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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171007
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1213 20160101AFI20231124BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20231124BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
H01M8/1213
H01M8/12 101
H01M4/86 U
H01M8/12 102A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083172
(22)【出願日】2022-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092727
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 忠昭
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雅也
(72)【発明者】
【氏名】樋口 和宏
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018AS02
5H018AS03
5H018DD10
5H018HH00
5H018HH05
5H126AA02
5H126BB06
5H126EE11
5H126JJ00
5H126JJ05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】発電反応の反応性をコントロールしてセル面内での発電分布の均一化を図ることができる固体酸化物形燃料電池セルを提供すること。
【解決手段】酸化物イオンを通すイオン導電性を有する電解質層20と、電解質層20の片面側に設けられたアノード層22と、電解質層20の他面側に設けられたカソード層とを有する固体酸化物形燃料電池セル。アノード層22は、電子を伝導する電子伝導相32と、イオンを伝導するイオン伝導相34と、燃料ガスを拡散させる空隙相36とを含み、アノード層22の上流側部位における電子伝導相32、イオン伝導相34及び空隙相36の少なくともいずれか一つの相の屈曲度は、アノード層22の下流側部位における電子伝導相32、イオン伝導相34及び空隙相36の屈曲度よりも大きく、このように構成することにより、アノード層22の発電分布の均一化を図ることができる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物イオンを通すイオン導電性を有する電解質層と、前記電解質層の片面側に設けられたアノード層と、前記電解質層の他面側に設けられたカソード層とを有する固体酸化物形燃料電池セルであって、
前記アノード層は、電子を伝導する電子伝導相と、イオンを伝導するイオン伝導相と、燃料ガスを拡散させる空隙相とを含んでおり、
前記燃料ガスの流れ方向上流側に位置する前記アノード層の上流側部位における前記電子伝導相、前記イオン伝導相及び前記空隙相の少なくともいずれか一つの相の屈曲度は、前記燃料ガスの流れ方向下流側に位置する前記アノード層の下流側部位における前記電子伝導相、前記イオン伝導相及び前記空隙相の屈曲度よりも大きいことを特徴とする固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項2】
前記アノード層の前記上流側部位における前記空隙相の屈曲度は、前記アノード層の前記下流側部位における前記空隙相の屈曲度よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項3】
前記カソード層は、電子を伝導する電子伝導相と、イオンを伝導するイオン伝導相と、ガスを拡散させる空隙相とを含み、酸化剤ガスの流れ方向上流側に位置する前記カソード層の上流側部位の前記電子伝導相、前記イオン伝導相及び前記空隙相の少なくともいずれか一つの相の屈曲度は、前記酸化剤ガスの流れ方向下流側に位置する前記カソード層の下流側部位の前記電子伝導相、前記イオン伝導相及び前記空隙相の屈曲度よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項4】
前記アノード層の前記電子伝導相、前記イオン伝導相及び前記空隙相は、これらの三つの相が接触する部位にてアノード三相界面を構成し、前記アノード層の前記下流側部位の前記アノード三相界面の密度は、前記アノード層の前記上流側部位の前記アノード三相界面の密度よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項5】
前記アノード層の前記下流側部位においては前記イオン伝導相と前記電子伝導相とは反応性が高い割合となっており、前記アノード層の前記上流側部位においては前記イオン伝導相と前記電子伝導相とは反応性が低い割合になっていることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項6】
酸化物イオンを通すイオン導電性を有する電解質層と、前記電解質層の片面側に設けられたアノード層と、前記電解質層の他面側に設けられたカソード層とを有する固体酸化物形燃料電池セルであって、
前記アノード層は、電子を伝導する電子伝導相と、イオンを伝導するイオン伝導相と、燃料ガスを拡散させる空隙相とを含み、前記電子伝導相、前記イオン伝導相及び前記空隙相は、これらの三つの相が接触する部位にてアノード三相界面を構成しており、
前記燃料ガスの流れ方向下流側に位置する前記アノード層の下流側部位の前記アノード三相界面の密度は、前記燃料ガスの流れ方向上流側に位置する前記アノード層の上流側部位の前記アノード三相界面の密度よりも大きいことを特徴とする固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項7】
前記カソード層は、電子を伝導する電子伝導相と、イオンを伝導するイオン伝導相と、酸化剤ガスを拡散させる空隙相とを含み、前記電子伝導相、前記イオン伝導相及び前記空隙相は、これらの三つの相が接触する部位にてカソード三相界面を構成し、酸化剤ガスの流れ方向下流側に位置する前記カソード層の下流側部位の前記カソード三相界面の密度は、前記酸化剤ガスの流れ方向上流側に位置する前記カソード層の上流側部位の前記カソード三相界面の密度よりも大きいことを特徴とする請求項6に記載の固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項8】
前記カソード層は、電子を伝導するとともにイオンを伝導する電子・イオン伝導相と、酸化剤ガスを拡散させる空隙相とを含み、前記電子・イオン伝導相及び前記空隙相は、これらの二つの相が接触する部位にてカソード二相界面を構成し、酸化剤ガスの流れ方向下流側に位置する前記カソード層の下流側部位の前記カソード二相界面の密度は、前記酸化剤ガスの流れ方向上流側に位置する前記カソード層の上流側部位の前記カソード二相界面の密度よりも大きいことを特徴とする請求項6に記載の固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項9】
酸化物イオンを通すイオン導電性を有する電解質層と、前記電解質層の片面側に設けられたアノード層と、前記電解質層の他面側に設けられたカソード層とを有する固体酸化物形燃料電池セルであって、
前記アノード層は、電子を伝導する電子伝導相と、イオンを伝導するイオン伝導相と、燃料ガスを拡散させる空隙相とを含んでおり、
前記燃料ガスの流れ方向下流側に位置する前記アノード層の下流側部位においては前記イオン伝導相と前記電子伝導相とは反応性が高い割合となっており、前記アノード層の前記上流側部位においては前記イオン伝導相と前記電子伝導相とは反応性が低い割合になっていることを特徴とする固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項10】
前記カソード層は、電子を伝導する電子伝導相と、イオンを伝導するイオン伝導相と、酸化剤ガスを拡散させる空隙相とを含み、前記酸化剤ガスの流れ方向下流側に位置する前記カソード層の下流側部位においては前記イオン伝導相と前記電子伝導相とは反応性が高い割合となっており、前記アノード層の前記上流側部位においては前記イオン伝導相と前記電子伝導相とは反応性が低い割合になっていることを特徴とする請求項9に記載の固体酸化物形燃料電池セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質層、アノード層及びカソード層を備えた固体酸化物形燃料電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池セル(以下、「燃料電池セル」と称することもある。)として、酸化物イオンを通すイオン導電性を有する電解質層と、この電解質層の片面側に設けられたアノード層(燃料極)と、この電解質層の他面側に設けられたカソード層(空気極)とを有するものが知られている。このような燃料電池セルでは、アノード層側に燃料ガス(例えば、水素)が供給され、カソード層に酸化剤ガス(例えば、空気)が供給される。
【0003】
この固体酸化物形燃料電池セルにおいては、カソード層では、
カソード層(空気極)側の反応:1/20+2e → O2- ・・・(1)
の反応が起こり、このカソード層側で生成された酸化物イオンが電解質層を通してアノード層側に流れ、アノード層では、
アノード層(燃料極)側の反応:H+O2- → HO+2e ・・・(2)
の反応が起こり、このような発電反応により発電が行われる。
【0004】
このような燃料電池セルの発電反応は、燃料ガス(例えば、水素)の濃度が高い流入側に集中し、発電電流が流れる発電箇所では抵抗発熱(オーム発熱)が発生することから、燃料電池セルの流入側の温度が局所的に高くなる傾向にある。燃料電池セルの流入側で局所的に温度勾配が大きくなると、その部位に熱応力が発生し、燃料電池セル(電解質層、アノード層又はカソード層)が破損するおそれが生じる。
【0005】
そこで、燃料電池セルの流入側での局所的な温度勾配の上昇を抑えるために、燃料電池セルのアノード層の流出側部位の気孔率をその流入側部位の気孔率よりも大きくしたものが提案されている(特許文献1参照)。この燃料電池セルにおいては、アノード層の流入側部位においてはアノード層の気孔率が小さく、アノード層の流出側部位ではその気孔率が大きく、このように構成することによって、この流出側部位においてアノード層での反応界面への水素の移動、また発電反応により発生した水蒸気(HOガス)の放出に対する抵抗が小さくなるようにしている。これによって、アノード層の下流側部位における燃料ガスの拡散性が高められ、燃料ガスの濃度が低いアノード層の流出側部位の反応性が高くなり、アノード層での発電分布の均一化を図っている。
【0006】
また、燃料ガスの流れ方向におけるアノード層の気孔率を変えることに代えて、燃料電池セルのアノード層の厚みを変えたものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この燃料電池セルにおいては、アノード層の流入側部位ではその厚みが厚く、アノード層の流出側部位ではその厚みが薄く、これによって、この流出側部位における燃料ガスの拡散性が高められ、アノード層での発電分布の均一化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-94427号公報
【特許文献2】特許第6118694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の固体酸化物形燃料電池セルでは、アノード層での発電分布を均一化するために燃料ガスの流れ方向におけるアノード層の気孔率又はその厚みを変化させているが、これらの気孔率及び厚み以外のファクターでもって発電反応の反応性をコントロールできる燃料電池セルの実現が望まれていた。
【0009】
本発明の目的は、発電反応の反応性をコントロールしてセル面内(アノード層及び/又はカソード層)での発電分布の均一化を図ることができる固体酸化物形燃料電池セルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池セルは、酸化物イオンを通すイオン導電性を有する電解質層と、前記電解質層の片面側に設けられたアノード層と、前記電解質層の他面側に設けられたカソード層とを有する固体酸化物形燃料電池セルであって、
前記アノード層は、電子を伝導する電子伝導相と、イオンを伝導するイオン伝導相と、燃料ガスを拡散させる空隙相とを含んでおり、
前記燃料ガスの流れ方向上流側に位置する前記アノード層の上流側部位における前記電子伝導相、前記イオン伝導相及び前記空隙相の少なくともいずれか一つの相の屈曲度は、前記燃料ガスの流れ方向下流側に位置する前記アノード層の下流側部位における前記電子伝導相、前記イオン伝導相及び前記空隙相の屈曲度よりも大きいことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池セルでは、前記アノード層の前記上流側部位における前記空隙相の屈曲度は、前記アノード層の前記下流側部位における前記空隙相の屈曲度よりも大きいことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項3に記載の固体酸化物形燃料電池セルでは、前記カソード層は、電子を伝導する電子伝導相と、イオンを伝導するイオン伝導相と、ガスを拡散させる空隙相とを含み、酸化剤ガスの流れ方向上流側に位置する前記カソード層の上流側部位の前記電子伝導相、前記イオン伝導相及び前記空隙相の少なくともいずれか一つの相の屈曲度は、前記酸化剤ガスの流れ方向下流側に位置する前記カソード層の下流側部位の前記電子伝導相、前記イオン伝導相及び前記空隙相の屈曲度よりも大きいことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項4に記載の固体酸化物形燃料電池セルでは、前記アノード層の前記電子伝導相、前記イオン伝導相及び前記空隙相は、これらの三つの相が接触する部位にてアノード三相界面を構成し、前記アノード層の前記下流側部位の前記アノード三相界面の密度は、前記アノード層の前記上流側部位の前記アノード三相界面の密度よりも大きいことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項5に記載の固体酸化物形燃料電池セルでは、前記アノード層の前記下流側部位においては前記イオン伝導相と前記電子伝導相とは反応性が高い割合となっており、前記アノード層の前記上流側部位においては前記イオン伝導相と前記電子伝導相とは反応性が低い割合になっていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項6に記載の固体酸化物形燃料電池セルは、酸化物イオンを通すイオン導電性を有する電解質層と、前記電解質層の片面側に設けられたアノード層と、前記電解質層の他面側に設けられたカソード層とを有する固体酸化物形燃料電池セルであって、
前記アノード層は、電子を伝導する電子伝導相と、イオンを伝導するイオン伝導相と、燃料ガスを拡散させる空隙相とを含み、前記電子伝導相、前記イオン伝導相及び前記空隙相は、これらの三つの相が接触する部位にてアノード三相界面を構成しており、
前記燃料ガスの流れ方向下流側に位置する前記アノード層の下流側部位の前記アノード三相界面の密度は、前記燃料ガスの流れ方向上流側に位置する前記アノード層の上流側部位の前記アノード三相界面の密度よりも大きいことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項7に記載の固体酸化物形燃料電池セルでは、前記カソード層は、電子を伝導する電子伝導相と、イオンを伝導するイオン伝導相と、酸化剤ガスを拡散させる空隙相とを含み、前記電子伝導相、前記イオン伝導相及び前記空隙相は、これらの三つの相が接触する部位にてカソード三相界面を構成し、酸化剤ガスの流れ方向下流側に位置する前記カソード層の下流側部位の前記カソード三相界面の密度は、前記酸化剤ガスの流れ方向上流側に位置する前記カソード層の上流側部位の前記カソード三相界面の密度よりも大きいことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項8に記載の固体酸化物形燃料電池セルでは、前記カソード層は、電子を伝導するとともにイオンを伝導する電子・イオン伝導相と、酸化剤ガスを拡散させる空隙相とを含み、前記電子・イオン伝導相及び前記空隙相は、これらの二つの相が接触する部位にてカソード二相界面を構成し、酸化剤ガスの流れ方向下流側に位置する前記カソード層の下流側部位の前記カソード二相界面の密度は、前記酸化剤ガスの流れ方向上流側に位置する前記カソード層の上流側部位の前記カソード二相界面の密度よりも大きいことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の請求項9に記載の固体酸化物形燃料電池セルは、酸化物イオンを通すイオン導電性を有する電解質層と、前記電解質層の片面側に設けられたアノード層と、前記電解質層の他面側に設けられたカソード層とを有する固体酸化物形燃料電池セルであって、
前記アノード層は、電子を伝導する電子伝導相と、イオンを伝導するイオン伝導相と、燃料ガスを拡散させる空隙相とを含んでおり、
前記燃料ガスの流れ方向下流側に位置する前記アノード層の下流側部位においては前記イオン伝導相と前記電子伝導相とは反応性が高い割合となっており、前記アノード層の前記上流側部位においては前記イオン伝導相と前記電子伝導相とは反応性が低い割合になっていることを特徴とする。
【0019】
更に、本発明の請求項10に記載の固体酸化物形燃料電池セルでは、前記カソード層は、電子を伝導する電子伝導相と、イオンを伝導するイオン伝導相と、酸化剤ガスを拡散させる空隙相とを含み、前記酸化剤ガスの流れ方向下流側に位置する前記カソード層の下流側部位においては前記イオン伝導相と前記電子伝導相とは反応性が高い割合となっており、前記カソード層の上流側部位においては前記イオン伝導相と前記電子伝導相とは反応性が低い割合となっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池セルによれば、アノード層は、電子を伝導する電子伝導相と、イオンを伝導するイオン伝導相と、燃料ガスを拡散させる空隙相とを含み、燃料ガスの流れ方向上流側に位置するアノード層の上流側部位における電子伝導相、イオン伝導相及び空隙相の少なくともいずれか一つの相の屈曲度は、燃料ガスの流れ方向下流側に位置するアノード層の下流側部位における電子伝導相、イオン伝導相及び空隙相の屈曲度よりも大きいので、この下流側部位での反応性が高められ、これによって、燃料ガスの流れ方向におけるアノード層の発電分布を均一化することができる。
【0021】
例えば、アノード層の上流側部位における空隙相の屈曲度がその下流側部位の屈曲度よりも大きくなるように構成した場合、この下流側部位において燃料ガスが発電反応場(即ち、アノード層と電解質層との界面付近)に到達しやすくなり、これによって、この下流側部位におけるガス拡散性が高められ、燃料ガスの流れ方向におけるアノード層の発電分布の均一化を図ることができる。
【0022】
また、例えば、アノード層の上流側部位における電子伝導相の屈曲度がその下流側部位の電子伝導相の屈曲度よりも大きくなるように構成した場合、この下流側部位において電気伝導性が高くなり、これによって、この下流側部位の発電性能が高められ、その結果、燃料ガスの流れ方向におけるアノード層の発電分布の均一化を図ることができる。
【0023】
更に、例えば、アノード層の上流側部位におけるイオン伝導相の屈曲度がその下流側部位のイオン伝導相の屈曲度よりも大きくなるように構成した場合、この下流側部位においてイオン伝導性が高くなり、これによって、この下流側部位の発電性能が高められ、その結果、燃料ガスの流れ方向におけるアノード層の発電分布の均一化を図ることができる。
【0024】
アノード層における発電分布の均一化は、電子伝導相、イオン伝導相及び空隙相の少なくともいずれか一つの相の屈曲度を変えることによって発電分布の均一化を図ることができるが、これら三つの相のうち任意の二つの相、或いは三つ全ての相の屈曲度を変えることによって、アノード層の発電分布のより均一化を図ることができる。
【0025】
また、本発明の請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池セルによれば、アノード層の上流側部位における空隙相の屈曲度は、その下流側部位における空隙相の屈曲度よりも大きいので、この下流側部位におけるガス拡散性を高め、燃料ガスの流れ方向におけるアノード層の発電分布の均一化を図ることができる。
【0026】
また、本発明の請求項3に記載の固体酸化物形燃料電池セルによれば、酸化剤ガスの流れ方向上流側のカソード層の上流側部位の電子伝導相、イオン伝導相及び空隙相の少なくともいずれか一つの相の屈曲度は、酸化剤ガスの流れ方向下流側のカソード層の下流側部位の電子伝導相、イオン伝導相及び空隙相の屈曲度よりも大きいので、カソード層の下流側部位における反応性が高められ、これによって、酸化剤ガスの流れ方向におけるカソード層の反応分布の均一化することができる。
【0027】
また、本発明の請求項4及び6に記載の固体酸化物形燃料電池セルによれば、アノード層の電子伝導相、イオン伝導相及び空隙相は、これらの三つの相が接触する部位にてアノード三相界面(このアノード三相界面において発電反応が行われる)を構成し、アノード層の下流側部位のアノード三相界面の密度は、アノード層の上流側部位のアノード三相界面の密度よりも大きいので、この下流側部位における発電性能が高められ、その結果、燃料ガスの流れ方向におけるアノード層の発電分布の均一化を図ることができる。
【0028】
また、本発明の請求項5及び9に記載の固体酸化物形燃料電池セルによれば、アノード層の下流側部位においてはイオン伝導相と電子伝導相とは反応性が高い割合となり、このアノード層の上流側部位においてはイオン伝導相と電子伝導相とは反応性が低い割合となっているので、アノード層の下流側部位における反応性が高められ、その結果、燃料ガスの流れ方向におけるアノード層の発電分布の均一化を図ることができる。
【0029】
また、本発明の請求項7に記載の固体酸化物形燃料電池セルによれば、カソード層の電子伝導相、イオン伝導相及び空隙相は、これらの三つの相が接触する部位にてカソード三相界面を構成し、カソード層の下流側部位のカソード三相界面の密度は、その上流側部位のカソード三相界面の密度よりも大きいので、カソード層の下流側部位における反応性を高めることができ、その結果、酸化剤ガスの流れ方向におけるアノード層の反応分布の均一化を図ることができる。
【0030】
また、本発明の請求項8に記載の固体酸化物形燃料電池セルによれば、カソード層の電子・イオン伝導相及び空隙相は、これらの二つの相が接触する部位にてカソード二相界面を構成し、カソード層の下流側部位のカソード二相界面の密度は、その上流側部位のカソード二相界面の密度よりも大きいので、カソード層の下流側部位における反応性を高め、酸化剤ガスの流れ方向におけるアノード層の反応分布の均一化を図ることができる。
【0031】
更に、本発明の請求項10に記載の固体酸化物形燃料電池セルによれば、カソード層は、電子を伝導する電子伝導相と、イオンを伝導するイオン伝導相と、酸化剤ガスを拡散させる空隙相とを含み、カソード層の下流側部位においてはイオン伝導相と電子伝導相とは反応性が高い割合となり、カソード層の上流側部位においてはイオン伝導相と電子伝導相とは反応性が低い割合となっているので、カソード層の下流側部位における反応性を高め、酸化剤ガスの流れ方向におけるアノード層の反応分布の均一化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明に従う固体酸化物形燃料電池セルの第1の実施形態を用いたセルスタックの一例を示す斜視図。
図2図1のセルスタックを簡略的に示す断面図。
図3図2の固体酸化物形燃料電池セルを拡大して示す断面図。
図4】アノード層の一部を拡大して模式的に示す拡大断面図。
図5】アノード層の電子伝導相、イオン伝導相及び空隙相の屈曲度を説明するための説明図。
図6】本発明に従う固体酸化物形燃料電池セルの第2の実施形態におけるアノード層の一部を拡大して模式的に示す拡大断面図。
図7】アノード層におけるアノード三相界面長さ比と燃料電池セルの発電性能との関係を示す図。
図8】アノード層におけるイオン伝導相の体積分率とアノード層の過電圧との関係を示す図。
図9】実施例の固体酸化物型燃料電池セルにおける流入側から流出側までの温度及び発電電流の変化状態を示す図。
図10】比較例の固体酸化物型燃料電池セルにおける流入側から流出側までの温度及び発電電流の変化状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付図面を参照して、本発明に従う固体酸化物形燃料電池セルの各種実施形態について説明する。
【0034】
まず、図1図5を参照して、本発明に従う固体酸化物形燃料電池セルの第1の実施形態について説明する。図1及び図2は、第1の実施形態の固体酸化物形燃料電池セルを用いたセルスタックを示している。図1及び図2において、図示のセルスタック2は、外形が矩形状のスタック本体4を備え、このスタック本体4に複数の固体酸化物形燃料電池セル6が積層状態に組み付けられている。スタック本体4には第1流入側マニホールド8及び第1流出側マニホールド10が設けられ、燃料供給流路からの燃料ガス(例えば、水素)が第1流入側マニホールド8で分配された後に複数の燃料電池セル6のアノード室12に送給され、アノード室12からの燃料オフガスが第1流出側マニホールド10を通して流出される。
スタック本体4には、更に、第2流入側マニホールド14及び第2流出側マニホールド16が設けられ、酸化剤ガス供給流路からの酸化剤ガス(例えば、空気)が第2流入側マニホールド14で分配された後に複数の燃料電池セル6のカソード室18に送給され、カソード室18からの酸化剤オフガスが第2流出側マニホールド16を通して流出される。
【0035】
次に、図示の固体酸化物形燃料電池セル6について説明すると、複数の固体酸化物形燃料電池セル6は実質上同一の構成であり、以下、その一つについて説明する。主として図3を参照して、図示の固体酸化物形燃料電池セル6は、電解質層20と、この電解質層20の片面側(図2及び図3において下面側)に配設されたアノード層22(燃料極)と、この電解質層20の他面側(図2及び図3において上面側)に配設されたカソード層24(空気極)とを備えている。この形態では、アノード層22を支持ベースとしてその表面側に電解質層20が設けられ、この電解質層20の表面側にカソード層24が設けられている。
【0036】
複数の燃料電池セル6のうち隣接する燃料電池セル6間にインターコネクタ26が配設され(図2も参照)、これらインターコネクタ26は、隣接する燃料電池セル6のアノード層22及びカソード層24に電気的に接続されている。各アノード室12は、燃料電池セル6のアノード層22とインターコネクタ26との間に形成され、カソード室18は、燃料電池セル6のカソード層24とインターコネクタ26との間に形成されている。
【0037】
電解質層20は、例えばイットリア安定化ジルコニア(「YSZ」とも称する。)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)などから形成される。この電解質層20はイオン導電性を有し、カソード層24(空気極)側で生成された酸化物イオンをアノード層22側に通す作用を有する。アノード層22(燃料極)は、例えばニッケル-イットリア安定化ジルコニア(「Ni-YSZ」とも称する。)などから形成され、このアノード層22では上記(2)式の反応が行われる。また、カソード層24(空気極)は、例えばランタンストロンチウムマンガナイト-イットリア安定化ジルコニア(La0.6Sr0.4MnO)(「LSM-YSZ」とも称する。)、ランタンストロンチウムコバルタイトフェライト[(La,Sr)(Co,Fe)O](LSCF)、ランタンストロンチウムコバルタイト(La0.6Sr0.4CoO)(LSC)などから形成され、このカソード層24では上記(1)式の反応が行われる。尚、後に詳述するように、LSM-YSZはカソード三相界面を有する材料であり、LSCF及びLSCはカソード二相界面を有する材料である。
【0038】
この固体酸化物形燃料電池セル6では、燃料ガスの流れ方向におけるアノード層22の発電分布が均一化するように、更に、次のように構成されている。主として図4及び図5を参照して、アノード層22(燃料極)が例えばNiーYSZから形成されている場合、Ni相32が電子を伝導する電子伝導相として機能し、YSZ相34がイオンを伝導するイオン伝導相として機能し、空隙相36が燃料ガス(例えば、水素)を拡散するガス拡散相として機能する。
【0039】
この実施形態においては、空隙相36の屈曲度に着目し、燃料ガスの流れ方向におけるアノード層22の発電分布の均一化を図っている。このような燃料電池セル6では、流入側の燃料ガス(例えば、水素)の濃度は高く、その発電分布は、濃度の高い流入側では大きく、濃度の低い流出側では小さくなる傾向にある。このようなことから、燃料ガスの流れ方向に見て上流側に位置するアノード層22の上流側部位22aにおける空隙相36の屈曲度が、燃料ガスの流れ方向に見て下流側に位置するアノード層22の下流側部位22bにおける空隙相36の屈曲度よりも大きくなるように構成されている。
【0040】
ここで屈曲度(τ)について説明すると、この屈曲度(τ)とは物質の伝導や拡散が抑制される程度を示す指標であり、この屈曲度(τ)と相の構造との関係は、例えば図5に示すようになる。図5(a)に示すように直線状に延びる構造では、屈曲度(τ)は「1」(τ=1)となり、図5(b)に示すように45度に傾斜して延びる構造では、屈曲度(τ)は「1.4」(τ=1.4)となり、図5(c)に示すように粒子が直線状に繋がる構造では、屈曲度(τ)は「1」より大きいがその値は比較的小さな値(τ=小)となり、図5(d)に示すように粒子が折れて繋がる構造では、屈曲度(τ)は比較的大きな値(τ=大)となり、図5(e)で示すように連続的に繋がっていない構造(換言すると、切断された構造)では、屈曲度(τ)は無限大(τ=∞)となる。
【0041】
この空隙相36の屈曲度(τ)とその構造を考慮した燃料ガスの有効拡散係数(De)との関係は、
有効拡散係数De=(ε/τ)×D ・・・(3)
ε:空隙相の体積分率 τ:空隙相の屈曲度
:燃料ガスの理論上の拡散係数
で表され、この(3)式から理解されるように、空隙相36の屈曲度(τ)が小さいほど燃料ガスの有効拡散係数(De)は大きくなる。
【0042】
この実施形態では、アノード層22の上流側部位22aにおける空隙相36の屈曲度(τ1a)が、その下流側部位22bにおける空隙相36の屈曲度(τ1b)よりも大きくなるように構成され(τ1a>τ1b)、その上流側部位22aの屈曲度(τ1a)は、例えば5~20程度に、またその下流側部位22bの屈曲度(τ1b)は、例えば1~15程度にとなるように構成される。
【0043】
このように構成されるので、アノード層22の下流側部位22bの有効拡散係数がその上流側部位22aの有効拡散係数よりも大きくなり、この下流側部位22bのガス拡散性が高くなって燃料ガスが反応場(アノード層22と電解質層20との界面付近)に流れ易くなる。従って、アノード層22(燃料極)の下流側部位22bの発電反応性(即ち、発電性能)が高くなり、その結果、燃料ガスの流れ方向におけるアノード相22の発電分布の均一化を図ることができ、アノード層22の局所的な温度上昇を抑えることができる。
【0044】
上述の実施形態では、アノード層22の空隙相36の屈曲度(τ)を変えているが、この空気相36に代えて、アノード層22の電子伝導相(Ni相32)の屈曲度(τ)又はイオン伝導相(YSZ相34)の屈曲度(τ)を変えるようにしてもよい。
【0045】
アノード層22の電子伝導相(Ni相32)の屈曲度(τ)を変える場合について説明すると、この場合、この電子伝導相の屈曲度(τ)とその構造を考慮した有効電子導電率(σe)との関係は、
有効電子導電率σe=(ε/τ)×σ ・・・(4)
ε:電子伝導相の体積分率 τ:電子伝導相の屈曲度
σ:電子伝導相の電子導電率
で表され、この式(4)から理解されるように、この電子伝導相の屈曲度(τ)が小さいほど有効電子導電率(σe)は大きくなる。
【0046】
この場合、上述したと同様に、アノード層22の上流側部位22aにおける電子伝導相32の屈曲度(τ2a)が、その下流側部位22bにおける電子伝導相36の屈曲度(τ2b)よりも大きくなるように構成される(τ2a>τ2b)。このように構成することにより、アノード層22の下流側部位22bの有効電子導電率がその上流側部位22aの有効電子導電率よりも大きくなり、この下流側部位22bにおいて電子が流れ易くなる。従って、このように構成しても、アノード層22(燃料極)の下流側部位22bの発電反応性(発電性能)が高くなり、燃料ガスの流れ方向におけるアノード層22の発電分布の均一化を図ることができる。
【0047】
また、アノード層22のイオン伝導相(YSZ相34)の屈曲度(τ)を変える場合について説明すると、この場合、このイオン伝導相の屈曲度(τ)とその構造を考慮した有効イオン導電率(σe)との関係は、
有効イオン導電率σe=(ε/τ)×σ ・・・(5)
ε:イオン伝導相の体積分率 τ:イオン伝導相の屈曲度
σ:イオン伝導相のイオン導電率
で表され、この式(5)から理解されるように、このイオン伝導相の屈曲度(τ)が小さいほど有効電子導電率(σe)は大きくなる。
【0048】
この場合、上述したと同様に、アノード層22の上流側部位22aにおけるイオン伝導相34の屈曲度(τ3a)が、その下流側部位22bにおけるイオン伝導相32の屈曲度(τ3b)よりも大きくなるように構成される(τ3a>τ3b)。このように構成することにより、アノード層22の下流側部位22bの有効イオン導電率がその上流側部位22aの有効イオン導電率よりも大きくなり、この下流側部位22bにおいてイオンが流れ易くなる。従って、このように構成しても、アノード層22(燃料極)の下流側部位22bの発電反応性(発電性能)が高くなり、燃料ガスの流れ方向におけるアノード層22の発電分布の均一化を図ることができる。
【0049】
上述した実施形態では、アノード層22における電子伝導相32(Ni相)、イオン伝導相34(YSZ相)及び空隙相36のいずれか一つの相の屈曲度をその上流側部位22aとその下流側部位22bとで変えているが、電子伝導相32、イオン伝導相34及び空隙相36の任意の二つの相の屈曲度を変えるようにしてもよく、或いは電子伝導相32、イオン伝導相34及び空隙相36の三つの相の全ての屈曲度を変えるようにしてもよい。
【0050】
上述した実施形態では、アノード層22における電子伝導相32(Ni相)、イオン伝導相34(YSZ相)及び空隙相36の屈曲度をその上流側部位22aとその下流側部位22bとで変えているが、アノード層22に加えてカソード層24の屈曲度を変えるようにしてもよい。
【0051】
例えば、カソード層24をLSM-YSZから形成した場合、このLSM-YSZはカソード三相界面を有し、LSM相が電子伝導相として機能し、YSZ相がイオン伝導相として機能し、これら電子伝導相及びイオン伝導相に加えて空隙相を含んでいる。酸化剤ガス(例えば、空気)の流れ方向におけるカソード層24の反応の均一化を図るために、アノード層22と同様に、酸化剤ガスの流れ方向に見て上流側に位置するカソード層24の上流側部位24aにおける空隙相(又は電子伝導相、イオン伝導相)の屈曲度が、酸化剤ガスの流れ方向に見て下流側に位置するカソード層24の下流側部位24bにおける空隙相(又は電子伝導相、イオン伝導相)の屈曲度よりも大きくなうように構成される。
【0052】
このように構成することより、カソード層24の下流側部位24bの有効拡散係数(又は有効電子導電率、有効イオン導電率)がその上流側部位24bの有効拡散係数(又は有効電子導電率、有効イオン導電率)よりも大きくなり、この下流側部位24bのガス拡散性(又は電子導電性、イオン導電性)がその上流側部位24aに比して高くなる。従って、カソード層24(空気極)の下流側部位24bの反応性が高くなり、その結果、酸化剤ガスの流れ方向におけるカソード相24の反応分布の均一化を図ることができる。
【0053】
上述の実施形態では、カソード層24の上流側部位24aの空隙相、電子伝導相及びイオン伝導相のいずれか一つの相の屈曲度をその下流側部位24bの空隙相、電子伝導相及びイオン伝導相の屈曲度よりも大きくしているが、この上流側部位24aの空隙相、電子伝導相及びイオン伝導相の任意の二つの相の屈曲度を大きくするようにしてもよく、或いはこれら空隙相、電子伝導相及びイオン伝導相の三つの全ての相の屈曲度を大きくするようにしてもよい。
【0054】
また、例えば、カソード層24をLSCF(LSC)から形成した場合、このLSCF(LSC)はアノード二相界面を有し、LSCF相(LSC相)が電子を伝導するとともにイオンも伝導する電子・イオン伝導相(電子伝導相及びイオン伝導相の双方の機能を有する)として機能し、この電子・イオン伝導相に加えて空隙相を含んでいる。この場合、カソード層24の反応の均一化を図るために、カソード層24の上流側部位24aにおける空隙相(又は電子・イオン伝導相)の屈曲度が、カソード層24の下流側部位24bにおける空隙相(又は電子・イオン伝導相)の屈曲度よりも大きくなうように構成され、このように構成することより、三相界面を有するものと同様に、カソード層24の下流側部位24bの有効拡散係数(又は有効電子導電率・有効イオン導電率)がその上流側部位24bの有効拡散係数(又は有効電子導電率・有効イオン導電率)よりも大きくなり、この下流側部位24bのガス拡散性(又は電子導電性・イオン導電性)が高くなる。従って、カソード層24(空気極)の下流側部位24bの反応性が高くなり、その結果、酸化剤ガスの流れ方向におけるカソード層24の反応分布の均一化を図ることができる。
【0055】
上述の実施形態では、カソード層24の上流側部位24aの空隙相及び電子・イオン伝導相のいずれか一方の相の屈曲度をその下流側部位24bの空隙相及び電子・イオン伝導相の屈曲度よりも大きくしているが、この上流側部位24aの空隙相及び電子・イオン伝導相の双方の屈曲度を大きくするようにしてもよい。
【0056】
次いで、本発明に従う固体酸化物形燃料電池セルの第2の実施形態について説明する。上述の第1の実施形態では、アノード層の空隙相、電子伝導相及びイオン伝導相の屈曲度に着目しているが、この第2の実施形態では、アノード相のアノード三相界面の密度に着目して発電分布の均一化を図っている。尚、以下の実施形態において、上述した第1の実施形態と実質上同一の部材には同一の番号を付し、その説明を省略する。
【0057】
この第2の実施形態において、固体酸化物形燃料電池セルの基本的構成は上述の第1の実施形態と同様であり、そのアノード層及びカソード層の構造が第1の実施形態と異なっている。この第2の実施形態において、固体酸化物形燃料電池セル2Aのアノード層22Aは、第1の実施形態と同様に、例えばNiーYSZから形成され、Ni相32が電子伝導相として機能し、YSZ相34がイオン伝導相として機能し、空隙相36が燃料ガス(例えば、水素)を拡散するガス拡散相として機能し、電子伝導層32(Ni相)、イオン伝導相34(YSZ相)及び空隙相36の三つの相が接触する箇所がアノード三相界面38となり、このアノード三相界面38において発電反応が行われる。
【0058】
このアノード三相界面38の長さの比と最大出力密度(W/cm)とは、例えば図7に示す関係があり(参考文献としての特開2015-176774号公報から引用する。)、アノード層22Aのアノード三相界面38の長さの比が大きくなればその最大出力密度も大きくなる、換言するとこのアノード三相界面38の密度が大きくなるとアノード層22Aの発電電流も大きくなる。尚、図7における40μm、20μm、10μm、5μmは、イオン伝導相34(YSZ層)のサイズであり、イオン伝導相34のサイズを更に微細化することにより最大出力密度を更に改善することができる。
【0059】
このアノード層22Aのアノード三相界面の密度は、例えば、電子伝導相32(Ni)の粒子径、イオン伝導相34(YSZ)の粒子径、造孔材(空隙径)を変えたり、電極(アノード層)を製作するときの焼成時間及び/又は焼成温度を変えることによって、アノード三相界面の密度を調整することができ、一般的に、使用する材料の粒径が小さいほどアノード三相界面の密度が大きくなりやすくなる。
【0060】
このようなことから、第2の実施形態においては、このアノード三相界面38の密度を変化させるようにし、アノード層22Aの下流側部位におけるアノード三相界面38の密度が、その上流側部位におけるアノード三相界面38の密度よりも大きくなるように構成され、その上流側部位におけるアノード三相界面38の密度は、例えば2~4μm/μm程度に、またその下流側部位におけるアノード三相界面38の密度は、例えば3~5μm/μm程度になるように構成される。
【0061】
このように構成することにより、アノード層22Aの下流側部位におけるアノード三相界面38の密度が上流側部位に比して大きくなり、この下流側部位の発電反応性(発電性能)が高くなり、その結果、燃料ガスの流れ方向におけるアノード層22Aの発電分布の均一化を図ることができる。
【0062】
上述した実施形態では、アノード層22Aにおけるアノード三相界面38の密度をその上流側部位とその下流側部位とで変えているが、アノード層22Aに加えてカソード層のカソード三相界面又は二相界面の密度を変えるようにすることもできる。
【0063】
例えば、カソード層をLSM-YSZから形成した場合、このLSM-YSZは、上述したように、電子伝導層としてのLSM相、イオン伝導層としてのYSZ相及びガス拡散相としての空隙相を含み、これら電子伝導相、イオン伝導相及び空隙相の三つの相が接触する箇所がカソード三相界面を構成し、このカソード三相界面においてカソード層側の反応が行われる。このようなカソード層において、酸化剤ガス(例えば、空気)の流れ方向における反応の均一化を図るために、アノード層22Aと同様に、カソード層の下流側部位におけるカソード三相界面の密度が、その上流側部位におけるカソード三相界面の密度よりも大きくなうように構成される。
【0064】
このように構成することより、カソード層の下流側部位における反応性が上流側部位に比して高くなり、酸化剤ガスの流れ方向におけるカソード層の反応分布の均一化を図ることができる。
【0065】
また、例えば、カソード層をLSCF(LSC)から形成した場合、このLSCF(LSC)は、電子・イオン伝導相としてのLSCF相(LSC相)と、ガス拡散相としての空隙相とを含み、電子・イオン伝導相と空隙相とが接触する箇所がカソード二相界面を構成し、このカソード二相界面においてカソード層側の反応が行われる。この場合、カソード層の下流側部位におけるカソード二相界面の密度が、その上流側部位におけるカソード二相界面の密度よりも大きくなうように構成される。
【0066】
このように構成することより、カソード三相界面を有するものと同様に、カソード層の下流側部位の反応性が高くなり、酸化剤ガスの流れ方向におけるカソード層の反応分布の均一化を図ることができる。
【0067】
次に、本発明に従う固体酸化物形燃料電池セルの第3の実施形態について説明する。第1の実施形態ではアノード層の空隙相、電子伝導相及びイオン伝導相の屈曲度に着目し、また第2の実施形態ではアノード相のアノード三相界面の密度に着目しているが、この第3の実施形態においては、アノード層のイオン伝導相と電子伝導相との反応性に関する割合に着目してアノード層の発電分布の均一化を図っている。
【0068】
この第3の実施形態において、固体酸化物形燃料電池セルの基本的構成は上述の第1及び第2の実施形態と同様であり、そのアノード層のイオン伝導相(YSZ相)と電子伝導相(Ni相)との反応性に関する割合が第1及び第2の実施形態と異なっている。
【0069】
この第3の実施形態において、図示していないが、固体酸化物形燃料電池セルのアノード層は、例えばNiーYSZから形成され、電子伝導相としてのNi相と、イオン伝導相としてのYSZ相と、ガス拡散相としての空隙相を含んでいる。
【0070】
このアノード層におけるイオン伝導相(YSZ相)の体積分率(Vaε)は、
体積分率Vaε=VYSZ/(VNi+VYSZ) ・・・(6)
Ni:電子伝導相の体積 VYSZ:イオン伝導相の体積
で表される。
【0071】
このアノード層のイオン伝導相の体積比率とアノード層の過電圧(Arb.unit)との関係は、例えば図8に示す通りとなり(参考文献としての特開2015-176774号公報から引用する。)、イオン伝導相の体積比率(Vaε)が0.2~0.8の範囲においてイオン伝導相の体積比率が大きくなるとアノード層の過電圧(電圧ロス)は小さくなり、アノード層の発電反応性(発電性能)が高くなる。
【0072】
イオン伝導相の体積比率(Vaε)に関してこのような関係があることから、この第3の実施形態においては、このアノード相のイオン伝導相(YSZ相)の体積比率による過電圧(電圧ロス)を変化させる、換言するとイオン伝導相(YSZ相)と電子伝導相(Ni相)との反応性に関する組成割合を変化させるようにし、アノード層の下流側部位においてはイオン伝導相(YSZ相)と電子伝導層(Ni相)とは反応性が高い割合とるようにし、その上流側部位においてはイオン伝導相(YSZ相)と電子伝導相(Ni相)とは反応性が低い割合となるように構成される。例えば、アノード層の上流側部位のイオン伝導相と電子伝導相との割合は、例えば0.2~0.6:0.8~0.4程度となるように構成され、またその下流側部位のイオン伝導相と電子伝導相との割合は、例えば0.4~0.8:0.6~0.2程度となるように構成される。
【0073】
このように構成することにより、アノード層の下流側部位の過電圧(電圧ロス)がその上流側部位よりも小さくなって発電反応性(発電性能)が高くなり、燃料ガスの流れ方向におけるアノード層の発電分布の均一化を図ることができる。
【0074】
この第3の実施形態においても、アノード層のイオン伝導相と電子伝導相との反応性に関する組成割合をその上流側部位とその下流側部位とで変えることに加えて、カソード層のイオン伝導相と電子伝導相との反応性に関する組成割合を変えるようにしてもよい。
【0075】
例えば、カソード層をLSM-YSZから形成した場合、このLSM-YSZは、電子伝導層としてのLSM相、イオン伝導層としてのYSZ相及びガス拡散相としての空隙相を含んでいる。この場合、このカソード層においても、アノード層と同様に、イオン伝導相(YSZ相)と電子伝導相(LSM相)との反応性に関する組成割合を変化させるようにし、カソード層の下流側部位においてはイオン伝導相と電子伝導相とは反応性が高い割合となるようにし、その上流側部位においてはイオン伝導相と電子伝導相とは反応性が低い割合となるように構成される。
【0076】
このように構成することにより、カソード層の下流側部位の過電圧(電圧ロス)が小さくなって反応性が高くなり、酸化剤ガスの流れ方向におけるカソード層の反応分布の均一化を図ることができる。
【0077】
以上、本発明に従う固体酸化物形燃料電池セルの各種実施形態について説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されず、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変更乃至修正が可能である。
【0078】
例えば、上述の第1の実施形態ではアノード層の上流側部位と下流側部位とで電子伝導相(イオン伝導相、空隙相)の屈曲度を変える技術を適用して説明し、上述の第2の実施形態ではアノード層の上流側部位と下流側部位とでアノード三相界面の密度を変える技術を適用して説明し、また上述の第3の実施形態ではアノード層の上流側部位と下流側部位とでイオン伝導相と電子伝導相との反応性に関する組成割合を変える技術を適用して説明したが、本発明はこれらの三つの技術を別々に適用する必要はなく、アノード層の屈曲度に関する技術、アノード層のアノード三相界面に関する技術及びアノード層の反応性に関する組成割合に関する技術の任意の二つの技術を組み合わせて適用することもでき、更にはこれら三つの技術の全てを組み合わせて適用することもできる。
【0079】
例えば、燃料ガスの流れ方向に見て上流側に位置するアノード層の上流側部位の空隙相の屈曲度をその下流側部位の空隙相の屈曲度よりも大きくした固体酸化物形燃料電池セルを実施例とし、この実施例のものにおける燃料ガスの流入側(入口側)からその流出側(出口側)までの温度及び電流密度の状態を示すと、図9に示すようになる。
【0080】
一方、燃料ガスの流れ方向に見てアノード層の空隙相の屈曲度が一定である従来の固体酸化物形燃料電池セルを比較例とし、この比較例のものにおける燃料ガスの流入側(入口側)からその流出側(出口側)までの温度及び電流密度の状態を示すと、図10に示すようになる。
【0081】
図9図10とを対比することによって容易に理解される如く、アノード層の下流側部位における空隙相の屈曲度をその上流側部位の空隙相よりも小さくした実施例では、このアノード層の下流側部位の発電反応を高めることができることから、その流入側(入口側)の発電電流を抑えてその流出側(出口側)の発電電流を上げることができ、このようにアノード層の発電電流分布の均一化を図ることによって、流入側における温度上昇の勾配も小さく抑えることができ、熱応力の発生も小さくすることができる。
【0082】
これに対して、空隙相の屈曲度が燃料ガスの流れ方向に一定である比較例では、燃料ガスの濃度が高い流入側(入口側)において発電反応が集中し、流入側は発電電流が大きく、流出側(出口側)は発電電流が低くなり、これによって、流入側において局所的に温度が上昇し、その温度上昇勾配が大きくなり、このような大きな温度上昇勾配は熱応力による破損につながるおそれがある。
【符号の説明】
【0083】
2 セルスタック
6 固体酸化物形燃料電池セル
20 電解質
22,22A アノード層(燃料極)
24 カソード層(空気極)
32 Ni相(電子伝導相)
34 YSZ相(イオン伝導相)
36 空隙相(ガス拡散相)
38 アノード三相界面

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10