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  • 特開-余寿命評価システム及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170921
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】余寿命評価システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/04 20060101AFI20231124BHJP
   G01N 33/00 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
G01N29/04
G01N33/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083023
(22)【出願日】2022-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】八代醍 健志
(72)【発明者】
【氏名】中根 一起
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047AB01
2G047BC10
2G047BC18
(57)【要約】
【課題】検査時に検出された欠陥に対する健全性評価を短時間で実行することで、迅速な保守計画の提供ができる余寿命評価システム及び方法を提供する。
【解決手段】構造物の余寿命を評価する余寿命評価システムであって、事前に構造物の評価対象部の健全状態・設計状態に相当する解析モデルを作成しておく事前準備工程と、点検を行い評価対象部の形状を測定する現地計測工程と、評価対象部の寸法計測結果を解析モデルに反映する反映工程と、疲労亀裂の余寿命評価を行う評価工程を有することを特徴とする余寿命評価システム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の余寿命を評価する余寿命評価システムであって、
事前に前記構造物の評価対象部の健全状態・設計状態に相当する解析モデルを作成しておく事前準備工程と、点検を行い前記評価対象部の形状を測定する現地計測工程と、前記評価対象部の寸法計測結果を前記解析モデルに反映する反映工程と、疲労亀裂の余寿命評価を行う評価工程を有することを特徴とする余寿命評価システム。
【請求項2】
請求項1に記載の余寿命評価システムであって、
前記評価工程は、疲労亀裂進展の評価を行うものであることを特徴とする余寿命評価システム。
【請求項3】
請求項1に記載の余寿命評価システムであって、
前記評価工程は、疲労亀裂発生の評価を行うものであることを特徴とする余寿命評価システム。
【請求項4】
請求項1に記載の余寿命評価システムであって、
前記評価工程において、有限要素法による疲労亀裂進展評価にメッシュフリー法(特に、拡張有限要素法:X-FEM)を用いることを特徴とする余寿命評価システム。
【請求項5】
請求項1に記載の余寿命評価システムであって、
前記反映工程において、評価対象の劣化形状(欠陥、減肉)をUTで計測した結果から作成した形状(曲面、点群)に対し、事前に用意した解析モデルの節点を配管の周方方向座標を固定して半径方向に移動させることで、計測形状を反映することを特徴とする余寿命評価システム。
【請求項6】
請求項5に記載の余寿命評価システムであって、
前記反映工程における前記解析モデルの形状調整において、欠陥形状を反映させる側の表面と深さ方向が次の節点を想定する初期亀裂深さに合わせて移動させることを特徴とする余寿命評価システム。
【請求項7】
請求項5に記載の余寿命評価システムであって、
前記反映工程における前記解析モデルの形状調整において、節点の移動は、移動先の曲面・点群に合わせて反復法を用いることを特徴とする余寿命評価システム。
【請求項8】
請求項1に記載の余寿命評価システムであって、
事前に作成しておく評価対象の解析モデルでは、配管を対象とした場合には、評価部に対して節点および要素番号を半径、周、軸方向別に任意の桁事に識別可能な番号を割り当てておくことを特徴とする余寿命評価システム。
【請求項9】
構造物の余寿命を評価する余寿命評価方法であって、
事前に前記構造物の評価対象部の健全状態・設計状態に相当する解析モデルを作成し、点検を行い前記評価対象部の形状を測定し、前記評価対象部の寸法計測結果を前記解析モデルに反映し、疲労亀裂の余寿命評価を行うことを特徴とする余寿命評価方法。
【請求項10】
請求項9に記載の余寿命評価方法であって、
前記余寿命評価は、疲労亀裂進展の評価を行うものであることを特徴とする余寿命評価方法。
【請求項11】
請求項9に記載の余寿命評価方法であって、
前記余寿命評価は、疲労亀裂発生の評価を行うものであることを特徴とする余寿命評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば発電プラントに使用される配管において、特に経年劣化や疲労損傷が予想される部位に対する寿命を評価する余寿命評価システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高経年化が進む例えば発電プラントにおいて、経年劣化した機器に対する健全性評価技術の高精度化は、安全性の向上やプラント寿命の延長に対して重要である。
【0003】
従来の健全性評価技術では、非特許文献1に示されているように、定期検査時に非破壊検査にて欠陥が検出された場合、当該機器の運用条件から想定される経年劣化事象を考慮した亀裂進展評価が行われ、次回点検までに健全性を維持できることが確認される。
【0004】
また一般的に、亀裂進展評価は簡易式や有限要素法を用いて応力拡大係数を求めることにより行われる。有限要素法を用いた亀裂進展評価では、特許文献1、特許文献2に示されているように、複雑な幾何形状や応力分布を反映することができる一方で、複雑な解析モデルの作成が必要であり、亀裂進展を伴う場合には解析モデルの再作成および再解析が必要であり、非常に大きな計算コストが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-324497号公報
【特許文献2】特開2003-4599号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本原子力技術協会、「炉内構造物等点検評価ガイドライン」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このため、非破壊検査により得られた欠陥形状を反映した寿命・余寿命評価が速やかに実行できず、保守計画立案に時間を要することで発電プラントの停止期間の延長に繋がることが多かった。
【0008】
また非破壊検査で得られた欠陥形状を短時間・効率的に解析モデルへ反映し、短期間で亀裂進展評価結果を提供する手段が存在しないため、安全率を大きくとった保守的な寿命・余寿命評価が行われている。そのため、発電プラント設備の余寿命を短く見積もり、発電プラント全体の効率低下を招いている。
【0009】
以上のことから本発明においては、検査時に検出された欠陥に対する健全性評価を短時間で実行することで、迅速な保守計画の提供ができる余寿命評価システム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上のことから本発明においては「構造物の余寿命を評価する余寿命評価システムであって、事前に構造物の評価対象部の健全状態・設計状態に相当する解析モデルを作成しておく事前準備工程と、点検を行い評価対象部の形状を測定する現地計測工程と、評価対象部の寸法計測結果を解析モデルに反映する反映工程と、疲労亀裂の余寿命評価を行う評価工程を有することを特徴とする余寿命評価システム」としたものである。
【0011】
また本発明においては「構造物の余寿命を評価する余寿命評価方法であって、事前に造物の評価対象部の健全状態・設計状態に相当する解析モデルを作成し、点検を行い評価対象部の形状を測定し、評価対象部の寸法計測結果を解析モデルに反映し、疲労亀裂の余寿命評価を行うことを特徴とする余寿命評価方法」としたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、検査時に検出された欠陥に対する健全性評価を短時間で実行することで、迅速な保守計画の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例1に係る余寿命評価システム(疲労亀裂進展評価)における評価手順を示すフロー図。
図2】配管の一部を格子状のメッシュに要素分割したことを示す図。
図3】解析モデルへの計測形状の反映方法の模式を示す図。
図4】非破壊検査結果を反映した解析モデルの例を示す図。
図5】基本解析モデルにおける要素・節点番号設定の例を示す図。
図6】本発明の実施例2に係る余寿命評価システム(疲労亀裂発生評価)における評価手順を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について図面に沿って説明する。なお実施例1では余寿命評価システムとして疲労亀裂進展評価に適用することを、実施例2では余寿命評価システムとして疲労亀裂発生評価に適用することを説明する。
【実施例0015】
図1は、本発明の実施例1に係る余寿命評価システムにおける評価手順を示すフロー図である。図1に示す余寿命評価システム1(疲労亀裂進展評価)は、ここでは例えば発電プラント設備における機器の、特に疲労亀裂進展寿命を評価する。余寿命評価システム1における処理工程の概略を示すと、これは事前に評価対象部の健全状態・設計状態に相当する解析モデルを作成しておく事前準備工程11と、定期検査時に非破壊検査による点検を行い評価対象部の欠陥や劣化形状を測定する現地計測工程12と、検査結果や製造時の寸法計測結果を解析モデルに反映する反映工程13と、有限要素法により疲労亀裂進展評価を行い、余寿命を評価する評価工程14から構成されている。
【0016】
本発明では、事前準備工程11と現地計測工程12が人手により事前に実行されており、反映工程13と評価工程14が計算機により実行されることを想定している。なお、ここでは配管を対象とした評価について述べる。
【0017】
まず、事前準備工程11(第1段階)では、具体的には処理ステップS10において事前に評価対象部の健全状態・設計状態に相当する解析モデルとして、例えば配管であれば設計形状(健全状態)をベースに有限要素解析モデルを作成しておく。本発明では、X-FEMによる疲労亀裂進展を前提とするため、疲労亀裂進展を評価する部位は格子状のメッシュによりモデル化する。
【0018】
図2は、配管20の一部を格子状のメッシュに要素分割したものであり、この段階では設計図面通りの寸法で解析モデルを作成する。図示の拡大図21の例に示すように、格子状のメッシュは配管内面ばかりではなく、肉厚方向にもメッシュ化されている。この時、解析モデルの各要素の節点(要素化されたメッシュの四隅)は、配管20の半径方向61、周方向62、軸方向63に均等に分割することが推奨される。
【0019】
次に図1の、定期検査時に非破壊検査による点検を行い評価対象部の欠陥や劣化形状を測定する現地計測工程12(第2段階)では、具体的には処理ステップS11において一般的に欠陥の検出に用いられるUT検査などにより、配管の板厚(減肉含む)や亀裂形状を計測する。この時、溶接部を対象とする場合は、裏波などの形状も評価対象とするのがよい。なお、非接触三次元計測機などで配管の楕円変形などを計測できるとより高精度な評価が可能となる。
【0020】
検査結果や製造時の寸法計測結果を解析モデルに反映する反映工程13(第3段階)では、具体的には処理ステップS12において非破壊検査で得られた評価対象の形状を局面データ(例えば計測形状の面/点群データ)などとして取り込み、処理ステップS13において同データが示す経年劣化形状を基準に第1段階(事前準備工程11)で準備した基本解析モデルに反映する。
【0021】
図3は、解析モデルへの計測形状の反映方法の模式図である。図3は、配管の半径方向61における断面、従って配管の肉厚部を拡大して示した図であり、解析モデルでは配管設計時(配管運用開始時)に配管の内周面が30で模擬されていたものが、亀裂により減肉された内周面を34のように模擬する事例を示している。なおここで、31は肉厚方向に格子状にメッシュ化された第1層の模擬ラインを示しており、亀裂後の第1層が35の模擬ラインで示されている。
【0022】
本発明では図3に示すように、現地計測工程12(第2段階)で内周面30に亀裂が計測されたときの反映工程13の事例として、亀裂部位の配管肉厚部の形状を円弧形状の内周面34及び第1層35で模擬して解析モデルへの計測形状の反映としたものである。
【0023】
図3の反映工程13では、配管の内面に局部的な減肉が計測された場合を示しており、まず配管の解析モデル内面の節点(要素化されたメッシュの四隅)を計測された内面の曲面に移動させる。なお、節点の移動(例えば節点33を節点34に移動)は配管の半径方向61への移動のみで調整し、軸方向63および周方向62の座標は固定とした。また、内面から深さ方向第1層(35)目の節点については、半径方向61の亀裂深さに合わせて移動させ、こちらも半径方向のみ移動させ、軸方向62および周方向63の座標は固定とする。X-FEMでの初期亀裂形状は、汎用解析コードAbaqusでは要素形状に依存した形状を定義する必要があるが、ここで移動させた表面の要素を用いて初期欠陥形状を定義する。
【0024】
第2層以降は第1層35の節点後の座標と外面の距離に合わせて半径方向に移動させて調整する。なお、ここで節点の移動量はニュートン法などの反復法を用いて調整する。図4は局部的な減肉形状を仮定して解析モデルに反映した例であり、本手法を用いることで容易に非破壊検査で得られた経年劣化形状を反映することができる。図4において亀裂24は、表面層34と第1層35の間に生じた亀裂を模擬したことを示している。
【0025】
有限要素法により疲労亀裂進展評価を行い、余寿命を評価する評価工程14(第4段階)では、第3段階で作成した非破壊検査で得られた形状および欠陥形状を反映した解析モデルを用いて処理ステップS14において亀裂進展評価などの疲労亀裂進展解析を行い、処理ステップS15において例えば貫通するまでの寿命を求めることができる。
【0026】
なお、事前に作成する解析モデルでは、図5に示すように、節点および要素番号を半径、周、軸方向それぞれについて任意の桁に割り当て変えて連続した番号で作成することで、第3段階での解析モデルの形状変更や亀裂位置設定において各節点の位置を容易に特定することができ、モデル修正を効率化できる。
【0027】
例えば図5において、43は要素(格子状のメッシュ)、44は節点であり、各接点を半径方向61、周方向62、軸方向63のそれぞれを示すコードで表現している。例えば5桁のコードの下2桁が半径方向61を示す番号46、5桁のコードの中2桁が軸方向63を示す番号47、5桁のコードの上1桁が周方向62を示す番号48としている。
【実施例0028】
本発明の実施例2に係る余寿命評価システム(疲労亀裂発生評価)における評価手順を示すフロー図である。図1に示した疲労亀裂進展評価システムから疲労亀裂進展評価工程の処理ステップS14を除いて、代わりに処理ステップS14Aとして亀裂発生寿命評価(疲労亀裂発生予測)機能としたものであり、発電プラント設備における機器の亀裂発生寿命を予測するためのシステムとしたものである。
【0029】
このシステムでは、事前に評価対象部の健全状態・設計状態に相当する解析モデルを作成しておく事前準備工程11と、定期検査時に非破壊検査による点検を行い評価対象部の劣化形状(楕円変形、減肉など)を測定する現地計測工程12と、検査結果や製造時の寸法計測結果を解析モデルに反映する反映工程13と、有限要素法により疲労亀裂発生評価を行い、寿命を評価する評価工程14から構成される。本実施例では、非接触3次元計測を用いて外面形状を計測し、UTで板厚を評価することで製造時の誤差や運用に伴う変形形状を考慮した亀裂発生予測が可能となる。
【符号の説明】
【0030】
1:疲労亀裂進展評価システム
11:事前準備工程
12:現地計測工程
13:反映工程
14:評価工程
20:配管の解析モデル
21:配管の解析モデルの拡大
22:計測結果を反映した解析モデル
23:計測結果を反映した解析モデルの拡大
31:要素境界(基本モデル、第1層)
30:配管内表面(基本モデル)
32:移動後節点(計測形状)
33:移動前節点(基本モデル)
34:計測形状の定義曲面
35:亀裂深さ相当の定義曲面
61:半径方向
63:軸方向
62:周方向
43:要素
44:節点
45:節点番号
46:半径方向の節点番号割り当て
47:軸方向の節点番号割り当て
48:周方向の節点番号割り当て
図1
図2
図3
図4
図5
図6