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特開2023-170917磁気ヘッドおよびこれを備える磁気ディスク装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170917
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】磁気ヘッドおよびこれを備える磁気ディスク装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/60 20060101AFI20231124BHJP
   G11B 21/21 20060101ALI20231124BHJP
   G11B 5/48 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
G11B5/60 Z
G11B21/21 D
G11B21/21 101P
G11B5/48 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083017
(22)【出願日】2022-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古谷 和浩
(57)【要約】
【課題】信頼性の向上した磁気ヘッドおよび磁気ディスク装置を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、磁気ヘッドは、圧力発生面となる複数の最上面と最上面と高さの異なる他の複数の面とを含む空気支持面と、流入端と、前記流入端から第1方向に離間した流出端と、を有するスライダと、スライダの流出端に設けられたヘッド部と、を備えている。空気支持面は、第1方向の中央部と流入端との間の領域に設けられ最上面を有するリーディングパッドと、中央部と流出端との間の領域で、流出端に隣接して設けられ最上面を有するトレーリングパッドと、トレーリングパッドの流入端の側の先端部と中央部との間の領域に設けられた他の最上面と、を含んでいる。トレーリングパッドの先端部と流出端との間の領域に設けられた最上面は、トレーリングパッドのみを含んでいる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ圧力発生面を構成する複数の最上面と前記最上面と高さの異なる他の複数の面とを含む空気支持面と、流入端と、前記流入端から第1方向に離間した流出端と、を有するスライダと、
前記スライダの流出端に設けられデータの記録再生を行うヘッド部と、を備え、
前記空気支持面は、前記第1方向の中央部に形成され前記第1方向と直交する第2方向に延びる負圧発生溝と、前記中央部と前記流入端との間の領域に設けられ前記最上面を有するリーディングパッドと、前記中央部と前記流出端との間の領域で、前記流出端に隣接して設けられ前記最上面を有するトレーリングパッドと、前記トレーリングパッドの前記流入端の側の先端部と前記中央部との間の領域に設けられた他の前記最上面と、を含み、
前記トレーリングパッドの前記先端部と前記流出端との間の領域に設けられた前記最上面は、前記トレーリングパッドのみを含んでいる、
磁気ヘッド。
【請求項2】
前記空気支持面の前記中央部と前記トレーリングパッドの流入側の端部との間の領域に設けられる最上面の面積は、前記空気支持面の前記第1方向の全長に亘る全領域に設けられている最上面の面積の合計に対して、3%以下である、請求項1に記載の磁気ヘッド。
【請求項3】
前記空気支持面の前記中央部と前記トレーリングパッドの流入側の端部との間の領域に設けられる最上面の面積は、前記空気支持面の前記中央部と前記流出端との間の領域に設けられた最上面の面積の合計に対して、60%以下である、請求項1又は2に記載の磁気ヘッド。
【請求項4】
前記スライダは、前記空気支持面の前記中央部と前記トレーリングパッドの流入側の端部との間の領域において、前記負圧発生溝に沿って前記第2方向に延びたクロスレールと、前記クロスレールから前記流出端の側へ直線状に延出した一対のサイドレールと、前記クロスレールと前記トレーリングパッドとの間に設けられた一対のセンターレールと、を有し、前記最上面は、前記クロスレールの上面、前記サイドレールの上面、および前記センターレールの上面を含んでいる、請求項3に記載の磁気ヘッド。
【請求項5】
前記トレーリングパッドは、前記流出端に隣接するベース部と、それぞれ前記ベース部から前記流入端の側に延出し前記センターレールに繋がる一対のサイドパッドと、前記ベース部から前記流入端の側に延出し前記一対のサイドパッドの間に位置するセンターパッドと、を有し、前記センターパッドの延出端は、前記トレーリングパッドの前記流入側の端部を構成している、請求項4に記載の磁気ヘッド。
【請求項6】
前記第1方向における前記流出端から前記センターパッドの延出端までの長さは、前記第1方向における前記スライダの前記流入端から前記流出端までの長さの1/5~1/4に形成されている、請求項5に記載の磁気ヘッド。
【請求項7】
回転自在に設けられたディスク状の記録媒体と、
前記記録媒体に対して情報を処理する請求項1に記載の磁気ヘッドと、
を備える磁気ディスク装置。
【請求項8】
前記空気支持面の前記中央部と前記トレーリングパッドの流入側の端部との間の領域に設けられる最上面の面積は、前記空気支持面の前記第1方向の全長に亘る全領域に設けられている最上面の面積の合計に対して、3%以下である、請求項7に記載の磁気ディスク装置。
【請求項9】
前記空気支持面の前記中央部と前記トレーリングパッドの流入側の端部との間の領域に設けられる最上面の面積は、前記空気支持面の前記中央部と前記流出端との間の領域に設けられた最上面の面積の合計に対して、60%以下である、請求項7又は8に記載の磁気ディスク装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、磁気ヘッドおよびこれを備える磁気ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置として、例えば、ハードディスクドライブ(HDD)は、回転自在に設けられた磁気ディスクと、磁気ディスクに対してデータの記録、読取りを行う磁気ヘッドと、を有している。磁気ヘッドは、スライダ(ヘッドスライダ)、およびスライダに設けられたヘッド部を有している。ヘッド部は、リード用の再生素子、ライト用の記録素子を含んで構成されている。スライダは、磁気ディスクの表面と対向する対向面(エアベアリングサーフェース:ABS)を有している。
【0003】
HDDの動作時、回転する磁気ディスクとスライダとの間に生じる空気流により、スライダのABSには、スライダを磁気ディスク表面から浮上させる力(正圧)が作用する。この浮上力とヘッド荷重とを釣り合わせることにより、スライダは磁気ディスク表面と一定の隙間を保って浮上する。この際、ABSの流入側の隙間、ここでは浮上量と定義するが、ABSの流出端の浮上量よりも大きく。すなわち、ABSと磁気ディスクとの隙間は、流入端から流出端に向かって狭くなる。
【0004】
また、スライダのABSには、スライダの流出端の側に搭載されたヘッド部と磁気ディスクとの隙間を所望の量に調整するために、凹凸が設けられている。ABSの内、ABSの最上面、すなわち磁気ディスク表面に最も近い面は、主に浮上力を発生させるのに使用される正圧発生面である。この最上面と磁気ディスク表面との距離を小さくすることで、発生する圧力を大きくすることができ、磁気ヘッドと磁気ディスク表面との隙間を安定に保つことができる。
近年、HDDの大容量化に伴い、記録密度の上げるために、磁気ヘッドの浮上量(隙間)は一層小さく設定されるようになっている。
【0005】
HDDの内部は高い清浄度に保たれているが、微量ながら塵、埃等のコンタミネーションが存在する。磁気ディスクの表面に付着したコンタミネーションが磁気ディスク表面とスライダのABSとの間の隙間に侵入すると、コンタミネーションは当該隙間がコンタミネーションの粒径も狭いところで挟まり、結果として磁気ディスク表面に傷が生じてしまう可能性がある。上述したように、近年、記録密度を上げるために、磁気ヘッドの浮上量が小さく設定されるため、例えば、粒径60~100nmの非常に小さいコンタミネーションも上記隙間に挟まる可能があり、これを低減する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第11,114,121号明細書
【特許文献2】米国特許第10,249,334号明細書
【特許文献3】米国特許第6,233,118号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明の実施形態の課題は、コンタミネーションによる障害を低減し、信頼性の向上した磁気ヘッドおよびこれを備える磁気ディスク装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態によれば、磁気ヘッドは、それぞれ圧力発生面を構成する複数の最上面と前記最上面と高さの異なる他の複数の面とを含む空気支持面と、流入端と、前記流入端から第1方向に離間した流出端と、を有するスライダと、前記スライダの流出端に設けられデータの記録再生を行うヘッド部と、を備えている。前記空気支持面は、前記第1方向の中央部に形成され前記第1方向と直交する第2方向に延びる負圧発生溝と、前記中央部と前記流入端との間の領域に設けられ前記最上面を有するリーディングパッドと、前記中央部と前記流出端との間の領域で、前記流出端に隣接して設けられ前記最上面を有するトレーリングパッドと、前記トレーリングパッドの前記流入端の側の先端部と前記中央部との間の領域に設けられた他の前記最上面と、を含んでいる。前記トレーリングパッドの前記先端部と前記流出端との間の領域に設けられた前記最上面は、前記トレーリングパッドのみを含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係るハードディスクドライブ(HDD)の内部構造を示す平面図。
図2図2は、前記HDDの磁気ディスクと磁気ヘッドおよびサスペンションとを拡大して示す側面図。
図3図3は、前記磁気ヘッドの空気支持面(ABS)の側を示す斜視図。
図4図4は、前記磁気ヘッドの空気支持面(ABS)の側を示す平面図。
図5図5は、図3の線V-Vに沿った磁気ヘッドの断面図。
図6図6は、図3の線VI-VIに沿った磁気ヘッドの断面図。
図7図7は、前記磁気ヘッドのNG確率とHDDのNG確率との関係を示すグラフ。
図8図8は、前記ABSの長手方向の位置におけるパーティクル押し込み確率を示すグラフ。
図9図9は、パーティクルのサイズと傷NG発生の重みとのア関係を示すグラフ。
図10図10は、ABSの領域Aに対する領域Bの割合と磁気ヘッドのNG発生確率との関係を示すグラフ。
図11図11は、ABSの領域Cに対する領域Bの割合と磁気ヘッドのNG発生確率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下図面を参照しながら、実施形態に係る磁気ディスク装置ついて説明する。
なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更であって容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0011】
(実施形態)
磁気ディスク装置の一例として、実施形態に係るハードディスクドライブ(HDD)について詳細に説明する。図1は、実施形態に係るHDDの内部構造を示している。
図1に示すように、HDDは筐体10を備えている。筐体10は、上面の開口した矩形箱状のベース12と、ベース12の上端開口を閉塞する図示しないトップカバーと、を有している。ベース12は、矩形状の底壁12aと、底壁12aの周縁に沿って立設された側壁12bとを有している。
筐体10内には、記録媒体としての1枚あるいは複数枚の磁気ディスク16、および磁気ディスク16を支持および回転させる駆動部としてのスピンドルモータ23が設けられている。磁気ディスク16は、スピンドルモータ23の図示しないハブに互いに同軸的に嵌合されているとともにクランプばね27によりクランプされ、ハブに固定されている。磁気ディスク16は、スピンドルモータ23により矢印A方向に所定の速度で回転される。
【0012】
筐体10内に、磁気ディスク16に対してデータのライト/リードを行なう複数の磁気ヘッド17、これらの磁気ヘッド17を磁気ディスク16に対して移動可能に支持したキャリッジアッセンブリ22が設けられている。筐体10内に、キャリッジアッセンブリ22を回動および位置決めするボイスコイルモータ(以下VCMと称する)24、磁気ヘッド17が磁気ディスク16の最外周に移動した際、磁気ヘッド17を磁気ディスク16から離間したアンロード位置に保持するランプロード機構25、HDDに衝撃等が作用した際、キャリッジアッセンブリ22を退避位置に保持するラッチ機構26、および変換コネクタ等を有する基板ユニット21が設けられている。
【0013】
ベース12の底壁12aの外面に、図示しないプリント回路基板がねじ止めされている。プリント回路基板は、スピンドルモータ23の動作を制御するとともに、基板ユニット21を介してVCM24および磁気ヘッド17の動作を制御する。
【0014】
図2は、浮上状態の磁気ヘッドおよび磁気ディスクを模式的に示す側面図である。図1および図2に示すように、磁気ディスク16は、例えば、直径約95mm(3.5インチ)の円板状に形成された非磁性体からなる基板101を有している。基板101の両面には、下地層として軟磁気特性を示す材料からなる軟磁性層102と、その上層部に、磁気記録層103と、その上層部に保護膜層104とが順に積層されている。
【0015】
キャリッジアッセンブリ22は、複数本のアーム28と、各アーム28から延出するヘッドジンバルアッセンブリ30と、を有している。各ヘッドジンバルアッセンブリ30は、細長い板ばね状のサスペンション34と、サスペンション34上に設けられた配線部材としてのフレキシャ41と、磁気ヘッド17と、を有している。磁気ヘッド17は、フレキシャ41のジンバル部36を介して、サスペンション34の先端部に支持されている。
【0016】
図2に示すように、磁気ヘッド17は浮上型のヘッドとして構成され、ほぼ直方体状に形成されたスライダ31と、スライダ31の流出端(トレーリング)側の端部に形成されたヘッド部33とを有している。スライダ31は、磁気ディスク16の表面に対向する空気支持面(ABS)40を有している。磁気ヘッド17は、磁気ディスク16の回転によって磁気ディスク16の表面とスライダ31のABS40との間に生じる空気流Bにより浮上する。空気流Bの方向は、磁気ディスク16の回転方向Aと一致している。
【0017】
次に、磁気ヘッド17の構成について詳細に説明する。図3は磁気ヘッドのスライダを示す斜視図、図4はスライダのABS側を示す平面図である。
図3および図4に示すように、磁気ヘッド17のスライダ31は、ほぼ直方体状に形成され、磁気ディスク16の表面に対向する矩形状の空気支持面(ディスク対向面)(air bearing surface :ABS)40、ABS40と対向する矩形状の背面42d、ABS40と直交して延びる流入端面(リーディング側端面、流入端)42a、ABS40と直交して延びる流出端面(トレーリング側端面、流出端)42b、およびそれぞれABS40と直交して流入端面42aと流出端面42bとの間を延びる一対の側面42cを有している。スライダ31は、ABS40と反対側に位置する背面42dがフレキシャ41のジンバル部に固定される。
【0018】
ABS40の長手方向を第1方向X、これと直交する幅方向を第2方向Yとする。一例では、スライダ31は、第1方向Xの長さLが1.25mm以下、例えば、1.235mm、第2方向Yに沿った幅Wが1.0mm以下、例えば、0.7mm、厚さT1が0.23~0.3mmに形成され、いわゆるペムトスライダとして構成されている。
【0019】
図5図3の線V-Vに沿ったスライダの縦断面図、図6図3の線VI-VIに沿ったスライダの横断面図である。図示のように、スライダ31の上面(ABS40)は、第1方向Xに沿って凸となる円弧状に湾曲し、いわゆるクラウンを形成している。また、ABS40は、第2方向Yに沿って凸となる円弧状に湾曲し、いわゆるキャンバを形成している。クラウンおよびキャンバの中央部の高さT2は、一例では、15nm程度に形成されている。
【0020】
図3ないし図5に示すように、ABS40の第1方向Xのほぼ中央部に帯状の深溝(負圧発生溝)50が形成されている。深溝50は、スライダ31の第2方向Yの全長に亘って延在し、スライダ31の両側面42cに開口している。スライダ31の厚さT1を、例えば0.23mmとした場合、深溝50の深さは、1~5μm、例えば3μmに形成されている。深溝50を設けることにより、HDDで実現される全てのヨー角において、深溝50のリーディング側で負圧を発生させることができる。
【0021】
ABS40のリーディング側端部に、ほぼ矩形状のリーディングステップ52が形成されている。リーディングステップ52は、深溝50の底面に対し突出して設けられ、かつ、空気流Bに対して深溝50の流入側に位置している。
磁気ヘッド17のピッチ角を維持するため、リーディングステップ52上には、空気膜によってスライダ31を支えるリーディングパッド53が突設されている。リーディングパッド53の上面は、流入側の圧力発生面、つまり、最上面を形成している。リーディングパッド53は、流入側に向かって複数個所が開放するM字形状に形成されている。リーディングステップ52の第2方向Yのほぼ中央部に、リーディング溝55が形成されている。リーディング溝55は、例えば、T字形状を有し、中心軸線Dに対して左右対称に形成されている。本実施形態では、更に、リーディングステップ52の上に一対のエンドパッド51が設けられている。一対のエンドパッド51は、スライダ31の流入端から流出側、かつ、中心軸線Dの側に向かって、リーディングパッド53の近傍まで延びている。
リーディングパッド53の上面およびエンドパッド51の上面は、スライダ31の最上面であり、ABS40の流入側の主たる圧力(正圧)発生面を構成している。なお、図4において、ABS40の最上面はドットを付加して表示している。
【0022】
図3ないし図5に示すように、ABS40の第1方向Xのほぼ中央部から流出端面42bに亘って、凹所からなる負圧キャビティ54が形成されている。負圧キャビティ54は、深溝50の流出端側に位置し、流出端面42bに向かって開放している。負圧キャビティ54は、深溝50よりも浅く形成され、すなわち、深溝50の底面よりも高い位置に形成されている。負圧キャビティ54の深さは500~1500nm、例えば1000nmに形成されている。負圧キャビティ54の底面に、一対のトレーリング溝59が形成されている。一対のトレーリング溝59は、中心軸線Dの両側に位置し、それぞれ第1方向Xに延びている。トレーリング溝59は、深溝50と同程度の深さに形成されている。負圧キャビティ54およびトレーリング溝59を設けることにより、HDDで実現される全てのヨー角において、負圧を発生させることができる。
【0023】
ABS40において負圧キャビティ54の流入側を囲うようにリブ状の中間クロスレール56、一対のサイドレール58、および一対のセンターレール68が形成されている。中間クロスレール56は、深溝50と負圧キャビティ54との間に位置し、第2方向Yに沿ってABS40の両側縁間を延びている。中間クロスレール56は、負圧キャビティ54の底面に対し突出して設けられ、かつ、空気流Bに対して負圧キャビティ54の流入側に位置している。
一対のサイドレール58は、ABS40の各側縁に沿って形成され、中間クロスレール56からABS40の流出端側に直線状に延出している。これらのサイドレール58は負圧キャビティ54の底面に対し突出している。中間クロスレール56の上面およびサイドレール58の上面は、ABS40の最上面(主たる圧力発生面)を構成している。
【0024】
一対のスカート60はABS40の各側縁(側面42c)に沿って形成され、それぞれ第1方向Xに沿ってサイドレール58からABS40の流出端面42b近傍まで延びている。各スカート60は、負圧キャビティ54の底面に対し突出して設けられ、かつ、サイドレール58よりも低く形成されている。
中間クロスレール56、一対のサイドレール58、および一対のスカート60は、全体として、上流側が閉塞され、下流側に向かって開放したほぼU字形状に形成されている。中間クロスレール56、一対のサイドレール58、および一対のスカート60により負圧キャビティ54が規定されている。
【0025】
図3ないし図6に示すように、スライダ31は、空気流Bの方向に対して、ABS40の流出端の側に形成されたトレーリングステップ62を有している。トレーリングステップ62は、負圧キャビティ54の底面に対し突出して形成され、その突出高さは、リーディングステップ52と同程度の高さに形成されている。トレーリングステップ62は、ABS40の第2方向Yのほぼ中央に位置している。トレーリングステップ62には、空気膜によってスライダ31を支えるトレーリングパッド(流出側の圧力発生面)63が突設されている。
【0026】
トレーリングパッド63は、ベース部63aと、ベース部63aから延出する一対のサイドパッド63bおよびセンターパッド63cとを有している。ベース部63aは、第2方向Yに延びているとともに、トレーリングステップ62の流出端面、ここでは、スライダ31の流出端面42bから流入側に隙間を置いて設けられている。一対のサイドパッド63bは、細長いリブであり、ベース部63aの両端部からそれぞれリーディング側に向かって第1方向Xに延出している。センターパッド63cは細長いリブであり、中心軸線D上に位置し、ベース部63aからリーディング側に向かって第1方向Xに延出している。図4に示すように、一例では、センターパッド63cの延出端と流出端面42bとの間の長さLCは、スライダ31の第1方向Xの全長Lの1/4以下程度に設定している。
トレーリングパッド63は、リーディングパッド53、中間クロスレール56、サイドレール58と同一高さレベルに形成され、トレーリングパッド63の上面は、ABS40の最上面(主たる圧力発生面)を構成している。
【0027】
磁気ヘッド17のヘッド部33は、磁気ディスク16に対して情報の記録再生を行う記録素子65および再生素子66を有している。これら記録素子65および再生素子66は、空気流Bの方向に対して、スライダ31の流出側端部内、ここでは、トレーリングステップ62内に埋め込まれている。記録素子65および再生素子66は、トレーリングパッド63の位置でABS40の最上面に露出している。
【0028】
細長い一対のセンターレール68は、第1方向Xに沿って、中間クロスレール56からトレーリングステップ62まで延びている。一対のセンターレール68は、スライダ31の中心軸線Dの両側に位置し、第2方向Yに隙間を置いて、互いに対向している。センターレール68は、深溝50とトレーリングステップ62との間の領域で、かつ、スライダ31の一対の側縁間の中央領域(第2方向Yの中央部)に設けられている。一方のセンターレール68は、中間クロスレール56を超えて深溝50内に延出している。センターレール68は、負圧キャビティ54の底面からの高さが、中間クロスレール56およびトレーリングパッド63の高さと同一に形成されている。センターレール68の上面は、スライダ31の最上面を構成している。
一対のセンターレール68の間に、空気流をトレーリングステップ62およびトレーリングパッド63に導くガイド溝76が形成されている。ガイド溝76は、中心軸線Dに沿って形成され、深溝50を通り、更に、リーディングステップ52まで延びている。
【0029】
上記のように構成されたABS40の凹凸構造は、スライダ31の上面(最上面、ABS40)の所定部位をミリングして、溝、キャビティ、ステップ部を形成することにより得られる。
次に、上述した磁気ヘッドと磁気ディスクとの間の隙間に噛み込まれるコンタミネーション(パーティクル)に起因する傷付きの発生状況について、検証結果を説明する。
粒径60~100nmのコンタミネーションをHDDに注入し、HDDのNG発生確率と、搭載された磁気ヘッドのNG発生確率との関係を検証したところ、図7に示すような関係を見出した。図7において、横軸は、磁気ヘッドのNG発生確率を示し、縦軸は、HDDの生存率(NG発生確率)を示している。HDDの生存率は、搭載されている全ての磁気ヘッドでNGが生じないということを示している。なお、試験は、概ね200倍のNG発生加速を行っている。
図7に示すように、磁気ヘッド、1本当たりのNG発生確率が高くなると、HDDの生存確率は下がってくる。従って、磁気ヘッド、1本当たりのNG発生確率が下がるような浮上面(ABS)設計が必要になる。
【0030】
スライダ31のABS40における最上面と磁気ディスクの表面との間の隙間は、ABS40の第1方向Xの中央部と流出端面との間の領域Bにおいては、100nm以下となる。そのため、領域Bでは、粒径60~100nmのコンタミネーションが最上面と磁気ディスク表面との間に挟まることが容易に想像できる。
【0031】
図8は、最上面と磁気ディスク表面との間の隙間にコンタミネーションが噛み込まれる確率(噛み込み確率:スタックレート)をABS40の第1方向Xの位置に応じて求めた結果を示している。上記確率の算定では、ABS40は凹凸がない平面で形成されているものと仮定している。この結果から、粒径60~100nmのコンタミネーションの場合、領域Aの一部分、特に、第1方向Xの中央部と流出端との間の領域C(例えば、0.15~0.5mmの範囲)で、コンタミネーションの押し込み確率が高く、磁気ディスク表面の傷付きに寄与することが分かる。従って、領域Cにおける最上面の面積を減じることで磁気ディスクの傷付きの発生を低減することができる。
【0032】
磁気ディスクの傷付きの影響は、コンタミネーションの粒径が大きくなると、2次関数的に増大する。これは、傷の幅と深さが磁気ディスク装置のNGに関連するためである。図9は、コンタミネーションの粒径(パーティクルサイズ)と傷NG発生の重みとの関係を示している。磁気ディスクの傷発生率は、
(ABS40の領域Cにおける最上面の面積×噛み込み確率×傷NG発生の重み)
により求めることができる。ここで、領域Cは、ABS40の第1方向Xの中央部と流出端側の半分の位置との間の領域を示している。
【0033】
本実施形態に係るHDDでは、上述した検証結果に基づいて、ABS40の最上面の配置、面積を設定している。
すなわち、図4に示すように、本実施形態に係る磁気ヘッド17において、ABS40の第1方向Xの全長に亘る全領域を領域C、第1方向Xの中央部と流出端面42bとの間の領域を領域A、第1方向Xの中央部とセンターパッド63cの先端との間の領域を領域Bとした場合、領域Aにおける最上面(主たる圧力発生面と同一高さの面)の面積を小さく設定している。一方、ヘッド部33が搭載されるトレーリングパッド63は、磁気ディスクの表面との隙間が60nm以下であり、コンタミネーションによる傷発生のリスクが小さい。トレーリングパッド63は、ABS40のなかで最も高い正圧を発生する最上面であり、ヘッド部33と磁気ディスクとの隙間を安定的に確保するためには一定の面積が必要となる。また、領域Aにおける最上面は、負圧発生にも寄与するため、その面積をゼロにすることはできない。これらのことから、面積を減じることが可能な最上面は、領域Bに位置する最上面となる。
【0034】
図10は、ABS40の領域Cに位置する最上面の面積の合計に対する領域Bに位置する最上面の面積の比率と、ヘッドNG発生確率との関係を示している。
本実施形態によれば、領域Bに位置する最上面の面積の比率を2~3%程度に設定している。比較例1および比較例2では、領域Bに位置する最上面の面積の比率を6%前後に設定している。図10から、本実施形態では最上面の面積の比率を小さくすることにより、比較例1、2に比較して、ヘッドNG発生確率が大幅に低下することが分かる。
【0035】
図11は、ABSの領域Aに位置する最上面の面積の合計に対する領域Bに位置する最上面の面積の比率と、ヘッドNG発生確率との関係を示している。
本実施形態によれば、領域Bに位置する最上面の面積の比率を60%以下、例えば、55%程度に設定している。比較例1および比較例2では、領域Bに位置する最上面の面積の比率を80%前後に設定している。図11から、面積比率を減じていくと、ヘッドのNG発生隔離が二次関数的に低下することが分かる。本実施形態では領域Bにおける最上面の面積の比率を60%以下とすることにより、比較例1、2に比較して、ヘッドNG発生確率が大幅に低下することが分かる。
【0036】
以上のように、本実施形態によれば、ABS40の領域Bに設けられる最上面の面積の割合は、領域Cに位置する最上面の面積の合計に対して3%以下とし、かつ、領域Aに設けられている最上面の面積の合計に対して60%以下に設定している。
なお、ABS40の最上面の一部又は全部は、スライダ31のクラウンおよびキャンバの形状に合わせて僅かに湾曲しているが、これらの湾曲した最上面も、圧力発生面と同一高さの最上面に含まれるものとしている。
【0037】
図4に示したように、領域Bにおける最上面は、中間クロスレール56、一対のサイドレール58、および一対のセンターレール68の上面を含んでいる。中間クロスレール56、一対のサイドレール58、および一対のセンターレール68のそれぞれの幅は、最上面の面積が上記の割合3%以下、および60%以下となるような幅に設定されている。更に、最上面の面積が小さくなるように、各サイドレール58は、途中で折り返されることなく、第1方向Xに直線状に延在している。サイドレール58の第1方向Xの長さは、領域Bの第1方向Xの長さの1/2以下に設定されている。
領域Aにおいて、領域Bの下流側(流出端側)の領域には、最上面としてトレーリングパッド63のみが設けられ、それ以外の最上面(圧力発生面と同一高さの面)は設けられていない。
【0038】
以上のように、本実施形態に係るHDDの磁気ヘッドによれば、スライダ31は、磁気ディスク16に対向する空気支持面(ABS40)、流入端面42aおよび流出端面42bを有し、ABS40は、高さの異なる複数の面を有した凹凸構造を成している。ABS40の複数の面は、主たる圧力発生面となる最上面を含んでいる。ABS40の第1方向Xの中央部よりも流出端の側の領域において、流出端の近傍に、最上面を有するトレーリングパッド63が設けられ、トレーリングパッド63の流入側の端部と上記中央部との間の領域に、他の最上面が設けられている。流出端近傍の領域、すなわち、トレーリングパッド63の流入側の先端と流出端面42bとの間の領域、は、トレーリングパッド以外の最上面(圧力発生面)を有していない。
【0039】
ABS40の第1方向Xの中央部とトレーリングパッド63の流入側の端部との間の領域Bに設けられる最上面の面積は、ABS40の第1方向Xの全長に亘る全領域Cに設けられている最上面の面積の合計に対して、3%以下に設定されている。また、領域Bに設けられる最上面の面積は、第1方向Xの中央部と流出端面42bとの間の領域Aに設けられた最上面の面積の合計に対して、60%以下に設定されている。
上記構成の磁気ヘッドおよびHDDによれば、ヘッド部33が搭載されたトレーリングパッドの面積を確保しつつ、ABS40の中央部からトレーリングパッドの先端部との間の領域Bにおける最上面の面積を減じることが可能となる。これにより、スライダのABSと磁気ディスク表面との間の隙間へのコンタミネーションの噛み込みを低減し、コンタミネーションに起因する磁気ヘッドおよび磁気ディスクの障害、特性劣化を低減することができる。以上のことから、本実施形態によれば、信頼性の向上した磁気ヘッドおよびHDDを得ることができる。
【0040】
なお、上述した実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、磁気ヘッドのスライダは、ペムトスライダに限らず、ピコスライダ、フェムトスライダ、あるいは、より寸法の大きなスライダにも適用可能である。スライダにおける、トレーリングステップ、トレーリングパッド、その他の部分の形状、寸法等は、必要に応じて変更可能である。ディスクドライブにおいて、磁気ディスクは、3.5インチに限らず、他の大きさの磁気ディスクとしてもよい。磁気ディスクは2枚に限らず、1枚あるいは3枚以上としてもよく、磁気ヘッドの数も磁気ディスクの設置枚数に応じて増減すればよい。
【符号の説明】
【0041】
10…筐体、12…ベース、16…磁気ディスク、17…磁気ヘッド、
31…スライダ、33…ヘッド部、40…空気支持面(ABS)、
42a…流入端面、42b…流出端面、42c…側面、50…負圧発生溝(深溝)、
52…リーディングステップ、53…リーディングパッド、56…中間クロスレール、
58…サイドレール、62…トレーリングステップ、63…トレーリングパッド、
63c…センターパッド、68…センターレール
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
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図9
図10
図11