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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170928
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/739 20060101AFI20231124BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20231124BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
H01L29/78 655G
H01L29/78 653A
H01L29/78 652Q
H01L29/78 652M
H01L29/78 652J
H01L29/78 652D
H01L29/78 652K
H01L29/78 655B
H01L29/78 658F
H01L29/78 658G
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083033
(22)【出願日】2022-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大形 公士
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 幸雄
(57)【要約】
【課題】半導体装置の信頼性を確保すると共に、半導体装置の性能を向上する。
【解決手段】半導体装置は、n型の半導体基板と、トレンチTRと、トレンチTRの内部にゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極GE1と、半導体基板に形成されp型のベース領域PBと、ベース領域PBに形成されたn型のエミッタ領域NEとを備える。トレンチTRは、平面視におけるY方向に延在している。複数のエミッタ領域NEは、Y方向に沿って互いに距離L1で離間して形成されている。距離L1は、Y方向におけるエミッタ領域NEの幅W1の5分の1よりも広く、且つ、幅W1よりも狭い。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の半導体基板と、
前記半導体基板に形成された第1トレンチと、
前記第1トレンチの内部に形成された第1ゲート絶縁膜と、
前記第1トレンチの内部を埋め込むように、前記第1ゲート絶縁膜上に形成された第1ゲート電極と、
その底部が前記第1トレンチの底部よりも浅くなるように、前記半導体基板に形成され、且つ、前記第1導電型と反対の導電型である第2導電型のベース領域と、
前記ベース領域に形成された前記第1導電型の複数のエミッタ領域と、
を備え、
前記第1トレンチは、平面視における第1方向に延在し、
前記複数のエミッタ領域は、前記第1方向に沿って互いに第1距離で離間しており、
前記複数のエミッタ領域のそれぞれは、前記第1方向において第1幅を有し、
前記第1距離は、前記第1幅の5分の1よりも広く、且つ、前記第1幅よりも狭い、半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1距離は、0.2μm以上である、半導体装置。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記ベース領域と前記複数のエミッタ領域のそれぞれとの境界よりも上方における前記第1ゲート電極と前記複数のエミッタ領域のそれぞれとの間の第2距離は、前記境界よりも下方における前記第1ゲート電極と前記ベース領域との間の第3距離よりも広く、
前記第2距離は、前記第1ゲート電極の上面に近くなるに連れて広くなり、
前記第1ゲート電極の上面の位置における前記第2距離と、前記第3距離との差は、30nm以上且つ100nm以下である、半導体装置。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体装置において、
前記複数のエミッタ領域は、砒素およびリンの両方を含んで構成されている、半導体装置。
【請求項5】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記複数のエミッタ領域の間に形成されたカウンタードープ領域を更に備え、
前記カウンタードープ領域は、前記ベース領域よりも低い不純物濃度を有する前記第2導電型の不純物領域、または、真性半導体領域である、半導体装置。
【請求項6】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記半導体基板に形成された第2トレンチと、
前記第2トレンチの内部に形成された第2ゲート絶縁膜と、
前記第2トレンチの内部を埋め込むように、前記第2ゲート絶縁膜上に形成された第2ゲート電極と、
を更に備え、
前記第2トレンチは、前記第1方向に延在し、且つ、平面視で前記第1方向と直交する第2方向において前記第1トレンチに隣接し、
前記ベース領域および前記複数のエミッタ領域は、前記第1トレンチと前記第2トレンチとの間に形成され、
前記第1ゲート電極および前記第2ゲート電極には、それぞれゲート電位が供給され、
前記ベース領域および前記複数のエミッタ領域には、それぞれエミッタ電位が供給される、半導体装置。
【請求項7】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記半導体基板に形成された第2トレンチと、
前記第2トレンチの内部に形成された第2ゲート絶縁膜と、
前記第2トレンチの内部を埋め込むように、前記第2ゲート絶縁膜上に形成された第2ゲート電極と、
を更に備え、
前記第2トレンチは、前記第1方向に延在し、且つ、平面視で前記第1方向と直交する第2方向において前記第1トレンチに隣接し、
前記ベース領域および前記複数のエミッタ領域は、前記第1トレンチと前記第2トレンチとの間に形成され、
前記第1ゲート電極には、ゲート電位が供給され、
前記ベース領域、前記複数のエミッタ領域および前記第2ゲート電極には、それぞれエミッタ電位が供給される、半導体装置。
【請求項8】
(a)第1導電型の半導体基板を用意する工程、
(b)前記(a)工程後、前記半導体基板に、第1トレンチを形成する工程、
(c)前記(b)工程後、前記第1トレンチの内部および前記半導体基板上に、第1ゲート絶縁膜を形成する工程、
(d)前記(c)工程後、前記第1トレンチの内部を埋め込むように、前記第1ゲート絶縁膜上に、第1導電性膜を形成する工程、
(e)前記(d)工程後、前記第1トレンチの外部に形成されている前記第1導電性膜を除去することで、前記第1トレンチの内部に、前記第1導電性膜からなる第1ゲート電極を形成する工程、
(f)前記(e)工程後、前記半導体基板上に形成されている前記第1ゲート絶縁膜を除去する工程、
(g)前記(f)工程後、前記半導体基板上に、第1絶縁膜を形成する工程、
(h)前記(g)工程後、その底部が前記第1トレンチの底部よりも浅くなるように、前記半導体基板に、イオン注入法によって、前記第1導電型と反対の導電型である第2導電型のベース領域を形成する工程、
(i)前記(h)工程後、前記ベース領域に、イオン注入法によって、前記第1導電型の複数のエミッタ領域を形成する工程、
を備え、
前記第1トレンチは、平面視における第1方向に延在し、
前記(i)工程では、前記複数のエミッタ領域が、前記第1方向に沿って互いに第1距離で離間して形成され、
前記複数のエミッタ領域のそれぞれは、前記第1方向において第1幅を有し、
前記第1距離は、前記第1幅の5分の1よりも広く、且つ、前記第1幅よりも狭い、半導体装置の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の半導体装置の製造方法において、
前記第1距離は、0.2μm以上である、半導体装置の製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(c)工程では、前記第1ゲート絶縁膜は、酸素ガスおよび水蒸気を用いた熱酸化処理によって形成され、
前記(g)工程では、前記第1絶縁膜は、酸素ガスを用いた熱酸化処理によって形成される、半導体装置の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(g)工程において前記半導体基板上に形成された前記第1絶縁膜の厚さは、前記(c)工程において前記半導体基板上に形成された前記第1ゲート絶縁膜の厚さよりも薄い、半導体装置の製造方法。
【請求項12】
請求項8に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(g)工程では、前記第1絶縁膜は、前記トレンチの側面と前記第1ゲート絶縁膜との間にも形成され、
前記ベース領域と前記エミッタ領域との境界は、前記第1トレンチの側面と前記第1ゲート絶縁膜との間に形成されている前記第1絶縁膜よりも深い位置に位置する、半導体装置の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(f)工程では、前記第1トレンチの内部で前記第1ゲート電極の側面に接している前記第1ゲート絶縁膜の一部も除去されることで、前記第1ゲート電極の側面の一部が露出し、
前記(g)工程では、露出している前記第1ゲート電極の側面の一部にも、前記第1絶縁膜が形成され、
前記境界は、前記(f)工程で露出した前記第1ゲート電極の側面の一部よりも深い位置に位置する、半導体装置の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(i)工程では、砒素およびリンの両方をイオン注入することで、前記複数のエミッタ領域が形成される、半導体装置の製造方法。
【請求項15】
請求項8に記載の半導体装置の製造方法において、
(j)前記(h)工程後または前記(i)工程後、前記ベース領域に、イオン注入法によって、前記第2導電型の不純物を導入することで、前記複数の前記エミッタ領域の間に、前記ベース領域よりも低い不純物濃度を有する前記第2導電型の不純物領域、または、真性半導体領域であるカウンタードープ領域を形成する工程、
を更に備える、半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置およびその製造方法に関し、特に、トレンチの内部に形成されたゲート電極を備えた半導体装置と、その製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
オン抵抗の低いIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)として、トレンチゲート型のIGBTが広く使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、GGEE構造のIGBTが開示されている。このようなIGBTでは、n型の半導体基板にトレンチが形成され、トレンチの内部には、ゲート絶縁膜を介してゲート電極が埋め込まれている。また、半導体基板にはp型のベース領域が形成され、ベース領域の上部にはn型のエミッタ領域が形成されている。ベース領域およびエミッタ領域は、半導体基板上にゲート絶縁膜とは別の絶縁膜を形成した状態で、イオン注入を行うことで形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-140885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来から、トレンチの内部および半導体基板上にゲート絶縁膜を形成し、ゲート絶縁膜上に多結晶シリコン膜を堆積し、多結晶シリコン膜に対してドライエッチング処理を行っている。これにより、半導体基板上の多結晶シリコン膜が除去されると共に、トレンチの内部に多結晶シリコン膜がゲート電極として埋め込まれる。半導体基板にイオン注入を行う際には、半導体基板へのダメージを低減するために、半導体基板上のゲート絶縁膜がスルー膜として利用される。
【0006】
しかしながら、ゲート絶縁膜の厚さは比較的厚いので、ゲート絶縁膜の形成時、および、多結晶シリコン膜のドライエッチング処理時に、ゲート絶縁膜の厚さにバラつきが生じ易い。それ故、特許文献1のように、半導体基板上のゲート絶縁膜を除去し、再酸化処理を施すことで、新たに別の酸化シリコン膜を形成することが有効である。この新しい酸化シリコン膜をスルー膜としてイオン注入を行うことで、ベース領域およびエミッタ領域を形成する。なお、再酸化処理は、酸素ガスを用いた熱酸化処理であり、所謂ドライ酸化処理である。
【0007】
ここで、本願発明者らの検討によって、再酸化処理を行うと、界面準位が増加すると共に、ゲート絶縁膜中に水素イオンが形成され、PBTI(Positive Bias Temperature Instability)が劣化するということが判った。PBTIが劣化すると、時間の経過と共に、閾値電圧の変動が生じるという不具合が発生する。すなわち、半導体装置の信頼性が低下する。
【0008】
一方で、半導体装置では、負荷短絡耐量(コレクタ電流が飽和するまで電流を流した状態で、ラッチアップによって半導体装置が破壊されない時間)を製品評価の指標の1つとしている。高性能化のためには電流を稼ぐ必要があるが、負荷短絡耐量が下がる。その場合、各エミッタ領域間の間隔が狭くなり、ゲート電極に沿った各エミッタ領域の面積が広くなるので、PBTI劣化が顕著になるという問題がある。
【0009】
本願の主な目的は、PBTI劣化による閾値電圧の変動の抑制と、負荷短絡耐量の向上との両立を図ることにある。これにより、半導体装置の信頼性を確保すると共に、半導体装置の性能を向上させる。その他の課題および新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0011】
一実施の形態に係る半導体装置は、第1導電型の半導体基板と、前記半導体基板に形成された第1トレンチと、前記第1トレンチの内部に形成された第1ゲート絶縁膜と、前記第1トレンチの内部を埋め込むように、前記第1ゲート絶縁膜上に形成された第1ゲート電極と、その底部が前記第1トレンチの底部よりも浅くなるように、前記半導体基板に形成され、且つ、前記第1導電型と反対の導電型である第2導電型のベース領域と、前記ベース領域に形成された前記第1導電型の複数のエミッタ領域と、を備える。ここで、前記第1トレンチは、平面視における第1方向に延在し、前記複数のエミッタ領域は、前記第1方向に沿って互いに第1距離で離間しており、前記複数のエミッタ領域のそれぞれは、前記第1方向において第1幅を有し、前記第1距離は、前記第1幅の5分の1よりも広く、且つ、前記第1幅よりも狭い。
【0012】
一実施の形態に係る半導体装置の製造方法は、(a)第1導電型の半導体基板を用意する工程、(b)前記(a)工程後、前記半導体基板に、第1トレンチを形成する工程、(c)前記(b)工程後、前記第1トレンチの内部および前記半導体基板上に、第1ゲート絶縁膜を形成する工程、(d)前記(c)工程後、前記第1トレンチの内部を埋め込むように、前記第1ゲート絶縁膜上に、第1導電性膜を形成する工程、(e)前記(d)工程後、前記トレンチの外部に形成されている前記第1導電性膜を除去することで、前記第1トレンチの内部に、前記第1導電性膜からなる第1ゲート電極を形成する工程、(f)前記(e)工程後、前記半導体基板上に形成されている前記第1ゲート絶縁膜を除去する工程、(g)前記(f)工程後、前記半導体基板上に、第1絶縁膜を形成する工程、(h)前記(g)工程後、その底部が前記第1トレンチの底部よりも浅くなるように、前記半導体基板に、イオン注入法によって、前記第1導電型と反対の導電型である第2導電型のベース領域を形成する工程、(i)前記(h)工程後、前記ベース領域に、イオン注入法によって、前記第1導電型の複数のエミッタ領域を形成する工程、を備える。ここで、前記第1トレンチは、平面視における第1方向に延在し、前記(i)工程では、前記複数のエミッタ領域が、前記第1方向に沿って互いに第1距離で離間して形成され、前記複数のエミッタ領域のそれぞれは、前記第1方向において第1幅を有し、前記第1距離は、前記第1幅の5分の1よりも広く、且つ、前記第1幅よりも狭い。
【発明の効果】
【0013】
一実施の形態によれば、半導体装置の信頼性を確保できると共に、半導体装置の性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態1における半導体装置を示す平面図である。
図2】実施の形態1における半導体装置を示す要部平面図である。
図3】実施の形態1における半導体装置を示す断面図である。
図4】実施の形態1における半導体装置の製造工程を示す断面図である。
図5図4に続く製造工程を示す断面図である。
図6図5に続く製造工程を示す断面図である。
図7図6に続く製造工程を示す断面図である。
図8図7に続く製造工程を示す断面図である。
図9図8に続く製造工程を示す断面図である。
図10図6の製造工程の詳細を示す拡大断面図である。
図11図10に続く製造工程を示す拡大断面図である。
図12図11に続く製造工程を示す拡大断面図である。
図13図12に続く製造工程を示す拡大断面図である。
図14図13に続く製造工程と、各構成の深さ関係とを示す拡大断面図である。
図15】各構成の深さ関係を示す拡大断面図である。
図16】PBTI劣化を分析した結果を示すグラフである。
図17】PBTI劣化のモデルを示す拡大断面図である。
図18】各エミッタ領域の間の距離と、閾値電圧の変動とを分析した結果を示すグラフである。
図19図18の分析のモデルを示す断面図である。
図20図18の分析のモデルを示す断面図である。
図21図18の分析のモデルを示す断面図である。
図22図18の分析のモデルを示す断面図である。
図23】実施の形態2における半導体装置のPBTI劣化のモデルを示す拡大断面図である。
図24】PBTI劣化を分析した結果を示すグラフである。
図25】実施の形態2における各構成の深さ関係を示す拡大断面図である。
図26】実施の形態2における各構成の深さ関係を示す拡大断面図である。
図27】実施の形態3における半導体装置を示す断面図である。
図28】変形例1における半導体装置を示す要部平面図である。
図29】変形例2における半導体装置を示す要部平面図である。
図30】変形例2における半導体装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0016】
また、本願において説明されるX方向、Y方向およびZ方向は、互いに交差し、互いに直交している。本願では、Z方向をある構造体の上下方向、高さ方向または厚さ方向として説明する。また、本願で用いられる「平面図」または「平面視」などの表現は、X方向およびY方向によって構成される面を「平面」とし、この「平面」をZ方向から見ることを意味する。
【0017】
(実施の形態1)
<半導体装置の構造>
以下に図1図3を用いて、実施の形態1における半導体装置100の構造について説明する。実施の形態1の主な特徴は、ゲート電極GE1に沿って形成されたエミッタ領域NEの構造にある。そのような特徴は、図18図22を用いて後で詳細に説明する。その前に、半導体装置100の全体的な構造および製造方法について説明する。
【0018】
図1は、半導体装置100である半導体チップを示す平面図である。図1に示されるように、半導体装置100の大部分はエミッタ電極EEで覆われている。エミッタ電極EEの外周には、ゲート配線GWが形成されている。
【0019】
エミッタ電極EEおよびゲート配線GWの各々の一部は、図示しない保護膜によって覆われている。この保護膜から露出している領域が、エミッタパッドEPおよびゲートパッドGPになっている。エミッタパッドEP上およびゲートパッドGP上に、ワイヤボンディングまたはクリップ(銅板)などの外部接続用部材が接続されることで、半導体装置100が、他の半導体チップまたは配線基板などに電気的に接続される。
【0020】
図2は、図1に示されるセル領域1Aに対応した要部平面図である。セル領域1Aには、IGBTのような半導体素子が形成される。図2に示されるIGBTは、GGEE構造のIGBTであり、IE(Injection Enhancement)効果を利用可能としたIE型のIGBTである。
【0021】
IE効果とは、IGBTがオン状態の際に、エミッタ電極EE側から正孔が排出され難くすることで、ドリフト領域NVに蓄積される電荷の濃度を高める技術である。このため、半導体装置100は、IGBTの主動作を行うためのアクティブセルACと、アクティブセルAC以外のインアクティブセルIACとを有する。アクティブセルACのゲート電極GE1は、ゲート配線GWに電気的に接続され、IGBTの動作時にゲート電位が供給される。インアクティブセルIACのゲート電極GE2は、エミッタ電極EEに電気的に接続され、IGBTの動作時にエミッタ電位が供給される。
【0022】
図3は、図2に示されるA-A線に沿った断面図である。半導体装置100は、低濃度のn型のドリフト領域NVを有する半導体基板SUBを備える。ここでは、n型の半導体基板SUB自体がドリフト領域NVを構成している。なお、ドリフト領域NVは、n型のシリコン基板と、シリコン基板上にエピタキシャル成長法によって燐(P)を導入しながら成長させた半導体層との積層体であってもよい。本願では、そのような積層体も半導体基板SUBであるとして説明する。
【0023】
半導体基板SUBの裏面側において、半導体基板SUBには、n型のフィールドストップ領域(不純物領域)NSが形成されている。フィールドストップ領域NSは、IGBTのターンオフ時に、半導体基板SUBの表面TS側のpn接合から延びる空乏層が、p型のコレクタ領域PCに達することを抑制するために設けられている。
【0024】
半導体基板SUBの裏面側において、半導体基板SUBには、p型のコレクタ領域(不純物領域)PCが形成されている。コレクタ領域PCは、フィールドストップ領域NSの下方に位置している。
【0025】
半導体基板SUBの裏面下には、コレクタ電極CEが形成されている。コレクタ電極CEは、コレクタ領域PCに電気的に接続され、コレクタ領域PCにコレクタ電位を供給する。コレクタ電極CEは、例えばAlSi膜、Ti膜、NiV膜およびAu膜のような金属膜からなる。
【0026】
半導体基板SUBの表面側において、半導体基板SUBには、トレンチTRが形成されている。トレンチTRは、後述するエミッタ領域NEおよびベース領域PBを貫通し、且つ、半導体基板SUBに達している。トレンチTRの深さは、例えば2μm以上且つ3μm以下である。
【0027】
トレンチTRの内部には、ゲート絶縁膜GIが形成されている。ゲート電極GE1、GE2は、トレンチTRの内部を埋め込むように、ゲート絶縁膜GI上に形成されている。ゲート絶縁膜GIは、例えば酸化シリコン膜であり、ゲート電極GE1、GE2は、例えばn型の不純物が導入された多結晶シリコン膜である。ゲート絶縁膜GIの厚さは、例えば100nmである。
【0028】
アクティブセルACにおいて、一対のトレンチTR(一対のゲート電極GE1)の間の半導体基板SUBには、ホールバリア領域(不純物領域)NHBが形成されている。ホールバリア領域NHBには、p型のベース領域(不純物領域)PBが形成されている。p型のベース領域PBには、n型のエミッタ領域(不純物領域)NEが形成されている。ベース領域PBの底部は、トレンチTRの底部よりも浅く、エミッタ領域NEの底部は、ベース領域PBの底部よりも浅い。
【0029】
インアクティブセルIACにおいて、一対のトレンチTR(一対のゲート電極GE2)の間の半導体基板SUBには、ホールバリア領域NHBが形成されている。また、ゲート電極GE1とゲート電極GE2との間の半導体基板SUBには、p型のフローティング領域(不純物領域)PFが形成されている。ホールバリア領域NHBおよびフローティング領域PFには、p型のベース領域PBが形成されている。フローティング領域PFは、高耐圧特性を高めるために、トレンチTRの底部よりも深い位置にまで形成されていることが好ましく、トレンチTRの底部を覆うように形成されていることが、より好ましい。
【0030】
半導体基板SUB上には、層間絶縁膜ILが形成されている。層間絶縁膜ILは、半導体基板SUB上に形成された絶縁膜IF1と、絶縁膜IF1上に形成された絶縁膜IF2とを含む。絶縁膜IF1は、酸化シリコン膜である。絶縁膜IF2は、ボロンおよびリンを含む酸化シリコン膜であり、BPSG(Boro Phospho Silicate Glass)膜である。絶縁膜IF1の厚さは、例えば20nm以上且つ50nm以下である。
【0031】
アクティブセルACにおいて、コンタクトホールCHは、層間絶縁膜ILおよびエミッタ領域NEを貫通し、且つ、ベース領域PBに達している。コンタクトホールCHは、エミッタ領域NEおよびベース領域PBに接するように形成されている。
【0032】
コンタクトホールCHの上部では、層間絶縁膜ILが後退している。このため、エミッタ領域NEの上面の一部が、層間絶縁膜ILから露出している。従って、エミッタ電極EEは、コンタクトホールCHの内部において、エミッタ領域NEの側面に接触するだけでなく、エミッタ領域NEの上面の一部にも接触する。これにより、エミッタ電極EEとエミッタ領域NEとの接触抵抗を低減することができる。
【0033】
インアクティブセルIACにおけるコンタクトホールCHの構成も、エミッタ領域NEが無い点を除き、アクティブセルACとほぼ同様である。アクティブセルACおよびインアクティブセルIACにおいて、コンタクトホールCHの底部の周囲には、p型の高濃度拡散領域(不純物領域)PRが形成されている。高濃度拡散領域PRは、エミッタ電極EEとの接触抵抗を低くするため、および、ラッチアップを防止するために設けられている。
【0034】
なお、ここでは図示されていないが、コンタクトホールCHは、ゲート電極GE1、GE2の一部上にも形成されている。
【0035】
コンタクトホールCHの内部を埋め込むように、層間絶縁膜IL上には、エミッタ電極EEが形成されている。エミッタ電極EEは、エミッタ領域NE、ベース領域PB、高濃度拡散領域PRおよびゲート電極GE2に電気的に接続され、これらの領域にエミッタ電位を供給する。
【0036】
なお、ここでは図示されていないが、層間絶縁膜IL上には、エミッタ電極EEと同じ工程で形成されたゲート配線GWも形成されている。ゲート配線GWは、ゲート電極GE1上のコンタクトホールCHの内部に埋め込まれ、ゲート電極GE1に電気的に接続され、ゲート電極GE1にゲート電位を供給する。このようなエミッタ電極EEおよびゲート配線GWは、例えば、TiW膜と、上記TiW膜上に形成されたアルミニウム膜とからなる。上記アルミニウム膜は、エミッタ電極EEおよびゲート配線GWの主導体膜であり、上記TiW膜よりも十分に厚い。
【0037】
また、エミッタ電極EEおよびゲート配線GWは、上記TiW膜および上記アルミニウム膜を含み、且つ、層間絶縁膜IL上に形成された配線部と、コンタクトホールCHの内部に形成されたプラグとから構成されていてもよい。その場合、上記プラグは、バリアメタル膜と導電性膜との積層膜からなる。上記バリアメタル膜は、例えば、チタン膜と、上記チタン膜上に形成された窒化チタン膜との積層膜からなる。上記導電性膜は、例えばタングステン膜からなる。
【0038】
以下に各不純物領域の不純物濃度を例示する。ドリフト領域NVの不純物濃度は、1×1013cm-3以上且つ2×1014cm-3以下である。フィールドストップ領域NSの不純物濃度は、ドリフト領域NVの不純物濃度よりも高く、5×1016cm-3以上且つ~5×1017cm-3以下である。ホールバリア領域NHBの不純物濃度は、ドリフト領域NVの不純物濃度よりも高く、1×1016cm-3以上且つ1×1017cm-3以下である。エミッタ領域NEの不純物濃度は、ホールバリア領域NHBの不純物濃度よりも高く、1×1018cm-3以上且つ1×1021cm-3以下である。コレクタ領域PCの不純物濃度は、1×1017cm-3以上且つ~1×1021cm-3以下である。フローティング領域PFの不純物濃度は、1×1015cm-3以上且つ1×1016以下cm-3である。ベース領域PBの不純物濃度は、フローティング領域PFの不純物濃度よりも高く、1×1016cm-3以上且つ1×1018cm-3以下である。高濃度拡散領域PRの不純物濃度は、ベース領域PBの不純物濃度よりも高く、1×1018cm-3以上且つ1×1021cm-3以下である。
【0039】
<半導体装置の製造方法>
以下に図4図9を用いて、実施の形態1における半導体装置100の製造方法について説明する。
【0040】
図4に示されるように、まず、n型のドリフト領域NVを有する半導体基板SUBを用意する。次に、フォトリソグラフィ技術およびイオン注入法によって、半導体基板SUBに、n型のホールバリア領域NHBおよびp型のフローティング領域PFを形成する。
【0041】
次に、半導体基板SUBにトレンチTRを形成する。まず、半導体基板SUB上に、例えば酸化シリコン膜からなる絶縁膜を形成し、フォトリソグラフィ技術およびドライエッチング処理によって上記絶縁膜をパターニングすることで、ハードマスクを形成する。次に、上記ハードマスクをマスクとして半導体基板SUBに対して異方性エッチング処理を行うことで、半導体基板SUBにトレンチTRを形成する。その後、ウェットエッチング処理などによって、上記ハードマスクを除去する。
【0042】
図5に示されるように、まず、半導体基板SUBに対して、例えば1000℃以上且つ1200℃以下の熱処理を施すことで、ホールバリア領域NHBおよびフローティング領域PFに含まれる不純物を拡散させる。この熱処理によって、ホールバリア領域NHBは、トレンチTRの底部付近にまで拡散し、フローティング領域PFは、トレンチTRの底部を覆うように、トレンチTRの底部よりも深い位置まで拡散する。
【0043】
次に、トレンチTRの内部および半導体基板SUB上に、ゲート絶縁膜GIを形成する。ゲート絶縁膜GIの形成は、950℃の雰囲気中で、水蒸気を用いた熱酸化処理(ウェット酸化処理)によって行われる。ゲート絶縁膜GIの厚さは、例えば100nmである。次に、トレンチTRの内部を埋め込むように、例えばCVD法によって、ゲート絶縁膜GI上に、n型の不純物が導入された多結晶シリコン膜のような導電性膜PLを形成する。
【0044】
図6に示されるように、まず、ドライエッチング処理によって、トレンチTRの外部に形成されていた導電性膜PLを除去する。トレンチTRの内部に形成されていた導電性膜PLが、ゲート電極GE1、GE2として残される。次に、異方性エッチング処理および等方性エッチング処理によって、トレンチTRの外部に形成されていたゲート絶縁膜GIを除去する。
【0045】
図7に示されるように、半導体基板SUB上に、酸化シリコン膜からなる絶縁膜IF1を形成する。絶縁膜IF1の形成は、950℃の雰囲気中で、酸素ガスを用いた熱酸化処理(ドライ酸化処理)によって行われる。絶縁膜IF1の厚さは、例えば20nm以上且つ50nm以下である。
【0046】
次に、絶縁膜IF1をスルー膜として、フォトリソグラフィ技術およびイオン注入法によって、半導体基板SUB(フローティング領域PFおよびホールバリア領域NHB)に、p型のベース領域PBを形成する。次に、フォトリソグラフィ技術およびイオン注入法によって、アクティブセルACのベース領域PBに、n型のエミッタ領域NEを形成する。
【0047】
次に、例えばCVD法によって、絶縁膜IF1上に絶縁膜IF2を形成する。絶縁膜IF2は、ボロンおよびリンを含む酸化シリコン膜であり、BPSG膜である。絶縁膜IF1および絶縁膜IF2は、それぞれ層間絶縁膜ILの一部を構成する。絶縁膜IF2の厚さは、絶縁膜IF1の厚さよりも厚く、例えば1000nmである。次に、絶縁膜IF2に対して、例えば950℃、30分の熱処理(リフロー処理)を行う。このリフロー処理によって、絶縁膜IF2が軟化し、絶縁膜IF2の上面が平坦化される。
【0048】
図8に示されるように、フォトリソグラフィ技術およびドライエッチング処理によって、絶縁膜IF2、絶縁膜IF1、エミッタ領域NEおよびベース領域PBに、コンタクトホールCHを形成する。コンタクトホールCHの底部は、ベース領域PBに位置する。
【0049】
次に、フォトリソグラフィ技術およびイオン注入法によって、コンタクトホールCHの底部において、p型の高濃度拡散領域PRを形成する。その後、例えば950℃、30秒の熱処理を行い、各不純物領域に含まれる不純物を活性化させる。
【0050】
図9に示されるように、絶縁膜IF2および絶縁膜IF1に対して等方性エッチング処理を行うことで、絶縁膜IF2および絶縁膜IF1を後退させる。この等方性エッチング処理には、例えばフッ酸を含む水溶液が使用される。これにより、半導体基板SUB上に位置するコンタクトホールCHの開口幅は、半導体基板SUBの内部に位置するコンタクトホールCHの開口幅よりも大きくなる。なお、等方性エッチング処理による絶縁膜IF2および絶縁膜IF1の後退量は、130nm程度である。
【0051】
次に、コンタクトホールCHの内部を埋め込むように、層間絶縁膜IL上に、エミッタ電極EEを形成する。まず、例えばスパッタリング法によって、層間絶縁膜IL上にTiW膜を形成し、例えばスパッタリング法によって、上記TiW膜上にアルミニウム膜を形成する。次に、フォトリソグラフィ技術およびドライエッチング処理によって、上記TiW膜および上記アルミニウム膜をパターニングすることで、エミッタ電極EEを形成する。なお、ここでは図示していないが、エミッタ電極EEを形成する工程と同じ工程で、ゲート配線GWも形成される。
【0052】
また、上記スパッタリング法による上記TiW膜の成膜後に、メタルアロイを形成させるために、水素アニール処理を行う。水素アニール処理は、例えば400℃以上且つ600℃以下、30分の水素雰囲気中で行われる。
【0053】
その後、以下の製造工程を経て、図3の構造が得られる。まず、半導体基板SUBの裏面側からイオン注入を行うことで、n型のフィールドストップ領域NSおよびp型のコレクタ領域PCを形成する。これらのイオン注入の後に、レーザアニールを行うことで、フィールドストップ領域NSおよびコレクタ領域PCに含まれる不純物を活性化させる。次に、半導体基板SUBの裏面側で露出しているコレクタ領域PC上に、例えばスパッタリング法によって、例えばAlSi膜、Ti膜、NiV膜およびAu膜のような金属膜を形成する。この金属膜が、コレクタ電極CEとなる。
【0054】
<本願発明者らによる検討>
上述のように、ゲート絶縁膜GIの厚さは比較的厚いので、ゲート絶縁膜GIの形成時、および、導電性膜PLのドライエッチング処理時に、ゲート絶縁膜GIの厚さにバラつきが生じ易い。それ故、実施の形態1では、均一で薄い厚さの絶縁膜IF1を形成し直し、絶縁膜IF1をイオン注入のスルー膜として適用している。
【0055】
また、ゲート絶縁膜GIの形成にはウェット酸化処理を用い、絶縁膜IF1の形成にはドライ酸化処理を用いている。ウェット酸化処理では、水蒸気の溶解度が大きく、HO分子の拡散速度が大きいので、ドライ酸化処理よりも酸化レートが早くなる。ドライ酸化処理では酸化レートが遅いが、均一な厚さの膜を形成するという点において、絶縁膜IF1の形成には、ドライ酸化処理を用いることが適している。
【0056】
以下に図10図15を用いて、図6以降の製造工程について詳細に説明する。図10は、ゲート絶縁膜GIおよび導電性膜PLを形成した後、トレンチTRの外部に形成されていた導電性膜PLを除去し、ゲート電極GE1を形成した状態を示している。
【0057】
ここで、図10に示されるように、ゲート電極GE1の上面のエッチングダメージを回復させるために、950℃の雰囲気中で、酸素ガスを用いた熱酸化処理(ドライ酸化処理)を行うことで、ゲート電極GE1の上面に、薄い酸化シリコン膜を形成しておいてもよい。図10では、そのような酸化シリコン膜をゲート絶縁膜GIと一体化して図示している。
【0058】
なお、ここではゲート電極GE1の周辺について説明するが、ゲート電極GE2の周辺でも、エミッタ領域NEの形成を除いて同様の製造工程が行われる。
【0059】
図11に示されるように、異方性エッチング処理を施すことで、ゲート絶縁膜GIの厚さを薄くする。ここで、異方性エッチング処理によって半導体基板SUB上のゲート絶縁膜GIを全て除去しようとすると、オーバーエッチング時に、半導体基板SUB中にエッチングによるダメージが発生する。そこで、ゲート絶縁膜GIの大部分を異方性エッチング処理によって除去するが、トレンチTRの外部にゲート絶縁膜GIの一部を残しておく。
【0060】
図12に示されるように、等方性エッチング処理を施すことで、トレンチTRの外部に形成されていたゲート絶縁膜GIを除去する。この際、ゲート電極GE1の上面側からもエッチングが進行するので、トレンチTRの内部でゲート電極GE1の側面に接しているゲート絶縁膜GIの一部も除去される。これにより、ゲート電極GE1の側面の一部が露出する。すなわち、ゲート電極GE1の上部が露出する。
【0061】
図13に示されるように、半導体基板SUB上に、酸化シリコン膜からなる絶縁膜IF1を形成する。絶縁膜IF1の形成は、950℃の雰囲気中で、酸素ガスを用いた熱酸化処理(ドライ酸化処理)によって行われる。また、半導体基板SUB上に形成される絶縁膜IF1の厚さは、図5で半導体基板SUB上に形成されていたゲート絶縁膜GIの厚さよりも薄く、ゲート絶縁膜GIの厚さの半分以下であり、例えば20nm以上且つ50nm以下である。
【0062】
上記ドライ酸化処理によって、絶縁膜IF1は、バーズビークのように、トレンチTRの側面とゲート絶縁膜GIとの間にも形成される。また、露出しているゲート電極GE1の側面の一部にも、絶縁膜IF1が形成される。すなわち、ゲート電極GE1の上部が酸化され、ゲート電極GE1の上面とゲート電極GE1の側面とで構成される角部が酸化される。なお、ゲート絶縁膜GIと絶縁膜IF1とは一体化するが、ここでは説明を判り易くするために、これらを分けて図示している。
【0063】
次に、図14に示されるように、フォトリソグラフィ技術およびイオン注入法によって、半導体基板SUBにベース領域PBを形成し、ベース領域PBにエミッタ領域NEを形成する。これらのイオン注入は、絶縁膜IF1をスルー膜として行われる。ベース領域PBのイオン注入は、ボロンを用いて行われ、エネルギーを110keVとし、ドーズ量を1×1013cm以上且つ2×1013cm以下とした条件で行われる。エミッタ領域NEのイオン注入は、砒素を用いて行われ、エネルギーを100keVとし、ドーズ量を1×1015cm以上且つ5×1015cm以下とした条件で行われる。
【0064】
実施の形態1では、ベース領域PBとエミッタ領域NEとの境界10は、例えば、半導体基板SUBの上面から100nm以上且つ200nm以下の位置に位置している。
【0065】
符号D1は、トレンチTRの側面とゲート絶縁膜GIとの間に形成されている絶縁膜IF1の深さ位置を示している。符号D2は、ゲート電極GE1の側面の一部に形成されている絶縁膜IF1の深さ位置を示している。境界10は、これらの絶縁膜IF1の深さD1、D2よりも浅い位置に位置している。また、図15に示されるように、境界10は、図12で露出したゲート電極GE1の側面の一部(深さD3)よりも浅い位置に位置している。なお、深さD3は、深さD2とほぼ同じである。
【0066】
本願発明者らの検討によれば、ドライ酸化処理を行うと、界面準位が増加し、水素イオンが形成され、PBTIが劣化するということが判った。元々、界面準位は、界面にあるSiH接合が切断される状態である。ウェット酸化処理はHO雰囲気で行われるので、界面準位はHOの中の水素と再接合し、SiH接合が再生され易くなる。そのため、ウェット酸化処理は、界面準位を低減させ易いと推測される。一方で、ドライ酸化処理は酸素ガス雰囲気で行われるので、SiH接合が再生され難い。そのため、ドライ酸化処理は、界面準位を低減させ難いと推測される。
【0067】
図16は、本願発明者らがPBTI劣化を分析した結果を示すグラフである。図17は、実施の形態1におけるPBTI劣化のモデルを示す断面図である。
【0068】
図16には、検討例(〇)および実施の形態1(●)が示されている。検討例(〇)では、ゲート絶縁膜GIの除去と、ドライ酸化処理による絶縁膜IF1の形成とを行わず、ゲート絶縁膜GIをイオン注入のスルー膜として用いたものである。実施の形態1(●)では、PBTI劣化によって、時間の経過と共に、閾値電圧(Vth)が変動している。本願発明者らは、成分分離法を用いて、PBTI劣化には、界面準位成分と、ゲート絶縁膜中の水素イオンによるトラップ成分とが含まれることを明らかにした。PBTIストレスによって拡散してきた水素イオンが界面準位を終端し、閾値電圧が減少する。一方で、正電荷である水素イオンがゲート絶縁膜GIとベース領域PBとの界面に近づくと、水素イオンが膜中トラップとして機能し、閾値電圧が減少すると推測される。
【0069】
すなわち、図17に示されるように、界面準位がある箇所および水素イオンが分布している箇所をチャネル領域として使用すると、閾値電圧の変動(ΔVth)が発生することになる。
【0070】
<実施の形態1の主な特徴>
以下に図2図18図22を用いて、実施の形態1における半導体装置100について説明する。
【0071】
図2に示されるように、トレンチTR、ゲート電極GE1、ゲート電極GE2およびコンタクトホールCHは、Y方向に延在している。複数のエミッタ領域NEは、一対のトレンチTR(一対のゲート電極GE1)の間に形成され、Y方向に沿って互いに距離L1で離間して形成されている。ゲート電極GE1に隣接するエミッタ領域NEの下方に位置するベース領域PBが、チャネル領域として使用される。
【0072】
図2では、複数のエミッタ領域NEのそれぞれのY方向における幅が、幅W1として示されている。幅W1は、実効的なゲート幅であり、複数の幅W1の合計が、1つのアクティブセルACにおける全体のゲート幅となる。
【0073】
図18は、本願発明者らによる実験の結果であり、上述のPBTI劣化による閾値電圧の変動(ΔVth)と、距離L1との関係を示すグラフである。また、図19図22は、図2に示されるB-B線に沿った断面図であり、図18に示されるケース1~4を模式的に示している。
【0074】
なお、図19図22に示されるように、エミッタ領域NEは、高濃度領域NEaと、高濃度領域NEaよりも低い不純物濃度を有する低濃度領域NEbとを含む。低濃度領域NEbは、高濃度領域NEaを構成する不純物が、熱処理によって高濃度領域NEaから拡散した領域である。なお、低濃度領域NEbは、一様な不純物濃度の領域ではなく、実際には、高濃度領域NEaから遠ざかるに連れて不純物濃度が低くなる領域である。
【0075】
従って、より具体的には、上述の幅W1は、Y方向における高濃度領域NEaの幅W1aと、高濃度領域NEaから拡散した低濃度領域NEbの幅W1bの2倍との合計値である。また、上述の距離L1は、Y方向において複数の低濃度領域NEbが互いに離間している距離である。
【0076】
図18に示されるように、本願発明者らの検討によれば、距離L1の値によって閾値電圧の変動が変化することが判った。例えば、ケース1およびケース4の場合には、閾値電圧の変動を最小限に留めることができる。しかし、ケース2およびケース3の場合には、閾値電圧の変動が非常に大きくなる。
【0077】
図19に示されるように、距離L1が十分に広く、隣接するエミッタ領域NE(低濃度領域NEb)が接していなければ、2つのエミッタ領域NEの間に位置するベース領域PBに電流が流れないので、閾値電圧の変動は小さい。
【0078】
しかし、図20および図21に示されるように、距離L1がゼロ以下になり、隣接する低濃度領域NEbが接触すると、その接触箇所の周囲に位置するベース領域PBにも電流が流れ始める。すなわち、上記接触箇所の周囲に位置するベース領域PBが、寄生チャネル領域として機能し始める。この寄生チャネル領域は、高濃度領域NEaの下方に位置するベース領域PBと比較して、ベース領域PBが露出する面積が大きいので、PBTI劣化の影響が大きくなる。言い換えれば、図17を参照すると、上記接触箇所では、境界10の位置が半導体基板SUBの上面に近い位置になると見做せるので、PBTI劣化の影響が大きくなる。
【0079】
図22に示されるように、互いの高濃度領域NEaが重なるように、2つのエミッタ領域NEを更に接近させれば、ケース1と同程度になる程に、閾値電圧の変動を抑制することができる。すなわち、PBTI劣化の影響が大きい箇所を高濃度領域NEaで覆ってしまえば、ケース1とケース4との違いは、ゲート幅(エミッタ領域NEの幅W1)だけということになる。
【0080】
このように、幅W1を広く設定し、実効的なゲート幅を増やすことで、得られる電流量を増やすことができる。同時に、距離L1を適切な値に設定することで、PBTI劣化による閾値電圧の変動を最小限に留めることができる。すなわち、閾値電圧の変動の抑制と、負荷短絡耐量の向上との両立を図れる。これにより、半導体装置100の信頼性を確保できると共に、半導体装置100の性能を向上できる。
【0081】
実施の形態1では、幅W1aは例えば1.0μmであり、幅W1bは例えば0.2μmであり、幅W1は例えば1.4μmである。PBTI劣化による影響を最小限にするという観点から、距離L1は、幅W1の5分の1よりも広くなっていることが好ましい。また、マスクの合わせずれ、および、低濃度領域NEbの拡散係数等に対するマージンを考慮すると、距離L1は、0.2μm以上であることが好ましい。
【0082】
一方で、距離L1を広く設定しすぎると、アクティブセルAC内における全体のゲート幅の割合が少なくなり、得られる電流量が低下してしまう。そこで、距離L1は、幅W1よりも狭くなっていることが好ましい。すなわち、実施の形態1では、「幅W1/5<距離L1<幅W1」の関係が満たされていることが好ましい。そして、距離L1は、下限値として0.2μm以上であることが好ましい。
【0083】
(実施の形態2)
以下に図23図26を用いて、実施の形態2における半導体装置100について説明する。なお、以下の説明では、実施の形態1との相違点について主に説明し、実施の形態1と重複する点については説明を省略する。
【0084】
実施の形態2では、実施の形態1と比較して、エミッタ領域NEが深く形成されている。そのために、エミッタ領域NEのイオン注入は、2回に分けて行われる。1回目のイオン注入は、砒素を用いて行われ、エネルギーを100keVとし、ドーズ量を1×1015cm以上且つ5×1015cm以下とした条件で行われる。2回目のイオン注入は、燐を用いて行われ、エネルギーを70keVとし、ドーズ量を1×1014cm以上且つ1×1015cm以下とした条件で行われる。
【0085】
図23に示されるように、実施の形態2では、ベース領域PBとエミッタ領域NEとの境界10は、半導体基板SUBの上面から300nm以上且つ500nm以下の位置に位置している。このように境界10の位置を深くしていることで、PBTI劣化によって閾値電圧の変動が発生し易い箇所をチャネル領域に使用せず、PBTI劣化の発生が少ない箇所をチャネル領域に使用できる。
【0086】
図24は、実施の形態1および実施の形態2の閾値電圧の変動を示すグラフである。実施の形態2(〇)では、実施の形態1(□)と比較して、閾値電圧の変動が抑制されていることが判る。従って、半導体装置100の信頼性を更に向上できる。
【0087】
なお、図25に示されるように、実施の形態2では、境界10は、絶縁膜IF1の深さD1、D2よりも深い位置に位置している。また、図26に示されるように、境界10は、図12で露出したゲート電極GE1の側面の一部(深さD3)よりも深い位置に位置している。
【0088】
境界10が絶縁膜IF1よりも深い位置に位置することを、例えば以下のように言い換えることもできる。図25および図26に示されるように、ドライ酸化処理によって、境界10よりも上方におけるゲート電極GE1とエミッタ領域NEとの間の距離L2は、境界10よりも下方におけるゲート電極GE1とベース領域PBとの間の距離L3よりも広くなっている。また、距離L2は、ゲート電極GE1の上面に近くなるに連れて広くなる。更に言い換えれば、境界10よりも上方において、ゲート電極GE1の幅は、ゲート電極GE1の上面に近くなるに連れて狭くなる。ゲート電極GE1の上面の位置における距離L2と、距離L3との差は、30nm以上且つ100nm以下である。
【0089】
(実施の形態3)
以下に図27を用いて、実施の形態3における半導体装置100について説明する。なお、以下の説明では、実施の形態1との相違点について主に説明し、実施の形態1と重複する点については説明を省略する。図27は、図2に示されるB-B線に沿った断面図である。
【0090】
図27に示されるように、実施の形態3では、複数のエミッタ領域NEの間に、カウンタードープ領域PDが形成されている。カウンタードープ領域PDは、ベース領域PBよりも低い不純物濃度を有するp型の不純物領域、または、真性半導体領域である。また、カウンタードープ領域PDは、ベース領域PBよりも浅く、高濃度領域NEaよりも深くなるように形成されている。
【0091】
このようなカウンタードープ領域PDは、ベース領域PBの形成工程後またはエミッタ領域NEの形成工程後に、ベース領域PBに、イオン注入法によって、例えばボロンのようなp型の不純物を導入することで形成される。カウンタードープ領域PDの不純物濃度は、実施の形態1で低濃度領域NEbであった領域がp型に反転するか、低濃度領域NEbの不純物濃度を打ち消す程度になるように設定される。
【0092】
カウンタードープ領域PDが存在することで、複数のエミッタ領域NEが互いに接触する可能性を低くすることができる。そのため、PBTI劣化による閾値電圧の変動を抑制し易くなる。また、Y方向において低濃度領域NEbの幅W1bを考慮しなくてよくなったので、幅W1bの分、各エミッタ領域NEを互いに近づけることもできる。
【0093】
また、実施の形態3で説明した技術に、実施の形態2で説明した技術を組み合わせて適用してもよい。
【0094】
(変形例1)
以下に図28を用いて、実施の形態1の変形例1における半導体装置100について説明する。
【0095】
変形例1では、Y方向におけるエミッタ領域NEの幅が、幅W2である。また、Y方向において複数のエミッタ領域NEが互いに離間している距離は、距離L4である。幅W2は、実施の形態1の幅W1の3倍程度であり、距離L4は、実施の形態1の距離L1の3倍程度である。
【0096】
このように、幅W2および距離L4を同じ割合で広くした場合でも、アクティブセルACの全体のゲート幅は実施の形態1と同じになるので、得られる電流量は変わらない。従って、変形例1でも、PBTI劣化による閾値電圧の抑制と、負荷短絡耐量の向上との両立を図れる。
【0097】
また、変形例1で説明した技術に、実施の形態2および実施の形態3で説明した技術を組み合わせて適用してもよい。
【0098】
(変形例2)
以下に図29および図30を用いて、実施の形態1の変形例2における半導体装置100について説明する。図30は、図29に示されるC-C線に沿った断面図である。
【0099】
実施の形態1では、GGEE構造のIGBTについて説明したが、本願の技術は、他構造のIGBTにも適用できる。変形例2では、GE構造IGBTについて説明する。
【0100】
図29および図30に示されるように、変形例2では、インアクティブセルIACのトレンチTRおよびゲート電極GE2が、X方向においてアクティブセルACのトレンチTRおよびゲート電極GE1に隣接している。アクティブセルACのベース領域PB、複数のエミッタ領域NEおよび高濃度拡散領域PRは、これらのトレンチTRの間に形成されている。
【0101】
コンタクトホールCHは、層間絶縁膜ILおよびエミッタ領域NEを貫通し、且つ、ベース領域PBに達している。また、コンタクトホールCHは、ゲート電極GE2の一部上にも達するように形成されている。従って、エミッタ電極EEは、エミッタ領域NE、ベース領域PBおよび高濃度拡散領域PRに接続されているだけでなく、ゲート電極GE2にも電気的に接続され、これらの領域にエミッタ電位を供給する。
【0102】
変形例2においても、「幅W1/5<距離L1<幅W1」の関係が満たされている。そして、距離L1は、下限値として0.2μm以上であることが好ましい。このため、閾値電圧の変動の抑制と、負荷短絡耐量の向上との両立を図れる。
【0103】
また、変形例2で説明した技術に、実施の形態2、実施の形態3および変形例1で説明した技術を組み合わせて適用してもよい。
【0104】
以上、本発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0105】
10 境界
100 半導体装置
1A セル領域
AC アクティブセル
CE コレクタ電極
CH コンタクトホール
EE エミッタ電極
EP エミッタパッド
GE1、GE2 ゲート電極
GI ゲート絶縁膜
GP ゲートパッド
GW ゲート配線
IAC インアクティブセル
IF1、IF2 絶縁膜
IL 層間絶縁膜
NE エミッタ領域
NEa 高濃度領域
NEb 低濃度領域
NHB ホールバリア領域
NS フィールドストップ領域
NV ドリフト領域
PB ベース領域
PC コレクタ領域
PD カウンタードープ領域
PF フローティング領域
PL 導電性膜
PR 高濃度拡散領域
SUB 半導体基板
TR トレンチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30