(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171256
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】印刷物
(51)【国際特許分類】
B41M 3/00 20060101AFI20231124BHJP
B32B 3/30 20060101ALI20231124BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20231124BHJP
C09D 11/02 20140101ALI20231124BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20231124BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20231124BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20231124BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
B41M3/00 Z
B32B3/30
B32B27/00 E
B32B27/00 101
C09D11/02
C09D5/02
C09D201/00
C09D183/04
C09D133/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056558
(22)【出願日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2022082504
(32)【優先日】2022-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【弁理士】
【氏名又は名称】財部 俊正
(72)【発明者】
【氏名】大輪 州永
【テーマコード(参考)】
2H113
4F100
4J038
4J039
【Fターム(参考)】
2H113AA05
2H113AA06
2H113BA05
2H113BB02
2H113BB22
2H113BC01
2H113BC02
2H113CA25
2H113CA46
2H113EA07
2H113EA10
2H113FA29
2H113FA43
4F100AK25C
4F100AK52C
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100CA13B
4F100DD07C
4F100EH46C
4F100GB90
4F100HB00B
4F100HB31B
4F100JB14B
4F100JK16
4F100JM01C
4F100JN21
4J038CG001
4J038DL031
4J038KA09
4J038MA10
4J038NA01
4J038PC10
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE12
(57)【要約】
【課題】 十分な光沢と良好な滑り性を有する印刷物を提供すること。
【解決手段】 印刷が施される表面1aを有する被印刷物1と、上記表面1a上に設けられたインキ層3と、インキ層3を覆うように設けられたニス層5と、を備え、ニス層5が、水性ニスの乾燥物を含み、ニス層5の表面5aの算術平均高さ(Sa)及び最大高さ(Sz)がそれぞれ以下を満たす、印刷物10。
0.35μm≦Sa≦0.52μm
0.4μm≦Sz≦11.0μm
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷が施される表面を有する被印刷物と、
前記表面上に設けられたインキ層と、
前記インキ層を覆うように設けられたニス層と、を備え、
前記ニス層が、水性ニスの乾燥物を含み、
前記ニス層の表面の算術平均高さ(Sa)及び最大高さ(Sz)がそれぞれ以下を満たす、印刷物。
0.35μm≦Sa≦0.52μm
0.4μm≦Sz≦11.0μm
【請求項2】
前記水性ニスが、異なる樹脂を組み合わせたエマルジョン型水性ニスである、請求項1に記載の印刷物。
【請求項3】
前記水性ニスが、シリコーン系樹脂とアクリル系樹脂とを含む、請求項2に記載の印刷物。
【請求項4】
前記ニス層の表面のクルトシス(Sku)が4.0以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷物の表面には、表面の艶感を高めるために、表面保護層が設けられることが多い。表面保護層は、従来、UV硬化性樹脂組成物からなる塗膜をUV照射によって硬化させることで形成されていたが、近年の環境意識への高まりから、水性ニスを用いて表面保護層を形成する技術の開発が進められている(例えば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、水性ニスにより形成される層の表面は、必ずしも表面の光沢が十分ではなく、艶感に欠けることがある。また、印刷物の製造工程においては、印刷物同士が適度に滑りやすいことが求められるが、表面保護層を水性ニスにより形成した場合、印刷物の滑り性が悪くなる傾向にある。
【0005】
そこで、本開示の一側面は、十分な光沢と良好な滑り性を有する印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、少なくとも下記[1]~[4]を提供する。
【0007】
[1]
印刷が施される表面を有する被印刷物と、
前記表面上に設けられたインキ層と、
前記インキ層を覆うように設けられたニス層と、を備え、
前記ニス層が、水性ニスの乾燥物を含み、
前記ニス層の表面の算術平均高さ(Sa)及び最大高さ(Sz)がそれぞれ以下を満たす、印刷物。
0.35μm≦Sa≦0.52μm
0.4μm≦Sz≦11.0μm
【0008】
[2]
前記水性ニスが、異なる樹脂を組み合わせたエマルジョン型水性ニスである、[1]に記載の印刷物。
【0009】
[3]
前記水性ニスが、シリコーン系樹脂とアクリル系樹脂とを含む、[2]に記載の印刷物。
【0010】
[4]
前記ニス層の表面のクルトシス(Sku)が4.0以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の印刷物。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一側面によれば、十分な光沢と良好な滑り性を有する印刷物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は本開示に係る印刷物の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の印刷物の製造方法の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。また、明記しない限り、「~」の前後に記載される数値の単位は同じである。本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0014】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。なお、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
図1に示す印刷物10は、印刷が施される表面(被印刷面)1aを有する被印刷物1と、表面1a上に設けられたインキ層3と、インキ層3を覆うように設けられたニス層5とを備える。印刷物10は、被印刷物1とニス層5との間にインキ層3が存在する絵柄領域7と、被印刷物1とニス層5との間にインキ層3が存在しない非絵柄領域8とを有する。ただし、本開示の印刷物は、非絵柄領域8を有しなくてもよい。印刷物10は、例えば、食品等の包装用容器である。
【0016】
被印刷物1は、例えば、紙である。被印刷物1が紙であると、水性ニスによって後述する目的の表面性状(算術平均高さ(Sa)及び最大高さ(Sz))を有するニス層が形成されやすい。紙の具体例として、上質紙、特殊上質紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙、模造紙及びクラフト紙が挙げられる。紙の単位面積あたりの質量は、例えば、20~500g/m2であり、25~400g/m2であってもよい。被印刷物1は、例えば、紙と樹脂材料とを含む複合材料で構成されていてもよい。
【0017】
インキ層3は、インキ(例えば油性インキ)で形成された層であり、インキの硬化物(例えば乾燥物)を含む。インキ層3は、オフセット印刷法によって形成された層であってよい。
【0018】
インキは、例えば、着色剤とバインダー樹脂とを含む。インキとしては、例えば、植物油インキを使用することができる。植物油インキの代わりにバイオマスインキを用いてもよい。バイオマスインキは、例えば、着色剤と、ポリオール化合物及びイソシアネート化合物(又はこれらの硬化物)とを含む。この場合、ポリオール化合物及びイソシアネート化合物の少なくとも一方がバイオマス由来成分である。バイオマスインキは、UV硬化型バイオマスインキであってもい。すなわち、インキ層3は、UV硬化型バイオマスインキの硬化物を含む層であってもよい。
【0019】
インキは、後述する目的の表面性状(算術平均高さ(Sa)及び最大高さ(Sz))を有するニス層が形成されやすい観点から、油性インキであることが好ましい。このような効果が得られる理由は明らかではないが、インキが油性インキである場合、インキ層を形成するための工程(例えばインキの乾燥工程)に要する時間が長くなることで、油性インキがレベリングしてインキ層の表面が平滑になりやすいため、ニス層の表面状態がインキ層の表面状態の影響を受けてより平滑化されると推察される。
【0020】
インキ中の着色剤の含有量は、インキの固形分全量を基準として、10質量%以上であってよく、50質量%以下であってよく、10~50質量%であってよい。着色剤の含有量が上記範囲にあるインキを使用することで、鮮明な絵柄が得られやすい。なお、上記含有量はインキの固形分全量を基準とする含有量であることから、インキ層中の着色剤の含有量(インキ層の固形分全量基準)がとり得る範囲も上記と同じ範囲である。
【0021】
インキは、通常、着色剤及びバインダー樹脂の他に溶媒を更に含む。溶媒は、例えば、トルエン、酢酸エチル、キシレン、酢酸nブチル、シクロヘキサノール、イソブチルアルコール等の揮発性有機化合物(VOC)である。インキは、鮮明な絵柄が得られやすくなる観点から、コンクインキであってもよい。コンクインキは、通常のインキよりも溶媒量が少ない(例えば60質量%以下である)インキである。インキ中の溶媒の含有量は、油性インキの全量を基準として、60質量%以下であってよく、30質量%以上であってよく、30~60質量%であってよい。なお、上記溶媒の含有量は、インキ層の形成に用いられるインキ中の溶媒の含有量であり、インキ層自体は溶媒を含まないことが好ましい。
【0022】
インキ層3の厚さは、特に限定されないが、0.1~1.8μmであってよく、0.2~1.5μm、0.4~1.3μm、又は0.6~1.2μmであってもよい。なお、上記インキ層3の厚さは、
図1においてT
3で示される部分の厚さであり、被印刷物1の表面1aからインキ層3の表面3aまでの距離を意味する。上記インキ層3の厚さは、光学顕微鏡を使用し、光の干渉現象を利用した干渉分光法によって求めることができる。
【0023】
ニス層5は、水性ニスの乾燥物を含む。ニス層5は、水性ニスを用いて塗膜を形成した後、該塗膜を乾燥させることで形成することができる。ニス層5は、インキ層3と同様に、オフセット印刷法により形成された層であってよい。ここで、「水性ニス」とは、水と、樹脂(例えば水性樹脂)とを含むニスを意味する。水性ニスは、界面活性剤等を更に含んでいてもよい。
【0024】
ニス層5は略平滑な表面を有しており、ISO25178に準拠して測定されるニス層5の表面5aの算術平均高さ(Sa)及び最大高さ(Sz)は、それぞれ以下を満たす。
0.35μm≦Sa≦0.52μm
0.4μm≦Sz≦11.0μm
【0025】
算術平均高さ(Sa)は測定表面の凹凸の高さの平均値であり、算術平均高さ(Sa)が小さいほど、表面の凹凸の高さが平均して小さく、表面の平滑性が高いことを意味する。また、最大高さ(Sz)は、測定表面の凹凸の高さの最大値であり、最大高さ(Sz)が小さいほど、引っ掛かりの起点となり得る突出した凸部の高さが小さいことを意味する。
【0026】
算術平均高さ(Sa)は、絵柄領域7と非絵柄領域8とで異なる場合があるが、この場合、算術平均高さ(Sa)が上記上限値以下(又は上記下限値以上)であるとは、絵柄領域7の算術平均高さ(Sa1)及び非絵柄領域8の算術平均高さ(Sa2)の両方が上記上限値以下(又は上記下限値以上)であることを意味する。同様に、最大高さ(Sz)は、絵柄領域7と非絵柄領域8とで異なる場合があるが、この場合、最大高さ(Sz)が上記上限値以下(又は上記下限値以上)であるとは、絵柄領域7の最大高さ(Sz1)及び非絵柄領域8の最大高さ(Sz2)の両方が上記上限値以下(又は上記下限値以上)であることを意味する。算術平均高さ(Sa1)及び(Sa2)は、それぞれ、無作為に選択される3箇所で測定された算術平均高さを平均することで求められる。同様に、最大高さ(Sz1)及び(Sz2)は、それぞれ、無作為に選択される3箇所で測定された最大高さを平均することで求められる。
【0027】
算術平均高さ(Sa)、(Sa1)及び(Sa2)は、光沢及び滑り性がより向上する観点では、それぞれ、0.50μm以下、0.48μm以下、0.46μm以下、0.44μm以下又は0.42μm以下であってもよい。算術平均高さ(Sa)、(Sa1)及び(Sa2)は、それぞれ、0.38μm以上、0.40μm以上、0.42μm以上又は0.44μm以上であってもよい。
【0028】
最大高さ(Sz)、(Sz1)及び(Sz2)は、光沢及び滑り性がより向上する観点では、それぞれ、10.8μm以下、10.4μm以下、10.0μm以下、9.6μm以下又は9.2μm以下であってもよい。最大高さ(Sz)、(Sz1)及び(Sz2)は、それぞれ、6.0μm以上、8.0μm、9.0μm以上、9.5μm以上、10.0μm以上又は10.5μm以上であってもよい。
【0029】
ニス層5の表面5aの凹凸の鋭利さが抑えられ、滑り性がより向上する観点では、ISO25178に準拠して測定されるニス層5の表面5aのクルトシス(Sku)は、4.0以下であってよい。クルトシス(Sku)は、例えば、2.5以上であってよい。クルトシス(Sku)は、絵柄領域7と非絵柄領域8とで異なる場合があるが、この場合、クルトシス(Sku)が上記上限値以下(又は上記下限値以上)であるとは、絵柄領域7のクルトシス(Sku1)及び非絵柄領域8のクルトシス(Sku2)の両方が上記上限値以下(又は上記下限値以上)であることを意味する。クルトシス(Sku1)及び(Sku2)は、それぞれ、無作為に選択される3箇所で測定されたクルトシスを平均することで求められる。
【0030】
クルトシス(Sku)、(Sku1)及び(Sku2)は、滑り性がさらに向上する観点では、それぞれ、2.8以上、3.0以上、3.2以上又は3.4以上であってもよい。クルトシス(Sku)、(Sku1)及び(Sku2)は、それぞれ、3.7以下、3.5以下、3.3以下又は3.1以下であってもよい。
【0031】
上記の表面性状(Sa、Sz、Sku)を有するニス層5は、例えば、インキの組成、水性ニスの組成(例えば水性二スに含まれる樹脂の種類や配合量)、ニス層5の塗工条件等を調整することで作製することができる。上記表面性状のニス層5が得られやすい観点では、水性ニスとして、エマルジョン型水性ニスを用いることが好ましく、異なる樹脂を組み合わせたエマルジョン型水性ニスを用いることがより好ましい。ここで、「エマルジョン型水性ニス」とは、水と、該水中に乳化分散した樹脂とを含む水性ニスを意味する。
【0032】
水性ニスが含む樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、スチレン系樹脂等が挙げられる。アクリル系樹脂は、アクリルモノマーをモノマー単位として含む樹脂のみでなく、メタクリルモノマーをモノマー単位として含む樹脂も含む。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。水性ニスは、上記表面性状のニス層5が得られやすくなり、より優れた光沢及びより良好な滑り性が得られやすくなる観点から、異なる樹脂を組み合わせた水性ニスであることが好ましく、異なる樹脂を組み合わせたエマルジョン型水性ニスであることがより好ましい。樹脂の組み合わせとしては、例えば、アクリル系樹脂とウレタン系樹脂との組み合わせ、アクリル系樹脂とシリコーン系樹脂との組み合わせ、ウレタン系樹脂とシリコーン系樹脂との組み合わせ、及び、スチレン系樹脂とアクリル系樹脂との組み合わせが挙げられる。これらの中でも、アクリル系樹脂とシリコーン系樹脂との組み合わせであると、上記表面性状を有するニス層5が得られやすい。なお、「異なる樹脂の組み合わせ」には、2種以上の樹脂の混合による組み合わせの他、2種以上の樹脂の結合による組み合わせが含まれる。したがって、スチレン-アクリル系共重合体のように、2種以上の樹脂の組み合わせにより構成されるコポリマーを単独で含む水性ニスも「異なる樹脂を組み合わせた水性ニス」である。
【0033】
ニス層5の厚さは、特に限定されないが、1.9~5.0μmであってよく、2.0~4.0μm又は2.5~3.0μmであってもよい。なお、上記ニス層5の厚さは、
図1においてT
5で示される部分の厚さであり、インキ層3の表面3aからニス層5の表面5aまでの距離を意味する。ニス層5の厚さは光学顕微鏡を使用し、光の干渉現象を利用した干渉分光法によって求めることができる。
【0034】
ニス層5の表面5aには深さ1μm以上の溝が存在しないことが好ましい。深さ1μm以上の溝は、ニス層5の割れ等により発生し得るが、このような溝が存在しない場合、溝の端部が引っ掛かり起点となる等によって滑り性が低下することを避けることができる。一層優れた滑り性が得られる観点では、ニス層5の表面5aを観察したときに650μm×650μmの範囲内に観察される深さ1μm以上の溝の総延長が、1500μm以下であってよく、1000μm以下又は600μm以下であってもよい。上記溝がニス層5の表面5aに存在する場合には、その総延長の下限は、例えば、10μmである。
【0035】
インキ層3の厚さとニス層5の厚さの合計は、特に限定されないが、2.0~6.8μmであってよく、2.1~4.5μm又は2.2~4.0μmであってもよい。
【0036】
印刷物の総厚は、特に限定されないが、10~150μmであってよく、20~130μm又は25~100μmであってもよい。
【0037】
以上説明した印刷物10は、ニス層5の表面5aの算術平均高さ(Sa)及び最大高さ(Sz)がそれぞれ上述した範囲にあることから、十分な光沢(表面光沢)と良好な滑り性を有する。
【0038】
ニス層5の表面5aの光沢度は例えば50以上であり、好ましくは60以上であり、より好ましくは65以上であり、更に好ましくは70以上である。光沢度の上限は、例えば、85である。したがって、光沢度は、50~85、60~85、65~85又は70~85であってよい。ここでいう光沢度は、JIS Z8741-1997に記載の方法に準拠し、60度入射角で測定される値を意味する。光沢度は絵柄領域7と非絵柄領域8とで異なる場合があるが、この場合、光沢度が上記値以上であるとは、白地部分及び色地部分の両方の光沢度が上記値以上であることを意味する。
【0039】
印刷物10は、例えば、以下の工程(A)、(B)及び(C)を少なくとも含む製造方法によって得ることができる。
(A)被印刷物1上にインキ含有層13を印刷する工程(
図2の(a)参照。)
(B)インキ含有層13を覆うように、被印刷物1及びインキ含有層13の上に水性ニスの塗膜15を形成する工程(
図2の(b)参照。)
(C)水性ニスの塗膜15を乾燥させることにより、水性ニスの乾燥物を含むニス層5を形成する工程(
図2の(c)参照。)
【0040】
インキ含有層13は、インキ層3であってよく、乾燥によって、又は、加熱、UV照射等を起因とする反応によってインキ層3を形成する層であってもよい。インキとして溶媒を含む非硬化性のインキを用いる場合、インキ含有層13を乾燥させることによってインキ層3が得られる。インキとして熱硬化性のインキを用いる場合、インキ含有層13を加熱し、熱硬化させることによってインキ層3が得られる。インキとしてUV硬化性のインキ(例えばUV硬化型バイオマスインキ)を用いる場合、インキ含有層13にUVを照射し、UV硬化させるによってインキ層3が得られる。インキ含有層13が乾燥によって、又は、加熱、UV照射等を起因とする反応によってインキ層3を形成する層である場合、例えば、工程(C)における塗膜15の乾燥の前に、インキ含有層13をインキ層3とするための工程(例えば、インキ含有層13を乾燥する工程、インキ含有層13を加熱する工程、又は、インキ含有層13にUVを照射する工程)を行ってよい。インキ含有層13が乾燥によってインキ層3を形成する層である場合、工程(C)における水性ニスの乾燥によってインキ含有層13をインキ層3としてもよい。インキの乾燥及び水性ニスの乾燥は、上記表面性状を有するニス層5の表面を阻害しない条件で行えばよく、乾燥させるためにUVランプ等により加熱してもよい。インキ含有層13が加熱による反応によってインキ層3を形成する層である場合、工程(C)における水性ニスの乾燥を加熱により行い、該加熱によってインキ含有層13をインキ層3としてもよい。
【0041】
上記工程(A)においてインキ含有層13の印刷にコンクインキを用いる場合、乾燥時間を短くすることができるという効果が奏される。
【0042】
上記製造方法では、ロール方式によりインキ層3及びニス層5を形成してよく、チャンバー方式でインキ層3及びニス層5を形成してもよい。
【実施例0043】
以下、本開示の内容を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例及び比較例に係る印刷部を作製するため、以下の材料を準備した。
(1)被印刷物
・コートボール紙(レンゴー株式会社製、310g/m2)
(2)インキ
・油性インキ:TOYO KING(登録商標)NEXシリーズ(東洋インキ株式会社製)
(3)ニス
・水性ニスA:固形分としてアクリル系樹脂とシリコーン系樹脂を含むエマルジョン型水性ニス
・水性ニスB:固形分としてアクリル系樹脂を含む水性ニス
・水性ニスC:固形分としてアクリル-スチレン共重合体を含むエマルジョン型水性ニス
【0045】
<実施例1>
(印刷物の作製)
ロール方式で、コートボール紙の表面上にインキ層及びニス層を順次形成して印刷物を得た。この際、インキ層の形成には上記油性インキを用い、ニス層の形成には上記水性ニスAを用いた。また、インキ層はコートボール紙の表面上の全域には形成せず、印刷物が、コートボール紙とニス層との間にインキ層が存在する絵柄領域と、コートボール紙とニス層との間にインキ層が存在しない非絵柄領域とを有するようにした。インキ層の厚さは設計値で1.0μmとし、ニス層の厚さは2.5μmとした。
【0046】
<比較例1>
ニス層の形成に上記水性ニスBを用いたこと、及び、ニス層の厚さを2.2μmとしたこと以外は実施例1と同様にして、印刷物を得た。
【0047】
<実施例2>
水性ニスAに代えて水性ニスCを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、印刷物を得た。
【0048】
<実施例3>
ニス層の厚さを3.0μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、印刷物を得た。
【0049】
<測定・評価>
以下に示す方法で、実施例1~3及び比較例1の印刷物の表面性状の測定、並びに、評価(表面状態評価、滑り性評価及び光沢評価)を行った。ただし、表面状態評価(クラック総延長の測定)は、実施例1及び比較例1の印刷物に対してのみ行った。
【0050】
(1)表面性状の測定
実施例1~3及び比較例1の印刷物を10mm×10mmのサイズに切り取って評価用試料とした。次いで、評価用試料をコートボール紙側からガラス基板にテープで固定した。次いで、評価用試料のニス層の表面内の絵柄領域及び非絵柄領域のそれぞれから無作為に3箇所を選び、ISO25178に準拠した装置であるオリンパス製のレーザー顕微鏡(LEXT OLS4100)を用いて各箇所の表面観察画像(650μm×650μm)を取得した。次いで、ISO25178に準拠して各観察箇所の表面の算術平均高さ(Sa)、最大高さ(Sz)及びクルトシス(Sku)を測定した。観察倍率は200倍(対物レンズ:20倍)とし、観察モードは「高精度」とし、カットオフ値はλc=800.00μm、λs=0とした。また、測定の際は観察した領域内から無作為に選択した3点を用いて傾き補正を行った。
【0051】
絵柄領域内の3箇所の測定値を平均することにより、絵柄領域の表面の算術平均高さ(Sa1)、最大高さ(Sz1)及びクルトシス(Sku1)を求めた。同様に、非絵柄領域内の3箇所の測定値を平均することにより、非絵柄領域の表面の算術平均高さ(Sa2)、最大高さ(Sz2)及びクルトシス(Sku2)を求めた。結果を表1に示す。
【0052】
(2)表面状態評価
上記(1)で取得した表面観察画像(650μm×650μm)を、21.5インチのディスプレイ上で画像が見切れない最大の大きさまで拡大し、絵柄領域上のクラック部分の長さを定規で測定し、クラックの総延長を算出した。結果を表1に示す。なお、上記(1)での表面形状測定の結果によれば、クラックの深さは1~2μmであった。
【0053】
(3)滑り性評価
測定にはAB-502摩擦角測定機(テスター産業株式会社製)を使用した。評価用試料として実施例1~3及び比較例1の印刷物を2つずつ準備した。同じ例の評価用試料のうち一方のコートボール紙の表面を摩擦角測定機の台上に両面テープで固定し、動かないようにした。もう一方の評価用試料のコートボール紙側に1000gのスレッドを両面テープで固定し、摩擦角測定機上に固定された評価用試料の上に、ニス層の表面同士が接するように載置した。この状態で台を徐々に傾けていき、一方の評価用試料が他方の評価用試料上を滑り始めるときの傾き角度(滑り角)を測定した。得られた測定値(滑り角)が20度以下である場合に滑り性が良好であると判断した。測定値(滑り角)を表1に示す。
【0054】
(4)光沢評価
株式会社堀場製作所製の光沢計(商品名:ハンディ光沢計)を使用して、絵柄領域及び非絵柄領域における光沢度を60度入射角で測定した。測定は、10回繰り返し行い、その平均値を算出した。結果を表1に示す。
【0055】