(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170942
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】保持装置及び静電チャック
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
H01L21/68 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083061
(22)【出願日】2022-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】川鍋 光慶
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆太郎
【テーマコード(参考)】
5F131
【Fターム(参考)】
5F131AA02
5F131BA04
5F131BA19
5F131CA03
5F131CA06
5F131EA03
5F131EB14
5F131EB52
5F131EB78
5F131EB81
5F131EB82
5F131EB85
(57)【要約】
【課題】保持面における均熱性を向上させることができる保持装置及び静電チャックを提供すること。
【解決手段】保持面11と、保持面11とは反対側に設けられる下面12とを備え、保持面11と下面12との間に、XY方向に延びる第1上トンネル44及び下トンネル42と、第1上トンネル44と下トンネル42を繋ぎZ軸方向に延びる縦穴43とを含む鍔部用ガス通路40aが形成されている板状部材10と、上面21と、上面21とは反対側に設けられる下面22とを備えるベース部材20と、下面12と上面21との間に配置されて板状部材10とベース部材20を接合する接合層30と、を有し、保持面11上に半導体ウエハWを保持する静電チャック1において、接合層30には、第1領域R1と第1領域R1より熱伝導率が小さい第2領域R2とが形成されており、第2領域R2は、Z軸方向視で縦穴43と重なる位置に形成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面と、前記第1の面とは反対側に設けられる第2の面とを備え、前記第1の面と前記第2の面との間に、ガス通路が形成されている板状部材と、
第3の面と、前記第3の面とは反対側に設けられる第4の面とを備えるベース部材と、
前記第2の面と前記第3の面との間に配置されて前記板状部材と前記ベース部材を接合する接合層と、を有し、
前記板状部材の前記第1の面上に対象物を保持する保持装置において、
前記ガス通路は、
平面方向に延び、かつ、厚さ方向において異なる高さに配置される第1の横穴および第2の横穴と、
前記第1の横穴および前記第2の横穴とを繋ぎ厚さ方向に延びる縦穴とを含み、
前記接合層には、第1の領域と前記第1の領域より熱伝導率が小さい第2の領域とが形成されており、
前記第2の領域は、厚さ方向視で前記縦穴と重なる位置に形成されている
ことを特徴とする保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載する保持装置において、
前記第2の領域は、空間である
ことを特徴とする保持装置。
【請求項3】
請求項2に記載する保持装置において、
前記空間は、前記接合層を厚さ方向に貫通する貫通穴である
ことを特徴とする保持装置。
【請求項4】
請求項3に記載する保持装置において、
前記貫通穴は、前記縦穴と同軸に配置されており、その直径が前記縦穴の直径の3.5倍以下である
ことを特徴とする保持装置。
【請求項5】
請求項1又は請求項3に記載する保持装置において、
前記板状部材は、内部に発熱抵抗体を備えており、
前記発熱抵抗体は、前記縦穴と交差する面内に配置されている
ことを特徴とする保持装置。
【請求項6】
請求項1又は請求項3に記載する保持装置において、
前記板状部材は、外側へ張り出す鍔部を備えており、
前記縦穴は、前記ガス通路のうち前記鍔部へ不活性ガスを供給するための通路の一部である
ことを特徴とする保持装置。
【請求項7】
請求項1又は請求項3に記載する保持装置を備え、
前記板状部材は、対象物を前記第1の面に固定するための静電引力を発生させる静電電極を有する
ことを特徴とする静電チャック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象物を保持する保持装置及び静電チャックに関する。
【背景技術】
【0002】
対象物を保持する装置として、例えば、対象物を保持するセラミック板(板状部材)と、ベース板(ベース部材)と、セラミックス板とベース板とを接着する接着層(接合層)とを有する保持装置が知られている(特許文献1参照)。この種の保持装置では、保持面における均熱性が要求されている。そのため、特許文献1に記載の保持装置では、接着層の内部に、接着層を厚さ方向に貫通しない少なくとも1つの空間を形成することにより、保持面における均熱性を確保するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、保持装置において、板状部材の上面にガスを供給するために、板状部材の内部に縦穴と横穴で構成されるガス通路を設ける場合がある。このようなガス通路を備える保持装置では、保持面において、複数の横穴を繋ぐ縦穴が存在する部分の上方に位置する領域では、ガス通路内を流れるガスが流路内面に衝突することにより、他の領域よりも温度が低くなる温度特異点が形成されやすい。
【0005】
そして、上記の保持装置では、接着層の内部に厚さ方向に貫通しない空間を形成することにより、保持面における均熱性を確保するようにしているが、セラミックス板(板状部材)にガス通路を設けた場合については何ら開示されていない。そのため、板状部材にガス通路が設けられている場合には、保持面における均熱性を十分に向上させることができないおそれがある。
【0006】
そこで、本開示は上記した問題点を解決するためになされたものであり、保持面における均熱性を向上させることができる保持装置及び静電チャックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本開示の一形態は、
第1の面と、前記第1の面とは反対側に設けられる第2の面とを備え、前記第1の面と前記第2の面との間に、ガス通路が形成されている板状部材と、
第3の面と、前記第3の面とは反対側に設けられる第4の面とを備えるベース部材と、
前記第2の面と前記第3の面との間に配置されて前記板状部材と前記ベース部材を接合する接合層と、を有し、
前記板状部材の前記第1の面上に対象物を保持する保持装置において、
前記ガス通路は、
平面方向に延び、かつ、厚さ方向において異なる高さに配置される第1の横穴および第2の横穴と、
前記第1の横穴および前記第2の横穴とを繋ぎ厚さ方向に延びる縦穴とを含み、
前記接合層には、第1の領域と前記第1の領域より熱伝導率が小さい第2の領域とが形成されており、
前記第2の領域は、厚さ方向視で前記縦穴と重なる位置に形成されていることを特徴とする。
【0008】
このように接合層において、第1の領域と第1の領域より熱伝導率が小さい第2の領域とを形成することにより、第2の領域では、第1の領域と比べて、板状部材とベース部材との間の熱移動(板状部材からベース部材への熱引き)が抑制される。そして、接合層における第2の領域を、厚さ方向視で縦穴と重なる位置に形成することにより、第1の面において縦穴の上方付近では、ベース部材への熱引きを制限することができるため、他の領域との温度差が小さくなる。従って、第1の面において、縦穴の上方付近に温度特異点が形成されることを防ぐことができるため、第1の面における均熱性を向上させることができる。
【0009】
上記した保持装置において、
前記第2の領域は、空間であることが好ましい。
【0010】
このように接合層における第2の領域を空間で形成することにより、第1の領域よりも熱伝導率が小さい領域を簡単に設けることができる。そして、第1の面で縦穴の上方付近にて、他の領域との温度差が小さくなるため、第1の面において温度特異点が形成されなくなり、第1の面における均熱性を向上させることができる。
【0011】
上記した保持装置において、
前記空間は、前記接合層を厚さ方向に貫通する貫通穴であることが好ましい。
【0012】
このように接合層における第2の領域として形成する空間を貫通穴にすることにより、熱伝導率が小さい領域を非常に簡単に設けることができるとともに、接合時に空間が埋まることを確実に防止することができるため、第2の領域における熱伝導率を第1の領域より確実に小さくすることができる。そのため、第1の面で縦穴の上方付近にて、他の領域との温度差を更に小さくすることができ、第1の面における均熱性をより向上させることができる。
【0013】
なお、第2の領域としての空間を貫通穴にしても、板状部材とベース部材はともに硬い部材であるため、貫通穴の部分において、板状部材とベース部材とが接触することはなく、絶縁性に関する問題は生じない。
【0014】
上記した保持装置において、
前記貫通穴は、前記縦穴と同軸に配置されており、その直径が前記縦穴の直径の3.5倍以下であることが好ましい。
【0015】
貫通穴を大きくするにしたがって板状部材とベース部材との間の熱移動が制限される領域が大きくなっていくため、第1の面において縦穴の上方付近では、他の領域との温度差が小さくなっていくが、貫通穴の直径が大きくなりすぎると、他の領域より高温になってしまって他の領域との温度差が大きくなるおそれがある。
【0016】
そこで、このように貫通穴の直径を、縦穴の直径の3.5倍以下にすることにより、第1の面において縦穴の上方付近で、他の領域との温度差を確実に小さくすることができる。これにより、第1の面において温度特異点が形成されなくなり、第1の面における均熱性を向上させることができる。
【0017】
なお、貫通穴の直径は、縦穴の直径に対して、好ましくは0.8倍~3.4倍程度、より好ましくは1.5倍~3.2倍程度であるとよい。こうすることにより、第1の面において縦穴の上方付近で、他の領域との温度差をより小さくすることができるため、第1の面における均熱性をより向上させることができるからである。
【0018】
上記したいずれかの保持装置において、
前記板状部材は、内部に発熱抵抗体を備えており、
前記発熱抵抗体は、前記縦穴と交差する面内に配置されていることが好ましい。
【0019】
板状部材内に発熱抵抗体を備えている場合、その発熱抵抗体が縦穴と交差する面内に配置されていると、縦穴が形成される部分付近には発熱抵抗体を配置することができない。そのため、第1の面で縦穴の上方付近において、他の領域との温度差が更に大きくなってしまう。
【0020】
そこで、発熱抵抗体が縦穴と交差する面内に配置されている場合、このように接合層のうち、厚さ方向視で縦穴と重なる位置に、第2の領域を形成することにより、第1の面において縦穴の上方付近では、他の領域との温度差を小さくすることができる。そのため、発熱抵抗体が縦穴と交差する面内に配置されている場合でも、第1の面における均熱性を向上させることができる。
【0021】
上記したいずれかの保持装置において、
前記板状部材は、外側へ張り出す鍔部を備えており、
前記縦穴は、前記ガス通路のうち前記鍔部へ不活性ガスを供給するための通路の一部であることが好ましい。
【0022】
ガス通路を構成する縦穴が、板状部材の鍔部へ不活性ガスを供給するガス通路の一部である場合には、発熱抵抗体が縦穴と交差する面内に配置されることが多い。そこで、このように、接合層のうち、厚さ方向視で縦穴と重なる位置に、第2の領域を形成することにより、第1の面において縦穴の上方付近では、他の領域との温度差を小さくすることができる。従って、第1の面における均熱性を向上させることができる。
【0023】
上記課題を解決するためになされた本開示の別形態は、
上記したいずれかの保持装置に備え、
前記板状部材は、対象物を前記第1の面に固定するための静電引力を発生させる静電電極を有する静電チャックであることが好ましい。
【0024】
このような静電チャックによれば、板状部材の第1の面における均熱性が向上するため、第1の面に保持される対象物の温度を均一に維持することができる。その結果として、対象物に対して実施される各種の処理を精度良く行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
本開示によれば、保持面における均熱性を向上させることができる保持装置及び静電チャックを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施形態の静電チャックの概略斜視図である。
【
図2】実施形態の静電チャックのXY平面の概略構成図である。
【
図3】
図2に示すA-Aにおける静電チャックのXZ断面の概略構成図である。
【
図5】接合層の貫通穴の直径と保持面の温度差の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本開示に係る実施形態である保持装置及び静電チャックについて、図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態では、例えば、成膜装置(CVD成膜装置やスパッタリング成膜装置など)やエッチング装置(プラズマエッチング装置など)といった半導体製造装置に使用される静電チャックを例示して説明する。
【0028】
そこで、本実施形態の静電チャック1について、
図1~
図4を参照しながら説明する。本実施形態の静電チャック1は、半導体ウエハW(対象物)を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば、半導体製造装置の真空チャンバー内で半導体ウエハWを固定するために使用される。
図1に示すように、静電チャック1は、板状部材10と、ベース部材20と、板状部材10とベース部材20とを接合する接合層30とを有する。
【0029】
以下の説明においては、説明の便宜上、
図1に示すようにXYZ軸を定義する。ここで、Z軸は、静電チャック1の軸線方向(
図1において上下方向)の軸で、Z軸方向が本開示の「厚さ方向」の一例である。また、X軸とY軸は、静電チャック1の径方向の軸である。さらに、本開示の「平面方向」とは、Z軸方向対して垂直に広がるXY平面の方向を意味する。
【0030】
板状部材10は、
図1に示すように、円板状の部材であり、上面であって半導体ウエハWを保持する保持面11と、板状部材10の厚み方向(Z軸方向)について保持面11とは反対側に設けられる下面12とを備えている。この板状部材10は、中心部分に形成された載置部110と、その載置部110から径方向外側へ張り出す鍔部120とを有している。そして、載置部110の上面が保持面11になっており、載置部110に半導体ウエハWが固定されるようになっている。また、鍔部120の上面121には、環状リング(フォーカスリング)が配置されるようになっている。このような板状部材10の直径は、例えば50~500mm程度(通常は200mm~350mm程度)であり、板状部材10の厚さは、例えば1~10mm程度である。なお、保持面11は本開示の「第1の面」の一例であり、下面12は本開示の「第2の面」の一例である。
【0031】
板状部材10は、セラミックスにより形成されている。セラミックスとしては、様々なセラミックスが用いられるが、強度や耐摩耗性、耐プラズマ性等の観点から、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ、Al2O3)または窒化アルミニウム(AlN)を主成分とするセラミックスが用いられることが好ましい。なお、ここでいう主成分とは、含有割合の最も多い成分(例えば、体積含有率が90vol%以上の成分)を意味する。
【0032】
そして、板状部材10は、内部にチャック電極13を備えている。チャック電極13は、Z軸方向視で、例えば略円板形をなしており、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成されている。このチャック電極13に対して図示しない電源から電力が供給されることによって、静電引力(吸着力)が発生し、この静電引力により半導体ウエハWが板状部材10の保持面11に吸着固定される。
【0033】
また、板状部材10は、内部にヒータ電極14を備えている。ヒータ電極14は、Z軸方向視で、例えば略螺旋状に延びるパターンを構成しており、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン、白金等)により形成されている。このヒータ電極14に対して図示しない電源から電力が供給されてヒータ電極14が発熱することによって、保持面11ひいては半導体ウエハWが加熱される。
【0034】
ここで、保持面11に保持している半導体ウエハWの表面温度を均一にするために、半導体ウエハWと保持面11との微小隙間、及び鍔部120の上面に保持される環状リングと鍔部120の上面121との微小隙間に不活性ガス(例えばヘリウムガス等)を供給するためのガス通路40が板状部材10の内部に形成されている。ガス通路40は、鍔部120の上面121に不活性ガスを供給する鍔部用ガス通路40aと、保持面11に不活性ガスを供給する載置部用ガス通路40bとを備えている。
【0035】
鍔部用ガス通路40aは、
図2、
図3に示すように、複数の鍔部ガス穴41と、下トンネル42と、縦穴43と、第1上トンネル44と、ガス導入路45とを有する。鍔部ガス穴41は、Z軸方向に延びて鍔部120の上面121に開口しており、本実施形態では、上面121においてほぼ等間隔に8個形成されている。下トンネル42は、板状部材10の下面12側に配置され、XY面方向に延びて鍔部ガス穴41と縦穴43を連通する複数(本実施形態では8個)の通路で構成されている。縦穴43は、板状部材10を貫通することなくZ軸方向に延びて下トンネル42と第1上トンネル44を連通させている。第1上トンネル44は、板状部材10の保持面11側に配置され、XY面方向に延びて縦穴43とガス導入路45を連通する通路であり、円環路44aと、円環路44aと縦穴43とを連通する連通路44bと、円環路44aとガス導入路45とを連通する連通路44cとを備えている。なお、下トンネル42及び第1上トンネル44(連通路44b)は、本開示の「第1の横穴」および「第2の横穴」の一例である。
【0036】
これにより、鍔部用ガス通路40aでは、ガス導入路45に不活性ガスが供給されると、その不活性ガスが、連通路44cから円環路44aへ流れ、円環路44aから各連通路44bへと分岐して、各縦穴43へ流れる。そして、各縦穴43へ流れ込んだ不活性ガスは、下トンネル42を介して各鍔部ガス穴41から鍔部120の上面121へ供給される。
【0037】
載置部用ガス通路40bは、
図2、
図3に示すように、複数の載置部ガス穴51と、第2上トンネル54と、ガス導入路55とを有する。載置部ガス穴51は、Z軸方向に延びて保持面11に開口しており、本実施形態では、保持面11においてほぼ等間隔に8個形成されている。第2上トンネル54は、板状部材10の保持面11側(第1上トンネル44と同一面)に配置され、XY面方向に延びて載置部ガス穴51とガス導入路55を連通する通路であり、円環路54aと、円環路54aと載置部ガス穴51とを連通する連通路54bと、円環路54aとガス導入路55とを連通する連通路54cとを備えている。
【0038】
これにより、載置部用ガス通路40bでは、ガス導入路55に不活性ガスが供給されると、その不活性ガスが、連通路54cから円環路54aへ流れ、円環路54aから各連通路54bへと分岐して、各載置部ガス穴51から保持面11へ供給される。
【0039】
なお、ガス通路40は、板状部材10の内部に設けられる他部品と干渉しないように配置されていればよく、その配置や個数は例示したものに限られることはなく、適宜変更することができる。
【0040】
ベース部材20は、
図1、
図3に示すように、上面21と、ベース部材20の厚さ方向(すなわち、Z軸方向)について上面21とは反対側に設けられる下面22とを備え、円柱状に形成されている。なお、上面21は本開示の「第3の面」の一例であり、下面12は本開示の「第4の面」の一例である。このベース部材20は、金属(例えば、アルミニウムやアルミニウム合金等)により形成されていることが好ましいが、金属以外(例えば、セラミックス等)であってもよい。なお、本実施形態のベース部材20は金属製である。ベース部材20の直径は、例えば220mm~550mm程度(通常は220mm~350mm程度)であり、ベース部材20の厚さ(Z軸方向の寸法)は、例えば20mm~40mm程度である。
【0041】
そして、ベース部材20には、
図3に示すように、冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)を流すための冷媒流路23が形成されており、この冷媒流路23内に冷媒を流すことにより、ベース部材20が冷却され、これにより、接合層30を介して板状部材10が冷却されるようになっている。
【0042】
また、ベース部材20には、Z軸方向に延びてベース部材20を貫通し、上面21及び下面22に開口する貫通穴26a,26bが形成されている。Z軸方向視で、貫通穴26aは、ガス導入路45と重なる(中心軸が一致する)位置に配置され、貫通穴26bは、ガス導入路55と重なる(中心軸が一致する)位置に配置されている。
【0043】
接合層30は、
図1、
図3に示すように、板状部材10の下面12とベース部材20の上面21との間に配置され、板状部材10とベース部材20とを接合している。この接合層30を介して、板状部材10の下面12とベース部材20の上面21とが熱的に接続されている。接合層30は、例えばシリコーン系樹脂やアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の接着材により構成されている。なお、接合層30の厚さ(Z軸方向の寸法)は、例えば0.1~1.0mm程度である。
【0044】
接合層30には、ガス導入路45と貫通穴26aを連通させる連通穴36aが形成されている。連通穴36aは、ガス導入路45及び貫通穴26aと同軸に配置されている。そして、連通穴36aは、ガス導入路45及び貫通穴26aよりも大きな内径を有しており、連通穴36a内に接合層30を保護するためのOリング37が配置されている。このOリング37により、鍔部用ガス通路40aを介して静電チャック1内に侵入するプラズマやプロセスガス等が接合層30に接触しないようにされており、接合層30が腐食しないようになっている。
【0045】
また、接合層30には、ガス導入路55と貫通穴26bを連通させる連通穴36bが形成されている。連通穴36bは、ガス導入路55及び貫通穴26bと同軸に配置されている。そして、連通穴36bは、ガス導入路55及び貫通穴26bよりも大きな内径を有しており、連通穴36b内に接合層30を保護するためのOリング37が配置されている。このOリング37により、載置部用ガス通路40bを介して静電チャック1内に侵入するプラズマやプロセスガス等が接合層30に接触しないようにされており、接合層30が腐食しないようになっている。
【0046】
そして、接合層30には、
図3、
図4に示すように、第1領域R1と第1領域R1より熱伝導率が小さい第2領域R2とが形成されており、第2領域R2は、Z軸方向視で各縦穴43と重なる位置に配置されている。本実施形態では、第2領域R2は、接合層30をZ軸方向に貫通する貫通穴31(空間)になっており、その貫通穴31が同一円周状に8個設けられている。貫通穴31は、縦穴43と同軸に配置されており、その直径が縦穴43の直径の3.5倍以下である。なお、第1領域R1は、接合層30において、貫通穴31及び連通穴36a,36bを除いた部分である。
【0047】
このような本実施形態の静電チャック1では、外部(ベース部材20の下面22側)からガス導入路45,55に供給された不活性ガスが、静電チャック1内でガス通路40a,40bを介して各ガス穴41,51に流れていき、鍔部ガス穴41から鍔部120の上面121に供給され、載置部ガス穴51から保持面11に供給される。
【0048】
ここで、保持面11において、縦穴43が存在する上方部分11aでは、鍔部用ガス通路40a内を流れる不活性ガスが通路内面に衝突することにより、他の領域よりも温度が低くなる温度特異点が形成されやすい。そして、縦穴43は、下トンネル42と第1上トンネル44の複数の横穴と接続しているため、不活性ガスの通路内面への衝突が他の通路より多い。これにより、1つの横穴と接続される縦穴と比較して、複数の横穴と接続される縦穴43は、他の領域よりも温度が低くなる温度特異点が形成されやすい。また、ヒータ電極14が縦穴43と交差する面内に配置されているため、縦穴43が形成される部分付近にはヒータ電極14が存在しない。そのため、保持面11において縦穴43の上方部分11aでは、他の領域との温度差が更に大きくなってしまう。そのため、保持面11における均熱性が低下するおそれがある。
【0049】
そこで、本実施形態の静電チャック1では、接合層30において、Z軸方向視で各縦穴43と重なる位置に貫通穴31を設けることにより、第1領域R1(貫通穴31及び連通穴36a,36bを除いた部分)と第1領域R1より熱伝導率が小さい第2領域R2(貫通穴31の部分)とを形成している。これにより、貫通穴31が存在する第2領域R2では、第1領域R1と比べて、板状部材10とベース部材20との間の熱移動(板状部材10からベース部材20への熱引き)が抑制される。そして、接合層30における第2領域R2である貫通穴31は、Z軸方向視で縦穴43と重なる位置に配置されているため、保持面11において縦穴43の上方部分11aでは、ベース部材20への熱引きが制限されるので、他の領域との温度差が小さくなる。従って、保持面11において、縦穴43の上方部分11aに温度特異点が形成されることを防ぐことができるため、保持面11における均熱性を向上させることができる。
【0050】
そして、接合層30において、第1領域R1より熱伝導率が小さい第2領域R2として貫通穴31を設けることにより形成しているため、熱伝導率が小さい第2領域R2を非常に簡単に設けることができる。なお、接合層30における第2領域R2は、貫通穴31でなく有穴であってもよいが、有底穴の場合、板状部材10とベース部材20との接合時に、有底穴が埋まるおそれがある。そのため、接合層30に有底穴ではなく貫通穴31を設けて第2領域R2を形成することが好ましい。なお、接合層30に貫通穴31を設けても、板状部材10とベース部材20はとも硬い部材であるため、貫通穴31の部分において、板状部材10とベース部材20とが接触することはなく、絶縁性に関する問題が生じることはない。
【0051】
ここで、接合層30の第2領域R2として設ける貫通穴31の直径を大きくするにしたがって板状部材10とベース部材20との間の熱移動が制限される領域が大きくなっていく。そのため、保持面11において縦穴43の上方部分11aでは、他の領域との温度差が小さくなっていくが、貫通穴31の直径が大きくなりすぎると、他の領域よりも高温になってしまって他の領域との温度差が大きくなるおそれがある。
【0052】
そこで、貫通穴31の直径と保持面11における温度分布との関係についての評価を行った。具体的には、縦穴43の直径を1.6mmとして、貫通穴31の直径を変化させて、保持面11における温度分布の評価を行った。その結果を
図5に示す。
図5は、貫通穴31の直径と保持面11の温度差ΔTとの関係を示すグラフである。なお、「保持面11の温度差ΔT」とは、保持面11における縦穴43の上方部分11a(第2領域R2(貫通穴31)に対応する部分)の中心位置とその他の位置(第1領域R1に対応する位置)との間の温度の差である。つまり、この保持面11の温度差ΔTが小さくなるほど、保持面11の均熱性が向上することになる。
【0053】
図5からわかるように、貫通穴31を設けて貫通穴31の直径を大きくしていくと、貫通穴31の直径が4.0mmまでは、保持面11の温度差ΔTが小さくなっていく。そして、貫通穴31の直径が4.0mmを超えると、直径が大きくなるにしたがって、保持面11の温度差ΔTが大きくなっていき、貫通穴31の直径が5.6mm(縦穴43の直径の3.5倍程度)を超えると、貫通穴31がない状態よりも保持面11の温度差ΔTが大きくなる。つまり、貫通穴31の直径が5.6mm(縦穴43の直径の3.5倍程度)を超えると、保持面11における均熱性を低下させてしまう。
【0054】
そして、貫通穴31の直径を1.4mm~5.5mm(縦穴43の直径の0.87倍~3.4倍程度)に設定することにより、保持面11の温度差ΔTを2.0℃以下にすることができる。さらに、貫通穴31の直径を2.4mm~5.2mm(縦穴43の直径の1.5倍~3.2倍程度)に設定することにより、保持面11の温度差ΔTを1.5℃以下にすることができる。
【0055】
そのため、本実施形態の静電チャック1では、貫通穴31の直径を、縦穴43の直径の3.5倍以下に設定している。このような貫通穴31を、接合層30において、Z軸方向視で縦穴43と重なる位置を設けることにより、保持面11の温度差ΔTを小さくすることができるため、保持面11における均熱性を向上させることができる。
【0056】
そして、貫通穴31の直径は、好ましくは縦穴43の直径の0.8倍~3.4倍程度、より好ましくは1.5倍~3.2倍程度に設定するとよい。こうすることにより、保持面11の温度差ΔTをより小さくすることができるため、保持面11における均熱性をより向上させることができるからである。
【0057】
以上のように、本実施形態の静電チャック1によれば、接合層30において、Z軸方向視で、鍔部用ガス通路40aの一部である縦穴43と重なる位置に貫通穴31を設けている。この貫通穴31の部分では、板状部材10とベース部材20との間の熱移動(板状部材10からベース部材20への熱引き)が抑制される。そのため、保持面11において縦穴43の上方付近では、ベース部材20への熱引きが制限されるので、保持面11の温度差が小さくなる。これにより、保持面11における均熱性を向上させることができる。その結果、保持面11に保持される半導体ウエハWの温度を均一に維持することができるので、半導体ウエハWに対して実施される各種の処理を精度良く行うことができる。
【0058】
なお、上記の実施形態は単なる例示にすぎず、本開示を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記の実施形態では、本開示を静電チャックに適用した場合を例示したが、本開示は、静電チャックに限られることなく、表面に対象物を保持する保持装置全般について適用することができる。
【0059】
また、上記の実施形態では、接合層30の貫通穴31には何も配置されていないが、貫通穴31に板状部材10に接続するようにサーミスタ等の温度計測機を配置してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 静電チャック
10 板状部材
20 ベース部材
30 接合層
31 貫通穴
40 ガス通路
40a 鍔部用ガス通路
40b 載置部用ガス通路
41 鍔部ガス穴
42 下トンネル
43 縦穴
44 第1上トンネル
45 ガス導入路
51 載置部ガス穴
54 第2上トンネル
55 ガス導入路
110 載置部
120 鍔部
R1 第1領域
R2 第2領域
W 半導体ウエハ