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特開2023-171057エンジン洗浄剤組成物及びエンジン洗浄方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171057
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】エンジン洗浄剤組成物及びエンジン洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/32 20060101AFI20231124BHJP
   C11D 7/24 20060101ALI20231124BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C11D7/32
C11D7/24
C11D7/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083272
(22)【出願日】2022-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】505442613
【氏名又は名称】株式会社トライボジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100087918
【弁理士】
【氏名又は名称】久保田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】米川 喜明
(72)【発明者】
【氏名】竹鼻 洋
(72)【発明者】
【氏名】丸山 秀一
【テーマコード(参考)】
4H003
【Fターム(参考)】
4H003DA05
4H003DA11
4H003DA14
4H003DB01
4H003DC02
4H003EB02
4H003EB06
4H003EB14
4H003EB20
4H003FA04
(57)【要約】
【課題】エンジン内部の形成箇所により成分の異なるデポジットであっても溶解除去が適格に行われることが可能であり、人体に対しても毒性を有するものでない洗浄剤組成物を提供する。また、エンジンを分解せず、そのままの状態でエンジン内の洗浄可能なエンジン洗浄方法を提供する。
【解決手段】置換又は非置換ピロリドン、テルペン炭化水素類、アルカノールアミン及び一塩基オキシ酸エステルを各々、所定量含有する洗浄剤組成物及び当該洗浄剤組成物を用いるエンジン洗浄方法であって、次の工程(a)と(b)及び/又は(c)とを含むエンジン洗浄方法。
工程(a):エンジン油をレシーブ油に交換し、レシーブ油のエンジン各部への給油工程。
工程(b):洗浄剤組成物を燃料に混合し、混合燃料を用いるアイドリングによる洗浄工程。
工程(c):エンジンのアイドリング運転条件下で、洗浄剤組成物を吸気系統に点滴供給する洗浄工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1):
【化1】

(式中、Xは酸素原子であり、Rは、水素原子又は炭素数1~30の炭化水素基である。)
で表される置換又は非置換ピロリドン;
テルペン炭化水素類;
アルカノールアミン;及び
一塩基オキシ酸エステル
を少なくとも含有してなることを特徴とするエンジン洗浄剤組成物。
【請求項2】
前記置換又は非置換ピロリドンが、N-メチル-2-ピロリドン、N-オクチル-2-ピロリドン、N-ドデシル-2-ピロリドン、N-ポリビニル-2-ピロリドン及び2-ピロリドンからなる群より選択される少なくとも一種の化合物である請求項1に記載のエンジン洗浄剤組成物。
【請求項3】
前記置換又は非置換ピロリドンの含有量が、前記エンジン洗浄剤組成物の全質量基準で少なくとも40質量%である請求項1又は請求項2に記載のエンジン洗浄剤組成物。
【請求項4】
前記テルペン炭化水素類が、モノテルペン炭化水素類である請求項1に記載のエンジン洗浄剤組成物。
【請求項5】
前記モノテルペン炭化水素類が、リモネンである請求項4に記載のエンジン洗浄剤組成物。
【請求項6】
前記テルペン炭化水素類の含有量が、前記エンジン洗浄剤組成物の全質量基準で少なくとも5質量%である請求項1又は請求項4に記載のエンジン洗浄剤組成物。
【請求項7】
前記一塩基オキシ酸エステルが乳酸エステルである請求項1に記載のエンジン洗浄剤組成物。
【請求項8】
前記一塩基オキシ酸エステルの含有量が、前記エンジン洗浄剤組成物の全質量基準で少なくとも3質量%である請求項1又は請求項7に記載のエンジン洗浄剤組成物。
【請求項9】
エンジンの吸気系統、燃料噴射器、燃焼室及び排気系統のいずれかの少なくとも一つに形成されたデポジットを除去することからなるエンジン洗浄方法であって、
エンジン内のエンジン油をレシーブ油に交換した後、エンジンの暖機運転により、前記レシーブ油をエンジン各部に給油する工程(a)と、
次の工程(b)及び/又は工程(c)から選択される少なくとも一つの工程とを含んでなることを特徴とするエンジン洗浄方法。
工程(b):請求項1~8のいずれか1項に記載のエンジン洗浄剤組成物を、エンジンに供給する燃料に混合することにより、得られた混合燃料を用いて、前記エンジンをアイドリングにより運転することからなる洗浄工程、
工程(c):エンジンのアイドリング運転を行いながら、請求項1~8のいずれか1項に記載のエンジン洗浄剤組成物を、前記吸気系統に点滴供給することからなる洗浄工程
【請求項10】
前記工程(b)において、前記燃料中の前記エンジン洗浄剤組成物の含有量が、前記混合燃料全質量基準で20質量%~60質量%である請求項9に記載のエンジン洗浄方法。
【請求項11】
前記レシーブ油が、前記洗浄剤組成物と相溶性を有する基油と、前記基油に添加された無灰分散剤、金属系洗浄剤、摩擦調整剤、摩耗防止剤、極圧剤及び消泡剤とからなる群より選択される少なくとも一種の添加剤とから構成される潤滑流体である請求項9に記載のエンジン洗浄方法。
【請求項12】
前記工程(c)において、点滴供給に供するエンジン洗浄剤組成物が燃料と混合された混合物である請求項9に記載のエンジン洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン洗浄剤組成物及び当該エンジン洗浄剤組成物を用いるエンジン洗浄方法に関するものであり、さらに詳しくは、自動車エンジンの吸気系統、燃焼室及び排気系統等に形成されたデポジットを除去するためのエンジン洗浄剤組成物並びに当該洗浄剤組成物を用いることによりエンジンを分解せずに、そのままの状態で、エンジンの吸気系統、燃焼室及び排気系統を洗浄することからなるエンジン洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関エンジンにおいては、ガソリンエンジン及びディーゼルエンジンであっても使用に伴い、燃焼残渣及びエンジン内の潤滑に使用する潤滑油の劣化物質等がデポジットとして燃焼室内、ピストンヘッド部、ピストンリングの間隙等に形成することが知られている。
【0003】
また、炭化水素系燃料の酸化、重合により生成する酸化重合物が、キャブレターポート、スロットルボディ、燃料噴射器、吸気ポート、吸気弁等の吸気系統等にデポジットとして形成することも従来から指摘されている。
【0004】
前記のようにエンジン燃焼室内にデポジットが付着、形成されることにより燃焼室内の熱伝導性が低下し、圧縮比及び燃焼室内の形状の変化等の支障が生じ、また、燃焼室内の形状が変化すると、最適な混合気の形成に影響が生ずる。かかる影響は、排気ガス組成を変化させると共に、ノッキングの促進をももたらすことになる。
【0005】
また、燃焼室内にデポジットが形成することにより、主要な出力部品であるピストンリングの作動を阻害し、作動に伴う機密性が失われ、エンジンのパワー低下及びエンジンのレスポンスの低下を招くおそれが生ずる。
【0006】
かかる状況下において、かつては、前記の如きエンジン燃焼室内及び吸気系統内に形成したデポジットを除去するためには、特化物、劇毒物等が使用されており、その他にも従来から多数の洗浄剤が提案されてきた。例えば、特許文献1には、ダイマー酸等のカルボン酸とラウリルアミン等のアルキルアミンを含む分散剤、キレート剤、グリコールエーテル系溶媒及びナフテンオイル等の混合物からなる洗浄剤が記載されている。また、特許文献2には、ポリエーテル、ポリエーテルアミン及びそれらの混合物からなるポリエーテル成分と、脂肪族アルコール、脂肪族アミン等の混合物及びアルコキシアルコールを含有する洗浄剤が記載されている。さらに特許文献3には、エンジンの吸気系統を分解せずにそのままの状態で洗浄する方法が記載されている。
【0007】
しかしながら、エンジン内部に形成されたデポジットは、形成箇所の相違、エンジンの運転条件の相違によってその成分が相違し、従来提案されてきた洗浄剤によっては、デポジットとの単なる物理的な相溶性などの実験的な溶解性のチェックに基いて洗浄剤の成分が選択されており、十分な除去効果を奏し得ない場合も指摘されてきた。
【0008】
また、前記の通り提案されてきた洗浄剤によってはエンジン内部にてオイルパン等に塗装された塗膜を剥離するなどの難点を包蔵し、さらには、洗浄剤の成分によっては、アンモニア等の発生によりアルカリ性を呈することがあり、アルカリ性を呈することによってエンジン内においてオイルパン等に使用されるアルミ合金材質が腐食されることについても指摘されてきた。
【0009】
従来、エンジン洗浄方法についてはエンジンを分解せずに燃焼室及び吸気系統を洗浄する方法が提案されているが、エンジン内の塗膜の剥離及びエンジン内金属材質の腐食を回避することについては十分な改善策は提案されておらず、塗膜の剥離を防止し、アルミ合金の腐食を回避すると共に、燃焼室内及び吸気系統並びに排気系統において形成されたデポジットを完全に除去する方法については未だ改善の余地が残されている。
【0010】
従って、各種デポジットに対し適格な除去作用を有する洗浄剤の開発が切望されてきた。また、エンジンを分解せずに燃焼室、ピストンリング及び吸気系統・排気系統に対し完全に洗浄する方法についても洗浄剤の開発と相俟って、洗浄方法の高度化も切望されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第5675741号公報
【特許文献2】特許第6700289号公報
【特許文献3】特開平6-313198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の第一の課題は、エンジン内部の形成箇所により成分の異なるデポジットであっても、デポジットの溶解・除去が適格に行われることが可能であり、特に燃焼室内のデポジットの除去が容易であると共に、人体に対して毒性を有するものではなく、併せてエンジン各部材に対しても損傷を与えることのない洗浄剤組成物を提供することにある。
【0013】
また、第二の課題は、前記洗浄剤組成物を用いることにより、エンジンを分解することなく、そのままの状態でエンジン内のオイルパン等の塗膜の剥離防止及び金属材質の腐食の回避を図ると共に、エンジン内部、特に燃焼室内に形成されたデポジットを強力に除去することが可能な洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、本発明者らは、前記の課題を解決するため、ガソリンエンジンの燃焼室内に形成されたデポジットの成分を把握することから始め、かかるデポジットを赤外分光分析に供したところ、C=O伸縮、C-O伸縮、OH伸縮のほか、R-ONO2、R-NO等の分子波長が同定され、特徴的な官能基として、酸基(R-COOH)、水酸基(R-OH)、ニトロ基(R-ONO2)等が含有し、又は、これらが脱水素化して炭素質過多の重縮合物であることを見い出し、かかるデポジットを溶解させて除去することについて、鋭意検討を重ねた結果、かかるデポジットの組成に類似した官能基を分子内に有する化合物を極性基バランスを図るように含有する洗浄剤組成物が、前記デポジットの溶解除去に有効であり、環境安全性の観点からも弊害がないことに着目し、かかる知見に基いて本発明に想到するに至った。
【0015】
また、エンジン洗浄方法として、エンジンを分解せずに十分な洗浄を行うには、洗浄剤が高度の洗浄力を発揮すると共に、エンジン内の各部の材質に腐食等の損傷を与えることなく、また、塗膜の剥離を防止することができれば、エンジンの分解に要する時間及び作業の負担を軽減できることに着目し、種々検討の結果、レシーブ油をエンジンの各部に給油すると共に、洗浄剤組成物を燃料に混合し、特定の条件でアイドリングを行う工程及び/又は洗浄剤組成物を吸気系統から燃焼室へと点滴供給する工程を採用することによりデポジットの溶解除去において予期せざる効果を奏することも把握できるに至った。
【0016】
かくして、本発明の要旨は、次の1)~12)に記載の通りのものである。
1)次の一般式(1):
【0017】
【化1】
【0018】
(式中、Xは酸素原子であり、Rは、水素原子又は炭素数1~30の炭化水素基である。)
で表される置換又は非置換ピロリドン;
テルペン炭化水素類;
アルカノールアミン;及び
一塩基オキシ酸エステル
を少なくとも含有してなることを特徴とするエンジン洗浄剤組成物。
2)前記置換又は非置換ピロリドンが、N-メチル-2-ピロリドン、N-オクチル-2-ピロリドン、N-ドデシル-2-ピロリドン、N-ポリビニル-2-ピロリドン及び2-ピロリドンからなる群より選択される少なくとも一種の化合物である請求項1に記載のエンジン洗浄剤組成物。
3)前記置換又は非置換ピロリドンの含有量が、前記エンジン洗浄剤組成物の全質量基準で少なくとも40質量%である前記1)に記載のエンジン洗浄剤組成物。
4)前記テルペン炭化水素類が、モノテルペン炭化水素類である前記1)に記載のエンジン洗浄剤組成物。
5)前記モノテルペン炭化水素類が、リモネンである前記3)に記載のエンジン洗浄剤組成物。
6)前記テルペン炭化水素類の含有量が、前記エンジン洗浄剤組成物の全質量基準で少なくとも5質量%である前記1)に記載のエンジン洗浄剤組成物。
7)前記一塩基オキシ酸エステルが乳酸エステルである前記1)に記載のエンジン洗浄剤組成物。
8)前記一塩基オキシ酸エステルの含有量が、前記エンジン洗浄剤組成物の全質量基準で少なくとも3質量%である前記1)に記載のエンジン洗浄剤組成物。
9)エンジンの吸気系統、燃料噴射器、燃焼室及び排気系統のいずれかの少なくとも一つに形成されたデポジットを除去することからなるエンジン洗浄方法であって、
エンジン内のエンジン油をレシーブ油に交換した後、エンジンの暖機運転により、前記レシーブ油をエンジン各部に給油する工程(a)と、
次の工程(b)及び工程(c)から選択される少なくとも一つの工程とを含んでなることを特徴とするエンジン洗浄方法。
工程(b):前記1)~8)のいずれか1項に記載のエンジン洗浄剤組成物を、エンジンに供給する燃料に混合することにより、得られた混合燃料を用いて、前記エンジンをアイドリングにより運転することからなる洗浄工程、
工程(c):エンジンのアイドリング運転を行いながら、前記1)~8)のいずれか1項に記載のエンジン洗浄剤組成物を、前記吸気系統に点滴供給することからなる洗浄工程
10)前記混合燃料中の前記エンジン洗浄剤組成物の含有量が、前記混合燃料全質量基準で20質量%~60質量%である前記9)に記載のエンジン洗浄方法。
11)前記レシーブ油が、前記洗浄剤組成物と相溶性を有する基油と、前記基油に添加された無灰分散剤、金属系洗浄剤、摩擦調整剤、摩耗防止剤、極圧剤及び消泡剤とからなる群より選択される少なくとも一種の添加剤とから構成される潤滑流体である前記9)に記載のエンジン洗浄方法。
12)前記工程(c)において、点滴供給に供されるエンジン洗浄剤組成物が燃料と混合された混合物である前記9)に記載のエンジン洗浄方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、デポジットが有する官能基に類似する官能基を有する洗浄剤組成物が提供されることからデポジットに対する溶解が容易であり、極めて短時間の間に、エンジン壁面での固着状態から容易に剥離させることができる。また、炭素質過多の成分に対して混在する有機成分に対しても浸出が容易であり、迅速な溶解除去が可能である。
【0020】
さらに、かかる溶解力の強い洗浄剤組成物を用いることにより、エンジンを分解することなく、アイドリング状態の運転下において燃料中に洗浄剤組成物を添加することにより、又は洗浄剤組成物の吸気系統への点滴供給によりエンジン内部に形成されたデポジットを除去することができる。
【0021】
また、本発明に係るエンジン洗浄方法によれば、エンジン内のアルミ合金等の金属材質及びオイルパン上に塗布された塗膜等に対しても腐食及び剥離等による損傷を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための好ましい形態について詳細に説明する。
エンジン洗浄剤組成物
本発明に係るエンジン洗浄剤組成物は、
次の一般式(1)で表される置換又は非置換ピロリドン;
【0023】
【化1】

(式中、Xは酸素原子であり、Rは、水素原子又は炭素数1~30の炭化水素基である。)
テルペン炭化水素類;
アルカノールアミン;及び
一塩基オキシ酸エステル
を少なくとも含有する混合物である。
【0024】
(a)置換又は非置換ピロリドン
本発明に係るエンジン洗浄剤組成物の主要成分である置換又は非置換ピロリドンは、前記一般式(1)で表わされる五員複素環式化合物である。
本発明の説明において、「置換又は非置換ピロリドン」とは、ピロリドンの-NH基の水素原子(H)が他の基で置換されたものであるか否かを意味するものとして使用しており、非置換ピロリドンは、一般式(1)及び(2)におけるRが水素原子であり、置換ピロリドンは一般式(1)及び(2)のRが炭化水素基であることを意味するものである。
一般式(1)において、Xは酸素原子であり、その結合位置は五員環のいずれの炭素原子でもよく、単離して得られないとしても五員環の3の位置の炭素原子に結合した3-ピロリドンも挙げることができるが、次の一般式(2)で示されるように五員環の2の位置に結合して得られる置換又は非置換2-ピロリドンが好ましい。
【0025】
【化2】

【0026】
前記一般式(1)及び(2)において、Rは、水素原子又は炭素数1~30の炭化水素基であり、Rが水素原子である場合、下記の式(3)で示される2-ピロリドンが得られる。
【0027】
【化3】
【0028】
炭化水素基としては、炭素数1~30を有するものが好ましく、具体的には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基からなる群より選択される炭化水素基を挙げることができる。
脂肪族炭化水素基としては、飽和又は不飽和炭化水素のいずれでもよく、飽和炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、テトラマシル基、オクタコシル基等又はかかる直鎖状炭化水素基の分岐状炭化水素基が挙げられる。
不飽和脂肪族炭化水素基としては、前記飽和脂肪族炭化水素基に対応する各不飽和炭化水素基であり、具体的には、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、テトラデセニル基等が挙げられる。
脂環式炭化水素基としては、具体例として、シクロヘキシル基、シクロデシル基、シクロドデシル基、シクロヘキセニル基、シクロデセニル基、シクロドデセニル基等を挙げることができる。
また、芳香族炭化水素基としては、ベンジル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。
アルキル基又はアルケニル基で置換された芳香族基としては、ヘプチルフェニル基、イソプロペニルフェニル基等を挙げることができる。
【0029】
本発明に係る洗浄剤組成物において、置換又は非置換ピロリドンの含有量は、洗浄剤組成物の全質量基準で、少なくとも40質量%であり、上限値は90質量%である。好ましい含有量は50~80質量%であり、さらに好ましくは65~75質量%である。含有量が40質量%未満であると、デポジットに対する溶解力が不足することから洗浄力が低下し、デポジットの金属面からの剥離が十分でないおそれが生ずる。一方、90質量%を超えると、ガソリン及びレシーブ油との相溶性が低下し、相互に分離する状態となるため、洗浄剤組成物として、エンジン洗浄方法の実施において使用する場合、支障が生ずるおそれある。
【0030】
本発明に係るエンジン洗浄剤組成物の構成成分としての置換又は非置換ピロリドンは、デポジットに対する溶解作用が高いばかりでなく、特に、後述するようにテルペン炭化水素類との併用により、置換又は非置換ピロリドンの単独の場合又はテルペン炭化水素類の単独の場合と比較して金属壁面に固着した炭素質重縮合物に対し、著しく優れた溶解剥離作用を発揮させることができる。
【0031】
本発明に係る洗浄剤組成物を構成する置換又は非置換2-ピロリドンとしては、特に、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-エテニル-2-ピロリドン、N-プロピル-2-ピロリドン、N-ブチル-2-ピロリドン、N-オクチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン及びN-ポリビニル-2-ピロリドン及びこれらの混合物が好適である。特に、短鎖アルキル基を有するピロリドンと、炭素数4以上特に炭素数8以上のアルキル基を有するピロリドンとの混合物が、著しく顕著な洗浄性能とエンジン材質への保護性能とのバランスを達成することができる。具体的には、N-メチル-2-ピロリドンと、アルキル基が比較的長鎖のN-オクチル-2-ピロリドン又はN-ポリビニル-2-ピロリドンとの混合物が、デポジットに対する溶解力とエンジン内の金属材質に対する保護作用のバランスの観点から好適である。
【0032】
短鎖アルキル基を有するピロリドンと、比較的長鎖のアルキル基を有するピロリドンとの混合割合としては、本発明に係るエンジン洗浄剤組成物における前記置換又は非置換ピロリドンの含有量40~90質量%の範囲内において、具体的には、N-メチル-2-ピロリドン1質量部に対し、N-オクチル-2-ピロリドン又はN-ポリビニル-2-ピロリドンが、0.05~20質量部の割合とすることが好ましい。さらに好ましい割合としては、N-メチル-2-ピロリドン1質量部に対し、N-オクチル-2-ピロリドン又はN-ポリビニル-2-ピロリドンを15質量部以下の割合で採用することができる。
(b)テルペン炭化水素類
【0033】
次に、本発明に係る洗浄剤組成物を構成する主要成分であるテルペン炭化水素類について説明する。
本発明に係る洗浄剤組成物を構成するテルペン炭化水素類としては、モノテルペン炭化水素、セスキテルペン炭化水素、ジテルペン炭化水素及びトリテルペン炭化水素を挙げることができる。好適なテルペン炭化水素類としては、モノテルペン炭化水素を挙げることができる。非環式モノテルペン炭化水素及び環式モノテルペン炭化水素を挙げることができる。非環式モノテルペン炭化水素の具体例としては、例えば、ミルセン、オシメン等を挙げることができる。また単環式モノテルペン炭化水素の具体例としては、リモネン、ピネン、テルピノレン、カンフェン、α-テルピネン、β-テルピネン、γ-テルピネン、α-フェランドレン、β-フェランドレン、p-サイメン、p-メンタン等を挙げることができ、リモネンとしては、d-リモネン、-リモネン及びd-リモネン等の光学異性体を挙げることができるが、かかる化合物のうち、本発明に係る洗浄剤組成物の成分として、特に、d-リモネンのほか、ピネンが好ましい。また、本発明に係る洗浄剤組成物の成分としては、モノテルペン炭化水素のほか、モノテルペンアルコール、モノテルペンアルデヒド、モノテルペンケトン、モノテルペンオキシド等も挙げることができる。さらに、ジテルペノイド、及びトリテルペノイド等も挙げることができる。かかる化合物は、本発明に係る洗浄剤組成物の成分の作用を阻害しない限りにおいてモノテルペン炭化水素と同様に使用することができる。
【0034】
本発明に係る洗浄剤組成物の構成成分のテルペン炭化水素類の含有量は、洗浄剤組成物の全質量基準で、少なくとも5質量%であり、上限値は30質量%である。 好ましい含有量は、10~25質量%であり、さらに好ましくは、10~20質量%である。
テルペン炭化水素類の含有量%が5質量%未満においては洗浄剤組成物のデポジットに対する洗浄力が低下すると共に、前記の如き置換または非置換ピロリドンとの炭素質量縮合物に対する溶解作用を低下させるおそれが生ずる。一方、30質量%を超えると、エンジン内のある種のポリマー材質を溶解するなど損傷を与えるおそれが生ずる。
【0035】
(c)アルカノールアミン
本発明に係る洗浄剤組成物を構成する成分であるアルカノールアミンは、炭素数1~20のアルカノール基を有する少なくとも一つのアルカノール基を有するものであり、一級、二級及び三級のアルカノールアミンを挙げることができる。二級アルカノールアミン又は三級アルカノールアミンが一つ又は二つのアルカノール基を有する場合、窒素原子に結合するほかの置換基としては、アルキル基、アリール基等が挙げられる。具体的には、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルエタノールアミン、エチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、エチルジメタノールアミン、ジブチルエタノールアミン、ジエチルイソプロパノールアミン等を挙げることができる。
かかるアルカノールアミンのなかで、本発明に係る洗浄剤組成物の成分としては、限定されるものではないが、低級アルカノールアミンを使用することが好ましく、特に好ましい成分としては、ジエタノールアミンを挙げることができる。
本発明に係る洗浄剤組成物において、アルカノールアミンの配合量は、洗浄剤組成物全質量基準で2~20質量%であり、好ましくは5~15質量%である。さらに好ましくは5~10質量%である。
アルカノールアミンの配合量が、2質量%に達しないと洗浄剤組成物の成分の混合バランスを欠き、洗浄力の低下を招くおそれが生ずる。一方、20質量%を超えると、構成成分のバランスを欠き、構成する洗浄組成物の洗浄力が低下するおそれが生ずる。また、金属材質に対する腐蝕の発生のおそれが生ずる。
【0036】
(d)一塩基オキシ酸エステル
本発明に係る洗浄剤組成物の成分として一塩基オキシ酸エステルを挙げることができる。
一塩基オキシ酸エステルは、炭素鎖に1個以上の水酸基を有する脂肪酸のエステルであり、かかる一塩基オキシ酸エステルは、一塩基オキシ酸に対し、脂肪族アルコールを反応させることにより製造することができる。一塩基オキシ酸エステルの具体例としてグリコール酸エステル、乳酸エステル、ヒドロアクリル酸エステル、β-オキシ酪酸エステル等を挙げることができる。
【0037】
本発明に係る洗浄剤組成物の成分としての好適な一塩基オキシ酸エステルの具体例は乳酸エステルである。乳酸エステルは、乳酸と低級アルコール、例えば、炭素数1~10の脂肪族アルコールとのエステル化により得られる。
炭素数1~10の脂肪族アルコールとしては、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール及びデカノール並びにこれらの異性体及び不飽和体を挙げることができる。
本発明に係るエンジン洗浄剤組成物の成分として、低級アルコールを用いることにより得られた乳酸エステルが好ましく、具体的には、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル。乳酸イソプロピル等を挙げることができる。
【0038】
本発明に係るエンジン洗浄剤組成物の構成成分としての一塩基オキシ酸エステルの作用は、他の構成成分の相互の相溶性を増進させることにあり、また、本発明に係る洗浄剤組成物のガソリン等燃料に対する相溶性を向上させることができる。
本発明に係るエンジン洗浄剤組成物において、一塩基オキシ酸エステルの含有量は、洗浄剤組成物の全質量基準で少なくとも3質量%であり、上限値は30質量%である。好ましい含有量は、5~25質量%、さらに好ましくは、10~20質量%である。一塩基オキシ酸エステルの含有量が3質量%に満たないと、洗浄剤組成物の他の構成成分の相互の相溶性が十分でなく、また、洗浄組成物として、ガソリン等の燃料との相溶性が十分でなく、レシーブ油との相溶性を欠き、互いに分離状態となるおそれが生ずる。一方、30質量%を超えると構成する洗浄剤組成物の洗浄力が低下するなどの弊害が生ずるおそれがある。
【0039】
また、本発明に係る洗浄剤組成物の成分として、前記の一塩基オキシ酸エステルの作用を阻害しない限りにおいて、タルトロン酸、リンゴ酸、酒石酸等の二塩基オキシ酸等の多塩基オキシ酸等のエステル、また、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等の不飽和多塩基カルボン酸等のエステルを採用してもよい。
【0040】
溶媒
本発明に係るエンジン洗浄剤組成物は、前記の通り、(a)置換又は非置換ピロリドン、(b)テルペン炭化水素類、(c)アルカノールアミン、及び(d)一塩基オキシ酸エステルを少なくとも含有するものであるが、エンジン洗浄作業に際し、必要に応じ、溶媒で希釈して使用することができる。溶媒としては、前記各成分との相溶性に優れ、各成分の作用を阻害するものでなければ、特に限定されるものではなく、軽質炭化水素油及び中質炭化水素油、例えば、中質ナフテン系炭化水素等を用いることができる。市販品として、例えば、ハイソルベント200(HighSolvent200)、エネオスエクソール(登録商標)D-80等を選択することができる。
かかる溶媒の配合割合は、特に制限されるものではなく、本発明に係るエンジン洗浄剤組成物100質量部に対し1~80質量部、好ましくは、10~40質量部の範囲で採用することができる。
【0041】
エンジン洗浄方法
次に、本発明に係るエンジン洗浄方法について説明する。
本発明によれば、
エンジンの吸気系統、燃料噴射器、燃焼室及び排気系統のいずれかの少なくとも一つに形成されたデポジットを除去することからなるエンジン洗浄方法であって、
エンジン内のエンジン油をレシーブ油に交換した後、エンジンの暖機運転により、前記レシーブ油をエンジン各部に給油する工程(a)と、
次の工程(b)及び/又は工程(c)から選択される少なくとも一つの工程とを含んでなることを特徴とするエンジン洗浄方法
が提供される。
工程(b):請求項1~8のいずれか1項に記載のエンジン洗浄剤組成物をエンジンに供給する燃料に混合することにより、得られた混合燃料を用いて、前記エンジンをアイドリングにより運転することからなる洗浄工程。
工程(c):エンジンのアイドリング運転を行いながら、請求項1~8のいずれか1項に記載のエンジン洗浄剤組成物を、前記吸気系統に点滴供給することからなる洗浄工程。
【0042】
以下、具体的に説明する。
本発明に係るエンジン洗浄方法は、前記の通り、前記工程(a)と前記工程(b)及び/又は工程(c)とを含む工程の組み合わせから構成される。
【0043】
1.工程(a):レシーブ油の暖機運転による給油工程
本発明に係るエンジン洗浄方法において用いられるレシーブ油の暖機運転による給油工程(a)は、後述の工程(b)の洗浄剤組成物を含有する混合燃料を用いるエンジンのアイドリングによる洗浄工程及び/又は工程(c)のアイドリング運転状態において洗浄剤組成物を吸気系統に点滴供給する洗浄工程に前置して実施される工程であるか又は工程(b)及び/又は工程(c)と同時に実施される工程である。
工程(a)においては、エンジン内のエンジン油を抜き取られ、代わりに注入されたレシーブ油が暖機運転によりエンジン各部へ強制的に給油される工程である。
(1)暖機運転による給油
かかる暖機運転は、レシーブ油をエンジンの潤滑各部に給油するための手段である。従って、暖機運転は、エンジンの温度が常用される状態の温度に到達するまでの軽負荷運転であり、レシーブ油がエンジンの潤滑各部に供給され浸透されるまでの時間エンジンの運転を維持する条件を採用することが好ましい。
暖機運転の時間としては、特に限定されるものではないが、具体的には、約20~60分間、好ましくは約30分間程度を採用することができる。
【0044】
(2)レシーブ油の給油
本発明に係るエンジン洗浄方法における暖機運転において使用されるレシーブ油は、本発明の説明において、洗浄剤組成物を吸収・受容可能な流体(Received oil)という意味で使用しており、本発明に係るエンジン洗浄剤組成物の成分と相溶性を有するものであり、エンジン内において前記洗浄剤組成物と接触することにより、該洗浄剤組成物を吸収溶解する作用を有すると共に、エンジン内部の金属材質及び塗膜に対する保護作用を有する。
レシーブ油の組成は、前記洗浄剤組成物の成分と相溶性を有すると共に、エンジン油と同等な潤滑性を有することが要求される点から、前記洗浄剤組成物と相溶性を有する基油と当該基油に配合されたエンジン油に要求される添加剤、例えば、少なくとも無灰分散剤、金属系清浄剤、摩擦調整剤、摩耗防止剤、消泡剤及び腐食防止剤等とから構成されるものであり、エンジン油相当の粘度を有するもので、具体的には、#30グレード程度の粘度を有する潤滑流体を用いることができる。
【0045】
前記基油としては、前記洗浄剤組成物と相溶性を有する潤滑油成分であれば、限定されるものではなく、鉱油系基油、合成油系基油、又は植物油系基油を挙げることができるが、相溶性が大きい点から合成油系基油が好ましい。例えば、合成油系基油として、二塩基酸エステル、アルコールエステル等を挙げることができるが、特に、多価アルコールエステル、例えば、エリスリトールエステル、ジペンタエリスリトールエステル等が相溶性及び潤滑性の点から好ましい。なかでもジペンタエリスリトールエステルがレシーブ油の基油として好ましい。かかるエステルの構成有機酸は、炭素数1~20の脂肪酸が好ましく、具体的には、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、C6-C12混合脂肪酸等を挙げることができ、適宜選択することができる。
【0046】
レシーブ油の成分として使用される添加剤は、レシーブ油がエンジン油の性能を有するように調合されるものであり、無灰分散剤、金属系清浄剤、摩擦調整剤、摩耗防止剤、消泡剤及び腐食防止剤等が採用される。
【0047】
無灰分散剤としては、アルケニルコハク酸イミド、アルケニルコハク酸アミド、ベンシルアミン、コハク酸エステル、ポリメタクリレート等を挙げることができるが、コハク酸イミド系、及びホウ素含有コハク酸イミド系のものが好ましい。これらの配合量は、通常0.05~8質量であり、好ましくは0.1~5質量%の範囲において採用される。
【0048】
金属系清浄剤としては、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のスルホネート、フェネート、サリシレート、カルボキシレート等が挙げられ、過塩基性塩、塩基性塩、中性塩等の塩基価の異なるものを任意に選択して用いることができる。これらの配合量は、金属元素量として、通常、0.05~5質量%の範囲で使用することが好ましい。
【0049】
摩擦調整剤としては、有機モリブデン化合物、例えば、モリブデンジチオカルバメート(MoDTC)、モリブデンジチオフォスフェート(MoDTP)の他に脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸エステル、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステルが挙げられる。配合量として、通常、0.05~5質量%の範囲で使用することが好ましい。
【0050】
摩耗防止剤としては、ジチオリン酸亜鉛、ジチオリン酸金属塩(Pb,Sb,Mo等)、ジチオカルバミン酸金属塩(Zn,Pb,Sb,Mo等)、ナフテン酸金属塩(Pb等)、脂肪酸金属塩(Pb等)、ホウ素化合物、リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等が挙げられ、これらは、通常0.1質量%~5質量%の範囲で使用される。
極圧剤としては、硫化オレフィン、硫化油脂、リン酸エステル、亜リン酸エステル等が挙げられ、これらは、通常0.05~3質量%の範囲で使用される。
腐食防止剤としては、適宜選択することができるが、脂肪酸が使用される。
【0051】
2.工程(b):洗浄剤組成物を混合した燃料を用いるアイドリングによる洗浄工程
工程(b)は、エンジンに給油する燃料、例えば、ガソリンに洗浄剤組成物を混合し、洗浄剤組成物を混合燃料の形態にてエンジンに供給し、アイドリング運転を行うことによりエンジン内を洗浄することを内容とする洗浄工程(以下、「燃料ライン注入型洗浄工程」ということがある。)である。
工程(b)によれば、エンジンのアイドリング運転により洗浄剤組成物は、燃料と共に吸気系統、燃料噴射器から燃焼室に供給され、燃料の燃焼後に残留する洗浄剤組成物がエンジンの各部に形成されたデポジットと接触することにより、デポジットを溶解し、除去することが行われる。
工程(b)において、吸気系統から燃焼室内に導入された混合燃料の燃焼後、非燃焼物として残存する洗浄剤組成物は、燃料噴射器及び燃焼室内に形成されたデポジットを溶解すると共に、エンジン内のレシーブ油に吸収され、デポジットと共にレシーブ油中に収容される。
かかる洗浄工程において、洗浄剤組成物の燃料への混合量は、燃料との混合物の全質量基準で20~60質量%、好ましくは30~50質量%である。洗浄剤組成物の混合量が20質量%に満たないと、洗浄剤組成物の洗浄力を十分利用することができず、各部にわたり存在するデポジットの除去を十分行うことができない。一方、60質量%を超えると燃料との相溶性を欠き、分離状態となるおそれがあり、エンジン内への供給を行うことができず、その結果、十分な洗浄効果を奏することができないというおそれが生ずる。
【0052】
洗浄剤組成物の燃料への混合方法としては、エンジンに装備される燃料ラインの中間に、燃料に洗浄剤組成物を混合した混合燃料を充填した燃料タンクを装着することにより、混合燃料をエンジンに供給することができる。
また、工程(b)において、洗浄剤組成物を燃焼させず、エンジン内に供給することが可能なように、エンジンのアイドリング運転が採用される。
エンジンのアイドリング運転は、通常、無負荷で回転が円滑に行われる最低の回転速度が採用され、低速系統により行われる。低速系統は、一般に、アイドル調整ねじ・エアバイパス・低速ポート等の部分からなり、低速回転時における燃料の供給を受け持つ機能を有し、低速運転のときは濃厚なガスが供給されるように、アイドル調整ねじを回してアイドリングが調整される。混合燃料の燃焼において、洗浄剤組成物が燃焼室内で残留するようにアイドリング条件を設定することができる。具体的には、燃料圧を調整することにより、A/Fの最適化を行うことにより調整することができる。A/Fを、5~20、好ましくは8~12の範囲に設定することができる。
この結果、残滓として得られた洗浄剤組成物は、燃焼室内のデポジットを溶解除去すると共に、アイドリングに伴い、レシーブ油に吸収されてエンジン各部に浸透させることができる。
【0053】
3.工程(c):エンジンとアイドリング運転下における洗浄剤組成物の吸気系統への点滴供給による洗浄工程
工程(c)は、エンジンのアイドリング運転を行いながら、洗浄剤組成物を吸気系統に点滴供給し、形成されたデポジットを膨潤させ溶解させることにより除去する洗浄工程である。
【0054】
かかる工程(c)を構成するアイドリング運転は前項に記載したアイドリング運転と同様にエンジンの無負荷・低速の条件によるものであるが、工程(b)におけるアイドリングと同様の条件を採用してもよい。
工程(c)における洗浄剤組成物の点滴供給の条件としては、デポジットが膨潤し、溶解により除去できる程度であれば、特に制限されるものではないが、約10~60分間、好ましくは20~40分間に約200~1000ml、好ましくは300~700mlの洗浄剤組成物を点滴供給し、吸気系統から燃焼室、排気系統へと洗浄剤組成物をデポジットの表面に点滴し湿潤させながら溶解・除去に供される。
【0055】
工程(c)における洗浄剤組成物の点滴供給において、洗浄剤構成物は、燃料で希釈することが吸気系統へのバランスのとれた流れを形成させる点で好ましい。また、点滴供給の手段としては、点滴ボトルを使用することができる。
【実施例0056】
以下、本発明について、実施例及び比較例により具体的に説明する。もっとも、本発明は、かかる実施例等により限定されるものではない。
1.洗浄剤組成物の成分
【0057】
実施例等において採用した洗浄剤組成物の成分は、次の通りである。
尚、実施例等における各成分の含有量(%)は、洗浄剤組成物の全質量を基準とする「質量%」を示す。
(1)置換又は非置換ピロリドン;
(イ)N-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」と略称。) (M-PYROL(R) GAF社製)
(ロ)N-オクチル-2-ピロリドン(以下、「NOP」と略称。) (SURFADONE(R) LP100 Ashland社製)
(ハ)N-ドデシル-2-ピロリドン(以下、「NDP」と略称。) (SURFADONE(R) LP300 Ashland社製)
(ニ)N-ポリビニル-2-ピロリドン(以下、「PVP」と略称。)
(2)モノテルペン炭化水素類;
d-リモネン
(3)アルカノールアミン;
ジエタノールアミン(以下、「DEA」と略称。)
(4)一塩基オキシ酸エステル;
乳酸エチル(以下、「EL」と略称。)
(5)溶媒
ハイソルベント200(HighSolvent200)
【0058】
2.洗浄剤組成物の性能評価方法
洗浄剤組成物の性能評価は、次の(1)浸漬試験による(i)~(v)の評価項目及び(2)実機洗浄試験による(i)~(iii)の評価項目について実施する。
(1)浸漬試験
(i)洗浄度
デポジットが形成したピストンを表2に示す各洗浄剤組成物試料に、各々、浸漬し、50℃に加温した状態で30分間保持した後、洗浄剤組成物を除去し、ピストン頭部の表面のデポジットの除去状態を目視により評価する。
評価基準を次の通りとする。
【0059】
◎:100%除去
〇:50%以上除去
△:50%未満除去
×:全く除去不可
(ii)金属材料適合性能
鉄合金、アルミ合金、銅合金の各試験片を約50℃の洗浄剤組成物試料に24時間浸漬した後、各試験片の表面の錆、腐食、変色、変形の有無を目視により各々評価する。
評価基準を次の通りとする。
【0060】
◎:全く変化・変形がない
〇:変化・変形がない
△:変色がある
×:錆・腐食が発生
(iii)塗膜保持性能
鉄合金上に塗料を塗布した試験片を約50℃に加温下の洗浄剤組成物試料に24時間浸漬した後、試験片の塗膜表面の剥離、変色、変形の有無を目視により評価する。
評価基準を次の通りとする。
【0061】
◎:全く変化・変形がない
〇:変化・変形がない
△:一部剥離
×:全体に剥離(iv)プラスチック・ゴム適合性能
ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリカーボネートのプラスチック材、NBR、EPDM、シリコーンゴム、Vitonのゴム試験片を、各々、約50℃加温下の洗浄剤組成物試料に24時間浸漬した後、試験片の表面の腐食、変色、変形の状態を目視で評価する。
評価基準を次の通りとする。
【0062】
◎:全く変化がない
〇:変化がない
△:一部変形
×:全体に変形
(v)環境安全性
〇: 有機則 非該当。毒劇取法 非該当。
△: 有機則 該当。毒劇取法 該当。
【0063】
(2)実機洗浄試験
試験エンジンとしてニッサン車エンジンを用いて、表2に示す洗浄剤組成物について、工程(a)の実施後、工程(b)の燃料ライン注入型洗浄工程との組み合わせにより、下記の手順(1)~(10)により燃焼室内のデポジットの洗浄試験を実施する。
(1)エンジン内のエンジン油を表1に示すレシーブ油と交換する。
【0064】
(2)エンジン油をレシーブ油に交換後、暖機運転を30分間行う。
(3)暖機運転を停止後、点火プラグを外す。
(4)各燃焼室内に形成されたデポジット量をファイバースコープで観察し、評価する。
(5)点火プラグを取り付ける。
(6)試験エンジンへの供給燃料を、燃料ラインに設けた燃料タンクのガソリンに洗浄剤組成物を30%になるように添加した混合燃料に切り替える。
(7)試験エンジンのアイドリングを開始し、30分間アイドリングを行う。
(8)アイドリング停止後、点火プラグを外し、燃焼室内の残存デポジット量をファイバースコープで観察し、洗浄度を評価する。
(9)実機洗浄試験は、各洗浄剤組成物試料毎に(1)及び(2)を除き、(3)~(8)の手順を繰り返す。
(10)レシーブ油を抜き取り、エンジン油に交換する。
【0065】

実機洗浄試験による洗浄剤組成物の性能評価は、次の(i)~(iv)の評価項目により実施する。
(i)燃焼室の洗浄度
試験エンジンの点火プラグを外し、点火プラグホールからファイバースコープを挿入し、残存のデポジット量の状態を判定する。
評価基準を次の通りとする。
【0066】
◎:100%除去
〇:50%以上除去
△:50%未満除去
×:全く除去不可
(ii)DynaPackによる性能試験
シャシーダイナモメータDynaPackにより次の項目について試験を実施する。
・エンジン性能
洗浄作業前と作業後においてエンジン性能を測定し、洗浄の効果を判定する。
評価基準は次の通りとする。
【0067】
◎:レスポンス、パワーが回復し、最高速度の増進がある
〇:レスポンス、パワーが回復するが最高速度の増進がない
△:レスポンスが回復するが、パワーの回復はない
×:レスポンス、パワーの回復がない
・要求オクタン価(ORI)
洗浄作業の前後において、耐ノッキング性能を正標準燃料(イソオクタン・ノルマルヘプタン混合)により測定し、オクタン価要求値を求める。
評価基準を次の通りとする。
【0068】
◎:オクタン価要求値5ポイント以上低減
〇:オクタン価要求値5ポイント以下低減
△:オクタン価要求値の低減が得られない
×:ノッキングが解消できない
・排気ガス組成
洗浄作業の前後において、排気ガス組成を測定する。
評価基準を次の通りとする。
【0069】
◎:一酸化炭素濃度及び炭化水素濃度が、各々、1/10以下に低減
〇:一酸化炭素濃度及び炭化水素濃度が、各々、1/5以下に低減
△:一酸化炭素濃度及び炭化水素濃度の低減不可
(iii)金属材料適合性能
浸漬試験の評価方法・評価基準に準じて実施する。
(iv)塗膜保持性能
浸漬試験における評価方法・評価基準に準じて実施する。
【0070】

実施例1
洗浄剤組成物の成分として、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)70%、d-リモネン10%、DEA5%、及びEL15%を混合することにより、洗浄剤組成物(MCS A)を調製した。洗浄剤組成物(MCS A)の組成を表2に示す。得られた洗浄剤組成物(MCS A)を、前記浸漬試験に供すると共に、前記燃料ライン注入型による実機洗浄試験に供したところ、浸漬試験の結果は、表3に示す通りであり、実機洗浄試験については表4に示す結果が得られた。各表には、洗浄剤組成物(MCS A)の各洗浄性能をそれぞれ、記号で表示した。以下、各実施例及び比較例共に同様に表示した。
【0071】

実施例2
洗浄剤組成物の成分として、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)5%、NOP(N-オクチル-2-ピロリドン)70%、d-リモネン10%、DEA5%、及びEL10%を混合し、洗浄剤組成物(MCS B)を調製した。洗浄剤組成物(MCS B)の組成を表2に示す。洗浄剤組成物(MCS B)を前記浸漬試験に供すると共に、前記の実機洗浄試験に供したところ、浸漬試験については、表3に示す結果が得られた。また、実機洗浄試験については、表4に示す結果が得られた。
【0072】

実施例3
洗浄剤組成物の成分として、NMP70%、d-リモネン10%、DEA15%、及びEL5%を混合することにより、洗浄剤組成物(MCS C)を調製した。洗浄剤組成物(MCS C)の組成を表2に示す。洗浄剤組成物(MCS C)を前記浸漬試験に供すると共に、前記の実機洗浄試験に供したところ、浸漬試験については、表3に示す結果が得られた。また、実機洗浄試験については、表4に示す結果が得られた。
【0073】

実施例4
洗浄剤組成物の成分として、NMP50%、d-リモネン10%、DEA20%、及びEL20%を混合することにより、洗浄剤組成物(MCS D)を調製した。洗浄剤組成物(MCS D)の組成を表2に示す。洗浄剤組成物(MCS D)を前記浸漬試験に供すると共に、前記実機洗浄試験に供したところ、浸漬試験については、表3に示す結果が得られた。また、実機洗浄試験については、表4に示す結果が得られた。
【0074】

実施例5
洗浄剤組成物の成分として、NMP70%、、NOP5%、d-リモネン15%、DEA5%及びEL5%を混合することにより、洗浄剤組成物(MCS E)を調製した。洗浄剤組成物(MCS E)の組成を表2に示す。洗浄剤組成物(MCS E)を前記浸漬試験に供すると共に、前記の実機洗浄試験に供したところ、浸漬試験については、表3に示す結果が得られた。また、実機洗浄試験については、表4に示す結果が得られた。
【0075】

比較例1
洗浄剤組成物の成分として、d-リモネン10%、DEA5%、EL15%、及び溶媒としてハイソルベント200 70%を混合することにより、比較洗浄剤組成物(比較品1)を調製した。洗浄剤組成物(比較品1)の組成を表2に示す。比較洗浄剤組成物(比較品1)を、前記浸漬試験に供すると共に、前記実機洗浄試験に供したところ、浸漬試験については、表3に示す結果が得られた。また、実機洗浄試験については、表4に示す結果が得られた。
【0076】

比較例2
洗浄剤組成物の成分として、NMP70%、d-リモネン10%、EL15%、及びハイソルベント200 5%を混合することにより、比較洗浄剤組成物(比較品2)を調製した。洗浄剤組成物(比較品2)の組成を表2に示す。比較洗浄剤組成物(比較品2)について、前記浸漬試験に供すると共に、前記の実機洗浄試験に供したところ、浸漬試験については、表3に示す結果が得られた。また、実機洗浄試験については、表4に示す結果が得られた。
【0077】

比較例3
洗浄剤組成物の成分として、NMP70%、DEA5%、EL15%及びハイソルベント200 10%を混合することにより、比較洗浄剤組成物(比較品3)を調製した。洗浄剤組成物(比較品3)の組成を表2に示す。比較洗浄剤組成物(比較品3)について、前記浸漬試験に供すると共に、前記実機洗浄試験に供したところ、浸漬試験については、表3に示す結果が得られた。また、実機洗浄試験については、表4に示す結果が得られた。
【0078】

比較例4
洗浄剤組成物の成分として、NMP50%、d-リモネン35%、DEA5%及びEL15%を混合することにより、比較洗浄剤組成物(比較品4)を調製した。洗浄剤組成物(比較品4)の組成を表2に示す。
比較洗浄剤組成物(比較品4)について前記浸漬試験に供すると共に、前記実機洗浄試験に供したところ、浸漬試験については、表3に示す結果が得られた。また、実機洗浄試験については、表4に示す結果が得られた。
【0079】

比較例5
洗浄剤組成物成分としてNMP70%、d-リモネン10%、DEA5%及びハイソルベント200 15%を混合することにより比較洗浄剤組成物(比較品5)を調製した。洗浄剤組成物(比較品5)の組成を表2に示す。比較洗浄剤組成物(比較品5)について、前記浸漬試験に供すると共に、前記実機洗浄試験に供したところ、浸漬試験については、表3に示す結果が得られた。また、実機洗浄試験については、表4に示す結果が得られた。
【0080】

比較例6
洗浄剤組成物の成分として、NMP40%、d-リモネン10%、DEA5%、EL15%及びハイソルベント200 30%を混合することにより比較洗浄剤組成物(比較品6)を調製した。洗浄剤組成物(比較品6)の組成を表2に示す。比較洗浄剤組成物(比較品6)について前記浸漬試験に供すると共に、前記実機洗浄試験に供したところ、浸漬試験については、表3に示す結果が得られ、実機洗浄試験については、表4に示す結果が得られた。
【0081】
【0082】
前記の通りの実施例及び比較例による評価結果から、本発明に係るエンジン洗浄剤組成物については、次の特異性が明らかとなった。
1.洗浄剤組成物を構成する4成分は、必須の成分であり、所定の洗浄性能を発揮する上で重要な作用を発揮する。
2.洗浄剤組成物を構成する各成分の含有量の範囲は、臨界的なものであり、各成分の含有量の範囲を逸脱する場合は、通常、著しく洗浄性能を低下させるおそれが生ずる。
3.本発明に係るいずれの洗浄剤組成物も実機洗浄試験において金属材質適合性能及び塗膜保護性能のいずれも十分満足させることができる。