(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171310
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】改質再生コラーゲン繊維、並びにその製造方法及びそれを含む頭飾製品
(51)【国際特許分類】
D06M 15/233 20060101AFI20231124BHJP
A41G 3/00 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
D06M15/233
A41G3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080245
(22)【出願日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2022081668
(32)【優先日】2022-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】川村 光平
(72)【発明者】
【氏名】大平 和宇
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA03
4L033AB01
4L033AC15
4L033CA13
(57)【要約】
【課題】再生コラーゲン繊維における問題点である耐水性と乾燥時・湿潤時の両場面での耐熱性が向上し、熱形状記憶能が付与されると共に、伸縮性(粘り強さ)、表面の感触が向上し、しかも着色のない改質再生コラーゲン繊維の提供。
【解決手段】再生コラーゲン繊維中に以下の成分(A)又は成分(A)を構成モノマーとして含む重合物を含有してなる改質再生コラーゲン繊維。
(A)ビニル安息香酸又はその塩
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生コラーゲン繊維中に以下の成分(A)又は成分(A)を構成モノマーとして含む重合物を含有してなる改質再生コラーゲン繊維。
(A) ビニル安息香酸又はその塩
【請求項2】
さらに、以下の成分(C)を含有する請求項1に記載の改質再生コラーゲン繊維。
(C) 多価金属、又はその塩若しくはその錯体
【請求項3】
成分(C)がアルミニウム、又はその塩若しくはその錯体である、請求項2に記載の改質再生コラーゲン繊維。
【請求項4】
下記工程(i)を含む再生コラーゲン繊維処理方法。
工程(i) 単一の組成物から構成される1剤式繊維処理剤又は複数の組成物から構成される多剤式繊維処理剤であって、その全組成中に以下の成分(A)及び成分(B)を含有する繊維処理剤に、再生コラーゲン繊維を浸漬する工程
(A):ビニル安息香酸又はその塩
(B):アゾ重合開始剤
【請求項5】
工程(i)の繊維処理剤が成分(A)を含有する第1剤及び成分(B)を含有する第2剤を含む多剤式繊維処理剤であって、
工程(i)が、第1剤に再生コラーゲン繊維を浸漬した後、第2剤に第1剤処理後の再生コラーゲン繊維を浸漬する工程、又は第2剤に再生コラーゲン繊維を浸漬した後、第1剤に第2剤処理後の再生コラーゲン繊維を浸漬する工程を含む、請求項4に記載の再生コラーゲン繊維処理方法。
【請求項6】
前記再生コラーゲン繊維が、以下の成分(C)を含有する、請求項4又は5に記載の再生コラーゲン繊維処理方法。
(C) 多価金属、又はその塩若しくはその錯体
【請求項7】
成分(C)がアルミニウム、又はその塩若しくはその錯体である、請求項6に記載の再生コラーゲン繊維処理方法。
【請求項8】
請求項4~7のいずれか1項に記載の再生コラーゲン繊維処理方法によって、再生コラーゲン繊維を処理する工程を含む、改質再生コラーゲン繊維の製造方法。
【請求項9】
請求項4~7のいずれか1項に記載の再生コラーゲン繊維処理方法によって、再生コラーゲン繊維を処理する工程を含む、頭飾製品の製造方法。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか1項に記載の改質再生コラーゲン繊維を構成要素として含む頭飾製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水性、耐熱性及び熱形状記憶能を付与された再生コラーゲン繊維に関し、好適にはかつら、エクステンション等の頭飾製品等繊維製品に用いられる再生コラーゲン繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
再生コラーゲン繊維は、一般に、合成繊維とは異なって、天然素材から来る自然な風合いや外観を有する。本再生コラーゲン繊維は、酸可溶性コラーゲンあるいは不溶性コラーゲンをアルカリや酵素で可溶化して紡糸原液とし、紡糸ノズルを通して凝固浴に吐出して繊維化することで得られる。
【0003】
しかし、再生コラーゲン繊維は、一般的に、合成繊維に比べて親水性が高いため吸水率が高く、多くの水を含んだ状態においては機械的強度が極めて低い。このため、洗浄時には高い吸水率のために機械強度が著しく低下し、その後の乾燥時に破断するなど、頭飾製品等繊維製品としての適性低下につながっている。
【0004】
また、再生コラーゲン繊維には、耐熱性の低さという問題もあり、例えば、ヘアアイロン等を使用した熱セットにおいては、人毛と同じような高い温度でセットした場合には収縮や縮れを発生し見栄えを損なってしまう。
【0005】
さらに、プラスチック製の合成繊維ではアイロン等による熱セット時における形状がその後の洗浄を経ても記憶され続ける(熱形状記憶能がある)が、再生コラーゲン繊維は、アイロン等による熱セット時における形状がその後の一度の洗浄で失われてしまう(熱形状記憶能がない)ため、従来のプラスチック製の合成繊維に比べて形状セットの自由度の観点で劣る部分があった。
【0006】
上記の点が、繊維製品への再生コラーゲン繊維の普及を妨げる要因となっていた。特に耐水性、すなわち濡れ時の機械強度の低下が与える影響が顕著であった。
一方、人毛繊維の分野において、本来熱形状記憶能を有しない人毛繊維に対し、新たに熱形状記憶能を付与するために特定のアルデヒド誘導体とフェノール化合物を作用させる方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、繊維製品の製造場面においては繊維を強く伸長する場合もあり、特許文献1に記載の技術では処理後の繊維の伸縮性(粘り強さ)が十分とはならないこともあった。このため、伸長時の破断を防ぐため、処理後の繊維の伸縮性を高める要求があった。また、特許文献1に記載の技術では、繊維が着色する場合もあった。
【0009】
したがって本発明は、再生コラーゲン繊維における問題点である耐水性、耐熱性が改善され、熱形状記憶能が付与されると共に、伸縮性(粘り強さ)、表面の感触にも優れ、しかも着色のない改質再生コラーゲン繊維に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を進めた結果、ビニル安息香酸又はその塩を含有する改質再生コラーゲン繊維は、前記ビニル安息香酸等が重合するとともに、そのカルボキシル基が再生コラーゲン繊維中の金属(主として多価金属)に強く配位しているため、繊維の水中での強度や耐熱性が向上されつつ繊維からのビニル安息香酸、その塩、又はその重合物の漏出も防止されることを見出した。そしてその結果、この改質再生コラーゲン繊維は、耐水性と乾燥時・湿潤時の両場面での耐熱性が向上し、熱セットにより形状を付与できるのみならず、意外にも、伸縮性(粘り強さ)が処理前より向上し、人毛に近い水準まで高まること、更には改質処理に伴う着色もないことを見出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明は、再生コラーゲン繊維中に以下の成分(A)又は成分(A)を構成モノマーとして含む重合物を含有してなる改質再生コラーゲン繊維を提供するものである。
(A) ビニル安息香酸又はその塩
【0012】
更に本発明は、下記工程(i)を含む再生コラーゲン繊維処理方法を提供するものである。
工程(i) 単一の組成物から構成される一剤式繊維処理剤又は複数の組成物から構成される多剤式繊維処理剤であって、その全組成中に以下の成分(A)及び成分(B)を含有する繊維処理剤に、再生コラーゲン繊維を浸漬する工程
(A):ビニル安息香酸又はその塩
(B):アゾ重合開始剤
【0013】
更に本発明は、上記の再生コラーゲン繊維処理方法によって、再生コラーゲン繊維を処理する工程を含む、改質再生コラーゲン繊維の製造方法を提供するものである。
【0014】
更に本発明は、上記の再生コラーゲン繊維処理方法によって、再生コラーゲン繊維を処理する工程を含む、頭飾製品の製造方法を提供するものである。
【0015】
更に本発明は、上記の改質再生コラーゲン繊維を構成要素として含む頭飾製品を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、再生コラーゲン繊維の問題点である耐水性、耐熱性が向上し、熱形状記憶能が付与されると共に、伸縮性(粘り強さ)、表面の感触が向上し、しかも着色のない改質再生コラーゲン繊維を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔本発明において処理対象となる繊維〕
本発明の繊維処理の対象となる繊維は、コラーゲン由来のポリマーやオリゴマーを原料として人工的に製造された繊維、すなわちコラーゲンを原料とする再生コラーゲン繊維である。
【0018】
再生コラーゲン繊維は、公知の技術で製造することができ、また、組成もコラーゲン100%である必要はなく、品質改良のための天然あるいは合成ポリマーや添加剤が含まれていてもよい。更には、再生コラーゲン繊維を後加工したものであってもよい。再生コラーゲン繊維の形態としてはフィラメントが好ましい。フィラメントは一般にボビン巻きしたものや箱詰めした状態から取り出される。また、再生コラーゲン繊維の製造工程で乾燥工程から出てきたフィラメントを直接利用することもできる。
【0019】
再生コラーゲン繊維の製造に用いるコラーゲンの原料には、床皮の部分を用いるのが好ましい。床皮は、例えば牛などの家畜動物を屠殺して得られるフレッシュな床皮や塩漬けした生皮より得られる。これら床皮などは、大部分が不溶性コラーゲン繊維からなるが、通常網状に付着している肉質部分を除去し、腐敗・変質防止のために用いた塩分を除去したのちに用いられる。
【0020】
この不溶性コラーゲン繊維には、グリセライド、リン脂質、遊離脂肪酸等の脂質、糖タンパク質、アルブミン等のコラーゲン以外のタンパク質などの不純物が存在している。これらの不純物は、繊維化するにあたって紡糸安定性、光沢や強伸度などの品質、臭気などに多大な影響を及ぼす。したがって、例えば石灰漬けにして不溶性コラーゲン繊維中の脂肪分を加水分解し、コラーゲン繊維を解きほぐした後、酸・アルカリ処理、酵素処理、溶剤処理などの従来一般に行われている皮革処理を施し、あらかじめこれらの不純物を除去しておくことが好ましい。
【0021】
前記のような処理の施された不溶性コラーゲンは、架橋しているペプチド部を切断するために、可溶化処理が施される。かかる可溶化処理の方法としては、一般に採用されている公知のアルカリ可溶化法、酵素可溶化法等を適用することができる。さらに、前記アルカリ可溶化法及び酵素可溶化法を併用してもよい。
【0022】
前記アルカリ可溶化法を適用する場合には、例えば塩酸等の酸で中和することが好ましい。なお、従来知られているアルカリ可溶化法の改善された方法として、特公昭46-15033号公報に記載された方法を用いてもよい。
【0023】
前記酵素可溶化法は、分子量が均一な可溶化コラーゲンを得ることができるという利点を有するものであり、本発明において好適に採用しうる方法である。かかる酵素可溶化法としては、例えば特公昭43-25829号公報、特公昭43-27513号公報等に記載された方法を採用することができる。
【0024】
このように可溶化処理を施したコラーゲンに、pHの調整、塩析、水洗、溶剤処理等の操作を更に施した場合には、品質などに優れた再生コラーゲン繊維を得ることが可能なため、これらの処理を施すことが好ましい。
【0025】
得られた可溶化コラーゲンは、例えば、塩酸、酢酸、乳酸等の酸で溶解し、pHが2~4.5であり、コラーゲンの濃度が1質量%以上、好ましくは2質量%以上、また15質量%以下、好ましくは10質量%以下であるコラーゲン水溶液になるように調整する。前記コラーゲン水溶液は、必要に応じて減圧攪拌下で脱泡を施したり、水不溶分である細かいゴミを除去したりするために濾過を行ってもよい。また、前記コラーゲン水溶液には、さらに必要に応じて、例えば機械的強度の向上、耐水・耐熱性の向上、光沢性の改良、紡糸性の改良、着色の防止、防腐等を目的として、安定剤、水溶性高分子化合物等の添加剤を適量配合してもよい。
【0026】
前記コラーゲン水溶液を、例えば紡糸ノズルやスリットを通して吐出し、無機塩水溶液に浸漬することにより、再生コラーゲン繊維を形成する。無機塩水溶液としては、例えば硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウム等の水溶性無機塩の水溶液が用いられる。通常、これらの無機塩水溶液中の無機塩の濃度は10~40質量%に調整する。無機塩水溶液のpHは、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、また、好ましくは13以下、より好ましくは12以下である。このpHの調整には、例えばホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等の金属塩、塩酸、ホウ酸、酢酸、水酸化ナトリウムなどを用いることができる。無機塩水溶液のpHが前記の範囲であると、コラーゲンのペプチド結合が加水分解を受けにくく、目的とする繊維が得られやすくなる。また、無機塩水溶液の温度は特に限定されないが、可溶性コラーゲンが変性することもなく、紡糸した繊維の強度が低下せず、安定した糸の製造が容易となる点から、通常35℃以下であることが望ましい。なお、無機塩水溶液の温度の下限は特に限定されないが、通常無機塩の溶解度に応じて適宜調整することができる。
【0027】
前記再生コラーゲン繊維を、エポキシ化合物あるいはその溶液に浸漬して再生コラーゲン繊維を前処理(架橋処理)してもよい。エポキシ化合物の量は、アミノ酸分析法により測定した再生コラーゲン繊維中におけるエポキシ化合物と反応可能なアミノ基の量に対し、好ましくは0.1当量以上、より好ましくは0.5当量以上、更に好ましくは1当量以上であり、また、好ましくは500当量以下、より好ましくは100当量以下、更に好ましくは50当量以下である。エポキシ化合物の量が前記範囲であることにより、再生コラーゲン繊維に水に対する不溶化効果を充分付与し得る上、工業的な取扱い性や環境面でも好ましい。
【0028】
エポキシ化合物はそのままあるいは各種溶剤に溶解して用いる。溶剤としては、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロパノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン系有機溶媒;ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の中性有機溶媒などが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてよい。溶剤として水を用いる場合、必要に応じて硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウム等の無機塩の水溶液を用いてもよい。通常、無機塩の水溶液中の無機塩の濃度は、10~40質量%に調整される。また、水溶液のpHを、例えば、ホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等の金属塩や、塩酸、ホウ酸、酢酸、水酸化ナトリウムなどにより、調整してもよい。この場合、水溶液のpHは、エポキシ化合物のエポキシ基とコラーゲンのアミノ基との反応が遅くならず、水に対する不溶化が十分となる観点から、好ましくは6以上、より好ましくは8以上である。また、無機塩の水溶液のpHは時間とともに低下していく傾向にあるため、必要により緩衝剤を使用してもよい。
【0029】
前記エポキシ化合物による再生コラーゲン繊維の処理温度は、再生コラーゲン繊維が変性することがなく、得られる繊維の強度が低下せず、安定的な糸の製造が容易となる観点から、50℃以下が好ましい。
【0030】
再生コラーゲン繊維は、次いで水洗、オイリング、乾燥してもよい。水洗は、例えば、10分間~4時間流水水洗することにより行うことができる。オイリングに用いる油剤としては、例えば、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン等のエマルジョン及びプルロニック型ポリエーテル系静電防止剤からなる油剤などを用いることができる。乾燥温度は、好ましくは100℃以下、より好ましくは75℃以下である。
【0031】
処理される再生コラーゲン繊維としては、耐水性向上の観点から、多価金属、又はその塩若しくはその錯体を含有するものが好ましい。多価金属としては、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、クロム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、スズ、鉛、アンチモン、鉄、銅等が挙げられ、耐水性向上、及び、繊維の着色低減や、環境への影響低減、経済性向上の観点から、好ましくはアルミニウム、ジルコニウム、チタン、より好ましくはアルミニウムが用いられる。再生コラーゲン繊維中における多価金属、又はその塩若しくはその錯体の含有量は、耐水性向上の観点から、金属元素量として、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、更に好ましくは3.0質量%以上、更により好ましくは5.0質量%以上であり、また、繊維表面の感触の向上の観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、更により好ましくは10質量%以下である。
すなわち、処理される再生コラーゲン繊維中の多価金属、又はその塩若しくはその錯体の含有量は、前記観点から、金属元素量として、好ましくは1.0~40質量%、より好ましくは2.0~30質量%、更に好ましくは3.0~20質量%、更により好ましくは5.0~10質量%である。
【0032】
〔繊維処理方法〕
(一段階処理と多段階処理)
本発明の繊維処理方法には、単一の組成物から構成される一剤式繊維処理剤による一段階処理、二剤式等の複数の組成物から構成される多剤式繊維処理剤を用い、再生コラーゲン繊維をこれら複数の組成物に順次浸漬する多段階処理のいずれの形態も包含される。なお、前記一剤式繊維処理剤には、複数の組成物を用時混合して単一の組成物として用いるものも含まれる。
本発明において、繊維処理剤中における含有量とは、一段階処理の場合は一剤式繊維処理剤を構成する単一の組成物中における含有量をいい、多段階処理の場合は、各段階で使用するそれぞれの処理剤中における含有量をいうものとする。
【0033】
(基本的処理)
本発明の繊維処理方法は、下記工程(i)を含むものであり、これにより、再生コラーゲン繊維の問題点である耐水性、耐熱性が向上し、熱形状記憶能が付与されると共に、伸縮性(粘り強さ)、表面の感触が向上し、しかも着色のない改質再生コラーゲン繊維を提供することができる。
工程(i) 単一の組成物から構成される1剤式繊維処理剤又は複数の組成物から構成される多剤式繊維処理剤であって、その全組成中に以下の成分(A)及び成分(B)を含有する繊維処理剤に、再生コラーゲン繊維を浸漬する工程
(A):ビニル安息香酸又はその塩
(B):アゾ重合開始剤
【0034】
多剤式繊維処理剤としては、例えば、成分(A)を含有する第1剤及び成分(B)を含有する第2剤からなる二剤式繊維処理剤が挙げられる。このような多剤式繊維処理剤を用いる場合、工程(i)は、各剤に再生コラーゲン繊維を順次浸漬する多段階処理の工程となる。例えば、前記の二剤式繊維処理剤を用いる場合、工程(i)は、成分(A)を含有する第1剤に再生コラーゲン繊維を浸漬した後、成分(B)を含有する第2剤に第1剤処理後の再生コラーゲン繊維を浸漬する二段階処理の工程、又は成分(B)を含有する第2剤に再生コラーゲン繊維を浸漬した後、成分(A)を含有する第1剤に第2剤処理後の再生コラーゲン繊維を浸漬する二段階処理の工程となる。
【0035】
成分(A)はビニル安息香酸又はその塩である。ビニル安息香酸としては、2-ビニル安息香酸、3-ビニル安息香酸、4-ビニル安息香酸及びこれらから選ばれる2種又は3種の混合物が挙げられるが、入手容易性や処理後繊維の表面感触の良さの観点から3種の混合物が好ましい。一方、耐水性を付与する観点からは4-ビニル安息香酸が好ましい。成分(A)が塩である場合の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0036】
繊維処理剤中における成分(A)の含有量は、繊維処理剤のpH範囲によって異なるが、以下に示す範囲が好ましい。なお、繊維処理剤が多剤式の多段階処理である場合、ここでいう「成分(A)の含有量」とは、成分(A)を含有する組成物中の含有量をいい、また、ここでいう「繊維処理剤のpH」とは、成分(A)を含む処理剤のpHを指す。成分(A)を含む処理剤が複数ある場合、それぞれの処理剤のpHに応じて、好ましい含有量の範囲が定まる。なお、前記の通り、複数の組成物を用時混合して単一の組成物として用いるものは、一剤式繊維処理剤に含まれ、「繊維処理剤のpH」とは、混合後のpHを指す。
【0037】
繊維処理剤のpHが2.0以上かつ6.5未満の場合、処理後の改質再生コラーゲン繊維により高い形状持続性、耐水性、伸縮性(粘り強さ、すなわち繊維引張時の高い破断伸度)及び耐熱性を付与する観点から、繊維処理剤中における成分(A)の含有量は、ビニル安息香酸モノマーに換算して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、更により好ましくは1.0質量%以上であり、また、繊維表面の感触を向上する観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、更により好ましくは15質量%以下である。
すなわち、繊維処理剤のpHが2.0以上かつ6.5未満の場合、繊維処理剤中における成分(A)の含有量は、前記観点から、ビニル安息香酸モノマーに換算して、好ましくは0.1~30質量%、より好ましくは0.2~25質量%、更に好ましくは0.5~20質量%、更により好ましくは1.0~15質量%である。
【0038】
繊維処理剤のpHが6.5以上かつ11.0以下の場合、処理後の改質再生コラーゲン繊維により高い形状持続性と、耐水性、伸縮性(粘り強さ、すなわち繊維引張時の高い破断伸度)及び耐熱性を付与する観点から、繊維処理剤中における成分(A)の含有量は、ビニル安息香酸モノマーに換算して、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、更に好ましくは5.0質量%以上、更により好ましくは10質量%以上であり、また、繊維表面の感触を向上する観点から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下、更により好ましくは60質量%以下である。
すなわち、繊維処理剤のpHが6.5以上かつ11.0以下の場合、繊維処理剤中における成分(A)の含有量は、前記観点から、ビニル安息香酸モノマーに換算して、好ましくは1.0~90質量%、より好ましくは2.0~80質量%、更に好ましくは5.0~70質量%、更により好ましくは10~60質量%である。
【0039】
成分(B)は成分(A)を重合させるためのアゾ重合開始剤である。成分(B)は成分(A)と同じ組成物中に含有させてもよいが、用いる繊維処理剤を多剤式、例えば2剤式とし、成分(A)を含有する組成物(第1剤)とは別の組成物(第2剤)中に含有させてもよい。
【0040】
アゾ重合開始剤としては、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2'-アゾビス(2-ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2'-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、4,4'-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2'-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩等が挙げられる。
【0041】
親水性である再生コラーゲン繊維の繊維処理剤は、溶液中の化合物の繊維への浸透を促進する観点から、水溶液であることが好ましく、それゆえ繊維処理剤に配合するアゾ重合開始剤としても、水溶性のものが好ましい。水溶性のアゾ重合開始剤としては、2,2'-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、4,4'-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2'-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩等が好ましい。
【0042】
ここで、水溶性のアゾ重合開始剤とは、JIS K8001試薬試験方法通則に従い、アゾ重合開始剤の粉末1gを水中に入れ、20℃±5℃で5分ごとに強く30秒間振り混ぜたとき、30分以内に溶けるために必要な水の体積(mL)によって規定される以下の溶解の程度を示す用語において、好ましくは「溶けにくい」乃至「極めて溶けやすい」、より好ましくは「やや溶けにくい」乃至「極めて溶けやすい」、更に好ましくは「やや溶けやすい」乃至「極めて溶けやすい」、更により好ましくは「溶けやすい」乃至「極めて溶けやすい」、更により好ましくは「極めて溶けやすい」に相当するアゾ重合開始剤をいう。
【0043】
〈アゾ重合開始剤1gを溶かすのに要する水の量〉
極めて溶けやすい:1mL未満
溶けやすい:1mL以上10mL未満
やや溶けやすい:10mL以上30mL未満
やや溶けにくい:30mL以上100mL未満
溶けにくい:100mL以上1000mL未満
極めて溶けにくい:1000mL以上10000mL未満
ほとんど溶けない:10000mL以上
【0044】
さらに、耐熱性が低い再生コラーゲン繊維の処理剤としては、低い処理温度でも効率的に開裂しラジカル開始剤として機能するような、10時間半減期温度が低いアゾ重合開始剤を用いることがより好ましい。なかでも、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン](10時間半減期温度:61℃)、2,2'-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン](10時間半減期温度:57℃)、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(10時間半減期温度:56℃)、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩(10時間半減期温度:44℃)が好ましい。
【0045】
ここで、アゾ重合開始剤の10時間半減期温度とは、10時間後にアゾ重合開始剤の50%が分解する温度をいう。アゾ重合開始剤の10時間半減期温度は、高温に弱い再生コラーゲン繊維にダメージを与えずに低温で効率的に反応を進める観点から、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは60℃以下、更により好ましくは50℃以下であり、また、常温保管中に過剰な反応性を示さず保管・輸送に有利な観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上である。
【0046】
成分(B)は単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。繊維処理剤中における成分(B)の含有量は、効率的に反応を進行し処理後の改質再生コラーゲン繊維により高い形状持続性と、耐水性、伸縮性(粘り強さ、すなわち繊維引張時の高い破断伸度)及び耐熱性を付与する観点から、塩や錯体の場合は非解離型に換算し、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、更により好ましくは0.5質量%以上であり、また、濃度過剰により生成する重合物の分子量が小さくなりすぎることを防ぐ観点から、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、更により好ましくは20質量%以下である。なお、繊維処理剤が多剤式の多段階処理である場合、ここでいう「成分(B)の含有量」とは、成分(B)を含有する組成物中の含有量をいう。
【0047】
繊維処理剤中における成分(A)に対する成分(B)の質量比(B)/(A)は、効率的に反応を進行し処理後の改質再生コラーゲン繊維により高い形状持続性と、耐水性、伸縮性(粘り強さ、すなわち繊維引張時の高い破断伸度)及び耐熱性を付与する観点から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.01以上であり、また、好ましくは200以下、より好ましくは50以下である。なお、多剤式繊維処理剤であって、成分(A)と成分(B)とが別の処理剤に含まれる場合は、両剤を仮想的に混合した混合液中の質量比(B)/(A)が前記範囲内であればよい。
【0048】
工程(i)で使用する繊維処理剤は、水を媒体とする。繊維処理剤中における水の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、更により好ましくは40質量%以上であり、また好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更により好ましくは85質量%以下である。
すなわち、繊維処理剤中における水の含有量は、好ましくは10~95質量%、より好ましくは20~90質量%、更に好ましくは30~85質量%、更により好ましくは40~85質量%である。
【0049】
工程(i)で使用する繊維処理剤のpHは、再生コラーゲン繊維のダメージ抑制及び耐久性向上の観点から、好ましくは2.0以上、より好ましくは3.0以上、更に好ましくは3.5以上、更により好ましくは4.0以上であり、また、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.0以下、更に好ましくは9.0以下である。なお、本発明におけるpHは25℃のときの値である。
すなわち、繊維処理剤のpHは、再生コラーゲン繊維のダメージ抑制及び耐久性向上の観点から、好ましくは2.0~11.0、より好ましくは3.0~10.0、更に好ましくは3.5~9.0、更により好ましくは4.0~9.0である。
なお、多剤式繊維処理剤の場合は、それぞれの剤のpHについて上記の条件が当てはまる。ただし、各剤のpHは近い方が好ましく、具体的には、最もpHの高い剤と最もpHの低い剤のpHの差は、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.0以下、更に好ましくは1.0以下、更により好ましくは0.5以下である。なお、前記の通り、複数の組成物を用時混合して単一の組成物として用いるものは、一剤式繊維処理剤に含まれ、「繊維処理剤のpH」とは、混合後のpHを指す。
【0050】
工程(i)において、繊維処理に供する再生コラーゲン繊維は、乾燥していても濡れていてもよい。例えば、再生コラーゲン繊維製造時の乾燥前の状態で直接処理してもよい。再生コラーゲン繊維を浸漬する繊維処理剤の量は、再生コラーゲン繊維の質量に対する浴比(繊維処理剤の質量/再生コラーゲン繊維の質量)で、好ましくは2.0以上、より好ましくは3.0以上、更に好ましくは5.0以上、更により好ましくは10以上、更により好ましくは20以上であり、また好ましくは500以下、より好ましくは250以下、更に好ましくは100以下である。
すなわち、上記浴比は、好ましくは2.0~500、より好ましくは3.0~250、更に好ましくは5.0~100、更により好ましくは10~100、更により好ましくは20~100である。
【0051】
また、工程(i)では、あらかじめ再生コラーゲン繊維をカーラー等で固定し、次いで、加熱下で、本発明の繊維処理に供してもよい。このようにすることで、再生コラーゲン繊維に対し、熱形状記憶能と高い耐久性に加え、所望の形状を同時に付与することができる。
【0052】
工程(i)における繊維処理剤への再生コラーゲン繊維の浸漬は、加熱下において行うことが好ましく、この加熱は繊維処理剤を加温することで行われる。なお、この加熱は、加熱状態の繊維処理剤に再生コラーゲン繊維を浸漬することで行ってもよいが、低温の繊維処理剤に再生コラーゲン繊維を浸漬した後加熱することで行ってもよい。繊維処理剤の温度は、成分(A)又は成分(A)を構成モノマーとして含む重合物と再生コラーゲン繊維内の繊維構成分子、例えばタンパク質分子との相互作用を大きくすることで本発明の効果を得るため、好ましくは20℃以上、より好ましくは35℃以上、更に好ましくは45℃以上であり、また、再生コラーゲン繊維が熱により変性を起こし劣化するのを防ぐため、好ましくは100℃未満、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下、更に好ましくは60℃以下である。
【0053】
工程(i)における浸漬時間は、加熱温度によって適宜調整されるが、例えば、再生コラーゲン繊維に対する伸縮性向上効果を発現させる観点から、好ましくは15分以上、より好ましくは30分以上、更に好ましくは1時間以上であり、また、再生コラーゲン繊維のダメージ抑制のため、好ましくは48時間以下、より好ましくは24時間以下、更に好ましくは12時間以下である。
【0054】
工程(i)は、水分の蒸発が抑制される環境下で行われることが好ましい。水分の蒸発を抑制する具体的手段としては、再生コラーゲン繊維が浸漬されている繊維処理剤の容器を、水蒸気を透過しない素材でできたフィルム状物質、キャップ、フタ等で覆う方法が挙げられる。
【0055】
多剤式繊維処理剤を用いる多段階処理の場合、各段階で、前述の浴比、温度、浸漬時間その他の条件が適用される。なお、多段階処理の場合、各段階の間に、すすぎ、乾燥等を行ってもよい。
【0056】
工程(i)の後、再生コラーゲン繊維をすすいでもよく、また、すすがなくてもよいが、余剰の成分(A)又は成分(A)を構成モノマーとして含む重合物による再生コラーゲン繊維表面の感触低下を防ぐ観点から、すすぐ方が好ましい。
【0057】
工程(i)の処理によって、再生コラーゲン繊維内の成分(A)及び(B)が浸透し、成分(A)を構成モノマーとして重合し、繊維内の金属、例えば多価金属に強く配位することで、種々の効果を生じるものと思われる。すなわち、工程(i)を含む再生コラーゲン繊維処理方法によって、繊維内に成分(A)を含有する改質再生コラーゲン繊維を製造することができ、得られた改質再生コラーゲン繊維は、熱セットにより形状を付与することができ、耐水性、耐熱性、引張弾性率に優れ、再生コラーゲン繊維の伸縮性(粘り強さ)が高度に改善された繊維となる。
【0058】
〔改質再生コラーゲン繊維〕
以下、前記方法によって得られる本発明の改質再生コラーゲン繊維について説明する。
【0059】
(成分(A):ビニル安息香酸又はその塩)
本発明の改質再生コラーゲン繊維は、成分(A)のビニル安息香酸又はその塩、又は成分(A)を構成モノマーとして含む重合物を含有する。ビニル安息香酸としては、2-ビニル安息香酸、3-ビニル安息香酸、4-ビニル安息香酸及びこれらから選ばれる2種又は3種の混合物が挙げられるが、入手容易性や処理後繊維の表面感触の良さの観点から3種の混合物が好ましい。一方、耐水性の観点からは4-ビニル安息香酸が好ましい。成分(A)が塩である場合の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0060】
本発明の改質再生コラーゲン繊維中における成分(A)及び成分(A)を構成モノマーとして含む重合物の含有量は、より高い形状持続性、耐水性及び耐熱性を有するものとする観点から、ビニル安息香酸モノマーに換算して、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは5.0質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、更により好ましくは15質量%以上、更により好ましくは20質量%以上であり、また、繊維表面の感触を向上する観点から、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下、更により好ましくは40質量%以下である。
【0061】
すなわち、本発明の改質再生コラーゲン繊維中における成分(A)及び成分(A)を構成モノマーとして含む重合物の含有量は、前記観点から、ビニル安息香酸モノマーに換算して、好ましくは1.0~70質量%、より好ましくは5.0~60質量%、更に好ましくは10~50質量%、更により好ましくは15~40質量%、更により好ましくは20~40質量%である。
【0062】
(成分(C):多価金属、又はその塩若しくはその錯体)
本発明の改質再生コラーゲン繊維は、耐水性向上の観点から、(C)多価金属、又はその塩若しくはその錯体を含有することが好ましい。多価金属としては、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、クロム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、スズ、鉛、アンチモン、鉄、銅等が挙げられ、耐水性向上、及び、繊維の着色低減や、環境への影響低減、経済性向上の観点から、好ましくはアルミニウム、ジルコニウム、チタン、より好ましくはアルミニウムが用いられる。これらはいずれかを単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0063】
本発明の改質再生コラーゲン繊維中における成分(C)の含有量は、耐水性向上の観点から、金属元素量として、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上、更により好ましくは2.0質量%以上であり、また、繊維表面の感触の向上観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、更により好ましくは10質量%以下である。
すなわち、本発明の改質再生コラーゲン繊維中における成分(C)の含有量は、前記観点から、金属元素量として、好ましくは0.1~40質量%、より好ましくは0.5~30質量%、更に好ましくは1.0~20質量%、更により好ましくは2.0~10質量%である。
【0064】
本発明の改質再生コラーゲン繊維は、熱セットにより形状を付与することができ、耐水性、耐熱性、引張弾性率に優れ、再生コラーゲン繊維の伸縮性(粘り強さ)を高度に改善した繊維である。したがって、本発明の改質再生コラーゲン繊維は頭飾製品用繊維として好適に利用することができ、また、当該繊維を用いて各種の頭飾製品を製造することができる。
なお、本発明において好適な頭飾製品としては、例えば、ヘアーウィッグ、かつら、ウィービング、ヘアーエクステンション、ブレードヘアー、ヘアーアクセサリー、ドールヘアー等が挙げられる。
【0065】
本発明の改質再生コラーゲン繊維は、単独で頭飾製品として用いてもよく、他の繊維と混合して頭飾製品としてもよい。他の繊維としては、頭飾製品に用いることができる繊維であればよく、特に限定されない。他の繊維としては、例えば、ポリエステル系繊維、人毛、獣毛、ポリ塩化ビニル系繊維、モダアクリル繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維等が挙げられ、なかでも、耐熱性、難燃性及びカール保持性に優れるという観点から、ポリエステル系繊維が好ましく、難燃性ポリエステル系繊維がより好ましい。
【0066】
前記難燃性ポリエステル系繊維は、特に限定されないが、難燃性の観点から、ポリアルキレンテレフタレート、及びポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルからなる群から選ばれる一つ以上のポリエステル樹脂100質量部に対して臭素化エポキシ系難燃剤を5~40質量部含むことが好ましい。本発明において、「主体とする」とは、50モル%以上含有されることを意味し、「ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステル」は、ポリアルキレンテレフタレートを50モル%以上含有する共重合ポリエステルをいう。好ましくは、「ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステル」は、ポリアルキレンテレフタレートを60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上含有する。前記難燃性ポリエステル系繊維は、さらに、ポリエステル樹脂100質量部に対し、アンチモン化合物を0~5質量部含むことが好ましい。アンチモン化合物を含むことにより、ポリエステル系繊維の難燃性が向上する。
【0067】
以上述べた実施形態に関し、以下に本発明の好ましい態様を更に開示する。
【0068】
<1>
再生コラーゲン繊維中に以下の成分(A)又は成分(A)を構成モノマーとして含む重合物を含有してなる改質再生コラーゲン繊維。
(A) ビニル安息香酸又はその塩
【0069】
<2>
成分(A)の含有量が、ビニル安息香酸モノマーに換算して、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは5.0質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、更により好ましくは15質量%以上、更により好ましくは20質量%以上であり、また、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下、更により好ましくは40質量%以下である、<1>に記載の改質再生コラーゲン繊維。
【0070】
<3>
好ましくは、さらに、以下の成分(C)を含有する<1>又は<2>に記載の改質再生コラーゲン繊維。
(C) 多価金属、又はその塩若しくはその錯体
【0071】
<4>
成分(C)が、好ましくはカルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、クロム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、スズ、鉛、アンチモン、鉄及び銅から選ばれる1種以上の多価金属又はその塩若しくはその錯体、より好ましくはアルミニウム、ジルコニウム及びチタンから選ばれる1種以上の多価金属又はその塩若しくはその錯体、更に好ましくはアルミニウム又はその塩若しくはその錯体である、<3>に記載の改質再生コラーゲン繊維。
【0072】
<5>
成分(C)の含有量が、金属元素量として、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上、更により好ましくは2.0質量%以上であり、また、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、更により好ましくは10質量%以下である、<3>又は<4>に記載の改質再生コラーゲン繊維。
【0073】
<6>
下記工程(i)を含む再生コラーゲン繊維処理方法。
工程(i) 単一の組成物から構成される1剤式繊維処理剤又は複数の組成物から構成される多剤式繊維処理剤であって、その全組成中に以下の成分(A)及び成分(B)を含有する繊維処理剤に、再生コラーゲン繊維を浸漬する工程
(A):ビニル安息香酸又はその塩
(B):アゾ重合開始剤
【0074】
<7>
工程(i)の繊維処理剤が成分(A)を含有する第1剤及び成分(B)を含有する第2剤を含む多剤式繊維処理剤であって、
工程(i)が、第1剤に再生コラーゲン繊維を浸漬した後、第2剤に第1剤処理後の再生コラーゲン繊維を浸漬する工程、又は第2剤に再生コラーゲン繊維を浸漬した後、第1剤に第2剤処理後の再生コラーゲン繊維を浸漬する工程を含む、<6>に記載の再生コラーゲン繊維処理方法。
【0075】
<8>
工程(i)の前に、家畜動物の床皮を原料とする不溶性コラーゲン繊維を可溶化処理して得られた可溶化コラーゲン水溶液を紡糸ノズル又はスリットを通して吐出し、無機塩水溶液に浸漬する再生コラーゲン繊維製造工程を含む、<6>又は<7>に記載の再生コラーゲン繊維処理方法。
【0076】
<9>
好ましくは、前記再生コラーゲン繊維製造工程の後、再生コラーゲン繊維をエポキシ化合物又はその溶液に浸漬する架橋処理工程を含む、<8>に記載の再生コラーゲン繊維処理方法。
【0077】
<10>
成分(B)が、好ましくは水溶性のアゾ重合開始剤であり、より好ましくは2,2'-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、4,4'-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2'-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、及び2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩から選ばれる1種以上である、<6>~<9>のいずれか1項に記載の再生コラーゲン繊維処理方法。
【0078】
<11>
繊維処理剤中における成分(B)の含有量(多剤式繊維処理剤の場合は成分(B)を含有する組成物中における成分(B)の含有量)が、非解離型に換算して、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、更により好ましくは0.5質量%以上であり、また、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、更により好ましくは20質量%以下である、<6>~<10>のいずれか1項に記載の再生コラーゲン繊維処理方法。
【0079】
<12>
前記再生コラーゲン繊維が、以下の成分(C)を含有する、<6>~<11>のいずれか1項に記載の再生コラーゲン繊維処理方法。
(C) 多価金属、又はその塩若しくはその錯体
【0080】
<13>
成分(C)が、好ましくはカルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、クロム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、スズ、鉛、アンチモン、鉄及び銅から選ばれる1種以上の多価金属又はその塩若しくはその錯体、より好ましくはアルミニウム、ジルコニウム及びチタンから選ばれる1種以上の多価金属又はその塩若しくはその錯体、更に好ましくはアルミニウム又はその塩若しくはその錯体である、<12>に記載の再生コラーゲン繊維処理方法。
【0081】
<14>
工程(i)で使用する繊維処理剤の25℃におけるpHが、好ましくは2.0以上、より好ましくは3.0以上、更に好ましくは3.5以上、更により好ましくは4.0以上であり、また、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.0以下、更に好ましくは9.0以下である、<6>~<13>のいずれか1項に記載の再生コラーゲン繊維処理方法。
【0082】
<15>
工程(i)で使用する成分(A)を含有する処理剤のpHが2.0以上かつ6.5未満であって、当該処理剤中における成分(A)の含有量が、ビニル安息香酸モノマーに換算して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、更により好ましくは1.0質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、更により好ましくは15質量%以下である、<6>~<14>のいずれか1項に記載の再生コラーゲン繊維処理方法。
【0083】
<16>
工程(i)で使用する成分(A)を含有する処理剤のpHが6.5以上かつ11.0以下であって、当該処理剤中における成分(A)の含有量が、ビニル安息香酸モノマーに換算して、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、更に好ましくは5.0質量%以上、更により好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下、更により好ましくは60質量%以下である、<6>~<14>のいずれか1項に記載の再生コラーゲン繊維処理方法。
【0084】
<17>
繊維処理剤中(多剤式繊維処理剤であって、成分(A)と成分(B)とが別の処理剤に含まれる場合は、両剤を仮想的に混合した混合液中)における成分(A)に対する成分(B)の質量比(B)/(A)が、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.01以上であり、また、好ましくは200以下、より好ましくは50以下である、<6>~<16>のいずれか1項に記載の再生コラーゲン繊維処理方法。
【0085】
<18>
工程(i)で使用する繊維処理剤が水を媒体とし、繊維処理剤中における水の含有量が、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、更により好ましくは40質量%以上であり、また好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である、<6>~<17>のいずれか1項に記載の再生コラーゲン繊維処理方法。
【0086】
<19>
工程(i)において再生コラーゲン繊維を浸漬する繊維処理剤の量が、再生コラーゲン繊維の質量に対する浴比(繊維処理剤の質量/再生コラーゲン繊維の質量)で、好ましくは2.0以上、より好ましくは3.0以上、更に好ましくは5.0以上、更により好ましくは10以上、更により好ましくは20以上であり、また好ましくは500以下、より好ましくは250以下、更に好ましくは100以下である、<6>~<18>のいずれか1項に記載の再生コラーゲン繊維処理方法。
【0087】
<20>
工程(i)における再生コラーゲン繊維を浸漬する繊維処理剤の温度が、好ましくは20℃以上、より好ましくは35℃以上、更に好ましくは45℃以上であり、また、好ましくは100℃未満、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下、更に好ましくは60℃以下である、<6>~<19>のいずれか1項に記載の再生コラーゲン繊維処理方法。
【0088】
<21>
工程(i)における浸漬時間が、好ましくは15分以上、より好ましくは30分以上、更に好ましくは1時間以上であり、また、好ましくは48時間以下、より好ましくは24時間以下、更に好ましくは12時間以下である、<6>~<20>のいずれか1項に記載の再生コラーゲン繊維処理方法。
【0089】
<22>
好ましくは、工程(i)が水分の蒸発が抑制される環境下で行われる、<6>~<21>のいずれか1項に記載の再生コラーゲン繊維処理方法。
【0090】
<23>
<6>~<22>のいずれか1項に記載の再生コラーゲン繊維処理方法によって、再生コラーゲン繊維を処理する工程を含む、改質再生コラーゲン繊維の製造方法。
【0091】
<24>
<6>~<22>のいずれか1項に記載の再生コラーゲン繊維処理方法によって、再生コラーゲン繊維を処理する工程を含む、頭飾製品の製造方法。
【0092】
<25>
<1>~<5>のいずれか1項に記載の改質再生コラーゲン繊維を構成要素として含む頭飾製品。
【0093】
<26>
ヘアーウィッグ、かつら、ウィービング、ヘアーエクステンション、ブレードヘアー、ヘアーアクセサリー及びドールヘアーから選ばれる<25>に記載の頭飾製品。
【実施例0094】
実施例1、比較例1~3
表1に示す処方の組成物を用い、下記方法に従って再生コラーゲン繊維を処理し、各種評価を行った。なお、各組成物のpHは、調製した組成物を室温(25℃)において、そのままpHメーター(HORIBA社製、F-52)で測定した。
【0095】
<処理方法>
1.再生コラーゲン繊維(※)0.50gの長さ22cmの毛束を、表中に示す浴比となる量の繊維処理剤が入った容器に浸漬し、容器の口を密閉し、容器ごと表中に示す温度のウォーターバス(製造元:株式会社東洋製作所/型番:TBS221FA)に浸漬し表中に示す時間加熱した。
※:カネカ社製再生コラーゲン繊維を市販エクステンション製品の形態で購入し、そこから繊維を切り取り毛束に小分けして評価に使用した。今回の評価では、エクステンション製品に繊維種としてUltima100%使用表記があり、色番手が30のホワイト、形状ストレートのものを使用した。
なお、これらカネカ社製再生コラーゲン繊維は、アルミニウムを含有するものであり、以下の分析法によるアルミニウム含有量はいずれも6.8質量%であった。
再生コラーゲン繊維をデシケーターで乾燥させた後、この繊維0.1gを硝酸5mLと塩酸15mLを混ぜた液に入れて加熱・溶解させた。冷却後、この溶液を水で50倍に希釈し、希釈した水溶液中のアルミニウム含有量を日立製作所(株)製原子吸光測定装置(Z-5300型)を用いて測定した。
2.毛束の入った容器をウォーターバスから取り出し、室温に戻した。
3.毛束を容器から取り出し、水道水の30℃流水にて30秒すすぎ、評価用シャンプーで60秒泡立て、水道水の30℃流水にて30秒すすぎ、タオルで軽く水気を切った後、毛束を温風ドライヤー(テスコム社製、Nobby ホワイトNB3000)でコーミングしながら乾かした。
【0096】
<評価用シャンプーの処方>
成分 (質量%)
ラウレス硫酸ナトリウム 15.5
ラウラミドDEA 1.5
EDTA-2Na 0.3
リン酸 pH7に調整する量
イオン交換水 バランス
合計 100
【0097】
<繊維引張時の平均破断伸度の増加>
繊維引張時の耐水性、及び伸縮性(粘り強さ)の指標として、平均破断伸度、すなわち引張で繊維が延伸されていったときに元の繊維長に対して何%延伸されたところで破断が起こるかについて、複数本(10本)の繊維で評価したときの平均値を用いた。評価は、上記<処理方法>で処理された直後の毛束を用いて、以下の手順で行った。
1.毛束の根本から、繊維10本を切り取った。それぞれの繊維の根本と毛先の中間付近から3cmの繊維片を採取し、合計で10個の3cmの毛髪片を得た。
2.繊維片をDIA-STRON limited社製「MTT690 繊維自動引張り試験機」にセットした。水に浸漬した状態で30分放置後自動測定を開始し、繊維が水に浸漬された状態での平均破断伸度を求めた。数値が高いほど、伸縮性が高く粘り強さに優れ、耐久性にも優れることを示す。
次式に従い、市販品から切り取ったそのままの状態(未処理;比較例1)での繊維引張時の平均破断伸度(A%)を基準とし、処理後の毛束の平均破断伸度(B%)が、未処理の状態からどの程度(C%)増加したかを、表中に「繊維引張時の平均破断伸度の増加率 [%]」として記載した。
C(%)=B(%)-A(%)
【0098】
<繊維引張時の平均破断荷重の増加>
繊維引張時の耐水性の指標として、繊維引張時の平均破断荷重を用いた。評価は、上記<処理方法>で処理された直後の毛束を用いて行った。また、数値としては複数本(10本)の繊維で評価したときの平均値を用いた。評価は、以下の手順で行った。
1.毛束の根本から、繊維10本を切り取った。それぞれの繊維の根本と毛先の中間付近から3cmの繊維片を採取し、合計で10個の3cmの毛髪片を得た。
2.繊維片をDIA-STRON limited社製「MTT690 繊維自動引張り試験機」にセットした。水に浸漬した状態で30分放置後自動測定を開始し、繊維が水に浸漬された状態で延伸したときの破断荷重を求めた。数値が高いほど、ハリコシがあって外力による延伸に強く、耐久性にも優れることを示す。
次式に従い、市販品から切り取ったそのままの状態(未処理;比較例1)での繊維引張時の平均破断荷重(W0(gf))を基準とし、処理後の毛束の平均破断荷重(W1(gf))が、未処理の状態からどの程度(Y(gf))増加したかを、表中に「繊維引張時の平均破断荷重の増加量 [gf]」として記載した。
Y(gf)=W1(gf)-W0(gf)
【0099】
<高温アイロンセット時の収縮率>
耐熱性の指標として、高温アイロンセット時の収縮率を用いた。評価は、上記<処理方法>で処理された直後の毛束を用いて行った。また、数値としては複数本(5本)の繊維で評価したときの平均値を用いた。評価は、以下の手順で行った。
1.上記<処理方法>処理直後の毛束の根本から、繊維5本を切り取り、印をつけた。これら処理後繊維5本の長さを測定し、平均値を記録(長さL1とする)した。次いで、これら印をつけた処理後繊維5本を、別途準備した未処理の再生コラーゲン繊維0.5gの毛束2本(計1g)に挟むように共に束ね、新たな毛束(以下大毛束)を作製し、大毛束全体に180℃設定のフラットアイロン(三木電器産業株式会社製/型番:AHI-938)を5cm/secの速度で10回かけた。
2.アイロン操作の後、大毛束から印をつけた処理後繊維5本を取り出し、改めてこれら印をつけた処理後繊維各5本の長さを測定し平均値を記録(長さL2とする)した。
3.高温アイロンセット時の収縮率 Sdry = { 1-(L2/L1)} x 100 [%]と定義した。Sdryが0%に近いほど、乾熱による収縮が起こりづらく、耐熱性に優れることを示す。
【0100】
<熱水加熱時の収縮率>
耐水性、耐熱性の指標として、熱水加熱時の収縮率を用いた。評価は、上記<処理方法>で処理された直後の毛束を用いて行った。また、数値としては複数本(5本)の繊維で評価したときの平均値を用いた。評価は、以下の手順で行った。
1.毛束の根本から、繊維5本を切り取り、各繊維の長さの平均値を記録(長さL1とする)した上で、90℃のウォーターバス(製造元:株式会社東洋製作所/型番:TBS221FA)に浸漬し1分間加熱した。
2.加熱操作の後で、繊維5本を取り出してきて、タオルで軽く水気を切り、常温常湿で30分間乾燥した後、改めて各繊維の長さの平均値を記録(長さL2とする)した。
3.熱水加熱時の収縮率 Swet = { 1-(L2/L1)} x 100 [%]と定義した。Swetが0%に近いほど、湿熱による収縮が起こりづらく、耐熱性に優れることを示す。
【0101】
<熱形状記憶能>
熱形状記憶能の評価は、上記<処理方法>で処理された直後の毛束を用いて行った。なお、「I:形状付与(カール)」の結果の値が5%以下であった場合は、効果なしとして、以降の処理、評価は行わなかった。
・I:形状付与(カール)
1.再生コラーゲン繊維0.5gの長さ22cmの毛束を30℃の水道水で30秒間濡らした後、濡れた毛束を直径14mmのプラスチック製ロッドに巻き付け、クリップで固定した。
2.ロッドに巻き付けられた毛束ごと60℃のウォーターバス(製造元:株式会社東洋製作所/型番:TBS221FA)に浸漬し1分間加熱した。
3.毛束をウォーターバスから取り出し、25℃の水に1分間浸漬し、水から取り出して室温に戻した。
4.毛束をロッドから外し、クシを3回通した後、水から取り出してから3分後に、吊した状態で真横から写真を撮った。
【0102】
(評価基準)
未処理の毛束長さをL0(22cm)、処理後の毛束長さをLとして、次式に従って求められるカールアップ率=毛束長さ減少率(I)(%)をカールの巻き強さと定義した。
I=[(L0-L)/L0]×100
【0103】
・II:再形状付与(ストレート)
1.Iで評価した毛束に対し、クシを通して絡まりをとった後に、180℃設定のフラットアイロン(三木電器産業株式会社製/型番:AHI-938)で5cm/secの速度で6回スライドした。
2.水道水の30℃流水にて30秒すすぎ、評価用シャンプーで60秒泡立てた後、水道水の30℃流水にて30秒すすぎ、タオルドライした。
3.吊るして20℃65%RHで12時間自然乾燥し、クシを通した後、吊した状態で真横から目視観察した。
【0104】
(評価基準)
未処理の毛束長さをL0(22cm)、処理後の毛束長さをLとして、次式に従って求められるストレート化率(ST)(%)をストレート化の達成度合いと定義した。ST=100%のとき、毛束は完全にストレート化されている。
ST=[1-(L0-L)/L0]×100
【0105】
・III:再再形状付与(カール)
1.IIで評価した毛束を30℃の水道水で30秒間濡らした後、濡れた毛束を直径14mmのプラスチック製ロッドに巻き付け、クリップで固定した。
2.ロッドに巻き付けられた毛束ごと60℃のウォーターバス(製造元:株式会社東洋製作所/型番:TBS221FA)に浸漬し1分間加熱した。
3.毛束をウォーターバスから取り出し、25℃の水に1分間浸漬し、水から取り出して室温に戻した。
4.毛束をロッドから外し、クシを3回通した後、水から取り出してから3分後に、吊した状態で真横から写真を撮った。
【0106】
(評価基準)
未処理の毛束長さをL0(22cm)、処理後の毛束長さをLとして、次式に従って求められるカールアップ率=毛束長さ減少率(I)(%)をカールの巻き強さと定義した。
I=[(L0-L)/L0]×100
【0107】
<表面感触の良さ>
表面の感触の評価は<処理方法>で処理された直後の毛束を用い、手で触れた際の感触の滑らかさについて、専門パネラー5名が下記基準によって評価し、5名の合計値を評価結果とした。
(評価基準)
5:未処理繊維(比較例1)に比べてきわめて滑らかな手触りである
4:未処理繊維(比較例1)に比べて滑らかな手触りである
3:未処理繊維(比較例1)に比べてわずかに滑らかな手触りである
2:未処理繊維(比較例1)の手触りと変わらない
1:未処理繊維(比較例1)よりもざらつき・きしみがあり手触りが劣る
【0108】
<繊維への着色抑制>
1.毛束の表裏それぞれについて、根本付近、中間付近、毛先付近を測色器(コニカミノルタ社製測色計CR-400)で測色し、合計6点の平均値を測色値とした(L,a,b)。
2.着色の程度は、未処理の色番手30ホワイトの毛束(※)(比較例1)を基準としてΔE*abで評価した。また、処理を行ったその日のうちに測色した。
(※)未処理の色番手30ホワイトの毛束
カネカ社製再生コラーゲン繊維を市販エクステンション製品の形態で購入し、そこから繊維を切り取り毛束に小分けして評価に使用した。この評価では、エクステンション製品に繊維種としてUltima100%使用表記があり、色番手が30のホワイト、形状ストレートのものを使用した。
なお、これらカネカ社製再生コラーゲン繊維は、アルミニウムを含有するものであり、前述の分析法によるアルミニウム含有量はいずれも6.8質量%であった。
ΔE*abは、未処理の色番手30ホワイトの毛束の測定値を(L0,a0,b0)、処理毛束の測定値を(L1,a1,b1)としたとき、〔(L1-L0)2+(a1-a0)2+(b1-b0)2〕1/2で定義され、着色抑制効果を以下の基準で判定した。
5:ΔE*ab ≦ 5.0
4:5.0< ΔE*ab ≦ 10.0
3:10.0< ΔE*ab ≦ 15.0
2:15.0< ΔE*ab ≦ 20.0
1:20.0< ΔE*ab
【0109】
【0110】
実施例2~6
表2に示す処方の第1剤及び第2剤を用い、下記方法に従って再生コラーゲン繊維を処理し、各種評価を行った。なお、各組成物のpHは、調製した組成物を室温(25℃)において、そのままpHメーター(HORIBA社製、F-52)で測定した。
なお、表中に記載した各成分の濃度は、それぞれ第1剤中、第2剤中における濃度である。
【0111】
<処理方法>
1.再生コラーゲン繊維(※)0.5gの長さ22cmの毛束を、表中に示す浴比となる量の第1剤が入った容器に浸漬し、容器の口を密閉し、容器ごと表中に示す温度のウォーターバス(製造元:株式会社東洋製作所/型番:TBS221FA)に浸漬し表中に示す時間加熱した。
※:カネカ社製再生コラーゲン繊維を市販エクステンション製品の形態で購入し、そこから繊維を切り取り毛束に小分けして評価に使用した。今回の評価では、エクステンション製品に繊維種としてUltima100%使用表記があり、色番手が30のホワイト、形状ストレートのものを使用した。
なお、これらカネカ社製再生コラーゲン繊維は、アルミニウムを含有するものであり、前述の分析法によるアルミニウム含有量はいずれも6.8質量%であった。
2.毛束の入った容器をウォーターバスから取り出し、室温に戻した。
3.毛束を容器から取り出し、水道水の30℃流水にて30秒すすぎ、評価用シャンプーで60秒泡立て、水道水の30℃流水にて30秒すすぎ、タオルで軽く水気を切った後、毛束を温風ドライヤー(テスコム社製、Nobby ホワイトNB3000)でコーミングしながら乾かした。
4.毛束を、表中に示す浴比となる量の第2剤が入った容器に浸漬し、容器の口を密閉し、容器ごと表中に示す温度のウォーターバス(製造元:株式会社東洋製作所/型番:TBS221FA)に浸漬し表中に示す時間加熱した。
5.毛束の入った容器をウォーターバスから取り出し、室温に戻した。
6.毛束を容器から取り出し、水道水の30℃流水にて30秒すすぎ、評価用シャンプーで60秒泡立て、水道水の30℃流水にて30秒すすぎ、タオルで軽く水気を切った後、毛束を温風ドライヤー(テスコム社製、Nobby ホワイトNB3000)でコーミングしながら乾かした。この時点で、毛束は直毛のままであった。
【0112】
【0113】
比較例4
下記に示す処方を用い、実施例1、比較例1~3での<処理方法>に従って、再生コラーゲン繊維を処理した。処理後の毛束について、前記同様に繊維への着色の程度を評価した結果、茶褐色の着色がみられた(評価1)
原料名 配合量[質量%]
ホルムアルデヒド 10.0
レゾルシン 15.0
水 残量
pH調整剤(塩酸または水酸化ナトリウム) (pH調整量)
合計 100.0
pH(25℃):5.5
浴比 :40
加熱条件 :50℃3h
【0114】
また、以上の実施例において処理された毛束は、すべてピンなどで頭髪に留めることにより、そのままエクステンションとして用いることができ、人頭上でも十分な性能を発揮することができる。