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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170932
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】溶銑の脱硫方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 1/02 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
C21C1/02 108
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083042
(22)【出願日】2022-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大塚 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】中須賀 貴光
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 幸介
(72)【発明者】
【氏名】田附 篤
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 喜雄
(72)【発明者】
【氏名】入山 慎平
【テーマコード(参考)】
4K014
【Fターム(参考)】
4K014AA02
4K014AB03
4K014AB21
4K014AC08
4K014AD23
(57)【要約】
【課題】取鍋内に装入された溶銑に対して、攪拌羽根を溶銑内に浸漬させて撹拌するに際し、M.Al濃度が低く且つAlN濃度が高いものである安価なアルミ系の鉄鋼精錬用副資材を用いて、そのAlNの分解反応に基づいて、脱硫処理を効率的に行って、脱硫効率の向上を可能とする溶銑の脱硫方法を提供する。
【解決手段】本発明は、取鍋1に装入された溶銑4に対して、攪拌羽根2を有するインペラ3を溶銑4内に浸漬させて撹拌するに際し、インペラ3の回転によって攪拌されている溶銑4の浴面上に、石灰とアルミニウムを含む鉄鋼精錬用副資材を混合した脱硫剤5を、取鍋1の上方から添加して脱硫処理を実施する機械攪拌式脱硫装置を用いた溶銑の脱硫方法において、溶銑4の処理前温度>1360℃、溶銑4の処理前温度×0.0003675-0.4575-処理前の溶銑4中のTi%<0、CaO>0.94kg/t、mass%CaO/mass%AlN<3.92、1.02<mass%CaO/mass%Al2O3当量<1.30の条件を満たす。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
取鍋に装入された溶銑に対して、攪拌羽根を有するインペラを前記溶銑内に浸漬させて撹拌するに際し、前記インペラの回転によって攪拌されている前記溶銑の浴面上に、石灰とアルミニウムを含む鉄鋼精錬用副資材を混合した脱硫剤を、前記取鍋の上方から添加して脱硫処理を実施する機械攪拌式脱硫装置を用いた溶銑の脱硫方法において、
以下に示す式(1)~(5)の条件を満たすことを特徴とする溶銑の脱硫方法。
前記溶銑の処理前温度>1360℃ ・・・(1)
前記溶銑の処理前温度×0.0003675-0.4575-処理前の前記溶銑中のTi%<0 ・・・(2)
CaO>0.94kg/t ・・・(3)
mass%CaO/mass%AlN<3.92 ・・・(4)
1.02<mass%CaO/mass%Al2O3当量<1.30 ・・・(5)
【請求項2】
前記アルミニウムを含む鉄鋼精錬用副資材を使用するに際しては、以下に示す式(6)の条件を満たすことを特徴とする請求項1に記載の溶銑の脱硫方法。
mass%M.Al<15% ・・・(6)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取鍋内の硫黄を含有する溶銑に対して、脱硫するための副資材を添加すると共に機械式攪拌を用いて、脱硫処理を行う溶銑の脱硫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高炉等から出銑された溶銑には、高濃度の硫黄が含まれている。そのため、転炉装入前に硫黄を含む溶銑に対して脱硫処理を行い、溶銑中の硫黄を除去している。
溶銑の脱硫方法としては、例えば、特許文献1~10などに開示されているものがある。
特許文献1は、溶銑脱硫方法において、従来よりも金属アルミニウムの含有率が低いアルミドロスを鉄鋼精錬用副資材として用いて効果的に溶銑脱硫を行うことを目的としている。具体的には、溶銑の脱硫方法において、石灰と窒化アルミニウムを含有する鉄鋼精錬用副資材を、石灰に対して、0.6<[wt%CaO]/([wt%AlN]+[Al2O3当量])<45(式(4))を満たす範囲で鉄鋼精錬用副資材を混合した脱硫剤を、溶銑に供給することが開示されている。
【0003】
特許文献2は、溶銑脱硫方法において、機械攪拌式脱硫方法によって溶銑を効率よく低硫化することができることを目的としている。具体的には、高炉より出銑された溶銑を、転炉での脱炭工程前の溶銑段階で機械式攪拌により脱硫処理を実施するにあたり、換算M.Al[kg/t]≧1.90-1.34×10-3T(数1)に示す条件を満たす組成のフラックスを用いることが開示されている。
【0004】
特許文献3は、溶銑脱硫方法において、機械攪拌式脱硫方法によって溶銑を効率よく低硫化することを目的としている。具体的には、高炉より出銑された溶銑を、転炉での脱炭工程前の溶銑段階で機械式攪拌により脱硫処理を実施するにあたり、換算M.Al[kg/t]≧2.19-1.49×10-3T-6.66×10-2[Si](数1)に示す条件を満たす組成のフラックスを用いることが開示されている。
【0005】
特許文献4は、溶銑脱硫方法において、機械式攪拌による溶銑脱硫を効果的に実施することを目的としている。具体的には、高炉より出銑された溶銑を、転炉での脱炭工程前の溶銑段階で機械式攪拌により脱硫処理を実施するにあたり、1330℃未満の溶銑に対して、換算M.Al[kg/t]≧0.15kg/t,(CaO+MgO)/(SiO2+換算Al2O3)≦15,X/ε=0.2~0.9の条件を満たす組成のフラックスを用いることが開示されている。
【0006】
特許文献5は、溶銑脱硫方法において、機械式攪拌による溶銑脱硫を効果的に実施することを目的としている。具体的には、高炉より出銑された溶銑を、転炉での脱炭工程前の溶銑段階で機械式攪拌により脱硫処理を実施するにあたり、1330℃以上の溶銑に対して、換算M.Al[kg/t]≧0.05kg/t,(CaO+MgO)/(SiO2+換算Al2O3)≦30,X/ε=0.2~0.9の示す条件を満たす組成のフラックスを用いることが開示されている。
【0007】
特許文献6は、溶銑の脱硫方法において、CaOの滓化促進剤である、蛍石等のフッ素化合物を含有しないCaO系脱硫剤を使用して、CaO-CaF系脱硫剤を用いた場合と同等の脱硫率で脱硫処理することを目的としている。具体的には、CaO粉体に対して、金属Alを10~50質量%含有するアルミナ-金属Al混合体を脱硫処理対象の溶銑の脱硫処理前温度に応じて下記の(2)式、(3)式及び(4)式で求められるX質量%以上、X+15質量%以下の範囲で添加した脱硫剤を、攪拌羽根によって攪拌されている溶銑の浴面に添加し、溶銑を脱硫処理することが開示されている。但し、(3)式において、Tは脱硫処理前の溶銑温度(℃)である。
【0008】
溶銑温度:1250℃以下の場合 X(質量%)=20 …(2)
溶銑温度:1250℃超え1340℃未満の場合 X(質量%)=295-0.22×T …(3)
溶銑温度:1340℃以上の場合 X(質量%)=0.2 …(4)
特許文献7は、溶銑の脱硫方法において、脱硫効率をより向上させることを目的としている。具体的には、溶銑の脱硫方法において、脱硫剤を供給した溶銑を攪拌羽根で攪拌する脱硫工程を有し、脱硫剤中のCaOの濃度、Alの濃度及びAlNの濃度が下記
式(1)及び(2)を満たし、脱硫工程が、下記式(3)を満たす回転トルクで攪拌羽根を回転させつつ脱硫剤を投入する工程S1と、脱硫剤投入工程後に下記式(4)を満たす条件で攪拌羽根の回転トルクを上昇させる工程S2と、回転トルク上昇工程後に下記式(5)を満たす回転トルクでの攪拌羽根の回転を維持する工程S3とを有することが開示されている。
【0009】
0.055≦AlNwt%/(CaOwt%+Al2O3wt%+AlNwt%)≦0.13 ・・・(1)
1.0≦CaOwt%/(Al2O3Wt%+AlNwt%)≦2.5 ・・・(2)
0.3≦τ1≦0.6 ・・・(3)
0.4≦Δτ≦1.2 ・・・(4)
0.8≦τ2≦1.2 ・・・(5)
特許文献8は、機械的攪拌による溶銑脱硫において、鉄歩留を高位に保ちつつ、低硫溶銑を安定的に製造することを目的としている。具体的には、高炉より出銑された溶銑を転炉1で脱炭処理する前に機械的攪拌により脱硫するに際しては、溶銑に投入するフラックスの量を所定の関係を満足するものとし、さらにフラックス中でのアルカリ金属の酸化物の量を、フラックス中での酸化珪素、アルミニウム酸化物及び窒化アルミの量で除して得られるパラメータが所定の数値範囲に収まるような組成を備えたものをフラックスとして用いることが開示されている。
【0010】
CaO≧3.0kg/t
2≦(CaO+MgO)/(SiO2+換算Al2O3+AlN)≦15
ただし、換算Al2O3=Al2O3(kg/t)+1.89×M.Al(kg/t)
特許文献9は、溶銑温度が低くても脱硫効率を良くすることを目的としている。具体的には、溶銑を脱炭工程前に脱硫処理を行う溶銑の脱硫方法において、CaO、MgO、SiO、AlNを含む脱硫剤を溶銑に添加する際には、CaO原単位を3.0kg/t以上とし、換算M.Alを0.020kg/t以上とし、AlN/(MgO+SiO)を0.3以上2.2以下にする。AlN/(MgO+SiO)を0.3以上1.40以下にすることが好ましいとされている。
【0011】
特許文献10は、鉄鋼精錬用副資材において、溶銑の脱硫効果を発揮しつつ、保管の際に発火する危険性を低くすることを目的としている。具体的には、石灰と共に溶銑に供給されて、溶銑における脱硫反応を促進するための鉄鋼精錬用副資材において、含有する窒化アルミニウムの量を、重量百分率(wt%)にして20wt%以上にする。このとき、石灰と鉄鋼精錬用副資材を混合したものを脱硫剤とし、脱硫剤における鉄鋼精錬用副資材の量を、例えば重量百分率にして5.0wt%程度となるように調整することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2016-020539号公報
【特許文献2】特開2015-218392号公報
【特許文献3】特開2015-218391号公報
【特許文献4】特開2015-175058号公報
【特許文献5】特開2015-175057号公報
【特許文献6】特開2011-132566号公報
【特許文献7】特開2018-090859号公報
【特許文献8】特開2017-048429号公報
【特許文献9】特開2015-229784号公報
【特許文献10】特開2015-147976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
さて、機械攪拌式脱硫装置を用いた溶銑脱硫プロセスにおいては、石灰系脱硫剤(例えば、石灰やアルミが含まれる鉄鋼精錬用副資材など)を投入して脱硫し、後工程での復硫を抑制するための除滓を行うのが一般的である。
その石灰系脱硫剤として使用するアルミ系の鉄鋼精錬用副資材は、脱酸能力が高くなるにしたがって高い脱硫能力を有する。しかし、脱酸能力の高い副資材は、金属アルミニウム濃度(以下、M.Al濃度と呼ぶ。)が高いため高価となる。そのため、M.Al濃度が高い副資材を用いる場合、コストを考慮しながら使用することとなる。
【0014】
一方で、安価なAl系の鉄鋼精錬用副資材は、M.Al濃度が低い代わりに不純物であるAlNの含有量が多い。そのAlNは、高温化において分解反応が生じることによりM.Alが生成されるため、脱酸を促進されることが知られている。
このように、M.Al濃度が低く且つ安価なアルミ系の鉄鋼精錬用副資材を用いて、脱硫効率の高い処理方法を確立することができれば、脱硫処理のコストを低減させることができるようになる。
【0015】
さらに、安価なアルミ系の鉄鋼精錬用副資材は、アルミニウムを溶解させた時に発生するものもあり、その発生品をAl系の鉄鋼精錬用副資材として処理することができれば、産廃費の低減にも繋がり、環境への負荷も低減させることができるようになる。
ところで、特許文献1については、処理前Ti濃度に関する条件の記載や示唆などがないため、処理前Ti濃度が低い場合には脱硫能力が低下する可能性がある。また、同文献では、脱硫剤原単位が10kg/tと多い場合の記載はあるものの、少ない原単位の場合の記載や示唆などがない。
【0016】
特許文献2については、MgO投入により、脱硫剤CaO濃度が低下し、CaOの活量が低下する。そのため、少ない石灰原単位では、脱硫効率が低下する可能性がある。また、同文献では、温度に応じた換算M.Al量を規定している。ところが、AlNの分解は、一定温度以上でなければほとんど進行しないため、低温時にAlNが多いと脱硫不良が発生する可能性がある。また、同文献では、処理前Ti濃度に関する条件の記載や示唆などがないため、処理前Ti濃度が低い場合には脱硫能力が低下する可能性がある。
【0017】
特許文献3については、MgO投入により、脱硫剤CaO濃度が低下し、CaOの活量が低下する。そのため、少ない石灰原単位では、脱硫効率が低下する可能性がある。また、同文献では、温度に応じた換算M.Al量を規定している。ところが、AlNの分解は、一定温度以上でなければほとんど進行しないため、低温時にAlNが多いと脱硫不良が発生する可能性がある。また、同文献では、処理前Ti濃度に関する条件の記載や示唆などがないため、処理前Ti濃度が低い場合には脱硫能力が低下する可能性がある。
【0018】
特許文献4については、MgO投入により、脱硫剤CaO濃度が低下し、CaOの活量が低下する。そのため、少ない石灰原単位では、脱硫効率が低下する可能性がある。また、同文献では、高温時の適した配合の記載や示唆などがされていない。また、同文献では、処理前Ti濃度に関する条件の記載や示唆などがないため、処理前Ti濃度が低い場合には脱硫能力が低下する可能性がある。
【0019】
特許文献5については、MgO投入により、脱硫剤CaO濃度が低下し、CaOの活量が低下する。そのため、少ない石灰原単位では、脱硫効率が低下する可能性がある。また、同文献では、1360℃未満の範囲において、AlNの分解が進行しないため、脱硫能力が低下する可能性がある。また、同文献では、処理前Ti濃度に関する条件の記載や示唆などがないため、処理前Ti濃度が低い場合には脱硫能力が低下する可能性がある。
【0020】
特許文献6については、粉体を投射しない設備においては、適用させることができない。また、同文献では、温度に関する規定も示唆もなく、また、AlNに関する規定も示唆もされていない。そのため、低温時に高AlN%の脱硫剤を使用した場合、脱硫率が悪化する虞がある。また、同文献では、処理前Ti濃度に関する条件の記載や示唆などが全くないため、処理前Ti濃度が低い場合には脱硫能力が悪化する虞がある。
【0021】
特許文献7については、温度に関する規定も示唆もないため、低温時に脱硫率が低下する可能性がある。また、同文献では、AlN値の上限が低いため、安価なAl系の鉄鋼精錬用副資材を使用した場合、脱硫することができない可能性がある。また、同文献では、処理前Ti濃度に関する条件の記載や示唆などがないため、処理前Ti濃度が低い場合には脱硫能力が低下する可能性がある。
【0022】
特許文献8については、温度に関する規定も示唆もないため、低温時に脱硫率が低下す
る可能性がある。また、同文献では、AlN値の上限が低いため、安価なAl系の鉄鋼精錬用副資材を使用した場合、脱硫することができない可能性がある。また、同文献では、C/Aが高いため、滓化が促進されにくい可能性がある。また、同文献では、処理前Ti濃度に関する条件の記載や示唆などがないため、処理前Ti濃度が低い場合には脱硫能力が低下する可能性がある。
【0023】
特許文献9については、温度に関する規定も示唆もないため、安価なAl系の鉄鋼精錬用副資材を使用した場合、低温時に脱硫率が低下する可能性がある。また、同文献では、処理前Ti濃度に関する条件の記載や示唆などがないため、処理前Ti濃度が低い場合には脱硫能力が低下する可能性がある。
特許文献10については、AlNを多く含有するものの、温度に関する規定も示唆もないため、低温時に脱硫率が低下する可能性がある。また、同文献では、C/Aが高いため、滓化が促進されにくい可能性がある。また、同文献では、処理前Ti濃度に関する条件の記載や示唆などがないため、処理前Ti濃度が低い場合には脱硫能力が低下する可能性がある。
【0024】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、取鍋内に装入された溶銑に対して、攪拌羽根を溶銑内に浸漬させて撹拌するに際し、M.Al濃度が低く且つAlN濃度が高いものである安価なアルミ系の鉄鋼精錬用副資材を用いて、そのAlNの分解反応に基づいて、脱硫処理を効率的に行って、脱硫効率の向上を可能とする溶銑の脱硫方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明にかかる溶銑の脱硫方法は、取鍋に装入された溶銑に対して、攪拌羽根を有するインペラを前記溶銑内に浸漬させて撹拌するに際し、前記インペラの回転によって攪拌されている前記溶銑の浴面上に、石灰とアルミニウムを含む鉄鋼精錬用副資材を混合した脱硫剤を、前記取鍋の上方から添加して脱硫処理を実施する機械攪拌式脱硫装置を用いた溶銑の脱硫方法において、以下に示す式(1)~(5)の条件を満たすことを特徴とする。
【0026】
前記溶銑の処理前温度>1360℃ ・・・(1)
前記溶銑の処理前温度×0.0003675-0.4575-処理前の前記溶銑中のTi%<0 ・・・(2)
CaO>0.94kg/t ・・・(3)
mass%CaO/mass%AlN<3.92 ・・・(4)
1.02<mass%CaO/mass%Al2O3当量<1.30 ・・・(5)
好ましくは、前記アルミニウムを含む鉄鋼精錬用副資材を使用するに際しては、以下に示す式(6)の条件を満たすとよい。
【0027】
mass%M.Al<15% ・・・(6)
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、取鍋内に装入された溶銑に対して、攪拌羽根を溶銑内に浸漬させて撹拌するに際し、M.Al濃度が低く且つAlN濃度が高いものである安価なアルミ系の鉄鋼精錬用副資材を用いて、そのAlNの分解反応に基づいて、脱硫処理を効率的に行って、脱硫効率の向上を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本実施形態における取鍋及びインペラの構成(KR法)の概略を模式的に示した図である。
図2】インペラ(攪拌羽根)の回転径と高さを模式的に示した図である。
図3】式(1)に関する図であり、溶銑の処理前温度T[℃]と脱硫率η[%]との関係を示した図である(処理前温度>1360℃)。
図4】式(2)に関する図であり、T×0.0003675-0.4575-Tii[%]と脱硫率η[%]との関係を示した図である(処理前温度×0.0003675-0.4575-処理前Ti%<0)。
図5】式(3)に関する図であり、WCaOと脱硫率η[%]との関係を示した図である(CaO>0.94kg/t)。
図6】式(4)に関する図であり、CCaO/CAlNと脱硫率η[%]との関係を示した図である(mass%CaO/mass%AlN<3.92)。
図7】式(5)に関する図であり、CCaO/EAl2O3と脱硫率η[%]との関係を示した図である(1.02<mass%CaO/mass%Al2O3当量<1.30)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明にかかる溶銑の脱硫方法の実施形態を、図を参照して説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、その具体例をもって本発明の構成を限定するものではない。
本発明は、取鍋1に溶銑4を装入し、耐火物製の攪拌羽根2を有するインペラ3を用いて、機械攪拌方式による脱硫方法に関する技術であって、安価なアルミ系の鉄鋼精錬用副資材を混合した脱硫剤5を用いた効率的な溶銑4の脱硫方法である。
【0031】
本発明にかかる溶銑4の脱硫方法は、取鍋1に装入された溶銑4に対して、複数枚の攪拌羽根2を有する耐火物3(以後、インペラ3と呼ぶ)を溶銑4内に浸漬させ、インペラ3の回転によって攪拌されている溶銑4の浴面上に石灰と、M.Al濃度が15mass%未満のアルミ系の鉄鋼精錬用副資材を含む脱硫剤5を上置き添加して、脱硫処理する機械攪拌式脱硫装置を用いた溶銑の脱硫方法において、
溶銑4の処理前の温度条件>1360℃ ・・・(1)
式(1)を満たす溶銑4に対して、
溶銑4の処理前温度×0.0003675-0.4575<処理前の溶銑4中のTi濃度[mass%] ・・・(2)
式(2)を満たす場合は石灰系脱硫剤5の配合条件について、
CaO>0.94/t ・・・(3)
mass%CaO/mass%AlN<3.92 ・・・(4)
1.02<mass%CaO/mass%Al2O3当量<1.30 ・・・(5)
式(3)~(5)を満たすように石灰系脱硫剤5の配合で行う。
【0032】
さて、本発明に関し、精錬容器については、取鍋1(溶銑鍋)を対象とする。また、高炉等で製造された溶銑4は硫黄が含まれており、溶銑4の段階で脱硫処理を実施する。
ここで、本発明の溶銑4の脱硫方法を詳説する前に、溶銑4の精錬工程について、一例を挙げて説明する。
具体的に例えば、高炉から出銑された溶銑4は、混銑車にて受銑された後、製鋼工場に運搬され、そこで混銑車から溶銑鍋1(取鍋)へ払い出される。取鍋1においては、除滓位置に移され、この取鍋1中の溶銑4表面に存在する高炉スラグが除去(除滓)される。その後、溶銑4に対して脱硫処理が行われ、脱硫反応により生じたスラグが除去される。除滓された溶銑4は、転炉正面に運ばれて、取鍋1から転炉へ装入される。なお、空となった取鍋1は、払出位置に戻されて、混銑車から取鍋1へ次チャージの溶銑4が払い出される。
【0033】
図1に、本実施形態における取鍋及びインペラの構成(KR法)の概略を模式的に示す。
本発明については、KR法(機械式攪拌装置を用いて溶銑4を攪拌するバッチ処理)を対象とする。また、上記のKR法においては、耐火物製の攪拌羽根2を複数枚有するインペラ3を溶銑4中に浸漬させて、そのインペラ3を回転させて攪拌する方法が一般的である。例えば、特開2003-82409号公報、特開2004-35934号公報などを参照するとよい。
【0034】
溶銑4の脱硫方法について、図に基づいて詳説する。
本実施形態では、このような精錬工程において行われる溶銑4の脱硫処理では、取鍋1内で、機械式攪拌(KR攪拌)装置を用いて行われている。
具体的に例えば、図1に示すように、取鍋1において、取鍋1に装入され且つ、耐火物で形成された攪拌羽根2であるインペラ3の回転によって攪拌されている溶銑4に対して、浴面上方から石灰系脱硫剤5を投入して溶銑4浴内に巻き込ませて添加し、その脱硫剤5が添加された溶銑4を強制攪拌しながら脱硫反応を促進させる処理を行う機械攪拌式脱硫装置を用いて溶銑4の脱硫処理を行っている。
【0035】
なお、高炉等で製造された溶銑4には硫黄が含まれており、この鋼(溶銑4)に含まれる硫黄は、一般的に鋼の性能を悪化させる有害な不純物であるので、溶銑4の段階で脱硫処理を実施している。
脱硫処理とは、通常、脱硫剤5を溶銑4上に上置きし(溶銑4の浴面上方から投入し)、インペラ3を回転させることにより、脱硫剤5を溶銑4へ巻き込ませることで、溶銑4中のSを以下の化学反応式(式[a])により脱硫するものである。
【0036】
CaO+S=CaS+O ・・・[a]
ここで、式[a]中のアンダーラインは、溶銑4中に存在する元素である。
また、石灰系脱硫剤5とは、例えば、脱硫処理に必要な生石灰(CaO)と、滓化促進や式[b]に示す脱酸を目的としてアルミ系の鉄鋼精錬用副資材(例えば、アルミドロス:アルミ精錬滓で、Al2O3,金属アルミニウム(以下、M.Alと呼ぶ。)の混合体)とを合わせたものを指す。この石灰系脱硫剤5としては、生石灰とアルミドロスの混合体が一般的である。
【0037】
2Al+3O=Al2O3 ・・・[b]
なお、本発明は、従来よりもM.Alの含有率が低く且つ安価なアルミ系の鉄鋼精錬用副資材を混合した石灰系脱硫剤5を用いて、従来剤と同等の溶銑脱硫方法を提示する。
このように、本発明では、取鍋1(精錬容器)に装入された溶銑4に対して脱硫処理を実施するにあたり、耐火物で形成された攪拌羽根2を複数枚有するインペラ3を溶銑4内に浸漬させて、そのインペラ3を回転させることによって溶銑4を攪拌し、攪拌されている溶銑4の浴面上に、石灰とアルミ系の鉄鋼精錬用副資材を含む脱硫剤5を、上置き添加(浴面上方から投入)することで脱硫処理を実施する、機械攪拌式脱硫装置を用いた溶銑の脱硫方法における技術である。
【0038】
さて、式(1)については、以下の通りである。
一般的に使用されるアルミ系の鉄鋼精錬用副資材(M.Al濃度が高いもの)と比較すると、AlNの多い安価な脱硫剤は、溶銑4の処理前温度が1360℃を上回ると安定的にAlNによる脱酸が進むこととなる。そのため、以下の化学反応式(式[c])により、脱硫反応が促進される。
【0039】
一方で、1360℃以下となると脱酸不足により、脱硫能力が低下することとなる。
2AlN+3O=Al2O3+2N ・・・[c]
以上より、鋭意研究した結果、溶銑4の処理前温度を式(1)のように規定した。なお、式(1)については、後述する実施例に基づいている。
溶銑4の処理前温度>1360℃ ・・・(1)
また、式(2)については、以下の通りである。
【0040】
上記の式[c]からAlNが脱酸に寄与するにあたっては、溶銑4中のN濃度は低い方が望ましい。一方で、Tiも以下に示す式[d]のようにNと反応する。
Ti+N=TiN・・・[d]
そのため、Tiが多いとTiとNが反応して、溶銑4中のN濃度が低減される。その一方で、Tiが少ないとN濃度が高くなるので、AlNの熱分解による脱酸素の促進を阻害する。
【0041】
ここで、実機において、Ti濃度と脱硫実績を調査したところ、溶銑4の処理後温度[℃]×0.0003675-0.4575<処理後の溶銑4中のTi濃度[mass%]を満たす条件下においては、脱硫が促進されていることがわかった。
以上より、鋭意研究した結果、溶銑4中のTi濃度を式(2)のように規定した。なお、式(2)については、後述する実施例に基づいている。
【0042】
溶銑4の処理前温度[℃]×0.0003675-0.4575-処理前の溶銑4中のTi濃度[mass%]<0 ・・・(2)
また、式(3)については、以下の通りである。
CaOの量そのものが少ないと、十分な脱硫を行うことができない。このことから、溶銑4に投入する脱硫剤5中のCaO量については、脱硫する溶銑1tにおいて、少なくとも0.94kg/tは必要となる。
【0043】
以上より、鋭意研究した結果、CaOを式(3)のように規定した。なお、式(3)につ
いては、後述する実施例に基づいている。
CaO>0.94kg/t ・・・(3)
また、式(4)については、以下の通りである。
M.Alの含有率が低いアルミ系の鉄鋼精錬用副資材中のAlNと、CaOの比率に適正値が存在することが、調査してゆく中で判明した。そのAlNとCaOの比率が3.92以上となると、供給したCaOに対して十分に脱酸を実施することができなくなるため、脱硫能力が不足することとなる。なお、mass%は、投入する石灰系脱硫剤5全体での成分濃度である。
【0044】
以上より、鋭意研究した結果、mass%CaO/mass%AlNを式(4)のように規定した。なお、式(4)については、後述する実施例に基づいている。
mass%CaO/mass%AlN<3.92 ・・・(4)
また、式(5)については、以下の通りである。
脱硫反応を高効率化するための手段の一つとしては、CaOが溶解(滓化)してスラグを生成させ、スラグ内のSの物質移動を高めることが重要となる。ここで、CaO/Al2O3当量が1.1以下であると、CaOの滓化が促進されず、脱硫効率が悪化する虞がある。
【0045】
Al2O3当量:mass%Al2O3+1.89×mass%M.Al+1.24×mass%AlN
なお、mass%は、投入する石灰系脱硫剤5全体での成分濃度である。
以上より、鋭意研究した結果、mass%CaO/mass%Al2O3当量を式(5)のように規定した。なお、式(5)については、後述する実施例に基づいている。
1.02<mass%CaO/mass%Al2O3当量<1.30 ・・・(5)
さらに、式(6)については、以下の通りである。
【0046】
上でも述べたように、本発明は、従来よりもM.Alの含有率が低く且つ安価なアルミ系の鉄鋼精錬用副資材であっても脱硫を行えることを目的とした脱硫方法である。そのM.Al含有量の低いアルミ系の鉄鋼精錬用副資材としては、例えば、Alのアーク炉精錬における副原料であるアーク炉灰などが挙げられる。
以上より、鋭意研究した結果、mass%M.Alを式(6)のように規定した。なお、式(6)については、後述する実施例に基づいている。
【0047】
mass%M.Al<15% ・・・(6)
表1に、本発明の溶銑の脱硫方法に関するパラメータ定義について示す。
【0048】
【表1】
【0049】
図1に示すように、本実施形態においては、石灰系脱硫剤5として、石灰(CaO)と、Al系の鉄鋼精錬用副資材(Al:脱酸剤、Al2O3、AlN:滓化促進剤)とを混合したものを使用する。
[実施例]
以下に、本発明の溶銑の脱硫方法に従って実施した実施例及び、本発明と比較するために実施した比較例について、説明する。
【0050】
本実施例における実施条件については、以下の通りである。
表2に、本実施例における実施条件について示す。なお、表2などに記載した実施形態
は本発明の例示であって、これに限定されるものではない。
【0051】
【表2】
【0052】
図1に、本実施形態における取鍋及びインペラの構成(KR法)の概略を模式的に示す。
図2に、インペラ(攪拌羽根)の回転径(太線部)と高さを模式的に示す。
表3に、脱硫剤の成分について示す。
【0053】
【表3】
【0054】
表4に、本発明の溶銑4の脱硫方法に従って実施した実施例及び、本発明と比較するために実施した比較例を示す。
【0055】
【表4】
【0056】
式(1)については、以下の通りである。
図3に、式(1)に関する図であり、溶銑4の処理前温度T[℃]と脱硫率η[%]との関係を示す。
図3に示すように、1360℃を上回ると、脱硫率ηが50%以上となり、良好な結果を得た(実施例:No.1~15(〇)、比較例:No.16~30(×))。
【0057】
以上より、「溶銑4の処理前温度>1360℃」と規定した。
式(2)については、以下の通りである。
図4に、式(2)に関する図であり、T×0.0003675-0.4575-Tii[%]と脱硫率η[%]との関係を示す。
図4に示すように、「処理前温度×0.0003675-0.4575-処理前Ti%」が0を下回ると、脱硫率ηが50%以上となり、良好な結果を得た(実施例:No.1~8(〇)、比較例:No.31~34(×))。
【0058】
以上より、「溶銑4の処理前温度[℃]×0.0003675-0.4575-処理前の溶銑4中のTi濃度[mass%]<0」と規定した。
式(3)については、以下の通りである。
図5に、式(3)に関する図であり、WCaOと脱硫率η[%]との関係を示す。
図5に示すように、CaOが0.94kg/tを上回ると、脱硫率ηが50%以上となり、良好な結果を得た(実施例:No.1~8(〇)、比較例:No.36,37(×))。
【0059】
以上より、「CaO>0.94kg/t」と規定した。
式(4)については、以下の通りである。
図6に、式(4)に関する図であり、CCaO/CAlNと脱硫率η[%]との関係を示す。
図6に示すように、「mass%CaO/mass%AlN」が3.92を下回ると、脱硫率ηが50%以上となり、良好な結果を得た(実施例:No.4~10(〇)、比較例:No34,35(×))。
【0060】
以上より、「mass%CaO/mass%AlN<3.92」と規定した。
式(5)については、以下の通りである。
図7に、式(5)に関する図であり、CCaO/CAlNと脱硫率η[%]との関係を示す。
図7に示すように、「mass%CaO/mass%Al2O3当量」が1.02より上回り且つ1.30を下回ると、脱硫率ηが50%以上となり、良好な結果を得た(実施例:No.1~8(〇)、比較例:No33-35(×))。
【0061】
以上より、「1.02<mass%CaO/mass%Al2O3当量<1.30」と規定した。
さて、本発明は、M.Al濃度の低いAl系の鉄鋼精錬用副資材(脱硫剤5)を用いて、高い脱硫能力を発現する脱硫処理を行うことを目的としている。
なお、本発明の良否の判定基準については、以下のようにした。
脱硫率η≧50%について、実操業において最低限必要な脱硫能力である。
【0062】
また、溶銑4の処理前S濃度については、0.010mass%~0.020mass%のch(チャージ)とした。
本発明の溶銑4の脱硫方法によれば、取鍋1内に装入された溶銑4に対して、攪拌羽根2を溶銑内に浸漬させてインペラ3を回転させて撹拌するに際し、M.Al濃度が低く且つAlN濃度が高いものである安価なアルミ系の鉄鋼精錬用副資材(脱硫剤5)を用いて、そのAlNの分解反応に基づいて、脱硫処理を効率的に行って、脱硫効率の向上を可能とする。
【0063】
以上をまとめると、本発明の溶銑の脱硫方法は、取鍋1に装入された溶銑4に対して、耐火物で形成された攪拌羽根2を複数枚有するインペラ3を溶銑4内に浸漬させて撹拌するに際し、インペラ3の回転によって攪拌されている溶銑4の浴面上に、石灰とアルミニウムを含む鉄鋼精錬用副資材を混合した脱硫剤5を、取鍋1の上方から添加して脱硫処理を実施する機械攪拌式脱硫装置を用いた溶銑の脱硫方法において、以下に示す式(1)~(5)の条件を満たす。
【0064】
溶銑4の処理前温度>1360℃ ・・・(1)
溶銑4の処理前温度×0.0003675-0.4575-処理前の溶銑4中のTi%<0 ・・・(2)
CaO>0.94kg/t ・・・(3)
mass%CaO/mass%AlN<3.92 ・・・(4)
1.02<mass%CaO/mass%Al2O3当量<1.30 ・・・(5)
さらに、本発明の溶銑の脱硫方法は、アルミニウムを含む鉄鋼精錬用副資材(脱硫剤5)を使用するに際しては、以下に示す式(6)の条件を満たすとよい。
【0065】
mass%M.Al<15% ・・・(6)
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
特に、今回開示された実施形態において、明示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【符号の説明】
【0066】
1 取鍋
2 インペラ
3 攪拌羽根
4 溶銑
5 石灰系脱硫剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7