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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023017126
(43)【公開日】2023-02-06
(54)【発明の名称】脱窒装置
(51)【国際特許分類】
   A01K 63/04 20060101AFI20230130BHJP
【FI】
A01K63/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021121145
(22)【出願日】2021-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】396026802
【氏名又は名称】佐藤 和順
(71)【出願人】
【識別番号】392031848
【氏名又は名称】佐藤 順幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和順
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 順幸
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104ED09
2B104ED12
2B104ED36
2B104EE03
2B104EF01
(57)【要約】
【課題】被処理水中の硝酸性窒素の負荷にあわせて容易に装置が増減でき、ろ材間隙に懸濁粒子を蓄積させないことで、維持管理が容易な低コストの脱窒装置を提供することである。
【解決手段】本発明の脱窒装置は、被処理水が供給される、浅い複数の脱窒槽と、脱窒槽内に装填され、被処理水中の硝酸性窒素を窒素ガスに還元する脱窒細菌を保持するろ材と、脱窒槽下方の被処理水を排水するための開口部からなり、脱窒槽の総数を増減させることで硝酸性窒素負荷に柔軟に対応でき、脱窒槽下部より定期的に空気を送り込みろ材を動かすことでろ材間隙の懸濁粒子を除去して閉塞を防止し、ろ層を薄くすることで維持管理が容易である散水ろ床式好気脱窒装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
好気環境下で水中の硝酸性窒素を除去する脱窒装置において、
被処理水が供給される、直列配置された複数の脱窒槽と、
前記脱窒槽内に装填され、被処理水中の硝酸性窒素を窒素ガスに還元する脱窒細菌を保持するろ材で構成され、
前記脱窒槽は下方に被処理水を排水するための開口部を備え、
前記脱窒槽に上方より被処理水を供給し、前記脱窒槽に被処理水を溜めることなく通過させることで、ろ材の少なくても一部を空気に曝露させ、好気環境下で脱窒反応が進行することを特徴とする脱窒装置。
【請求項2】
硝酸性窒素の負荷に応じて、前記脱窒槽の槽数と前記脱窒装置の装置数を増減させ、
前記脱窒装置は並列配置することを特徴とする請求項1記載の脱窒装置
【請求項3】
前記脱窒槽の下部に空間を設けるために、前記ろ材を支持するための多数の開口部を備えた支持板を前記脱窒槽に配設し、
前記脱窒槽下部空間に空気を送り込み、前記支持板開口部より前記ろ材方向に向けて空気の流れ発生させて前記ろ材を流動させることを特徴とする請求項1、2記載の脱窒装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の硝酸性窒素を除去するための装置、より詳しくは、魚介類を飼育するために、飼育水中の硝酸性窒素を、好気環境下で安全かつ効率的に除去するための散水ろ床式脱窒装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、硝酸性窒素が魚介類の成長に悪影響を与えることが明らかになり、硝酸性窒素濃度が100mgN/L以上まで上昇してしまう閉鎖循環養殖では、脱窒装置は必要不可欠な装置として注目されるようになってきた。従来の脱窒技術(特許文献1)は、無酸素状態で処理を行う嫌気性脱窒であったので、硫化水素発生のリスク、装置の複雑さ、無駄が多い処理工程などから普及するには至らなかった。しかし、近年、好気状態でも脱窒が可能な装置(好気脱窒装置)が開発され、操作が簡便で、硫化水素発生の危険性が無くなったことから、多くの施設で使われるようになってきた。
【0003】
好気脱窒装置には、間欠ろ過方式と散水ろ床方式とがあり、特許文献2にサイフォンの原理を用いて間欠的に被処理水を排水して、ろ材が空気暴露と液体浸漬を繰り返すことで、好気環境下で脱窒反応を行う間欠ろ過式好気脱窒装置、特許文献3にろ材を液体浸漬させず、ろ材の間隙を被処理水が通過することで好気環境下で脱窒反応を行う散水ろ床式好気脱窒装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許5198532号公報
【特許文献2】特許6480015号公報
【特許文献2】特開20001-577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の嫌気脱窒装置は、硫化水素発生の危険性があるだけでなく、好気脱窒装置で不要な無酸素にするための工程(ろ材)が余計に必要となり装置が大きくなる。さらに、処理水の溶存酸素を飽和近くに戻すための曝気工程も必要となり無駄が多い。
【0006】
特許文献2、3の好気脱窒装置は、被処理水を無酸素状態にする必要がないのでコンパクトで、脱窒反応も好気環境下で行われるので硫化水素発生の危険性がなく、処理水の曝気の必要もない。しかし、間欠ろ過方式はサイフォンの原理を用いて排水を行うため、脱窒槽は排水先の水槽よりも高い位置に設置しなくてはならなく、頑丈かつ大きな架台が必要となる。また、間欠的に排水が行われるので、閉鎖循環養殖のような閉じたシステムにおいては、システム最下位に位置する水槽の容積は、脱窒槽から1回に排水される水量分だけ多くしなくてはならなく、水槽が大きくなるだけでなく、既設設備に新しく脱窒装置を導入する場合は最下位の水槽の交換が必要になる場合がある。また、何らかの原因で脱窒槽に被処理水が溜まった状態で被処理水の供給が長時間停止すると、脱窒槽内の被処理水の溶存酸素はゼロになり硫化水素が発生する。
一方、散水ろ床方式は、何らかの原因で被処理水の給水が停止しても、脱窒槽内に被処理水は溜まっていないので嫌気状態になることはなく、間欠ろ過方式よりも安全な処理方式である。しかし、脱窒槽に装填されているろ材の間隙は、被処理水中の懸濁粒子がろ過作用によって蓄積するため、定期的に懸濁粒子を取り除かないと閉塞を引き起こし、その部分に抑留している被処理水は嫌気状態になってしまう。さらに、ろ材表層に均一に散水しても、ろ材閉塞部分は被処理水が流れなくなるため、装填したろ材全てを有効に利用することができなくなり処理能力が低下する。そのため、定期的にろ材を洗浄して、ろ材間隙に蓄積した懸濁粒子を取り除くことが必要になる。
【0007】
両方式とも装填されるろ材は、脱窒細菌の住処であるとともに有機炭素源でもあるので、脱窒反応とともに消費され、定期的に補充が必要となる。脱窒槽は、設置面積との兼ね合いから装填するろ層は厚く、洗浄や補充に要する作業が負担になる。メンテナンスを容易にするため、ろ材を複数の小さな容器に充填して脱窒槽内に設置することもあるが、下部の容器を引き上げることは容易でない。さらに、小分けした容器も、メンテナンスを考えると多くしたくないため、容器は大きく、ろ層は厚くなる。また、メンテナンスを考慮すると、ろ材を充填した容器を隙間なく設置することができないので、脱窒槽は大きくなってしまう。
【0008】
脱窒槽は、設置スペースやイニシャルコストを考えると、必要以上に余分な空間を設けることはないので、処理能力が足りなくなった場合は別途脱窒槽を設置することが必要になり、簡単に増設することができない。
【0009】
脱窒槽に装填されるろ材は、脱窒反応に必要な有機炭素源であるセルロースが主成分であるので、脱窒反応が進行するとセルロースは消費され、ろ材が小さくなるだけでなく強度も低下する。そのため、ある程度セルロースが消費されると下層のろ材は上層のろ材の荷重に耐えられなくなり、ろ材は潰れてしまう。ろ材が潰れることで、ろ材間隙に被処理水は流れなくなり、ろ材間隙に抑留している被処理水はろ材の脱窒細菌により酸素が消費され、嫌気状態になり硫化水素が発生する。そのため、ろ材の荷重で潰れることがないように、ろ層はなるべく薄いことが要求されるが、ろ層を薄くすると設置面積が大きくなってしまうため、薄くするには限界がある。
【0010】
本発明の目的は、上記した従来技術の問題点を鑑みて、浅い脱窒槽(薄いろ層)を多段にする、定期的に空気を吹き込みろ材を動かすことにより、状況に応じて柔軟に装置の増減ができ、ろ材が閉塞することがないため洗浄の必要がなく、ろ材の補充が容易である、硫化水素発生の危険性のない安全で低コストの脱窒装置を提供することである。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の脱窒装置は、
好気環境下で水中の硝酸性窒素を除去する脱窒装置において、
被処理水が供給される、直列配置された複数の脱窒槽と、
前記脱窒槽内に装填され、被処理水中の硝酸性窒素を窒素ガスに還元する脱窒細菌を保持するろ材で構成され、
前記脱窒槽は下方に被処理水を排水するための開口部を備え、
前記脱窒槽に上方より被処理水を供給し、前記脱窒槽に被処理水を溜めることなく通過させ、ろ材の少なくても一部を空気に曝露させることで、好気条件下で脱窒反応が進行することを特徴とする。
【0012】
前記脱窒装置において、被処理水が脱窒槽内に装填されている脱窒細菌が繁殖したろ材の間隙を通過する際に、被処理水中の硝酸性窒素は脱窒細菌に取り込まれ、硝酸性窒素が除去された被処理水は脱窒槽下方に配設されている排水用の開口部より排水される。ろ材よりも下方に排水のための開口部を設けているので、被処理水は脱窒槽内に溜まらず、ろ材が被処理水に浸漬することはない。また、ろ材は被処理水に接触するが浸漬することはないので、ろ材の一部は絶えず空気暴露されており、好気環境下で脱窒反応が進行する。
【0013】
ろ材は脱窒細菌の住処であると同時に有機炭素源でもあるので、脱窒反応とともに減耗し、定期的な補充が必要となる。また、ろ材は脱窒槽に装填する前は十分な強度を有しているが、脱窒が進行して減耗が始まると強度が徐々に低下し、ろ材の自重で下層のろ材が潰れて閉塞し、その部分に抑留している被処理水は嫌気状態になる。そのため、ろ材の強度が低下してもろ材が潰れることがないように、ろ層の厚さは薄くなっている。脱窒槽に装填するろ材量は、被処理水中の硝酸性窒素量によって決まるため、硝酸性窒素量が多い場合は、ろ層を浅くすると設置面積が多くなってしまう。そこで、脱窒槽を多段にすることで、硝酸性窒素量が多い場合でも設置面積を増やすことなく、被処理水中から硝酸性窒素を除去することができる。また、脱窒槽の深さを手が届く範囲にすることで、補充、洗浄の際に作業が容易になる。
【0014】
また、前記脱窒槽装置において、
硝酸性窒素の負荷に応じて、前記脱窒槽の槽数と前記脱窒装置の装置数を増減させてもよい。その場合、前記脱窒装置は並列配置になる。
【0015】
また、前記脱装置において、
前記脱窒槽の下部に空間を設けるために、前記ろ材を支持するための多数の開口部を備えた支持板を前記脱窒槽に配設し、
前記脱窒槽下部空間に空気を送り込み、前記支持板開口部より前記ろ材方向に向けて空気の流れ発生させて前記ろ材を流動させてもよい。
ろ材を流動さることで、ろ材間隙に懸濁粒子が蓄積して閉塞することはなくなるので、ろ材間隙に被処理水は抑留せず、常に新しい被処理水と入れ替わるため、嫌気状態になることはない。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係わる脱窒装置によれば次の効果を奏する。
本発明に従えば、脱窒槽を多段に設置するこで、設置面積を少なくすることができる。
【0017】
本発明に従えば、積み重ねて多段にすることができるので、容易に増設することができる。
【0018】
本発明に従えば、空気を脱窒槽に送り込んでろ材を流動させることで、ろ材間に懸濁粒子が溜まることがなく閉塞が起こらない。閉塞が起こらないので、洗浄の必要がなくなりランニングコストを低減することができるだけでなく、ろ材間隙に被処理水が長時間抑留することがないので、嫌気状態になることはなく硫化水素発生の危険性がない。また、ろ層が薄いので、少ない空気でろ材を流動させることができる。
【0019】
本発明に従えば、脱窒槽は浅く(ろ層は薄く)軽量なので、ろ材の補充、交換、洗浄の際の労力が低減される。さらに、ろ層が薄いため、下部ろ材にかかる荷重が小さくなり、ろ材が最後まで潰れることなく使用できるのでロスが少なくなり、ランニングコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態に係わる脱窒装置を説明する模式的断面図
図2】本発明の第2実施形態に係わる脱窒装置を説明する模式的断面図
図3】本発明の第3実施形態に係わる脱窒装置を説明する模式的断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図示した例とともに詳説するが、本発明は下記の実施形態に何ら限定されるものではなく、適宜変更して実施できるものである。
【0022】
図1の脱窒装置は、第1脱窒槽1a、第2脱窒槽1b、脱窒細菌を保持するためのろ材2、被処理水を脱窒槽1内に送水するための散水ノズル4、排水口6からなり、ポンプなどで散水ノズル4に供給された被処理水は、散水ノズル4に開口している多数の穴より第1脱窒槽のろ材表面に散水される。散水ノズルは、被処理水がろ材全体に散水されるように配設され、脱窒槽1の大きさに合わせて、ノズル数、穴径、個数、位置が任意に設定される。図1のようにパイプに穴を多数開けた散水ノズル4は、送水圧が低く、目詰まりしにくく、低コストであるため一般的に用いられるが、高い送水圧で噴霧状にして散水したり、散水口を回転させたりしてもよい。また、図2のように被処理水供給口とろ材との間に、全面に多数の穴が開いた板やメッシュ状の板などの分散板5を配設してもよい。
【0023】
ろ材表面に送水された被処理水は、ろ材2の間隙を通過して脱窒槽底部の排水口6から第2脱窒槽1bに送られる。排水口6は、第1脱窒槽1aの底部全面に多数の穴が開けられている。
【0024】
脱窒槽1に装填するろ材の厚さは、補充、洗浄を考慮すると、100mm程度が望ましいが、人力で作業できる深さの範囲であればよく、ろ材量、設置可能スペースにより適宜設定される。また、図1では脱窒槽1が2段になっているが、脱窒槽1の段数は、被処理水の硝酸性窒素の濃度、被処理水の水量、ろ材の処理能力、ろ材強度に応じて、適宜設定される。
【0025】
第2脱窒槽1bのろ材表面に送水された被処理水は、第1脱窒槽1aと同様の水の流れで脱窒槽内を通過し、第2脱窒槽1b底部に設けてある排水口6より排水される。脱窒槽1を被処理水の排水先である水槽の上部に設置することができれば、第2脱窒槽1bの排水口6は第1脱窒槽同様に、底部全面に多数の穴を開けた構造にすることができる。また、脱窒槽を被処理水の排水先の水槽の上に置けない場合は、図2のように、ろ材2と脱窒槽底面の間に多数の穴の開いたろ材支持板7を配設し、ろ材支持板7の下の空間でろ材2を通過した被処理水を集水し、脱窒槽底部の排水口6に配管を接続して排水される。
【0026】
図2の脱窒装置は、第1脱窒槽1a、第2脱窒槽1b、脱窒細菌を保持するためのろ材2、被処理水をろ材2表面に均一に送水するための分散板5、排水口6からなる。分散板5上方より被処理水を供給し、分散板5に開けられている多数の穴よりろ材2表層に供給される。脱窒槽1に供給する水量を分散板5から流れ出る水量よりも多くすることで、分散板5上部に液層が形成され、分散板5の穴から均一に被処理水が流れるようになる。脱窒槽1には、分散板5の穴がスケール等の付着で小さくなり液層の液面が上昇した時でも、被処理水が脱窒槽から溢れることがないように、非常排水口8を設けている。脱窒槽1は、図1のように各槽を積み重ねることで多段にするのが最良であるが、図2のように各々の槽を棚状架台に載せてもよい。
【0027】
図3に示す本発明の第3実施形態の脱窒装置は、脱窒槽1に多数の開口部が設けられているろ材支持板7を配設してろ材2下部に空間を設け、その空間にブロワ10等で空気を送れるように送気口9が配設されている。送気口9より脱窒槽1内部に送り込まれた空気は、支持板7の開口部よりろ材2に向けて流れ込み、空気の流れでろ材2が流動する。ろ材2が流動することで、ろ材間隙に蓄積していた懸濁粒子は下方に流れ出て、支持板7の開口部を通って排水口6より脱窒槽1外部に排出される。このように、ろ材間隙に蓄積する懸濁粒子を定期的に取り除くことで、ろ材間隙に被処理水が抑留することはなく、常に新しい被処理水が流れることになるため嫌気状態になることはない。空気を送り込む際は、脱窒槽1への送水は停止し、排水口6のバルブを閉じ、送気口9のバルブを開くことで、脱窒槽に送り込まれた空気は、支持板7の開口部よりろ材2に向けて流れる。
【0028】
本発明の脱窒装置に用いられるろ材は、好気環境下で脱窒を行う脱窒細菌が繁殖するために構造は多孔質が好ましい。また、ろ材には脱窒反応に必要な有機炭素源が含有されており、主成分がセルロースもしくはセルロース骨格をもつ物質が最良であるが、脱窒細菌が利用でき、好気環境下で脱窒反応が行われるものであれば、生分解性プラスチック、キトサンでもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 脱窒槽
1a 第1脱窒槽
1b 第2脱窒槽
2 ろ材
3 給水口
4 散水管
5 分散板
6 排水口
7 支持板
8 非常排水口
9 送気口
10 ブロワ
11 架台
図1
図2
図3