(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171008
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用の正極集電体および鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/74 20060101AFI20231124BHJP
H01M 4/73 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
H01M4/74 B
H01M4/73 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083174
(22)【出願日】2022-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東村 優輝
【テーマコード(参考)】
5H017
【Fターム(参考)】
5H017EE02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い性能を発揮できる鉛蓄電池を構成することが可能な正極集電体、およびそれを用いた鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】開示される鉛蓄電池用の正極集電体100は、枠骨110と、枠骨110の内側に配置された内骨120とを含む。内骨120の少なくとも一部の断面であって当該少なくとも一部の延伸方向に垂直な断面における第1方向の幅Yと第2方向の幅Xとは、0.4≦Y/X≦0.8の関係を満たす。第1方向は正極集電体100の厚さ方向である。第2方向は延伸方向および厚さ方向に垂直な方向である。内骨120の上記少なくとも一部の表面は、算術平均粗さRaが1.0μm以上で50μm以下である粗面化された表面を含む。内骨120の上記少なくとも一部は、延伸方向に沿って延びる表面であって厚さ方向に対して傾斜している表面を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池用の正極集電体であって、
枠骨と、前記枠骨の内側に配置された内骨とを含み、
前記内骨の少なくとも一部の断面であって前記内骨の前記少なくとも一部の延伸方向に垂直な断面における第1方向の幅Yと第2方向の幅Xとが、0.4≦Y/X≦0.8の関係を満たし、
前記第1方向は前記正極集電体の厚さ方向であり、前記第2方向は前記延伸方向および前記厚さ方向に垂直な方向であり、
前記内骨の前記少なくとも一部の表面は、算術平均粗さRaが1.0μm以上で50μm以下である粗面化された表面を含み、
前記内骨の前記少なくとも一部は、前記延伸方向に沿って延びる表面であって前記厚さ方向に対して傾斜している表面を有する、鉛蓄電池用の正極集電体。
【請求項2】
前記内骨同士が交差している部分を除く前記内骨の長さの合計を長さLとしたときに、前記内骨の前記少なくとも一部の長さの合計が0.5L以上である、請求項1に記載の正極集電体。
【請求項3】
Snの含有率が1.1質量%以上である、請求項1に記載の正極集電体。
【請求項4】
前記正極集電体は縦枠骨を含み、
前記縦枠骨の幅は0.5mm以上で2.0mm以下である、請求項1に記載の正極集電体。
【請求項5】
前記粗面化された表面の面積S1と、前記内骨の前記表面の面積S0との比S1/S0は、0.3以上である、請求項1に記載の正極集電体。
【請求項6】
前記粗面化された表面および前記傾斜している表面は、プレス加工によって加工された表面である、請求項5に記載の正極集電体。
【請求項7】
正極板と、負極板と、電解液とを含む鉛蓄電池であって、
前記正極板は、請求項1~6のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用の正極集電体と、前記正極集電体に保持された正極電極材料とを含む、鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用の正極集電体および鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、正典型的には、極板と負極板とがセパレータを介して交互に積層された極板群を含む。正極板は、正極集電体と、正極集電体に保持された正極電極材料とを含む。従来から、鉛蓄電池用の様々な正極集電体が提案されている。
【0003】
特許文献1(特開2021-170429号公報)は、「枠骨部と、枠骨部の内側に延伸する内骨部とを備える鉛蓄電池用正極集電体であって、前記正極集電体は、Sn濃度が1.1mass%以上であり、前記内骨部は、当該内骨部の延伸方向に垂直な断面において、前記正極集電体の厚さ方向である第1方向の幅(Y)と、前記延伸方向および前記第1方向に垂直である第2方向の幅(X)とが、0.4≦Y/X≦0.8の関係を満たすことを特徴とする鉛蓄電池用正極集電体。」を開示している。
【0004】
特許文献2(特開2003-242983号公報)は、「チタンまたはチタン合金からなり、少なくとも一方の表面の表面粗さが0.05<Ra<1.0、0.3<Ry<7.0であることを特徴とする鉛蓄電池正極集電体用箔。」を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-170429号公報
【特許文献2】特開2003-242983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
正極集電体は、正極電極材料を保持し、充放電の際の電流の流れに寄与する。そのため、正極集電体と正極電極材料との関係によって、鉛蓄電池の性能が大きく変化する。このような状況において、本発明の目的の1つは、高い性能を発揮できる鉛蓄電池を構成することが可能な正極集電体、およびそれを用いた鉛蓄電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、鉛蓄電池用の正極集電体に関する。当該正極集電体は、鉛蓄電池用の正極集電体であって、枠骨と、前記枠骨の内側に配置された内骨とを含み、前記内骨の少なくとも一部の断面であって前記内骨の前記少なくとも一部の延伸方向に垂直な断面における第1方向の幅Yと第2方向の幅Xとが、0.4≦Y/X≦0.8の関係を満たし、前記第1方向は前記正極集電体の厚さ方向であり、前記第2方向は前記延伸方向および前記厚さ方向に垂直な方向であり、前記内骨の前記少なくとも一部の表面は、算術平均粗さRaが1.0μm以上で50μm以下である粗面化された表面を含み、前記内骨の前記少なくとも一部は、前記延伸方向に沿って延びる表面であって前記厚さ方向に対して傾斜している表面を有する。
【0008】
本発明の他の一側面は、鉛蓄電池に関する。当該鉛蓄電池は、正極板と、負極板と、電解液とを含む鉛蓄電池であって、前記正極板は、本発明の一側面に係る鉛蓄電池用の正極集電体と、前記正極集電体に保持された正極電極材料とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、性能が高い鉛蓄電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態1の正極集電体の一例を模式的に示す上面図である。
【
図2】
図1の線II-IIにおける断面の一例を模式的に示す図である。
【
図3】
図1の線II-IIにおける断面の他の一例を模式的に示す図である。
【
図4A】正極集電体の製造方法の一例の一工程を模式的に示す断面図である。
【
図4B】
図4Aの一工程に続く一工程の一例を模式的に示す断面図である。
【
図5】実施形態1の正極集電体の他の一例を模式的に示す上面図である。
【
図6】
図2に示した正極集電体を用いた正極の一例を模式的に示す断面図である。
【
図7】実施形態2の鉛蓄電池の一例を模式的に示す一部分解斜視図である。
【
図8】実施例の結果の一例を模式的に示すグラフである。
【
図9】実施例の結果の他の一例を模式的に示すグラフである。
【
図10】実施例の結果の他の一例を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、本発明に係る実施形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本発明を実施できる限り、他の数値や他の材料を適用してもよい。この明細書において、「数値A~数値B」という記載は、数値Aおよび数値Bを含み、「数値A以上で数値B以下」と読み替えることが可能である。以下の説明において、特定の物性や条件などに関する数値の下限と上限とを例示した場合、下限が上限以上とならない限り、例示した下限のいずれかと例示した上限のいずれかとを任意に組み合わせることができる。
【0012】
(鉛蓄電池用の正極集電体)
本発明の一側面に係る正極集電体は、鉛蓄電池用の正極集電体である。本発明の一側面に係る正極集電体を以下では、「正極集電体(C)」と称する場合がある。
【0013】
正極集電体(C)は、枠骨と、枠骨の内側に配置された内骨とを含む。内骨の少なくとも一部の断面であって、当該内骨の少なくとも一部の延伸方向LDに垂直な断面における第1方向D1の幅Yと第2方向D2の幅Xとは、0.4≦Y/X≦0.8の関係を満たす。0.4≦Y/X≦0.8の関係を満たす前記内骨の前記少なくとも一部を以下では、「一部(P)」と称する場合がある。第1方向D1は正極集電体(C)の厚さ方向TDである。第2方向D2は、上記延伸方向LDおよび厚さ方向TDに垂直な方向である。前記内骨の一部(P)の表面は、算術平均粗さRaが1.0μm以上で50μm以下である粗面化された表面を含む。一部(P)は、延伸方向LDに沿って延びる表面であって厚さ方向TDに対して傾斜している表面(斜面)を有する。
【0014】
従来から、正極集電体として、打ち抜き加工で形成された格子体(パンチング格子)、エキスパンド加工によって形成された格子体(エキスパンド格子)、および鋳造によって形成された格子体(鋳造格子)などが用いられている。これらの中でも、パンチング格子は、鋳造格子に比べて、格子表面を規定の表面粗さに制御しやすい。また、圧延板の打ち抜き加工によってパンチング格子を形成することによって、腐食形態が異なる複数の金属組織を含むパンチング格子を形成することが可能である。これによって、正極集電体の腐食を抑制することが可能である。本実施形態に係る正極集電体(C)は、打ち抜き加工によって好ましく形成される。
【0015】
一方、従来のパンチング格子は、鋳造格子やエキスパンド格子と比較して、正極集電体と正極電極材料との密着性が劣る。これは、格子形状や製造方法の違いによるものである。鋳造格子の表面は、鋳造時の離型剤などによって粗くなっており、正極電極材料との接触面積が大きい。エキスパンド格子では、その製造方法に由来して内骨が捻じれているため、正極電極材料との密着性が良い。また、エキスパンド格子には縦枠骨が存在しないため、縦方向の格子強度が弱く、正極電極材料の収縮に追従できる。そのため、エキスパンド格子を用いる場合、エキスパンド格子と正極電極材料との間に空隙が生じることを抑制できる。
【0016】
一方、パンチング格子はエキスパンド格子と同様に圧延シートを用いて形成できるが、パンチング格子は圧延シートを打ち抜いて形成される。そのため、パンチング格子の内骨の表面は平滑であり、パンチング格子は他の格子と比べて、格子と正極電極材料との間の密着性が劣る。そのため、正極集電体にパンチング格子を用いると、容量維持率の低下や過放電放置後の充電受入性能の低下を引き起こす。
【0017】
検討の結果、本願発明者らは、パンチング格子を所定の形状に変形させ、さらにその表面を所定の範囲で粗面化することによって容量維持率の低下を劇的に抑制できることを新たに見出した。
【0018】
具体的には、内骨の少なくとも一部の幅Yと幅Xとが、0.4≦Y/X≦0.8の関係を満たすように、内骨を形成する。さらに、内骨の少なくとも一部(P)の表面が、算術平均粗さRaが1.0μm以上で50μm以下である粗面化された表面を有するようにする。当業者の技術常識としては、内骨の表面の算術平均粗さRaが高いほど性能が高くなることが期待される。しかし、算術平均粗さRaが50μmを超えると充分な効果が得られないことが新たに分かった。算術平均粗さRaが1.0~50μmの範囲では正極ペーストの充填時に正極ペーストが粗面化された表面に入り込んで高いアンカー効果が発揮され、正極集電体と正極電極材料との密着性が向上すると考えられる。一方、算術平均粗さRaが50μmを超えると、アンカー効果が小さくなり、粗面化が正極集電体と正極電極材料との密着性の向上に寄与しなくなると考えられる。
【0019】
従来の格子体(正極集電体)に電極材料を充填する際に、電極材料が圧迫される方向と、格子体の開口部の壁部(開口部の内側)とは略平行となるため、当該壁部に電極材料を強く押しつけることが難しい。そのため、従来の格子体では、電極材料と格子体との密着性が不充分な場合があった。また、従来の格子体では、格子体の開口部の壁部(開口部の内側)の表面を粗面化することも困難であった。そこで、本願発明者は、内骨の少なくとも一部(P)を幅広(Y/X≦0.8)とし、当該少なくとも一部(P)が上記の傾斜している表面(斜面)を有し、且つ、内骨の表面を粗面化した。これによって、電極材料を充填する際に、内骨の表面のうち電極材料が強く押し当てられる表面の面積が増大する。さらに、粗面化された部分において電極材料と内骨との密着性が増大する。そのため、電極材料と正極集電体(C)との密着性が大幅に向上する。
【0020】
さらに、正極集電体(C)が上記斜面を有することによって、正極電極材料の膨張・収縮の影響を緩和でき、正極集電体(C)と正極電極材料との高い密着性を維持できる。
【0021】
延伸方向LDに垂直な断面における上記斜面と厚さ方向TDとがなす角度α(
図2に示す鋭角)は、特に限定がない。角度αは一定であってもよいし、変化していてもよい。すなわち、斜面は概ね平らであってもよいし、湾曲していてもよい。角度αは、30°以上、45°以上、または60°以上であってもよいし、80°以下、75°以下、または60°以下であってもよい。角度αは、30°~80°の範囲、45°~80°の範囲、または60°~80°の範囲にあってもよい。これらの範囲のいずれかにおいて、上限を75°または60°としてもよい。角度αを45°以上(例えば60°以上)とすることによって、正極電極材料を正極集電体に充填する際に、斜面と電極材料との密着性を高めやすくなる。なお、延伸方向LDに垂直な断面において、斜面を表す線分の中点における斜面と厚さ方向TDとの角度が、角度αについて例示した範囲にあってもよい。
【0022】
正極集電体(C)において、内骨同士が交差している部分を除く内骨の長さ(各内骨の延伸方向における長さ)の合計を長さLとしたときに、一部(P)の長さ(一部(P)の延伸方向における長さ)の合計Lpは、0.5L以上、0.7L以上、0.9L以上、または0.95L以上であってもよい。合計Lpは、1.0L以下、0.95L以下、または0.9L以下であってもよい。合計Lpは、0.5L~1.0Lの範囲、0.7L~1.0Lの範囲、0.9L~1.0Lの範囲、または0.95L~1.0Lの範囲にあってもよい。これらの範囲において、下限が上限以上とならない限り、上限を、0.95Lまたは0.9Lとしてもよい。正極集電体(C)において、一部(P)の長さの合計Lpを0.5L以上とすることによって、本発明の効果を充分に奏することができる。
【0023】
正極集電体(C)は、Snを含む鉛合金で形成されていてもよい。その場合、正極集電体(C)のSnの含有率は、1.1質量%以上、1.3質量%以上、または1.5質量%以上であってもよい。当該含有率は、1.8質量%以下、1.5質量%以下、または1.3質量%以下であってもよい。当該含有率は、1.1~1.8質量%の範囲、1.3~1.8質量%の範囲、または1.5~1.8質量%の範囲にあってもよい。これらの範囲において、下限が上限以上とならない限り、上限を、1.5質量%または1.3質量%としてもよい。
【0024】
正極集電体(C)のSnの含有率を1.1質量%以上とすることによって、過放電放置後の充電受入性能を向上させることができる。一般的に、Snの含有率を高めると、正極集電体と正極電極材料との密着性が低下し、容量維持率が低下する。しかし、本実施形態に係る正極集電体(C)を用いることによって、正極集電体(C)と正極電極材料との密着性を顕著に高めることができる。そのため、Snの含有率を1.1質量%以上とすることによって、容量維持率の低下を特に抑制できる。その結果、容量維持率の低下を抑制しながら、過放電放置後充電受入性能を改善すること可能である。Snを含有する鉛合金の例は後述する。
【0025】
正極集電体(C)は、縦枠骨を含んでもよい。当該縦枠骨の幅Wfは、0.3mm以上、0.5mm以上、0.7mm以上、1.0mm以上、1.3mm以上、または1.5mm以上であってもよい。縦枠骨の幅Wfは、2.5mm以下、2.0mm以下、または1.7mm以下であってもよい。縦枠骨の幅Wfは、0.5~2.0mmの範囲(0.5mm以上で2.0mm以下)、0.7~2.0mmの範囲、1.0~2.0mmの範囲、または1.3~2.0mmの範囲にあってもよい。これらの範囲において、上限を1.7mmまたは1.5mmとしてもよい。
【0026】
縦枠骨の幅Wfを0.5mm以上で2.0mm以下とすることによって、正極集電体の湾曲量を低減できる。その理由は、以下のように考えられる。内骨の粗面化された表面の算術平均粗さRaは1.0μm以上で50μm以下である。このような表面粗さを有する内骨の表面では、高いアンカー効果が奏される。そのため、正極板を作製する際に正極ペーストが内骨の表面の粗面化部に入り込み、内骨と正極電極材料との密着性が向上する。当該密着性は、過充電時においても効果を発揮し、過充電時に内骨の腐食が生じた場合でも、内骨と正極電極材料との間に硫酸が入り込むことが抑制される。その結果、内骨が腐食によって伸びることが抑制される。
【0027】
縦枠骨の幅Wfが0.5~2.0mmの範囲にある場合、腐食によって内骨が外へ広がる力に対して、枠骨が外へ広がる力が抵抗するため、バランスがとられる。幅Wfが0.5mm未満の場合、枠骨の広がる力に対して内骨の広がる力が勝る為、湾曲が大きくなる。幅Wfが2.0mmより大きい場合、内骨の広がる力に対して縦枠骨の抵抗する力が勝る為、湾曲が大きくなる。
【0028】
以上のように、幅Wfを0.5~2.0mmの範囲とすることによって、内骨が外へ広がる力と枠骨が外へ広がる力とのバランスが取られる。そのため、正極集電体(C)の伸びおよび湾曲が抑制され、その結果、正極集電体(C)と正極電極材料との間に隙間が生じにくくなる。それに加えて、内骨の表面は粗面化されているため、正極集電体(C)と正極電極材料との密着性が向上し、正極集電体(C)の伸びおよび湾曲がさらに抑制される。一方、粗面化されていない正極集電体では、正極集電体と正極電極材料との密着性が低い。その場合、正極集電体の湾曲による悪影響がより顕著になる。具体的には、湾曲によって正極集電体と正極電極材料との間に隙間ができやすくなるため、伸びおよび湾曲が急激に増加し、正極集電体と正極電極材料との間の隙間をさらに増大させる。
【0029】
内骨の粗面化された表面の算術平均粗さRaは、1.0μm以上で50μm以下である。算術平均粗さRaは、2.0μm以上、5.0μm以上、10μm以上、または20μm以上であってもよい。算術平均粗さRaは、50μm以下、30μm以下、20μm以下であってもよい。算術平均粗さRaは、1.0~50μmの範囲、2.0~50μmの範囲、5.0~50μmの範囲、10~50μmの範囲、20~50μmの範囲にあってもよい。これらの範囲において、下限が上限以上とならない限り、上限を、30μm、20μm、または10μmとしてもよい。
【0030】
内骨の表面のうち粗面化されている上記表面(すなわち、算術平均粗さRaが1.0μm以上で50μm以下である表面)の面積S1と、内骨の表面の面積S0との比S1/S0は、0.3以上、または0.4以上であってもよく、0.9以下、0.8以下、または0.6以下であってもよい。比S1/S0は、0.3~0.9の範囲、または0.4~0.9の範囲にあってもよい。これらの範囲において、上限を0.8または0.6としてもよい。比S1/S0を0.3~0.8の範囲(例えば0.4~0.6の範囲)とすることによって、充電受入性能を特に高めることができる。プレス加工によって粗面化される表面の例には、正極板の主面に対向する表面(
図2および
図3の表面120saおよび/または表面120sc)が含まれる。好ましい一例では、上記一部(P)において正極板の主面に対向する表面は、算術平均粗さRaが1.0μm以上で50μm以下となるように粗面化されている。
【0031】
上記の粗面化された表面、および、厚さ方向TDに対して傾斜している一部(P)の表面(上記斜面)は、プレス加工によって加工された表面であってもよい。
【0032】
内骨の表面のうち粗面化されている面積の割合を示す粗面化率は、以下の式で表される。以下の式において、粗面化された表面とは、算術平均粗さRaが1.0μm以上で50μm以下となるように粗面化された表面を意味する。
粗面化率(%)=100×(内骨の表面のうち粗面化された表面の面積)/(内骨の表面の面積)
【0033】
粗面化率は、20%以上、40%以上、または50%以上であってもよい。粗面化率は、80%以下、60%以下、または50%以下であってもよい。粗面化率は、20~80%の範囲、40~80%の範囲、または50~80%の範囲にあってもよい。これらの範囲のいずれかにおいて、下限が上限以上とならない限り、上限を60%または50%としてもよい。高い容量維持率と高い充電受入性とを両立させる観点から、粗面化率は、40~80%の範囲(例えば40~60%の範囲)にあってもよい。
【0034】
正極集電体(C)の形態の例について以下に説明する。正極集電体(C)は、枠骨と内骨とを含む。正極集電体(C)は、枠骨に設けられた耳部を含んでもよい。
【0035】
正極集電体(C)は、好ましくは、打ち抜き加工で得られるパンチング格子をさらにプレス加工することによって形成される。正極集電体(C)は、枠骨と、枠骨に設けられた耳部と、枠骨の内側の内骨とを含んでもよい。正極集電体(C)の好ましい一例は、格子状の集電体(格子体)である。格子体では、内骨の部分が格子状(網目状なども含む)になっている。格子体を用いることで、電極材料を担持させ易くなる。枠骨は、矩形であることが好ましい。なお、矩形は、厳密な矩形でなくてもよく、頂点が多少丸みを帯びていたり、各辺が多少屈曲したりしていてもよい。
【0036】
(枠骨)
枠骨は、内骨が配置される領域の外周を囲うように形成される。枠骨は、例えば矩形の形状を有する。なお、矩形の形状は、厳密な矩形でなくてもよく、角部が多少丸みを帯びていてもよく、各辺が多少曲がっていてもよい。枠骨が矩形の場合、枠骨は、上部要素と、下部要素と、それらを結ぶ2つの側部要素とを含む。当該上部要素および当該下部要素を以下では、「横枠骨」と称する場合がある。2つの側部要素を以下では、「縦枠骨」と称する場合がある。耳部は、上部要素と連続していてもよい。
【0037】
枠骨の断面(延伸方向に垂直な断面)の形状に特に限定はない。枠骨の断面形状は、内骨の断面形状と同様の形状であってもよいし、異なってもよい。枠骨の断面形状は、矩形状であってもよいし、多角形状であってもよい。枠骨の断面形状が多角形状である場合、その多角形の角部は丸められていてもよいし、その多角形の辺はある程度カーブしていてもよい。枠骨の断面積は、内骨の断面積よりも大きくすることができる。枠骨は、正極集電体(C)の形状を維持する機能を有する。
【0038】
(内骨)
内骨は、枠骨の内側に配置されている。内骨の配置に特に限定はない。一例の内骨は、格子状に配置されている。内骨は、縦枠骨と平行な縦骨と、上部要素(横枠骨)に対して平行な横骨とを含んでもよい。縦骨の少なくとも一部は縦枠骨に対して斜めに傾いていてもよい。横骨の少なくとも一部は上部要素に対して斜めに傾いていてもよい。内骨は、耳部から放射状に延びる内骨を含んでもよい。内骨は、直線状であってもよいし、曲線状であってもよいし、折れ曲がっていてもよい。
【0039】
上述したように、内骨の一部(P)は、その延伸方向に沿って延びる表面であって厚さ方向TDに対して傾斜している表面(斜面)を有する。そのような斜面を有する内骨の断面(延伸方向LDに垂直な断面)の形状は、内骨の断面形状は、四角形状(例えば菱形状)であってもよいし、六角形状または八角形状であってもよい。内骨の断面形状が多角形状である場合、その多角形の角部は丸められていてもよいし、その多角形の辺はある程度カーブしていてもよい。
【0040】
(正極集電体(C)の製造方法)
正極集電体(C)の製造方法の一例について以下に説明する。ただし、正極集電体(C)は、以下の製造方法以外の製造方法によって製造してもよい。
【0041】
この製造方法は、工程(i)と工程(ii)とをこの順に含む。工程(i)は、金属板に対して打ち抜き加工することによって、中間格子体を形成する工程である。中間格子体は、枠骨となる枠部と、内骨となる中間骨とを含む。金属板に、特に限定はなく、正極集電体を構成する金属からなる板を用いることができる。金属板は、圧延板であってもよい。
【0042】
工程(ii)は、中間格子体の厚さ方向に中間格子体をプレス加工することによって、中間骨を内骨に加工する工程である。中間骨は、プレス加工によって変形され、上記の特徴を有する内骨に加工される。また、プレス加工によって、内骨の表面の算術平均粗さRaが1.0μm以上で50μm以下になるように、中間格子体の表面が粗面化される。プレス加工の際に、枠部を変形させてもよい。すなわち、工程(i)で形成された枠部を変形させて枠骨として用いてもよい。あるいは、工程(i)で形成された枠部をそのまま枠骨として用いてもよい。
【0043】
プレス加工による粗面化は、プレス加工に用いる下型および上型の表面を粗面化しておくことによって実施できる。具体的には、下型および上型の表面のうち、中間格子体と接触するプレス面を粗面化しておくことによって、得られる成形品の表面を粗面化できる。プレス面の粗面化度は成形品の表面の粗面化度に反映される。そのため、プレス面の粗面化度を変更することによって、正極集電体(C)の表面(例えば内骨の表面)の粗面化度を制御できる。
【0044】
工程(ii)で得られた集電体をそのまま正極集電体(C)として用いることができる。なお、必要に応じて、工程(ii)を複数回繰り返してもよい。このとき、複数回の工程(ii)で同じ箇所をプレス加工してもよいし、異なる箇所をプレス加工してもよい。また、必要に応じて、工程(ii)で得られた集電体をさらに加工してから、正極集電体(C)として用いてもよい。
【0045】
なお、内骨の表面の粗面化は、プレス加工以外の方法で行ってもよい。ただし、内骨の表面の一部のみを簡単に粗面化できる点で、プレス加工で粗面化することが好ましい。
【0046】
(鉛蓄電池)
本実施形態に係る鉛蓄電池は、正極板と、負極板と、電解液とを含む。正極板は、本実施形態に係る正極集電体(C)(鉛蓄電池用正極集電体)と、正極集電体(C)に保持された正極電極材料とを含む。
【0047】
正極集電体以外の部材に特に限定はなく、公知の鉛蓄電池に用いられている部材を用いてもよい。鉛蓄電池は、液式の鉛蓄電池であってもよいし、制御弁式(VRLA)鉛蓄電池であってもよい。正極集電体(C)の製造方法を除いて鉛蓄電池の製造方法に特に限定はなく、公知の製造方法を適用してもよい。
【0048】
鉛蓄電池を自動車等の車両に設置する場合、エンジンルームに配置されることがある。この場合、エンジンから発生する熱により鉛蓄電池が高温に晒されることになる。鉛蓄電池の温度が高くなると、集電体の腐食が顕著になるため、腐食に関連する寿命性能への影響が大きくなる。正極集電体(C)を用いることによって腐食による悪影響を低減できる。そのため、正極集電体(C)は、車両のエンジンルーム内に配置される鉛蓄電池に好ましく用いることができる。
【0049】
本明細書中、鉛蓄電池の満充電状態とは、液式の電池の場合、25℃の水槽中で、定格容量に記載の数値の0.2倍の電流で2.5V/セルに達するまで定電流充電を行った後、さらに定格容量に記載の数値の0.2倍の電流で2時間、定電流充電を行った状態である。また、制御弁式の電池の場合、満充電状態とは、25℃の気槽中で、定格容量に記載の数値の0.2倍の電流で、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流が定格容量に記載の数値の0.005倍になった時点で充電を終了した状態である。
【0050】
なお、満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電したものをいう。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
【0051】
本実施形態に係る鉛蓄電池の構成部材の例について、以下に説明する。本実施形態に特徴的な部分以外の構成部材には、公知の構成部材を適用してもよい。
【0052】
(正極板)
正極板は、正極集電体(C)と正極集電体(C)に保持された正極電極材料とを含む。正極集電体(C)に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Sn系合金が好ましい。正極集電体(C)は、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金などの鉛合金で形成されていてもよい。あるいは、正極集電体(C)の材料には、スリーナイン以上の純度(純度が99.9質量%以上)の鉛を用いてもよい。
【0053】
正極電極材料は、酸化還元反応によって容量を発現する正極活物質(二酸化鉛または硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、添加剤を含んでもよい。
【0054】
正極電極材料の密度は、3.6g/cm3以上であってもよい。充分な初期容量を確保する観点からは、正極電極材料の密度は、4.8g/cm3以下であってもよい。なお、正極電極材料の密度は、満充電状態の正極電極材料のかさ密度の値を意味する。
【0055】
未化成の正極板は、正極集電体に正極ペーストを充填し、熟成および乾燥することによって得られる。その後、未化成の正極板を化成する。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、硫酸などを混合することによって調製される。
【0056】
(負極板)
負極板は、負極集電体と、負極集電体に保持された負極電極材料とを含む。負極集電体に特に限定はなく、公知の負極集電体を用いてもよい。負極集電体は、鉛または鉛合金で形成されてもよい。負極集電体に用いる鉛合金の例には、Pb-Ca系合金、およびPb-Ca-Sn系合金などが含まれる。これらの鉛または鉛合金は、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuからなる群より選択される少なくとも1種の元素をさらに含んでもよい。負極集電体の形成方法に限定はなく、鉛または鉛合金の鋳造によって形成してもよいし、鉛または鉛合金のシートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き加工が挙げられる。
【0057】
なお、負極集電体の形状は、正極集電体(C)の形状と同様の形状であってもよい。正極集電体(C)を負極集電体として用いてもよい。あるいは、正極集電体(C)とは異なる集電体を負極集電体として用いてもよい。
【0058】
負極電極材料は、酸化還元反応によって容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を必須成分として含む。負極電極材料は、有機防縮剤、炭素質材料、硫酸バリウムなどの添加剤を含んでもよい。充電状態の負極活物質は海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。負極電極材料の密度は、3g/cm3以上で4.8g/cm3以下であってもよい。
【0059】
有機防縮剤には、リグニン類および/または合成有機防縮剤を用いてもよい。リグニン類としては、リグニン、リグニンスルホン酸またはその塩(ナトリウム塩などのアルカリ金属塩など)などのリグニン誘導体などが挙げられる。合成有機防縮剤は、硫黄元素を含む有機高分子であり、一般に、分子内に複数の芳香環を含むとともに、硫黄含有基として硫黄元素を含んでいる。硫黄含有基の中では、安定形態であるスルホン酸基もしくはスルホニル基が好ましい。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。
【0060】
負極電極材料中に含まれる炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどを用いることができる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。黒鉛は、黒鉛型の結晶構造を含む炭素材料であればよく、人造黒鉛および天然黒鉛のいずれであってもよい。
【0061】
負極板の作製では、まず、負極集電体に、負極ペーストを充填し、熟成および乾燥することによって未化成の負極板を作製する。その後、未化成の負極板を化成することによって負極板が得られる。負極ペーストは、鉛粉および各種添加剤に、水および硫酸を加えて混練することによって作製される。熟成工程では、未化成の負極板を、室温で熟成してもよいし、より高温かつ高湿度で熟成してもよい。
【0062】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することによって行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成によって海綿状鉛が生成する。
【0063】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.20以上で1.35以下であり、1.25以上で1.32以下であることが好ましい。
【0064】
(セパレータ)
負極板と正極板との間には、通常、セパレータが配置される。セパレータには、不織布、微多孔膜などが用いられる。負極板と正極板との間に配置するセパレータの厚さや枚数は、極板間の距離に応じて選択すればよい。
【0065】
不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたマットであり、繊維を主体とする。不織布は、例えば、不織布の60質量%以上が繊維で形成されている。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などのポリエステル繊維など)、パルプ繊維などを用いることができる。中でも、ガラス繊維が好ましい。不織布は、繊維以外の成分、例えば耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーなどを含んでもよい。
【0066】
一方、微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤(ポリマー粉末および/またはオイルなど)を含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、耐酸性を有する材料で構成することが好ましく、ポリマー成分を主体とするものが好ましい。ポリマー成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0067】
セパレータは、例えば、不織布のみで構成してもよく、微多孔膜のみで構成してもよい。また、セパレータは、必要に応じて、不織布と微多孔膜との積層物、異種または同種の素材を貼り合わせた物、または異種または同種の素材において凹凸をかみ合わせた物などであってもよい。
【0068】
セパレータは、袋状に形成されていてもよい。その場合、袋状のセパレータが正極板を収容していてもよいし、負極板を収容してもよい。袋状のセパレータが正極板を収容する場合には、集電体から脱落し、電槽の底に堆積した正極電極材料が負極板と接触することで生じる下部短絡を抑制することができる。一方で、袋状のセパレータが負極板を収容する場合には、正極集電体が伸びて、セパレータを貫通することによる短絡を抑制できる。過充電時には、正極集電体の伸びが問題となり易いため、好ましい一例では、袋状のセパレータが負極板を収容している。
【0069】
(用語および測定方法の説明)
(表面粗さ)
内骨の粗面化された表面の算術平均粗さRaは、JIS(Japanese Industrial Standards) B0601:2001の規定で定義される算術平均粗さRaであり、当該規定に準拠して測定される。算術平均粗さRaは、例えば、キーエンス社製「VK-X100 LASER MICROSCOPE」を用いて測定できる。
【0070】
正極電極材料が配置される前の正極集電体の内骨の粗面化表面の表面粗さは、そのまま測定すればよい。一方、正極電極材料が配置された後の正極集電体の内骨の粗面化部の表面粗さは、正極電極材料を除去してから測定する。例えば、鉛蓄電池内の正極集電体については、以下の手順で測定する。まず、鉛蓄電池を解体して正極板を取り出す。次に、取り出した正極板を、アルカリマンニット溶液で処理した後、水洗することによって、正極電極材料が除去された正極集電体を得る。得られた正極集電体を、表面粗さの測定に用いる。
【0071】
(幅Xおよび幅Yの測定方法)
上述した第1方向の幅Yと第2方向の幅Xとは、以下のようにして測定される。まず、正極集電体の全体が覆われるように、正極集電体を熱硬化性樹脂に埋め込み、樹脂を硬化させる。次に、樹脂に埋め込まれた正極集電体を内骨の延伸方向に垂直な断面で切断する。次に、切断によって露出した内骨の断面を、マイクロスコープ等で撮影して画像を得る。得られた画像に基づいて、第1方向の幅Yと第2方向の幅Xとを算出する。このとき、幅Yおよび幅Xは、撮影した所定の画像において、最大となる値を用いる。換言すれば、撮影された画像において、内骨に外接する矩形であって、各辺が第1方向D1または第2方向D2に平行な矩形を考える。当該矩形における第1方向D1の辺の長さを幅Yとし、第2方向D2の辺の長さを幅Xとする。第1方向の幅Yと第2方向の幅Xとの比Y/Xは、算出された幅Yおよび幅Xから求められる。
【0072】
(正極集電体中のSnの定量分析)
正極電極材料を保持する前の正極集電体は、その一部を試料として採取して分析できる。鉛蓄電池に組み込まれている正極集電体については、以下の手順で分析用の試料を得る。まず、鉛蓄電池から正極板を取り出す。次に、正極板に振動を加えて正極電極材料を正極集電体から脱落させる。次に、セラミックナイフを用いて、正極集電体の周囲に残存している正極電極材料を除去し、さらに、正極集電体の金属光沢を有する部分の一部を試料として採取する。次に、採取した試料の質量を測定する。次に、当該試料と酒石酸および希硝酸とを混合することによって、水溶液を得る。水溶液に塩酸を加えて塩化鉛を沈殿させ、濾過し、濾液を採取する。この濾液を用いて、正極集電体中のSnの含有率を以下の手順で求める。
【0073】
正極集電体に含まれるSnの定量は、JIS H2105:1955に記載の鉛分離誘導結合プラズマ発光分光法に準拠して分析される。より具体的には、まず、上記の濾液中のSn濃度を、ICP発光分光分析装置を用いて、検量線法によって分析する。そして、得られた濃度と採取した試料の質量とから、正極集電体中のSnの含有率が求められる。ICP発光分光分析装置としては、株式会社島津製作所製 ICPS-8000を用いることができる。
【0074】
(枠骨および縦枠骨の幅の測定方法)
枠骨とは、集電体の縁部を構成する部分であり、極板の電極材料が充填される領域を囲むように設けられている。縦枠骨とは、鉛蓄電池の略上下方向に延びる枠骨である。横枠骨とは、上下方向に垂直な方向を左右方向として、略左右方向に延びる枠骨である。縦枠骨は、上下方向に延びるとともに、左右方向に向かって斜めに延びていてもよい。縦枠骨の幅とは、正極板の主面に平行であり、且つ縦枠骨が延びる方向に垂直な方向における縦枠骨の最大長を意味する。なお、鉛蓄電池の上下方向は、以降において定義される。縦枠骨の幅は、ノギス等を用いて測定され得る。鉛蓄電池に組み込まれた正極集電体の縦枠骨の幅は、以下の手順で測定される。まず、鉛蓄電池を解体して正極板を取り出す。次に、取り出した正極板を、アルカリマンニット溶液で処理した後、水洗することによって、正極電極材料が除去された正極集電体が得られる。得られた正極集電体を、縦枠骨の幅の測定に用いる。
【0075】
(鉛蓄電池または鉛蓄電池の構成要素の上下方向)
本明細書中、鉛蓄電池または鉛蓄電池の構成要素(極板、電槽、セパレータなど)の上下方向は、鉛蓄電池が使用される状態において、鉛蓄電池の鉛直方向における上下方向を意味する。
【0076】
(電極材料)
負極電極材料および正極電極材料の各電極材料は、通常、集電体に保持されている。電極材料とは、極板から集電体を除いた部分である。極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材とも称する)は極板と一体として使用されるため、極板に含まれるものとする。極板が貼付部材(マット、ペースティングペーパなど)を含む場合には、電極材料は、極板から集電体および貼付部材を除いた部分である。
【0077】
(有機防縮剤)
有機防縮剤とは、鉛蓄電池の充放電を繰り返したときに負極活物質である鉛の収縮を抑制する機能を有する化合物のうち、有機化合物を言う。
【0078】
(満充電状態)
液式の鉛蓄電池の満充電状態とは、JIS D 5301:2019の定義によって定められる。より具体的には、25℃±2℃の水槽中で、定格容量として記載の数値(単位をAhとする数値)の0.2倍の電流(A)で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧(V)または20℃に温度換算した電解液密度が3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで、鉛蓄電池を充電した状態を満充電状態とする。また、制御弁式の鉛蓄電池の場合、満充電状態とは、25℃±2℃の気槽中で、定格容量に記載の数値(単位をAhとする数値)の0.2倍の電流(A)で、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流が定格容量に記載の数値(単位をAhとする数値)の0.005倍の値(A)になった時点で充電を終了した状態である。
【0079】
満充電状態の鉛蓄電池とは、既化成の鉛蓄電池を満充電した鉛蓄電池を意味する。鉛蓄電池の満充電は、化成後に行えばよく、具体的には、化成直後に行ってもよいし、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
【0080】
以下では、本実施形態の例について、図面を参照して具体的に説明する。以下で説明する実施形態は、上述した記載に基づいて変更できる。また、以下で説明する事項を、上記の実施形態に適用してもよい。また、以下で説明する実施形態において、本開示に係る発明に必須ではない事項は省略してもよい。
【0081】
(実施形態1)
実施形態1では、正極集電体(C)の例について説明する。実施形態1の正極集電体100の上面図を
図1に模式的に示す。正極集電体100は、内側に多数の貫通孔が形成された板状の形状を有する。正極集電体100は、枠骨110と、枠骨110の内側の内骨120とを含む。内骨120は枠骨110とつながっている。枠骨110は、上部要素(横枠骨)111と、上部要素111と対向する下部要素(横枠骨)112と、上部要素111と下部要素112とを連結する一対の側部要素(縦枠骨)113、114とを含む。上部要素111には、耳部130が接続されている。
図1に示す一例の正極集電体100は、下部要素112と連続する下部突起132を有する。
【0082】
図1に示す枠骨110は、矩形状の形状を有する。内骨120は、複数の縦骨120Aと、複数の横骨120Bとを含む。複数の縦骨120Aはそれぞれ、側部要素113(および側部要素114)と平行に延びている。複数の横骨120Bはそれぞれ、上部要素111(および下部要素112)と平行に延びている。
【0083】
図1の線II-IIの部分における断面図を
図2に示す。なお、
図1の線II-IIの部分には、線II-IIの部分の縦骨120Aの延伸方向LDを示す。また、
図2には、厚さ方向TD、第1方向D1、および第2方向D2を示す。厚さ方向TDおよび第1方向D1は、正極集電体100の厚さ方向である。第2方向D2は、延伸方向LDおよび厚さ方向TDに垂直な方向である。
【0084】
図2には、側部要素(縦枠骨)113の幅Wfを示す。幅Wfは、側部要素113の延伸方向および厚さ方向に垂直な方向における幅である。
【0085】
図2には、幅Xおよび幅Yをさらに示す。幅Yは、縦骨120A(内骨120)の延伸方向LDに垂直な断面における第1方向D1(厚さ方向TD)の幅である。幅Xは、縦骨120A(内骨120)の延伸方向LDに垂直な断面における第2方向D2の幅である。幅Yと幅Xとは、上述した関係を満たす。内骨120の粗面化された表面の算術平均粗さRaは上述した範囲にある。
【0086】
図2に示す一例では、縦骨120A(内骨120)の断面は、八角形状であり、角部が丸められた八角形状であってもよい。なお、横骨120B(内骨120)の断面も同様の形状を有する。ただし、縦骨120Aの断面形状と横骨120Bの断面形状とは異なってもよい。また、縦骨120Aの断面形状、および/または、横骨120Bの断面形状は、位置によって変化してよい。
【0087】
図2を参照して、縦骨120A(内骨120)は、延伸方向LDに沿って延びる表面であって厚さ方向TDに対して傾斜している4つの表面120scを有する。さらに、縦骨120A(内骨120)は、正極集電体100の主面と略平行な2つの表面120saと、厚さ方向TD(第1方向D1)に沿った2つの表面120sbとを有する。なお、正極集電体100の主面とは、正極集電体100を1枚のシートとみなしたときの主面である。
【0088】
表面120saと表面120scとは、プレス加工の際にプレスされた表面である。そのため、これらの表面の少なくとも一部をプレス加工の際に粗面化することができる。1つの観点では、正極集電体100の主面に対向する表面120saおよび120scが粗面化される。
【0089】
図2には、枠骨110がプレス加工されていない一例を示しているが、枠骨110もプレス加工されていてもよい。その場合、枠骨110の表面も内骨120の表面と同様に粗面化されていてもよい。また、上述したように、内骨120の断面形状は他の形状であってもよい。内骨120の断面が六角形状である一例の断面を
図3に示す。
図3に示す一例の縦骨120A(内骨120)は、延伸方向LDに沿って延びる表面であって厚さ方向TDに対して傾斜している4つの表面120scを有する。さらに、縦骨120A(内骨120)は、厚さ方向TD(第1方向D1)に沿った2つの表面120sbを有する。
【0090】
図2には、延伸方向LDに垂直な断面において、表面120scが厚さ方向TDに対して傾斜している角度αを示す。角度αに特に限定はなく、上述した範囲にあってもよい。
【0091】
図2および
図3に示す正極集電体100を製造する製造工程の一例を、
図4Aおよび
図4Bの断面図を用いて説明する。なお、
図4Aおよび
図4Bでは、
図2および
図3に示した部分に対応する部分の断面のみを示す。まず、
図4Aに示すように、金属シート100xを準備する。金属シート100xは、例えば、圧延によって形成された圧延シートである。次に、
図4Bに示すように、金属シート100xを打ち抜き加工して中間格子体100yを形成する。中間格子体100yは、枠骨110となる枠部110yと、内骨120となる中間骨120yとを含む。次に、中間格子体100yをプレス加工する。これによって、
図2または
図3に示す正極集電体100が得られる。
【0092】
プレス加工の際には、内骨120(および必要に応じて枠骨110)の断面が所望の形状になるように、且つ、所望の粗面化がなされるように、プレス加工が行われる。一例のプレス加工について、以下に説明する。この一例のプレス加工は下型と上型とを用いて行われる。下型のプレス面および上型のプレス面は、上述した表面120sc(斜面)が形成されるように、内骨120を押して変形させる形状を有する。このとき、表面120saとなる部分も押される。下型のプレス面の表面および上型のプレス面の表面はそれぞれ、表面120saおよび/または表面120scが粗面化されるように、粗面化されている。表面120sc(斜面)の少なくとも一部または全部が粗面化されることが好ましく、表面120saおよび表面120scの少なくとも一部または全部が粗面化されてもよい。
【0093】
粗面化された表面の算術平均粗さRaは、粗面化前の表面の算術平均粗さRaよりも大きい。粗面化されていない圧延シートの表面の算術平均粗さRaは一般的に1.0μm未満である。
【0094】
なお、上述したように、縦骨120Aの一部は側部要素113(または側部要素114)に対して傾いていてもよく、横骨120Bの一部は上部要素111(または下部要素112)に対して傾いていてもよい。横骨120Bの一部が上部要素111(または下部要素112)に対して傾いていている正極集電体100の一例の上面図を
図5に模式的に示す。
図5の正極集電体100において、横骨120Bの一部は上部要素111(および下部要素112)に平行であり、横骨120Bの残りの一部は上部要素111(および下部要素112)に対して傾いている。
【0095】
図2に示した正極集電体100を用いた正極板3の一例の断面図を
図6に示す。なお、
図6では、
図2に示した部分に対応する部分の断面のみを示す。
図6に示すように、正極板3は、正極集電体100と、正極集電体100に保持された正極電極材料150とを含む。
【0096】
(実施形態2)
実施形態2では、本実施形態の鉛蓄電池の一例について説明する。
図7は、実施形態2の鉛蓄電池1の外観を示す。
【0097】
鉛蓄電池1は、極板群11、電解液(図示せず)、およびそれらを収容する電槽12を含む。電槽12内は、隔壁13によって複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を有する蓋15で閉じられている。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0098】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することによって構成されている。
図7には、負極板2が袋状のセパレータ4に収容されている一例を示す。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続されており、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続されており、正極棚部5に貫通接続体8が接続されている。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0099】
図7には、液式電池(ベント型電池)の例を示したが、鉛蓄電池は、制御弁式電池(VRLA型)でもよい。液式電池では、制御弁式電池に比べて、集電体の伸びが顕著になり易く、正極集電体と正極電極材料との密着性が低下しやすい。本実施形態に係る正極集電体を用いることによって正極集電体と正極電極材料との密着性の低下を抑制できるため、本実施形態に係る正極集電体は、液式電池に好ましく用いられる。
【0100】
本発明に係る正極集電体の例および鉛蓄電池の例を以下にまとめて記載する。
(1)鉛蓄電池用の正極集電体であって、
枠骨と、前記枠骨の内側に配置された内骨とを含み、
前記内骨の少なくとも一部の断面であって前記内骨の前記少なくとも一部の延伸方向に垂直な断面における第1方向の幅Yと第2方向の幅Xとが、0.4≦Y/X≦0.8の関係を満たし、
前記第1方向は前記正極集電体の厚さ方向であり、前記第2方向は前記延伸方向および前記厚さ方向に垂直な方向であり、
前記内骨の前記少なくとも一部の表面は、算術平均粗さRaが1.0μm以上で50μm以下である粗面化された表面を含み、
前記内骨の前記少なくとも一部は、前記延伸方向に沿って延びる表面であって前記厚さ方向に対して傾斜している表面を有する、鉛蓄電池用の正極集電体。
【0101】
(2)前記内骨同士が交差している部分を除く前記内骨の長さの合計を長さLとしたときに、前記内骨の前記少なくとも一部の長さの合計が0.5L以上である、上記(1)に記載の正極集電体。
【0102】
(3)Snの含有率が1.1質量%以上である、上記(1)または(2)に記載の正極集電体。
【0103】
(4)前記正極集電体は縦枠骨を含み、
前記縦枠骨の幅は0.5mm以上で2.0mm以下である、上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の正極集電体。
【0104】
(5)前記粗面化された表面の面積S1と、前記内骨の前記表面の面積S0との比S1/S0は、0.3以上である、上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の正極集電体。
【0105】
(6)前記粗面化された表面および前記傾斜している表面は、プレス加工によって加工された表面である、上記(1)~(5)のいずれか1つに記載の正極集電体。
【0106】
(7)正極板と、負極板と、電解液とを含む鉛蓄電池であって、
前記正極板は、上記(1)~(6)のいずれか1つに記載の鉛蓄電池用の正極集電体と、前記正極集電体に保持された正極電極材料とを含む、鉛蓄電池。
【実施例0107】
以下、本実施形態に係る正極集電体および鉛蓄電池を実施例に基づいて具体的に説明するが、本実施形態に係る正極集電体および鉛蓄電池は以下の実施例に限定されない。
【0108】
(実験例1)
実験例1では、以下の手順で複数の鉛蓄電池を作製して評価した。
【0109】
(1)正極集電体の作製
まず、Pb-Ca-Sn系合金の圧延シートを打ち抜くことによって、矩形状の枠部(枠骨)と、その内側に配置された中間骨とを有する中間格子体を得た。次に、中間格子体をプレス加工することによって、正極集電体を得た。正極集電体の断面形状は、
図2に示す断面形状と同様の形状とした。すなわち、内骨の断面形状は、略八角形状とした。なお、内骨の断面形状を変化させた部分の長さの合計は、0.5L以上とした(Lは上述した長さである)。このとき、Pb-Ca-Sn系合金のSn含有率、上記の第1方向の幅Yと第2方向の幅Xとの比Y/X、および、内骨のプレスされた表面の算術平均粗さRaが表1~表5の値となるように変化させて複数種の正極集電体を作製した。なお、実施例では、内骨の表面のうち、
図2に示す表面120saおよび120scに対応する表面を粗面化した。
【0110】
(2)正極板の作製
鉛粉を含む正極ペーストを調製し、正極集電体の格子部に正極ペーストを充填し、熟成、乾燥し、未化成の正極板を作製した。このとき、満充電後の正極電極材料の密度が3.6g/cm3となるように正極ペーストの充填量を調整した。このようにして、正極集電体には上記(1)で作製された複数種の正極集電体を用いた。このようにして、正極集電体が異なる複数種の正極板を作製した。
【0111】
(3)負極板の作製
鉛粉、水、希硫酸、硫酸バリウム、カーボンブラックおよび有機防縮剤(リグニンスルホン酸ナトリウム)を混合して、負極ペーストを調製する。負極集電体としてのPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子に負極ペーストを充填し、熟成乾燥し、未化成の負極板を得た。満充電後の負極電極材料の密度が3.7g/cm3になるように、負極ペーストの充填量を調節した。
【0112】
(4)試験電池の作製および評価
試験電池は、2V/セルであり、5時間率定格容量は30Ahであった。試験電池は、正極板6枚とこれを挟持する負極板7枚で構成した。未化成の負極板は袋状セパレータに収容し、未化成の正極板と積層し、極板群を形成した。極板群をポリプロピレン製の電槽に電解液とともに収容して、電槽内で化成を施し、液式の鉛蓄電池を作製した。電解液としては、20℃における比重が1.28の硫酸水溶液を用いた。正極板には、上記(2)で作製した複数種の正極板を用いた。このようにして、正極集電体が異なる複数種の電池を作製した。作製された電池について、以下の評価を行った。
【0113】
[評価1:充放電サイクルに伴う5時間率定格容量の試験]
評価1の試験は、作製された電池に対して、25℃水槽内で、以下の要領で実施した。まず、定電流(5時間率定格容量に記載の数値の0.2倍の電流)で1.75V/セルまで放電し、その後、定電流(5時間率定格容量に記載の数値の0.2倍の電流)で放電量の135%まで充電した。同様のサイクルを5回繰り返した。そして、初期容量(5時間率放電容量)に対する、5サイクル目の5時間率放電容量の割合(容量維持率)を求めた。
【0114】
正極集電体の作製条件の一部、および、評価結果を表1~表5に示す。電池A1~A21は、本実施形態に係る鉛蓄電池(実施例)であり、電池C1~C24は比較例の電池である。なお、容量維持率は、電池A10の容量維持率を100%としたときの相対値で表す。充電電気量は、評価2で求められた充電電気量であり、電池A10の充電電気量を100%としたときの相対値で表す。容量維持率が高いほど、充放電による電池の劣化が少ないことを示す。
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
一部の結果を
図8に示す。表1~表5および
図8に示すように、0.4≦Y/X≦0.8の関係を満たし、算術平均粗さRaが1.0μm以上で50μm以下である場合には、容量維持率が高かった。
【0121】
(実験例2)
正極集電体の作製条件を変化させたことを除いて、実験例1の正極集電体の作製と同様の方法で複数種の正極集電体を作製した。正極集電体は、正極集電体を構成する合金中のSn含有率、および、比Y/Xの値を変化させた。実験例2では、粗面化された表面の算術平均粗さRaが約5μmとなるように正極集電体を作製した。作製された正極集電体を用いることを除いて、実験例1の鉛蓄電池の作製と同様の方法で、複数の鉛蓄電池を作製した。作製された鉛蓄電池について、実験例1と同様に上記の評価1を行い、さらに以下の評価2を行った。
【0122】
[評価2:過放電後の定電圧充電による充電電気量]
満充電状態の電池に対して、以下の(a)~(e)の処理を順番に行った。
(a)室温(約25℃)において、1.5A(20時間率電流)の電流値で電池を3.5時間放電した。
(b)室温(約25℃)において、16Vの定電圧(最大電流:15A)で電池を24時間充電した。
(c)室温(約25℃)において、90Ωの抵抗を電池に接続して15日間放置した。
(d)室温(約25℃)において、0.25Ωの抵抗を電池に接続して10日間放置した。
(e)室温(約25℃)において、16Vの定電圧(最大電流:25A)で電池を0.5時間充電した。そして、この充電による充電電気量を求めた。
【0123】
正極集電体の作製条件の一部、および、評価結果を表6に示す。なお、表6に示す一部の電池は、表1~表5に示した電池と同様の電池であり、表1~表5に示した結果を表6に示す場合がある。電池A22~A36は、本実施形態に係る鉛蓄電池(実施例)であり、電池C25~C34は比較例の電池である。表6において、容量維持率は、電池A29の容量維持率を100%としたときの相対値で表す。表6において、充電電気量(評価2の充電電気量)は、電池A29の充電電気量を100%としたときの相対値で表す。充電電気量(%)が高いほど、充電受入性能が高いことを示す。以下に示す表において、「-」は、測定していないことを表す。
【0124】
【0125】
合金中のSn含有率と充電電気量との関係を
図9に示す。表6および
図9に示すように、合金中のSn含有率を高めると充電受入性能は向上するが、容量維持率は低下する傾向にある。しかし、比Y/Xの値が0.4~0.8の範囲にある場合、Sn含有率の増加に伴う容量維持率の低下を抑制できる。
【0126】
図9に示すように、比Y/Xの値が0.4~0.8の範囲にない場合、Sn含有率が1.5質量%以下の場合に充電受入性が特に低下する。これに対して、比Y/Xの値が0.4~0.8の範囲にある場合、Sn含有率が1.5質量%以下の場合でも充電受入性の低下を小さくできる。
【0127】
(実験例3)
実験例3では、実験例1の正極集電体の作製方法と同様の方法で複数種の正極集電体を作製した。ただし、内骨のプレスされた表面の算術平均粗さRa、および、縦枠骨(側部要素)の幅Wfは、表7に示すように変化させた。なお、正極集電体の内骨の形状は、実験例1で用いた正極集電体の内骨の形状と同じとした。作製された正極集電体を用いて、以下の方法で鉛蓄電池を作製した。作製した鉛蓄電池について、過充電試験後の正極集電体の湾曲量を評価した。
【0128】
(1)試験電池の作製
正極集電体を変えたことを除いて、実験例1で作製した試験電池と同様の試験電池(電池A37~A45、および、C35~C43)を組み立てた。
【0129】
(2)過充電試験
試験電池を用いて過充電試験を行った。過充電試験として、5日間の過充電期間とその後の2日間の休止期間(充電しない期間)とからなる1週間の試験を3回繰り返す3週間の試験を行った。過充電期間では、75℃の水槽内で5時間率電流(0.2C(A))の定電流で試験電池を充電した。
【0130】
(3)過充電試験後の湾曲量の評価
過充電試験が終了した試験電池から、正極集電体を取り出した。そして、内骨で最も突出している側が下側となるように、平らな台上に正極集電体を配置した。このとき、矩形状の枠骨の4つの角部と台との間の距離がほぼ同じになるように台上に正極集電体を配置した。次に、枠骨の4つの角部と4つの中点(隣接する2つの角部の中点)に関して、それらと台との間の距離を測定した。そして、測定された8つの距離を算術平均することによって得られた値を、湾曲量とした。
【0131】
正極集電体の作製条件の一部と評価結果とを表7に示す。電池A37~A45は、本実施形態に係る鉛蓄電池(実施例)であり、電池C35~C43は比較例の電池である。
【0132】
【0133】
表7の結果を
図10に示す。表7および
図10に示すように、縦枠骨の幅Wfを0.5~2.0mmの範囲とすることによって、湾曲量を特に低減できた。そのため、縦枠骨の幅Wfを0.5~2.0mmの範囲とすることによって、電池性能の劣化を特に抑制できる。
【0134】
(実験例4)
実験例4では、内骨の表面のうち粗面化する表面の割合を変化させて複数種の正極集電体を作製した。作製された正極集電体を用いることを除いて、実験例1と同様の方法で複数種の鉛蓄電池を作製した。得られた鉛蓄電池について、実験例2の評価2と同様の評価を行った。なお、粗面化率は以下の式で表される。ここで、粗面化された表面とは、算術平均粗さRaが1.0μm以上で50μm以下となるように粗面化された表面を意味する。
粗面化率(%)=100×(内骨の表面のうち粗面化された表面の面積)/(内骨の表面の面積)
【0135】
粗面化率と評価結果の一部とを表8に示す。表8において、充電電気量(評価2の充電電気量)は、電池C44の充電電気量を100%としたときの相対値で表す。電池A46~A48は、本実施形態に係る鉛蓄電池(実施例)であり、電池C44は比較例の電池である。
【0136】
【0137】
表8において、粗面化率が0%の正極集電体は、プレス加工を行ったが粗面化は行っていない正極集電体である。粗面化率が40%および60%の正極集電体は、上述したプレス加工によって内骨の表面の一部を粗面化した正極集電体である。粗面化率が100%の正極集電体は、上述したプレス加工によって内骨の表面の一部を粗面化した後に、さらに内骨の表面の全体をショットピーニング法によって粗面化することによって形成した。
【0138】
表8に示すように、粗面化率が100%の場合には充電電気量が大きく低下した。この理由は明確ではないが、粗面化率が高すぎると、内骨の表面が腐食しやすくなり、充放電によって内骨と電極材料との密着性が低下する可能性があると考えられる。一方、粗面化率を高くすることによって、内骨と正極電極材料との密着性を向上できる。その結果、上述したように容量維持率を高めることができる。
本発明は、鉛蓄電池用の正極集電体および鉛蓄電池に利用できる。当該鉛蓄電池は、制御弁式および液式の鉛蓄電池に適用可能である。当該鉛蓄電池は、車両(自動車、バイクなど)の始動用電源や、電動車両(フォークリフトなど)などの産業用蓄電装置などの電源として好適に利用できる。当該鉛蓄電池は、中でも、液式電池に好適であり、特に、過充電状態に晒されやすい車両の始動用電源に適している。