(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170923
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】燃料噴射弁
(51)【国際特許分類】
F02M 51/06 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
F02M51/06 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083027
(22)【出願日】2022-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】久芳 茂生
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 貴博
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066BA03
3G066CA21
3G066CC22
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、燃料流れに旋回エネルギを付与した後の燃料通路を短くすることができ、燃料噴射孔から噴射される燃料同士の衝突により微粒化が阻害されることのない燃料噴射弁を提供することにある。
【解決手段】
本発明の燃料噴射弁は、協働して燃料通路の開閉を行う弁座15b及び弁体17と、弁座15b及び弁体17の下流側に設けられ燃料に旋回エネルギを付与して噴射する旋回用通路211,212と、旋回用通路211,212の下流側に設けられ燃料を外部に噴射する燃料噴射孔220と、を備え、旋回用通路211,212は、弁体17の弁軸心の延長線1a上に配置され燃料を旋回させる旋回室212と、旋回室212の中心に対してオフセットするように旋回室212に接続されたオフセット通路211と、を備え、燃料噴射孔220は、弁軸心の延長線1a上で旋回室212に接続される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
協働して燃料通路の開閉を行う弁座及び弁体と、
前記弁座及び前記弁体の下流側に設けられ燃料に旋回エネルギを付与して噴射する旋回用通路と、
前記旋回用通路の下流側に設けられ燃料を外部に噴射する燃料噴射孔と、を備え、
前記旋回用通路は、
前記弁体の弁軸心の延長線上に配置され燃料を旋回させる旋回室と、
前記旋回室の中心に対してオフセットするように前記旋回室に接続されたオフセット通路と、を備え、
前記燃料噴射孔は、前記弁軸心の延長線上で前記旋回室に接続される燃料噴射弁。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料噴射弁であって、
前記弁座が形成された弁座部材と、
前記弁座部材の、当該燃料噴射弁の先端側に位置する先端面に取り付けられたノズルプレートと、を備え、
前記旋回用通路は、前記ノズルプレートに形成される燃料噴射弁。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料噴射弁であって、
前記弁座部材は、前記弁軸心の延長線上に形成されると共に、前記弁座部材の前記先端面に開口するように形成された燃料導入孔を有し、
前記オフセット通路は、その入口開口面が前記燃料導入孔の開口面に対向するように配置される燃料噴射弁。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料噴射弁であって、
前記ノズルプレートは、
前記オフセット通路が形成された第1プレートと、
前記旋回室及び前記燃料噴射孔が形成された第2プレートと、を有し、
前記第1プレートは、前記弁座部材の前記先端面に接触するようにして取り付けられ、
前記第2プレートは、前記第1プレートの、前記弁座部材の前記先端面の側とは反対側に位置する先端側端面に接触するようにして取り付けられる燃料噴射弁。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料噴射弁であって、
前記旋回室は、前記第2プレートの、前記第1プレートの前記先端側端面と対向する基端側端面から、当該基端側端面に対して反対側の先端側端面に向かって凹状を成すと共に、前記弁軸心の延長線に垂直な断面が円形を成す凹部により形成される燃料噴射弁。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料噴射弁であって、
前記オフセット通路の出口開口面は、前記燃料噴射孔の入口開口面と前記旋回室の周壁との間に形成される前記旋回室の底面と対向するように配置される燃料噴射弁。
【請求項7】
請求項6に記載の燃料噴射弁であって、
前記オフセット通路の入口開口面の配置円の直径は、前記燃料導入孔の前記開口面の直径よりも小さく、且つ、前記旋回室の前記断面が成す円形の直径よりも小さい燃料噴射弁。
【請求項8】
請求項7に記載の燃料噴射弁であって、
前記オフセット通路は、前記弁軸心の延長線に沿う方向に対して傾斜すると共に、前記配置円の円周方向に沿って同じ方向に傾斜している燃料噴射弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射孔の上流で旋回燃料を生成し、旋回燃料を燃料噴射孔から噴射する燃料噴射弁に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、軸中心より偏心して構成される径方向溝を有する燃料旋回素子をシート面の上流側に備え、径方向溝の出口で旋回流れを発生させ、旋回エネルギを有する流れを、シート面を経て燃料噴射孔から噴射することにより、微粒化燃料を得る燃料噴射弁が記載されている(第7頁左下欄~同頁右下欄および第2図参照)。特許文献2には、横方向通路および旋回室を含む旋回用通路と燃料噴射孔とで構成される燃料通路をノズルプレートに4組形成した燃料噴射弁が記載されている(段落0044-0045および
図3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1-159460号公報
【特許文献2】特開2018-165512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の燃料噴射弁は、シート面の上流側で燃料流れに旋回エネルギを付与するため、燃料の噴き始めに、燃料旋回素子の径方向溝の出口からシート面(弁座)を経て燃料噴射孔に到る燃料通路に溜まった燃料が旋回エネルギを付与されないまま噴射されることになり、燃料の噴き始めにおける微粒化性能が低下し易い。特許文献2の燃料噴射弁は、燃料噴射孔の直前で燃料流れに旋回エネルギを付与するため、燃料の噴き始めに、旋回エネルギを付与されないまま噴射される燃料量を低減することができる。その一方で、複数組の燃料通路(燃料噴射孔)から噴射される燃料が衝突することで、噴射燃料の分裂および微粒化が阻害されやすい。
【0005】
本発明の目的は、燃料流れに旋回エネルギを付与した後の燃料通路を短くすることができ、燃料噴射孔から噴射される燃料同士の衝突により微粒化が阻害されることのない燃料噴射弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の燃料噴射弁は、
協働して燃料通路の開閉を行う弁座及び弁体と、
前記弁座及び前記弁体の下流側に設けられ燃料に旋回エネルギを付与して噴射する旋回用通路と、
前記旋回用通路の下流側に設けられ燃料を外部に噴射する燃料噴射孔と、を備え、
前記旋回用通路は、
前記弁体の弁軸心の延長線上に配置され燃料を旋回させる旋回室と、
前記旋回室の中心に対してオフセットするように前記旋回室に接続されたオフセット通路と、を備え、
前記燃料噴射孔は、前記弁軸心の延長線上で前記旋回室に接続される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、弁座の下流側で燃料流れに旋回エネルギを付与することにより、燃料流れに旋回エネルギを付与した後の燃料通路を短くすることができる。また旋回エネルギを付与された燃料を1つの燃料噴射孔から噴射することにより、燃料噴射孔から噴射される燃料同士が衝突することがなく、微粒化が阻害されることがない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る燃料噴射弁1の弁軸心(中心軸線)1aに沿う断面を示す断面図である。
【
図2】
図1の燃料噴射弁1の弁部7及び燃料噴射部21の近傍(ノズル部)を拡大して示す断面図である。
【
図3】本発明の一実施例に係るノズルプレート21nの断面を示す断面図である。
【
図4】
図3の第1プレート21n1を示す斜視図である。
【
図5】
図3の第2プレート21n2を示す斜視図である。
【
図6】本発明に係る燃料噴射弁1から噴射される燃料の分布率を示す図である。
【
図7】本発明との比較例に係る燃料噴射弁から噴射される燃料の分布率を示す図である。
【
図8】燃料噴射弁1が搭載された内燃機関の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施例について、
図1乃至
図12を用いて説明する。
【0010】
図1を用いて、燃料噴射弁1の全体構成について説明する。
図1は、本発明に係る燃料噴射弁1の弁軸心(中心軸線)1aに沿う断面を示す断面図である。
【0011】
本実施例において、燃料噴射弁1の中心軸線1aは、弁体17が一体に設けられた可動子27の軸心(弁軸心)に一致し、筒状体5の中心軸線に一致している。また、中心軸線1aは、弁座15b及びノズルプレート21nの中心線とも一致している。以下の説明では、中心軸線、軸心(弁軸心)及び中心線を区別せず、中心軸線1aと呼んで説明する。また中心軸線1aと呼んで説明する場合、中心軸線、軸心(弁軸心)及び中心線の各延長線を含むものとする。
【0012】
燃料噴射弁1には、上端部から下端部まで延設された金属材製の筒状体5が設けられている。この筒状体5の内側に燃料流路3がほぼ中心軸線1aに沿うように構成されている。
図1において、上端部(上端側)を基端部(基端側)と呼び、下端部(下端側)を先端部(先端側)と呼ぶことにする。基端部(基端側)及び先端部(先端側)という呼び方は、燃料の流れ方向、或いは図示しない燃料配管への取付構造に基づいている。すなわち、燃料の流れ方向において、基端部が上流側となり、先端部が下流側となる。また、本明細書において説明される上下関係は
図1に基づいて定義され、燃料噴射弁1の内燃機関への実装状態における上下方向とは関係がない。
【0013】
筒状体5の基端部には燃料供給口2が設けられている。この燃料供給口2に、燃料フィルタ13が取り付けられている。燃料フィルタ13は燃料に混入した異物を取り除くための部材である。
【0014】
筒状体5の基端部にはOリング11が配設されている。Oリング11は燃料噴射弁1が燃料配管に連結される際に、シール材として機能する。
【0015】
筒状体5の先端部には、弁体17と弁座部材15とからなる弁部7が構成されている。弁座部材15には、弁体17を収容する段付きの弁体収容孔15aが形成されている。弁体収容孔15aの途中に円錐面が形成されており、この円錐面上に弁座(シール部)15bが構成される。弁体収容孔15aの弁座15bよりも上流側(基端側)の部分には、中心軸線1aに沿う方向に弁体17の移動を案内するガイド面15cが形成されている。弁座15bと弁体17とは協働して、燃料通路の開閉を行う。弁体17が弁座15bに当接することにより、燃料通路は閉じられる。また、弁体17が弁座15bから離間することにより、燃料通路は開かれる。
【0016】
弁座部材15は、筒状体5の先端側内側に挿入され、レーザ溶接19により筒状体5に固定されている。弁座部材15は、筒状体5の先端側内側に圧入した上で、レーザ溶接19により筒状体5に固定されてもよい。レーザ溶接19は、筒状体5の外周側から全周に亘って実施されている。弁体収容孔15aは、中心軸線1aに沿う方向に、弁座部材15を貫通している。弁座部材15の下端面(先端面)にはノズルプレート21nが取り付けられている。ノズルプレート21nは弁体収容孔15aによって形成された弁座部材15の開口を塞ぐように取り付けられる。
【0017】
本実施例では、ノズルプレート21nによって旋回燃料を噴射する燃料噴射部21が構成される。ノズルプレート21nは、弁座部材15に対してレーザ溶接23(
図2参照)により、固定されている。レーザ溶接部23は、ノズルプレート21nの外周の内側を一周するように設けられている。
【0018】
本実施例では、弁体17は、球状を成すボール弁を用いている。このため、弁体17におけるガイド面15cと対向する部位には、周方向に間隔を置いて複数の切欠き面17aが設けられている。切欠き面17aは板座部材15の内周面との間に隙間を形成する。この隙間によって燃料通路が構成される。なお、弁体17はボール弁以外で構成することも可能であり、例えば、ニードル弁を用いてもよい。
【0019】
本実施例において、弁座部材15及び弁体17を含む弁部7とノズルプレート21nとは、ノズル部を構成する。弁部7を構成する弁座部材15はノズル部本体を構成し、弁座部材15の先端面15t(
図2参照)に、燃料噴射孔220および旋回用通路211,212が形成されたノズルプレート21nが接合される。旋回用通路211,212は、オフセット通路211及び旋回室212で構成される。
【0020】
筒状体5の中間部には弁体17を駆動するための駆動部9が配置されている。駆動部9は電磁アクチュエータで構成されている。具体的には、駆動部9は、固定鉄心25と、可動子(可動部材)27と、電磁コイル29と、ヨーク33と、によって構成されている。
【0021】
固定鉄心25は、磁性金属材料からなり、筒状体5の長手方向中間部の内側に圧入固定されている。固定鉄心25は筒状に形成され、中心部を中心軸線1aに沿う方向に貫通する貫通孔25aを有する。固定鉄心25は溶接により筒状体5に固定してもよいし、溶接と圧入を併用して筒状体5に固定してもよい。
【0022】
可動子27は、筒状体5の内部において、固定鉄心25よりも先端側に配置されている。可動子27の基端側には、可動鉄心27aが設けられている。可動鉄心27aは、固定鉄心25と微小ギャップδを介して対向する。可動子27の先端側には小径部27bが形成されており、この小径部27bの先端に弁体17が溶接により固定されている。本実施例では、可動鉄心27aと接続部27bとを一体(同一材料からなる一部材)に形成しているが、二つの部材を接合して構成してもよい。可動子27は先端部に弁体17を備え、弁体17を中心軸線1aに沿う方向(開閉弁方向)に変位させる。可動子27は、弁体17が弁座部材15のガイド面15cに接触し、可動鉄心27aの外周面が筒状体5の内周面に接触することにより、開閉弁における移動を中心軸線1aに沿う方向(弁軸心方向)の2点で案内される。
【0023】
可動鉄心27aには、固定鉄心25と対向する端面に凹部27cが形成されている。凹部27cの底面にはスプリング(コイルばね)39のばね座27eが形成されている。ばね座27eの内周側には中心軸線1aに沿って小径部(接続部)27bの先端側端部まで貫通する貫通孔27fが形成されている。また、小径部27bには側面に開口部27dが形成されている。貫通孔27fが凹部27cの底面に開口し、開口部27dが小径部27bの外周面に開口することにより、固定鉄心25に形成された燃料通路3と弁部7とを連通する燃料流路3が構成される。
【0024】
電磁コイル29は、固定鉄心25と可動鉄心27aとが微小ギャップδを介して対向する位置で、筒状体5の外周側に外挿されている。電磁コイル29は、樹脂材料で筒状に形成されたボビン31に巻回され、筒状体5の外周側に外挿されている。電磁コイル29はコネクタ41に設けられたコネクタピン43に配線部材45を介して電気的に接続されている。コネクタ41には図示しない駆動回路が接続され、コネクタピン43及び配線部材45を介して、電磁コイル29に駆動電流が通電される。
【0025】
ヨーク33は、磁性を有する金属材料でできている。ヨーク33は、電磁コイル29の外周側で、電磁コイル29を覆うように配置され、燃料噴射弁1のハウジングを兼ねる。また、ヨーク33は、その下端部が可動鉄心27aの外周面と筒状体5を介して対向しており、可動鉄心27a及び固定鉄心25と共に、電磁コイル29に通電することにより生じた磁束が流れる閉磁路を構成する。
【0026】
固定鉄心25の貫通孔25aと可動鉄心27aの凹部27cとに跨って、コイルばね39が圧縮状態で配設されている。コイルばね39は、可動子27を、弁体17が弁座15bに当接する方向(閉弁方向)に付勢する付勢部材として機能している。固定鉄心25の貫通孔25aの内側にはアジャスタ(調整子)35が配設されており、コイルばね39の基端側端部はアジャスタ35の先端側端面に当接している。中心軸線1aに沿う方向におけるアジャスタ35の貫通孔25a内での位置を調整することにより、コイルばね39による可動子27(すなわち弁体17)の付勢力が調整される。
【0027】
アジャスタ35は、中心部を中心軸線1aに沿う方向に貫通する燃料流路3を有する。燃料は、アジャスタ35の燃料流路3を流れた後、固定鉄心25の貫通孔25aの先端側部分の燃料流路3に流れ、可動子27内に構成された燃料流路3に流れる。
【0028】
筒状体5の先端側には、Oリング46が外挿されている。Oリング46は、燃料噴射弁1が内燃機関に取り付けられる際に、内燃機関側に形成された挿入口109a(
図8参照)の内周面とヨーク33の外周面との間で液密及び気密を確保するシールとして機能する。
【0029】
燃料噴射弁1の中間部から基端側端部の近傍まで、樹脂カバー47がモールドされ、樹脂カバー47が筒状体5の外周を被覆している。樹脂カバー47の先端側端部はヨーク33の基端側の一部を被覆している。また、樹脂カバー47は配線部材45を被覆し、樹脂カバー47によりコネクタ41が一体的に形成されている。
【0030】
次に、燃料噴射弁1の動作について説明する。
【0031】
電磁コイル29に通電されていない(すなわち駆動電流が流れていない)場合、可動子27はコイルばね39により閉弁方向に付勢され、弁体17が弁座15bに当接(着座)した状態にある。この場合、固定鉄心25の先端側端面と可動鉄心27aの基端側端面との間には、ギャップδが存在する。なお、本実施例では、このギャップδは可動子27(すなわち弁体17)のストロークに等しい。
【0032】
電磁コイル29に通電されて駆動電流が流れると、可動鉄心27aと固定鉄心25とヨーク33とによって構成される閉磁路に磁束が発生する。この磁束により、ギャップδを挟んで対向する固定鉄心25と可動鉄心27aとの間に磁気吸引力が発生する。この磁気吸引力が、コイルばね39による付勢力や、可動子27に対して閉弁方向に作用する燃料圧力などの合力に打ち勝つと、可動子が開弁方向に移動し始める。弁体17が弁座15bから離れると弁体17と弁座15bとの間に隙間(燃料流路)が形成され、燃料の噴射が始まる。本実施例では、可動子27が開弁方向にギャップδに等しい距離δだけ移動して、可動鉄心27aが固定鉄心25に当接すると、可動鉄心27aは開弁方向への移動を止められ、開弁して静止した状態(開弁状態)に至る。
【0033】
電磁コイル29の通電を打ち切ると、磁気吸引力が減少し、やがて消失する。磁気吸引力が減少する過程で、磁気吸引力がコイルばね39の付勢力よりも小さくなると、可動子27が閉弁方向へ移動を開始する。弁体17が弁座15bに当接すると、弁体17は弁部7を閉じて静止した状態(閉弁状態)に至る。
【0034】
次に、
図2及び
図3を用いて、弁部7及び燃料噴射部21の構造について、詳細に説明する。
図2は、
図1の燃料噴射弁1の弁部7及び燃料噴射部21の近傍(ノズル部)を拡大して示す断面図である。
図3は、本発明の一実施例に係るノズルプレート21nの断面を示す断面図である。なお、
図3におけるノズルプレート21nの断面は、
図2におけるノズルプレート21nの断面と同じ断面である。
【0035】
ノズルプレート21nは、両端面が平行な平面で構成された円盤状の板状部材として構成される。ノズルプレート21nは第1プレート21n1と第2プレート21n2とで構成され、旋回用通路211,212を構成する。
【0036】
第1プレート21n1は燃料流れ方向において上流側に設けられるプレート(上流側プレート)であり、オフセット通路211が形成される。第1プレート21n1は両端面21n1a,21n1bが平行な平面で構成された円盤状の板状部材である。第1プレート21n1の端面(上端面)21n1aは基端側の端面(基端側端面)であり、端面(下端面)21n1bは先端側の端面(先端側端面)である。第1プレート21n1は、端面21n1aが弁座部材15の先端面15tと対向して先端面15tに接触するようにして、弁座部材15に取り付けられる。
【0037】
第2プレート21n2は燃料流れ方向において下流側に設けられるプレート(下流側プレート)であり、旋回室212および燃料噴射孔220が形成される。第2プレート21n2は両端面21n2a,21n2bが平行な平面で構成された円盤状の板状部材である。第2プレート21n2の端面(上端面)21n2aは基端側の端面(基端側端面)であり、端面(下端面)21n2bは先端側の端面(先端側端面)である。第2プレート21n2は、端面21n2aが第1プレート21n1の端面21n1bと対向して端面21n1bに接触するようにして、弁座部材15に取り付けられる。この場合、第2プレート21n2は、第1プレート21n1と共に弁座部材15に取り付けられ、第1プレート21n1を介して弁座部材15に固定される。
【0038】
第1プレート21n1及び第2プレート21n2は板厚が均一な平板で構成され、第1プレート21n1及び第2プレート21n2により構成されるノズルプレート21nも厚さが均一な板状部材として構成される。また、本実施例では、中心軸線1aがノズルプレート21nの中心、すなわち第1プレート21n1の中心21n1o及び第2プレート21n2の中心21n2oを通るように、燃料噴射弁1が構成されている。
【0039】
図2及び
図3と共に
図4及び
図5を用いて、旋回用通路211,212及び燃料噴射孔の構造について、詳細に説明する。
図4は、
図3の第1プレート21n1を示す斜視図である。
図5は、
図3の第2プレート21n2を示す斜視図である。
【0040】
本実施例では、旋回用通路211,212は弁座(シート部)15bの下流側に設けられる。具体的には、旋回用通路211,212はノズルプレート21nに形成され、ノズルプレート21nは第1プレート(上流側プレート)21n1および第2プレート(下流側プレート)21n2を含んで弁座(シート部)15bの下流側に設けられる。第1プレート21n1にはオフセット通路211が設けられ、第2プレート21n2には旋回室212が設けられる。第2プレート21n2にはさらに燃料噴射孔220が設けられる。なお、第1プレート21n1の中心21n1o(
図4参照)と第2プレート21n2の中心21n2o(
図5参照)とは共に、中心軸線1a上にある。
【0041】
オフセット通路211は、弁座部材15に形成された燃料導入孔300と、第2プレート21n2に形成された旋回室212とを連通するように、第1プレート21n1を貫通する貫通孔として形成される。オフセット通路211は、弁座15bから流下してきた燃料流れに、中心軸線1aの周りを旋回する旋回エネルギを付与して、旋回室212に流入させる。このためにオフセット通路211は、その中を流れる燃料の流動方向が旋回室212の中心に対してオフセット(偏心)するように設定されている。本実施例の場合、旋回室212の中心は第2プレート21n2の中心21n2o(
図5参照)に一致するように設定されている。
【0042】
オフセット通路211の入口開口は、第1プレート21n1の上端面21n1aに開口し、第1プレート21n1の径方向において、燃料導入孔300の内側とオーバーラップする範囲(領域)に配置される。
図4では、燃料導入孔300の開口縁(出口開口面の縁)に対応する位置を、破線260で図示している。オフセット通路211の入口開口の配置円250は、その直径φ250が、燃料導入孔300の弁座部材15の下端面15tに開口する、燃料導入孔300の開口縁の直径φ300(
図2参照)よりも小さい。なお、配置円250は第1プレート21n1の中心21n1oを中心とする半径rの円である。
【0043】
また、オフセット通路211は中心軸線1aに沿う方向に対して傾斜している。オフセット通路211の傾斜方向は、旋回室212に流入する燃料に対して旋回室212を同じ方向に旋回する旋回エネルギが付与されるように、配置円250の円周方向に沿って同じ方向に設定される。オフセット通路211を流下する燃料流れは、旋回室212に接続されるオフセット通路211の出口部において、旋回室212を同じ方向に旋回する旋回エネルギが付与される。
【0044】
旋回室212は、
図3および
図5に示すように、第2プレート21n2の上端面21n2aから下端面21n2b側に向かって凹状に形成される。旋回室212は、
図5に示すように、中心軸線1aに垂直な断面形状が円形であり、凹状の底面212aの周りを円筒状の周壁212bによって囲まれている。旋回室212の底面212aが成す円形の中心は、第2プレート21n2の中心21n2oに一致し、中心軸線1a上に位置する。
【0045】
オフセット通路211は、
図3に示すように、ノズルプレート21nの径方向において、旋回室212の室内とオーバーラップする範囲(領域)に配置され、オフセット通路211の出口開口は、中心軸線1aからの距離が旋回室212の半径(φ212/2)よりも小さい範囲(領域)に、配置されている。
【0046】
燃料導入孔300の直径φ300と旋回室212の直径φ212とは自由に設定可能であるが、燃料導入孔300及び旋回室212はデッドボリュームとなるため、このデッドボリュームが小さくなり、且つ旋回室212を流れる燃料に十分な旋回エネルギを付与できるように、直径φ300と直径φ212とを設定することが好ましい。
【0047】
燃料噴射孔220は、その入口開口が旋回室212の底面212aに開口する。燃料噴射孔220の入口開口の中心は第2プレート21n2の中心21n2oに一致し、中心軸線1a上に位置する。燃料噴射孔220は、旋回室212の底面212aから第2プレート21n2の下端面21n2bまで貫通している。
【0048】
オフセット通路211は燃料噴射孔220に対して径方向外側に配置され、オフセット通路211の入口開口の配置円250の直径φ250は燃料噴射孔220の直径φ220よりも大きい。またオフセット通路211の出口開口は、燃料噴射孔220の入口開口に対して径方向外側に配置され、旋回室212の底面212aと対向するように配置されている。この場合の底面212aは、燃料噴射孔220の入口開口面と旋回室212の周壁212bとの間に形成される旋回室212の底面212aである。
【0049】
上述した構成により旋回室212は、燃料噴射孔220により燃料噴射弁1の外部に連通すると共に、オフセット通路211により燃料導入孔300と連通する。第1プレート21n1のオフセット通路211および第2プレート21n2の旋回室212で旋回エネルギを付与された燃料は、第12プレート21n2の燃料噴射孔220より燃料噴射弁1の外部に噴射され、スワール噴霧を形成する。
【0050】
次に
図6および
図7を用いて、本実施例の効果について説明する。
図6は、本発明に係る燃料噴射弁1から噴射される燃料の分布率を示す図である。
図7は、本発明との比較例に係る燃料噴射弁から噴射される燃料の分布率を示す図である。
【0051】
特許文献2の燃料噴射弁のように、横方向通路および旋回室を含む旋回用通路と燃料噴射孔とで構成される燃料通路をノズルプレートに複数組形成した構成では、複数組の燃料通路(燃料噴射孔)から噴射される燃料が衝突、或いは重なることで、
図7に示すような燃料分布率となり、噴射燃料の分裂および微粒化が阻害されやすい。
【0052】
本実施例では、1つの円錐形状を成すスワール噴霧が1つの燃料噴射孔から噴射されることで、
図6に示すように、燃料分布率のピークを1つ有し、そのピークから離れるに従って燃料分布率が漸減する燃料噴霧を形成することができる。これにより本実施例では、噴射燃料の分裂性能および微粒化性能を向上することができる。
【0053】
また特許文献2の横方向通路および旋回室を含む旋回用通路をノズルプレートに形成する場合、旋回用通路の溝形状が複雑かつ小さいため、細径のエンドミルで加工を行う必要がある。そのため、旋回用通路を形成するためには、数回に分けて溝形状を加工する必要があり、加工時間が長くかかってしまう。
【0054】
本実施例では、貫通孔で構成されるオフセット通路211および円形の旋回室212を加工することにより旋回用通路を形成することができるため、細径のエンドミルで加工を行う必要がなく、太径のエンドミルを用いて1回の切削深さを大きくすることで、短時間で旋回用通路を形成することができる。
【0055】
また本実施例では、燃料噴射孔220の直前に旋回室212を配置できることで、燃料流れに旋回エネルギを付与した後の燃料通路を短くすることができる。また旋回用通路211,212は、薄板形状のノズルプレート21n(21n1,21n2)に形成することで、その容積を小さくすることができる。そのため、燃料の噴き始めに旋回エネルギを付与されないまま噴射される燃料を低減し、燃料の噴き始めにおける微粒化性能の低下を抑制することができる。これにより本実施例では、燃料流れに旋回エネルギを付与した後の燃料通路を短くすることができ、燃料噴射孔から噴射される燃料同士の衝突により微粒化が阻害されることのない燃料噴射弁を提供することができる。
【0056】
図8を参照して、本発明に係る燃料噴射弁を搭載した内燃機関について説明する。
図8は、燃料噴射弁1が搭載された内燃機関の断面図である。
【0057】
内燃機関100のエンジンブロック101にはシリンダ102が形成されおり、シリンダ102の頂部に吸気口103と排気口104とが設けられている。吸気口103には、吸気口103を開閉する吸気弁105が、また排気口104には排気口104を開閉する排気弁106が設けられている。エンジンブロック101に形成され、吸気口103に連通する吸気流路107の入口側端部107aには吸気管108が接続されている。
【0058】
燃料噴射弁1の燃料供給口2(
図1参照)には燃料配管110が接続される。
【0059】
吸気管108には燃料噴射弁1の取付け部109が形成されており、取付け部109に燃料噴射弁1を挿入する挿入口109aが形成されている。挿入口109aは吸気管108の内壁面(吸気流路)まで貫通しており、挿入口109aに挿入された燃料噴射弁1から噴射された燃料は吸気流路内に噴射される。二方向噴霧の場合、エンジンブロック101に吸気口103が二つ設けられた形態の内燃機関を対象として、それぞれの燃料噴霧が各吸気口103(吸気弁105)を指向して噴射される。
【0060】
上述した本実施例の燃料噴射弁1は、下記特徴を備える。
(1)協働して燃料通路の開閉を行う弁座15b及び弁体17と、
弁座15b及び弁体17の下流側に設けられ燃料に旋回エネルギを付与して噴射する旋回用通路211,212と、
旋回用通路211,212の下流側に設けられ燃料を外部に噴射する燃料噴射孔220と、を備え、
旋回用通路211,212は、
弁体17の弁軸心の延長線1a上に配置され燃料を旋回させる旋回室212と、
旋回室212の中心21n2oに対してオフセットするように旋回室212に接続されたオフセット通路211と、を備え、
燃料噴射孔220は、弁軸心の延長線1a上で旋回室212に接続される。
【0061】
(2)弁座15bが形成された弁座部材15と、
弁座部材15の、燃料噴射弁1の先端側に位置する先端面15tに取り付けられたノズルプレート21nと、を備え、
旋回用通路211,212は、ノズルプレート21nに形成される。
【0062】
(3)弁座部材15は、弁軸心の延長線1a上に形成されると共に、弁座部材15の先端面15tに開口するように形成された燃料導入孔300を有し、
オフセット通路211は、その入口開口面が燃料導入孔300の出口開口面に対向するように配置される。
【0063】
(4)ノズルプレート21nは、
オフセット通路211が形成された第1プレート21n1と、
旋回室212及び燃料噴射孔220が形成された第2プレート21n2と、を有し、
第1プレート21n1は、弁座部材15の先端面15tに接触するようにして取り付けられ、
第2プレート21n2は、第1プレート21n1の、弁座部材15の先端面15tの側とは反対側に位置する先端側端面21n1bに接触するようにして取り付けられる。
【0064】
(5)旋回室212は、第2プレート21n2の、第1プレート21n1の先端側端面21n1bと対向する基端側端面(上端面)21n2aから、基端側端面21n2aに対して反対側の先端側端面21n2bに向かって凹状を成すと共に、弁軸心の延長線1aに垂直な断面が円形を成す凹部により形成される。
【0065】
(6)オフセット通路211の出口開口面は、燃料噴射孔220の入口開口面と旋回室212の周壁212bとの間に形成される旋回室212の底面212aと対向するように配置される。
【0066】
(7)オフセット通路211の入口開口面の配置円250の直径φ250は、燃料導入孔300の出口開口面の直径φ300よりも小さく、且つ、旋回室212の断面が成す円形の直径φ212よりも小さい。
【0067】
(8)オフセット通路211は、弁軸心の延長線1aに沿う方向に対して傾斜すると共に、配置円250の円周方向に沿って同じ方向に傾斜している。
【0068】
なお、本発明は上記した実施例或いは変更例に限定されるものではなく、一部の構成の削除や、記載されていない他の構成の追加が可能である。形態例1~7のノズルプレート21nの構成を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0069】
1…燃料噴射弁、1a…中心軸線、弁軸心又はその延長線、15b…弁座、15t…弁座部材15の先端面、17…弁体、21n…ノズルプレート、21n1…第1プレート、21n1b…第1プレート21n1の先端側端面、21n2…第2プレート、21n2a…第2プレート21n2の基端側端面、21n2b…第2プレート21n2の先端側端面、21n2o…第2プレート21n2の中心(旋回室212の中心)、211,212…旋回用通路、211…オフセット通路、212…旋回室、212a…旋回室212の底面、212b…旋回室212の周壁、220…燃料噴射孔、250…オフセット通路211の入口開口面の配置円、300…燃料導入孔、φ212…旋回室212の断面が成す円形の直径、φ250…配置円250の直径、φ300…燃料導入孔300の出口開口面の直径。