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特開2023-17146複合構造体、複合構造体の製造方法、及び蓄熱方法
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  • 特開-複合構造体、複合構造体の製造方法、及び蓄熱方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023017146
(43)【公開日】2023-02-07
(54)【発明の名称】複合構造体、複合構造体の製造方法、及び蓄熱方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/14 20060101AFI20230131BHJP
   F28D 20/02 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
C09K5/14 E
F28D20/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021121173
(22)【出願日】2021-07-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 共創の場形成支援(産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム)「地域資源活用型エネルギーエコシステムを構築するための基盤技術の創出」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】391009419
【氏名又は名称】美濃窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】北 英紀
(72)【発明者】
【氏名】山下 誠司
(72)【発明者】
【氏名】吉見 靖隆
(72)【発明者】
【氏名】藤井 実香子
(72)【発明者】
【氏名】賈 朋飛
(57)【要約】
【課題】内部構造部が外部に漏出しにくく高品質であるとともに、機械的強度が高く、かつ、蓄熱性能を安定的に発揮しうる、蓄熱体等として有用な複合構造体を提供する。
【解決手段】内部空間8を有するとともに、内部空間8に連通する孔部6が形成されたセラミックスからなるシームレスな外殻部4と、内部空間8に内包される内部構造部2と、を備え、内部構造部2が、内部空間8内に充填された金属材料が加熱溶融後に固化して形成された固形物であり、金属材料が、銅を主成分とし、銅以外のその他の金属を前記金属材料の全体を基準として50質量%以下の割合で含有する、複合構造体10である。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有するとともに、前記内部空間に連通する孔部が形成されたセラミックスからなるシームレスな外殻部と、
前記内部空間に内包される内部構造部と、を備え、
前記内部構造部が、前記内部空間内に充填された金属材料が加熱溶融後に固化して形成された固形物であり、
前記金属材料が、銅を主成分とし、銅以外のその他の金属を前記金属材料の全体を基準として50質量%以下の割合で含有する、複合構造体。
【請求項2】
前記セラミックスが、アルミナ、窒化ケイ素、及び炭化ケイ素からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1に記載の複合構造体。
【請求項3】
前記その他の金属が、アルミニウム、ニッケル、チタン、ジルコニウム、マンガン、及び鉄からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1又は2に記載の複合構造体。
【請求項4】
前記金属材料に含まれる前記その他の金属の割合が、前記金属材料の全体を基準として、3~30質量%である請求項1~3のいずれか一項に記載の複合構造体。
【請求項5】
前記内部構造部が、銅を主成分とする多数の粒状部分と、隣接する前記粒状部分どうしの隙間を埋める、前記その他の金属を主成分とするネットワーク状部分と、を含む請求項1~4のいずれか一項に記載の複合構造体。
【請求項6】
蓄熱体として用いられる請求項1~5のいずれか一項に記載の複合構造体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の複合構造体の製造方法であって、
内部空間を有するとともに、前記内部空間に連通する孔部が形成されたセラミックスからなるシームレスな外殻部を用意する工程と、
銅を主成分とし、銅以外のその他の金属を50質量%以下の割合で含有する金属材料を、前記孔部を通じて前記内部空間に充填して被熱処理体を得る工程と、
前記被熱処理体を、前記孔部を上方に向けた状態で900~1,300℃で熱処理して一次熱処理体を得る工程と、
を有する、複合構造体の製造方法。
【請求項8】
前記一次熱処理体を、前記孔部を下方に向けた状態で900~1,300℃で熱処理する工程をさらに有する請求項7に記載の複合構造体の製造方法。
【請求項9】
前記金属材料が、銅を主成分とする粒子状の第一充填物と、前記第一充填物に比して粒径が小さい粉末状の第二充填物と、を含み、
前記内部空間に、前記第一充填物を充填した後、隣接する前記第一充填物どうしの隙間を埋めるように前記第二充填物を充填して、前記被熱処理体を得る請求項7又は8に記載の複合構造体の製造方法。
【請求項10】
請求項6に記載の複合構造体を前記内部構造部の溶融点以上の温度に加熱して、前記複合構造体に蓄熱させる工程を有する蓄熱方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱体等として有用な複合構造体及びその製造方法、並びにこの複合構造体を蓄熱体として用いた蓄熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄熱方法の一つとして、相変化に伴う潜熱を利用した潜熱蓄熱が知られている。このような潜熱蓄熱を利用した蓄熱体として、その内部に潜熱蓄熱物質を有するカプセル状の蓄熱体が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、電解めっき法によって潜熱蓄熱材の表面に一層以上の金属製被膜を形成した潜熱蓄熱カプセルが提案されている。また、特許文献2では、相変化により蓄熱又は放熱する水溶性の潜熱蓄熱物質を芯物質とし、この芯物質を無機化合物と有機高分子化合物とが複合化されて形成された複合カプセル壁で被覆した蓄熱マイクロカプセルが提案されている。
【0004】
さらに、特許文献3では、糖類等の水溶性蓄熱材からなる芯物質と、この芯物質を被覆する、無機化合物と有機高分子化合物の複合材からなる第一カプセル壁と、この第一カプセル壁を被覆するポリマー材からなる第二カプセル壁とを有する蓄熱マイクロカプセルが提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1で提案された潜熱蓄熱カプセルの金属製被膜は耐熱性が低いため、高温状態での使用時に破れてしまい、内部の蓄熱物質が漏出しやすくなるといった問題があった。また、特許文献2及び3で提案された蓄熱マイクロカプセルのカプセル壁は低密度であるために強度が低い。このため、高温条件下や腐食等を生じやすい過酷な環境下で使用することは困難であった。さらに、上述した従来の蓄熱用のカプセル等はエネルギー密度が小さく、外殻部分の耐熱性が十分でないため、温度差を利用した顕熱を十分に利用することができず、エネルギー密度が小さいという問題もあった。
【0006】
このような問題を解決すべく、例えば、セラミックスからなる一対の中空半球体を分割面で嵌合して形成した外殻中に金属等の内部蓄熱体を内包した蓄熱体が特許文献4で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-23172号公報
【特許文献2】特開2007-238912号公報
【特許文献3】特開2009-108167号公報
【特許文献4】特開2012-111825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献4で提案された蓄熱体はエネルギー密度が高く、ある程度有用なものではあった。しかしながら、この蓄熱体は、外殻に存在する嵌合箇所から内部蓄熱体である金属が漏出しやすくなることがあるとともに、機械的強度がやや不十分であった。また、製造工程が煩雑となってコスト高であるとともに、安定した性能を有する蓄熱体を定常的に製造することが困難であった。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、内部構造部が外部に漏出しにくく高品質であるとともに、機械的強度が高く、かつ、蓄熱性能を安定的に発揮しうる、蓄熱体等として有用な複合構造体を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記の複合構造体の簡便な製造方法、及び上記の複合構造体を用いた蓄熱方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下に示す複合構造体が提供される。
[1]内部空間を有するとともに、前記内部空間に連通する孔部が形成されたセラミックスからなるシームレスな外殻部と、前記内部空間に内包される内部構造部と、を備え、前記内部構造部が、前記内部空間内に充填された金属材料が加熱溶融後に固化して形成された固形物であり、前記金属材料が、銅を主成分とし、銅以外のその他の金属を前記金属材料の全体を基準として50質量%以下の割合で含有する、複合構造体。
[2]前記セラミックスが、アルミナ、窒化ケイ素、及び炭化ケイ素からなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]に記載の複合構造体。
[3]前記その他の金属が、アルミニウム、ニッケル、チタン、ジルコニウム、マンガン、及び鉄からなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]又は[2]に記載の複合構造体。
[4]前記金属材料に含まれる前記その他の金属の割合が、前記金属材料の全体を基準として、3~30質量%である前記[1]~[3]のいずれかに記載の複合構造体。
[5]前記内部構造部が、銅を主成分とする多数の粒状部分と、隣接する前記粒状部分どうしの隙間を埋める、前記その他の金属を主成分とするネットワーク状部分と、を含む前記[1]~[4]のいずれかに記載の複合構造体。
[6]蓄熱体として用いられる前記[1]~[5]のいずれかに記載の複合構造体。
【0011】
また、本発明によれば、以下に示す複合構造体の製造方法が提供される。
[7]前記[1]~[6]のいずれかに記載の複合構造体の製造方法であって、内部空間を有するとともに、前記内部空間に連通する孔部が形成されたセラミックスからなるシームレスな外殻部を用意する工程と、銅を主成分とし、銅以外のその他の金属を50質量%以下の割合で含有する金属材料を、前記孔部を通じて前記内部空間に充填して被熱処理体を得る工程と、前記被熱処理体を、前記孔部を上方に向けた状態で900~1,300℃で熱処理して一次熱処理体を得る工程と、を有する、複合構造体の製造方法。
[8]前記一次熱処理体を、前記孔部を下方に向けた状態で900~1,300℃で熱処理する工程をさらに有する前記[7]に記載の複合構造体の製造方法。
[9]前記金属材料が、銅を主成分とする粒子状の第一充填物と、前記第一充填物に比して粒径が小さい粉末状の第二充填物と、を含み、前記内部空間に、前記第一充填物を充填した後、隣接する前記第一充填物どうしの隙間を埋めるように前記第二充填物を充填して、前記被熱処理体を得る前記[7]又は[8]に記載の複合構造体の製造方法。
【0012】
さらに、本発明によれば、以下に示す蓄熱方法が提供される。
[10]前記[6]に記載の複合構造体を前記内部構造部の溶融点以上の温度に加熱して、前記複合構造体に蓄熱させる工程を有する蓄熱方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、内部構造部が外部に漏出しにくく高品質であるとともに、機械的強度が高く、かつ、蓄熱性能を安定的に発揮しうる、蓄熱体等として有用な複合構造体を提供することができる。また、本発明によれば、上記の複合構造体の簡便な製造方法、及び上記の複合構造体を用いた蓄熱方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の複合構造体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の複合構造体の製造方法の一実施形態を示す模式図である。
図3】外殻部の内部空間に金属材料を充填する方法の一例を示す模式図である。
図4】実施例1で製造した複合構造体の、外殻部と内部構造部の界面の微構造を示す電子顕微鏡写真である。
図5】実施例2で製造した複合構造体の、外殻部と内部構造部の界面の微構造を示す電子顕微鏡写真である。
図6】実施例3で製造した複合構造体の、外殻部と内部構造部の界面の微構造を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の複合構造体は、内部空間を有する、セラミックスからなるシームレスな外殻部と、この外殻部の内部空間に内包される内部構造部と、を備える。外殻部には、内部空間に連通する孔部が形成されている。また、内部構造部は、外殻部の内部空間内に充填された金属材料が加熱溶融後に固化して形成された固形物である。そして、外殻部の内部空間に充填される金属材料は、銅を主成分とし、銅以外のその他の金属を金属材料の全体を基準として50質量%以下の割合で含有する。以下、本発明の複合構造体の詳細について説明する。
【0016】
図1は、本発明の複合構造体の一実施形態を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本実施形態の複合構造体10は、内部空間8を有するとともに、内部空間8に連通する孔部6が形成されたシームレスな外殻部4と、外殻部4の内部空間8に内包される内部構造部2とを備える。
【0017】
(外殻部)
複合構造体10を構成する外殻部4は、セラミックスによって形成されている。本実施形態の複合構造体10は、このようなセラミックスによって形成された外殻部10の内部空間8に内部構造部2を内包したものであるため、良好な昇温特性を有するとともに、優れた機械的強度を示す。セラミックスとしては、例えば、アルミナ、窒化ケイ素、及び炭化ケイ素からなる群より選択される少なくとも一種を用いることができる。なかでも、アルミナ及び窒化ケイ素が好ましく、アルミナがさらに好ましい。
【0018】
外殻部4は、嵌合部や接合部等のいわゆる「継ぎ目」が実質的に存在しない、一体成型によって製造されうるシームレスな部分(部材)である。このため、嵌合部や接合部等の継ぎ目から内部構造部2が漏出することがなく、長期間にわたって安定して継続的に用いることができる。また、嵌合部や接合部が存在しないことから、機械強度が向上しやすいとともに、製造時に嵌合や接合等の作業が不要になるので、より簡便に製造することができる。
【0019】
外殻部4には、その内部空間8に連通する孔部6が形成されている。後述する製造方法によって複合構造体10を製造する際には、この孔部6を通じて、内部構造部2の原材料である金属材料を内部空間8内に充填する。
【0020】
(内部構造部)
複合構造体10を構成する内部構造部2は、主として内部蓄熱体として機能する部分である。この内部構造部2は、外殻部4の内部空間8内に充填した金属材料が加熱溶融後に固化することで形成された、常温(25℃)で固体状の固形物である。複合構造体10を1,000~1,500℃の温度域の廃熱を回収して再利用する蓄熱体として用いる場合を考慮すると、内部構造部2の融点は1,500℃以下であることが好ましく、1,000~1,400℃であることがさらに好ましい。
【0021】
内部構造部2の構成原料となる金属材料は、銅を主成分とし、銅以外のその他の金属を金属材料の全体を基準として50質量%以下、好ましくは3~30質量%、さらに好ましくは4~25質量%の割合で含有する材料である。驚くべきことに、このような組成の金属材料を内部空間8内に充填した外殻部(被焼成体)4を、充填した金属材料が溶融する温度にまで加熱しても、溶融した金属材料が孔部6から実質的に漏出することはない。さらに、このようにして得られる複合構造体10を内部構造部2の溶融点以上の温度に加熱し、複合構造体10に繰り返し蓄熱させた場合であっても、内部構造部2が孔部6から実質的に漏出することはない。
【0022】
内部構造部は、銅以外の金属を所定の割合で含有する、銅を主成分とする金属材料が、セラミックス製の外殻部の内部(内部空間内)に充填された状態で加熱溶融された後、固化して形成された固形物である。このように形成される固形物である内部構造部の組成等は、外殻部を構成するセラミックスと金属材料との間で複雑な反応等が生じている可能性もあるため、分析等によって特定することは実質的に困難である。なお、内部構造部の構成としては、例えば、銅を主成分とする多数の粒状部分と、隣接する粒状部分どうしの隙間を埋める、その他の金属を主成分とするネットワーク状部分とを含むもの等を挙げることができる。
【0023】
金属材料に含まれる銅の割合は、金属材料の全体を基準として、50質量%以上である。金属材料に含まれるその他の金属の割合が50質量%超であると、形成される固形物(内部構造部)の蓄熱量が低下する。また、外殻部4と内部構造部2の間に隙間(空間)が生じやすくなるので、熱伝導効率及び機械的強度が低下する。
【0024】
その他の金属は、アルミニウム、ニッケル、チタン、ジルコニウム、マンガン、及び鉄からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましく、アルミニウムが特に好ましい。
【0025】
本発明の複合構造体は、(i)堅牢でシームレスな外殻部、及び(ii)この外殻部に内包される内部構造部、といった、物理的にも化学的にも顕著に相違する二つの構造部分を備える。このため、本発明の複合構造体は、その特性を生かし、例えば、鉄鋼の転炉などの1,000℃以上の高温かつ腐食しやすい過酷な環境下で廃熱回収するための蓄熱体;輻射を利用した発熱体等として有用である。その他、本発明の複合構造体が、耐食性に優れているとともに熱伝導率が高いものであることを利用すれば、触媒基材、放熱基板、及び熱交換機への適用も期待される。
【0026】
<複合構造体の製造方法>
次に、本発明の複合構造体の製造方法について説明する。本発明の複合構造体の製造方法は、上述の複合構造体を製造する方法であり、内部空間を有するとともに、内部空間に連通する孔部が形成されたセラミックスからなるシームレスな外殻部を用意する工程(工程(1))と、銅を主成分とし、銅以外のその他の金属を50質量%以下の割合で含有する金属材料を、孔部を通じて内部空間に充填して被熱処理体を得る工程(工程(2))と、被熱処理体を、孔部を上方に向けた状態で900~1,300℃で熱処理して一次熱処理体を得る工程(工程(3))と、を有する。以下、本発明の複合構造体の製造方法の詳細について説明する。
【0027】
(工程(1))
図2は、本発明の複合構造体の製造方法の一実施形態を示す模式図である。工程(1)では、内部空間8を有するとともに、内部空間8に連通する孔部6が形成されたセラミックスからなるシームレスな外殻部4を用意する(図2(A))。このような構造の外殻部4は、例えば、セラミックス成形体を製造する一体成型法等の従来公知の方法にしたがって製造することができる。
【0028】
孔部6の開口径は、例えば粉末状又は粒状等の金属材料を内部空間8内に導入しうる大きさとすればよく、好ましくは3~15mm、さらに好ましくは4~10mm程度である。
【0029】
(工程(2))
工程(2)では、銅を主成分とする前述の金属材料12を、孔部6を通じて内部空間8に充填して被熱処理体15を得る(図2(B))。金属材料12としては、例えば、銅の粉末又は粒子と、その他の金属の粉末又は粒子との混合物を用いることができる。また、金属材料12としては、銅とその他の金属との合金の粉末や粒子を用いてもよい。
【0030】
粉末状又は粒子状の金属材料を内部空間に充填する場合の充填密度は、最大でも70%前後である。均一な大きさの球体を最密充填する場合であっても、幾何学的には74%が限界である。これに対して、用いる金属材料の粒度を工夫することで、内部空間に充填する金属材料の充填密度をさらに高めることができる。図3は、外殻部の内部空間に金属材料を充填する方法の一例を示す模式図である。図3に示すように、銅を主成分とする粒子状の第一充填物14aと、第一充填物14aに比して粒径が小さい粉末状の第二充填物14bとを含む金属材料14を用いる。そして、第一充填物14aを外殻部4の内部空間8に充填する。次いで、隣接する第一充填物14aどうしの隙間を埋めるように第二充填物14bを充填して、被熱処理体25を得る。これにより、内部空間への金属材料の充填密度が、好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上の被熱処理体を得ることができる。なお、第二充填物14bを充填した後に加振することで、金属材料14の充填密度をさらに高めることができるために好ましい。そして、金属材料の充填密度の高い被熱処理体を熱処理し、金属材料を加熱溶融後に固化させることで、外殻部と内部構造部の間の隙間(空間)が小さく、より昇温特性に優れているとともに、機械的強度の高い複合構造体を得ることができる。
【0031】
第一充填物としては、例えば、銅製の球状ビーズ、ワイヤーをカットした棒状物や角状物、及び歪なビレット等を用いることができる。なお、本明細書においては、上記の球状ビーズの他、棒状物、角状物、及び歪なビレット等の形状を有するものについても、便宜上、「粒子状」の概念に含まれる。第一充填物は、銅を主成分とする粒子状物であり、銅単体の他、銅合金等を用いることができる。第一充填物の粒子径は、0.5~4mmであることが好ましく、1~3mmであることがさらに好ましい。また、第一充填物は、粒径の異なる二種以上の粒状物の混合物であることが、金属材料の充填密度をさらに高めることができるために好ましい。
【0032】
第二充填物としては、例えば、銅の粉末と、その他の金属の粉末との混合物や、銅とその他の金属との合金の粉末等を用いることができる。第二充填物の粒径は、第一充填物の粒径よりも小さい。具体的には、第二充填物の粒子径は、1~200μmであることが好ましく、50~150μmであることがさらに好ましい。第一充填物及び第二充填物の粒子径は、原料の粒子径であっても、顆粒状態の粒子径であってもよい。
【0033】
(工程(3))
工程(3)では、工程(2)で得た被熱処理体を、孔部6を上方に向けた状態で900~1,300℃、好ましくは1,000~1,200℃で熱処理する。内部空間内に充填された金属材料が熱処理されて加熱溶融した後に固化すると、常温(25℃)で固体状の固形物である内部構造部2が形成され、一次熱処理体21を得ることができる(図2(C))。得られる一次熱処理体21を複合構造体20として用いてもよく、さらに熱処理する後述の工程(4)を経て得られる二熱処理体を複合構造体としてもよい。
【0034】
前述の通り、被熱処理体15を、充填した金属材料が溶融する温度にまで加熱しても、溶融した金属材料12が孔部6から漏出することはなく、仮に漏出したとしても極めて微量であり、実質的に影響のない程度である(図2(B))。さらに、得られる一次熱処理体21(複合構造体20)を内部構造部2の溶融点以上の温度に加熱し、繰り返し蓄熱させた場合であっても、内部構造部2が孔部6から漏出することはなく、仮に漏出したとしても極めて微量であり、実質的に影響のない程度である(図2(C))。
【0035】
(工程(4))
本実施形態の複合構造体の製造方法は、工程(3)で得た一次熱処理体を上下反転し、孔部6を下方に向けた状態で900~1,300℃、好ましくは1,000~1,200℃で熱処理する工程をさらに有してもよい。一次熱処理体を上下反転してさらに熱処理することで、孔部6からの内部構造部2の漏出が生じていないことを確認しつつ、二次熱処理体22である複合構造体30を得ることができる。なお、孔部6を下に向けた状態で焼成しても、内部構造部2が孔部6から実質的に漏出することはない。
【0036】
<蓄熱方法>
次に、本発明の蓄熱方法について説明する。本発明の蓄熱方法は、前述の複合構造体を蓄熱体として使用する方法である。すなわち、本発明の蓄熱方法は、前述の複合構造体(蓄熱体)を内部構造部の溶融点以上の温度に加熱して、複合構造体に蓄熱させる工程(蓄熱工程)を有する。
【0037】
蓄熱工程では、例えば、溶融前の内部構造部の顕熱、溶融前の内部構造部の潜熱、溶融状態の内部構造部の顕熱、及び外殻部の顕熱の総和の熱量(蓄熱体の全熱量)に対して、外殻部の顕熱の蓄熱量が20%以上となるように、複合構造体を加熱して蓄熱させることが好ましい。このような蓄熱方法によれば、溶融前の内部構造部の顕熱、溶融前の内部構造部の潜熱、溶融状態の内部構造部の顕熱、及び外殻部の顕熱の全てを利用することができ、エネルギー密度の高い蓄熱を実現することができる。なお、これらの顕熱及び潜熱は、下記式(1)を用いて算出することができる。そして、算出した顕熱及び潜熱に基づき、複合構造体を加熱する温度を決定することができる。
【0038】
【0039】
上記式(1)中、Tは初期温度、Tは最終温度、mは質量、Cpsは固定状態における比熱、Cplは液体状態における比熱、Lは潜熱を示す。
【実施例0040】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0041】
<外殻部(シェル)の製造>
(製造例1)
アルミナ粉体(商品名「SA34」、日本軽金属社製)と蒸留水を45:55(体積比)で混合した。適量の分散材(商品名「セルナD-305」、中京油脂社製)を添加し、ボールミルを使用して24時間混合した。適量の水溶性バインダー及び消泡材を添加した後、撹拌機を使用してさらに撹拌し、スラリーを得た。上面に注入孔を有する石膏型(直径25mm)を用意した。注入孔からスラリーを流し込んで石膏型のキャビティに注入した。静置してスラリー中の分散媒(水分)を石膏型に吸収させるとともに、アルミナ粉体をキャビティの外面(石膏型の内面)に、ほぼ均一の厚さで着肉させた。約5分間保持した後、固化していないスラリーを石膏型から排出して、その内部に中空部を有する外殻部(シェル)の成形体を得た。成形体の肉厚は約4mmであり、外径は25mmであった。石膏型から離型した成形体を乾燥させた後、1,600℃で焼成して、肉厚3.5mm、外径21mmであるアルミナ製の外殻部(シェル)を得た。
【0042】
(製造例2)
窒化ケイ素粉末(商品名「SN-7」、デンカ社製)、酸化イットリウム、及びアルミナを92:5:3(質量比)で混合して混合粉末を得た。得られた混合粉末と蒸留水を4:6(体積比)で混合した。適量の分散材(商品名「セルナD-305」、中京油脂社製)を添加し、ボールミルを使用して24時間混合した。適量の水溶性バインダー及び消泡材を添加した後、撹拌機を使用してさらに撹拌し、スラリーを得た。それ以降は、前述の製造例1と同様にして、その内部に中空部を有する外殻部(シェル)の成形体を得た。成形体の肉厚は約4mmであり、外径は25mmであった。石膏型から離型した成形体を乾燥させた後、9気圧の窒素ガス中、1,850℃まで加熱して焼成し、肉厚3.5mm、外径21mmである窒化ケイ素製の外殻部(シェル)を得た。
【0043】
<複合構造体の製造(1)>
(実施例1)
銅粉末(150μm)とアルミニウム粉末(150μm)を混合し、アルミニウムを5%含有する混合粉末(金属材料)を調製した。製造例1で得たアルミナ製のシェルの孔部から混合粉末を入れ、シェルの内部空間に混合粉末を充填して被熱処理体を得た。得られた被熱処理体を、孔部を上方に向けて載置した状態とし、大気中、1,200℃で2時間熱処理して複合構造体を得た。
【0044】
得られた複合構造体のシェルの状態を観察したところ、孔部からわずかに漏出した内容物と若干反応していたが、実用上問題のないレベルであることを確認した。また、熱処理前後の質量から算出した質量変化率は+0.3%であった。
【0045】
(実施例2~6、比較例1)
表1に示す割合でアルミニウムを含有する金属材料を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして複合構造体を得た。得られた複合構造体のシェルの状態の観察結果、及び質量変化率を表1に示す。
【0046】
【0047】
また、実施例1~3で得た複合構造体の、外殻部と内部構造部の界面の微構造を示す電子顕微鏡写真を図4~6に示す。なお、図4~6中、右上が内部構造部であり、左下が外殻部である。図4に示すように、用いた金属材料中のアルミニウムの割合が5%である実施例1の複合構造体では、外殻部と内部構造部の間に隙間がなく、密着していることがわかる。そして、用いた金属材料中のアルミニウムの割合が上昇するに伴って、外殻部と内部構造部の間に隙間が生ずるとともに、生じた隙間が徐々に拡大していることがわかる。
【0048】
<複合構造体の製造(2)>
(実施例7)
製造例1で得たアルミナ製のシェルの孔部から金属材料(Cu-20%Al)の粉末を入れ、シェルの内部空間に金属材料を充填して被熱処理体を得た。得られた被熱処理体を、孔部を上方に向けて載置した状態とし、大気中、1,200℃で2時間熱処理した。次いで、孔部を下方に向けて載置した状態とし、大気中、1,200℃で2時間熱処理して複合構造体を得た。
【0049】
得られた複合構造体のシェルの状態を観察したところ、内容物は漏出しておらず、シェルには反応が生じていないことを確認した。また、熱処理前後で質量変化はほとんどなかった(微増であった)。
【0050】
<複合構造体の製造(3)>
(実施例8)
製造例2で得た窒化ケイ素製のシェルの孔部から金属材料(Cu-20%Al)の粉末を入れ、シェルの内部空間に金属材料を充填して被熱処理体を得た。得られた被熱処理体を、孔部を上方に向けて載置した状態とし、大気中、1,200℃で2時間熱処理した。次いで、孔部を下方に向けて載置した状態とし、大気中、1,200℃で2時間熱処理して複合構造体を得た。
【0051】
得られた複合構造体のシェルの状態を観察したところ、内容物は漏出しておらず、シェルには反応が生じていないことを確認した。また、熱処理前後の質量から算出した質量変化率は+0.5%であった。
【0052】
(実施例9~15、比較例2)
表2に示す材質のシェル及び金属材料を用いたこと以外は、前述の実施例8と同様にして複合構造体を得た。得られた複合構造体のシェルの状態の観察結果、及び質量変化率を表2に示す。
【0053】
【0054】
<評価>
(昇温特性)
製造した複合構造体の中心部に直径0.5mmの穴をあけた。あけた穴を通じて、その先端が内部構造部の中心に位置するように熱電対を挿入した。約1,150℃に加熱した炉内に熱電対を挿入した状態の複合構造体を投入した。中心部の温度がほぼ一定となるまでの時間(安定化するまでの到達時間)を測定し、昇温特性の指標とした。安定化するまでの到達時間の測定結果を表3に示す。
【0055】
(機械的強度)
強度試験機を使用し、製造した複合構造体に圧縮荷重を付与した。複合構造体が破壊した時点の荷重(破壊荷重)を測定し、機械的強度の指標とした。破壊荷重の測定結果を表3に示す。
【0056】
【0057】
(実施例16)
肉厚2mm、外径25mm、孔部の開口径5mmであるアルミナ製の外殻部(シェル)を用意した。用意したシェルの孔部から、第一充填物として銅製の球状ビーズ(3mm)を入れ、シェルの内部空間に充填した。次いで、第二充填物として、アトマイズ法で作製したCu-40Al合金粉末(ヒカリ素材社製、粒径約150μm)を加振しながら充填し、被熱処理体を得た。得られた被熱処理体の内部に充填された金属材料の充填密度は88%(空隙率12%)であった。また、充填した金属材料に含まれるアルミニウムの含有量は19%であった。得られた被熱処理体を、孔部を上方に向けて載置した状態とし、大気中、1,200℃で2時間熱処理して複合構造体を得た。
【0058】
得られた複合構造体のシェルの状態を観察し、内容物が漏出していないことを確認した。また、形成された内部構造部と外殻部は密着しており、隙間は生じていなかった。得られた複合構造体を切断し、エネルギー分散型X線分析(EDX)により内部構造部におけるアルミニウムの分布状態を解析した。その結果、銅を主成分とし、アルミニウムが固溶した多数の粒状部分と、隣接する粒状部分どうしの隙間を埋める、酸化アルミニウム(アルミナ)を含むネットワーク状部分とを含む構造が形成されていることを確認した。
【0059】
また、得られた複合構造体の昇温特性を評価したところ、中心部の温度がほぼ一定となるまでの時間(安定化するまでの到達時間)は16秒であった。また、破壊荷重は22kNであった。
【0060】
(実施例17)
直径3mmの銅製の球状ビーズ及び直径1mmの銅製の球状ビーズを3:1の質量比で含有する混合物を第一充填剤として用いたこと以外は、前述の実施例16と同様にして、複合構造体を得た。被熱処理体を得た。得られた被熱処理体の内部に充填された金属材料の充填密度は90%(空隙率10%)であった。また、充填した金属材料に含まれるアルミニウムの含有量は13%であった。
【0061】
得られた被熱処理体を、孔部を上方に向けて載置した状態とし、大気中、1,200℃で2時間熱処理して複合構造体を得た。得られた複合構造体のシェルの状態を観察し、内容物が漏出していないことを確認した。また、形成された内部構造部と外殻部は密着しており、隙間は生じていなかった。得られた複合構造体を切断し、エネルギー分散型X線分析(EDX)により内部構造部におけるアルミニウムの分布状態を解析した。その結果、銅を主成分とし、アルミニウムが固溶した多数の粒状部分と、隣接する粒状部分どうしの隙間を埋める、酸化アルミニウム(アルミナ)を含むネットワーク状部分とを含む構造が形成されていることを確認した。
【0062】
また、得られた複合構造体の昇温特性を評価したところ、中心部の温度がほぼ一定となるまでの時間(安定化するまでの到達時間)は14秒であった。また、破壊荷重は25kNであった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の複合構造体は、例えば、鉄鋼の転炉などの1,000℃以上の高温かつ腐食しやすい過酷な環境下で廃熱回収するための蓄熱体として有用である。
【符号の説明】
【0064】
2:内部構造部
4:外殻部
6:孔部
8:内部空間
10,20,30:複合構造体
12,14:金属材料
14a:第一充填物
14b:第二充填物
15,25:被熱処理体
21:一次熱処理体
22:二次熱処理体

図1
図2
図3
図4
図5
図6