶相との混相で形成されるようにするステップとからなる、ことを特徴とする固体電解質の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温付近でのイオン伝導性に優れた固体電解質とその製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、室温に近い低温領域で動作する高効率な電気化学エネルギー貯蔵デバイスとして、フッ化物イオン電池が注目されている。このフッ化物イオン電池の実用化に向けて解決すべき課題の一つに固体電解質のフッ化物イオン伝導性の向上が挙げられる。
この固体電解質となり得るフッ化物イオン伝導性材料の一つとしてBaF・SnF二元化合物が知られている。現在のところ、このBaF・SnF二元化合物で最も高いフッ化物イオン伝導性を有するものとして、下記の非特許文献1には、室温に近い300K(26.85℃)付近で7×10-4S/cmのフッ化物イオン伝導度を示すものが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Preishuber-Pfl&uuml;gl, F. et al., ”Defect-enhanced F- ion conductivity in layer-structured nanocrystalline BaSnF4 prepared by high-energy ball milling combined with soft annealing”, Phys. Status Solidi C 2015, 12, 10_14.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実用面を考慮すると、例えばフッ化物イオン電池を電動車の車載用蓄電池に適用するためには、固体電解質のフッ化物イオン伝導度を室温で10-2S/cm程度にまで向上させることが一つの目安となっている。
【0005】
それゆえに、本発明の目的は、常温付近でのフッ化物イオン伝導性を著しく向上させたBaF・SnF二元化合物からなる固体電解質と、その製造方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、フッ化物イオン伝導性を有する固体電解質を次のように構成した。
すなわち、Ba(1-x)Sn(但し、0.52≦x<0.55)の全体組成を有するフッ化バリウムスズで構成されると共に、その結晶構造が立方晶相と正方晶相との混相で形成されることを特徴とする。
【0007】
また、本発明における別の発明は、フッ化物イオン伝導性を有する上記の固体電解質の製造方法であって、フッ化バリウム(BaF)とフッ化第一スズ(SnF)とをBa(1-x)Sn(但し、0.52≦x<0.55)の全体組成となるように秤量して粉末原料を調製するステップと、上記の粉末原料を粉砕媒体と共にボールミルにセットしてメカニカルミリング処理するステップと、上記メカニカルミリング処理した粉末原料を焼成して結晶構造が立方晶相と正方晶相との混相で形成されるようにするステップとからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、常温付近でのフッ化物イオン伝導性を著しく向上させたBaF・SnF二元化合物からなる固体電解質と、その製造方法とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】様々な条件で試作した固体電解質に対するXRD測定の結果を示す図である。
図2】メノウ媒体等を用いたメカニカルミリング処理で作製した0.50≦x≦0.58のBa(1-x)Snからなる固体電解質の様々な特性を示す図で、図2Aは、フッ化物イオン伝導度の温度依存性を示す図であり、図2Bは、各組成の固体電解質における焼成前のミリング条件と室温でのフッ化物イオン伝導度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明における固体電解質とその製造方法について、詳細に説明する。
【0011】
本発明の固体電解質は、フッ化物イオン伝導性を有する固体電解質であって、Ba(1-x)Sn(但し、0.52≦x<0.55)の全体組成を有するフッ化バリウムスズで構成されると共に、その結晶構造が立方晶相(c-BSF相)と正方晶相(t-BSF相)との混相で形成される。
ここで、立方晶相(c-BSF相)とは、陽イオン(バリウム,スズ)は面心立方配置し、そのいずれの陽イオン位置においてもバリウムとスズは等しい確率で見いだされ、陰イオン(フッ素)は陽イオンの作る四面体間隙の全てを占めることで陽イオンに対して8配位となる結晶構造を言う。
一方、正方晶相(t-BSF相)とは、立方晶相(c-BSF相)を基本とするものの、陽イオン(バリウム,スズ)が、Sn-Ba-Ba-Snの各層がc軸方向に積み上げるようにして存在し、陰イオン(フッ素)はBaとSnとの層間に二次元的イオン伝導を実現する配置となった結晶構造を言う。
【0012】
これまでのBaF・SnF二元化合物からなる固体電解質の開発は、主として上記の非特許文献1にもある通り、BaSnF、すなわちBaFとSnFの等モル混合物で構成されたものが主流であり、その結晶構造も正方晶相(t-BSF相)への単相化を狙うものであった。
しかしながら、本発明者らは、上記の通り、BaFとSnFの非等モル混合物を粉末原料とし、後述するようにマイルドな条件でのメカニカルミリング処理を施した後、所定の条件で焼成(ポストアニール)することによって、その結晶構造が立方晶相と正方晶相との混相状態と成っているものが、常温(20±15℃)付近のみならず氷点下においてもフッ化物イオン伝導性を著しく向上させることができるのを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
固体電解質を構成するBaF・SnF二元化合物(フッ化バリウムスズ;BSF)の全体組成は、上述の通り、Ba(1-x)Sn(但し、0.52≦x<0.55)であるのが好ましい。ここでx=0.52未満の場合、或いはx=0.55以上の場合には、メカニカルミリングの条件やその後の焼成の条件を如何に変えようとも、常温において6×10-3Scm-1のイオン伝導度を達成するのが困難である。
【0014】
もっとも、固体電解質を構成するBaF・SnF二元化合物の全体組成が上記の範囲内であっても、メカニカルミリング処理やその後の焼成の条件が適正なものでなければ、得られる固体電解質の結晶構造が立方晶相と正方晶相との混相で形成されるものにはならない。
ここで、メカニカルミリング処理について、使用するメディア(ボールミル粉砕の容器とボール)の材質として、モース硬度が9以下で且つ比重が3.5未満のものを用いるのが好適である。具体的にはメノウ(SiO)や窒化ケイ素(Si)などを挙げることができるが、なかでもモース硬度が6.5~7で比重が2.65のメノウを用いるのが特に好適である。また、公知のボールミルを用いてメカニカルミリング処理する際の条件としては、ミルの回転数を600rpm、60分回転+30分休止を1つのサイクルとして、このサイクルを1回行うのを1hミリング、2回行うのを2hミリング…と定義した場合(以下、メカニカルミリング処理時間に関してはこの定義を用いる。)、本発明におけるメカニカルミリング処理は、2~10hミリングと言ったように一般的なメカニカルミリング処理に比べて短時間の範囲内で行うのが好ましく、なかでも3hミリングが最も好適である。なぜなら、モース硬度が高く且つ比重が大きなメディアでメカニカルミリング処理(高衝撃)を行った場合や、例えば40hミリングを超えるような長時間のメカニカルミリング処理を行った場合には、フッ素化物粒子の表面に酸化層の形成が促進されること等により、粒界のイオン移動抵抗が増大し、得られる固体電解質のフッ化物イオン伝導度が低下するようになるからである。
なお、メカニカルミリング処理によって得られた固体電解質の前駆体の結晶構造は、立方晶相を主体としたものである。
【0015】
次に、メカニカルミリング処理後の焼成(ポストアニール)について、公知の焼成装置を用い、Ar気流中などの不活性雰囲気のもと200~400℃、より好ましくは250~330℃の保持温度で1~3時間保持するのが好適であり、特に好ましいのは保持温度300℃、保持時間2時間である。これは、本発明の全体組成を有する固体電解質の前駆体(メカニカルミリング処理後)のDSC測定の結果、500K(227℃)~573K(300℃)の温度範囲に発熱ピークがあり、これが立方晶相(c-BSF相)から正方晶相(t-BSF相)への構造相転移を示すものであることに起因する。
【0016】
以上のようにメカニカルミリング処理や焼成と言った工程を経て得られる固体電解質の形状としては、例えば粒子状(粉末)であってもよいし、ペレット状や板状に成形されたものであってもよい。
【0017】
また、本発明の固体電解質を用いて、例えば、フッ化物イオン電池を形成する際には、正極活物質となる粉末と、固体電解質(粉末)と、負極活物質となる粉末とをこの順で所定形状の金型に配置して所定の圧力で一体成形したもの(ペレット型電池)などを例示することができる。
【実施例0018】
次に、本発明の実施例等について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0019】
<固体電解質の製造>
フッ化バリウム(BaF;(株)高純度化学研究所製,純度99.95%)とフッ化第一スズ(SnF;(株)高純度化学研究所製)とをBa(1-x)Sn(但し、x=0.50,0.52,0.53,0.54,0.55,0.555,0.58)の全体組成となるように秤量し、それぞれをメノウ製のミリングボール(独フリッチュ社製,φ5mm)とともにメノウ製のミリングポット(独フリッチュ社製,プレミアムラインPL-7専用;蓋付き)にセットする。
【0020】
次に、上記のミリングポットをミリング装置(独フリッチュ社製,プレミアムラインPL-7)にセットし、600rpmで3hミリングのメカニカルミリング処理を行って、固体電解質の前駆体粉末を得た。また、比較として、x=0.54の組成については1hミリング,2hミリング,5hミリング,10hミリング,40hミリングおよび70hミリングにて処理したものを、x=0.50の組成については10hミリングおよび70hミリングにて処理したものを、x=0.58の組成については70hミリングにて処理したものをそれぞれ調製した。
【0021】
続いて、メカニカルミリング処理にて得られた固体電解質の前駆体粉末を回収してφ12mmの金型にセットし、これをプレス装置に取り付け、当該前駆体粉末に対して大気雰囲気のもと173MPaで1分間加圧し、前駆体粉末をペレット状に成形した。
【0022】
次いで、ペレット状に成型した前駆体粉末を、アルミナるつぼ内のBaF粉末(パウダーベッド)に埋め込み、これを焼成装置(丸祥電器(株)製,昇降式真空置換炉)に装着した。そして、炉内を真空引きした後、Arフローを開始し、300℃(573K)で2時間の焼成(ポストアニール)を行なって、固体電解質のペレットを完成させた。
【0023】
<固体電解質の評価>
上記の通り作製した固体電解質について、以下の評価を実施した。
なお、以下では、試料作製条件を表わすために、Ba(1-x)Snのx値を先頭に記し、その後に粉砕媒体の種類(A:メノウ)とメカニカルミリング処理時間とを記した略語を用いた。例えば、「0.54_A3」は、300℃で2時間の焼成(アニール)の前に、メノウ媒体で処理時間3hミリングにてメカニカルミリング処理を行って得られたx=0.54の組成の固体電解質を表わす。
【0024】
[結晶構造の確認]
得られた固体電解質のペレットを粉砕し、Cu-Kα線を用いたXRD測定(2θ=20~45°)を行った。その結果を図1に示す。
【0025】
図1が示すように、0.50_A3,0.50_A70,0.54_A3,0.58_A3では、立方晶相(c-BSF相)と正方晶相(t-BSF相)とが共存していることがうかがえる。なお、0.58_A3については上記の各相に加え、未知のピーク(*)も検出されている。これに対し、0.54_A70および0.58_A70では、結晶層が正方晶相(t-BSF相)の単相で構成されていることがうかがえる。
【0026】
[フッ化物イオン伝導度の測定]
得られた固体電解質のペレットをスパッタ装置((株)真空デバイス製,MSP-20TK)に装着し、ペレットの表裏両面それぞれの対称位置にPtをスパッタし、電極面積0.06cmの電極を取り付けた。次いで、電極が設けられた上記のペレットをAr雰囲気のグローブボックス内で測定治具((株)クオルテック製,ZF300)にセットした後、これをインピーダンス・アナライザ(米キーサイト・テクノロジー社製,E4990A)に取り付け、100MHz~100Hz,振幅20mV,-40~150℃の測定条件でフッ化物イオン伝導度の測定を行った。その結果を図2Aおよび2Bに示す。
【0027】
図2Aは、上述の方法で作製した固体電解質各種試料のフッ化物イオン伝導度の温度依存性を示したものである。なお、図中の0.5_Rは、上記の先行技術文献に記載された文献値を示すものであり、具体的にはx=0.50のBa(1-x)Sn(BaSnF)をジルコニア媒体を用いて10時間(この時間に冷却時間は含まず)メカニカルミリング処理を行った後、573Kで2時間焼成して得たものである(図2Bも同じ)。この図が示すように、0.54_A3の試料は、298K(25℃)で9.1×10-3Scm-1のフッ化物イオン伝導度を示すと共に、氷点下においても最も高いフッ化物イオン伝導度が示されており、作製した各種固体電解質の中で最も優れた性能を有していることがうかがえる。
【0028】
また、図2Bは、各組成の固体電解質における焼成前のミリング条件と室温でのフッ化物イオン伝導度との関係を示したものである。この図から、x=0.50および0.54の組成のものに着目すると、メカニカルミリング処理(メノウ媒体)の処理時間が3hミリングのもの(A3)が室温でのフッ化物イオン伝導度の極大値を示すことがうかがえる。さらに、同じメカニカルミリング処理条件のものについて着目すると、わずかにSnがリッチな組成(0.52≦x<0.55)にすることで、フッ化物イオン伝導度が向上することがうかがえる。
図1
図2