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特開2023-171215センサ素子の製造方法、センサ素子、および匂い測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171215
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】センサ素子の製造方法、センサ素子、および匂い測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20231124BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
G01N27/12 M
G01N27/04 F
G01N27/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004099
(22)【出願日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2022083321
(32)【優先日】2022-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智大
(72)【発明者】
【氏名】金澤 岳
(72)【発明者】
【氏名】有元 絵理佳
【テーマコード(参考)】
2G046
2G060
【Fターム(参考)】
2G046AA18
2G046AA24
2G046AA25
2G046BA01
2G046BA07
2G046BA08
2G046BA09
2G046BB02
2G046BC05
2G046BG02
2G046BG04
2G046BG07
2G046BH02
2G046BH03
2G046BH04
2G046DC18
2G046FA01
2G046FC07
2G046FE11
2G060AA01
2G060AB21
2G060AB22
2G060AB26
2G060AE19
2G060AG03
2G060AG10
2G060BB08
2G060BC00
2G060BD08
2G060HC10
2G060JA01
2G060KA01
(57)【要約】
【課題】気体に含まれる匂い物質を高精度に測定する複数のセンサ素子を安定的に製造する。
【解決手段】複数のセンサ素子の製造方法は、導電性炭素材料、樹脂組成物、および界面活性剤の混合比が異なる複数種類のスラリーを調製するスラリー調製工程と、基板上に電極を配置する電極配置工程と、複数種類のスラリーのそれぞれを塗布する塗布領域(330)を規定する領域規定工程と、複数種類のスラリーのそれぞれを塗布領域(330)に塗布する塗布工程と、スラリーを乾燥させて匂い物質受容層を形成する乾燥工程と、を含み、前記塗布領域の面積は、0.0003平方センチメートル以上、0.2平方センチメートル以下である。
【選択図】図21
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性炭素材料および樹脂組成物を含み、前記導電性炭素材料および前記樹脂組成物の混合比が異なる複数種類のスラリーを調製するスラリー調製工程と、
基板上に電極を配置する電極配置工程と、
前記電極が配置された基板上に、前記複数種類のスラリーのそれぞれを塗布する塗布領域を規定する領域規定工程と、
前記複数種類のスラリーのそれぞれを前記塗布領域に塗布する塗布工程と、
前記塗布領域に塗布された前記スラリーを乾燥させて匂い物質受容層を形成する乾燥工程と、を含み、
前記塗布領域の面積は、0.0003平方センチメートル以上、0.2平方センチメートル以下である、
センサ素子の製造方法。
【請求項2】
対向する前記電極間において、前記匂い物質受容層の表面粗さ(Sa)は0.5μm以上5μm以下である、請求項1に記載のセンサ素子の製造方法。
【請求項3】
前記塗布領域の形状は、円状、または帯状であり、
前記塗布領域の形状が円状である場合、円の直径が0.2mm以上、5mm以下であり、
前記塗布領域の形状が帯状である場合、帯の短方向の長さが0.2mm以上、5mm以下である、請求項1に記載のセンサ素子の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥工程において、乾燥後に形成される前記匂い物質受容層の厚さは0.1μm以上100μm以下である、請求項1に記載のセンサ素子の製造方法。
【請求項5】
前記電極配置工程において、第1電極および第2電極を、平行直線状、対向円状、平行曲線状、櫛形状、または同心円状に配置する、請求項1に記載のセンサ素子の製造方法。
【請求項6】
基板上に配置された電極と、
前記電極上に形成された匂い物質受容層と、を備え、
前記匂い物質受容層は、
導電性炭素材料および樹脂組成物を含み、
前記電極が配置された基板上に、前記導電性炭素材料および前記樹脂組成物の混合比が異なる複数種類のスラリーのそれぞれが、前記複数種類のスラリーのそれぞれを塗布する塗布領域に塗布され、塗布された前記複数種類のスラリーが乾燥することで形成され、
前記塗布領域の面積は、0.0003平方センチメートル以上、0.2平方センチメートル以下である、センサ素子。
【請求項7】
前記匂い物質受容層の厚さは、0.1μm以上100μm以下である、請求項6に記載のセンサ素子。
【請求項8】
請求項6または7に記載のセンサ素子を複数備え、
前記複数のセンサ素子の各々は、導電性炭素材料および樹脂組成物の含有比率が異なる前記匂い物質受容層を備える、匂い測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセンサ素子の製造方法、センサ素子、および匂い測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理技術の発達により、人間の五感のうち機械的な測定が十分に達成できていない嗅覚を何らかの方法で数値化することができれば、幅広い産業分野で利用可能であることが期待される。例えば、医療分野では介護・介助、未病予防診断や疾病検査など、環境分野では工場などでの臭気管理、バイオガス利用の分野での発酵工程管理や排水処理の管理など、安全分野では土砂崩れや水害などの予兆検知、エンジンオイルや機械動作油の劣化検知などが可能になる。また、食品分野では植物や肉などの食材の熟成状態検知、例えば酒類などの発酵食品の工程管理、植物の栽培管理や食品の生産・保管・流通過程での品質管理など、マーケティング分野では香粧品、体臭、香り環境、商材の香りのプロデュースなどに利用可能である。これまでに、特定の気体物質(ガス)を検出する方法は半導体ガスセンサなどによって高精度・高感度の測定が実現されている。様々な匂いに対して異なる応答特性を有するセンサが報告されており、センサが含む受容体の組成についても検討がされている。
【0003】
特許文献1に記載の発明は、半導体ガスセンサの半導体を導電性高分子に置き換えて導電性高分子表面への匂い成分の吸着を検出する仕組みを提案している。特許文献1では、熱分解しやすい匂い成分およびセンサの検出部表面で酸化還元反応を生じない物質の検出が可能になることを報告している。
【0004】
また、特許文献2においては、有機ポリマーと導電性物質の混合物の電気抵抗が有機ガスに曝露されることで変化する性質に着目している。特許文献2では、上記混合物のうち有機ポリマーの組成が異なる有機ポリマー/導電性物質の組み合わせを複数調製し、これらを電気抵抗アレイとしてセンサに用いると、同一の有機ガスに曝露された際の電気抵抗変化がそれぞれ異なることが記載されている。これを利用して、電気抵抗変化のパターンと匂い(=有機ガスの混合物)の種類を帰属することによって匂いを識別できることが特許文献2では報告されている。
【0005】
さらに、特許文献3において、上記の有機ポリマーに対して可塑剤を添加することでセンサの応答速度が向上することが報告されている。
【0006】
特許文献4において、ガス検知装置の一例として、車両に使用されるアルコール検知装置が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-23508号公報
【特許文献2】特表平11-503231号公報
【特許文献3】特表2002-519633号公報
【特許文献4】特開2012-18021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
匂い測定の精度向上および安定性向上の観点より、気体に含まれる匂い物質を測定するセンサ素子の製造方法、センサ素子、および匂い測定装置には改善の余地がある。
【0009】
具体的には、これまでの公知の作成方法で作られたセンサ素子では、異なるロットのセンサ素子を使用して同じ臭い物質を測定した場合、センサ素子のロット毎に信号への固有のバラつきが乗ってしまっていた。そのため、センサ素子を入れ替えて測定を行ったときに、得られる信号パターンの変化が、匂いの物質構成が変わったことに由来するのか、センサ素子のロットが異なる事によるバラつきに由来するのか判別がつかず、匂いを精度よく測定することが困難であった。
【0010】
本発明の一態様は、気体に含まれる匂い物質を高精度に測定するセンサ素子およびその製造方法、およびそのセンサ素子を備える匂い測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る複数のセンサ素子の製造方法は、導電性炭素材料、樹脂組成物、および界面活性剤を含み、前記導電性炭素材料、前記樹脂組成物、および前記界面活性剤の混合比が異なる複数種類のスラリーを調製するスラリー調製工程と、基板上に電極を配置する電極配置工程と、前記電極が配置された基板上に、前記複数種類のスラリーのそれぞれを塗布する塗布領域を規定する領域規定工程と、前記複数種類のスラリーのそれぞれを前記塗布領域に塗布する塗布工程と、前記塗布領域に塗布された前記スラリーを乾燥させて匂い物質受容層を形成する乾燥工程と、を含み、前記塗布領域の面積は、0.0003平方センチメートル以上、0.2平方センチメートル以下である。
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るセンサ素子は、基板上に配置された電極と、前記電極上に形成された匂い物質受容層と、を備え、前記匂い物質受容層は、導電性炭素材料および樹脂組成物を含み、前記電極が配置された基板上に、前記導電性炭素材料および前記樹脂組成物の混合比が異なる複数種類のスラリーのそれぞれが、前記複数種類のスラリーのそれぞれを塗布する塗布領域に塗布され、塗布された前記複数種類のスラリーが乾燥することで形成され、記塗布領域の面積は、0.0003平方センチメートル以上、0.2平方センチメートル以下である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、気体に含まれる匂い物質を高精度に測定するセンサ素子およびその製造方法、およびそのセンサ素子を備える匂い測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る匂い測定装置の構成の一例を示す概略図である。
図2】センサ素子の構成の一例を示す上面図である。
図3図2に示すセンサ素子の構成の一例を示す断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る匂い測定装置の構成の一例を示す概略図である。
図5】センサチャンバの構成例を示す上面図である。
図6】センサチャンバの構成例を示す断面図である。
図7】センサチャンバの構成例を示す断面図である。
図8】匂い測定装置の構成の一例を示す機能ブロック図である。
図9】推定装置が推定モデルを生成する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図10】匂い測定装置の構成の一例を示す機能ブロック図である。
図11】推定装置が匂い物質を推定する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図12】本発明のセンサ素子の構成の一例を示す上面図である。
図13】本発明のセンサ素子の構成の一例を示す上面図である。
図14】本発明のセンサ素子の構成の一例を示す斜視図である。
図15】本発明のセンサ素子の構成の一例を示す上面図である。
図16】本発明のセンサ素子の構成の一例を示す上面図である。
図17】本発明のセンサ素子の構成の一例を示す上面図である。
図18】本発明のセンサ素子の構成の一例を示す上面図である。
図19】本発明のセンサ素子の構成の一例を示す上面図である。
図20】本発明のセンサ素子の構成の一例を示す上面図である。
図21】センサ素子を製造する方法の流れの一例を示すフローチャートである。
図22】スラリー塗布前の基板の一例を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施形態]
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意図する。
【0016】
〔1.樹脂組成物〕
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、匂い物質受容層を形成するための樹脂組成物であって、樹脂(A)および導電性炭素材料(C)を含む。
【0017】
本明細書中、「匂い物質」とは、広義において匂い物質受容層に吸着可能な物質を意味する。従って、一般的に匂いの原因物質とされていない物質も含まれる。「匂い」には原因となる匂い物質が複数含まれることが多く、また、匂い物質として認知されていない物質または未知の匂い物質も存在する。本発明の一実施形態は、匂い物質受容層への匂い物質の吸着量が匂い物質の種類によって異なることに着目するものである。
【0018】
なお、本明細書中、単に「匂い物質」と記載した場合であっても、個々の匂い物質ではなく、複数の匂い物質が含まれ得る「匂い物質の集合体」を意味する場合がある。
【0019】
「匂い物質」としては特に限定されないが、例えばヘキサン、酢酸エチル、メタノール、炭酸ジエチル、トルエン、d-リモネン、ボルナン-2-オン、シス-3-ヘキセノール、β-フェニルエチルアルコール、シトラール、L-カルボン、γ-ウンデカラクトン、オイゲノール、リナリルアセテート、メントール、ベンズアルデヒド、バニリン、ヘキサナール、エタノール、吉草酸ペンチル、リナロール、2-プロパノール等が挙げられる。
【0020】
また、本明細書中、「匂い物質受容層」とは、識別対象となる匂い物質を吸着する層を意味する。匂い物質受容層は上述の樹脂組成物から形成される。匂い物質受容層は、後述のセンサ素子の一部として設けられ得る。
【0021】
引用文献1に記載のセンサでは、単体の化合物からなる匂いの検出は可能であると考えられる。一方で多くの匂いは複数の物質の混合物である。引用文献1に記載のセンサでは検出部に匂いの成分を識別させる機能がないため、混合物に対する匂い識別性能が十分でない。引用文献2では検出部に用いる導電性を示す高分子の化学構造の違いを利用して、それぞれの導電性高分子を介して検出部が示す種々の化合物に対する応答に違いを持たせることで混合物としての匂いを認識させることができることが示されている。しかしながら、導電性を示す高分子の化学構造は限られており、任意の匂い成分に対する検出部の応答を感度良く分離することが難しく、類似の成分からなる匂い同士を識別させることは難しい。引用文献3では有機ポリマーと可塑剤と導電性物質からなる混合物を検出材料として検出部に用いて匂い成分が有機ポリマー中に浸透することを上記混合物の電気抵抗変化として検出する方法を提案している。異なる組成の有機ポリマーを用いれば浸透する匂い成分が異なることを利用して異なる組成の有機ポリマーを含む上記の検出材料からなる検出部を複数並列して用いるアレイにすることで、混合物としての匂いを認識させることができる。しかしながら、上記の有機ポリマーおよび可塑剤を含有する有機ポリマーでは、有機ポリマー/導電性物質の組み合わせを複数用意したとしても、有機ポリマー同士の化学的な性質の差が小さいため、匂いの識別性能は十分でない。これらの従来技術では例えば、複数の物質が相互作用する現実の匂いパターンまたは組成が不明である物質による現実の匂いパターンを的確に検知できない。
【0022】
本発明者らは、上述した樹脂組成物に吸着した匂い物質の量に応じて樹脂組成物の電気伝導性が異なること、および、上述の樹脂組成物への吸着過程は匂い物質毎に異なっていることに着目し、本発明の一実施形態に係る樹脂組成物およびセンサ素子等を発明するに至った。そして、このような樹脂組成物を用いることにより、匂いの識別性能を向上させることができる。例えば、複数の物質が相互作用する現実の匂いパターンまたは組成が不明である物質による現実の匂いパターンをも識別することができる。
【0023】
<樹脂(A)>
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物に含まれる樹脂(A)は、特に限定されないが、ウレタン樹脂、ポリアルキレンオキサイド、アクリル樹脂、フッ素基含有樹脂、ビニル重合樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂およびポリエステル樹脂等であってもよい。
【0024】
<界面活性剤(B)>
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、以下で説明するような界面活性剤(B)を含んでいてもよい。界面活性剤(B)は、後述する導電性炭素材料(C)の分散剤としての作用を呈する。界面活性剤(B)は、上記の作用を発現する範囲において、公知の界面活性剤から適宜に選ぶことが可能である。
【0025】
界面活性剤(B)としては、例えばアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0026】
アニオン性界面活性剤としては、炭素数10~24のカルボン酸のアルカリ金属塩および炭素数14~24のアルキルスルホン酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0027】
前記炭素数10~24のカルボン酸としては、例えば、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ペンタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、トリコサン酸およびテトラコサン酸等が挙げられる。
【0028】
前記炭素数14~24のアルキルスルホン酸が有するアルキル基としては、例えば、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基およびテトラコシル基等が挙げられる。
【0029】
前記アルカリ金属塩が含むアルカリ金属としては、例えば、ナトリウムおよびカリウム等が挙げられる。
【0030】
カチオン性界面活性剤としては、炭素数12~24のアルキル基を有する第4級アンモニウムのハロゲン化物塩等が挙げられる。
【0031】
前記炭素数12~24のアルキル基を有する第4級アンモニウムとしては、例えばテトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、ジメチルジオクチルアンモニウム、ジデシルジメチルアンモニウム、デシルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウム、トリデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、メチルトリオクチルアンモニウム、オクチルトリメチルアンモニウム、トリブチルメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、テトラデシルトリメチルアンモニウム、ノナデシルトリメチルアンモニウム、イコシルトリメチルアンモニウム、ヘンイコシルトリメチルアンモニウム、ヘプタデシルトリメチルアンモニウムおよびペンタデシルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0032】
前記ハロゲン化物塩としては、例えばフッ化物塩、塩化物塩、臭化物塩およびヨウ化物塩等が挙げられる。
【0033】
両性界面活性剤としては、例えば、炭素数10~22のアルキル基を有するジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウム分子内塩、炭素数10~22のアルキル基を有するN-アルキル-N,N-ジメチルグリシン等が挙げられる。
【0034】
炭素数10~22のアルキル基を有するジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩としては、例えばデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ウンデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ドデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、トリデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、テトラデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ペンタデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ヘキサデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ヘプタデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、オクタデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ノナデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、イコシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ヘンイコシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩およびドコシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩等が挙げられる。
【0035】
炭素数10~22のアルキル基を有するN-アルキル-N,N-ジメチルグリシンとしては、N-ドデシル-N,N-ジメチルグリシンおよびN-オクタデシル-N,N-ジメチルグリシン等が挙げられる。
【0036】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、高級アルコールエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0037】
高級アルコールとしては、1-ヘキシルアルコール、1-ヘプチルアルコール、1-オクチルアルコール、1-ノニルアルコール、1-デシルアルコール、1-ウンデシルアルコール、1-ドデシルアルコール、1-トリデシルアルコール、1-テトラデシルアルコール、1-ペンタデシルアルコール、1-ヘキサデシルアルコール、1-ヘプタデシルアルコール、1-オクタデシルアルコール等が挙げられる。
【0038】
エチレンオキサイド付加モル数は、匂い識別性能の観点から5~50が好ましく、より好ましくは5~40が好ましく、さらに好ましくは5~30である。
【0039】
前記樹脂(A)と前記界面活性剤(B)との重量比[(A)/(B)]は、匂い識別性能の観点により、好ましくは1.0~50.0である。
【0040】
前記樹脂(A)と前記界面活性剤(B)とは相溶していても相溶していなくても良い。
【0041】
界面活性剤(B)は、導電性炭素材料(C)に対する分散性の観点から、ノニオン性界面活性剤であることが好ましい。また、界面活性剤(B)は、導電性炭素材料(C)に対する分散性の観点から、アミド基、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基のうち少なくとも1つを有することが好ましい。また、界面活性剤(B)は、導電性炭素材料(C)に対する分散性の観点から、オキシエチレン鎖、オキシプロピレン鎖、および、オキシエチレン・オキシプロピレンのランダム構造もしくはブロック構造、の少なくとも1つを有することが好ましい。なお、オキシエチレン・オキシプロピレンのランダム構造は、オキシエチレンとオキシプロピレンとの両方が不規則に連結してなる鎖状構造である。また、オキシエチレン・オキシプロピレンのブロック構造は、オキシエチレンが連結してなるオキシエチレンブロックと、オキシプロピレンが連結してなるオキシプロピレンブロックとが連結してなる鎖状構造である。
【0042】
<導電性炭素材料(C)>
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、導電性炭素材料(C)を含んでいる。本明細書において、導電性炭素材料(C)とは、体積固有抵抗が0.1Ω・cm以下の炭素材料のことである。上述の樹脂組成物は、樹脂(A)中に導電性炭素材料(C)が分散している状態である。導電性炭素材料(C)同士が互いに接触して導電経路を形成することで樹脂組成物が導電性を有する。
【0043】
導電性炭素材料(C)としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブおよびグラフェン等が挙げられる。
【0044】
カーボンブラックの市販品としては、ケッチェンブラックEC(オランダ・アクゾ社製商品名)、ケッチェンブラックEC-300J(ライオンスペシャリティケミカルズ(株)製商品名)、ケッチェンブラックEC-600JD(ライオンスペシャリティケミカルズ(株)製商品名)、シーストG116、116(東海カーボン社製商品名)、ニテロン#10(新日鉄化学(株)社製商品名)、デンカブラック(電気化学工業(株)社製商品名)およびSUPER C-65(米国・MTI Corporation社製品名)等がある。
【0045】
カーボンナノチューブの市販品としては、VGCF-H(昭和電工(株)社製諸品名)等がある。
【0046】
グラフェンの市販品としては、シグマアルドリッチ社製がある。
【0047】
前記導電性炭素材料(C)の形状は、好ましくは繊維状または球状である。
【0048】
繊維状である場合、繊維径は好ましくは0.1~10μmであり、更に好ましくは0.1~5μmである。繊維長は好ましくは0.1~10μmであり、更に好ましくは1~10μmである。
【0049】
球状である場合、1次粒子径が好ましくは10nm~200nmであり、更に好ましくは20nm~150nmである。
【0050】
また、導電性炭素材料は、樹脂組成物中での導電性及びセンサ感度の観点から、一次粒子径が100nm以下であることが好ましい。導電性炭素材料の粒子径は、公知の方法で求めることが可能である。例えば導電性炭素材料の粒子径は透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、画像処理装置(例えばキーエンス製のデジタルマイクロスコープVHX-700F)を用いて画像解析することにより測定することができる。導電性炭素材料が公知の物または市販品である場合には、粒子径は、文献値またはカタログ値であってもよい。
【0051】
導電性炭素材料(C)の含有量は、樹脂組成物から形成されるセンサ素子が匂いセンサとして十分な導電性を発現する観点、および当該匂いセンサとして十分な感度を発現する観点から、樹脂(A)、界面活性剤(B)および導電性炭素材料(C)の合計100重量%に対し、好ましくは5~30重量%である。
【0052】
樹脂組成物は、本発明の効果が得られる範囲において、前述した樹脂(A)、界面活性剤(B)および導電性炭素材料(C)以外の他の成分をさらに含有していてもよい。他の成分の例には、溶剤(D)が含まれる。当該他の成分は、本発明の効果および当該他の成分による効果の両方が得られる範囲で好適に使用され得る。
【0053】
溶剤(D)は、樹脂(A)と界面活性剤(B)との相溶性を高める観点、樹脂組成物中における導電性炭素材料(C)の分散性を高める観点、または樹脂組成物の塗布性を高める観点から樹脂組成物に配合することが可能である。溶剤(D)の例には、N-メチル-2-ピロリドン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酪酸エチル、酪酸ブチル、酢酸エチル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、トルエンおよびキシレンが含まれる。
【0054】
樹脂組成物における溶剤(D)の含有量は、上記の観点の観点から適宜に決定し得る。たとえば、樹脂組成物における溶剤(D)の含有量は、塗工性の観点から、樹脂(A)、界面活性剤(B)および導電性炭素材料(C)の合計100重量部に対して、100~10000重量部であることが好ましい。
【0055】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物の製造方法の具体的な一例を示せば、下記の通りである。
【0056】
前記樹脂組成物は、樹脂(A)、界面活性剤(B)、導電性炭素材料(C)および必要に応じて溶媒(D)を混合して、撹拌機で均一に混練することでスラリーとして得られる。溶剤(D)を添加する場合では、溶剤(D)は樹脂組成物から留去される。溶剤(D)は、均一に混合して生成した樹脂組成物から留去してもよいし、後述のセンサ素子の製造時に生成した塗膜から留去してもよい。
【0057】
〔2.センサ素子31〕
上述した樹脂組成物は、樹脂組成物に匂い物質Aが吸着した場合と、匂い物質Aとは異なる匂い物質Bが吸着した場合とで、電気伝導性の経時的な変化が異なる。この性質を利用すれば、匂い物質を検出・識別可能なセンサ素子31を実現することができる。
【0058】
以下では、本発明の一実施形態に係る樹脂組成物を適用したセンサ素子31の概要および効果について説明する。
【0059】
センサ素子31は、上述の樹脂組成物を含む匂い物質受容層315、第1金属配線313A、および第2金属配線313Bを備えている。なお、以下では、第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bを区別しない場合、金属配線313と記す場合がある。
【0060】
ここで、第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bについて、図2および図3を用いて説明する。図2は、センサ素子31の構成の一例を示す上面図であり、図3は、図2に示すセンサ素子31の構成の一例を示す断面図である。
【0061】
第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bはそれぞれ、匂い物質受容層315(すなわち、樹脂組成物)の電気伝導性の変化を計測するための電極として機能する金属配線である。すなわち、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとは互いに離間しており、匂い物質受容層315は、第1金属配線の少なくとも一部と第2金属配線の少なくとも一部とに接している。一例において、第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bは、互いに直接接していない金属配線であり、図2に示すように、互いに略平行な金属配線であってもよい。
【0062】
図2に示すように第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bを含む金属配線313は、基板311上に配置されていてもよい。基板311は、電子回路に一般的に用いられるガラスエポキシ等の基板であり得る。金属配線313は、銅、または金等の金属配線であり得る。基板の面に対して垂直な方向から見た第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bそれぞれの太さは10μm~2mmが好ましく、更に好ましくは10μm~1mmである。基板の面に対して平行な方向から見た第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bそれぞれの高さ、すなわち厚さは1μm~100μmが好ましく、更に好ましくは10μm~50μmである。第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bの間隔は1μm~3mmが好ましく、更に好ましくは1μm~1.5mmである。金属配線313の長さは100μm~50mmが好ましく、更に好ましくは500μm~30mmである。
【0063】
図3は、図2のA-A断面を示している。匂い物質受容層315は、第1金属配線313Aの少なくとも一部と第2金属配線313Bの少なくとも一部とに接していてもよい。匂い物質受容層315は、例えば、図2および図3に示すように、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとに挟まれた領域を埋めるように配されていてもよい。
【0064】
匂い物質受容層315の電気伝導性(すなわち、センサ素子31の電気伝導性)が低い場合、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとの間隔は所定の距離(例えば、500μm)以下であることが望ましい。
【0065】
センサ素子31は、匂い物質Aが吸着した場合と、匂い物質Aとは異なる匂い物質Bが吸着した場合とで、電気伝導性の経時的な変化が異なる樹脂組成物を適用することにより、さまざまな匂い物質を検出したり、識別したりすることが可能である。なお、後述する匂いセンサ30では、匂い物質を検出するための構成(金属配線313および匂い物質受容層315)が設けられた基板311を備えるセンサ素子31が複数配設されていてもよい。それぞれの基板311には、同じ組成の匂い物質受容層315を含む複数のセットが配設されていてもよい。また、センサ素子31が備える基板311のそれぞれの面積の差は、10%以内であることが好ましい。複数のセンサ31素子が配設される場合、センサ素子31ごとに定電圧電源および電圧計を備える。匂いセンサ30において、各基板311上に匂い物質を検出するための構成(金属配線313および匂い物質受容層315)が1つ配設されていてもよい。あるいは、匂いセンサ30において、1つの基板311上に匂い物質を検出するための構成(金属配線313および匂い物質受容層315)のセットが複数配設されていてもよい。後者の場合、基板311上に設けられるセットの各々に定電圧電源および電圧計が接続される。
【0066】
匂いセンサ30が備える複数の匂い物質受容層315それぞれの組成は、同じであってもよいし異なっていてもよい。匂いセンサ30が同じ組成の匂い物質受容層315を含む場合、複数の匂い物質受容層315それぞれにおいて同じ匂い物質を検出することができる。また、匂いセンサ30がそれぞれ異なる組成の匂い物質受容層315を含む場合、複数の匂い物質受容層315のそれぞれは、匂い物質に対して異なる応答をする。このように、匂い物質を検出するための構成のセットを複数備えることで、匂いセンサ30における匂い物質の識別精度を向上させることができる。また、後述するように、通路61~通路64の各々に配置されるセンサ素子31の数の差は10個以下であることが好ましい。さらに、各センサ素子31のサイズはほぼ同等であることが好ましい。ここで、センサ素子31の数は、基板311の数に基づき規定される。これにより、基板311上に匂い物質を検出するための構成のセットが1つ配設される場合であっても、複数配設される場合であっても、各通路に配置される基板311の数に基づきセンサ素子31の数が決定される。各通路の長さは基板311のサイズに影響されるため、上述のように基板311の数に基づき配置されるセンサ素子31の数を決定することで、各通路間の長さの差を好ましい範囲内に納めることができる。
【0067】
〔3.匂いセンサ30〕
以下では、センサ素子31を適用した匂いセンサ30の概要および効果について、図4を用いて説明する。図4は、センサ素子31を適用した匂いセンサ30の構成の一例を示すブロック図である。
【0068】
匂いセンサ30は、匂い物質を検出するセンサ素子31、定電圧電源32(電源)、および電圧計33(測定機器)を備えている。
【0069】
センサ素子31の第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとはリード線Wで接続されている。図4には、リード線Wに定電圧電源32および電圧計33が配された例を示している。
【0070】
定電圧電源32は、センサ素子31に給電するための電源である。定電圧電源32は、センサ素子31にリード線を介して定電圧を供給する。定電圧電源32が供給する電圧値は、0.5V~10Vであり、例えば2.5Vまたは5.0Vである。
【0071】
電圧計33は、定電圧電源32から供給された定電圧を匂い物質受容層315に供給した場合に、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとの間に生じる電位差を測定する。
【0072】
なお、匂いセンサ30は、匂い物質測定用の回路において、電圧計33の前段にアンプ(不図示)を備えており、当該アンプは取得した信号を増幅し電圧計33に供給する。
【0073】
また、匂いセンサ30は、匂い物質測定用の回路のほかにリファレンス回路を備えており、電圧計33は、匂い物質測定用の回路において取得された値とリファレンス回路において取得された値との差(電位差)を電圧値として取得する。
【0074】
匂いセンサ30は、必須の構成ではないが、筐体34をさらに備えていてもよい。筐体34は、匂い物質を含む空気を内包可能な容器である。筐体34を備えている場合、センサ素子31は筐体34内に設置される。
【0075】
筐体34は、匂い物質を導入するための導入口341および匂い物質を含む空気を排出するための排出口342を備えていている。匂い物質の導入は、導入口341から匂い物質を浸漬したろ紙等を筐体34内に導入することによって行われてもよいし、匂い物質を含む空気を導入口341から筐体34内に導入することによって行われてもよい。筐体34は、匂い物質を所定の濃度(例えば、200ppm)以上含む空気を内包するための容器である。
【0076】
筐体34の排出口342には、必須では無いが、気流生成用ファン35が配されていてもよい。気流生成用ファン35は、筐体34内に気流を生じさせたり、筐体34内の気体を排出口342から筐体34外へ排出させたりするためのものである。
【0077】
なお、匂いセンサ30は、定電圧電源32の代替として不図示の定電流源(電源)、電圧計33の代替として不図示の電流計(測定機器)を備えていてもよい。この場合、定電流源は、センサ素子31に給電するための電源として機能し、センサ素子31にリード線を介して定電流を印加する。一方、電流計は、匂い物質受容層315に定電圧が印加された場合に、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとの間を流れる電流値を測定する。
【0078】
匂いセンサ30は、センサ素子31に匂い物質が吸着する前後における、該センサ素子31の電気伝導性の経時的な変化を示す測定値を出力する。これにより、さまざまな匂い物質を検出したり、識別したりすることが可能である。
【0079】
〔4.匂い測定装置100〕
上述した匂いセンサ30は、センサ素子31にさまざまな匂い物質が吸着した場合、該センサ素子31の電気伝導性の経時的な変化を匂い物質毎に出力することができる。この匂いセンサ30を適用すれば、匂い物質Aがセンサ素子31に吸着した場合の該センサ素子31の電気伝導性の経時的な変化と、匂い物質Bがセンサ素子31に吸着した場合の該センサ素子31の電気伝導性の経時的な変化と比較することができる。このような比較結果に基づいて、センサ素子31に吸着した匂い物質を推定可能な匂い測定装置100を実現することができる。
【0080】
さらに、匂い測定装置100は、機械学習によって生成した推定モデル22を用いれば、高精度な匂い物質の推定を行うことができる。推定モデル22は、複数の匂い物質のそれぞれを少なくとも1つのセンサ素子31に吸着させた場合に測定される測定値と、該測定値を与えた匂い物質に固有の識別情報との組み合わせを含む学習用データを用いて生成され得る。
【0081】
以下では、匂いセンサ30を適用した匂い測定装置100の概要および効果について説明する。匂い測定装置100は、上述した樹脂組成物を適用したセンサ素子31に生じた電気伝導性の変化から、センサ素子31に吸着した匂い物質を推定する装置である。本実施形態の匂い測定装置100は、複数のセンサ素子31A(以下、「センサ素子群31A」とも称する)を備えるセンサチャンバ60と、匂い物質を含む対象試料が導入され、対象試料から発生した匂い物質を含む気体が内包される対象試料受入部50とを別々に備える。本実施形態では、センサ素子群31Aに含まれる個々のセンサ素子を単に「センサ素子」と記す。
【0082】
本実施形態の匂い測定装置100は、対象試料受入部50の内部の、匂い物質を含む気体を別の気体(キャリアガス)を用いてセンサチャンバ60の方へ押し出す構成を採用している。本実施形態において、対象試料受入部50内に対象試料が導入された場合の該対象試料受入部50内の気体(すなわち、検出対象の匂い物質を含む気体)を第1気体と称す。一方、第1気体をセンサチャンバ60の方へ押し出すためのキャリアガスのことを第2気体と称す。
【0083】
図1は、匂い測定装置100の概略図である。図1に示すように、匂い測定装置100は、匂いセンサ30、対象試料受入部50、センサチャンバ60、気体供給部80、および推定装置10を備える。また、匂い測定装置100は、調節部51をさらに備えてもよい。また、匂い測定装置100は、推定装置10aをさらに備えてもよい。
【0084】
図1は、一例として、気体供給部80から、対象試料受入部50、センサチャンバ60の順に気体が流れる例を示している。気体供給部80、対象試料受入部50、およびセンサチャンバ60は、それぞれ管体で接続されている。
【0085】
[対象試料受入部50]
対象試料受入部50は、匂い物質を含む対象試料を内部に受け入れて第1気体を保持可能である。対象試料受入部50は、内部に進入する第2気体が通過する第1口501と、内部から出る第1気体および第2気体が通過可能な第2口502とを備えている。なお、対象試料受入部50は、後述する試料導入口503を備えていてもよい。
【0086】
図1では、第1口501は、対象試料受入部50の紙面上部に設置され、第2口502は、対象試料受入部50の紙面下部に設置される態様を示すが、これに限定されない。例えば、第1口501および第2口502の位置は、第1気体に含まれる匂い成分の種類および組み合わせなどに応じて適宜設定し得る。例えば、第1気体に含まれる匂い成分の単位体積当たりの重量(すなわち、比重)が第2気体より重い場合と、軽い場合とで、第1口501の位置および第2口502の位置を変更してもよい。また、対象試料受入部50は、気流生成用ファン35を内部に備えていてもよい。
【0087】
対象試料受入部50は、液体または固体の対象試料を受け入れるための試料導入口503を備える。対象試料受入部50は、対象試料を設置するための設置部(不図示)を備えていてもよい。対象試料が液体である場合、設置部は、液体を保持するためのコップであってもよいし、対象試料が固体である場合、設置部は、固体が静置されるシャーレであってもよい。対象試料受入部50には、対象試料が試料導入口503から第1気体として気体状態で導入されてもよい。このように、対象試料受入部50が、液体または固体の対象試料を受け入れ可能であることにより、第1気体中の匂い物質の濃度を調節することが可能である。例えば、同一の匂い物質であっても、第1気体中の匂い物質の濃度の高低を調節することが容易である。
【0088】
対象試料受入部50の内側面には、匂い物質に対して不活性な素材が配されていてよい。匂い物質に対して不活性な素材は、センサチャンバ60に送り出される気体に含まれる匂い物質の各々の濃度を大きく変化させない素材である。例えば、匂い物質に対して不活性な素材は、匂い物質が吸着したり、溶け込んだりしにくい素材である。匂い物質に対して不活性な素材としては、例えば、ガラス、金属、樹脂が挙げられる。金属を採用する場合、ステンレス鋼(SUS)が好ましく、樹脂を採用する場合、フッ素系樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
【0089】
対象試料受入部50の内側面が第1気体に含まれる匂い物質を吸着する素材である場合、各部に匂い物質が吸着して、後の測定に影響を及ぼす虞がある。
【0090】
このように対象試料受入部50の内側面が匂い物質に対して不活性な素材であることにより、内側面の素材と、第1気体に含まれる匂い物質とが反応する、または内側面に匂い物質が吸着するなどの虞が低減される。従って、センサチャンバ60に供給された第1気体に含まれる匂い物質が、対象試料受入部50に内包されている間に変化する、または匂い物質の濃度が薄まるなどの虞が低減する。
【0091】
匂い測定装置100は、対象試料が液体または固体であっても、対象試料受入部50を備えることにより、第1気体をセンサチャンバ60に送り込む前に対象試料受入部50内で第1気体の濃度を均一にすることができる。また、匂い測定装置100は、対象試料受入部50を備えることにより、第1気体をセンサチャンバ60へ一定の流量で押し出すことができる。これにより、匂い測定装置100は、測定を繰り返し行う場合であっても、毎回同じ条件でセンサチャンバ60へ第1気体を送ることができるため、繰り返し安定した測定を行うことができる。
【0092】
対象試料受入部50内の容積は、センサチャンバ60内の容積の1倍以上200倍以下であることが好ましい。特に、対象試料受入部50内の容積は、センサチャンバ60内の容積よりも大きいことが好ましい。対象試料受入部50内の容積は、センサチャンバ60内の容積の2倍以上がより好ましく、4倍以上であることがさらに好ましい。また、対象試料受入部50内の容積は、センサチャンバ60内の容積の100倍以下であることが好ましく、60倍以下であることがさらに好ましい。対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積に対して1倍以上の大きさであることにより、センサチャンバ60における匂い物質の濃度が適切に調整され、センサチャンバ60が備えるセンサによる測定結果が安定して出力される。また、対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積に対して200倍以下であることにより、対象試料受入部50内の温湿度調整がしやすくなるため、センサによる測定結果が安定して出力されると共に、匂い測定装置100のサイズをコンパクトに収めることができる。
【0093】
対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積の1倍未満である場合は、対象試料受入部50で発生した匂い物質がセンサチャンバ60内で希釈され、センサにおける測定感度が低下する虞がある。また、対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積の200倍よりも大きい場合は、対象試料受入部50の容積が大き過ぎるため、第1気体の濃度、温度、湿度の均一性が低下し、測定を繰り返し行う場合に、同じ条件でセンサチャンバ60に第1気体を送ることができない虞がある。さらに匂い測定装置100全体のサイズが大きくなる虞がある。
【0094】
図1では、一例として、対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積の8倍の例を示している。
【0095】
例えば、管体93の内側面が、第1気体に含まれる匂い物質を吸着する素材である場合、各部に匂い物質が吸着して、後の測定に影響を及ぼす虞がある。そこで、第1気体を対象試料受入部50からセンサチャンバ60へと導く管体93の内側面に、対象試料受入部50の内側面と同様に、匂い物質に対して不活性な素材が配されることが好ましい。第1気体に対して不活性な素材としては、例えば、ガラス、金属、樹脂が挙げられる。金属を採用する場合、ステンレス鋼(SUS)が好ましく、樹脂を採用する場合、フッ素系樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
【0096】
対象試料受入部50は、管体92および管体93から着脱可能な構成であってもよい。このように、対象試料受入部50が着脱可能であることにより、前の測定が終了し、次の測定を行う場合に、対象試料受入部50内をパージせずとも新しい対象試料受入部50を付け替えることができる。これによれば、匂い測定装置100は、複数の測定を短時間で行うことができる。
【0097】
また、対象試料受入部50が着脱可能であることにより、匂い測定装置100とは別体の保温室を用いて、対象試料を導入した対象試料受入部50を所望の温度に保持することができる。これによれば、例えば、後述する調節部51を匂い測定装置100に設けることが出来ない場合であっても、匂い測定装置100は、対象試料受入部50の温度を調節することができる。
【0098】
[調節部51]
調節部51は、対象試料受入部50内に内包されている第1気体の温度および湿度の少なくとも一方を調節する。調節部51が温度を調節する場合、調節部51は、例えば、ヒータまたは冷却器である。この場合、調節部51は、対象試料受入部50全体を覆うような構成であってもよい。また、調節部51が湿度を調節する場合、調節部51は、例えば、加湿器または除湿器である。調節部51は、第1気体の種類ごとに温度および湿度の少なくとも一方を調節してもよいし、同じ第1気体の測定中において所定時間毎に温度および湿度の少なくとも一方を変化させてもよい。
【0099】
調節部51が、対象試料受入部50内の第1気体の温度および湿度の少なくとも一方を調節することにより、匂い測定装置100は、例えば、第1気体の種類(気体の重さ、揮発性など)に応じた条件を用いてセンサチャンバ60へ第1気体を送ることができる。また、これによれば、匂い測定装置100は、安定した濃度の第1気体をセンサチャンバ60へ送ることができ、測定の精度が向上する。
【0100】
[気体供給部80]
気体供給部80は、対象試料受入部50の第1口501と接続されており、対象試料受入部50の内部へ第2気体を送ることによって、第1気体を対象試料受入部50内からセンサチャンバ60の方へ送り出す。
【0101】
気体供給部80と、対象試料受入部50との間にはバルブ81を備えていてもよい。バルブ81の開閉によって、気体供給部80からのガス供給の開始および停止を調節してもよい。
【0102】
このように、対象試料受入部50の第1口501側から気体供給部80が気体を押すことによりセンサチャンバ60に第1気体を送り込むため、センサチャンバ60内の圧力は陽圧である。このため、匂い測定装置100は、安定した測定結果を得ることができる。また、バルブ81の開閉によって、第2気体を送ることができるため、匂い測定装置100は、任意のタイミングで第1気体を対象試料受入部50内からセンサチャンバ60の方へ送り出すことができる。これによれば、匂い測定装置100は、センサ素子群31Aを用いて第1気体に含まれる匂い物質を繰り返し測定する場合、各センサ素子が出力する波形の形の再現性を向上させることができる。
【0103】
第2気体は、不活性ガスまたは空気であってよい。不活性ガスとしては、例えば、アルゴン、窒素などが挙げられる。第2気体が不活性ガスである場合、気体供給部80はガスボンベであってよい。
【0104】
また、第2気体が空気である場合、気体供給部80はポンプであってよい。この場合、対象試料受入部50に内包される第1気体と反応する成分を除去するために、匂い測定装置100は、対象試料受入部50の第1口501側に、一例として、活性炭フィルタを備えていてもよい。
【0105】
匂い測定装置100は、対象試料受入部50の第1口501側、さらに具体的にはバルブ81と、気体供給部80との間にマスフローコントローラをさらに備えてもよい。この構成を採用した匂い測定装置100は、対象試料受入部50からセンサチャンバ60へ一定の流量で第1気体を送ることができ、センサ素子群31Aのセンサ素子が安定して出力を行うことができる。
【0106】
[センサチャンバ60]
センサチャンバ60は、匂い物質を測定するためのセンサ素子群31Aを格納する空間である。センサチャンバ60は、対象試料受入部50の第2口502と接続されている。具体的には、センサチャンバ60は、気体供給口601と、気体排出口602とを備え、対象試料受入部50の第2口502と、気体供給口601とが接続されている。
【0107】
センサチャンバ60は、気体に含まれる匂い物質に応じた測定結果を出力可能な複数のセンサ素子31Aが配置された、複数の通路を有する。これによれば、センサチャンバ60内に気体を送り始めてから、複数のセンサ素子31Aのすべてから測定結果が安定して出力されるまでに要する時間を短縮することができる。また、複数のセンサ素子31Aが複数の通路によって細かく区切られることで、測定ごとの気流の乱れのばらつきが少なくなり、測定精度が高くなる。
【0108】
図5は、センサチャンバ60の構成例を表す上面図である。図5には、4つの通路(すなわち、通路61、通路62、通路63、通路64)を備えるセンサチャンバ60が示されている。第1気体は、対象試料受入部50から通路61~通路64の各々に供給されうる。
【0109】
複数の通路(通路61~64)の各々には、匂い物質毎に異なる測定結果を出力する複数のセンサ素子31Aが配置されてもよい。匂い物質毎に異なる測定結果を出力する複数のセンサ素子31Aは、それぞれ異なる樹脂組成物を物質受容層として備えるセンサ素子31であってよい。すなわち、1つの通路に配置される複数のセンサ素子31Aは、それぞれのセンサ素子31の匂い物質に対する感度および検知特異性が異なっていてよい。図5のセンサチャンバ60は、一例として、通路61に、センサ素子31と、センサ素子31bとを含むが、これに限定されない。例えば、センサ素子31と、センサ素子31bとは、第1気体に含まれる同じ匂い物質に応じた測定結果を出力可能であるが、それぞれのセンサ素子が出力する測定結果は異なっていてもよい。また、センサ素子31と、センサ素子31bとは、それぞれが異なる匂い物質に応じた測定結果を出力可能であってもよい。例えば、匂いセンサ30は、匂い物質受容層315に用いた樹脂組成物が互いに異なるセンサ素子31、31bを備えていてもよい。匂い物質に応じた測定結果は、例えば、匂い物質の濃度に応じた測定結果である。なお、以下の説明において特にセンサ素子31、31b、31cおよび後述するセンサ素子31d~31gを区別しない場合、「センサ素子31」と総称する。複数の通路の各々に、匂い物質毎に異なる測定結果を出力する複数のセンサ素子が配置されることにより、匂い測定装置100は、1つの通路を通過する匂い物質を感度および検知特異性が異なるセンサ素子31によって検出可能である。これにより、匂い測定装置100は、異なる複数の測定結果から、匂い物質を総合的に検出することが可能である。
【0110】
匂い物質を吸着する特性が異なる樹脂組成物を匂い物質受容層315に用いたセンサ素子を複数備えることにより、匂い測定装置100は、複数の匂い物質についての推定を同時に実行することができる。なお、本発明の一実施形態に係るセンサ素子に加えて、匂い物質受容層315に界面活性剤(B)を含まないセンサ素子を併用してもよい。
【0111】
また、匂い測定装置100を用いれば、既知の匂い物質のそれぞれについて、センサ素子31の電気伝導性の変化を示す第1変化パターンと、センサ素子31bの電気伝導性の変化を示す第2変化パターンとを得ることが可能である。推定モデル22は、第1変化パターンおよび第2変化パターンの両方を用いた機械学習によって生成されてもよい。匂い測定装置100は、このように生成された推定モデル22を用いて匂い物質を推定するため、各匂い物質をより精密に識別することが可能である。
【0112】
また、図5において、通路61と同様に、通路62には、第1気体に含まれる匂い物質に応じた測定結果を出力可能な複数のセンサ素子31A(センサ素子31cおよび31dなど)が配されている。通路63には、第1気体に含まれる匂い物質に応じた測定結果を出力可能な複数のセンサ素子31A(センサ素子31eおよび31fなど)が配されている。通路64には、第1気体に含まれる匂い物質に応じた測定結果を出力可能な複数のセンサ素子31A(センサ素子31gおよび31hなど)が配されている。これら複数のセンサ素子31Aは、物質受容層315に用いた樹脂組成物が互いに異なるセンサ素子であってもよい。
【0113】
なお、センサ素子31~31hのうちのいくつかは、匂い成分に対する検知特異性が同じであるセンサ素子であってもよい。すなわち、例えば、センサチャンバ60に配置するセンサ素子群31Aがn個のセンサ素子31を含む場合、m種類(m<n)のセンサ素子31を配置してもよい。また、同じ通路に配置される複数のセンサ素子31Aのうちいくつかが、匂い成分に対する検知特異性が同じであってもよい。
【0114】
また、センサチャンバ60は、通路61~通路64を有しており、通路61~通路64の各々に、複数のセンサ素子31Aが配置されていてもよい。この場合、通路61~通路64の各々に配置された複数のセンサ素子31Aがセンサ素子群31Aを構成する。例えば、通路61には4個のセンサ素子31を配置し、通路62には10個のセンサ素子31を配置してもよい。
【0115】
通路61~通路64の各々に異なる数のセンサ素子31が配置される場合、通路61~通路64の各々に配置されたセンサ素子31の数の差は10個以下であることが好ましい。通路の各々に配置されたセンサ素子31の数の差が10個以下であることにより、通路によって発生しうる、匂い物質がセンサ素子31に検知されるタイミングのばらつきを低減することができる。また、通路61~通路4の各々に配置されたセンサ素子31の数の差が10個以下であることにより、匂い測定装置100は匂い測定を短時間で行うことができる。
【0116】
通路の各々は、第1気体をセンサチャンバ60の内部空間内に供給するための管体93と接続されている。図5に示すように、通路61、通路62、通路63、および通路64は全て1つの管体93に接続されている。
【0117】
また、通路の各々の第1気体が管体93から供給される供給方向に対して垂直な断面積は、管体93の軸方向に垂直な断面積よりも小さくてよい。これによれば、対象試料受入部50より供給される第1気体は、管体93を通過するときよりも、速い流速で各通路内を通過することができる。これによれば、気体供給口601に近い側に配置されるセンサ素子31と、気体排出口602に近い側に配置されるセンサ素子31との測定におけるタイムラグが最小限となり、匂い測定装置100は、精度高い測定を行うことができる。
【0118】
また、通路の各々の内部空間の気体は、第1気体の供給が開始された後1秒以内に置換されることが好ましい。第1気体の供給の開始は、すなわち、第1気体が気体供給口601に供給されたときである。また、内部空間の気体の置換は、気体供給口601から供給された第1気体が、気体排出口602に到達したことを示す。このように、通路の各々の内部空間の気体が、第1気体及び第2気体の供給が開始された後1秒以内に置換されることにより、各センサ素子31に第1気体が触れるタイミングのずれが小さくなり、匂い測定装置100は安定して測定を行うことができる。また、通路の各々の内部空間の気体が、第1気体及び第2気体の供給が開始された後1秒以内に置換されることにより、匂い測定装置100は、匂い測定を短時間で行うことができる。
【0119】
通路の各々の内部空間を通る第1気体の流速は、毎秒0.1cm以上毎秒100cm以下であることが好ましい。また、通路の各々の内部空間を通る第1気体の流速は、毎秒1cm以上毎秒50cm以下であることがより好ましい。通路の各々の内部空間を通る第1気体の流速は、例えば、後述する気体供給部80の加圧の程度によって調節されてもよいし、後述するマスフローコントローラによって調節されてもよい。
【0120】
通路の各々の内部空間を通る第1気体の流速が遅いと、第1気体がセンサ素子群31Aのすべてのセンサ素子31に触れるタイミングのずれが大きくなる。一方、通路の各々の内部空間を通る第1気体の流速が速すぎると、気流の影響によってセンサ素子群31Aのセンサ素子31が振動し、匂い測定装置100は安定して匂い測定を行えない。また、通路の各々の内部空間を通る第1気体の流速が速すぎると、センサ素子群31Aのセンサ素子31への第1気体に含まれる匂い物質の吸着が阻害され、匂い測定装置100は正確な匂い測定が行えない。また、通路の各々の内部空間を通る第1気体の流速が速すぎると、匂い測定装置100が安定した測定を行うまでに、対象試料受入部50内の第1気体を消費してしまう虞がある。
【0121】
このように、通路の各々の内部空間を通る第1気体の流速が毎秒0.1cm以上毎秒100cm以下であることにより、匂い測定装置100は、安定して匂い測定を行うことができる。
【0122】
通路の各々は並列に配置されていてもよい。図5において、通路61~通路64は互いに並列に配置されている。このように、通路の各々が並列に配置されることにより、匂い測定装置100は、通路を配置するためのスペースを確保することができ、装置全体のサイズをコンパクトにすることができる。
【0123】
また、通路61~通路64は第1気体が管体93から供給される供給方向(図5において矢印Xで示す方向)においてそれぞれ同じ長さを有している。換言すると、通路61~通路64のそれぞれにおいて、気体供給口601から気体排出口602までの長さは同じ長さである。なお、「同じ長さ」とは、長さが完全に同じであること以外に、若干の差が存在することも許容する。許容される通路間の長さの差は20%以下が好ましく、10%以下であることが最も好ましい。なお、供給される第1気体が十分に速い流速を有している場合、通路61~通路64の供給方向における長さはさらに異なっていてもよく、例えば、通路の各々のうち、最も長い通路と最も短い通路との間における長さの差が50%以下であってもよい。このように、各通路の長さが設定されることにより、第1気体が各通路を通過し終えるタイミングのずれを小さくすることができる。これにより、各通路を通過した第1気体が気体排出口602に到達するタイミングのずれも小さくすることができる。
【0124】
図6は、図5のB-B線断面を模式的に表す断面図である。図6の通路61は、側壁610と、側壁610に対向する側壁611と、天井621と、底面である基板630によって構成されている。
【0125】
図6において、通路61の断面の形状が四角形であるセンサチャンバ60を示したが、通路61の断面の形状は特に限定されない。例えば、通路61の断面の形状は円弧であってもよいし、三角形であってもよい。
【0126】
通路61と、通路62とは、側壁611および側壁612によって完全に仕切られており、通路61と、通路62との間は気体の出入りが出来ない構成となっていてよい。
【0127】
図6では、一例として、通路61と、通路62との間に、2枚の側壁(側壁611および側壁612)がある構成となっているが、これに限定されない。例えば、通路61と、通路62とは、1枚の側壁によって仕切られていてもよい。
【0128】
図6のセンサチャンバ60の全体は一体的に形成されているが、この構成に限定されない。センサチャンバ60の全体は、一体的に形成されていてもよいし、複数の通路の各々が別体によって形成されていてもよい。
【0129】
図6のセンサチャンバ60は、例えば、センサ素子31を通路61の底面である基板630上に備えているが、センサ素子31の配置はこれに限定されない。センサ素子31は、例えば、センサ素子31が特異的に検出し得る対象の匂い物質の種類を考慮して配置されてもよい。例えば、センサ素子31は、側壁610、側壁611、および天井621の何れかに配置されてもよい。具体的には、匂い物質が空気より軽い場合は、センサ素子31を天井621に配置する構成が挙げられる。これによれば、匂い物質の種類に応じた場所にセンサ素子31を配置することによって、匂い測定装置100は、精度高い測定を行うことができる。
【0130】
図6では、センサチャンバ60は、基板630上に、各センサ素子31を備えているが、基板630と、各センサ素子31との間に、基板630とセンサ素子31とを接続するコネクタをさらに備えていてもよい。
【0131】
各センサ素子31は、1個ずつが独立して基板630と接続されていてもよい。例えば、センサ素子31の1個ずつがコネクタ(例えばICピン)を介して、基板630と接続されている態様が挙げられる。これよれば、例えば、センサチャンバ60に含まれるセンサ素子31のうち1個のみに不具合が生じた場合であっても、ユーザは不具合が生じた1個のセンサ素子31のみを交換することが可能である。
【0132】
また、複数種類のセンサ素子31によって匂い物質を検知する場合、使用するセンサ素子31の好適な組み合わせ、およびセンサ素子31の好適な配置は、匂い物質の種類によって異なる。各センサ素子31が独立して基板630と接続されていることにより、各センサ素子31が着脱可能であるため、匂い測定装置100は、匂い物質に応じた好適なセンサ素子31の組み合せ、および配置が容易に変更され得る。
【0133】
センサ素子31は、基板630、側壁610、側壁611、および天井621の2つ以上の場所に配置されてもよい。これによれば、センサ素子31を一面のみに備える場合よりも通路61の長さを短くできるため、匂い測定装置100のサイズがコンパクトになる。また、センサ素子31を気体供給口601に近い場所に複数備えることができるため、センサ素子31を気体排出口602に向けて並べて配置するよりも、匂い測定装置100は、匂い測定を短時間で行うことができる。
【0134】
図6のセンサチャンバ60は、一例として、通路を4つ備え、断面方向においてはセンサ素子31をそれぞれ1つずつ配置するが、通路の数、断面方向におけるセンサ素子31の数はこれに限定されない。図7は、センサチャンバ60aの断面図を示す。センサチャンバ60aは、一例として、2つの通路(通路61aおよび通路62a)を備える。また、通路61aの断面方向には、2つのセンサ素子31(すなわち、センサ素子31、およびセンサ素子31c)を備える。また、センサチャンバ60aにおいても、上述したように、センサ素子31は基板630上のみに配置されるだけでなく、基板630、側壁610a、側壁613a、および天井621aの2つ以上の場所に配置されてもよい。通路62aのセンサ素子31の配置についても通路61aと同様である。
【0135】
センサチャンバ60の内側面の素材は、対象試料受入部50と同様に、匂い物質に対して不活性な素材であることが好ましい。不活性な素材としては、例えば、ガラス、金属、樹脂が挙げられる。金属を採用する場合、ステンレス鋼(SUS)が好ましく、樹脂を再送する場合、フッ素系樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。センサチャンバ60の内側面の素材が、第1気体に含まれる匂い物質を吸着する素材の場合、センサチャンバに匂い物質が吸着することにより、後の測定におけるセンサ素子31からの出力の変化量が小さくなり、匂い測定装置100が正確な測定を行えない虞がある。
【0136】
[複数のセンサ素子31A(センサ素子群31A)]
センサ素子群31Aのセンサ素子は薄膜を備えてもよい。一例として、図2および図3の匂い物質受容層315が薄膜である。
【0137】
センサチャンバ60内に匂い物質を含む第1気体を送り込む態様として、例えば、センサチャンバ60の気体排出口602側に真空ポンプを設置し、真空ポンプを用いて気体を引くことにより、センサチャンバ60の気体供給口601側から匂い物質をセンサチャンバ60へ送り込む態様が考えられる。しかし、センサ素子31、31bが薄膜を備える場合、センサチャンバ60内が陰圧であると、薄膜が膨張して、センサ素子31、31bが安定した測定結果を出力できない虞がある。本実施形態に係る匂い測定装置100であれば、センサチャンバ60および対象試料受入部50の第1口501側から気体供給部80が気体を押すことによりセンサチャンバ60に第1気体を送り込むため、センサチャンバ60内の圧力は陽圧である。このため、匂い測定装置100は、センサ素子群31Aのセンサ素子が薄膜を備えていても安定した測定結果を得ることができる。
【0138】
また、センサ素子群31Aのセンサ素子31の薄膜は、導電性炭素材料、樹脂組成物、および界面活性剤を含んでもよい。センサ素子31の具体的な態様については後述する。
【0139】
<センサ素子>
匂い測定装置100は、2つのセンサ素子31、31bを備えている。センサ素子31、31bの匂い物質受容層315の形状、面積、および厚さはそれぞればらつきが少ないことが好ましい。複数のセンサ素子31Aの匂い物質受容層315の形状、面積、および厚さにばらつきが生じると、安定して匂い物質の測定ができない虞があるためである。
【0140】
センサ素子31、31bは、それぞれ一本の第1金属配線313Aと、第2金属配線313Bとを電極として備え、互いの金属配線が平行に配されている(図2参照)。また、センサ素子31、31bは、第1金属配線313Aと、第2金属配線313Bとにはさまれた領域を埋めるように匂い物質受容層315を備えている。また、センサ素子群31Aは、センサ素子31、31b以外に、センサ素子31、31bとは異なる、金属配線(すなわち、電極)313の配置と、匂い物質受容層315の形状とで構成されているセンサ素子31を含んでもよい。なお、実施形態1および2において、金属配線313と称していたものを、以降、電極313とも称する。
【0141】
センサ素子31は、基板311上に配置された電極313と、電極313上に形成された匂い物質受容層315と、を備える。匂い物質受容層315の形状は円状、または帯状であり、匂い物質受容層315の形状が円状である場合、円の直径Rが0.2mm以上、5mm以下であり、匂い物質受容層315の形状が帯状である場合、帯の短方向の幅Wが0.2mm以上、5mm以下であってよい。ここで、帯状とは、主に短方向の幅と、長方向の長さを有する面形状を指す。なお、本明細書において、「帯状」とは、「四角形状」とは異なる形状である。帯状とは、図13に示す匂い物質受容層315dのように、四隅が弧を描く形状を有しており、角を有さないという点において四角形状と異なる。匂い物質受容層315の形状が円状である場合、円の直径Rは0.6mm以上、4.0mm以下であることが好ましく、匂い物質受容層315の形状が帯状である場合、帯の短方向の幅Wが0.6mm以上、4.0mmであることが好ましい。
【0142】
センサ素子群31Aに含まれるセンサ素子31の匂い物質受容層315の円の直径R、または幅Wが前記の範囲であることにより、匂い測定装置100は、匂い物質に応じた測定を安定して行うことができる。
【0143】
匂い物質受容層315の直径Rが0.2mm未満の場合、または幅Wが0.2mm未満の場合は、匂い物質を受容する面積が小さくなり、匂い測定装置100は、測定を安定して行うことができない。
【0144】
また、匂い物質受容層315の直径Rが5mmより大きい場合、または幅Wが5mmより大きい場合は、センサ素子31の1つの面積が大きくなり、センサ素子群31Aを含むセンサチャンバ60のサイズが大きくなる。センサチャンバ60のサイズが大きくなると、匂い物質を含む第1気体をセンサチャンバ60内に均一に拡散させることが難しくなるため、匂い測定装置100は、測定を安定して行うことができない。
【0145】
[推定装置10]
推定装置10は、匂いセンサ30によって検出された匂い物質を推定する装置である。推定装置10は、例えばコンピュータであり、不図示のCPUおよびメモリを備えている。推定装置10は、匂いセンサ30と通信可能に接続されている。具体的には、推定装置10は、匂いセンサ30から取得した計測値を解析することによって、匂い物質の推定を実行する。センサチャンバ60が、センサ素子31、センサ素子31bとは異なる樹脂組成物を物質受容層315に用いたセンサ素子31cをさらに備える場合、推定装置10は、センサ素子31cに定電圧を供給して電圧計によって測定される測定値をさらに取得し解析してもよい。また、推定装置10は、測定値そのもの、測定値をプロットした波形、および推定モデルに基づいた未知の匂い物質の推定結果を表示してもよい。また、推定装置10は、複数の匂い物質を含む気体に対して、それぞれの匂い物質の存在割合の変化を示す数値、およびグラフなどを表示してもよい。また、推定装置10は、匂い物質を推定するために用いる推定モデル22を生成してもよい。
【0146】
<推定モデル22の生成>
次に、匂い物質を推定するために用いる推定モデル22を生成する処理を行う匂い測定装置100の構成、および、推定モデル22を生成する処理について、図8および図9を用いて説明する。
【0147】
推定モデル22は、複数の匂い物質のそれぞれを少なくとも1つのセンサ素子に吸着させた場合に電圧計33によって測定される測定値と、該測定値を与えた匂い物質に固有の識別情報との組み合わせを含む学習用データを用いた機械学習によって生成される。ここで、匂い物質に固有の識別情報とは、例えば、匂い物質の名称、CAS番号、および化学式等であってもよい。
【0148】
(推定装置10の構成(推定モデル22の生成))
図8は、匂い測定装置100の構成の一例を示す機能ブロック図である。なお、説明の便宜上、図4にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0149】
図8に示すように、推定装置10は、入力部15、制御部1、記憶部2を備えている。
【0150】
入力部15は、ユーザからの各種入力操作を受付けるためのものであり、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等であってもよい。
【0151】
制御部1は、測定値取得部11(取得部)、変化パターン解析部12(解析部)、学習制御部13、および推定モデル生成部14を備えている。
【0152】
測定値取得部11は、電圧計33から測定値を取得する。また測定値取得部11は、取得した測定値を用いて、センサ素子31の電気伝導性を示す値(例えば、抵抗値、およびインピーダンスなど)を算出する。測定値取得部11は、電圧計33から所定の時間間隔(例えば0.1秒間隔)で測定値を取得してもよい。
【0153】
変化パターン解析部12は、少なくとも1つのセンサ素子31の電気伝導性の経時的な変化を解析する。変化パターン解析部12は、測定値取得部11によって算出された抵抗値を用いて、匂い物質が吸着したことによるセンサ素子31の電気伝導性の変化量を示す値を算出する。変化パターン解析部12は、算出した電気伝導性の変化量の時間変化を示す変化パターンを示すデータを生成する。変化パターン解析部12は、生成した変化パターンが既知の匂い物質である場合、生成した変化パターンを該既知の匂い物質に固有の識別情報と対応付けて、変化パターンデータベース21(学習用データ)に格納してもよい。
【0154】
学習制御部13は、記憶部2から変化パターンデータベース21を読み出して、機械学習による推定モデル22の生成を制御する。ここで、変化パターンデータベース21は、複数の匂い物質をセンサ素子31に吸着させた場合に測定される測定値と、該測定値を与えた既知の匂い物質に固有の識別情報との組み合わせを含むデータベースである。学習制御部13は、変化パターンデータベース21から読み出した変化パターンを推定モデル生成部14に入力する。また、学習制御部13は、推定モデル生成部14に入力した変化パターンに対応する匂い物質の識別情報と、推定モデル生成部14から出力される推定結果とを比較し、比較結果に応じた補正指示を推定モデル生成部14に出力する。
【0155】
推定モデル生成部14は、変化パターンデータベース21に格納されている変化パターンを用いた機械学習アルゴリズムによって、推定モデル22を生成する。推定モデル生成部14は、公知の教師有り機械学習アルゴリズムを用いて推定モデル22を生成する構成であってもよい。推定モデル生成部14に適用可能な機械学習アルゴリズムとしては、例えば、k近似法(k-nearest neighbor method)、ロジスティック回帰、サポートベクトルマシン、ランダムフォレスト、およびニューラルネットワーク等が挙げられる。
【0156】
(推定モデル22を生成する処理)
以下、匂い測定装置100を用いて推定モデル22を生成する処理について、図9を用いて説明する。図9は、匂い測定装置100の推定装置10が推定モデル22を生成する処理の流れの一例を示すフローチャートである。推定モデル22は、複数の匂い物質のそれぞれを少なくとも1つのセンサ素子に吸着させた場合に電圧計33によって測定される測定値と、該測定値を与えた匂い物質に固有の識別情報との組み合わせを含む学習用データを用いた機械学習によって生成される。ここで、匂い物質に固有の識別情報とは、例えば、匂い物質の名称、CAS番号、および化学式等であってもよい。
【0157】
まず、測定値取得部11は、匂い物質を対象試料受入部50へ導入する前の匂いセンサ30において測定された電圧値V0を取得し、抵抗値R0を算出する。抵抗値R0は、好ましくは200~1000Ωであり、さらに好ましくは250~900Ωであり、最も好ましくは300~800Ωである。その後、匂い物質を対象試料受入部50に入れる(ステップS1)。
【0158】
一方、入力部15は、対象試料受入部50内に導入した、既知の匂い物質の名称等の入力を受け付ける(ステップS2)。ステップS2の処理はステップS1の前に行ってもよい。
【0159】
次に、測定値取得部11は、センサ素子31への匂い物質吸脱着前後の過程における電圧値Vの変化量(ΔV)データ(波形または経時的変化パターン)を取得する(ステップS3)。
【0160】
続いて、変化パターン解析部12は、匂い物質吸脱着前後の過程における電圧値Vの変化量(ΔV)データ(波形または経時的変化パターン)と入力された既知の匂い物質の名称とを対応付けて変化パターンデータベースに記憶する(ステップS4)。
【0161】
所定種類の既存の匂い物質について変化パターンが記憶されていない場合(ステップS5にてNO)、すなわち、機械学習に用いるデータがまだ不足している場合、ステップS1に戻る。
【0162】
所定種類の既存の匂い物質について変化パターンが記憶された場合(ステップS5にてYES)、学習制御部13は、変化パターンデータベース21に記憶されている、既知の匂い物質についての変化パターンを読み出して、推定モデル生成部14に入力する。推定モデル生成部14は、変化パターンデータベース21に格納されている経時的変化パターン(または変化パターンから抽出した特徴量)に基づき、機械学習によって推定モデル22を生成する(ステップS6)。
【0163】
推定モデル生成部14は、所定の機械学習によって生成した推定モデル22を記憶部2に格納する(ステップS7)。
【0164】
図8および図9に示す例では、推定装置10が推定モデル22を生成しているが、これに限定されない。例えば、推定装置10とは異なる外部のコンピュータであって、学習制御部13および推定モデル生成部14と同じ機能を備えるコンピュータに変化パターンデータベース21と同じデータを提供して、推定モデル22を作成させてもよい。
【0165】
<匂い物質の推定>
次に、推定モデル22を用いて匂い物質を推定する匂い測定装置100aの構成、および、推定処理について、図10および図11を用いて説明する。
【0166】
(推定装置10aの構成(推定処理の実行))
図10は、匂い測定装置100aの構成の一例を示す機能ブロック図である。なお、説明の便宜上、図1図4および図8にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0167】
図10に示すように、推定装置10aは、制御部1a、記憶部2a、および出力部18を備えている。ここで、図10は、図8に示す推定装置10を、匂い物質の推定処理に利用した場合の構成例を示している。すなわち、図8に示す推定装置10と図10に示す推定装置10aとは、同じハードウェア構成を備えるコンピュータであってもよい。
【0168】
出力部18は、ユーザに推定結果を提示するためのものであり、例えば、ディスプレイ、スピーカ、ランプ等であってもよい。
【0169】
制御部1aは、測定値取得部11(取得部)、変化パターン解析部12(解析部)、推定部16、および出力制御部17を備えている。
【0170】
推定部16は、推定モデル22を用いて、匂いセンサ30から取得した測定値を解析した解析結果から匂い物質を推定する。
【0171】
出力制御部17は、推定結果を出力するように出力部18を制御する。
【0172】
(推定処理)
以下、制御部1aの各部が行う具体的な処理については、図11を用いて説明する。図11は、推定装置10aが匂い物質を推定する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0173】
まず、測定値取得部11は、匂い物質を対象試料受入部50へ導入する前の匂いセンサ30において測定された電圧値V0を取得し、抵抗値R0を算出する。その後、未知の匂い物質(性状問わない)を対象試料受入部50に導入する(ステップS11)。
【0174】
次に、測定値取得部11は、センサ素子31への未知の(すなわち、推定対象の)匂い物質吸脱着前後の過程における電圧値Vの変化量(ΔV)データ(波形または経時的変化パターン)を取得する(ステップS12)。
【0175】
次に、推定部16は、推定モデル22に基づき、経時的変化パターン(または変化パターンから抽出した特徴量)から、未知の匂い物質を推定する(ステップS13)。
【0176】
出力制御部17は、出力部を制御して、推定結果を出力する(ステップS14)。
【0177】
上述の実施形態では、推定モデル22を生成する推定装置10および推定モデル22を用いて匂い物質を推定する推定装置10aについて説明した。なお、推定装置10と推定装置10aとは、別体の装置であってもよいし、1つの装置であってもよい。
【0178】
<センサ素子31cの構成例>
以下、図12図20を用いて、センサ素子群31Aに含まれる1つのセンサ素子31cの構成の例について説明する。なお、図12図20において、点描部分および斜線部分が匂い物質受容層315c~315jを示す。センサ素子群31Aに含まれる1つのセンサ素子31cでは、対向する電極間において、匂い物質受容層315c~jの表面粗さ(Sa)が0.5μm以上5μm以下であり、より好ましくは0.5μm以上3μm以下である。図12図20において、斜線部分は、匂い物質受容層315c~jのうち表面粗さが測定される領域である。なお、以下の説明において特に匂い物質受容層315c~315jを区別しない場合、「匂い物質受容層315」と総称する。
【0179】
図12は、センサ素子群31Aに含まれる1つのセンサ素子31cの構成の一例を示す上面図である。センサ素子31cは、基板311上に配置された電極313(第1金属配線313C、第2金属配線313D)と、電極313上に形成された円状の匂い物質受容層315cと、を備える。図12に示すように、第1金属配線313Cと第2金属配線313Dとは、平行直線状に配置される。具体的には、第1金属配線313Cは、互いに垂直になるようT字状に配された金属配線313aおよび金属配線313bを備える。また、第2金属配線313Dは、互いに垂直になるようT字状に配された金属配線313cおよび金属配線313dを備える。さらに、金属配線313aと金属配線313cとは互いに平行線上に位置するように配される。匂い物質受容層315cの直径Rは、0.2mm以上、5mm以下である。図12において、センサ素子31cが備える匂い物質受容層315cの形状は一例として楕円状であるが、これに限定されない。匂い物質受容層315cの形状が楕円である場合は、短径と、長径との平均が0.2mm以上、5mm以下であってよい。また、匂い物質受容層315cの形状は真円であってもよい。
【0180】
図13は、センサ素子群31Aに含まれる1つのセンサ素子31dの構成の一例を示す上面図である。センサ素子31dは、基板311上に配置された電極313(第1金属配線313C、第2金属配線313D)と、電極313上に形成された帯状の匂い物質受容層315dと、を備える。匂い物質受容層315dの短方向の幅の長さは、0.2mm以上、5mm以下である。
【0181】
図14は、センサ素子群31Aに含まれる1つのセンサ素子31cの構成の一例を示す斜視図である。図14に示すように、センサ素子31cにおいて、第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dは、第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dが互いに対向しない方の端部において、それぞれピン316と接続されている。ピン316は第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dと、匂いセンサ30の他の部材とを電気的に接続するための導電部材である。なお、図示されていないが、図12および図13に示すセンサ素子31cおよびセンサ素子31dも、図14に示すピン316を備えている。
【0182】
図15は、センサ素子群31Aに含まれる1つのセンサ素子31iの構成の一例を示す上面図である。センサ素子31iは、基板311上に配置された電極313(第1金属配線313C、第2金属配線313D)と、電極313上に形成された円状の匂い物質受容層315iと、を備える。図15に示すように、センサ素子31iが備える第1金属配線313Cは、環状の形状を有する金属配線313bと、金属配線313bに接続する金属配線313aとを有する。また、第2金属配線313Dは、環状の形状を有する金属配線313cと、金属配線313cに接続する金属配線313dとを有する。なお、金属配線313dは、基板311の裏面を介して金属配線313cと接続している。また、基板311上において、金属配線313bと、金属配線313cとは、同心円状に配置される。センサ素子31iが備える匂い物質受容層315iの形状は一例として楕円状であるが、これに限定されず、例えば真円であってもよい。
【0183】
図16は、センサ素子群31Aに含まれる1つのセンサ素子31fの構成の一例を示す上面図である。センサ素子31jは、基板311上に配置された電極313(第1金属配線313C、第2金属配線313D)と、電極313上に形成された円状の匂い物質受容層315jと、を備える。図16に示すように、センサ素子31jが備える第1金属配線313Cは、櫛型の形状を有する金属配線313bと、金属配線313bに接続する金属配線313aとを有する。また、第2金属配線313Dは、櫛型の形状を有する金属配線313cと、金属配線313cに接続する金属配線313dとを有する。また、金属配線313bと、金属配線313cとは、金属配線313bの凸部が金属配線313cの凹部に対向するように、また金属配線313cの凸部が金属配線313bの凹部に対向するように配置される。センサ素子31jが備える匂い物質受容層315jの形状は一例として楕円状であるが、これに限定されず、例えば真円であってもよい。
【0184】
図17は、センサ素子群31Aに含まれる1つのセンサ素子31kの構成の一例を示す上面図である。センサ素子31kは、基板311上に配置された電極313(第1金属配線313C、第2金属配線313D)と、電極313上に形成された円状の匂い物質受容層315kと、を備える。図17に示すように、センサ素子31kが備える電極313は平行曲線状に配置される。具体的には、センサ素子31kが備える第1金属配線313Cは、一部に切り欠きを有する環形状の金属配線313bと、当該切り欠き部分から金属配線313bに接続する金属配線313aとを有する。また、第2金属配線313Dは、一部に切り欠きを有する環形状の金属配線313cと、当該切り欠き部分から金属配線313cに接続する金属配線313dとを有する。また、金属配線313bと、金属配線313cとは、同心円状に配置される。センサ素子31kが備える匂い物質受容層315kの形状は一例として楕円状であるが、これに限定されず、例えば真円であってもよい。
【0185】
図18は、センサ素子群31Aに含まれる1つのセンサ素子31lの構成の一例を示す上面図である。センサ素子31lは、基板311上に配置された電極313(第1金属配線313C、第2金属配線313D)と、電極313上に形成された円状の匂い物質受容層315lと、を備える。図18に示すように、センサ素子31lが備える電極313は一直線状に配置される。具体的には、センサ素子31lが備える第1金属配線313Cは、直線状の形状を有する金属配線313bと、金属配線313bに接続する金属配線313aとを有する。また、第2金属配線313Dは、直線状の形状を有する金属配線313cと、金属配線313cに接続する金属配線313dとを有する。また、金属配線313bと、金属配線313cとは、一直線上に位置するように配置される。センサ素子31lが備える匂い物質受容層315lの形状は一例として楕円状であるが、これに限定されず、例えば真円であってもよい。
【0186】
図19は、センサ素子群31Aに含まれる1つのセンサ素子31mの構成の一例を示す上面図である。センサ素子31mは、基板311上に配置された電極313(第1金属配線313C、第2金属配線313D)と、電極313上に形成された円状の匂い物質受容層315mと、を備える。図19に示すように、センサ素子31mが備える電極313は対抗円状に配置される。具体的には、センサ素子31mが備える第1金属配線313Cは、円形の形状を有する金属配線313bと、基板311の裏側から金属配線313bに接続する金属配線313aとを有する。また、第2金属配線313Dは、円形の形状を有する金属配線313cと、基板311の裏側から金属配線313cに接続する金属配線313dとを有する。また、金属配線313bと金属配線313cとは基板311上で対向するように配置される。センサ素子31mが備える匂い物質受容層315mの形状は一例として楕円状であるが、これに限定されず、例えば真円であってもよい。
【0187】
図20は、センサ素子群31Aに含まれる1つのセンサ素子31nの構成の一例を示す上面図である。センサ素子31nは、基板311上に配置された電極313(第1金属配線313C、第2金属配線313D)と、電極313上に形成された円状の匂い物質受容層315nと、を備える。センサ素子31nが備える電極313は平行直線状に配置される。なお、図20に示すように、センサ素子31nにおいて、電極313を構成する第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dは、匂い物質受容層315nの範囲内に位置するように配されてもよい。センサ素子31nが備える匂い物質受容層315nの形状は一例として楕円状であるが、これに限定されず、例えば真円であってもよい。
【0188】
前記の構成を備えることにより、各センサ素子の匂い物質受容層315の形状および面積のばらつきに起因しうる測定結果の出力の不安定さが低減され、匂い測定装置100cは、匂い物質を高精度に測定することができる。
【0189】
センサ素子群31Aは、センサ素子31a~31n以外のセンサ素子を複数個含んでいてよい。図5では、センサ素子群31Aは一例として16個のセンサ素子31からなるが、センサ素子31の数はこれに限定されない。
【0190】
センサ素子群31Aが含む複数のセンサ素子31Aが備える匂い物質受容層315は、それぞれ導電性炭素材料および樹脂組成物を含んでいてよい。また、匂い物質受容層315は、さらに界面活性剤を含んでいてよい。
【0191】
センサ素子群31Aが含む複数のセンサ素子31Aが備える匂い物質受容層315は、それぞれ導電性炭素材料および樹脂組成物の含有比率が異なっていてよい。匂い物質受容層315が含む導電性炭素材料および樹脂組成物の含有比率が異なると、センサ素子31の匂い物質に対する感度、および検知特異性も異なる。
【0192】
匂い測定装置100は、上記のように、導電性炭素材料および樹脂組成物の含有比率が異なる匂い物質受容層315を備えるセンサ素子31を複数備えることにより、多種多様な匂い物質を検知することができる。
【0193】
本実施形態に係る匂い測定装置100が含むセンサ素子31の匂い物質受容層315の厚さは、0.1μm以上、100μm以下であってよい。また、各匂い物質受容層315の厚さは、好ましくは、3μm以上、100μm以下であってよい。各匂い物質受容層315の厚さは、例えばレーザー顕微鏡(キーエンス社製:「VK-8700」)を用いて評価することができる。
【0194】
センサ素子31の匂い物質受容層315の厚さが前記の範囲であることにより、各センサ素子31の匂い物質受容層315の厚さのばらつきに起因しうる測定結果の出力の不安定さが低減され、匂い測定装置100は、匂い物質を高精度に測定することができる。
【0195】
匂い物質受容層315の厚さが0.1μm未満である場合、匂い物質受容層315内に分散している導電性炭素材料の粒子径に近い値となるため、匂い物質受容層315の厚さの均一性が担保出来ず、匂い測定装置100が安定した測定結果を出力できない虞がある。一方、匂い物質受容層315の厚さが、100μmより大きい場合、匂い物質受容層315内での匂い物質の拡散時間が長くなるため、匂い測定装置100は、匂い物質を精度高く測定することが難しくなる。
【0196】
センサ素子31の匂い物質受容層315の厚さが前記の範囲であることにより、各センサ素子31の匂い物質受容層315の厚さのばらつきに起因しうる測定結果の出力の不安定さが低減され、匂い測定装置100は、匂い物質を高精度に測定することができる。
【0197】
センサ素子群31Aが含むセンサ素子31の電極313は、それぞれ第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dを有し、第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dは、平行線状、平行曲線状、櫛形状、または同心円状に配置されていてもよい。第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dは、前記のどの形状が採用される場合においても、互いに線対称、または点対称で配置されていることが好ましい。このように第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dが配置されることにより、匂い測定装置100は、気体に含まれる匂い物質を高精度に測定することができる。
【0198】
図12のセンサ素子31cは、第1金属配線313Cと、第2金属配線313Dを有している。また、一例として、第1金属配線313Cは、金属配線313aと、金属配線313bとから構成されており、2本の金属配線は、互いに垂直になるようT字状に配されている。第2金属配線313Bも、第1金属配線313Cと同様に2本の金属配線313c、313dから構成され、2本の金属配線が互いに垂直になるようT字状に配されるよう構成されている。また、第1金属配線313Cと、第2金属配線313Dとは、金属配線313aと、金属配線313cとが向かい合うように平行線状に配置されている。
【0199】
第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dは、特に、互いにT字状に配されていることにより、第1金属配線313Cと、第2金属配線313Dとを好適な距離に設置することができ、電極の抵抗値を安定化させることができる。例えば、電極が櫛形状に配置されている場合は、電極間の距離が短くなり、電極の抵抗値が小さくなり過ぎる虞がある。また、第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dが互いにT字状に配されていることにより、後述のセンサ素子の製造方法の塗布工程において、スラリーが濡れ広がる領域に、濡れ広がりを妨げ得る電極の凹凸部分が存在しないため、スラリーが濡れ広がり易くなる。また、スラリーが濡れ広がり易くなることより、乾燥後の匂い物質受容層315の厚みが一定になるという効果がある。
【0200】
<センサ素子の製造方法>
匂い測定装置100において用いられる、複数種類のセンサ素子31Aを製造する製造方法について説明する。センサ素子31の匂い物質受容層315は、その原料として様々な組成を有するスラリーを使用し得る。
【0201】
本実施形態の製造方法によれば、異なる組成のスラリーを用いても形状、面積、および厚さのばらつきが少ない複数種のセンサ素子を製造することができる。また、スラリーの組成に応じて製造方法を変える必要がないため、製造コストを抑えることができる。
【0202】
図21は、匂い測定装置100において用いられる複数種類のセンサ素子31Aを製造する製造方法の工程を説明するためのフローチャートである。
【0203】
(スラリー調製工程)
まず、導電性炭素材料および樹脂組成物の混合比が異なる複数種類のスラリーが調製される。導電性炭素材料および樹脂組成物の混合比は、所望する匂い物質受容層315の感度および検知特異性によって適宜設定されればよい。スラリーは、導電性炭素材料および樹脂組成物以外に溶媒、添加剤、および界面活性剤を含んでいてもよい(S21)。
【0204】
(電極配置工程)
次に、基板上に電極が配置される(S22)。電極は、第1電極および第2電極を備えていてよい。第1電極および第2電極は、平行直線状、平行曲線状、櫛形状、および同心円状に配置されてもよい。また、第1電極および第2電極は、前記のどの形状が採用される場合においても、互いに線対称、または点対称で配置されていることが好ましい。さらに、第1電極および第2電極は平行直線状又は平行曲線状に配置されていることがより好ましい。第1電極および第2電極は、図12および図13に示すような形状となるよう配置されることが特に好ましい。具体的には、第1電極である第1金属配線313Cが互いに垂直になるようT字状に配された2本の金属配線(313aおよび金属配線313c)によって構成され、第2電極である第2金属配線313Dが互いに垂直になるようT字状に配された2本の金属配線(313cおよび金属配線313d)によって構成され、第1金属配線313Cと、第2金属配線313Dとは、金属配線313aと、金属配線313cとが向かい合うように平行線状に配置されることが好ましい。このように第1金属配線および第2金属配線が配置されることにより、匂い測定装置100は、気体に含まれる匂い物質を高精度に測定することができる。
【0205】
一例として、図12および13においては、1枚の基板311上に一組の電極313第1金属配線313Cおよび第2金属配線313D)を配置されているが、1枚の基板311上に、複数の組の電極313が並んで配置されていてもよい。
【0206】
(領域規定工程)
続いて、電極が配置された基板上に、複数種類のスラリーのそれぞれを塗布する塗布領域が規定される(S23)。塗布領域は、例えば、レジストが配されることによって規定されてもよい。また、塗布工程において、スラリーがノズルから滴下される場合は、塗布領域は、ノズル径に合わせて規定されてもよい。図22は、レジストMが配された後の基板311の概略図である。レジストMは、塗布領域330を規定するように配されている。塗布領域330は、基板311がむきだしの状態である。
【0207】
塗布領域330の広さは、複数種類のスラリーのそれぞれに対して同じになるよう規定されてもよい。すなわち、導電性炭素材料および樹脂組成物の混合比がそれぞれ異なるスラリーであっても、スラリーを塗布するための塗布領域330の面積は、均一であってよい。これによれば、混合比が異なる複数種類のスラリーを用いても、乾燥させた後の複数種類の匂い物質受容層315の面積のばらつきが少なくなる。
【0208】
図22の塗布領域330は、一例として円状であるが、塗布領域330の形状はこれに限定されない。塗布領域330の形状は、円状、または帯状であってよい。これにより、円状、または帯状の匂い物質受容層315が形成される。
【0209】
塗布領域330の形状が円状である場合、円の直径は、0.2mm以上、5mm以下であってよく、塗布領域330の形状が帯状である場合、帯の短方向の長さが0.2mm以上、5mm以下であってよい。これにより、円の直径が0.2mm以上、5mm以下の円状の匂い物質受容層315、また、帯の短方向の長さが0.2mm以上、5mm以下の円状の匂い物質受容層315が形成される。
【0210】
レジストMが配される方法は特に限定されないが、規定された領域にソルダーレジストをシルク印刷し、その後ソルダーレジストをUV硬化させる方法、レジストフィルムを基板に貼付する方法、規定された領域のレジストのみを硬化し、未硬化部分を除去する方法などが挙げられる。
【0211】
(塗布工程)
続いて、複数種類のスラリーのそれぞれが塗布領域330に塗布される(S24)。スラリーが塗布される方法は、従来公知の方法を適用可能であり、ノズルから滴下されてもよく、スプレーされてもよく、スピンコートされてもよい。スラリーが塗布される方法は、特にノズルから滴下される方法が好ましく、例えば武蔵エンジニアリング株式会社製のIMAGE MASTER350PCSmartにSUS製金属ニードルノズル(内径0.1mmΦ,外形0.23mm)を使用することで、所望の塗布形状を得ることができる。
【0212】
(乾燥工程)
最後に、塗布領域330に塗布されたスラリーを乾燥させて、匂い物質受容層315が形成される(S25)。スラリーの乾燥方法としては、特に限定されないが、例えば、常圧で100℃、1時間加熱し、その後真空乾燥機内で減圧しながら100℃で1時間加熱する方法を採用することができる。
【0213】
乾燥工程において、乾燥後の匂い物質受容層315の厚さは、0.1μm以上100μm以下であってよい。乾燥後の匂い物質受容層315の厚さは、好ましくは、3μm以上、100μm以下であってよい。匂い物質受容層315の厚さが前記の範囲であれば、センサ素子31が匂い物質を安定して測定することができる。匂い物質受容層315の厚さが0.1μm未満である場合、匂い物質受容層315内に分散している導電性炭素材料の粒子径に近い値となるため、匂い物質受容層315の厚さの均一性が担保出来ず、匂い測定装置100が安定した測定結果を出力できない虞がある。一方、匂い物質受容層315の厚さが、100μmより大きい場合、匂い物質受容層315内での匂い物質の拡散時間が長くなるため、匂い測定装置100は、匂い物質を精度高く測定することが難しくなる。
【0214】
上述のように、本実施形態に係る製造方法は、スラリー調製工程と、電極配置工程と、領域規定工程と、塗布工程と、乾燥工程とを含む。このような製造方法を採用することにより、導電性炭素材料および樹脂組成物の混合比が異なる複数種類のスラリーを用いても、匂い物質受容層315の形状、面積、および厚さのばらつきが少ない複数種のセンサ素子31を製造することができる。また、スラリーの組成に応じて製造方法を変える必要がないため、製造コストを抑えることができる。
【0215】
特に、領域規定工程において、塗布領域が規定されることにより、後の塗布工程においてスラリーのドロップレットの濡れ広がりが良好になる。例えば、塗布領域をレジストで規定した場合、基板のうち、レジストが存在する部分と、存在しない部分とで、表面粗さが異なる。レジストが存在しない部分では、基板がむきだしの状態のため、表面粗さが大きく、表面張力が小さくなる。これにより、基板がむきだしである塗布領域においては、スラリーのドロップレットの濡れ広がりが良好になる。
【0216】
また、領域規定工程において、塗布領域が配されることにより、後の塗布工程においてスラリーの濡れ広がりが規制され、匂い物質受容層315と、電極との位置関係が一定になる。例えば、塗布領域をレジストで規定した場合、レジストの境界において段差が生じることにより、スラリーの濡れ広がりが規制され、匂い物質受容層315と、電極との位置関係が一定になる。
【0217】
〔変形例〕
図1では、対象試料受入部50の内部から出た第1気体および第2気体が管体93およびセンサチャンバ60を通る構成を示したが、この構成に限定されない。匂い測定装置100の対象試料受入部50は、センサチャンバ60に対して大きい容積を持つため、測定時に対象試料受入部50の内部の第1気体の全量をセンサチャンバ60に送り出す必要はない。また、測定後に、対象試料受入部50の内部を、第2気体を用いてパージする場合、対象試料受入部50とセンサチャンバ60とが接続されている必要はない。そこで、匂い測定装置100は、管体93にバルブ(不図示)を配置して、対象試料受入部50の内部から出た第1気体および第2気体がセンサチャンバ60を通さずに排気可能な構成であってもよい。
【0218】
<ソフトウェアによる実現例>
推定装置10、10aの制御ブロック(特に制御部1)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0219】
後者の場合、推定装置10、10aは、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路等を用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)等をさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0220】
〔まとめ〕
本開示の態様1に係る複数のセンサ素子の製造方法は、導電性炭素材料、樹脂組成物、および界面活性剤を含み、前記導電性炭素材料、前記樹脂組成物、および前記界面活性剤の混合比が異なる複数種類のスラリーを調製するスラリー調製工程と、基板311上に電極313を配置する電極配置工程と、電極313が配置された基板上に、複数種類のスラリーのそれぞれを塗布する塗布領域330を規定する領域規定工程と、複数種類のスラリーのそれぞれを塗布領域330に塗布する塗布工程と、塗布領域330に塗布された前記スラリーを乾燥させて匂い物質受容層を形成する乾燥工程と、を含み、前記塗布領域の面積は、0.0003平方センチメートル以上、0.2平方センチメートル以下である。
【0221】
本開示の態様2に係る製造方法は、前記態様1において、対向する前記電極間において、前記匂い物質受容層の表面粗さ(Sa)は0.5μm以上5μm以下であってよい。
【0222】
本開示の態様3に係る製造方法は、前記態様1または2の何れかにおいて、塗布領域330の形状は、円状、または帯状であり、塗布領域330の形状が円状である場合、円の直径が0.2mm以上、5mm以下であり、塗布領域330の形状が帯状である場合、帯の短方向の長さが0.2mm以上、5mm以下であってよい。
【0223】
本開示の態様4に係る製造方法は、前記態様1~3の何れかにおいて、匂い物質受容層を形成する工程において、乾燥後の匂い物質受容層の厚さは0.1μm以上100μm以下であってよい。
【0224】
本開示の態様5に係る製造方法は、前記態様1~4の何れかにおいて、第1電極313Cおよび第2電極313Dを配置する工程において、第1電極313Cおよび第2電極313Dを、平行直線状、平行曲線状、櫛形状、または同心円状に配置してよい。
【0225】
本開示の態様6に係るセンサ素子は基板上に配置された電極と、前記電極上に形成された匂い物質受容層と、を備え、前記匂い物質受容層は、導電性炭素材料および樹脂組成物を含み、前記電極が配置された基板上に、前記導電性炭素材料および前記樹脂組成物の混合比が異なる複数種類のスラリーのそれぞれが、前記複数種類のスラリーのそれぞれを塗布する塗布領域に塗布され、塗布された前記複数種類のスラリーが乾燥することで形成され、前記塗布領域の面積は、0.0003平方センチメートル以上、0.2平方センチメートル以下である。
【0226】
本開示の態様7に係るセンサ素子は、前記態様6において、匂い物質受容層の厚さが、0.1μm以上100μm以下である。
【0227】
本開示の態様8に係る匂い測定装置は、前記態様6または7に記載のセンサ素子を複数備え、複数のセンサ素子の各々は、導電性炭素材料、樹脂組成物、および前記界面活性剤の含有比率が異なる匂い物質受容層を備える。
【実施例0228】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0229】
実施例および比較例で使用する各種材料に関する説明を以下に示す。
【0230】
<樹脂(A)>
A1:ポリアミド樹脂(後述の製造例1に基づいて製造)
<界面活性剤(B)>
B1:カーボンブラック分散剤(ディスパロンDA-325、楠本化成(株)製)
<導電性炭素材料(C)>
C1:カーボンブラック(SuperC65、MTI Corporation社製)
<溶剤(D)>
D1:N-メチル-2-ピロリドン
樹脂(A)の製造例1を示す。
【0231】
製造例(ポリエステル樹脂P1の製造)
撹拌機、温度計、加熱冷却装置、窒素導入管、還流管、コック付き脱水管および減圧装置を備えた反応容器に、キシレン20部、12-ヒドロキシステアリン酸220部およびアジピン酸10部を投入し、窒素置換後、密閉下、撹拌しながら160℃まで昇温した。同温度で4時間撹拌した後、減圧装置により減圧しながら反応により生成した水を除去しながら、さらに4時間撹拌を継続した。この時、溜出物中のキシレンは、生成水と分離し、反応容器に返流した。これにより、酸価33mgKOH/g、重量平均分子量3,300のポリエステル樹脂P1のキシレン溶液(固形分濃度91%)を得た。
【0232】
以下、樹脂組成物の実施例を示す。
【0233】
<樹脂組成物1>
下記の成分を下記の量でサンプル瓶に量り取り、混合物を得た。
【0234】
樹脂A1(ポリアミド樹脂) 80重量部
導電性炭素材料C1 20重量部
溶剤D1 400重量部
当該混合物を、自転/公転ミキサー((株)シンキー製ARE-310)を用いて2000回転/分で20分間撹拌して、スラリーを得た。こうして当該スラリーとして樹脂組成物1を得た。
【0235】
以下、センサ素子の実施例および比較例を示す。
【0236】
<センサ用基板K-1の製造>
〔基板の製造〕
本実施例では、縦150mm、横100mm、厚み1.0mmのガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板FR-4.0(パナソニック電工(株)製)を用い、当該積層板上に設計したセンサ用基板を、後述の方法により、縦方向に16行、横方向に16列(合計256個分)製造した。この時、余白部分として上下部分に各11mm、左右部分に各10mmを確保した。
【0237】
〔配線パターンの設計〕
基板サイズが縦8mm、横5mmの、図12に示したT字型の電極が向かい合う形状であり、313aおよび313cの長さが2.5mm、313bおよび313dの長さが2mm、313aと313cとの間隔が1.5mm、各電極の幅が0.3mmである配線パターンを、上述の積層板上に合計256個分設計した。さらに、匂いセンサの他の部材と電気的に接続するための導電部材であるピンを挿す部分として、第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dが互いに対向しない方の端部に直径1mmの円形状の導通部を設け、裏面の同じ位置にも同様に直径1mmの円形状の導通部を設計した。
【0238】
〔スルーホール作製工程〕
各センサ用基板にピンを実装するため、直径1mmの円形状の導通部分にNCドリルマシンを用いてスルーホール用の穴を開け、まず無電解銅めっき、次いで硫酸銅めっきを施して厚さ25μmの銅めっき層を有するスルーホールを作製した。
【0239】
〔パターン形成工程〕
センサ用基板の両面に感光性ドライフィルムレジスト(商品名「フォテックRD-3025」、膜厚25μm、昭和電工マテリアルズ(株)製)をロールラミネータ(圧力0.4MPa、温度110℃、ラミネート速度0.4m/min)を用いて貼り付けた。その後、紫外線露光機にて感光性ドライフィルムレジスト側から表面用ネガ型フォトマスクおよび裏面用ネガ型フォトマスクを介し、紫外線(波長355nm)を85mJ/cm照射し、未露光部分の感光性ドライフィルムレジストを35℃の5重量%の炭酸ナトリウム水溶液で除去した。その後、塩化第二鉄水溶液を用いて、感光性ドライフィルムレジストが除去されむき出しになった部分の銅箔をエッチングにより除去し、35℃の10重量%水酸化ナトリウム水溶液を用いて、露光部分の感光性ドライフィルムレジストを除去した。
【0240】
この時に使用した表面用ネガ型フォトマスクは、設計したセンサ用基板を、縦方向に8mmおきに16行、横方向に5mmおきに16列配置したパターン、裏面用ネガ型フォトマスクは、表面用ネガ型フォトマスクの円形状部分と一致する位置に直径2mmの円形状を配置したパターンを使用した。
【0241】
〔ソルダーレジスト工程〕
二液性アルカリ現像型ソルダーレジストインキ(太陽インキ製造(株)製、商品名「PSR-4000 AUS320/CA-40 AUS320」)を、表面側は、銅箔部分、スルーホール部分、および円形の匂い物質受容層315c部分(図14において斜線で示す部分)を除く部分、裏面側は、銅箔部分およびスルーホール部分を除く部分にパターン印刷し、80℃で30分間加熱し仮乾燥した後、紫外線(波長355nm)を600mJ/cm照射し、未露光部分を35℃の1重量%の炭酸ナトリウム水溶液で除去した。その後、150℃で60分間加熱しソルダーレジストインキを硬化させた。
【0242】
〔表面処理工程〕
センサ用基板を、脱脂、ソフトエッチング、および酸洗浄し、触媒付与液(奥野製薬工業(株)製、商品名「ICPアクセラCOA」)に25℃で5分間浸漬後、水洗し、90℃の無電解Niめっき液(奥野製薬工業(株)製、商品名「トップニコロンSA-98-MLF」100mlおよび「トップニコロンSA-98-1LF」55mlで建浴)に6分間浸漬して3μmの厚さのNi被膜を形成し、その後、純水にて洗浄を実施した。
【0243】
次に、センサ用基板を、置換型金めっき液(小島化学薬品(株)製、商品名「オーエル2300」)に85℃で5分間浸漬し、Ni被膜上に0.05μmの厚さの置換金被膜を形成し、銅箔部分が、ニッケル及び金のめっきに被覆された基板を得た。
【0244】
〔基板のVカット〕
Vカットマシンを用いて、1個のセンサ用基板ごとに切り離すことができるように縦8mm、横5mmのサイズごとにVカットを行った。
【0245】
〔ピンの実装〕
作製したスルーホールにIC用端子((株)マックエイト製、商品名「ハイブリットIC用端子」、φ0.6mm、長さ5mm)をはんだ付けした。これらによりセンサ用基板K-1を合計256個作製した。
【0246】
これによりセンサ用基板K-2を作製した。
【0247】
<センサ素子>
[センサ素子E1]
武蔵エンジニアリング株式会社製のIMAGE MASTER350PCSmartにSUS製金属ニードルノズル(内径0.1mmΦ,外形0.23mm)を取り付けたものを用いて、作製したセンサ用基板K-1上に樹脂組成物を滴下することで、金属配線部に塗布した。塗布後、100℃に加熱した循風乾燥機で3時間乾燥させた。乾燥後、室温まで冷却することで、センサ素子E1を作製した。なお、一例としてのセンサ素子E1における匂い物質受容層315cの直径は2mmであり面積は0.031cmである。また、一例としてのセンサ素子E1における匂い物質受容層315cの厚さは5μmである。また、同様の操作を10回繰り返し行い、各センサ素子につき10個ずつ作製した。以上のように作製することで、センサ素子E1は、図12に示すような円形の匂い物質受容層315cを有する。
【0248】
[センサ素子E2]
ソルダーレジスト工程において、二液性アルカリ現像型ソルダーレジストインキを、帯状の匂い物質受容層315d部分(図13において斜線で示す部分)を除く部分にパターン印刷したこと以外は、センサ素子E1と同様にして、実施例2に係るセンサ素子E2を作製した。上述のように作製することで、センサ素子E2は、図13に示すような帯状の匂い物質受容層315dを有する。
【0249】
[センサ素子E3]
最終的な匂い物質受容層315の面積を0.008cmとすること以外は、センサ素子E1と同様にして、実施例3に係るセンサ素子E3を作製した。
【0250】
[センサ素子E4]
最終的な匂い物質受容層315の面積を0.071cmとすること以外は、センサ素子E1と同様にして、実施例4に係るセンサ素子E4を作製した。
【0251】
[センサ素子E5]
最終的な匂い物質受容層315の面積を0.0003cmとすること以外は、センサ素子E1と同様にして、実施例5に係るセンサ素子E5を作製した。
【0252】
[センサ素子E6]
最終的な匂い物質受容層315の面積を0.196cmとすること以外は、センサ素子E1と同様にして、実施例6に係るセンサ素子E6を作製した。
【0253】
[センサ素子E7]
最終的な匂い物質受容層315の厚さを1μmとすること以外は、センサ素子E1と同様にして、実施例7に係るセンサ素子E7を作製した。
【0254】
[センサ素子E8]
最終的な匂い物質受容層315の厚さを50μmとすること以外は、センサ素子E1と同様にして、実施例8に係るセンサ素子E8を作製した。
【0255】
[センサ素子E9]
最終的な匂い物質受容層315の厚さを0.1μmとすること以外は、センサ素子E1と同様にして、実施例9に係るセンサ素子E9を作製した。
【0256】
[センサ素子E10]
最終的な匂い物質受容層315の厚さを100μmとすること以外は、センサ素子E1と同様にして、実施例10に係るセンサ素子E10を作製した。
【0257】
[センサ素子E11]
第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dを図17に示すような平行曲線状に配置すること以外は、センサ素子E1と同様にして、実施例11に係るセンサ素子E11を作製した。
【0258】
[センサ素子E12]
第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dを図16に示すような櫛型状に配置すること以外は、センサ素子E1と同様にして、実施例12に係るセンサ素子E12を作製した。
【0259】
[センサ素子E13]
第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dを図15に示すような同心円状に配置すること以外は、センサ素子E1と同様にして、実施例13に係るセンサ素子E13を作製した。
【0260】
[センサ素子E14]
作製したセンサ用基板K-1に、バーコーター(No.4)を用いて、樹脂組成物を金属配線の露出部に塗布すること以外は、センサ素子E1と同様にして、比較例1に係るセンサ素子E14を作製した。
【0261】
[センサ素子E15]
ソルダーレジスト工程を省略すること以外は、センサ素子E1と同様にして、比較例2に係るセンサ素子E15を作製した。
【0262】
[センサ素子E16]
ピペットマン(ノズル)を、樹脂組成物を金属配線の露出部に塗布すること以外は、センサ素子E1と同様にして、比較例3に係るセンサ素子E16を作製した。
【0263】
[センサ素子E17]
匂い物質受容層315の形状を四角形状とすること以外は、センサ素子E1と同様にして、比較例4に係るセンサ素子E17を作製した。
【0264】
[センサ素子E18]
最終的な匂い物質受容層315の面積を0.0001cmとすること以外は、センサ素子E1と同様にして、比較例5に係るセンサ素子E18を作製した。
【0265】
[センサ素子E19]
最終的な匂い物質受容層315の面積を0.035cmとすること以外は、センサ素子E1と同様にして、比較例6に係るセンサ素子E19を作製した。
【0266】
[センサ素子E20]
最終的な匂い物質受容層315の厚さを0.05μmとすること以外は、センサ素子E1と同様にして、比較例7に係るセンサ素子E20を作製した。
【0267】
[センサ素子E21]
最終的な匂い物質受容層315の厚さを150μmとすること以外は、センサ素子E1と同様にして、比較例8に係るセンサ素子E21を作製した。
【0268】
<匂いセンサ1~13、c1~c8の構築>
検体(匂い物質)を導入する導入口および温度調整用のアルミブロック恒温槽を備えた対象試料受入部と、気体供給用の窒素ガスボンベ、マスフローコントローラ、センサチャンバとを備えた筐体を作製した。この時、対象試料受入部の容積は、センサチャンバの容積の5倍となるように設計した。
【0269】
センサの端子を外部へ取り出すためのリード線をセンサ素子E1にはんだ付けし、センサ素子E1をセンサチャンバ内に設置した。センサ素子E1に対し、センサチャンバ外部に取り出したリード線の末端に5Vの定電圧電源と300Ωの固定抵抗を直列に接続し、センサ素子の両端子にかかる電圧を測定するための電圧計を接続した。こうしてセンサ素子E1を有する匂いセンサ1を構成した。
【0270】
また、センサ素子E2~E13を用いる以外は匂いセンサ1と同様にして、実施例2~13に係る匂いセンサ2~13を構成した。また、センサ素子E14~E21を用いる以外は匂いセンサ1と同様にして、比較例1~8に係る匂いセンサc1~c8を構成した。
【0271】
[抵抗値の変動係数の測定]
実験室内(温度23℃、湿度40%)に設置した匂いセンサ1~13および匂いセンサc1~c8のそれぞれについて、アルミブロック恒温槽を用いて、対象試料受入部内部を30℃に温調した上で、匂いセンサの導入口に検体としてメロン果汁を5mL入れた。その後、気体供給用の窒素ガスボンベから窒素を対象試料受入部へ、マスフローコントローラによって1L/minの流量で5秒間流し、センサチャンバを経由し外部に排出した。その後、対象試料受入部を経由せずに、直接窒素ガスボンベからセンサチャンバへ、マスフローコントローラによって5L/minの流量で60秒間流し、そのまま外部に排出した。この操作により、センサ素子に付着した匂い物質を除去した。この間、センサ素子に接続されている電圧計の測定値をコンピュータで記録した。こうして、匂いセンサにおける4個のセンサ素子のそれぞれの抵抗値を測定した。各匂いセンサの各センサ素子について、検体導入前の抵抗値および検体導入中の抵抗値の差の最大値を算出した。この匂い測定操作を30回繰り返し行った。そして、各センサ素子について得られた最大値のデータの標準偏差σおよび平均値μを算出し、各センサ素子の抵抗値の変動係数(=σ/μ)を求めた。
【0272】
[表面粗さ(Sa)の測定]
作成したセンサ素子E1~E20のそれぞれについて、匂い物質受容層315の表面粗さ(Sa)を測定した。表面粗さは、「ISO 25178」に従って測定された。
【0273】
実施例1~13、および比較例1~8について、実験結果としての抵抗値を測定し、抵抗値の変動係数を評価した。各センサ素子の構成および評価結果を表1~3に示す。
【0274】
【表1】
【0275】
【表2】
【0276】
【表3】
【0277】
抵抗値の変動係数が0.15以下、好ましくは0.10以下、より好ましくは0.08以下であれば、一体の匂いセンサにおける複数のセンサ素子間での性能のばらつきが十分に小さく、実用上問題ないと判定できる。抵抗値の変動係数は、当該ばらつき低減の観点では、小さいほど好ましい。
【0278】
表1~3において、「◎」は一体の匂いセンサにおける複数のセンサ素子間での性能のばらつきが著しく小さく、匂いセンサの性能が実用上特に好ましいことを示し、「○」は匂いセンサの性能が実用上好ましいことを示し、「△」は匂いセンサの性能が実用上問題ないことを示し、「×」は匂いセンサの性能が不良であることを示す。
【0279】
<考察>
表1~2に示されるように、実施例に係る匂いセンサ1~13(実施例1~13)は、いずれも、実用上問題ないか、あるいは実用上好ましい性能を有している。一方、表3に示されるように、比較例にかかる匂いセンサc1~c8(比較例1~8)は、いずれも性能不良であった。
【0280】
実施例1~2間での対比によれば、センサ素子が備える匂い物質受容層315の形状が円状または帯状であれば、匂いセンサは実用上問題ない性能を有することが分かった。
【0281】
実施例1および3~6間での対比によれば、センサ素子が備える匂い物質受容層315の面積が0.0003cm~0.196cmの範囲内であれば、匂いセンサは実用上問題ない性能を有することが分かった。特に、匂い物質受容層315の面積が0.008cm~0.071cmの範囲内である構成は、それ以外の面積である構成よりも実用上好ましいことが分かった。
【0282】
実施例1および7~10間での対比によれば、センサ素子が備える匂い物質受容層315の厚さが0.1μm~100μmの範囲内であれば、匂いセンサは実用上問題ない性能を有することが分かった。特に、匂い物質受容層315の厚さが1μm~50μmの範囲内である構成は、それ以外の厚さである構成よりも実用上好ましいことが分かった。
【0283】
実施例1および11~13間での対比によれば、第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dが平行直線状、平行曲線状、櫛型状、または同心円状に配置されていれば、匂いセンサは実用上問題ない性能を有することが分かった。特に、第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dが平行直線状または平行曲線状に配置されている構成は、櫛型状または同心円状に配置されている構成よりも実用上好ましいことが分かった。
【0284】
実施例1と比較例1との対比によれば、バーコーター(No.4)を用いた塗布方法を実施したセンサ素子E14よりも、塗工機を用いた塗布方法を実施したセンサ素子E1の方が、匂い物質受容層315の品質が安定し、センサ素子間での性能のばらつきが低下することが分かった。このように、比較例1の匂いセンサc1よりも実施例1の匂いセンサ1の方が実用上好ましい構成であることが分かった。
【0285】
実施例1と比較例2との対比によれば、レジストによる規制を行わずに匂い物質受容層315を形成したセンサ素子E15よりも、レジストによる規制を行って匂い物質受容層を形成したセンサ素子E1の方が、匂い物質受容層315の品質が安定し、センサ素子間での性能のばらつきが低下することが分かった。このように、比較例2の匂いセンサc2よりも実施例1の匂いセンサ1の方が実用上好ましい構成であることが分かった。
【0286】
実施例1と比較例3との対比によれば、ピペットマン(ノズル)を用いた塗布方法を実施したセンサ素子E16よりも、塗工機を用いた塗布方法を実施したセンサ素子E1の方が、匂い物質受容層315の品質が安定し、センサ素子間での性能のばらつきが低下することが分かった。このように、比較例3の匂いセンサc3よりも実施例1の匂いセンサ1の方が実用上好ましい構成であることが分かった。
【0287】
実施例1および2と比較例4との対比によれば、匂い物質受容層315の形状を四角形状としたセンサ素子E17よりも、匂い物質受容層315の形状を円形または帯状の形状としてセンサ素子E1およびE2の方が、匂い物質受容層315の品質が安定し、センサ素子間での性能のばらつきが低下することが分かった。比較例4のセンサ素子E17は四角形状の匂い物質受容層315を有しており、スラリーが四隅へ十分に行き渡らなかったことにより匂い物質受容層315の厚みにばらつきが生じたことが原因と考えられる。このように、比較例4の匂いセンサc4よりも実施例1の匂いセンサ1および実施例2の匂いセンサ2の方が実用上好ましい構成であることが分かった。
【0288】
実施例1、3、および5と比較例5との対比によれば、センサ素子が備える匂い物質受容層315の面積が0.0003cmを下回るセンサ素子E18よりも、匂い物質受容層315の面積が0.0003cm以上の面積を有するセンサ素子E1、E3、およびE5の方が、匂い物質受容層315の品質が安定し、センサ素子間での性能のばらつきが低下することが分かった。このように、比較例5の匂いセンサc5よりも実施例1、3、および5の匂いセンサ1、3、および5の方が実用上好ましい構成であることが分かった。
【0289】
実施例4、および6と比較例6との対比によれば、センサ素子が備える匂い物質受容層315の面積が0.02cmを上回るセンサ素子E19よりも、匂い物質受容層315の面積が0.02cm以下の面積を有するセンサ素子E4、およびE6の方が、匂い物質受容層315の品質が安定し、センサ素子間での性能のばらつきが低下することが分かった。このように、比較例6の匂いセンサc6よりも実施例4の匂いセンサ4および実施例6の匂いセンサ6の方が実用上好ましい構成であることが分かった。
【0290】
実施例7および9と比較例7との対比によれば、センサ素子が備える匂い物質受容層315の厚さが0.1μm未満であるセンサ素子E20よりも、匂い物質受容層315の厚さが0.1μm以上であるセンサ素子E7およびE9の方が、匂い物質受容層315の品質が安定し、センサ素子間での性能のばらつきが低下することが分かった。このように、比較例7の匂いセンサc7よりも実施例7の匂いセンサ7および実施例9の匂いセンサ9の方が実用上好ましい構成であることが分かった。
【0291】
実施例8および10と比較例8との対比によれば、センサ素子が備える匂い物質受容層315の厚さが100μmを超えるセンサ素子E21よりも、匂い物質受容層315の厚さが100μm以下であるセンサ素子E8およびE10の方が、匂い物質受容層315の品質が安定し、センサ素子間での性能のばらつきが低下することが分かった。このように、比較例8の匂いセンサc8よりも実施例8の匂いセンサ8および実施例10の匂いセンサ10の方が実用上好ましい構成であることが分かった。
【0292】
以上のように、導電性炭素材料および樹脂組成物を含み、前記導電性炭素材料および前記樹脂組成物の混合比が異なる複数種類のスラリーを調製するスラリー調製工程と、基板上に電極を配置する電極配置工程と、前記電極が配置された基板上に、前記複数種類のスラリーのそれぞれを塗布する塗布領域を規定する領域規定工程と、前記複数種類のスラリーのそれぞれを前記塗布領域に塗布する塗布工程と、前記塗布領域に塗布された前記スラリーを乾燥させて匂い物質受容層315を形成する乾燥工程と、を含み、前記塗布領域の面積は、0.0003平方センチメートル以上、0.2平方センチメートル以下である製造方法によって製造された匂い測定装置は、繰り返し安定した測定を行うことができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0293】
本発明は、医療用、ガス検知用、農業用およびその他工業や生活に用いられる匂い識別センサとして有用である。例えば、農家が香りのある作物の成熟具合を前記匂い識別センサを用いて判定して、最適な収穫タイミングを管理することもできる。また、食品または化粧品などの製品の匂いを匂い識別センサでデータ化して、製品開発の効率向上および品質安定化を支援することもできる。
【符号の説明】
【0294】
10、10a 推定装置
11 測定値取得部(取得部)
12 変化パターン解析部(解析部)
16 推定部
30、30b 匂いセンサ
31、31b、31c、31d センサ素子
32、32b 定電圧電源(電源)
33、33b 電圧計(測定機器)
100 匂い測定装置
313A、313C 第1金属配線
313B、313D 第2金属配線
315、315c~315n 匂い物質受容層
313C 第1電極
313D 第2電極
330 塗布領域
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