(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171214
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】匂い測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/04 20060101AFI20231124BHJP
G01N 27/12 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
G01N27/04 H
G01N27/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004098
(22)【出願日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2022083320
(32)【優先日】2022-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智大
(72)【発明者】
【氏名】有元 絵理佳
(72)【発明者】
【氏名】下元 佑也
【テーマコード(参考)】
2G046
2G060
【Fターム(参考)】
2G046AA18
2G046AA24
2G046AA25
2G046BA07
2G046BA09
2G046BG04
2G046BG07
2G046BH02
2G046BH03
2G046BH04
2G046DC18
2G046FA01
2G046FC07
2G060AA01
2G060AB21
2G060AB22
2G060AB26
2G060AE19
2G060AF08
2G060AG03
2G060AG10
2G060BB08
2G060BC00
2G060BD08
2G060HC10
2G060JA01
2G060KA01
(57)【要約】
【課題】繰り返し安定した測定を行うことができる匂い測定装置を提供する。
【解決手段】匂い測定装置(100)は、匂い物質を含む対象試料を内部に受け入れて第1気体を保持可能であり、第1気体とは異なる第2気体が内部に進入するために第1口(501)と、第2口(502)とを備える対象試料受入部(50)と、複数のセンサ素子(31A)が配置されたセンサチャンバ(60)と、第1口(501)から対象試料受入部(50)の内部へ第2気体を送ることによって、第1気体を対象試料受入部(50)内からセンサチャンバ(60)の方へ押し出す気体供給部(80)と、を備え、対象試料受入部(50)は、液体または固体の対象試料を受け入れるための試料導入口(503)を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
匂い物質を含む対象試料を内部に受け入れて第1気体を保持可能であり、前記第1気体とは異なる第2気体が通過して前記内部に進入する第1口と、前記内部の前記第1気体および前記第2気体が通過可能な第2口とを備える対象試料受入部と、
前記第2口と接続されており、前記第1気体に含まれる匂い物質に応じた測定結果を出力可能な複数のセンサ素子が配置されたセンサチャンバと、
前記第1口から前記内部へ前記第2気体を送ることによって、前記第1気体を前記対象試料受入部内から前記センサチャンバの方へ押し出す気体供給部と、
を備え、
前記対象試料受入部は、液体または固体の対象試料を受け入れるための試料導入口を備える、匂い測定装置。
【請求項2】
前記第2気体は、不活性ガスまたは空気である、請求項1に記載の匂い測定装置。
【請求項3】
前記複数のセンサ素子は、薄膜を備える、請求項1に記載の匂い測定装置。
【請求項4】
前記薄膜は、導電性炭素材料および樹脂組成物を含む、請求項3に記載の匂い測定装置。
【請求項5】
前記対象試料受入部内の容積は、前記センサチャンバ内の容積の1倍以上200倍以下である、請求項1に記載の匂い測定装置。
【請求項6】
前記対象試料受入部内の前記第1気体の温度および湿度の少なくとも一方を調節する調節部をさらに備える、請求項1に記載の匂い測定装置。
【請求項7】
前記対象試料受入部の内側面、および前記第1気体を前記対象試料受入部から前記センサチャンバへと導く管体の内側面には、前記匂い物質に対して不活性な素材が配される、請求項1に記載の匂い測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は匂い測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理技術の発達により、人間の五感のうち機械的な測定が十分に達成できていない嗅覚を何らかの方法で数値化することができれば、幅広い産業分野で利用可能であることが期待される。例えば、医療分野では介護・介助、未病予防診断や疾病検査など、環境分野では工場などでの臭気管理、バイオガス利用の分野での発酵工程管理や排水処理の管理など、安全分野では土砂崩れや水害などの予兆検知、エンジンオイルや機械動作油の劣化検知などが可能になる。また、食品分野では植物や肉などの食材の熟成状態検知、例えば酒類などの発酵食品の工程管理、植物の栽培管理や食品の生産・保管・流通過程での品質管理など、マーケティング分野では香粧品、体臭、香り環境、商材の香りのプロデュースなどに利用可能である。これまでに、特定の気体物質(ガス)を検出する方法は半導体ガスセンサなどによって高精度・高感度の測定が実現されている。様々な匂いに対して異なる応答特性を有するセンサが報告されており、センサが含む受容体の組成についても検討がされている。
【0003】
特許文献1に記載の発明は、半導体ガスセンサの半導体を導電性高分子に置き換えて導電性高分子表面への匂い成分の吸着を検出する仕組みを提案している。特許文献1では、熱分解しやすい匂い成分およびセンサの検出部表面で酸化還元反応を生じない物質の検出が可能になることを報告している。
【0004】
また、特許文献2においては、有機ポリマーと導電性物質の混合物の電気抵抗が有機ガスに曝露されることで変化する性質に着目している。特許文献2では、上記混合物のうち有機ポリマーの組成が異なる有機ポリマー/導電性物質の組み合わせを複数調製し、これらを電気抵抗アレイとしてセンサに用いると、同一の有機ガスに曝露された際の電気抵抗変化がそれぞれ異なることが記載されている。これを利用して、電気抵抗変化のパターンと匂い(=有機ガスの混合物)の種類を帰属することによって匂いを識別できることが特許文献2では報告されている。
【0005】
さらに、特許文献3において、上記の有機ポリマーに対して可塑剤を添加することでセンサの応答速度が向上することが報告されている。
【0006】
特許文献4において、ガス検知装置の一例として、車両に使用されるアルコール検知装置が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-23508号公報
【特許文献2】特表平11-503231号公報
【特許文献3】特表2002-519633号公報
【特許文献4】特開2012-18021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
匂い測定の精度向上および安定性向上の観点より、測定の対象試料に含まれる匂いを測定する匂い測定装置の構成には改善の余地がある。
【0009】
本発明の一態様は、繰り返し安定した測定を行うことができる匂い測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る匂い測定装置は、匂い物質を含む対象試料を内部に受け入れて第1気体を保持可能であり、前記第1気体とは異なる第2気体が通過して前記内部に進入する第1口と、前記内部の前記第1気体および前記第2気体が通過可能な第2口とを備える対象試料受入部と、前記第2口と接続されており、前記第1気体に含まれる匂い物質に応じた測定結果を出力可能な複数のセンサ素子が配置されたセンサチャンバと、前記第1口から前記内部へ前記第2気体を送ることによって、前記第1気体を前記対象試料受入部内から前記センサチャンバの方へ押し出す気体供給部と、を備え、前記対象試料受入部は、液体または固体の対象試料を受け入れるための試料導入口を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によればB、繰り返し安定した測定を行うことができる匂い測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る匂いセンサの構成の一例を示す概略図である。
【
図2】センサ素子の構成の一例を示す上面図である。
【
図3】
図2に示すセンサ素子の構成の一例を示す断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る匂い測定装置の構成の一例を示す概略図である。
【
図5】匂い測定装置の構成の一例を示す機能ブロック図である。
【
図6】推定装置が推定モデルを生成する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図7】匂い測定装置の構成の一例を示す機能ブロック図である。
【
図8】推定装置が匂い物質を推定する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図9】本発明のセンサ素子の構成の一例を示す上面図である。
【
図10】本発明のセンサ素子の構成の一例を示す上面図である。
【
図11】本発明のセンサ素子の構成の一例を示す斜視図である。
【
図12】実施例において用いたセンサ用基板の製造方法を説明するための概略図である。
【
図13】実施例において用いたセンサ用基板の製造方法を説明するための概略図である。
【
図14】実施例において用いたセンサ用基板の表面の構成を示す概略図である。
【
図15】実施例において用いたセンサ用基板の裏面の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施形態]
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意図する。
【0014】
〔1.樹脂組成物〕
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、匂い物質受容層を形成するための樹脂組成物であって、樹脂(A)、界面活性剤(B)および導電性炭素材料(C)を含む。樹脂(A)、界面活性剤(B)および導電性炭素材料(C)については後に具体例を挙げて説明する。
【0015】
本明細書中、「匂い物質」とは、広義において匂い物質受容層に吸着可能な物質を意味する。従って、一般的に匂いの原因物質とされていない物質も含まれる。「匂い」には原因となる匂い物質が複数含まれることが多く、また、匂い物質として認知されていない物質または未知の匂い物質も存在する。本発明の一実施形態は、匂い物質受容層への匂い物質の吸着量が匂い物質の種類によって異なることに着目するものである。
【0016】
なお、本明細書中、単に「匂い物質」と記載した場合であっても、個々の匂い物質ではなく、複数の匂い物質が含まれ得る「匂い物質の集合体」を意味する場合がある。
【0017】
「匂い物質」としては特に限定されないが、例えばヘキサン、酢酸エチル、メタノール、炭酸ジエチル、トルエン、d-リモネン、ボルナン-2-オン、シス-3-ヘキセノール、β-フェニルエチルアルコール、シトラール、L-カルボン、γ-ウンデカラクトン、オイゲノール、リナリルアセテート、メントール、ベンズアルデヒド、バニリン、ヘキサナール、エタノール、吉草酸ペンチル、リナロール、2-プロパノール等が挙げられる。
【0018】
また、本明細書中、「匂い物質受容層」とは、識別対象となる匂い物質を吸着する層を意味する。匂い物質受容層は上述の樹脂組成物から形成される。匂い物質受容層は、後述のセンサ素子の一部として設けられ得る。
【0019】
引用文献1に記載のセンサでは、単体の化合物からなる匂いの検出は可能であると考えられる。一方で多くの匂いは複数の物質の混合物である。引用文献1に記載のセンサでは検出部に匂いの成分を識別させる機能がないため、混合物に対する匂い識別性能が十分でない。引用文献2では検出部に用いる導電性を示す高分子の化学構造の違いを利用して、それぞれの導電性高分子を介して検出部が示す種々の化合物に対する応答に違いを持たせることで混合物としての匂いを認識させることができることが示されている。しかしながら、導電性を示す高分子の化学構造は限られており、任意の匂い成分に対する検出部の応答を感度良く分離することが難しく、類似の成分からなる匂い同士を識別させることは難しい。引用文献3では有機ポリマーと可塑剤と導電性物質からなる混合物を検出材料として検出部に用いて匂い成分が有機ポリマー中に浸透することを上記混合物の電気抵抗変化として検出する方法を提案している。異なる組成の有機ポリマーを用いれば浸透する匂い成分が異なることを利用して異なる組成の有機ポリマーを含む上記の検出材料からなる検出部を複数並列して用いるアレイにすることで、混合物としての匂いを認識させることができる。しかしながら、上記の有機ポリマーおよび可塑剤を含有する有機ポリマーでは、有機ポリマー/導電性物質の組み合わせを複数用意したとしても、有機ポリマー同士の化学的な性質の差が小さいため、匂いの識別性能は十分でない。これらの従来技術では例えば、複数の物質が相互作用する現実の匂いパターンまたは組成が不明である物質による現実の匂いパターンを的確に検知できない。
【0020】
本発明者らは、上述した樹脂組成物に吸着した匂い物質の量に応じて樹脂組成物の電気伝導性が異なること、および、上述の樹脂組成物への吸着過程は匂い物質毎に異なっていることに着目し、本発明の一実施形態に係る樹脂組成物およびセンサ素子等を発明するに至った。そして、このような樹脂組成物を用いることにより、匂いの識別性能を向上させることができる。例えば、複数の物質が相互作用する現実の匂いパターンまたは組成が不明である物質による現実の匂いパターンをも識別することができる。
【0021】
<樹脂(A)>
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物に含まれる樹脂(A)は、特に限定されないが、ウレタン樹脂、ポリアルキレンオキサイド、アクリル樹脂、フッ素基含有樹脂、ビニル重合樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂およびポリエステル樹脂等であってもよい。
【0022】
<界面活性剤(B)>
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、以下で説明するような界面活性剤(B)を含んでいてもよい。界面活性剤(B)は、後述する導電性炭素材料(C)の分散剤としての作用を呈する。界面活性剤(B)は、上記の作用を発現する範囲において、公知の界面活性剤から適宜に選ぶことが可能である。
【0023】
界面活性剤(B)としては、例えばアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0024】
アニオン性界面活性剤としては、炭素数10~24のカルボン酸のアルカリ金属塩および炭素数14~24のアルキルスルホン酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0025】
前記炭素数10~24のカルボン酸としては、例えば、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ペンタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、トリコサン酸およびテトラコサン酸等が挙げられる。
【0026】
前記炭素数14~24のアルキルスルホン酸が有するアルキル基としては、例えば、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基およびテトラコシル基等が挙げられる。
【0027】
前記アルカリ金属塩が含むアルカリ金属としては、例えば、ナトリウムおよびカリウム等が挙げられる。
【0028】
カチオン性界面活性剤としては、炭素数12~24のアルキル基を有する第4級アンモニウムのハロゲン化物塩等が挙げられる。
【0029】
前記炭素数12~24のアルキル基を有する第4級アンモニウムとしては、例えばテトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、ジメチルジオクチルアンモニウム、ジデシルジメチルアンモニウム、デシルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウム、トリデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、メチルトリオクチルアンモニウム、オクチルトリメチルアンモニウム、トリブチルメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、テトラデシルトリメチルアンモニウム、ノナデシルトリメチルアンモニウム、イコシルトリメチルアンモニウム、ヘンイコシルトリメチルアンモニウム、ヘプタデシルトリメチルアンモニウムおよびペンタデシルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0030】
前記ハロゲン化物塩としては、例えばフッ化物塩、塩化物塩、臭化物塩およびヨウ化物塩等が挙げられる。
【0031】
両性界面活性剤としては、例えば、炭素数10~22のアルキル基を有するジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウム分子内塩、炭素数10~22のアルキル基を有するN-アルキル-N,N-ジメチルグリシン等が挙げられる。
【0032】
炭素数10~22のアルキル基を有するジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩としては、例えばデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ウンデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ドデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、トリデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、テトラデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ペンタデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ヘキサデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ヘプタデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、オクタデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ノナデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、イコシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ヘンイコシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩およびドコシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩等が挙げられる。
【0033】
炭素数10~22のアルキル基を有するN-アルキル-N,N-ジメチルグリシンとしては、N-ドデシル-N,N-ジメチルグリシンおよびN-オクタデシル-N,N-ジメチルグリシン等が挙げられる。
【0034】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、高級アルコールエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0035】
高級アルコールとしては、1-ヘキシルアルコール、1-ヘプチルアルコール、1-オクチルアルコール、1-ノニルアルコール、1-デシルアルコール、1-ウンデシルアルコール、1-ドデシルアルコール、1-トリデシルアルコール、1-テトラデシルアルコール、1-ペンタデシルアルコール、1-ヘキサデシルアルコール、1-ヘプタデシルアルコール、1-オクタデシルアルコール等が挙げられる。
【0036】
エチレンオキサイド付加モル数は、匂い識別性能の観点から5~50が好ましく、より好ましくは5~40が好ましく、さらに好ましくは5~30である。
【0037】
前記樹脂(A)と前記界面活性剤(B)との重量比[(A)/(B)]は、匂い識別性能の観点により、好ましくは1.0~50.0である。
【0038】
前記樹脂(A)と前記界面活性剤(B)とは相溶していても相溶していなくても良い。
【0039】
界面活性剤(B)は、導電性炭素材料(C)に対する分散性の観点から、ノニオン性界面活性剤であることが好ましい。また、界面活性剤(B)は、導電性炭素材料(C)に対する分散性の観点から、アミド基、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基のうち少なくとも1つを有することが好ましい。また、界面活性剤(B)は、導電性炭素材料(C)に対する分散性の観点から、オキシエチレン鎖、オキシプロピレン鎖、および、オキシエチレン・オキシプロピレンのランダム構造もしくはブロック構造、の少なくとも1つを有することが好ましい。なお、オキシエチレン・オキシプロピレンのランダム構造は、オキシエチレンとオキシプロピレンとの両方が不規則に連結してなる鎖状構造である。また、オキシエチレン・オキシプロピレンのブロック構造は、オキシエチレンが連結してなるオキシエチレンブロックと、オキシプロピレンが連結してなるオキシプロピレンブロックとが連結してなる鎖状構造である。
【0040】
<導電性炭素材料(C)>
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、導電性炭素材料(C)を含んでいる。本明細書において、導電性炭素材料(C)とは、体積固有抵抗が0.1Ω・cm以下の炭素材料のことである。上述の樹脂組成物は、樹脂(A)中に導電性炭素材料(C)が分散している状態である。導電性炭素材料(C)同士が互いに接触して導電経路を形成することで樹脂組成物が導電性を有する。
【0041】
導電性炭素材料(C)としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブおよびグラフェン等が挙げられる。
【0042】
カーボンブラックの市販品としては、ケッチェンブラックEC(オランダ・アクゾ社製商品名)、ケッチェンブラックEC-300J(ライオンスペシャリティケミカルズ(株)製商品名)、ケッチェンブラックEC-600JD(ライオンスペシャリティケミカルズ(株)製商品名)、シーストG116、116(東海カーボン社製商品名)、ニテロン#10(新日鉄化学(株)社製商品名)、デンカブラック(電気化学工業(株)社製商品名)およびSUPER C-65(米国・MTI Corporation社製品名)等がある。
【0043】
カーボンナノチューブの市販品としては、VGCF-H(昭和電工(株)社製諸品名)等がある。
【0044】
グラフェンの市販品としては、シグマアルドリッチ社製がある。
【0045】
前記導電性炭素材料(C)の形状は、好ましくは繊維状または球状である。
【0046】
繊維状である場合、繊維径は好ましくは0.1~10μmであり、更に好ましくは0.1~5μmである。繊維長は好ましくは0.1~10μmであり、更に好ましくは1~10μmである。
【0047】
球状である場合、1次粒子径が好ましくは10nm~200nmであり、更に好ましくは20nm~150nmである。
【0048】
また、導電性炭素材料は、樹脂組成物中での導電性及びセンサ感度の観点から、一次粒子径が100nm以下であることが好ましい。導電性炭素材料の粒子径は、公知の方法で求めることが可能である。例えば導電性炭素材料の粒子径は透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、画像処理装置(例えばキーエンス製のデジタルマイクロスコープVHX-700F)を用いて画像解析することにより測定することができる。導電性炭素材料が公知の物または市販品である場合には、粒子径は、文献値またはカタログ値であってもよい。
【0049】
導電性炭素材料(C)の含有量は、樹脂組成物から形成されるセンサ素子が匂いセンサとして十分な導電性を発現する観点、および当該匂いセンサとして十分な感度を発現する観点から、樹脂(A)、界面活性剤(B)および導電性炭素材料(C)の合計100重量%に対し、好ましくは5~30重量%である。
【0050】
樹脂組成物は、本発明の効果が得られる範囲において、前述した樹脂(A)、界面活性剤(B)および導電性炭素材料(C)以外の他の成分をさらに含有していてもよい。他の成分の例には、溶剤(D)が含まれる。当該他の成分は、本発明の効果および当該他の成分による効果の両方が得られる範囲で好適に使用され得る。
【0051】
溶剤(D)は、樹脂(A)と界面活性剤(B)との相溶性を高める観点、樹脂組成物中における導電性炭素材料(C)の分散性を高める観点、または樹脂組成物の塗布性を高める観点から樹脂組成物に配合することが可能である。溶剤(D)の例には、N-メチル-2-ピロリドン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酪酸エチル、酪酸ブチル、酢酸エチル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、トルエンおよびキシレンが含まれる。
【0052】
樹脂組成物における溶剤(D)の含有量は、上記の観点の観点から適宜に決定し得る。たとえば、樹脂組成物における溶剤(D)の含有量は、塗工性の観点から、樹脂(A)、界面活性剤(B)および導電性炭素材料(C)の合計100重量部に対して、100~10000重量部であることが好ましい。
【0053】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物の製造方法の具体的な一例を示せば、下記の通りである。
【0054】
前記樹脂組成物は、樹脂(A)、界面活性剤(B)、導電性炭素材料(C)および必要に応じて溶媒(D)を混合して、撹拌機で均一に混練することでスラリーとして得られる。溶剤(D)を添加する場合では、溶剤(D)は樹脂組成物から留去される。溶剤(D)は、均一に混合して生成した樹脂組成物から留去してもよいし、後述のセンサ素子の製造時に生成した塗膜から留去してもよい。
【0055】
〔2.センサ素子31〕
上述した樹脂組成物は、樹脂組成物に匂い物質Aが吸着した場合と、匂い物質Aとは異なる匂い物質Bが吸着した場合とで、電気伝導性の経時的な変化が異なる。この性質を利用すれば、匂い物質を検出・識別可能なセンサ素子31を実現することができる。
【0056】
以下では、本発明の一実施形態に係る樹脂組成物を適用したセンサ素子31の概要および効果について説明する。
【0057】
センサ素子31は、上述の樹脂組成物を含む匂い物質受容層315、第1金属配線313A、および第2金属配線313Bを備えている。なお、以下では、第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bを区別しない場合、金属配線313と記す場合がある。
【0058】
ここで、第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bについて、
図2および
図3を用いて説明する。
図2は、センサ素子31の構成の一例を示す上面図であり、
図3は、
図2に示すセンサ素子31の構成の一例を示す断面図である。
【0059】
第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bはそれぞれ、匂い物質受容層315(すなわち、樹脂組成物)の電気伝導性の変化を計測するための電極として機能する金属配線である。すなわち、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとは互いに離間しており、匂い物質受容層315は、第1金属配線の少なくとも一部と第2金属配線の少なくとも一部とに接している。一例において、第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bは、互いに直接接していない金属配線であり、
図2に示すように、互いに略平行な金属配線であってもよい。
【0060】
図2に示すように第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bを含む金属配線313は、基板311上に配置されていてもよい。基板311は、電子回路に一般的に用いられるガラスエポキシ等の基板であり得る。金属配線313は、銅、または金等の金属配線であり得る。基板の面に対して垂直な方向から見た第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bそれぞれの太さは10μm~2mmが好ましく、更に好ましくは10μm~1mmである。基板の面に対して平行な方向から見た第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bそれぞれの高さ、すなわち厚さは1μm~100μmが好ましく、更に好ましくは10μm~50μmである。第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bの間隔は1μm~3mmが好ましく、更に好ましくは1μm~1.5mmである。金属配線313の長さは100μm~50mmが好ましく、更に好ましくは500μm~30mmである。
【0061】
図3は、
図2のA-A断面を示している。匂い物質受容層315は、第1金属配線313Aの少なくとも一部と第2金属配線313Bの少なくとも一部とに接していてもよい。匂い物質受容層315は、例えば、
図2および
図3に示すように、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとに挟まれた領域を埋めるように配されていてもよい。
【0062】
匂い物質受容層315の電気伝導性(すなわち、センサ素子31の電気伝導性)が低い場合、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとの間隔は所定の距離(例えば、500μm)以下であることが望ましい。
【0063】
センサ素子31は、匂い物質Aが吸着した場合と、匂い物質Aとは異なる匂い物質Bが吸着した場合とで、電気伝導性の経時的な変化が異なる樹脂組成物を適用することにより、さまざまな匂い物質を検出したり、識別したりすることが可能である。なお、後述する匂いセンサ30では、匂い物質を検出するための構成(金属配線313および匂い物質受容層315)が設けられた基板311を備えるセンサ素子31が複数配設されていてもよい。それぞれの基板311には、同じ組成の匂い物質受容層315を含む複数のセットが配設されていてもよい。複数のセンサ素子31が配設される場合、センサ素子31ごとに定電圧電源および電圧計を備える。匂いセンサ30において、各基板311上に匂い物質を検出するための構成(金属配線313および匂い物質受容層315)が1つ配設されていてもよい。あるいは、匂いセンサ30において、1つの基板311上に匂い物質を検出するための構成(金属配線313および匂い物質受容層315)のセットが複数配設されていてもよい。後者の場合、基板311上に設けられるセットの各々に定電圧電源および電圧計が接続される。
【0064】
匂いセンサ30が備える複数の匂い物質受容層315それぞれの組成は、同じであってもよいし異なっていてもよい。匂いセンサ30が同じ組成の匂い物質受容層315を含む場合、複数の匂い物質受容層315それぞれにおいて同じ匂い物質を検出することができる。また、匂いセンサ30がそれぞれ異なる組成の匂い物質受容層315を含む場合、複数の匂い物質受容層315のそれぞれは、匂い物質に対して異なる応答をする。このように、匂い物質を検出するための構成のセットを複数備えることで、匂いセンサ30における匂い物質の識別精度を向上させることができる。
【0065】
〔3.匂いセンサ30〕
以下では、センサ素子31を適用した匂いセンサ30の概要および効果について、
図1を用いて説明する。
図4は、センサ素子31を適用した匂いセンサ30の構成の一例を示すブロック図である。
【0066】
匂いセンサ30は、匂い物質を検出するセンサ素子31、定電圧電源32(電源)、および電圧計33(測定機器)を備えている。
【0067】
センサ素子31の第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとはリード線Wで接続されている。
図4には、リード線Wに定電圧電源32および電圧計33が配された例を示している。
【0068】
定電圧電源32は、センサ素子31に給電するための電源である。定電圧電源32は、センサ素子31にリード線を介して定電圧を供給する。定電圧電源32が供給する電圧値は、0.5V~10Vであり、例えば2.5Vまたは5.0Vである。
【0069】
電圧計33は、定電圧電源32から供給された定電圧を匂い物質受容層315に供給した場合に、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとの間に生じる電位差を測定する。
【0070】
なお、匂いセンサ30は、匂い物質測定用の回路において、電圧計33の前段にアンプ(不図示)を備えており、当該アンプは取得した信号を増幅し電圧計33に供給する。
【0071】
また、匂いセンサ30は、匂い物質測定用の回路のほかにリファレンス回路を備えており、電圧計33は、匂い物質測定用の回路において取得された値とリファレンス回路において取得された値との差(電位差)を電圧値として取得する。
【0072】
匂いセンサ30は、必須の構成ではないが、筐体34をさらに備えていてもよい。筐体34は、匂い物質を含む空気を内包可能な容器である。筐体34を備えている場合、センサ素子31は筐体34内に設置される。
【0073】
筐体34は、匂い物質を導入するための導入口341および匂い物質を含む空気を排出するための排出口342を備えている。匂い物質の導入は、導入口341から匂い物質を浸漬したろ紙等を筐体34内に導入することによって行われてもよいし、匂い物質を含む空気を導入口341から筐体34内に導入することによって行われてもよい。筐体34は、匂い物質を所定の濃度(例えば、200ppm)以上含む空気を内包するための容器である。
【0074】
筐体34の排出口342には、必須では無いが、気流生成用ファン35が配されていてもよい。気流生成用ファン35は、筐体34内に気流を生じさせたり、筐体34内の気体を排出口342から筐体34外へ排出させたりするためのものである。
【0075】
なお、匂いセンサ30は、定電圧電源32の代替として不図示の定電流源(電源)、電圧計33の代替として不図示の電流計(測定機器)を備えていてもよい。この場合、定電流源は、センサ素子31に給電するための電源として機能し、センサ素子31にリード線を介して定電流を印加する。一方、電流計は、匂い物質受容層315に定電流が印加された場合に、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとの間を流れる電流値を測定する。第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bはいずれも電極として機能し得る。以下、金属配線313が電極として機能する場合には、「電極313」と記載する場合もある。
【0076】
匂いセンサ30は、センサ素子31に匂い物質が吸着する前後における、該センサ素子31の電気伝導性の経時的な変化を示す測定値を出力する。これにより、さまざまな匂い物質を検出したり、識別したりすることが可能である。
【0077】
〔4.匂い測定装置100〕
上述した匂いセンサ30は、センサ素子31にさまざまな匂い物質が吸着した場合、該センサ素子31の電気伝導性の経時的な変化を匂い物質毎に出力することができる。この匂いセンサ30を適用すれば、匂い物質Aがセンサ素子31に吸着した場合の該センサ素子31の電気伝導性の経時的な変化と、匂い物質Bがセンサ素子31に吸着した場合の該センサ素子31の電気伝導性の経時的な変化と比較することができる。このような比較結果に基づいて、センサ素子31に吸着した匂い物質を推定可能な匂い測定装置100を実現することができる。
【0078】
さらに、匂い測定装置100は、機械学習によって生成した推定モデル22を用いれば、高精度な匂い物質の推定を行うことができる。推定モデル22は、複数の匂い物質のそれぞれを少なくとも1つのセンサ素子31に吸着させた場合に測定される測定値と、該測定値を与えた匂い物質に固有の識別情報との組み合わせを含む学習用データを用いて生成され得る。
【0079】
以下では、匂いセンサ30を適用した匂い測定装置100の概要および効果について説明する。匂い測定装置100は、上述した樹脂組成物を適用したセンサ素子31に生じた電気伝導性の変化から、センサ素子31に吸着した匂い物質を推定する装置である。
【0080】
本実施形態の匂い測定装置100は、複数のセンサ素子31A(以下、「センサ素子群31A」とも称する)を備えるセンサチャンバ60と、匂い物質を含む対象試料が導入され、対象試料から発生した匂い物質を含む気体が内包される対象試料受入部50とを別々に備える。本実施形態では、センサ素子群31Aに含まれる個々のセンサ素子31を単に「センサ素子31」と記す。
【0081】
本実施形態の匂い測定装置100は、対象試料受入部50の内部の、匂い物質を含む気体を別の気体(キャリアガス)を用いてセンサチャンバ60の方へ押し出す構成を採用している。本実施形態において、対象試料受入部50内に対象試料が導入された場合の該対象試料受入部50内の気体(すなわち、検出対象の匂い物質を含む気体)を第1気体と称す。一方、第1気体をセンサチャンバ60の方へ押し出すためのキャリアガスのことを第2気体と称す。
【0082】
図1は、匂い測定装置100の概略図である。
図1に示すように、匂い測定装置100は、匂いセンサ30、対象試料受入部50、センサチャンバ60、気体供給部80、および推定装置10を備える。また、匂い測定装置100は、調節部51をさらに備えてもよい。また、匂い測定装置100は、推定装置10aをさらに備えてもよい。
【0083】
図1は、一例として、気体供給部80から、対象試料受入部50、センサチャンバ60の順に気体が流れる例を示している。気体供給部80、対象試料受入部50、およびセンサチャンバ60は、それぞれ管体で接続されている。
【0084】
[対象試料受入部50]
対象試料受入部50は、匂い物質を含む対象試料を内部に受け入れて第1気体を保持可能である。対象試料受入部50は、内部に進入する第2気体が通過する第1口501と、内部から出る第1気体および第2気体が通過可能な第2口502とを備えている。
図1では、第1口501は、対象試料受入部50の紙面上部に設置され、第2口502は、対象試料受入部50の紙面下部に設置される態様を示すが、これに限定されない。例えば、第1口501および第2口502の位置は、第1気体に含まれる匂い成分の種類および組み合わせなどに応じて適宜設定し得る。例えば、第1気体に含まれる匂い成分の単位体積当たりの重量(すなわち、比重)が第2気体より重い場合と、軽い場合とで、第1口501の位置および第2口502の位置を変更してもよい。また、対象試料受入部50は、
図4と同じく、気流生成用ファン35を内部に備えていてもよい。
【0085】
対象試料受入部50は、液体または固体の対象試料を受け入れるための試料導入口503を備える。対象試料受入部50は、対象試料を設置するための設置部(不図示)を備えていてもよい。対象試料が液体である場合、設置部は、液体を保持するためのコップであってもよいし、対象試料が固体である場合、設置部は、固体が静置されるシャーレであってもよい。対象試料受入部50には、対象試料が試料導入口503から第1気体として気体状態で導入されてもよい。このように、対象試料受入部50が、液体または固体の対象試料を受け入れ可能であることにより、第1気体中の匂い物質の濃度を調節することが可能である。例えば、同一の匂い物質であっても、第1気体中の匂い物質の濃度の高低を調節することが容易である。
【0086】
対象試料受入部50の内側面には、匂い物質に対して不活性な素材が配されていてよい。匂い物質に対して不活性な素材は、センサチャンバ60に送り出される気体に含まれる匂い物質の各々の濃度を大きく変化させない素材である。例えば、匂い物質に対して不活性な素材は、匂い物質が吸着したり、溶け込んだりしにくい素材である。匂い物質に対して不活性な素材としては、例えば、ガラス、金属、樹脂が挙げられる。金属を採用する場合、ステンレス鋼(SUS)が好ましく、樹脂を採用する場合、フッ素系樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
【0087】
対象試料受入部50の内側面が第1気体に含まれる匂い物質を吸着する素材である場合、各部に匂い物質が吸着して、後の測定に影響を及ぼす虞がある。
【0088】
このように対象試料受入部50の内側面が匂い物質に対して不活性な素材であることにより、内側面の素材と、第1気体に含まれる匂い物質とが反応する、または内側面に匂い物質が吸着するなどの虞が低減される。従って、センサチャンバ60に供給された第1気体に含まれる匂い物質が、対象試料受入部50に内包されている間に変化する、または匂い物質の濃度が薄まるなどの虞が低減する。
【0089】
匂い測定装置100は、対象試料が液体または固体であっても、対象試料受入部50を備えることにより、第1気体をセンサチャンバ60に送り込む前に対象試料受入部50内で第1気体の濃度を均一にすることができる。また、匂い測定装置100は、対象試料受入部50を備えることにより、第1気体をセンサチャンバ60へ一定の流量で押し出すことができる。これにより、匂い測定装置100は、測定を繰り返し行う場合であっても、毎回同じ条件でセンサチャンバ60へ第1気体を送ることができるため、繰り返し安定した測定を行うことができる。
【0090】
対象試料受入部50内の容積は、センサチャンバ60内の容積の1倍以上200倍以下であることが好ましい。特に、対象試料受入部50内の容積は、センサチャンバ60内の容積よりも大きいことが好ましい。対象試料受入部50内の容積は、センサチャンバ60内の容積の2倍以上がより好ましく、4倍以上であることがさらに好ましい。また、対象試料受入部50内の容積は、センサチャンバ60内の容積の100倍以下であることが好ましく、60倍以下であることがさらに好ましい。対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積に対して1倍以上の大きさであることにより、センサチャンバ60における匂い物質の濃度が適切に調整され、センサチャンバ60が備えるセンサによる測定結果が安定して出力される。また、対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積に対して200倍以下であることにより、対象試料受入部50内の温湿度調整がしやすくなるため、センサによる測定結果が安定して出力されると共に、匂い測定装置100のサイズをコンパクトに収めることができる。
【0091】
対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積の1倍未満である場合は、対象試料受入部50で発生した匂い物質がセンサチャンバ60内で希釈され、センサにおける測定感度が低下する虞がある。また、対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積の200倍よりも大きい場合は、対象試料受入部50の容積が大き過ぎるため、第1気体の濃度、温度、湿度の均一性が低下し、測定を繰り返し行う場合に、同じ条件でセンサチャンバ60に第1気体を送ることができない虞がある。さらに匂い測定装置100全体のサイズが大きくなる虞がある。
【0092】
図1では、一例として、対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積の8倍の例を示している。
【0093】
例えば、管体93の内側面が、第1気体に含まれる匂い物質を吸着する素材である場合、各部に匂い物質が吸着して、後の測定に影響を及ぼす虞がある。そこで、第1気体を対象試料受入部50からセンサチャンバ60へと導く管体93の内側面に、対象試料受入部50の内側面と同様に、匂い物質に対して不活性な素材が配されることが好ましい。匂い物質に対して不活性な素材としては、例えば、ガラス、金属、樹脂が挙げられる。金属を採用する場合、ステンレス鋼(SUS)が好ましく、樹脂を採用する場合、フッ素系樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
【0094】
対象試料受入部50は、管体92および管体93から着脱可能な構成であってもよい。このように、対象試料受入部50が着脱可能であることにより、前の測定が終了し、次の測定を行う場合に、対象試料受入部50内をパージせずとも新しい対象試料受入部50を付け替えることができる。これによれば、匂い測定装置100は、複数の測定を短時間で行うことができる。
【0095】
また、対象試料受入部50が着脱可能であることにより、匂い測定装置100とは別体の保温室を用いて、対象試料を導入した対象試料受入部50を所望の温度に保持することができる。これによれば、例えば、後述する調節部51を匂い測定装置100に設けることが出来ない場合であっても、匂い測定装置100は、対象試料受入部50の温度を調節することができる。
【0096】
[調節部51]
調節部51は、対象試料受入部50内に内包されている第1気体の温度および湿度の少なくとも一方を調節する。調節部51が温度を調節する場合、調節部51は、例えば、ヒータまたは冷却器である。この場合、調節部51は、対象試料受入部50全体を覆うような構成であってもよい。また、調節部51が湿度を調節する場合、調節部51は、例えば、加湿器または除湿器である。調節部51は、第1気体の種類ごとに温度および湿度の少なくとも一方を調節してもよいし、同じ第1気体の測定中において所定時間毎に温度および湿度の少なくとも一方を変化させてもよい。
【0097】
調節部51が、対象試料受入部50内の第1気体の温度および湿度の少なくとも一方を調節することにより、匂い測定装置100は、例えば、第1気体の種類(気体の重さ、揮発性など)に応じた条件を用いてセンサチャンバ60へ第1気体を送ることができる。
また、これによれば、匂い測定装置100は、安定した濃度の第1気体をセンサチャンバ60へ送ることができ、測定の精度が向上する。
【0098】
[センサチャンバ60]
センサチャンバ60は、匂い物質を測定するためのセンサ素子31を格納する空間である。センサチャンバ60には、対象試料受入部50の第2口502と接続されている。具体的には、センサチャンバ60は、気体供給口601と、気体排出口602とを備え、対象試料受入部50の第2口502と、気体供給口601とが接続されている。
【0099】
センサチャンバ60は、第1気体に含まれる匂い物質に応じた測定結果を出力可能な複数のセンサ素子31Aを備える。複数のセンサ素子31Aは、それぞれ異なる樹脂組成物を物質受容層として備えるセンサ素子31であってよい。すなわち、複数のセンサ素子31Aは、それぞれのセンサ素子31の匂い物質に対する感度および特異性が異なっていてよい。
図1のセンサチャンバ60は、一例として、センサ素子31と、センサ素子31bとを含むが、これに限定されない。また、
図1のセンサチャンバ60は、センサ素子31、31bとは異なる樹脂組成物を物質受容層として備えるセンサ素子31cを備えている。センサ素子31と、センサ素子31bとは、第1気体に含まれる同じ匂い物質に応じた測定結果を出力可能であるが、それぞれが出力する測定結果は異なる。匂い物質に応じた測定結果は、例えば、匂い物質の濃度に応じた測定結果である。なお、以下の説明において特にセンサ素子31、31b、31cおよび後述するセンサ素子31dを区別しない場合、「センサ素子31」と総称する。
【0100】
センサチャンバ60には、それぞれ異なる樹脂組成物を物質受容層として備えるセンサ素子31がどのような組み合わせで、どのような配置で設置されてもよい。また、センサチャンバ60には、同じ樹脂組成物を物質受容層として備えるセンサ素子31が複数設置されていてもよい。
【0101】
ここで、センサ素子31と、センサ素子31bとは、それぞれが異なる匂い物質に応じた測定結果を出力可能なセンサ素子であってもよい。例えば、センサチャンバ60には、第1気体に含まれる匂い物質に応じた測定結果を出力可能なセンサ素子31と、第1気体に含まれる匂い物質とは異なる第2匂い物質に応じた測定結果を出力可能なセンサ素子31bとが配置されていてもよい。例えば、匂いセンサ30は、匂い物質受容層315に用いた樹脂組成物が互いに異なるセンサ素子31、31bを備えていてもよい。
【0102】
匂い物質を吸着する特性が異なる樹脂組成物を匂い物質受容層315に用いたセンサ素子31を複数備えることにより、匂い測定装置100は、複数の匂い物質についての推定を同時に実行することができる。なお、本発明の一実施形態に係るセンサ素子31に加えて、匂い物質受容層315に界面活性剤(B)を含まないセンサ素子31を併用してもよい。
【0103】
また、匂い測定装置100を用いれば、既知の匂い物質のそれぞれについて、センサ素子31の電気伝導性の変化を示す第1変化パターンと、センサ素子31bの電気伝導性の変化を示す第2変化パターンとを得ることが可能である。推定モデル22は、第1変化パターンおよび第2変化パターンの両方を用いた機械学習によって生成されてもよい。匂い測定装置100は、このように生成された推定モデル22を用いて匂い物質を推定するため、各匂い物質をより精密に識別することが可能である。
【0104】
図1のセンサチャンバ60は、一例として、4個×4列の配置で複数のセンサ素子31Aを備えている。センサ素子31Aの数、ならびにセンサ素子31Aの配列の仕方は限定されない。センサチャンバ60が備えるセンサ素子31Aの合計の数も特に限定されないが、例えば、2個、16個、64個であってよい。
【0105】
センサチャンバ60の内側面の素材は、対象試料受入部50と同様に、匂い物質に対して不活性な素材であることが好ましい。匂い物質に対して不活性な素材としては、例えば、ガラス、金属、樹脂が挙げられる。金属を採用する場合、ステンレス鋼(SUS)が好ましく、樹脂を再送する場合、フッ素系樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。センサチャンバ60の内側面の素材が、第1気体に含まれる匂い物質を吸着する素材の場合、センサチャンバに匂い物質が吸着することにより、後の測定におけるセンサ素子31からの出力の変化量が小さくなり、匂い測定装置100が正確な測定を行えない虞がある。
【0106】
[複数のセンサ素子31A(センサ素子群31A)]
複数のセンサ素子31Aは薄膜を備えてもよい。一例として、
図2および
図3の匂い物質受容層315が薄膜である。
【0107】
センサチャンバ60内に匂い物質を含む第1気体を送り込む態様として、例えば、センサチャンバ60の気体排出口602側に真空ポンプを設置し、真空ポンプを用いて気体を引くことにより、センサチャンバ60の気体供給口601側から匂い物質をセンサチャンバ60へ送り込む態様が考えられる。しかし、センサ素子31、31bが薄膜を備える場合、センサチャンバ60内が陰圧であると、薄膜が膨張して、センサ素子31、31bが安定した測定結果を出力できない虞がある。本実施形態に係る匂い測定装置100であれば、センサチャンバ60および対象試料受入部50の第1口501側から気体供給部80が気体を押すことによりセンサチャンバ60に第1気体を送り込むため、センサチャンバ60内の圧力は陽圧である。このため、匂い測定装置100は、複数のセンサ素子31Aが薄膜を備えていても安定した測定結果を得ることができる。
【0108】
また、複数のセンサ素子31Aの薄膜は、導電性炭素材料、樹脂組成物、および界面活性剤を含んでもよい。
【0109】
[気体供給部80]
気体供給部80は、対象試料受入部50の第1口501と接続されており、対象試料受入部50の内部へ第2気体を送ることによって、第1気体を対象試料受入部50内からセンサチャンバ60の方へ送り出す。
【0110】
気体供給部80と、対象試料受入部50との間にはバルブ81を備えていてもよい。バルブ81の開閉によって、気体供給部80からのガス供給の開始および停止を調節してもよい。
【0111】
このように、対象試料受入部50の第1口501側から気体供給部80が気体を押すことによりセンサチャンバ60に第1気体を送り込むため、センサチャンバ60内の圧力は陽圧である。このため、匂い測定装置100は、安定した測定結果を得ることができる。また、バルブ81の開閉によって、第2気体を送ることができるため、匂い測定装置100は、任意のタイミングで第1気体を対象試料受入部50内からセンサチャンバ60の方へ送り出すことができる。これによれば、匂い測定装置100は、センサ素子群31Aを用いて第1気体に含まれる匂い物質を繰り返し測定する場合、各センサ素子31が出力する波形の形の再現性を向上させることができる。
【0112】
第2気体は、不活性ガスまたは空気であってよい。不活性ガスとしては、例えば、アルゴン、窒素などが挙げられる。第2気体が不活性ガスである場合、気体供給部80はガスボンベであってよい。
【0113】
また、第2気体が空気である場合、気体供給部80はポンプであってよい。この場合、対象試料受入部50に内包される第1気体と反応する成分を除去するために、匂い測定装置100は、対象試料受入部50の第1口501側に、一例として、活性炭フィルタを備えていてもよい。
【0114】
匂い測定装置100は、対象試料受入部50の第1口501側、さらに具体的にはバルブ81と、気体供給部80との間にマスフローコントローラをさらに備えてもよい。この構成を採用した匂い測定装置100は、対象試料受入部50からセンサチャンバ60へ一定の流量で第1気体を送ることができ、複数のセンサ素子31Aが安定して出力を行うことができる。
【0115】
なお、
図1では、対象試料受入部50の内部から出た第1気体および第2気体が管体93およびセンサチャンバ60を通る構成を示したが、この構成に限定されない。匂い測定装置100の対象試料受入部50は、センサチャンバ60に対して大きい容積を持つため、測定時に対象試料受入部50の内部の第1気体の全量をセンサチャンバ60に送り出す必要はない。また、測定後に、対象試料受入部50の内部を、第2気体を用いてパージする場合、対象試料受入部50とセンサチャンバ60とが接続されている必要はない。そこで、匂い測定装置100は、管体93にバルブ(不図示)を配置して、対象試料受入部50の内部から出た第1気体および第2気体がセンサチャンバ60を通さずに排気可能な構成であってもよい。
【0116】
[推定装置10]
推定装置10は、匂いセンサ30によって検出された匂い物質を推定する装置である。推定装置10は、例えばコンピュータであり、不図示のCPUおよびメモリを備えている。推定装置10は、匂いセンサ30と通信可能に接続されている。具体的には、推定装置10は、匂いセンサ30から取得した計測値を解析することによって、匂い物質の推定を実行する。センサチャンバ60が、センサ素子31、センサ素子31bとは異なる樹脂組成物を物質受容層315に用いたセンサ素子31cをさらに備える場合、推定装置10は、センサ素子31cに定電圧を供給して電圧計によって測定される測定値をさらに取得し解析してもよい。また、推定装置10は、測定値そのもの、測定値をプロットした波形、および推定モデルに基づいた未知の匂い物質の推定結果を表示してもよい。また、推定装置10は、複数の匂い物質を含む気体に対して、それぞれの匂い物質の存在割合の変化を示す数値、およびグラフなどを表示してもよい。また、推定装置10は、匂い物質を推定するために用いる推定モデル22を生成してもよい。
【0117】
<推定モデル22の生成>
次に、匂い物質を推定するために用いる推定モデル22を生成する処理を行う匂い測定装置100の構成、および、推定モデル22を生成する処理について、
図5および
図6を用いて説明する。
【0118】
推定モデル22は、複数の匂い物質のそれぞれを少なくとも1つのセンサ素子31に吸着させた場合に電圧計33によって測定される測定値と、該測定値を与えた匂い物質に固有の識別情報との組み合わせを含む学習用データを用いた機械学習によって生成される。ここで、匂い物質に固有の識別情報とは、例えば、匂い物質の名称、CAS番号、および化学式等であってもよい。
【0119】
(推定装置10の構成(推定モデル22の生成))
図5は、匂い測定装置100の構成の一例を示す機能ブロック図である。なお、説明の便宜上、
図1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0120】
図5に示すように、推定装置10は、入力部15、制御部1、記憶部2を備えている。
【0121】
入力部15は、ユーザからの各種入力操作を受付けるためのものであり、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等であってもよい。
【0122】
制御部1は、測定値取得部11(取得部)、変化パターン解析部12(解析部)、学習制御部13、および推定モデル生成部14を備えている。
【0123】
測定値取得部11は、電圧計33から測定値を取得する。また測定値取得部11は、取得した測定値を用いて、センサ素子31の電気伝導性を示す値(例えば、抵抗値、およびインピーダンスなど)を算出する。測定値取得部11は、電圧計33から所定の時間間隔(例えば0.1秒間隔)で測定値を取得してもよい。
【0124】
変化パターン解析部12は、少なくとも1つのセンサ素子31の電気伝導性の経時的な変化を解析する。変化パターン解析部12は、測定値取得部11によって算出された抵抗値を用いて、匂い物質が吸着したことによるセンサ素子31の電気伝導性の変化量を示す値を算出する。変化パターン解析部12は、算出した電気伝導性の変化量の時間変化を示す変化パターンを示すデータを生成する。変化パターン解析部12は、生成した変化パターンが既知の匂い物質である場合、生成した変化パターンを該既知の匂い物質に固有の識別情報と対応付けて、変化パターンデータベース21(学習用データ)に格納してもよい。
【0125】
学習制御部13は、記憶部2から変化パターンデータベース21を読み出して、機械学習による推定モデル22の生成を制御する。ここで、変化パターンデータベース21は、複数の匂い物質をセンサ素子31に吸着させた場合に測定される測定値と、該測定値を与えた既知の匂い物質に固有の識別情報との組み合わせを含むデータベースである。学習制御部13は、変化パターンデータベース21から読み出した変化パターンを推定モデル生成部14に入力する。また、学習制御部13は、推定モデル生成部14に入力した変化パターンに対応する匂い物質の識別情報と、推定モデル生成部14から出力される推定結果とを比較し、比較結果に応じた補正指示を推定モデル生成部14に出力する。
【0126】
推定モデル生成部14は、変化パターンデータベース21に格納されている変化パターンを用いた機械学習アルゴリズムによって、推定モデル22を生成する。推定モデル生成部14は、公知の教師有り機械学習アルゴリズムを用いて推定モデル22を生成する構成であってもよい。推定モデル生成部14に適用可能な機械学習アルゴリズムとしては、例えば、k近似法(k-nearest neighbor method)、ロジスティック回帰、サポートベクトルマシン、ランダムフォレスト、およびニューラルネットワーク等が挙げられる。
【0127】
(推定モデル22を生成する処理)
以下、匂い測定装置100を用いて推定モデル22を生成する処理について、
図6を用いて説明する。
図6は、匂い測定装置100の推定装置10が推定モデル22を生成する処理の流れの一例を示すフローチャートである。推定モデル22は、複数の匂い物質のそれぞれを少なくとも1つのセンサ素子31に吸着させた場合に電圧計33によって測定される測定値と、該測定値を与えた匂い物質に固有の識別情報との組み合わせを含む学習用データを用いた機械学習によって生成される。ここで、匂い物質に固有の識別情報とは、例えば、匂い物質の名称、CAS番号、および化学式等であってもよい。
【0128】
まず、測定値取得部11は、匂い物質を対象試料受入部50へ導入する前の匂いセンサ30において測定された電圧値V0を取得し、抵抗値R0を算出する。抵抗値R0は、好ましくは200~1000Ωであり、さらに好ましくは250~900Ωであり、最も好ましくは300~800Ωである。その後、匂い物質を対象試料受入部50に入れる(ステップS1)。
【0129】
一方、入力部15は、対象試料受入部50内に導入した、既知の匂い物質の名称等の入力を受け付ける(ステップS2)。ステップS2の処理はステップS1の前に行ってもよい。
【0130】
次に、測定値取得部11は、センサ素子31への匂い物質吸脱着前後の過程における電圧値Vの変化量(ΔV)データ(波形または経時的変化パターン)を取得する(ステップS3)。
【0131】
続いて、変化パターン解析部12は、匂い物質吸脱着前後の過程における電圧値Vの変化量(ΔV)データ(波形または経時的変化パターン)と入力された既知の匂い物質の名称とを対応付けて変化パターンデータベースに記憶する(ステップS4)。
【0132】
所定種類の既存の匂い物質について変化パターンが記憶されていない場合(ステップS5にてNO)、すなわち、機械学習に用いるデータがまだ不足している場合、ステップS1に戻る。
【0133】
所定種類の既存の匂い物質について変化パターンが記憶された場合(ステップS5にてYES)、学習制御部13は、変化パターンデータベース21に記憶されている、既知の匂い物質についての変化パターンを読み出して、推定モデル生成部14に入力する。推定モデル生成部14は、変化パターンデータベース21に格納されている経時的変化パターン(または変化パターンから抽出した特徴量)に基づき、機械学習によって推定モデル22を生成する(ステップS6)。
【0134】
推定モデル生成部14は、所定の機械学習によって生成した推定モデル22を記憶部2に格納する(ステップS7)。
【0135】
図5および
図6に示す例では、推定装置10が推定モデル22を生成しているが、これに限定されない。例えば、推定装置10とは異なる外部のコンピュータであって、学習制御部13および推定モデル生成部14と同じ機能を備えるコンピュータに変化パターンデータベース21と同じデータを提供して、推定モデル22を作成させてもよい。
【0136】
<匂い物質の推定>
次に、推定モデル22を用いて匂い物質を推定する匂い測定装置100aの構成、および、推定処理について、
図7および
図8を用いて説明する。
【0137】
(推定装置10aの構成(推定処理の実行))
図7は、匂い測定装置100aの構成の一例を示す機能ブロック図である。なお、説明の便宜上、
図1および
図5にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0138】
図7に示すように、推定装置10aは、制御部1a、記憶部2a、および出力部18を備えている。ここで、
図7は、
図5に示す推定装置10を、匂い物質の推定処理に利用した場合の構成例を示している。すなわち、
図5に示す推定装置10と
図7に示す推定装置10aとは、同じハードウェア構成を備えるコンピュータであってもよい。
【0139】
出力部18は、ユーザに推定結果を提示するためのものであり、例えば、ディスプレイ、スピーカ、ランプ等であってもよい。
【0140】
制御部1aは、測定値取得部11(取得部)、変化パターン解析部12(解析部)、推定部16、および出力制御部17を備えている。
【0141】
推定部16は、推定モデル22を用いて、匂いセンサ30から取得した測定値を解析した解析結果から匂い物質を推定する。
【0142】
出力制御部17は、推定結果を出力するように出力部18を制御する。
【0143】
(推定処理)
以下、制御部1aの各部が行う具体的な処理については、
図8を用いて説明する。
図8は、推定装置10aが匂い物質を推定する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0144】
まず、測定値取得部11は、匂い物質を対象試料受入部50へ導入する前の匂いセンサ30において測定された電圧値V0を取得し、抵抗値R0を算出する。その後、未知の匂い物質(性状問わない)を対象試料受入部50に導入する(ステップS11)。
【0145】
次に、測定値取得部11は、センサ素子31への未知の(すなわち、推定対象の)匂い物質吸脱着前後の過程における電圧値Vの変化量(ΔV)データ(波形または経時的変化パターン)を取得する(ステップS12)。
【0146】
次に、推定部16は、推定モデル22に基づき、経時的変化パターン(または変化パターンから抽出した特徴量)から、未知の匂い物質を推定する(ステップS13)。
【0147】
出力制御部17は、出力部を制御して、推定結果を出力する(ステップS14)。
【0148】
上述の実施形態では、推定モデル22を生成する推定装置10および推定モデル22を用いて匂い物質を推定する推定装置10aについて説明した。なお、推定装置10と推定装置10aとは、別体の装置であってもよいし、1つの装置であってもよい。
【0149】
<センサ素子31cの構成例>
図9は、センサ素子群31Aに含まれる1つのセンサ素子31cの構成の一例を示す上面図である。センサ素子31cは、基板311上に配置された金属配線である電極313と、電極313上に形成された円状の匂い物質受容層315cと、を備える。電極313は、第1金属配線313Cと第2金属配線313Dとを含む。第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dはそれぞれ、匂い物質受容層315cの電気伝導性の変化を計測するための電極として機能する金属配線である。匂い物質受容層315cの直径Rは、0.2mm以上、5mm以下である。
図9において、センサ素子31cが備える匂い物質受容層315cの形状は一例として楕円状であるが、これに限定されない。匂い物質受容層315cの形状が楕円である場合は、短径と、長径との平均が0.2mm以上、5mm以下であってよい。また、匂い物質受容層315cの形状は真円であってもよい。
【0150】
図10は、センサ素子群31Aに含まれる1つのセンサ素子31dの構成の一例を示す上面図である。センサ素子31dは、基板311上に配置された電極313(第1金属配線313C、第2金属配線313D)と、電極313上に形成された帯状の匂い物質受容層315dと、を備える。匂い物質受容層315dの短方向の幅の長さWは、0.2mm以上、5mm以下である。なお、以下の説明において特に匂い物質受容層315cと315dとを区別しない場合、「匂い物質受容層315」と総称する。
【0151】
センサ素子群31Aが含むセンサ素子31の電極は、それぞれ第1電極および第2電極を有し、第1電極および第2電極は、平行線状、平行曲線状、櫛形状、または同心円状に配置されていてもよい。第1電極および第2電極は、前記のどの形状が採用される場合においても、互いに線対称、または点対称で配置されていることが好ましい。このように第1電極および第2電極が配置されることにより、匂い測定装置100は、気体に含まれる匂い物質を高精度に測定することができる。
【0152】
図9のセンサ素子31cは、第1金属配線313Cと、第2金属配線313Dを有している。また、一例として、第1金属配線313Cは、金属配線313aと、金属配線313bとから構成されている第1電極であり、2本の金属配線は、互いに垂直になるようT字状に配されている。第2金属配線313Dは、第1金属配線313Cと同様に2本の金属配線313c、313dから構成されている第2電極であり、2本の金属配線が互いに垂直になるようT字状に配されるよう構成されている。また、第1金属配線313Cと、第2金属配線313Dとは、金属配線313aと、金属配線313cとが向かい合うように平行線状に配置されている。
【0153】
第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dは、特に、互いにT字状に配されていることにより、第1金属配線313Cと、第2金属配線313Dとを好適な距離に設置することができ、電極の抵抗値を安定化させることができる。例えば、電極が櫛形状に配置されている場合は、電極間の距離が短くなり、電極の抵抗値が小さくなり過ぎる虞がある。また、第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dが互いにT字状に配されていることにより、後述のセンサ素子31の製造方法の塗布工程において、スラリーが濡れ広がる領域に、濡れ広がりを妨げ得る電極の凹凸部分が存在しないため、スラリーが濡れ広がり易くなる。また、スラリーが濡れ広がり易くなることより、乾燥後の匂い物質受容層315の厚みが一定になるという効果がある。
【0154】
図11は、センサ素子群31Aに含まれる1つのセンサ素子31cの構成の一例を示す斜視図である。
図11に示すように、センサ素子31cにおいて、第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dは、第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dが互いに対向しない方の端部において、それぞれピン316と接続されている。ピン316は第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dと、匂いセンサ30の他の部材とを電気的に接続するための導電部材である。なお、図示されていないが、
図9および
図10に示すセンサ素子31cおよびセンサ素子31dも、
図11に示すピン316を備えている。
【0155】
<センサ素子の製造方法>
以下、匂い測定装置100において用いられる、複数種類のセンサ素子31を製造する製造方法について説明する。センサ素子31の匂い物質受容層315は、その原料として様々な組成を有するスラリーを使用し得る。
【0156】
(スラリー調製工程)
まず、導電性炭素材料および樹脂組成物の混合比が異なる複数種類のスラリーが調製される。導電性炭素材料および樹脂組成物の混合比は、所望する匂い物質受容層315の感度および検知特異性によって適宜設定されればよい。スラリーは、導電性炭素材料および樹脂組成物以外に溶媒、添加剤、および界面活性剤を含んでいてもよい。
【0157】
(電極配置工程)
次に、基板上に電極が配置される。電極は、第1電極および第2電極を備えていてよい。第1電極および第2電極は、平行直線状、平行曲線状、櫛形状、および同心円状に配置されてもよい。また、第1電極および第2電極は、前記のどの形状が採用される場合においても、互いに線対称、または点対称で配置されていることが好ましい。さらに、第1電極および第2電極は平行直線状又は平行曲線状に配置されていることがより好ましい。第1電極および第2電極は、
図9および
図10に示すような形状となるよう配置されることが特に好ましい。具体的には、第1金属配線313Cが互いに垂直になるようT字状に配された2本の金属配線(313aおよび金属配線313c)によって構成され、第2金属配線313Dが互いに垂直になるようT字状に配された2本の金属配線(313cおよび金属配線313d)によって構成され、第1金属配線313Cと、第2金属配線313Dとは、金属配線313aと、金属配線313cとが向かい合うように平行線状に配置されることが好ましい。このように第1金属配線および第2金属配線が配置されることにより、匂い測定装置100は、気体に含まれる匂い物質を高精度に測定することができる。
【0158】
一例として、
図9および
図10においては、1枚の基板311上に一組の電極(第1金属配線313Cおよび第2金属配線313D)を配置されているが、1枚の基板上に、複数の組の電極が並んで配置されていてもよい。
【0159】
(領域規定工程)
続いて、電極が配置された基板上に、複数種類のスラリーのそれぞれを塗布する塗布領域が規定される。塗布領域は、例えば、レジストが配されることによって規定されてもよい。また、塗布工程において、スラリーがノズルから滴下される場合は、塗布領域は、ノズル径に合わせて規定されてもよい。レジストMは、塗布領域330を規定するように配されている。塗布領域330は、基板311がむきだしの状態である。
【0160】
塗布領域330の広さは、複数種類のスラリーのそれぞれに対して同じになるよう規定されてもよい。すなわち、導電性炭素材料および樹脂組成物の混合比がそれぞれ異なるスラリーであっても、スラリーを塗布するための塗布領域330の面積は、均一であってよい。これによれば、混合比が異なる、複数種類のスラリーを用いても、乾燥させた後の複数種類の匂い物質受容層315の面積のばらつきが少なくなる。
【0161】
塗布領域330は、一例として円状であるが、塗布領域330の形状はこれに限定されない。塗布領域330の形状は、円状、または帯状であってよい。これにより、円状、または帯状の匂い物質受容層315が形成される。
【0162】
塗布領域330の形状が円状である場合、円の直径は、0.2mm以上、5mm以下であってよく、塗布領域330の形状が帯状である場合、帯の短方向の長さが0.2mm以上、5mm以下であってよい。これにより、円の直径が0.2mm以上、5mm以下の円状の匂い物質受容層315c、また、帯の短方向の長さが0.2mm以上、5mm以下の円状の匂い物質受容層315dが形成される。
【0163】
レジストMが配される方法は特に限定されないが、規定された領域にソルダーレジストをシルク印刷し、その後ソルダーレジストをUV硬化させる方法、レジストフィルムを基板に貼付する方法、規定された領域のレジストのみを硬化し、未硬化部分を除去する方法などが挙げられる。
【0164】
(塗布工程)
続いて、複数種類のスラリーのそれぞれが塗布領域330に塗布される。スラリーが塗布される方法は、従来公知の方法を適用可能であり、ノズルから滴下されてもよく、スプレーされてもよく、スピンコートされてもよい。スラリーが塗布される方法は、特にノズルから滴下される方法が好ましく、例えば武蔵エンジニアリング株式会社製のIMAGE MASTER350PCSmartにSUS製金属ニードルノズル(内径0.1mmΦ,外形0.23mm)を使用することで、所望の塗布形状を得ることができる。
【0165】
(乾燥工程)
最後に、塗布領域330に塗布されたスラリーを乾燥させて、匂い物質受容層315が形成される。スラリーの乾燥方法としては、特に限定されないが、例えば、常圧で100℃、1時間加熱し、その後真空乾燥機内で減圧しながら100℃で1時間加熱する方法を採用することができる。
【0166】
<ソフトウェアによる実現例>
推定装置10、10aの制御ブロック(特に制御部1)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0167】
後者の場合、推定装置10、10aは、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路等を用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)等をさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0168】
〔まとめ〕
本開示の態様1に係る匂い測定装置100は、匂い物質を含む対象試料を内部に受け入れて第1気体を保持可能であり、第1気体とは異なる第2気体が通過して内部に進入する第1口501と、内部の第1気体および前記第2気体が通過可能な第2口502とを備える対象試料受入部50と、第2口502と接続されており、第1気体に含まれる匂い物質に応じた測定結果を出力可能な複数のセンサ素子31Aが配置されたセンサチャンバ60と、第1口501から内部へ第2気体を送ることによって、第1気体を対象試料受入部50内からセンサチャンバ60の方へ押し出す気体供給部80と、を備え、対象試料受入部50は、液体または固体の対象試料を受け入れるための試料導入口503を備える。
【0169】
本開示の態様2に係る匂い測定装置100は、前記態様1において、第2気体は、不活性ガスまたは空気であってもよい。
【0170】
本開示の態様3に係る匂い測定装置100は、前記態様1または2において、複数のセンサ素子31Aは、薄膜を備えてもよい。
【0171】
本開示の態様4に係る匂い測定装置100は、前記態様3において、薄膜は、導電性炭素材料および樹脂組成物を含んでもよい。
【0172】
本開示の態様5に係る匂い測定装置100は、前記態様1~4の何れかにおいて、対象試料受入部50内の容積は、センサチャンバ60内の容積の1倍以上200倍以下であってもよい。
【0173】
本開示の態様6に係る匂い測定装置100は、前記態様1~5の何れかにおいて、対象試料受入部50内の第1気体の温度および湿度の少なくとも一方を調節する調節部51をさらに備えてもよい。
【0174】
本開示の態様7に係る匂い測定装置100は、前記態様1~6の何れかにおいて、対象試料受入部50の内側面、および前記第1気体を前記対象試料受入部50からセンサチャンバ60へと導く管体93の内側面には、匂い物質に対して不活性な素材が配されてもよい。
【実施例0175】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0176】
実施例および比較例で使用する各種材料に関する説明を以下に示す。
【0177】
<樹脂(A)>
A1:ポリアミド樹脂(後述の製造例1に基づいて製造)
A2:シリコーン樹脂(DOWSIL RSN-0255 Flake Reasin、ダウ・東レ(株)製)
A3:ポリウレタン樹脂(サンプレンH-600(ポリウレタン樹脂のN,N-ジメチルホルムアミド溶液。固形分濃度20重量%)、三洋化成工業(製))
A4:フッ素樹脂(ポリビニリデンフルオライド、シグマアルドリッチ製)
<界面活性剤(B)>
B1:カーボンブラック分散剤(ディスパロンDA-325、楠本化成(株)製)
<導電性炭素材料(C)>
C1:カーボンブラック(SuperC65、MTI Corporation社製)
<溶剤(D)>
D1:N-メチル-2-ピロリドン
D2:酪酸ブチル
樹脂(A)の製造例1を示す。
【0178】
製造例1-1(ポリエステル樹脂P1の製造)
撹拌機、温度計、加熱冷却装置、窒素導入管、還流管、コック付き脱水管および減圧装置を備えた反応容器に、キシレン20部、12-ヒドロキシステアリン酸220部およびアジピン酸10部を投入し、窒素置換後、密閉下、撹拌しながら160℃まで昇温した。同温度で4時間撹拌した後、減圧装置により減圧しながら反応により生成した水を除去しながら、さらに4時間撹拌を継続した。この時、溜出物中のキシレンは、生成水と分離し、反応容器に返流した。これにより、酸価33mgKOH/g、重量平均分子量3,300のポリエステル樹脂P1のキシレン溶液(固形分濃度91%)を得た。
【0179】
製造例1-2(ポリアミド樹脂A1の製造)
製造例1-1に記載の反応容器と同じ構成の反応容器に、キシレン120部、ポリアリルアミン20%水溶液(ニットーボーメディカル(株)製、商品名「PAA-03」、重量平均分子量)300部を投入し、密閉下、撹拌しながら160℃まで昇温し、コック付き脱水管にて溜出した水を除去した。この間、溜出物中のキシレンは、水と分離し、反応容器に返流した。その後、製造例1-1で得たポリエステル樹脂P1のキシレン溶液165部を加え、160℃で3時間撹拌を継続した。3時間後、減圧装置によりキシレンを除去し、酸価が12mgKOH/g、アミン価が39mgKOH/g、重量平均分子量が12,000のポリアミド樹脂A1を得た。
【0180】
以下、樹脂組成物の実施例および比較例を示す。
【0181】
<樹脂組成物1>
下記の成分を下記の量でサンプル瓶に量り取り、混合物を得た。
【0182】
樹脂A1(ポリアミド樹脂) 80重量部
導電性炭素材料C1 20重量部
溶剤D1 400重量部
当該混合物を、自転/公転ミキサー((株)シンキー製ARE-310)を用いて2000回転/分で20分間撹拌して、スラリーを得た。こうして当該スラリーとして樹脂組成物1を得た。
【0183】
<樹脂組成物2>
樹脂A1を80重量部に代えて樹脂A2を72重量部加え、界面活性剤として界面活性剤B1を8重量部加え、溶剤D1に代えて溶剤D2を用いること以外は樹脂組成物1と同様にして、樹脂組成物2を作製した。
【0184】
<樹脂組成物3>
樹脂A1を80重量部に代えて樹脂A3を360重量部加え、界面活性剤として界面活性剤B1を8重量部加え、溶剤として溶剤D1を400重量部に代えて溶剤D2を112重量部加えたこと以外は樹脂組成物1と同様にして、樹脂組成物3を作製した。
【0185】
<樹脂組成物4>
樹脂A1を80重量部に代えて樹脂A4を72重量部加え、界面活性剤として界面活性剤B1を8重量部加えたこと以外は樹脂組成物1と同様にして、樹脂組成物4を作製した。
【0186】
以下、センサ素子の実施例および比較例を示す。
【0187】
<センサ用基板K-1の製造>
〔基板の製造〕
図12および
図13は、実施例において用いたセンサ用基板K-1の製造方法を説明するための概略図である。本実施例では、縦150mm、横100mm、厚み1.0mmのガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板FR-4.0(パナソニック電工(株)製)を用い、
図12および
図13に示すように、当該積層板上に設計したセンサ用基板を、後述の方法により、縦方向に16行、横方向に16列(合計256個分)製造した。この時、余白部分として上下部分に各11mm、左右部分に各10mmを確保した。
【0188】
〔配線パターンの設計〕
図14および
図15は、実施例として用いたセンサ用基板K-1の構成を示す概略図である。
図14は、センサ素子(実施形態中のセンサ素子31に対応)の表面(
図10において金属配線313および匂い物質受容層315が配置される面)を示し、
図15は、センサ素子の裏面(表面に対して反対側の面)を示す。
図12に示すように、基板サイズが縦8mm、横5mmの、
図9に示したT字型の電極が向かい合う形状であり、313aおよび313cの長さが2.5mm、313bおよび313dの長さが2mm、313aと313cとの間隔が1.5mm、各電極の幅が0.3mmである配線パターンを、上述の積層板上に合計256個分設計した。さらに、
図14および
図15に示すように、匂いセンサの他の部材と電気的に接続するための導電部材であるピンを挿す部分として、第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dが互いに対向しない方の端部に直径1mmの円形状の導通部を設け、裏面の同じ位置にも同様に直径1mmの円形状の導通部を設計した。
【0189】
〔スルーホール作製工程〕
各センサ用基板にピン(実施形態中のピン316に対応)を実装するため、直径1mmの円形状の導通部分にNCドリルマシンを用いてスルーホール用の穴を開け、まず無電解銅めっき、次いで硫酸銅めっきを施して厚さ25μmの銅めっき層を有するスルーホールを作製した。
【0190】
〔パターン形成工程〕
センサ用基板の両面に感光性ドライフィルムレジスト(商品名「フォテックRD-3025」、膜厚25μm、昭和電工マテリアルズ(株)製)をロールラミネータ(圧力0.4MPa、温度110℃、ラミネート速度0.4m/min)を用いて貼り付けた。その後、紫外線露光機にて感光性ドライフィルムレジスト側から表面用ネガ型フォトマスクおよび裏面用ネガ型フォトマスクを介し、紫外線(波長355nm)を85mJ/cm2照射し、未露光部分の感光性ドライフィルムレジストを35℃の5重量%の炭酸ナトリウム水溶液で除去した。その後、塩化第二鉄水溶液を用いて、感光性ドライフィルムレジストが除去されむき出しになった部分の銅箔をエッチングにより除去し、35℃の10重量%水酸化ナトリウム水溶液を用いて、露光部分の感光性ドライフィルムレジストを除去した。
【0191】
この時に使用した表面用ネガ型フォトマスクは、設計したセンサ用基板を、縦方向に8mmおきに16行、横方向に5mmおきに16列配置したパターン、裏面用ネガ型フォトマスクは、表面用ネガ型フォトマスクの円形状部分と一致する位置に直径1mmの円形状を配置したパターンを使用した。
【0192】
〔ソルダーレジスト工程〕
二液性アルカリ現像型ソルダーレジストインキ(太陽インキ製造(株)製、商品名「PSR-4000 AUS320/CA-40 AUS320」)を、表面側は、銅箔部分、スルーホール部分、および帯状の匂い物質受容層315d部分(
図14において斜線で示す部分)を除く部分、裏面側は、銅箔部分およびスルーホール部分を除く部分にパターン印刷し、80℃で30分間加熱し仮乾燥した後、紫外線(波長355nm)を600mJ/cm
2照射し、未露光部分を35℃の1重量%の炭酸ナトリウム水溶液で除去した。その後、150℃で60分間加熱しソルダーレジストインキを硬化させた。
【0193】
〔表面処理工程〕
センサ用基板を、脱脂、ソフトエッチング、および酸洗浄し、触媒付与液(奥野製薬工業(株)製、商品名「ICPアクセラCOA」)に25℃で5分間浸漬後、水洗し、90℃の無電解Niめっき液(奥野製薬工業(株)製、商品名「トップニコロンSA-98-MLF」100mlおよび「トップニコロンSA-98-1LF」55mlで建浴)に6分間浸漬して3μmの厚さのNi被膜を形成し、その後、純水にて洗浄を実施した。
【0194】
次に、センサ用基板を、置換型金めっき液(小島化学薬品(株)製、商品名「オーエル2300」)に85℃で5分間浸漬し、Ni被膜上に0.05μmの厚さの置換金被膜を形成し、銅箔部分が、ニッケル及び金のめっきに被覆された基板を得た。
【0195】
〔基板のVカット〕
Vカットマシンを用いて、1個のセンサ用基板ごとに切り離すことができるように縦8mm、横5mmのサイズごとにVカットを行った。
【0196】
〔ピンの実装〕
作製したスルーホールにIC用端子((株)マックエイト製、商品名「ハイブリットIC用端子」、φ0.6mm、長さ5mm)をはんだ付けした。これらにより
図14および
図15に示すセンサ用基板K-1を合計256個作製した。
【0197】
<センサ用基板K-2の製造>
間隔幅500μmの複数の金属配線を備えたシール基板(ICB-073、サンハヤト(株)製)から、2本1組の金属配線を含むシール基板を切り出した。切り出したシール基板を、さらに金属配線の長さが3.5cmとなるように切断した。
【0198】
切断されたシール基板をガラス板の上に、金属配線が上になるように両面テープで貼り付けた。また、金属配線の露出部分の長さが3.0cmとなるように、金属配線の余分な部分にビニールテープを貼り付けてマスクした。
【0199】
これによりセンサ用基板K-2を作製した。
【0200】
<センサ素子>
武蔵エンジニアリング株式会社製のIMAGE MASTER350PCSmartにSUS製金属ニードルノズル(内径0.1mmΦ,外形0.23mm)を取り付けたものを用いて、作製したセンサ用基板K-1上に樹脂組成物1~4それぞれを滴下することで、金属配線部に塗布した。塗布後、100℃に加熱した循風乾燥機で3時間乾燥させた。乾燥後、室温まで冷却することで、センサ素子(E1-1)~(E1―4)を作製した。なお、同様の操作を10回繰り返し行い、各センサ素子につき10個ずつ作製した。
【0201】
作製したセンサ用基板K-2に、バーコーター(No.4)を用いて、樹脂組成物1~4それぞれを金属配線の露出部に塗布した。塗布後、100℃に加熱した循風乾燥機で3時間乾燥させた。乾燥後、室温まで冷却してから、匂い物質受容層315を備えた金属配線をガラス板から剥離して、センサ素子(E2-1)~(E2-4)を作製した。なお、同様の操作を10回繰り返し行い、各センサ素子につき10個ずつ作製した。
【0202】
センサ素子(E1-1)~(E1-4)、(E2-1)~(E2-4)について、それぞれの基板の種類および樹脂組成物の組成を表1に示す。
【0203】
【0204】
<匂いセンサ1~12の構築>
検体(匂い物質)を導入する導入口および温度調整用のアルミブロック恒温槽を備えた対象試料受入部と、気体供給用の窒素ガスボンベ、マスフローコントローラ、センサチャンバとを備えた筐体を作製した。この時、対象試料受入部の容積は、センサチャンバの容積の5倍となるように設計した。
【0205】
センサの端子を外部へ取り出すためのリード線をセンサ素子(E1-1)~(E1~4)それぞれにはんだ付けし、4個のセンサ素子(E1-1)~(E1-4)をセンサチャンバ内に設置した。センサ素子(E1-1)~(E1-4)それぞれに対し、センサチャンバ外部に取り出したリード線の末端に5Vの定電圧電源と300Ωの固定抵抗を直列に接続し、センサ素子の両端子にかかる電圧を測定するための電圧計を接続した。こうして4個のセンサ素子(E1-1)~(E1-4)を有する匂いセンサ1を構成した。
【0206】
センサチャンバの5倍の容積の対象試料受入部に代えて、0.5倍~220倍の対象試料受入部を用いる以外は匂いセンサ1と同様にして、匂いセンサ2~8をそれぞれ構築した。具体的な容積の比率は表2に記載する。
【0207】
【0208】
温度調整用のアルミブロック恒温槽を備えないこと以外は匂いセンサ1と同様にして、匂いセンサ9を構築した。
【0209】
膜型表面応力センサ(Membrane-type Surface stress Sensor:MSS)方式を用い、SD-MSSセンサプローブ(NIMS製)を使用し、センサ素子からの起電力をアンプで増幅して出力電圧を取得したこと以外は匂いセンサ1と同様にして、匂いセンサ10を構築した。
【0210】
温度調整用のアルミブロック恒温槽を備えないこと、および膜型表面応力センサ(Membrane-type Surface stress Sensor:MSS)方式を用い、SD-MSSセンサプローブ(NIMS製)を使用し、センサ素子からの起電力をアンプで増幅して出力電圧を取得したこと以外は匂いセンサ1と同様にして、匂いセンサ11を構築した。
【0211】
センサ素子(E1-1)~(E1-4)に代えて、(E1-1)を2個、(E1-2)を1個用いる以外は匂いセンサ1と同様にして、匂いセンサ12を構築した。
【0212】
<比較用匂いセンサc1、c2の構築>
検体(匂い物質)を導入する導入口および検体が均一に広がるように気流生成ファンを備えた筐体を作製した。センサの端子を外部へ取り出すためのリード線をセンサ素子(E1-1)~(E1~4)それぞれにはんだ付けし、4個のセンサ素子(E1-1)~(E1-4)を筐体内に設置した。センサ素子(E1-1)~(E1-4)それぞれに、筐体外部に取り出したリード線の末端に5Vの定電圧電源と300Ωの固定抵抗を直列に接続し、センサ素子の両端子にかかる電圧を測定するための電圧計を接続した。こうして4個のセンサ素子(E1-1)~(E1-4)を有する匂いセンサc1を構成した。
【0213】
膜型表面応力センサ(Membrane-type Surface stress Sensor:MSS)方式を用い、SD-MSSセンサプローブ(NIMS製)を使用し、センサ素子からの起電力をアンプで増幅して出力電圧を取得したこと以外は匂いセンサc1と同様にして、匂いセンサc2を構成した。
【0214】
<実施例1-1~1-8>
[ΔV変動係数の測定]
実験室内(温度23℃、湿度40%)に設置した匂いセンサ1~8のそれぞれについて、アルミブロック恒温槽を用いて、対象試料受入部内部を30℃に温調した上で、匂いセンサの導入口に検体としてメロン果汁を5mL入れた。その後、気体供給用の窒素ガスボンベから窒素を対象試料受入部へ、マスフローコントローラによって1L/minの流量で5秒間流し、センサチャンバを経由し外部に排出した。その後、対象試料受入部を経由せずに、直接窒素ガスボンベからセンサチャンバへ、マスフローコントローラによって5L/minの流量で60秒間流し、そのまま外部に排出した。この操作により、センサ素子に付着した匂い物質を除去した。この間、センサ素子に接続されている電圧計の測定値をコンピュータで記録した。こうして、匂いセンサにおける4個のセンサ素子のそれぞれの電圧値を測定した。各匂いセンサの各センサ素子について、検体導入前の出力電圧V0および検体導入中の電圧Vの差の最大値ΔVを算出した。この匂い測定操作を30回繰り返し行った。そして、各センサ素子について得られた最大値ΔVのデータの標準偏差σおよび平均値μを算出し、各センサ素子のΔV変動係数(=σ/μ)を求めた。
【0215】
<比較例1>
実験室内(温度23℃、湿度40%)に設置した匂いセンサc1について、気流生成ファンを動作させた状態で、匂いセンサの導入口に検体としてメロン果汁を5mL入れた。5秒経過後、メロン果汁を取り出した。メロン果汁を入れる前から、取り出して60秒間経過するまでの間、センサ素子に接続されている電圧計の測定値をコンピュータで記録した。匂いセンサ1~8と同様に匂い測定操作を30回繰り返して、各センサ素子のΔV変動係数(=σ/μ)を求めた。
【0216】
実施例1-1~1-8、および比較例1について、各センサ素子のΔV変動係数を表3に示す。
【0217】
【0218】
ΔV変動係数が0.3以下、好ましくは0.2以下、より好ましくは0.15以下、さらに好ましくは0.1以下、最も好ましくは0.05以下であれば、一体の匂いセンサにおける複数のセンサ素子間での性能のばらつきが十分に小さく、実用上問題ないと判定できる。ΔV変動係数は、当該ばらつき低減の観点では、小さいほど好ましい。
【0219】
<考察>
表3に示されるように、匂いセンサ1~8は、いずれも、実用上問題ないか、あるいは実用上好ましいΔV変動係数を示している。
【0220】
実施例1-1~1-8と、比較例1との対比によれば、対象試料受入部が備えられている匂いセンサ1~8に比べ、対象試料受入部がない匂いセンサc1の方がΔV変動係数は大きくなることが分かった。このように、匂いセンサ1~8の方が匂いセンサc1よりも実用上好ましい構成であることが分かった。
【0221】
実施例1-1~1-8間での対比によれば、センサチャンバの容積に対する対象試料受入部の容積が異なる場合でも実用上問題ないΔV変動係数が得られている。特にセンサチャンバの容積に対する対象試料受入部の容積が5倍である匂いセンサ1のΔV変動係数が最も小さい値であった。
【0222】
<実施例2-1~2-5>
[ΔV変動係数の測定]
屋外(温度28℃、湿度75%)に設置した匂いセンサ1、10、12のそれぞれについて、アルミブロック恒温槽を用いて、対象試料受入部内部を30℃に温調した上で、匂いセンサの導入口に検体として日本酒(商品名「つき」、月桂冠(株))を5mL入れた。実施例1-1と同様に匂い測定操作を30回繰り返して、各センサ素子のΔV変動係数(=σ/μ)を求めた。
【0223】
屋外(温度28℃、湿度75%)に設置した匂いセンサ9、11のそれぞれについて、匂いセンサの導入口に検体として日本酒(商品名「つき」、月桂冠(株))を5mL入れた。実施例1-1と同様に匂い測定操作を30回繰り返して、各センサ素子のΔV変動係数(=σ/μ)を求めた。
【0224】
<比較例2>
屋外(温度28℃、湿度75%)に設置した匂いセンサc2について、匂いセンサの導入口に検体として日本酒(商品名「つき」、月桂冠(株))を5mL入れた。実施例1-1と同様に匂い測定操作を30回繰り返して、各センサ素子のΔV変動係数(=σ/μ)を求めた。
【0225】
実施例2-1~2-5、および比較例2について、各センサ素子のΔV変動係数を表4に示す。
【0226】
【0227】
<考察>
表4に示されるように、匂いセンサ1、9~12は、いずれも、実用上問題ないか、あるいは実用上好ましいΔV変動係数を示している。
【0228】
実施例2-1~2-5と、比較例2との対比によれば、対象試料受入部が備えられている匂いセンサ1、9~12に比べ、対象試料受入部がない匂いセンサc2の方がΔV変動係数は大きくなることが分かった。このように、匂いセンサ1、9~12の方が、匂いセンサc2よりも実用上好ましい構成であることが分かった。
【0229】
実施例2-1~2-4間での対比によれば、対象試料受入部の温調の有無によらず実用上問題ないΔV変動係数が得られている。
【0230】
実施例2-1~2-4間での対比によれば、センサ方式が異なる場合でも実用上問題ないΔV変動係数が得られている。
【0231】
実施例2-1と2-5間での対比によれば、センサ素子数が異なる場合でも実用上問題ないΔV変動係数が得られている。
【0232】
よって、匂い物質を含む対象試料を内部に受け入れて第1気体を保持可能であり、前記第1気体とは異なる第2気体が通過して前記内部に進入する第1口と、前記内部の前記第1気体および前記第2気体が通過可能な第2口とを備える対象試料受入部と、前記第2口と接続されており、前記第1気体に含まれる匂い物質に応じた測定結果を出力可能な複数のセンサ素子が配置されたセンサチャンバと、前記第1口から前記内部へ前記第2気体を送ることによって、前記第1気体を前記対象試料受入部内から前記センサチャンバの方へ押し出す気体供給部と、を備え、前記対象試料受入部は、液体または固体の対象試料を受け入れるための試料導入口を備える匂い測定装置は、繰り返し安定した測定を行うことができることが分かった。
本発明は、医療用、ガス検知用、農業用およびその他工業や生活に用いられる匂い識別センサとして有用である。例えば、農家が香りのある作物の成熟具合を前記匂い識別センサを用いて判定して、最適な収穫タイミングを管理することもできる。また、食品または化粧品などの製品の匂いを匂い識別センサでデータ化して、製品開発の効率向上および品質安定化を支援することもできる。