(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171242
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】鋳造金型
(51)【国際特許分類】
B22C 9/08 20060101AFI20231124BHJP
B22D 18/04 20060101ALI20231124BHJP
B22D 17/22 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
B22C9/08 F
B22D18/04 P
B22D17/22 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039259
(22)【出願日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2022082010
(32)【優先日】2022-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000243434
【氏名又は名称】本田金属技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(72)【発明者】
【氏名】本橋 直恭
(72)【発明者】
【氏名】假屋 智一郎
【テーマコード(参考)】
4E093
【Fターム(参考)】
4E093PA03
(57)【要約】
【課題】方案部にV字部を有する多数個取り鋳型において、鋳造サイクルタイムの短縮が達成できる技術を提供する。
【解決手段】鋳造金型20は、湯口25と、この湯口25から延びる主湯道26と、この主湯道26から分岐する2本の分岐湯道27と、これらの分岐湯道27の先に各々設けられるキャビティ28とを有する2個取り鋳型である。主湯道26と分岐湯道27との接続部位は、V字状を呈するV字部29とされる。V字部29の谷底を渡るように延びて分岐湯道27の入口同士を繋ぐ空洞31が設けられている。空洞31により、鋳物のV字方案部にブリッジ状のリブを形成する。このリブはV字方案部を補強し、V字方案部の破損を防止する。破損が防止されるため、鋳造サイクルタイムの短縮が可能となる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数個取り鋳型であり、
湯口と、この湯口から延びる主湯道と、この主湯道から分岐する複数本の分岐湯道と、これらの分岐湯道の先に各々設けられるキャビティとを有する鋳造金型であって、
この鋳造金型の断面において、
前記主湯道と前記分岐湯道とはY字状に配置され、前記分岐湯道同士はV字状に配置され、
前記主湯道を通った溶湯が当たって前記分岐湯道へ分かれる部位を、V字部と呼ぶときに、前記V字部の谷底を渡るように延びて前記分岐湯道の入口同士を繋ぐ空洞が設けられていることを特徴とすることを特徴とする鋳造金型。
【請求項2】
請求項1記載の鋳造金型であって、
前記空洞の長手軸に直交する面で切断してなる断面において、この断面には、前記V字部の谷底を規定する谷底線と、この谷底線の一端に繋がる第1空洞輪郭線と、前記V字部の谷底線の他端に繋がる第2空洞輪郭線とが存在し、
前記空洞は、前記V字部の谷底線の両端に各々1条、合計2条設けられていることを特徴とする鋳造金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数個取り鋳型に関する。
【背景技術】
【0002】
車両を例に取ると、ステアリング系部品にナックルが含まれる。ナックルは、左車輪に付設する左ナックルと、右車輪に付設する右ナックルとからなる。
1個の鋳造金型に、左ナックル用のキャビティと右ナックル用のキャビティを設け、1回の注湯で、左ナックルと右ナックルとを鋳造することが、よく行われている。このように、1個の鋳造金型で、2個又は3個以上の製品を得ることは、多数個取りと呼ばれる。
【0003】
このような多数個取りに供する鋳型が、色々提案されてきた(例えば、特許文献1(
図5)参照)。
【0004】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図8は従来技術により鋳造された鋳物の外形図である。
鋳物100は、製品部101と、方案部111とからなる。なお、鋳造技術における方案は、鋳造金型の内部の設計を指す用語であるが、本明細書では、鋳物の非製品部分を方案部と呼ぶ。
【0005】
製品部101は、第1製品鋳物102と第2製品鋳物103とからなる。
方案部111には、V字方案部112が含まれる。
【0006】
方案部111は、湯口切断機と呼ばれるカッターにより、第1製品鋳物102と第2製品鋳物103とから分離される。分離された方案部111は、回収され、再溶解される。 一方、第1製品鋳物102と第2製品鋳物103とは、各々機械加工が施されて製品となる。
【0007】
一般に鋳造金型は溶湯より低温である。注湯後に溶湯は鋳造金型で冷却されて凝固する。鋳造金型が冷媒通路を有するときは、溶湯の冷却及び凝固が促される。
注湯後に製品部101が冷却され、遅れて方案部111が冷却される。さらに方案部111の中心部113が最も遅れて冷却される。結果、方案部111の中心部113は、最も遅れて凝固する。
【0008】
中心部113が凝固してから鋳造金型を開く。鋳造金型が固定型と可動型からなる場合、鋳物100は可動型に付いた状態で固定型から離れる。次に、取り出しロボットにより、可動型から鋳物100を取り出す。以上が、標準的な鋳造工程である。
【0009】
ところで、近年、生産性の向上が求められ、その一環として鋳造サイクルタイムの短縮が検討される。
鋳造サイクルタイムを短縮するために本発明者らは、方案部111の中心部113が未凝固の段階で、鋳造金型を開き、鋳造金型から鋳物100を取り出すことを試みた。
【0010】
すると、鋳物100が割れ、鋳物100の一部が固定型に残り、鋳物100の残部が可動型と一緒になる。この残部は取り出しロボットで取り出す。
一方、固定型に残った鋳物100の一部は別途取り出す必要があり、この処置に手間が掛かり、鋳造サイクルタイムの短縮は、達成できなかった。
【0011】
しかし、生産性の向上が求められ中、鋳造サイクルタイムの短縮が達成できる技術が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、方案部にV字部を有する多数個取り鋳型において、鋳造サイクルタイムの短縮が達成できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に係る発明は、多数個取り鋳型であり、
湯口と、この湯口から延びる主湯道と、この主湯道から分岐する複数本の分岐湯道と、これらの分岐湯道の先に各々設けられるキャビティとを有する鋳造金型であって、
この鋳造金型の断面において、
前記主湯道と前記分岐湯道とはY字状に配置され、前記分岐湯道同士はV字状に配置され、
前記主湯道を通った溶湯が当たって前記分岐湯道へ分かれる部位を、V字部と呼ぶときに、前記V字部の谷底を渡るように延びて前記分岐湯道の入口同士を繋ぐ空洞が設けられていることを特徴とすることを特徴とする。
【0015】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の鋳造金型であって、
前記空洞の長手軸に直交する面で切断してなる断面において、この断面には、前記V字部の谷底を規定する谷底線と、この谷底線の一端に繋がる第1空洞輪郭線と、前記V字部の谷底線の他端に繋がる第2空洞輪郭線とが存在し、
前記空洞は、前記V字部の谷底線の両端に各々1条、合計2条設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明では、鋳造金型内部のV字部に空洞を設けた。
キャビティにより製品部が鋳造され、主湯道と分岐湯道とで方案部が鋳造され、V字部でV字方案部が形成される。このときに、空洞によりV字方案部にブリッジ状のリブが形成される。このリブが補強作用を発揮し、方案部の破断を防止する。
リブの補強作用により、方案部の中心部が未凝固状態であっても、方案部の強度が確保され、鋳造金型から鋳物を良好に取り出すことができる。
結果、本発明により、方案部にV字部を有する多数個取り鋳型において、鋳造サイクルタイムの短縮が達成できる技術が提供される。
【0017】
請求項2に係る発明では、空洞は、V字部の谷底線の両端に各々1条、合計2条設けた。
谷底線は主湯道の上面に相当する。谷底線に直交する面が主湯道の側面に相当する。
主湯道において、溶湯は鋳造金型により上面と側面とから冷却される。空洞は上面と側面との交わる部位(交わる部位の近傍を含む。)に設けられているため、空洞を満たす溶湯は速やかに冷却され、強度の大きなリブとなる。
すなわち、空洞を2条とし、強度の大きな2条のリブをV字方案部に形成する。鋳造サイクルタイムを更に短縮しても方案部が健全のまま鋳物を鋳造鋳型から取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図7】(a)~(c)は変更例を説明する断面図である。
【
図8】従来技術により鋳造された鋳物の外形図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例0020】
[鋳造設備]
図1に示すように、鋳造設備10は、例えば、保持炉11と、電磁ポンプ12と、ストーク13と、鋳造金型20と、製品取り出しロボット14とからなる。
保持炉11は、ヒータ15を備え、アルミニウムの溶湯16を貯留する炉である。
電磁ポンプ12は、溶湯16を汲み上げ、加圧して鋳造金型20へ送る機器である。
【0021】
鋳造金型20の詳細な説明は後述するが、鋳造金型20は、例えば、固定型21と、この固定型21に載せる可動型22とからなる。
固定型21は、ストーク13上に静止しているため固定型と呼ばれる。
可動型22は、シリンダ23で昇降されるため可動型と呼ばれる。
製品取り出しロボット14は、可動型22の下に潜って可動型22から鋳物を取り出す機器である。
【0022】
なお、鋳造設備10は、低圧鋳造設備、ダイカスト設備であってもよく、電磁ポンプ12を用いた設備に限定されない。
【0023】
[鋳造金型]
図2に示すように、鋳造金型20は、例えば、固定型21と可動型22とからなる。鋳造金型20は、湯口25と、この湯口25から延びる太い柱状の主湯道26と、この主湯道26から分岐する複数本(この例では2本)の分岐湯道27と、これらの分岐湯道27の先に各々設けられるキャビティ28とを有する多数個(この例では2個)取り鋳型である。なお、鋳造金型20は、固定型21と可動型22に中間型及び/又はスライド型を加えてなる複雑な型であってもよい。
【0024】
[V字部]
主湯道26と複数の分岐湯道27とは、Y字36に沿って配置される。Y字36を上部の「V」と下部の「I」とに区分したときに、上部の「V」をV字37と呼ぶ。すると、複数の分岐湯道27はV字37を沿って配置される。すなわち、鋳造金型20の断面において、主湯道26と分岐湯道27とはY字状に配置され、分岐湯道27同士はV字状に配置される。
【0025】
なお、Y字36は、縦向き中心軸に対称な綺麗なY字の他、非対称な崩れたY字であってもよい。同様に、V字37は、縦向き中心軸に対称な綺麗なV字の他、崩れたV字であってもよい。
【0026】
溶湯(
図1、符号16)は湯口25を通り、主湯道26を上昇し、可動型22の下へ突出する部位に当たって、分かれる。主湯道26を通った溶湯が当たって分岐湯道27へ分かれる部位を、V字部29と呼ぶことにする。
【0027】
[空洞]
V字部29には、V字部29の谷底を渡るように延びて空洞31が付設されている。この空洞31は、分岐湯道27の入口同士に繋がっている。
すなわち、V字部29に、このV字部29の谷底を渡るように延びて分岐湯道27の入口同士を繋ぐ空洞31が設けられている。
【0028】
図2の3-3線断面図を、
図3に示す。
図3に示すように、空洞31は、2条設けられている。
図3で、図面の表(おもて)から裏へ延びる軸(
図2では左から右へ延びる軸)を空洞31の長手軸と呼ぶ。
図3は空洞31の長手軸に直交する面で切断してなる断面図である。
この断面には、谷底を規定する谷底線32と、この谷底線32の一端に繋がる第1空洞輪郭線33と、谷底線32の他端に繋がる第2空洞輪郭線34とが存在する。
【0029】
そして、第1空洞輪郭線33で一方の空洞31が形成され、第2空洞輪郭線34で他方の空洞31が形成される。
結果、谷底線32の両端に、各々1条、合計2条の空洞31が設けられる。
【0030】
図2において、溶湯(
図1、符号16)は、湯口25→主湯道26→V字部29及び空洞31→分岐湯道27の順で流れ、キャビティ28に充満する。そして、金型20の冷却作用により、溶湯は冷却され凝固する。
【0031】
先ずキャビティ28の溶湯が凝固し、次に分岐湯道27の溶湯が凝固し、最後に主湯道26の溶湯が凝固する。
【0032】
本発明では、キャビティ28の溶湯は完全に凝固し、主湯道26の溶湯が不完全に凝固(半凝固)した時点で、鋳造金型20を開くことにより、鋳造サイクルタイムを短縮する。
鋳物は可動型22に付いた状態で固定型21から離れる。この間に主湯道26の溶湯の凝固が進む。
次に、可動型22から鋳物を取り出す。取り出された鋳物を
図4に示す。
【0033】
[鋳物]
図4に示すように、得られた鋳物40は、左右の製品部41と、それ以外の方案部42とからなる。
製品部41は、例えば、アルミニウム合金製のステアリング系左ナックルとステアリング系右ナックルである。ただし、製品部41はステアリング系ナックルに限定されない。
方案部42は、大径の主方案部43と、この主方案部43の上端のV字方案部44と、このV字方案部44から左右に分岐する分岐方案部45とからなる。
【0034】
[リブ]
図4の5矢視図が
図5である。
図5に示すように、V字方案部44には、2条のリブ46が形成されている。
図4に示すように、リブ46は、左の分岐方案部45と右の分岐方案部45とを繋ぐブリッジの役割を果たす。
【0035】
図5の6-6線断面図を、
図6に示す。
図6に示すように、V字方案部44の断面を観察すると、灰色断面部48と白色断面部49とが現れた。灰色断面部48は、充分な速度で冷却される。溶湯は急速に冷却されるとチル化する。チル化組織は強度が大きい。
【0036】
すなわち、灰色断面部48は強度が大きい。
対して、白色断面部49は未凝固破面であり強度は小さい。
リブ46は灰色断面部48に属し、強度が大きい。
【0037】
図2に示す固定型21から可動型22を上へ開くときに、主湯道26から主方案部(
図4、符号43)を引き抜く必要がある。この引き抜きのときに、V字方案部(
図4、符号44)に大きな力が掛かる。
しかし、本発明では、
図4に示すように、V字方案部44にブリッジ状のリブ46が渡っており、このリブ46がV字方案部44を補強するため、V字方案部44が破断することはない。結果、主方案部43が半凝固(不完全凝固)の時点で、鋳造金型を開くことができ、鋳造サイクルタイムの短縮が可能となった。
【0038】
本発明に係る変更例を、
図7に基づいて説明する。
図7(a)に示すように、リブ46は、上面51の中央に1条設けてもよい。
または、
図7(b)に示すように、リブ46は、上面51の一端に1条設けてもよい。
または、
図7(c)に示すように、リブ46は、3条又は4条以上設けてもよい。
【0039】
ただし、溶湯に対する冷却は、上面51と側面52とから溶湯の中心に向かって進行する。
図7(b)であれば、上面51と側面52とが交わる部位(すなわち二面冷却される部位)にリブ46が形成されるため、このリブ46は早い速度で冷却され、強度は大きくなる。
【0040】
また、
図6も、上面51と側面52とが交わる部位(二面冷却される部位)にリブ46が形成されるため、このリブ46は早い速度で冷却され、強度は大きくなる。
強度確保とバランスの面から、
図7(a)~(c)よりは、
図6の形態が望ましい。
【0041】
なお、リブ46は、
図7(a)に示すような矩形断面、
図6に示すような上に凸の台形断面とする他、三角形断面、上に凸の半円断面又は半長円断面であってもよく、断面形状は実施例に限定されない。
16…溶湯、20…鋳造金型、25…湯口、26…主湯道、27…分岐湯道、28…キャビティ、29…V字部、31…空洞、32…谷底線、33…第1空洞輪郭線、34…第2空洞輪郭線、36…Y字、37…V字、40…鋳物、41…製品部、42…方案部、44…V字方案部、46…リブ。