(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171295
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】耐凍結性ハイドロゲルの製造方法、及び極低温応答に適した可撓性温度センサの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/075 20060101AFI20231124BHJP
G01K 7/16 20060101ALI20231124BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C08J3/075 CEX
G01K7/16 S
C08L29/04 A
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079003
(22)【出願日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】202210548001.4
(32)【優先日】2022-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】505072650
【氏名又は名称】浙江大学
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】徐 ▲凱▼臣
(72)【発明者】
【氏名】陸 雨姚
(72)【発明者】
【氏名】楊 ▲ゴン▼
(72)【発明者】
【氏名】楊 華勇
【テーマコード(参考)】
2F056
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
2F056MS06
4F070AA26
4F070AC12
4F070AC38
4F070AC39
4F070AC55
4F070AC64
4F070AC66
4F070AE08
4F070AE28
4F070AE30
4F070BA02
4F070BA03
4F070BA07
4J002BE021
4J002EL087
4J002EW006
4J002GQ00
4J002GT00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】-60℃の環境下で長期的な耐凍結性を維持できるだけでなく、高密度で強力な水素結合で架橋された耐凍結性ハイドロゲル、その製造方法、及び極低温応答に適した可撓性温度センサを提供する。
【解決手段】ポリビニルアルコールとフィチン酸溶液を混合し、ポリビニルアルコールとフィチン酸溶液との質量比が1:1であるステップ1)と、得られた溶液にグルコース及び/又はフルクトースを含む物質を加え、50℃で均一に混合するまで撹拌し、前記グルコース及び/又はフルクトースの質量がポリビニルアルコールの40~50%であるステップ2)と、得られた溶液を80℃で水浴加熱を2時間行い、加熱を停止し、室温で冷却するステップ3)と、室温まで冷却した後、調製した溶液を-50℃と室温でそれぞれ複数回の凍結解凍サイクルを行い、前記耐凍結性ハイドロゲルを得るステップ4)と、を含むことを特徴とする耐凍結性ハイドロゲルである。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールとフィチン酸とグルコース及び/又はフルクトースを含む物質とを水素結合、エステル結合及び静電吸着作用で架橋して得られ、-60℃まで低い環境下で機械的特性及び温度応答性を維持することができる耐凍結性ハイドロゲルであって、
前記耐凍結性ハイドロゲルを製造する方法は、
ポリビニルアルコールとフィチン酸溶液を混合し、ポリビニルアルコールの質量濃度が5~30%、フィチン酸溶液の質量濃度が10~50%であり、ポリビニルアルコールとフィチン酸溶液との質量比が1:1であるステップ1)と、
得られた溶液にグルコース及び/又はフルクトースを含む物質を加え、50℃で均一に混合するまで撹拌し、前記グルコース及び/又はフルクトースの質量がポリビニルアルコールの40~50%であるステップ2)と、
得られた溶液を静置してその中の気泡を除去した後、80℃で水浴加熱を2時間行い、溶液の色の白色透明から茶色への徐々なる変化を観察すると、加熱を停止し、室温で冷却するステップ3)と、
室温まで冷却した後、調製した溶液を-50℃と室温でそれぞれ複数回の凍結解凍サイクルを行い、前記耐凍結性ハイドロゲルを得るステップ4)と、を含むことを特徴とする耐凍結性ハイドロゲル。
【請求項2】
極低温応答に適した可撓性温度センサであって、請求項1に記載の耐凍結性ハイドロゲルを感知材料として用いることを特徴とする温度センサ。
【請求項3】
前記耐凍結性ハイドロゲル上に直接電極を配置することにより得られ、温度応答範囲が-60℃~60℃であることを特徴とする請求項2に記載の極低温応答に適した可撓性温度センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性感知デバイスの技術分野に属し、極低温応答性を有する可撓性温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
可撓性センサは、可撓性電子の重要な具現化形態の1つとして、近年、産業界と学術界から大きな注目を集めている。独特の機械的可撓性と可延性により、可撓性センサは非平面物体の表面に形状追従的に貼り付けられて、リアルタイムで本体又は外部環境情報を感知することができる。測定される物理量別に分類すると、一般的な可撓性センサには、温度センサ、湿度センサ、圧力センサ、流量センサなどが含まれる。その中で、温度センサは、よく使用される温度感知デバイスとして、通常は人体の体温や環境の物理温度の検出に適用される。しかし、可撓性/軟質マトリックス材料の固有の性質に制限され、現在の可撓性温度センサは、通常、通常の温度範囲(10~110℃)の感知にしか適用されることができず、極端な環境(極端な高温や極低温など)での適用が制限されている。
【0003】
スマートハイドロゲルは、外部の温度、湿度、pH、光などの物理的・化学的な信号に応答することができる。異なる信号の刺激により、ハイドロゲルは体積的変化あるいは構造的変化を起こす。そのため、良好な機械的特性を持つスマートハイドロゲルは、可撓性センサを構築するための重要な材料となる。CN104961862Aを例にとると、温度応答性を有するスマートハイドロゲルは、一般的に温度が上がると水が失われ、また、体積も縮小する一方、温度が下がると、ゆっくりと環境中の水分を吸収し、その後、体積が膨張し、徐々に元の体積に戻り、この過程で、ハイドロゲルの電気抵抗は高分子鎖中の水分の変化によって変化する。
【0004】
現在研究されているスマート温度応答型ハイドロゲルは、筋肉モジュールの駆動、薬物放出の制御や水の浄化などの一部の機能を実現することができたが、温度検出用の面では、検出範囲が狭く、応答速度が遅く、信号の再現性が悪く、使用寿命が短いなどいくつかの欠点がある。これらの欠点の原因は主に、ハイドロゲル中において水の含有量が大部分であることであり、含水量の多いハイドロゲルのほとんどは低温では凍結に抵抗できず、高温でも急速に水が失われる。従って、比較的安定した性能を有するハイドロゲルは、広い温度範囲で一定の耐凍結性と耐乾燥性が必要である。文献「Biomimetic anti-freezing polymeric hydrogels: keeping soft-wet materials active in cold environments」(Yukun Jian, Stephan Handschuh-Wang, Jiawei Zhang, Wei Lu, Xuechang Zhou and Tao Chen, Materials Horizons, 8, 2021.)は、耐凍結性と耐乾燥性を実現するハイドロゲルの現在の方法を列挙するとともに、塩、アルコール、イオン液体などの添加が主であることが記載されており、この物理的な混合/置換の方法は長期的なものではなく、これらの溶質がハイドロゲルから漏れ出す可能性があり、耐凍結性も大きな影響を受けるためである。もう1つの方法は、高分子鎖に極性基を導入することにより、高分子材料の構造を改良することであり、この場合、ハイドロゲル構造中の強い水素結合相互作用が氷結晶の形成を阻害する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の温度応答型ハイドロゲルの性能による欠点に対して、本発明は、-60℃で長期的な耐凍結性を維持でき、高密度で強力な水素結合で架橋された高分子網目である耐凍結性ハイドロゲル、その製造方法、及び極低温応答に適した可撓性温度センサを提供する。前記温度センサは、温度応答範囲が広く、感度が高く、サイクル使用時の安定性に優れているという特徴を有する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明が採用する技術的解決手段は以下のとおりである。
【0007】
本発明の1つの特定実施形態によれば、本発明の耐凍結性ハイドロゲルは、合成又は半合成高分子材料とフィチン酸とグルコース及び/又はフルクトースを含む物質とを水素結合、エステル結合及び静電吸着作用で架橋して得られ、-60℃まで低い環境下で機械的特性及び温度応答性を維持することができる。
【0008】
本発明の1つの特定実施形態によれば、前記耐凍結性ハイドロゲルの製造方法は、
ポリビニルアルコール溶液などの合成又は半合成高分子材料とフィチン酸溶液とを混合するステップ1)と、
得られた溶液に、蜂蜜などのグルコース及び/又はフルクトースを含む物質を加え、均一に混合するまで撹拌するステップ2)と、
得られた溶液を静置してその中の気泡を除去した後、水浴加熱を行い、溶液の色の白色透明から茶色への徐々なる変化を観察すると、加熱を停止し、室温で冷却するステップ3)と、
室温まで冷却した後、調製した溶液を-50℃と室温でそれぞれ複数回の凍結解凍サイクルを行い、前記耐凍結性ハイドロゲルを得るステップ4)と、を含む。
【0009】
本発明の1つの特定実施形態によれば、前記ステップ1)における合成又は半合成高分子材料溶液の質量濃度が5~30%、フィチン酸溶液の質量濃度が10~50%であり、合成又は半合成高分子材料溶液とフィチン酸溶液との質量比が1:1である。
【0010】
本発明の1つの特定実施形態によれば、前記ステップ2)における前記グルコース及び/又はフルクトースの質量が、合成又は半合成高分子材料溶液の40~50%である。
【0011】
本発明の1つの特定実施形態によれば、前記ステップ2)において、50℃で撹拌混合する。
【0012】
本発明の1つの特定実施形態によれば、前記ステップ3)において、水浴加熱温度は80℃、加熱時間は2時間である。
【0013】
前記合成又は半合成高分子材料は、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど)から選択されてもよい。
【0014】
前記グルコース及び/又はフルクトースを含む物質は、蜂蜜(グルコースを20%以上含む自然界のすべての品種)、グルコース又はグルコース及びその誘導体を含む糖類(例えば、スクロース、白砂糖、黒糖、キャラメル、氷砂糖、マルトースなど)、フルクトース又はフルクトースを含む糖類(例えば、スクロース、フルーツジュースなど)という高分子から選ばれる1種又は複数種であってもよい。
【0015】
本発明の1つの特定実施形態によれば、本発明の極低温応答に適した可撓性温度センサは、前述したような耐凍結性ハイドロゲルを感知材料として使用する。
【0016】
本発明の1つの特定実施形態によれば、可撓性温度センサは、前記耐凍結性ハイドロゲル上に直接電極を配置することにより得られ、温度応答範囲が-60℃~60℃である。
【0017】
本発明の1つの特定実施形態によれば、本発明のハイドロゲルは、ポリビニルアルコール単量体と、フィチン酸分子と、グルコース及び/又はフルクトースとからなる。これら3種類の単量体同士を水素結合、エステル結合及び静電吸着作用などの様々な方法で架橋することができるので、このハイドロゲルは、柔軟な鎖と剛直な鎖が交絡した網目構造を形成することができる。このハイドロゲルは一般的な耐凍結性ハイドロゲルと異なり、溶媒置換、イオン液体の添加などのステップを経て耐凍結性を実現する必要がなく、主にこのハイドロゲル自体の緻密な網目構造を利用して水分子の自由な移動空間を制限し、それによって氷点下で水が氷核を形成する過程を抑制し、網目構造中の水を過冷水にして液体状態のままとし、ハイドロゲルの弾性を保持する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の有益な効果は次のとおりである。
【0019】
本発明で製造されたハイドロゲル及び温度センサは、温度検出範囲が-60℃~60℃であり、しかも、5日間凍結乾燥した場合にも良好な弾性を維持する(
図1参照)。その主な技術的特徴としては以下を含む。(1)高分子鎖中のポリビニルアルコール、フィチン酸など、蜂蜜中のグルコース、フルクトースなどの豊富な水酸基を利用して、架橋後のハイドロゲル構造に強い水素結合作用を持たせ、
図2の赤外スペクトルから分かるように、2933.67cm
-1及び3291.96cm
-1において広い水素結合吸収ピークが現れる。(2)フィチン酸分子中の6つの極性リン酸基の豊富な水素結合供与体と受容体を利用して高分子鎖中の水素結合密度を大幅に高める。(3)ハイドロゲルにおけるフィチン酸とポリビニルアルコール、グルコース及び/又はフルクトースとの間のエステル結合、静電吸着作用などによっても、ハイドロゲルの良好な機械的特性が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】冷蔵庫(-50℃)で1ヶ月間放置した後の該耐凍結性ハイドロゲルの弾性を示す図である。
【
図2】該温度応答型ハイドロゲルの赤外スペクトルである。
【
図3】該ハイドロゲル温度センサの構造模式図である。
【
図4】ハイドロゲル温度センサの-60℃~60℃の温度感知曲線である。
【
図5】該ハイドロゲル温度センサと商用温度センサの-60℃~60℃の範囲でのサイクル試験曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の技術的解決手段について、具体的な図面及び実施例を参照してさらに説明する。
【実施例0022】
耐凍結性ハイドロゲルに基づく温度センサの製造方法:
1)ポリビニルアルコールの含有量が5~30%のポリビニルアルコール溶液の調製:脱イオン水にポリビニルアルコールの固形粒子をその質量分加えた後、60℃の一定温度で24時間加熱撹拌し、透明で粘性のあるポリビニルアルコール溶液が得られた。
2)所定量のポリビニルアルコール溶液とフィチン酸溶液(10~50%(w/w)in H2O)を1:1の質量比で撹拌混合した。
3)混合した溶液に、適量の蜂蜜(グルコースの質量はポリビニルアルコール溶液の40~50%)を加えて、均一に混合するまで50℃の条件で30分間混合撹拌した。
4)混合した溶液を10~20分間静置してその中の気泡を除去した後、80℃の水浴温度で溶液を加熱し、約2時間加熱した後、溶液の色の白色透明から茶色への徐々なる変化を観察すると、加熱を停止し、室温で冷却した。
5)室温(25~30℃)まで冷却した後、調製した溶液を型に流し込んで、-50℃と室温でそれぞれ3回の凍結解凍サイクルを行った。
6)型内の硬化したハイドロゲルサンプルを取り出し、長さ3cm、幅1.5cmのサイズに裁断した。
7)長方形(長さ:3cm、幅:0.5cm)の導電性カーボンクロスを2つ用意し、高温に強いテフロンテープでカーボンクロスをハイドロゲルの両側に固定した後、用意したハイドロゲル温度センサを温湿度オーブンに置いて試験した。
ポリビニルアルコール溶液(質量濃度5%)とフィチン酸(質量濃度50%)と蜂蜜(グルコース及び/又はフルクトースの質量はポリビニルアルコール溶液の40%)とを50℃で均一に混合した後、水浴温度80℃で2時間の定温加熱を行い(他の条件は実施例1と同じ)、最終的に得られた溶液に対して3回の凍結解凍サイクルを行い、弾性に優れるが力学的強度に優れないハイドロゲルが得られた。