(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171485
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】可搬型溶接ロボットの制御方法、及び溶接システム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/12 20060101AFI20231124BHJP
B23K 9/028 20060101ALI20231124BHJP
B23K 9/00 20060101ALI20231124BHJP
B23K 37/02 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
B23K9/12 331Q
B23K9/12 331B
B23K9/028 D
B23K9/028 J
B23K9/00 501B
B23K37/02 B
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023172954
(22)【出願日】2023-10-04
(62)【分割の表示】P 2020106327の分割
【原出願日】2020-06-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】八島 聖
(57)【要約】
【課題】ワークの角部とガイドレールの曲線部が同心円上になく、かつワークの角部とガイドレールの曲線部の曲率差が大きい場合においても、良好なビード外観を確保できる可搬型溶接ロボットの制御方法を提供する。
【解決手段】角部を有するワークW
oに対してガイドレールを設置し、ガイドレール上を移動してワークW
oをアーク溶接する可搬型溶接ロボット100と、可搬型溶接ロボット100を制御する溶接制御装置600とを備える。可搬型溶接ロボット100は、溶接トーチ200及び溶接トーチ200を溶接線方向に可動する可動部を有する。本制御方法は、トーチ位置判定部605によってワークW
o上のトーチ位置を判定するステップと、トーチ角度算出部606によってトーチ位置におけるトーチ角度を算出するステップと、算出されたトーチ角度に基づき、可動部によってトーチ角度を制御するステップと、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
角部を有するワークに対してガイドレールを設置し、前記ガイドレール上を移動して前記ワークをアーク溶接する可搬型溶接ロボットと、前記可搬型溶接ロボットを制御する溶接制御装置と、を有する溶接システムを用いた可搬型溶接ロボットの制御方法であって、
前記可搬型溶接ロボットは、溶接トーチ及び前記溶接トーチを溶接線方向に可動する可動部を有し、
前記溶接制御装置は、前記ワーク上のトーチ位置を判定するトーチ位置判定部と、前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出するトーチ角度算出部と、を有し、
前記ワークの角部と前記ガイドレールの曲線部が同心円上であるか否かを、前記ガイドレールの曲線部の曲率中心OAまたは前記ワークの角部の曲率中心OBに基づいて判断するステップと、
非同心円上である場合は、前記ガイドレールの曲線部の曲率中心OAまたは前記ワーク角部の曲率中心OBに基づいて、前記ワークの角部と前記ガイドレールの曲線部の関係を判断し、複数の領域を決定するステップと、
前記トーチ位置判定部によって前記ワーク上のトーチ位置を判定するステップと、
前記トーチ角度算出部によって前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出するステップと、
算出された前記トーチ角度に基づき、前記可動部によって前記トーチ角度を制御するステップと、
を有すること、
を特徴とする可搬型溶接ロボットの制御方法。
【請求項2】
前記トーチ角度算出部によって、前記トーチ角は、前記ワークの角部の曲率中心OBまたは前記レールの曲線部の曲率中心OAに基づいて、算出されること、
を特徴とする請求項1に記載の可搬型溶接ロボットの制御方法。
【請求項3】
前記トーチ角度算出部によって、
前記トーチ角は、前記ガイドレール上の可搬型溶接ロボット位置に基づいて算出され、
前記ガイドレール上の可搬型溶接ロボット位置は、前記ワークの角部の曲率中心OBの位置に基づいて算出されること、
を特徴とする請求項2に記載の可搬型溶接ロボットの制御方法。
【請求項4】
前記トーチ角度算出部によって、
前記トーチ角は、前記ガイドレール上の可搬型溶接ロボット位置に基づいて算出され、
前記ガイドレール上の可搬型溶接ロボット位置は、前記ワークの角部の曲率中心OBおよび前記ガイドレールの曲線部の曲率中心OAの位置に基づいて算出されること、
を特徴とする請求項2に記載の可搬型溶接ロボットの制御方法。
【請求項5】
前記トーチ角は、
前記領域に応じて、
前記ガイドレール上の可搬型溶接ロボット位置と前記ワークの角部の曲率中心OBを結ぶ線分LBに基づいて決定する角度θ1と、
前記ガイドレール上の可搬型溶接ロボット位置と前記ガイドレールの曲線部の曲率中心OAを結ぶ線分LAに基づいて決定する角度θと、
のうち少なくとも一つの角度に基づいて算出されること、
を特徴とする請求項2~4のいずれか1項に記載の可搬型溶接ロボットの制御方法。
【請求項6】
2軸の座標系で得られる前記ワークおよび前記ガイドレールの情報に基づいて、
前記角度θ1を、前記線分LBと、前記2軸のうち一方の軸方向と、の成す角とし、
前記角度θは、前記線分LAと、2軸のうち一方の軸方向との成す角とし、
前記角度θ1および前記角度θを決定する前記一方の軸方向は、同方向であること、
を特徴とする請求項5に記載の可搬型溶接ロボットの制御方法。
【請求項7】
前記曲線部において複数の領域を決定するステップにおいて、
非同心円上における前記ワークの角部とレールの曲線部の関係を、前記レールの曲線部の曲率中心OAに基づいて決定する曲率半径RAと、前記レールの曲線部の曲率中心OBに基づいて決定する曲率半径RBと、に関し、RA>RBまたはRA<RBのいずれかであるかを判断すること、
を特徴とする請求項1に記載の可搬型溶接ロボットの制御方法。
【請求項8】
RA>RBである場合に、前記複数の領域は、前記可搬型溶接ロボットが前記ガイドレールの直線部にあり、かつ前記溶接トーチが前記ワークの直線部にある領域Iと、前記可搬型溶接ロボットが前記ガイドレールの曲線部にあり、かつ前記溶接トーチが前記ワークの直線部にある領域IIと、前記可搬型溶接ロボットが前記ガイドレールの曲線部にあり、かつ前記溶接トーチが前記ワークの角部にある領域IIIと、に分けられること、
を特徴とする請求項7に記載の可搬型溶接ロボットの制御方法。
【請求項9】
前記溶接制御装置は、溶接条件算出部を含み、
前記トーチ位置において、前記トーチ角度の制御を行うとともに、溶接条件の制御を行い、
前記溶接条件は、溶接電流、アーク電圧、チップ-母材間距離及びロボット移動速度のうち少なくとも一つの条件を制御すること、
を特徴とする請求項1に記載の可搬型溶接ロボットの制御方法。
【請求項10】
前記可搬型溶接ロボットが前記ガイドレールの直線部にあり、かつ前記溶接トーチが前記ワークの直線部にある場合のトーチ角度を基準とし、
前記ワークの直線部及び角部における前記トーチ角度が前記基準の角度で略一定となるように、前記トーチ角度の向きを前進角側または後退角側に制御すること、
を特徴とする請求項2に記載の可搬型溶接ロボットの制御方法。
【請求項11】
前記基準の角度となる前記トーチ角度は、前記ワークに対して垂直とし、
前記ワークの直線部及び角部における前記トーチ角度は、前記ワークに対して垂直の角度で、略一定となるようにすること
を特徴とする請求項10に記載の可搬型溶接ロボットの制御方法。
【請求項12】
角部を有するワークに対してガイドレールを設置し、前記ガイドレール上を移動して前記ワークをアーク溶接する可搬型溶接ロボットと、前記可搬型溶接ロボットを制御する溶接制御装置と、を有する溶接システムであって、
前記可搬型溶接ロボットは、溶接トーチ及び前記溶接トーチを溶接線方向に可動する可動部を有し、
前記溶接制御装置は、前記ワーク上のトーチ位置を判定するトーチ位置判定部と、前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出するトーチ角度算出部と、を有し、
前記ワークの角部と前記ガイドレールの曲線部が同心円上であるか否かを、前記ガイドレールの曲線部の曲率中心OAまたは前記ワークの角部の曲率中心OBに基づいて判断し、
非同心円上である場合は、前記ガイドレールの曲線部の曲率中心OAまたは前記ワーク角部の曲率中心OBに基づいて、前記ワークの角部と前記ガイドレールの曲線部の関係を判断し、複数の領域を決定し、
前記トーチ位置判定部は、前記ワーク上のトーチ位置を判定し、
前記トーチ角度算出部は、前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出し、
算出された前記トーチ角度に基づき、前記可動部によって前記トーチ角度を制御すること、
を特徴とする可搬型溶接ロボットの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガイドレール上を移動しながら自動で溶接を行うことができる可搬型溶接ロボットの制御方法、及び溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、造船、鉄骨、橋梁等における溶接構造物の製造において、工場内における溶接作業は自動化が進み、大型の多軸溶接ロボットが多用されている。一方、大型の多軸溶接ロボットが適用できない現場溶接作業においても、半自動溶接といった手動の溶接から作業員が一人で運ぶことができる軽量小型の可搬型溶接ロボットを適用した溶接方法へと自動化が進められている。このような可搬型溶接ロボットの適用は、これまで手動で溶接が進められてきた溶接現場において、溶接効率を向上させることができる。
【0003】
この可搬型溶接ロボットを適用した技術として、例えば、特許文献1がある。特許文献1では、建設現場で用いられている多角形角型鋼管に対して、直線部と曲線部とを有したコーナユニットを用いたガイドレールを、溶接対象である多角形角型鋼管の外周に取り付ける。そして、ガイドレールに対し溶接ロボットを摺動可能に設ける。制御装置の制御部は、溶接ロボットにより溶接する溶接部分の曲率中心の位置と、コーナユニットにおいて、溶接部分を溶接するときの溶接ロボットが所在する位置の曲率中心の位置とが異なる場合に、溶接ロボットによる単位時間あたりの溶接部分の長さ(以下、「ビード長さ」とも言う)が一定となるように、溶接ロボットの移動速度を制御する。これにより、多様な形状の角形鋼管を効率的に溶接している。なお、溶接ロボットによる単位時間あたりのビード長さのことを「溶接速度」とも言う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、特許文献1では、溶接ロボットの移動速度(以下、「ロボット速度」とも言う)を制御し、ワークの角部とガイドレール(以下、「レール」とも言う)の曲線部が非同心円上である場合であっても、溶着量を合わせるように溶接速度を変更することで、効率の良い溶接を可能としている。しかしながら、特許文献1の技術は、ロボット速度の制御しか考慮されておらず、ワークの角部とレールの曲線部が非同心円上になる場合に問題となる、トーチ角度の影響について考慮されていない。すなわち、以下のような事象が発生する。
(1)ロボットがレールの曲線部上に存在し、かつ、トーチ先端部がワークの平行部上に存在する場合において、ワーク平行部でのトーチ角度が前進角又は後退角となる。
(2)ロボットがレールの曲線部上に存在し、かつ、トーチ先端部がワークの角部上に存在する場合において、ワークの角部でのトーチ角度が前進角又は後退角となる。
【0006】
そして、上記トーチ角度が前進角又は後退角になった場合、例えば、以下の問題が発生し得る。
(前進角の場合)
前方へスパッタが発生し易くなり、溶接作業性の悪化につながる。
(後退角の場合)
後方の溶融池を押し上げることになり、結果としてワーク上の角部と直線部の境界近傍に凸ビードが発生し、ビード外観不良の原因となる。
なお、ワークの角部の曲率が小さくなって、レールの曲率との曲率差が広がるほど、トーチ角度の変化量が大きくなり、直線部と角部の境界におけるビード外観は更に悪化する。
【0007】
ここで例えば、曲率半径の異なるワークとして、建築構造用ロール成形多角形角型鋼管(BCP)、建築構造用ロール成形多角形角型鋼管(BCR)が挙げられる。一般的にBCPの曲率半径は、板厚tに対して3.5tで算出されるが、BCRでの曲率半径は2.5tとなる。すなわち、板厚が同じBCPとBCRにおいて、レールの曲率半径を一定とした場合、ワークとレールの曲率半径の差はBCRの方が大きくなる。ゆえに、BCRの方が、ワークに対しレールの曲線部におけるトーチ角度の変化量は大きく、直線部と角部の境界におけるビード外観不良が発生しやすい特徴がある。
【0008】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ワークの角部とレールの曲線部が同心円上になく、かつ、ワークの角部とレールの曲線部の曲率差が大きい場合においても、良好なビード外観を確保できる可搬型溶接ロボットの制御方法、溶接制御装置、可搬型溶接ロボット及び溶接システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明の上記目的は、可搬型溶接ロボットの制御方法に係る下記(A)の構成により達成される。
【0010】
(A)角部を有するワークに対してガイドレールを設置し、前記ガイドレール上を移動して前記ワークをアーク溶接する可搬型溶接ロボットと、前記可搬型溶接ロボットを制御する溶接制御装置と、を有する溶接システムを用いた可搬型溶接ロボットの制御方法であって、
前記可搬型溶接ロボットは、溶接トーチ及び前記溶接トーチを溶接線方向に可動する可動部を有し、
前記溶接制御装置は、前記ワーク上のトーチ位置を判定するトーチ位置判定部と、前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出するトーチ角度算出部とを有し、
前記トーチ位置判定部によって前記ワーク上のトーチ位置を判定するステップと、
前記トーチ角度算出部によって前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出するステップと、
算出された前記トーチ角度に基づき、前記可動部によって前記トーチ角度を制御するステップと、
を備えることを特徴とする可搬型溶接ロボットの制御方法。
【0011】
また、本発明の上記目的は、溶接制御装置に係る下記(B)の構成により達成される。
【0012】
(B)角部を有するワークに対してガイドレールを設置し、前記ガイドレール上を移動して前記ワークをアーク溶接する可搬型溶接ロボットを制御するための溶接制御装置であって、
前記ワーク上のトーチ位置を判定するトーチ位置判定部と、前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出するトーチ角度算出部とを有し、
前記トーチ位置判定部は、前記ワーク上のトーチ位置を判定し、
前記トーチ角度算出部は、前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出し、
算出された前記トーチ角度に基づき、前記トーチ角度を制御することを特徴とする溶接制御装置。
【0013】
また、本発明の上記目的は、可搬型溶接ロボットに係る下記(C)の構成により達成される。
【0014】
(C)角部を有するワークに対してガイドレールを設置し、前記ガイドレール上を移動して前記ワークをアーク溶接する、上記に記載の溶接制御装置によって制御される可搬型溶接ロボットであって、
溶接トーチ及び前記溶接トーチを溶接線方向に可動する可動部を備え、
前記トーチ角度算出部によって算出された前記トーチ角度に基づき、前記可動部が前記トーチ角度を制御することを特徴とする可搬型溶接ロボット。
【0015】
また、本発明の上記目的は、溶接システムに係る下記(D)の構成により達成される。
【0016】
(D)角部を有するワークに対してガイドレールを設置し、前記ガイドレール上を移動して前記ワークをアーク溶接する可搬型溶接ロボットと、前記可搬型溶接ロボットを制御する溶接制御装置と、を有する溶接システムであって、
前記可搬型溶接ロボットは、溶接トーチ及び前記溶接トーチを溶接線方向に可動する可動部を有し、
前記溶接制御装置は、前記ワーク上のトーチ位置を判定するトーチ位置判定部と、前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出するトーチ角度算出部とを有し、
前記トーチ位置判定部は、前記ワーク上のトーチ位置を判定し、
前記トーチ角度算出部は、前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出し、
算出された前記トーチ角度に基づき、前記可動部によって前記トーチ角度を制御することを特徴とする溶接システム。
【0017】
また、本発明の上記目的は、可搬型溶接ロボットの制御方法に係る下記(E)の構成により達成される。
【0018】
(E)多角形角型鋼管に対してガイドレールを設置し、前記ガイドレール上を移動して前記多角形角型鋼管をアーク溶接する可搬型溶接ロボットと、前記可搬型溶接ロボットを制御する溶接制御装置と、を有する溶接システムを用いた可搬型溶接ロボットの制御方法であって、
前記可搬型溶接ロボットは、溶接トーチ及び前記溶接トーチを溶接線方向に可動する可動部を有し、
前記溶接制御装置は、前記多角形角型鋼管上のトーチ位置を判定するトーチ位置判定部と、前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出するトーチ角度算出部とを有し、
前記トーチ位置判定部によって前記多角形角型鋼管上のトーチ位置を判定するステップと、
前記トーチ角度算出部によって前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出するステップと、
算出された前記トーチ角度に基づき、前記可動部によって前記トーチ角度を制御するステップと、
を備えることを特徴とする可搬型溶接ロボットの制御方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の可搬型溶接ロボットの制御方法によれば、ワークの角部とガイドレールの曲線部が同心円上になく、かつワークの角部とガイドレールの曲線部の曲率差が大きい場合においても、ワーク上のトーチ位置情報に従って、トーチ角度を制御して、ワーク上の角部、及び角部と直線部の境界位置でのビード外観を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明に係る溶接システムの一実施形態の概略図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す可搬型溶接ロボットの概略側面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す可搬型溶接ロボットの斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3に示す溶接ロボットが多角形角型鋼管に取付けられた場合の斜視図である。
【
図5】
図5は、
図4を真上から見たときの多角形角型鋼管の1/4角部の領域における、ガイドレールとの位置関係を説明する図である。
【
図7】
図7は、ガイドレールの曲率中心及びガイドレール上の可搬型溶接ロボットを結ぶ直線の角度θと、トーチ角補正量θ
Tの関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、可搬型溶接ロボットの移動距離Dと、トーチ角補正量θ
Tの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る溶接システムについて図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態は、可搬型溶接ロボットを用いた場合の一例であり、本発明の溶接システムは、本実施形態の構成に限定されるものではない。
【0022】
<溶接システムの構成>
図1は、本実施形態に係る溶接システムの構成を示す概略図である。
図1に示すように、溶接システム50は、可搬型溶接ロボット100と、送給装置300と、溶接電源400と、シールドガス供給源500と、制御装置600と、を備えている。
【0023】
[制御装置]
制御装置600は、ロボット用制御ケーブル620によって可搬型溶接ロボット100と接続され、電源用制御ケーブル630によって溶接電源400と接続されている。
【0024】
制御装置600は、あらかじめ、ワーク情報、ガイドレール情報、ワークWo及びガイドレール120の位置情報、可搬型溶接ロボット100の動作パターン、溶接開始位置、溶接終了位置、溶接条件、ウィービング動作等を定めたティーチングデータを保持するデータ保持部601を有する。そして、このティーチングデータに基づいて可搬型溶接ロボット100及び溶接電源400に対して指令を送り、可搬型溶接ロボット100の動作及び溶接条件を制御する。
【0025】
また、制御装置600は、タッチセンシングや視覚センサ等のセンシングにより得られる検知データから開先形状情報を算出する開先条件算出部602と、該開先形状情報をもとに上記ティーチングデータの溶接条件を補正して溶接条件を取得する溶接条件算出部603と、を有する。また、可搬型溶接ロボット100において、後述するX方向、Y方向、Z方向へ駆動するための駆動部(図示せず)を制御する速度制御部604と、トーチ位置を判定するトーチ位置判定部605及び可搬型溶接ロボット100におけるトーチ角度駆動部(可動アーム部116)を制御するトーチ角度算出部606を有する。そして、上記開先条件算出部602、溶接条件算出部603、速度制御部604、トーチ位置判定部605及びトーチ角度算出部606を含む制御部610が構成されている。なお、トーチ位置判定部605及びトーチ角度算出部606は、1つにまとめて構成することもできる。
【0026】
さらに、制御装置600は、ティーチングを行うためのコントローラとその他の制御機能をもつコントローラが一体となって形成されている。ただし、制御装置600は、これに限られるものではなく、ティーチングを行うためのコントローラ及びその他の制御機能を持つコントローラを2つに分けるなど、役割によって複数に分割しても良い。また、可搬型溶接ロボット100内に制御装置600を含めても良いし、
図1に示すように、可搬型溶接ロボット100とは別に制御装置600を独立させて設けても良い。すなわち、本実施形態で説明する、可搬型溶接ロボット100及び制御装置600を有する溶接システムにおいては、制御装置600が、可搬型溶接ロボット100内に含まれる場合と、可搬型溶接ロボット100とは独立して設けられる場合のいずれの場合も含まれるものとする。また、本実施形態においては、ロボット用制御ケーブル620及び電源用制御ケーブル630を用いて信号が送られているが、これに限られるものではなく、無線で送信しても良い。なお、溶接現場における使用性の観点から、ティーチングを行うためのコントローラとその他の制御機能を持つコントローラの2つに分けることが好ましい。
【0027】
[溶接電源]
溶接電源400は、制御装置600からの指令により、消耗電極(以下、「溶接ワイヤ」とも言う)211及びワークW
oに電力を供給することで、溶接ワイヤ211とワークW
oとの間にアークを発生させる。溶接電源400からの電力は、パワーケーブル410を介して送給装置300に送られ、送給装置300からコンジットチューブ420を介して溶接トーチ200に送られる。そして、
図2に示すように、溶接トーチ200先端のコンタクトチップを介して、溶接ワイヤ211に供給される。なお、溶接作業時の電流は、直流又は交流のいずれであっても良く、また、その波形は特に問わない。よって、電流は、矩形波や三角波などのパルスであっても良い。
【0028】
また、溶接電源400は、例えば、パワーケーブル410がプラス(+)電極として溶接トーチ200側に接続され、パワーケーブル430をマイナス(-)電極としてワークWoに接続される。なお、これは逆極性で溶接を行う場合であり、正極性で溶接を行う場合は、プラス(+)のパワーケーブルを介してワークWo側に接続され、マイナス(-)のパワーケーブルを介して、溶接トーチ200側と接続されていれば良い。
【0029】
[シールドガス供給源]
シールドガス供給源500は、シールドガスが封入された容器及びバルブ等の付帯部材から構成される。シールドガス供給源500から、シールドガスが、ガスチューブ510を介して送給装置300へ送られる。送給装置300に送られたシールドガスは、コンジットチューブ420を介して溶接トーチ200に送られる。溶接トーチ200に送られたシールドガスは、溶接トーチ200内を流れ、ノズル210にガイドされて、溶接トーチ200の先端側から噴出する。本実施形態で用いるシールドガスとしては、例えば、アルゴン(Ar)や炭酸ガス(CO2)又はこれらの混合ガスを用いることができる。
【0030】
[送給装置]
送給装置300は、溶接ワイヤ211を繰り出して溶接トーチ200に送る。送給装置300により送られる溶接ワイヤ211は、特に限定されず、ワークWoの性質や溶接形態等によって選択され、例えば、ソリッドワイヤや、フラックス入りワイヤ(以下、「FCW」とも言う)が使用される。また、溶接ワイヤ211の材質も問わず、例えば、軟鋼でも良いし、ステンレスやアルミニウム、チタンといった材質でも良い。さらに、溶接ワイヤ211の線径も特に問わないが、本実施形態において好ましい線径は、上限は1.6mmであり、下限は0.9mmである。
【0031】
本実施形態に係るコンジットチューブ420は、チューブの外皮側にパワーケーブルとして機能するための導電路が形成され、チューブの内部に、溶接ワイヤ211を保護する保護管が配置され、シールドガスの流路が形成されている。ただし、コンジットチューブ420は、これに限られるものではなく、例えば、溶接トーチ200に溶接ワイヤ211を送給するための保護管を中心にして、電力供給用ケーブルやシールドガス供給用のホースを束ねたものを用いることもできる。また、例えば、溶接ワイヤ211及びシールドガスを送るチューブと、パワーケーブルとを個別に設置することもできる。
【0032】
[可搬型溶接ロボット]
可搬型溶接ロボット100は、
図2及び
図3に示すように、ガイドレール120と、ガイドレール120上に設置され、該ガイドレール120に沿って移動するロボット本体110と、ロボット本体110に載置されたトーチ接続部130と、を備える。ロボット本体110は、主に、ガイドレール120上に設置される筐体部112と、この筐体部112に取り付けられた固定アーム部114と、この固定アーム部114に、矢印R
1方向に回転可能な状態で取り付けられた可動アーム部116と、から構成される。
【0033】
トーチ接続部130は、溶接トーチ200を溶接線方向、すなわち、X方向に可動する可動部であるクランク170を介して、可動アーム部116に取り付けられている。トーチ接続部130は、溶接トーチ200を固定するトーチクランプ132及びトーチクランプ134を備えている。また、筐体部112には、溶接トーチ200が装着される側とは反対側に、送給装置300と溶接トーチ200を繋ぐコンジットチューブ420を支えるケーブルクランプ150が設けられている。
【0034】
また、本実施形態においては、ワークWoと溶接ワイヤ211間に電圧を印加し、溶接ワイヤ211がワークWoに接触したときに生じる電圧降下現象を利用して、ワークWo上の開先10の表面等をセンシングする、タッチセンサを検知手段とする。検知手段は、本実施形態のタッチセンサに限られず、画像センサ、すなわち視覚センシング若しくはレーザーセンサ、すなわちレーザーセンシング等、又はこれら検知手段の組み合わせを用いても良いが、装置構成の簡便性から本実施形態のタッチセンサを用いることが好ましい。
【0035】
ロボット本体110の筐体部112は、
図2の矢印Xで示すように、紙面に対して垂直方向、すなわち、ロボット本体110がガイドレール120に沿って移動するX方向に駆動する、図示しないロボット駆動部を備える。また、筐体部112は、X方向に対し垂直となる開先10の深さ方向に移動するZ方向にも駆動可能である。また、固定アーム部114は、筐体部112に対して、スライド支持部113を介して、X方向に対し垂直となる開先10の幅方向であるY方向へ駆動可能である。
【0036】
さらに、溶接トーチ200が取りつけられたトーチ接続部130は、クランク170が
図3の矢印R
2に示すように回動することで、X方向において前後方向、すなわち溶接線方向に首振り駆動可能である。また、可動アーム部116は、矢印R
1に示すように、固定アーム部114に対して回転可能に取り付けられており、最適な角度に調整して固定することができる。
【0037】
以上のように、ロボット本体110は、その先端部である溶接トーチ200を3つの自由度で駆動可能である。ただし、ロボット本体110は、これに限られるものでなく、用途に応じて、任意の数の自由度で駆動可能としても良い。
【0038】
以上のように構成されていることで、トーチ接続部130に取り付けられた溶接トーチ200の先端部は、任意の方向に向けることができる。さらに、ロボット本体110は、ガイドレール120上を、
図2においてX方向に駆動可能である。溶接トーチ200は、Y方向に往復移動しながら、ロボット本体110がX方向に移動することより、ウィービング溶接を行うことができる。また、クランク170による駆動により、例えば、前進角又は後退角を設ける等の施工状況に応じて、溶接トーチ200を傾けることができる。さらに、クランク170の駆動により溶接トーチ200をX方向に傾けることで、後述する多角形角型鋼管などのワークW
oの角部WCとガイドレール120の曲線部122の曲率が異なる場合などで生じるトーチ角度の変化、すなわち前進角又は後退角を補正することができる。
【0039】
ガイドレール120の下方には、例えば磁石などの取付け部材140が設けられおり、ガイドレール120は、取付け部材140によりワークWoに対して着脱が容易に構成されている。可搬型溶接ロボット100をワークWoにセットする場合、オペレータは可搬型溶接ロボット100の両側把手160を掴むことにより、可搬型溶接ロボット100をワークWo上に容易にセットすることができる。
【0040】
<トーチ角度の制御方法>
次に、ガイドレール上を走行する可搬型溶接ロボットにより、多角形角型鋼管を溶接する場合のトーチ角度の制御方法に関する具体例について説明する。
図4は、
図3に示す可搬型溶接ロボット100が多角形角型鋼管に取付けられた場合の斜視図である。
図4に示すように、ガイドレール120は、ワークW
oである多角形角型鋼管に対し、鋼管外面を周方向に沿って取り付けられている。この場合、ガイドレール120は、取付け部材140を介して鋼管外面を一周するように設けられており、直線部121と曲線部122を有する形状となっている。また、可搬型溶接ロボット100は、ガイドレール120上において、溶接トーチ200を下方に向けた状態で取付けられている。
また、
図5は、
図4を真上から見たときの多角形角型鋼管W
oの1/4角部の領域における、ガイドレール120との位置関係を説明する図である。
【0041】
図4及び
図5に示すガイドレール120においては、直線部121、曲線部122、及び直線部121と曲線部122でガイドルートが変わる境界点128をそれぞれ有している。また、多角形角型鋼管W
oにおいては、直線部WL、角部(曲線部)WC、及び直線部WLと角部WCとの境界点WBをそれぞれ有している。
【0042】
本具体例では、ガイドレール120における曲線部122の曲率半径RAは、多角形角型鋼管Woにおける角部WCの曲率半径RBより大きく、多角形角型鋼管Woの角部WCとガイドレール120の曲線部122は同心円上にない。なお、ガイドレール120における曲線部122の曲率半径RAと、多角形角型鋼管Woにおける角部WCの曲率半径RBは、それぞれ外周及び内周で異なるが、トータルの溶着量が同じとなれば良いので、本具体例では、外周と内周の平均値とする。
【0043】
図5で示すように、ガイドレール120における曲線部122の曲率半径RAは、曲線部122の曲率中心O
Aとガイドレール120のレール中心R
cとの距離とし、多角形角型鋼管W
oにおける角部WCの曲率半径RBは、角部WCの曲率中心O
Bと多角形角型鋼管W
oの板厚中心W
cとの距離とする。
【0044】
ガイドレール120の曲線部122の曲率半径RAと、多角形角型鋼管Woの角部WCの曲率半径RBが異なり(本具体例では、RA>RB)、かつ同心円上にないことにより、多角形角型鋼管Woの溶接領域は、可搬型溶接ロボット100がガイドレール120の直線部121にあり、かつ溶接トーチ200が多角形角型鋼管Woの直線部WLにある第1領域Iと、可搬型溶接ロボット100がガイドレール120の曲線部122にあり、かつ溶接トーチ200が多角形角型鋼管Woの直線部WLにある第2領域IIと、可搬型溶接ロボット100がガイドレール120の曲線部122にあり、かつ溶接トーチ200が多角形角型鋼管Woの角部WCにある第3領域IIIと、に分けられる。
【0045】
可搬型溶接ロボット100は、制御装置600の動作信号に基づいて、ガイドレール120に沿って走行しながら多角形角型鋼管Woを溶接する。ガイドレール120は、直線部121、曲線部122及び境界点128をそれぞれ有しているが、溶接部の全長に亘って略一定の溶接品質を維持するためには、可搬型溶接ロボット100がガイドレール120上のいずれの位置にあっても、溶接トーチ200のトーチ角度が略一定であることが好ましい。ガイドレール120上のいずれの位置とは、例えば、直線部121、曲線部122及び境界点128が挙げられ、第1領域Iにおけるトーチ角度は、多角形角型鋼管Woに対して垂直となるが、第2領域II及び第3領域IIIでは、溶接トーチ200が多角形角型鋼管Woに対して垂直とならない場合が存在する。トーチ角度は、第1領域Iにおける多角形角型鋼管Woの直線部WLにおけるトーチ角度を基準として、略一定のトーチ角度に制御することが好ましい。
【0046】
ここで、トーチ角度が略一定とは、実用的に制御可能な角度範囲内であり、かつ溶接品質に及ぼす影響が問題とならない程度の角度誤差を許容することを意味する。具体的に本実施形態における角度誤差としては、±10°以内が好ましく、±5°以内がより好ましく、実質的に0°であることが最も好ましい。
【0047】
具体的には、
図5において、多角形角型鋼管W
oの直線部WLに対して、例えば溶接トーチ200が直角、すなわち、トーチ角度が0°の状態で、可搬型溶接ロボット100がガイドレール120の直線部121上を、図の右下から上方に反時計方向に移動するとした場合、可搬型溶接ロボット100は、溶接トーチ200が多角形角型鋼管W
oの角部WCに達するより早く、ガイドレール120上の曲線部122に到達して、第1領域Iから抜け出す。
【0048】
すなわち、可搬型溶接ロボット100の溶接トーチ200が多角形角型鋼管Woにおける直線部WL上に位置しているにも関わらず、ロボット本体110がガイドレール120の曲線部122に位置する第2領域IIに入ることにより、溶接トーチ200が傾き、トーチ角度がより前進角又はより後退角になることで、トーチ角度が変化する。トーチ角度の変化は、溶接品質に影響するおそれがあるため、トーチ角度を略一定に制御する必要がある。
【0049】
このため、制御装置600のトーチ位置判定部605が、トーチ位置情報に基づいてトーチ位置を判定し(トーチ位置判定ステップ)、あらかじめ制御装置600に入力されたガイドレール120と多角形角型鋼管W
oのサイズ、形状などの情報に基づいて、トーチ角度のズレ量あるトーチ角補正量θ
Tを算出する(トーチ角度算出ステップ)。そして、算出されたトーチ角度のズレ量は、トーチ角度の補正値として制御装置600に入力され、可動部であるクランク170が
図3の矢印R
2に示すように回動することで、トーチ角度のズレ分を補正する(トーチ角度制御ステップ)。
【0050】
なお、トーチ位置判定のためにトーチ位置判定部605に入力される位置情報の取得は、レーザーセンサ等のセンシング機能を使用して多角形角型鋼管Woのサイズを制御装置600に認識させ、レールサイズに関しては手動で制御装置600に入力する方法でも良いし、データ保持部601にあらかじめ記憶されている教示点位置を位置情報として取得するようにしも良い。
【0051】
作業現場における多角形角型鋼管Woとガイドレール120の実際の相対位置は、多角形角型鋼管Wo及びガイドレール120の製作誤差や、多角形角型鋼管Woに対するガイドレール120の取り付け誤差などにより、ズレが生じる場合がある。このため、トーチ位置判定部605は、このズレ分を考慮して判定することが好ましい。なお、ワークWo及びガイドレール120の位置情報をセンシング機能により取得する場合は、ズレ分による影響が排除されるため好ましい。なお、センシング機能は特に問わず、タッチセンシング、レーザーセンシング、視覚センシングのうち、少なくとも一つのセンシング方法を用いて、あるいは該センシング方法を複合して、トーチ位置を判定することが好ましい。
【0052】
トーチ角度算出部606は、ワーク情報、ガイドレール情報、並びにワークWo及びガイドレール120の位置情報に基づいてトーチ角度を算出する。これらの情報は、センシング等で得た情報であってもよく、また、あらかじめデータ保持部601に記憶されている各情報の数値データであっても良い。
【0053】
<トーチ角度の算出方法>
次に、トーチ角度の算出方法について、
図5~
図8を参照して詳細に説明する。
【0054】
ここでは、ガイドレール120として、例えばRA=261mmのガイドレール120を採用し、多角形角型鋼管Woとして、BCRの多角形角型鋼管を採用した例について説明する。なお、多角形角型鋼管WoにはBCR及びBCPがあるが、いずれの多角形角型鋼管Woでも、板厚に対する曲率半径は規格で決められている。
【0055】
図6は、ガイドレール120(レール)及び多角形角型鋼管W
o(コラム)の1/4角部の領域を示す線図であり、それぞれガイドレール120の中心線R
c、及び多角形角型鋼管W
oの中心線W
cを示す。
図6に示すように、ガイドレール120の四分円の曲率中心をO
A、曲率半径をRA、多角形角型鋼管W
oの角部の四分円の曲率中心をO
B、曲率半径をRBとし、曲率中心O
BのX座標をd1、曲率中心O
BのY座標をd2とする。また、可搬型溶接ロボット100がガイドレール120上の点Aに位置するものとし、曲率中心O
A及び点Aを結ぶ線分LAとX軸との成す角度をθとし、曲率中心O
B及び点Aを結ぶ線分LBとX軸との成す角度をθ
1で表す。なお、ガイドレール120の直線部121と多角形角型鋼管W
oの直線部WLとが、
図5に示すような平行直線部である、
図6において不図示の第2象限及び第4象限については、トーチ角度は0°で変化しないことから、本説明の対象外である。
【0056】
可搬型溶接ロボット100が、
図5における境界点128に相当するX軸上の点A
0から反時計方向に移動すると仮定した場合、線分LAが、多角形角型鋼管W
oの直線部WLと角部WCとの境界点B
0を通過するまでの区間、すなわち第2領域IIでは、錯角の関係からトーチ角補正量θ
T=θとなり、線分LAが、点B
0と点B
1との間、すなわち第3領域IIIでは、トーチ角補正量θ
T=θ-θ
1で表され、線分LAが、角部WCと直線部WLとの境界点B
1を通過後、Y軸と一致するまでの間、すなわち第2領域IIのトーチ角補正量θ
T=90°-θで表される。
【0057】
第2領域IIにおけるトーチ角補正量θTは、線分LAとX軸の成す角度をθが既知であれば容易に求められるので、以下では、第3領域IIIである、線分LAが点B0と点B1との間、すなわち、0≦θ1<90°におけるトーチ角補正量θTについて詳述する。
【0058】
第3領域IIIでは、トーチ角補正量θT=θ-θ1であるので、tanθT=tan
(θ-θ1)=(tanθ-tanθ1)/(1+tanθ×tanθ1)と変換できる。したがって、式(1)のようになる。
θT=tan-1(tanθ-tanθ1)/(1+tanθ×tanθ1)・・・(1)
【0059】
ここで、点AのXY座標は、(RAcosθ,RAsinθ)であるので、式(2)のようになる。
tanθ1=(RAsinθ-d2)/(RAcosθ-d1)・・・(2)
【0060】
式(2)を式(1)に代入すると、式(3)のようになる。
θT=tan-1(tanθ-((RAsinθ-d2)/(RAcosθ-d1))/(1+tanθ×((RAsinθ-d2)/(RAcosθ-d1)))・・・(3)
なお、式(3)は、0≦θ1<90°の範囲でのみ成立することに注意を要する。
【0061】
ここで、ガイドレール120の半径RA=261mm、多角形角型鋼管W
oの角部WCの半径RB=62.5mm、d1=40mm、d2=40mmを、それぞれ式(3)に代入して計算すると、角度θとトーチ角補正量θ
Tの関係は、
図7に示すように求められる。
【0062】
さらに、線分LAとX軸の成す角度θと、可搬型溶接ロボット100のガイドレール120上の点A
0からの移動距離Dとの間には、「D=θ(rad)×RA」の関係が成立するので、線分LAとX軸の成す角度θは、点A
0からの移動距離D(mm)に換算可能であり、移動距離D(mm)とトーチ角補正量θ
Tの関係は、
図8に示されるようになる。
【0063】
したがって、
図7及び
図8に示すように、0°≦θ<45°及び0mm≦D<205mmの範囲では、トーチ角補正量θ
T分だけ、トーチ角度を前進角側に補正し、45°≦θ<90°及び205mm≦D<410mmの範囲では、トーチ角補正量θ
T分だけ、トーチ角度を後進角側に補正することで、トーチ角度が一定角度に維持される。なお、θ=9°、すなわちD=41mmの位置、及び、θ=81°、すなわちD=369mmの位置は、
図5に示す直線部WLと角部WCとの境界点WBに相当する。
【0064】
これにより、ワークWoの角部WCとガイドレール120の曲線部122が同心円上になく、かつワークWoの角部WCとガイドレール120の曲線部122の曲率差が大きい場合においても、溶接部の全周に亘って略一定のトーチ角度で溶接することができ、良好なビード外観を確保できる。
【0065】
(他の溶接条件)
溶接部の全長に亘って略一定の溶接品質を維持するためには、上記のトーチ角度を含めて、その他の溶接条件も略一定であることが好ましい。
他の溶接条件は、可搬型溶接ロボット100が、多角形角型鋼管Woの溶接開始前に、ガイドレール120に沿って移動するロボット本体110を用いて、溶接時の溶接条件を取得することもできる。すなわち、制御装置600の動作信号に基づいて、ロボット本体110を駆動し、タッチセンサによって開先形状の自動センシングを行い、開先条件算出部602が開先形状情報を算出し、更に該開先形状情報及びデータ保持部601が有するティーチングデータに基づいて、溶接条件算出部603が溶接条件を算出する。
開先形状情報としては、例えば、開先形状、板厚及び始終端等であり、溶接条件としては、例えば、溶接電流、アーク電圧、チップ-母材間距離及び溶接速度などである。なお、開先形状の自動センシングを行わず、あらかじめガイドレール上の教示点位置ごとに設定した溶接条件のティーチングデータに基づいて、溶接を行っても良い。
【0066】
また、データ保持部601にあらかじめ記憶されているガイドレール上の教示点位置からトーチ位置情報を取得することもできる。トーチ位置情報とは、例えば、ガイドレールの直線部、曲線部、境界点、トーチ角度などが挙げられる。なお、これらの情報は、画像センサ若しくはレーザーセンサ等、又はこれら検知手段の組み合わせた検知手段により取得するようにしても良い。
【0067】
例えば、溶接部の全長に亘って溶着量を略一定にするため、溶接条件算出部603で算出される可搬型溶接ロボット100のロボット速度は、ガイドレール120の直線部121でのロボット速度より、曲線部122でのロボット速度が速くなるように制御する。基本的に、ロボット速度は、教示点を基準に変化し、教示点間の速度は、例えば、曲線状、直線状、又は階段状に変化させるのが良い。なお、可搬型溶接ロボット100のロボット速度とは、具体的には、ガイドレール120上のX方向における可搬型溶接ロボット100の走行速度を示す。
【0068】
すなわち、第2領域II及び第3領域IIIであるガイドレール120の曲線部122でのロボット速度Voは、ガイドレール120の曲線部122の曲率半径RAと、多角形角型鋼管Woの角部WCの曲率半径RBの比RA/RBと、直線部121で設定された設定ロボット速度Vcの積Vo=Vc×(RA/RB)として求められる。速度制御部604は、溶接条件算出部603で算出されたロボット速度に基づいて、可搬型溶接ロボット100のロボット速度を制御する。
【0069】
また、第2領域II及び第3領域IIIにおいては、多角形角型鋼管Woの第1領域Iにおける入熱量に対して入熱量が変化する。このため、第1領域Iにおける入熱量に対して、第2領域II及び第3領域IIIの入熱量を、それぞれ±20%の範囲となるよう溶接条件を制御する。これにより、多角形角型鋼管Woにおける直線部WL、及び角部WCにおける入熱量が略一定に制御されて、略一定の溶接条件が保持されるため、多角形角型鋼管Woの直線部WLと角部WCの継手外観が同一形状となる。なお、ここで言う溶接条件とは、例えば、ロボット速度や溶接電流、溶接電圧、突出し長さが挙げられ、これらから選択される一つ以上の条件となる。
【0070】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0071】
例えば、上記実施形態においては、タッチセンサを用いたセンシングを実施したが、その他レーザーセンサ、視覚センサ等、又はその組み合わせによりセンシングを行っても良い。
【0072】
また、上記実施形態においては、溶接条件の設定に供するデータは、自動センシングによって自動設定する構成としたが、ティーチング等によって、あらかじめ制御装置600に入力しても良い。
【0073】
また、多角形角型鋼管Wo及びガイドレール120の形状はCADデータから、XY座標系に変換してもよく、センシングをもとにXY座標系に変換しても良い。また、データ保持部601に、あらかじめ多角形角型鋼管Wo及びガイドレール120の形状情報を入力し、その形状情報をもとに、XY座標系に変換しても良い。
【0074】
また、上記実施形態においては、ガイドレール120の曲線部122の曲率半径RAは、多角形角型鋼管Woの角部WCの曲率半径RBより大きい、すなわち、RA>RBの場合として説明したが、ガイドレール120の曲線部122の曲率半径RAが、多角形角型鋼管Woの角部WCの曲率半径RBより小さい、すなわち、RA<RBの場合にも、同様に本発明を適用することができる。
【0075】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
【0076】
(1) 角部を有するワークに対してガイドレールを設置し、前記ガイドレール上を移動して前記ワークをアーク溶接する可搬型溶接ロボットと、前記可搬型溶接ロボットを制御する溶接制御装置と、を有する溶接システムを用いた可搬型溶接ロボットの制御方法であって、
前記可搬型溶接ロボットは、溶接トーチ及び前記溶接トーチを溶接線方向に可動する可動部を有し、
前記溶接制御装置は、前記ワーク上のトーチ位置を判定するトーチ位置判定部と、前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出するトーチ角度算出部とを有し、
前記トーチ位置判定部によって前記ワーク上のトーチ位置を判定するステップと、
前記トーチ角度算出部によって前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出するステップと、
算出された前記トーチ角度に基づき、前記可動部によって前記トーチ角度を制御するステップと、
を備えることを特徴とする可搬型溶接ロボットの制御方法。
この構成によれば、ワークの角部とガイドレールの曲線部が同心円上になく、かつワークの角部とガイドレールの曲線部の曲率差が大きい場合においても、トーチ角度を略一定の角度に制御して良好なビード外観を確保できる。
【0077】
(2) 前記トーチ位置判定部は、タッチセンシング、レーザーセンシング、視覚センシングのうち、少なくとも一つのセンシング手段により前記トーチ位置を判定する、又は、
あらかじめ定めた教示点位置によって前記トーチ位置を判定することを特徴とする(1)に記載の可搬型溶接ロボットの制御方法。
この構成によれば、センシング機能によりトーチ位置を自動で判定できる。また、データ保持部に保持したティーチングデータからトーチ位置を判定できる。
【0078】
(3) 前記トーチ角度算出部は、ワーク情報、ガイドレール情報、及び前記ワークと前記ガイドレールの位置情報に基づいて前記トーチ角度を算出することを特徴とする(1)又は(2)に記載の可搬型溶接ロボットの制御方法。
この構成によれば、ガイドレールの曲線部で発生するトーチ角度の変化を算出することができ、トーチ角度を制御することで、ワーク上の直線部、角部、及び角部と直線部の境界位置でのビード外観を良好にすることができる。
【0079】
(4) 前記溶接制御装置は、溶接条件算出部を含み、
前記トーチ位置において、前記トーチ角度の制御を行うとともに、溶接条件の制御を行うことを特徴とする(1)~(3)のいずれか1つに記載の可搬型溶接ロボットの制御方法。
この構成によれば、各溶接位置に応じた最適な溶接条件で溶接することができる。
【0080】
(5) 前記溶接条件の制御は、溶接電流、アーク電圧、チップ-母材間距離及びロボット移動速度のうち少なくとも一つの条件を制御することを特徴とする(4)に記載の可搬型溶接ロボットの制御方法。
この構成によれば、各溶接位置に応じて、最適な溶接条件を選択して溶接することができる。
【0081】
(6) 前記可動部は、前記ワークの直線部における前記トーチ角度を基準として、前記ワークの直線部及び角部における前記トーチ角度が略一定となるように、前記トーチ角度を制御することを特徴とする(1)~(5)のいずれか1つに記載の可搬型溶接ロボットの制御方法。
この構成によれば、ワークの角部とガイドレールの曲線部が同心円上になく、かつワークの角部とガイドレールの曲線部の曲率差が大きい場合においても、トーチ角度が略一定に維持されて良好なビード外観を確保できる。
【0082】
(7) 前記トーチ角度算出部は、前記トーチ位置における、前記ワークの角部における曲率半径値と、前記ガイドレールの曲線部における曲率半径値に基づいて、前記トーチ角度を算出することを特徴とする(3)に記載の可搬型溶接ロボットの制御方法。
この構成によれば、各溶接位置におけるトーチ角度のズレ角度を正確に算出することができる。
【0083】
(8) 前記ワークの直線部における入熱量に対する、前記角部の入熱量並びに前記直線部及び前記角部の境界領域の入熱量が、それぞれ±20%の範囲となるよう前記溶接条件の制御を行うことを特徴とする(4)又は(5)に記載の可搬型溶接ロボットの制御方法。
この構成によれば、ワークの角部とガイドレールの曲線部が同心円上になく、かつワークの角部とガイドレールの曲線部の曲率差が大きい場合においても、入熱量を制御することで良好なビード外観を確保できる。
【0084】
(9) 角部を有するワークに対してガイドレールを設置し、前記ガイドレール上を移動して前記ワークをアーク溶接する可搬型溶接ロボットを制御するための溶接制御装置であって、
前記ワーク上のトーチ位置を判定するトーチ位置判定部と、前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出するトーチ角度算出部とを有し、
前記トーチ位置判定部は、前記ワーク上のトーチ位置を判定し、
前記トーチ角度算出部は、前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出し、
算出された前記トーチ角度に基づき、前記トーチ角度を制御することを特徴とする溶接制御装置。
この構成によれば、ワークの角部とガイドレールの曲線部が同心円上になく、かつワークの角部とガイドレールの曲線部の曲率差が大きい領域においても、トーチ角度を略一定に維持して良好なビード外観を確保できる。
【0085】
(10) 角部を有するワークに対してガイドレールを設置し、前記ガイドレール上を移動して前記ワークをアーク溶接する、(9)に記載の溶接制御装置によって制御される可搬型溶接ロボットであって、
溶接トーチ及び前記溶接トーチを溶接線方向に可動する可動部を備え、
前記トーチ角度算出部によって算出された前記トーチ角度に基づき、前記可動部が前記トーチ角度を制御することを特徴とする可搬型溶接ロボット。
この構成によれば、各溶接位置におけるトーチ角度の角度ズレを可動部で補正して、略一定のトーチ角度で溶接することができる。
【0086】
(11) 角部を有するワークに対してガイドレールを設置し、前記ガイドレール上を移動して前記ワークをアーク溶接する可搬型溶接ロボットと、前記可搬型溶接ロボットを制御する溶接制御装置と、を有する溶接システムであって、
前記可搬型溶接ロボットは、溶接トーチ及び前記溶接トーチを溶接線方向に可動する可動部を有し、
前記溶接制御装置は、前記ワーク上のトーチ位置を判定するトーチ位置判定部と、前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出するトーチ角度算出部とを有し、
前記トーチ位置判定部は、前記ワーク上のトーチ位置を判定し、
前記トーチ角度算出部は、前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出し、
算出された前記トーチ角度に基づき、前記可動部によって前記トーチ角度を制御することを特徴とする溶接システム。
この構成によれば、各溶接位置におけるトーチ角度の角度ズレをトーチ角度算出部で算出し、可動部でトーチ角度を制御して角度ズレを補正することにより、略一定のトーチ角度で溶接することができる。
【0087】
(12) 多角形角型鋼管に対してガイドレールを設置し、前記ガイドレール上を移動して前記多角形角型鋼管をアーク溶接する可搬型溶接ロボットと、前記可搬型溶接ロボットを制御する溶接制御装置と、を有する溶接システムを用いた可搬型溶接ロボットの制御方法であって、
前記可搬型溶接ロボットは、溶接トーチ及び前記溶接トーチを溶接線方向に可動する可動部を有し、
前記溶接制御装置は、前記多角形角型鋼管上のトーチ位置を判定するトーチ位置判定部と、前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出するトーチ角度算出部とを有し、
前記トーチ位置判定部によって前記多角形角型鋼管上のトーチ位置を判定するステップと、
前記トーチ角度算出部によって前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出するステップと、
算出された前記トーチ角度に基づき、前記可動部によって前記トーチ角度を制御するステップと、
を備えることを特徴とする可搬型溶接ロボットの制御方法。
この構成によれば、ガイドレール上に設置した可搬型溶接ロボットにより、多角形角型鋼管の溶接部の全周を略一定のトーチ角度で溶接することができ、良好なビード外観を確保できる。
【符号の説明】
【0088】
50 溶接システム
100 可搬型溶接ロボット
120 ガイドレール
121 (ガイドレールの)直線部
122 (ガイドレールの)曲線部
128 (ガイドレールの)境界点
170 クランク(可動部)
200 溶接トーチ
300 送給装置
400 溶接電源
500 シールドガス供給源
600 制御装置(溶接制御装置)
603 溶接条件算出部
605 トーチ位置判定部
606 トーチ角度算出部
d1 曲率中心OBのX座標
d2 曲率中心OBのY座標
LA 曲率中心OAと点Aを結ぶ線分
LB 曲率中心OBと点Aを結ぶ線分
OA (ガイドレールの)曲線部の曲率中心
OB (ワークの)角部の曲率中心
RA ガイドレールの曲線部における曲率半径
RB ワークの角部における曲率半径
Wo ワーク(多角形角型鋼管)
WL (ワークの)直線部
WC (ワークの)角部(曲線部)
WB (ワークの)境界点
I 第1領域
II 第2領域
III 第3領域
θ 線分LAとX軸の成す角度
θ1 線分LBとX軸の成す角度
θT トーチ角補正量