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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171438
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】真空蒸着装置及び蒸着膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/04 20060101AFI20231124BHJP
   G01T 7/00 20060101ALN20231124BHJP
【FI】
C23C14/04 A
G01T7/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023167513
(22)【出願日】2023-09-28
(62)【分割の表示】P 2019111364の分割
【原出願日】2019-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2019080966
(32)【優先日】2019-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 篤也
(57)【要約】
【課題】 本発明が解決しようとする課題は、装置自体のサイズを小さくし、蒸着材料の利用効率を改善し、且つ蒸着膜の膜厚分布をより均一にした真空蒸着装置及び蒸着膜の製造方法を提供することである。
【解決手段】 実施形態の真空蒸着装置は、蒸着材料を蒸発する蒸発源と、蒸着材料が蒸着される蒸着面を有する一方の基板と他方の基板とをそれぞれ保持する、隣り合う一方のマスク及び他方のマスクと、一方のマスク及び他方のマスクを、互いに逆の方向に同一速度で、蒸着面の面内方向に回転させる駆動部とを備える。一方のマスク及び他方のマスクは矩形である。一方のマスクは、その角部の位置が他方のマスクの角部の位置に対してずれた状態で配置される。一方のマスク及び他方のマスクの回転中心間の距離は、一方のマスクの対角線長よりも短い。一方及び他方のマスクの各角部は、隣り合うマスク基板の位相が±10°ずれても隣り合うマスク同士が干渉しない面取りが施されている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着材料を蒸発する蒸発源と、
前記蒸着材料が蒸着される蒸着面を有する一方の基板と他方の基板とをそれぞれ保持する、隣り合う一方のマスク及び他方のマスクと、
前記一方のマスク及び前記他方のマスクを、互いに逆の方向に同一速度で、前記蒸着面の面内方向に回転させる駆動部と、
を備え、
前記一方のマスク及び前記他方のマスクは矩形であり、前記一方のマスクは、その角部の位置が前記他方のマスクの角部の位置に対してずれた状態で配置され、前記一方のマスク及び前記他方のマスクの回転中心間の距離は、前記一方のマスクの対角線長よりも短く、且つ前記一方及び他方のマスクの各角部は、隣り合うマスク基板の位相が±10°ずれても隣り合うマスク同士が干渉しない面取りが施されている真空蒸着装置。
【請求項2】
前記一方のマスク及び前記他方のマスクを複数対備え、前記各マスクの回転中心は、それぞれ同一円上に配置されている、請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
前記一方のマスク及び前記他方のマスクは正方形であり、隣り合う前記マスクの一方の角部は、他方の角部に対してθ±10°ずれた状態で配置されており、θは、|tanθ|=1となる角度である、請求項1又は2に記載の真空蒸着装置。
【請求項4】
隣り合う一方のマスク及び他方のマスクであって、それぞれ矩形であり、且つ前記一方及び他方のマスクの各角部は、隣り合うマスク基板の位相が±10°ずれても隣り合うマスク同士が干渉しない面取りが施されており、前記一方のマスクの角部の位置が前記他方のマスクの角部の位置に対してずれた状態で配置され、前記一方のマスク及び前記他方のマスクの回転中心間の距離が、前記一方のマスクの対角線長よりも短い、前記一方のマスク及び前記他方のマスクに、蒸着材料を蒸着させる蒸着面を有する一方の基板及び他方の基板をそれぞれ固定する基板固定工程、
駆動部により、前記一方のマスク及び前記他方のマスクを、互いに逆の方向に同一速度で、前記蒸着面の面内方向に回転させる回転駆動工程、及び
蒸発源から前記蒸着材料を蒸発させ前記蒸着面に前記蒸着材料を真空蒸着させ、蒸着膜を形成する蒸着工程
を備える、蒸着膜の製造方法。
【請求項5】
前記基板固定工程において、前記一方のマスク及び前記他方のマスクは複数対備えられており、前記各マスクの回転中心は、それぞれ同一円上に配置されている、請求項4に記載の蒸着膜の製造方法。
【請求項6】
前記基板固定工程において、前記一方のマスク及び前記他方のマスクは正方形であり、隣り合う前記マスクの一方の角部は、他方の角部に対してθ±10°ずれた状態配置されており、θは、|tanθ|=1となる角度である、請求項4又は5に記載の蒸着膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、真空蒸着装置及び蒸着膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線を可視光に変換して検出する方式のX線平面検出器は、表面にシンチレータ膜を備えるセンサアレイ基板を備える。
【0003】
シンチレータ膜は、真空蒸着法により簡便に基板上に形成することができるが、蒸着材料であるシンチレータを基板上に均一に蒸着させることは難しい。そこで、基板を回転させながら蒸着を行う方法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-031785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、装置自体のサイズを小さくし、蒸着材料の利用効率を改善し、且つ蒸着膜の膜厚分布をより均一にした真空蒸着装置及び蒸着膜の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の真空蒸着装置は、蒸着材料を蒸発する蒸発源と、蒸着材料が蒸着される蒸着面を有する一方の基板と他方の基板とをそれぞれ保持する、隣り合う一方のマスク及び他方のマスクと、一方のマスク及び他方のマスクを、互いに逆の方向に同一速度で、蒸着面の面内方向に回転させる駆動部とを備える。一方のマスク及び他方のマスクは矩形である。一方のマスクは、その角部の位置が他方のマスクの角部の位置に対してずれた状態で配置される。一方のマスク及び他方のマスクの回転中心間の距離は、一方のマスクの対角線長よりも短い。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、図5に示す真空蒸着装置を平面視したときのマスク、基板及び蒸気口の配置を示す平面図である。
図2図2は、X線平面検出器を示す断面図である。
図3図3は、X線検出パネルを示す斜視図である。
図4図4の(a)は、第1の実施形態の真空蒸着装置を示す断面図である。(b)は、(a)に示す真空蒸着装置の平面図である。
図5図5は、第1の実施形態の蒸着膜の製造方法を示すフローチャートである。
図6図6は、第2の実施形態の真空蒸着装置のマスクの配置を示す平面図である。
図7図7は、第3の実施形態の真空蒸着装置のマスク、基板及び蒸気口の配置を示す平面図である。
図8図8は、第3の実施形態の真空蒸着装置の駆動部を示す断面図である。
図9図9は、図8の真空蒸着装置の駆動部を示す平面図である。
図10図10は、比較例1のマスクの配置を示す平面図である。
図11図11は、比較例2のマスクの配置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に第1の実施形態の真空蒸着装置及び蒸着膜の製造方法の実施の形態について説明する。はじめに、第1の実施形態の真空蒸着装置及び蒸着膜の製造方法により製造されるX線平面検出器の構成について説明する。
【0009】
(X線平面検出器)
図2に示すように、X線平面検出器1は、筐体9に収容されている、X線検出パネル2、防湿カバー3、支持板4、回路基板5、X線遮蔽用の鉛プレート6、放熱絶縁シート7、支持部材8及びフレキシブル回路基板10、並びに筐体9の開口に取り付けられた入射窓11を備える。
【0010】
支持板4の一側面にX線検出パネル2が固定されている。支持板4は、例えばアルミニウム合金で形成される。X線検出パネル2の一側面に防湿カバー3が配置されている。防湿カバー3は、例えばアルミニウム合金である。
【0011】
支持板4の他側面には、鉛プレート6と放熱絶縁シート7とを介して回路基板5が固定されている。回路基板5及びX線検出パネル2は、端部に配置されたフレキシブル回路基板10を介して接続されている。支持部材8は、筐体9に固定され、支持板4を支持している。
【0012】
筐体9の開口は、X線検出パネル2と対向した位置に形成される。入射窓11はX線を透過する材料で構成されるため、X線は入射窓11を透過してX線検出パネル2に入射される。
【0013】
(X線検出パネル)
次に、X線検出パネル2の詳細な構成について説明する。
【0014】
図3に示すように、X線検出パネル2は、光電変換基板12と、シンチレータ膜13とを備える。光電変換基板12は、ガラス基板14と、ガラス基板14上にアレイ状に形成された複数の光検出部15とを備える。光検出部15は、スイッチング素子としてのTFT(薄膜トランジスタ)16及びフォトセンサとしてのPD(フォトダイオード)17を備える。光電変換基板12は、例えば1辺が50cmの正方形である。
【0015】
シンチレータ膜13は、光電変換基板12上に直接形成されている。シンチレータ膜13は、光電変換基板12のX線の入射側に位置している。シンチレータ膜13は、X線を光(蛍光)に変換する。PD17は、シンチレータ膜13で変換された光を電気信号に変換する。それによってX線を電気信号として検出することができる。
【0016】
シンチレータ膜13は、光電変換基板12上にシンチレータ材料を蒸着させることにより形成することができる。シンチレータ材料としては、例えば、ヨウ化セシウム(CsI)(シンチレータ主材料)にタリウム(Tl)またはヨウ化タリウム(TlI)等(シンチレータ添加剤)を添加した材料を用いることができる。シンチレータ材料は、CsIであるか又はTlIが添加されたCsIであることが好ましい。シンチレータ膜13の厚みは、100~1000μmであることが好ましい。
【0017】
(真空蒸着装置)
次に、光電変換基板12上にシンチレータ膜13を蒸着するために用いられる真空蒸着装置について説明する。ここでは、光電変換基板12を単に「基板」とも称する。
【0018】
図4の(a)に示すように、真空蒸着装置20は、真空チャンバ21、真空チャンバ21内の底部に配置される坩堝22、第1の基板26及び第2の基板27を、その蒸着面26a及び27aが坩堝22の方向を向くようにそれぞれ保持する第1のマスク28及び第2のマスク29、並びに第1のマスク28及び第2のマスク29をそれぞれ回転させる駆動部30を備えている。
【0019】
真空チャンバ21は、真空排気装置(図示せず)を備え、それにより、真空チャンバ21内は大気圧以下の圧力に保持される。
【0020】
坩堝22は、蒸着材料であるシンチレータ材料を収容し、蒸着材料を加熱して蒸発させる蒸着源である。坩堝22の天面には、坩堝22で加熱された蒸着材料を鉛直上方へ向けて噴出するための蒸気口22aが設けられている。
【0021】
坩堝22は、坩堝22を加熱するヒータ、坩堝22を冷却する手段、坩堝22内の温度を計測しヒータを駆動する温度制御部などを備えてもよい。
【0022】
第1の基板26及び第2の基板27は、それぞれ第1のマスク28及び第2のマスク29によって蒸着面が水平方向と平行になる状態で保持されている。
【0023】
第1のマスク28及び第2のマスク29は着脱可能に取り付けられており、第1の基板26及び第2の基板27装着時には真空チャンバ21から取り出すことが可能である。
【0024】
第1のマスク28及び第2のマスク29は、図1に示す通り、平面視すると互いに同じ大きさの正方形である。またそこに固定されている第1の基板26及び第2の基板27も互いに同じ大きさの正方形である。第1のマスク28及び第2のマスク29は、例えば角部が面取りされた正方形であってもよい。
【0025】
第1のマスク28の第1の角部28aの位置は、第2のマスク29の第2の角部29aの位置と45°ずれている。すなわち、第1の角部28aと第1のマスク28の回転中心Pとをつなぐ直線Iと、第2の角部29aと第2のマスク29の回転中心Pをつなぐ直線Iとがなす角度φは45°である。この角度φは、必ずしも45°である必要はなく、|tanθ|=1となる角度θであればよい。また、角度φは、マスクの角部が面取りされている場合は|tanθ|=1となる角度θ±10°の範囲であればよい。
【0026】
そして、第1のマスク28及び第2のマスク29は、互いの回転中心P及びP間の距離WPが、第1のマスクの対角線長Dよりも短くなるように間隔を詰めて配置されている。即ち、第1のマスク28及び第2のマスク29の可動領域(図1中、破線の円)の少なくとも一部が重ね合わされて配置される。
【0027】
このような配置により、可動領域を重ね合わせない場合よりも可動領域全体の幅が小さくなる。例えば、第1のマスク28の1辺の長をLとすると、第1のマスク28及び第2のマスク29の可動領域の左右端間距離Wは、2.4Lとなる。これは、第1のマスク28及び第2のマスク29の可動領域を重ね合わせない場合の左右端間距離と比較して、0.4L短くなる。例えば、第1のマスク28の1辺の大きさを600mmとすると、真空蒸着装置20の幅を240mm短縮することができる。
【0028】
第1のマスク28及び第2のマスク29は、駆動部30によって、その面内方向に、互いに逆の方向に同一速度で回転する。この例においては第1のマスク28は時計回りに回転し、第2のマスク29は反時計回りに回転する。このように回転した場合、第1のマスク28及び第2のマスク29の回転した角度の合計は0となるので、回転中も当初の直線Iと直線Iとがなす角度φ(図1の例では45°)が維持される。それにより、第1のマスク28及び第2のマスク29が互いに干渉することなく回転することが可能である。ここにおいて同一速度とは、本質的に同一の速度であればよく、蒸着工程が完了するまでの間に第1のマスク28及び第2のマスク29が互いに干渉して停止することなく回転が維持される速度でそれぞれ回転させればよい。
【0029】
坩堝22の蒸気口22aは、第1のマスク28の回転中心P及び第2のマスク29の回転中心Pまでのそれぞれの距離が同一となる何れかの位置に蒸気口22aが配置される。それは、回転中心P及び回転中心Pの対称面上である(図1では破線Sであらわされる)。
【0030】
駆動部30は、図4の(a)、(b)に示す通り、第1歯車31、第2歯車32、第3歯車33、第4歯車34及びモータ35を備える。第1歯車31の軸31aの上端はモータ35の軸35aと連結し、下端は第1のマスク28と連結し、モータ35により時計回りに駆動される。第2歯車32は第1歯車31と噛み合い、第1歯車31と反対の方向に回転する。第3歯車33は第2歯車32と噛み合い、第2歯車32と同じ基準円直径、歯数、円ピッチを有し、第2歯車32と反対の方向に回転する。第4歯車34は、第3歯車33と噛み合い、第1歯車31と同じ基準円直径、端数、円ピッチを有し、第3歯車33と反対の方向、即ち反時計回りに回転する。第4歯車34の軸34aの下端は第2のマスク29と連結しており、第2のマスク29を反時計回りに回転させる。それにより、第1のマスク28及び第2のマスク29を逆方向に同一速度で回転することができる。
【0031】
(蒸着膜の製造方法)
実施形態に係る蒸着膜の製造方法は、図5に示す通り、(S1)第1のマスク28及び第2のマスク29に、第1の基板26及び第2の基板27をそれぞれ固定する基板固定工程、(S2)駆動部30により、第1のマスク28及び第2のマスク29を、互いに逆の方向に同一速度で、基板の蒸着面の面内方向に回転させる回転駆動工程、及び(S3)坩堝22(蒸発源)から蒸着材料を蒸発させ、蒸着面に蒸着材料を真空蒸着させ、蒸着膜を形成する蒸着工程を備える。
【0032】
以下、図4に示す真空蒸着装置20を用いる蒸着膜の製造方法の実施の形態の一例について詳細に説明する。
【0033】
まず、真空蒸着装置20と、第1の基板26及び第2の基板27とを用意する。続いて、真空蒸着装置20から第1のマスク28及び第2のマスク29を取り出し、第1の基板26及び第2の基板27を第1のマスク28及び第2のマスク29にそれぞれ取付ける。その後、基板を取り付けた第1のマスク28及び第2のマスク29を真空チャンバ21内に搬入し、第1歯車31及び第4歯車34の軸の下端に取り付ける。
【0034】
次いで、真空チャンバ21を密閉し、真空排気装置を用いて真空チャンバ21内を真空にする。続いて、モータ35を稼動させて第1の基板26及び第2の基板27を回転させる。例えば、坩堝22の温度のモニタリング結果に基づいて、モータ35の稼動を開始するタイミングを調整してもよい。
【0035】
次いで、坩堝22の加熱を開始する。その後、坩堝22内の蒸着材料が蒸発することにより、第1の基板26及び第2の基板27上に蒸着材料が蒸着する。
【0036】
第1の基板26及び第2の基板27上に入射したシンチレータ材料は、第1の基板26及び第2の基板27上に結晶を形成する。蒸着初期の段階において第1の基板26及び第2の基板27上に形成されるのは微小な結晶粒であるが、蒸着を継続すると、やがて結晶粒が柱状結晶となって成長する。それより、第1の基板26及び第2の基板27上に蒸着膜(図3、シンチレータ膜13)が形成される。
【0037】
以上に説明した真空蒸着装置及び蒸着膜の製造方法によれば、第1のマスク28及び第2のマスク29の回転中心間の距離WPが、第1のマスクの対角線長Dよりも短くなるようにマスク間の間隔を詰め、第1のマスク28及び第2のマスク29の可動領域を重ね合わせて配置するため、真空チャンバ21の容積をより小さくでき、真空蒸着装置のサイズをより小さくすることが可能である。それにより装置全体の重量が軽量になり、装置の設置場所として床の強度が比較的低い場所も選択することができる。また、真空チャンバ21の容積の縮小により真空ポンプを小型化したり、真空排気の時間を短縮したりすることができる。排気時間が短縮することによりシンチレータ膜の形成時間が短縮され、製品の生産能力が向上する。
【0038】
また、第1の基板及び第2の基板間に空いた空間が少なくなるため、そこを通り抜けてロスする蒸着材料が少なくなり、蒸着材料の利用効率を改善することができる。また、可動領域を重ね合わせない場合と比較して蒸発源と回転中心P又はPとの距離が短くなるため、蒸着材料が基板の全体に行き渡りやすく、膜厚分布は基板の全面に渡って均一となる。
【0039】
更なる実施形態においては、基準円直径、歯数、円ピッチが互いに等しい2つの歯車により第1のマスク28及び第2のマスク29を回転してもよい。その場合、一方の歯車の軸の上端はモータ35の軸と連結し、下端は第1のマスク28と連結している。他方の歯車は、前記一方の歯車と噛み合い、下端は第2のマスク29と連結している。
【0040】
この例では歯車を用いる駆動部30を示したが、第1のマスク28及び第2のマスク29は、歯車以外の手段により機械的又は電気的に駆動されていてもよい。
【0041】
その他の機械的な駆動方法は、例えば、ベルト又はチェーン等を用いた方法である。例えば、第1のマスク28にモータを取り付け、第1のマスク28の軸と、第2のマスク29の軸との間に1回クロスさせたベルト又はチェーンを装着する方法を用いることができる。
【0042】
電気的な駆動方法としては、第1のマスク28及び第2のマスク29に同種のモータをそれぞれ取り付け、最初に第1のマスク28及び第2のマスク29の角度を決め、次いで各モータを逆方向に同一速度で回転させるように制御する方法を用いることができる。
【0043】
以下に他の実施の形態を説明するが、同一の作用効果を奏する部分には同一の符号を付して説明し、その部分の詳細な説明は省略する。
【0044】
第2の実施形態において、第1のマスク28及び第2のマスク29はそれぞれ互いに同じ寸法の長方形である。その場合、直線Iと直線Iとがなす角度φは、長辺と短辺との長さの比率に応じて45±10°~90±10°であればよい。この例においては、角度φは、第1のマスク28及び第2のマスク29の各長手方向がなす角度としてもよい。図6に示すように、第1のマスク28及び第2のマスク29が、短辺が極めて短く棒状に近い長方形である場合は、角度φは90±10°とすることができる。
【0045】
この実施形態における真空蒸着装置においても、第1のマスク28及び第2のマスク29は第1の実施形態と同様の駆動部により、逆方向に同一速度で回転させればよい。また、実施形態における真空蒸着装置も第1の実施形態と同様の蒸着膜製造方法に用いることができる。
【0046】
第3の実施形態において、真空蒸着装置は、第1のマスク28及び第2のマスク29を3対備え、合計で6枚のマスクを備える。図7に示すように、この例における真空蒸着装置20では、第1のマスク28、第2のマスク29、第3のマスク36、第4のマスク37、第5のマスク38及び第6のマスク39が、この順に、それぞれの回転中心Pが同一円上に並ぶように配置されている。第1のマスク28、第3のマスク36、第5のマスク38は反時計回り方向に回転する。第2のマスク29、第4のマスク37、第6のマスク39は、第1のマスク28、第3のマスク36、第5のマスク38に対してそれぞれ60°回転した状態(即ち、角度φ=60°)で配置されており、時計回り方向に回転する。隣り合うマスクの回転中心P間の距離WPは対角線長Dよりも短くなるよう、間隔を詰めて配置されている。
【0047】
このような配置により、マスクの可動領域(図中破線)の最大幅Wは、可動領域を重ね合わせない場合よりも0.2L(L=第1のマスク28の一片の長さ)短縮される。
【0048】
坩堝22は、6つのマスクが並ぶ円の中心に1つ配置してもよい。この場合は、各マスクを自転させるだけでなく、6つのマスク全体を公転させることが好ましい。或いは、2つのマスクにつき1つ(すなわち、計3つ)、図1に示す位置に坩堝22が配置されてもよい。
【0049】
以下、図7に示す真空蒸着装置の駆動部40について図8及び図9を参照して説明する。図8に示すように、駆動部40は、真空チャンバ21外に設けられた第1歯車列41と第2歯車列42とを備える。
【0050】
第1歯車列41は、第5歯車43を中心に備える。第5歯車43の軸43aは、モータ35の軸35aと連結されている。第1歯車列41を平面視すると、図9の(a)に示すように、第5歯車43には、基準円直径、歯数、円ピッチが互いに等しい第6歯車44、第7歯車45及び第8歯車46が等間隔で噛み合っている。
【0051】
図8に示すように、第6歯車44の軸44aの下方には、第2歯車列42の第9歯車47が取り付けられ、第7歯車45の軸45aの下方には第2歯車列42の第10歯車48が取り付けられ、図8では省略されているが、第8歯車46の軸の下方には第2歯車列42の第11歯車49が取り付けられている。図9の(b)に示すように第9歯車47、第10歯車48及び第11歯車49は、互いに等しい基準円直径、歯数、円ピッチを有する。
【0052】
第2歯車列42は、図9の(b)に示すように、第9歯車47、第10歯車48及び第11歯車49と、第9歯車47及び第10歯車48と噛み合う第12歯車50と、第10歯車48及び第11歯車49と噛み合う第13歯車51と、第11歯車49及び第9歯車47と噛み合う第14歯車52と、第12歯車50、第13歯車51及び第14歯車52に外側から噛み合う内歯車53とを備える。第12歯車50、第13歯車51及び第14歯車52は、互いに等しい基準円直径、歯数、円ピッチを有する。
【0053】
図示しないが、第6歯車44の軸44aの下端には第1のマスク28、第7歯車45の軸45aの下端には第3のマスク36、第8歯車46の軸の下端には第5のマスク38が連結されている。第12歯車50の軸の下端には第2のマスク29が取り付けられ、第13歯車51の軸の下端には第3のマスク36が取り付けられ、第14歯車52の軸の下端には第5のマスク38が取り付けられている。
【0054】
モータ35が第5歯車43を時計回りに駆動すると、第6歯車44、第7歯車45及び第8歯車46が反時計回りに回転し、第1のマスク28、第3のマスク36、第5のマスク38を反時計回りに回転させる。また、第6歯車44、第7歯車45及び第8歯車46の反時計回りの駆動により第9歯車47、第10歯車48及び第11歯車49も反時計回りに駆動する。それにより第12歯車50、第13歯車51及び第14歯車52が時計回りに駆動し、第2のマスク29、第4のマスク37、第6のマスク39を時計回りに回転することができる。
【0055】
その結果、第1のマスク28、第3のマスク36及び第5のマスク38と、第2のマスク29、第4のマスク37及び第6のマスク39とを反対方向に同一速度で回転させることが可能である。この例においても、上記したその他の機械的及び電気的な駆動方法を用いることが可能である。
【0056】
第3の実施形態の真空蒸着装置も第1の実施形態と同様の蒸着膜の製造方法に用いることが可能である。第3の実施形態によれば、一度に複数の基板に蒸着膜を形成することができるので、製品の生産能力が向上する。また、各隣り合うマスクの回転中心間の距離WPがマスクの対角線長Dよりも短くなるようにマスク間の間隔を詰めて配置されているため、装置自体のサイズをより小さくすることが可能である。それにより、蒸着材料の利用効率を改善し、且つ蒸着膜の膜厚分布をより均一にすることができる。
【0057】
第1のマスク28及び第2のマスク29の数は、第1の実施形態(図1)のような1対又は第3の実施形態(図7)のような3対に限られるものではなく、2対、4対又はそれ以上設けてもよい。
【0058】
[例]
以下、実施形態の真空蒸着装置を用いた蒸着膜の製造をシュミレーションした例について説明する。モンテカルロ法によるシミュレーションにより、下記の4種の真空蒸着装置における蒸着材料の付着量(材料利用効率)及び膜厚分布を比較した。
【0059】
実施例1:図1に示すマスクの配置(マスクの1辺の長さLは600mm);
実施例2:図7に示すマスクの配置(マスクの1辺の長さLは600mm);
比較例1:図10に示すように、実施例1の2つのマスクの可動領域を重ね合わせず、回転中心P間の距離WPをマスクの対角線長Dと同じとした配置で各マスクを同方向に回転;
比較例2:図11に示すように、実施例2の6つのマスクの可動領域を重ね合わせず、隣り合う2つのマスクの回転中心P間の距離WPをマスクの対角線長Dと同じとした配置で各マスクを同方向に回転。
【0060】
結果を表1に示す。材料利用効率は、比較例1、2における蒸着材料の付着量を100%としたときの実施例1、2における付着量の割合をそれぞれ示す。膜厚分布は、基板中心の蒸着膜の厚さに対する基体周辺部の蒸着膜の厚さの割合を示す。
【表1】
【0061】
表1に示す通り、実施例1の材料利用効率は119%であり、比較例1に対して19%改善した。実施例2の材料効率は104%であり、比較例2に対して4%改善した。膜厚分布は、比較例1では中心部が周辺部より11.1%厚く形成されたのに対して、実施例1では106.2%であり、厚さの差を6.2%に抑え、より均一な蒸着膜を得ることができた。実施例2の膜厚分布に関しては、比較例2よりも0.6%低い値であったが、これは実質的に同等の値とみなすことができる。しかしながら坩堝の位置を変更することにより高い材料利用効率を維持したまま膜厚分布を改善することも可能である。例えば、本シミュレーションでは、対角に位置する2つのマスクの回転中心を結ぶ線上に坩堝を配置したが、坩堝の位置を水平方向にずらすことも可能であり、それにより膜厚分布を改善することができる。
【0062】
また、図10、11に示す可動領域の幅(W)は、比較例1、2の2.8Lと比較して実施例1、2では2.6Lであり0.2L短縮される。この結果から、より真空蒸着装置を小さくすることが可能であることが示された。
【符号の説明】
【0063】
20…真空蒸着装置
26…第1の基板
26a…蒸着面
27…第2の基板
27a…蒸着面
28…第1のマスク
28a…第1の角部
29…第2のマスク
29a…第2の角部
30…駆動部
36…第3のマスク
37…第4のマスク
38…第5のマスク
39…第6のマスク
40…駆動部
D…対角線長
P…回転中心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11